特許第6882453号(P6882453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6882453
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】全ゲノムデジタル増幅方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20210524BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20210524BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20210524BHJP
【FI】
   C12Q1/6844 Z
   C12Q1/686 Z
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】26
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2019-511849(P2019-511849)
(86)(22)【出願日】2016年8月31日
(65)【公表番号】特表2019-531714(P2019-531714A)
(43)【公表日】2019年11月7日
(86)【国際出願番号】CN2016097520
(87)【国際公開番号】WO2018039969
(87)【国際公開日】20180308
【審査請求日】2019年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】シエ、 シャオリャン サニー
(72)【発明者】
【氏名】シン、 トン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、 チ−ハン
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/200609(WO,A1)
【文献】 特表2018−527947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/68 −1/70
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムDNAをトランスポゾンDNAに結合しているトランスポザーゼの複数の二量体に接触させること、ここで前記トランスポゾンDNAは、トランスポザーゼ結合部位、任意に存在してもよいバーコード配列、及びプライマー結合部位を含み、前記複数の二量体は、二本鎖である前記ゲノムDNA上の標的部位に結合し、前記トランスポザーゼは、前記ゲノムDNAをゲノムDNA断片ライブラリーを表す複数の二本鎖ゲノムDNA断片に切断し、各二本鎖ゲノムDNA断片はそれぞれの5′末端に前記トランスポゾンDNAが結合している、
前記トランスポゾンDNAと前記二本鎖ゲノムDNA断片の間のギャップについてギャップフィリングを行って各末端にプライマー結合部位を有する二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物のライブラリーを形成すること、
油相内に複数の水性液滴のサブセットを作製すること、ここで前記サブセットの水性液滴はそれぞれ、前記ライブラリーの単一の二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物及び増幅試薬を含む、
前記サブセットの水性液滴それぞれについて、前記水性液滴内の前記二本鎖ゲノムDNA断片を増幅して前記二本鎖ゲノムDNA断片のアンプリコンを前記水性液滴内で作製すること、ここで前記サブセットの全ての水性液滴で増幅が起こる、及び
前記サブセットの前記水性液滴内から前記アンプリコンを収集すること
を含む、ゲノム核酸を増幅する方法。
【請求項2】
前記ゲノムDNAが単一の細胞から得られた全ゲノムDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記トランスポザーゼが、Tn5トランスポザーゼ、Muトランスポザーゼ、Tn7トランスポザーゼ、又はIS5トランスポザーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記トランスポゾンDNAはバーコード配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記トランスポゾンDNAはバーコード配列を含み、その5′末端に前記プライマー結合部位を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記トランスポゾンDNAは、二本鎖19bp Tnp結合部位及びオーバーハングを含み、前記オーバーハングは、その5′末端にバーコード配列及びプライマー結合部位を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ギャップフィリング及び前記二本鎖ゲノムDNA断片の伸長の前に、結合しているトランスポザーゼが前記二本鎖ゲノムDNA断片から除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記トランスポザーゼが、それぞれトランスポゾンDNAと複合体を形成したTn5トランスポザーゼであって、前記トランスポゾンDNAが二本鎖19bp Tnp結合部位及びオーバーハングを含み、前記オーバーハングがバーコード配列及びプライマー結合部位を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記サブセットの前記水性液滴内から収集された前記アンプリコンを配列決定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記サブセットの前記水性液滴内から収集された前記アンプリコン内の一塩基変異を検出するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記サブセットの前記水性液滴内から収集された前記アンプリコン内のコピー数変異を検出するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記サブセットの前記水性液滴内から収集された前記アンプリコン内の構造変異を検出するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ゲノムDNAが、出生前細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ゲノムDNAが、癌細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ゲノムDNAが、血中循環腫瘍細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記ゲノムDNAが、単一の出生前細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記ゲノムDNAが、単一の癌細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記ゲノムDNAが、単一の血中循環腫瘍細胞に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記ライブラリー内の二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物の存在数以上の液滴を作製するように、二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物の前記ライブラリー及び増幅試薬を含む適量の水性媒体を油と組み合わせることで前記油相内に前記複数の水性液滴が作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記ライブラリーの二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物の存在数以上の液滴を作製するように、二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物の前記ライブラリー及び増幅試薬を含む適量の水性媒体を油と組み合わせることで前記油相内に前記複数の水性液滴が作製され、前記複数の水性液滴は自然発生的に生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記ライブラリー内の二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物の存在数以上の液滴を作製するように、二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物の前記ライブラリー及び増幅試薬を含む適量の水性媒体を油と組み合わせることで前記油相内に前記複数の水性液滴が作製され、前記複数の水性液滴が前記油相及び前記水性媒体を激しく混合することによって作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記油相内の前記複数の水性液滴の前記サブセットが、マイクロ流体チップ内で前記油相及び水性媒体を組み合わせることで作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記サブセットの各水性液滴内における前記二本鎖ゲノムDNA断片の増幅が、マイクロ流体チップ内で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記プライマー結合部位が、特異的PCRプライマー結合部位である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記サブセットの全ての液滴内で起こる増幅が、特異的プライマー配列を使用したPCR増幅である、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
トランスポゾンDNAに結合しているトランスポザーゼの複数の二量体で水性媒体中のゲノムDNAを処理すること、ここで前記トランスポゾンDNAは、トランスポザーゼ結合部位及び特異的PCRプライマー結合部位を含み、前記複数の二量体は、二本鎖である前記ゲノムDNA上の標的部位に結合し、前記トランスポザーゼは、前記ゲノムDNAをゲノムDNA断片ライブラリーを表す複数の二本鎖ゲノムDNA断片に切断し、各二本鎖ゲノムDNA断片はそれぞれの5′末端に前記トランスポゾンDNAが結合している、
前記トランスポゾンDNAと前記二本鎖ゲノムDNA断片の間のギャップについてギャップフィリングを行って各末端に特異的PCRプライマー結合部位を有する二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物のライブラリーを形成すること、
前記水性媒体を油相内における多数の水性液滴へと分割すること、ここで水性液滴はそれぞれ、単一の二本鎖ゲノムDNA断片を含み、増幅試薬をさらに含む、
前記水性液滴のそれぞれについて、前記水性液滴内の前記二本鎖ゲノムDNA断片を増幅して前記二本鎖ゲノムDNA断片のアンプリコンを前記水性液滴内で作製すること、ここで全ての前記水性液滴で増幅が起こる、及び
前記水性液滴の解乳化によって前記水性液滴から前記アンプリコンを収集することを含む、ゲノム核酸を増幅する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府利益の説明
本発明は、米国国立衛生研究所による5DP1CA186693の国庫支援の下でなされた。米国政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【0002】
本発明の実施形態は、概して、単一細胞に由来するDNAなど、微量なDNAを、その遺伝子配列、特にその全ゲノムを決定するために増幅するための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
腫瘍増殖、幹細胞の初期化、胚発生などの、細胞間での差異及び集団における不均一性が重要な役割を果たす研究において、単一細胞ゲノム配列決定の実行する能力が重要となる。単一細胞ゲノム配列決定は、配列決定に供される細胞試料が貴重である、又は希少若しくは微量な場合にも重要となる。正確な単一細胞ゲノム配列決定にとって重要なことは、微量であり得るゲノムDNAの最初の増幅である。
【0004】
多置換増幅(multiple displacement amplification)(MDA)は、配列決定及び他の解析に先立ち、単一細胞由来のゲノムDNAに対し、当該技術分野において一般に使用される方法である。この方法では、ランダムプライマーのアニーリングの後に、強力な鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを利用した伸長が行われる。単一細胞由来の元のゲノムDNAはカスケード様式で指数関数的に増幅され、超分岐型のDNA構造が形成される。単一細胞由来のゲノムDNAを増幅する別の方法として、Zong,C.,Lu,S.,Chapman,A.R.,and Xie,X.S.(2012),Genome−wide detection of single−nucleotide and copy−number variations of a single human cell,Science 338,1622−1626に、多重アニーリング及びループ化による増幅サイクル法(Multiple Annealing and Looping−Based Amplification Cycles)(MALBAC)が記載されている。当該技術分野において知られている別の方法は、縮重オリゴヌクレオチドプライム化PCR又はDOP−PCRである。単一細胞ゲノムDNAに使用されるいくつかの他の方法としては、Cheung,V.G.and S.F.Nelson,Whole genome amplification using a degenerate oligonucleotide primer allows hundreds of genotypes to be performed on less than one nanogram of genomic DNA,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,1996.93(25):p.14676−9;Telenius,H., et al.,Degenerate oligonucleotide−primed PCR:general amplification of target DNA by a single degenerate primer,Genomics,1992.13(3):p.718−25;Zhang,L.,et al.,Whole genome amplification from a single cell: implications for genetic analysis. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,1992,89(13):p.5847−51;Lao,K.,N.L.Xu,and N.A.Straus,Whole genome amplification using single−primer PCR,Biotechnology Journal,2008,3(3):p.378−82;Dean,F.B.,et al.,Comprehensive human genome amplification using multiple displacement amplification,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2002.99(8):p.5261−6;Lage,J.M.,et al.,Whole genome analysis of genetic alterations in small DNA samples using hyperbranched strand displacement amplification and array−CGH,Genome Research,2003,13(2):p.294−307; Spits,C.,et al.,Optimization and evaluation of single−cell whole−genome multiple displacement amplification,Human Mutation,2006,27(5):p.496−503;Gole,J.,et al.,Massively parallel polymerase cloning and genome sequencing of single cells using nanoliter microwells,Nature Biotechnology,2013.31(12):p.1126−32;Jiang,Z.,et al.,Genome amplification of single sperm using multiple displacement amplification,Nucleic Acids Research,2005,33(10):p.e91;Wang,J.,et al.,Genome−wide Single−Cell Analysis of Recombination Activity and De Novo Mutation Rates in Human Sperm,Cell,2012.150(2):p.402−12;Ni,X.,Reproducible copy number variation patterns among single circulating tumor cells of lung cancer patients,PNAS,2013,110,21082−21088;Navin,N.,Tumor evolution inferred by single cell sequencing,Nature,2011,472(7341):90−94;Evrony,G.D.,et al.,Single−neuron sequencing analysis of l1 retrotransposition and somatic mutation in the human brain,Cell,2012.151(3):p.483−96;及びMcLean,J.S.,et al.,Genome of the pathogen Porphyromonas gingivalis recovered from a biofilm in a hospital sink using a high−throughput single−cell genomics platform,Genome Research,2013.23(5):p.867−77が挙げられる。全ゲノム増幅の態様に関する方法は、国際公開第2012/166425号、米国特許第7,718,403号、米国特許出願公開第2003/0108870号、及び米国特許第7,402,386号には、報告されている。
【0005】
しかしながら、単一細胞又は少数細胞などに由来する、少量のゲノムDNAの増幅法が、さらに求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、トランスポザーゼ系を使用して、プライマー結合部位を含むゲノムDNAの断片を作製すること、増幅試薬と共に各断片をそれ自身の水性微小液滴内に分離すること、それ自身の水性微小液滴内の各断片を増幅して前記微小液滴内の断片のアンプリコンを作製すること、及び各微小液滴から前記アンプリコンを収集し配列決定することを含む、ゲノムDNAの均一な増幅などの全ゲノム増幅など、ゲノムDNA増幅のための方法を提供する。ある態様によれば、本開示は、トランスポザーゼ系を使用して、水性媒体中でゲノムDNAの断片を作製すること、特異的PCRプライマー結合部位を各断片へ挿入又は結合させること、前記水性媒体を油中における多数の水性液滴へと分割すること、ここで液滴はそれぞれ、PCR試薬と共に単一のDNA断片を含むこと、各液滴内の飽和が起こるまで、PCRによって前記液滴内の各断片を増幅すること、全ての前記液滴の解乳化、すなわち解乳化剤を使用して前記液滴を溶解して、例えば、アンプリコンを回収又は収集すること、及び前記アンプリコンの配列決定を行うことを含む、ゲノムDNAの均一な増幅などの全ゲノム増幅など、ゲノムDNA増幅のための方法を提供する。
【0007】
ある態様によれば、トランスポザーゼ系を使用して、プライマー結合部位を含むゲノムDNAの断片を作製すること、PCR増幅試薬と共に各断片をそれ自身の水性微小液滴内に油中で分離すること、それ自身の水性微小液滴内の各断片を増幅すること、前記微小液滴を解乳化してアンプリコンを得ること、及び前記アンプリコンの配列決定をすることを含む、全ゲノム増幅などのゲノムDNA増幅のための方法が提供される。
【0008】
本開示の実施形態は、単一細胞由来、同一細胞型の複数の細胞由来、又は個体若しくは基質(substrate)から得られる組織試料、体液試料、若しくは血液試料由来の1つのゲノム配列若しくは複数のゲノム配列など、少量のゲノムDNA又は限られた量のDNAなどのDNAを増幅する方法に関する。本開示のある態様によれば、本明細書に記載の方法は、単一の反応混合物を含んだ単一のチューブ内で行うことができる。本開示のある態様によれば、核酸試料は、単一細胞由来の未精製又は未処理の溶解物内のものであってもよい。本明細書で開示される方法に供される核酸は、本明細書に記載される種々の条件下で種々の試薬との接触させる前に、カラム精製などによる精製を行う必要がない。本明細書に記載の方法は、ハイスループット配列決定のための増幅されたDNAを産生する、単一細胞のゲノム全体の十分且つ均一なカバレッジを提供することができる。
【0009】
本発明の実施形態は、概して、DNA断片、例えば単一細胞の全ゲノムからのDNA断片を作製するための方法及び組成物に関し、前記DNA断片は次に当業者に公知の増幅法に供されてもよい。ある態様によれば、トランスポソームの一部としてトランスポザーゼが使用され、一連の二本鎖ゲノムDNA断片が作製される。各々の二本鎖ゲノムDNA断片は、該二本鎖ゲノムDNA断片を増幅するために使用される試薬と共に、微小液滴などの液滴内に分離される。二本鎖ゲノムDNA断片は、例えば、PCR増幅などの当業者に公知の方法及び本明細書に記載の方法を使用して、液滴内で増幅される。したがって、各二本鎖ゲノムDNA断片が対応する液滴内に分離され、次に増幅されてアンプリコンが作製される方法が提供される。ある態様によれば、増幅反応が飽和する程度まで、前記液滴内の各断片が増幅される。各二本鎖ゲノムDNA断片が分離されて、飽和するまで増幅されるので、前記方法により、複数の二本鎖ゲノムDNA断片が同じ反応体積内で増幅される場合に生じ得る増幅バイアスが低減又は排除される。
【0010】
ある態様によれば、本明細書に記載の核酸断片作製法はトランスポザーゼを利用する。トランスポザーゼは、二本鎖トランスポザーゼ結合部位と、バーコード配列及びプライミング部位のうちの1又は複数を含む第一の核酸配列とを含むトランスポゾンDNAと複合体化されて、トランスポザーゼ/トランスポゾンDNA複合体を形成する。バーコード配列は、単一細胞又は細胞群を一意的に識別する核酸配列を含む。
【0011】
第一の核酸配列は一本鎖伸長物の形態であってもよい。ある態様によれば、トランスポザーゼは、反応器内又は反応容積内に置かれた場合など、トランスポゾンDNAに接触した場合、トランスポゾンDNAに結合して二量体化し、トランスポソームと称されるトランスポザーゼ/トランスポゾンDNA複合体二量体を形成する能力を有する。
【0012】
ある態様によれば、各トランスポソームは2つのトランスポザーゼ及び2つのトランスポゾンDNAを含む。トランスポゾンDNAは、トランスポザーゼ結合部位、任意に存在してもよいバーコード、及びプライマー結合部位を含む。ある態様によれば,トランスポゾンDNAは、単一のトランスポザーゼ結合部位、トランスポゾンDNAにバーコード、及びプライマー結合部位を有する。各トランスポゾンDNAは、トランスポザーゼ結合部位でトランスポザーゼに結合している別個の核酸である。トランスポソームは、それぞれが特有のトランスポゾンDNAに結合している2つの別個のトランスポザーゼの二量体である。ある態様によれば、トランスポソームは、それぞれが特有の対応するトランスポザーゼに結合している2つの別個で個別のトランスポゾンDNAを含む。ある態様によれば、トランスポソームは、トランスポザーゼを2つのみとトランスポゾンDNAを2つのみ含む。ある態様によれば、トランスポソームの一部としての2つのトランスポゾンDNAは、それぞれが特有の対応するトランスポザーゼに結合している別個の、個別の、又は非結合のトランスポゾンDNAである。例えば、本明細書に記載の別個で個別のトランスポゾンDNAは、単一のトランスポゾン結合部位、任意のバーコード、及びプライマー結合部位を有する。
【0013】
トランスポソームは、二本鎖ゲノムDNAなどの二本鎖核酸上の標的部位にランダムに結合し、トランスポソーム及び二本鎖ゲノムDNAを含む複合体を形成する能力を有する。トランスポソーム内のトランスポザーゼは、一方のトランスポザーゼが上側鎖を切断し、もう一方のトランスポザーゼが下側鎖を切断することにより、二本鎖ゲノムDNAを切断する。トランスポソーム内のトランスポゾンDNAは、切断部位において二本鎖ゲノムDNAに結合する。したがって、トランスポソームは、転位、つまりトランスポゾンDNAの挿入及び断片の作製に使用される。ある態様によれば、複数のトランスポザーゼ/トランスポゾンDNA複合体二量体が、例えば二本鎖ゲノムDNA上の対応する複数の標的部位に結合し、次いで二本鎖ゲノムDNAを複数の二本鎖断片に切断し、各断片は二本鎖断片のそれぞれの末端に結合したトランスポゾンDNAを有する。ある態様によれば、トランスポゾンDNAは二本鎖ゲノムDNAに結合又は二本鎖ゲノムDNA中に挿入され、ゲノムDNAの一方の鎖とトランスポゾンDNAの一方の鎖との間には一本鎖のギャップが存在する。ある態様によれば、ギャップの伸長が実行されてギャップが埋められ、二本鎖ゲノムDNAと二本鎖トランスポゾンDNAとの間に二本鎖の連結が作成される。ある態様によれば、二本鎖断片の各末端にトランスポゾンDNAのトランスポザーゼ結合部位が結合している。ある態様によれば、二本鎖断片の各末端に結合しているトランスポゾンDNAにトランスポザーゼが結合している。ある態様によれば、二本鎖ゲノムDNA断片の各末端に結合しているトランスポゾンDNAからトランスポザーゼが除去される。
【0014】
本開示のある態様によれば、二本鎖ゲノムDNA断片のそれぞれの末端に結合したトランスポゾンDNAを有するトランスポザーゼによって生成された二本鎖ゲノムDNA断片は、その後、トランスポゾンDNAを鋳型として用いてギャップが埋められ伸長される。したがって、二本鎖ゲノムDNA断片、及び二本鎖ゲノムDNAの各末端にプライマー結合部位を含む二本鎖トランスポゾンDNAを含む、二本鎖核酸伸長産物が生成される。ある態様によれば、二本鎖ゲノムDNAの各末端のプライマー結合部位は、同一の配列を有する。
【0015】
次いで、ゲノムDNA断片を含む二本鎖核酸伸長産物を、当業者に公知のエマルジョン液滴法によって、又は自然発生的に、若しくは別の方法で、微小液滴の作製のために油相を水相と混合することによって作製可能な微小液滴などの液滴中に、当業者に公知の増幅試薬と共に分離する。ある態様によれば、各液滴は、1つの二本鎖核酸伸長産物、つまり関連するプライマー結合部位を有する1つの二本鎖ゲノム核酸断片、及び増幅試薬を含み、次いで、二本鎖ゲノム核酸断片をPCRなどの当業者に公知の方法を用いて増幅することにより、二本鎖ゲノム核酸断片のアンプリコンを作製してもよい。ある態様によれば、液滴溶解などによって、各液滴からのアンプリコンが放出され、当業者に公知の方法を用いた配列決定などのさらなる分析のために収集され、必要に応じて、断片配列及び関連バーコード配列が同定される。収集したアンプリコンをさらなる分析の前に精製してもよい。
【0016】
本開示の実施形態は、単一細胞由来、同一細胞型の複数の細胞由来、又は個体若しくは基質から得られる組織試料、体液試料、若しくは血液試料由来の1つのゲノム配列若しくは複数のゲノム配列など、少量のゲノムDNA又は限られた量のDNAなどのDNAを、本明細書に記載の方法を用いて増幅する方法に関する。本開示のある態様によれば、本明細書に記載の方法を単一チューブ内で実行することで断片を作製することができ、次に該断片は微小液滴内に分離されて該微小液滴内で増幅され、微小液滴からアンプリコンが収集されることになる。「液滴」又は「微小液滴」という用語は、本明細書では互換的に使用され得る。本明細書に記載の方法により、同一の反応混合物内で多くの断片が一緒に増幅される従来技術の増幅方法に関連する増幅バイアスが、回避、阻害、防止、又は低減される。本明細書に記載の方法は、ハイスループット配列決定のための増幅されたDNAを産生する、単一細胞のゲノム全体の十分なカバレッジを提供することができる。
【0017】
さらなる態様によれば、本明細書では、当業者に公知のハイスループット配列決定プラットフォームを用いたさらなる配列決定又は解析に有用な、ゲノム内の様々な遺伝子座において高い忠実度(フィデリティ)及び増幅均一性又はカバレッジで、単一細胞の全ゲノム増幅を実行するための方法が提供される。より均一な全ゲノム増幅によって、通常は、より高い全ゲノムカバレッジがもたらされる。カバレッジは、増幅後に保存可能な単一細胞ゲノムDNAの割合を表す。例えば、50%カバレッジとは、単一細胞の全ゲノム増幅の処理中に遺伝物質の半分が失われたことを意味する。本明細書において提供される方法は、損失及び増幅バイアスを最小化し、単一細胞由来のゲノムDNAのDNA配列決定の実質的に完全な又は完全なゲノムカバレッジを提供する。本明細書に記載の方法は、単一細胞由来のゲノムDNAの90%超、95%超、96%超、97%超、98%超、又は99%超を増幅することができ、一方でゲノムDNAの70%又は75%超を、7倍、10倍、15倍、又は30倍の配列深度で、ほとんどキメラ配列がなく、極めてキメラ配列が少なく、又はキメラ配列を生じずに、配列決定することができる。
【0018】
本開示の方法の態様は、対立遺伝子ドロップアウト率(allele drop−out rate(ADO))を改善する。ヒトゲノムは二倍体ゲノムであり、これは23染色体のそれぞれに2つのコピーがあること、各染色体につき1つの母性コピー及び1つの父性コピーがあることを意味する。ADOは、母性コピー及び父性コピーの不均一な増幅から生じる。ヒトの単一細胞がヘテロ接合変異を有する場合、2つの対立遺伝子のうちの一方における増幅の欠如によりADOが生じ、これは単一細胞SNVコーリングの偽陰性の主な原因となる。ADOは、単一細胞内の未検出SNVと実際のヘテロ接合性SNVの比率によって測定される。本明細書に記載のインビトロ転位及びエマルジョン液滴増幅方法は、対立遺伝子ドロップアウト率を低下させる。
【0019】
本明細書に記載の方法は、シークエンシングアーチファクト(sequencing artifact)の生成を低減又は排除し、単一細胞の一塩基多型、コピー数変異、及び構造変異の高度なゲノム解析を促進する。本明細書に記載の方法は、特に、腫瘍及び神経塊などの高度に不均一な細胞集団を特徴とする生物系又は組織試料において応用されている。本明細書に記載のゲノムDNAの増幅方法は、当業者に公知であり且つ本明細書に記載される次世代シーケンシング技術を用いた、そのような増幅されたDNAの解析を促進する。
【0020】
本開示のDNA増幅法は、少量又は限られた量のDNAの増幅に有用であり、これにより、ハイスループットスクリーニングのためのDNA試料における複数の部位の遺伝子型判定が可能になる。さらに、本方法は、任意の染色体領域のバンド特異的な彩色プローブ(painting probe)を迅速に構築することを可能にし、また、異常核型における識別不能な染色体領域又はマーカー染色体を顕微解剖し増幅することにも使用し得る。本開示の方法は、DNAライブラリーを配列決定又は作製するための、増幅DNAの迅速なクローニングも可能にする。すなわち、前記方法は、遺伝子型解析及びハイスループットスクリーニングに役立つツールとなるだけでなく、細胞遺伝学的診断においても役立つツールとなるはずである。本明細書に記載の方法は、遺伝的に不均一な組織(例えば、癌)、希少且つ貴重な試料(例えば胚性幹細胞)、及び非分裂細胞(例えば、ニューロン)などを含む、DNA材料の種々の供給源、並びに、当業者に公知の配列決定プラットフォーム及び遺伝子型判定法を利用することができる。
【0021】
本開示の特定の実施形態のその他の特徴及び利点は、以下の実施形態及びその図面の説明において、並びに特許請求の範囲から、より十分に理解されることになる。
【0022】
本発明の前述した特徴及びその他の特徴、並びに利点は、添付の図面と共に、具体的実施形態についての以下の詳細な説明からより十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】トランスポソームの形成、ゲノムDNAの断片化及びトランスポゾンの挿入、並びに微小液滴の形成の概略図であり、各微小液滴は1つのゲノムDNA断片及び増幅試薬を含み、各液滴内で増幅されてアンプリコンを生成する。
図2】バーコードを有するか又はバーコードを有しない線状の5′伸長を有するトランスポゾンDNAの構造を概略的に示す。Tは二本鎖トランスポザーゼ結合部位であり、Pは伸長部の一端におけるプライミング部位であり、Bはバーコード配列である。
図3】トランスポゾンDNA及びトランスポソーム形成の一実施形態の概略図である。
図4】トランスポソームのゲノムDNAへの結合、断片への分割、及びトランスポゾンDNAの付加又は挿入の概略図である。
図5】ゲノムDNAを含む核酸伸長産物を形成するための、トランスポザーゼの除去、ギャップフィリング(gap filling)、及び伸長の概略図である。
図6】トランスポソーム断片化法及び微小液滴内の個々の断片それぞれの増幅により生じるDNA断片サイズ分布を示すグラフであり、その方法は本明細書では「DIANTI」と呼ばれることがある。
図7】トランスポソーム断片化法及び微小液滴内の個々の断片それぞれの増幅を用いて増幅された3つの単一ヒト細胞の配列決定読み取り深度データのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ある実施形態の実施又はある実施形態の特徴には、特に記載がない限り、当該技術分野において通常の技術範囲内にある、分子生物学、微生物学、及び組換えDNAなどの従来技術が用いられてよい。そのような技術は、例えば、Sambrook,Fritsch,and Maniatis,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,Second Edition(1989), OLIGONUCLEOTIDE SYNTHESIS (M.J.Gait Ed.,1984),ANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney,Ed.,1987),METHODS IN ENZYMOLOGYシリーズ(Academic Press,Inc.);GENE TRANSFER VECTORS FOR MAMMALIAN CELLS(J.M.Miller and M.P.Calos eds.1987),HANDBOOK OF EXPERIMENTAL IMMUNOLOGY,(D.M.Weir and C.C.Blackwell,Eds.),CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausubel,R.Brent,R.E.Kingston,D.D.Moore,J.G.Siedman,J.A.Smith,and K.Struhl,eds.,1987),CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY (J.E.coligan,A.M.Kruisbeek,D.H.Margulies,E.M.Shevach and W.Strober,eds.,1991);ANNUAL REVIEW OF IMMUNOLOGY;並びにADVANCES IN IMMUNOLOGYなどの学術誌中の研究論文などの文献において十分に説明されている。本明細書において言及された前述及び後述の、全ての特許、特許出願、及び刊行物は、参照により本明細書に取り込まれる。
【0025】
本明細書で使用される核酸化学、生化学、遺伝学、及び分子生物学の用語及び符号は、当該分野においてスタンダードな論文及び教科書、例えば、Kornberg and Baker,DNA Replication,Second Edition(W.H.Freeman,New York,1992);Lehninger, Biochemistry,Second Edition(Worth Publishers,New York,1975);Strachan and Read,Human Molecular Genetics,Second Edition(Wiley−Liss,New York, 1999);Eckstein,editor,Oligonucleotides and Analogs:A Practical Approach(Oxford University Press,New York,1991);Gait,editor,Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach(IRL Press,Oxford,1984)などの用語及び符号に従うものとする。
【0026】
本発明は、部分的には、トランスポザーゼ又はトランスポソームを使用して、各DNA断片鋳型を対応する微小液滴内に分離し、すなわち単一のDNA断片を1つの微小液滴内に分離し、各DNA断片鋳型を対応する微小液滴内で、すなわち他のDNAフラグメント鋳型なしで、増幅することによりアンプリコンを作製する、ゲノムDNAからなどのDNA断片鋳型作製法の発見に基づいている。ある態様によれば、微小液滴は、増幅のための単一のDNA断片鋳型を含む。各DNA断片鋳型のアンプリコンは、液滴から収集され配列決定され得る。収集されたアンプリコンはゲノムDNA断片のアンプリコンのライブラリーを形成する。
【0027】
ある態様によれば、溶解した単一細胞から得られるゲノム核酸などのゲノムDNAが得られる。それぞれがトランスポザーゼ結合部位及び特異的プライマー結合部位を有するトランスポゾンDNAとトランスポゾンDNAに結合したトランスポザーゼとの二量体である複数のトランスポソームを使用して、ゲノムDNAを二本鎖断片に切断し、ここで、トランスポゾンDNAは各二本鎖断片の上側鎖及び下側鎖に結合することになる。前記特異的プライマー結合部位は、各フラグメントを増幅するために単一のプライマー配列のみが必要とされるようにプライマー結合部位配列が同じである限り「特異的」である。次いで、プライマー結合部位が結合した二本鎖DNA断片を処理してギャップを埋め、液滴形成領域を有するマイクロ流体デバイスを使用して、液滴あたり1つのDNA断片となるように増幅試薬と共に微小液滴にロードする。
【0028】
ある態様によれば、作製された液滴の数はDNA断片の数を超えているので、1つの液滴中には1つのDNA断片しか分離されない。水相の液滴を作製する方法は当業者に公知である。本開示のこの態様は、各液滴が液滴内での増幅のために単一のDNA断片を分離するので、増幅中のDNA断片間の競合が排除される。トランスポゾン結合部位及びプライミング部位を標的とする特異的プライマーをDNAポリメラーゼと共に使用して、全体で全ゲノムDNAに等しくなるように各断片を増幅する。増幅後、液滴は溶解され、増幅産物はさらなる分析のために集められる。
【0029】
ある態様によれば、トランスポゾン系と微小液滴増幅法との組み合わせにより、ゲノムDNA、例えば単一細胞から得られた全ゲノムの均一な増幅がもたらされる。インビトロ転位は、縮重オリゴヌクレオチドの使用を回避するためにゲノムDNA断片に特定のプライミング部位を付加するために使用される。本態様では、同じプライマー配列を用いて全ゲノムの各断片が増幅される。例示的な方法では、増幅前に微小液滴を使用して単一細胞のゲノムDNA断片を物理的に分離することによって増幅中の異なる断片間の競合を排除し、均一な全ゲノム増幅がもたらされる。
【0030】
示されるように、本明細書に記載のトランスポザーゼ法を使用して作製されたDNA断片鋳型は、当業者に公知の方法を使用して微小液滴内で増幅され得る。微小液滴は、油相と水相のエマルジョンとして形成され得る。エマルジョンは、連続油相内に水性液滴又は分離された水性体積を含み得る。エマルジョン全ゲノム増幅法は、単一細胞のゲノムの均一な増幅のために、油中で少容量の水性液滴を使用して各断片を分離することが記載されている。各断片をそれ自身の液滴又は分離された水性反応体積に分配することによって、各液滴はDNA増幅の飽和に達することが可能になる。次いで、各液滴内のアンプリコンは解乳化によって混合(merge)され、その結果、単一細胞の全ゲノムの全断片の均一な増幅がもたらされる。
【0031】
いくつかの態様では、PCRを用いて増幅が達成される。PCRは、上流プライマー及び下流プライマーからなる一対又は一組のプライマー、及びDNAポリメラーゼ、典型的には熱安定性ポリメラーゼ酵素などの重合触媒を用いて、標的ポリヌクレオチドから複製コピーを作製する反応である。PCR法は当該技術分野において周知であり、例えば、MacPherson et al.(1991),PCR 1:A Practical Approach(IRL Press at Oxford University Press)に教示されている。Mullis(米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号、及び同第4,965,188号)による「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)という用語は、クローニング又は精製をせずに、標的配列のセグメントの濃度を増加させる方法を指す。この標的配列を増幅するプロセスは、所望の標的配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー及び増幅試薬を提供し、続いてポリメラーゼ(例えばDNAポリメラーゼ)の存在下で正確な一連の温度サイクルを行うことを含む。プライマーは、二本鎖標的配列の各々の鎖(「プライマー結合配列」)に相補的である。増幅を実行するために、二本鎖標的配列を変性し、次いでプライマーを標的分子内のそれらの相補的配列にアニーリングする。アニーリング後、新たな相補鎖対の形成のために、プライマーがポリメラーゼにより伸長される。変性、プライマーアニーリング、及びポリメラーゼ伸長のステップを何度も繰り返し(すなわち、変性、アニーリング、及び伸長は1つの「サイクル」を構成し、多数の「サイクル」があり得る)、所望の標的配列の高濃度に増幅されたセグメントを得ることができる。所望の標的配列の増幅セグメントの長さはお互いのプライマーの相対位置によって決定されるため、この長さは調節可能なパラメーターである。前記プロセスの反復的な態様に基づいて、前記方法は「ポリメラーゼ連鎖反応」(以後「PCR」)と称され、標的配列は「PCR増幅された」と言われる。二本鎖DNA増幅産物がDNAポリメラーゼの活性が阻害される量まで蓄積すると、PCR増幅は飽和状態に達する。一旦飽和すると、PCR増幅はプラトーに達し、さらなるPCRサイクルによって増幅産物が増加することはない。
【0032】
PCRを用いて、ゲノムDNA中の単一コピーの特定の標的配列を、いくつかの種々の方法論(例えば、標識プローブを用いたハイブリダイゼーション;ビオチン化プライマーの取り込み及びそれに続くアビジン/酵素複合体の検出;dCTP又はdATPなどの32P標識デオキシヌクレオチド三リン酸の増幅セグメント内への取り込み)により、検出可能なレベルにまで増幅することが可能である。適切なプライマー分子セットを用いることで、ゲノムDNAだけでなく、任意のオリゴヌクレオチド配列又はポリヌクレオチド配列が増幅可能である。特に、各微小液滴内でPCRプロセス自体によって作製された増幅セグメントは、それら自体、その後のPCR増幅のための効率的な鋳型となる。PCRを実行するための方法及びキットは当該技術分野において周知である。本明細書では、PCR又は遺伝子クローニングなど、ポリヌクレオチドの複製コピーを生成するプロセスは全て、一括して複製と称される。プライマーは、サザンブロット解析又はノーザンブロット解析などのハイブリダイゼーション反応におけるプローブとして使用することもできる。
【0033】
「増幅」又は「増幅する」という表現は、特定のポリヌクレオチドの余分な又は複数のコピーが形成されるプロセスを指す。増幅には、PCR、ライゲーション増幅((又はリガーゼ連鎖反応、LCR)、及び他の増幅法などの方法が含まれる。これらの方法は当該技術分野において公知であり、広く実施されている。例えば、米国特許第4,683,195号及び同第4,683,202号、並びにInnis et al.,“PCR protocols:a guide to method and applications”Academic Press,Incorporated(1990)(PCRに関して);及びWu et al.(1989)Genomics 4:560−569 (LCRに関して)を参照されたい。一般に、PCR手順は、(i)DNA試料(又はライブラリー)内の特定の遺伝子に対するプライマーの配列特異的ハイブリダイゼーション、(ii)続いて、DNAポリメラーゼを用いた、複数サイクルのアニーリング、伸長、及び変性を含む増幅、並びに、(iii)正しいサイズのバンドについてのPCR産物のスクリーニングから構成される遺伝子増幅法を表す。使用されるプライマーは、重合を開始させるために十分な長さ及び適切な配列を有するオリゴヌクレオチドであり、すなわち、各プライマーは、増幅されるゲノム遺伝子座の各々の鎖に相補的となるように特異的に設計されている。
【0034】
増幅反応を行うための試薬及びハードウェアは市販されている。特定の遺伝子領域からの配列を増幅するために有用なプライマーは、標的領域又はその隣接領域の配列に相補的であり、且つそれに特異的にハイブリダイズすることが好ましく、当業者に公知の方法を使用して調製可能である。増幅によって作製された核酸配列は直接配列決定することができる。
【0035】
ハイブリダイゼーションが2本の一本鎖ポリヌクレオチド間で逆平行(antiparallele)の立体配置で生じる場合、その反応は「アニーリング」とよばれ、それらのポリヌクレオチドは「相補的である」と記載される。二本鎖ポリヌクレオチドは、第一のポリヌクレオチドの一方の鎖と第二のポリヌクレオチドの一方の鎖との間でハイブリダイゼーションが起こり得る場合に、別のポリヌクレオチドに対して相補的又は別のポリヌクレオチドと相同であり得る。相補性又は相同性(あるポリヌクレオチドが別のポリヌクレオチドと相補的である程度)は、一般に認められている塩基対合規則に従って、互いに水素結合を形成すると予想される対向する鎖中の塩基の割合に関して定量化可能である。
【0036】
「PCR産物」、「PCR断片」、及び「増幅産物」という用語は、変性、アニーリング、及び伸長のPCRステップが2サイクル以上完了した後に得られる化合物の混合物を指す。これらの用語は、1又は複数の標的配列の1又は複数のセグメントの増幅が起こった場合も包含する。本開示のある態様によれば、各微小液滴は単一の鋳型DNA断片のPCR産物を含む。
【0037】
用語「増幅試薬」は、プライマー、核酸鋳型、及び増幅酵素以外の増幅に必要な試薬(デオキシリボヌクレオチド三リン酸、緩衝液など)を指す。通常、増幅試薬は他の反応成分と共に、反応器(試験管、マイクロウェルなど)内に添加及び含有される。増幅法には、当業者に公知のPCR法が含まれ、また、ローリングサークル増幅(Blanco et al.,J.Biol.Chem.,264,8935−8940,1989)、超分岐ローリングサークル増幅(Lizard et al.,Nat.Genetics,19,225−232,1998)、及びループ介在等温増幅(Notomi et al.,Nuc.Acids Res.,28,e63,2000)も含まれ、それぞれの文献は参照によりその全体が本明細書に取り込まれる。
【0038】
エマルジョンPCRでは、「油中水滴型」混合物を激しく振盪又は撹拌し、数百万個のミクロンサイズの水性コンパートメントを生成することにより、エマルジョンPCR反応が生じる。マイクロ流体チップは、油相及び水相を振盪又は撹拌することによってエマルジョンを作製するためのデバイスを備えていてもよい。あるいは、水性液滴は、特定の油を水相と混合すること、又は水相を油相に導入することによって、自然発生的に形成されてもよい。増幅されるDNAライブラリーは、乳化前に限界希釈で混合される。コンパートメントサイズ、すなわち微小液滴サイズ、及び増幅されるDNA断片ライブラリーの限界希釈を作製する微小液滴の量の組み合わせは、平均して、単一のDNA分子を含有するコンパートメントを生成するために使用される。微小液滴形成又は乳化ステップ中に生成される水性コンパートメントのサイズに応じて、1μlあたり最大3×10回の個別のPCR反応が同一チューブ内で同時に実施可能である。本質的に、エマルジョン中の小さな水性コンパートメント微小液滴のそれぞれが微小なPCRリアクタを形成する。エマルジョン中のコンパートメントの平均サイズは、乳化条件によるが、直径が1ミクロン未満から100ミクロン超まで、1ピコリットルから1000ピコリットルまで、1ナノリットルから1000ナノリットルまで、1ピコリットルから1ナノリットルまで、又は1ピコリットルから1000ナノリットルまでの範囲である。
【0039】
本開示においては、それぞれが参照により本明細書に取り込まれる、英国特許出願第GB2,202,328号及びPCT特許出願第PCT/US89/01025号に記載されるような他の増幅法を使用してもよい。前記英国特許出願では、PCR様の鋳型及び酵素に依存的な合成に、「改変型」プライマーが使用されている。前記プライマーは、捕捉部分(例えば、ビオチン)及び/又は検出部分(例えば、酵素)で標識することによって改変されてもよい。前記PCT特許出願では、過剰な標識プローブが試料に添加される。標的配列の存在下で、プローブが結合して酵素により切断される。切断後、標的配列は完全なまま遊離し、過剰なプローブに結合される。標識プローブの切断によって標的配列の存在が示される。
【0040】
その他の好適な増幅法としては、RACE及び「片側PCR(one−sided PCR)」(それぞれが参照により本明細書に取り込まれるFrohman,In:PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications,Academic Press,N.Y.,1990)が挙げられる。結果として生成される「ジ−オリゴヌクレオチド」の配列を有する核酸の存在下で、2つ(以上)のオリゴヌクレオチドをライゲーションすることでジ−オリゴヌクレオチドを増幅することに基づいた方法も、本開示によるDNA増幅に使用され得る(参照により本明細書に取り込まれる、Wu et al.,Genomics 4:560−569,1989)。
【0041】
ある態様によれば、トランスポゾン系の例としては、Tn5トランスポザーゼ、Muトランスポザーゼ、Tn7トランスポザーゼ、又はIS5トランスポザーゼなどが挙げられる。その他の有用なトランスポゾン系は当業者に公知であり、Tn3トランスポゾン系(Maekawa,T.,Yanagihara,K.,and Ohtsubo,E.(1996),A cell−free system of Tn3 transposition and transposition immunity,Genes Cells 1,1007−1016参照)、Tn7トランスポゾン系(Craig,N.L.(1991),Tn7:a target site−specific transposon,Mol.Microbiol.5,2569−2573参照)、Tn10トランスポゾン(tranposon)系(Chalmers,R.,Sewitz,S.,Lipkow,K.,and Crellin,P.(2000),Complete nucleotide sequence of Tn10,J.Bacteriol 182,2970−2972参照)、ピギーバック方式(Piggybac)トランスポゾン系(Li,X.,Burnight,E.R.,Cooney,A.L.,Malani,N.,Brady,T.,Sander,J.D.,Staber,J.,Wheelan,S.J.,Joung,J.K.,McCray,P.B.,Jr.,et al.(2013),PiggyBac transposase tools for genome engineering,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 110,E2279−2287参照)、スリーピングビューティトランスポゾン系(Ivics,Z.,Hackett,P.B.,Plasterk,R.H.,and Izsvak,Z.(1997),Molecular reconstruction of Sleeping Beauty,a Tc1−like transposon from fish,and its transposition in human cells,Cell 91,501−510参照)、Tol2トランスポゾン系(Kawakami,K.(2007),Tol2:a versatile gene transfer vector in vertebrates,Genome Biol.8 Suppl.1,S7参照)が挙げられる。
【0042】
増幅されるDNAは、単一細胞から得てもよく、細胞小集団から得てもよい。本明細書に記載の方法は、単一反応器内で実行される単一反応混合物などの反応混合物中で任意の種又は生物からDNAを増幅することを可能にする。ある態様において、本明細書に記載の方法は、これらに限定はされないが、ヒトDNA、動物DNA、植物DNA、酵母DNA、ウイルスDNA、真核生物DNA、及び原核生物DNAを含む任意の供給源に由来するDNAを、配列非依存的に増幅することを含む。
【0043】
ある態様によれば、それぞれがトランスポゾンDNAに結合しているTn5トランスポザーゼに、単一細胞由来の二本鎖ゲノムDNAを接触させることを含み、ここで、前記トランスポゾンDNAは、二本鎖19bpトランスポザーゼ(Tnp)結合部位と、プライマー結合部位及び任意に存在してもよいバーコード配列のうちの1又は複数を含む第一の核酸配列とを含み、トランスポソームと呼ばれるトランスポザーゼ/トランスポゾンDNA複合体二量体を形成することを含む、単一細胞の全ゲノム増幅及び配列決定の方法が提供される。第一の核酸配列は一本鎖伸長物の形態であってもよい。ある態様によれば、第一の核酸配列は5′オーバーハングなどのオーバーハングであってもよく、該オーバーハングは、プライミング部位及び任意に存在してもよいバーコード領域を含む。オーバーハングは、必要に応じて、プライミング部位及び1つ又は複数の任意に存在してもよいバーコード領域を含むのに適した、任意の長さのものであってもよい。トランスポソームは二本鎖ゲノムDNA上の標的部位に結合し、二本鎖ゲノムDNAを、Tnp結合部位により上側鎖に結合した第一の複合体及びTnp結合部位により下側鎖に結合した第二の複合体をそれぞれ有する複数の二本鎖断片に切断する。トランスポゾン結合部位は、二本鎖断片の5′末端のそれぞれに結合している。ある態様によれば、Tn5トランスポザーゼは複合体から除去される。トランスポゾンDNAに沿って二本鎖断片が伸長されて、好ましくは各末端に、プライマー結合部位を有する二本鎖伸長産物が生成される。ある態様によれば、Tn5トランスポザーゼ結合部位の二本鎖ゲノムDNA断片への結合によって生じ得るギャップが埋められてもよい。二本鎖伸長産物は、増幅試薬と共に、微小液滴などの液滴増幅反応体積内に配置され、二本鎖ゲノムDNA断片が液滴内で増幅される。二本鎖ゲノムDNA断片が由来する細胞又は試料を一意的に識別するバーコード配列を含み得るアンプリコンは、例えば液滴の溶解によって収集される。次に、各液滴からの二本鎖DNAアンプリコンは、当業者に公知の、例えばハイスループット配列決定法を用いて配列決定されてもよい。
【0044】
特定の態様において、実施形態は、特定部位の提示を欠くことなく、ゲノムの実質的に全体を増幅するための方法に関する(本明細書において「全ゲノム増幅」と定義される)。特定の実施形態において、全ゲノム増幅は、ゲノムライブラリーの実質的に全ての断片又は全ての断片の増幅を含む。さらなる特定の実施形態では、「実質的に全体」又は「実質的に全て」とは、ゲノム中の全配列の約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、または約99%を指す。
【0045】
ある態様によれば、DNA試料は、ゲノムDNA、顕微解剖された染色体DNA、酵母人工染色体(YAC)DNA、コスミドDNA、ファージDNA、P1由来人工染色体(PAC)DNA、又はバクテリア人工染色体(BAC)DNAである。別の好ましい実施形態では、DNA試料は、哺乳類DNA、植物DNA、酵母DNA、ウイルスDNA、又は原核生物DNAである。さらに別の好ましい実施形態では、DNA試料は、ヒト、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、げっ歯類、鳥類、魚類、エビ、植物、酵母、ウイルス、又は細菌から得られる。DNA試料はゲノムDNAであることが好ましい。
【0046】
ある特定の例示的な態様によれば、転位系を用いて、必要に応じて、増幅及び配列決定のための核酸断片が作製される。ある態様によれば、転位系を用いて、ゲノムDNAが、挿入されたトランスポゾンDNAを有する二本鎖ゲノムDNA断片に断片化される。ある特定の態様によれば、転位系は、単一細胞ゲノム増幅のための微小液滴増幅方法と組み合わされ、ここで、転位系によって作製されたDNA断片のライブラリーの各断片は、油相内の水性液滴のエマルジョンの単一液滴内に分離され、次いでPCRなどによって各液滴内で増幅される。ある態様によれば、他のDNA断片を除いて、すなわちDNA断片ライブラリーの他のDNA断片が存在しない状態で、すなわち液滴が単一のDNA断片のみを含むように、単一のDNA断片のアンプリコンを作製する場合、液滴の使用により、コピー数変異(CNV)の低解像度検出、及びゲノムカバレッジにさらに影響を与えるノイズの多い単一細胞配列決定データをもたらす増幅バイアスを低減又は回避する、単一細胞ゲノムDNA(gDNA)の高品質な増幅が有利に達成される。定義によるPCRは指数関数的増幅方法であり、すなわち、新しいコピーは、前の回の増幅からのコピーに基づいて作製される。ある態様によれば、DNA断片のライブラリーの各DNA断片は、単独で、ライブラリーの他のメンバーの存在に関わらず増幅されるので、アンプリコン間に増幅効率の差がほとんどないか又は差がないため、増幅バイアスがほとんど又は全く生じないが、それ以外の場合には蓄積により複数サイクルの後に異なるアンプリコン間に増幅バイアスを生じさせることがある。ある態様によれば、アンプリコン間と同様に増幅バイアス効率がもたらされ得る場合、各液滴内の増幅反応を飽和状態にするために十分な数のPCRサイクルが使用される。PCR反応が飽和に達すると、異なる液滴から異なるアンプリコンが同量となるように増幅される。
【0047】
図1に示すように、トランスポザーゼを使用して何百万もの小さな断片を作製しながら、RED中に特異的プライミング部位を含むトランスポゾンDNAが単一細胞のゲノムDNAに挿入される。トランスポザーゼの除去及びギャップフィリングの後、プライマー結合部位を有するゲノムDNA断片が微小液滴にロードされる。液滴の数は、大部分の液滴が単一のDNA断片を含有することを確実にするために、断片の数を超えるようにする。次いで、特異的プライマーをDNAポリメラーゼと共に使用して単一細胞の全ゲノムをPCR増幅する。
【0048】
ある態様によれば、単一細胞由来のDNAなどの少量のDNAを増幅する場合、増幅前に単一細胞内から得ることができる少量(約6pg)のゲノムDNAを最大にするために、DNAカラム精製ステップが行われない。DNAは、細胞溶解物又はその他の不純な状態から直接増幅することができる。したがって、DNA試料は、不純であっても、未精製であっても、未単離であってもよい。したがって、本願方法の態様により、増幅のためのゲノムDNAを最大化し、精製による損失を減少させることが可能である。さらなる態様によれば、本明細書に記載の方法は、エマルジョン液滴増幅法において有用な、PCR以外の増幅方法を利用してもよい。
【0049】
ある態様によれば、図2に示すように、トランスポゾンDNAは、一端に、任意に存在してもよいバーコード領域及びプライミング部位を一端に含む一本鎖オーバーハングに、共有結合などによって連結又は結合されている、二本鎖19bp Tn5トランスポザーゼ(Tnp)結合部位を含むように設計されている。転移時、TnpとトランスポゾンDNAは互いに結合し、二量体化してトランスポソームを形成する。
【0050】
図3に示す実施形態では、トランスポゾンDNAは一本鎖オーバーハングとして示されている。トランスポザーゼは、トランスポゾンDNAの二本鎖トランスポザーゼ結合部位に結合し、そのような2つの複合体は二量体化してトランスポソームを形成する。図4に示すように、トランスポソームは、二量体として標的単一細胞ゲノムDNAをランダムに捕捉するか、又はそれに結合する。代表的なトランスポソームに1〜3の番号が付されている。次に、トランスポソーム内のトランスポザーゼは、一方のトランスポザーゼが上側鎖を切断し、もう一方のトランスポザーゼが下側鎖を切断することによってゲノムDNAを切断し、ゲノムDNA断片を作製する。複数のトランスポソームは複数のゲノムDNA断片を作り出す。トランスポゾンDNAはこのようにして単一細胞ゲノムDNAにランダムに挿入され、転位/挿入部位の両端にギャップが残される。ギャップは任意の長さであってもよく、例えば9塩基ギャップが挙げられる。結果として、トランスポゾンDNA Tnp結合部位が上側鎖の5′位に結合し、トランスポゾンDNA Tnp結合部位が下側鎖の5′位に結合した、ゲノムDNA断片が得られる。トランスポゾンDNAの結合又は挿入により生じたギャップが示されている。転位後、トランスポザーゼを除去し、ギャップ伸長を行ってギャップを埋め、図5に示すように、トランスポゾンDNAにおいて元々設計されていた一本鎖オーバーハングを補完する。その結果、図5に示すように、プライマー結合部位(「プライミング部位」)配列が各ゲノムDNA断片の両端に結合する。プライマー結合部位は各断片について同じであり、トランスポソームによって作製されたすべての断片について同じである。
【0051】
特定のTn5転位系が報告されており、当業者に利用可能となっている。それぞれ、全ての目的のためその全体が参照により本明細書に取り込まれる、Goryshin,I.Y.and W.S.Reznikoff,Tn5 in vitro transposition.The Journal of biological chemistry,1998.273(13):p.7367−74;Davies,D.R.,et al.,Three−dimensional structure of the Tn5 synaptic complex transposition intermediate.Science,2000.289(5476):p.77−85;Goryshin,I.Y.,et al.,Insertional transposon mutagenesis by electroporation of released Tn5 transposition complexes.Nature biotechnology,2000.18(1):p.97−100、及びSteiniger−White,M.,I.Rayment,and W.S.Reznikoff,Structure/function insights into Tn5 transposition.Current opinion in structural biology,2004.14(1):p.50−7を参照されたい。DNAライブラリー調製及び他の用途のための、Tn5転位系を利用したキットが知られている。それぞれ、全ての目的のためその全体が参照により明細書に取り込まれる、Adey,A.,et al.,Rapid,low−input,low−bias construction of shotgun fragment libraries by high−density in vitro transposition.Genome biology,2010.11(12):p.R119;Marine,R., et al.,Evaluation of a transposase protocol for rapid generation of shotgun high−throughput sequencing libraries from nanogram quantities of DNA.Applied and environmental microbiology,2011.77(22):p.8071−9;Parkinson,N.J.,et al.,Preparation of high−quality next−generation sequencing libraries from picogram quantities of target DNA.Genome research,2012.22(1):p.125−33;Adey,A.and J.Shendure,Ultra−low−input,tagmentation−based whole−genome bisulfite sequencing.Genome research,2012.22(6):p.1139−43;Picelli,S.,et al.,Full−length RNA−seq from single cells using Smart−seq2.Nature protocols,2014.9(1):p.171−81、及びBuenrostro,J.D.,et al.,Transposition of native chromatin for fast and sensitive epigenomic profiling of open chromatin,DNA−binding proteins and nucleosome position.Nature methods,2013を参照されたい。また、その全体がそれぞれ参照により本明細書に取り込まれる、国際公開第98/10077号、欧州特許第2527438号及び同第2376517号も参照されたい。市販の転位キットがNEXTERAの名で販売されており、llumina社から入手可能である。
【0052】
ある態様によれば、DNA増幅法は、増幅DNA産物の遺伝子型解析をさらに含む。あるいは、DNA増幅法は、増幅DNA産物内の一塩基多型(SNP)などの多型性の同定をさらに含むことが好ましい。好ましい実施形態では、SNPは、ある生物のDNA内で、これらに限定はされないが、DNA塩基配列決定法、PCR産物の増幅及びPCR産物の配列決定、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)、ダブルコードOLA(doublecode OLA)、一塩基伸長アッセイ、対立遺伝子特異的プライマー伸長、又はミスマッチハイブリダイゼーションによるSNP同定を含む、当業者に周知のいくつかの方法によって同定され得る。同定されたSNPは、疾患表現型及び望ましい表現系形質を含む、表現型と関連付けられることが好ましい。開示されるDNA増幅法を用いることで作製された増幅DNAは、これらに限定はされないが、ゲノムDNAライブラリー、顕微解剖された染色体DNAライブラリー、BACライブラリー、YACライブラリー、PACライブラリー、cDNAライブラリー、ファージライブラリー、及びコスミドライブラリーを含む、DNAライブラリーの作製にも好ましく使用され得る。
【0053】
用語「ゲノム」は、本明細書で使用される場合、個体、細胞、又は細胞小器官に保有される集合的な遺伝子セットと定義される。用語「ゲノムDNA」は、本明細書で使用される場合、個体、細胞、又は細胞小器官に保有される部分的又は完全な集合的遺伝子セットを含むDNA物質と定義される。
【0054】
本明細書で使用される場合、用語「ヌクレオシド」は、プリン塩基又はピリミジン塩基がリボース糖又はデオキシリボース糖に共有結合的に連結された分子を指す。例示的なヌクレオシドとしては、アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、及びチミジンが挙げられる。さらなる例示的なヌクレオシドとしては、イノシン、1−メチルイノシン、プソイドウリジン、5,6−ジヒドロウリジン、リボチミジン、2N−メチルグアノシン、及び2,2N,N−ジメチルグアノシン(「レア」ヌクレオシドとも称される)が挙げられる。用語「ヌクレオチド」は、1又は複数のリン酸基が糖部分にエステル結合で連結されたヌクレオシドを指す。例示的なヌクレオチドとしては、ヌクレオシド一リン酸、ヌクレオシド二リン酸、及びヌクレオシド三リン酸塩が挙げられる。「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、及び「核酸分子」という用語は、本明細書では同義的に使用されており、5′炭素原子と3′炭素原子との間のホスホジエステル結合によって結合された、任意の長さの、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチのヌクレオチドの重合体を指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造をとることができ、既知又は未知の任意の機能を果たし得る。ポリヌクレオチドの非限定的な例としては、遺伝子又は遺伝子断片(例えば、プローブ、プライマー、EST、又はSAGEタグ)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ、及びプライマーが挙げられる。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体などの修飾ヌクレオチドを含むことができる。また、前記用語は二本鎖分子及び一本鎖分子の両方を指す。特に他に記載や必要がない限り、ポリヌクレオチドを含む本発明のいずれの実施形態も、二本鎖形態、及び二本鎖形態をつくることが知られているか又は予想される2本の相補的な一本鎖形態のそれぞれ、の両方を包含する。ポリヌクレオチドは、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)の4種のヌクレオチド塩基からなる特定の配列から構成され、ポリヌクレオチドがRNAである場合、チミンはウラシル(U)である。したがって、ポリヌクレオチド配列とは、ポリヌクレオチド分子のアルファベットによる表記である。このアルファベットによる表記は、中央演算処理装置を備えたコンピュータ内のデータベースに入力可能であり、機能ゲノム学及び相同性検索などのバイオインフォマティクス応用に使用可能である。
【0055】
「DNA」、「DNA分子」、及び「デオキシリボ核酸分子」という用語は、デオキシリボヌクレオチドのポリマーを指す。DNAは自然合成(例えばDNA複製により)することが可能である。RNAは転写後修飾が可能である。DNAは化学合成することも可能である。DNAは、一本鎖(すなわち、ssDNA)又は多重鎖(例えば、二本鎖、すなわちdsDNA)であってもよい。
【0056】
「ヌクレオチド類似体」、「改変ヌクレオチド」、及び「修飾ヌクレオチド」という用語は、非天然のリボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドを含む、非標準的なヌクレオチドを指す。ある特定の例示的な実施形態において、ヌクレオチド類似体は、ヌクレオチドのある特定の化学的性質を変化させるが、ヌクレオチド類似体の所望の機能を実行する能力は保持するように、任意の位置で修飾される。誘導体化され得るヌクレオチドの位置の例としては、5位、例えば、5−(2−アミノ)プロピルウリジン、5−ブロモウリジン、5−プロピンウリジン、5−プロペニルウリジンなど;6位、例えば、6−(2−アミノ)プロピルウリジン;アデノシン及び/又はグアノシンの8位、例えば、8−ブロモグアノシン、8−クロログアノシン、8−フルオログアノシンなどが挙げられる。また、ヌクレオチド類似体として、デアザヌクレオチド、例えば、7−デアザ−アデノシン;O修飾ヌクレオチド及びN修飾ヌクレオチド(例えば、アルキル化ヌクレオチド、例えば、N6−メチルアデノシン、又はその他の当該技術分野において公知のもの);並びに、Herdewijn,Antisense Nucleic Acid Drug Dev.,2000 Aug.10(4):297−310に記載されるものなどの他の複素環修飾(heterocyclically modified)ヌクレオチド類似体も挙げられる。
【0057】
ヌクレオチド類似体はヌクレオチドの糖部分への修飾を含んでいてもよい。例えば、2’OH基がH、OR、R、F、Cl、Br、I、SH、SR、NH、NHR、NR、COOR、又はORから選択される基によって置換されてもよく、ここで、Rは、置換又は非置換のC−Cアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールなどである。他の可能な修飾としては、米国特許第5,858,988号及び同第6,291,438号に記載される修飾が挙げられる。
【0058】
ヌクレオチドのリン酸基は、例えば、リン酸基の酸素の一つ若しくは複数を硫黄と置換することにより(例えば、ホスホロチオエート)、又は、例えば、Eckstein,Antisense Nucleic Acid Drug Dev.2000 Apr.10(2):117−21,Rusckowski et al.Antisense Nucleic Acid Drug Dev.2000 Oct.10(5):333−45,Stein,Antisense Nucleic Acid Drug Dev.2001 Oct.11(5):317−25,Vorobjev et al.Antisense Nucleic Acid Drug Dev.2001 Apr.11(2):77−85、及び米国特許第5,684,143号に記載される置換など、ヌクレオチドがその所望の機能を果たすことを可能にする他の置換によって修飾されていてもよい。上記修飾のいくつか(例えば、リン酸基修飾)は、例えば、前記類似体を含むポリヌクレオチドのインビボ又はインビトロにおける加水分解速度を減少させる。
【0059】
用語「インビトロ」は、その当該技術分野において認められている意味を有し、例えば、精製された試薬、又は細胞抽出物などの抽出物を含む。用語「インビボ」も、その当該技術分野において認められている意味を有し、例えば、不死化細胞、初代細胞、細胞株、及び/又は生物内の細胞などの生細胞を含む。
【0060】
本明細書で使用される場合、「相補的」及び「相補性」という用語は、塩基対形成法則によって関連付けられるヌクレオチド配列に関して使用される。例えば、配列5′−AGT−3′は、配列5′−ACT−3′に対して相補的である。相補性は部分的又は全体的であり得る。部分的な相補性は、塩基対形成の法則により、1又は複数の核酸塩基が一致していない場合に生じる。核酸間の全体的又は完全な相補性は、塩基対形成の法則に基づいて、一つ一つの核酸塩基が他の塩基と一致している場合に生じる。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率及び強度に対し重大な影響を及ぼす。
【0061】
用語「ハイブリダイゼーション」は、相補的核酸の対合を指す。ハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの強度(すなわち、核酸間の結合の強度)は、核酸間の相補性の程度、関連する条件のストリンジェンシー、形成されたハイブリッドのT、及び核酸内のG:C比などの要素に影響を受ける。その構造内に相補的核酸の対合を含む単一分子は、「自己ハイブリダイズ(self−hybridized)」しているといわれる。
【0062】
用語「T」は、核酸の融解温度を指す。融解温度は、二本鎖核酸分子の集団の半分が一本鎖に解離する温度である。核酸のTmを算出するための式は当該技術分野において周知である。標準的な参考文献によって示されるように、T値の単純な推定値は、核酸が1M NaClの水溶液中に存在する場合、式:T=81.5+0.41(%G+C)によって算出され得る(例えば、Anderson and Young,Quantitative Filter Hybridization,in Nucleic Acid Hybridization(1985)を参照)。他の参考文献には、Tの算出のために配列の特徴だけでなく構造的な特徴も考慮に入れたより洗練された算出が含まれる。
【0063】
用語「ストリンジェンシー」は、核酸ハイブリダイゼーションが行われる、温度、イオン強度、及び有機溶剤などの他の化合物の存在の条件を指す。
【0064】
「低度にストリンジェントな条件」は、核酸ハイブリダイゼーションに関連して使用される場合、約500ヌクレオチド長のプローブが使用される場合、5×SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaHPO(HO)及び1.85g/l EDTA、pHはNaOHで7.4に調整)、0.1%SDS、5×デンハート試薬(50×デンハート試薬は500ml当たり、5gのフィコール(Type 400、Pharmacia社)、5gのBSA(Fraction V;Sigma社)を含有する)、及び100μg/ml 変性サケ精子DNAからなる溶液中、42℃での結合又はハイブリダイゼーション、並びに、その後の5×SSPE、0.1%SDSを含む溶液中、42℃での洗浄と等価な条件を含む。
【0065】
「中程度にストリンジェントな条件」は、核酸ハイブリダイゼーションに関連して使用される場合、約500ヌクレオチド長のプローブが使用される場合、5×SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaHPO(HO)及び1.85g/l EDTA、pHはNaOHで7.4に調整)、0.5%SDS、5×デンハート試薬、及び100μg/ml 変性サケ精子DNAからなる溶液中、42℃での結合又はハイブリダイゼーション、並びに、その後の1.0×SSPE、1.0%SDSを含む溶液中、42℃での洗浄と等価な条件を含む。
【0066】
「高度にストリンジェントな条件」は、核酸ハイブリダイゼーションに関連して使用される場合、約500ヌクレオチド長のプローブが使用される場合、5×SSPE(43.8g/l NaCl、6.9g/l NaHPO(HO)及び1.85g/l EDTA、pHはNaOHで7.4に調整)、0.5%SDS、5×デンハート試薬、及び100μg/ml 変性サケ精子DNAからなる溶液中、42℃での結合又はハイブリダイゼーション、並びに、その後の0.1×SSPE、1.0%SDSを含む溶液中、42℃での洗浄と等価な条件を含む。
【0067】
ある特定の例示的な実施形態では、細胞が同定された後に、単一細胞又は複数の細胞が単離される。本開示の範囲に含まれる細胞には、DNA量を理解することが当業者に有用と見なされる、任意の細胞種が含まれる。本開示における細胞は、任意の種類の癌細胞、肝細胞、卵母細胞、胚、幹細胞、iPS細胞、ES細胞、ニューロン、赤血球、メラニン形成細胞、星状膠細胞、生殖細胞、オリゴデンドロサイト、及び腎細胞などを包含する。ある態様によれば、本発明の方法は単一細胞由来の細胞DNAを用いて実行される。複数の細胞には、約2〜約1,000,000個の細胞、約2〜約10個の細胞、約2〜約100個の細胞、約2〜約1,000個の細胞、約2〜約10,000個の細胞、約2〜約100,000個の細胞、約2〜約10個の細胞、又は約2〜約5個の細胞が含まれる。
【0068】
本明細書に記載の方法により処理される核酸はDNAであってもよい。前記核酸は例えばヒト試料などの、任意の有用な供給源から得られ得る。特定の実施形態では、二本鎖DNA分子はさらに、例えばヒト由来試料由来のものなどの、ゲノムを含んでいると定義される。前記試料は、血液、血清、血漿、脳脊髄液、頬擦過標本、乳頭吸引液、生検材料、精液(射出精液と称される場合がある)、尿、糞便、毛包、唾液、汗、免疫沈降、又は物理的に単離したクロマチンなど、任意のヒト由来試料であり得る。特定の実施形態では、試料は単一細胞を含む。特定の実施形態では、前記試料は単一の細胞のみを含む。
【0069】
特定の実施形態では、試料から増幅された核酸分子から、診断情報又は予後情報が得られる。例えば、試料から調製された核酸分子は、ゲノムのコピー数及び/又は配列の情報、対立遺伝子変異の情報、癌診断、出生前診断、父子鑑別情報、疾患の診断、検出、モニタリング、及び/又は治療の情報、並びに配列情報などを与え得る。
【0070】
本明細書で使用される場合、「単一細胞」は1つの細胞を指す。本明細書に記載の方法において有用な単一細胞は、目的の組織から、又は生検材料、血液試料、若しくは細胞培養から得ることができる。さらに、特定の器官、組織、腫瘍、又は新生物などに由来する細胞は、本明細書に記載の方法において、入手及び使用が可能である。さらに、一般に、細菌又は酵母を含む原核単細胞生物又は真核単細胞生物の集団など、任意の集団由来の細胞も、前記方法において使用することができる。単一細胞懸濁液は、例えば、酵素的にトリプシン若しくはパパインを用いた組織試料中の細胞接続タンパク質の消化若しくは培養液中の接着細胞の遊離、又は試料中の細胞の機械的分離を含む、当該技術分野において公知の標準方法を用いて得ることができる。単一細胞は、単一細胞を個々に処理可能な任意の好適な反応器内に置くことができる。例えば、96ウェルプレートでは、単一細胞のそれぞれが単一のウェル内に置かれる。
【0071】
単一細胞を操作するための方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、蛍光標識細胞分取(FACS)、フローサイトメトリー(Herzenberg.,PNAS USA 76:1453−55 1979)、顕微操作及び半自動化細胞ピッキング装置(例えば、Stoelting Co.製のQuixell(商標)細胞移送系)の使用が挙げられる。個々の細胞は、例えば、位置、形態、又はレポーター遺伝子発現などの、顕微鏡観察によって検出可能な特徴に基づいて、個々に選択することができる。さらに、勾配遠心分離及びフローサイトメトリーを組み合わせて使用して、単離又は選別の効率を上げることもできる。
【0072】
所望の細胞が同定された後、当業者に公知の方法を用いて、細胞は溶解され、DNAを含む細胞内容物が放出される。細胞内容物は容器又は収集量内に含有される。本発明のいくつかの態様において、ゲノムDNAなどの細胞内容物は、細胞を溶解することにより細胞から放出され得る。溶解は、例えば、細胞の加熱、又は界面活性剤若しくは他の化学的手法の使用、又はこれらの組み合わせにより、達成可能である。しかし、当該技術分野において公知のいかなる好適な溶解法も使用することができる。例えば、Tween−20存在下における72℃で2分間の細胞の加熱は、細胞を溶解するために十分である。あるいは、細胞は、水中、65℃で10分間(Esumi et al.,Neurosci Res 60(4):439−51(2008));又は、0.5%NP−40を添加したPCR buffer II(Applied Biosystems社)中、70℃で90秒間(Kurimoto et al.,Nucleic Acids Res 34(5):e42 (2006))、加熱することができ;あるいは、プロテアーゼKなどのプロテアーゼを用いて、若しくはグアニジンイソチオシアネートなどのカオトロピック塩の使用によって、溶解は実現可能である(米国特許出願公開第2007/0281313号)。本明細書に記載の方法によるゲノムDNAの増幅は、反応混合物が細胞溶解物に添加され得るように、細胞溶解物に対し直接実行することができる。あるいは、細胞溶解物は、当業者に公知の方法を用いて、2つ以上の容器内、チューブ内、又は領域内など、2以上の量に分割することができ、細胞溶解物の一部が各々の体積の容器、チューブ、又は領域内に含有される。各々の容器、チューブ、又は領域内に含有されたゲノムDNAは、次に本明細書に記載の方法又は当業者に公知の方法によって増幅され得る。
【0073】
また、本発明で使用される核酸は、天然塩基、又は非天然塩基を含み得る。これに関して、天然デオキシリボ核酸は、アデニン、チミン、シトシン、又はグアニンからなる群から選択される1又は複数の塩基を有することができ、リボ核酸は、ウラシル、アデニン、シトシン、又はグアニンからなる群から選択される1又は複数の塩基を有することができる。天然骨格を有しているか又は類似体の構造を有しているかにかかわらず、核酸内に含まれ得る例示的な非天然塩基としては、限定はされないが、イノシン、キサタニン(xathanine)、ヒポキサタニン(hypoxathanine)、イソシトシン、イソグアニン、5−メチルシトシン、5−ヒロドキシメチルシトシン、2−アミノアデニン、6−メチルアデニン、6−メチルグアニン、2−プロピルグアニン、2−プロピルアデニン、2−チオウラシル(2−thioLiracil)、2−チオチミン、2−チオシトシン、15−ハロウラシル、15−ハロシトシン、5−プロピニルウラシル、5−プロピニルシトシン、6−アゾウラシル、6−アゾシトシン、6−アゾチミン、5−ウラシル、4−チオウラシル、8−ハロアデニン若しくは8−ハログアニン、8−アミノアデニン若しくは8−アミノグアニン、8−チオールアデニン若しくは8−チオールグアニン、8−チオアルキルアデニン若しくは8−チオアルキルグアニン、8−ヒドロキシルアデニン若しくは8−ヒドロキシルグアニン、5−ハロ置換ウラシル若しくは5−ハロ置換シトシン、7−メチルグアニン、7−メチルアデニン、8−アザグアニン、8−アザアデニン、7−デアザグアニン、7−デアザアデニン、3−デアザグアニン、又は3−デアザアデニンなどが挙げられる。特定の実施形態は、米国特許第5,681,702号に一般的に記載されているように、非特異的なハイブリダイゼーションを低減する目的で、核酸内にイソシトシン及びイソグアニンを利用することができる。
【0074】
本明細書で使用される場合、用語「プライマー」には、一般に、配列決定プライマーなど、ポリヌクレオチド鋳型と二本鎖を形成する際に核酸合成の開始点として働くことが可能であり、且つ、伸長された二本鎖が形成されるように、鋳型に沿ってその3′末端から伸長させることが可能である、天然又は合成のオリゴヌクレオチドが含まれる。伸長プロセス中に付加されるヌクレオチドの順序は、鋳型ポリヌクレオチドの配列によって決定される。通常、プライマーはDNAポリメラーゼによって伸長される。プライマーは通常、3〜36ヌクレオチドの範囲内、5〜24ヌクレオチドの範囲内、又は14〜36ヌクレオチドの範囲内の長さを有する。本発明の範囲内のプライマーとしては、直交性プライマー(orthogonal primer)、増幅プライマー、及び構築用プライマー(constructions primer)などが挙げられる。プライマー対は、1つの目的配列に隣接させることも、あるいは一連の目的配列に隣接させることもできる。プライマー及びプローブは、縮重配列とすることも、準縮重配列とすることもできる。本発明の範囲内のプライマーは標的配列に隣接して結合する。「プライマー」は、通常、目的の試料中に存在し得る標的又は鋳型に、該標的とのハイブリダイズにより結合する遊離3′−OH基を有し、且つ、その後該標的に相補的なポリヌクレオチドの重合を促進する、短いポリヌクレオチドとみなされ得る。本発明のプライマーは、17〜30ヌクレオチドの範囲のヌクレオチドから構成される。ある態様において、プライマーは、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも21ヌクレオチド、少なくとも22ヌクレオチド、少なくとも23ヌクレオチド、少なくとも24ヌクレオチド、少なくとも25ヌクレオチド、少なくとも26ヌクレオチド、少なくとも27ヌクレオチド、少なくとも28ヌクレオチド、少なくとも29ヌクレオチド、少なくとも30ヌクレオチド、少なくとも50ヌクレオチド、少なくとも75ヌクレオチド、又は少なくとも100ヌクレオチドである。
【0075】
「増幅」又は「増幅する」という表現は、特定のポリヌクレオチドの余分な又は複数のコピーが形成されるプロセスを指す。
【0076】
本明細書に記載の方法により増幅されたDNAは、当業者に公知の方法を用いて配列決定及び解析されてもよい。目的の核酸配列の配列決定は、当該技術分野において公知の種々の配列決定法、例えば、限定はされないが、ハイブリダイゼーションによる配列決定法(SBH)、ライゲーションによる配列決定法(SBL)(Shendure et al. (2005) Science 309:1728)、定量的増加的蛍光ヌクレオチド付加配列決定法(QIFNAS)、段階的なライゲーション及び切断、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)、分子ビーコン、TaqManレポータープローブ消化(、ピロシーケンス、蛍光in situ配列決定法((FISSEQ)、FISSEQビーズ(米国特許第7,425,431号)、ゆらぎ配列決定法(PCT/US05/27695)、多重配列決定法(米国特許出願12/027,039号、2008年2月6日出願;Porreca et al (2007)Nat.Methods 4:931)、重合コロニー(POLONY)配列決定法(米国特許第6,432,360号、同第6,485,944号及び同第6,511,803号、並びにPCT/US05/06425);ナノグリッドローリングサークル配列決定法(ROLONY)(米国特許出願第12/120,541号、2008年5月14日出願)、対立遺伝子特異的オリゴライゲーションアッセイ(例えば、オリゴライゲーションアッセイ(OLA)、連結された線形プローブ及びローリングサークル増幅(RCA)の読み取りを利用した単一鋳型分子OLA、連結されたパッドロックプローブ、及び/又は連結された環状パッドロックプローブ及びローリングサークル増幅(RCA)の読み取りを利用した単一鋳型分子OLA)などを用いて行うことができる。例えば、Roche 454プラットフォーム、Illumina Solexaプラットフォーム、AB−SOLiDプラットフォーム、Helicosプラットフォーム、及びPolonatorプラットフォームなどのプラットフォームを用いたハイスループット配列決定法も利用できる。種々の光に基づく配列決定技術が、当該技術分野において公知である(Landegren et al.(1998)Genome Res.8:769−76;Kwok(2000)Pharmacogenomics1:95−100;及びShi(2001)Clin.Chem.47:164−172)。
【0077】
増幅DNAは任意の好適な方法によって配列決定することができる。具体的には、増幅DNAは、Applied Biosystems社製のSOLiD配列決定技術、又はIllumina社製のGenome Analyzerなどのハイスループットスクリーニング法を用いて配列決定することができる。本発明のある態様において、増幅DNAはショットガン法で配列決定することができる。リード数は、少なくとも10,000、少なくとも1,000,000、少なくとも10,000,000、少なくとも100,000,000、又は少なくとも1,000,000,000であり得る。別の態様では、リード数は、10,000〜100,000、100,000〜1,000,000、1,000,000〜10,000,000、10,000,000〜100,000,000、又は100,000,000〜1,000,000,000であり得る。「リード」とは、配列決定反応によって得られる、連続した核酸配列の長さである。
【0078】
「ショットガン配列決定法」は、非常に大量のDNA(ゲノム全体など)の配列決定に使用される方法を指す。この方法では、配列決定されるDNAがまず、個々に配列決定することが可能な、より小さな断片に細断される。次に、これらの断片の配列は、重複している配列に基づいて元の順番に再構築され、これにより完全配列が得られる。DNAの「細断」は、制限酵素消化又は機械的剪断を含む種々の異なる手法を用いて行うことができる。重複配列は、通常、適切にプログラミングされたコンピュータによってアラインメントされる。cDNAライブラリーをショットガン法で配列決定するための方法及びプログラムは当該技術分野において周知である。
【0079】
増幅及び配列決定法は、診断アッセイ、予後アッセイ、薬理ゲノミクス、及び臨床試験モニタリングを予後判定(予測的)目的に使用することで個人を予防的に治療する、予測医療の分野において有用である。したがって、本発明のある態様は、個人が障害及び/又は疾患を発症する危険性の有無を判定することを目的とした、ゲノムDNAを判定するための診断アッセイに関する。このようなアッセイを、予後判定又は予測を目的に使用することで、障害及び/又は疾患の発症前に個人を予防的に治療することができる。したがって、ある特定の例示的な実施形態において、本明細書に記載の発現プロファイリング法のうちの1又は複数を用いた、1又は複数の疾患及び/又は障害を診断及び/又は予後予測する方法が提供される。
【0080】
本明細書で使用される場合、用語「生物試料」は、限定はされないが、対象、及び対象内に存在する組織、細胞、生体液から単離された、組織、細胞、体液、及びその単離物を包含することが意図される。
【0081】
ある特定の例示的な実施形態において、本明細書に記載の1又は複数のゲノムDNA配列を含む電子装置可読媒体が提供される。本明細書で使用される場合、「電子装置可読媒体」とは、直接的に電子装置による読み取り及びアクセスが可能な、データ又は情報を記憶、保持、又は格納するための、任意の好適な媒体を指す。そのような媒体としては、限定はされないが、フロッピーディスク、ハードディスク記憶媒体、及び磁気テープなどの磁気記憶媒体;コンパクトディスクなどの光学式記憶媒体;RAM、ROM、EPROM、及びEEPROMなどの電子記憶媒体;一般的なハードディスク、及び磁気/光学式記憶媒体などのこれらのカテゴリーの複合型を挙げることができる。媒体は、本明細書に記載の1又は複数の発現プロファイルが記録されるように適合又は構成される。
【0082】
本明細書で使用される場合、用語「電子装置」は、任意の好適な演算若しくは処理装置、又はデータ若しくは情報を記憶するように構成若しくは適合された他のデバイスを包含することが意図される。本発明での使用に適した電子装置の例としては、独立型演算装置;構内ネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)インターネット、イントラネット、及びエクストラネットを含むネットワーク;携帯情報端末(PDA)、携帯電話、及びポケットベルなどの電子装置;並びに局所内処理システム及び分散処理システムが挙げられる。
【0083】
本明細書で使用される場合、「記録された」とは、情報を電子装置可読媒体上に記憶又はコード化するための処理を指す。当業者は、情報を公知の媒体上に記録して、本明細書に記載の1又は複数の発現プロファイルを含む製品を生成するための、現在知られている任意の方法を、容易に採用することができる。
【0084】
種々のソフトウェアプログラム及びフォーマットを用いて、本発明のゲノムDNA情報を電子装置可読媒体上に記憶することができる。例えば、核酸配列は、WordPerfect及びMicroSoft Wordなどの市販のソフトウェアでフォーマットされた文書処理テキストファイル中に、又は、DB2、Sybase、若しくはOracleなどのデータベースアプリケーションに記憶されたASCIIファイルの形式で、並びに他の形式で表すことができる。本明細書に記載の1又は複数の発現プロファイルが記録された媒体を得る又は作製するために、任意の数のデータ処理装置構築フォーマット(例えば、テキストファイル又はデータベース)も用いてよい。
【0085】
記載された本発明の実施形態が、本発明の原理の適用のいくつかの単なる例示であることを理解されたい。当業者は、本明細書に提供された教示に基づいて、本発明の趣旨及び範囲を逸脱しない範囲で、多数の変更を行ってよい。本願に引用された全ての参考文献、特許、及び特許出願公開の内容は、全ての目的においてそれらの全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0086】
本発明を代表するものとして以下の実施例が挙げられる。これらの実施例及び他の等価な実施形態は本開示、図面、及び添付の特許請求の範囲を考慮すれば明らかとなるため、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0087】
実施例I
一般的プロトコル
以下の一般的プロトコルは全ゲノム増幅に有用である。単一細胞を溶解緩衝液中で溶解する。トランスポソームは等モルのトランスポゾンDNA及びTn5トランスポザーゼを室温で1時間インキュベートすることにより形成される。トランスポゾン及び転位緩衝液を細胞溶解物に添加して十分に混合し、55℃で10分間インキュベートする。転位後に1mg/mlのプロテアーゼを添加し、単一細胞ゲノムDNAに結合したトランスポザーゼを除去する。反応混合液にDeep vent(exo−)、DNAポリメラーゼ(New England Biolabs社)、dNTP、PCR反応緩衝液、及びプライマーを加えて、72℃で10分間加熱してトランスポゾン挿入により生成されたギャップを埋める。反応混合物をマイクロ流体デバイスにロードして微小液滴を形成する。単一細胞ゲノムDNA鋳型、DNAポリメラーゼ、dNTP、反応緩衝液及びプライマーを含む液滴をPCRチューブに集める。40〜60サイクルのPCR反応を実施して、単一細胞ゲノムDNAを増幅する。サイクル数は、液滴中の増幅反応が飽和するように選択される。液滴を溶解し、ハイスループットディープシークエンシング(配列決定)のようなさらなる解析のために、増幅産物を精製する。
【0088】
実施例II
トランスポザーゼをトランスポゾンDNAの混合
EDTAを含有する緩衝液中で、Tn5トランスポザーゼ(Epicentre社)をトランスポゾンDNAと等モル数で混合し、室温で10〜60分間インキュベートする。最終トランスポソーム濃度は0.1〜10μMである。トランスポゾンDNA構築物は、一方の末端に二本鎖19bpトランスポザーゼ結合部位を、もう一方の末端にプライミング部位を有する。一本鎖プライミング部位は、5′突出末端を形成する。長さが可変であり、配列が複雑なバーコード配列を、19bp結合部位と前記プライミング部位との間に、必要に応じて設計することが可能である。トランスポソームは、50%Tris−EDTA及び50%グリセロール溶液中に何倍にも希釈し、−20℃で保存してよい。
【0089】
実施例III
細胞溶解
以下の通りに、レーザー解剖顕微鏡(LMD−6500、Leica社)を用いて、細胞を選択し、培養皿から切り出し、チューブに分配する。細胞を膜コーティング培養皿上に播種し、10倍対物レンズを備えた明視野顕微鏡(Leica社)を用いて観察する。次に、個々の選択した細胞の周囲の膜を、PCR用チューブの蓋に落下するように、UVレーザーを用いて切断する。チューブを短時間遠心し、細胞をチューブの底に落す。3〜5μlの溶解緩衝液(30mM Tris−Cl(PH7.8)、2mM EDTA、20mM KCl、0.2% Triton X−100、500μg/ml Qiagen Protease)をPCR用チューブの側面を伝って加え、スピンダウンする。次に、捕捉された細胞を、PCR装置上で、50℃、3時間、75℃、30分間の温度スケジュールを用いて熱溶解させる。あるいは、単一細胞を、EDTA及びQIAGEN protease(QIAGEN社)などのプロテアーゼを10〜5000μg/mLの濃度で含有する低塩溶解緩衝液中に、マウスピペットで移す。インキュベーション条件は使用するプロテアーゼに応じて変動させる。QIAGEN proteaseの場合、インキュベーションは37〜55℃で1〜4時間となり得る。次に、プロテアーゼを80℃まで熱不活化し、4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホニルフルオライド塩酸塩(AEBSF)又はフェニルメタンスルホニルフルオライド(PMSF)(Sigma Aldrich社)などの特異的なプロテアーゼ阻害剤でさらに不活化する。細胞溶解物を−80℃で保存する。
【0090】
あるいは、ペトリ皿で培養したヒトBJ細胞株をトリプシン処理し、エッペンドルフ低結合チューブに集める。細胞をPBSで洗浄して細胞増殖培地を除去し、150mM NaCl緩衝液に再懸濁する。細胞をさらに1μl当たり約5細胞に希釈し、さらに膜コーティング培養皿にプレーティングする。単一細胞を、マウスピペッティングシステムにより、5μlの細胞溶解緩衝液(20mM Tris pH8.0、20mM NaCl、0.2%Triton X‐100、15mM DTT、1mM EDTA、1mg/ml Qiagen protease)中に採取する。次に、捕捉された細胞を、PCR装置上で、50℃、3時間、70℃、30分間の温度スケジュールを用いて熱溶解させる。溶解した細胞をトランスポゾン挿入によるデジタル増幅(DIANTI)の前に−80℃で保存する。
【0091】
実施例IV
転位
単一細胞溶解物及びトランスポソームを、1〜100mM Mg2+及び任意に存在してもよい1〜100mM Mn2+、Co2+、又はCa2+を含有する緩衝系中で混合する。十分に混合し、37〜55℃で5〜240分間インキュベートする。反応体積は細胞溶解物の体積に応じて変動する。反応中に添加されるトランスポソームの量は所望の断片化サイズに応じて容易に調整可能である。転位反応は、EDTA及び任意に存在してもよいEGTA又は他のイオンキレート化剤を用いてMg2+をキレート化することにより停止させる。所望により、短い二本鎖DNAをスパイク−イン(spike−in)として混合物に添加することが可能である。残渣中のトランスポソームは、37〜55℃、10〜60分間、最終濃度1〜500μg/mLのQIAGEN proteaseなどのプロテアーゼ消化によって不活性化する。次に、プロテアーゼを熱及び/又はAEBSFなどのプロテアーゼ阻害剤で不活性化する。
【0092】
実施例V
ギャップフィリング
転位及びトランスポザーゼの除去後、Mg2+、dNTP mix、プライマー、及びDeep Vent(exo−),DNA Polymerase(New England Biolabs社)などの熱安定性DNAポリメラーゼを含むPCR反応混合物を、適切な温度及び適切な時間で前記溶液に添加し、転位反応により残された9bpのギャップが埋められる。ギャップフィリングにおけるインキュベーションの温度及び時間は、使用される特異的DNAポリメラーゼに依存する。反応後、所望によりDNAポリメラーゼを加熱及び/又はQIAGEN proteaseなどのプロテアーゼ処理により不活性化する。使用される場合、次に、プロテアーゼは、熱及び/又はプロテアーゼ阻害剤により不活性化される。
【0093】
実施例VI
微小液滴の生成及び分離された微小液滴中の各DNA断片の単離及び増幅
ある態様によれば、当業者に公知の一般的な方法を使用して、各液滴内で反応が行われて液滴内のDNA断片が増幅される、PCR増幅反応試薬の液滴を作製する。プライマー結合部位を有するDNA断片を含む上記実施例由来のギャップが埋められた二本鎖産物を水性媒体中のPCR反応試薬に添加し、次いでこれを油と混ぜ合わせると液滴が生じる。ここで、液滴の数は、単一のギャップが埋められた二本鎖産物が十分なPCR反応試薬と共に単一液滴内に分離されるように、ギャップが埋められた二本鎖産物の数を超える。次いで、液滴は、PCR条件に供されて、各液滴内の各DNA断片がPCR増幅される。適切なエマルジョン液滴増幅法は当業者に公知であり、それぞれ参照によりその全体が本明細書に取り込まれる、Mazutis,L.,et al.Single−cell analysis and sorting using droplet−based microfluidics,Nature Protocols,2013,8,p.870−891;Williams,R,et al.Amplification of complex gene libraries by emulsion PCR,Nature Methods,2006,3,p.545−550;Fu,Y,et al.Uniform and accurate single−cell sequencing based on emulsion whole−genome amplification.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2015,112(38):p.11923−8;Sidore,A.M.,et al.Enhanced sequencing coverage with digital droplet multiple displacement amplification.Nucleic Acids Research.2015,Dec.23;Nishikawa,Y,et al.Monodisperse picoliter droplets for low−bias and contamination−free reactions in single−cell whole genome amplification. PLoS One.2015,September 21;Rhee,M.,et al.Digital droplet multiple displacement amplification (ddMDA), for whole genome sequencing of limited DNA samples.PLoS One.2016.May 4;Guo,M.T.,et al. Droplet microfluidics for high−throughput biological assays,Lab on a Chip, 2012,12,p.2146−2155;Chabert,M.,et al.Automated microdroplet platform for sample manipulation and polymerase chain reaction,Analytical Chemistry,2006,78(22),p.7722−7728;Kiss,M.M.,High−throughput quantitative polymerase chain reaction in picoliter droplets,Analytical Chemistry,2008,80(23),p.8975−8981;Lan,F.,et al.Droplet barcoding for massively parallel single−molecule deep sequencing,Nature Communications,2016,7(11784)に記載のものを含む。適切な油相は当業者に公知であり、水相が自然発生的に水性液滴を生じるか、分離体積を生じるか、又は油相に囲まれたコンパートメンを生じる。例示的な油としては、それぞれ参照によりその全体が本明細書に取り込まれる、Evagreen用のQX200(商標)Droplet Generation Oil(Bio−Rad社)、008−FluoroSurfactant in HFE 7500 (RAN Biotechnologies社)、Pico−Surf(商標)1 (Dolomite Microfluidics社)、Proprietary Oil Surfactants (RainDance Technologies社)、Mazutis,L.,et al.、Single−cell analysis and sorting using droplet−based microfluidics,Nature Protocols,2013,8,p.870−891に記載のフッ素系界面活性剤及びフッ素化油、並びにBaret,J.−C.Lab on a Chip,2012,12,p.422−433に記載のその他の界面活性剤及び油が挙げられる。
【0094】
単一細胞全ゲノム増幅を行うための有用なマイクロ流体デバイスは、それぞれ参照によりその全体が本明細書に取り込まれる,Wang et al.,Cell 150(2):402−412(2012),de Bourcy CFA,PLOS ONE 9(8):e105585(2014),Gole et al.,Nat Biotechnol 31 (12): 1126−1132 (2013),and Yu et al.,Anal Chem 86 (19):9386−9390(2014),;Fu,Y,et al.Uniform and accurate single−cell sequencing based on emulsion whole−genome amplification. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2015,112(38):p.11923−8;Sidore,A.M.,et al.Enhanced sequencing coverage with digital droplet multiple displacement amplification.Nucleic Acids Research.2015,Dec.23;Nishikawa,Y,et al.Monodisperse picoliter droplets for low−bias and contamination−free reactions in single−cell whole genome amplification.PLoS One.2015,September 21;Rhee,M.,et al.Digital droplet multiple displacement amplification(ddMDA),for whole genome sequencing of limited DNA samples.PLoS One.2016.May 4;Lan,F.,et al.Droplet barcoding for massively parallel single−molecule deep sequencing,Nature Communications,2016,7(11784)に記載されている。そのようなデバイスは、汚染を回避すること及び複数の単一分子又は単一細胞を並列でハイスループット分析することを可能にする。マイクロ流体デバイスは総反応体積(マイクロリットルからナノリットル又はピコリットル)が少ないので、反応効率が促進されるだけでなく、使用される酵素及び試薬の著しいコスト削減も可能になる。
【0095】
実施例VII
微小液滴内に分離されたDNA断片の増幅
上記実施例からのギャップフィリングDNA断片をマイクロ流体チップにロードして、1〜100,000,000個の微小液滴を生成した。マイクロ流体チップデザインは、参照によりその全体が本明細書に取り込まれる、Macosko et al.Cell 161(5),2015によって提供されるような従来のフローフォーカシング(flow−focusing)液滴生成デザインを変更したものである。前記マイクロ流体チップデザインは、マイクロチャネルによって流体連結により接続され、さらにエマルジョン液滴出口領域に流体連結により接続された、疎水性液体注入口(オイル注入口と称する)、DNA溶液又は水相注入口、及び油相と水相とを組み合わせるための混合領域を含んでいた。水性流路に沿った表面積及び鋭角は、マイクロ流体チップデザインの表面へのDNA断片の付着を防ぐために、Macosko et al.Cell 161(5),2015のデザインと比較して最小化された。油相注入口には、正方形のフィルターなどのマイクロ流体デザインで一般的に使用されるフィルターが含まれていた。前記水相注入口には、正方形のフィルターなど、マイクロ流体デザインで一般的に使用されるフィルターも含まれていたが、水相と接触する表面積を最小にするために、正方形のフィルターの表面積を減少させた。適切な疎水性相は、水性媒体が疎水性相に導入された場合に水性液滴を生成するものである。例示的な疎水性相は、3‐エトキシパーフルオロ(2‐メチルヘキサン)などのフッ素化油など、油などの疎水性液体、及び界面活性剤を含む。界面活性剤は当業者に周知である。適切な油及び界面活性剤を含む例示的な疎水性相は、水溶液と混合しないか水溶液中の生化学反応に悪影響を及ぼさない疎水性界面活性剤含有液であり、EvaGreen用のQX200(商標)Droplet Generation Oil(Bio−Rad社)として市販されている。他の適切な油と界面活性剤の組み合わせは市販されているか、当業者に公知である。油相と水相が混合領域又はエマルジョン液滴出口領域で混合されると、水相は油相に囲まれた液滴を自然発生的に形成する。ある態様によれば、フラッシュ体積に必要がないために界面活性剤を含んでいなくてもよい油などの疎水性流体のフラッシュ体積は、マイクロ流体デザイン内又は水相をマイクロ流体デザイン注入するために使用される注射器若しくは注入器内のいずれかの上流において、マイクロ流体チップデザインに導入された当初の水相の損失を最小限に抑えるために、死容積を占め得る任意の水相を置き換えるために使用される。有用なマイクロ流体チップデザインは、AutoCADソフトウェア(Autodesk社)を使用して作製することができ、CAD(Art Services社)によってマイクロ流体製造用のフォトマスクに印刷することができる。金型又はマスターは、参照によりその全体が本明細書に取り込まれる、Mazutis et al.Nature Protocols 8(5),2013に記載される従来技術を使用して作製できる。マイクロ流体チップは、未硬化ポリジメチルシロキサン(PDMS)(Dow Corning社、Sylgard 184)を硬化させることによってマスターから作製することができ、加熱及び硬化させて溝又は回路を有する表面を作製する。入口及び出口穴が形成され、回路を有する硬化表面がスライドガラスに対して配置されて固定され、マイクロチャネル及びマイクロ流体チップが形成される。使用前に、マイクロ流体チップの内部を、マイクロ流体チップの内部の疎水性を改善するための化合物で処理し、洗浄して潜在的な汚染を除去することができる。
【0096】
本明細書で実施した実験では、各マイクロ流体チップをアクアペル(Aquapel)で処理して、チャネル表面を疎水性とした。各実験を開始する前に、潜在的な汚染を除去するために前記デバイスをヌクレアーゼフリーの水で洗浄し、次にEvaGreen用のQX200(商標)Bio−Rad Droplet Generation Oilなどの液滴生成オイルで洗浄した。液滴生成油は、ポリエチレンチューブを介してマイクロ流体チップの油入口に接続された注射器内に入れられる(Scientific Commodities社、BB31695−PE/2)。チップの出口は、液滴収集のためのポリエチレンチューブを介して2mlのDNA LoBindチューブに接続されている。
【0097】
ゲノムDNA(gDNA)溶液を死容積なしでマイクロ流体チップにロードするために、注射針を介して長さ140cmのポリエチレンチューブに接続された1mlの注射器に、3‐エトキシパーフルオロ(2‐メチルヘキサン)(「HFEオイル」)を予め満たした。次いで、(トランスポゾン挿入及びギャップフィリングから調製した)gDNA溶液を、死容積が生じる場合は、注射針又は注射器に触れることなくチューブに吸引した。ポリエチレンチューブ内のgDNA溶液からHFE油(いずれも透明)を区別するために、gDNA溶液を吸い込む前に少量の空気をポリエチレンチューブに吸い込み、両方の種類の液体を分離した。この方法により、全てのgDNA溶液が注射針又は注射器内に残らずにチップに注入され、溶液が、溶液と混合されないHFEオイルによってチップ内に完全に押し込まれることになる。
【0098】
gDNA溶液及び液滴生成油がマイクロ流体デバイス内で混合されたとき、液滴は流れ回路内で自然発生的に形成された。次いで、液滴を増幅のためのサーモサイクリングのためにPCRチューブに等分した。以下のスケジュールに従ってサーマルサイクラー中でPCR反応を実施した。
【0099】
【表1】
【0100】
その後、75μlのパーフルオロオクタノール(TCI Chemicals社)を各PCRチューブに添加した。手で振盪し遠心分離した後、全ての液滴を溶解し、DNA増幅産物を含む水溶液をエッペンドルフ低結合チューブに集め、Zymo Research社製のDNA Clean&Concentrator−5により精製し、下流解析のために一緒にプールした。精製DNA産物の濃度は、Qubit 2.0蛍光光度計によって測定される。10ngの増幅DNAを、1つのqPCRプライマー遺伝子座に対して使用して、転位系及びエマルジョン液滴増幅法から生じる増幅収率及び増幅の均一性を決定する。
【0101】
1ugの増幅されたDNA産物は、Illumina TruSeq DNA PCRフリーライブラリー調製キットを用いてIllumine配列決定ライブラリーを作製するための入力として使用される。投入されたDNAをまずCovarisソニケーターで超音波処理し、サイズ選択を行って約300bpの長さのDNA断片を濃縮する。ヒト細胞からの3種の試料、SC2、SC3d2、及びSC6を、Illumina HiSeq 4000配列決定システムの3つのレーンにロードする。試料あたり約60Gの生データが取得される。
【0102】
前記配列決定データは、Burrows−Wheeler Aligner(BWA)によるヒト参照ゲノムにアラインメントされる。カバレッジは、マッピング配列決定の読み取りのローレンツ曲線をプロットすることにより決定される。SNVは、SAMtoolsによって決定される。対立遺伝子ドロップアウト率(ADO)は、単一細胞内の未検出SNVと実際のヘテロ接合性SNVの比率によって計算される。
【0103】
実施例VIII
DNA断片サイズ解析
ある態様によれば、種々のDNA断片サイズを得るために、Tn5トランスポソーム調製及び転位反応条件を変えることが可能である。Tn5転位効率及び挿入密度は、広い範囲内で任意に調整することができる。本明細書に記載されるように単一細胞ゲノムDNAを増幅した後、増幅により1マイクログラムを超える増幅産物が生成される。産物のサイズ分布をDNA BioAnalyzerで精査した。その結果を図6に示す。X軸は断片サイズであり、Y軸は蛍光強度が反映された任意の単位を有する相対量である。画像の両端にある2つの鋭いピークは、それぞれ35bp及び10380bpのDNA断片の2つのスパイク−インである。増幅産物の平均長は、3000bp超であった。
【0104】
下記の表1に示すように、ヒト細胞の全ゲノムにわたる8つの異なる遺伝子座のqPCRの結果は、非常に均一な増幅を示した。
【0105】
【表2】
【0106】
前述の増幅効率をさらに調べるために、Illuminaハイスループット配列決定システム上で、3種全ての単一細胞の前記増幅産物からのライブラリーを30倍まで作製した。配列決定データは、Burrows−Wheeler Aligner(BWA)を用いて参照ヒトゲノムにマッピングした。下記表2に示すように、解析後、平均カバレッジ90%の参照ヒトゲノム及び平均対立遺伝子ドロップアウト率(ADO)30%が達成され、これは現在市販されている単一細胞全ゲノム増幅キットを上回った(表2)。
【0107】
【表3】
【0108】
本明細書に記載の前記転位系及び液滴エマルジョン増幅技術を用いた全ゲノムが増幅された3種の単一ヒト細胞の図7に示される読み取り深度分析は、全ヒトゲノムにわたって非常に均一な増幅効率を示した。これはコピー数変異(CNV)コーリングの分解能及び精度の改善に有用である。
【0109】
実施例IX
分離技術
増幅後、解析のために、種々の異なる長さの増幅産物を、互いから、鋳型から、及び過剰なプライマーから分離することが望ましい場合がある。
【0110】
一実施形態では、増幅産物は標準方法(Sambrook et al.,“Molecular Cloning,”A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,13.7−13.9:1989)を用いたアガロースゲル電気泳動、アガロース−アクリルアミドゲル電気泳動、又はポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離される。ゲル電気泳動法は当該技術分野において周知である。
【0111】
あるいは、クロマトグラフ法を用いて分離を達成してもよい。本開示で使用されて得る多種のクロマトグラフィー、すなわち、吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、及び分子篩クロマトグラフィー、並びに、それらを用いるための、カラムクロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、及びガスクロマトグラフィーを含む多くの特殊な技術が存在する(Freifelder,Physical Biochemstry Applications to Biochemistry and Molecular Biology,2nd ed.Wm.Freeman and Co.,New York,N.Y.,1982)。さらに別の代替法は、例えば、ビオチン又は抗原で標識された核酸産物をそれぞれアビジン又は抗体を担持するビーズで捕捉することである。
【0112】
マイクロ流体法は、例えば、ACLARA BioSciences社により設計されたものなどを含む、ミクロキャピラリーなどのプラットフォーム上での分離、又は、Caliper Technologies社製のLabChip(商標)が挙げられる。他の分離技術がマイクロリットル体積を必要とするのとは対照的に、これらのマイクロ流体プラットフォームはナノリットル体積の試料しか必要としない。遺伝子解析に関与するいくつかプロセスの小型化はマイクロ流体デバイスを用いて達成された。例えば、参照により本明細書に取り込まれる、Northrup及びWhiteの公開済みPCT国際公開第94/05414号には、試料からの核酸の収集及び増幅のための統合型micro−PCR(商標)装置が報告されている。米国特許第5,304,487号、同第5,296,375号、及び同第5,856,174号には、核酸解析に関与する種々の処理操作及び分析操作を組み込んだ装置及び方法が記載されており、これらの米国特許は参照により本明細書に取り込まれる。
【0113】
いくつかの実施形態では、増幅されたDNAを解析するための追加の、又は別の手段を与えることが望ましい場合がある。これらの実施形態では、ミクロキャピラリーアレイが解析に使用されることが企図される。ミクロキャピラリーアレイ電気泳動は、一般的に、特定の分離媒体で満たされていても満たされていなくてもよい、細いキャピラリー又はチャネルの使用を含む。キャピラリーを通じた試料の電気泳動によって、サイズに基づく分離プロファイルが試料に与えられる。ミクロキャピラリーアレイ電気泳動は、一般に、サイズに基づく配列決定、PCR産物解析、及び制限酵素断片サイジングのための迅速な方法を提供する。これらのキャピラリーの高い比表面積は、キャピラリー全体での実質的な熱変動も無く、キャピラリー全体により高い電場を印加することを可能にし、結果的により迅速な分離を可能にする。さらに、共焦点画像解析法と組み合わされた場合、これらの方法は、放射性配列決定法の感度に匹敵するアトモル範囲の感度をもたらす。ミクロキャピラリー電気泳動デバイスを含むマイクロ流体デバイスの微細製造は、例えば、参照により本明細書に取り込まれる、Jacobson et al.,Anal Chem,66:1107−1113,1994;Effenhauser et al.,Anal Chem,66:2949−2953,1994;Harrison et al.,Science,261:895−897,1993;Effenhauser et al.,Anal Chem,65:2637−2642,1993;Manz et al.,J. Chromatogr 593:253−258,1992;及び米国特許第5,904,824号において詳細に考察されている。通常、これらの方法は、シリカ、シリコン、又は他の結晶性の基板上又はチップ上の、ミクロンスケールのチャネルのフォトリソグラフィーエッチングを含み、本開示における使用に容易に適合することができる。
【0114】
Tsuda et al.(Anal Chem,62:2149−2152,1990)には、円柱状のキャピラリーガラス管の代わりとなる、矩形キャピラリーが記載されている。これらの系のいくつかの利点とは、高さ幅比の大きさと、それによる比表面積の大きさに起因する効率的な熱放散、及び光学的オンカラム検出モードにおける検出感度の高さである。これらの平面的な分離チャネルは二次元的な分離を可能とし、ある力が分離チャネル全体に加えられ、多チャネルアレイ検出器の使用により試料区域が検出される。
【0115】
多くのキャピラリー電気泳動法において、キャピラリー(例えば、石英ガラスキャピラリー又は平面基板にエッチング、機械加工、若しくは成形したチャネル)は、適切な分離/ふるいマトリックスで充填される。通常、ミクロキャピラリーアレイには当該技術分野において公知の種々のふるいマトリックスが使用され得る。そのようなマトリックスの例としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリルアミド、及びアガロースなどが挙げられる。一般的に、特定のゲルマトリックス、泳動用緩衝液、及び泳動条件は、特定の適用の分離特性、例えば、核酸断片のサイズ、必要な解像度、及び天然又は未変性の核酸分子の存在を最大にするように選択される。例えば、泳動用緩衝液は、試料中の核酸を変性させるために、変性剤、尿素などのカオトロピック剤を含む場合がある。
【0116】
質量分析は、真空中で分子をイオン化し、揮発によりそれらを「飛行」させることにより、個々の分子を「計量」する手段を提供する。電場及び磁場の組み合せの影響下で、イオンはそれらの個々の質量(m)及び電荷(z)に応じた軌道を描く。低分子量分子に関して、質量分析は、親分子イオンの質量の決定による、有機分子の解析及び特性決定のための、物理有機化学の通例のレパートリーの一部となっている。さらに、この親分子イオンと他の粒子(例えば、アルゴン原子)との衝突をアレンジすることより、いわゆる衝突誘起解離(CID)によって、分子イオンが断片化されて二次イオンが形成される。フラグメンテーションのパターン/経路は、しばしば、詳細な構造情報を導き出すことを可能にする。当該技術分野における質量分析法の他の応用は、Methods in Enzymology,Vol.193:“Mass Spectrometry”(J.A.McCloskey,editor),1990,Academic Press,New Yorkに要約されている。
【0117】
高い検出感度、質量測定の精度、MS/MS構成と併せたCIDによる詳細な構造情報、及び速度、並びにコンピュータへのオンラインデータ転送の提供において、質量分析の分析上の利点が明らかであることから、核酸の構造解析への質量分析の使用にはかなりの関心があった。この分野を要約している概説としては、参照により本明細書に取り込まれる、Schram,Methods Biochem Anal,34:203−287,1990、及びCrain,Mass Spectrometry Reviews,9:505−554,1990が挙げられる。質量分析を核酸に適用するまでの最大のハードルは、これらの非常に極性のある生体高分子を揮発させることが困難であることである。すなわち、「配列決定」は、親分子イオンの質量を決定し、これを通じて、既知の配列を確認することによる、又は、特に、イオン化及び揮発のために、高速原子衝撃法(FAB質量分析)若しくはプラズマ脱離法(PD質量分析)を利用する、MS/MS構成におけるCIDを介した二次イオン(断片イオン)の生成を通じて既知配列を確認することによる、低分子合成オリゴヌクレオチドに限定されていた。一例として、オリゴデオキシヌクレオチドの化学合成のための保護二量体ブロックの解析へのFABの適用が報告されている(Koster et al.,Biomedical Environmental Mass Spectrometry 14:111−116,1987)。
【0118】
イオン化/脱離法として、エレクトロスプレー/イオンスプレー法(ES)及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)の2つがある。ES質量分析は、Fenn et al.,J.Phys.Chem.88;4451−59,1984;PCT出願国際公開第90/14148号によって提唱されたものであり、その応用は総説、例えば、Smith et al.,Anal Chem 62:882−89,1990、及びArdrey,Electrospray Mass Spectrometry,Spectroscopy Europe,4:10−18,1992に要約されている。質量分析計としては、四重極型が最もよく使用されている。質量計算に使用できるイオンピークが複数存在することにより、フェムトモル量の試料における分子量の決定が非常に正確である。
【0119】
MALDI質量分析は、対照的に、飛行時間型(TOF)の構成が質量分析計として使用されている場合に特に魅力的となり得る。MALDI−TOF質量分析は、(Hillenkamp et al.,Biological Mass Spectrometry eds.Burlingame and McCloskey,Elsevier Science Publishers,Amsterdam,pp.49−60,1990)によって提唱された。ほとんどの場合、この方法では複数の分子イオンピークが生じないため、原理上、質量スペクトルはES質量分析と比較してよりシンプルな見た目となる。分子量410,000ダルトン以下のDNA分子を脱離及び揮発することができた(Williams et al.,Science,246:1585−87,1989)。より最近では、この方法における赤外レーザー(IR)の使用が(UVレーザーとは対照的に)、2180ヌクレオチドのサイズ以下の、合成DNA、プラスミドDNAの制限酵素断片、及びRNA転写物などのより大きな核酸の質量スペクトルを与えることが示された(Berkenkamp et al.,Science,281:260−2,1998)。Berkenkampは、MALDI−TOF IRを用いた、限定的な試料精製によるDNA試料及びRNA試料の解析可能な方法も報告している。
【0120】
日本特許第59−131909号には、電気泳動、液体クロマトグラフィー、又は高速ゲル濾過によって分離された核酸断片を検出する装置が記載されている。S、Br、I、又はAg、Au、Pt、Os、Hgなどの、DNA内に通常は生じない原子を核酸内に組み込むことにより、質量分析検出が達成される。
【0121】
ハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドプローブを蛍光ラベルで標識することは、当該技術分野において周知の技術であり、プローブハイブリダイゼーションの検出を促進するための感度の高い非放射性の方法である。より最近に開発された検出法は、プローブハイブリダイゼーションの検出のために、蛍光強度を直接検出するのではなく、蛍光エネルギー移動(FET)のプロセスを利用している。FETは、供与体であるフルオロフォアと受容体である色素(フルオロフォアであってもなくてもよい)との間で、一方(受容体)の吸収スペクトルが他方(供与体)の発光スペクトルと重なり、これら2つの色素がごく近接している場合に生じる。これらの特性を有する色素は、供与体/受容体色素対又はエネルギー移動色素対と称される。供与体フルオロフォアの励起状態エネルギーが、共鳴双極子誘起双極子相互作用により隣接する受容体に移動する。これにより供与体蛍光が消失する。一部の例では、受容体もフルオロフォアである場合、その蛍光強度が増強されることがある。エネルギー移動の効率は供与体と受容体の距離に高度に依存しており、これらの関係を予測する式が、Forster,Ann Phys 2:55−75,1948によって開発された。エネルギー移動効率が50%となる供与体色素と受容体色素の距離は、フェルスター距離(Ro)と呼ばれる。他の蛍光消光機構も当該技術分野において公知であり、例えば、電荷移動消光及び衝突消光が挙げられる。
【0122】
ごく近接している2つの色素の相互作用に基づいて消失を起こすエネルギー移動及び他の機構は、アッセイを均質な形式で実行し得ることから、ヌクレオチド配列の検出又は同定のための魅力的な手段である。不均質なアッセイは、通常、ハイブリダイズされた標識を遊離標識から分離するための追加のステップを必要とするので、均質なアッセイ形式は、単一のフルオロフォア標識の蛍光の検出に基づく従来のプローブハイブリダイゼーションアッセイと異なっている。FETハイブリダイゼーションアッセイのいくつかの形式が、Nonisotopic DNA Probe Techniques(Academic Press,Inc.,pgs.311−352,1992)に概説されている。
【0123】
核酸増幅の検出のためのエネルギー移動又は他の蛍光消光機構を利用する均質な方法も報告されている。Higuchi et al.(Biotechnology 10:413−417,1992)には、エチジウムブロマイドの、二本鎖DNAに結合した際の蛍光の増加をモニタリングすることによる、DNA増幅をリアルタイムで検出するための方法が開示されている。エチジウムブロマイドの結合が標的特異的でなく、バックグラウンド増幅産物も検出されてしまうことから、この方法の感度は限定的である。Lee et al.(Nucleic Acids Res 21:3761−3766,1993)には、二重標識された検出プローブがPCR(商標)中に標的増幅特異的に切断される、リアルタイム検出法が開示されている。Taqポリメラーゼの5′−3′エキソヌクレアーゼ活性が検出プローブを消化し、2つの蛍光色素を分離し、これらがエネルギー移動対を形成するように、検出プローブが増幅プライマーの下流にハイブリダイズされる。プローブが切断されると蛍光強度が増加する。公開済みPCT出願国際公開第96/21144号には、酵素を介した核酸の切断により蛍光の増加がもたらされる、連続的蛍光定量アッセイが開示されている。蛍光エネルギー移動の使用も提唱されているが、標的へのハイブリダイゼーションによって消失される単一蛍光標識を利用する方法との関連においてのみである。
【0124】
核酸増幅の検出において使用するための、増幅プライマーのハイブリダイゼーション部位の下流にある標的配列にハイブリダイズするシグナルプライマー又は検出プローブが報告されている(米国特許第5,547,861号)。シグナルプライマーは、増幅プライマーの伸長と同様に、ポリメラーゼによって伸長される。増幅プライマーの伸長により、標的増幅に依存的にシグナルプライマーの伸長産物が置換され、標的増幅の指標として検出され得る二本鎖二次増幅産物が生成される。シグナルプライマーから生成された二次増幅産物は、種々の標識及びレポーター基、切断されることで特徴的なサイズの断片を生成するシグナルプライマー内の制限酵素認識部位、捕捉基、並びに三重らせん体及び二本鎖DNA結合タンパク質の認識部位などの構造的特徴によって検出され得る。
【0125】
多くの供与体/受容体色素対は、当該技術分野において公知であり、本開示で使用されてもよい。これらの例としては、限定はされないが、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)/テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TALIC)、FITC/Texas Red(商標)(Molecular Probes社)、FITC/N−ヒドロキシスクシンイミジル 1−ピレンブチレート(PYB)、FITC/エオシンイソチオシアネート(EITC)、N−ヒドロキシスクシンイミジル 1−ピレンスルホネート(PYS)/FITC、FITC/Rhodamine X、及びFITC/テトラメチルローダミン(TAMRA)などが挙げられる。特定の供与体/受容体フルオロフォア対の選択は重要ではない。エネルギー移動消失機構においては、供与体フルオロフォアの発光波長が受容体の励起波長と重なることだけが必要とされ、すなわち、効率的なエネルギー移動、電荷移動、又は蛍光消光を可能とするには、2つの色素の間に十分なスペクトルの重なりがなくてはならない。P−(ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL)は、隣接するフルオロフォア、例えばフルオレセイン又は5−(2’−アミノエチル)アミノナフタレン(EDANS)からの蛍光を効果的に消光する非蛍光性受容体色素である。消光が起こる機構にかかわらず、検出核酸(detector nucleic acid)において蛍光消光をもたらす任意の色素対が本開示の方法における使用に適している。末端標識法及び内部標識法はいずれも当該技術分野において公知であり、供与体色素及び受容体色素を検出核酸内の各々の部位で連結するために日常的に使用され得る。
【0126】
本開示では、特に、(Hacia et al.,Nature Genet,14:441−449,1996)及び(Shoemaker et al.,Nature Genetics,14:450−456,1996)に記載されるようなマイクロアレイ及び/又はチップを用いたDNA技術による、増幅産物の使用又は解析が意図される。これらの技術には、多数の遺伝子を迅速且つ正確に解析するための定量法が含まれる。遺伝子をオリゴヌクレオチドでタグ付けすることにより、又は固定プローブアレイを用いることにより、チップ技術は、高密度アレイとして標的分子を分離し、これらの分子をハイブリダイゼーションに基づいてスクリーニングするために用いることができる(Pease et al.,Proc Natl Acad Sci USA,91:5022−5026,1994;Fodor et al,Nature,364:555−556,1993)。
【0127】
また、増幅産物を定量化するために、BioStar社製のOIA技術の使用も意図される。OIAは、基板としてシリコンウェハーの鏡面表面を利用する。薄膜光学コーティング及び捕捉抗体がシリコンウェハーに結合される。前記コーティングを通して反射された白色光は、金色の背景色として現れる。前記光学的分子薄膜の厚さが変化しない限り、この色は変化しない。
【0128】
前記ウェハーに陽性試料が適用されると、リガンドと抗体との間で結合が生じる。基質が添加されて質量増加が完了すると、分子薄膜の厚みの増加により、金から紫/青への対応する色の変化が生じる。この技術は、参照により本明細書に取り込まれる、米国特許第5,541,057号に記載されている。
【0129】
増幅DNAは、リアルタイムPCR技術(Higuchi et al.,Biotechnology 10:413−417,1992)を用いて定量してもよい。同じ数のサイクルを完了し、且つ直線範囲にある増幅産物の濃度を決定することにより、元のDNA混合物中の特定の標的配列の相対濃度を決定することが可能である。リアルタイムPCR実験の目的は、試料中の全RNA種又は全DNA種の平均存在量に対する、特定のRNA種又はDNA種の存在量を決定することである。
【0130】
Luminex技術は、色分けされたミクロスフェア上に固定化された核酸産物の定量化を可能にする。レポーターと呼ばれる第二の分子を用いて生体分子反応の規模が測定される。レポーター分子は、ミクロスフェア上の分子に結合することで、反応の程度を伝える。ミクロスフェア及びレポーター分子の両方が色分けされているため、デジタル信号処理により、各反応について、信号をリアルタイムの定量的なデータへ変換することが可能となる。標準的な技術は、参照により本明細書に取り込まれる、米国特許第5,736,303号及び同第6,057,107号に記載されている。
【0131】
実施例X
同定技術
標的遺伝子配列の増幅を確認するために、増幅産物を可視化してもよい。1つの典型的な可視化法は、エチジウムブロマイド又はVistra Greenなどの蛍光(色素でのゲルの染色、及び紫外光下での可視化を含む。あるいは、増幅産物が放射性標識ヌクレオチド又は蛍光定量的に標識されたヌクレオチドで一体的に標識されている場合、増幅産物は、X線フィルムに露光するか、又は、分離後に適切な刺激スペクトル下で可視化することができる。
【0132】
一実施形態では、可視化は核酸プローブを用いて間接的に達成される。増幅産物の分離の後、標識核酸プローブを増幅産物と接触させる。プローブは発色団に結合されていることが好ましいが、放射性標識されていてもよい。別の実施形態では、プローブは抗体又はビオチンなどの結合パートナーに結合されており、結合ペアのもう一方のメンバーが検出可能な部分を有する。他の実施形態では、プローブは蛍光色素又は蛍光標識を取り込んでいる。さらに他の実施形態では、プローブは、増幅された分子の検出に使用され得る質量標識(mass label)を有する。他の実施形態では、TAQMANプローブ及びMOLECULAR BEACONプローブの使用も意図される。さらに他の実施形態では、標準プローブと組み合わされた固相捕捉法が使用され得る。
【0133】
DNA増幅産物内に取り込まれる標識の種類は、解析に使用される方法によって決定される。キャピラリー電気泳動分離、マイクロ流体電気泳動分離、HPLC分離、又はLC分離を用いる場合、取り込まれた、又はインターカレートされた蛍光色素が、増幅産物の標識及び検出に使用される。標識された種が検出器を通過するときに蛍光が定量化されるという点で、試料は動的に検出される。電気泳動法、HPLC、又はLCのいずれかを分離に用いる場合、DNAに固有の性質である産物は紫外光の吸収によって検出することができるため、標識の付加を必要としない。ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はスラブゲル電気泳動が使用される場合、増幅反応のためのプライマーは、フルオロフォア、発色団、若しくは放射性同位元素で、又は関連した酵素反応によって、標識することができる。酵素による検出は、ゲル上で増幅産物を分離した後、例えばビオチン:アビジン相互作用を介して酵素をプライマーに結合させ、ルミノールにより生じる化学発光などの化学反応によって検出することを含む。蛍光シグナルは動的にモニタリングすることができる。放射性同位元素又は酵素反応による検出は、最初のゲル電気泳動による分離の後に、DNA分子の固相への転写(ブロット)を解析前に必要とする。ブロットが作製された場合、ブロットは、プロービングし、プローブを剥がし、再度プロービングすることにより、2回以上解析することができる。増幅産物が質量分析計を用いて分離された場合、核酸が直接検出されるので標識は必要とされない。
【0134】
いくつかの上記分離プラットフォームを連結することで、2つの異なる特性に基づいて分離を実現することができる。例えば、一部のプライマーを無修飾にしたまま、一部のPCRプライマーを親和性捕捉を可能にする部分と連結することができる。修飾には、糖(レクチンカラムへの結合用)、疎水性基(逆相カラムへの結合用)、ビオチン(ストレプトアビジンカラムへの結合用)、又は抗原(抗体カラムへの結合用)が含まれ得る。試料はアフィニティークロマトグラフィーカラムに流される。フロースルー画分が集収され、結合画分が(化学的切断、塩溶出などにより)溶出される。次いで、各試料が質量などの特性に基づいてさらに分画され、個々の成分が同定される。
【0135】
実施例XI
キット
本開示の増幅法に必要な材料及び試薬はキット内に一緒にまとめることができる。本開示のキットは概して、必要に応じてプライマーセットと共に、特許請求された方法を実行するために必要な、(トランスポザーゼ酵素及びトランスポゾンDNAからなる)トランスポソーム、ヌクレオチド、及びDNAポリメラーゼを少なくとも含む。好ましい実施形態では、キットはDNA試料からDNAを増幅するための指示書も含むことになる。例示的なキットは、全ゲノムDNAの増幅での使用に適したキットである。いずれの場合でも、キットはそれぞれの試薬、酵素又、は反応物のための別個の容器を含むことが好ましいであろう。各試薬は通常、それぞれの容器に適切に分注されることになる。キットの収容手段(container means)は通常、少なくとも1つのバイアル又は試験管を含むことになる。試薬を入れ分注するためのフラスコ、ビン、及び他の収容手段も可能である。キットの個々の容器は、商業的販売のためにきつく密閉した状態で維持されることが好ましいであろう。好適な大型容器として、所望のバイアルが中に保持される、射出成形又は中空成形プラスチック製容器が挙げられ得る。キットと共に説明書が提供されることが好ましい。
【0136】
実施例XII
実施形態
本開示は、トランスポゾンDNAに結合しているトランスポザーゼの複数の二量体で水性媒体中のゲノムDNAを処理すること、ここで前記トランスポゾンDNAは、トランスポザーゼ結合部位及び特異的PCRプライマー結合部位を含み、前記複数の二量体は、前記二本鎖核酸上の標的部位に結合し、前記トランスポザーゼは、前記ゲノムDNAをゲノムDNA断片ライブラリーを表す複数の二本鎖ゲノムDNA断片に切断し、各二本鎖ゲノムDNA断片はそれぞれの5′末端に前記トランスポゾンDNAが結合している、前記トランスポゾンDNAと前記ゲノムDNA断片の間のギャップについてギャップフィリングを行って各末端に特異的PCRプライマー結合部位を有する二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物のライブラリーを形成すること、前記水性媒体を油相内における多数の水性液滴へと分割すること、ここで水性液滴はそれぞれ、単一の二本鎖ゲノムDNA断片を含み、増幅試薬をさらに含む、前記水性液滴のそれぞれについて、前記水性液滴内の前記二本鎖ゲノムDNA断片を増幅して前記二本鎖ゲノムDNA断片のアンプリコンを前記水性液滴内で作製すること、ここで前記サブセットの全ての液滴で増幅が起こる、及び前記水性液滴の解乳化によって前記水性液滴から前記アンプリコンを収集することを含む、ゲノム核酸を増幅する方法を提供する。
【0137】
本開示は、ゲノムDNAをトランスポゾンDNAに結合しているトランスポザーゼの複数の二量体に接触させること、ここで前記トランスポゾンDNAは、トランスポザーゼ結合部位、任意に存在してもよいバーコード配列、及びプライマー結合部位を含み、前記複数の二量体は、前記二本鎖核酸上の標的部位に結合し、前記トランスポザーゼは、前記ゲノムDNAをゲノムDNA断片ライブラリーを表す複数の二本鎖ゲノムDNA断片に切断し、各二本鎖ゲノムDNA断片はそれぞれの5′末端に前記トランスポゾンDNAが結合している、前記トランスポゾンDNAと前記ゲノムDNA断片の間のギャップについてギャップフィリングを行って各末端にプライマー結合部位を有する二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物のライブラリーを形成すること、油相内に複数の水性液滴のサブセットを作製すること、ここで前記サブセットの水性液滴はそれぞれ、前記ライブラリーの単一の二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物及び増幅試薬を含む、前記サブセットの水性液滴内のそれぞれについて、前記水性液滴内の二本鎖ゲノムDNA断片を増幅して前記二本鎖ゲノムDNA断片のアンプリコンを前記水性液滴内で作製すること、ここで前記サブセットの全ての液滴で増幅が起こる、及び前記サブセットの前記水性液滴内から前記アンプリコンを収集することを含む、ゲノム核酸を増幅する方法を提供する。ある態様によれば、前記ゲノムDNAは、単一の細胞から得られた全ゲノムDNAである。ある態様によれば、前記トランスポザーゼは、Tn5トランスポザーゼである。ある態様によれば、前記トランスポゾンDNAは、バーコード配列を含む。ある態様によれば、前記トランスポゾンDNAはバーコード配列を含み、それぞれの5′末端に前記プライマー結合部位を有する。ある態様によれば、前記トランスポゾンDNAは、二本鎖19bp Tnp結合部位及びオーバーハングを含み、前記オーバーハングは、その5′末端にバーコード配列及びプライマー結合部位を含む。ある態様によれば、ギャップフィリン及び前記二本鎖ゲノムDNA断片の伸長の前に、結合しているトランスポザーゼが前記二本鎖断片から除去される。ある態様によれば、前記トランスポザーゼが、それぞれトランスポゾンDNAと複合体を形成したTn5トランスポザーゼであって、前記トランスポゾンDNAが二本鎖19bp Tnp結合部位及びオーバーハングを含み、前記オーバーハングがバーコード配列及びプライマー結合部位を含む。ある態様によれば、前記方法は、前記サブセットの前記水性液滴内から収集された前記アンプリコンを配列決定するステップをさらに含む。ある態様によれば、前記方法は、前記サブセットの前記水性液滴内から収集された前記アンプリコン内の一塩基変異を検出するステップをさらに含む。ある態様によれば、前記方法は、前記サブセットの前記水性液滴内から収集された前記アンプリコン内のコピー数変異を検出するステップをさらに含む。ある態様によれば、前記方法は、前記サブセットの前記水性液滴内から収集された前記アンプリコン内の構造変異を検出するステップをさらに含む。ある態様によれば、前記ゲノムDNAは、出生前細胞に由来する。ある態様によれば、前記ゲノムDNAは、癌細胞に由来する。ある態様によれば、前記ゲノムDNAは、血中循環腫瘍細胞に由来する。ある態様によれば、前記ゲノムDNAは、単一の出生前細胞に由来する。ある態様によれば、前記ゲノムDNAは、単一の癌細胞に由来する。ある態様によれば、前記ゲノムDNAは、単一の血中循環腫瘍細胞に由来する。ある態様によれば、前記ライブラリー内の二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物の存在数以上の液滴を作製するように、二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物の前記ライブラリー及び増幅試薬を含む適量の水性媒体を油と組み合わせることで前記油相内に前記複数の水性液滴が作製される。ある態様によれば、前記ライブラリー内の二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物の存在数以上の液滴を作製するように、二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物の前記ライブラリー及び増幅試薬を含む適量の水性媒体を油と組み合わせることで前記油相内に前記複数の水性液滴が作製され、前記複数の水性液滴は自然発生的に生成する。ある態様によれば、前記ライブラリー内の二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物の存在数以上の液滴を作製するように、二本鎖ゲノムDNA断片伸長産物の前記ライブラリー及び増幅試薬を含む適量の水性媒体を油と組み合わせることで前記油相内に前記複数の水性液滴が作製され、前記複数の水性液滴が前記油相及び前記水性媒体を激しく混合することによって作製される。ある態様によれば、前記油相内の前記複数の水性液滴の前記サブセットが、マイクロ流体チップ内で前記油相及び前記水性媒体を組み合わせることで作製される。ある様によれば、前記サブセットの各水性液滴内における前記二本鎖ゲノムDNA断片の増幅が、マイクロ流体チップ内で実施される。ある態様によれば、前記プライマー結合部位が、特異的PCRプライマー結合部位である。ある態様によれば、前記サブセットの全ての液滴内で起こる増幅は、特異的プライマー配列を使用したPCR増幅である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7