【文献】
Sheng-Zhen Zu et al,Aqueous Dispersion of Graphene Sheets Stabilized by Pluronic Copolymers: Formation of Supramolecular Hydrogel,Journal of Physical Chemistry C,米国,American Chemical Sosiety,2009年 7月 2日,113,13651-13657
【文献】
TaeYoung Kim et al,Synthesis of Phase Transferable Graphene sheets Using Ionic Liquid Polymers,ACS NANO,ACS NANO,2010年 3月23日,Vol.4 No.3,1612-1618
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プレートレット状粒子は、剥離グラファイト、剥離タルク、剥離モリブデナイト、剥離タングステナイト、剥離二硫化タングステン、剥離二硫化モリブデン、剥離テルル化ビスマス、剥離マイカ、剥離クレー、およびこれらのうちいずれか2種の混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
前記剥離工程は、前記界面活性剤の水溶液中で、前記プレートレット状粒子を前記水溶液中に生じさせるのに十分な時間、前記層状材料に対して超音波処理を行うことを含み、前記水溶液中の前記界面活性剤の濃度を、前記超音波処理の間常に、前記水溶液中の前記層状材料および前記プレートレット状粒子の表面に完全な単層を形成するのに十分な濃度に維持する、請求項9に記載の方法。
・前記非水性媒体に前記プレートレット状粒子が分散している前記分散系に、前記非水性媒体よりも蒸気圧が高い共沸混合物を水とともに形成する共沸溶媒を加えることと、
・前記共沸混合物を前記分散系から揮発させることと、
をさらに含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の態様では、非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系を調製する方法であって、a)水に前記粒子が分散している分散系を前記非水性媒体と混ぜ合わせて、前記非水性媒体、水、および前記粒子を含む混合物を得ることと、b)前記混合物から前記水を除去することと、を含む方法が提供される。
【0008】
以下の選択肢が、個別にまたは任意の好適な組み合わせで、第1の態様と併用できる。
【0009】
プレートレット状粒子は、剥離グラファイト、剥離タルク、剥離モリブデナイト、剥離タングステナイト、剥離二硫化タングステン、剥離二硫化モリブデン、剥離テルル化ビスマス、剥離マイカ、剥離クレー、またはこれらのいずれか2種の混合物を含んでもよく、または剥離グラファイト、剥離タルク、剥離モリブデナイト、剥離タングステナイト、剥離二硫化タングステン、剥離二硫化モリブデン、剥離テルル化ビスマス、剥離マイカ、剥離クレー、またはこれらのいずれか2種の混合物であってもよい。プレートレット状粒子は、グラフェンを含んでもよく、またはグラフェンであってもよい。
【0010】
プレートレット状粒子は、その表面に界面活性剤の完全な単層(complete monolayer)を有してもよい。界面活性剤は、高分子界面活性剤であってもよい。界面活性剤は、非イオン性であってもよい。水に該粒子が分散している分散系は、該界面活性剤と錯体を形成可能であるか、さもなくば界面活性剤に作用可能な塩を含んでもよい。塩は、多価カチオンの塩であってもよい。塩は、例えば塩化第二鉄などの第二鉄の塩であってもよい。本方法は、工程a)の前に、該塩を水に加えることを含んでもよい。
【0011】
本方法は、水中で層状材料を剥離して、水にプレートレット状粒子が分散している分散系を調製する工程を含んでもよい。この剥離工程は、界面活性剤の水溶液中で、プレートレット状粒子を該水溶液中に生じさせるのに十分な時間、層状材料に対して超音波処理を行うことを含んでもよい。この超音波処理は、水溶液中の界面活性剤の濃度が、超音波処理の間常に、水溶液中の層状材料およびプレートレット状粒子の表面に完全な単層を形成するのに十分な濃度に維持されるように行われてもよい。
【0012】
非水性媒体は、水よりも低い蒸気圧を有してもよい。この場合、工程b)は、混合物から水を揮発させて、非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系を残存させることを含んでもよい。好適な非水性媒体としては、ベンジルアルコール、グリコールエーテル、オリゴエーテル(これらは、末端にヒドロキシル基を有してもよく、モノアルコキシ化されていてもよく、またはジアルコキシ化されていてもよく、例えばジエチレングリコールやそのモノメトキシ化またはジメトキシ化誘導体である)、反応性アミン、双極性非プロトン溶媒、およびこれらのうちいずれか2種以上の混合物が挙げられる。非水性媒体は、水と混和可能であってもよい。また、工程a)は、分散系を非水性媒体とともに撹拌することを含んでもよい。非水性媒体は、25℃で液体であってもよい。
【0013】
非水性媒体は、水と混和不能であってもよい。この場合、工程a)は、分散系を非水性媒体とともに撹拌することを含み、工程b)は、該混合物を分離させて、非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系から水を分離することを含んでもよい。好適な非水性媒体としては、ハロゲン化媒体およびそれらの混合物が挙げられる。非水性媒体が水と混和不能である場合、非水性媒体は、約0℃〜約100℃の間のある温度、通常約20℃〜約50℃の間のある温度で液体であってもよい。
【0014】
本方法は、非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系に、蒸気圧が非水性媒体よりも高い共沸混合物を水とともに形成する共沸液体を加えることと、次いで該共沸混合物を分散系から揮発させること(例えば、共沸混合物を沸騰させて分散系から除去すること)とをさらに含んでもよい。
【0015】
本方法は、非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系を固体乾燥剤に曝露することと、該固体乾燥剤を分散系から分離することとをさらに含んでもよい。これは、通常、非水性媒体が液体である温度で行われる。固体乾燥剤は、例えば、ゼオライトであってもよい。固体乾燥剤は、相当の量のプレートレット状粒子を除去することなく除去できるような十分に大きな粒径を有してもよい。固体乾燥剤は、非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系に沈殿させることによって、または浮遊させることによって分離可能であってもよい。
【0016】
一実施形態では、水よりも蒸気圧が低い、水と混和可能であってもよい非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系を調製する方法であって、a)水に前記粒子が分散している分散系を前記非水性媒体と混ぜ合わせて、前記非水性媒体、水、および前記粒子を含む混合物を得ることと、b)前記混合物から前記水を揮発させることによって前記混合物から前記水を除去して、前記非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系を残存させることと、を含む方法が提供される。プレートレット状粒子は、グラフェンを含んでもよく、またはグラフェンであってもよい。
【0017】
別の実施形態では、1分子中に少なくとも2つのアミン基を含む、蒸気圧が水よりも低い非水性媒体にグラフェン粒子が分散している分散系を調製する方法であって、a)水に前記粒子が分散している分散系を前記非水性媒体と混ぜ合わせて(場合によっては前記非水性媒体とともに撹拌して)、前記非水性媒体、水、および前記粒子を含む混合物を得ることと、b)前記混合物から前記水を揮発させることによって前記混合物から前記水を除去して、前記非水性媒体にグラフェン粒子が分散している分散系を残存させることと、を含む方法が提供される。この実施形態では、非水性媒体は、工程a)が行われる温度で液体であってもよく、該温度は約0℃〜約100℃であってもよい。
【0018】
別の実施形態では、例えばハロゲン化媒体などの水と混和不能な非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系を調製する方法であって、a)水に前記粒子が分散している分散系を前記非水性媒体とともに撹拌して、前記非水性媒体、水、および前記粒子を含む混合物を得ることと、b)前記混合物を分離させて、前記非水性媒体に前記プレートレット状粒子が分散している分散系から水を分離することと、を含む方法が提供される。この実施形態では、非水性媒体は、工程a)が行われる温度で液体であってもよく、該温度は約0℃〜約100℃であってもよい。
【0019】
別の実施形態では、非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系を調製する方法であって、a)例えば塩化第二鉄などの多価イオンの塩を水に加え、前記水に前記粒子が分散している分散系を前記非水性媒体と混ぜ合わせて、前記非水性媒体、水、および前記粒子を含む混合物を得ることと、b)前記混合物から前記水を除去することと、を含む方法が提供される。
【0020】
本発明の第2の態様では、非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系であって、第1の態様に係る前記方法によって製造される分散系が提供される。
【0021】
本発明の第3の態様では、第2の態様に係る分散系の、ポリマー複合材料の製造のための使用が提供される。
【0022】
本発明の第4の態様では、ポリマー複合材料を調製する方法であって、1分子中に少なくとも2つのアミン基を含む非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系を第1の態様の方法によって調製することと、前記分散系を1分子中に少なくとも2つのアミン反応性基を含む試薬と混ぜ合わせることと、前記非水性媒体を前記試薬と反応させて、前記非水性媒体と前記試薬との反応生成物に分散している前記プレートレット状粒子を含むポリマー複合材料を形成することと、を含む方法が提供される。
【0023】
一実施形態では、ポリマー複合材料を調製する方法であって、
・1分子中に少なくとも2つのアミン基を含み、水と混和可能であり、蒸気圧が水よりも低い非水性媒体にグラフェン粒子が分散している分散系を調製することであって、
a)水に前記粒子が分散している分散系を前記非水性媒体と混ぜ合わせて、前記非水性媒体、水、および前記粒子を含む混合物を得ることと、
b)前記混合物から前記水を揮発させることによって前記混合物から前記水を除去して、前記非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系を残存させることと、を含むことと、
・前記分散系を1分子中に少なくとも2つのアミン反応性基を含む試薬と混ぜ合わせることと、
・前記非水性媒体を前記試薬と反応させて、前記非水性媒体と前記試薬との反応生成物に分散している前記プレートレット状粒子を含むポリマー複合材料を形成することと、
を含む方法が提供される。
【0024】
この実施形態では、分散系を調製する工程が、工程b)の後に、非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系を固体乾燥剤に曝露し、該固体乾燥剤を分散系から分離する追加工程c)を含んでもよい。
【0025】
本発明の第5の態様では、第2の態様に係る分散系の半導体製造における使用、潤滑剤としての使用、触媒としての使用、またはコーティング組成物、インク、熱伝導材料、塗料、合成繊維、または合成フィルム(例えばリヨセル、アラミド等)の製造における使用が提供される。
【0026】
本発明の第6の態様では、グラフェンの分散系を調製する方法であって、水に前記グラフェンが分散している分散系を水と混和可能な有機液体と混ぜ合わせて、前記有機液体、水、およびグラフェンを含む分散系を得ることを含む方法が提供される。
【0027】
以下の選択肢が、個別にまたは任意の好適な組み合わせで、第6の態様と併用できる。
【0028】
有機液体は、双極性非プロトン液体であってもよい。有機液体は、エチレングリコール、プロピレングリコール、液体ホウ酸エステル、ポリエチレンオキシド、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミン、ヘキサメチルホスホルアミド、またはイオン性液体であってもよく、またはこれらのうちいずれか2種以上の混合物であってもよい。有機液体は、25℃において少なくとも約0.1W/m・Kの熱伝導率を有してもよい。
【0029】
水の有機液体に対する比率は、約1:5〜5:1であってもよく、場合によっては、1:3〜3:1または1:2〜2:1であってもよい。水の有機液体に対する比率は、例えば、約1:5、1:4、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、または5:1であってもよい。
【0030】
本方法は、水の少なくとも一部、場合によっては実質的に全量、を除去する工程をさらに含んでもよい。また、分散系に水が残留してもよい。
【0031】
本発明の第7の態様では、水と混和可能な有機液体にグラフェンが分散している分散系を含み、さらに水を含んでいてもよい熱伝導流体が提供される。ある実施形態では、熱伝導流体は、約1体積%未満の水を含む。他の実施形態では、熱伝導流体は、約10〜約80体積%の水を含む。有機液体は、25℃において少なくとも約0.1W/m・Kの熱伝導率を有してもよい。
【0032】
第7の態様の熱伝導流体は、第6の態様の方法によって作られてもよい。第6の態様の方法は、第7の態様の熱伝導流体を作るための方法であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系を調製する方法に関する。この方法では、水に該粒子が分散している分散系を非水性媒体と混ぜ合わせて、非水性媒体、水、および粒子を含む混合物を得る。この後、混合物から水を除去する。この方法によれば、非水性媒体中のプレートレット状粒子の濃度をこれまでに達成可能であった濃度よりも高くできる。達成可能な実際の濃度は、粒子および媒体の性質に依存する。
【0035】
ここでは、分散系とは、媒体に分散している固体粒子を指すとみなしてもよい。固体粒子は、実質的に均一に分散し得る。分散系は、懸濁液であってもよい。分散系は、液体分散系であってもよく、固体分散系であってもよい。分散系は、安定であり得る。分散系は、実質的に均一になるように撹拌し、その後25℃で静置した場合に、1時間、1日間、1週間、または1ヶ月間実質的に均一なままである程度に安定であり得る。「実質的に均一」とは、分散系の上部50体積%分が、固体粒子の45〜55体積%、場合によっては49〜51体積%または49.5〜50.5体積%を含有していることを指すと解されるべきである。分散系が固体分散系である場合、非水性媒体の固体マトリクスの存在により、分散した粒子の分離が防止、または少なくとも強く抑制されるために、分散系はほぼ無期限に安定となりやすいことが理解されるであろう。
【0036】
本出願においては、プレートレット状粒子とは、その厚さが幅および長さと比べて小さい粒子のことである。通常、その厚さは、幅および長さのうち小さい方の約10%未満であり、または約5%未満、約2%未満、または約1%未満である。幅および長さは同程度であってもよい。幅および長さは、ほぼ等しくてもよく、約5:1〜約1:5、または約2:1〜約1:2の比率であってもよい。通常、このような粒子は、グラファイト、タルク、モリブデナイト、タングステナイト、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、テルル化ビスマス、マイカ、またはクレーなどの層状材料の剥離によって得られる。剥離は、全体的であってもよく、部分的であってもよい。したがって、プレートレット状粒子は、単一層からなってもよく(すなわち原子1個分の厚さであってもよい)、少数の複数の層(例えば、2層、3層、4層、5層、6層、7層、8層、9層または10層)を含んでもよい。分散系には、層の数が異なる粒子が存在してもよい。プレートレット状粒子の具体的な一例はグラフェンであり、例えばグラファイトの剥離によって得られる。したがって、プレートレット状材料を得るための層状材料は、プレートレット状粒子でできた複数の略平行な粒子層を含む構造を有してもよいことが理解されるであろう。
【0037】
「非水性媒体」という用語は、プレートレット状粒子をその内部に分散できる物質を意味する。非水性媒体は、約15℃〜約50℃の間のある温度、例えば、約15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、または50℃で液体であってもよい。しかし、場合によっては、非水性媒体は、より高い融点、例えば、約50℃を超える融点、または約60℃、80℃、100℃、120℃、140℃、160℃、180℃、または200℃を超える融点を有してもよい。少なくとも非水性媒体が100℃を超える融点を有している場合には、非水性媒体が水と混和可能であり、水、非水性媒体、および粒子の混合物からの水の分離を該混合物から水を揮発させることによって行うことが好ましい。「非水性」という用語は、媒体が水ではないことを意味する。非水性媒体は、少量の水、例えば、約10重量%未満、または約5重量%、2重量%、または1重量%未満の水を含んでもよく、水を全く含んでいなくてもよい。
【0038】
非水性媒体は、水と混和可能であってもよく、水と混和不能であってもよい。何らかの物質が全く水と混和しないということはほとんどなく、疎水性が非常に高い物質であっても、平衡状態で測定可能な量の水を含有し得ることは理解されるであろう。しかし、ここでは、「混和可能」という用語および「混和不能」という用語は、本発明において2つの媒体(水および非水性媒体)が用いられる比率における混和性を意味すると解されるべきである。そこで、本方法の工程a)は、水に上記粒子が分散している分散系を非水性媒体と混ぜ合わせて、混合物を得ることを含む。したがって、ここでは、「混和可能」とは、水と非水性媒体とが、工程a)で用いられる割合において完全に混和する(すなわち単一の相を形成する)ことを意味し、「混和不能」とは、水と非水性媒体とが、工程a)で用いられる割合において、場合によっては部分的に混和するとしても、完全には混和しないことを意味する。この比率(水/非水性媒体)は、例えば、約0.1〜約10(体積基準)であってもよく、または約0.1〜5、0.1〜2、0.1〜1、0.1〜0.5、0.1〜0.2、0.2〜10、0.5〜10、1〜10、2〜10、5〜10、0.2〜5、0.5〜2、0.2〜1、0.5〜1、1〜10、または1〜5であってもよく、例えば、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、または10であってもよい。本明細書において、混和性を評価する温度で非水性媒体が固体である場合、「混和可能」という用語は「溶解可能」を包含すると解されるべきであり、同様に、「混和不能」という用語は「溶解不能」を包含すると解されるべきである。
【0039】
非水性媒体中のプレートレット状粒子の濃度を高くするために、水分散系(すなわち、水にプレートレット状粒子が分散している分散系)の非水性媒体に対する比率を高くしてもよい。そこで、例えば、水分散系の非水性媒体に対する比率を2:1とすると、得られる非水性媒体分散系の粒子濃度は、出発材料である水分散系の粒子濃度のおよそ2倍となる(ただし、実質的に全ての粒子が移し入れられる場合)。
【0040】
本発明の工程a)は、状況の詳細に応じて任意の好適な温度で行えばよい。例えば、安定性を向上させ、凝集を抑えるなどするために、より低い温度を採用してもよく、また、粘度を低下させるためおよび/または非水性媒体が確実に液体状態であるようにするために、より高い温度を採用してもよい。最適な温度を決定する際には、水と非水性媒体との混和性への影響も考慮に入れるべきである。好適な温度は、通常、約0℃〜約50℃、または0〜30℃、0〜20℃、0〜10℃、10〜50℃、20〜50℃、10〜30℃、または20〜40℃であり、例えば、約0℃、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、または50℃であるが、場合によってはより高い温度を採用してもよい。この温度は、非水性媒体の融点以上であるべきである。
【0041】
好適な水と混和可能な非水性媒体としては、高分子材料の製造に用いられ得る反応性化合物が挙げられる。このような化合物としては、ジアミノ化合物、ポリアミノ化合物、および、ポリウレタン、ポリアミド、エポキシポリマーなどの製造に用いられ得るプレポリマーが挙げられる。好適なこのような化合物としては、テトラメチレンジアミンおよびヘキサメチレンジアミンが挙げられる。他の好適な水と混和可能な非水性媒体としては、イオン性媒体、ヘキサメチルホスホラストリアミン(HMPT)、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(NMP)、N−メチルモルホリン−N−オキシドなどの高沸点極性非プロトン溶媒、さらには、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールやジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル、などの高沸点アルコールが挙げられる。
【0042】
好適な水と混和不能な非水性媒体としては、沸点が約110℃より高い、または沸点が約120℃、125℃、130℃、135℃、140℃、145℃、または150℃より高い炭化水素、通常は芳香族炭化水素、が挙げられる。その他には、例えば塩素化または臭素化炭化水素などのハロゲン化炭化水素が挙げられる。これらはモノハロゲン化炭化水素またはジハロゲン化炭化水素であってもよく、1分子中に2つより多い数の(例えば、3つ、4つ、5つ、または6つ)のハロゲン原子を有してもよい。ハロゲン化炭化水素が1分子中に1つより多い数のハロゲン原子を有する場合、それらハロゲン原子は全て同じであってもよく、そのうちの1つ以上が異なっていてもよい。ハロゲン化炭化水素は芳香族であってもよく、脂肪族であってもよい。例としては、ジブロモジクロロメタン、ブロモクロロベンゼン、テトラクロロメタン、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロエタン、ベンジルクロリド、クロロトルエンなどが挙げられる。
【0043】
本明細書において「水」という場合、その水は純水でなくてもよいと理解されるべきである。水は溶解物を含んでもよい。溶解物は、塩であってもよく、溶存ガスであってもよく、界面活性剤であってもよく、その他の種類の溶質であってもよい。水に1つより多い種類の溶解物が存在していてもよい。ある実施形態では、本方法の工程a)の分散系の水には、いかなる有機溶媒も溶解していない。
【0044】
水に粒子が分散している分散系におけるプレートレット状粒子の含有量は、少なくとも約0.01%であってもよく、または少なくとも約0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1%、2%、5%または10%であってもよく、または約0.01%〜約20%であってもよく、または約0.01〜10%、0.01〜1%、0.05〜20%、0.05〜10%、0.05〜1%、0.1〜20%、0.1〜10%、0.1〜5%、0.1〜1%、0.1〜1%、0.1〜0.5%、0.5〜20%、1〜20%、2〜20%、5〜20%、10〜20%、0.5〜5%、1〜10%、1〜5%、または5〜10%であってもよく、例えば、約0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%であってもよい。非水性媒体に粒子が分散している最終的に得られる分散系の濃度は、少なくとも約0.01%であってもよく、または少なくとも約0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1%、2%、5%または10%であってもよく、または約0.01%〜約20%であってもよく、または約0.01〜10%、0.01〜1%、0.05〜20%、0.05〜10%、0.05〜1%、0.1〜20%、0.1〜10%、0.1〜5%、0.1〜1%、0.1〜1%、0.1〜0.5%、0.5〜20%、1〜20%、2〜20%、5〜20%、10〜20%、0.5〜5%、1〜10%、1〜5%、または5〜10%であってもよく、例えば、約0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%であってもよい。これらの濃度はw/w基準であってもよく、w/v基準であってもよい。
【0045】
通常、水に粒子が分散している分散系は、界面活性剤の存在によって安定化される。界面活性剤は、好ましくは粒子の表面に完全な単層として存在する。界面活性剤の単層は、非水性媒体中の粒子もその表面に界面活性剤の単層を有するように、方法を実施する間、粒子の界面活性剤に常に存在し続けてもよい。
【0046】
界面活性剤は、高分子であってもよい。界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であってもよい。界面活性剤は、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体であってもよい。界面活性剤は、水中におけるdγ/dc(濃度の変化に伴う表面張力の変化率)の値が約0Nm
-1・mol
-1・L未満であってもよく、または約−0.1Nm
-1・mol
-1・L〜約−5Nm
-1・mol
-1・Lであってもよい。界面活性剤の臨界ミセル濃度(cmc)は、約1mMより高くてもよく、または約1.5mM、2mM、2.5mM、または3mMより高くてもよく、または約1mM〜約5mMであってもよく、または約1〜3mM、1〜4mM、1.5〜5mM、2〜5mM、1.5〜3mM、または2〜4mMであってもよく、例えば約0.5mM、1mM、1.5mM、2mM、2.5mM、3mM、3.5mM、4mM、4.5mM、または5mMであってもよい。
【0047】
界面活性剤が高分子である場合、その分子量(数平均または重量平均分子量)は、約500〜約50000であってもよく、または約500〜10000、500〜5000、500〜1000、1000〜50000、10000〜50000、1000〜10000、1000〜5000、または5000〜10000であってもよく、例えば、約500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10000、15000、20000、25000、30000、35000、40000、45000、または50000であってもよい。界面活性剤は、分子量範囲が狭くてもよく、分子量範囲が広くてもよい。比Mw/Mnは、約1.1より大きくてもよく、または約1.2、1.3、1.4、1.5、2、3、4または5より大きくてもよく、比Mw/Mnは、約5より小さくてもよく、または約4、3、2、1.5または1.2より小さくてもよい。比Mw/Mnは、例えば、約1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5または5であってもよい。界面活性剤の重合度は、約10〜約1000であってもよく、または約10〜500、10〜200、10〜100、10〜50、20〜1000、50〜1000、100〜1000、500〜1000、20〜200、20〜100または100〜200であってもよく、例えば、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、または1000であってもよい。複数の界面活性剤の混合物を用いてもよい。この場合、複数の界面活性剤のうちの少なくとも1つ、場合によっては複数の界面活性剤の全てが、上述の通りであってもよい。
【0048】
界面活性剤は、共重合体であってもよい。界面活性剤は、エチレンオキシド‐プロピレンオキシド共重合体であってもよい。界面活性剤は、他のコモノマーを有してもよく、他のコモノマーを有しなくてもよい。界面活性剤は、窒素原子に結合した1つ以上(場合によっては3つ)のエチレンオキシド‐プロピレンオキシド共重合体置換基を有するアミンであってもよい。界面活性剤は、ブロック共重合体であってもよい。界面活性剤は、トリブロック共重合体であってもよい。界面活性剤は、エチレンオキシド‐プロピレンオキシドブロック共重合体であってもよい。界面活性剤は、ポロキサマーであってもよい。界面活性剤は、エチレンオキシド‐プロピレンオキシド‐エチレンオキシドトリブロック共重合体であってもよい。2つのエチレンオキシドブロックは、長さが同じであってもよく、長さが異なっていてもよい。この重合体におけるエチレンオキシドの割合は、重量%またはモル%で、約10%〜約90%であってもよく、または約10〜50%、10〜30%、50〜90%、70〜90%、20〜80%、20〜50%、50〜80%、20〜40%、または60〜80%であってもよく、例えば、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%であってもよい。
【0049】
界面活性剤の親水性親油性バランス(HLB)は、約6より大きくてもよく、または約7、8、10、12、15または20より大きくてもよく、または約6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、または24であってもよく、または24より大きくてもよい。本発明に用いられ得る好適な界面活性剤としては、Pluronic(登録商標)P123(公称HO(CH
2CH
2O)
20(CH
2CH(CH
3)O)
70(CH
2CH
2O)
20H:HLB=約7)、Pluronic(登録商標)L31(公称HO(CH
2CH
2O)
2(CH
2CH(CH
3)O)
16(CH
2CH
2O)
2H:HLB=約1〜7)、Pluronic(登録商標)F127(公称HO(CH
2CH
2O)
101(CH
2CH(CH
3)O)
56(CH
2CH
2O)
101H:HLB=約22)、Pluronic(登録商標)F108(公称HO(C
2H
4O)
141(C
3H
6O)
44(C
2H
4O)
141H:HLB>24)、およびアミノ官能性ポリエーテル(例えば、商品名「Jeffamine(登録商標)」として販売されているもの)が挙げられる。一般に、界面活性剤は、HLBが高いほど、曇り点も高い。通常、HLBが約12を超える界面活性剤の曇り点は、約100℃を超える。したがって、好ましい実施形態では、界面活性剤のHLBは、12を超えていてもよい。界面活性剤の曇り点は、100℃を超えていてもよく、または約110℃、120℃、130℃、140℃、または150℃を超えていてもよい。一般に、分散系をより良好に安定化させるためには、HLBが高いほど好ましい。界面活性剤は、非発泡性の界面活性剤であってもよい。
【0050】
場合によっては、水の中に塩が存在してもよい。これにより、非水性媒体中への抽出が容易になる場合がある。塩は、界面活性剤と錯体を形成するか、さもなくば界面活性剤に結合するかして界面活性剤の疎水性を増大させることにより、非水性媒体中への抽出を容易にし得る。塩は、水分散系を非水性媒体と混ぜ合わせる前に加えてもよいし、混ぜ合わせた後に加えてもよい。塩は、ハロゲン化化合物と錯体を形成可能であるか、さもなくばハロゲン化化合物に結合可能な塩であるべきである。通常、塩は、多価カチオン(すなわち一価ではない、例えば2+、3+、または4+のカチオン)を有する塩である。したがって、好適な塩としては、例えば塩化第二鉄または臭化第二鉄といったFe
3+塩などの鉄の塩、およびLa
3+塩が挙げられる。特定の界面活性剤のPEO鎖に作用可能な、Fe(SCN)
2+塩などの他の錯体を形成する塩を用いてもよい。これらの塩は、その濃度を非水性相において測色的に(colorimetrically)特定できるため、便利である。好適な水中での濃度は、約0.01〜0.5Mであり、または約0.05〜0.5M、0.1〜0.5M、0.1〜0.5M、または0.05〜0.2Mであり、例えば約0.01M、0.02M、0.03M、0.04M、0.05M、0.06M、0.07M、0.08M、0.09M、0.1M、0.15M、0.2M、0.25M、0.3M、0.35M、0.4M、0.45M、または0.5Mである。
【0051】
水の除去は、部分的な除去であってもよいし、全体的な除去であってもよい。場合によっては、後ほど詳述するように、水の大部分を最初の工程で除去し、続く乾燥工程で残りの水のほとんどまたは全てを除去する。最初の水除去工程では、例えば、水の少なくとも約90%を除去してもよく、または、水の少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または99.5%を除去してもよい。この段階での除去の程度は、非水性媒体の性質および除去方法に依存する。
【0052】
水を除去する工程は、2つの互いに混和不能な媒体を物理的に分離することで行ってもよく、水を揮発させる(例えば、ロータリーエバポレーターを用いて、または蒸留、場合によっては分留によって、または凍結乾燥によって)ことで行ってもよく、または他の好適な方法で行ってもよい。水を除去する的確な方法は、例えば非水性媒体の性質に依存する。
【0053】
特に、非水性媒体が水と混和可能である場合、本方法の工程a)で形成される混合物は、単一の媒体相のみを有する(ただし、混合物は固体相として分散した粒子を含有する)。この場合、水を除去するための好適な方法は、揮発による方法である。通常、この方法には、水が揮発するまたは沸騰する温度まで混合物を加熱することが含まれることが多い。一般的に、この方法では、非水性媒体が、水の蒸気圧よりも低い蒸気圧を有する必要がある。非水性媒体の100℃での蒸気圧は、約90kPa未満であってもよく、または約80kPa、70kPa、60kPa、50kPa、40kPa、30kPa、20kPa、または10kPa未満であってもよく、または約90kPaであってもよく、または約80kPa、70kPa、60kPa、50kPa、40kPa、30kPa、20kPa、または10kPaであってもよい。非水性媒体の沸点(通常の大気圧における)は、少なくとも約110℃であってもよく、または少なくとも約120℃、130℃、140℃、または150℃であってもよい。場合によっては、非水性媒体の沸点は測定不可能であってもよい(すなわち、非水性媒体は、沸点に達する前に分解してもよい)。
【0054】
上述したプロセスは、水を除去しながら非水性媒体の大部分(通常、少なくとも約60%、または少なくとも約70%、80%、または90%)を残存させるための混合物の分留を意味するとみなし得る。この場合、上述したように、界面活性剤が存在しているならば、界面活性剤の曇り点が100℃より高いか、または水の除去が行われる温度よりも高いことが好ましい。工程b)を減圧下、例えば絶対圧力で約50kPa未満、または約40kPa、30kPa、20kPa、10kPa、5kPa、2kPa、または1kPa未満、または、約0.1kPa〜約50kPa、約0.1〜20kPa、0.1〜10kPa、0.1〜5kPa、0.1〜1kPa、1〜50kPa、5〜50kPa、10〜50kPa、20〜50kPa、10〜20kPa、または1〜10kPa、例えば約0.1kPa、0.2kPa、0.3kPa、0.4kPa、0.5kPa、0.6kPa、0.7kPa、0.8kPa、0.9kPa、1kPa、2kPa、3kPa、4kPa、5kPa、10kPa、15kPa、20kPa、25kPa、30kPa、35kPa、40kPa、45kPa、または50kPaで行うことによって、水の除去を促進してもよい。大気圧より低い圧力を用いることによって、水の除去を、大気温度での場合よりも低い温度で行うことが可能になる。さらに/あるいは、混合物に、通常細かく分離された気泡の状態で気体を通過させることによって(例えば、フリットまたは同様の装置を用いる)、または混合物の薄膜を形成することによって(例えば、ロータリーエバポレーターを用いる)、除去を促進してもよい。特定の有機媒体は水と共沸可能であることが知られており、この現象を利用して水の除去を行う温度を低下させてもよい。例えば、トルエンは、およそ84℃で沸騰する水との共沸混合物を形成可能である。したがって、トルエンが存在しない場合には水の沸点は100℃(1気圧下)であるが、適切な量のトルエンを加えれば、約84℃(1気圧下)に加熱することで水を除去できる。水/トルエン共沸混合物は約80重量%のトルエンを含有するため、この例では、水の重量の約4倍のトルエンを加える必要がある。
【0055】
水を除去するための別の好適な方法は、凍結乾燥による方法である。この方法は、工程a)の混合物の凝固点以下の任意の好適な温度で行えばよい。該凝固点は、非水性媒体の性質によるが、通常約0℃未満である。この方法は、絶対圧力約10kPa未満、または約5kPa、2kPa、1kPa、0.5kPa、0.2kP、または0.1kPa未満で行ってもよい。凍結乾燥を行う温度において、非水性媒体の蒸気圧が水の蒸気圧よりも低い必要がある。
【0056】
非水性媒体が水と混和可能ではない場合、非水性媒体の蒸気圧が水の蒸気圧よりも高ければ、上述したような揮発/沸騰または凍結乾燥によって水を除去してもよい。なお、上述したように、特定の媒体は水と共沸する。そこで、非水性媒体自体が水と共沸混合物を形成するのであれば、非水性媒体自体が(水と混和可能か否かに関わらず)水よりも揮発性が高い場合に水の除去を達成し得る。例えば、水と混和可能でなく水よりも揮発性が高い四塩化炭素は、約67℃で沸騰する水との共沸混合物を形成するが、この温度は純粋な四塩化炭素の沸点よりもおよそ10℃低い。したがって、該共沸混合物を揮発させることによって、この非常に揮発しやすい溶媒から水を除去し得る。同様に、水と混和可能であって水よりも揮発性が高いn‐プロパノールは、約88℃で沸騰する水との共沸混合物を形成するが、この温度は純粋なn‐プロパノールの沸点よりもおよそ9℃低い。したがって、該共沸混合物を揮発させることによって、この非常に揮発しやすい溶媒から水を除去し得る。
【0057】
水と混和不能な非水性媒体から水を除去するための別の方法は、それら2つの媒体を単に物理的に分離することである。そこで、水と混和不能な非水性媒体の例として、クロロベンゼンが挙げられる。クロロベンゼンの密度は、水の密度よりも約10%高い。したがって、クロロベンゼンと水との混合物は、水が上層となりクロロベンゼンが下層となるように分離する傾向がある。これらは、下層を流出させることによって、または上層をデカントすることによって、または何らかの同様の方法によって分離し得る。2つの互いに混和不能な媒体の分離は、遠心分離によって促進し得る。この場合、外側の媒体が密度が高い方の媒体となるが、その外側の媒体を遠心分離機の外へ出すことによって分離してもよい。この場合の具体的な例では、非水性媒体の融点が約5℃〜約100℃であれば、水に粒子が分散している分散系と非水性媒体とを非水性媒体の融点よりも高い温度で撹拌し、次いで温度を該融点未満まで低下させることにより、粒子が分散した状態になった非水性媒体を固化させてもよい。その後、単にデカントすることによって、または濾過することによって、または固液分離に好適な他の何らかの方法によって、水を除去してもよい。この場合、プレートレット状粒子が水相と非水相とに分配される。どのように分配されるかは、例えば、非水相の性質、水相における塩濃度、これら2つの相の体積の比、プレートレット状粒子の性質、プレートレット状粒子の水分散系を安定化するために用いる界面活性剤の性質などの要素に依存する。通常、非水相の方に多く分配される(すなわち、水相中よりも非水相中により多くのプレートレット状粒子が存在することになる)。非水相中のプレートレット状粒子の水相中のプレートレット状粒子に対する比は、約1(すなわち1:1)〜1000(すなわち、1000:1)であってもよく、または約1〜100、1〜10、1〜5、1〜2、2〜1000、10〜1000、100〜1000、500〜1000、10〜100、10〜50、50〜100、または50〜500であってもよく、例えば、約1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、または1000であってもよい。
【0058】
好適な水と混和不能な非水性媒体としては、例えば塩素化化合物などのハロゲン化化合物(ハロゲン化溶媒など)が挙げられる。
【0059】
混合物から水を除去した後、非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している得られた分散系を乾燥させてもよい。最初の水の除去が不完全であり、そのために分散系に水が残留している可能性があるからである。例えば、単に水を分留することによって水と混和可能な媒体から水を残らず取り除くことは通常困難である。乾燥のための好適な方法としては、共沸する媒体を加え、例えばディーン・スターク分離装置または他の好適な装置を用いて残留水を共沸除去することが挙げられる。さらに/または、例えばゼオライト、無水塩、水反応性物質(例えば、ナトリウム金属)、または他の好適な乾燥剤などの乾燥剤を用いて水を除去してもよい。当業者であれば、ある特定の状況に対してこれらの方法のうちどの方法が適しているか容易に理解するであろう(例えば、非水性媒体がアルコールなどのプロトン性媒体である場合、ナトリウム金属の使用は不適切となる)。
【0060】
上述したように、プレートレット状粒子は、特に水中における剥離によって得ることができる。この場合、前駆体となる層状材料(例えばグラファイト、マイカなど)に対して水中で超音波処理を行うことを含んでもよい。この超音波処理は、界面活性剤の存在下で行うことが好ましく、界面活性剤の濃度が、超音波処理の間常に、分散系中の各種粒子(層状プレートレット状粒子および剥離プレートレット状粒子)上に完全な単層を形成するのに十分な濃度に維持されるように行うことが好ましい。この方法は、WO2013/010211に詳述されている。1つの選択肢では、混合物における初期の界面活性剤濃度が、層状材料が一旦剥離された後、引き続き行われる超音波処理の間に形成される剥離粒子上に単層を形成するのに十分な濃度である。別の選択肢では、混合物における初期の界面活性剤濃度が初期の層状粒子上に単層を形成するのに十分な濃度であり、超音波処理の間常に、界面活性剤の濃度が分散系中の全ての粒子上に完全な単層を形成するのに十分な濃度となるように、超音波処理を行いながら界面活性剤を連続的にまたは回分式に加える。なお、剥離が進行するにつれて、合計の表面積が増加するので、分散系中の全ての粒子上に単層を形成するためにはより多くの界面活性剤が必要となる。
【0061】
上述した第1の選択肢では、初期の界面活性剤濃度を、算出した剥離プレートレット状粒子の表面積と既知である界面活性剤の1分子あたりの面積とから容易に決定し得る。後者は、容易に利用可能な文献から取得してもよく、例えばラングミュア‐ブロジェット装置を用いて実験的に測定してもよい。上述した第2の選択肢では、界面活性剤の添加率を決定するための好適な方法は以下の通りである。
1.液相(水)の表面張力を界面活性剤の濃度の関数として測定し、下方値(C1)から予想閾値(C2e、通常約48〜50mJ/m
2より大きい表面張力に対応)までの表面張力に対応する濃度領域を特定する。
2.まず、界面活性剤を層状材料の分散系に加えて濃度約C1の液を作る。
3.分散系の超音波処理を開始し、一定の時間間隔で試料を取り出す。液相の表面張力を超音波処理開始からの経過時間の関数として求める。
4.工程3で得られたデータから検量線(例えば
図3参照)を作成する。この検量線は、界面活性剤が剥離材料に吸着して消費された結果である溶液の表面張力を時間の関数として示す。
5.工程4で得た表面張力/時間曲線が横ばいになることを確認することによって、剥離が終了した時点(T1)を求めることができる。その時点における濃度が閾値C2である。
6.最小限の消費率(C1−C2)/T1にて界面活性剤を補給する。
【0062】
通常、下方値C1は、約45mJ/m
2未満、または約44mJ/m
2、43mJ/m
2、42mJ/m
2、41mJ/m
2、または4045mJ/m
2未満、または約35mJ/m
2〜約45mJ/m
2、または約38〜45mJ/m
2、40〜45mJ/m
2、35〜43mJ/m
2、35〜40mJ/m
2、38〜42mJ/m
2または40〜42mJ/m
2であり、例えば約35mJ/m
2、36mJ/m
2、37mJ/m
2、38mJ/m
2、39mJ/m
2、40mJ/m
2、41mJ/m
2、42mJ/m
2、43mJ/m
2、44mJ/m
2、または45mJ/m
2である。閾値(C2e、C2)は、通常、45mJ/m
2より大きく、または46mJ/m
2、47mJ/m
2、48mJ/m
2、49mJ/m
2、または50mJ/m
2より大きく、または約45〜55mJ/m
2であり、または約45〜50mJ/m
2、50〜55mJ/m
2、48〜52mJ/m
2、または47〜40mJ/m
2であり、例えば、約45mJ/m
2、46mJ/m
2、47mJ/m
2、48mJ/m
2、49mJ/m
2、50mJ/m
2、51mJ/m
2、52mJ/m
2、53mJ/m
2、54mJ/m
2、または55mJ/m
2である。
【0063】
超音波処理の出力は、約10Wより大きくてもよく、または約20W、50W、100W、200W、500W、1000W、2000W、3000W、または4000Wより大きくてもよく、または約10W〜約1000Wであってもよく、または約10〜500W、10〜200W、10〜100W、10〜50W、50〜1000W、50〜100W、100〜1000W、200〜1000W、500〜1000W、1000〜5000W、1000〜4000W、200〜5000W、100〜500W、300〜700W、または500〜800Wであってもよく、例えば、約10W、20W、30W、40W、50W、60W、70W、80W、90W、100W、150W、200W、250W、300W、350W、400W、450W、500W、600W、700W、800W、900W、1000W、1500W、2000W、2500W、3000W、3500W、4000W、4500W、または5000Wであってもよい。超音波処理の周波数は、約2kHzより高くてもよく、または約5kHz、10kHz、20kHz、50kHz、100kHz、150kHz、または200kHzより高くてもよく、または約2kHz〜約200kHzであってもよく、または約2〜100kHz、2〜50kHz、2〜20kHz、2〜10kHz、10〜200kHz、20〜200kHz、50〜200kHz、100〜200kHz、10〜100kHz、50〜100kHz、または10〜50kHzであってもよく、例えば、約2kHz、3kHz、4kHz、5kHz、6kHz、7kHz、8kHz、9kHz、10kHz、15kHz、20kHz、25kHz、30kHz、35kHz、40kHz、45kHz、50kHz、60kHz、70kHz、80kHz、90kHz、100kHz、120kHz、140kHz、160kHz、180kHz、または200kHzであってもよい。好適な超音波処理の条件は、例えば、出力約50〜100W、周波数約10〜50kHzであり得る。超音波処理は、所望の程度の剥離を達成するのに十分な時間継続してもよい。好適な時間は、例えば、少なくとも約0.5分であってもよく、または、少なくとも約1分、2分、5分、10分、15分、20分、30分、40分、50分、または60分であってもよく、または約0.5分〜約60分であってもよく、または約0.5〜30分、0.5〜10分、0.5〜2分、0.5〜1分、1〜60分、2〜60分、5〜60分、10〜60分、30〜60分、1〜30分、1〜10分、1〜5分、5〜30分、10〜30分、10〜20分、または5〜15分であってもよく、例えば、約0.5分、1分、2分、3分、4分、5分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、または60分であってもよい。超音波処理の時間は、約30分未満であってもよく、または約25分、20分、または15分未満であってもよい。場合によっては、超音波処理自体によって分散系を調製するのに必要な撹拌を起こし、別途撹拌を行わなくてもよい。
【0064】
上記のようにして調製された、非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系は、以下の様々な用途に用いることができる。
・潤滑剤。プレートレット状粒子が潤滑剤特性を付与できる。
・半導体製造。特にプレートレット状粒子がグラフェンである場合、これら粒子は、該粒子の分散系を半導体製造に非常に適したものにする有用な電気的特性を有し得る。
・触媒反応。プレートレット状粒子は、その比表面積が非常に大きいため、高い触媒活性を付与できる。粒子が元々触媒特性を有する場合には、そのまま用いてもよく、または、触媒部位を結合させることにより粒子を変性させて、表面積の大きい触媒分散系としてもよい。
・複合材料製造(コーティングを含む)。非水性媒体が反応性である場合、すなわち、非水性媒体が反応してポリマーを形成可能である場合、プレートレット状粒子の分散系によって、それら粒子が充填されたポリマーを得るための簡易経路が与えられる。充填材の補強特性およびその他の有効な特性は、通常その比表面積に依存することから、本発明で用いられるようなプレートレット状粒子は、ポリマーの特性を変化させるのに非常に適している。そこで、例えば、反応性アミンを本明細書に記載のプレートレット状粒子とともに準備し、次いでその反応性アミンを用いてポリウレタンを調製してもよい。このポリウレタンには該粒子が分散して存在することになり、高いレベルの補強がなされる。重要なことに、プレートレット状粒子が含まれることによって向上し得るのは力学的な補強だけではない。熱伝導性が向上することも、例えば、集積回路用途における3Dチップパッケージング用の熱伝導材料、高温部位用(例えば航空宇宙用や自動車用)複合材料部品の加工温度の拡大(プレートレット状粒子が含まれることによって、熱をより広範囲にわたって、より効率的に分散できるため)、合成繊維、特にセルロースの熱的特性の改善、家庭用電子機器(例えば携帯電話や装着型機器)における熱拡散性の改善などの多くの用途において重要である。プレートレット状粒子が存在することによる電気伝導性の向上も、例えば、航空宇宙用複合材料部品の落雷保護、航空宇宙用途(航空機、人工衛星など)、家庭用電子機器、およびマイクロエレクトロニクス機器のための電磁放射遮蔽、導電性インクの調製(変色する銀系インクの代替品として)、電池用途のための電極およびスーパーキャパシタの形成(通常、流涎溶液から形成する)、3Dプリント用材料(例えば熱硬化性材料や熱可塑性材料)との適合性の向上、などにおいて重要となり得る。
【0065】
反応性アミン基は、他の何らかの官能基と反応して他の分子と結合可能なアミン基であり得る。これらは、1級アミンであってもよく、2級アミンであってもよい。例えば、反応性アミンを非水性媒体として用い、該媒体にグラフェンが分散している分散系を製造してもよい。次いでこの分散系を用いて、グラフェンが充填されたポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、または他の好適なポリマー系を製造してもよい。そこで、具体的な例としては、1分子中に少なくとも2つのアミン基を含む非水性媒体にプレートレット状粒子が分散している分散系を本明細書に記載の方法によって調製し、得られた分散系を1分子中に少なくとも2つのアミン反応性基(すなわち、上記アミン基と反応可能な基)を含む試薬と混ぜ合わせ、非水性媒体を試薬と反応させて、非水性媒体と試薬との反応生成物に分散しているプレートレット状粒子を含むポリマー複合材料を形成することが挙げられる。上述したアミン反応性基は、例えば、エポキシ基(エポキシ樹脂を作製するため)、イソシアネート基(ポリウレタンを作製するため)、環状無水物(ポリイミドを作製するため)、酸または酸ハロゲン化物(ポリアミドを作製するため)などであってもよい。
【0066】
上記の例は、他のプレートレット状粒子(本明細書の他の箇所に記載されたものなど)およびジアミン以外の反応性媒体にまで拡張され得ることが理解されるであろう。すなわち、より広義には、1分子中に少なくとも2つの反応性官能基を有する媒体を用いてプレートレット状粒子の分散系を作製してもよく、その媒体を1分子中に少なくとも2つの相補的な反応性官能基を有する試薬と反応させて複合材料を形成してもよい。この場合、相補的な反応性官能基は、媒体の反応性官能基と反応(例えば縮合)可能な基である。
【0067】
本発明のある態様は、非イオン性高分子界面活性剤で安定化されている、水相で剥離された2D粒子を抽出溶媒中に抽出することに関する。本発明において、「2D」粒子は有限の厚さを有するが、その厚さは、非常に小さくてもよく、特に他の寸法(長さ、幅)と比べて非常に小さいことが理解されるであろう。このような粒子の厚さは、わずか原子1個分であってもよく、またはわずか約原子2個分、原子3個分、原子4個分、原子5個分、原子6個分、原子7個分、原子8個分、原子9個分、または原子10個分であってもよい。抽出のメカニズムは、抽出溶媒の性質に依存すると考えられる。抽出溶媒は、非水性であってもよい。抽出溶媒は、有機性であってもよい。抽出溶媒は、非水性かつ有機性であってもよい。抽出溶媒は、例えば、ハロゲン化抽出溶媒、非プロトン性極性抽出溶媒、グリコールエーテル抽出溶媒、アリールアルコール抽出溶媒、またはアミノ官能性抽出溶媒であってもよい。
【0068】
本発明は、例えば、グラフェン、単層遷移金属カルコゲナイド、テルル化ビスマスなど、幅広い範囲の剥離2D粒子に適用できる。
【0069】
現在、グラフェンが分散した非水性媒体は、コーティングおよび複合材料(プラスチック材料)の製造に使用されることが多い。分散系の濃度を増加させ、かつ、様々な溶媒で分散系を製造できれば、これら分散系の潜在用途および潜在市場が拡大する。具体的には、グラフェンが入った非プロトン性極性溶媒は、アラミドポリマー(Kevlarなど)ナノ複合材料の補強に非常に好適である。グラフェンが入ったハロゲン化溶媒は、SBR(スチレン‐ブタジエンゴム)用途に有用である。グラフェンが入ったグリコールエーテルは、非水性塗料での使用に好適である。反応性アミンは、エポキシ系コーティングおよび複合材料に使用されることが多いが、エポキシ系コーティングおよび複合材料では、補強のためや、熱的特性(熱伝導および凍結防止)、難燃性、および防水性の向上のためにグラフェンを使用できる。本発明の分散系を用いて作製し得る複合材料のための市場としては、航空宇宙産業、スポーツ用品産業、建設産業、プリント産業、パッケージング産業などが挙げられる。重要なことに、これら市場の全ては、粒子の濃度の増加によって可能となる大量用途である。エレクトロニクス、半導体、潤滑剤、触媒反応(油およびガス)、金属コーティング(耐腐食、耐摩耗)などのその他の市場も、具体的な分散媒および溶媒抽出法を調整することによって対象となり得る。
【0070】
この技術の市場区分としては、複合材料の製造およびエンドユーザー、コーティング、塗料、保護フィルム、薬品、およびプラスチック材料などが挙げられる。
【0071】
分散系の濃度が高いほど、製品に含まれることになるグラフェンまたは他のプレートレット状粒子の量を大きくでき、その結果製造コストが大幅に低くなる。溶媒系の選択の自由度が高いことは、既存の製造プロセスとの適合性の向上をもたらし、例えば、上述した市場にグラフェン技術をより迅速に取り入れることにつながる。
【0072】
市場で入手可能な「グラフェン」の多くは、酸化グラフェンまたは還元型酸化グラフェンに基づいている。本発明で用いられる材料は、グラファイト自体の剥離によって生成し得るため、「新品」の状態、すなわち、欠陥のない状態であり得る。本発明によれば、様々な溶媒にグラフェンが様々な濃度で分散している安定した分散系を製造できるようになる。
【0073】
本発明の分散系の具体的な用途の1つは、熱伝導流体である。多くの液体の熱的特性は、界面活性剤によって安定化されたグラフェンを加えることによって向上させることができ、これにより、それら液体を熱伝導流体としての使用に適するようにできる可能性がある。好適な液体または流体としては、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、ホウ酸エステル、ポリエチレンオキシド(またはポリエチレングリコール)、およびこれらの混合物が挙げられる。この用途において有用であるためには、分散系は、高温で安定であるべきである。NMPや同様の非プロトン性極性溶媒などの他の液体も、グラフェンを加えることで、高沸点熱伝導流体として機能し得る。蒸気圧の低い溶媒が特に注目される。
【0074】
非常に安定なグラフェンの分散系が、本明細書において先述した方法により、多くの溶媒系を用いて調製されている。国際特許出願WO2013/010211には、液相剥離を用いた、界面活性剤水溶液中でのグラフェンのスケーラブルな製造が記載されているが、本発明者は、この国際特許出願に開示されている発明に基づき、これら固体材料を、以前には記載されていなかった溶媒および混合溶媒中に抽出した。こうして得られた粒子懸濁液は、好適な界面活性剤を用い、再凝集および沈殿に対して安定化される。
【0075】
これら懸濁液には多くの潜在用途があるが、いくつかの懸濁液は、沸点、熱容量、熱伝導率などの熱的特性の組み合わせから、熱伝導用途において特に有望である。粘度や限界熱流束などの関連する特性も、検討する必要のある重要なパラメータである。
【0076】
多くの液体は元来熱伝導率が低く、このことは、それら液体の熱伝導用途での使用には限界があることを意味する。水との混合は、この限界を克服するための有効な手法であるが、その代わりに沸点が低くなる。そのため、沸点を犠牲にすることなく熱伝導率を向上させることが求められている。さらに、ブレーキ液などの水を完全に回避しなければならない用途もある。本明細書では、特定の溶媒に懸濁させたグラフェンの熱伝導用途での使用について説明する。
【0077】
グラフェンによって改良された熱伝導流体を製造する方法は、液相の組成に依存する。例えば、界面活性剤を用いる水性系の上述した方法によってグラフェンを製造した後、このグラフェンを非水性液体に配合することができる。このような例の場合、エチレンオキシド‐プロピレンオキシドブロック共重合体であるPluronic(登録商標)F127(概ねEO
100PO
65EO
100)またはF108(概ねEO
130PO
55EO
130)(曇り点>100℃)などの非イオン性界面活性剤を用いて安定化させた濃度0.5%w/wのグラフェンの水性懸濁液を、同程度の量のエチレングリコールに、単に撹拌しながら加える。所望の沸点や他の熱的特性によっては、水を加えてもよく、または、揮発、蒸留、透過気化、限外濾過、透析、または他の好適な手段によって水を除去してもよい。実際、場合によっては、グラフェンの水相からNMPなどの溶媒中への抽出に関して説明したのと同様の方法で全ての水を除去し得る。このことについては、本明細書において既に詳述した。エチレングリコールおよび上記した他の溶媒以外に、市販の冷却液およびブレーキ液にも同様の手順でグラフェンを加え、グラフェン粒子の再凝集および沈降に対する安定性が、単純な溶媒よりも複雑な配合物中で好適であることが確認されている。
【0078】
より少量の非水性溶媒中にさらに抽出することでグラフェンの濃度を増加させ、それにより熱的特性を向上させてもよい。流体の沸点は、界面活性剤によって安定化されたグラフェンを加えても、ほとんど、または全く変化しない。しかし、粘度は上昇し、グラフェン粒子の濃度に依存する。
【0079】
1つの形態では、プレートレット状粒子の分散系を製造するための上述した方法を工程b)を行わずに、すなわち水の除去を行わずに、実施してもよい。この場合、プレートレット状粒子はグラフェンであってもよい。非水性媒体を水と混和可能な有機液体で置き換えてもよい。この有機液体は、非水性であってもよく、多少の水が混合されていてもよい。この方法は、分散したグラフェンの存在により液体の熱伝導率が向上するため、改良された熱伝導流体を製造するのに有用であり得る。
【0080】
好適な有機液体としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、液体ホウ酸エステル、ポリエチレンオキシド、N‐メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミン、ヘキサメチルホスホルアミド、イオン性液体、およびこれらのうちいずれか2種以上の混合物などの双極性非プロトン液体が挙げられる。好ましくは、該液体は、分散したグラフェン粒子が存在しない状態でも、25℃で少なくとも約0.1W/m・Kの熱伝導率を有する。好適な熱伝導率は、少なくとも約0.2W/m・K、0.3W/m・K、0.4W/m・K、0.5W/m・K、0.6W/m・K、0.7W/m・K、0.8W/m・K、0.9W/m・K、または1W/m・Kである。分散したグラフェンの存在により、熱伝導率が、少なくとも約0.3W/m・K、または少なくとも約0.4W/m・K、0.5W/m・K、1W/m・K、2W/m・K、3W/m・K、4W/m・K、5W/m・K、6W/m・K、7W/m・K、8W/m・K、9W/m・K、または10W/m・Kとなり、または、約0.3W/m・K〜約15W/m・K、または約0.3〜10W/m・K、0.3〜8W/m・K、0.3〜5W/m・K、0.3〜2W/m・K、0.3〜1W/m・K、0.3〜0.5W/m・K、0.5〜15W/m・K、1〜15W/m・K、2〜15W/m・K、5〜15W/m・K、10〜15W/m・K、1〜10W/m・K、1〜5W/m・K、50〜10W/m・K、3〜7W/m・K、または0.4〜9.6W/m・Kとなり、例えば、約0.3W/m・K、0.4W/m・K、0.5W/m・K、0.6W/m・K、0.7W/m・K、0.8W/m・K、0.9W/m・K、1W/m・K、1.5W/m・K、2W/m・K、2.5W/m・K、3W/m・K、3.5W/m・K、4W/m・K、4.5W/m・K、5W/m・K、6W/m・K、7W/m・K、8W/m・K、9W/m・K、9.6W/m・K、10W/m・K、11W/m・K、12W/m・K、13W/m・K、14W/m・K、または15W/m・Kとなる。実際の伝導率は、含水率、溶媒の性質、およびグラフェン含有率に依存する。
【0081】
水の有機液体に対する比率は、重量基準または体積基準で、約1:5〜5:1であってもよく、場合によっては1:3〜3:1または1:2〜2:1であってもよい。水の有機液体に対する比率は、例えば、約1:5、1:4、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、または5:1であってもよい。
【0082】
ある場合には、本明細書の他の箇所で説明したように、水の少なくとも一部が除去される。また、分散系に水が残存してもよい。水の比較的低い沸点はある用途においては不利であるが、水の存在によって熱伝導率が向上する場合もある。有機液体の沸点は、少なくとも約100℃であってもよく、または少なくとも約120℃、140℃、160℃、180℃、または200℃であってもよい。高温用途では、高い沸点が必要となる。そこで、該液体の沸点は、その想定される最高使用温度よりも少なくとも約10℃高くてもよい。
【0083】
上記の方法によって得られる熱伝導流体は、水と混和可能な有機液体にグラフェンが分散している分散系を含んでもよい。熱伝導流体は、場合によっては、水も含み得る。ある実施形態では、熱伝導流体は、約1体積%または重量%未満の水を含み、または約0.5%、0.2%、または0.1%未満の水を含む。他の実施形態では、熱伝導流体は、約10体積%または重量%〜約80体積%または重量%の水を含み、または約10〜70%、10〜60%、10〜50%、10〜40%、10〜30%、20〜80%、50〜80%、または30〜60%の水を含み、例えば、約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、または80%の水を含む。
【実施例】
【0084】
クロロホルム(水と混和不能な溶媒)中への抽出
WO2013/010211に既に記載されている方法を用いて、グラフェン水性懸濁液を調製した。このとき、非イオン性ブロック共重合体界面活性剤である、Pluronic F108(登録商標)を用いて剥離グラフェンシートを安定化した。水相におけるグラフェンの濃度は1mg/mLであった。グラフェンの水性懸濁液にFeCl
3を、最終濃度が0.1Mとなるように加えた。その後直ちに、このグラフェン水性懸濁液20mLを、クロロホルム20mLを加えた分液漏斗に移し入れた。漏斗の内容物をおよそ15分間穏やかに撹拌し、その間に、F108によって安定化されたグラフェンをより密度の高いクロロホルム相中へ抽出した。このようにして、グラフェンを水相から有機相へと抽出したが、抽出されたグラフェンの割合は、紫外可視分光法によって求めたところ、95%を超えていた。液‐液界面にある物質が析出した。グラフェンは、顕著な沈殿が観察されるまで1週間を超える期間クロロホルム中で安定であった。
【0085】
この抽出作業は、液‐液界面の張力が低い水と混和不能な有機溶媒を用いた場合に最も成功した。ジクロロメタンを用いた場合にも、同様の抽出結果が得られた。
【0086】
クロロホルム中のグラフェンの濃度を2つの方法を用いて高めた。第1の方法では、最初の抽出の後に、水相を除去して、0.1MのFeCl
3を含むグラフェン水性懸濁液の新たな20mL分で置き換えた。2つの液体を再度穏やかに撹拌し、その後すぐに、F108によって安定化されたグラフェンをクロロホルム相中へ抽出した。抽出効率が著しく低下するまでに、この作業を6回繰り返すことができた。この作業を用いて達成されたクロロホルム中のグラフェンの濃度の最高値は、4.2mg/mLであった。グラフェン濃度vs抽出回数のグラフを
図1に示す。
【0087】
より高濃度の非水性懸濁液を作製するための第2の方法についても検討した。この方法では、FeCl
3を加えた1mg/mLのグラフェン水性懸濁液50mLとクロロホルム10mLとを用いて抽出工程を1回行った。15分間穏やかに撹拌した後、グラフェンの大部分を有機相中へ抽出した。クロロホルム中のグラフェンの濃度は、3.9mg/mLであった。
【0088】
上に概要を説明した抽出方法を用いて、グラフェンを除く他のプレートレット状粒子の非水性懸濁液を作製した。剥離タルク、MoS
2、WS
2、およびh−BNの水性懸濁液をWO2013/010211に記載されているのと同様の方法で調整した。分散媒としてPluronic F108を再度用いたが、同じ系統の分散媒(L64、P123、F68、F127)も用いた。PEO‐PPO‐PEO構造に加えて、ポリエーテルアミンについても検討した。良好な抽出を達成するのに必要な塩イオンの濃度は、懸濁液中に含まれるEO基の濃度と関連がある。より短鎖の高分子界面活性剤であるほど、所定の質量濃度のグラフェン懸濁液を得るのに必要な塩が少なくなる。塩濃度が非常に高い場合(約0.5M超)、有機相中への抽出の前に、凝集および沈殿が生じる可能性がある。
【0089】
N‐メチルピロリドン(水と混和可能な溶媒)中への抽出
非イオン性トリブロック共重合体界面活性剤を分散媒として用いたグラフェン水性懸濁液を、WO2013/0010211に記載された方法を用いて調製した。NMP、DMAc、DMF、またはDMSOなどの極性非プロトン性溶媒中への抽出についての典型的な実験では、水中での曇り点が100℃より高い共重合体界面活性剤、例えばPluronic F127またはF108を用いた。より曇り点が低い他の界面活性剤を用いてもよいが、揮発の温度を高くすると、懸濁液が凝集を起こす可能性がある。
【0090】
丸底フラスコ内で、F108によって安定化されたグラフェンの水性懸濁液(1mg/mL)を同量のN‐メチルピロリドンに加えた。この混合物の内容成分を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で加熱した。急激な沸騰および凝集の可能性を回避するために、グラフェン‐水‐NMP混合物を加熱するのに用いる浴の温度を70℃に設定した。70℃では、水およびNMPの蒸気圧は、それぞれ31.2kPaおよび0.8kPaである。混合物の体積が初期体積の半分となるまで、水を揮発させた。グラフェンのNMP懸濁液に分子篩を加えて残りの水をさらに回収した。次いで、グラフェンのNMP懸濁液に対してカール‐フィッシャー滴定を行って、含水率を確認した(0.2%w/w未満)。また、グラフェンのNMP懸濁液を透析して含水率をさらに低減することができた。グラフェンのNMP懸濁液の濃度は、紫外可視分光法によって求めたところ、約1mg/mlであった。
【0091】
エチレングリコール熱伝導流体の調製および特性評価
丸底フラスコ内で、Pluronic(登録商標)F108によって安定化されたグラフェンの水性懸濁液(1mg/mL)を同量のエチレングリコールに加えた。この混合物の内容成分を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で加熱した。急激な沸騰および凝集の可能性を回避するために、グラフェン‐水‐エチレングリコール混合物を加熱するのに用いる浴の温度を70℃に設定した。70℃では、水およびエチレングリコールの蒸気圧は、それぞれ31.2kPaおよび0.27kPaである。混合物の最終体積が初期体積の半分未満となるまで、水を揮発させた。グラフェン‐エチレングリコール懸濁液の沸点は197℃と測定され、これにより水がほとんど存在しないことが確認された。
【0092】
グラフェン‐エチレングリコール懸濁液は、有効な熱伝導剤として作用し得る。この懸濁液の熱拡散率を、ASTM E1461−13に記載の条件下、レーザーフラッシュ装置を用いて測定することにより、懸濁液の熱伝導率を求めた。
図2に示すように、濃度1%w/wのグラフェンが入ったエチレングリコール懸濁液の熱伝導率は、96%増加した。同様に、0.1%w/wのグラフェンが入ったエチレングリコールでは、熱伝導率の顕著な向上が確認された。
【0093】
テトラエチレングリコール油圧液の調製および特性評価
テトラエチレングリコールは、掘削液、油圧液、およびブレーキ液の多くに共通する成分である。丸底フラスコ内で、Pluronic(登録商標)F108によって安定化されたグラフェンの水性懸濁液(1mg/mL)を同量のテトラエチレングリコールに加えた。この混合物の内容成分を、ロータリーエバポレータを用いて減圧下で加熱した。急激な沸騰および凝集の可能性を回避するために、グラフェン‐水‐テトラエチレングリコール混合物を加熱するのに用いる浴の温度を70℃に設定した。70℃では、水の蒸気圧は31.2kPaであり、テトラエチレングリコールの蒸気圧は0.01kPa未満である。混合物の最終体積が初期体積の半分未満となるまで、水を揮発させた。次いで、懸濁液の熱拡散率を、ASTM E1461−13に記載の条件下、レーザーフラッシュ装置を用いて測定することにより、懸濁液の熱伝導率を求めた。そのデータをグラフェン濃度の関数として
図3に示す。