特許第6882871号(P6882871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6882871
(24)【登録日】2021年5月11日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】鞍乗り型車両のシート固定構造
(51)【国際特許分類】
   B62J 1/12 20060101AFI20210524BHJP
   B62K 3/04 20060101ALI20210524BHJP
   B60N 2/68 20060101ALN20210524BHJP
【FI】
   B62J1/12 C
   B62J1/12 B
   B62K3/04
   !B60N2/68
【請求項の数】11
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-177015(P2016-177015)
(22)【出願日】2016年9月9日
(65)【公開番号】特開2017-61301(P2017-61301A)
(43)【公開日】2017年3月30日
【審査請求日】2019年3月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-188339(P2015-188339)
(32)【優先日】2015年9月25日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100144200
【弁理士】
【氏名又は名称】奥西 祐之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】川端 大樹
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 清二
【審査官】 中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−206584(JP,A)
【文献】 特開平04−331676(JP,A)
【文献】 実開昭61−182381(JP,U)
【文献】 実開昭59−002766(JP,U)
【文献】 特開昭63−082885(JP,A)
【文献】 実開平01−062986(JP,U)
【文献】 特開2002−235474(JP,A)
【文献】 特開平07−033057(JP,A)
【文献】 特開2016−064709(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/004338(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 1/12 − 1/14
B62J 1/28
B60N 2/00 − 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のシート部材とこれに隣接して配置された第2のシート部材とを備え、前記第1のシート部材が取り外された状態で前記第2のシート部材を車体フレームに着脱自在に固定する、鞍乗り型車両のシート固定構造であって、
前記第2のシート部材に係合する係合位置と、前記第2のシート部材に係合しない係合解除位置とにわたって、所定のスライド方向に移動可能に案内される係合部材と、
前記第1のシート部材で覆われており、前記係合部材の前記車体フレームに対する前記スライド方向への移動を阻止する移動阻止状態と、前記係合部材の前記スライド方向への移動を許容する移動許容状態と、に切り換え可能な固定部材と、を備え、
前記係合部材は、前記固定部材を通過して前記スライド方向に移動可能になっており、
前記車体フレームは、
車幅方向に延びるクロスメンバと、
後方に延びる左右一対のリアフレームと
を備え、
前記クロスメンバは、
前記左右一対のリアフレームを左右に接続しており、上部において前記第1のシート部材を下方から直接に支持する、クロスメンバ本体と、
前記クロスメンバ本体に設けられて、前記係合部材の前記スライド方向への移動をガイドしており、前記移動阻止状態と前記移動許容状態とに切り替え可能に構成された、スライドガイドと
を有し、
前記固定部材は、前記クロスメンバによって構成されている、ことを特徴とする鞍乗り型車両のシート固定構造。
【請求項2】
第1のシート部材とこれに隣接して配置された第2のシート部材とを備え、前記第1のシート部材が取り外された状態で前記第2のシート部材を車体フレームに着脱自在に固定する、鞍乗り型車両のシート固定構造であって、
前記第2のシート部材に係合する係合位置と、前記第2のシート部材に係合しない係合解除位置とにわたって、所定のスライド方向に移動可能に案内される係合部材と、
前記第1のシート部材で覆われており、前記係合部材の前記車体フレームに対する前記スライド方向への移動を阻止する移動阻止状態と、前記係合部材の前記スライド方向への移動を許容する移動許容状態と、に切り換え可能な固定部材と、を備え、
前記係合部材は、前記固定部材を通過して前記スライド方向に移動可能になっており、
前記固定部材には、前記第1のシート部材を前記車体フレームに着脱自在に固定するロック装置が取り付けられており、
前記ロック装置は、前記第1のシート部材を前記車体フレームに固定するロック状態と、前記第1のシート部材の前記車体フレームへの固定を解除するアンロック状態と、に操作されるようになっており、
前記第1のシート部材は、前記ロック装置に係合可能なストライカを有しており、
前記ストライカは、前記係合部材が前記係合解除位置に位置するとき、前記ロック装置との係合が前記係合部材によって阻止される位置に、配置されている、ことを特徴とする鞍乗り型車両のシート固定構造。
【請求項3】
前記固定部材は、前記係合部材の前記係合位置から前記係合解除位置へのスライドにおける前記係合解除位置を超えたさらなるスライド、を防止するように前記係合部材のスライド量を規制する、
請求項1または2に記載の鞍乗り型車両のシート固定構造。
【請求項4】
前記固定部材は、前記係合部材が貫通する貫通孔が形成された貫通孔形成部と、該貫通孔形成部に接続されて前記係合部材の前記スライド方向への移動を案内する案内部と、を有している、
請求項1〜3のいずれか1つに記載の鞍乗り型車両のシート固定構造。
【請求項5】
前記固定部材には、前記第1のシート部材を前記車体フレームに着脱自在に固定するロック装置が取り付けられており、
前記ロック装置は、前記第1のシート部材を前記車体フレームに固定するロック状態と、前記第1のシート部材の前記車体フレームへの固定を解除するアンロック状態と、に操作されるようになっている、
請求項1〜4のいずれか1つに記載の鞍乗り型車両のシート固定構造。
【請求項6】
前記係合部材は、前記係合部材を前記スライド方向に移動させるためのつまみ部を有し、
前記つまみ部は、前記固定部材から見て前記第2のシート部材とは反対側に位置している、
請求項1〜5のいずれか1つに記載の鞍乗り型車両のシート固定構造。
【請求項7】
前記第2のシート部材に設けられ、先端に返し部を有する、突起部と、
前記車体フレームに設けられ、前記突起部に嵌合する貫通孔を有する、弾性体と、を更に備えており、
前記突起部を前記貫通孔に嵌合させることによって前記第2のシート部材が前記車体フレームの所定位置に位置決めされた状態で、前記係合部材は、前記第2のシート部材に対して、所定の隙間を介して係合するようになっている、
請求項1〜6のいずれか1つに記載の鞍乗り型車両のシート固定構造。
【請求項8】
前記第1のシート部材が車体に取り付けられた状態で、前記係合位置から前記係合解除位置への前記係合部材の移動が、前記第1のシート部材によって妨げられている、
請求項1〜7のいずれか1つに記載の鞍乗り型車両のシート固定構造。
【請求項9】
前記固定部材は、前記係合部材を前記係合解除位置及び/又は前記係合位置に保持する保持部を有しており、
前記保持部は、前記係合部材を、工具を要せずに保持可能に構成されている、
請求項1〜8のいずれか1つに記載の鞍乗り型車両のシート固定構造。
【請求項10】
前記保持部は、前記係合部材を弾性的に把持する把持部を有している、
請求項9に記載の鞍乗り型車両のシート固定構造。
【請求項11】
第1のシート部材とこれに隣接して配置された第2のシート部材とを備え、前記第1のシート部材が取り外された状態で前記第2のシート部材を車体フレームに着脱自在に固定する、鞍乗り型車両のシート固定構造であって、
前記第2のシート部材に係合する係合位置と、前記第2のシート部材に係合しない係合解除位置とにわたって、所定のスライド方向に移動可能に案内される係合部材と、
前記第1のシート部材で覆われており、前記係合部材の前記車体フレームに対する前記スライド方向への移動を阻止する移動阻止状態と、前記係合部材の前記スライド方向への移動を許容する移動許容状態と、に切り換え可能な固定部材と、を備え、
前記係合部材は、前記固定部材を通過して前記スライド方向に移動可能になっており、
前記係合部材には、前記スライド方向に長い長孔が形成されており、
前記固定部材は、
前記係合部材の前記スライド方向への移動を案内するガイド部と、
締結ボルトおよび締結ナットを含んでおり、前記係合部材を前記ガイド部に固定するための、固定部と
を有し、
前記係合部材は、前記長孔を介して前記締結ボルトによって前記ガイド部に固定されている、ことを特徴とする鞍乗り型車両のシート固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗り型車両のシート固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鞍乗り型車両のシート固定構造として、第1のシート部材とこれに隣接して配置された第2のシート部材とを備え、別個のキーによる施錠操作及び解錠操作によって第1及び第2のシート部材を車体フレームに対して着脱自在に構成したものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4040275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された鞍乗り型車両のシート固定構造では、別個のキーが必要となるので、シート固定構造が複雑となる。
【0005】
本発明の目的は、鞍乗り型車両のシート固定構造を簡単化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0007】
本発明は、第1のシート部材とこれに隣接して配置された第2のシート部材とを備え、前記第1のシート部材が取り外された状態で前記第2のシート部材を車体フレームに着脱自在に固定する、鞍乗り型車両のシート固定構造であって、前記第2のシート部材に係合する係合位置と、前記第2のシート部材に係合しない係合解除位置とにわたって、所定のスライド方向に移動可能に案内される係合部材と、前記第1のシート部材で覆われており、前記係合部材の前記車体フレームに対する前記スライド方向への移動を阻止する移動阻止状態と、前記係合部材の前記スライド方向への移動を許容する移動許容状態と、に切り換え可能な固定部材と、を備え、前記係合部材は、前記固定部材を通過して前記スライド方向に移動可能になっている、ことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、第1のシート部材及び第2のシート部材の、係合及び係合解除を単純化でき、シート固定構造を簡単化できる。また、係合部材は、固定部材を通過してスライド方向に移動可能であるので、係合部材のスライド方向への移動が、固定部材によって制限されることがない。これによって、例えば、係合部材のスライド方向への移動範囲を長く設定できる。この結果、係合部材をスライド方向に移動させることによって、第2のシート部材を係合し又は係合解除することを容易化できる。また、固定部材は、第1のシート部材で覆われるので、固定部材へのアクセスが制限され、これによって固定部材が不必要に移動阻止状態から移動許容状態に切り換えられることが防止されている。
【0009】
さらに、係合部材はスライド方向に案内されるので、係合部材の形状を単純化できると共に、係合部材を移動させるときに、例えば係合部材を締結ボルトで固定部材に固定する場合でも、締結ボルトを完全に着脱することを要しない。したがって、係合部材のスライド操作が簡略化されるので、これによってシート部材の取付作業性を向上できる。
【0010】
なお、シート部材には、鞍乗り型車両の乗員が着座する乗員着座用シートに関連する部材が含まれ、例えば、乗員着座用シートの他、これに隣接して車体に形成された収容空間を覆う蓋体も含まれる。すなわち、第1のシート部材及び第2のシート部材の両方が乗員着座用シートである場合の他、一方のシート部材が乗員着座用シートであって、他方のシート部材が蓋体である場合も含まれる。
【0011】
本発明は、さらに、次のような構成を備えるのが好ましい。
【0012】
(a)前記車体フレームは、車幅方向に延びており且つ前記第1のシート部材を支持するシートフレームを備え、前記固定部材は、前記シートフレームによって構成されている。
【0013】
(b)前記固定部材は、前記係合部材が貫通する貫通孔が形成された貫通孔形成部と、該貫通孔形成部に接続されて前記係合部材の前記スライド方向への移動を案内する案内部と、を有している。
【0014】
(c)前記固定部材には、前記第1のシート部材を前記車体フレームに着脱自在に固定するロック装置が取り付けられており、前記ロック装置は、前記第1のシート部材を前記車体フレームに固定するロック状態と、前記第1のシート部材の前記車体フレームへの固定を解除するアンロック状態と、に操作されるようになっている。
【0015】
(d)前記第1のシート部材は、前記ロック装置に係合可能なストライカを有しており、前記ストライカは、前記係合部材が前記係合解除位置に位置するとき、前記ロック装置との係合が前記係合部材によって阻止される位置に、配置されている。
【0016】
(e)前記係合部材は、前記係合部材を前記スライド方向に移動させるためのつまみ部を有し、前記つまみ部は、前記固定部材から見て前記第2のシート部材とは反対側に位置している。
【0017】
(f)前記第2のシート部材に設けられ、先端に返し部を有する、突起部と、前記車体フレームに設けられ、前記突起部に嵌合する貫通孔を有する、弾性体と、を更に備えており、前記突起部を前記貫通孔に嵌合させることによって前記第2のシート部材が前記車体フレームの所定位置に位置決めされた状態で、前記係合部材は、前記第2のシート部材に対して、所定の隙間を介して係合するようになっている。
【0018】
(g)前記第1のシート部材が車体に取り付けられた状態で、前記係合位置から前記係合解除位置への前記係合部材の移動が、前記第1のシート部材によって妨げられている。
【0019】
(h)前記固定部材は、前記係合部材を前記係合解除位置及び/又は前記係合位置に保持する保持部を有しており、前記保持部は、前記係合部材を、工具を要せずに保持可能に構成されている。
【0020】
(i)構成(h)を有し、前記保持部は、前記係合部材を弾性的に把持する把持部を有している。
【0021】
(j)構成(i)を有し、前記把持部は、前記係合部材が前記スライド方向に移動操作された場合に前記係合部材の前記スライド方向への移動を許容し、前記係合部材の自重による前記スライド方向への移動を阻止するように構成されている。
【0022】
前記構成(a)によれば、固定部材をフレーム部材で兼用することができ、これによって固定部材を係合部材専用に設ける必要がなく部品点数を低減できる。
【0023】
前記構成(b)によれば、係合部材を、固定部材を貫通させながらスライド方向へ容易に移動させることができる。
【0024】
前記構成(c)によれば、固定部材にロック装置を取り付けることによって、ロック装置を取り付けるための専用部材を設ける必要がなく部品点数を低減できる。また、ロック装置によって、不所望に第1のシート部材が取り外されることを防止でき、さらに第1のシート部材の取り外しを防止することによって、第2のシート部材が不所望に取り外されることも防止できる。
【0025】
前記構成(d)によれば、第2のシート部材が係合部材によって係合されていないときに、第1のシート部材が車体フレームに固定されることを未然に防止できる。
【0026】
前記構成(e)によれば、つまみ部をスライド方向に押し引きすることによって、係合部材をスライド方向に容易に移動させることができる。また、つまみ部は固定部材から見て第2のシート部材とは反対側に位置しているので、第2のシート部材が車体フレームに取り付けられた状態でも、容易に操作できる。
【0027】
前記構成(f)によれば、突起部を弾性体に嵌合させることによって、第2のシート部材を車体フレームの所定位置に弾性支持できると共に、返し部を弾性体に係合させることによって、第2のシート部材の車体フレームからの離脱を防止できる。さらに、係合部材は、位置決めされたシート部材に対して所定の隙間を介して係合するようになっているので、弾性支持によって第2のシート部材の車体フレームに対する取付位置が、所定位置から変動した場合でも、係合部材をシート部材に干渉させることなく係合させることができる。したがって、第2のシート部材の弾性支持を実現しながらも、係合部材を第2のシート部材に容易に係合させることができる。
【0028】
前記構成(g)によれば、第1のシート部材が車体に取り付けられた状態で、第2のシート部材が不所望に車体から取り外されることを確実に防止できる。
なお、例えば、第1のシート部材を車体に固定するためのシートストライカを、係合部材の係合解除位置への移動を妨げるように配置してもよく、若しくは、第1のシート部材の形状又は係合部材の形状を工夫することによって、係合部材の前記移動がシート部材によって妨げられるように構成すればよい。
【0029】
前記構成(h)によれば、工具を要せずに、係合部材を保持部によって、係合解除位置又は係合位置に保持できるので、締結等の工具を用いて保持する場合に比して、係合部材の保持作業を容易に行える。
保持部としては、例えば、弾性保持力又は摩擦保持力等によって、係合部材を所定位置に保持するものとして構成することができる。若しくは、保持部を、係合部材又は車体に取り付けられた、フック又は紐等による係止等によって、係合部材を所定位置に保持するものとして構成することができる。この他、保持部として、工具を要せずに係合部材を保持できるものであれば種々のものを採用できる。
【0030】
前記構成(i)によれば、係合部材を把持部によって弾性的に保持できるので、係合部材の振れを抑制できる。
【0031】
前記構成(j)によれば、保持部を操作することなく、係合部材のスライド方向への移動操作を可能としつつ、係合解除位置又は係合位置等の所望の位置に保持できる。
【発明の効果】
【0032】
要するに本発明によると、鞍乗り型車両のシート固定構造を簡単化できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施形態に係るシート固定構造を備えた鞍乗り型車両のシート周辺の側面図である。
図2】係合部材の周辺を示すシート固定構造の後方斜視図である。
図3】係合部材の周辺を示すシート固定構造の前方斜視図である。
図4】係合部材の周辺を示すシート固定構造の下方斜視図である。
図5】係合部材の周辺を示すシート固定構造の平面図である。
図6】係合部材の周辺を示すシート固定構造の底面図である。
図7図4のVII−VII線に沿った断面図である。
図8図4のVIII−VIII線に沿った断面図である。
図9】係合部材が係合位置に位置する状態を示す、第2実施形態に係るシート固定構造の縦断面図である。
図10】係合部材の周辺を示す、第2実施形態に係るシート固定構造の後方斜視図である。
図11】係合部材が係合解除位置に位置する状態を示す、第2実施形態に係るシート固定構造の縦断面図である。
図12図9のXII−XII線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態で使用する方向の概念は、特に説明のない限り、鞍乗り型車両に乗車した乗員から見た方向の概念と一致するものとする。
【0035】
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るシート固定構造を備えた鞍乗り型車両1のシート周辺を示す側面図である。鞍乗り型車両1は、車体フレーム3に着脱可能に取り付けられた、運転者用のフロントシート10(第2のシート部材)と、これに隣接して後方に配置された同乗者用のリアシート20(第1のシート部材)と、フロントシート10の前後方向の略中央部からリアシート20にわたって周囲(例えば車幅方向側方)を覆うテールカバー2と、を備えている。
【0036】
すなわち、鞍乗り型車両1のシートは、フロントシート10とリアシート20とに分割されたセパレート型として構成されている。換言すれば、フロントシート10とリアシート20とは、前後方向に間隔をあけて配置される。フロントシート10とリアシート20との間には、テールカバー2で仕切られている。なお、図1は、テールカバー2及び車体フレーム3の一部を透過して、シートの下方に配設されたシート固定構造を示している。
【0037】
リアシート20の下方には、車幅方向に延びる第2クロスメンバ32(固定部材)が、車体フレーム3に設けられている。第2クロスメンバ32には、リアシート20が支持されている。したがって、第2クロスメンバ32は、リアシート20を支持するシートフレームとして機能している。
【0038】
また、第2クロスメンバ32には、フロントシート10に係合可能な係合部材40が支持されている。係合部材40は、フロントシート10に係合する係合位置とフロントシート10に係合しない係合解除位置とにわたって所定のスライド方向S(本実施例では前後方向)に移動可能に案内されている。さらに、第2クロスメンバ32は、係合部材40のスライド方向Sへの移動を許容する移動許容状態と、係合部材40のスライド方向Sへの移動を阻止する移動阻止状態とに切り換え可能に構成される。
【0039】
スライド方向Sは、係合部材40の延在方向に一致しており、換言すると係合部材40の左右のリアフレーム30の軸線に概ね平行に直線状に延びる方向であって前方に進むにつれて下方に傾斜している。また、スライド方向Sは、フロントシート10を車体フレーム3から取り外す方向、すなわち上方向に対して交差している。
【0040】
固定部材としての第2クロスメンバ32は、上方がリアシート20によって覆われ且つ車幅方向側方がテールカバー2によって覆われているので、リアシート20が車体フレームに固定されている状態でのアクセスが防止される。すなわち、第2クロスメンバ32は、リアシート20を車体フレーム3から取り外したときに、アクセス可能となるように構成されている。したがって、フロントシート10を車体フレーム3から取り外す場合、リアシート20を車体フレーム3から取り外すことを要する。また、リアシート20を取り外した後に、第2クロスメンバ32を移動許容状態に切り換え、次に係合部材40を係合解除位置に移動させることを要する。
【0041】
また、第2クロスメンバ32には、ロック装置5が取り付けられている。ロック装置5は、リアシート20を車体フレーム3に固定するものである。ロック装置5は、テールカバー2に配設されたキーシリンダ7(図1中に破線で示す)が操作されることによって、リアシート20を車体フレーム3に施錠固定するロック状態と、リアシート20の車体フレームに対する施錠固定を解除するアンロック状態とを切り換える。
【0042】
したがって、ロック装置5によって、リアシート20の車体フレーム3からの取り外しが防止されると共に、これに伴って係合部材40へのアクセスが阻止されることによって、フロントシート10の車体フレーム3からの取り外しが防止されるようになっている。以下、各構成要素について詳述する。
【0043】
[車体フレーム3]
車体フレーム3は、後方に延びる左右一対のリアフレーム30と、左右のリアフレーム30を左右に接続する第1〜第3クロスメンバ31〜33と、を有している。第1クロスメンバ31は、フロントシート10の前部に対応して位置している。第2クロスメンバ32はリアシート20の前後方向の中央部よりも前側に位置している。第3クロスメンバ33は、リアシート20の後部に対応して位置している。
【0044】
第1クロスメンバ31は、左右に延びる断面丸型のパイプ部材であって、弾性体31aを介して左右一対のリアフレーム30に取り付けられている。すなわち、第1クロスメンバ31は、左右一対のリアフレーム30に弾性支持されている。
【0045】
図2は、リアシート20を取り外してシート周辺を斜め後方から見た斜視図であり、図2においてテールカバー2は省略されている。また、図3は、第2クロスメンバ32周辺を前方から見た斜視図であり、図3においてフロントシート10及びリアシート20は取り外されている。なお、図2図3において、係合部材40は係合位置に位置している。図2に示すように、第3クロスメンバ33は、左右のリアフレーム30の各後端部を上面視で略U字状に接続するように形成され、例えば金属製の板金部材で構成されている。
【0046】
図3に示すように、第2クロスメンバ32は、左右のリアフレーム30を左右に接続する第2クロスメンバ本体50と、前記移動阻止状態と前記移動許容状態とに切り換え可能なスライドガイド60と、を有している。
【0047】
(第2クロスメンバ本体50)
第2クロスメンバ本体50は、左右に延びており、下方が開いた断面コ字状の折り曲げ部材(例えば金属製の板金部材)から形成されている。第2クロスメンバ本体50は、左右のリアフレーム30の軸線に略平行に延びる第2クロスメンバ上壁51と、第2クロスメンバ上壁51の前縁から下方へ延びる第2クロスメンバ前壁52と、第2クロスメンバ上壁51の後縁から下方へ延びる第2クロスメンバ後壁53と、を有する。第2クロスメンバ本体50は、第2クロスメンバ前壁52及び第2クロスメンバ後壁53の左右両端部でそれぞれ、左右のリアフレーム30に例えば溶接によって結合されている。
【0048】
第2クロスメンバ上壁51の上面には、車体フレーム3に取り付けられたリアシート20が載置されるようになっている。第2クロスメンバ上壁51の下面には、ロック装置5が取り付けられている。そして、第2クロスメンバ上壁51の一部、具体的には、左右方向の中央部よりもやや右側には、上下に貫通した上壁開口部51aが形成されている。第2クロスメンバ上壁51上にリアシート20が載置された状態で、後述するリアシートストライカ23(図4参照)が、上壁開口部51aを貫通してロック装置5のロック部材6によって係止される。具体的には、上壁開口部51aは、略矩形状に貫通されており、その長手方向の中心線が、前方に進むにつれて左側に傾斜するように形成されている。
【0049】
図4を併せて参照して、第2クロスメンバ前壁52には、係合部材40がスライド方向Sに貫通可能な前壁開口部52a(貫通孔形成部)が形成されている。前壁開口部52aの周縁には、スライドガイド60が接続されている。図2に示すように、第2クロスメンバ後壁53には、後面視で下方がコ字状に開口した後壁開口部53aが形成されている。
【0050】
第2クロスメンバ本体50は、フロントシート10の後方に間隔をあけて配置されるとともに、リアシート20の前部の下方に配置される。第2クロスメンバ本体50がリアシート20の前方に配置されるほど、リアシート20の下方の収容空間の開口を大きくできる。また、係合部材40のスライド量を小さくすることができる。
【0051】
また、第2クロスメンバ後壁53は、下方にコ字状に開口した後壁開口部53aが形成されているので、第2クロスメンバ前壁52よりも小さく形成されている。これによって、後方から第2クロスメンバ本体50の下方へのアクセス性がよく、リアシート20の下方において、第2クロスメンバ本体50の後側に形成された収容空間を、第2クロスメンバ本体50の下方にまで拡大できる。
【0052】
(スライドガイド60)
図3に示すように、スライドガイド60は、前壁開口部52aの周縁に接続される接続部61と、係合部材40をスライド方向Sに案内するガイド部62(案内部)と、係合部材40を固定するための固定部63と、を有している。
【0053】
接続部61は、前壁開口部52aの周縁部に接続されており、具体的には、第2クロスメンバ32の前壁開口部52aの下縁部及び左右縁部に沿うように形成された周縁接続部61aと、周縁接続部61aの上端部から車幅方向外側に向けて左右に延びる左右一対の延長部61bと、を有し、第2クロスメンバ前壁52に例えば溶接によって取り付けられている。
【0054】
ガイド部62は、係合部材40を下方から支持する下部ガイド62aと、下部ガイド62aの左右両側部から上方へ延びる左右一対の側部ガイド62bと、左右の側部ガイド62bの上部からそれぞれ車幅方向の内側へ延びる上部ガイド62cと、を有している。
【0055】
下部ガイド62aは、周縁接続部61aの底部をスライド方向Sに延ばして形成されている。側部ガイド62bは、周縁接続部61aの側部をスライド方向Sに延ばして形成されており、係合部材40に対して車幅方向外側から所定長さにわたって対向位置するように形成されている。上部ガイド62cは、側部ガイド62bのフロントシート10側の先端部に所定長さにわたって形成されており、係合部材40に、上方から対向位置するように形成されている。
【0056】
すなわち、係合部材40は、下部ガイド62aと上部ガイド62cとの間で、所定距離にわたって上下方向への移動が規制される。左右の側部ガイド62bの間で所定距離にわたって左右方向への移動が規制される。これによって、ガイド部62は、係合部材40を、上下、左右方向への移動を規制しながらスライド方向Sへ案内する。
【0057】
また、前壁開口部52aでも、係合部材40の移動を規制できる。すなわち、前壁開口部52aは、係合部材40の形状に対応する開口に形成される。また、前壁開口部52aが、ガイド部62とスライド方向Sに間隔をあけて配置されることで、スライド方向Sに間隔をあけた2つの位置で、係合部材40をガイドすることができ、係合部材40の移動を精度よく規制できる。前壁開口部52a及びスライドガイド60は、スライド方向Sに直交する方向、すなわち上下方向と車幅方向への係合部材40の移動を阻止する。
【0058】
固定部63は、締結ボルト63aと、下部ガイド62aの下面に溶接によって取り付けられた締結ナット63b(図4参照)と、を有する。締結ボルト63aを係合部材40の長孔41c及び下部ガイド62aの締め付け孔を貫通させつつ締結ナット63bに締結させることによって、スライド方向に移動された係合部材40がスライドガイド60と締結ボルト63aとで挟持されて固定されるようになっている。すなわち、締結ボルト63aによる締結方向と、係合部材40のスライド方向Sとは、直交する関係にある。
【0059】
すなわち、固定部63は、締結ボルト63aを締結して係合部材40をスライドガイド60に固定することによって、係合部材40のスライド方向Sへの移動を阻止する移動阻止状態と、締結ボルト63aを緩めて係合部材40のスライドガイド60に対する固定を解除することによって、係合部材40のスライド方向Sへの移動を許容する移動許容状態とに、切換可能に構成されている。
【0060】
なお、締結ボルト63aは、例えば六角穴付ボルトとして構成されており、該締結ボルト63aを着脱するための専用工具8(例えば六角レンチ)がリアシート20の底面に取り付けられている(図6参照)。また、固定部63は、上面視で第2クロスメンバ本体50よりも前方に位置しており、リアシート20を取り外した状態で容易にアクセス可能な位置に配設されている。
【0061】
したがって、第2クロスメンバ32によれば、第2クロスメンバ本体50によって、リアシート20を支持するフレーム部材が実現されていると共に、スライドガイド60によって、係合部材40をスライド方向Sに移動可能に支持しつつ所定位置に固定又は保持する固定部材が実現されている。
【0062】
また、左右のリアフレーム30にはそれぞれ、フロントシート10の後部に対応した位置に、フロントシート10を取り付けるためのブッシュ34が取付ブラケット35を介して取り付けられている。ブッシュ34は、弾性体(例えばゴム製)からなる円筒体として形成されている。図1に拡大して一部断面を示すように、ブッシュ34は、軸線を略上下方向に向けて配置されており、軸線方向に延びる貫通孔34aを中央部に備えている。また、ブッシュ34は、外周部に周方向溝34bを備え、取付ブラケット35に例えばバーリング状に形成された取付孔35aに、周方向溝34bを嵌合させて取り付けられている。
【0063】
[係合部材40]
図3に示すように、係合部材40は、上方が開いたコ字状の断面形状を有し、スライド方向Sに延在している係合部材本体41と、係合部材本体41の後方すなわち第2クロスメンバ32から見てリアシート側20とは反対側に設けられたつまみ部42(図2参照)と、を有している。そして、係合部材40は、つまみ部42をスライド方向Sへ押し引きすることによって、つまみ部42を押し引きする方向と一致したスライド方向Sに移動可能になっている。
【0064】
係合部材本体41は、スライドガイド60の下部ガイド62aによって支持される係合部材底壁41aと、係合部材底壁41aの左右両側部から上方へ屈曲された係合部材側壁41bと、を有している。係合部材底壁41aには、スライド方向S(延在方向S)に延びる長孔41cが形成されている。長孔41cは、締結ボルト63aと当たることで係合部材40のスライド量を規制しており、後端部において固定部63によって固定された場合に係合部材40が係合位置に位置し、前端部において固定部63によって固定された場合に係合解除位置に位置するように、構成されている。
【0065】
また、係合部材底壁41aの下部には、スライド方向Sに直交する方向に延びるストッパ部41dが形成されている。ストッパ部41dは、係合部材底壁41aのうち長孔41cと前縁との間の部分を、前方に向けてコ字状に開口するように分断して、該分断された部分を分断部分の前方側の基部から下方に屈曲して形成されている。すなわち、ストッパ部41dは、係合部材底壁41aに一体に形成されている。なお、ストッパ部41dを別部材で形成して、係合部材底壁41aに例えば溶接によって接合してもよい。
【0066】
図2に示すように、つまみ部42は、棒状部材を折り曲げて形成されており、係合部材本体41の後部左側から後方へ延びる第1部分42aと、第1部分42aの先端部から右側へ延びる第2部分42bと、第2部分42bの右端部から第1部分42aの基部に向けて左側に傾斜して延びる第3部分42cと、を有している。すなわち、つまみ部42は、基部が左側に偏寄して位置するように形成されている。
【0067】
図4は、係合部材40周辺を下方から見た斜視図であり、図4において、係合部材40は係合位置に位置している。図4に示すように、係合部材40が係合位置に位置するとき、つまみ部42は、第2クロスメンバ上壁51の下方に位置することになる。この場合、つまみ部42の基部が左側に偏寄して形成されており且つ第3部分42c及び上壁開口部51aが共に前方に進むにつれて左側に傾斜しているので、つまみ部42が上壁開口部51aに対向して位置しないようになっている。
【0068】
一方、図5に示すように、係合部材40が係合解除位置に位置するとき、つまみ部42は、上壁開口部51aよりも後方に位置しており、係合部材本体41が上壁開口部51aに対向位置するようになっている。この場合に、リアシート20を車体フレーム3に取り付けようとすれば、上壁開口部51aを貫通して更に下方へ移動するリアシートストライカ23(図4参照)に対して、係合部材本体41は接触するように位置している。すなわち、係合部材40が係合解除位置にあるとき、リアシートストライカ23は、ロック装置5による係合が係合部材本体41によって阻止されるようになっている。
【0069】
換言すると、係合部材40の移動経路上に、上方から対向して位置するように上壁開口部51aが形成されている。そして、係合部材40による係合が解除された状態では、係合部材40の一部が上壁開口部51aの下方に位置する。一方、係合部材40による係合状態では、係合部材40が上壁開口部51aの下方よりも前方に位置する。これによって、係合部材40による係合が解除された状態では、リアシートストライカ23が、係合部材40に干渉して下方への移動が阻止される。この結果、リアシートストライカ23がロック装置5の噛み合い位置まで移動できない。これによって、係合部材40の係合解除状態でのリアシート20のロックが防止される。
【0070】
また、係合部材40は、その延在方向にスライド可能なように、スライドガイド60によって案内されているので、スライド方向S以外への移動量が小さく、締結ボルト63aによる締結方向とスライド方向Sとが直交する関係にあるので、締結ボルト63aを緩めるだけで完全に取り除くことなく、その延在方向であるスライド方向Sに容易に移動させることができる。
【0071】
換言すると、係合部材40とスライドガイド60とが平行に延びている。係合部材40が、スライドガイド60の延びる方向に沿って直線移動する。これによって、係合部材40のスライドにかかわらず、締結ボルト63aの締結方向でのスライドガイド60と係合部材40との締結方向寸法を維持することができ、締結ボルト63aを緩めるだけで、係合部材40のスライド動作を可能とする。
【0072】
また、係合部材40が湾曲してスライドする場合でも、湾曲方向、スライドガイド60、係合部材40が同じ基準点に対する円弧に沿って延びる場合には、同様に、締結ボルト63aの締結方向でのスライドガイド60と係合部材40との締結方向寸法を維持することができる。
【0073】
[ロック装置5]
図4に示すように、ロック装置5は、リアシート20のリアシートストライカ23に係合するロック部材6と、ロック部材6をリアシートストライカ23との係合を解除するためのキーシリンダ7(図3参照)と、を有している。ロック部材6は、ワイヤを介して接続されたキーシリンダ7を操作することによって、ロック状態と、アンロック状態とに操作されるようになっている。
【0074】
[フロントシート10]
図1に示すように、フロントシート10の底部には、前部に位置するフロントフック11と、前後方向の略中央部に位置するフロントシート当接部12と、後部に位置する位置決め部13(突起部)とが、それぞれ左右一対に設けられている。フロントフック11は、側面視で前方に向けてU字状に開口するように形成されている。フロントシート当接部12は、下方から取り付けられた弾性体として構成されている。
【0075】
図1の拡大図に示すように、位置決め部13は、下方に突出した基部13aと、基部13aから更に下方に突出した軸部13bと、軸部13bの先端に設けられ軸部13bよりも拡径された返し部13cと、を有している。フロントシート10が車体フレーム3に取り付けられた状態で、位置決め部13は、軸部13bがブッシュ34の貫通孔34aに嵌合されると共に、基部13aと返し部13cとの間でブッシュ34を上下に挟持するようになっている。
【0076】
なお、フロントシート10は、車体フレーム3に取り付けられた状態で、前部がフロントフック11によってリアフレーム30に弾性支持された第1クロスメンバ31に後方から係止され、前後方向の略中央部が弾性体であるフロントシート当接部12によってリアフレーム30に支持され、後部が位置決め部13によって弾性体であるブッシュ34に位置決めされるようになっている。したがって、フロントシート10は、車体フレーム3に弾性支持されているので、その取付位置が弾性的に変位するようになっている。
【0077】
また、図4に示すように、フロントシート10の左右一対の位置決め部13の間には、側面視で三角柱状に下方へ突出した突出部14が形成されている。突出部14には、スライド方向Sに貫通するフロントシート係合孔14aが形成されている。フロントシート係合孔14aは、係合位置に位置する係合部材40によって挿通され且つ係合解除位置に位置する係合部材40によって挿通されない位置に形成されている。
【0078】
図7は、図4のVII−VII線における断面図であり、係合部材40によって挿通されたフロントシート係合孔14aをスライド方向Sから見た図である。図7に示すように、フロントシート係合孔14aの孔縁部は、係合位置に位置する係合部材40に対して、スライド方向Sに垂直な方向において所定の隙間C1を介して係合するようになっている。
【0079】
図8は、図4のVIII−VIII線における断面図であり、係合部材40によって挿通されたフロントシート係合孔14aの側方断面図である。図8に示すように、突出部14の後面14bは、係合位置に位置する係合部材40のストッパ部41dに対して、スライド方向Sに所定の隙間C2を空けて対向位置するように形成されている。
【0080】
ここで、フロントシート10は弾性支持されているものの、係合部材40とフロントシート係合孔14aとの間には、所定の隙間C1が形成されているので、フロントシート10が弾性的に変位したとしても、係合部材40は、フロントシート係合孔14aの孔縁部に干渉することなく係合位置に容易に移動させることができる。言い換えれば、所定の隙間C1は、フロントシート10が弾性的に変位したとしても、干渉しないように設定されている。
【0081】
同様に、所定の隙間C2は、フロントシート10が前後方向に弾性的に変位したとしても、係合位置に位置する係合部材40のストッパ部41dと突出部14の後面14bとが干渉しないように設定されている。
【0082】
[リアシート20]
図1に示すように、リアシート20の底部には、前部に位置するリアシート当接部21と、後部に位置するリアフック22とが、設けられている。リアシート当接部21は、下方に突出した円柱状の突出部として左右一対に形成されている。リアフック22は、側面視で後方に向けてL字状に開口するように形成されている。
【0083】
図4に示すように、左右一対のリアシート当接部21の間には、リアシートストライカ23が設けられている。リアシートストライカ23は、リアシート20の底部から下方に略U字状に突出するように形成されており、その長手方向が、第2クロスメンバ32の上壁開口部51aの長手方向に一致するように向けられている。リアシート20が車体フレーム3に取り付けられるとき、リアシートストライカ23は、第2クロスメンバ本体50の上壁開口部51aを貫通して、ロック装置5のロック部材6に係合されるようになっている。
【0084】
図1に示すように、リアシート20は、車体フレーム3に取り付けられた状態で、前部がリアシート当接部21によって第2クロスメンバ32上に支持されており、後部がリアフック22によって第3クロスメンバ33に前方から係止されており、更に前部がリアシートストライカ23によってロック装置5のロック部材6に係止される。
【0085】
以下、上記説明したシート固定構造による、車体フレーム3へのフロントシート10及びリアシート20の着脱について説明する。
【0086】
[シートの車体フレーム3への装着]
まず、シートの車体フレーム3への装着について説明する。シートの装着は、最初にフロントシート10を車体フレーム3に取り付け、次に係合部材40をフロントシート10に係合させて、最後にリアシート20を車体フレーム3に取り付けることによって、行われる。以下、具体的に説明する。
【0087】
図1を参照して、フロントシート10を、前部をフロントフック11によって第1クロスメンバ31に後方から係止させた後、前後方向の略中央部をフロントシート当接部12によってリアフレーム30上に当接させつつ、後部を位置決め部13でブッシュ34に位置決めさせることによって、車体フレーム3の所定位置に装着する。なお、このとき、予め係合部材40は、係合解除位置に移動させられている。
【0088】
次に、係合部材40を係合位置へ移動させてフロントシート係合孔14a(図4参照)に係合させることによって、フロントシート10が係合部材40を介して第2クロスメンバ32に係止される。なお、係合部材40を、スライド方向Sへ移動させる場合、係合部材40は、第2クロスメンバ32を前壁開口部52aで貫通させてスライド方向Sに移動させることができるので、係合部材40を、第2クロスメンバ32との干渉を回避するために、上方へ移動させることを要しない。したがって、係合部材40のスライド方向S以外への移動量が小さいので、締結ボルト63aを完全に取り除くことなく緩めるだけで、係合部材40を容易にスライド方向Sへ移動させることができる。
【0089】
最後に、リアシート20を、後部をリアフック22によって第3クロスメンバ33に前方から係止させた後、前部をリアシート当接部21で第2クロスメンバ32上に当接させつつ、リアシートストライカ23を第2クロスメンバ32の上壁開口部51aを貫通させてロック装置5のロック部材6に係合させることによって、車体フレーム3の所定位置に装着して固定する。
【0090】
[シートの車体フレーム3からの取り外し]
次に、シートの車体フレーム3からの取り外し方法について説明する。シートの取り外しは、最初にリアシート20を車体フレーム3から取り外し、次に係合部材40の係合を解除して、最後にフロントシート10を車体フレーム3から取り外すことによって行われる。以下、具体的に説明する。
【0091】
図1を参照して、キーシリンダ7を解錠操作することによってロック装置5をアンロック状態とし、リアシート20の前部を持ち上げてリアシートストライカ23を第2クロスメンバ32から上方へ引き抜く。続いて、リアシート20を前方へ引き抜くことによって、リアフック22が第3クロスメンバ33との係止から解除され、この結果、リアシート20が車体フレーム3から取り外される。
【0092】
次に、リアシート20の底面から取り外した工具8(図6参照)を用いて、締結ボルト63aを緩めて、係合部材40を係合位置から係合解除位置へスライドさせる。そして、フロントシート10の後部を持ち上げることによって、位置決め部13をブッシュ34から引き抜く。最後に、フロントシート10を後方へ引き抜くことによって、フロントフック11を第1クロスメンバ31との係止から解除して、この結果、フロントシート10を車体フレーム3から取り外すことができる。
【0093】
以上説明したシートの固定構造では、ロック装置5によって、リアシート20の車体フレーム3から取り外しが防止されている。また、リアシート20が車体フレーム3に係止されている状態では、リアシート20の下方に位置する係合部材40にアクセスすることができないようになっている。このため、リアシート20が車体フレーム3に固定された状態で、係合部材40が不所望に係合解除位置にスライドさせられることがない。
【0094】
また、図4に示すように、係合部材40は、フロントシート係合孔14aに対してスライド方向Sに係合している。一方、フロントシート10を車体フレーム3から取り外すには、最初に後部を上方へ引き抜き、次いで後方へ引き抜くことを要する。すなわち、係合方向(スライド方向S)は、フロントシート10を取り外すときに最初に移動させる方向である上方に対して交差している。これによって、係合位置に位置する係合部材40によって、フロントシート10の上方への移動が阻止される。特に、スライド方向Sは、前方に向かうにつれて下方に傾斜しているので、フロントシート10の上方への移動がより好適に阻止される。
【0095】
さらに、係合部材40が係合位置に位置しているとき、ストッパ部41dが突出部14に対向して位置しているので、フロントシート10の後方への移動が阻止される。これによって、フロントシート10を後方へ引き抜くことが阻止されるので、前部のフロントフック11が第1クロスメンバ31との係止から外れることがない。したがって、係合位置に位置する係合部材40によって、フロントシート10の上方への移動及び後方への移動が阻止されるので、不所望にフロントシート10が取り外されることが防止される。
【0096】
一方、図5に示すように、係合部材40が係合解除位置にあるとき、係合部材40が、第2クロスメンバ32の上壁開口部51aに対向位置している。このとき、上述したように、リアシート20を車体フレーム3に取り付けようとすれば、係合部材本体41が、上壁開口部51aを貫通して更に下方へ移動するリアシートストライカ23に接触するようになっている。すなわち、係合部材40が係合解除位置にあるとき、リアシートストライカ23は、ロック装置5による係合が係合部材本体41によって阻止される。
【0097】
したがって、係合部材40が係合解除位置にあるとき、リアシート20を車体フレーム3に固定できないので、係合部材40が係合解除位置にある状態で、シートの車体フレーム3への取付が完了することが防止される。これによって、フロントシート10及びリアシート20が車体フレーム3に固定された状態では、係合部材40が係合位置にないことが未然に防止されるので、フロントシート10の不所望な取り外しが未然に防止される。
【0098】
また、図4に示すように、リアシートストライカ23がロック装置5のロック部材6に係止された状態では、係合部材40のスライド方向Sの後方側には、リアシートストライカ23が位置しているので、係合部材40の係合解除位置への移動が、リアシートストライカ23によって阻止されるようになっている。このため、たとえ締結ボルト63aが緩んだとしても、係合部材40の係合解除位置への移動がリアシートストライカ23によって阻止されるようになっているので、フロントシート10が不所望な取り外しが阻止される。
【0099】
以上説明した鞍乗り型車両のシート固定構造によれば、以下の効果を発揮できる。
【0100】
(1)フロントシート10を車体フレームに固定するためのロック装置を、リアシート20を固定するためのロック装置5とは別に設ける場合に比べて、シート固定構造を簡単化できる。また、固定部材としての第2クロスメンバ32へのアクセスがリアシート20の施錠固定によって制限される。これによって、盗難防止効果を維持しつつ、キーシリンダを複数配置する場合に比べて、キーシリンダ1つを不要とすることができ、シート固定構造を簡単化できる。
【0101】
(2)係合部材40は、第2クロスメンバ32を通過してスライド方向Sに移動可能であるので、係合部材40のスライド方向Sへの移動が、第2クロスメンバ32によって制限されることがない。これによって、例えば、係合部材40のスライド方向Sへの移動範囲を長く設定し、係合部材40の移動経路をスライド方向Sにのみ単純化できる。この結果、係合部材40をスライド方向Sに移動させることによって、フロントシート10を容易に係合し又は係合解除できる。また、第2クロスメンバ32は、リアシート20によって覆われているので、固定部63へのアクセスが制限され、これによって固定部63が不必要に移動阻止状態から移動許容状態に切り換えられることが防止されている。
【0102】
(3)係合部材40はスライド方向Sに案内されるので、係合部材40の形状を単純化できると共に、係合部材40を移動させるときに、係合部材40をスライドガイド60に固定する締結ボルト63aを、完全に着脱することを要しない。したがって、係合部材40のスライド操作が簡略化されるので、これによってシートの取付作業性を向上できる。また、締結ボルト63aの脱落を防止できる。
【0103】
(4)第2クロスメンバ32は、第2クロスメンバ本体50によってリアシート20を支持するフレーム部材を実現すると共に、スライドガイド60によって係合部材40をスライド方向Sに移動可能に支持しつつ所定位置に固定する固定部材をも実現できる。よって、固定部材をフレーム部材で兼用することができ、これによって固定部材を係合部材専用に設ける必要がなく部品点数を低減できる。
【0104】
(5)第2クロスメンバ32に前壁開口部52aを形成したので、係合部材40を、第2クロスメンバ32を貫通させながらスライド方向Sへ容易に移動させることができる。
【0105】
(6)第2クロスメンバ32にロック装置5を取り付けることによって、ロック装置5を取り付けるための専用部材を設ける必要がなく部品点数を低減できる。また、ロック装置5によって、不所望にリアシート20が取り外されることを防止でき、さらにリアシート20の取り外しを防止することによって、フロントシート10が不所望に取り外されることも防止できる。すなわち、リアシート20が、ロック装置5によって施錠可能な構造に形成されることで、盗難防止性効果を高めることができる。
【0106】
(7)フロントシート10が係合部材40によって係合されていないときに、リアシート20が車体フレーム3に固定されることを未然に防止できる。
【0107】
(8)つまみ部42をスライド方向Sに押し引きすることによって、係合部材40をスライド方向Sに容易に移動させることができる。また、つまみ部42は第2クロスメンバ32に対してフロントシート10の反対側に位置しているので、フロントシート10が車体フレーム3に固定された状態でも、容易に操作できる。
【0108】
(9)リアシート20を取り外したときに、締結ボルト63aを着脱するための工具に初めてアクセス可能となるので、工具への不必要なアクセスを防止できる。
【0109】
(10)位置決め部133の軸部133bを弾性体であるブッシュ34の貫通孔34aに嵌合させることによって、フロントシート10を車体フレーム3の所定位置に弾性支持できると共に、返し部133cでブッシュ34に係合させることによって、フロントシート10の車体フレーム3からの離脱を防止できる。さらに、係合部材40は、位置決めされたフロントシート10に対して所定の隙間C1,C2を介して係合するようになっているので、弾性支持によってフロントシート10の車体フレーム3に対する位置が変動した場合でも、係合部材40をフロントシート10に干渉させることなく係合させることができる。したがって、フロントシート10の弾性支持を実現しながらも、係合部材40をフロントシート係合孔14aに容易に係合させることができる。
【0110】
(11)図4に示すように、リアシート20が第2クロスメンバ32に取り付けられて、リアシートストライカ23がロック装置5のロック部材6に係止された状態で、リアシートストライカ23が、係合部材40の係合部材本体41の後方に近接して位置している。これによって、係合部材40の係合位置から係合解除位置への移動が、リアシートストライカ23によって妨げられるようになっている。よって、リアシート20が車体に取り付けられた状態で、係合部材40が係合解除位置に移動することを防止できるので、フロントシート10が不所望に車体から取り外されることを確実に防止できる。
【0111】
なお、例えば、リアシート20を車体に固定するためのリアシートストライカ23を、係合部材40の係合解除位置への移動を妨げるように配置する他、リアシート20の形状又は係合部材40の形状を工夫することによって、係合部材40の係合位置から係合解除位置への移動がリアシート20によって妨げられるように構成してもよい。
【0112】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態に係るシート固定構造の前後方向及び上下方向に平行な縦断面図を示している。第2実施形態に係るシート固定構造は、係合部材140を、工具を要することなく、手動で係合位置および係合解除位置に移動操作することを可能とすると共に、移動操作された係合部材を係合位置および係合解除位置に保持することを可能とするように構成されている。以下、第1実施形態と同じ部材については、同じ符号を用いて説明する。なお、図9において、係合部材140は、係合位置に位置している。
【0113】
第2実施形態に係るシート固定構造では、第2クロスメンバ130が、係合部材140のスライド方向Sへの移動を許容する移動許容状態と、係合部材140のスライド方向Sへの移動を阻止する移動阻止状態とに、切り換え可能に構成されている。
【0114】
[第2クロスメンバ130]
第2クロスメンバ130は、第1実施形態に係る第2クロスメンバ32に対して、固定部63に換えて第2ガイド部70を備えると共に、係合部材140を保持する保持部80を追加して備えている点で異なっている。
【0115】
図12は、第2ガイド部70の、図9のXII−XII線に沿った断面図を示している。図12(a)に示すように、第2ガイド部70は、第1実施形態の固定部63に対して、締結ボルト63aを、カラー63cを介して締結ナット63bに締結することによって構成されている。すなわち、締結ボルト63aは、締結ナット63bに締結された状態で、締結座面が係合部材本体41を押圧しないようになっている。なお、図12(b)に示すように、締結ボルトとして段付ボルト63dを用いることによって、カラー63cを追加することなく、段付ボルト63dの締結座面が係合部材140を押圧しないように構成してもよい。
【0116】
第2ガイド部70によれば、係合部材140は、スライドガイド60には固定されることなく、締結ボルト63aの締結座面と下部ガイド62aとの間で、上下方向への移動が規制されている。また、第2ガイド部70は、第1実施形態と同様に、締結ボルト63aの軸部が係合部材140の長孔41c(図10参照)に挿通されている。これによって、係合部材140は、長孔41cの後端部が締結ボルト63aに対応位置する場合に係合位置に位置し、長孔41cの前端部が締結ボルト63aに対応位置する場合に係合解除位置に位置するようになっている。
【0117】
図10は、係合部材140の周辺を示す後方斜視図であり、リアシート20が取り外された状態を示している。図10を併せて参照して、第2クロスメンバ後壁53には、後壁開口部53a内を下方に延びる下方延在部53bが一体的に形成されている。下方延在部53bには、前後方向(スライド方向S)に貫通した貫通孔53cが形成されている。貫通孔53cに、保持部80が取り付けられている。
【0118】
保持部80は、軸線がスライド方向に延びる円筒状の弾性部材からなり、中央部にスライド方向Sに貫通した貫通孔81と、外周部に形成された周方向溝82とを有している。保持部80は、周方向溝82で貫通孔53cの縁部に嵌着されて、下方延在部53bに取り付けられている。貫通孔81には、係合部材140のつまみ部90が保持されるようになっている。すなわち、貫通孔81は、係合部材140のつまみ部90を弾性的に把持する把持部として構成されている。
【0119】
[係合部材140]
図9に示すように、係合部材140は、第1実施形態に係る係合部材40に対して、形状の異なるつまみ部90を有している点で異なる。つまみ部90は、棒状部材を折り曲げて形成されており、係合部材本体41の後部左側に固着されており後方へ延びる第1部分90aと、第1部分90aの後端部から右側へ延びる第2部分90bと、第2部分90bの右端部から前方へ延びる第3部分90cと、第1部分90aの前端部から右側へ延びる第4部分90dと、を有している。
【0120】
第1部分90aは、上面視において、上壁開口部51aを通過するリアシートストライカ23よりも左側に位置している。第2部分90bは、係合部材140が係合位置(スライド方向Sの前側)に位置するときでも、第2クロスメンバ130の後方に位置するように構成されている。すなわち、第2部分90bは、係合部材140をスライド方向Sへ押し引きする際に把持操作される操作部材として構成されており、係合部材140が係合位置から係合解除位置まで移動する間にわたって、第2クロスメンバ130の後方に位置している。これによって、第2部分90bは、第2クロスメンバ130の後方からのアクセス性がよく、把持しやすく操作性がよい。
【0121】
第3部分90cは、上面視において、上壁開口部51aを通過するリアシートストライカ23よりも右側に位置している。第4部分90dは、リアシート20が第2クロスメンバ130に取り付けられた状態で、リアシートストライカ23に対して前方から近接して位置している。
【0122】
第3部分90cは、スライド方向Sに延びており、係合部材140が係合位置から係合解除位置に移動する間にわたって、保持部80の貫通孔81内に少なくとも一部が位置するように構成されている。すなわち、図9に示すように、係合部材140が係合位置に位置するとき、第3部分90cは、貫通孔81内を貫通して延びている。
【0123】
図11は、図9と同様のシート固定構造の縦断面図であって、リアシート20が取り外されており且つ係合部材140が係合解除位置に位置している状態を示している。図11に示すように、係合部材140が係合解除位置に位置するときでも、第3部分90cは、貫通孔81内に少なくとも部分的に位置しており、貫通孔81から後方側に抜け出ない程度の長さを有するように構成されている。これによって、係合部材140を係合解除位置に移動させた場合に、第3部分90cが貫通孔81から後方へ不所望に抜け出ることを防止できるので、係合部材140を安定して係合解除位置に保持できると共に、係合部材140を係合位置に移動させるに際して、つまみ部90の第3部分90cを、保持部80の貫通孔81に再挿通させる手間を省くことができる。
【0124】
ここで、貫通孔81の内径寸法は、つまみ部90の第3部分90cを移動可能に保持できる大きさに形成されている。具体的には、第2部分90bを把持してつまみ部90を手動でスライド方向Sに押し引きした場合には、係合部材140のスライド方向Sへの移動を許容する一方で、つまみ部90を押し引きしない場合には、第3部分90cが貫通孔81内に弾性的に把持されて保持されるように構成されている。
【0125】
具体的には、第3部分90cの外径は、貫通孔81の内径より大きく構成されており、第3部分90cの外径と貫通孔81の内径との差分を締め代として生じる弾性把持力によって、係合部材140は、第3部分90cを介して保持部80に保持されている。
【0126】
なお、スライド方向Sは、前下がりに傾斜した方向であるので、スライド方向に延びる係合部材140には、自重によりスライド方向Sの前側の係合位置に向けた力が作用する。このため、図11に示すように、係合部材140が係合解除位置に位置する状態では、係合部材140は自重により係合位置へ移動しようとする。
【0127】
しかしながら、本実施形態では、係合部材140は、第3部分90cを介して弾性保持力によって保持部80に保持されているので、係合位置への移動が制限されている。このため、フロントシート10を組み付ける際に、係合部材140を係合解除位置に手動で保持することを要しないので、フロントシート10の組み付け作業を容易化できる。
【0128】
換言すれば、貫通孔81とつまみ部90の第3部分90cとの間に生じる弾性保持力は、係合部材140の自重によるスライド方向Sへの移動に少なくとも抗し得るように、貫通孔81の内径と第3部分90cの外径とが関係付けられている。
【0129】
逆に、図9に示すように、係合部材140が係合位置に位置する状態では、係合部材140は、自重により作用する下方向きの力のおかげで、係合解除位置へは移動し難いようになっている。加えて、図9に示すように、係合部材140が係合位置に位置する状態では、つまみ部90の第4部分90dが、リアシートストライカ23に前方から近接して位置しているので、係合部材140の係合位置から係合解除位置への移動がリアシートストライカ23によって妨げられるようになっている。
【0130】
なお、第1の実施形態と同様に、係合部材140が係合解除位置に位置するとき、上面視において係合部材本体41が上壁開口部51aに対向位置している。これによって、係合部材140が係合解除位置に位置する状態では、リアシートストライカ23のロック装置5のロック部材6への係合が、係合部材本体41によって妨げられる。
【0131】
また、つまみ部90は、第2〜第4部分90b〜90dが、第1部分90aに対して右側に位置している一方で、ロック装置5は、第1部分90aに対して、ロック部材6を除いて概ね左側に位置しており、且つ、車体の左側に位置するキーシリンダ7にワイヤ(不図示)によって連結されている。すなわち、第1部分90aの左側に概ね配置されたロック装置5に対して、つまみ部90を、第2〜第4部分90b〜90dを第1部分90aに対して右側に位置させるように形成することで、つまみ部90をロック装置5との干渉を回避して構成しやすい。
【0132】
上記第2の実施形態によれば、係合部材140を第2クロスメンバ130に締結により固定することなく、係合部材140を保持部80により係合解除位置又は係合位置に保持できる。すなわち、工具を要せずに、係合部材140を保持部80によって、係合解除位置又は係合位置に保持できるので、係合部材140の保持作業を容易に行える。
【0133】
また、係合部材140は係合解除位置に保持部80によって保持されるので、フロントシート10を装着する際に、係合部材140を、フロントシート10の装着の妨げとならないように係合解除位置に把持により保持しておく必要がない。しかも、保持部80は、係合部材140を弾性保持力により保持するので、例えば、第1実施形態のように固定部63により固定する場合のように、工具を用いて係合部材140を固定する場合に比して、係合部材140の保持作業を容易に行える。
【0134】
また、係合部材140を保持部80の弾性保持力で保持するように構成することで、つまみ部90をスライド方向Sに押し引きすることによって、係合部材140のスライド方向Sへの移動を可能としている。したがって、係合部材140は、保持部80を介して第2クロスメンバ130に、係合解除位置又は係合位置に保持可能に構成される一方で、スライド方向Sへの移動が可能に構成されている。
【0135】
また、係合部材140を、第3部分90cを介して保持部80に弾性的に保持できるので、係合部材140の振れを抑制することができ、係合部材140と他の部材との干渉を防止できると共に干渉による異音発生を抑制できる。
【0136】
また、保持部80の貫通孔81によって、係合部材140のつまみ部90の第3部分90cを弾性的に把持するように構成されているので、保持部80を操作することなく、係合部材140のスライド方向への移動操作を可能としつつ、移動操作されない場合には係合部材140を係合解除位置又は係合位置等の所望の位置に保持できる。
【0137】
なお、保持部80を弾性体で構成する他、摩擦保持力によって保持するように構成してもよい。この場合、例えば貫通孔81の内径と第3部分90cの外径とを概ね同じ大きさ(所謂ゼロタッチ)に設定したり、貫通孔81の内径よりも第3部分90cの外径を小さくしたりしてもよく、貫通孔81と第3部分90cとの間に生じる摩擦によって、つまみ部90の第3部分90cを保持するように構成してもよい。
【0138】
この他、図示は省略するが、保持部を、係合部材140又は車体側(クロスメンバ等)に取り付けられたフック部材又は紐部材等として構成し、該フック部材又は紐部材等によって、係合部材140を係合解除位置又は係合位置に保持するように係止してもよい。要するに、保持部として、工具を要せずに係合部材140を保持できるものであれば種々のものが採用できる。
【0139】
上記各実施形態では、係合部材40によってフロントシート10を車体フレーム3に係止し、ロック装置5によってリアシート20を車体フレーム3に係止しているが、これに限らない。すなわち、ロック装置5によってフロントシート10を車体フレーム3に係止すると共に、フロントシート10を取り外した状態で操作可能となる係合部材によってリアシート20を車体フレーム3に係止するようにしてもよい。また、スライド可能な部材側に係合孔を形成し、シート側に該係合孔に係合する係合部材を設けてもよい。
【0140】
上記各実施形態では、スライド方向Sを直線状となるように構成したが、これに限らず、円弧状であってもよい。また、つまみ部への移動操作がリンク機構を介して係合部材に伝達され、これによって係合部材が所定のスライド方向に移動するように構成してもよい。
【0141】
上記各実施形態では、スライドガイド60を、第2クロスメンバ32の前壁開口部52aに接続することによって車体フレーム3に直接に設けたが、これに限らず、車体フレーム3に固定されるブラケットを介して設けてもよい。また、スライドガイド60は、リアシート20と車体本体との間に配置されて、リアシート20によって覆われていればよい。例えば、リアシート20が、テールカバー(カウル)の車幅方向外側に延長される場合、スライドガイド60を、カウルとリアシート20との車幅方向の間に配置してもよい。
【0142】
上記各実施形態では、リアシート20を取り外した状態で、フロントシート10を車体フレーム3に着脱自在に固定するようにしたが、リアシート20に替えて、車体の上方を覆う蓋体を用いても同様の構成を実現することができる。すなわち、運転者シート(フロントシート)と、運転者シートに隣接して車体に形成される収容空間を覆う蓋体との固定構造にも適用できる。
【0143】
上記各実施形態では、スライドガイド60は、係合部材40がスライド方向Sに通過可能に形成されればよい。例えば、本実施例のようにスライドガイド60に係合部材40が通過可能な空間が形成されればよく、スライドガイド60のガイド部62のスライド方向Sに垂直な方向の断面が、O字状のほか、U字状に形成されてもよい。
【0144】
上記各実施形態では、係合部材本体41に長孔41cを形成し、長孔41cの前端部を締結ボルト63aに対応位置させた場合に係合部材40を係合解除位置に位置決めでき、長孔41cを後端部で締結ボルト63aに対応位置させた場合に係合部材40を係合解除位置に位置決めできる。しかしながら、係合部材本体41はストッパ部41dを有しているので、係合部材40が係合位置を超えて更に前方に移動することが抑制される。したがって、長孔41cは後端部における位置決めの機能を省くことができ、この場合、長孔に換えて後方が開口したU字状の開口としてもよい。
【0145】
また、上記実施形態では、係合部材40に長孔41cを設け、スライドガイド60に固定部63を設けて、長孔41cの位置を固定部63で規制することで、係合部材40の係合位置および係合解除位置への移動を規制している。しかしながら、上記各実施形態とは逆に、係合部材40に固定部を設け、スライドガイド60に該固定部に係合する長孔を形成してもよく、本構成によっても係合部材40の係合位置および係合解除位置への移動を規制できる。
【0146】
なお、本発明は、以上の実施形態に示すものに限らず、特許請求の範囲に記載された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、各種変形及び変更を行うことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0147】
以上のように、本発明に係る鞍乗り型車両のシート固定構造によれば、鞍乗り型車両のシート固定構造を簡単化できるので、この種の製造技術分野において好適に実施される可能性がある。
【符号の説明】
【0148】
1 鞍乗り型車両
3 車体フレーム
5 ロック装置
6 ロック部材
7 キーシリンダ
10 フロントシート
11 フロントフック
12 フロントシート当接部
13 位置決め部
14a フロントシート係合孔
20 リアシート
21 リアシート当接部
22 リアフック
23 リアシートストライカ
30 リアフレーム
31 第1クロスメンバ
32 第2クロスメンバ
33 第3クロスメンバ
34 ブッシュ
34a 貫通孔
40 係合部材
41 係合部材本体
41c 長孔
41d ストッパ部
42 つまみ部
50 第2クロスメンバ本体
51a 上壁開口部
52a 前壁開口部
60 スライドガイド
61 接続部
62 ガイド部
63 固定部
63a 締結ボルト
70 第2ガイド部
80 保持部
90 つまみ部
130 第2クロスメンバ
140 係合部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12