特許第6882561号(P6882561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6882561-ゼオライト膜構造体 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6882561
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】ゼオライト膜構造体
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20210524BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20210524BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20210524BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20210524BHJP
   C01B 39/04 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   B01D71/02
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D69/02
   C01B39/04
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-32653(P2020-32653)
(22)【出願日】2020年2月28日
(62)【分割の表示】特願2017-509835(P2017-509835)の分割
【原出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2020-93255(P2020-93255A)
(43)【公開日】2020年6月18日
【審査請求日】2020年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-71566(P2015-71566)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】長坂 龍二郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀之
(72)【発明者】
【氏名】市川 明昌
(72)【発明者】
【氏名】中村 真二
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−066188(JP,A)
【文献】 特開2011−131174(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/051910(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
B01D 53/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体と、
ゼオライト膜と、
を備え、
前記ゼオライト膜は、前記多孔質支持体の表面の内側に配置される第1ゼオライト層と、前記多孔質支持体の前記表面の外側に配置され、前記第1ゼオライト層と一体形成される第2ゼオライト層とを有し、
前記多孔質支持体は、前記第1ゼオライト層が配置される最表層を有し、
前記第1ゼオライト層の平均厚みは、5.4μm以下であり、
前記第2ゼオライト層の平均厚みは、2.4μm以下であり、
細孔径分布測定装置により測定される、前記最表層の体積累積細孔径分布における90%径(D90)は、0.080μm以下である、
ゼオライト膜構造体。
【請求項2】
前記第1ゼオライト層の平均厚みの前記第2ゼオライト層の平均厚みに対する比は、2.0以下である、
請求項に記載のゼオライト膜構造体。
【請求項3】
前記第1ゼオライト層の平均厚みは、2.5μm以下である、
請求項1又は2に記載のゼオライト膜構造体。
【請求項4】
多孔質支持体と、
ゼオライト膜と、
を備え、
前記ゼオライト膜は、前記多孔質支持体の表面の内側に配置される第1ゼオライト層と、前記多孔質支持体の前記表面の外側に配置され、前記第1ゼオライト層と一体形成される第2ゼオライト層とを有し、
前記多孔質支持体は、前記第1ゼオライト層が配置される最表層を有し、
前記第1ゼオライト層の平均厚みは、5.4μm以下であり、
前記第2ゼオライト層の平均厚みは、2.4μm以下であり、
前記第1ゼオライト層の平均厚みの前記第2ゼオライト層の平均厚みに対する比は、2.0以下であり、
水フラックスが0.87kg/m2h以上である、
ゼオライト膜複合体。
【請求項5】
水フラックスが1.04kg/m2h以上である、
請求項に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項6】
水フラックスが1.60kg/m2h以上である、
請求項に記載のゼオライト膜複合体。
【請求項7】
前記第1ゼオライト層の平均厚みは、2.5μm以下である、
請求項乃至のいずれかに記載のゼオライト膜複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼオライト種結晶(以下、「種結晶」という。)を用いて多孔質支持体の表面にゼオライト膜を形成する手法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。多孔質支持体の表面に塗布された種結晶が膜状に結晶成長することによってゼオライト膜は形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−82008号公報
【特許文献2】特表2008−74695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、塗布された種結晶の一部は多孔質支持体の内部に拡散するため、形成されるゼオライト膜の実質的な膜厚が厚くなりやすく透過性が低下してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、ゼオライト膜の透過性を向上可能なゼオライト膜構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るゼオライト膜構造体は、多孔質支持体と、ゼオライト膜とを備える。ゼオライト膜は、多孔質支持体の表面の内側に配置される第1ゼオライト層と、多孔質支持体の表面の外側に配置され、第1ゼオライト層と一体形成される第2ゼオライト層とを有する。多孔質支持体は、第1ゼオライト層が配置される最表層を有する。第1ゼオライト層の平均厚みは、5.4μm以下である。第2ゼオライト層の平均厚みは、2.4μm以下である。最表層の気孔率は、20%以上60%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ゼオライト膜の透過性を向上可能なゼオライト膜構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】分離膜構造体の断面図
図2図1の部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(分離膜構造体10の構成)
図1は、分離膜構造体10の構成を示す断面図である。分離膜構造体10は、多孔質支持体20とゼオライト膜30を備える。
【0010】
多孔質支持体20は、ゼオライト膜30を支持する。多孔質支持体20は、表面にゼオライト膜30を膜状に形成(結晶化、塗布、あるいは析出)できるような化学的安定性を有する。多孔質支持体20は、分離対象である混合流体をゼオライト膜30に供給できるような形状であればよい。多孔質支持体20の形状としては、例えばハニカム状、モノリス状、平板状、管状、円筒状、円柱状、及び角柱状などが挙げられる。本実施形態において、多孔質支持体20は、基体21と中間層22と表層23を有している。
【0011】
基体21は、多孔質材料によって構成される。多孔質材料としては、例えば、セラミックス焼結体、金属、有機高分子、ガラス、或いはカーボンなどを用いることができる。セラミックス焼結体としては、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素などが挙げられる。金属としては、アルミニウム、鉄、ブロンズ、銀、ステンレスなどが挙げられる。有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミドなどが挙げられる。
【0012】
基体21は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも一つを用いることができる。
【0013】
基体21の平均細孔径は、例えば5μm〜25μmとすることができる。基体21の平均細孔径は、水銀ポロシメーター(細孔径分布測定装置の一例)により測定される基体21の体積累積細孔径分布における50%径(いわゆる、D50)である。基体21の気孔率は、例えば25%〜50%とすることができる。基体21を構成する多孔質材料の平均粒径は、例えば10μm〜100μmとすることができる。基体21の平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いた断面微構造観察によって測定される30個の測定対象粒子の最大直径を算術平均した値である。
【0014】
中間層22は、基体21上に形成される。中間層22は、基体21に用いることのできる上記多孔質材料によって構成することができる。中間層22の平均細孔径は、基体21の平均細孔径より小さくてもよく、例えば0.005μm〜2μmとすることができる。中間層22の平均細孔径は、パームポロメーター(細孔径分布測定装置の一例)により測定される中間層22の体積累積細孔径分布における50%径(すなわち、D50)である。中間層22の気孔率は、例えば20%〜60%とすることができる。中間層22の厚みは、例えば10μm〜500μmとすることができる。
【0015】
表層23は、中間層22上に形成される。表層23は、基体21に用いることのできる上記多孔質材料によって構成することができる。表層23の平均細孔径は、0.050μm以上0.150μm以下である。表層23の平均細孔径は、パームポロメーター(細孔径分布測定装置の一例)により測定される表層23の体積累積細孔径分布における50%径(すなわち、D50)である。表層23の体積累積細孔径分布における90%径(すなわち、D90)は、0.050μm以上0.180μm以下である。表層23のD90は、0.150μm未満であることが好ましく、0.080μm以下であることがより好ましい。本実施形態において、表層23の細孔径は、後述する最表層23aの細孔径に等しい。表層23の気孔率は、例えば20%〜60%とすることができる。表層23の厚みは、例えば5μm〜300μmとすることができる。
【0016】
ゼオライト膜30は、多孔質支持体20によって支持される。ゼオライト膜30は、多孔質支持体20のうち表層23に接触する。ゼオライト膜30は、後述するようにゼオライト種結晶(以下、「種結晶」という。)を用いて作製される。ゼオライト膜30を構成するゼオライトの骨格構造(型)は特に制限されるものではなく、例えばABW、ACO、AEI、AEN、AFN、AFT、AFV、AFX、APC、ATN、ATT、ATV、AVL、AWO、AWW、BIK、CAS、CDO、CHA、DAC、DDR、DFT、EAB、EEI、EPI、ERI、ESV、GIS、HEU、IFY、IHW、IRN、ITE、ITW、JBW、JOZ、JSN、KFI、LEV、LTA、LTJ、MER、MON、MTF、MVY、NPT、NSI、OWE、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RWR、SAS、SAT、SBN、SFW、SIV、TSC、UEI、UFI、VNI、WEI、WEN、YUG、ZONなどを用いることができる。特に、ゼオライトが結晶化しやすいAEI、CHA、DDR、HEU、LEV、LTA、RHOが好ましい。
【0017】
ここで、図2図1の部分拡大図である。図2に示すように、ゼオライト膜30は第1ゼオライト層31と第2ゼオライト層32を有し、表層23は最表層23aと内部層23bを有する。
【0018】
第1ゼオライト層31は、表層23の表面23Sの内側に配置される。すなわち、第1ゼオライト層31は、表層23の内部に配置される。第1ゼオライト層31は、表層23の構成粒子23Tの隙間に入り込むように形成されている。第2ゼオライト層32は、表層23の表面23Sの外側に配置される。すなわち、第2ゼオライト層32は、表層23の外部に配置される。第2ゼオライト層32は、第1ゼオライト層31上に配置されており、第1ゼオライト層31と一体形成されている。
【0019】
第1ゼオライト層31は、第2ゼオライト層32と同様にろ過膜として機能する。そのため、第1ゼオライト層31の厚みが小さいほどゼオライト膜30の透過性は向上する。本実施形態において、第1ゼオライト層の平均厚みは、5.4μm以下である。第1ゼオライト層の平均厚みは、2.5μm以下であることが好ましく、1.4μm以下であることがより好ましい。第2ゼオライト層32の平均厚みは、0.9μm以上3.2μm以下とすることができる。第2ゼオライト層32の平均厚みは、2.5μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましい。第1ゼオライト層31の平均厚みの第2ゼオライト層32の平均厚みに対する比(第1ゼオライト層31の平均厚み/第2ゼオライト層32の平均厚み)は、1.25以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましい。
【0020】
なお、本実施形態における各層の「平均厚み」とは、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いた断面微構造観察で測定される少なくとも3箇所の厚みの算術平均値であり、「厚み」は表面23Sに垂直な厚み方向における各層の幅を意味する。従って、第1ゼオライト層の平均厚みは、表層23の表面23Sと第1ゼオライト層31の内表面23Uとの平均距離である。
【0021】
最表層23aには、第1ゼオライト層31が配置される。最表層23aは、第1ゼオライト層31と複合的に形成されている。最表層23aの構成粒子23Tの隙間には第1ゼオライト層31が入り込んでいる。最表層23aの平均厚みは、第1ゼオライト層の平均厚みに等しい。最表層23aの平均細孔径は、表層23の平均細孔径に等しい。内部層23bは、最表層23aの内側に形成される。内部層23bは、表層23のうち最表層23a以外の領域である。内部層23bには第1ゼオライト層31が入り込んでいない。換言すれば、内部層23bは、第1ゼオライト層31と接している。
【0022】
最表層23aと内部層23bの境界は、第1ゼオライト層31の内表面23Uによって規定される。
【0023】
(分離膜構造体の製造方法)
分離膜構造体10の製造方法について説明する。
【0024】
まず、押出成形法、プレス成形法や鋳込み成形法などによって、所望の形状の基体21の成形体を形成する。次に、基体21の成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃、1時間〜100時間)して基体21を形成する。
【0025】
次に、所望粒径の多孔質材料と有機バインダとpH調整剤と界面活性剤などを調製した中間層用スラリーを基体21の表面に成膜することによって中間層22の成形体を形成する。次に、中間層22の成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃、1時間〜100時間)して中間層22を形成する。
【0026】
次に、所望粒径の多孔質材料と有機バインダとpH調整剤と界面活性剤などを調製した表層用スラリーを中間層22の表面に成膜することによって表層23の成形体を形成する。次に、表層23の成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃、1時間〜100時間)して表層23を形成する。この際、昇温速度を30℃/h以下とすることによって、表層23のD50を0.050μm以上0.150μm以下に制御するとともに、表層23のD90を0.050μm以上0.180μm以下に制御することができる。
【0027】
次に、ゼオライトを含む核(以下、「核」という。)を準備する。核は、ゼオライト結晶、又は、ゼオライト結晶とアモルファスシリカとの混合物であることが好ましい。核の平均粒子径は、0.100μm以上0.250μm以下とすることができる。核の平均粒子径とは、レーザ回折散乱法により測定される核の体積累積粒度分布における50%径(いわゆる、D50)である。核の製造方法は特に限定されない。
【0028】
次に、核、シリカ及び構造規定剤としての1−アダマンタンアミンを含有する原料溶液(原料ゾル)を調製する。原料溶液は、水、エチレンジアミンなどを含有していてもよい。
【0029】
次に、原料溶液を130〜180℃で4時間以上加熱(水熱合成)することによって種結晶を生成する。この際、昇温速度を50℃/h以下とすることによって、レーザ回折散乱法により測定される種結晶の体積累積粒度分布における10%径(いわゆる、D10)を0.050μm以上0.150μm以下に制御することができる。その結果、表層23のD90に対する種結晶のD10の比が0.5以上に調整される。
【0030】
次に、種結晶が1質量%以下になるように溶媒(水、エタノール、又はエタノール水溶液など)に希釈した種付け用スラリーを調整する。
【0031】
次に、流下法やディップ法などによって種付け用スラリーを表層23の表面に塗布する。この際、表層23のD50が0.050μm以上0.150μm以下であり、かつ、表層23のD90に対する種結晶のD10の比が0.5以上であるため、表層23の内部への種結晶の拡散が抑制される。
【0032】
次に、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水などを含む原料溶液が入った耐圧容器に種結晶が付着した多孔質支持体20を浸漬させる。原料溶液には有機テンプレートが含まれていてもよい。
【0033】
次に、耐圧容器を乾燥器に入れ、100〜200℃で1〜240時間ほど加熱(水熱合成)することによって、種結晶を膜状に結晶成長させる。これによって、第1ゼオライト層31が最表層23aと複合的に形成されるとともに、第2ゼオライト層32が最表層23a上に形成される。この際、上述の通り、表層23の内部への種結晶の拡散が抑制されているため、表層23の内部で結晶成長する第1ゼオライト層31の平均厚みは5.4μm以下に抑えられる。
【0034】
次に、ゼオライト膜30が形成された多孔質支持体20を洗浄して、80〜100℃で乾燥する。
【0035】
その後、原料溶液中に有機テンプレートが含まれていた場合には、多孔質支持体20を電気炉に入れて大気中で加熱(400〜800℃、1〜200時間)することによって有機テンプレートを燃焼除去する。
【0036】
(他の実施形態)
上記実施形態において、多孔質支持体20は、基体21と中間層22と表層23を有することとしたが、中間層22と表層23の一方又は両方を有していなくてもよい。多孔質支持体20が表層23を有していない場合、最表層23aは中間層22に形成される。多孔質支持体20が中間層22と表層23を有していない場合、最表層23aは基体21に形成される。
【0037】
上記実施形態において、分離膜構造体10は、多孔質支持体20とゼオライト膜30を備えることとしたが、ゼオライト膜30上に積層された機能膜又は保護膜をさらに備えていてもよい。このような膜としては、ゼオライト膜、炭素膜及びシリカ膜などの無機膜やポリイミド膜やシリコーン膜などの有機膜を用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0039】
(サンプルNo.1〜20の作製)
まず、平均粒径50μmのアルミナ粒子100質量部に対して無機結合材20質量部を添加し、さらに、水、分散剤及び増粘剤を加えて混練することによって坏土を作製した。
【0040】
次に、坏土を押出成形することによって、55本の貫通孔を有する基体の成形体を形成した。続いて、基体の成形体を焼成(1250℃、1時間)した。
【0041】
次に、アルミナとチタニアにPVAを添加して調製した中間層用スラリーをろ過法によって貫通孔の内表面に堆積させて中間層の成形体を形成した。続いて、中間層の成形体を焼成(1250℃、2時間)して中間層を形成した。
【0042】
次に、アルミナにPVAを添加して調製した表層用スラリーをろ過法によって中間層の表面に堆積させて表層の成形体を形成した。続いて、表層の成形体を焼成(1250℃、1時間)して表層を形成した。この際、サンプルNo.1〜18では昇温速度を25℃/hとし、サンプルNo.19,20では昇温速度を50℃/hとした。
【0043】
以上により、モノリス状の多孔質支持体(直径30mm×長さ160mm)が完成した。
【0044】
続いて、以下のようにしてDDR型ゼオライト種結晶を準備した。
【0045】
まず、フッ素樹脂製の密閉容器にエチレンジアミン(和光純薬工業社製)を入れた後、1−アダマンタンアミン(シグマアルドリッチ社製)を加えて、超音波によって1−アダマンタンアミンを完全に溶解した。
【0046】
次に、別の容器に核としてのDDR型ゼオライト結晶を含む水溶液を入れ、シリカを含むシリカゾル(スノーテックスS、日産化学工業社製)を加えて攪拌することによって核を含むシリカゾルを得た。核としてのDDR型ゼオライト結晶は、国際公開第2010/090049A1に記載の方法に基づいて、平均粒子径2.9μのDDR型ゼオライト粉末をアシザワ・ファインテック社製ビーズミル(商品名:スターミル)によって粉砕した後に遠心分離で粗粒子を取り除いた。
【0047】
次に、1−アダマンタンアミンを溶解したエチレンジアミンの入った密閉容器に核を含むシリカゾルを素早く加え、密閉容器内の混合液が透明になるまで攪拌することによって原料溶液(原料ゾル)を得た。
【0048】
次に、フッ素樹脂製内筒付きステンレス製耐圧容器に原料溶液を入れて150℃で15時間加熱(水熱合成)した。この際、サンプルNo.1〜18では昇温速度を50℃/hとし、サンプルNo.19,20では昇温速度を25℃/hとした。
【0049】
次に、pH10程度となるまで水洗することによって、ゼオライト種結晶が分散した分散液を得た。
【0050】
次に、種結晶分散液を超音波にさらした後、種結晶分散液をエタノール中に滴下して攪拌することによって種結晶の濃度が0.075質量%の種付け用スラリーを作製した。
【0051】
次に、縦置きした多孔質支持体の上方から種付け用スラリーを注いで、種付け用スラリーを多孔質支持体に形成された55本のセルに流し込んだ。
【0052】
次に、セルに風速2〜7m/秒で空気を室温にて10分間流すことによって、セルの壁面に塗布された種付け用スラリーを乾燥させた。
【0053】
次に、フッ素樹脂製容器にエチレンジアミン(和光純薬工業社製)を入れた後に1−アダマンタンアミン(シグマアルドリッチ社製)を加えて完全に溶解させた。
【0054】
次に、別の容器にシリカを含むシリカゾル(スノーテックスS、日産化学工業社製)とイオン交換水を入れて軽く攪拌することによってシリカ分散液を調製した。
【0055】
次に、1−アダマンタンアミンを溶解させたエチレンジアミン溶液をシリカ分散液に加えて攪拌することによって膜形成用原料溶液を調製した。
【0056】
次に、フッ素樹脂製内筒付きステンレス製耐圧容器内に種結晶が付着した多孔質支持体を配置した。
【0057】
次に、膜形成用原料溶液を容器に入れて125℃で20時間加熱(水熱合成)することによって、1−アダマンタンアミンを含有するゼオライト膜を多孔質支持体のセル壁面に形成した。
【0058】
次に、容器から多孔質支持体を取り出して水で洗浄した。
【0059】
次に、DDR型ゼオライト膜を450℃で100時間加熱することによって、1−アダマンタンアミンを燃焼除去した。その後、DDR型ゼオライト膜の洗浄と乾燥(80℃)を行った。
【0060】
(種結晶の粒子径測定)
各サンプルの種結晶分散液を約20mlの水に滴下して測定可能な濃度にした後、超音波で5分以上分散させることによって種結晶の懸濁液を得た。
【0061】
次に、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装社製、商品名:Nanotrac)を用いて、レーザ回折散乱法により種結晶の体積累積粒子径分布を得た。
【0062】
そして、表1に示すように、体積累積粒子径分布から種結晶の10%径(D10)を算出した。
【0063】
(多孔質支持体の細孔径測定)
各サンプルを弱アルカリ溶液(NaOH溶液)に浸してDDR型ゼオライト膜を溶解することによって、多孔質支持体の表層を露出させた。
次に、細孔径分布測定装置(Automated Perm Porometer、多孔質材料自動細孔径分布測定システム、Porous Materials, Inc.社製、試薬フロリナート(表面張力16dynes/cm、3M社製))を用いて、ASTM F316−86に基づいて多孔質支持体の体積累積細孔径分布を得た。
【0064】
そして、表1に示すように、体積累積細孔径分布から多孔質支持体の50%径(D50)と90%径(D90)を算出した。
【0065】
なお、上述の細孔径分布測定装置を用いると、多孔質支持体のうち最も細孔径の小さい層の体積累積細孔径分布が得られる。そのため、表1に示されるD50及びD90は表層の最表層に係る値である。
【0066】
(DDR型ゼオライト膜の厚み測定)
各サンプルの断面をSEMで観察することによって、DDR型ゼオライト膜のうち表層の内部に入り込んだ層(第1ゼオライト層)の平均厚みと、DDR型ゼオライト膜のうち表層の外部に出ている層(第2ゼオライト層)の平均厚みを測定した。SEM画像上で均等に離れた3箇所で測定した厚みの算術平均値を平均厚みとした。
【0067】
(水フラックスの測定)
まず、エタノールを50体積%含む水溶液(以下、「供給液」という。)を50度に加熱した。
【0068】
次に、真空ポンプによって基材本体の外周面の外側を減圧しながら、各サンプルのDDR型ゼオライト膜の内側(すなわち、セル)内に供給液を循環させた。
【0069】
次に、各サンプルから回収された透過液の質量を電子天秤にて秤量した。また、各サンプルの外周面から回収された透過液の組成をガスクロマトグラフィにて解析した。
【0070】
そして、表1に示すように、透過液の解析結果から水フラックス(kg/mh)を算出した。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すように、第1ゼオライト層の平均厚みが5.4μm以下とし、かつ、多孔質支持体のD50を0.050μm以上0.150μm以下としたサンプルNo.1〜18では、水フラックスを0.21kg/mh以上にすることができた。これは、多孔質支持体の最表層のD90に対する種結晶のD10の比を0.5以上とし、かつ、最表層のD90を0.050μm以上0.180μm以下とすることによって、多孔質支持体の内部への種結晶の拡散を抑制することができたためである。なお、サンプルNo.1〜18において、第1ゼオライト層の平均厚みの第2ゼオライト層の平均厚みに対する比は、2.0以下であった。
【0073】
また、第1ゼオライト層の平均厚みを2.5μm以下としたサンプルNo.1〜3,6〜12では、水フラックスを1.04kg/mh以上にすることができた。これは、最表層のD90に対する種結晶のD10の比を1.3以上とし、かつ、最表層のD90を0.080以下とすることによって、多孔質支持体の内部への種結晶の拡散をより抑制することができたためである。
【0074】
さらに、第1ゼオライト層の平均厚みを0.8μm以下としたサンプルNo.1,2,6では、水フラックスを1.60kg/mh以上にすることができた。これは、最表層のD90に対する種結晶のD10の比を1.9以上とし、かつ、最表層のD90を0.074以下とすることによって、多孔質支持体の内部への種結晶の拡散をさらに抑制することができたためである。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、ゼオライト膜構造体の透過性を向上させることができるため、分離膜分野において有用である。
【符号の説明】
【0076】
10 分離膜構造体
20 多孔質支持体
21 基体
22 中間層
23 表層
23a 最表層
23b 内部層
30 ゼオライト膜
31 第1ゼオライト層
32 第2ゼオライト層
図1
図2