【実施例】
【0033】
図1において、10は本発明の実施例1に係る家畜糞尿排水の浄化方法が適用される家家畜糞尿処理システムで、この家畜糞尿処理システム10は、主に、原水貯留槽11と、反応槽12と、貝殻微粉末水供給槽13と、脱水機14と、懸濁液凝集槽15と、無機系凝集剤供給槽16と、高分子系凝集剤供給槽17と、振動篩機(スクリーン)18とを備えている。
【0034】
このうち、原水貯留槽11は、畜舎19から排出された牛や豚などの家畜の糞尿を含む家畜糞尿混合排水(原水)20を一定期間貯留する容器である。
反応槽12は、第1のスラリーポンプ21および第1のパイプ22を介して、原水貯留槽11の底部から圧送された家畜糞尿混合排水20と、第2のパイプ23を介して、貝殻微粉末水供給槽13から添加された所定量の貝殻微粉末水溶液24とを貯留するとともに、貯留されたこれらを攪拌する第1の撹拌機25を搭載した沈降分離用の容器である。
【0035】
貝殻微粉末水溶液24とは、主成分が炭酸カルシウム(CaCO
3)の生の牡蠣殻(貝殻)を高温(600℃〜1,000℃)で加熱して、炭酸カルシウムの一部を酸化カルシウム(CaO
2)とし、これを湿式粉砕したものである。
牡蠣殻の微粉末である貝殻微粉末50のサイズは、レーザー回折・散乱法により測定する体積基準の粒度分布において、0.1μm〜1.0μmの粒子の積算分布が60%以上のものである。
なお、貝殻微粉末水供給槽13には、貝殻微粉末水溶液24の均質性を維持するために、この水溶液24を攪拌する第2の撹拌機26が搭載されている。なお、第1,2の撹拌機25,26は、いずれも電動モータMにより攪拌羽根Fの回転軸Sを所定速度で回転させる回転羽根式のものである(後述する第3の撹拌機も同じ)。
【0036】
脱水機14は、第3のパイプ27を介して、反応槽12の底部と原料供給部が連結されて、反応槽12の下部に溜まった沈殿汚泥28を加圧脱水する装置である。脱水汚泥は、脱水機14から取り出されて再利用され、脱水により発生した排水は排水パイプ29から外部排出される。排水パイプ29の途中部には、排水の一部又は全部を反応槽12に戻すために、先端が反応槽12の上部空間に配されたバイパス管30の基端部が連結されている。
【0037】
懸濁液凝集槽15は、第2のスラリーポンプ31および第4のパイプ32を介して、反応槽12の底部付近から圧送された微粉貝殻懸濁液33と、無機系凝集剤供給槽16から添加された無機系凝集剤34と、高分子系凝集剤供給槽17から添加された高分子凝集剤35とを貯留するとともに、貯留されたこれらを攪拌する第3の撹拌機36を搭載した、粗大固形分の生成容器である。
振動篩機18は、懸濁液凝集槽15の底部に連結された処理水排出パイプ37から取り出された粗大固形分38を含む凝集剤添加処理水39を、図示しないバイブレータにより振動する篩にかけることで、粗大固形分38と清澄水aとにふるい分ける装置である。網面に残った粗大固形分38は、取り出されて外部排出され、また網下の清澄水aは、清澄水a排出パイプ40を通って河川又は海へ放流される。
【0038】
次に、
図3のフローシートを参照して、この家畜糞尿処理システム10を利用した家畜糞尿排水の浄化方法を説明する。
図2に示すように、この家畜糞尿排水の浄化方法は、順に施される貝殻微粉末添加・攪拌工程Aと、汚泥・懸濁液沈降分離工程Bと、凝集剤添加工程Cと、粗大固形分スクリーン除去工程Dとを備えている。
【0039】
以下、これらの工程を具体的に説明する。
貝殻微粉末添加・攪拌工程Aでは、まず、第1のスラリーポンプ21および第1のパイプ22を介して、原水貯留槽11の底部から家畜糞尿混合排水20を反応槽12に圧送して貯留する一方、貝殻微粉末水供給槽13からは、第2のパイプ23を介して、所定量の貝殻微粉末水溶液24を反応槽12に投下する。その後、これらの液体20,24は、第1の撹拌機25を使用して所定の時間だけ攪拌されることで、均一に混合される。
これにより、推測ではあるものの、家畜糞尿混合排水20に含まれた有機物質X等(少なくとも有機物質)が、多孔質の貝殻微粉末50の表面に吸着し、かつ各細孔50aに捕獲される(
図3を参照)。
また、貝殻微粉末水溶液24が均一に混合された家畜糞尿混合排水20のPH値は、PH9〜PH10に調整されている。このように、貝殻微粉末水溶液24は強アルカリ性を有しているため、これを家畜糞尿混合排水20と攪拌混合した際に、家畜糞尿混合排水20に含まれた大腸菌等を殺菌することができる。
【0040】
次に、汚泥・懸濁液沈降分離工程Bでは、攪拌によってヘドロ状となった家畜糞尿混合排水20と貝殻微粉末水溶液24との混合液体を、反応槽12内で所定時間だけ静置する。これにより、反応槽12の底部に、家畜糞尿混合排水20に含まれた糞等からなる沈殿汚泥28が沈下する。一方、沈殿汚泥28の上には、微粉貝殻懸濁液33が現出する。ここでいう微粉貝殻懸濁液33とは、家畜糞尿混合排水20に含まれる有機物質X等を捕獲した多量の貝殻微粉末50が、水中で浮遊するコロイド状の液体である。
このうち、沈殿汚泥28は、後に第3のパイプ27を介して、反応槽12の底部から脱水機14に移送され、ここで加圧脱水されて脱水汚泥と排水とに分離される。脱水汚泥は脱水機14から取り出され、汚泥として処理される。一方、排水は排水パイプ29により外部に排出されるものの、これをバイパス管30により反応槽12に戻してもよい。こうすれば、その後の排水の無害化処理等が不要となる。
【0041】
次に、凝集剤添加工程Cでは、まず、反応槽12の底部付近から、第2のスラリーポンプ31および第4のパイプ32を介して、微粉貝殻懸濁液33を懸濁液凝集槽15に圧送する。
次いで、第5のパイプ41を介して、無機系凝集剤供給槽16から所定量の無機系凝集剤(ポリ塩化アルミニウムなど)34を、微粉貝殻懸濁液33に所定量だけ添加し、その後、第3の撹拌機36を使用してこれらを所定時間攪拌することで、1回目の凝集を行う。
【0042】
次に、第6のパイプ42を介して、高分子系凝集剤供給槽17から所定量の高分子系凝集剤(ポリアクリルアミドなど)35を、1回目の凝集が完了したものに添加し、その後、同様に第3の撹拌機36によりこれらを所定時間攪拌する。この2回目の撹拌により固形分が成長して粗大化し、粗大固形分38が生成される。このようにして、有機物質X等をトラップした貝殻微粉末50を含む粗大固形分38を得ることで、粗大固形分スクリーン除去工程Dにおいて、汎用の振動篩機18を利用した、自重による粗大固形分(有機物質X等)38の除去が可能となる。
【0043】
このとき、強アルカリである微粉貝殻懸濁液33に対する各凝集剤34,35の添加により、得られた粗大固形分38を含む凝集剤添加処理水39の水素イオン濃度はほぼ中性域となり、河川又は海へと放流可能な水質基準を満たす。
なお、ここでいう粗大固形分38とは、家畜糞尿混合排水20に含まれる有機物質X等を捕獲した貝殻微粉末50が、各凝集剤34,35の凝集作用によってかたまり状となったものである。
【0044】
次いで、粗大固形分スクリーン除去工程Dでは、処理水排出パイプ37を介して、懸濁液凝集槽15の底部から粗大固形分38を含む凝集剤添加処理水39が振動篩機18に移送される。ここでは、プレス等による加圧、バキューム等による負圧といった粗大固形分38が壊れやすくなる外圧をかけずに、バイブレータで振動する目開き0.1〜2.0mmの篩に、凝集剤添加処理水39を通して(供給して)ふるい分ける。これにより、凝集剤添加処理水39から粗大固形分38が除去されて、清澄水aが得られる。
【0045】
このように、予め有機物質X等を捕獲した貝殻微粉末50を含む粗大固形分38を生成させ、その後、得られた粗大固形分38を、外圧をかけずにふるい分けによって分離・除去するようにしたため、水質汚濁防止法の排出基準を満たす清澄水aが、活性汚泥などの追加処理を行うことなく、簡便かつ効率的に得ることができる。その結果、例えば、設備コストおよび運転コスト面で有利な小規模の処理設備を利用する中小畜産業者でも、本発明が適用された家畜糞尿排水の浄化システム10の採用が容易となる。
【0046】
なお、貝殻微粉末水溶液24の使用により、排水基準値の著しい改善がなされる理由については、詳細は不明であるものの、微細貝殻粉(貝殻微粉末50)の細孔構造に起因するものと思われる。代表的な貝殻微粉末水溶液に含まれる貝殻微粉末50の平均粒径(メジアン径)は、0.2〜0.4μmで、BET比表面積および細孔体積の測定値は、それぞれ40〜55m
2/gおよび0.3〜0.5cc/gであり、多孔質である。そのため、家畜糞尿混合排水20に溶解している微小な有機物質X等が、微粉貝殻懸濁液33の中で浮遊する貝殻微粉末50に吸着又はその細孔50a内にトラップされ、さらに、2種類の凝集剤34,35の添加によって微粉貝殻懸濁物が粗大化したものを分離除去することで、清澄水aが得られると考えられる。
【0047】
また、清澄水aの水素イオン濃度はほぼ中性域となり、PH値において水質基準を満たすため、清澄水排水パイプ40を介して河川又は海へと放流することができる。
さらに、貝殻微粉末50の原料である牡蠣殻(貝殻)は産業廃棄物であるため、この不要な貝殻を有効利用することもできる。
なお、分離された粗大固形分38は、汚泥として処理される。
【0048】
次に、表1を参照して、実施例1の家畜糞尿排水の浄化方法に則り、実際に試験(試験例、比較例)を実施した結果を報告する。なお、以下の試験例は、本発明の一例を示すものであって、本発明はこれに限定されるものではない。
表1中に記載された各測定項目の測定値の測定方法は、以下の通りである。
(1)水素イオン濃度:日本薬局方一般試験法のPH測定法
(2)生物化学的酸素要求量(BOD): JIS K 0102 21 隔膜電極法
(3)化学的酸素要求量(COD):JIS K 0102 17 過マンガン酸カリウム酸素消費量
(4)浮遊物質量(SS);JIS K0102 14.1
(5)窒素含有量;JIS K 0102 45.2 紫外線吸収法
(6)燐含有量;JIS K 012 46.1.1 モリブデン青吸光光度法
(7)大腸菌群数:デソキシコーレイト寒天平板培養方法
【0049】
(試験例1)
家畜糞尿混合排水(原水)20の1リットルを原水貯留槽11から反応槽12に圧送し、レーザー回折・散乱法により測定する体積基準の粒度分布において、0.1μm〜1.0μmの粒子の積算分布が100%(メジアン径0.2822μm)の貝殻微粉末50を、濃度88g/Lで含む貝殻微粉末水溶液24を、貝殻微粉末水供給槽13から0.160リットル(家畜糞尿混合排水20の100質量部に対して貝殻微粉末50の固形分換算で1.4質量部)を添加した。
【0050】
その後、この反応槽12において、家畜糞尿混合排水20と貝殻微粉末水溶液24との混合液を第1の撹拌機25により300rpmで30分間撹拌し、この混合液の均質化を促進させてPH9.2のヘドロ状の液体を得た。
次いで、第1の撹拌機25による攪拌を中止し、この状態でヘドロ状の液体を1時間静置した。これにより、反応槽12の底部に、固体成分である沈殿汚泥(下層)28が沈降し、この上に液体成分である微粉貝殻懸濁液(上層)33が現出した。
【0051】
その後、微粉貝殻懸濁液33を懸濁液凝集槽15に移送し、まず微粉貝殻懸濁液33に対して無機系凝集剤34のポリ塩化アルミニウムを固形分換算で0.9g添加して、これを第1の撹拌機25により300rpm、5分間撹拌した。次いで、攪拌を停止して、微粉貝殻懸濁液33に対してメタアクリレート系のカチオン高分子凝集剤35を固形分換算で0.1g添加した。その後、これを第1の撹拌機25により300rpmで3分間撹拌した。これにより、微粉貝殻懸濁液33中の固形分が粗大化した。
次いで、撹拌により生じた粗大固形分38を、目開き0.5mmの振動篩機18に通して分離除去し、得られた清澄水aについて、水素イオン濃度(PH)、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、遊物質量(SS)、窒素含有量、燐含有量、大腸菌群数をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。表1から明らかなように、これらの分析値は、水質汚濁防止法による排出基準に比べてはるかに低い数値であり、清澄水aのPHは、河川および海などへの放流が可能な8.2であった。
【0052】
【表1】
【0053】
(試験例2)
貝殻微粉末水溶液24として、レーザー回折・散乱法により測定する体積基準の粒度分布において、0.1μm〜1.0μmの粒子の積算分布が75.7%の貝殻微粉末50(メジアン径0.5262μm)を含むもの(微粉貝殻懸濁液33が発生)を採用したほかは、試験例1と同様にして、家畜糞尿混合排水20を浄化処理した。その結果は、表1に示す通りで、試験例1の場合と同じように、得られた分析値は、水質汚濁防止法による一律排出基準値を何れも下回っていた。
【0054】
(試験例3)
貝殻微粉末水溶液24として、レーザー回折・散乱法により測定する体積基準の粒度分布において、0.1μm〜1.0μmの粒子の積算分布が60.2%の貝殻微粉末(メジアン径0.7505μm)50を含むもの(微粉貝殻懸濁液33が発生)を採用したほかは、試験例1と同様にして、家畜糞尿混合排水20を浄化処理した。その結果を表1に示す。表1から明らかなように、清澄水aの各分析値は水質汚濁防止法による基準値を何れもクリアしていた。
【0055】
(比較例1)
貝殻微粉末水溶液24の代わりに、レーザー回折・散乱法により測定する体積基準の粒度分布において、0.1μm〜1.0μmの粒子の積算分布が52.2%の貝殻微粉末(メジアン径0.9050μm)50を含むもの(微粉貝殻懸濁液33は発生せず)を採用したほかは、実施例1と同様にして、家畜糞尿混合排水20を浄化処理した。その結果を表1に示す。表1から明らかなように、清澄水aの各分析値は、水素イオン濃度(PH値)およびSS値を除いて、環境省の一律排出基準を超過する結果が得られた。
【0056】
(比較例2)
貝殻微粉末水溶液24の代わりに、レーザー回折・散乱法により測定する体積基準の粒度分布において、0.1μm〜1.0μmの粒子の積算分布が37.5%の貝殻微粉末(メジアン径1.6093μm)50を含むもの(微粉貝殻懸濁液33は発生せず)を採用したほかは、実施例1と同様にして、家畜糞尿混合排水20の浄化処理を行った。その結果を表1に示す。表1から明らかなように、清澄水aの各分析値は、水素イオン濃度(PH値)を除いて、環境省の一律排出基準を超過する結果が得られた。
【0057】
(比較例3)
貝殻微粉末水溶液24の代わりに、レーザー回折・散乱法により測定する体積基準の粒度分布において、0.1μm〜1.0μmの粒子の積算分布が2.6%の貝殻微粉末(メジアン径9.7439μm)50を含むもの(微粉貝殻懸濁液33は発生せず)を採用したほかは、実施例1と同様にして、家畜糞尿混合排水20の浄化処理を行った。その結果を表1に示す。表1から明らかなように、清澄水aの各分析値は、水素イオン濃度(PH値)を除いて、環境省の一律排出基準を超過する結果が得られた。
【0058】
(比較例4)
貝殻微粉末水溶液24の代わりに、レーザー回折・散乱法により測定する体積基準の粒度分布において、0.1μm〜1.0μmの粒子の積算分布が0%の貝殻微粉末(メジアン径20μm)50を含むもの(微粉貝殻懸濁液33は発生せず)を採用したほかは、実施例1と同様にして、家畜糞尿混合排水20の浄化処理を行った。その結果を表1に示す。表1から明らかなように、清澄水aの各分析値は、水素イオン濃度(PH値)を除いて、環境省の一律排出基準を超過する結果が得られた。
【0059】
このように、家畜糞尿混合排水20の排出量、質は排泄する動物の種類、飼料の成分、さらには季節などによって変動するといわれているが、例えば豚の糞尿混合排水(原水)のBOD、SS値はそれぞれ2,500〜4,000mg/リットルおよび4,000〜5,000mg/リットルである。そのため、微粉貝殻懸濁液33が現出する浄化処理により得られた清澄水aの水質は、水質汚濁防止法の排出基準を十分にクリアしていることが示された。従って従来型の活性汚泥法などでの追加処理は不要であり、簡易で効率的な糞尿浄化法を確立することができた。