(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記押圧部の前記押し込み方向の厚みをT1とし、前記低硬度部の前記押し込み方向の厚みをT2とするときに、0.5≦T2/T1≦0.8の関係である請求項1に記載の押釦スイッチ用部材。
縦断面視にて、前記押圧部と前記薄肉可動部との連接部であって前記薄肉可動部の内側にある連接内側部の幅に対して、前記連接部における前記薄肉可動部の外側にある連接外側部の幅を同一若しくは小さくしている請求項1または2に記載の押釦スイッチ用部材。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明に係る押釦スイッチ用部材について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、各実施形態の中で説明されている諸要素およびその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。各実施形態においては、基本的な構成および特徴が同じ構成要素については、各実施形態に共通して同じ符号を使用し、説明を省略する場合がある。
【0024】
(第1実施形態)
1.押釦スイッチ用部材の構造
まず、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材について説明する。
【0025】
図1は、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材の平面図(1A)およびA1−A1線断面図(1B)をそれぞれ示す。
【0026】
第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材1は、
図1に示すように、押圧部10と、押圧部10の平面視にて径方向外周に連接する薄肉可動部20と、薄肉可動部20の平面視にて径方向外周に連接するベース部30とを押圧部10の押し込み方向に向かって順に備える。押圧部10、薄肉可動部20およびベース部30は、共にゴム状弾性体である。押圧部10は、天面11から押し込み方向の厚みの途中位置までの第1領域に、第1領域より薄肉可動部20に近い第2領域と比較してゴム硬度の低い低硬度部12を有する。
【0027】
また、押釦スイッチ用部材1は、薄肉可動部20により形成されているドームの内側空間に、押圧部10と反対側に向かって突出する接点部40を、さらに備える。接点部40は、上記ドームの天上部分から下方に突出するゴム状弾性体に固定されている。ただし、ドームの天上部分に、接点部40を直接固定するようにしても良い。また、少なくとも押圧部10と薄肉可動部20がゴム状弾性体にて構成されていれば足り、ベース部30はゴム状弾性体以外の材料から構成されていても良い。
【0028】
押圧部10、薄肉可動部20、ベース部30および接点部40は、別体にて製造後に、接合されても良く、あるいは一体成形等の手法により製造されていても良い。また、この実施形態では、押圧部10の第2領域、薄肉可動部20およびベース部30は、同一種類のゴム状弾性体にて構成されているが、別の種類のゴム状弾性体から構成されていても良い。
【0029】
第1実施形態および後述する他の各実施形態において、ゴム状弾性体としては、好適には、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー、ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、又は、上記したものの複合物等を例示できる。これらの例示のゴム状弾性体の内、特に、シリコーンゴムが好ましい。また、ゴム状弾性体は、シリカ等のフィラーを含有していても良い。
【0030】
(1)押圧部
押圧部10は、スイッチのオン、オフまたはその両方のときに、指やその他の押圧操作手段に接触して、ベース部材30の方向(
図1(1B)では下方向)に向かって押圧を受けて下方に移動可能な部材である。押圧部10は、キートップ、押釦部、頭部等と称されることもある。押圧部10は、ベース部30を基準として一方の側に突出している。この実施形態では、一方の側とは、押釦スイッチ用部材1を回路基板等に設置したときの当該回路基板等と反対側の側に相当する。押釦スイッチ用部材1の設置箇所によっては、上側ではなく、左側、右側等の別の方向となることもある。
【0031】
押圧部10は、第1実施形態および後述する各実施形態においては、平面視にて円形の略円柱形状の部材である。
図1(1B)に示すように、押圧部10は、天面11から、押圧部10と薄肉可動部20との連接部であって薄肉可動部20の外側にある連接外側部16、当該連接部であって薄肉可動部20の内側にある連接内側部15を通って、薄肉可動部20を切り落とした部位である。これは、他の実施形態でも同様である。押圧部10の形状についてさらに詳細に説明すると、押圧部10の一方の側の端部に近い部分(上側の部分:第1領域)は円柱形状である。第1領域から薄肉可動部20に近い第2領域は、薄肉可動部20と滑らかに連接するように直径が少し広くなっていく部分である。押圧部10の厚みは、天面11と連接内側部15に当たる破線位置で挟まれた距離をいう。このように、押圧部10は、上述の第1領域に、第2領域よりもゴム硬度の低い低硬度部12を有する。
【0032】
押圧部10の低硬度部12と、低硬度部12より高硬度の第2領域とを共にシリコーンゴムにて形成する場合、シリコーンゴムの硬度を変化させるために、第2領域の部分を、シリカ等のフィラーを添加した硬化性シリコーン組成物を硬化させて作製する一方で、第1領域の部分を、シリカ等のフィラーを添加しないで若しくは第1領域よりも当該フィラーの添加量の少ない硬化性シリコーン組成物を硬化させて作製することができる。また、第1領域作製用の硬化性シリコーン組成物に添加するシリコーンオイル成分を、第2領域作製用の硬化性シリコーン組成物に添加する同成分より多くしても良い。
【0033】
この実施形態では、第1領域(=低硬度部12)は、天面11を含み、かつ薄肉可動部20を含まない領域である。なお、押圧部10の最表面には、防傷等を目的として、樹脂(熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂など)、ガラス、セラミックス、押圧部10より高硬度のシリコーンゴムやその他エラストマー等からなる薄いコート層が形成されていても良い。
【0034】
押釦スイッチ用部材1において、押圧部10の押し込み方向の厚み、すなわち、
図1(1B)における天面11から破線の位置までの長さをT1とし、低硬度部12の押し込み方向の厚み(
図1(1B)のハッチング幅の密な部分の上下方向の長さ)をT2とするときに、0.5≦T2/T1≦0.8の関係であるのが好ましい。この実施形態では、押し込み方向とは、押釦スイッチ用部材1を回路基板等に設置したときに、押圧部10から当該回路基板等に向かう方向である。また、押し込み方向を、押圧部10の設置面に対して垂直な軸に沿う方向と称しても良い。
【0035】
押圧部10の厚みおよび低硬度部12の厚みを計測する場合、天面11に、突起等(例えば、後述する第2実施形態における突出部54)や前述のコート層が存在する場合であっても、当該突起等やコート層の厚みや長さは、押圧部10および低硬度部12の各厚みには含まれない。また、押圧部10や低硬度部12が円柱形状の領域ではない場合等、場所によって厚みが異なる場合には、押圧部10の厚みおよび低硬度部12の厚みは平均値として算出される。
【0036】
0.5≦T2/T1とすると、押圧部10を押し込んだときに、低硬度部12が圧縮されてその厚みを減じる十分な柔軟性を確保することができる。また、T2/T1≦0.8とすると、押圧部10と薄肉可動部20との連接部付近における局所的な歪みの発生を十分に抑制することができ、長期使用に際して当該連結部からの破断のリスクをより低減できる。
【0037】
また、押釦スイッチ用部材1において、JIS K 6253に準拠するタイプAデュロメータを用いた測定による低硬度部12のゴム硬度をH1とし、同測定による第2領域のゴム硬度をH2とするときに、H2−H1≧30の関係を満たすのが好ましい。以後、「ゴム硬度」は、全て、JIS K 6253に準拠するタイプAデュロメータを用いた測定による硬度を意味する。
【0038】
H2−H1≧30とすると、低硬度部12のゴム硬度を相対的に十分に低くでき、押圧部10の天面11から押し込み方向に力が加えられたときに、低硬度部12が圧縮されてその厚みを減じる十分な柔軟性を確保することができる。0.5≦T2/T1及びH2−H1≧30の両条件が満たされると、なお好ましい。
【0039】
(2)薄肉可動部
薄肉可動部20は、押圧部10の外周に連接する部材である。薄肉可動部20は、その形状からドームと称しても良い。薄肉可動部20は、第1実施形態および後述する各実施形態においては、平面視にて円環状の部材である。
図1(1B)に示すように、薄肉可動部20は、連接外側部16と連接内側部15との間を切った部位からベース部30との境界部までの構成部である。これは、他の実施形態でも同様である。薄肉可動部20は、好ましくは、押圧部10およびベース部30よりも薄肉に形成されている。薄肉可動部20は、押圧部10を回路基板等に向けて押圧したときに弾性変形して、押圧部10への押圧を解除したときに元の形状に戻る弾性変形部材である。
【0040】
(3)ベース部
ベース部30は、薄肉可動部20の外周に連接する。ベース部30は、押釦スイッチ用部材1を押釦スイッチに組み込むときに、押釦スイッチ用部材1を回路基板等に固定する部分である。第1実施形態および他の各実施形態においては、ベース部30の平面視形状は四角形である。ベース部30には、取り付けのための孔や突起等が形成されていても良い。なお、ベース部30は、薄肉可動部20や低硬度部12以外の押圧部10を構成する材料と異なる材料(ゴム状弾性体、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂のいずれでも良く、樹脂以外の材料、例えば金属でも良い)で構成されていても良い。
【0041】
(4)接点部
接点部40は、押圧部10の直下に位置するドームの天上から、押圧部10と反対方向(すなわち、押圧部10の押し込み方向)に向かって突出する部分である。なお、接点部40は、押釦スイッチ用部材1にとって必須の部材ではない。
【0042】
接点部40は、押釦スイッチ用部材1に組み込まれたときに、押圧部10の直下に配置される構成要素(例えば、電極、メタルドームあるいは他種類のスイッチ)に接触してスイッチをオン・オフさせる部分となる。接点部40は、第1実施形態および後述する各実施形態において、平面視にて円形の円柱部材である。接点部40は、押圧部10と一体であっても、あるいは別体であっても良い。接点部40が押圧部10と別体である場合には、例えば、接点部40は、押圧部10の裏側に接着されても良い。この実施形態では、接点部40は、導電性を有する材料(例えば、金属や導電性のゴム状弾性体)から成るのが好ましいが、非導電性材料から成るものでも良い。
【0043】
(5)作用・効果
この実施形態に係る押釦スイッチ用部材1によれば、押圧部10は、第1領域に、第2領域よりもゴム硬度の低い低硬度部12を備えるため、天面11から押し込まれたときに押圧部10が変形するとともに押圧力を分散させて薄肉可動部20への負荷を低減することが可能である。したがって、スイッチがオンになった後の急激な荷重の上昇を十分に抑えることができ、かつ薄肉可動部20の破断が発生しにくくなる。
【0044】
また、第1領域は、天面11を含み、かつ薄肉可動部20を含んでいないため、薄肉可動部20との連接部付近における局所的な歪みの発生を抑制することができる。これも、また、薄肉可動部20が破断するのを抑制するのに寄与する。
【0045】
2.押釦スイッチ用部材の製造方法
押釦スイッチ用部材1は、例えば、押圧部10の低硬度部12以外の部分を(この実施形態においては、薄肉可動部20およびベース部30も同時に)成形し、それと併行して、押圧部10の第2領域よりも低硬度の材料を用いて低硬度部12を成形して、低硬度部12を押圧部10の第1領域となるように接着することにより容易に製造することができる。
【0046】
また、押釦スイッチ用部材1は、押圧部10の素体を低硬度部12となる部分と一体として成形し、成型後に種々の手段(たとえば、電子線の照射)により押圧部10の低硬度部12以外の部分を硬化させることによっても製造することができる。
【0047】
また、押釦スイッチ用部材1は、低硬度部12の部分、若しくは押圧部10の第2領域と薄肉可動部20とベース部30の部分のいずれか一方を先に金型にインサートして、他方の硬化性組成物を当該金型内に供給して成形するインサート成形によっても製造可能である。
【0048】
さらには、3Dプリンタを用いて、ベース部30から押圧部10に向かって、あるいはその逆方向にビルドアップしていき、低硬度部12とその他の部材との間でプリント材料を変更して、押釦スイッチ用部材1を製造しても良い。
【0049】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る押釦スイッチ用部材について説明する。第2実施形態において、第1実施形態と共通する構成については、適宜、省略し、第1実施形態と異なる点について主に説明する。この実施形態およびこれ以降の実施形態における押釦スイッチ用部材は、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材1の上述の製造方法に準じて製造可能である。
【0050】
図2は、第2実施形態に係る押釦スイッチ用部材の平面図(2A)およびA2−A2線断面図(2B)をそれぞれ示す。
【0051】
第2実施形態に係る押釦スイッチ用部材2は、基本的には第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材1と同様の構成を有するが、押圧部50の天面52に突出部54を有する点で、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材1とは異なる。
【0052】
図2に示すように、押釦スイッチ用部材2は、押圧部50と、押圧部50の平面視にて径方向外周に連接する薄肉可動部20と、薄肉可動部20の平面視にて径方向外周に連接するベース部30とを押圧部50の押し込み方向に向かって順に備える。押圧部50、薄肉可動部20およびベース部30は、共にゴム状弾性体である。押圧部50は、天面51から押し込み方向の厚みの途中位置までの第1領域に、第1領域より薄肉可動部20に近い第2領域と比較してゴム硬度の低い低硬度部52を有する。
図2(2B)に示すように、押圧部50は、天面51から、押圧部50と薄肉可動部20との連接部であって薄肉可動部20の外側にある連接外側部56、当該連接部であって薄肉可動部20の内側にある連接内側部55を通って、薄肉可動部20を切り落とした部位である。薄肉可動部20は、連接外側部56と連接内側部55との間を切った部位からベース部30との境界部までの構成部である。押圧部50の厚みは、天面51と連接内側部55に当たる破線位置で挟まれた距離をいう。
【0053】
押圧部50は、天面51に、平面視にて部分的にベース部30と反対側に突出する1以上の突出部(ボッチ、突起とも称する)54を備える。ここで、「平面視にて部分的に」とは、天面51を上方から見たときに、その面積の一部を突出部54が占める状態を意味する。したがって、「平面視にて部分的に」は、天面51の平面視にて全領域が突出していることを排除する意味で用いられる。この実施形態では、天面51には、4個の突出部54が形成されている。また、この実施形態では、突出部54は、低硬度部52と同一種類のゴム状弾性体からなるが、低硬度部52と異なる材料からなるものでも良い。突出部54は、天面51と一体であっても、あるいは別体であっても良い。また、この実施形態においては、突出部54は、略半球形状を有するが、その形状に制約はない。例えば、突出部54は、円柱形状、角柱形状、円錐形状、角錐形状、筒状の形状等の如何なる形状を有するものであっても良い。さらに、この実施形態では、突出部54の数は、4個であるが、その個数に制約はない。突出部54の数は、1〜3個、あるいは5個以上でも良い。
【0054】
この実施形態によれば、先に述べた第1の実施形態の作用・効果に加えて、押圧力が加えられたときに突出部54が先に変形する(潰れる)ため、押圧部50全体としての変形量を大きくすることができる。
【0055】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る押釦スイッチ用部材について説明する。第3実施形態において、第1実施形態と共通する構成については、適宜、省略し、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0056】
図3は、第3実施形態に係る押釦スイッチ用部材の平面図(3A)およびA3−A3線断面図(3B)をそれぞれ示す。
【0057】
第3実施形態に係る押釦スイッチ用部材3は、基本的には第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材1と同様の構成を有するが、押圧部60に穴部64が形成されている点で、第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材1とは異なる。
【0058】
図3に示すように、押釦スイッチ用部材3は、押圧部60と、押圧部60の平面視にて径方向外周に連接する薄肉可動部20と、薄肉可動部20の平面視にて径方向外周に連接するベース部30とを押圧部60の押し込み方向に向かって順に備える。押圧部60、薄肉可動部20およびベース部30は、共にゴム状弾性体である。押圧部60は、天面61から押し込み方向の厚みの途中位置までの第1領域に、第1領域より薄肉可動部20に近い第2領域と比較してゴム硬度の低い低硬度部62を有する。
図3(3B)に示すように、押圧部60は、天面61から、押圧部60と薄肉可動部20との連接部であって薄肉可動部20の外側にある連接外側部66、当該連接部であって薄肉可動部20の内側にある連接内側部65を通って、薄肉可動部20を切り落とした部位である。薄肉可動部20は、連接外側部66と連接内側部65との間を切った部位からベース部30との境界部までの構成部である。押圧部60の厚みは、天面61と連接内側部65に当たる破線位置で挟まれた距離をいう。
【0059】
押圧部60は、天面61側に開口して天面61から低硬度部62の内方に向かう穴部64を有する。穴部64は、好ましくは、低硬度部62の厚み以下の深さを有する有底開口部である。穴部64は、この実施形態では、その開口面の平面視形状を略円形とする円筒カップ形状の空間であるが、その開口部の形状を平面視にて矩形などの他の形状とした角筒形状の空間としても良い。また、穴部64は、円錐形状、角錐形状、半球状等の筒状以外の形状を有するものであっても良い。また、穴部64は、その底部を第2領域にまで達するものでも良い。さらに、穴部64は、接点部40にまで達するもの、あるいは接点部40をも貫通した貫通穴であっても良い。
【0060】
この実施形態によれば、先に述べた第1の実施形態の作用・効果と比べて、押圧力が加えられたときの押圧部60の変形を一層大きくすることができるという作用・効果も得られる。
【0061】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る押釦スイッチ用部材について説明する。第4実施形態において、上述の各実施形態と共通する構成については、適宜省略し、異なる点について主に説明する。
【0062】
図4は、第4実施形態に係る押釦スイッチ用部材の平面図(4A)およびA4−A4線断面図(4B)をそれぞれ示す。
【0063】
第4実施形態に係る押釦スイッチ用部材4は、基本的には第3実施形態に係る押釦スイッチ用部材3と同様の構成を有するが、押圧部70の天面71の外形の大きさが第3実施形態に係る押釦スイッチ用部材3とは異なる。
【0064】
図4に示すように、押釦スイッチ用部材4は、押圧部70と、押圧部70の平面視にて径方向外周に連接する薄肉可動部20と、薄肉可動部20の平面視にて径方向外周に連接するベース部30とを押圧部70の押し込み方向に向かって順に備える。押圧部70、薄肉可動部20およびベース部30は、共にゴム状弾性体である。押圧部70は、天面71から押し込み方向の厚みの途中位置までの第1領域に、第1領域より薄肉可動部20に近い第2領域と比較してゴム硬度の低い低硬度部72を有する。押釦スイッチ用部材4は、薄肉可動部20により形成されているドームの内側空間に、押圧部70と反対側に向かって突出する接点部40を備えている。
図4(4B)に示すように、押圧部70は、天面71から、押圧部70と薄肉可動部20との連接部であって薄肉可動部20の外側にある連接外側部76、当該連接部であって薄肉可動部20の内側にある連接内側部75を通って、薄肉可動部20を切り落とした部位である。薄肉可動部20は、連接外側部76と連接内側部75との間を切った部位からベース部30との境界部までの構成部である。
【0065】
図4に示すように、押釦スイッチ用部材4において、天面71の側からの平面視にて、連接外側部76の外形は、連接内側部75により規定される範囲内に収まる。ここで、「範囲内に収まる」には、外形が同じである(平面視したときに連接外側部76および連接内側部75がともに円形である場合には、双方の直径が同じである)ことも含まれる。低硬度部72は、押圧部70の天面71から厚み方向の途中(Xの位置)までの第1領域に存在する。また、低硬度部72は、薄肉可動部20の一部をも含む。連接外側部76の縦断面視における幅は、連接内側部75の縦断面視の幅に対して同一若しくは小さい。この実施形態において、「幅」は、連接外側部76および連接内側部75の各平面視の形状が円であることから、それぞれの直径を意味する。しかし、連接外側部76および連接内側部75の平面視の形状が円以外の場合には、「幅」は、連接外側部76および連接内側部75の各平面視の形状を各同じ面積の円に換算した直径(=円換算直径)を意味する。
【0066】
押釦スイッチ用部材4では、押圧部70は、天面71の外形が押し込み方向に向かって一定厚みだけ保持される柱状領域と、当該柱状領域から幅を徐々に大きくする台形領域と、を有する。この実施形態では、柱状領域の幅D1は、連接外側部76の幅に等しく、連接内側部75の幅D2と比べて同一若しくは小さい。幅D2は、押圧部70と薄肉可動部20との内側境界線で規定される部分の幅である。本願において、「柱状」は、その長さ方向にわたって平面視の径(若しくは対角線)が一定の形態をいう。ただし、平面視の径(若しくは対角線)は、完全に一定であることまでを必要とせず、プラスマイナス5%の範囲内の変動は許容される。また、上記台形領域は、平面視にて円形で縦断面視にて台形の円錐台である。押圧部70の厚みは、天面71と連接内側部75に当たる破線位置で挟まれた距離をいう。
【0067】
この実施形態においては、連接外側部76および連接内側部75の平面視形状はともに円形であり、連接外側部76の直径(=D1)と連接内側部75の直径(=D2)とを比較すると、1≦D2/D1≦1.7の関係を満たす。また、1.3<D2/D1≦1.7の関係を満たすのがより好ましい。
【0068】
この実施形態によれば、天面71から押圧が加えられたときに、その押圧が連接内側部75の平面視にて外側に伝達するのを抑制することができる。すなわち、押圧部70を押し込んだときの力が連接内側部75に向かう方向に集中させ、薄肉可動部20にかかる負荷を一層低減することができるという作用・効果が得られる。
【0069】
また、押圧部70は、上述の柱状領域を有するため、押圧部70から接点部40の方向に押圧力が加えられたときに、その押圧力が連接内側部75の平面視にて外側にはみ出すのを一層抑制することができる。この結果、薄肉可動部20にかかる負荷をより一層低減することができる。
【0070】
また、D2/D1≦1.7とすると(すなわち、D1をD2に対して小さくし過ぎないようにすると)、押圧力が加えられた押圧部70の柱状領域が押し込み方向以外の方向(平面視にて前後左右方向等)に振れることを抑制することができる。一方、1≦D2/D1、さらには1.3<D2/D1とすると、薄肉可動部20にかかる負荷を低減することができる。この結果、1≦D2/D1≦1.7、さらには1.3<D2/D1≦1.7とすると、押圧部70の押し込み時にその押し込み方向から横方向に振れにくくして、かつ薄肉可動部20にかかる負荷を低減する効果をより得られやすくなる。
【0071】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明に係る押釦スイッチ用部材は、各実施形態に制約されることなく、例えば、下記のように種々変形して実施可能である。
【0072】
上述の各実施形態における押圧部10,50,60,70(押圧部10等という)、薄肉可動部20、ベース部30および接点部40の各形状は例示であり、それぞれ用途等に応じた種々の形状とすることができる。また、押圧部10等、薄肉可動部20、連接外側部76、連接内側部75および接点部40の平面視の形状はそれぞれ同一形状である必要はなく、例えば、押圧部10等、連接外側部76および連接内側部75の平面視の形状を円形とし、薄肉可動部20の外縁部(ベース部30との連接部)の平面視の形状を四角形とするようにしても良い。逆に、押圧部10等、薄肉可動部20、ベース部30、連接外側部76、連接内側部75および接点部40の平面視の形状を全て円形あるいは四角形としても良い。
【0073】
また、上述の各実施形態の構成要素は互いに組み合わせられない場合を除き、任意に組み合わせることもできる。例えば、上述の第1実施形態及び第2実施形態における押圧部10,50においても、第4実施形態のように、天面11,51の側から平面視にて連接外側部16,56の外形が連接内側部15,55の外形により規定される範囲に収まるようにしても良い。また、第2実施形態における突出部54は、第3,4実施形態における穴部64,74以外の天面61,71に備えても良い。なお、上述の各実施形態では、薄肉可動部20は、縦断面視にて略「ハ」の字の途中で屈曲した形状を有するが、これに限定されず、例えば縦断面視にて略「ハ」の字形状や逆椀形状といった他の形状を有していても良い。また、上記各実施形態では、薄肉可動部20の主要部分若しくは全部のゴム硬度は、低硬度部12,52,62,72のゴム硬度に比べて高いが、同一若しくは低くすることもできる。
【実施例】
【0074】
次に、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下の実施例の内容に制約されるものではない。
【0075】
(実施例1および比較例1,2)
まず、実施例1および比較例1,2に係る押釦スイッチ用部材について、シミュレーションにより、押圧部の押し込みにより座屈状態となったときにおける、押圧部と薄肉可動部とが連接している部分(破断が発生しやすい部分)の形状および応力に関する評価を行った。また、実施例1および比較例1,2に係る押釦スイッチ用部材について、押し込み距離と荷重との関係に関する評価も行った。
【0076】
(1)実施例1および比較例1,2の構成
実施例1に係る押釦スイッチ用部材は、上記第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材1に対応し、比較例1に係る押釦スイッチ用部材は上記公知の押釦スイッチ用部材101に対応し、比較例2に係る押釦スイッチ用部材は上記公知のさらなる別の押釦スイッチ用部材103に対応する。このため、実施例1および比較例1,2に係る押釦スイッチ用部材についての図示は省略する。
【0077】
シミュレーションにおいては、各押釦スイッチ用部材はシリコーンゴムにて形成されたものとした。ここで、各押釦スイッチ用部材は、共通する部分については同じ形状とした。各押釦スイッチ用部材の天面の直径は4.5mmとした。各押釦スイッチ用部材の天面からベース部の底面までの距離(すなわち、押釦スイッチ用部材の高さ)は6.7mmとした。接点部の先端面からベース部の底面までの距離は2.8mmとした。薄肉可動部の下方開口面の直径は5.9mmとした。また、薄肉可動部の肉厚は0.85mmとした。さらに、比較例2に係る押釦スイッチ用部材については、押圧部に形成された穴部の直径を2.9mmとし、深さを2mmとした。実施例1に係る押釦スイッチ用部材については、押圧部の押し込み方向の厚みは3.15mmとし、低硬度部の押し込み方向の厚みは2.52mmとした。また、比較例1,2に係る押釦スイッチ用部材については、押圧部、薄肉可動部およびベース部のゴム硬度(JIS K 6253に準拠するタイプAデュロメータを用いて測定される硬度)を60度に設定し、接点部のゴム硬度は70度に設定した。一方、実施例1に係る押釦スイッチ用部材については、低硬度部のゴム硬度は20度に設定し、低硬度部以外については比較例1,2に係る押釦スイッチ用部材と同様のゴム硬度(60度)とし、接点部のゴム硬度は70度に設定した。
【0078】
(2)座屈状態となったときの形状および応力についての押釦スイッチ用部材の評価
図5は、比較例1についての座屈状態における形状に関するシミュレーションの結果を示す図(5A)、比較例1についての応力に関するシミュレーションの結果を示す図(5B)、比較例2についての座屈状態における形状に関するシミュレーション結果を示す図(5C)、比較例2についての応力に関するシミュレーションの結果を示す図(5D)、実施例1についての座屈状態における形状に関するシミュレーション結果を示す図(5E)、実施例1についての応力に関するシミュレーションの結果を示す図(5F)ならびに実施例1および比較例2についての座屈状態における形状に関するシミュレーション結果を重ね合わせた図(5G)をそれぞれ示す。当該評価は、押し込み距離(ストローク)を3.8mmとして行った。
【0079】
図5(5A)、
図5(5C)、
図5(5E)および
図5(5G)は、各押釦スイッチ用部材の縦断面図の一部(押圧部の押し込みにより座屈状態となったときにおける、押圧部と薄肉可動部とが連接している部分)を示す図である。
図5(5B)、
図5(5D)および
図5(5F)は、各押釦スイッチ用部材の縦断面についてメッシュを用いて応力を解析した結果の一部(最も応力がかかる箇所が含む一部)を示す図である。
図5(5A)〜
図5(5F)における丸印は、それぞれ最も応力がかかる箇所を示すものである。
【0080】
まず、
図5(5A)〜
図5(5D)に示すように、比較例1,2に係る押釦スイッチ用部材においては、押圧部の押し込みにより座屈状態となったときに、押圧部と薄肉可動部とが連接している部分が大きく折れ曲がっていることが確認できる。このとき、比較例1においては最大319gf/mm
2の応力が、比較例2においては最大336gf/mm
2の応力が、それぞれかかっていた。
【0081】
一方、
図5(5E)および
図5(5F)に示すように、実施例1に係る押釦スイッチ用部材においては、押圧部と薄肉可動部とが連接している部分の折れ曲がり方が比較例1,2の場合よりも小さいことが確認できる。
図5(5G)に示すように、比較例2(色が濃い部分)と実施例1(色が薄い部分)とを重ねてみると、折れ曲がり方の違いが一目瞭然である。また、実施例1においては最大で287gf/mm
2の応力がかかっており、比較例1,2の場合と比較して最大応力が大きく減少していることが確認できた。
【0082】
(3)押し込み時の荷重についての押釦スイッチ用部材の評価
図6および
図7は、実施例1、比較例1および比較例2についての荷重に関するシミュレーションの結果を示す。
図6は特徴的な数値をまとめた表であり、
図7はシミュレーション結果に基づくグラフである。
図7のグラフの縦軸は荷重(単位:N)を表し、横軸は押し込み距離(単位:mm)を表す。
【0083】
図6の表において、「ピーク」はスイッチがオンになる前の段階における最大荷重を、「メーク」はスイッチがオンになる直前における最小荷重を、「クリック」はピークおよびメークから算出したスイッチの感触の硬さを、「ピークst」はピークの荷重となるまでの押し込みの長さを、「オンst」はスイッチがオンとなるまでの押し込みの長さを、それぞれ表す。
図6の表および
図7のグラフに示すように、実施例1は、比較例1と比較してスイッチがオンになった後の急激な荷重の上昇を大幅に抑えられることが確認できた。また、実施例1は、比較例2と比較しても、スイッチがオンになった後の荷重の上昇を抑えられることが確認できた。このように、実施例1に係る押釦スイッチ用部材によれば、十分にソフトな感触が得られることが確認できた。
【0084】
(実施例2〜8および比較例3〜5)
次に、上述のコンピュータシミュレーションの結果を参考にして、実施例2〜8および比較例3〜5に係る押釦スイッチ用部材を実際に製造して打鍵試験を行い、耐久性に関する評価を行った。
【0085】
(1)実施例2〜8および比較例3〜5の構成
実施例2〜8に係る押釦スイッチ用部材は上記第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材1に対応する。比較例3,5に係る押釦スイッチ用部材は上記公知の押釦スイッチ用部材101に対応する。比較例4に係る押釦スイッチ用部材は上記第1実施形態に係る押釦スイッチ用部材1の形状と同様の形状を有し、かつ、押圧部全てが低硬度部からなる押釦スイッチ用部材である。このため、実施例2〜8および比較例3〜5についても図示を省略する。なお、実施例5と実施例8とは、実際には同じ構成の押釦スイッチ用部材である。また、比較例3と比較例5についても、実際には同じ構成の押釦スイッチ用部材である。これらについては、表の見やすさの観点から、それぞれ異なる実施例の番号を付した。
【0086】
各押釦スイッチ用部材はシリコーンゴムにて形成された。ここで、実施例2〜8および比較例3〜5に係る押釦スイッチ用部材は、すべて同じ形状とした。各押釦スイッチ用部材の天面の直径は4.5mmとした。各押釦スイッチ用部材の天面からベース部の底面までの距離(押釦スイッチ用部材の高さ)は6.7mmとした。接点部の先端面からベース部の底面までの距離は2.8mmとした。薄肉可動部の下方開口面の直径は、5.9mmとした。また、薄肉可動部の肉厚は0.85mmとした。また、押圧部を押し込んだときに、ベース部が過度に拡がらないように、ベース部の下に厚さ100μmのPETフィルムを配置した。
【0087】
(2)押釦スイッチ用部材の製造方法
上記各押釦スイッチ用部材は、金型を用い、低硬度部以外の部分を構成する第1のシリコーンゴムの原料を固化させた後、低硬度部を構成する第2のシリコーンゴムの原料を固化させることで製造した。第1のシリコーンゴムの原料としてはゴム硬度60の材料としてSE−4706U(東レ・ダウコーニング株式会社)、第2のシリコーンゴムの原料としては、ゴム硬度60の材料としてSE−4706U(東レ・ダウコーニング株式会社)、ゴム硬度40の材料としてSE−4704U(東レ・ダウコーニング株式会社)、ゴム硬度30の材料としてSE−4704U(東レ・ダウコーニング株式会社)とKE−520U(信越化学工業株式会社)を重量比で1:1にブレンドしたものを、ゴム硬度20の材料としてKE−520U(信越化学工業株式会社)、を用意し、それぞれ100重量部に対して硬化剤としてC−8(信越化学工業株式会社)2重量部を加えて混練・分出ししたものを用いた。なお、接点部は他の部分を成形した後に接着した。低硬度部の厚みや低硬度部のゴム硬度については、それぞれの実施例または比較例ごとに設定した。実施例および比較例ごとの数値設定については、
図8,9にまとめた。
【0088】
各押釦スイッチ用部材の製造後、低硬度部とそれ以外の箇所のゴム硬度を測定した。ゴム硬度の測定には、高分子計器株式会社製の硬度測定器(型式:MD−1capa)を用いた。ゴム硬度は、JIS K 6253に準拠するタイプAデュロメータにより計測したゴム硬度をいう。ゴム硬度については、1つのサンプルにつき2箇所の測定を行い、その平均値をそのサンプルのゴム硬度とした。
【0089】
(3)打鍵試験による押釦スイッチ用部材の評価
上記のようにして製造した各押釦スイッチ用部材について打鍵試験を行った。打鍵試験における荷重は700gとし、3回/秒の打鍵スピードで押釦スイッチ用部材が破断するまで打鍵を行った。このとき、オン後の荷重上昇の低下についても測定した。荷重の測定には、日本計測システム株式会社製の自動荷重試験機(型式:MAX−1KN−S−1)を用いた。
【0090】
図8は、実施例2〜5および比較例3,4についての打鍵試験の結果を示す。
図9は、実施例6〜8および比較例5についての打鍵試験の結果を示す。
【0091】
図8,9中の「オン後の荷重上昇の低下」の項目については、「A」は非常に良好な結果が得られたことを示し、「B」は良好な結果が得られたことを示し、「C」は良好な結果が得られなかったことを示す。また、「耐久性」の項目については、「A」は非常に良好な結果が得られた(基準である打鍵耐久回数である1万回の2.5倍以上の打鍵回数に耐えた)ことを示し、「B」は良好な結果が得られた(基準である打鍵耐久回数である1万回の2.0倍以上の打鍵回数に耐えた)ことを示し、「C」は良好な結果が得られなかった(基準である打鍵耐久回数である1万回の打鍵回数に耐えられなかった)ことを示す。
【0092】
T1とT2との関係について確認した結果、
図8に示すように、押圧部が天面を含む第1領域に低硬度部を備えることにより、オン後の荷重上昇の低下および耐久性の両方の項目についてについて良好な結果が得られることが確認できた。また、0.5≦T2/T1≦0.8の関係を満たす場合には、オン後の荷重上昇の低下および耐久性の両方の項目について非常に良好な結果が得られることも確認できた。
【0093】
また、H1とH2との関係について確認した結果、
図9に示すように、押圧部が低硬度部を備えることにより、オン後の荷重上昇の低下および耐久性の両方の項目について良好な結果が得られることが確認できた。また、H2−H1≧30の関係を満たす場合には、オン後の荷重上昇の低下および耐久性の両方の項目について非常に良好な結果が得られることも確認できた。