(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6882860
(24)【登録日】2021年5月11日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】免震基礎構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20210524BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-133899(P2016-133899)
(22)【出願日】2016年7月6日
(65)【公開番号】特開2018-3499(P2018-3499A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】茂呂 恭央
【審査官】
兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−048523(JP,A)
【文献】
特開2012−158912(JP,A)
【文献】
特開2014−095201(JP,A)
【文献】
特開2015−190163(JP,A)
【文献】
特開平08−021126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E02D 27/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
捨てコンクリート上に、アンカー部材を配置するとともに、前記アンカー部材のベース部材の上方に下端筋を配筋する工程、
前記アンカー部材の周囲に複数の柱筋を配筋し、前記柱筋で前記アンカー部材を囲繞するとともに、前記柱筋を前記下端筋と接続することにより、前記柱筋により前記アンカー部材を固定する工程、
上端筋と免震基礎筋を配筋する工程、
前記アンカー部材の上方に免震装置の下側ベースプレートを設置し、前記下側ベースプレートが備えるアンカーボルトと前記アンカー部材とを固定する工程、
コンクリートを打設する工程、
をこの順で備えることを特徴とする免震基礎構造の構築方法。
【請求項2】
前記アンカーボルトと前記アンカー部材とが、前記上端筋よりも下方で固定されることを特徴とする請求項1に記載の免震基礎構造の構築方法。
【請求項3】
前記アンカーボルトと前記アンカー部材とが、溶接により固定されることを特徴とする請求項1または2に記載の免震基礎構造の構築方法。
【請求項4】
前記アンカー部材が、前記下側ベースプレートの高さを調整して支持する高さ調整治具を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の免震基礎構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震基礎構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免震装置を介して建物を支持する免震構造が知られている。免震装置は、滑り支承、転がり支承、積層ゴム等からなるアイソレータと、オイルダンパー、鋼材ダンパー、鉛ダンパー等からなるダンパーとに大別される。オイルダンパーを除く免震装置は、通常、下側ベースプレートと上側ベースプレートとを有し、下側ベースプレートが鉄筋コンクリート造の基礎の上に設置され、上側ベースプレートの上に構造物が建築される。構造物は、免震装置により地面と分離して建てられており、地震時の地面の揺れを上側ベースプレート上方の構造物に減衰して伝えることにより、地震時の被害を抑えるものである。
【0003】
特許文献1には、床版上に免震基礎を有し、免震装置の下部フランジプレートが免震基礎上に設置され、下部フランジプレートのスタッドアンカーが免震基礎内に埋め込まれている免震構造が提案されている。免震基礎を構築するための鉄筋は、アンカーの位置を床版上に墨出しして、アンカー位置と干渉しないように配筋されている。
【0004】
ここで、大型の構造物では、下側ベースプレートを強固に固定するために、下側ベースプレートを固定するためのアンカーボルトの長さが1m以上に達する場合がある。アンカーボルトが長くなると、位置決めのための墨出しを、基礎梁上ではなく捨てコンクリート上に行う必要がある。大型の構造物では、梁せいが2m以上に及ぶこともあり、2m以上下方に墨出しされた目印に対して、目視で干渉しないように配筋することは困難である。また、鉄筋とアンカーボルトが干渉すると、配筋後に鉄筋をずらさねばならず、非常に手間であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−12464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、免震基礎構造の簡便な構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1.捨てコンクリート上に、アンカー部材を配置するとともに、下端筋を配筋する工程、
前記アンカー部材に柱筋を配筋する工程、
上端筋と免震基礎筋を配筋する工程、
前記アンカー部材の上方に免震装置の下側ベースプレートを設置し、前記下側ベースプレートが備えるアンカーボルトと前記アンカー部材とを固定する工程、
コンクリートを打設する工程、
をこの順で備えることを特徴とする免震基礎構造の構築方法。
2.前記アンカーボルトと前記アンカー部材とが、前記上端筋よりも下方で固定されることを特徴とする1.に記載の免震基礎構造の構築方法。
3.前記アンカーボルトと前記アンカー部材とが、溶接により固定されることを特徴とする1.または2.に記載の免震基礎構造の構築方法。
4.前記アンカー部材が、前記下側ベースプレートの高さを調整して支持する高さ調整治具を備えることを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の免震基礎構造の構築方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、捨てコンクリート上にアンカー部材を配置し、このアンカー部材と、免震装置の下側ベースプレートが備えるアンカーボルトとを固定することにより、アンカー部材を下側ベースプレートのアンカーとして用いることができる。アンカーボルトは、アンカー部材と接続できる長さであればよいため、アンカーボルトの長さを短くすることができ、アンカーボルトとの干渉を考慮しながら行う配筋作業を大幅に簡略化することができるため、施工性に優れ、短工期と工事費の圧縮が可能である。
アンカー部材は、柱筋により強固に固定されているため、生コンクリートを打設する際に、その圧力に押されて動くことがない。正確な位置に固定されたアンカー部材と、下側ベースプレートのアンカーボルトとを固定するため、下側ベースプレートを正確な位置に設置することができる。
アンカーボルトとアンカー部材とを、上端筋より下方で固定することにより、下側ベースプレートを基礎に強固に固定することができる。アンカー部材とアンカーボルトとの固定は、上端筋の下方で行われるが、上端筋の直下であるため、鉄筋の下に潜り込む必要がなく、上から手を伸ばして施工することができ、作業性に優れる。
アンカー部材に、下側ベースプレートの傾きを補正する高さ調整機構を設けることにより、下側ベースプレートを水平に設置することができ、免震装置を設計通りに設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の免震基礎構造の構築方法の工程を説明する図。
【
図2】アンカー部材を配置した状態で下端筋を配筋した例を示す図。
【
図3】本発明の免震基礎構造の構築方法の工程を説明する図。
【
図5】本発明の免震基礎構造の構築方法の工程を説明する図。
【
図6】本発明の免震基礎構造の構築方法の工程を説明する図。
【
図7】免震基礎筋上に下側ベースプレートを載置した状態を示す図。
【
図8】本発明の免震基礎構造の構築方法の工程を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、捨てコンクリート上に、アンカー部材を配置するとともに、下端筋を配筋する工程、
前記アンカー部材に柱筋を配筋する工程、
上端筋と免震基礎筋を配筋する工程、
前記アンカー部材の上方に免震装置の下側ベースプレートを設置し、前記下側ベースプレートが備えるアンカーボルトと前記アンカー部材とを固定する工程、
コンクリートを打設する工程、
をこの順で備える免震基礎構造の構築方法に関する。
【0011】
以下、本発明の免震基礎構造の構築方法を、工程順に説明する。
「捨てコンクリート上に、アンカー部材を配置するとともに、下端筋を配筋する工程」
基礎の底面に設けられた捨てコンクリートG上に、アンカー部材1を配置し、下端筋2を配筋する(
図1、2)。
アンカー部材1は、捨てコンクリートGの上に固定されるベース部材11と、ベース部材から立設する複数の鉛直部材12と、これら鉛直部材の頂部同士を連結して水平に延びる水平部材13と、鉛直部材同士を連結して斜めに延びるブレース14とを備える。ベース部材11、鉛直部材12、水平部材13、ブレース14は、山形鋼からなる。
下端筋2は、アンカー部材のベース部材11の上方に配筋する。下端筋を、アンカー部材のベース部材の上方に配筋することにより、アンカー部材1を水平に保つことができる。
【0012】
「前記アンカー部材に柱筋を配筋する工程」
アンカー部材の周囲に、柱筋を配筋する(
図3、4)。なお、
図4に示す図は、柱筋の他に、下端筋と上端筋との中間高さ部分に足場板を支える架台が設けられており、この架台の上に足場が置かれている。
アンカー部材1は、下端筋2と接続された柱筋3が配筋されることにより、周辺の施工時に人やモノが接触したり、生コンクリートを打設する際の流動する生コンクリートの圧力が加わったりしても、動いたり傾いたりしないように、設計した箇所に強固に固定される。また、柱筋3を配筋することにより、アンカー部材1が傾いたり、揺れたりすることを防止することができ、鉛直方向の精度を高く保つことができる。
【0013】
「上端筋と免震基礎筋を配筋する工程」
上端筋と免震基礎筋、また、必要に応じてその他フーチング筋等(図示せず)を配筋する(
図5)。
上端筋4と免震基礎筋5は、この後に設置する下側ベースプレートが備えるアンカーボルトと干渉しないように配筋する。免震基礎筋5とは、
図8中の免震基礎部50に配筋される水平方向鉄筋、及び、水平方向鉄筋と直交方向に配筋されるせん断補強鉄筋等を意味する。
上端筋4と免震基礎筋5とを、アンカーボルトと干渉しない位置に配筋する方法は特に制限されないが、アンカー部材の水平部材に、アンカーボルトの位置を示すガイド鉄筋を設け、このガイド鉄筋により上端筋と免震基礎筋の位置を定める方法が挙げられる。水平部材は、上端筋の直下に位置するため、捨てコンクリート上の墨出しと比較して、正確に配筋することができる。
【0014】
「前記アンカー部材の上方に免震装置の下側ベースプレートを設置し、前記下側ベースプレートが備えるアンカーボルトと前記アンカー部材とを固定する工程」
下側ベースプレート6を、免震基礎筋5上に載置し、アンカーボルト61とアンカー部材1とを固定する(
図6、7)。
先の工程で、上端筋4と免震基礎筋5とは、下側ベースプレート6が備えるアンカーボルト61と干渉しないように配筋されているため、下側ベースプレート6を所定の箇所に容易に載置することができる。また、アンカーボルト61は、アンカー部材1の水平部材13に達する長さを有せば十分であり、下端筋2近辺まで延びる長いアンカーボルトは必要でない。本発明で使用する下側ベースプレート6はアンカーボルト61が短いため、長いアンカーボルトを備える従来のベースプレートと比較して、軽量で小型である。そのため、本発明で使用する下側ベースプレート6は、重機で揚重することなく、作業員の手で運搬して所定の位置に載置することができる。
【0015】
次いで、アンカーボルト61とアンカー部材1とを固定する。アンカーボルト61とアンカー部材1とを固定する方法は特に制限されず、溶接、ボルトとナット、クランプ等を用いることができる。これらの中で、溶接による固定が、アンカーボルト61をアンカー部材1に強固に固定できるため好ましい。また、この固定作業は、上端筋4の直下で行われる。そのため、上端筋4の隙間から手を伸ばして作業を行うことができ、上端筋4の下に潜り込んで作業する必要がないため、作業性に優れる。
また、アンカーボルト61とアンカー部材1とを固定する前に、高さ調整治具(図示せず)により、下側ベースプレート6の傾きを調整し、水平となるように載置する。高さ調整治具は特に限定されないが、例えば、レベル調整ネジを備えた棒状の支持部からなる高さ調整治具を挙げることができる。この高さ調整治具は、下側ベースプレート、またはアンカー部材の四隅に設置される。
【0016】
「コンクリートを打設する工程」
免震基礎を構成するコンクリートを打設する(
図8)。
免震基礎は、基礎部10と、基礎部の上面から突出した免震基礎部50等からなる。コンクリートは、公知の方法で打設することができる。
【符号の説明】
【0017】
G 捨てコンクリート
1 アンカー部材
11 ベース部材
12 鉛直部材
13 水平部材
14 ブレース
2 下端筋
3 柱筋
4 上端筋
5 免震基礎筋
6 下側ベースプレート
61 アンカーボルト
10 基礎部
50 免震基礎部