特許第6883150号(P6883150)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6883150電極合剤、電極合剤の製造方法、および電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883150
(24)【登録日】2021年5月11日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】電極合剤、電極合剤の製造方法、および電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20210531BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20210531BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20210531BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20210531BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20210531BHJP
   C08F 214/22 20060101ALI20210531BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/131
   H01M4/1391
   C08L27/16
   C08L101/02
   C08F214/22
   C08K3/22
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-546766(P2020-546766)
(86)(22)【出願日】2019年8月7日
(86)【国際出願番号】JP2019031096
(87)【国際公開番号】WO2020054274
(87)【国際公開日】20200319
【審査請求日】2020年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2018-170044(P2018-170044)
(32)【優先日】2018年9月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 民人
(72)【発明者】
【氏名】池山 泰史
(72)【発明者】
【氏名】小林 正太
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−064542(JP,A)
【文献】 特開2013−170203(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/074041(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
C08F 214/22
C08K 3/22
C08L 27/16
C08L 101/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン系ポリマーと、分散安定剤と、活物質と、分散媒と、を含む電極合剤であって、
前記フッ化ビニリデン系ポリマーにおいて、レーザー回折散乱法で決定されるメディアン径が50μm以下であり、
示差走査型熱量測定における1回目の昇温での最大融解ピーク温度Tm1が130℃以上であり、
平行平板型レオメータを使用して25℃から80℃まで5℃/分の昇温速度で前記電極合剤を加熱しながら10rad−1の角周波数で複素粘度を測定するとき、30℃における複素粘度の10倍の複素粘度に達する温度をTC10とすると、TC10が40℃以上80℃以下であり、
前記フッ化ビニリデン系ポリマーを6重量%の濃度で25℃のN−メチルピロリドンに分散させた分散液を25℃においてせん断速度100s−1で測定した粘度をXとし、
前記フッ化ビニリデン系ポリマーを6重量%の濃度で70℃のN−メチルピロリドンに溶解した溶液を25℃においてせん断速度100s−1で測定した粘度をYとしたとき、
Xに対するYの割合が5以上である、電極合剤。
【請求項2】
前記分散安定剤は、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ニトリルゴム、ポリ(メタ)アクリル酸およびそのエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ならびにセルロースエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの高分子であって、分散媒に溶解した状態で電極合剤中に存在する、請求項1に記載の電極合剤。
【請求項3】
前記フッ化ビニリデン系ポリマーまたは前記分散安定剤が、水酸基、カルボキシル基、スルホ基およびアミド基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を含むフッ化ビニリデン系ポリマーである、請求項1または2に記載の電極合剤。
【請求項4】
前記フッ化ビニリデン系ポリマーまたは前記分散安定剤が、(メタ)アクリル酸変性フッ化ビニリデン系ポリマーまたはカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル変性フッ化ビニリデン系ポリマーである、請求項1または2に記載の電極合剤。
【請求項5】
前記活物質は、リチウム複合金属酸化物粒子が主成分である、請求項1〜のいずれか1項に記載の電極合剤。
【請求項6】
前記分散媒が非プロトン性極性溶媒を含み、
前記非プロトン性極性溶媒が、前記フッ化ビニリデン系ポリマーの良溶媒である、請求項1〜のいずれか1項に記載の電極合剤。
【請求項7】
前記分散媒を100重量部としたときに、前記非プロトン性極性溶媒が65重量部以上である、請求項に記載の電極合剤。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電極合剤の製造方法であって、
140℃以上の温度において、加熱処理されていない未処理フッ化ビニリデン系ポリマーを加熱処理してフッ化ビニリデン系ポリマーを得る工程を含む、電極合剤の製造方法。
【請求項9】
さらに、乳化重合法によって重合させて前記未処理フッ化ビニリデン系ポリマーを調製する工程を含む、請求項に記載の電極合剤の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電極合剤を調製する調製工程と、
前記電極合剤を集電体に塗布する塗布工程と、を含み、
前記調製工程は、前記フッ化ビニリデン系ポリマーを、前記活物質または前記活物質および前記分散媒と混合させる混合工程を含み、
前記混合工程以降、前記塗布工程までの間、前記電極合剤の温度を前記TC10以下に維持する、電極の製造方法。
【請求項11】
前記調製工程において、前記フッ化ビニリデン系ポリマーをあらかじめ前記分散媒に分散した分散液を、前記活物質または前記活物質を含む分散液と混合させる工程を含む、請求項10に記載の電極の製造方法。
【請求項12】
前記活物質または前記活物質を含む分散液を、前記フッ化ビニリデン系ポリマーと混合させる工程を含む、請求項10に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極合剤およびその用途に関する。詳しくは、電極合剤、電極合剤の製造方法、および電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン由来の繰り返し単位を主として含むフッ化ビニリデン系ポリマーは、リチウムイオン二次電池等の電池のバインダー樹脂として多く利用されている。なお、バインダー樹脂は、電極活物質を集電体に接着させるために用いられるものである。
【0003】
特許文献1には、ポリフッ化ビニリデン系ポリマーを含む、水性合剤およびそれを用いた電極の製造方法が開示されている。この技術によれば、有機溶媒を大量に使用せずに優れた電極を製造できることが述べられている。
【0004】
特許文献2には、NMP等の非プロトン性極性溶媒に対して優れた溶解性を有するフッ化ビニリデン系重合体粉末が開示されている。また、23℃においてNMPに分散するフッ化ビニリデン系重合体粉末が開示されている。
【0005】
特許文献3には、未熱処理フッ化ビニリデン系ポリマーに、該重合体粉末が125℃以上、結晶融解温度(Tm)以下となる温度で熱処理を施すことを特徴とする、熱処理済フッ化ビニリデン系重合体粉末の製造方法が開示されている。また、23℃においてNMPに分散するフッ化ビニリデン系重合体粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国公表特許公報 特表2012−528466号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2011/052666号
【特許文献3】国際公開番号WO2011/052669号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている水性合剤では、有機溶媒を多量に使用せずに電極合剤を調製することができる。しかしながら水が多量に用いられているため、強アルカリ性の活物質を用いる場合に、活物質が劣化し易い等の課題がある。また、アルミ箔を集電体として用いた場合には、集電体の腐食が生じる、分散媒の組成の最適化を検討する必要がある、電極合剤の集電体への塗布後の乾燥条件を検討する必要がある、および、分散媒をリサイクルし難い等の課題がある。したがって、水等の溶媒量が低減された電極合剤の開発が望まれている。
【0008】
また、特許文献2および特許文献3に開示されているフッ化ビニリデン系重合体粉末をNMPに分散させた混合物をバインダーとして用いることで、フッ化ビニリデン系重合体粉末をNMPに溶解させた溶液をバインダーとして用いた場合と比べて、電極合剤粘度を一定に調整するために必要な有機溶媒の使用量を削減できる可能性がある。しかしながら、電極合剤の混練工程における電極合剤自体の温度上昇のため、電極合剤の粘度が上昇することがあり、あるいは、この粘度の上昇分を補償して電極合剤粘度を一定に保つために分散媒の使用量が増えることがある。
【0009】
よって、本発明の課題は、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末を電極合剤中に分散させて用いた場合に、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末の分散媒への溶解を抑制し、希釈溶媒の使用量を削減するとともに、製造時における電極合剤粘度の上昇を抑制可能な電極合剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る電極合剤は、フッ化ビニリデン系ポリマーと、分散安定剤と、活物質と、分散媒と、を含む電極合剤であって、
前記フッ化ビニリデン系ポリマーにおいて、レーザー回折散乱法で決定されるメディアン径が500μm以下であり、
示差走査型熱量測定における1回目の昇温での最大融解ピーク温度Tm1が130℃以上であり、
平行平板型レオメータを使用して25℃から80℃まで5℃/分の昇温速度で電極合剤を加熱しながら10rad−1の角周波数で複素粘度を測定するとき、30℃における複素粘度の10倍の複素粘度に達する温度をTC10とすると、TC10が40℃以上80℃以下である、電極合剤である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、粘度の上昇が抑制され、溶媒使用量が低減された電極合剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】示差走査型熱量測定におけるΔH1とΔH2を示す参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[電極合剤]
本実施形態に係る電極合剤は、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末と、分散安定剤と、活物質と、分散媒と、を含む電極合剤であって、
前記フッ化ビニリデン系ポリマー粉末において、レーザー回折散乱法で決定されるメディアン径が500μm以下であり、
示差走査型熱量測定における1回目の昇温での最大融解ピーク温度Tm1が130℃以上であり、
平行平板型レオメータを使用して25℃から80℃まで5℃/分の昇温速度で電極合剤を加熱しながら10rad−1の角周波数で複素粘度を測定するとき、30℃における複素粘度の10倍の複素粘度に達する温度をTC10とすると、TC10が40℃以上、80℃以下である、電極合剤である。
【0014】
電極合剤を集電体上に塗布乾燥して電極合剤層を形成することにより、電極を作製することができる。本実施形態における電極合剤は、正極用の電極活物質、すなわち正極活物質(正極材料)を用いた正極用の電極合剤であることが好ましい。
【0015】
<フッ化ビニリデン系ポリマー粉末>
本明細書において「フッ化ビニリデン系ポリマー」とは、フッ化ビニリデンの単独重合体(ホモポリマー)、およびフッ化ビニリデンと共重合可能な単量体(モノマー)とフッ化ビニリデンとの共重合体(コポリマー)の何れをも含むものである。フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、例えば、公知の単量体の中から適宜に選ぶことができる。フッ化ビニリデンを共重合させる場合、フッ化ビニリデン単位を90モル%以上で含有することが好ましく、フッ化ビニリデン単位を95モル%以上で含有することが特に好ましい。
【0016】
<単量体>
単量体としては、(i)フッ化ビニリデン単独、または、(ii)フッ化ビニリデンおよびフッ化ビニリデンと共重合可能な単量体の混合物を用いることができる。
【0017】
フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびパーフルオロアルキルビニルエーテル等のフッ素含有化合物が挙げられる。また、フッ素を含まない単量体として、エチレン、マレイン酸およびそのエステル、(メタ)アクリル酸およびそのエステル、およびアリルグリシジルエーテル等も使用可能である。
【0018】
<メディアン径>
フッ化ビニリデン系ポリマー粉末は、レーザー回折散乱法で決定されるメディアン径が500μm以下であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは50μm以下であり、また、0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。本明細書において、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末のメディアン径は、レーザー回折散乱法において湿式法によって求めた体積基準粒度分布における積算値50%での粒径(D50)で定義する。上述の範囲内であると、電極合剤の原料として適する。また、電極合剤の原料として用いられる場合、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末のメディアン径は、乾燥前の塗布電極合剤層の厚み以下であることが好ましく、活物質の粒子径以下であることがより好ましい。
【0019】
レーザー回折散乱法の測定は、例えば、マイクロトラック・ベル製のマイクロトラックMT3300EXII(測定範囲0.02〜2000μm)および自動試料循環器を使用し、分散媒として水を用いて行うことができる。また、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末を水に濡れさせるために、あらかじめエタノールで湿潤した後に湿潤剤水溶液を用いて水に分散させた分散液を測定用サンプルとして用いることができる。
【0020】
<複素粘度>
電極合剤のTC10は、40℃以上であり、50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましい。TC10の上限温度は80℃以下であり、70℃以下であることが好ましく、62℃以下であることがより好ましい。ここで、TC10は、平行平板型レオメータを使用して25℃から80℃まで5℃/分の昇温速度で電極合剤を加熱しながら10rad−1の角周波数で複素粘度を測定するとき、30℃における複素粘度の10倍の複素粘度に達する温度である。TC10が上述の温度範囲であると、特に室温付近の電極合剤の粘度上昇が抑制されるので、電極合剤中の分散媒等の溶媒の使用量が低減される等の効果を奏する。また、乾燥工程では熱風またはIRヒーターで加熱された際に合剤中のフッ化ビニリデン系ポリマー粉末が溶解して電極合剤の粘性が上昇し、電極合剤は接着性を発現する。
【0021】
上記の複素粘度は、例えば、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末を融点近傍で加熱処理することにより調整することが可能である。
【0022】
また、本実施形態で用いられるフッ化ビニリデン系ポリマー粉末は、当該粉末をN−メチルピロリドンに分散させた分散液における以下に規定する粘度XおよびYについて、Xに対するYの割合(Y/X)が5以上であることが好ましい。さらには、50以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましい。
X:フッ化ビニリデン系ポリマー粉末を6重量%の濃度で25℃のN−メチルピロリドンに分散させた分散液を25℃においてせん断速度100s−1で測定した粘度
Y:フッ化ビニリデン系ポリマー粉末を6重量%の濃度で70℃のN−メチルピロリドンに溶解した溶液を25℃においてせん断速度100s−1で測定した粘度
Xに対するYの割合(Y/X)が上述の範囲であると、25℃付近での電極合剤の粘度の上昇が抑制され、電極合剤中の溶媒使用量が低減される等の効果を奏する。Y/Xは、例えば、融点近傍での加熱処理温度および熱処理時間、冷却条件を変えて結晶性を高くすることにより大きくすることが可能である。
【0023】
Xは、2〜3000mPa・sが好ましく、2〜500mPa・sがより好ましく、3〜100mPa・sがさらに好ましい。
【0024】
Y/Xは、5〜5000が好ましく、10〜1000がより好ましく、50〜500がさらに好ましい。
【0025】
<フッ化ビニリデン系ポリマー粉末の熱的特性>
<<最大融解ピーク温度Tm1>>
本実施形態で用いられるフッ化ビニリデン系ポリマー粉末について、示差走査型熱量測定における1回目の昇温での最大融解ピーク温度Tm1は130℃以上が好ましく、145℃以上がより好ましく、155℃以上がさらに好ましい。上述の範囲内であると、より結晶性の高いフッ化ビニリデン系ポリマー粉末が得られ、室温付近の電極合剤の粘度上昇が抑制されるので、電極合剤中の分散媒等の溶媒の使用量が低減される等の効果を奏する。最大融解ピーク温度はピーク強度の最も大きい融解ピークの頂点の温度である。
【0026】
<ΔH2/ΔH1>
本実施形態で用いられるフッ化ビニリデンポリマー粉末のrHは0.3〜3が好ましく、0.5〜2がより好ましく、0.6〜1.5がさらに好ましい。ここでrHはΔH1に対するΔH2の割合(ΔH2/ΔH1)である。ΔH1は、示差走査型熱量測定における1回目の昇温で得られる示差走査型熱量測定曲線において、示差走査型熱量測定における2回目の昇温での最大融解ピーク温度Tm2より低温側のピーク面積である。ΔH2は、Tm2より高温側のピーク面積である。上述の範囲内であると、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末は安定性の高い結晶成分をより多く含むという効果を奏する。
【0027】
ΔH2とΔH1は例えば以下のようにして求めることができる。図1は、示差走査型熱量測定におけるΔH1とΔH2を示す参考図である。示差走査型熱量測定における1回目の昇温で得られる示差走査型熱量測定曲線において、融解ピークの前後でベースラインを引き、熱流束から差し引く。次に、ベースラインを差し引いた示差走査型熱量測定曲線を、Tm2を境に区切る。そして、Tm2より低温側の面積をΔH1とし、Tm2より高温側の面積をΔH2とする。
【0028】
上記のrHは、例えば、フッ化ビニリデン系ポリマーの粒子を加熱処理することにより調整することが可能である。例えば、融点近傍での加熱処理温度および熱処理時間、冷却条件を変える事でrHを所望の範囲内にすることが可能である。
【0029】
Tm1とTm2との関係は、Tm2−10℃≦Tm1≦Tm2+20℃であることが好ましく、Tm2−5℃≦Tm1≦Tm2+15℃であることがより好ましく、Tm2+2℃≦Tm1≦Tm2+10℃であることがさらに好ましい。Tm1とTm2の関係が上記温度範囲内であると、安定性の高い結晶成分をより多く含む等の効果を奏する。
【0030】
本実施形態で用いられるフッ化ビニリデン系ポリマー粉末は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量が、10万〜1000万であることが好ましく、20万〜500万であることがより好ましく、50万〜200万であることがさらに好ましい。
【0031】
本実施形態に係る電極合剤は、上述のフッ化ビニリデン系ポリマー粉末を含むことによって、当該電極合剤を集電体に塗布し熱風乾燥炉またはIRヒーターで加熱乾燥させると、電極合剤の温度上昇によってフッ化ビニリデン系ポリマー粉末が電極合剤中で溶解または膨潤する。そして、電極合剤の粘性が上昇し、接着性が付与される。
【0032】
<<フッ化ビニリデン系ポリマー粉末の製造方法>>
以下、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末の製造方法の一例を具体的に説明するが、本実施形態に係るフッ化ビニリデン系ポリマー粉末の製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。
【0033】
フッ化ビニリデン系ポリマー粉末の製造方法は、例えば、加熱処理されていない未処理フッ化ビニリデン系ポリマー粉末を準備する準備工程と、140℃以上の温度において、前記未処理フッ化ビニリデン系ポリマー粉末を加熱処理する加熱処理工程と、を含む。
【0034】
<準備工程>
準備工程において、未処理フッ化ビニリデン系ポリマー粉末は、市販のものを使用してもよいし、公知の手段を用いて調製してもよい。例えば、フッ化ビニリデン系ポリマーを凍結粉砕または分級により微粉化処理してもよいし、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法もしくはマイクロサスペンション重合法等を用いてもよく、これらの方法を組み合わせて行うこともできる。
【0035】
<加熱処理工程>
加熱処理工程において、好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは155℃以上、また、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下の温度で、未処理フッ化ビニリデン系ポリマーを加熱する。
【0036】
上述の温度範囲で加熱処理を行うことによって、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末の結晶を再構造化させて安定性を向上させることができる。また、上述の温度範囲で加熱処理を行うことによって、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末の結晶の過半を融解させて、高温で再結晶化させることで、より安定性の高い結晶を形成させることができる。前者の場合には、融点よりも低い温度で熱処理をすることで融解していない結晶成分を安定化させ、後者の場合には融解成分の比率を高めつつ、高温で再結晶化させることで、安定性の高い結晶成分をより多く形成させることができる。そして、安定性の高い結晶成分が多く存在するフッ化ビニリデン系ポリマー粉末を使用することによって、高温下でも低粘度である電極合剤を得ることができる。
【0037】
加熱処理時間は、特に限定はないが、10秒〜72時間が好ましく、1分〜20時間がより好ましく、10分〜5時間がさらに好ましい。上述の加熱処理時間であると、生産性良く安定性の高い結晶成分をより多く形成させることができる。
【0038】
加熱処理は公知の手段を用いることができる。例えば、未処理フッ化ビニリデン系ポリマー粉末を静置した状態で加熱してもよく、該ポリマーを撹拌しながら加熱してもよく、または高せん断下で加熱してもよい。また、熱風循環炉、コニカルブレンダードライヤー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、流動層熱処理炉等を用いて加熱処理を行ってもよい。また、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末の加熱処理は、フッ化ビニリデン系ポリマーを貧溶媒中に分散して行う事もできる。例えば、懸濁重合によって得られるフッ化ビニリデン系ポリマーの水性サスペンション、または、乳化重合法によって得られるフッ化ビニリデン系ポリマーの水性エマルションを、オートクレーブを用いて加圧下で加熱してもよい。
【0039】
加熱処理後、非晶相の結晶化を進めるために、加熱したフッ化ビニリデン系ポリマー粉末を冷却させることが好ましい。冷却は急冷条件であっても徐冷条件であってもよいが、徐冷条件で冷却することで安定性の高い結晶成分をより多く形成させることができる。例えば、冷媒を用いて急冷してもよいし、0.1℃〜60℃/分で冷却してもよい。徐冷する場合には室温まで徐冷する必要はなく、徐冷した後に急冷してもよい。このとき、150℃まで徐冷することが好ましく、140℃まで徐冷することがより好ましい。
【0040】
加熱処理を貧溶媒中で行った場合には、棚段式乾燥器、コニカルドライヤー、流動層乾燥器、気流乾燥器、噴霧乾燥器など、一般的な乾燥方法によって乾燥することができる。
【0041】
また、加熱処理後のフッ化ビニリデン系ポリマー粉末を、例えば、分散媒に分散または混合させる前に、解砕または粉砕させてもよい。
【0042】
<分散安定剤>
本実施形態に係る電極合剤は、分散安定剤を含んでいてもよい。分散安定剤は、電極合剤中で分散媒に溶解した状態で用いられる高分子であり、分散媒中に分散した状態で用いられる上述のフッ化ビニリデン系ポリマー粉末とは異なるものである。分散安定剤は、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ニトリルゴム、ポリ(メタ)アクリル酸およびそのエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ならびにセルロースエーテルからなる群より選択させる少なくとも1つの分散安定剤であることが好ましい。分散安定剤としてポリフッ化ビニリデンを用いることで分散安定剤としての機能とバインダーとしての機能を両備させることができ、特に好ましい。
【0043】
後述する活物質を100重量部としたとき、分散安定剤を0.1〜10重量部含有することが好ましく、0.2〜5重量部含有することがより好ましく、0.3〜2重量部含有することがさらに好ましい。ここで分散安定剤の量は樹脂成分量を指す。
【0044】
後述する活物質を100重量部としたとき、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末および分散安定剤を合計して0.2〜20重量部含有することが好ましく、0.4〜10重量部含有することがより好ましく、0.6〜4重量部含有することがさらに好ましい。
【0045】
また、電極合剤において、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末および分散安定剤の重量比(フッ化ビニリデン系ポリマー粉末:分散安定剤)は10:90〜99:1が好ましく、25:75〜95:5がより好ましく、40:60〜90:10がさらに好ましい。
【0046】
フッ化ビニリデン系ポリマー粉末または分散安定剤は、水酸基、カルボキシル基、スルホ基およびアミド基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を含むフッ化ビニリデン系ポリマーであることが好ましい。また、当該官能基を、0.03〜5mol%含むことが好ましく、0.05〜3mol%含むことがより好ましく、0.1〜2mol%含むことがさらに好ましい。
【0047】
また、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末または分散安定剤は、(メタ)アクリル酸変性フッ化ビニリデン系ポリマーまたはカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル変性フッ化ビニリデン系ポリマー粉末であることが好ましい。
【0048】
分散安定剤を含有することにより、分散媒の粘度を適度に調整することができ、電極合剤の安定性および集電体への塗布性等を向上させることができる。
【0049】
<活物質>
電極合剤は、塗布対象である集電体の種類等に応じて活物質等の種類を変更することにより、正極用の電極合剤、または負極用の電極合剤とすることができる。
【0050】
正極活物質としては、リチウム複合金属酸化物が典型的に用いられる。
【0051】
リチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiMnO、LiMn、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1−x(0<x<1)、LiNiCoMn1−x−y(0<x<1、0<y<1)、LiFePO等を挙げることができる。
【0052】
負極活物質としては、黒鉛などの炭素系材料をはじめとした従来公知の材料を用いることができる。
【0053】
負極用合剤の分散媒としては水またはNMPが広く用いられている。一方、正極用合剤において水を用いた場合には活物質の劣化およびアルカリ成分の溶出によるアルミ集電体の腐食等が起こり得るため、分散媒として水が使用できる正極活物質は限られており、主にNMPが分散媒として用いられている。本実施形態に係る電極合剤においては、本発明の効果を十分に発揮できる点等で、活物質が正極活物質であることが好ましい。
【0054】
活物質の粒子径は、0.5〜50μmが好ましく、1〜25μmがより好ましく、2〜15μmがさらに好ましい。
【0055】
活物質を100重量部としたとき、分散媒は10〜100重量部含有することが好ましく、20〜75重量部含有することがより好ましく、25〜50重量部含有することがさらに好ましい。
【0056】
<分散媒>
分散媒は、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末を分散させることができ、かつ室温下またはフッ化ビニリデン系ポリマー粉末の融点未満の加熱によって溶解させることができる液体であればよい。分散媒は非プロトン性極性溶媒を含む。分散媒は、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末を溶解できる溶媒であれば特に限定されるものではない。分散媒は、1種類の溶媒を用いても、2種類以上を混合した混合溶媒を用いてもよいが、1種類の溶媒を用いることが好ましく溶媒の回収または再精製コストを抑えることができる。
【0057】
<<非プロトン性極性溶媒>>
非プロトン性極性溶媒は、加熱によってフッ化ビニリデン系ポリマー粉末を溶解できればよく、例えば、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末の良溶媒または潜伏溶媒を用いることができる。非プロトン性極性溶媒において、比誘電率は15以上が好ましく、22以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。
【0058】
非プロトン性極性溶媒の例として、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、およびシクロヘキサノン等が挙げられる。
【0059】
非プロトン性極性溶媒は、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末の良溶媒であることが好ましい。具体的には、NMP、DMF、DMAc、またはDMSOを用いることが好ましい。
【0060】
分散媒を100重量部としたときに、非プロトン性極性溶媒を65重量部以上含むことが好ましく、80重量部以上含むことがより好ましく、90重量部以上含むことがさらに好ましい。
【0061】
<他の成分>
本実施形態に係る電極合剤は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば、導電助剤および顔料分散剤等が挙げられる。
【0062】
<<導電助剤>>
導電助剤は、LiCoO等の電子伝導性の小さい活物質を使用する場合に、電極合剤層の導電性を向上する目的で添加するものである。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛微粉末および黒鉛繊維等の炭素質物質、ならびにニッケルおよびアルミニウム等の金属微粉末または金属繊維を用いることができる。
【0063】
<<添加剤>>
例えば、リン化合物、硫黄化合物、有機酸、アミン化合物、およびアンモニウム化合物等の窒素化合物;有機エステル、各種シラン系、チタン系およびアルミニウム系のカップリング剤;等の添加剤のいずれかまたはそれらを組み合わせて用いることができる。
【0064】
本実施形態に係る電極合剤は、NMPなどの非プロトン性極性溶媒を分散媒の主成分として用いており、分散媒として水を用いる必要はなく、アルカリ度の高い活物質も含有することができる。また、分散媒として、良溶媒または潜伏溶媒を単独で用いることも可能であり、溶媒組成の最適化を検討する必要はなく、電極合剤の集電体への塗布後の乾燥条件の設定および溶媒のリサイクルも容易になる。
【0065】
さらに、本実施形態に係る電極合剤は、上述のフッ化ビニリデン系ポリマー粉末をバインダーとして含むことによって、集電体への塗布に適したせん断粘度を有しながら、固形分濃度の高い電極合剤を調整することができる。
【0066】
本実施形態に係る電極合剤は、例えば、上述のフッ化ビニリデン系ポリマー粉末を分散媒中に分散させることによって調製したバインダー組成物を、活物質または活物質を含む分散液と混合させることによって調製することができる。
【0067】
[電極の製造方法]
以下、電極の製造方法の一例を具体的に説明するが、本実施形態に係る電極の製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。
【0068】
本実施形態に係る電極の製法は、電極合剤を調製する調製工程と、前記電極合剤を集電体に塗布する塗布工程と、を含み、
前記調製工程は、前記フッ化ビニリデン系ポリマー粉末を、前記活物質または前記活物質および前記分散媒と混合させる混合工程を含み、
前記混合工程以降、前記塗布工程までの間、前記電極合剤の温度を前記TC10以下に維持する。
【0069】
ここで、本明細書等における「電極」とは、特に断りのない限り、本実施形態における電極合剤から形成される電極合剤層が集電体上に形成されている、電池の電極を意味する。
【0070】
<電極合剤の調製工程>
電極合剤の調製工程において、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ニトリルゴム、ポリ(メタ)アクリル酸およびそのエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ならびにセルロースエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの分散安定剤を、電極合剤に添加することが好ましい。
【0071】
調製工程は、前記フッ化ビニリデン系ポリマー粉末またはバインダー組成物を、活物質および分散媒と混合させる混合工程を含む。
【0072】
調製工程において、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末をあらかじめ分散媒に分散した分散液を、前記活物質または前記活物質を含む分散液と混合させることが好ましい。
【0073】
また、調製工程において、活物質または活物質を含む分散液を、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末と混合させることが好ましい。従来のフッ化ビニリデン系ポリマー粉末では、粉末状のまま活物質と混合させ分散媒を加えた場合または活物質を含む分散液に混合させた場合に、混練工程におけるせん断発熱などによって電極合剤の温度が上昇する。そして、電極合剤中でフッ化ビニリデン系ポリマー粉末が徐々に溶解して電極合剤の粘度が上昇し、電極合剤の粘度を一定に調整することが困難であった。また、当該フッ化ビニリデン系ポリマーが分散媒に溶解することによって電極合剤粘度が上昇するため、希釈溶媒を多量に添加して合剤粘度を所望の値に調整する必要があった。一方、上述のフッ化ビニリデン系ポリマー粉末の場合、粉末状のまま活物質と混合し分散媒を加えてさらに混合した場合または活物質を含む分散液に混合させた場合でも、当該フッ化ビニリデン系ポリマー粉末が分散媒に溶解することによる粘度変化が抑制される。よって、電極合剤の粘度は低い値に保たれるため、希釈溶媒の添加量を抑制することができ、電極の製造工程において、コストを削減でき、生産性を向上させることができる。
【0074】
<塗布工程>
塗布工程において、電極合剤を集電体に塗布する。電極は、上述したように、正極用の電極合剤を用いて電極合剤層が得られる場合には正極となり、負極用の電極合剤を用いて電極合剤層が得られる場合には負極となる。
【0075】
<<集電体>>
集電体は、電極の基材であり、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、鉄、ステンレス鋼、鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、およびチタン等を挙げることができる。集電体の形状は、箔または網であることが好ましい。電極が正極である場合、集電体としては、アルミニウム箔とすることが好ましい。集電体の厚みは、1μm〜100μmであることが好ましく、3〜20μmがより好ましい。
【0076】
電極合剤層は、上述した電極合剤を集電体に塗布して、乾燥させることにより得られる層である。電極合剤の塗布方法としては、当該技術分野における公知の方法を用いることができ、バーコーター、ダイコーターまたはコンマコーターなどを用いる方法を挙げることができる。電極合剤層を形成させるための乾燥温度としては、60℃〜200℃であることが好ましく、80℃〜150℃であることがより好ましい。乾燥温度がこの範囲であると、乾燥工程における合剤の温度上昇によって上述のフッ化ビニリデン系ポリマー粉末の溶解を促すことができ、剥離強度の高い電極を得ることができる。電極合剤層は集電体の両面に形成されてもよいし、いずれか一方の面のみに形成されてもよい。
【0077】
電極合剤層の厚さは、片面当たり通常は30〜600μmであり、好ましくは70〜350μmである。また、電極合剤層をプレスして密度を高めてもよい。また、電極合剤層の目付量は、通常は50〜1000g/mであり、好ましくは100〜500g/mである。
【0078】
前記混合工程以降、前記塗布工程までの間、電極合剤の温度を、好ましくは上記TC10以下、より好ましくはTC10−5℃以下、さらに好ましくはTC10−10℃以下、また、好ましくは分散媒を構成する最大成分の融点以上、より好ましくは0℃以上、さらに好ましくは5℃以上に維持する。上述の温度範囲内で電極合剤の温度を維持することにより、電極合剤の粘度上昇が抑制され、電極合剤の安定性および集電体への塗布性等を向上させることができる。
【0079】
本実施形態に係る電極は、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極として用いることができる。
【0080】
[まとめ]
本実施形態に係る電極合剤は、フッ化ビニリデン系ポリマーと、分散安定剤と、活物質と、分散媒と、を含む電極合剤であって、
前記フッ化ビニリデン系ポリマーにおいて、レーザー回折散乱法で決定されるメディアン径が500μm以下であり、
示差走査型熱量測定における1回目の昇温での最大融解ピーク温度Tm1が130℃以上であり、
平行平板型レオメータを使用して25℃から80℃まで5℃/分の昇温速度で前記電極合剤を加熱しながら10rad−1の角周波数で複素粘度を測定するとき、30℃における複素粘度の10倍の複素粘度に達する温度をTC10とすると、TC10が40℃以上80℃以下である。
【0081】
前記フッ化ビニリデン系ポリマーを6重量%の濃度で25℃のN−メチルピロリドンに分散させた分散液を25℃においてせん断速度100s−1で測定した粘度をXとし、
前記フッ化ビニリデン系ポリマーを6重量%の濃度で70℃のN−メチルピロリドンに溶解した溶液を25℃においてせん断速度100s−1で測定した粘度をYとしたとき、
Xに対するYの割合が5以上であることが好ましい。
【0082】
前記分散安定剤は、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ニトリルゴム、ポリ(メタ)アクリル酸およびそのエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ならびにセルロースエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの分散安定剤であって、分散媒に溶解した状態で用いられる。
【0083】
分散媒に分散した状態で用いられる本発明のフッ化ビニリデン系ポリマーまたは前記分散安定剤として用いられるポリフッ化ビニリデンが、水酸基、カルボキシル基、スルホ基およびアミド基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を0.03mol%以上5mol%以下含むフッ化ビニリデン系ポリマーであることが好ましい。
【0084】
前記フッ化ビニリデン系ポリマーまたは前記分散安定剤が、(メタ)アクリル酸変性フッ化ビニリデン系ポリマーまたはカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル変性フッ化ビニリデン系ポリマーであることが好ましい。
【0085】
前記活物質は、リチウム複合金属酸化物粒子が主成分であることが好ましい。
【0086】
前記分散媒が非プロトン性極性溶媒を含み、前記非プロトン性極性溶媒が、前記フッ化ビニリデン系ポリマーの良溶媒であることが好ましい。
【0087】
また、本実施形態に係る電極合剤の製造方法は、140℃以上の温度において、加熱処理されていない未処理フッ化ビニリデン系ポリマーを加熱処理してフッ化ビニリデン系ポリマーを得る工程を含む。
【0088】
また、本実施形態に係る電極合剤の製造方法は、さらに、乳化重合法によって重合させて前記未処理フッ化ビニリデン系ポリマーを調製する工程を含むことが好ましい。
【0089】
また、本発明の実施形態に係る電極の製造方法は、
前記電極合剤を調製する調製工程と、
前記電極合剤を集電体に塗布する塗布工程と、を含み、
前記調製工程は、前記フッ化ビニリデン系ポリマー粉末を、前記活物質または前記活物質および前記分散媒と混合させる混合工程を含み、
前記混合工程以降、前記塗布工程までの間、前記電極合剤の温度を前記TC10以下に維持する。
【0090】
また、前記調製工程において、前記フッ化ビニリデン系ポリマーをあらかじめ前記分散媒に分散した分散液を、前記活物質または前記活物質を含む分散液と混合させる工程を含むことが好ましい。
【0091】
また、本実施形態に係る電極の製造方法は、前記活物質または前記活物質を含む分散液を、前記フッ化ビニリデン系ポリマーと混合させる工程を含むことが好ましい。
【0092】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0093】
<<sPVDF1>>
以下の手順により未処理フッ化ビニリデン系ポリマー粉末sPVDF1を調製した。
【0094】
容積2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1024g、メチルセルロース0.2g、フッ化ビニリデンモノマー400g、50重量%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート−フロン225cb溶液1.2g、酢酸エチル1.9gの各量を仕込み、26℃で20時間懸濁重合を行った。得られた重合体スラリーを脱水、水洗し、更に乾燥を行い、未処理フッ化ビニリデン系重合体粉末sPVDF1を得た。乾燥は気流乾燥器を用い、熱風入口温度140℃、熱風出口温度80℃の条件で行った。得られた未処理フッ化ビニリデン系重合体粉末は、重量平均分子量は110万、メディアン径(D50)が194μm、Tm1が175.7℃であった。
【0095】
<<Mod−PVDF1>>
以下の手順により未処理フッ化ビニリデン系ポリマー粉末Mod−PVDF1を調製した。
【0096】
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水925g、メトローズ(登録商標)SM−100(信越化学工業(株)製)0.65g、50重量%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート−フロン225cb溶液4.0g、フッ化ビニリデン(VDF)421g、およびアクリロイロキシエチルコハク酸(AES)0.22gの各量を仕込み、26℃まで1時間で昇温した。その後、26℃を維持し、3重量%アクリロイロキシエチルコハク酸水溶液を0.19g/minの速度で徐々に添加した。アクリロイロキシエチルコハク酸は、初期に添加した量を含め、全量2.92gを添加した。重合は、アクリロイロキシエチルコハク酸水溶液添加終了と同時に停止した。得られた重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥してMod−PVDF1を得た。重量平均分子量は80万、メディアン径(D50)が180μm、Tm1が169.3℃であった。
【0097】
得られたVDF/AES共重合体について、H NMR測定より以下の手順でAES導入量を測定した。
【0098】
H NMR測定)
共重合体のH NMRスペクトルを下記条件で求めた。
【0099】
装置:Bruker社製、AVANCE AC 400FT NMRスペクトルメーター
測定条件
周波数:400MHz
測定溶媒:DMSO−d
測定温度:25℃
【0100】
H NMRスペクトルで、主としてAESに由来する4.19ppmに観察されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.24ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルとの積分強度に基づき得られたVDF/AES重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)(VDF量)は、99.64モル%であった。また、アクリロイロキシエチルコハク酸に由来する構成単位の量(モル%)(AES量)は0.36モル%であった。
【0101】
<<ePVDF1>>
未処理フッ化ビニリデン系ポリマー粉末ePVDF1として、アルケマ社製のPVDF粉末(商品名kynar(登録商標) HSV900)を用いた。重量平均分子量は66万、メディアン径(D50)は5μmで、Tm1が161.0℃であった。
【0102】
[製造例1]フッ化ビニリデン系ポリマー粉末1〜18の製造
フッ化ビニリデン系ポリマー粉末14、15としてはePVDF1をそのまま用いた。フッ化ビニリデン系ポリマー粉末1〜13および18の製造においては、未処理フッ化ビニリデン系ポリマー粉末としてePVDF1を用いて熱処理、冷却処理、および後処理を行った。
【0103】
フッ化ビニリデン系ポリマー粉末16としてはsPVDF1をそのまま用い、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末17の製造においては、未処理フッ化ビニリデン系ポリマー粉末としてsPVDF1を用いて熱処理、冷却処理、および後処理を行った。
【0104】
<熱処理>
幅30cm、長さ21cm、高さ2cmのステンレス製のバットの上に、未処理フッ化ビニリデン系ポリマー粉末8gをステンレスバット底面上に均一に広げた。次いで、ステンレスバットにアルミ箔で蓋をし、162℃の温度に調整した熱風循環炉(楠本化成製、商品名HISPEC HT210S)の中に入れ、1時間保持した。
【0105】
<冷却>
熱処理して得られたフッ化ビニリデン系ポリマーを、ステンレスバットに載せたまま熱風循環炉から取り出し、室温の鉄板上に置いて急冷した。この時フッ化ビニリデン系ポリマーの温度は30秒後の時点で80℃に到達していた。そのまま室温雰囲気下で30℃まで放冷した。乳鉢に、冷却したフッ化ビニリデン系ポリマー4gを入れ、乳棒を用いて解砕した。解砕したフッ化ビニリデン系ポリマーをエタノールに分散し、目開き45μmの篩でエタノールを流下しながら篩分して疎粉を除去した。60℃で5時間保持してエタノールを揮散させ、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末1を得た。
【0106】
また、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末2〜18を、表1に記載の熱処理条件、冷却方法、および後処理方法(解砕または粉砕)で、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末1と同様の手順で製造した。徐冷による冷却は、0.5℃/分で100℃まで冷却し、その後室温下で放冷することによって冷却した。また、後処理方法(粉砕)は、日本分析工業製冷凍粉砕機JFC−300を用いて粉砕した。試料容器に熱処理済フッ化ビニリデン系重合体粉末約0.8gおよびタングステンカーバイト鋼球を入れ、蓋をした。冷媒に液体窒素を用いて予備冷却10分、粉砕時間15分、往復動回数1450rpmの条件で凍結粉砕を行い、凍結粉砕済熱処理フッ化ビニリデン系重合体粉末を得た。これを5回繰り返し、得られた凍結粉砕済熱処理フッ化ビニリデン系重合体粉末をエタノールに分散して混合した。60℃で5時間保持してエタノールを揮散させ、熱処理フッ化ビニリデン系重合体粉末を得た。
【0107】
【表1】
【0108】
[評価例1]各フッ化ビニリデン系ポリマー粉末の評価
〔6%NMP分散液の粘度の測定〕
25℃のN−メチルピロリドン(NMP)94重量部を三角フラスコに秤量し、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながらフッ化ビニリデン系ポリマー粉末6重量部を投入し、25℃で3時間撹拌した。得られた分散液(以下、「6%NMP分散液」と略記する場合がある)について粘度測定を行った。粘度測定には、TAインスツルメント製G2レオメータを使用し、50mmのパラレルプレートを使用してギャップ間距離を0.5mmに設定した。そして、25℃においてせん断速度100s−1で30秒間粘度測定を行い、6%NMP分散液の粘度を決定した。また、試料の調製操作においてフッ化ビニリデン系ポリマー粉末が溶解し、溶液となった場合にも同様の手順によって測定を行った。
25℃においてせん断速度100s−1で測定した粘度をXとした。
【0109】
〔6%NMP溶液の粘度の測定〕
25℃のNMP94重量部を三角フラスコに秤量し、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながらフッ化ビニリデン系ポリマー粉末6重量部を投入し、70℃で5時間加熱撹拌し、室温まで放冷した。得られた溶液(以下、「6%NMP溶液」と略記する場合がある)について粘度測定を行った。粘度測定には、TAインスツルメント製G2レオメータを使用し、50mmのパラレルプレートを使用してギャップ間距離を0.5mmに設定した。そして、25℃においてせん断速度100s−1で30秒間粘度測定を行い、6%NMP分散液の粘度を決定した。70℃のNMPに溶解した溶液を25℃においてせん断速度100s−1で測定した粘度をYとした。
【0110】
〔GPCによる分子量の評価〕
フッ化ビニリデン系重合体粉末の分子量は、フッ化ビニリデン系重合体粉末を濃度0.1重量%で溶解したN−メチルピロリドン溶液について、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(日本分光株式会社製;GPC−900、shodex KD−806Mカラム、温度40℃)を用いることにより、ポリスチレン換算の重量平均分子量として測定した。
【0111】
〔フッ化ビニリデン系ポリマー粉末のメディアン径の測定方法〕
メディアン径の測定には、マイクロトラック・ベル製のレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3300EXII)を使用し、水を媒体として湿式で測定した。フッ化ビニリデン系ポリマー粉末0.5gをエタノール1gで湿潤させた後、水9gを加えて攪拌混合した。その後、サンノプコ株式会社製SNウェット366(脂肪族ポリエーテル型非イオン性界面活性剤からなる湿潤剤)の1%希釈液を0.6g加え、混合した。上記混合物を標準試料循環機に導入しメディアン径(D50)を決定した。測定において、粒子透過性は透過モード、粒子形状は非球形モード、粒子屈折率は1.42、溶媒屈折率は1.333に設定した。
【0112】
〔示差走査型熱量分析測定(DSC測定)〕
加熱処理されていない未処理フッ化ビニリデン系ポリマー粉末、および加熱処理したフッ化ビニリデン系ポリマー粉末のDSC測定を、メトラートレド社製DSC1を用い、JIS K7122−1987に準じて行った。
【0113】
アルミ製サンプルパンに試料約10mgを精秤した。50mL/minの流量で窒素を供給し、以下の条件で測定を実施した。
1回目の昇温:30℃から230℃まで毎分5℃の速度で昇温
1回目の冷却:230℃から30℃まで毎分5℃の速度で降温
2回目の昇温:30℃から230℃まで毎分5℃の速度で昇温
1回目の昇温での最大融解ピーク温度をTm1、2回目の昇温での最大融解ピーク温度をTm2とした。また、1回目の昇温で得られるDSC曲線において、Tm2より低温側のピーク面積をΔH1、Tm2より高温側のピーク面積をΔH2とした。また、ΔH1に対するΔH2の割合rH(ΔH2/ΔH1)を算出した。
【0114】
各評価結果を表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
〔考察〕
表2に示すように、未処理フッ化ビニリデン系ポリマーの融点以上で加熱処理を行ったフッ化ビニリデン系ポリマー1〜13および18は、Y/Xが5以上であった。一方、加熱処理を行っていないフッ化ビニリデン系ポリマー14、15は、Y/Xが1であった。また、加熱処理を行ったフッ化ビニリデン系ポリマー17は、Y/Xが5以上であったが、D50の値が大きく、表3に示されるように電極平滑性が悪く、電極合剤の原料としては適さないことが分かった。
【0117】
以上の結果から、融点以上で加熱処理をして得られた、メディアン径が50μm以下のフッ化ビニリデン系ポリマーは、Y/Xが5以上であり、高結晶性の結晶相が多く形成されたことが分かった。これにより、当該フッ化ビニリデン系ポリマーは室温付近では溶媒に溶解せず、高温域で溶媒に溶解するので、電極合剤の原料として用いられたときに、電極合剤の粘度を抑制することができることが分かった。
【0118】
[製造例2]バインダー組成物の調製
25℃のNMP80重量部を三角フラスコに秤量し、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末1〜3および5〜13、17、18をそれぞれ20重量部投入し、25℃で3時間攪拌してバインダー組成物を調製した。
【0119】
フッ化ビニリデン系ポリマー粉末14、15、16は6%の濃度でNMP中で70℃で5時間加熱撹拌して溶液化した後放冷し、使用した。
【0120】
[製造例2−1]分散安定剤の調製
25℃のNMP94重量部を三角フラスコに秤量し、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、Mod−PVDF1またはsPVDF1をそれぞれ6重量部投入し、70℃で5時間加熱攪拌して分散安定剤の溶液を調製した。
【0121】
[製造例3]電極合剤の調製
正極活物質として日本化学工業製のコバルト酸リチウム(C5H)を使用し、導電助剤としてイメリス・グラファイト&カーボン製のカーボンブラック(SUPER P)を使用し、分散媒として純度99.8%のN−メチルピロリドン(NMP)を使用して、活物質を含む分散液を調製した。配合比は、C5H:SUPER P:PVDF:分散安定剤=100:2:1:1とした。PVDFとしては上述のフッ化ビニリデン系ポリマー粉末1を20%の濃度でNMPに分散させたバインダー組成物を使用し、分散安定剤としてはMod−PVDF1を6%の濃度でNMPに溶解したバインダー溶液を使用した。
【0122】
C5Hを40gとSUPER P0.8gをポリプロピレン製容器に精秤し、シンキー製の混練機(泡取り練太郎)を用いて800rpmで1分間撹拌混合した。試料温度が25℃になるまで放冷した後、分散安定剤(Mod−PVDF1の6%NMP溶液)4.45g(分散安定剤総添加量の2/3)およびNMP3.64gを追加して合剤の不揮発分濃度が84%になるように調整した。スパチュラで混ぜ合わせた後に泡取り練太郎を用いて2000rpmで3分間混練を行った(一次混練工程)。再度、試料温度が25℃になるまで放冷した後、バインダー組成物2.00gおよび残りの分散安定剤(Mod−PVDF1の6%NMP溶液2.22g)、NMP3.1gを追加して合剤の不揮発分濃度が74%になるように調整した。スパチュラで混ぜ合わせた後に泡取り練太郎を用いて800rpmで2分間混練を行い、電極合剤を得た(二次混練工程)。混練後の試料温度は28℃であった。合剤の調製後、電極合剤は25℃で保管した。
【0123】
フッ化ビニリデン系ポリマー2、3、5〜13、15、17、18については表3に記載の分散安定剤種類、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末と分散安定剤の配合比、となるように各材料の添加量を調整して合剤を調製した。二次混練工程でスラリーの不揮発分濃度が表3記載のN.V.値となるようにNMPの添加量を調整したこと以外は製造例3と同様に実施した。バインダーと組成物添加後の試料温度はいずれも25℃以上30℃未満であった。
【0124】
フッ化ビニリデン系ポリマー14、16については、一次混練工程においてバインダー組成物の1/3を添加し、スラリーの不揮発分濃度が84%になるようにNMPの添加量を調整した。二次混練工程において残りのバインダー組成物を添加し、スラリーの不揮発分濃度が表3記載のN.V.値となるようにNMPの添加量を調整した。それ以外の操作については製造例3と同様に実施した。
【0125】
フッ化ビニリデン系ポリマー4については、バインダー組成物に代えてフッ化ビニリデン系ポリマー粉末を使用したこと、二次混練工程でスラリーの不揮発分濃度が表3記載のN.V.値となるようにNMPの添加量を調整したこと以外は製造例3と同様に合剤を調製した。フッ化ビニリデン系ポリマー粉末添加後の試料温度は25℃以上30℃未満であった。
【0126】
[製造例3−1]電極合剤19の調製
フッ化ビニリデン系ポリマーとして、製造例1で得られたフッ化ビニリデン系ポリマー2を用いた。バインダー組成物、分散安定剤および電極合剤の調製において、NMPに代えてNMPとDMFとの混合溶媒(NMP/DMF=90/10)を分散媒として用いた以外は、製造例2、製造例2−1および製造例3と同様にして合剤19を調製した。
【0127】
[製造例3−2]電極合剤20の調製
フッ化ビニリデン系ポリマーとして、製造例1で得られたフッ化ビニリデン系ポリマー2を用いた。バインダー組成物、分散安定剤および電極合剤の調製において、NMPに代えてNMPとDMFとの混合溶媒(NMP/DMF=50/50)を分散媒として用いた以外は、製造例2、製造例2−1および製造例3と同様にして合剤20を調製した。
【0128】
[製造例4]電極の製造
製造例3、3−1および3−2で得られた電極合剤をそれぞれ、サンクメタル製コータードライヤーGT−3を用いて15μmのアルミ箔上に塗布して乾燥させて電極を得た。乾燥炉は炉長1mの3ゾーンからなり、各乾燥炉内の温度は110℃とした。コーティングはコンマリバース方式で行い、塗布速度は毎分0.6mとし、塗布幅60mm、塗布長30cmでギャップ間距離を変えて複数の電極を間欠塗工した。塗り始めとなる1パターン目の電極は廃棄した。片面目付量200±20g/mの電極を評価用電極とした。電極は両端部を切り落として幅50mmとした。
【0129】
[評価例2]
〔電極合剤の粘度測定〕
E型粘度計(東機産業(株)製「RE550R型」)を使用し、3°×R14のローターを使用し、25℃、せん断速度2s−1で300秒間測定を行った。300秒後の粘度値を電極合剤の粘度とした。
【0130】
〔電極合剤の複素粘度測定〕
測定にはTAインスツルメント製G2レオメータを使用し、50mmのパラレルプレートを使用してギャップ間距離を0.5mmに設定した。加熱による溶剤の揮散を防ぐため、ソルベントトラップキットを使用した。歪み0.2%、角周波数10rad/sで25℃から80℃まで毎分5℃の速度で昇温しながら各試料温度における電極合剤の複素粘度を測定し、30℃における複素粘度の値の10倍に達する温度としてTC10を決定した。
【0131】
〔電極の塗工端形状の評価〕
コータードライヤーを用いて間欠塗工によって調製した電極合剤層について、塗工開始端部の塗工端形状を評価した。塗布開始端部において塗工方向に生じるかすれまたは塗工不良部の長さ(以下、「塗工端歪み」と略記する場合がある)が2mm未満である場合を良好、5mm未満である場合を可、5mm以上である場合を不良とした。
【0132】
〔電極の平滑性の評価〕
山文電気製の卓上型オフラインシート厚み計測装置TOF−5R01を使用し、上述の乾燥後の塗工電極の平滑性を評価した。電極は塗工方向に長さ10cm、これと垂直に幅5cmに切り出した。この試験片について、電極塗布面側にプローブを当て、長手方向に4cm、各1mmのピッチで厚み測定を行った。得られた41点の厚みデータについて変動係数を求めた。得られた変動係数が10%未満である場合を良好、10%以上20%未満である場合を可、20%以上である場合を不良とした。
【0133】
〔電極の剥離強度の評価〕
上述の乾燥後の塗工電極の剥離強度は、電極塗膜面とプラスチックの厚板(アクリル樹脂製、厚さ5mm)とを両面テープで張り合わせ、JIS K6854−1に準じて90°剥離強度試験によって求めた。試験速度は10mm毎分とした。
【0134】
バインダー組成物、電極合剤および電極の評価結果を表3に示す。表3中、「N.V.」は不揮発分濃度を示す。また、「N.D.」は、30℃における複素粘度の値の10倍になる温度に試験範囲では到達しなかったことを示す。剥離強度について「−」は評価を実施していないことを示す。
【0135】
【表3】
【0136】
フッ化ビニリデン系ポリマー粉末1〜11を用いた電極合剤について、TC10が50℃以上と高温だった。フッ化ビニリデン系ポリマー粉末14、15、16を用いた電極合剤について、30℃における複素粘度の値の10倍になる温度に試験範囲では到達しなかった。また、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末12〜13を用いた電極合剤について、TC10は48℃以下だった。フッ化ビニリデン系ポリマー粉末17を用いた電極合剤について、TC10が59.7℃であったが、フッ化ビニリデン系ポリマー粉末のD50の値が大きく、得られた電極の平滑性は20%以上(不良)であり、電極合剤としては優れていないことが分かった。また、分散媒としてNMPとDMFとの混合溶媒を用いた電極合剤19および20についても、TC10が50℃以上と高温だった。
【0137】
また、フッ化ビニリデン系ポリマー18はフッ化ビニリデン系ポリマー8〜11と同様の処理を行っているが、電極合剤において分散安定剤を含有していない。電極合剤の粘度測定中にスラリーの分離が生じるために合剤粘度が過度に低く、塗工電極端部の直線性が悪く、塗布電極の平滑性にも劣っている。したがって、電極合剤の配合としては適さないことが分かった。
【0138】
以上の結果より、融点以上で加熱処理をして得られた、メディアン径が50μm以下のフッ化ビニリデン系ポリマー粉末をバインダーとして用いることにより、固形分濃度が高く、TC10が高温であり、粘度上昇が抑制された電極合剤が得られるとともに、良好な電極が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、リチウムイオン二次電池の電極の製造において、集電体に塗布される電極合剤として利用することができる。
図1