【文献】
Acorn-Style*,“簡単♪ハーバリウムの作り方”,[online],2017年 7月10日,[2021年4月16日検索],インターネット<http://www.acornstyle.com/blog/2017/07/10/how_to_herbarium/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多価アルコールは、生花の水分を多価アルコールで置換してなるプリザーブドフラワーから溶出させたものであることを特徴とする請求項4に記載された装飾置物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、乾燥処理を施した複数の花材が密閉透明容器内で流動パラフィン中を漂遊するよう構成してなる装飾置物の製造方法を提供するものである。
【0023】
本実施形態に係る装飾置物の製造方法において花材は、乾燥処理が施された植物体であれば特に限定されるものではなく、植物体もまた花や葉、茎、実など限定されるものではない。なお、本実施形態において花材として使用する乾燥処理前の花や葉、茎、実などを総称して植物片ともいう。
【0024】
密閉透明容器は、流動パラフィンや花材を内部に収容した後に密閉できるものであれば特に限定されるものではなく、ガラス製のものや樹脂製のもの、更には金属製の蓋を有するもの等を採用することができる。特にガラス製の密閉透明容器にあっては、樹脂製のものに比して草花の劣化をより抑制することができるため好ましい。
【0025】
そして、本実施形態に係る装飾置物の製造方法の特徴としては、複数の植物片に異なる条件で乾燥処理を施して水分含量及び空気含量がそれぞれ異なる複数の花材を調製し、流動パラフィンを分注した透明容器内にこれらの花材を投入して各花材の水分含量及び空気含量と相応する位置に各花材を配置し、花材から徐放される空気により各位置で形成された比重の異なる含気パラフィン層を多段に積重してなる密度勾配構造を形成し、各含気パラフィン層を仕切壁として各花材の浮沈安定化を図ることとしている点が挙げられる。
【0026】
乾燥処理は、ドライフラワーを作成する方法として一般的に行われている方法を採用することができ、例えば、シリカゲル等の乾燥剤を収容した密閉容器中に植物片を載置して乾燥させる方法や、自然乾燥させる方法などを採用することができる。
【0027】
また、この乾燥処理において重要なポイントは、複数の植物片に異なる条件で乾燥処理を施す点にある。異なる条件とは、例えば異なる乾燥方法により乾燥処理を施したり、同じ乾燥方法であっても異なる温度条件や乾燥時間で乾燥処理を施したり、同じ乾燥方法や温度、時間であっても植物片の種類を違えたりなど、乾燥度合いに影響を及ぼす条件を異ならせることを意味している。ただし、同じ密閉透明容器内に同じ条件で乾燥処理が施された植物片が投入されることを妨げるものではない。
【0028】
また、乾燥処理は加熱乾燥としても良い。この場合、植物片を概ね55〜65℃の環境下に18〜30時間配することで、良好な乾燥処理を行うことができる。すなわち、新鮮な状態の植物片を高温雰囲気下での乾燥に供することで、より色鮮やかな状態を保持しつつ乾燥を行うことができる。
【0029】
透明容器内における流動パラフィン中での各花材の配置は、例えばピンセット等の挟持具によって行うことができる。また、各花材の配置位置は、各花材の水分含量及び空気含量と相応する位置とするのが望ましい。
【0030】
流動パラフィン中にピンセット等を用いて花材を配置する場合には、ピンセットで把持した花材を注意深く流動パラフィン中へ進入させ、花材が浮き上がろうとしたり沈み込もうとする挙動が目視的に確認できない位置に配置する。
【0031】
このような配置を行った場合、その後若干の上下動はあるものの、意図的に配置した流動パラフィン中での深さ位置(以下、パラフィン内位置と称する。)近傍において花材に含ませた空気が徐放され、パラフィン内位置に所定の比重を有する含気パラフィン層の形成が行われる。
【0032】
含気パラフィン層と花材との間では、空気の流通が平衡状態となることで、見かけ上の空気の徐放は停止することとなる。また、形成された含気パラフィン層は、同含気パラフィン層からの花材の逸脱を抑制する仕切壁として機能することとなり、他の花材が形成した含気パラフィン層への進入が可及的抑制されて浮沈安定化が図られることとなる。
【0033】
なお、流動パラフィンは一般的に水分を溶解しないとされているが、花材が有する水分もまた僅かながらもパラフィン内へ徐放され、含気パラフィン層の比重に関与しているものと考えている。
【0034】
このように、パラフィン内位置に各花材の配置を行うことで、単に自然に任せて投入した場合に比して、その所望の位置近傍に花材を安定的に配置することができる。
【0035】
花材の配置を行った後は、透明容器内に流動パラフィンを補充して密閉するのであるが、このとき、若干の気溜まりを形成しておくようにしても良い。
【0036】
この気溜まりの体積は特に限定されるものではないが、密閉透明容器内体積の大凡0.25〜1%に相当する体積とすることができる。このような気溜まりを形成しておくことにより、看者が容器を傾けるなどすることにより、流動パラフィン中において拠り所無く漂遊する草花に動きを生じさせることができ、静的のみならず、草花の動的な美しさを看者に視認させることができる。
【0037】
ただし、気溜まりの形成は、そこに含まれる酸素の存在により、花材の退色などの観点から必ずしも長所ばかりであるとは言い難い。特に本実施形態では透明容器を用いることとしているため、容器を透過した紫外線により花材の色素と酸素とが化合して退色が助長されることも考えられる。
【0038】
そこで、このような退色を防止するためには、気溜まりを不活性ガスにより形成するのも一案である。不活性ガスの種類は特に限定されるものではないが、例えば、アルゴンガスやヘリウムガス等の希ガスや、窒素ガス等とすることができる。
【0039】
また、酸化に起因する花材の退色を抑制すべく、流動パラフィン中には、必要に応じて多価アルコールを含有させるようにしても良い。多価アルコールは特に限定されるものではないが、例えばグリセロールを採用することができる。多価アルコールを含有させることにより、多価アルコールが色素に優先して酸化されることとなるため、紫外線環境下においても可及的に花材の色彩を長きに亘り保持することができる。
【0040】
なお、先に従来技術として言及した灯火用仏具ではアルコールについて言及されているが、アルコールランプ等に用いられるメタノールやエタノール等の一価のアルコールは、流動パラフィンの疎水性と相俟って花材からの色素の流出が強く促され、流動パラフィンに着色が生じるため好ましくなく、酸化防止能にも乏しい。またそもそも、流動パラフィンとアルコール、特に多価アルコールとの併用については言及されていない。
【0041】
すなわち、前述の灯火用仏具は、メタノールやエタノールの如き燃料用アルコールとして一般的な一価のアルコールを含むものと解することができるが、このような一価のアルコールを含むこととすると、草花の色素が早々に溶出してしまい美麗な状態で長期保存することはできない。また、灯明としての利用であることから、投入された草花が一定期間保存できれば目的は達せられ、半永久的な保存を目的とするものでもない。しかも、着火すると燃料としてのアルコールやパラフィン溶液は消費され、燃料が減少した分だけ容器内に空気(酸素)が流入し、更には燃料の補給に際し開蓋するため、容器内に新たな酸素が供給されることとなり、草花の劣化が助長される。
【0042】
一方、本実施形態に係る装飾置物は、一価のアルコールを実質的に含有しておらず、草花から色素が溶出してしまうことを抑制することができる。また、追って説明するが、本実施形態に係る装飾置物は、意図して開封を試みない限り開封できないよう実質的に密封状態としており、新たな酸素の供給が無く、酸素の存在による草花の劣化が可及的抑制される。付言するならば、本実施形態に係る装飾置物は、草花の鮮やかさを長きに亘りそのまま保存できるところが、美観的にも技術的にも最も特筆すべき魅力の1つであり、前述の灯火用仏具などを含む先行技術とは大きく異なる点であると言える。
【0043】
流動パラフィン中への多価アルコールの添加は、予め流動パラフィン中に多価アルコールを添加しておいても良いが、例えば、プリザーブドフラワーから流動パラフィン中に多価アルコールを溶出させるようにしても良い。
【0044】
具体的には、花材と共に、生花の水分を多価アルコールで置換してなるプリザーブドフラワーを透明容器内に投入することで、酸素に由来する退色の防止を図ることも可能である。またこの場合、素朴な色合いを有するドライフラワーと鮮明な美しさを有するプリザーブドフラワーとが混在しつつ漂遊する幻想的な小世界を演出することもできる。
【0045】
ところで、上述の通り本実施形態に係る装飾置物の製造方法にて製造した装飾置物は、花材の酸化を防止し退色を抑制することで長きに亘り花材の美しさを保つことが可能であるが、そもそも、酸化による花材の退色を防止することを目的として、流動パラフィンの如き所定の媒質(以下、漂遊媒質ともいう。)と共に花材を密閉容器中に封入し装飾置物を構築するといった考え方自体が、これまでになく斬新であると言える。
【0046】
また更に付言するならば、漂遊媒質と共に花材を密閉容器中に封入し装飾置物を構築した時点で、酸化による花材の退色防止という目的は達成されたと一見考えられるところではあるが、本実施形態に係る装飾置物の製造方法ではこれに止まらず、花材の美しさをより長きに亘って保持すべく、多価アルコール等の漂遊媒質中への添加など、更なる手段を講じている点で、極めて優れた発明であると言える。
【0047】
加えて、このような酸化による花材の退色を抑制するための手段として他に挙げるならば、エリソルビン酸ナトリウムなどの水溶性酸化防止成分やビタミンEなどの脂溶性酸化防止成分を酸化防止剤として漂遊媒質へ添加することが考えられる。
【0048】
ただし、エリソルビン酸ナトリウムの如き水溶性酸化防止成分は、花材を漂遊させる媒体として用いられる流動パラフィンに難溶であり、十分な酸化退色防止効果を発揮させるのが困難である。
【0049】
そこで、本実施形態に係る装飾置物の製造方法では、乾燥処理が施された花材は、酸化防止剤を含有させた水溶液に乾燥処理前の花材を浸漬し、同水溶液を含浸させた後に乾燥処理を施したものを用いることとしている。
【0050】
すなわち、花材の乾燥処理に先立って、まず花材を洗浄し、次いで酸化防止剤を溶解させた水溶液中に洗浄した花材の全部を浸漬したり、花材の一部、特に茎部断面を浸漬し水揚げを行うことで酸化防止成分を花材中に含浸させ、酸化防止剤を含んだ花材を乾燥処理に供するようにしても良い。
【0051】
このような構成とすることにより、エリソルビン酸ナトリウムの如き水溶性酸化防止成分のように漂遊媒質(例えば、流動パラフィン)に対し難溶性を示す酸化防止剤であっても、花材の酸化退色防止に使用することが可能となる。
【0052】
また、酸化による花材の退色を防止するためには、更に積極的に、酸化に強い色素等を利用して花材を染色するようにしても良い。このような構成とした場合、より変色の少ない花材とすることができ、長きに亘って花材の色合いを維持させることが可能となる。
【0053】
また、上述した各成分以外にも、流動パラフィン中には更なる補助成分を添加することも可能である。
【0054】
例えば、流動パラフィンに溶解性を示す退色防止剤を添加して、花材の退色を抑制するようにしても良い。
【0055】
また、流動パラフィン中における浮沈安定性をより高めるべく、漂遊媒質中に沈殿防止剤を添加しても良い。
【0056】
また、微生物に由来する花材の変質を防止するために、花材に抗菌処理を施したり、漂遊媒質(例えば、流動パラフィン)中に抗菌成分や防腐剤を含有させることもできる。例えば、花材に施す抗菌処理としては、花材の乾燥処理に先立って、抗菌成分や防腐剤を溶解させた水溶液中に浸漬したり、水揚げさせる方法が挙げられる。これは、先の酸化防止剤の花材への含浸作業の際に、水溶液中に抗菌成分や防腐剤を添加しておくことで同時に行うようにしても良いのは勿論である。
【0057】
また、蛍光灯や日光に由来する紫外線によって花材が退色することを防止すべく、漂遊媒質(流動パラフィン)中に、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤を添加するようにしても良い。
【0058】
また、これまで漂遊媒質の代表例として流動パラフィンを中心に説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。漂遊媒質は流動パラフィンの他にも、シリコーンオイルやグリセロール、液糖などを利用することも可能である。
【0059】
以下、本実施形態に係る装飾置物の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では漂遊媒質として流動パラフィンを用いた例を中心に説明するが、漂遊媒質は上述の通り限定されるものではない。但し、出願人が本願を権利化するにあたり、漂遊媒質を本明細書に記載の各媒質に限定することを妨げるものではない。
【0060】
図1は、本実施形態に係る装飾置物の製造方法により製造した装飾置物Qの構成を示す説明図である。
図1に示すように装飾置物Qは、密閉透明容器10と、密閉透明容器10内に収容された内容物とで構成している。
【0061】
密閉透明容器10は、透明性を有する容器本体10aと、同容器本体10aの上部開口を閉塞する中栓10bと、容器本体10aのネジ口部10cに螺合するネジキャップ10dとで構成している。
【0062】
容器本体10aは、内容物が視認可能な程度の透明性を有するものであれば良く、本実施形態ではガラス製で細首形状の丸フラスコ型をした無色透明容器を採用している。
【0063】
中栓10bは、容器本体10aの上部開口に装着して内容物の流出を防止するための部材であり、本実施形態では可撓性を有する樹脂製のものを使用している。
【0064】
また、容器本体10aの上部開口近傍の外周面には、螺旋状のネジ口部10cが形成されており、同ネジ口部10cには、中栓10bの脱落を防止するネジキャップ10dが螺合されている。
【0065】
一方、内容物は、パラフィン液11と、花材12と、プリザーブドフラワー13とで構成している。
【0066】
パラフィン液11は、花材12がプリザーブドフラワー13を漂遊させるための媒質として機能する液であり、本実施形態では、カネダ株式会社製ハイコール(登録商標)K-290を使用している。
【0067】
花材12は、パラフィン液11中における漂遊体として機能するものであり、千日紅の花に乾燥処理を施した千日紅花材12aと、スターチスの花に乾燥処理を施したスターチス花材12bと、ペッパーベリーの実に乾燥処理を施したペッパーベリー花材12cとを使用している。
【0068】
これら花材12のうち、千日紅花材12a及びスターチス花材12bは、
図2(a)に示すように、デシケーター20内に収容して乾燥処理を施したものであり、また、それぞれデシケーター20からの取出時間を違えることで、異なる乾燥条件としている。なお、図中において符号21は、デシケーター20内に収容した乾燥剤としてのシリカゲルである。
【0069】
また、花材12のうちペッパーベリー花材12cは、
図2(b)に示すように、自然乾燥を施したものであり、千日紅花材12aやスターチス花材12bとは異なる乾燥条件にて乾燥処理を施している。
【0070】
また、本実施形態では
図1に示すように、更なる花材として、蔓性植物の蔓部に乾燥処理を施してなる蔓花材12dを使用している。この蔓花材12dは、後述する各含気パラフィン層に跨って配置されるものであり、このような花材もまた、必要に応じて投入することにより、看者の目を楽しませることができる。
【0071】
プリザーブドフラワー13は、花材12と同様にパラフィン液11中における漂遊体として機能するものであり、また、多価アルコール放出体としての機能を有するものである。
【0072】
すなわち、本実施形態において使用するプリザーブドフラワー13は、生花の水分を多価アルコール、具体的にはグリセロールで置換してなるプリザーブドフラワーであり、パラフィン液に多価アルコールを混在させることにより、密閉透明容器10内に存在する酸素に由来した花材12やプリザーブドフラワー13の退色劣化を防止することとしている。
【0073】
本実施形態においてプリザーブドフラワー13としては、デイジーの花にプリザーブド処理を施したプリザーブドデイジー13aや、アジサイの花(萼)にプリザーブド処理を施したプリザーブドアジサイ13bを採用している。
【0074】
特に、プリザーブドアジサイ13bは、追って試験結果について言及するが、装飾置物Qを傾けるなどしてパラフィン液11を流動させた際に興味深い挙動を示すため、装飾置物Qに使用するプリザーブドフラワー13として好ましい。
【0075】
すなわち、他のプリザーブドフラワー13は、パラフィン液11を流動させた際に比較的早期に沈降してしまうが、それとは逆にプリザーブドアジサイ13bは、流動前に沈降していたとしても、パラフィン液11を流動させた後比較的長きに亘り漂遊する傾向を示す。
【0076】
本発明者はこの現象についてアジサイの植物組織学的構造に由来するものと考えており今後の研究が期待されるところであるが、装飾置物Qを傾けて花材12やプリザーブドフラワー13の動的な美しさを楽しんだ後にも漂遊し続けるプリザーブドアジサイ13bは、パラフィン液11中における漂遊体のバランスの良い分散に寄与すると共に、装飾置物Qに更なる興趣を添えて看者の目を楽しませることができる。
【0077】
また、密閉透明容器10の内部には、気溜まり部14を形成している。この気溜まり部14は、看者が密閉透明容器10を傾けるなどすることにより、パラフィン液11中において拠り所無く漂遊する草花に動きを生じさせることができ、静的のみならず、草花の動的な美しさを看者に視認させるための部位である。
【0078】
次に、本実施形態に係る装飾置物の製造方法について説明する。装飾置物Qを製造するにあたっては、まず、容器本体10a内に所定量のパラフィン液11を分注し、
図3(a)に示すようにピンセット31で花材12やプリザーブドフラワー13を挟持しつつパラフィン液11内に配置する。
【0079】
このとき、花材12が浮き上がろうとしたり沈み込もうとする挙動が目視的に確認できない位置に配置することで、配置後の意図しない移動を最小限に留めることができる。また、花材12やプリザーブドフラワー13の色合い(カラーバランス)を考慮しつつ配置することで、装飾置物Qに美術的な作風を付与するようにしても良い。
【0080】
次に、花材12やプリザーブドフラワー13の配置を終えた後、
図3(b)に示すように、パラフィン液11を容器本体10a内に補充する。パラフィン液11の補充量は、密閉透明容器10内に、同密閉透明容器10の内容積の1〜10%に相当する気溜まり部14が形成される量とするのが好ましい。
【0081】
次いで、容器本体10aの上部開口に中栓10bを装着し密閉を行う。中栓10bは、
図3(c)に示すように、容器本体10aの上部開口周縁に対し、硬化性を有する固着剤32を塗布して封止するのが望ましい。固着剤32としては、例えば、接着剤や光硬化性樹脂等を採用することができる。
【0082】
固着剤32により中栓10bの固定化がなされた後は、ネジキャップ10dをネジ口部10cに螺合させることで装飾置物Qとすることができる。
【0083】
そして、このように本実施形態に係る装飾置物の製造方法にて製造された装飾置物Qは、
図1や
図4に示すように、投入された花材12がパラフィン液11中において漂遊することとなり、密閉透明容器10内において底部近傍から液面近傍に至るまでバランス良く花材12が配置されることとなる。
【0084】
また、パラフィン液11内では、
図4に示すように、各花材12に含まれている空気が近傍のパラフィン液11に徐放され、空気を比較的多く含む低密度の含気パラフィン層33Lや、中程度に空気を含む含気パラフィン層33M、空気含量が比較的少ない高密度の含気パラフィン層33Hが積層されてなる密度勾配構造が形成される。
【0085】
そして、この密度勾配構造が形成されることにより、各含気パラフィン層33が仕切壁として機能して、各位置に配置された花材12の浮き沈みが規制され、浮沈安定化が図られることとなる。
【0086】
すなわち、拠り所なく漂遊する花材12により、パラフィン液11中において比較的長きに亘りバランス良く草花を分散させることができる。
【0087】
次に、本実施形態に係る装飾置物及び装飾置物の製造方法に関し、各種試験を行った結果について言及する。
【0088】
〔1.プリザーブドアジサイの挙動確認試験〕
パラフィン液内に投入されたプリザーブドアジサイに関し、密閉透明容器を時折傾けてパラフィン液を流動させた場合と、パラフィン液を流動させず密閉透明容器を静置し続けた場合とで、プリザーブドアジサイの挙動の違いについて確認を行った。
【0089】
本試験では、密閉透明容器として約195ml容量の電球型容器を用い、複数のプリザーブドアジサイが投入された装飾置物A及び装飾置物Bの2つを同様に作成した。また、他のプリザーブドフラワーを採用した比較用サンプルとして、プリザーブドデイジーを投入した装飾置物Cについても作成した。なお、パラフィン液の液面上には、いずれも約0.5mlの気溜まり部を形成した。
【0090】
任意に選択して決定した装飾置物Aは1日おきに傾けて内部に収容されたパラフィン液を流動させつつプリザーブドアジサイに動きを与え、他方の装飾置物Bはパラフィン液を流動させることなくそのまま静置して7日間の経過を観察した。また、装飾置物Cについては、装飾置物Aと同様に処理を施した。
【0091】
その結果、
図5に示すように、7日間経過後の時点において装飾置物Bでは全てのプリザーブドアジサイが沈降状態であったのに対し、装飾置物Aではパラフィン液中に漂遊するプリザーブドアジサイが確認された。
【0092】
また、
図5において図示は省略するが、装飾置物Aと同様に処理を施した装飾置物Cについては、プリザーブドデイジーの漂遊は確認されなかった。
【0093】
本試験結果では割愛するものの、本発明者がこれまで長年に亘りプリザーブドフラワー取り扱った経験上、プリザーブドフラワーは装飾置物Cと同様の挙動を示すのが一般的であり、装飾置物Aにおける漂遊はプリザーブドアジサイに特有の現象と考えられ大変興味深い。
【0094】
このように、本試験結果から、プリザーブドアジサイは、パラフィン液を流動させた後比較的長きに亘り漂遊する傾向を示すことが示された。
【0095】
〔2.アルコールによる退色抑制効果確認試験〕
パラフィン液に一価のアルコール又は多価アルコールを添加した場合における花材の挙動について確認を行った。
【0096】
具体的には、前述の試験と同様に電球型容器を用い、パラフィン液に花材を投入した上で、液面上に約0.5mlの気溜まり部を形成することで、装飾置物D〜Fの作成を行った。
【0097】
装飾置物Dには、一価のアルコールとして無水エタノールを1重量%添加した。また、装飾置物Eには、多価アルコールとしてグリセロールを1重量%添加した。また、装飾置物Fは、比較対象としてアルコールの添加を行わなかった。
【0098】
試験は、加速試験の意味合いも込めて、紫外線量が多いと思われる日光の良く当たる場所に静置し、1日数回容器を傾けるなどして内部のパラフィン液を流動させつつ、3ヶ月に亘り行った。
【0099】
その結果、
図6に示すように、装飾置物Dについては、試験開始後まもなくパラフィン液中への花材からの色素の溶出が認められた。また、3ヶ月後においては、紫外線の影響による退色が認められた。また、花材の沈降傾向が顕著に現れ、3ヶ月後の時点で漂遊する花材は認められなかった。
【0100】
一方、装飾置物Eでは、3ヶ月後の時点で花材の顕著な退色はわずかであった。また、花材からパラフィン液への色素の溶出は認められず、良好な無色透明性を維持しており、更には作成当初の花材位置を保った顕著な浮沈安定性が認められた。
【0101】
装飾置物Eの装飾置物Fとの比較においては、装飾置物Fよりも装飾置物Eの方が、退色度合いが軽微であった。
【0102】
〔3.花材位置確認試験〕
本試験では、パラフィン液中に配置した花材の深さ位置が、どの程度の期間保たれるかについて確認を行った。
【0103】
具体的には、前述の試験と同様に電球型容器を用い、パラフィン液に花材を投入した上で、液面上に約0.5mlの気溜まり部を形成することで装飾置物Gの作成を行い、1日数回容器を傾けるなどして内部のパラフィン液を流動させつつ、3ヶ月に亘り行った。
【0104】
その結果、
図7に示すように、パラフィン液中に配置された花材は、少なくとも3ヶ月に亘りその深さ位置が維持できる程度の浮沈安定性が確保されていることが示された。
【0105】
〔4.パラフィン液の比重確認試験〕
次に、密閉透明容器10内の各深さ位置におけるパラフィン液の比重について確認を行った。
【0106】
具体的には、〔3.花材位置確認試験〕にて示した3ヶ月経過後の装飾置物Gを開封し、底部近傍、中間部近傍、液面部近傍の3箇所からパラフィン液を採取し、採取したパラフィン液をマイクロピペットでそれぞれ1000μlを量り取り、精密天秤に供してその重量測定を行った。その結果を表1に示す。
【表1】
【0107】
表1からも分かるように、小数点以下3桁のオーダーで分類される少なくとも3層以上がブロードに積層されてなる含気パラフィン層の密度勾配構造が形成されていることが示唆された。
【0108】
また、使用しているパラフィン液の比重が0.859g/cm
3(カタログ値)であることから勘案すると、本来流動パラフィンに水は溶解しないとされているものの、花材から水分が僅かながら溶出し、比重に影響を及ぼすことで密度勾配構造の形成に寄与しているものと考えられた。
【0109】
上述してきたように、本実施形態に係る装飾置物の製造方法によれば、乾燥処理を施した複数の花材が密閉透明容器内で流動パラフィン中を漂遊するよう構成してなる装飾置物の製造方法であって、複数の植物片に異なる条件で乾燥処理を施して水分含量及び空気含量がそれぞれ異なる複数の花材を調製し、流動パラフィンを分注した透明容器内にこれらの花材を投入して各花材の水分含量及び空気含量と相応する位置に各花材を配置し、花材から徐放される空気により各位置で形成された比重の異なる含気パラフィン層を多段に積重してなる密度勾配構造を形成し、各含気パラフィン層を仕切壁として各花材の浮沈安定化を図ることとしたため、パラフィン液中においてバランス良く草花を分散させることのできる装飾置物の製造方法を提供することができる。
【0110】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。