(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記前ろ過工程の前のタンパク質含有液が、前記タンパク質の多量体であって、平均直径が100nm以上である粒子状物をさらに含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
前記前ろ過工程の前に、タンジェンシャルフローろ過装置を用いてろ過を行うタンジェンシャルフローろ過工程をさらに含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
前記プレフィルターでろ過されたタンパク質含有液の粘度が、前記プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液の粘度よりも低い、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
前記前ろ過工程をされる前のタンパク質含有液が、糖類及び塩基性アミノ酸からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む添加剤を含む、請求項1から23のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。ただし、図面は模式的なものであり、具体的な寸法等を正確に示したものではない。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0036】
本発明の実施の形態に係るタンパク質含有液のろ過方法は、20mg/mL以上100mg/mL以下の濃度でタンパク質を含有するタンパク質含有液のろ過方法であって、タンパク質含有液を、孔径が0.08μmから0.25μmであり、疎水性樹脂からなるプレフィルターでろ過する前ろ過工程と、前ろ過工程後に、タンパク質含有液を、合成高分子からなるウイルス除去膜でろ過するウイルス除去工程と、を含み、前ろ過工程をされる前のタンパク質含有液が、平均直径が100nm未満であるタンパク質の三量体以上の多量体を、ウイルス除去膜1m
2あたり0.25g以上含んでいる、方法である。ウイルス除去工程において、バクテリアも除去されてよい。
【0037】
タンパク質含有液が、平均直径が100nm未満であるタンパク質の三量体以上の多量体を、ウイルス除去膜1m
2あたり0.25g以上含むとは、以下の2つの要件を満たすことをいう。
(1)処理すべき液をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)等を用いて分画した際の三量体以上の多量体を、動的光散乱法(DLS)で測定したときの平均直径が100nm未満であること。
(2)処理すべき液をサイズ排除クロマトグラフィーチャートを用いて分画した際の三量体以上の多量体のピーク面積から算出される相対面積比と、ウイルス除去膜1m
2あたり処理すべき総液量と、総タンパク質濃度と、から下記(1)式を用いて算出される、処理すべき液に含まれる多量体の量が、0.25g以上であること。
(ウイルス除去膜1m
2あたり含まれる多量体量:g/m
2)
=(1m
2あたり処理すべき総液量:L/m
2)×(総タンパク質濃度:g/L)×
(クロマトチャートのピーク面積から算出される三量体以上の多量体の相対面積比:%)
/100 (1)
【0038】
一般に、多量体を多く含む分画における平均直径は正規分布を取るとみなすことができ、DLSで測定した平均直径が100nm未満である場合、その対象溶液に含まれる物質の50%以上が100nm未満の直径の粒子からなるとみなすことができる。したがって、(1)の要件を満たすタンパク質含有液に含まれる、タンパク質の三量体以上の多量体は、その大部分が100nm未満の平均直径を有する粒子からなるとみなすことができる。
【0039】
また、タンパク質含有液に含まれる平均直径が100nm未満である3量体以上の多量体の含有量は、例えばSECなどのサイズに応じて分画する手段と、例えばUV検出器のような分画した試料を定量可能な分析手段と、例えばDLSのようなサイズを分析できる手段と、を連結した分析系により、その含有量とサイズを求めることが可能である。例えば参考文献(Biotechnol.Prog.,2015,Vol.31,No.3)によると、SECと、UV検出器と、DLSと、を連結した装置を用いて、UV検出器単体では検出できないほど微量含有されている多量体の含有量を特定している。ただし、タンパク質含有液を濃縮する等して多量体の濃度を高濃度にすれば、UV検出器単体で多量体の定量も可能である。
【0040】
タンパク質とは、例えば、抗体タンパク質である。生理活性物質の一例である抗体タンパク質は、生化学における一般的な定義のとおり、脊椎動物の感染防禦機構としてBリンパ球が産生する糖タンパク質分子(ガンマグロブリン又は免疫グロブリンともいう)である。例えば、実施の形態で精製される抗体タンパク質は、ヒトの医薬品として使用され、投与対象であるヒトの体内にある抗体タンパク質と実質的に同一の構造を有する。
【0041】
抗体タンパク質は、ヒト抗体タンパク質であってもよく、ヒト以外のウシ及びマウス等の哺乳動物由来抗体タンパク質であってもよい。あるいは、抗体タンパク質は、ヒトIgGとのキメラ抗体タンパク質、及びヒト化抗体タンパク質であってもよい。ヒトIgGとのキメラ抗体タンパク質とは、可変領域がマウスなどのヒト以外の生物由来であるが、その他の定常領域がヒト由来の免疫グロブリンに置換された抗体タンパク質である。また、ヒト化抗体タンパク質とは、可変領域のうち、相補性決定領域(complementarity−determining region:CDR)がヒト以外の生物由来であるが、その他のフレームワーク領域(framework region:FR)がヒト由来である抗体タンパク質である。ヒト化抗体タンパク質は、キメラ抗体タンパク質よりも免疫原性がさらに低減される。
【0042】
抗体タンパク質のクラス(アイソタイプ)及びサブクラスは特に限定されない。例えば、抗体タンパク質は、定常領域の構造の違いにより、IgG,IgA,IgM,IgD,及びIgEの5種類のクラスに分類される。しかし、実施の形態に係るろ過方法が精製対象とする抗体タンパク質は、5種類のクラスの何れであってもよい。また、ヒト抗体タンパク質においては、IgGにはIgG1からIgG4の4つのサブクラスがあり、IgAにはIgA1とIgA2の2つのサブクラスがある。しかし、実施の形態に係るろ過方法が精製対象とする抗体タンパク質のサブクラスは、いずれであってもよい。なお、Fc領域にタンパク質を結合したFc融合タンパク質等の抗体関連タンパク質も、実施の形態に係るろ過方法が精製対象とする抗体タンパク質に含まれ得る。
【0043】
さらに、抗体タンパク質は、由来によっても分類することができる。しかし、実施の形態に係るろ過方法が精製対象とする抗体タンパク質は、天然のヒト抗体タンパク質、遺伝子組換え技術により製造された組換えヒト抗体タンパク質、モノクローナル抗体タンパク質、及びポリクローナル抗体タンパク質の何れであってもよい。これらの抗体タンパク質の中でも、実施の形態に係るろ過方法が精製対象とする抗体タンパク質としては、抗体医薬としての需要や重要性の観点から、ヒトIgG及びモノクローナル抗体が好適であるが、これに限定されない。
【0044】
プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液のタンパク質濃度は、20mg/mL以上、あるいは25mg/mL以上であり、100mg/mL以下、90mg/mL以下、80mg/mL以下、70mg/mL以下、60mg/mL以下、あるいは50mg/mL以下である。20mg/mL以上のタンパク質濃度のタンパク質含有液は、直径が100nm未満のタンパク質の多量体、及び直径が100nm以上の粒子状物が形成されやすい傾向にある。例えば、IgGの多量体は、病原体である抗原と結合しない状態で補体と結合し、補体を異常活性化するため、重篤な副作用を起こす場合がある。
【0045】
プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液は、タンパク質の多量体を含みうる。タンパク質の多量体は、タンパク質の単量体が複数凝集して形成される。タンパク質の多量体とは、例えば、タンパク質(それ自体は二量体等の会合体であってもよい)の二量体及び三量体である。本開示における「多量体」とは、特に三量体以上の多量体をいう。プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液は、含有するタンパク質の平均直径が100nm未満であり、三量体以上の多量体を、ウイルス除去膜1m
2あたり0.25g以上、0.35g以上、0.50g以上、あるいは0.75g以上含んでいる。三量体以上の多量体を0.25g以上含んでいると、後述のプレフィルターの効果が発揮されやすい。
【0046】
プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液は、ウイルスを含みうる。ウイルスは、例えば10nm以上30nm以下、あるいは18nm以上24nm以下の直径を有する。ウイルスは、例えば、パルボウイルスである。パルボウイルスは、約20nmの直径を有する。また、プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液は、細菌を含みうる。細菌は、例えば、レプトスピラ属、バシラス属、パエニバシラス属、ステノトロホモナス属、オクロバクテリウム属、及びシュードモナス属を含む。
【0047】
プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液の溶媒は、例えば水や緩衝液である。ここで、緩衝液とは塩類を含む水溶液であって、具体的には、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、及び酢酸緩衝液等が挙げられるが、通常利用される緩衝液であれば特に限定されるものではない。また、プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液は、添加剤として、例えば糖類及び塩基性アミノ酸等を含んでいてもよい。糖類及び塩基性アミノ酸等を添加することにより、多量体の形成を阻害し、ウイルス除去膜のろ過効率を向上させることができる。プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液の水素イオン指数(pH)は、例えば、4.0以上8.0以下、4.0以上7.5以下、あるいは4.0以上7.0以下である。また、プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液のイオン強度は、0mmol/L以上300mmol/L以下、10mmol/L以上280mmol/L以下、あるいは20mmol/L以上250mmol/L以下である。
【0048】
プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液は、例えば、限外ろ過(UF)及び透析ろ過(DF)のいずれか一方、又は両方がなされた溶液である。タンパク質含有液は、例えば、タンジェンシャルフロー(クロスフロー)再循環ろ過装置を用いて、限外ろ過及び透析ろ過のいずれか一方、又は両方がなされる。透析ろ過におけるダイア容量(diavolume)は、例えば4である。なお、ダイア容量は、透析ろ過を開始した時の保持液の容量に対する、回収されたろ液の容量の比である。プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液は、機械的に撹拌された溶液であってもよく、撹拌されながら限外ろ過及び透析ろ過のいずれか一方、又は両方がなされた溶液であってもよい。撹拌時間は、例えば、2時間以上、4時間以上、あるいは6時間以上である。
【0049】
タンパク質含有液を、限外ろ過及び透析ろ過の少なくとも一方でろ過すると、直径が100nm未満のタンパク質の多量体、及び直径が100nm以上の粒子状物が形成されやすい傾向にある。また、直径が100nm未満のタンパク質の多量体、及び直径が100nm以上の粒子状物は、機械的な撹拌によっても形成される場合がある。血漿分画製剤やバイオ医薬品等の精製工程においては、ウイルスに対する安全性を高めるためにウイルス除去膜によるろ過工程以外にウイルス不活化工程を組み入れることがある。この場合用いられる手法としては、例えば、加熱処理、低pH処理、及びSolvent/Detergent処理(以下S/D処理とも記載することがある)等がある。これらの不活化方法は、生物を化学的又は物理学的に不安定な状態にすることで、ウイルス粒子を形成する生体物質を破壊するが、同時に目的物であるタンパク質の変性又は凝集をも惹起してしまい、直径100nmを超える粒子状物を含む大量の多量体が生じる恐れがある。この粒子状物を含む多量体は、S/D処理の後、クロマトグラフィー工程等の複数の精製工程が続く場合には、ウイルス除去工程までに取り除かれている可能性が高いが、ウイルス除去工程に近い工程で行われる場合には、粒子状物を含むタンパク質溶液がウイルス除去膜に負荷される可能性がある。ウイルス除去工程に近いとは、ウイルス除去工程の上流1工程又は2工程以内にS/D処理工程が行われることをいう。変性したタンパク質は周囲にある未変性タンパク質を変性・凝集させてしまうことが知られている。タンパク質溶液が高濃度であるほど、変性タンパク質と未変性タンパク質の接触確率が高まるため、凝集が起きやすくなる。タンパク質溶液の濃度が30mg/mLを超えると、合成高分子製のウイルス除去膜は目詰まりによるろ過流束の低下が著しくなり、その上にごく微量でも多量体が存在すると、もはやろ過できない程度の流束低下が生じ得る。例えば、IgGの多量体は、病原体である抗原と結合しない状態で補体と結合し、補体を異常活性化するため、重篤な副作用を起こす場合がある。また、ウイルス除去膜は、タンパク質を実質的に阻止せず透過させる一方、ウイルスを部分的に阻止する孔径分布を有する層を多層重ねることによって、サイズの近いウイルスとタンパク質とを分離するといわれている(横木正信、「セルロース中空糸膜によるウイルス分離」、繊維と工業、55巻 (1999) 10号p.P338-P342)。しかし、もしウイルスとサイズが同等以上である粒子、たとえばタンパク質の多量体が存在すると、ウイルスが捕捉されるべき孔径に多量体が捕捉されてしまい、ウイルスがろ液に漏洩する確率が高まる可能性がある。
【0050】
タンパク質含有液をろ過するプレフィルターは、例えばシート状のフィルターである。プレフィルターの孔径は、0.08μm以上、あるいは0.10μm以上であり、0.25μm以下、あるいは0.20μm以下である。プレフィルターは、例えば、ポリアミド、ポリスルホン系、及びフッ素系樹脂等の疎水性樹脂からなる。理論に束縛されるものではないが、これらの疎水性樹脂は、タンパク質の多量体と疎水相互作用し、多量体を吸着すると推測される。タンパク質を吸着させる観点から、ポリアミド(PA)、ポリエーテルスルホン、又はポリフッ化ビニリデンが好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。プレフィルターの孔径が0.08μm以上であることにより、タンパク質含有液中のタンパク質単量体を高い透過率でろ過することができ、タンパク質の回収率が向上する。また、多量体よりもプレフィルターの孔径が大きいため、プレフィルターが多量体によって早期に目詰まりすることを防ぐことができる。さらに、プレフィルターが疎水性相互作用を有することにより、プレフィルターの孔径が多量体よりも大きくても、タンパク質含有液中のタンパク質の三量体以上の多量体が取り除かれ、その後のウイルス除去膜によるろ過効率及びウイルス除去性が向上する。粒子状物が溶液中に含まれると、その周囲にある多量体は、粒子状物に接触して粒子状物とともにプレフィルターで除去されることがあり、ウイルス除去膜のろ過流束及びウイルス除去性能が向上する場合がある。また、プレフィルターの孔径が0.25μm以下であることにより、比表面積が大きくなり、多量体との接触面積が増え、多量体の吸着面積が十分に確保できる。タンパク質含有液に含まれる多量体が多い場合は、これらのプレフィルターを2種類以上組み合わせてもよく、1種類を複数個連結してもよい。その場合、あらかじめ含有される多量体の量が分かっていて、かつ用いるプレフィルターの多量体除去容量が分かっていれば、プレフィルターの必要な合計面積を求めることが可能である。
【0051】
プレフィルターは、単層膜でもよいし、2層及び3層を含む多層膜でもよい。プレフィルターが多層膜である場合、各膜の孔径は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、3層の全ての膜の孔径が0.1μmであってもよい。
【0052】
プレフィルターは、使用される前に、蒸気によって滅菌されてもよい。タンパク質含有液をプレフィルターでろ過する際の圧力は、例えば25kPa(0.25bar)以下である。また、プレフィルターの滅菌は、定置滅菌で行ってもよい。定置滅菌すると、限外ろ過あるいは透析ろ過の精製工程後におけるバクテリア等のコンタミネーションを防止し、製剤の安全性を担保することが可能である。なお、定置滅菌とは、装置を分解せずに装置内部を殺菌することをいう。
【0053】
プレフィルターでろ過することによって、タンパク質含有液に含まれていた粒子状物及びタンパク質の三量体以上の多量体の一部が、サイズ排除と疎水性相互作用の両方により除去される。本開示におけるサイズ排除とは、フィルターの孔径よりも大きい粒子径の粒子状物が、フィルターに捕捉され、タンパク質含有液から除去されることをいう。三量体以上の多量体であって、直径100nm未満の多量体は、疎水性樹脂からなるプレフィルターでタンパク質含有液から除去される。タンパク質含有液に含まれている径が50nm以下のウイルスは、概ねプレフィルターを透過する。プレフィルターでろ過されたタンパク質含有液の粘度は、プレフィルターでろ過される前のタンパク質含有液の粘度よりも低くなる場合がある。
【0054】
プレフィルターによるタンパク質含有液のろ過は、限外ろ過(UF)、透析ろ過(DF)あるいはタンジェンシャルフロー(クロスフロー)ろ過の後に行われてもよい。
【0055】
図1に示すように、少なくともプレフィルターでろ過されたタンパク質含有液をろ過するウイルス除去膜10は、タンパク質を含有する溶液が供給される一次側の表面1と、当該ウイルス除去膜10を透過した透過液が排出される二次側の表面2と、を有する。
【0056】
ウイルス除去膜10は、その断面において、ウイルスが捕捉されるウイルス捕捉部位を有する。溶液が進入するろ過面(一次側の表面1)上の場所によらず、断面において、ウイルス捕捉部位におけるウイルス捕捉量が均一であることが好ましい。これは、ウイルス除去膜のウイルス捕捉量が、ろ過面上の場所によって不均一である場合、ろ過面上のある箇所に溶液が集中することとなり、部分的にその箇所へのウイルスの負荷量が増えることになるため、高圧条件下で大容量のろ過を行うと、その箇所からウイルスが漏れる可能性があるからである。また、ウイルス除去膜10が中空糸膜の形状を有する場合は、周回方向において、ウイルス捕捉部位におけるウイルス捕捉量が、
図2に示すように不均一でなく、
図3に示すように均一であることが好ましい。
【0057】
さらに、ウイルス除去膜10は、ウイルスを捕捉部位の厚みが、ウイルス捕捉部位内で均一であることが好ましい。また、ウイルス除去膜10が中空糸膜の形状を有する場合は、周回方向において、ウイルス捕捉部位の厚みが均一であることが好ましい。ウイルス捕捉部位の厚みが均一であれば、周回方向に均一に溶液が広がって、ウイルスが漏れる可能性が低下する。
【0058】
ここで、ウイルス除去膜10に捕捉されたウイルスを視覚的に検出することは、困難である場合がある。これに対し、金コロイドは、ウイルスと同程度の直径を有しながら光を透過させないことから、視覚的に検出することが容易である。そのため、例えば、金コロイドを含有する溶液をウイルス除去膜10でろ過した後、ウイルス除去膜10の断面における、ウイルス除去膜10が金コロイドを捕捉した金コロイド捕捉部位の相対的な輝度を測定することにより、ウイルス除去膜10の特性を評価することが可能である。
【0059】
ウイルス除去膜10について、一次側の表面1からウイルス除去膜10に直径20nmの金コロイドを含有する溶液を供給してウイルス除去膜10で金コロイドを捕捉し、ウイルス除去膜10の断面において輝度を測定するとき、輝度の変位のスペクトルの面積値の標準偏差を輝度の変位のスペクトルの面積値の平均値で除した値は、0.01以上1.50以下である。この値は、ウイルス除去膜10における金コロイドの捕捉量の変動係数を示しており、小さいほど、ウイルス除去膜10における金コロイド捕捉部位における金コロイドの捕捉量の均一性が高いことを示している。
【0060】
ウイルス除去膜10について、上記の変動係数を示す値は、0.01以上1.50以下、0.01以上1.20以下、あるいは0.01以上1.00以下、0.01以上0.90以下、あるいは0.01以上0.80以下である。変動係数について、0.01未満は測定限界である。また、変動係数が1.50より大きいと、膜の周回方向の少なくともある一箇所に溶液が集中しうるため、ウイルスが漏れる可能性がある。
【0061】
上記の変動係数が0.01以上1.50以下であれば、膜のウイルス捕捉部位(中空糸膜については周回方向)において、ウイルスが均一に捕捉されることとなり、ウイルス除去膜に負荷するウイルスの総量(ウイルスのタンパク質製剤に対するスパイク量、又は総ろ過量)が増加した場合においても、高いウイルス除去性能を保つことができる。
【0062】
上記の変動係数は、例えば以下の方法により測定される。金コロイド溶液をろ過した後のウイルス除去膜から切片を切り出し、切片の断面において金コロイドによって染まった部分の複数箇所の輝度プロファイルを、光学顕微鏡で測定する。金コロイドは光を吸収するため、輝度の変位は、金コロイドの捕捉量に依存する。なお、必要に応じて、輝度プロファイルからバックグランドノイズを除去してもよい。その後、横軸に膜厚、縦軸に輝度の変位を有するグラフを作成し、グラフに現れた輝度の変位のスペクトルの面積を算出する。さらに、複数箇所における輝度の変位のスペクトルの面積の標準偏差を、複数箇所における輝度の変位のスペクトルの面積の平均で除した値を、ウイルス除去膜10における金コロイド捕捉部位の金コロイドの捕捉量の変動係数を示す値として算出する。
【0063】
湿潤状態のウイルス除去膜10の断面において、直径20nm以上30nm以下の金コロイドを捕捉する部位(緻密層)の厚さは、10μm以上30μm以下、10μm以上29μm以下、10μm以上28μm以下、10μm以上20μm以下、11μm以上20μm以下、12μm以上20μm以下ある。直径20nm以上30nm以下の金コロイド捕捉部位の厚さが30μmより厚いことは、直径20nm以上30nm以下の金コロイドが通過できる孔径が大きい孔が多く存在していることを示しており、孔径分布が広くなっていることを示している。そのため、ろ過圧(流速)が低い場合や、圧開放を含むStop and start、Post−washの際にウイルスが漏れる可能性が高まる。一方、直径20nm以上30nm以下の金コロイド捕捉部位の厚さが10μmよりも薄いことは、直径20nm以上30nm以下の金コロイドが通過できる孔が少なく、孔径分布が狭くなっていることを示している。そのため、タンパク質などの目詰まりが狭い範囲で起こることで、ろ過中のろ過速度の低下が大きくなり、最終的な処理量が減少することがあるため、好ましくない。
【0064】
直径20nm以上直径30nm以下の金コロイド捕捉部位の厚さは、例えば以下の方法により取得される。直径20nm及び30nmの金コロイド溶液をそれぞれろ過したウイルス除去膜から切片を切り出す。切片の断面において金コロイドによって染まった部分複数箇所の輝度プロファイルを、光学顕微鏡で測定する。ここで、膜厚方向において、ウイルス除去膜10の一次側の表面1から、金コロイド捕捉部位の最も一次側の表面に近い部分までの第1の距離aを測定する。また、膜厚方向において、ウイルス除去膜10の一次側の表面1から、金コロイド捕捉部位の最も二次側の表面2に近い部分までの第2の距離bを測定する。
【0065】
次に、複数箇所のそれぞれにおいて、第1の距離aを湿潤したウイルス除去膜の膜厚cで除して百分率で表した値A(=a/cの百分率表示)を算出し、複数箇所における値Aの平均値を第1の到達度として算出する。また、複数箇所のそれぞれにおいて、第2の距離bを湿潤したウイルス除去膜の膜厚cで除して百分率で表した値B(=b/cの百分率表示)を算出し、複数箇所における値Bの平均値を第2の到達度として算出する。
【0066】
さらに、下記(2)式に示すように、直径20nmの金コロイドをろ過したウイルス除去膜における第2の到達度の平均値B
20と、直径30nmの金コロイドをろ過したウイルス除去膜における第1の到達度の平均値A
30と、の差に、直径20nmの金コロイドをろ過した湿潤したウイルス除去膜の膜厚の平均値C
20と直径30nmの金コロイドをろ過し、湿潤したウイルス除去膜の膜厚の平均値C
30の平均値C
AVEを乗じた値を、直径20nmの金コロイド及び直径30nmの金コロイドを流通させた時に、ウイルス除去膜10の断面において、直径20nm以上30nm以下の金コロイドが捕捉される部位の厚さTとして算出する。金コロイド捕捉部位の厚さTは、ウイルス除去膜の緻密層の厚さTとも表現される。
T=(B
20−A
30)×C
AVE (2)
なお、上記の方法では、直径20nm以上直径30nm以下の金コロイド捕捉部位を、直径30nmの金コロイドをろ過したウイルス除去膜における第1の到達位置と、直径20nmの金コロイドをろ過したウイルス除去膜における第2の到達位置と、の間の領域の厚みとして求めているが、誤差の範囲を除いて、直径20nm以上直径30nm以下の金コロイドであれば、上記の範囲に捕捉されることを確認している。
【0067】
湿潤状態のウイルス除去膜10の断面において、直径15nmの金コロイドを捕捉する部位の厚さ(最緻密層)は、2μm以上10μm以下であることが望ましい。より好ましくは、3μm以上10μm以下である。金コロイド捕捉部位の厚さが10μmより厚いと、金コロイド含有溶液のみならず、ウイルス含有溶液のろ過の効率が低下する傾向にある。また2μmよりも薄いとウイルス除去膜に負荷するウイルスの総量(ウイルスのタンパク質製剤に対するスパイク量又は総ろ過量)が増加した場合や運転に伴うろ過圧力の変動によって、ウイルスが漏れる可能性があるので、好ましくない。
【0068】
直径15nmの金コロイド捕捉部位の厚さは、例えば以下の方法により取得される。直径15nmの金コロイド溶液をろ過したウイルス除去膜から切片を切り出す。切片の断面において金コロイドによって染まった部分複数箇所の輝度プロファイルを、光学顕微鏡で測定する。ここで、膜厚方向において、ウイルス除去膜10の一次側の表面1から、金コロイド捕捉部位の最も一次側の表面に近い部分までの第1の距離dを測定する。また、膜厚方向において、ウイルス除去膜10の一次側の表面1から、金コロイド捕捉部位の最も二次側の表面2に近い部分までの第2の距離eを測定する。
【0069】
次に、複数箇所のそれぞれにおいて、第1の距離dを湿潤したウイルス除去膜の膜厚fで除して百分率で表した値D(=d/fの百分率表示)を算出し、複数箇所における値Dの平均値を第1の到達度として算出する。また、複数箇所のそれぞれにおいて、第2の距離eを湿潤したウイルス除去膜の膜厚fで除して百分率で表した値E(=e/fの百分率表示)を算出し、複数箇所における値Eの平均値を第2の到達度として算出する。
【0070】
さらに、下記(3)式に示すように、第2の到達度の平均値Eと第1の到達度の平均値Dとの差に、ろ過したウイルス除去膜の湿潤状態の膜厚の平均値Fを乗じた値を、直径15nmの金コロイドを流通させた時に、ウイルス除去膜10の断面において、直径15nmの金コロイドが捕捉される部位の厚さTとして算出する。直径15nmの金コロイド捕捉部位の厚さTは、ウイルス除去膜の最緻密層の厚さTとも表現される。
T=(E−D)×F (3)
【0071】
直径30nmの金コロイドを含有する溶液をウイルス除去膜10でろ過した場合、湿潤状態のウイルス除去膜10の断面において、直径30nmの金コロイドが捕捉される部位は、光学顕微鏡で測定すると、例えば、一次側の表面1から膜厚の15%以上60%以下、あるいは20%以上55%以下のところにある。膜厚の15%より小さいとウイルスや不純物が膜の一次側表面に近い位置で捕捉されてしまい、目詰まりを起こす可能性が高くなり、60%より大きいと、目的とするウイルスが膜の二次側表面に近い位置で捕捉されてしまい、ウイルスが捕捉できない可能性がある。なお、一次側の表面1から、膜厚の15%より小さい、又は、60%より大きい領域に、直径30nmの金コロイドの少量が捕捉される場合であっても、光学顕微鏡による観察で定数(255)から測定した輝度プロファイルを引いた輝度の変位について、そのスペクトルの絶対値が、スペクトルの絶対値の最大値の10%以下の場合は、当該ウイルス除去膜のウイルス除去能の観点から当該領域における金コロイドの捕捉は誤差の範囲内とみなすことができるので、直径30nmの金コロイドが捕捉される部位は、一次側の表面1から膜厚の15%以上60%以下のところにあるものとみなしうる。
【0072】
直径20nmの金コロイドを含有する溶液をウイルス除去膜10でろ過した場合、湿潤状態のウイルス除去膜10の断面において、直径20nmの金コロイドが捕捉される部位は、光学顕微鏡で測定すると、例えば、一次側の表面1から膜厚の25%以上85%以下、あるいは30%以上85%以下のところにある。膜厚の25%より小さいとウイルスや不純物が膜の一次側表面に近い位置で捕捉されてしまい、目詰まりを起こす可能性が高くなり、85%より大きいと目的とするウイルスが膜の二次側表面に近い位置で捕捉されてしまい、ウイルスが捕捉できない可能性がある。なお、直径30nmの金コロイドの場合と同様に、一次側の表面1から膜厚の25%より小さい、又は、85%より大きい領域で、金コロイドが観察されたとしても、光学顕微鏡による観察で定数(255)から測定した輝度プロファイルを引いた輝度の変位について、そのスペクトルの絶対値が、スペクトルの絶対値の最大値の10%以下の場合は、誤差の範囲内とみなしうる。
【0073】
直径15nmの金コロイドを含有する溶液をウイルス除去膜10でろ過した場合、湿潤状態のウイルス除去膜10の断面において、直径15nmの金コロイドが捕捉される部位は、光学顕微鏡で測定すると、例えば、一次側の表面1から膜厚の60%以上100%以下、あるいは65%以上100%以下のところにある。膜厚の60%より小さいとウイルスや不純物が膜の一次側表面に近い位置で捕捉されてしまい、目詰まりを起こす可能性が高くなる。なお、直径30nm、20nmの金コロイドの場合と同様に、一次側の表面1から膜厚の60%より小さい領域で、金コロイドが観察されたとしても、光学顕微鏡による観察で定数(255)から測定した輝度プロファイルを引いた輝度の変位について、スペクトルの絶対値の最大値の10%以下の場合は誤差の範囲内とみなしうる。
【0074】
また、直径30nm、20nm及び15nmの金コロイドの捕捉位置の測定については、あくまで、膜に捕捉された金コロイドについて、測定を行っている。したがって、膜に捕捉されず、膜を透過した金コロイドについては測定していないものである。つまり、膜に透過させた金コロイドの全てについて捕捉位置を測定したものではなく、膜に捕捉された金コロイドについて、その膜上の捕捉位置を測定したものである。
【0075】
直径10nmの金コロイドを含有する溶液をウイルス除去膜10でろ過する場合、ウイルス除去膜10の断面には直径10nmの金コロイドは、ほぼ捕捉されない。このことは、光学顕微鏡(Biozero、BZ8100、キーエンス社製)を用いた観察で、輝度のスペクトルを有意な値として検出できないことから確認できる。また、後述する対数除去率(LRV)が低くなることからも確認できる。なお、直径10nmの金コロイドが捕捉されないことは、IgGなどの直径10nm程度の有用なタンパクの高い透過性を達成できることを示している。
【0076】
ウイルス除去膜の材質である合成高分子としては、例えば圧縮、押出、射出、インフレーション、及びブロー成型などの加工が容易なこと、及びろ過の際の耐圧性に優れることから熱可塑性結晶性樹脂が好ましい。とくに耐熱性と成型加工性のバランスが良いために、ポリオレフィン樹脂やフッ素系樹脂は好ましく、特にポリフッ化ビニリデン樹脂は好ましい。
【0077】
なお、これらの疎水性の熱可塑性結晶樹脂はタンパク質等の吸着、膜の汚染や目詰まり等が生じやすく、ろ過速度の急激な低下を引き起こす。そのため、疎水性樹脂をウイルス除去膜の材質として用いる場合、タンパク等の吸着による閉塞を防ぐために、膜へは親水性が付与される。親水性を付与するためには、グラフト重合法によって、膜が親水性のグラフト鎖を備えることが好ましい。
【0078】
ウイルス除去膜10は、例えば、中空糸膜の形状を有している。あるいは、ウイルス除去膜10は、
図4に示すように、平膜の形状を有していてもよい。膜面積が大きくても、膜を容器に装填して小型のフィルターを作成できることから、中空糸膜が好ましい。
【0079】
図1に示すウイルス除去膜10の膜厚は、例えば、乾燥状態で40.0μm以上60.0μm以下であり、より好ましくは42.0μm以上55.0μm以下である。膜厚が40.0μmより薄いと膜の強度が低下し、ろ過圧に耐えられなくなる可能性があり、また60.0μmより厚いとろ過速度が低下する可能性がある。
【0080】
ウイルス除去膜10の断面において、一次側から二次側に向けて、空孔の孔径は、減少した後、一定となり、好ましくは、ウイルス除去膜10は、二次側の最外層付近に最も緻密な層を有する。最外層付近に最も緻密な層を有することで、ろ過圧(流速)が低い場合や、Stop&start、Post−wash方式でろ過をする場合に、ウイルスが漏れる可能性をより低減することが出来る。
【0081】
ウイルス除去膜10によるウイルスの対数除去率(LRV:Logarithmic Reduction Value)は、例えば4.00以上であれば、膜ろ過によりウイルスが十分に除去されるため好ましく、4.50以上、5.00以上あるいは6.00以上であれば、より好ましい。ウイルスの対数除去率が6.00以上であれば、ウイルスが除去され、ほとんどウイルスが漏れないと考えられる。
【0082】
ウイルス除去膜10による直径30nmの金コロイドの対数除去率(LRV)は、例えば1.00以上、好ましくは1.20以上である。ウイルス除去膜10による直径20nmの金コロイドの対数除去率は、例えば1.00以上、好ましくは1.20以上である。ウイルス除去膜10による直径15nmの金コロイドの対数除去率は、例えば0.10以上、好ましくは0.20以上である。ウイルス除去膜10による直径10nmの金コロイドの対数除去率は、例えば、0.10未満である。
【0083】
ウイルス除去膜10で測定されるバブルポイントは、例えば、1.30MPa以上1.80MPa以下でありより好ましくは、1.40MPa以上1.80MPa以下、1.45MPa以上1.80MPa以下、1.50MPa以上1.80MPa以下である。また、ウイルス除去膜の特性は、バブルポイント(MPa)と測定に用いた溶媒の表面張力(N/m)の比としても表すことができる。膜を浸漬する試験液として表面張力が13.6mN/mのハイドロフルオロエーテルを用いた場合、バブルポイントと表面張力の比は、96以上133以下である。より好ましくは103以上133以下、106以上133以下、110以上133以下である。
【0084】
バブルポイントが1.30MPa以下であることは、孔径の大きな孔が存在することを示しており、特にウイルス除去膜を使用する際に、(1)圧力のレベルを下げる工程、(2)ろ過を一旦中断して、再加圧する工程(Stop&start)、又は(3)製剤のろ過後、ろ過を一旦中断し、Bufferで洗浄する工程(Post−wash)を含む条件下では、ウイルス除去性の低下が見られる場合があるので、好ましくない。またバブルポイントが1.80MPa以上であることは、孔径の小さな孔が存在することを示し、純水透過速度が低下するので、好ましくない。
【0085】
ウイルス除去膜10で測定される純水透過速度は、30L/m
2/hrs/0.1MPa以上80L/m
2/hrs/0.1MPa以下、30L/m
2/hrs/0.1MPa以上60L/m
2/hrs/0.1MPa以下、あるいは30L/m
2/hrs/0.1MPa以上55L/m
2/hrs/0.1MPa以下である。
【0086】
ウイルス除去膜は、使用される前に、蒸気によって滅菌されてもよい。プレフィルターで前ろ過されたタンパク質含有液をウイルス除去膜でろ過することによって、タンパク質含有液に含まれていたウイルスが除去される。また、タンパク質含有液に残存していた粒子状物及びタンパク質の多量体も除去される。
【0087】
上記のろ過方法において、プレフィルターでろ過する前ろ過工程と、ウイルス除去工程との間に他の工程を含まないようにしてもよい。すなわち、それぞれの工程をバッチ処理で行ってもよい。また、前ろ過工程と、ウイルス除去工程とを連続プロセスで行ってもよい。前ろ過工程と、ウイルス除去工程を連続プロセスで行う場合、時間経過に伴うタンパク質の多量体の発生が抑えられ、ウイルス除去膜によるろ過効率がより向上する傾向がある。
【0088】
以上説明した特性を有するウイルス除去膜は、例えば、以下で説明する方法により製造される。
【0089】
ウイルス除去膜の材質に使用される熱可塑性樹脂は、例えば、通常の圧縮、押出、射出、インフレーション、及びブロー成型に使用される結晶性を有する熱可塑性樹脂である。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ4−メチル1−ペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、エチレン/テトラフルオロエチレン樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂等のフッ素系樹脂、ポレフェニレンエーテル樹脂、及びポリアセタール樹脂等が使用できる。
【0090】
上記の熱可塑性樹脂の中で、ポリオレフィン樹脂やフッ素系樹脂は、耐熱性と成型加工性のバランスが良いために好ましく、なかでもポリフッ化ビニリデン樹脂は特に好ましい。ここで、ポリフッ化ビニリデン樹脂とは、基本骨格にフッ化ビニリデン単位を含むフッ素系樹脂を指すものであり、一般にはPVDFの略称で呼ばれる樹脂である。このようなポリフッ化ビニリデン樹脂としては、フッ化ビニリデン(VDF)のホモ重合体や、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン(PFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、及びパーフルオロメチルビニルエーテル(PFMVE)のモノマー群から選んだ1種又は2種のモノマーとフッ化ビニリデン(VDF)との共重合体を使用することができる。また、該ホモ重合体及び該共重合体を混合して使用することもできる。実施の形態においては、ホモ重合体を30wt%以上100wt%以下含むポリフッ化ビニリデン樹脂を使用すると、微多孔膜の結晶性が向上し高強度となるために好ましく、ホモ重合体のみを使用するとさらに好ましい。
【0091】
実施の形態において使用する熱可塑性樹脂の平均分子量は、5万以上500万以下であることが好ましく、より好ましくは10万以上200万以下、さらに好ましくは15万以上100万以下である。該平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られる重量平均分子量を指すものであるが、一般に平均分子量が100万を超えるような樹脂については、正確なGPC測定が困難であるので、その代用として粘度法による粘度平均分子量を採用することができる。重量平均分子量が5万より小さいと、溶融成型の際のメルトテンションが小さくなり成形性が悪くなったり、膜の力学強度が低くなったりするので好ましくない。重量平均分子量が500万を超えると、均一な溶融混練が難しくなるために好ましくない。
【0092】
実施の形態において使用する熱可塑性樹脂のポリマー濃度は、熱可塑性樹脂及び可塑剤を含む組成物中20wt%以上90wt%以下が好ましく、より好ましくは30wt%以上80wt%以下、そして最も好ましくは35wt%以上70wt%以下である。ポリマー濃度が20wt%未満になると、製膜性が低下する、充分な力学強度が得られない等の不都合が発生する。また、ウイルス除去用の膜としては、得られる微多孔膜の孔径が大きくなりウイルス除去性能が不充分となる。ポリマー濃度が90wt%を超えると、得られる微多孔膜の孔径が小さくなりすぎるとともに、空孔率が小さくなるため、ろ過速度が低下し、実用に耐えない。
【0093】
実施の形態において使用する可塑剤としては、微孔膜を製造する組成で熱可塑性樹脂と混合した際に樹脂の結晶融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いる。ここでいう不揮発性溶媒とは、大気圧下において250.0℃以上の沸点を有するものである。可塑剤の形態は、概ね常温20.0℃において、液体であっても固体であってもよい。また、熱可塑性樹脂との均一溶液を冷却した際に、常温以上の温度において熱誘起型固液相分離点を持つような、いわゆる固液相分離系の可塑剤を用いることが、ウイルス除去に用いられるような小孔径かつ均質な緻密構造層を有する膜を製造する上で好ましい。可塑剤の中には、熱可塑性樹脂との均一溶液を冷却した際に、常温以上の温度において熱誘起型液液相分離点を有するものもあるが、一般に、液液相分離系の可塑剤を用いた場合は、得られた微多孔膜は大孔径化する傾向がある。ここで用いられる可塑剤は単品又は複数の物質の混合物であってもよい。
【0094】
熱誘起型固液相分離点を測定する方法は、熱可塑性樹脂と可塑剤を含む所定濃度の組成物を予め溶融混練したものを試料として用い、熱分析(DSC)により該樹脂の発熱ピーク温度を測定することにより求めることができる。また、該樹脂の結晶化点を測定する方法は、予め該樹脂を溶融混練したものを試料として用い、同様に熱分析により求めることができる。
【0095】
ウイルス除去に用いられるような小孔径かつ均質な緻密構造層を有する膜を製造する際に好ましく用いられる可塑剤としては、国際公開第01/28667号に開示されている可塑剤が挙げられる。即ち、下記(4)式で定義する組成物の相分離点降下定数が0.0℃以上40.0℃以下である可塑剤であり、好ましくは1.0℃以上35.0℃以下の可塑剤、さらに好ましくは5.0℃以上30.0℃以下の可塑剤である。相分離点降下定数が40.0℃を超えると、孔径の均質性や強度が低下してしまうために好ましくない。
α=100×(Tc
0−Tc)÷(100−C) (4)
式中、αは相分離温度降下定数(℃)、Tc
0は熱可塑性樹脂の結晶化温度(℃)、Tcは組成物の熱誘起固液相分離点(℃)、Cは組成物中の熱可塑性樹脂の濃度(wt%)を表す。
【0096】
例えば熱可塑性樹脂としてポリフッ化ビニリデン樹脂を選択した場合には、フタル酸ジシクロヘキシル(DCHP)、フタル酸ジアミル(DAP)、リン酸トリフェニル(TPP)、リン酸ジフェニルクレジル(CDP)、及びリン酸トリクレジル(TCP)等が特に好ましい。
【0097】
実施の形態において、熱可塑性樹脂と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第一の方法は、該樹脂を押出機等の連続式樹脂混練装置に投入し、樹脂を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入してスクリュー混練することにより、均一溶液を得る方法である。投入する樹脂の形態は、粉末状、顆粒状、ペレット状の何れでもよい。また、このような方法によって均一溶解させる場合は、可塑剤の形態は常温液体であることが好ましい。押出機としては、単軸スクリュー式押出機、二軸異方向スクリュー式押出機、及び二軸同方向スクリュー式押出機等が使用できる。
【0098】
熱可塑性樹脂と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第二の方法は、ヘンシェルミキサー等の撹拌装置を用いて、樹脂と可塑剤を予め混合して分散させ、得られた組成物を押出機等の連続式樹脂混練装置に投入して溶融混練することにより、均一溶液を得る方法である。投入する組成物の形態については、可塑剤が常温液体である場合はスラリー状とし、可塑剤が常温固体である場合は粉末状や顆粒状等とすればよい。
【0099】
熱可塑性樹脂と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第三の方法は、ブラベンダーやミル等の簡易型樹脂混練装置を用いる方法や、その他のバッチ式混練容器内で溶融混練する方法である。該方法によれば、バッチ式の工程となるが、簡易でかつ柔軟性が高いという利点がある。
【0100】
実施の形態において、熱可塑性樹脂と可塑剤を含む組成物を熱可塑性樹脂の結晶融点以上の温度に加熱均一溶解させた後、Tダイやサーキュラーダイ、環状紡口の吐出口から平膜状、中空糸状の形状に押出した後に、冷却固化させて膜を成型する((a)の工程)。冷却固化させて膜を成型する(a)の工程において、緻密構造層を形成すると共に膜表面に隣接して粗大構造層を形成する。
【0101】
実施の形態においては、均一に加熱溶解した熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む組成物を吐出口から吐出させ、エアギャップ部分を経て、下記(5)式に定義するドラフト比が1.0以上12.0以下となるような引取速度で該膜を引取りながら、熱可塑性樹脂に対して部分的な溶解性を有する、100.0℃以上の不揮発性液体を膜の一方の表面に接触させ、他方の膜表面を冷却することによって、膜に粗大構造層と緻密構造層とを形成させる。
ドラフト比=(膜の引取速度)/(組成物の吐出口における吐出速度) (5)
【0102】
上記ドラフト比は好ましくは1.5以上9.0以下、より好ましくは1.5以上7.0以下である。ドラフト比が1.0未満では膜にテンションがかからないために成型性が低下し、12.0を超える場合は、膜が引伸ばされるために、充分な厚みの粗大構造層を形成させることが困難になる傾向にある。上記(5)式の組成物の吐出口における吐出速度は、下記(6)式で与えられる。
組成物の吐出口における吐出速度
=(単位時間当りに吐出される組成物の体積)/(吐出口の面積) (6)
【0103】
吐出速度の好ましい範囲は1m/分以上60m/分以下であり、より好ましくは3m/分以上40m/分以下である。吐出速度が1m/分未満の場合は、生産性が低下することに加えて、吐出量の変動が大きくなる等の問題が発生する傾向にある。反対に、吐出速度が60m/分を超える場合は、吐出量が多いために吐出口で乱流が発生し、吐出状態が不安定になる場合がある。
【0104】
引取速度は吐出速度に合わせて設定することができるが、好ましくは1m/分以上200m/分以下であり、より好ましくは3m/分以上150m/分以下である。引取速度が1m/分未満の場合は、生産性、及び成型性が低下する傾向にある。また、引取速度が200m/分を超える場合は、冷却時間が短くなったり、膜にかかるテンションが大きくなることによって膜の断裂が起き易くなったりする傾向にある。
【0105】
粗大構造層を形成させる好ましい方法は、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む組成物を押出し口から平膜状又は中空糸状の膜に押出して形成された未硬化の膜の一方の表面を、熱可塑性樹脂に対して部分的な溶解性を持つ不揮発性液体に接触させる方法である。この場合、接触した不揮発性液体の膜内部への拡散と熱可塑性樹脂の部分的な溶解によって粗大構造層が形成される。ここで、熱可塑性樹脂に対して部分的な溶解性を持つ液体とは、50wt%の濃度で熱可塑性樹脂と混合した際に100.0℃以上の温度で初めて均一溶液を形成し得る液体であって、100.0℃以上250.0℃以下の温度で均一溶液を形成し得る液体が好ましく、120.0℃以上200.0℃以下の温度で均一溶液を形成し得る液体がさらに好ましい。100.0℃未満の温度で均一溶解する液体を接触液体として使用した場合は、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む組成物溶液の冷却固化が妨げられるために成型性が低下したり、粗大構造層が必要以上に厚くなったり、或いは孔径が大きくなり過ぎる等の不都合が発生する場合がある。250.0℃未満の温度で均一溶液を形成できない液体の場合は、熱可塑性樹脂に対する溶解性が低いために充分な厚みの粗大構造層を形成させることが難しい。また、ここで、不揮発性の液体とは、1気圧(101325Pa)における沸点が250.0℃を超える液体である。
【0106】
例えば、熱可塑性樹脂としてポリフッ化ビニリデン樹脂を選択した場合には、エステル鎖の炭素鎖長が7以下のフタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、セバシン酸エステル類、エステル鎖の炭素鎖長が8以下のリン酸エステル類、クエン酸エステル類等が好適に使用でき、特にフタル酸ジヘプチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジブチル、リン酸トリ(2−エチルヘキシル)、リン酸トリブチル、及びアセチルクエン酸トリブチル等が好適に使用できる。
【0107】
ただし、例外的にエステル鎖にフェニル基、クレジル基、シクロヘキシル基等の環状構造を有する可塑剤、即ちフタル酸ジシクロヘキシル(DCHP)、フタル酸ジアミル(DAP)、リン酸トリフェニル(TPP)、リン酸ジフェニルクレジル(CDP)、及びリン酸トリクレジル(TCP)等は粗大構造層を形成させる能力が小さく好ましくない。
【0108】
また、粗大構造層を導入させるために使用される接触液体の温度は100.0℃以上、好ましくは120.0℃以上、熱可塑性樹脂と可塑剤との均一溶液の温度以下であり、さらに好ましくは130.0℃以上、(熱可塑性樹脂と可塑剤の均一溶液の温度−10.0℃)以下である。該接触液体の温度が100.0℃未満である場合は、熱可塑性樹脂に対する溶解性が低いために充分な厚みの粗大構造層を形成することが難しくなる傾向にある。熱可塑性樹脂と可塑剤の均一溶液の温度を超える場合には、成型性が低下する。
【0109】
さらに、膜が中空糸状である場合は、該接触液体が環状紡口内を通過する際に熱の移動が起こるため、環状紡口に温度ムラが発生し、その結果中空糸の円周方向に不均一な膜構造となる場合がある。例えば、環状紡口の側方から低温の接触液体を導入した場合、接触液体が導入された部分の環状紡口の温度が低下し、この相対的に低温である箇所を通過した熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む組成物から形成された膜の部分の孔径が小さくなり、円周方向に膜構造の不均一性が増大する。中空糸の円周方向に均一な膜構造を得るためには、紡口の温度を均一にすることが好ましく、そのためには、(1)接触液体の温度の影響を中空糸の円周方向に均一にするために、環状紡口の上部から接触液体を導入すること、及び/又は、(2)環状紡口と接触液体との間の熱移動を小さくするために、環状紡口と、環状紡口に導入される直前の接触液体と、の温度差を小さくすること、が好ましい。(2)の場合、環状紡口と、環状紡口に導入される直前の接触液体と、の温度差を80.0℃以下とすることが好ましい。80.0℃よりも温度差が大きいと、円周方向に不均一な膜構造となり、ウイルス除去膜に負荷するウイルスの総量が増加した際に、ウイルスが漏れる可能性がある。
【0110】
上記、環状紡口と、接触液体と、の温度差を小さくするためには、紡口近辺の温調を利用することや、可塑性樹脂と可塑剤とを含む組成の温度を低くするなどの多様な方法が考えられるが、導入する接触液体を紡口に入れる際の接触液体の温度を高く制御する方法が好ましい。
【0111】
微多孔膜の片面のみに粗大構造層を導入する場合、緻密構造層側に相当する他方の表面の冷却方法は従来の方法に従うことができる。即ち、膜を熱伝導体に接触させて冷却することにより行う。熱伝導体としては、金属、水、空気、又は可塑剤自身が使用できる。具体的には、熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む均一溶液をTダイ等を介してシート状に押し出し、金属製のロールに接触冷却させて緻密構造層を形成し、かつロールと接触しない側の膜面を熱可塑性樹脂に対して部分的な溶解性を持つ不揮発性の液体に接触させることによって粗大構造層を形成する方法が利用可能である。また、樹脂と可塑剤との均一溶液をサーキュラーダイや環状紡口等を介して円筒状ないし中空糸状に押し出し、該円筒ないし中空糸の内側に熱可塑性樹脂に対して部分的な溶解性を持つ不揮発性の液体を通すことによって、内表面側に粗大構造層を形成させ、外側を水などの冷却媒体に接触させて冷却することにより緻密構造層を形成する方法も利用可能である。
【0112】
実施の形態に係る微多孔膜の製造方法において、小孔径で均質な緻密構造層を形成させるには、冷却固化させる際の冷却速度を充分に速くすることが好ましい。冷却速度は50.0℃/分以上が好ましく、より好ましくは100.0℃/分以上1.0×10
5℃/分以下、さらに好ましくは200.0℃/分以上2.0×10
4℃/分以下である。具体的な方法としては金属製の冷却ロールや水に接触させる方法が好適に用いられるが、特に、水に接触させる方法が、水の蒸発によって急速な冷却を達成することができるため好ましい。
【0113】
また冷却固化させる媒体の温度は、ポリマーの分子量などによって、一義的に決められないが低い方が好ましい。例えば、水に接触させる場合には、水の温度は50.0℃以下、より好ましくは40.0℃以下、より好ましくは30.0℃以下である。接触させる媒体の温度が低いほど、形成される膜のバブルポイントが高くなる傾向にあり、ウイルス除去膜を使用する際に、(1)圧力(流速)のレベルを下げる場合、(3)ろ過を一旦中断して、再加圧する(Stop&start)場合、又は(2)製剤のろ過後、ろ過を一旦中断し、Bufferで洗浄する工程(Post−wash)を含む場合においても、ウイルス除去性を高く維持できるので好ましい。
【0114】
実施の形態に係る製造法において、均一に加熱溶解した熱可塑性樹脂と可塑剤とを含む組成物を吐出口から吐出させ、組成物を冷却固化させる前に、エアギャップを設けることが好ましい。このエアギャップにおいて、吐出されたポリマー溶液の表層が冷却されるとともに、可塑剤の一部が気化することにより、表層部分に最も緻密な層である最緻密層が形成される。エアギャップの長さは、10mm以上、300mm以下が好ましく、さらに好ましくは30mm以上、200mm以下である。
【0115】
エアギャップの長さが上記範囲内で、小さいほど緻密層の厚みが厚く、大きいほど緻密層の厚みが薄くなり、上記範囲内であれば、ウイルス除去性能が高くかつろ過効率の高い膜を製造することができる。
【0116】
さらに、実施の形態に係る製造方法において、気化した可塑剤を除去するためエアギャップ部に排気部を設けてもよいが、この際、吐出された組成物に対する空気の流れに留意する必要がある。吐出された組成物に当たる空気の流れにムラがある場合、組成物の温度にムラが生じ、結果的に構造の局所的なバラツキの原因となりうる。例えば、吐出された組成物が中空糸状の場合に、組成物の側方から排気した場合、空気の流れによって排気部の反対側がより冷却されるためより緻密になり易く、円周方向の構造ムラが生じる。したがって、吐出された組成物に対して均一になるように排気部を設置することが好ましい。具体的には、吐出された組成物に対して空気の流れが平行になるよう、上方排気或いは下方排気とすることが好ましい。
【0117】
側方排気の場合には、組成物へ当たる風速が、10m/s以下が好ましく、7m/s、5m/s、3m/s以下が好ましく、1m/s以下がより好ましい。
【0118】
形成された膜から可塑剤の実質的な部分を除去する工程(b)においては、可塑剤を除去するために抽出溶剤を使用する。抽出溶剤は熱可塑性樹脂に対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点が微多孔膜の融点より低いことが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレンや1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、又は水が挙げられる。
【0119】
実施の形態において、膜から可塑剤を除去する第一の方法は、抽出溶剤が入った容器中に所定の大きさに切り取った微多孔膜を浸漬し充分に洗浄した後に、付着した溶剤を風乾させるか又は熱風によって乾燥させることにより行う。この際、浸漬の操作や洗浄の操作を多数回繰り返して行うと微多孔膜中に残留する可塑剤が減少するので好ましい。また、浸漬、洗浄、乾燥の一連の操作中に微多孔膜の収縮が抑えられるために、微多孔膜の端部を拘束することが好ましい。
【0120】
膜から可塑剤を除去する第二の方法は、抽出溶剤で満たされた槽の中に連続的に微多孔膜を送り込み、可塑剤を除去するのに充分な時間をかけて槽中に浸漬し、しかる後に付着した溶剤を乾燥させることにより行う。この際、槽内部を多段分割することにより濃度差がついた各槽に順次微多孔膜を送り込む多段法や、微多孔膜の走行方向に対し逆方向から抽出溶剤を供給して濃度勾配をつけるための向流法のような公知の手段を適用すると、抽出効率が高められ好ましい。第一、第二の方法においては、何れも可塑剤を微多孔膜から実質的に除去することが重要である。実質的に除去するとは、分離膜としての性能を損なわない程度に微多孔膜中の可塑剤を除去することを指し、微多孔膜中に残存する可塑剤の量は1wt%以下となることが好ましく、さらに好ましくは100質量ppm以下である。微多孔膜中に残存する可塑剤の量は、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等で定量することができる。また、抽出溶剤の温度を、該溶剤の沸点未満の温度、好ましくは(沸点−5.0℃)以下の範囲内で加温すると、可塑剤と溶剤との拡散を促進することができるので抽出効率を高められさらに好ましい。
【0121】
物理的強度に優れた疎水性樹脂からなる微多孔膜は、高いろ過圧に耐え得る点では、セルロース等の親水性樹脂からなる微多孔膜と比較して優れる反面、タンパク質等の吸着、膜の汚染や目詰まり等が生じやすく、ろ過速度の急激な低下を引き起こす。そのため、疎水性樹脂からなる微多孔膜を用いる場合、タンパク等の吸着による閉塞を防ぐために、膜へ親水性が付与される。実施の形態に係る製造方法においては、グラフト重合法によって疎水性膜の細孔表面に親水性官能基を導入し、タンパク等の吸着性を低減させることが好ましい。これは、グラフト重合法が他の方法(例えば、親水性ポリマーをブレンドによる方法やコートする方法など)と比べて、大きな細孔から小さい細孔まで均一に親水化することができることや、膜の内表面から外表面をムラなく均等に親水化ことができるためである。
【0122】
またグラフト重合では、化学結合によって親水性を付与しているので、処理液に対して、溶質する可能性が他の方法と比べて低いために好ましい。グラフト重合法とは、電離性放射線や化学反応等の手段によって高分子微多孔膜にラジカルを生成させ、そのラジカルを開始点として、該膜にモノマーをグラフト重合させる反応である。
【0123】
実施の形態において、高分子微多孔膜にラジカルを生成させるためにはいかなる手段も採用し得るが、膜全体に均一なラジカルを生成させるためには、電離性放射線の照射が好ましい。電離性放射線の種類としては、γ線、電子線、β線、及び中性子線等が利用できるが、工業規模での実施には電子線又はγ線が最も好ましい。電離性放射線はコバルト60、ストロンチウム90、及びセシウム137などの放射性同位体から、又はX線撮影装置、電子線加速器及び紫外線照射装置等により得られる。
【0124】
電離性放射線の照射線量は、1kGy以上1000kGy以下が好ましく、より好ましくは2kGy以上500kGy以下、最も好ましくは5kGy以上200kGy以下である。1kGy未満ではラジカルが均一に生成せず、1000kGyを超えると膜強度の低下を引き起こすことがある。
【0125】
電離性放射線の照射によるグラフト重合法には、一般に膜にラジカルを生成した後、次いでそれを反応性化合物と接触させる前照射法と、膜を反応性化合物と接触させた状態で膜にラジカルを生成させる同時照射法に大別される。実施の形態においては、いかなる方法も適用し得るが、オリゴマーの生成が少ない前照射法が好ましい。
【0126】
実施の形態においては、反応性化合物として1個のビニル基を有する親水性ビニルモノマーと、必要に応じて架橋剤と、を用い、ラジカルを生成した高分子微多孔膜に接触させる。接触させる方法は気相でも液相でも行うことができるが、グラフト反応が均一に進む液相で接触させる方法が好ましい。グラフト反応をさらに均一に進めるために、1個のビニル基を有する親水性ビニルモノマーをあらかじめ溶媒中に溶解させてから、架橋剤を用いる場合は親水性ビニルモノマーと架橋剤をあらかじめ溶媒中に溶解させてから、高分子微多孔膜と接触させることが好ましい。
【0127】
上記したように、実施の形態に係る親水性微多孔膜の製造方法においては、高分子微多孔膜に、1個のビニル基を有する親水性ビニルモノマーをグラフト重合し、細孔表面に親水性を付与し、タンパク質等の生理活性物質の吸着を低減させる。実施の形態における1個のビニル基を有する親水性ビニルモノマーとは、大気圧下で、25.0℃の純水に1体積%混合させた時に均一溶解する1個のビニル基を有するモノマーである。該親水性ビニルモノマーとしては、例えば、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート等のヒドロキシル基を有する、又はその前駆体となる官能基を有するビニルモノマー、ビニルピロリドン等のアミド結合を有するビニルモノマー、アクリルアミド等のアミノ基を有するビニルモノマー、ポリエチレングリコールモノアクリレート等のポリエチレングリコール鎖を有するビニルモノマー、メタクリル酸トリエチルアンモニウムエチル等のアニオン交換基を有するビニルモノマー、及びメタクリル酸スルホプロピル等のカチオン交換基を有するビニルモノマー等が挙げられる。
【0128】
実施の形態においては、上記の親水性ビニルモノマーの中でも、1個以上のヒドロキシル基、又はその前駆体となる官能基を有するビニルモノマーを用いることが、膜の後退接触角を低下させ好ましい。より好ましくは、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸と多価アルコールのエステル類、アリルアルコール等の不飽和結合を有するアルコール類、及び酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のエノールエステル類等を用い、最も好ましくはヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸と多価アルコールのエステル類を用いる。ヒドロキシプロピルアクリレートをグラフトした親水性微多孔膜は、後退接触角が低く、かつ充分なグロブリン透過性能を得ることができる。
【0129】
1個のビニル基を有する親水性ビニルモノマー、及び必要に応じて用いる架橋剤を溶解する溶媒は、均一溶解できるものであれば特に限定されない。このような溶媒として、例えば、エタノールやイソプロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、又はそれらの混合物等が挙げられる。
【0130】
1個のビニル基を有する親水性ビニルモノマー、及び必要に応じて用いる架橋剤を溶解させる際の濃度は、3体積%から30体積%までが好ましく、より好ましくは3体積%から20体積%、最も好ましくは3体積%から15体積%である。3体積%以上の濃度であれば十分な親水性が得られ好ましい。30体積%を超えると親水化層によって孔が埋まる場合があり、透過性能が低下する傾向があり好ましくない。
【0131】
グラフト重合時に用いる、1個のビニル基を有する親水性ビニルモノマー、及び必要に応じて用いる架橋剤を溶媒に溶解させた反応液の量は、高分子微多孔膜1gに対して1×10
−5m
3以上1×10
−3m
3以下が好ましい。反応液の量が1×10
−5m
3以上1×10
−3m
3以下であれば均一性が充分な膜が得られる。グラフト重合時の反応温度は、一般的に20.0℃以上80.0℃以下で行われるが、特に限定されるものではない。
【0132】
実施の形態は、疎水性微多孔膜に適切な親水化層を導入し、高いタンパク透過性を実現する。そのために、疎水性微多孔膜にグラフトされるグラフト率は、好ましくは3%以上、50%以下、さらに好ましくは4%以上、40%以下、最も好ましくは6%以上、30%以下である。グラフト率が3%未満であると膜の親水性が不足し、タンパク質の吸着に伴うろ過速度の急激な低下を引き起こす。50%を超えると、比較的小さな孔が親水化層によって埋まってしまい、充分なろ過速度が得られない。ここで、グラフト率とは、下記(7)式で定義される値である。
グラフト率(%)
=100×{(グラフト後の膜質量−グラフト前の膜質量)/グラフト前の膜質量}
(7)
【0133】
[製造例1から11]
(ウイルス除去膜の製造)
ポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製、KF#1300)49wt%、フタル酸ジシクロヘキシル(北広ケミカル工株式会社製)51wt%からなる組成物を、ヘンシェルミキサーを用いて室温で攪拌混合した粉体をホッパーより投入し、二軸押出機(26mmφ、L/D=50)を用いて210.0℃で溶融混合し均一溶解したのち、225.0℃に温調された、内直径0.8mm、外直径1.05mmの環状オリフィスからなる紡口より吐出速度4.2g/分で中空糸状に押し出し、エアギャップを経たのち、
図5に示す凝固浴温度で温調された水浴中で冷却固化させて、50m/分の速度でカセに巻き取った。この際、中空糸の内部には中空剤としてフタル酸ジブチル(大八化学工業株式会社製)を7.1g/分の速度で流した。製造例1から11において、フタル酸ジブチルは紡口の側方から導入し、紡口へ入る直前の温度と紡口から吐出された時の温度は、
図5に示す値であった。また、エアギャップの際に、中空糸に側方から当たる風速は、2.7m/sであった。その後、2−プロパノール(株式会社トクヤマ製)でフタル酸ジシクロヘキシル及びフタル酸ジブチルを抽出除去し、付着した2−プロパノールを水で置換した後、水中に浸漬した状態で高圧蒸気滅菌装置を用いて125.0℃の熱処理を4時間施した。その後、付着した水を2−プロパノールで置換した後、60.0℃で真空乾燥することにより中空糸状の微多孔膜を得た。抽出から乾燥にかけての工程では、収縮を防止するために膜を定長状態に固定して処理を行った。
【0134】
続いて、上記の微多孔膜に対し、グラフト法による親水化処理を行った。反応液は、ヒドロキシプロピルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)を8体積%となるように、3−ブタノール(純正科学(株)試薬特級)の25体積%水溶液に溶解させ、45.0℃に保持した状態で、窒素バブリングを20分間行ったものを用いた。まず、窒素雰囲気下において、該微多孔膜をドライアイスで−60.0℃以下に冷却しながら、Co60を線源としてγ線を少なくとも25kGyを照射した。照射後の膜は、13.4Pa以下の減圧下に15分間静置した後、上記反応液と該膜を45.0℃で接触させ、1時間静置した。その後、膜を2−プロパノールで洗浄し、60.0℃での真空乾燥することにより微多孔膜を得た。得られた膜は水に接触させた時に自発的に細孔内に水が浸透することを確認した。得られた膜の性能を評価した結果、
図5に示す。
【0135】
製造例1から11において、中空剤の入り口温度と出口との温度差、エアギャップ長、凝固浴温度は
図5に示す値であった。また製造例6についてのみ、フタル酸ジブチルは紡口の中央部から導入した。これら以外の膜の製造条件は、製造例1から11において、同じであった。
【0136】
(ウイルス除去膜の物性)
(1)中空糸の外径、内径、膜厚
中空糸形状の微多孔膜の外径、内径は、該膜の垂直割断面を実体顕微鏡(モリテック(株)製SCOPEMAN503)を使用して210倍の倍率で撮影することにより求めた。膜厚は中空糸の外直径と内直径との差の1/2として計算した。結果を、
図5に示す。
【0137】
(2)バブルポイント
ASTM F316−86に準拠したバブルポイント法により求まるバブルポイント(Pa)を測定した。膜を浸漬する試験液として表面張力が13.6mN/mのハイドロフルオロエーテル(3M社製 Novec(登録商標) 7200)を用いた。バブルポイントは、有効長8cmの中空糸膜一本をバブルポイント測定装置にセットした後、中空部側の徐々に圧力を上げ、膜を透過するガス流量が2.4E−3リットル/分となった時の圧力とした。結果を、
図5に示す。
【0138】
(3)純水透過速度
定圧デッドエンドろ過による温度25.0℃の純水の透過量を測定し、膜面積、ろ過圧力(0.1MPa)、及びろ過時間から、下記(8)式の通りに計算して純水透過速度とした。結果を、
図5に示す。
純水透過速度(L/m
2/hrs/0.1MPa)=透過量÷(膜面積×ろ過時間)
(8)
【0139】
(金コロイドを用いたウイルス除去膜の評価)
(1)金コロイド溶液の調製
粒径が10、15、20、及び30nmの金コロイドをそれぞれ含む溶液(Cytodiagnostics社製)を購入した。次に、紫外・可視分光光度計UVmini−1240(島津製作所製)にて測定した各金コロイド溶液の金コロイドに応じた最大吸収波長における吸光度が0.25になるよう、金コロイド溶液を、注射用蒸留水、ポリオキシエチレン−ナフチルエーテル(1.59vol%)、及びポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(0.20vol%)で希釈した。
【0140】
(2)金コロイド溶液のろ過
調製した金コロイド溶液のそれぞれ40mLを、196kPaの加圧下にて、製造例に係るウイルス除去膜でろ過した。ウイルス除去膜のろ過面積は、0.001m
2であった。
【0141】
(3)ウイルス除去膜による金コロイドの除去率の測定
紫外・可視分光光度計UVmini−1240(島津製作所製)を用いて、金コロイド溶液のそれぞれについて、金コロイドの最大吸収波長におけるろ過前の金コロイド溶液の吸光度Aと、ろ液の吸光度Bと、を測定し、下記(9)式で与えられる、製造例に係るウイルス除去膜による金コロイドの対数除去率(LRV)を算出した。結果を、
図5に示す。
LRV=log
10(A/B) (9)
【0142】
(4)金コロイド捕捉部位の均一性の測定
金コロイド溶液をろ過した後の製造例に係るウイルス除去膜から切片(厚みは8μm)を切り出し、切片の断面において金コロイドによって染まった部分16カ所の輝度プロファイルを、光学顕微鏡(Biozero、BZ8100、キーエンス社製)で測定した。次に、定数(255)から測定した輝度プロファイルを引いた。その後、横軸に膜厚(100分率)、縦軸に輝度の変位を有するグラフを作成し、グラフに現れた輝度の変位のスペクトルの面積を算出した。さらに、16カ所における輝度の変位のスペクトルの面積の標準偏差を、16カ所における輝度の変位のスペクトルの面積の平均で除した値を、製造例に係るウイルス除去膜における金コロイド捕捉部位の金コロイドの捕捉量の変動係数を示す値として算出した。直径20nmの金コロイドのみを流したときの結果を、
図5に示す。製造例に係るウイルスの除去膜における金コロイド捕捉部位における金コロイドの捕捉量の均一性が高いことが示された。また、製造例のなかでも、中空剤の入口温度と出口温度との温度差が、熱可塑性樹脂と可塑剤との均一溶液と接触する前後で小さいほど金コロイド捕捉部位における金コロイドの捕捉量の均一性が高くなる傾向にあり、また、紡口の中央部から中空剤を入れることで金コロイド捕捉部位における金コロイドの捕捉量の均一性が高くなる傾向にあった。
【0143】
(5)金コロイド捕捉部位の厚さの測定
20及び30nmの金コロイド溶液をそれぞれろ過した湿潤状態のウイルス除去膜から切片(厚みは8μm)を切り出した。湿潤状態の切片の断面において金コロイドによって染まった部分16カ所の輝度プロファイルを、光学顕微鏡(Biozero、BZ8100、キーエンス社製)で測定した。ここで、膜厚方向において、ウイルス除去膜の一次側の表面から、金コロイドが捕捉された部位の最も一次側の表面に近い部分までの第1の距離aを測定した。また、膜厚方向において、ウイルス除去膜の一次側の表面から、金コロイドが捕捉された部位の最も二次側の表面に近い部分までの第2の距離bを測定した。
【0144】
次に、16カ所のそれぞれにおいて、第1の距離aを湿潤状態のウイルス除去膜の膜厚cで除して百分率で表した値A(=a/cの百分率表示)を算出し、16カ所における値Aの平均値を第1の到達度として算出した。また、16カ所のそれぞれにおいて、第2の距離bを湿潤状態のウイルス除去膜の膜厚cで除して百分率で表した値B(=b/cの百分率表示)を算出し、16カ所における値Bの平均値を第2の到達度として算出した。
【0145】
さらに、下記(10)式に示すように、直径20nmの金コロイドをろ過したウイルス除去膜における第2の到達度の平均値B
20と、直径30nmの金コロイドをろ過したウイルス除去膜における第1の到達度の平均値A
30と、の差に、直径20nmの金コロイドをろ過した湿潤状態のウイルス除去膜の膜厚の平均値C
20と直径30nmの金コロイドをろ過した湿潤状態のウイルス除去膜の膜厚の平均値C
30の平均値C
AVEを乗じた値を、ウイルス除去膜における金コロイド捕捉部位の厚さTとして算出した。金コロイド捕捉部位の厚さTは、ウイルス除去膜の緻密層の厚さTとも表現される。結果を
図5に示す。
T=(B
20−A
30)×C
AVE (10)
【0146】
上記方法においては、直径20nmの金コロイドをろ過したウイルス除去膜と、直径30nmの金コロイドをろ過したウイルス除去膜と、の少なくとも2つのウイルス除去膜を用いて、緻密層の厚さを測定した。ただし、1つのウイルス除去膜のみを用いて、緻密層の厚さを測定することも可能である。この場合、1つのウイルス除去膜を用いて、直径20nm及び30nmの両方の金コロイドを含む金コロイド溶液をろ過する。あるいは、1つのウイルス除去膜を用いて、直径20nmの金コロイド溶液をろ過した後、直径30nmの金コロイド溶液をろ過する。
【0147】
その後、直径20nm及び30nmの金コロイド溶液をろ過したウイルス除去膜から切片を切り出し、切片の断面において金コロイドによって染まった部分16カ所の輝度プロファイルを、光学顕微鏡(Biozero、BZ8100、キーエンス社製)で測定する。ここで、膜厚方向において、ウイルス除去膜の一次側の表面から、金コロイド捕捉部位の最も一次側の表面に近い部分までの第1の距離a
1を測定する。また、膜厚方向において、ウイルス除去膜の一次側の表面から、金コロイド捕捉部位の最も二次側の表面に近い部分までの第2の距離b
1を測定する。
【0148】
次に、16カ所のそれぞれにおいて、第1の距離a1を湿潤したウイルス除去膜の膜厚cで除して百分率で表した値A
1(=a
1/c
1の百分率表示)を算出し、16カ所における値A
1の平均値を第1の到達度として算出する。また、16カ所のそれぞれにおいて、第2の距離b
1を湿潤したウイルス除去膜の膜厚cで除して百分率で表した値B
1(=b
1/c
1の百分率表示)を算出し、16カ所における値B
1の平均値を第2の到達度として算出する。
【0149】
さらに、下記(11)式に示すように、ウイルス除去膜における第2の到達度の平均値B
1と、ウイルス除去膜における第1の到達度の平均値A
1と、の差に、湿潤したウイルス除去膜の膜厚の平均値Cを乗じた値を、ウイルス除去膜における金コロイド捕捉部位の厚さTとして算出する。(10)式で算出される厚さTと、(11)式で算出される厚さTと、の間に、大きな差は生じないことが確認されている。
T=(B
1−A
1)×C (11)
【0150】
(6)最緻密層の厚さの測定
直径15nmの金コロイド溶液をろ過した湿潤状態のウイルス除去膜から切片(厚みは8μm)を切り出した。湿潤状態の切片の断面において金コロイドによって染まった部分16カ所の輝度プロファイルを、光学顕微鏡(Biozero、BZ8100、キーエンス社製)で測定した。ここで、膜厚方向において、ウイルス除去膜の一次側の表面から、金コロイドが捕捉された部位の最も一次側の表面に近い部分までの第1の距離dを測定した。また、膜厚方向において、ウイルス除去膜の一次側の表面から、金コロイドが捕捉された部位の最も二次側の表面に近い部分までの第2の距離eを測定した。
【0151】
次に、16カ所のそれぞれにおいて、第1の距離dを湿潤状態のウイルス除去膜の膜厚fで除して百分率で表した値D(=d/fの百分率表示)を算出し、16カ所における値Dの平均値を第1の到達度として算出した。また、16カ所のそれぞれにおいて、第2の距離eを湿潤状態のウイルス除去膜の膜厚fで除して百分率で表した値E(=e/fの百分率表示)を算出し、16カ所における値Eの平均値を第2の到達度として算出した。
【0152】
さらに、下記(12)式に示すように、直径15nmの金コロイドをろ過したウイルス除去膜における第2の到達度の平均値Eと第1の到達度の平均値Dと、の差に、ろ過した湿潤状態のウイルス除去膜の膜厚の平均値Fを乗じた値を、ウイルス除去膜における15nm金コロイド捕捉部位(最緻密層)の厚さTとして算出した。
T=(E−D)×F (12)
【0153】
(7)ウイルス除去膜の金コロイド捕捉部位の粒径依存性の測定
直径15nm、20nm及び30nmの金コロイド溶液をそれぞれろ過したウイルス除去膜から切片(厚みは8μm)を切り出した。切片の断面において金コロイドによって染まった部分16カ所の輝度プロファイルを、光学顕微鏡(Biozero、BZ8100、キーエンス社製)で測定した。ここで、膜厚方向において、ウイルス除去膜の一次側の表面から、金コロイドが捕捉された部位の最も一次側の表面に近い部分までの第1の距離aを測定した。また、膜厚方向において、ウイルス除去膜の一次側の表面から、金コロイドが捕捉された部位の最も二次側の表面に近い部分までの第2の距離bを測定した。
【0154】
次に、16カ所のそれぞれにおいて、第1の距離aを湿潤したウイルス除去膜の膜厚cで除して百分率で表した値A(%)を算出し、16カ所における値A(%)の平均値を第1の到達度として算出した。また、16カ所のそれぞれにおいて、第2の距離bを湿潤したウイルス除去膜の膜厚cで除して百分率で表した値B(%)を算出し、16カ所における値B(%)の平均値を第2の到達度として算出した。直径15nm、20nm及び30nmの金コロイドのそれぞれについて、第1の到達度の平均値と、第2の到達度の平均値と、を、
図5に示す。なお、
図5において、左側の数値が第1の到達度の平均値を表し、右側の数値が第2の到達度の平均値を表している。なお、直径30nm、20nm及び15nmの金コロイドの捕捉位置の測定について、あくまで、膜によって捕捉された金コロイドに関して測定したものであり、膜に捕捉されていない金コロイドについて測定するものではない。
【0155】
(ウイルス除去膜のウイルス除去能)
(1)ウイルス含有タンパク質溶液の調製
ポリクローナル抗体(ヒトIgG)(ヴェノグロブリン−IH、ベネシス社製)を用いて、抗体濃度が10mg/mLになるように注射用水(大塚製薬)で希釈した抗体溶液を得た。また、1mol/L NaCl水溶液を用いて塩濃度を0.1mol/Lに調整した。さらに、0.1mol/L HCl又は0.1mol/L NaOHを用いて、水素イオン指数(pH)を4.0に調整し、これをタンパク質溶液とした。得られたタンパク質溶液に、ブタパルボウイルス(PPV、社団法人動物用生物学的製剤協会)を1.0vol%添加し、よく攪拌して、ウイルス含有タンパク質溶液を得た。
【0156】
(2−1)ウイルス含有タンパク質溶液のろ過(通常)
196kPaのろ過圧力で、製造した膜面積0.001m
2のウイルス除去膜を用いて、ろ過量が150L/m
2に到達するまで、ウイルス含有タンパク質溶液のデッドエンドろ過を行った。
【0157】
(2−2)ウイルス含有タンパク質溶液のろ過(捕捉容量)
196kPaのろ過圧力で、製造した膜面積0.001m
2のウイルス除去膜を用いて、ウイルス含有タンパク質溶液のデッドエンドろ過を行った。ろ過圧力は供給液容器側に圧力計を設置して測定した。15L/m
2毎にろ液を採取し、最大でウイルス負荷量が14.0(Log
10(TCID
50/m
2))になるまでろ過を実施した。
【0158】
(3)ウイルス除去率の測定
アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)より入手し、培養したPK−13細胞(ATCC No.CRL−6489)を用意した。また、56.0℃の水浴で30分間加熱し非働化させた後の牛血清(Upstate社製)3vol%と、ペニシリン/ストレプトマイシン(+10000 Units/mL ペニシリン、+10000μg/mL ストレプトマイシン、インビトロジェン製)1vol%含有D−MEM(インビトロジェン製、高グルコース)と、の混合液を用意した。以下、この混合液を、3vol%FBS/D−MEMという。次に、PK−13細胞を3vol%FBS/D−MEMで希釈し、細胞濃度2.0×10
5(細胞/mL)の希釈細胞懸濁液を調製した。次に、96ウェル丸底細胞培養プレート(Falcon社製)を10枚準備し、全てのウェルに、希釈細胞懸濁液を100μLずつ分注した。
【0159】
希釈細胞懸濁液を分注した細胞培養プレートの8ウェルごとに、ウイルス含有タンパク質溶液のろ液及び同ろ液の10倍、10
2倍、10
3倍、10
4倍及び10
5倍希釈液と、元液の10
2倍、10
3倍、10
4倍、10
5倍、10
6倍及び10
7倍希釈液と、のそれぞれを、100μLずつ分注した。その後、37.0℃、5%二酸化炭素雰囲気下にあるインキュベーターの中に細胞培養プレートを配置し、細胞を10日間培養した。
【0160】
10日間培養した細胞に対し、以下説明する赤血球吸着法(ウイルス実験学 総論 国立予防衛生研究所学友会編、p.173参照)を用いて、50%組織培養感染値(TCID50)の測定を行った。まず、ニワトリ保存血(日本バイオテスト製)をPBS(−)(日水製薬株式会社製、製品に添付の説明書に記載の方法で調製)で5倍に希釈した後、希釈したニワトリ保存血を2500rpm、4.0℃で5分間遠心して赤血球を分離し、沈殿させた。その後、上清を吸引除去して、得られた赤血球を含む沈殿物を、再度PBS(−)で200倍に希釈した。
【0161】
次に、赤血球沈殿物のPBS(−)希釈液を、細胞培養プレートの全ウェルに100μLずつ分注し、2時間静置した。その後、培養した細胞組織の表面に対する赤血球の吸着の有無を目視で確認し、吸着が確認されたものをウイルス感染が起きたウェル、吸着が確認されなかったものをウイルス感染が起きなかったウェルとして数えた。さらに、ウイルス含有タンパク質溶液のろ液及び同ろ液の希釈液と、元液希釈液のそれぞれが分注されたウェルごとに、ウイルス感染の割合を確認し、Reed−Muench法(ウイルス実験学総論、国立予防衛生研究所学友会編、p.479−480参照)により、感染価としてlog
10(TCID
50/mL)を算出し、下記(13)式及び(14)式を用いてウイルスの対数除去率(LRV)を算出した。結果を、
図5に示す。
LRV=log
10(C
0/C
F) (13)
ここで、C
0は、ウイルス除去膜でろ過する前の元液(ウイルス含有タンパク質溶液)中の感染価を表し、C
Fはウイルス除去膜でろ過した後のろ過液中の感染価を表す。
圧力開放(Stop&Start)を含むプロセスのLRV:
LRV=log
10(C
0×150/(C
F100×100+C
F50×50))
(14)
ここで、C
0は、ウイルス除去膜でろ過する前の元液(ウイルス含有タンパク質溶液)中の感染価を表し、C
F100はウイルス除去膜で圧開放前まで100mL/0.001m
2ろ過した後のろ過液プール中の感染価、C
F50はウイルス除去膜で圧開放後3時間静置し、再加圧し50mL/0.001m
2ろ過した後のろ過液プール中の感染価、を表す。
【0162】
(4)最大捕捉容量の算出
ウイルス除去率の測定において、検出限界より大きな値が得られた際のろ過量(=最大ろ過容量)から下記(15)式の算出方法でウイルス除去膜の最大捕捉容量を算出した。
最大捕捉容量(Log
10(TCID
50/m
2))
=元液の感染価Log
10((TCID
50/mL)×最大ろ過容量(L/m
2)×1000)
(15)
【0163】
最大捕捉容量が10.0の11.5乗以上であれば、ウイルス除去膜に対する、ウイルスの負荷量が増加したとしても、ウイルス除去率の低下がなくなるために好ましい。さらに10.0の12乗以上、12.5乗以上、13.0乗以上であればさらに好ましい。
【0164】
また
図5に示すように、均一性が高い、および緻密層が厚くなるに従って、最大捕捉容量は増加した。
【0165】
(多量体含有液の作製)
ヒト免疫グロブリン製剤(献血ヴェノグロブリンIH5%静注、日本血液製剤機構)を用いて、グロブリン終濃度2%、塩化ナトリウム濃度100mmol/Lの溶液を調製した。この溶液のpHは4.5であった。本溶液を室温にて1mol/L塩酸水溶液によりpH2.5に低下させ、1時間静置したのち、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液にてpH4.5に戻し、24時間静置することでグロブリンの一部を多量体にした。なお、本実施例では、タンパク質を変性させるため、過酷な条件でのpH処理を用いて粒子状物を発生させた。以下この多量体含有溶液を溶液Aとする。
【0166】
溶液Aに含まれる粒子の平均直径を、動的光散乱法にて測定したところ、算出される平均直径は74.3nmであった。測定にはMalvern社製、ZetaSizerNanoを用いた。結果を
図6に示す。測定時の光量(照射光の減衰条件)、光源からの距離及び総測定時間(積算回数及び1積算回数あたりの測定時間)は装置の自動設定機能を利用し、また、測定温度は25.0℃、測定角度は173°で行った。
【0167】
また、溶液Aをサイズ排除クロマトグラフィー分析に供したところ、得られたチャートのピーク面積から算出される相対面積比で単量体を16.5%、二量体を5.6%、三量体以上の多量体を77.8%含んでいた。なお、本実施例においては、多量体含有溶液を作成し、タンパク質溶液に添加するモデル実験のため、サイズ排除クロマトグラフィー分析で分画した試料に対する平均直径の測定は実施しなかった。サイズ排除クロマトグラフィー法の実施には、高速液体クロマトグラフ(Prominence、島津製作所)と、カラム(TSK gel G3000SWXL、東ソー、排除限界分子量:500,000Da)を用いた。移動相は、0.3mol/L、pH6.9のリン酸バッファーと、0.2mol/Lのアルギニン−HClと、0.1mol/LのNaClを含んでいた。測定結果の一例を
図7に示す。
図7の(1)のピークはグロブリンの三量体以上の多量体を表しており、(2)のピークはグロブリンの二量体を表しており、(3)のピークは単量体を表している。クロマトチャートのピークの面積からそれぞれの単量体及び多量体の割合を算出し、これを相対面積比とした。以下の実施例においても同様であり、単量体及び多量体等の濃度を相対面積比%を用いて示す。測定温度は25℃、測定時間は20分、流速は1.0mL/分であった。以下の単量体及び多量体の割合の分析においても、これらの条件は同様である。なお、以下の実施例においては、上述のとおり、溶液中のタンパク質の大部分が三量体以上の多量体を含むタンパク質溶液Aを用いて、溶液A中の粒子の平均直径が100nm未満であることと、三量体以上の多量体のピーク面積から算出される相対面積比と、を確認した後、各実施例で処理すべき溶液に含まれる、平均直径100nm未満であるタンパク質の三量体以上の多量体が、ウイルス除去膜1m
2あたり0.25g/m
2となるように、処理すべき溶液を調製して実験を行った。
【0168】
(実施例1)
ヒト免疫グロブリン製剤(献血ヴェノグロブリンIH5%静注、日本血液製剤機構)を用いてグロブリン終濃度30mg/mL、塩化ナトリウム濃度50mmol/L、pH5.3の溶液を25mL調製し当該溶液に多量体を0.3mg含有するよう溶液Aを添加した。
【0169】
調製した溶液全量を、プレフィルターとして、膜面積が10cm
2であり、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなり、孔径が0.1μmであるデュラポア(ミリポア)を用意し、0.2bar定圧ろ過した。得られたろ液を、製造例5と同じ条件で製造され、膜面積が3cm
2であるウイルス除去膜を用意し、3bar定圧ろ過したところ、
図8に示すように、調製した25mL全量ろ過するのに65分を要した。本試験結果を、膜面積あたり、総ろ過量に換算した結果を
図9に示す。
【0170】
(比較例1)
実施例1で調製した溶液と同じ溶液に対して、プレフィルターによるろ過を行わず、直接ウイルス除去膜で3bar定圧ろ過したところ、
図8に示すように、3時間かかっても約9.6mLしかろ過できず、この曲線から25mL全量ろ過するのに4900時間以上を要すると予想された。このときウイルス除去膜に負荷された多量体は1m
2あたり1gである。本試験結果を、膜面積あたり、総ろ過量に換算した結果を
図9に示す。
【0171】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、グロブリン終濃度30mg/mL、塩化ナトリウム濃度50mmol/L、pH5.3の溶液を25mL調製し、当該溶液に多量体を1.03mg含有するよう溶液Aを添加した。
【0172】
プレフィルターとして、膜面積が5cm
2であり、ポリアミドからなる0.1μmの孔径である膜が3層積層されたVirosartMax(ザルトリウス ステディム)を用意し、0.2bar定圧ろ過した。プレフィルターは2個用意し、処理液の全量に対し半分量である12.5mLで1個目のフィルターから2個目のフィルターに接続し直した。得られたろ液を、製造例5と同じ条件で製造され、膜面積が3cm
2であるウイルス除去膜で3bar定圧ろ過したところ、
図10に示すように、調製した25mL全量ろ過するのに128分を要した。本試験結果を、膜面積あたり、総ろ過量に換算した結果を
図9に示す。
【0173】
(比較例2)
実施例2で調製した溶液と同じ溶液に対して、プレフィルターによるろ過を行わず、直接ウイルス除去膜で3bar定圧ろ過したところ、
図10に示すように、3時間かかっても約7.7mLしかろ過できず、この曲線から25mL全量ろ過するのに150,000時間以上を要すると予想された。このときウイルス除去膜に負荷された多量体は1m
2あたり3.4gである。本試験結果、を膜面積あたり、総ろ過量に換算した結果を
図9に示す。
【0174】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、グロブリン終濃度30mg/mL、塩化ナトリウム濃度50mmol/L、pH5.3の溶液を25mL調製し、当該溶液に多量体を0.15mg含有するよう溶液Aを添加した。プレフィルターとして、膜面積が5.8cm
2であり、ポリエーテルスルホンからなる0.2μmの孔径の膜であるSupor(ポール)を用意し、0.2bar定圧ろ過した。プレフィルターは2個用意し、処理液の全量に対し半分量である12.5mLで1個目のフィルターから2個目のフィルターに接続し直した。得られたろ液を、製造例5と同じ条件で製造され、膜面積が3cm
2であるウイルス除去膜で3bar定圧ろ過したところ、
図11に示すように、調製した25mL全量ろ過するのに180分を要した。本試験結果、を膜面積あたり、総ろ過量に換算した結果を
図9に示す。
【0175】
(比較例3)
実施例3で調製した溶液と同じ溶液に対して、プレフィルターによるろ過を行わず、直接ウイルス除去膜で3bar定圧ろ過したところ、
図11に示すように、3時間かかっても約15.9mLしかろ過できず、この曲線から25mL全量ろ過するのに1850時間以上を要すると予想された。このときウイルス除去膜に負荷された多量体は1m
2あたり0.5gである。本試験結果を、膜面積あたり、総ろ過量に換算した結果を
図9に示す。
【0176】
(実施例4)
実施例1と同様の方法で、グロブリン終濃度30mg/mL、塩化ナトリウム濃度50mmol/L、pH5.3の溶液を25mL調製し、当該溶液に多量体を0.3mg含有するよう溶液Aを添加した。
【0177】
プレフィルターとして、膜面積が4.8cm
2であり、ナイロンからなる0.2μmの孔径である膜シリンジフィルターNY(コーニング)を用意し、0.2bar定圧ろ過した。プレフィルターは2個用意し、処理液の全量に対し半分量である12.5mLで1個目のフィルターから2個目のフィルターに接続し直した。得られたろ液を、製造例5と同じ条件で製造され、膜面積が3cm
2であるウイルス除去膜で3bar定圧ろ過したところ、
図12に示すように、3時間で17.2mLろ過できた。この曲線から25mL全量ろ過するのに約47時間かかると推測された。本試験結果を、膜面積あたり、総ろ過量に換算した結果を
図9に示す。
【0178】
(比較例4)
実施例4で調製した溶液と同じ溶液に対して、プレフィルターによるろ過を行わず、直接ウイルス除去膜で3bar定圧ろ過したところ、
図12に示すように、3時間かかっても約9.6mLしかろ過できず、この曲線から25mL全量ろ過するのに4900時間以上を要すると予想された。このときウイルス除去膜に負荷された多量体は1m
2あたり1gである。本試験結果を、膜面積あたり、総ろ過量に換算した結果を
図9に示す。
【0179】
(実施例5)
実施例1と同様の方法で、グロブリン終濃度30mg/mL、塩化ナトリウム濃度50mmol/L、pH5.3の溶液を25mL調製し、当該溶液に多量体を1.03mg含有するよう溶液Aを添加した。
【0180】
プレフィルターとして、膜面積が10cm
2でありポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなり、0.1μmの孔径であるデュラポア(ミリポア)を用意した。これを製造例5と同じ条件で製造され、膜面積が3cm
2であるウイルス除去膜の上流に連結し、ウイルス除去膜にかかる圧力を3barになるよう調整しながら定圧ろ過したところ、
図13に示すように、調製した25mL全量ろ過するのに84分を要した。本試験結果を、膜面積あたり、総ろ過量に換算した結果を
図14に示す。
【0181】
(実施例6)
実施例5と同じ溶液に対し、プレフィルターとして、膜面積が5cm
2であり、ポリアミドからなる0.1μmの孔径である膜が3層積層されたVirosartMax(ザルトリウス ステディム)を2個直列で連結したものを用意した。これを製造例5と同じ条件で製造され、膜面積が3cm
2であるウイルス除去膜の上流に連結し、ウイルス除去膜にかかる圧力を3barになるよう調整しながら定圧ろ過したところ、
図13に示すように、調製した25mL全量ろ過するのに340分を要した。本試験結果を、膜面積あたり、総ろ過量に換算した結果を
図14に示す。
【0182】
(比較例5)
実施例5と同じ溶液に対し、プレフィルターを用いないで直接製造例5と同じ条件で製造され、膜面積が3cm
2であるウイルス除去膜の上流に連結し、圧力を3barになるよう調整しながら定圧ろ過したところ、
図13に示すように、6時間かかっても約9.6mLしかろ過できず、この曲線から25mL全量ろ過するのに150,000時間以上を要すると予想された。このときウイルス除去膜に負荷された多量体は1m
2あたり3.4gである。本試験結果を、膜面積あたり、総ろ過量に換算した結果を
図14に示す。
【0183】
(多量体存在下でのウイルス除去膜のウイルス除去能)
(1)多量体およびウイルス含有タンパク質溶液の調製
ポリクローナル抗体(ヒトIgG)(ヴェノグロブリン−IH、ベネシス社製)を用いて、抗体濃度が30mg/mLになるように注射用水(大塚製薬)で希釈した抗体溶液を300mL得た。また、1mol/L NaCl水溶液を用いて塩濃度を0.1mol/Lに調整した。さらに、0.1mol/L HCl又は0.1mol/L NaOHを用いて、水素イオン指数(pH)を4.0に調整し、これをタンパク質溶液とした。得られたタンパク質溶液が多量体を0.1125mg含有するよう、タンパク質溶液に溶液Aを添加し、さらにブタパルボウイルス(PPV、社団法人動物用生物学的製剤協会)を3.0vol%添加し、よく攪拌して、多量体及びウイルス含有タンパク質溶液を得た。
【0184】
(実施例7)
196kPaのろ過圧力で、製造した膜面積0.0003m
2のウイルス除去膜の前段にプレフィルターとしてVirosartMax(ザルトリウス ステディム)を連結して、多量体及びウイルス含有タンパク質溶液のデッドエンドろ過を行った。全量ろ過を行ったろ液にはウイルスが検出されなかった。
【0185】
(比較例6)
実施例1と同じ溶液をプレフィルターを用いずにデッドエンドろ過を行ったところ、途中60mL程度ろ過したところで急激にろ過速度が低下し、それ以上はろ過を行うのが困難であったため、約80mLろ過時点でろ過を中断した。中断するまでに得られたろ液にはウイルスが検出され、ウイルス除去膜がウイルスを除去しきれていなかった。この時全量ろ過していれば、ウイルス除去膜に負荷された多量体はウイルス除去膜1m
2あたり、0.375gである。