(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱膨張する機械要素を有する工作機械の前記機械要素とその周辺の温度データ及び/又は前記機械要素の動作状態データを含む計測データ群に基づいて前記機械要素の熱変位量を推定する計算式を機械学習によって最適化する機械学習装置であって、
前記計測データ群を取得する計測データ取得部と、
前記機械要素の熱変位量の実測値を取得する熱変位量取得部と、
前記計測データ取得部によって取得された前記計測データ群を入力データとし、前記熱変位量取得部によって取得された前記機械要素の熱変位量の実測値をラベルとして互いに関連付けて教師データとして記憶する記憶部と、
前記計測データ群と、前記機械要素の熱変位量の実測値と、に基づいて機械学習を行うことで、前記機械要素の熱変位量を前記計測データ群に基づいて算出する熱変位量予測計算式を設定する計算式学習部と、を備え、
前記計算式学習部は、前記熱変位量予測計算式に前記記憶部に教師データとして記憶された所定期間内における前記計測データ群を代入して算出される前記機械要素の熱変位量の推定値と、前記記憶部にラベルとして記憶された前記所定期間内における前記機械要素の熱変位量の実測値との差異に基づいて、前記熱変位量予測計算式を設定し、
前記熱変位量予測計算式は、前記計測データ群に含まれる温度データの複数の時間シフト要素を使用する機械学習装置。
現在取得している計測データ群のうち、予め設定された数の計測データを使用して最良の精度となる計測データの組み合わせからなる最適化計測データ群を選択する最適化計測データ選定部をさらに備え、
前記最適化計測データ選定部は、
現在取得している計測データ群から、前記寄与度判定部により判定される寄与度の一番少ない計測データを外した計測データ群を、第1番目の計測データ群として選択し、
第i(1≦i)番目の計測データ群から、前記寄与度判定部により判定される寄与度の一番少ない計測データを外した計測データ群を、第(i+1)番目の計測データ群として選択することを繰り返し行うことで、予め設定された数の計測データからなる最適化計測データ群を選択する、請求項4に記載の機械学習装置。
前記計算式学習部は、L2正則化項を考慮した重回帰分析を用いる機械学習に基づいて、前記熱変位量の予測計算式を設定する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の機械学習装置。
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の機械学習装置により設定された熱変位量予測計算式に基づいて、前記計測データ群から算出される前記機械要素の熱変位量に対応する補正量を算出する補正量算出部と、
前記補正量算出部によって算出された前記機械要素の補正量に基づき、前記機械要素の機械位置を補正する補正部と、
を備えている工作機械の熱変位補正装置。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る熱変位補正システムを示すブロック図である。
図2は、本実施形態に係る機械学習装置及び熱変位補正装置の詳細を示すブロック図である。
図3は、本実施形態に係る工作機械及び制御装置の詳細を示すブロック図である。
【0026】
<熱変位補正システム100の構成>
まず、本実施形態に係る熱変位補正システム100の構成について説明する。熱変位補正システム100は、
図1に示すように、機械学習装置10、熱変位補正装置20、制御装置30、工作機械35、及びネットワーク40を備えている。なお、機械学習装置10、熱変位補正装置20、制御装置30、工作機械35は、1台でも複数台でもよい。
【0027】
ここで、制御装置30と工作機械35とは1対1の組とされて、通信可能に接続されている。これら制御装置30と工作機械35の組は、例えば同じ工場に複数組設置されていてもよく、それぞれ異なる工場に設置されていてもよい。
【0028】
また、機械学習装置10と、熱変位補正装置20と、制御装置30と、工作機械35とは、それぞれネットワーク40に接続されており、ネットワーク40を介して相互に通信を行うことが可能である。ネットワーク40は、例えば、工場内に構築されたLAN(Local Area Network)や、インターネット、公衆電話網、あるいは、これらの組み合わせである。ネットワーク40における具体的な通信方式や、有線接続及び無線接続のいずれであるか等については、特に限定されない。なお、熱変位補正装置20と制御装置30とは、ネットワーク40を用いた通信ではなく、接続部を介して直接接続してもよく、機械学習装置10と制御装置30とは、接続部を介して直接接続してもよい。
【0029】
次に、熱変位補正システム100に含まれるこれら装置の機能について、
図2に基づいて説明する。
図2は、各装置に含まれる機能ブロックを表すブロック図である。なお、各熱変位補正装置20はそれぞれ同等の機能を有しているため、
図2では1台のみを図示する。同様に、各制御装置30や各工作機械35もそれぞれ同等の機能を有しているため、
図2では1台のみを図示する。また、各装置間に存在するネットワーク40については、その図示を省略する。
【0030】
工作機械35は、
図3に示すように、刃物が取り付けられて主軸モータ36で回転する主軸と、この主軸を送り出す送り軸とによって切削加工を行う。すなわち、この刃物は、主軸36を駆動する主軸モータ37により回転し、送り軸38を駆動する送り軸モータ39によって送り出される。なお、実施例では、工作機械35を切削機械として説明するが、これに限定されない。
【0031】
制御装置30は、
図2及び
図3に示すように、工作機械35に制御信号を送出することにより、工作機械35が所定の切削加工を行うように制御する。制御装置30には、ワークの加工内容に応じて定まる複数の加工プログラム31が格納されている。そして、制御装置30は、加工プログラム31を読み取って解釈することにより、切削加工の条件(例えば、主軸の加減速の頻度、回転数、切削負荷、切削時間)を抽出して位置指令データ等を熱変位補正装置20に出力するプログラム読取解釈部32と、熱変位補正装置20から出力される熱変位補正後の位置指令データに基づいて、工作機械35の主軸モータ37及び送り軸モータ39を駆動する動作指令を作成するモータ制御部33と、動作指令を増幅して工作機械35の主軸モータ37に出力するモータ駆動アンプ34A、及び、送り軸モータ39に出力するモータ駆動アンプ34Bと、を備えている。また、プログラム読取解釈部32は、切削加工の条件(例えば、主軸の加減速の頻度、回転数、切削負荷、切削時間)を抽出して熱変位補正装置20に出力してもよい。また、回転数や切削時間等に関して、制御装置30は、主軸モータ37及び/又は送り軸モータ39からリアルタイムに得られた情報を熱変位補正装置20に出力してもよい。
また、制御装置30には、計測データを取得するため、工作機械35に取り付けるセンサを接続する端子が複数存在する。センサのケーブルをこの端子から抜き差しすることにより、制御装置30に接続されるセンサを加えたり、取り外したり、センサの場所を変更したりすることが可能である。また、工作機械35に設置されるセンサの配置を変更することも可能である。なお、センサの配置変更は、工作機械35の設置場所から取りはずし、設置変更場所に当該センサを加える態様として扱うことができる。
【0032】
機械学習装置10は、
図2に示すように、教師あり機械学習により、工作機械35における熱変位量予測計算式を学習する。そのため、機械学習装置10は、計測データ取得部11、熱変位量取得部12、記憶部13及び計算式学習部14を備えている。
【0033】
計測データ取得部11は、制御装置30から計測データ群を取得する。ここで、計測データとは、温度センサにより計測された、工作機械35の機械要素とその周辺の温度データを含んでもよい。さらに計測データは、工作機械35の機械要素の動作状態データ、具体的には、例えば、工作機械35の主軸の回転速度や、主軸へのクーラント流量、主軸軸受への潤滑油量等の、温度センサを貼り付けられない箇所の物性値を含んでもよい。
【0034】
熱変位量取得部12は、例えばプローブによって検出される、工作機械35の機械要素の熱変位量の実測値を取得する。
【0035】
記憶部13は、計測データ取得部11によって取得された計測データ群を入力データとし、熱変位量取得部12によって取得された機械要素の熱変位量の実測値をラベルとして、互いに関連付けて教師データとして記憶する。
【0036】
計算式学習部14は、計測データ群と、機械要素の熱変位量の実測値とに基づいて機械学習を行うことで、機械要素の熱変位量を計測データ群に基づいて算出する熱変位量予測計算式を設定する。
より具体的には、計測データ群内に独立変数が複数存在するため、一般化線形モデルの重回帰により、計算式学習部14は、求めるべき熱変位量予測計算式に、記憶部13に教師データとして記憶された所定期間内における計測データ群を代入して算出される機械要素の熱変位量の推定値と、記憶部13にラベルとして記憶された所定期間内における機械要素の熱変位量の実測値との差異に基づいて、例えば最小二乗法等により差異が最小となるように、熱変位量予測計算式を設定する。
なお、計算式学習部14は、具体的には、計測データ(入力データ)をX1,X2,・・・Xnとし、工作機械を構成する主軸、ベッド、コラム等の構成要素の各々について、熱変位量の予測値をf(X1,X2,・・・,Xn)(nは自然数)、熱変位量の実測値をYLとした際、f(X1,X2,・・・,Xn)とYLとの差異が最小となるような熱変位量予測計算式を設定する。
【0037】
熱変位補正装置20は、
図2に示すように、補正量算出手段としての補正量算出部22と、補正実行手段としての補正部24とを備える。
補正量算出部22は、機械学習装置10により設定された熱変位量予測計算式に基づいて、計測データ群(判定データ)から算出される機械要素の熱変位量に対応する補正量を算出する。
補正部24は、補正量算出部22によって算出された機械要素の補正量に基づき、機械要素の機械位置を補正する。又は、補正部24は、この機械要素の補正量を制御装置30に送信する。より具体的には、補正部24は、
図3に示すように、この機械要素の補正量を用いて、制御装置30のプログラム読取解釈部32から出力される切削加工の条件を補正した上で、モータ制御部33に位置指令データを出力する。
【0038】
<機械学習時の動作>
次に、本実施形態に係る熱変位補正システム100における機械学習時の動作について説明する。
図4は、この機械学習時の機械学習装置10の動作を示すフローチャートである。
【0039】
ステップS11において、機械学習装置10の計測データ取得部11は、制御装置30から計測データ群を取得する。より具体的には、計測データ取得部11は、工作機械35の機械要素とその周辺の温度データ、及び/又は、動作状態データを取得する。動作状態データとしては、例えば、主軸の回転速度や、クーラント流量、及び潤滑油流量を含むようにしてもよい。
なお、例えば、計測データとして、温度自体のデータではなく、温度変化量のデータを取得してもよい。さらに、温度変化量のデータとして、初期温度からの温度変化量のデータを取得してもよく、前回測定された温度から今回測定された温度までの温度変化量のデータを取得してもよい。
また、動作状態データとして、クーラントによる吸熱量、潤滑油吸熱量を含むようにしてもよい。
【0040】
ステップS12において、機械学習装置10の熱変位量取得部12は、例えばプローブによって検出される、工作機械35の機械要素の熱変位量の実測値を取得する。具体的には、例えば、熱変位量のX、Y、Z軸方向成分を測定し、それらの測定値の組を実測値としてもよい。
【0041】
ステップS13において、機械学習装置10の記憶部13は、計測データ取得部11によって取得された計測データ群を入力データとし、熱変位量取得部12によって取得された機械要素の熱変位量の実測値をラベルとして、互いに関連付けた組とし、教師データとして記憶する。
【0042】
ステップS14において、機械学習装置10の計算式学習部14は、この教師データに基づいて機械学習を実行する。機械学習の具体的な手法の例については、後述する。
【0043】
ステップS15において、機械学習装置10の計算式学習部14は、機械学習を終了するか、それとも機械学習を繰り返すかを判定する。ここで、機械学習を終了させる条件は任意に定めることができる。ここで、機械学習を終了する場合(S15:YES)には、処理はステップS16に移行する。機械学習を繰り返す場合(S15:NO)には、処理は、ステップS11に戻り、同じ処理を繰り返す。
【0044】
ステップS16において、機械学習装置10は、その時点までの機械学習により設定した熱変位量予測計算式をネットワーク40経由で各熱変位補正装置20に送信する。
【0045】
また、機械学習装置10の記憶部13は、この熱変位量予測計算式を記憶する。これにより、新たに設置された熱変位補正装置20から熱変位量予測計算式を要求された場合には、その熱変位補正装置20に熱変位量予測計算式を送信することができる。また、新たな教師データを取得した場合には、更なる機械学習を行うこともできる。
【0046】
<機械学習の方法の例>
上記のように、
図4のステップS14において、計算式学習部14は、教師データを用いて機械学習を実施するが、その方法の例について詳述する。
【0047】
第1の手法として、一般化線形モデルの重回帰に基づき、熱変位量予測計算式Y=a1X1+a2X2+・・・anXnによって算出される熱変位量の推定値と、熱変位量の実測値との二乗誤差が最小となる係数を、最小二乗法を用いた機械学習により、推論して設定することが可能である。ここで、Yは熱変位量推定値、X1、X2・・・Xnは各計測データ値、a1、a2・・・anは重回帰により決定される係数である。
具体的には、計測データをXk、ラベルをYLとしたとき、
【0048】
【数1】
を、複数の教師データに渡って合計した値が最小となるような係数akの組を求める。なお、kは自然数、nは任意の整数であり、k≦nである。
【0049】
第1の手法において、通常の重回帰分析ではなく、L2正則化項を考慮した重回帰分析を実施することが可能である。すなわち、熱変位量予測計算式Y=a1X1+a2X2+・・・anXnによって算出される熱変位量の推定値と、熱変位量の実測値との二乗誤差に、L2正則化項を加算した値が最小となる係数を、機械学習により推論して設定することが可能である。ここで、上記と同様に、Yは熱変位量推定値、X1、X2・・・Xnは各計測データ値、a1、a2・・・anはL2正則化項を考慮した重回帰により決定される係数である。
具体的には、計測データをXk、ラベルをYLとしたとき、
【0050】
【数2】
を、複数の教師データに渡って合計した値が最小となるような係数akの組を求める。なお、nは自然数であり、学習に使用する教師データの測定点数を意味する。また、λはハイパーパラメータであり、機械学習を行う前に、予め設定されるパラメータである。
【0051】
また、第1の手法において、スパース正則化を実施することが可能である。例えばL1正則化項を考慮した重回帰分析を実施することが可能である。具体的には、計測データをXk、ラベルをYLとしたとき、
【0052】
【数3】
を、複数の教師データに渡って合計した値が最小となるような係数akの組を求める。なお、nは自然数であり、学習に使用する教師データの測定点数を意味する。また、λはハイパーパラメータであり、機械学習を行う前に、予め設定されるパラメータである。λを大きく設定するほど、akにおいて0となる項の数が増加する効果がある。
【0053】
正則化の例としてL2正則化とL1正則化を用いたが、これは一例であって、これには限定されない。
【0054】
第1の手法において、上記の機械学習を実行する際の入力データとして、計測データの1次遅れ要素や、計測データの時間シフト要素を用いることも可能である。具体的には、時刻tにおける熱変位量の推定値をY(t)、時刻tにおけるセンサXkの測定値をXk(t)とした場合、計測データの1次遅れ要素を用いた熱変位量予測計算式は、
【0055】
【数4】
となり、機械学習により、係数ak、bk、Tkを求める。なお、ΔtkはセンサXkの測定値のサンプリングタイムである。
【0056】
また、時刻tにおける熱変位量の推定値をY(t)、時刻tにおけるセンサXkの測定値をXk(t)とした場合、計測データの時間シフト要素を用いた熱変位量予測式は、
【0057】
【数5】
となり、機械学習により、係数akτ、Tkを求める。なお、ΔtkはセンサXkの測定値のサンプリングタイムである。
【0058】
また、計測データの1次遅れ要素や計測データの時間シフト要素を用いた上で、L1正則化項やL2正則化項といった各種正則化項を付加した学習を行っても良い。この場合、ak、akτ、bk、Tk等の各種パラメータに対する正則化項を付加することになる。
【0059】
第2の手法として、周知のニューラルネットワークによる機械学習を実施することが可能である。
例えば、
図5に示すような単層のニューラルネットワークを用いることが可能である。
図5においては、温度データA、温度データB、温度データC、動作状態データAを元に主軸熱変位量推定値を求め、温度データB、温度データD、動作状態データBを元に送り軸熱変位量推定値を求めているが、これは一例であって、これには限定されない。
【0060】
また、
図6A及び
図6Bに示すような多層のニューラルネットワークを用いることも可能である。とりわけ、
図6Aに記載されるような、中間層の出力が、同時に中間層の入力となるようなリカレントニューラルネットワークや、
図6Bに記載されるような、所定時間分の過去から現在までの履歴データ、例えば、温度データAt、温度データAt−1、温度データAt−2が同時に入力値となるような、タイムディレイ型のフィードフォワードニューラルネットワーク等を用いることが有効である。
また、ニューラルネットワークの入力データとして、前述した計測データの時間シフト要素(計測データの1次遅れ要素、及び/又は、計測データの時間シフト要素)を用いるようにしてもよい。
また、ニューラルネットワークの学習を行う際に、例えばL2正則化項のような各種正則化項を付加した学習を行っても良い。
なお、
図6A及び
図6Bには中間層は1層のみしか記載されていないが、これには限定されず、任意の数の中間層を設定することが可能である。また、
図6Aでは、温度データA、温度データB、動作状態データAを入力とし、主軸熱変位量推定値、送り軸熱変位量推定値を出力しているが、これは一例であって、これには限定されない。また、
図6Bでは、温度データAt、温度データAt−1、温度データAt−2を入力とし、主軸熱変位量推定値、送り軸熱変位量推定値を出力しているが、これは一例であって、これには限定されない。
【0061】
<補正時の動作>
次に、本実施形態に係る熱変位補正システム100における補正時の動作について説明する。
図7は、この補正時の熱変位補正装置20の動作を示すフローチャートである。
【0062】
ステップS21において、補正量算出部22は、機械学習装置10により設定された熱変位量予測計算式に基づいて、計測データ群から算出される機械要素の熱変位量に対応する補正量を算出する。
【0063】
ステップS22において、補正部24は、補正量算出部22によって算出された前記機械要素の補正量に基づき、前記機械要素の機械位置を補正することにより、熱変位量を相殺補償する。
なお、
図7の記載とは異なるが、ステップS22において、補正部24は、この機械要素の補正量を制御装置30に送信してもよい。より具体的には、補正部24は、この機械要素の補正量を用いて、制御装置30のプログラム読取解釈部32から出力される座標位置を補正してモータ制御部33に位置指令データを出力してもよく、この補正量を用いて予め加工プログラム31を補正した上で、加工プログラム31を実行してもよい。
【0064】
<第1実施形態が奏する効果>
上記のように、本実施形態では、機械学習装置10において、熱膨張する機械要素を有する工作機械35の機械要素とその周辺の温度データ及び/又は機械要素の動作状態データを含む計測データ群に基づいて、機械要素の熱変位量を推定する熱変位量予測計算式を機械学習によって最適化することができる。
【0065】
また、計測データを取得する各点の温度変化は熱伝導による遅れがかかり、その上で熱変位に反映されるため、遅れを考慮できる機械学習手法は有効である。
【0066】
また、工作機械35の動作環境や工作機械35の種別に応じて、熱変位量予測計算式、熱変位量予測計算式に基づく補正式をチューニングし精度を向上することが可能となる。
【0067】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。
図8は、本実施形態に係る機械学習装置の詳細を示すブロック図である。
図9は、本実施形態に係る機械学習装置における寄与度判定時の動作を示すフローチャートである。
図10は、本実施形態に係る機械学習装置における最適化計測データ群選択の動作を示すフローチャートである。
【0068】
<熱変位補正システム100Aの構成>
第2実施形態に係る熱変位補正システム100Aは、第1実施形態に係る熱変位補正システム100に比較して、第2実施形態に係る機械学習装置10Aの構成要素は、
図8に示すように、第1実施形態に係る機械学習装置10の構成要素に加えて、寄与度判定部15及び最適化計測データ選定部16が追加される点で異なる。その他の構成については、上述した第1実施形態と基本的に同一であるので、同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0069】
寄与度判定部15は、計測データ群に含まれる各計測データの熱変位量の予測に対する寄与度を判定する。
より具体的には、寄与度判定部15は、寄与度算出対象の計測データを含む第1の計測データ群に基づく機械学習により設定される第1熱変位量予測計算式により算出される第1熱変位量予測値と熱変位量実測値との誤差である第1誤差(絶対値)と、寄与度算出対象の計測データを除く第2の計測データ群に基づく機械学習により設定される第2熱変位量予測計算式により算出される第2熱変位量予測値と熱変位量実測値との誤差である第2誤差(絶対値)との差異に基づいて、寄与度算出対象の計測データの寄与度を判定する。具体的には、第1誤差と第2誤差との差異が大きいほど、寄与度算出対象の計測データの寄与度は大きいと判定することができる。
なお、第1誤差と第2誤差との差異の判定に際しては、複数の教師データ集合に対応する第1誤差の集合及び第2誤差の集合に基づいて判定することが好ましい。この場合、例えば第1誤差と第2誤差との差異の平均値、又は最大値等を用いることができる。
【0070】
最適化計測データ選定部16は、現在取得している計測データ群のうち、例えば、寄与度の小さい計測データを除く、予め設定された数の計測データの組み合わせからなる最適化計測データ群を選択する。なお、ここで「計測データ数」とは、例えば計測データを計測するセンサ毎に異なる、計測データの種類数を意味する。
より具体的には、最適化計測データ選定部16は、現在取得している計測データ群から、寄与度判定部15により判定される寄与度の一番少ない計測データを外した計測データ群を、第1番目の計測データ群として選択する。次に、最適化計測データ選定部16は、第i(1≦i)番目の計測データ群から、寄与度判定部15により判定される寄与度の一番少ない計測データを外した計測データ群を、第(i+1)番目の計測データ群として選択することを繰り返し行うことで、予め設定された数の計測データからなる最適化計測データ群を選択する。なお、ここでiとは自然数である。
【0071】
<寄与度判定時の動作>
次に、機械学習装置10Aにおける、計測データ群に含まれる計測データの寄与度を判定する動作について説明する。
図9は、この寄与度判定時の機械学習装置10Aの動作を示すフローチャートである。
【0072】
ステップS31において、計算式学習部14は、
図4に記載のフローに従い、全ての計測データを含む第1の計測データ群及び熱変位量実測値に基づいて第1熱変位量予測計算式を設定する。
【0073】
ステップS32において、寄与度判定部15は、第1熱変位量予測計算式を用いて、第1熱変位量予測値を算出する。
【0074】
ステップS33において、寄与度判定部15は、第1熱変位量予測値と熱変位量実測値との誤差である第1誤差(絶対値)を算出する。
【0075】
ステップS34において、計算式学習部14は、
図4に記載のフローに従い、寄与度算出対象の計測データを除く第2の計測データ群及び熱変位量実測値に基づいて第2熱変位量予測計算式を設定する。
【0076】
ステップS35において、寄与度判定部15は、第2熱変位量予測計算式を用いて、第2熱変位量予測値を算出する。
【0077】
ステップS36において、寄与度判定部15は、第2熱変位量予測値と熱変位量実測値との誤差である第2誤差(絶対値)を算出する。
【0078】
なお、ステップS31〜S36は、
図9に記載のように並行して実行してもよく、あるいは、連続的に実行してもよい。
【0079】
ステップS37において、寄与度判定部15は、第1誤差と第2誤差との差異に基づいて、寄与度算出対象の計測データの寄与度を判定する。具体的には、この差異が大きいほど、寄与度算出対象の計測データの寄与度は大きくなると判定することができる。
【0080】
<最適化計測データ群選択時の動作>
次に、機械学習装置10Aにおける、寄与度の小さい計測データを外して所定の数の計測データを含む最適化計測データ群選択時の動作について説明する。
図10は、この寄与度判定時の機械学習装置10Aの動作を示すフローチャートである。
【0081】
ステップS41において、最適化計測データ選定部16は、最終的に使用する計測データの数を設定する。なお、最終的に使用する計測データの数は、当所の計測データ数未満であるものとする。
【0082】
ステップS42において、寄与度判定部15は、
図9に記載のフローに従い、現在取得している計測データ群を構成する各計測データの寄与度を判定する。
【0083】
ステップS43において、最適化計測データ選定部16は、現在取得している計測データ群から、最も寄与度が小さい計測データを外した上で、この計測データ群を「1番目の計測データ群」とする。
【0084】
ステップS44において、最適化計測データ選定部16は、初期値としてi=1を設定する。
【0085】
ステップS45において、最適化計測データ選定部16は、i番目の計測データ群を選択する。
【0086】
ステップS46において、寄与度判定部15は、
図9に記載のフローに従い、i番目の計測データ群を構成する各計測データの寄与度を判定する。
【0087】
ステップS47において、最適化計測データ選定部16は、i番目の計測データ群から、最も寄与度が小さい計測データを外した上で、この計測データ群を「i+1番目の計測データ群」とする。
【0088】
ステップS48において、最適化計測データ選定部16は、「i+1番目の計測データ群」中の計測データ数が、ステップS41において設定した計測データ数に等しいか判定する。計測データ数が当初の設定数と等しい場合(S48:YES)には、処理を終了する。すなわち、ステップS48の処理を終了した時点での「i+1番目の計測データ群」が、最適化された計測データ群となる。計測データ数が当初の設定数と等しくない場合(S48:NO)には、処理はステップS47に移行する。
【0089】
ステップS47において、最適化計測データ選定部16は、iを1インクリメントする。その後、処理はステップS45に戻る。
【0090】
<第2実施形態が奏する効果>
上記のように、第2実施形態では、第1実施形態が奏する効果に加えて、貢献度の小さな計測データを計測データ群から外すことにより、計測データ群をスリム化することが可能となる。
【0091】
さらに、上記のように、制御装置30の端子に接続されたセンサは取り外し可能であるため、精度向上への寄与が小さいセンサを外したり、センサの位置を変更したりすることにより、少ないセンサで高精度な補正をすることが可能となる。また、センサの削減は、コストカットや保守の容易性に繋がる。とりわけ、あらかじめ大量のセンサを設置して計測データを取得した上で、機械学習による自動解析で寄与度を算出し、寄与が小さいセンサを削除することにより、少ないセンサで高精度な補正をすることが可能となる。
【0092】
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態を図面に基づいて説明する。
図11は、本実施形態に係る機械学習装置の詳細を示すブロック図である。
図12は、本実施形態に係る機械学習装置における精度向上に貢献しない計測データの検出時の動作を示すフローチャートである。
【0093】
<熱変位補正システム100Bの構成>
第3実施形態に係る熱変位補正システム100Bは、第1実施形態に係る熱変位補正システム100に比較して、機械学習装置10Bの構成要素は、
図8に示すように、機械学習装置10の構成要素に加えて、検出部17が追加される。その他の構成については、上述した第1実施形態と基本的に同一であるので、同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。第3実施形態は、スパース正則化学習を利用することにより精度向上に寄与しない計測データを検出するものである。
【0094】
検出部17は、スパース正則化学習により設定される熱変位量予測式に基づいて、熱変位量予測の精度向上に貢献しない計測データを検出する。
【0095】
<検出時の動作>
次に、機械学習装置10Bにおける、計測データ群に含まれる計測データの寄与度を判定する動作について説明する。
図12は、この寄与度判定時の機械学習装置10Bの動作を示すフローチャートである。
【0096】
ステップS51において、機械学習装置10Bの計測データ取得部11は、制御装置30から計測データ群を取得する。より具体的には、計測データ取得部11は、工作機械35の機械要素とその周辺の温度データ、及び/又は、工作機械35の動作状態データを取得する。
【0097】
ステップS52において、機械学習装置10Bの熱変位量取得部12は、例えば渦電流センサによって検出される、工作機械35の機械要素の熱変位量の実測値を取得する。具体的には、例えば、熱変位量のX、Y、Z軸方向成分を測定し、それらの測定値の組を実測値としてもよい。
【0098】
ステップS53において、機械学習装置10Bの記憶部13は、計測データ取得部11によって取得された計測データ群を入力データとし、熱変位量取得部12によって取得された機械要素の熱変位量の実測値をラベルとして、互いに関連付けた組とし、教師データとして記憶する。
【0099】
ステップS54において、機械学習装置10の計算式学習部14は、この教師データを用いたスパース正則化による機械学習をする。
【0100】
ステップS55において係数ak=0となるような計測データXkを検出する。こうすることで、検出部17は、スパース正則化学習により設定される熱変位量予測式に基づいて、熱変位量予測の精度向上に貢献しない計測データを検出する。
【0101】
なお、第2実施形態である機械学習装置10Aにおいて、寄与度判定部15に代えて、検出部17を使用し、最適化計測データ選定部16と組み合わせることで、計測データ群を最適化することも可能である。より具体的には、検出部17が、係数ak=0となるような、熱変位量予測の精度向上に貢献しない計測データを検出し、最適化計測データ選定部16が、現在取得している計測データ群から、熱変位量予測の精度向上に貢献しない計測データを外すことにより、スリム化された計測データ群を選定することが可能となる。
【0102】
<第3実施形態が奏する効果>
上記のように、第3実施形態では、第2実施形態が奏する効果と同様の効果を奏することが可能となる。
【0103】
[その他の実施形態]
上述した実施形態は、本発明の好適な実施形態ではあるが、上記実施形態に本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【0104】
[変形例1]
上記の実施形態においては、一般化線形モデルの重回帰に基づき、熱変位量予測計算式を多項式としたが、これには限定されず、非線形モデルの重回帰に基づくものとしてもよい。
【0105】
[変形例2]
また、上記の実施形態においては、計測データを削除することにより計測データ群を最適化する技術について記載したが、これには限定されず、計測データを追加することにより計測データ群を最適化してもよい。具体的には、機械学習の結果設定された熱変位量予測計算式の精度が、閾値未満である場合には、計測データを追加してもよい。さらに、ある計測データを削除した上で、別の計測データを追加してもよい。
とりわけ、工作機械の保守員やエンドユーザの側でセンサを追加した際、熱変位量予測計算式に基づく補正式の自動チューニングにより、熱変位補正の精度が向上する。
また、例えば熱変位補正の精度を向上させるために、例えば温度センサの配置位置を変えて得られる計測データ群による機械学習を行うようにしてもよい。この場合も、配置換えした後に得られる熱変位予測式により算出される熱変位量予測値と熱変位量実測値との誤差と、配置換えをする前の計測データ群による機械学習に基づいて得られた熱変位補正式により算出される熱変位量予測値と熱変位量実測値との誤差と、の差異を評価することで、精度が向上しているかどうかを判定することができる。
【0106】
また、上記の実施形態では、工作機械35を切削機械としたがこれには限定されない。工作機械35は、例えば、ワイヤ放電加工機や、レーザ加工機であってもよい。
【0107】
[変形例4]
また、制御装置30が熱変位補正装置20を備えるように構成してもよい。
あるいは、制御装置30が機械学習装置10,10A,10Bを備えるように構成してもよい。
【0108】
[変形例5]
上記の実施形態における機械学習装置10,10A,10Bは、CPUを備えるコンピュータシステムとしてもよい。その場合には、CPUは、例えばROM等の記憶部に格納されたプログラムを読み出し、このプログラムに従ってコンピュータを計測データ取得部11、熱変位量取得部12、記憶部13、計算式学習部14、寄与度判定部15、最適化計測データ選定部16、検出部17として実行させる。