(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1〜
図4を参照して、センターリングおよびセンターリングを備える真空ポンプの一実施の形態を説明する。
図1は、真空ポンプの一例として、真空チャンバ500に取り付けられたターボ分子ポンプ100の概略構成を示す断面図である。
図2は、クランプ1の配置を
図1の真空チャンバ500側から見た図である。なお、
図2では、クランプ1を排気フランジ510に固定するボルト7やチャンバ500等は省略した。吸気フランジ20の固定に用いられるクランプ1の数は、フランジ径に応じて決定される。
【0010】
図1に示すターボ分子ポンプ100の吸気フランジ20はいわゆるクランプ固定式のフランジであって、複数のクランプ1を用いてチャンバ500の排気フランジ510に締結されて真空ポンプがチャンバ500に固定される。本実施の形態で用いられるクランプ1は、いわゆるシングルクロークランプと呼ばれる。
ターボ分子ポンプ100のケーシング52内にはロータ40が回転自在に設けられている。
図1に示したターボ分子ポンプ100は磁気軸受式のポンプであり、ロータ40は、上部ラジアル電磁石101、下部ラジアル電磁石102、スラスト電磁石104によって非接触支持される。磁気軸受によって磁気浮上されたロータ40は、モータ43により高速回転駆動される。
【0011】
ロータ40には、複数段のロータ翼41と円筒状のネジロータ45とが設けられている。複数段のロータ翼41の間には、軸方向に対して複数段のステータ翼42が設けられ、ネジロータ45の外周側にはネジステータ44が設けられている。各ステータ翼42は、スペーサ53を介してベース107上に載置され、吸気フランジ20が形成されたケーシング52をベース107に固定すると、積層されたスペーサ53がベース107とケーシング52との間に挟持され、ステータ翼42が位置決め固定される。
【0012】
ベース107には排気口108が設けられ、この排気口108にバックポンプが接続される。ロータ40を磁気浮上させつつモータ43により高速回転駆動することにより、吸気口30側の気体分子は排気口108側へと排気される。
【0013】
チャンバ500の排気フランジ510のシール面511とターボ分子ポンプ100の吸気フランジ20のシール面21との間には、センターリング60が挟持されている。吸気フランジ20のシール面21と反対側の背面25には、環状溝23が形成されている。排気フランジ510には複数のネジ穴514が形成されている。
【0014】
図1に示すように、クランプ1の爪部2がターボ分子ポンプ100の吸気フランジ20の背面25に形成された環状溝23に挿入され、さらに、ボルト7を用いて、真空チャンバ500の排気フランジ510にクランプ1が固定されると、ターボ分子ポンプ100の吸気フランジ20と排気フランジ510とが締結される。以上より、クランプ1で、ターボ分子ポンプ100が真空チャンバ500の排気フランジ510に取り付けられる。
なお、真空チャンバ500の排気フランジ510には、ネジ穴514の代わりにボルト貫通孔を形成し、ボルト7とナットを用いて吸気フランジ20と排気フランジ510とを締結するようにしてもよい。
【0015】
−−−センターリング60について−−−
図3(a)はセンターリング60を排気フランジ510への取付面側から見た上面図、
図3(b)は
図3(a)のB−B線断面図、
図3(c)は
図3(a)のC−C線断面図である。センターリング60は、一対のリング本体61と、チャンバ500の排気フランジ510のシール面511とターボ分子ポンプ100の吸気フランジ20のシール面21との間をシールするOリング71と、ターボ分子ポンプ100への異物混入防止用の網72とを有する。
【0016】
リング本体61のそれぞれは、円筒を軸方向に沿って2分割したリング状を呈する部材であり、たとえばアルミやステンレス等の金属製である。リング本体61のそれぞれは、半円筒形状を呈する円筒部62と、円筒部62の外周面から半径方向外側に突出するフランジ部63とを有する。フランジ部63よりも図示下方の円筒部62をポンプ側円筒部64と呼び、フランジ部63よりも図示上方の円筒部62をチャンバ側円筒部65と呼ぶ。フランジ部63の外周面には、Oリング71を装着するための凹状の溝63aが形成されている。円筒部62の内周面には、網72を挟持するための溝66が設けられている。ポンプ側円筒部64には、周長の半分付近に切り欠き部68が設けられている。切り欠き部68は、後述するように、リング本体61の径方向の曲げ剛性を調節、たとえば緩和するために設けられている。
【0017】
一対のリング本体61は、それぞれの円筒部62の溝66で網72の外周縁を挟持する。また、一対のリング本体61それぞれのフランジ部63の溝63aにはOリング71が装着されている。換言すると、Oリング71は、一対のリング本体61のそれぞれのフランジ部63の溝63aに掛け回されている。
【0018】
このようなセンターリング60は次のように組み立てられる。円板形状の網72の外周縁に、一対のリング本体61の円筒部62の溝66を挿入して3部材を一体化し、一体化された一対のリング本体61の外周面の溝63aにOリング71を装着する。Oリング71が装着されて一体化された部材がセンターリング60である。
Oリング71の弾性力により一対のリング本体61は互いに接近する方向に付勢される。この付勢力によりリング本体61は網72の外周縁を内径方向に摺動する。ただし、後述するように、移動後のリング本体61の外径dと吸気フランジ20の内径Dとの差が所望の嵌め合いとなり、かつ、リング本体61の端面間距離ΔC1が所望の値となる。
【0019】
このようなセンターリング60では、一方のリング本体61の円周方向の端面61aと他方のリング本体61の円周方向の端面61aとが距離を△C1だけ離れて対向配置されている。離間距離△C1については、後で詳述する。なお、端面61a同士が対向する領域をとくにセンターリング60の切断部67と呼ぶ。
【0020】
ターボ分子ポンプ100を真空チャンバ500の排気フランジ510に取り付ける際、センターリング60は、予めターボ分子ポンプ100の吸気フランジ20に装着される。すなわち、リング本体61のポンプ側円筒部64が吸気フランジ20の内周面26に挿入される。ポンプ側円筒部64は、吸気フランジ20の内周面26に嵌合する嵌合部である。
センターリング60を吸気フランジ20に装着したターボ分子ポンプ100を真空チャンバ500に取り付ける際、すなわち、上述したように吸気フランジ20と排気フランジ510とを締結する際、センターリング60のチャンバ側円筒部65が排気フランジ510の内周面512に挿入される。チャンバ側円筒部65は、排気フランジ510の内周面512に嵌合する嵌合部である。
【0021】
図1の上下方向を鉛直方向とすると、ターボ分子ポンプ100は縦置き形式で真空チャンバ500に取り付けたことになる。
図1の左右方向を鉛直方向とすると、ターボ分子ポンプ100は横置き形式で真空チャンバ500に取り付けたことになる。縦置き形式とは、ターボ分子ポンプ100のロータ軸が鉛直方向に延在する取付形式であり、横置き形式とは、ターボ分子ポンプ100のロータ軸が水平方向に延在する取付形式である。
この実施の形態の真空ポンプは、たとえば横置き形式で取り付ける際の組立性を改善するものである。以下、説明する。
【0022】
発明者らは、横置き形式での取り付け工程にて、センターリング60が吸気フランジ20から脱落することがあり、その原因を追究し、以下の知見を得た。
横置き形式での取付は、排気フランジ510のシール面511が水平方向を向いている場合に採用する取付方式である。横置き形式での取り付けに際して、たとえば、ターボ分子ポンプ100のロータ軸を鉛直方向としてセンターリング゛60が吸気フランジ20に装着される。その後、吸気フランジ20のシール面21が水平方向を向くようにターボ分子ポンプ100の姿勢を傾けた後、排気フランジ510と吸気フランジ20との位置合わせを行って、吸気フランジ20を排気フランジ510に取り付ける。この取付け工程でターボ分子ポンプ100の姿勢を傾けるとき、センターリング60が吸気フランジ20から脱落するおそれがある。
そこで、本実施の形態のターボ分子ポンプ100では、ターボ分子ポンプ100の姿勢を傾けてもセンターリング60が吸気フランジ20から脱落しないように、少なくともセンターリング60の構成要素である一対のポンプ側円筒部64の外径(直径)dを設定している。以下、
図4も参照詳述する。
【0023】
図3(b)および
図4(a)に示すように、ポンプ側円筒部64単体の外周面の曲率半径をrとし、曲率半径rの2倍の値を一対のポンプ側円筒部64で円環を形成したときの円環外周面の直径dとする。なお、以下の説明では、ポンプ側円筒部64単体の外周面の曲率半径rを単にポンプ側円筒部64の曲率半径rとも呼び、一対のポンプ側円筒部64で形成する円環の外周面の直径dを単に一対のポンプ側円筒部64の外径dとも呼ぶ。
また、
図2に示すように、吸気フランジ20の内周面26の直径をDとする。以下の説明では、吸気フランジ20の内周面26の直径Dを単に吸気フランジ20の内径Dとも呼ぶ。
【0024】
−−−ポンプ側円筒部64の外径dと離間距離△C1について−−−
本実施の形態では、たとえば横置き形式でターボ分子ポンプ100を設置する際に吸気フランジ20を傾けても、センターリング60が自重により吸気フランジ20から脱落せず、かつ、吸気フランジ20への着脱も容易となるように、吸気フランジ20の内径Dと一対のポンプ側円筒部64の円環の外径dとの寸法差を最適化する。すなわち、本実施の形態では、一対のポンプ側円筒部64の外径dは、吸気フランジ20の内径Dとの寸法差D−dが所定範囲内となるように設定されている。
【0025】
図3で説明したように、実施の形態のセンターリング60を構成する一対のリング本体61は、周方向端面61a同士が対向する切断部67において、距離ΔC1だけ離間可能とするため、半径rであるリング本体61の周長をr×π-ΔC1とする。リング本体61のそれぞれを内径方向にΔC1/2移動可能とするため、
図3(b)で示されるように、リング本体61の溝66の底面と網72の外周面との隙間が半径r-ΔC1/2になるように、網72の外径と溝深さが定められている。
【0026】
後述するように、吸気フランジ20の内径Dと一対のポンプ側円筒部64の外径dとの寸法差D−dが負の値となる(しまり嵌め)場合、一対のリング本体61をΔC1だけ接近させても、その接近方向と直交する方向ではポンプ円筒部64の外径dが吸気フランジ20の内周面の内径Dよりも大きいので挿入できない。したがって、リング本体61の周方向端部を接近方向と直交する方向に撓ませる必要がある。
そのため、ΔC1は、(D−dの絶対値)+(撓みで接近する方向に変形するときのポンプ円筒部64端部の径方向の変形量)となるように決定する必要がある。ΔC1の詳細な算出式は後述する。
【0027】
上述したように、吸気フランジ20に装着する際にリング本体61の両端部を径方向の内側に向かって撓ませる。このとき、ポンプ側円筒部64の外径dが小さくなるとともに、切断部67において対向する端面61a同士が接近する。仮に、切断部67において対向する端面61a同士が当接した後、さらにリング本体61を径方向の内側に向かって撓ませると、一対のリング本体61は、
図3(a)における上下方向の大きさが小さくなるが左右方向の大きさが大きくなって、楕円形状に歪んでしまう。そのため、リング本体61のポンプ側円筒部64が吸気フランジ20の内周面26に挿入できなくなるおそれがある。
したがって、上述した締め代(しまり嵌めの寸法)が取り得る最大値の分だけリング本体61の両端部を撓ませるまでは、切断部67において対向する端面61a同士が当接しないように離間距離△C1を確保しておく必要がある。
【0028】
換言すると、リング本体61の両端部を径方向内側へ撓わませる撓み量が上述した締め代が取り得る最大値未満のとき、切断部67において対向する端面61a同士が当接しないようにポンプ側円筒部64の周長を設定すればよい。締め代が最大値を基準としてΔC1を設定するときの端面61a同士が当接するようにしてもよい。
具体的には、以下の式(1)で示すように、リング本体61それぞれのポンプ側円筒部64の周長Lの合計値2Lが、ポンプ側円筒部64の外径dから締め代の最大値Smaxの分だけ小さい直径(d−Smax)に対応する円周長以下となればよい。
2L ≦ π×(d−Smax) ・・・(1)
【0029】
上述したリング本体61それぞれのポンプ側円筒部64の周長Lの合計値2Lと、直径dに対応する円周長πdとの差πd−2Lが、2箇所の切断部67の離間距離△C1の合計値(2×△C1)である。
したがって、以下の式(2)が成り立つ。
2×△C1= πd−2L
2L = πd−2×△C1 ・・・(2)
【0030】
式(1)と式(2)から離間距離△C1を求めると、以下の式(3)で表される。
πd−2×△C1 ≦ π×(d−Smax)
−2×△C1 ≦ −π×Smax
π×Smax ≦ 2×△C1
0.5×π×Smax ≦ △C1 ・・・(3)
以下、具体例を示す。
【0031】
本実施の形態では、吸気フランジ20は、たとえば呼び径が100[mm]のISOフランジであり、内径Dが102[mm]である。この場合、以下の式(4)で示すように、吸気フランジ20の内径Dと一対のポンプ側円筒部64の外径dとの寸法差D−dが0.05[mm]からマイナス0.1[mm]の範囲内に収まるように一対のポンプ側円筒部64の外径dが設定される。
−0.1[mm] ≦ D−d ≦ 0.05[mm] ・・・(4)
【0032】
なお、寸法差D−dの値が正の値であれば、寸法差D−dは、吸気フランジ20の内周面26と一対のポンプ側円筒部64の外周面との間の隙間の大きさを表す。また、寸法差D−dの値が負の値であれば、すなわち、吸気フランジ20の内径Dよりも一対のポンプ側円筒部64の外径dが大きければ、寸法差D−dの絶対値は、吸気フランジ20の内周面26とポンプ側円筒部64の外周面との間の締め代である。
【0033】
吸気フランジ20の内径Dよりも一対のポンプ側円筒部64の外径dが大きければ、リング本体61の両端部を径方向の内側に向かって(D−d)/2で表す距離以上移動させ、さらに、移動方向と直交する方向にリング本体61の端部を撓ませつつ、ポンプ円筒部64を吸気フランジ20に挿入する。
【0034】
上述したように、本実施の形態のリング本体61は、端面間距離ΔC1を設けてリング本体同士を接近させ、両端部を内径方向に撓ませる。ポンプ側円筒部64に切り欠き部68を設けているので径方向に撓ませ易い。これにより、センターリング60の吸気フランジ20への着脱が容易となる。その結果、排気フランジ510へのターボ分子ポンプ100の取り付け作業および排気フランジ510からの取り外し作業の作業効率が向上する。
また、吸気フランジ20に装着する際のポンプ側円筒部64の撓みにより、一対のポンプ側円筒部64は吸気フランジ40の内周面を押圧する。この押圧の反力がセンターリング60の脱落防止に寄与する。
【0035】
なお、ターボ分子ポンプ100を排気フランジ510に取り付ける際、センターリング60は、吸気フランジ20に装着された状態でリング本体61のチャンバ側円筒部65が排気フランジ510の内周面512に挿入される。したがって、リング本体61のチャンバ側円筒部65が排気フランジ510の内周面512に挿入され易くするため、排気フランジ510の内周面512とリング本体61のチャンバ側円筒部65との間に適宜隙間が生じるようにチャンバ側円筒部65の外径が設定されている。したがって、排気フランジ510の内周面512とリング本体61のチャンバ側円筒部65との間の隙間は、吸気フランジ20の内径Dとポンプ側円筒部64の外径dとの寸法差D−dよりも大きくするのが好ましい。実施の形態における真空チャンバ側のセンターリング60の嵌め合いは、すきま嵌めである。
【0036】
上述したように、本実施の形態では、吸気フランジ20は、たとえば呼び径が100[mm]のISOフランジであり、式(4)に示すように、締め代の最大値Smaxが0.1[mm]である。したがって、本実施の形態では、離間距離△C1は、π×Smax/2 = 0.05×π[mm]以上に設定される。
【0037】
実施の形態のターボ分子ポンプ100では、吸気フランジ20の内径Dが一対のポンプ側円筒部64の外径dより大きい場合の最大隙間は0.05mmである。発明者などの実験により、最大隙間0.05mmの隙間嵌めであっても、横置き方式でターボ分子ポンプを傾けた際のセンターフランジの脱落を防止することができた。
【0038】
本実施の形態によれば、次の作用効果を奏する。
(1)実施の形態のセンターリング、すなわち真空チャンバ500とターボ分子ポンプ100との間に介在されるセンターリング60は、真空チャンバ500のチャンバ側嵌合部である排気フランジ510に嵌合する第1のリング嵌合部であるチャンバ側円筒部65、およびターボ分子ポンプ100のポンプ側嵌合部である吸気フランジ20に嵌合する第2のリング嵌合部であるポンプ側円筒部64を有するリング本体61と、リング本体61に設けられるゴミ侵入防止部材である網72と、たとえばターボ分子ポンプ100のロータ軸を鉛直方向から垂直方向に傾ける過程でセンターリング60が吸気フランジ20から脱落することを防止する脱落防止構造とを備える
実施の形態のターボ分子ポンプは、脱落防止構造を備えることにより、吸気フランジ20を傾けてもセンターリング60が自重により吸気フランジ20から脱落しない。また、実施の形態のように、一対のリング本体61の端面61a間距離ΔC1の寸法と、センタリング60と吸気フランジ200の内周面26との嵌め合い寸法を規定することにより、センターリング60の吸気フランジ20への着脱も容易となる。したがって、真空チャンバ500の排気フランジ510へのターボ分子ポンプ100の取り付け作業および排気フランジ510からのターボ分子ポンプ100の取り外し作業の作業効率が向上する。
【0039】
(2)実施の形態のリング本体61は、円周上の2箇所の切断部67で切断した2分割構造である。脱落防止構造の構成要素数は2個であり、従来よりも部品点数が増えるが、形状と嵌め合い寸法を規定するだけでよく、大幅なコストアップ要因にはならない。
(3)2分割構成の一対のリング本体61は、切断部67において端面61a同士が隙間ΔC1をもって配置されている。リング本体61の周長は、上記隙間ΔC1に相当する長さだけ短い。リング本体61の両端部を内径方向に所望の量撓ませた際、端面同士が当接しないので、センターリング60の吸気フランジ20への装着が円滑にできる。
(4)実施の形態のリング本体61は、内径方向に撓む際の剛性を調節する切り欠き部68を備えている。切り欠き部68により、リング本体61の両端部を内径方向に撓ませ易くなる。
(5)実施の形態の脱落防止構造は、第2のリング嵌合部であるポンプ側嵌合部64にのみ設けている。真空チャンバの排気フランジ510の寸法公差は、ターボ分子ポンプ製造メーカでは把握できないから、ポンプ側嵌合部とは異なり、必ず装着が容易となるような値のすきま嵌めとするのが好ましい。
(6)実施の形態の脱落防止構造は、ターボ分子ポンプ100の吸気フランジ内周面26の直径Dとポンプ側嵌合部64の直径dとの寸法差D−dをしまり嵌め、および中間嵌めのいずれかとした構造である。
(7)ターボ分子ポンプは、実施の形態のようなセンターリング60と、センターリング60が装着されるポンプ側嵌合部である吸気フランジ20を有するポンプ本体(たとえばケーシング500)とを備える。
【0040】
以上の実施の形態は一例であり、ISOフランジに限定されるものではない。また、ISOフランジを用いた例においても、本発明は、上記喚び径、嵌め合いに限定されない。
【0041】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(変形例1)
上述した実施の形態では、センターリング60は2箇所の切断部67で切断された一対のリング本体61を有する。これに対し、変形例1におけるセンターリング60Aは、1箇所の切断部67で切断されたC字状のリング本体61Aとした。
以下、
図5を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明では、上述した実施の形態と同じ構成要素には同じ符号を付して相違点を主に説明する。特に説明しない点については、上述した実施の形態と同じである。
【0042】
図5(a)は変形例1のセンターリング60Aを排気フランジ510への取付面側から見た上面図であり、
図5(b)は
図5(a)のD−D線断面図である。センターリング60Aは、リング本体61Aと、Oリング71と、網72とを有する。
リング本体61Aは、上述したように1箇所の切断部67で円筒を軸方向に沿って切断したC字状を呈する部材である。リング本体61Aは、略円筒形状を呈する円筒部62Aと、フランジ部63とを有する。円筒部62Aは、
図5(b)における上部の内径よりも下部の内径が小さい段付き円筒形状を呈する。上述した実施の形態では、網72は、円筒部62の溝66で挟持されているが、変形例1では、網72は、その外周縁を段部69の上面に載置して保持されている。なお、不図示のボルトで固定しても良い。
切り欠き部68は、ポンプ側円筒部64の周長の半分付近の1箇所に設けられている。変形例1におけるポンプ側円筒部64の外径d、および、チャンバ側円筒部65の外径は、上述した実施の形態と同様に設定される。
【0043】
変形例1のセンターリング60Aでは、リング本体61Aの円周方向の端面61a同士が切断部67で対向している。対向する端面61a同士の離間距離を△C2で表す。変形例1では、切断部67が1箇所なので、離間距離△C2は、上述した実施の形態における2箇所の切断部67の離間距離△C1の合計値(2×△C1)とほぼ等しい。リング本体直径に比べて距離C1が小さいので以下の近似式(5)で表すことができる。
π×Smax ≦ △C2 ・・・(5)
【0044】
変形例1によっても、上述した実施の形態と同様の作用効果を奏する。
なお、円筒部62Aは、
図5(b)における下部の内径よりも上部の内径が小さい段付き円筒形状を呈するものであってもよい。
変形例1によっても、上述した実施の形態と同様の作用効果を奏する。さらに、実施の形態に比べて部品点数が少ないので、コストも抑制できる。
【0045】
(変形例2)
上述した実施の形態では、センターリング60は2箇所の切断部67で切断された一対のリング本体61を有する。しかし、変形例2のように、センターリングは、切断部67が設けられていないでO字状のリング本体を有するものであってもよい。変形例2では、切断部67が存在しないので、ポンプ側円筒部64の外径dは、寸法差D−dの値が正の値の範囲内で上述した実施の形態と同様に設定されればよい。チャンバ側円筒部65の外径は、上述した実施の形態と同様に設定される。すなわち、すきま嵌めである。
変形例2によっても、上述した実施の形態と同様の作用効果を奏する。
【0046】
(変形例3)
実施の形態、変形例1、2の脱落防止構造は、嵌め合い寸法の規定と、リング本体同士の端面間距離を規定した構造とした。しかし、端面間距離C1とリング本体の移動可能距離の規定により、センターリングの弾性力のみの脱落防止構造としてもよい。
すなわち、センターリング脱落防止構造は、(1)ΔC1と嵌め合い寸法を規定したもの、または、(2)ΔC1のみを規定したものと定義することができる。(2)の場合も、しまり嵌めの最大値は規定する必要があり、実施の形態、変形例1〜3における脱落防止構造の一例は、(1)と定義することができる。
【0047】
(変形例4)
変形例4の脱落防止構造では、確実にセンターリングの脱落を防止する目的で、リング本体61のポンプ側円筒部64の外周面に突起を設け、ポンプ側吸気フランジ20には、その突起を収容する軸方向に延在する縦溝と、突起の外れ止めとなる、縦溝と連続して円周方向に延在する横溝とを設けてもよい。
センターリング60の突起と吸気フランジ20の縦軸を整列させてセンターリング60を吸気フランジ20に挿入し、その後、センターリング60を回転させて突起を横溝に収容する。突起が横溝で係止されてセンターリング60の脱落が防止される。また、取付作業も容易である。
【0048】
なお、この変形例では、真空ポンプの吸気フランジを設計変更する必要があるが、上記実施の形態と変形例1,2のセンターリング60は、既存の真空ポンプに改良を加えることなく適用することができるといった利点がある。
【0049】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
したがって、本発明はターボ分子ポンプに限定されず、タービン翼式真空排気部のみを備える真空ポンプ、ネジ溝式真空排気部のみを有する真空ポンプなど、種々の真空ポンプに適用することができる。ゴミ侵入防止部材も網状の部材に限らず、微細な孔が無数に穿設されて構成される部材でも良い。