(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
<<半導体加工用シート>>
本発明の半導体加工用シートは、基材上に粘着剤層を備え、厚さが200μmである前記粘着剤層の、0℃における貯蔵弾性率が1000MPa以下であり、半導体ウエハのミラー面に対する前記粘着剤層の粘着力が200mN/25mm以下のものである。
別の側面として、本発明の半導体加工用シートは、基材上に粘着剤層を備え、以下の特性を有する半導体加工用シートである:
前記粘着剤層の厚さを200μmとしたとき、前記厚さ200μmの粘着剤層の0℃における貯蔵弾性率が1000MPa以下であり、かつ
前記半導体加工用シートを半導体ウエハのミラー面に貼付したとき、前記ミラー面に対する前記粘着剤層の粘着力が200mN/25mm以下である。
本発明の半導体加工用シートは、その粘着剤層上にフィルム状接着剤を設け、前記フィルム状接着剤上に、あらかじめ分割済みの複数個の半導体チップを設けた構成とした後、前記半導体加工用シートとともに前記フィルム状接着剤を、その表面方向(表面に沿った方向、すなわち、フィルム状接着剤の表面に対して水平な方向)において拡張させる、所謂エキスパンドを低温下で行うことにより、前記フィルム状接着剤を前記半導体チップの外形にあわせて切断する工程で用いるのに好適である。回路が形成されている面(以下、「回路形成面」と略記することがある)とは反対側の面(裏面)に切断後の前記フィルム状接着剤を備えた半導体チップ(本明細書においては「フィルム状接着剤付き半導体チップ」と称することがある)は、ピックアップした後に、半導体装置の製造に使用される。
【0014】
本発明の半導体加工用シートは、上述のとおり、フィルム状接着剤をエキスパンドして切断する、所謂エキスパンドシートとして好適である。
また、本発明の半導体加工用シートは、これを単独でダイシングシートとして用いるのにも好適である。
【0015】
本発明の半導体加工用シートによれば、前記半導体加工用シート上に設けられたフィルム状接着剤のエキスパンドによる切断時において、フィルム状接着剤付き半導体チップの粘着剤層(換言すると半導体加工用シート)からの浮きや飛散を抑制でき、さらにフィルム状接着剤付き半導体チップを、工程異常を伴うことなく容易にピックアップできる。
【0016】
上述のような、フィルム状接着剤のエキスパンドによる切断は、例えば、厚さが薄い半導体チップを備えたフィルム状接着剤付き半導体チップを製造するときに、適用するのに好適である。
分割済みの複数個の半導体チップは、例えば、半導体ウエハにおける前記フィルム状接着剤の貼付面(裏面)とは反対側の回路形成面(表面)から溝を形成し、この溝に到達するまで前記裏面を研削することで作製できる。このように、半導体ウエハを分割することなく、溝の底部を残すように半導体ウエハを切り込む操作は、ハーフカットとよばれる。ただし、本発明において「ハーフカット」とは、溝の深さが、例えば、半導体ウエハの厚さの半分等、特定の値となるように半導体ウエハを切り込む操作だけを意味するものではなく、上記のように溝の底部を残すように半導体ウエハを切り込む操作全般を意味する。
【0017】
前記溝を形成する方法としては、例えば、ブレードを用いて半導体ウエハを切り込むことで溝を形成する方法(すなわち、ブレードダイシング)、レーザー照射により半導体ウエハを切り込むことで溝を形成する方法(すなわち、レーザーダイシング)、研磨剤を含む水の吹き付けにより半導体ウエハを切り込むことで溝を形成する方法(すなわち、ウオーターダイシング)等が挙げられる。しかし、これらのように、半導体ウエハの一部を削り取ることによって半導体チップを製造する場合には、半導体ウエハの厚さが薄いと、割れた半導体チップが得られ易く、歩留まりが低下し易い。また、半導体チップにひげ状の削り残りが残存したり、半導体ウエハの削りくずが半導体チップに付着したりすることで、フィルム状接着剤付き半導体チップのピックアップに異常が生じたり、得られた半導体装置の性能が低下したりする。
【0018】
一方、分割済みの複数個の半導体チップは、半導体ウエハの内部に設定された焦点に集束されるように、赤外域のレーザー光を照射して、半導体ウエハの内部に改質層を形成した後、半導体ウエハの前記裏面を研削するとともに、さらに、前記裏面を研削中の半導体ウエハに対して、研削時の力を加えることによって、前記改質層の形成部位において半導体ウエハを分割することでも作製できる。この方法では、半導体ウエハの一部を削り取る工程が存在しないため、半導体ウエハの厚さが薄くても、上述のような半導体チップの割れ、半導体チップでの削り残りの残存、半導体ウエハへの削りくずの付着等が抑制される。
このように、改質層の形成部位で半導体ウエハを分割する方法は、半導体ウエハの厚さが薄い場合に好適であり、このような半導体ウエハから得られた厚さが薄い半導体チップを、フィルム状接着剤とともにピックアップする際に、本発明の半導体加工用シートは好適である。
【0019】
<基材>
前記基材の構成材料は、各種樹脂であることが好ましく、具体的には、例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン(LDPEと略すことがある)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPEと略すことがある)、高密度ポリエチレン(HDPEと略すことがある)等)、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロック共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリウレタンアクリレート、ポリイミド、エチレン酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、フッ素樹脂、これらのいずれかの樹脂の水添加物、変性物、架橋物又は共重合物等が挙げられる。
上記のなかでも、低密度ポリエチレン(LDPE)が好ましい。
【0020】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を包含する概念とする。(メタ)アクリル酸と類似の用語につても同様であり、例えば、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリロイル基」とは、「アクリロイル基」及び「メタクリロイル基」の両方を包含する概念である。
【0021】
基材を構成する樹脂は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0022】
基材は1層(単層)からなるものでもよいし、2層以上の複数層からなるものでもよい。基材が複数層からなる場合、これら複数層は互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。
なお、本明細書においては、基材の場合に限らず、「複数層が互いに同一でも異なっていてもよい」とは、「すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよく、一部の層のみが同一であってもよい」ことを意味し、さらに「複数層が互いに異なる」とは、「各層の構成材料及び厚さの少なくとも一方が互いに異なる」ことを意味する。
【0023】
基材の厚さは、目的に応じて適宜選択できるが、50〜300μmであることが好ましく、70〜150μmであることがより好ましい。
ここで、「基材の厚さ」とは、基材全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる基材の厚さとは、基材を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
なお、本明細書において「厚さ」とは、任意の5箇所で、接触式厚み計で厚さを測定した平均で表される値を意味する。
【0024】
基材は、その上に設けられる粘着剤層等の他の層との密着性を向上させるために、サンドブラスト処理、溶剤処理等による凹凸化処理や、コロナ放電処理、電子線照射処理、プラズマ処理、オゾン・紫外線照射処理、火炎処理、クロム酸処理、熱風処理等の酸化処理等が表面に施されたものであってもよい。
また、基材は、表面がプライマー処理を施されたものであってもよい。
また、基材は、帯電防止コート層、半導体加工用シートを重ね合わせて保存する際に、基材が他のシートに接着することや、基材が吸着テーブルに接着することを防止する層等を有するものであってもよい。
【0025】
<粘着剤層>
前記粘着剤層は、以下に示す貯蔵弾性率の条件を満たし、非エネルギー線硬化性であることが好ましい。
本発明において、「非エネルギー線硬化性」とは、エネルギー線を照射しても硬化しない性質を意味する。これとは逆にエネルギー線を照射することにより硬化する性質を「エネルギー線硬化性」と称する。
本発明において、「エネルギー線」とは、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを意味し、その例として、紫外線、電子線等が挙げられる。
紫外線は、例えば、紫外線源として高圧水銀ランプ、ヒュージョンHランプ、キセノンランプ又は発光ダイオード等を用いることで照射できる。電子線は、電子線加速器等によって発生させたものを照射できる。
【0026】
粘着剤層は1層(単層)のみでもよいし、2層以上の複数層でもよく、複数層である場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0027】
粘着剤層の厚さは、目的に応じて適宜選択できるが、1〜100μmであることが好ましく、1〜60μmであることがより好ましく、1〜30μmであることが特に好ましい。
ここで、「粘着剤層の厚さ」とは、粘着剤層全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる粘着剤層の厚さとは、粘着剤層を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0028】
前記貯蔵弾性率を求める対象の粘着剤層は、厚さが200μmである単層の粘着剤層であってもよいし、厚さが200μm未満である粘着剤層を、合計の厚さが200μmとなるように2層以上積層して得られた積層体であってもよい。
なお、本明細書においては、貯蔵弾性率を求める対象の粘着剤層が、単層の粘着剤層、及び前記積層体のいずれであっても、単に「粘着剤層」と記載することがある。
また、本明細書において、上述の「粘着剤層の貯蔵弾性率」、「積層体の貯蔵弾性率」とは、特に断りのない限り、粘着剤層が硬化性である場合には、それぞれ「硬化する前の粘着剤層の貯蔵弾性率」、「粘着剤層が硬化する前の積層体の貯蔵弾性率」を意味する。
【0029】
前記粘着剤層又は積層体の0℃における貯蔵弾性率は、1000MPa以下であり、996MPa以下であることが好ましい。前記貯蔵弾性率が前記上限値以下であることで、後述するように、フィルム状接着剤のエキスパンドによる切断時において、フィルム状接着剤付き半導体チップの粘着剤層からの浮きや飛散が抑制される。
前記粘着剤層又は積層体の0℃における貯蔵弾性率の下限値は、特に限定されず、例えば、100MPa、300MPa、500MPaのいずれかとすることができるが、これらは一例である。
すなわち、1つの側面として、前記粘着剤層又は積層体の0℃における貯蔵弾性率は、100MPa〜1000MPaであり、300MPa〜1000MPaが好ましく、500MPa〜996MPaがより好ましく、533MPa〜994MPaが特に好ましい。
【0030】
本発明において、前記貯蔵弾性率(MPa)は、測定対象の前記粘着剤層又は積層体を、昇温速度10℃/min、周波数11Hzの条件で、例えば、−50℃から50℃まで等、特定の温度範囲で昇温させたときの貯蔵弾性率(MPa)を測定することで求められる。
より具体的には、粘着剤層の厚さを200μmとしたとき、動的粘弾性測定装置により、昇温速度10℃/min、周波数11Hz、温度−50〜50℃の条件で昇温させたときの、0℃における貯蔵弾性率(MPa)を測定することで求められる。
【0031】
前記貯蔵弾性率は、例えば、粘着剤層の含有成分の種類及び量等を調節することで、適宜調節できる。
例えば、後述する粘着性樹脂を構成しているモノマーの比率、架橋剤の配合量、充填剤の含有量等を調節することで、前記粘着剤層の貯蔵弾性率及び前記積層体の貯蔵弾性率を容易に調節できる。
ただし、これら調節方法は一例に過ぎない。
【0032】
本発明の半導体加工用シートにおける前記粘着剤層の半導体ウエハに対する粘着力(半導体ウエハのミラー面に対する粘着力)は、200mN/25mm以下であり、196mN/25mm以下であることが好ましい。前記粘着力が前記上限値以下であることで、後述するように、エネルギー線照射等による粘着剤層の硬化を行わなくても、フィルム状接着剤付き半導体チップを容易にピックアップできる。
前記粘着剤層の半導体ウエハに対する粘着力の下限値は、特に限定されず、例えば、10mN/25mm、30mN/25mm、50mN/25mmのいずれかとすることができるが、これらは一例である。
すなわち、1つの側面として、本発明の半導体加工用シートにおける前記粘着剤層の半導体ウエハに対する粘着力は、10〜200mN/25mmであり、30〜200mN/25mmが好ましく、50〜196mN/25mmがより好ましく、55〜194mN/25mmが特に好ましい。
【0033】
なお、本明細書において、「粘着剤層の半導体ウエハに対する粘着力」とは、特に断りのない限り、粘着剤層が硬化性である場合には、「硬化前の粘着剤層の半導体ウエハに対する粘着力」を意味する。また、前記粘着力の測定は、特に断りのない限り、JIS Z0237 2008で規定されている標準状態での粘着力の測定である。
【0034】
本発明において、前記粘着力(mN/25mm)は、以下の方法で測定できる。すなわち、幅が25mmで長さが任意の前記半導体加工用シートを作製する。次いで、常温下(例えば、23℃)で粘着剤層によって、この半導体加工用シートを半導体ウエハ(すなわち、半導体ウエハのミラー面)へ貼付する。そして、この温度のまま、半導体ウエハから半導体加工用シートを、粘着剤層及び半導体ウエハの互いに接触していた面同士が180°の角度を為すように、剥離速度300mm/minで引き剥がす、いわゆる180°剥離を行う。このときの剥離力を測定して、その測定値を前記粘着力(mN/25mm)とする。測定に供する前記半導体加工用シートの長さは、剥離力を安定して測定できる範囲であれば、特に限定されない。例えば、測定に供する前記半導体加工用シートの長さは150mmであってもよい。
半導体ウエハとしては、例えばシリコンウエハ等が挙げられる。
【0035】
前記粘着剤層の半導体ウエハに対する粘着力は、例えば、粘着剤層の含有成分の種類及び量等を調節することで、適宜調節できる。
例えば、後述する粘着性樹脂を構成しているモノマーの組み合わせ、前記モノマーの比率、架橋剤の配合量、充填剤の含有量等を調節することで、粘着剤層の前記接着力を容易に調節できる。
ただし、これら調節方法は一例に過ぎない。
【0036】
シリコンウエハ等の半導体ウエハは、その種類が異なっていたり、同じ種類で製造ロットが異なっていたりしても、その同じ部位に、同じ粘着剤層を貼付した場合であれば、粘着剤層との粘着力のばらつきが小さい。そのため、粘着剤層の粘着力は、その測定対象物として半導体ウエハを選択することで、高精度に特定できる。本発明においては、粘着剤層として、その半導体ウエハのミラー面に対する粘着力が200mN/25mm以下であるものを選択することにより、フィルム状接着剤付き半導体チップを粘着剤層から引き離してピックアップするときに、工程異常の発生を抑制して容易にピックアップできるように、粘着剤層のフィルム状接着剤に対する粘着力を調節できる。このような本発明の効果は、この分野で使用されるフィルム状接着剤全般に対して発現する。
【0037】
前記粘着剤層は、粘着剤を含有する粘着剤組成物から形成できる。例えば、粘着剤層の形成対象面に粘着剤組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、目的とする部位に粘着剤層を形成できる。粘着剤層のより具体的な形成方法は、他の層の形成方法とともに、後ほど詳細に説明する。粘着剤組成物中の、常温で気化しない成分同士の含有量の比率は、通常、粘着剤層の前記成分同士の含有量の比率と同じとなる。
【0038】
粘着剤組成物の塗工は、公知の方法で行えばよく、例えば、エアーナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ロールナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ナイフコーター、スクリーンコーター、マイヤーバーコーター、キスコーター等の各種コーターを用いる方法が挙げられる。
【0039】
粘着剤組成物の乾燥条件は、特に限定されないが、粘着剤組成物は、後述する溶媒を含有している場合、加熱乾燥させることが好ましく、この場合、例えば、70〜130℃で10秒間〜5分間の条件で乾燥させることが好ましい。
【0040】
[粘着剤組成物]
前記粘着剤組成物は、非エネルギー線硬化性であるものが好ましい。
非エネルギー線硬化性の粘着剤組成物としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルエーテル、又はポリカーボネート等の粘着性樹脂(以下、「粘着性樹脂(i)」と称する)を含有するものが挙げられる。
【0041】
(粘着性樹脂(i))
前記粘着性樹脂(i)は、前記アクリル系樹脂であることが好ましい。
粘着性樹脂(i)における前記アクリル系樹脂としては、例えば、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を有するアクリル系重合体が挙げられる。
前記アクリル系樹脂が有する構成単位は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
ここで、「由来」とは、重合するために、化学構造が変化することを意味する。
【0042】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アルキルエステルを構成するアルキル基の炭素数が1〜20であるのものが挙げられ、前記アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、より具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル((メタ)アクリル酸ラウリルともいう)、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル((メタ)アクリル酸ミリスチルともいう)、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル((メタ)アクリル酸パルミチルともいう)、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル((メタ)アクリル酸ステアリルともいう)、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸イコシル等が挙げられる。
上記のなかでも、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。
【0043】
粘着剤層の粘着力が向上する点では、前記アクリル系重合体は、前記アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を有することが好ましい。そして、粘着剤層の粘着力がより向上する点から、前記アルキル基の炭素数は、4〜12であることが好ましく、4〜8であることがより好ましい。また、前記アルキル基の炭素数が4以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。
【0044】
前記アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位以外に、さらに、官能基含有モノマー由来の構成単位を有することが好ましい。
前記官能基含有モノマーとしては、例えば、前記官能基が後述する架橋剤と反応することで架橋の起点となったり、前記官能基が不飽和基含有化合物中の不飽和基と反応することで、アクリル系重合体の側鎖に不飽和基の導入を可能とするものが挙げられる。
【0045】
官能基含有モノマー中の前記官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。
すなわち、官能基含有モノマーとしては、例えば、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー等が挙げられる。
【0046】
前記水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;ビニルアルコール、アリルアルコール等の非(メタ)アクリル系不飽和アルコール((メタ)アクリロイル骨格を有しない不飽和アルコール)等が挙げられる。
上記のなかでも、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等が好ましい。
【0047】
前記カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸(エチレン性不飽和結合を有するモノカルボン酸);フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸(エチレン性不飽和結合を有するジカルボン酸);前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物;2−カルボキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸カルボキシアルキルエステル等が挙げられる。
【0048】
官能基含有モノマーは、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマーが好ましく、水酸基含有モノマーがより好ましい。
【0049】
前記アクリル系重合体を構成する官能基含有モノマーは、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0050】
前記アクリル系重合体において、官能基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、前記アクリル系重合体を構成する構成単位の全量(総質量)に対して、1〜35質量%であることが好ましく、3〜32質量%であることがより好ましく、5〜30質量%であることが特に好ましい。
【0051】
前記アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位、及び官能基含有モノマー由来の構成単位以外に、さらに、他のモノマー由来の構成単位を有していてもよい。
前記他のモノマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等と共重合可能なものであれば特に限定されない。
前記他のモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド等が挙げられる。
【0052】
前記アクリル系重合体を構成する前記他のモノマーは、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0053】
前記アクリル系重合体以外の粘着性樹脂(i)も、前記アクリル系重合体と同様に、官能基含有モノマー由来の構成単位を有することが好ましい。
【0054】
粘着剤組成物が含有する粘着性樹脂(i)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0055】
粘着性樹脂(i)の含有量は、粘着剤組成物を構成する溶媒以外の成分の総質量に対して(すなわち、粘着剤層の総質量に対して)、45〜90質量%であることが好ましく、55〜87質量%であることがより好ましく、65〜84質量%であることがよりさらに好ましく、72〜81質量%であることが特に好ましい。粘着性樹脂(i)の含有量の前記割合がこのような範囲であることで、粘着剤層の粘着性がより良好となる。
【0056】
(架橋剤(ii))
粘着剤組成物は、架橋剤(ii)を含有することが好ましい。
架橋剤(ii)は、例えば、前記官能基と反応して、粘着性樹脂(i)同士を架橋するものである。
架橋剤(ii)としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、これらジイソシアネートのアダクト体等のイソシアネート系架橋剤(すなわち、イソシアネート基を有する架橋剤);エチレングリコールグリシジルエーテル等のエポキシ系架橋剤(すなわち、グリシジル基を有する架橋剤);ヘキサ[1−(2−メチル)−アジリジニル]トリフオスファトリアジン等のアジリジン系架橋剤(すなわち、アジリジニル基を有する架橋剤);アルミニウムキレート等の金属キレート系架橋剤(すなわち、金属キレート構造を有する架橋剤);イソシアヌレート系架橋剤(すなわち、イソシアヌル酸骨格を有する架橋剤)等が挙げられる。
粘着剤の凝集力を向上させて粘着剤層の粘着力を向上させる点、及び入手が容易である等の点から、架橋剤(ii)はイソシアネート系架橋剤であることが好ましく、例えば、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート三量体付加物等が挙げられる。
【0057】
粘着剤組成物が含有する架橋剤(ii)は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0058】
粘着剤組成物が架橋剤(ii)を含有する場合、粘着剤組成物において、架橋剤(ii)の含有量は、粘着性樹脂(i)の含有量100質量部に対して、5〜50質量部であることが好ましく、10〜45質量部であることがより好ましく、15〜40質量部であることが特に好ましい。また、別の側面として、架橋剤(ii)の含有量は、粘着性樹脂(i)の含有量100質量部に対して、22〜38質量部であってもよく、22.62〜37.70質量部であってもよい。架橋剤(ii)の前記含有量が前記下限値以上であることで、架橋剤(ii)を用いたことによる効果がより顕著に得られる。また、架橋剤(ii)の前記含有量が前記上限値以下であることで、粘着剤層のフィルム状接着剤に対する粘着力の調節がより容易となる。
【0059】
(その他の添加剤)
粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内において、上述のいずれの成分にも該当しない、その他の添加剤を含有していてもよい。
前記その他の添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、充填材(フィラー)、防錆剤、着色剤(顔料、染料)、増感剤、粘着付与剤、反応遅延剤、架橋促進剤(触媒)等の公知の添加剤が挙げられる。
なお、「反応遅延剤」とは、例えば、粘着剤組成物中に混入している触媒の作用によって、保存中の粘着剤組成物において、目的としない架橋反応が進行するのを抑制するものである。反応遅延剤としては、例えば、触媒に対するキレートによってキレート錯体を形成する化合物が挙げられ、より具体的には、1分子中にカルボニル基(−C(=O)−)を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0060】
粘着剤組成物が含有するその他の添加剤は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0061】
粘着剤組成物において、その他の添加剤の含有量は特に限定されず、その種類に応じて適宜選択すればよい。
【0062】
(溶媒)
粘着剤組成物は、溶媒を含有していてもよい。粘着剤組成物は、溶媒を含有していることで、塗工対象面への塗工適性が向上する。
【0063】
前記溶媒は有機溶媒であることが好ましい。前記有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン;酢酸エチル等のエステル(例えば、カルボン酸エステル);テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;シクロヘキサン、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール等が挙げられる。
【0064】
前記溶媒としては、例えば、粘着性樹脂(i)の製造時に用いた溶媒を粘着性樹脂(i)から取り除かずに、そのまま粘着剤組成物において用いてもよいし、粘着性樹脂(i)の製造時に用いた溶媒と同一又は異なる種類の溶媒を、粘着剤組成物の製造時に別途添加してもよい。
【0065】
粘着剤組成物が含有する溶媒は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0066】
粘着剤組成物において、溶媒の含有量は特に限定されず、適宜調節すればよい。
【0067】
[粘着剤組成物の製造方法]
粘着剤組成物は、これを構成するための各成分を配合することで得られる。
各成分の配合時における添加順序は特に限定されず、2種以上の成分を同時に添加してもよい。
溶媒を用いる場合には、溶媒を溶媒以外のいずれかの配合成分と混合してこの配合成分を予め希釈しておいてもよいし、溶媒以外のいずれかの配合成分を予め希釈しておくことなく、溶媒をこれら配合成分と混合してもよい。
【0068】
配合時に各成分を混合する方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサーを用いて混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
各成分の添加及び混合時の温度並びに時間は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されず、適宜調節すればよいが、温度は15〜30℃であることが好ましい。
図1は、本発明の半導体加工用シートの一実施形態を模式的に示す断面図である。なお、以下の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0069】
図1に示す半導体加工用シート1は、基材11上に粘着剤層12が設けられてなるシートである。半導体加工用シート1において、粘着剤層12は基材11の一方の表面11aに積層されている。
【0070】
なお、本発明の半導体加工用シートは、
図1に示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、
図1に示すものにおいて一部の構成が変更、削除又は追加されたものであってもよい。
【0071】
<<半導体加工用シートの製造方法>>
本発明の半導体加工用シートは、基材上に粘着剤層を積層することで製造できる。粘着剤層の形成方法は、先に説明したとおりである。
例えば、剥離フィルム上に粘着剤組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させることで、剥離フィルム上に粘着剤層をあらかじめ形成しておき、この形成された粘着剤層における前記剥離フィルムと接触している側とは反対側の露出面を、基材の一方の表面と貼り合わせることで、前記半導体加工用シートが得られる。剥離フィルムは、半導体加工用シートが得られた後、任意のタイミングで取り除けばよい。粘着剤組成物は、剥離フィルムの剥離処理面に塗工することが好ましい。
【0072】
なお、半導体加工用シートは、通常、その基材とは反対側の最表層(すなわち粘着剤層)の表面に剥離フィルムが貼り合わされた状態で保管される。したがって、上述の方法で剥離フィルム上に粘着剤層を形成した後は、この粘着剤層を基材と貼り合わせた後も、剥離フィルムを取り除かずに貼り合わせた状態のままとしてもよい。
【0073】
<<半導体装置の製造方法>>
本発明の半導体加工用シートを用いた場合の半導体装置の製造方法としては、例えば、前記半導体加工用シートにおける粘着剤層の表面にフィルム状接着剤が設けられ、前記フィルム状接着剤における前記粘着剤層が設けられている側とは反対側の表面に、分割済みの複数個の半導体チップが設けられた積層構造体を形成する工程(以下、「積層構造体形成工程」と略記することがある)と、前記積層構造体における前記フィルム状接着剤を冷却しながら、前記フィルム状接着剤の表面方向にエキスパンドすることによって、前記フィルム状接着剤を切断する工程(以下、「切断工程」と略記することがある)と、切断後の前記フィルム状接着剤を備えた前記半導体チップ(すなわちフィルム状接着剤付き半導体チップ)を、前記粘着剤層からピックアップする(引き離す)工程(以下、「引き離し工程」と略記することがある)と、を含む製造方法が挙げられる。
【0074】
本発明の半導体加工用シートを用いることで、前記切断工程においては、半導体加工用シートのエキスパンド、換言すると前記フィルム状接着剤のエキスパンドによる、前記フィルム状接着剤の切断時に、前記フィルム状接着剤付き半導体チップの粘着剤層からの浮きや飛散が抑制される。また、前記引き離し工程においては、エネルギー線照射等による前記粘着剤層の硬化を行わなくても、前記フィルム状接着剤付き半導体チップを容易に粘着剤層から引き離してピックアップできる。このように、本発明の半導体加工用シートを用いた場合には、前記粘着剤層の硬化を行わずに、前記フィルム状接着剤付き半導体チップをピックアップできるため、半導体装置の製造工程を簡略化できる。
【0075】
以下、
図2を参照しながら、前記製造方法について説明する。
図2は、本発明の半導体加工用シートを用いた場合の半導体装置の製造方法の一実施形態を模式的に説明するための断面図である。ここでは、
図1に示す半導体加工用シートを用いた場合の製造方法について説明する。なお、
図2において、
図1に示すものと同じ構成要素には、
図1の場合と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。また、
図2では、半導体加工用シート、フィルム状接着剤及び半導体チップに関わる構成のみ、断面表示している。これらは、
図3以降の図においても同様である。
【0076】
<積層構造体形成工程>
図2(a)に示す積層構造体101は、半導体加工用シート1の粘着剤層12の表面12a(粘着剤層12における基材を備えている側とは反対側の面)にフィルム状接着剤9が設けられ、フィルム状接着剤9における粘着剤層12を備えている側とは反対側の表面9aに、分割済みの複数個の半導体チップ8が設けられた積層構造体である。なお、半導体加工用シート1は、基材11の表面11aに粘着剤層12が積層されてなる、本発明の半導体加工用シートである。
図2では、複数個の半導体チップ8同士の間の空隙部(前記溝に由来するもの)を強調表示している。
【0077】
前記積層構造体形成工程においては、例えば、分割済みの複数個の半導体チップ8の裏面8b(半導体チップ8における回路形成面とは反対側の面)に、1枚のフィルム状接着剤9を貼付した後、このフィルム状接着剤9における半導体チップ8を備えている側とは反対側の表面9bに、本発明の半導体加工用シート1における粘着剤層12を貼付することで、積層構造体101を形成できる。また、本発明の半導体加工用シート1における粘着剤層12の表面12aに1枚のフィルム状接着剤9を貼付した後、このフィルム状接着剤9における粘着剤層12を備えている側とは反対側の表面9aを、分割済みの複数個の半導体チップ8の裏面8bに貼付することでも、前記積層構造体を形成できる。
【0078】
分割済みの複数個の半導体チップ8は、上述のように、半導体ウエハにおけるフィルム状接着剤9の貼付面(裏面)とは反対側の回路形成面(表面)から溝を形成し、この溝に到達するまで前記裏面を研削することで作製できる。そして、前記溝は、ブレードダイシング、レーザーダイシング、ウオーターダイシング等の方法で形成できる。
【0079】
図3は、このような半導体ウエハに溝を形成して半導体チップを得る方法の一実施形態を模式的に説明するための断面図である。
この方法では、
図3(a)に示すように、半導体ウエハ8’に、その回路形成面である一方の表面8a’からブレードダイシング、レーザーダイシング、ウオーターダイシング等の方法で溝80’を形成する。
次いで、
図3(b)に示すように、半導体ウエハ8’の前記表面(回路形成面)8a’とは反対側の面(裏面)8b’を研削する。前記裏面8b’の研削は、公知の方法により、例えば、グラインダー62を用いて行うことができる。前記裏面8b’の研削は、ここに示すように、半導体ウエハ8’の前記表面8a’にバックグラインドテープ63を貼付して行うことが好ましい。
そして、溝80’に到達するまで前記裏面8b’を研削することにより、
図3(c)に示すように、半導体ウエハ8’から複数個の半導体チップ8が得られる。半導体ウエハ8’の前記裏面8b’は、半導体チップ8の裏面8b、すなわち、フィルム状接着剤9を設けるための面となる。
【0080】
ただし、半導体装置の前記製造方法では、これらの半導体ウエハの一部を削り取る方法ではなく、先に説明したように、半導体ウエハの内部に改質層を形成し、この改質層の形成部位において半導体ウエハを分割する方法を採用することが好ましい。
【0081】
すなわち、半導体装置の前記製造方法においては、前記積層構造体形成工程の前に、さらに、半導体ウエハの内部に設定された焦点に集束するように、赤外域のレーザー光を照射して、前記半導体ウエハの内部に改質層を形成する工程(以下、「改質層形成工程」と略記することがある)と、前記改質層が形成された前記半導体ウエハにおいて、前記フィルム状接着剤を設けるための面を研削するとともに、研削時の力を前記半導体ウエハに加えることにより、前記改質層の部位において前記半導体ウエハを分割し、複数個の半導体チップを得る工程(以下、「分割工程」と略記することがある)と、を有し、前記分割工程で得られた複数個の半導体チップを、前記積層構造体形成工程で用いることが好ましい。
図4は、このような半導体ウエハに改質層を形成して半導体チップを得る方法の一実施形態を模式的に説明するための断面図である。
【0082】
<改質層形成工程>
この方法では、前記改質層形成工程において、
図4(a)に示すように、半導体ウエハ8’の内部に設定された焦点に集束されるように、赤外域のレーザー光を照射して、半導体ウエハ8’の内部に改質層81’を形成する。
改質層形成工程においては、例えば、レーザー光の照射によって半導体ウエハ8’の表面や表面近傍の領域が受けるダメージを最小限にしながら、改質層81’を形成するために、開口度(NA)の大きなレーザー光を照射することが好ましい。
【0083】
<分割工程>
次いで、前記分割工程においては、
図4(b)に示すように、半導体ウエハ8’の前記表面(回路形成面)8a’とは反対側の面(裏面)8b’を研削する。このときの研削は、先の
図3を引用して説明した、溝を形成した半導体ウエハの裏面の研削と同じ方法で行うことができる。例えば、このときの前記裏面8b’の研削は、半導体ウエハ8’の前記表面8a’にバックグラインドテープ63を貼付して行うことが好ましい。
【0084】
そして、半導体ウエハ8’の前記裏面8b’を研削するとともに、さらに、この研削中の半導体ウエハ8’に対して、研削時の力を加えることによって、改質層81’の形成部位において半導体ウエハ8’を分割することで、
図4(c)に示すように、半導体ウエハ8’から複数個の半導体チップ8が得られる。この場合も、
図3を引用して説明した場合と同様に、半導体ウエハ8’の前記裏面8b’は、半導体チップ8の裏面8b、すなわち、フィルム状接着剤9を設けるための面となる。
【0085】
上述のいずれの方法でも、バックグラインドテープ63を用いた場合、得られた複数個の半導体チップ8は、バックグラインドテープ63上で整列した状態で保持される。
【0086】
半導体チップ8の厚さは、特に限定されないが、5〜60μmであることが好ましく、10〜55μmであることがより好ましい。このような薄型の半導体チップを用いた場合に、本発明の半導体加工用シートを用いた場合の効果が、より顕著に得られる。
【0087】
上述の半導体装置の製造方法において、フィルム状接着剤9は、公知のものでよく、例えば、硬化性を有するものが挙げられ、熱硬化性を有するものが好ましく、感圧接着性を有するものが好ましい。熱硬化性及び感圧接着性をともに有するフィルム状接着剤9は、未硬化状態では各種被着体に軽く押圧することで貼付できる。また、フィルム状接着剤9は、加熱して軟化させることで各種被着体に貼付できるものであってもよい。フィルム状接着剤9は、硬化によって最終的には耐衝撃性が高い硬化物となり、この硬化物は、厳しい高温・高湿度条件下においても十分な接着特性を保持し得る。
【0088】
フィルム状接着剤9の厚さは、特に限定されないが、1〜50μmであることが好ましく、3〜40μmであることがより好ましい。フィルム状接着剤9の厚さが前記下限値以上であることにより、被着体(半導体チップ)に対してより高い接着力が得られる。また、フィルム状接着剤9の厚さが前記上限値以下であることにより、後述するエキスパンドによって、フィルム状接着剤9をより容易に切断できる。
【0089】
<切断工程>
前記切断工程においては、前記積層構造体形成工程後に、
図2(b)に示すように、積層構造体101のフィルム状接着剤9を冷却しながら、フィルム状接着剤9の表面9a方向(
図2(b)における矢印Iで示す方向、すなわち、フィルム状接着剤9の表面に対して水平方向)にフィルム状接着剤9をエキスパンドして、フィルム状接着剤9を切断する。フィルム状接着剤9は、基材11及び粘着剤層12(すなわち半導体加工用シート1)とともにエキスパンドすればよい。ここでは、切断後のフィルム状接着剤を、符号9’を付して示しているが、このような切断後のフィルム状接着剤9’を単に「フィルム状接着剤9’」と称することがある。また、フィルム状接着剤9のエキスパンドの方向を矢印Iで示している。
【0090】
前記切断工程における、フィルム状接着剤9の冷却温度は、特に限定されないが、フィルム状接着剤9をより容易に切断できる点から、−15〜3℃であることが好ましい。
【0091】
前記切断工程における、フィルム状接着剤9のエキスパンド速度(拡張速度)は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に限定されないが、0.5〜100mm/secであることが好ましく、0.5〜60mm/secであることがより好ましく、例えば、1〜50mm/sec等であってもよい。エキスパンド速度がこのような範囲内であることで、本発明の効果がより顕著に得られる。さらに、エキスパンド速度が前記上限値以下であることで、フィルム状接着剤9のエキスパンド時において、半導体チップ8がよりダメージを受け難くなる。
【0092】
前記切断工程においては、半導体加工用シート1を用いていることにより、切断後のフィルム状接着剤9’を裏面8bに備えた状態の半導体チップ8は、粘着剤層12からの浮きや飛散が抑制される。
【0093】
一方、
図5は、従来の半導体加工用シートを用いた場合の、フィルム状接着剤のエキスパンド時における半導体チップの状態を模式的に示す断面図である。
ここに示す粘着剤層72は従来から使用されているものであり、基材11上に粘着剤層72が設けられてなる半導体加工用シート7を用いた場合には、切断後のフィルム状接着剤9’を備えた半導体チップ8は、粘着剤層72からの浮きが発生したり、粘着剤層72から剥離して飛散したりすることがある。このようなフィルム状接着剤付き半導体チップの浮き及び飛散は、例えば、先に説明した厚さが200μmである粘着剤層の、0℃における貯蔵弾性率が1000MPa未満である場合に、典型的に見られる。
また、このようなフィルム状接着剤付き半導体チップの浮き及び飛散は、半導体チップ8の厚さが薄い場合に生じ易い。
【0094】
<引き離し工程>
前記引き離し工程においては、前記切断工程後に、
図2(c)に示すように、半導体チップ8とこれに貼付されている切断後のフィルム状接着剤9’を、半導体加工用シート1(粘着剤層12)から引き離して、ピックアップを行う。
【0095】
前記引き離し工程においては、半導体装置の製造装置の引き上げ部61によって、半導体チップ8を引き上げることにより、この半導体チップ8の裏面8bに貼付されている切断後のフィルム状接着剤9’を粘着剤層12から剥離させる。半導体チップ8を引き上げる方法は、公知の方法でよく、例えば、真空コレットにより半導体チップ8の表面を吸着して引き上げる方法等が挙げられる。ここでは、半導体チップ8の引き上げ方向を矢印IIで示している。
【0096】
前記引き離し工程においては、半導体加工用シート1を用いていることにより、エネルギー線照射等による粘着剤層12の硬化を行わなくても、半導体チップ8を切断後のフィルム状接着剤9’とともに(フィルム状接着剤付き半導体チップを)容易に粘着剤層12から引き離してピックアップできる。
【0097】
一方、
図6は、従来の半導体加工用シートを用いた場合の、フィルム状接着剤付き半導体チップのピックアップを試みたときの状態を模式的に示す断面図である。
そのうち、
図6(a)では、
図2(c)の場合と同様に半導体チップ8を引き上げたときに、切断後のフィルム状接着剤9’が半導体チップ8から剥離して、切断後のフィルム状接着剤9’は粘着剤層72に積層されたままとなっており、半導体チップ8のみが引き上げられた状態を示している。
一方、
図6(b)では、
図2(c)の場合と同様に半導体チップ8を引き上げようとしたときに、半導体チップ8が切断後のフィルム状接着剤9’を介して粘着剤層72に積層されており、半導体チップ8を引き上げることができなかった状態を示している。
図6(a)及び
図6(b)のような工程異常は、いずれも、粘着剤層72の半導体ウエハに対する粘着力が200mN/25mmを越えるような大きい値である場合に、典型的に見られる。そして、
図6(a)の状態は、フィルム状接着剤9’の半導体ウエハに対する粘着力が比較的小さい値である場合に生じ易く、
図6(b)の状態は、フィルム状接着剤9’の半導体ウエハに対する粘着力が比較的大きい値である場合に生じ易い。
【0098】
半導体装置の前記製造方法においては、切断後のフィルム状接着剤9’と共に引き離された(ピックアップされた)半導体チップ8(フィルム状接着剤付き半導体チップ)を用いて、以降は従来法と同様の方法で、半導体装置を製造する。例えば、前記半導体チップ8を基板の回路面にフィルム状接着剤9’によってダイボンディングし、必要に応じて、この半導体チップ8にさらに半導体チップを1個以上積層して、ワイヤボンディングを行った後、全体を樹脂により封止することで、半導体パッケージとする(図示略)。そして、この半導体パッケージを用いて、目的とする半導体装置を作製すればよい。
【0099】
本発明の半導体加工用シートを用いた半導体装置の製造方法は、
図2を引用して説明した上述の方法に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、上述の方法において一部の構成が変更、削除又は追加されたものであってもよい。
【0100】
なお、
図5〜
図6を参照して説明した工程異常は一例であって、場合によっては、他の工程異常が発生することもある。
これに対して、本発明の半導体加工用シートを用いた場合には、このような工程異常の発生が抑制され、その結果、従来よりも簡略化された方法で安価に半導体装置を製造できる。
【0101】
本発明の1実施形態である半導体加工用シートの1つの側面としては、
基材上に粘着剤層を備える半導体加工用シートであって、
前記粘着剤層は、粘着性樹脂(i)及び架橋剤(ii)を含む粘着剤組成物から形成されており;
前記粘着性樹脂(i)は、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を有するアクリル系重合体、好ましくは、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル由来の構成単位、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル由来の構成単位からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位を有するアクリル系重合体であり;
前記架橋剤(ii)は、イソシアネート系架橋剤、好ましくはトリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート三量体付加物であり;
前記粘着性樹脂(i)の含有量は、前記粘着剤層の総質量に対して、45〜90質量%、好ましくは55〜87質量%、より好ましくは65〜84質量%、特に好ましくは72〜81質量%であり;
前記架橋剤(ii)の含有量は、前記粘着性樹脂(i)の含有量100質量部に対して、5〜50質量部、好ましくは10〜45質量部、より好ましくは15〜40質量部、特に好ましくは22〜38質量部であり;
前記粘着剤層の厚さを200μmとしたとき、前記厚さ200μmの粘着剤層の0℃における貯蔵弾性率が100MPa〜1000MPa、好ましくは300MPa〜1000MPa、より好ましくは500MPa〜996MPa、特に好ましくは533MPa〜994MPaであり;
前記半導体加工用シートを半導体ウエハのミラー面に貼付したとき、前記ミラー面に対する前記粘着剤層の粘着力が10〜200mN/25mm、好ましくは、30〜200mN/25mm、より好ましくは50〜196mN/25mm、特に好ましくは55〜194mN/25mmである、
半導体加工用シート、が挙げられる。
【0102】
本発明の1実施形態である半導体加工用シートの別の側面としては、
基材上に粘着剤層を備える半導体加工用シートであって、
前記粘着剤層は、粘着性樹脂(i)及び架橋剤(ii)を含む粘着剤組成物から形成されており;
前記粘着性樹脂(i)は、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル由来の構成単位からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位を有するアクリル系重合体であり;
前記架橋剤(ii)は、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート三量体付加物であり;
前記粘着性樹脂(i)の含有量は76〜81質量%であり;
前記架橋剤(ii)の含有量は、前記粘着性樹脂(i)の含有量100質量部に対して、22〜31質量部であり;
前記粘着剤層の厚さを200μmとしたとき、前記厚さ200μmの粘着剤層の0℃における貯蔵弾性率が533MPa〜873MPaであり;
前記半導体加工用シートを半導体ウエハのミラー面に貼付したとき、前記ミラー面に対する前記粘着剤層の粘着力が94〜194mN/25mmである、
半導体加工用シート、が挙げられる。
【0103】
本発明の1実施形態である半導体加工用シートの別の側面としては、
基材上に粘着剤層を備える半導体加工用シートであって、
前記粘着剤層は、粘着性樹脂(i)及び架橋剤(ii)を含む粘着剤組成物から形成されており;
前記粘着性樹脂(i)は、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル由来の構成単位及び(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル由来の構成単位からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位を有するアクリル系重合体であり;
前記架橋剤(ii)は、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート三量体付加物であり;
前記粘着性樹脂(i)の含有量は70〜75質量%であり;
前記架橋剤(ii)の含有量は、前記粘着性樹脂(i)の含有量100質量部に対して、35〜39質量部であり;
前記粘着剤層の厚さを200μmとしたとき、前記厚さ200μmの粘着剤層の0℃における貯蔵弾性率が500MPa〜994MPaであり;
前記半導体加工用シートを半導体ウエハのミラー面に貼付したとき、前記ミラー面に対する前記粘着剤層の粘着力が50〜60mN/25mmである、
半導体加工用シート、が挙げられる。
【実施例】
【0104】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
なお、以下において、時間の単位「msec」は「ミリ秒」を意味する。
【0105】
粘着剤組成物の製造に用いた成分を以下に示す。
・粘着性樹脂
粘着性樹脂(i)−1:アクリル酸−2−エチルヘキシル(以下、「2EHA」と略記する)(80質量部)、及びアクリル酸−2−ヒドロキシエチル(以下、「HEA」と略記する)(20質量部)を共重合してなるアクリル系重合体(重量平均分子量860000、ガラス転移温度−61℃)。
粘着性樹脂(i)−2:2EHA(80質量部)、及びアクリル酸−4−ヒドロキシブチル(以下、「4HBA」と略記する)(20質量部)を共重合してなるアクリル系重合体(重量平均分子量430000、ガラス転移温度−63℃)。
粘着性樹脂(i)−3:2EHA(60質量部)、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」と略記する)(30質量部)、及びHEA(10質量部)を共重合してなるアクリル系重合体(重量平均分子量430000、ガラス転移温度−31℃)。
粘着性樹脂(i)−4:アクリル酸ラウリル(以下、「LA」と略記する)(80質量部)、及びHEA(20質量部)を共重合してなるアクリル系重合体(重量平均分子量720000、ガラス転移温度−27℃)。
・架橋剤
架橋剤(ii)−1:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート三量体付加物(東ソー社製「コロネートL」)
・光重合開始剤
光重合開始剤(iii)−1:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製「イルガキュア(登録商標)184」
【0106】
[実施例1]
<半導体加工用シートの製造>
(粘着剤組成物の製造)
粘着性樹脂(i)−1(100質量部)に対して、架橋剤(ii)−1(30.16質量部)を加えて23℃で撹拌することで、非エネルギー線硬化性の粘着剤組成物を得た。
なお、ここに示す配合部数は、すべて固形分換算値である。
各配合成分及びその配合量を表1に示す。なお、表1中の配合成分の欄の「−」との記載は、その成分が未配合であることを意味する。
【0107】
(半導体加工用シートの製造)
ポリエチレンテレフタレート製フィルムの片面がシリコーン処理により剥離処理された剥離フィルム(リンテック社製「SP−PET381031」、厚さ38μm)の前記剥離処理面に、上記で得られた粘着剤組成物を塗工し、120℃で2分間加熱乾燥させることにより、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。
次いで、この粘着剤層の露出面に、基材として、厚さ110μmの低密度ポリエチレン(LDPE)製フィルムを貼り合せることにより、剥離フィルムを備えた半導体加工用シートを得た。
【0108】
<半導体加工用シートの評価>
(フィルム状接着剤付き半導体チップの浮き・飛散の抑制効果)
ダイシング装置(ディスコ社製「DFD6361」)を用い、8インチのシリコンウエハ(厚さ720μm)のミラー面に対して、10mm×10mmの大きさの正方形を描画するように、その表面から80μmの深さまでダイシングブレードにより切れ込みを入れて溝を形成するハーフカットダイシングを行った。このとき、ダイシングブレードとしてはディスコ社製「27HECC」を用い、このダイシングブレードの移動速度を50mm/sec、回転速度を40000rpmとした。
次いで、テープラミネーター(リンテック社製「RAD−3510」)を用いて、常温下(23℃)で、上記の溝を形成したシリコンウエハのミラー面に、バックグラインドテープ(リンテック社製「ADWILL E−3125KN」)をその粘着層により貼付した。
次いで、グラインダー(DISCO社製「DFG8760」)を用いて、シリコンウエハの上記の溝を形成したミラー面とは反対側の面を研削した。このとき、シリコンウエハの厚さが50μmとなるように研削を行い、同時にシリコンウエハを分割して、シリコンチップに個片化した。得られたシリコンチップは、互いに約30μmの間隔を空けて、バックグラインドテープ上で固定されていた。
次いで、得られたシリコンチップの前記研削面に、60℃に加熱したフィルム状接着剤(リンテック社製「ADWILL LE61−25*」、厚さ25μm)を貼付し、さらに、このフィルム状接着剤に、上記で得られた半導体加工用シートをその粘着剤層により常温下(23℃)で貼付し、積層物を得た。
次いで、得られた積層物を、その粘着剤層の露出面によりダイシング用リングフレームに貼付して固定し、シリコンチップからバックグラインドテープを剥離することにより、基材上に粘着剤層を備えてなる半導体加工用シートの前記粘着剤層に、未切断のフィルム状接着剤が積層され、このフィルム状接着剤上に、あらかじめ個片化されている複数個の半導体チップが整列して設けられてなる積層構造体の試験片を得た。
【0109】
エキスパンダー(ジェイシーエム社製「ME−300B」)のエキスパンドユニットに、上記で得られた試験片を設置し、0℃の環境下で、エキスパンド量(拡張量)10mm、エキスパンド速度(拡張速度)10mm/secの条件で、半導体加工用シート及びフィルム状接着剤をエキスパンドし、フィルム状接着剤をシリコンチップの外形に沿って切断した。すなわち、ここでは、上記で得られた半導体加工用シートをエキスパンドシートとして用いた。
次いで、目視により、切断済みのフィルム状接着剤を備えたシリコンチップ(フィルム状接着剤付き半導体チップ)について、粘着剤層からの浮きの有無、飛散の有無を確認し、これらの異常が全く認められなかった場合には、浮き・飛散の抑制効果を合格(A)と判定し、これらの異常が少しでも認められた場合には、浮き・飛散の抑制効果を不合格(B)と判定した。結果を表1中の「半導体チップの浮き・飛散の抑制」の欄に示す。
【0110】
(フィルム状接着剤付き半導体チップのピックアップ適性)
ピックアップ・ダイボンディング装置(キャノンマシナリー社製「BESTEM D02」)を用いて、上述の「フィルム状接着剤付き半導体チップの浮き・飛散の抑制効果」を評価した後の、異常が認められなかったフィルム状接着剤付き半導体チップについて、突き上げ量200μm、突き上げ速度20mm/sec、持ち上げ待ち時間300msecの条件で、1ピン突き上げ方式により、ピックアップを30回行った。そして、ピックアップが30回すべて成功した場合には、ピックアップ適性を合格(A)と判定し、ピックアップが1回以上失敗した場合には、ピックアップ適性を不合格(B)と判定した。結果を表1中の「ピックアップ適性」の欄に示す。
【0111】
(粘着剤層からなる積層体の貯蔵弾性率)
上記で得られた半導体加工用シートを用いて、基材を剥離した粘着剤層を、合計の厚さが200μmとなるように複数層積層した積層体を作製した。そして、動的粘弾性測定装置(TA instrument社製「DMA Q800」)を用いて、昇温速度10℃/min、周波数11Hz、温度−50〜50℃の条件で、この積層体の0℃における貯蔵弾性率(MPa)を測定した。結果を表1中の「貯蔵弾性率」の欄に示す。
【0112】
(粘着剤層の粘着力)
上記で得られた半導体加工用シートを25mm×150mmの大きさに切断し、その粘着剤層によりシリコンウエハのミラー面に常温(23℃)下で貼付した。そして、この温度条件のまま半導体加工用シートを、粘着剤層及びシリコンウエハの互いに接触していた面同士が180°の角度を為すように、剥離速度300mm/minで引き剥がす、いわゆる180°剥離を行い、このときの剥離力を測定して、その測定値を粘着力(mN/25mm)とした。結果を表1中の「粘着力」の欄に示す。
【0113】
[実施例2〜4、比較例1〜3]
<半導体加工用シートの製造及び評価>
粘着剤組成物製造時の配合成分及びその配合量を表1に示すとおりとした点以外は、実施例1と同じ方法で半導体加工用シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。
なお、比較例3における粘着剤層は、粘着剤組成物の含有成分からも明らかなように、エネルギー線(紫外線)硬化性であるが、上述の粘着剤層の形成から半導体加工用シートの評価までの間に、エネルギー線の照射による硬化は行っていない。
【0114】
【表1】
【0115】
上記結果から明らかなように、実施例1〜4では、0℃における前記積層体の貯蔵弾性率が994MPa以下であり、フィルム状接着剤のエキスパンドによる切断時において、フィルム状接着剤付き半導体チップの粘着剤層からの浮きと飛散が、完全に抑制されていた。また、粘着剤層の半導体ウエハに対する粘着力が194mN/25mm以下であり、エネルギー線照射等による硬化を行わなくても、フィルム状接着剤付き半導体チップのピックアップ適性に優れていた。
【0116】
これに対して、比較例1及び2では、0℃における前記積層体の貯蔵弾性率が1218MPa以上であり、フィルム状接着剤付き半導体チップの浮きと飛散が抑制されていなかった。
また、比較例3では、粘着剤層の半導体ウエハに対する粘着力が534mN/25mmと大きく、フィルム状接着剤付き半導体チップのピックアップ適性が不良であった。
【0117】
なお、ここでは、上述の浮き・飛散の抑制効果の評価時において、ダイシングブレードを用いて、シリコンウエハのハーフカットダイシングを行って得られたシリコンチップを用いている。ただし、このようなシリコンウエハに溝を形成する方法に代えて、例えば上述の、半導体ウエハ(シリコンウエハ)の内部に改質層を形成する方法を採用して得られたシリコンチップを用いても、同様の評価結果が得られる。これは、評価に用いる半導体チップに異常がなければ、半導体チップの製造方法(半導体ウエハの分割方法)は、上記の評価工程に影響を与えないためである。