【実施例】
【0019】
試験1
以下にABCG2遺伝子の発現産物の細胞膜局在性試験例及びトコトリエノール及び/又はトコフェロールによるシャペロン作用による変異ABCG2遺伝子の発現産物であるトランスポーターのフォールディングの正常化例を示し、本発明を詳細に説明する。
【0020】
<ABCG2遺伝子の正常型と変異型の細胞膜局在性相違の確認試験>
1.ABCG2遺伝子変異体(Q141K)とABCG2遺伝子野性型(WT)の発現産物の細胞内分布の相違確認試験
(1)DNAコンストラクトの作製
(1−1)ヒトABCG2野性型(WT型)
ヒトABCG2(WT型)cDNA(GenScript)及び哺乳類発現用ベクターのpEGFP(Clontech Laboratories)をそれぞれiProof High−Fidelity DNA ポリメラーゼ(Bio−Rad)を用いたPCR法により増幅し、In−Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いてpEGFPベクターにヒトABCG2遺伝子を組み込んだ(pEGFP−ABCG2)。このコンストラクトを細胞に導入するとN末端に強化緑色蛍光タンパク質(Enhanced Green Fluorescend Protein:EGFP)を融合したABCG2を発現する。
なお、ヒトABCG2全長は特許文献3等に開示されている。また、pEGFPベクター増幅に使用したプライマー及びPCR条件は次のとおりである。
ABCG2 sense primer: 5’-gagctgtacaagtccatgtcttccagtaatgtcgaag-3’ 配列番号1
ABCG2 antisense primer: 5’-taccgtcgactgcagttatcaagaatattttttaagaaataac-3’
配列番号2
pEGFP sense primer: 5’-aaatattcttgataactgcagtcgacggtaccgcg-3’ 配列番号3
pEGFP antisense primer: 5’-gacattactggaagacatggacttgtacagctcgtccatgcc-3’
配列番号4
PCR条件
1.98℃ 30秒
2.98℃ 10秒
3.68℃ 30秒
4.72℃ 2分
5.2〜4を30サイクル実施する。
6.72℃ 10分
【0021】
(1−2)ヒトABCG2変異体(Q141K)
上記(1−1)にて作製したpEGFP−ABCG2を鋳型にPCR法により増幅した配列と変異導入箇所のDNAを合成した配列をIn−Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いてABCG2に導入し、421番目の塩基がシトシンからアデニンに変換したABCG2変異体のコンストラクトを作製した(pEGFP−ABCG2(Q141K))。このコンストラクトより発現したABCG2は、141番目のグルタミン(Q)がリジン(K)に変換された変異体となる。
pEGFP−ABCG2増幅に使用したプライマー、合成したオリゴDNA及びPCR条件は次のとおりである。
ABCG2_Q141K sense primer: 5’-agcagctcttcggcttgcaacaactatgacgaatcatg-3’
配列番号5
ABCG2_Q141K antisense primer: 5’-acgtcagagtgcccatcacaacatcatcttgtaccac-3’
配列番号6
Q141K oligo sense primer: 5’-gggcactctgacggtgagagaaaacttaaagttctcagcagctcttcggc
t-3’ 配列番号7
Q141K oligo antisense primer: 5’-agccgaagagctgctgagaactttaagttttctctcaccgtcagag
tgccc-3’ 配列番号8
PCR条件
1.98℃ 30秒
2.98℃ 10秒
3.68℃ 30秒
4.72℃ 2分
5.2〜4を30サイクル実施する。
6.72℃ 10分
【0022】
上記(1−1)及び(1−2)にて作製した野性型と変異型ABCG2の配列はプレミックスシーケンス解析サービス(タカラバイオ)を利用して確認を行った。シーケンス用primerは下記の通りである。
sense: 5’-aatgtcgtaacaactccgcc-3’ 配列番号9
sense: 5’-agctcgccgaccactaccagc-3’ 配列番号10
sense: 5’-agtgtttcagccgtggaactc-3’ 配列番号11
sense: 5’-agaaaaaggactagtatagg-3’ 配列番号12
sense: 5’-agtgtttcagccgtggaactc-3’ 配列番号13
【0023】
(2)ABCG2 WT及びQ141K発現細胞の作製
10%FBS含有DMEM(Gibco)にて培養したヒト腎臓由来HEK293細胞(ATCCより購入)に、上記(1−1)及び(1−2)にて作製したプラスミドをFugene HD(Promega)を用いてトランスフェクションし、これを、一過的発現系を用いた実験に供した。
【0024】
(3)共焦点レーザー顕微鏡を用いたABCG2発現産物の細胞内分布の相違確認試験(細胞内局在性解析)
上記(1−1)及び(1−2)にて作製したプラスミドをHEK293細胞にトランスフェクションし、24時間後、ポリL−リジンコートされたガラスボトムディッシュ(IWAKI)に細胞を播種し直し、更に24時間培養した。その後、培養液をHank’s液(Gibco)に交換した。細胞は、EGFPの蛍光を指標に共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス)による局在解析に供した。
【0025】
(4)結果及び考察
一過的に発現させたABCG2 WT及びQ141K変異体の共焦点レーザー顕微鏡を用いた局在解析の結果を
図2に示す。WTは細胞膜に強く発現しているのに対して、Q141K変異体は細胞膜には局在していなかった。おそらく小胞体の品質管理機構を抜け出せず、プロテオソーム系の分解経路に進んでいることが予想された。すなわち変異型ABCG2はトランスポーターの機能を果たしていないことが予想された。
【0026】
2.Fluorescence Activated Cell Sorting(FACS)を用いた細胞内局在性解析
・一時発現した細胞のFACSによる解析試験
(1)試験方法
上記試験で作製したプラスミドをHEK293細胞にトランスフェクションし、48時間後、5×105cells/tubeとなるよう1.5ml用マイクロチューブに細胞を回収した。その後、細胞は抗ABCG2抗体(Santa Cruz Biotechnology)(100倍希釈)、Alexa633標識抗マウスIgG抗体(Molecular Probes)(500倍希釈)及び2%牛胎児血清アルブミン(Sigma−Aldrich)を含有したHank’s液に室温30分反応させ、Hank’s液にて洗浄・再懸濁後、FACSに供した。FL−1にてEGFPを、FL−4にてAlexa633の蛍光強度を測定した。
【0027】
(2)結果及び考察
結果を
図3に示す。HEK293細胞に一過的に発現させたABCG2 WTの発現産物が細胞膜に局在する細胞比率は全体の41.7%であったのに対し、Q141K変異体を発現させた細胞では、その比率が21.3%まで低下した。
以上の結果よりQ141K変異体の発現産物はWTと比べ細胞膜に局在していないことが明らかとなった。またウエスタンブロッティングにより、糖鎖修飾の違いも認められた(変異体は成熟バンドが薄い)。
【0028】
3.ABCG2機能に及ぼす影響確認試験
・フェオフォルビド(Pheophorbide:PPB)輸送活性測定
ABCG2の基質であり蛍光物質のPheophorbide(PPB)を用いた解析を行った。
(1)試験方法
6well plate(BD)に5×105cells/wellとなるようHEK293細胞を播種し、翌日、上記(1−1)及び(1−2)にて作製したプラスミドをトランスフェクションした。その48時間後、ABCG2の輸送基質であり蛍光を発するPPB(フナコシ)を最終濃度5μMとなるよう添加し1時間処理した。またABCG2の機能を確認するため阻害剤のfumitremorgin C(FTC)(フナコシ)を5μM添加した。細胞は1.5ml用マイクロチューブに回収後、Hank’s液にて洗浄・再懸濁しFACSに供した。FL−1にてEGFPを、FL−4にてPPBの蛍光強度を測定した。
【0029】
(2)結果
試験結果を
図4上段及び下段に示す。WTが導入された細胞(EGFPポジティブ)では未導入の細胞(EGFPネガティブ)に比べ細胞内PPB蓄積量が低値となった(
図4上段)。
さらにFTC処理によりABCG2機能が阻害されるとPPB蓄積が認められた(
図4下段)。この結果は、ABCG2によるPPBの細胞外排泄活性を示している。すなわち、ABCG2は細胞外へのトランスポーターとして機能していることが明らかとなった。
【0030】
以上の試験からABCG2のトランスポーターとしての機能を評価できることが示された。
続いて、Q141K変異体の機能を評価するため、Q141K変異体発現細胞を試験した。その結果、WTに比べ細胞内PPB蓄積が増大することが認められ、ABCG2機能が低下していることが観察された。これら結果はQ141K変異体が細胞膜に局在していないためと考えられた。
【0031】
<トコトリエノール及び/又はトコフェロールのシャペロン作用による変異ABCG2遺伝子の発現産物であるトランスポーターのフォールディング正常化確認試験>
トコトリエノールとトコフェロールがABCG2変異体(Q141K)の遺伝子発現においてシャペロンとして作用することを確認した。
1.試験方法
(1)ABCG2変異体(Q141K)の遺伝子発現細胞の処理
上記の一過性発現細胞を安定発現細胞とするため、トランスフェクション後48時間から最終濃度1mg/mlとなるようG418−sulfate(和光純薬工業)を加えて継代培養を続け、薬剤耐性を獲得した細胞を安定発現細胞として本試験に用いた。
12well plate(BD)に5×105cells/wellとなるようABCG2変異体(Q141K)安定発現細胞を播種し、翌日、被験物質を添加し24時間処理した。被験物質はα、γ、δ体のトコフェロール(Sigma−Aldrich)及びトコトリエノール(Cayman Chemical)の計6種類をそれぞれ3段階の濃度となるよう添加した。また、陽性対照として、Corrector 4a(Calbiochem)を用いた。Corrector 4aは元来ABCトランスポーターの一つであり、嚢胞性線維症の原因となるCFTR変異体(ΔF508)に対して薬理シャペロンを示す化合物であるが、ABCG2変異体(Q141K)に対しても同様の作用を示す
ことが報告されている(PNAS.2013.110(13):p.5223-5228.)。被験物質処理後の細胞は、PBSにて洗浄後、界面活性剤の入ったRIPA液にて細胞を溶解させ回収した。回収したRIPA液は14000rpm、4℃、10分の条件にて遠心分離し、得られた上清をタンパク定量後(BCA法)、解析試料として用いた。
【0032】
(2)ウエスタンブロッティングによる発現解析
得られた解析試料は、SDS化後、7.5%プレキャストポリアクリルアミドゲル(Bio−Rad)を用いた電気泳動にてタンパク質を分離し、トランスブロットTurboシステム(Bio−Rad)によりPVDF膜(Bio−Rad)に転写した。その後、Blocking One(ナカライテスク)を用いてブロッキングし、一次抗体に抗GFP抗体(Santa Cruz Biotechnology)、二次抗体に抗マウスIgG−HPR抗体(Invitrogen)、発光剤にECL−Prime(GE Healthcare)を用いて化学発光させた。検出はLAS−4000 mini(富士フィルム)を用いて行い、得られたデジタル画像はMulti Gauge(富士フィルム)を用いて解析した。
【0033】
2.結果
ABCG2変異体(Q141K)に対する薬理シャペロン作用が報告されている陽性対照のCorrector 4a(5μM;これ以上の濃度では毒性が認められる)をQ141K安定発現細胞に24時間処理し、ウエスタンブロッティングにより評価した。
(1)陽性対照の結果
Q141K変異体のウエスタンブロット像は、糖鎖修飾の違いによるダブルバンドを示した。そしてCorrector 4aは、下記表1に示すように、コントロールと比較して1.4倍、高分子側の成熟ABCG2の発現を高めることが示された(表1)。すなわち、Corrector 4aは、薬理シャペロンとして作用し、正常なフォールディングと糖鎖修飾をQ141K変異体にもたらすことが確認された。
【0034】
【表1】
【0035】
(2)トコフェロール及びトコトリエノールの薬理シャペロン作用
同様にトコフェロール及びトコトリエノールの試験結果を表2、表3、
図5、
図6に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
表2、表3、
図5、
図6から、トコフェロール、トコトリエノールは濃度依存性で成熟ABCG2バンド量を増加させていたことが明らかとなった。また糖鎖修飾を促進してい
ることが明らかである。この結果から、トコフェロールとトコトリエノールは、濃度依存的にABCG2遺伝子の発現産物に対して薬理シャペロンとして作用することが確認された。
【0039】
試験2
次いでδ−トコトリエノール(δT3)によるシャペロン作用によって変異ABCG2遺伝子の発現産物であるトランスポーターが正常に作用して、細胞外への排泄を促進するようになることを確認した試験を示す。
(1)試験方法
KP−1排泄活性の測定
δT3の薬理シャペロンによるABCG2(Q141K)発現量の増加がABCG2機能亢進と連動しているのかを明らかにするため、ABCG2の基質となる蛍光物質KP−1を用いて、その排泄活性を測定した。
ポリ−L−リジンコートされた24 well plate(IWAKI)に2.5×10
5 cells/wellとなるようABCG2変異体(Q141K)安定発現細胞を播種し48時間培養した。その後、被験物質としてδT3を最終濃度30μM、24時間処理した(controlにはエタノールを添加)。次にABCG2の輸送基質であり蛍光物質のKP−1(五稜化学)とABCG2阻害剤であるFTCをそれぞれ最終濃度1μM及び2μMとなるよう同時に1時間処理し、KP−1を細胞に取込ませた。その後、細胞を洗浄し、10%FBS含有フェノールレッドフリーのDMEM(gibco)に培地交換し、37℃、5%CO
2下、1時間、KP−1を排泄させた。回収した培地は14,000rpm、4℃、5分の条件にて遠心分離し、得られた上清の蛍光強度(励起波長480nm、検出波長529nm)を測定し、細胞外KP−1量とした。また、細胞はPBSにて洗浄後、RIPA液にて溶解させ回収した。回収したRIPA液は14,000rpm、4℃、10分の条件にて遠心分離し、得られた上清の蛍光強度(励起波長480nm、検出波長529nm)を測定し、細胞内KP−1量とした。KP−1排泄活性は、下記式より算出した。
KP−1排泄活性(%)=細胞外KP−1量/(細胞外KP−1量+細胞内KP−1量)×100
【0040】
(2)結果及び考察
KP−1排泄活性
図7にδT3添加細胞と無添加細胞のKP−1排泄活性を測定した結果を示す。
ABCG2変異体(Q141K)安定発現細胞のδT3無添加(control)におけるKP−1排泄活性は27.1±0.36%であったのに対して、δT3(30μM)添加処理によりその排泄活性は38.7±1.23%と明らかな増加が認められた。
したがって、δT3はQ141K変異体のKP−1排泄活性を亢進させるが、その作用は薬理シャペロン作用によることが明らかとなった。