特許第6883163号(P6883163)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883163
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】水晶解析方法及びそのシステム
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/04 20060101AFI20210531BHJP
   H01L 41/22 20130101ALI20210531BHJP
   G01N 33/24 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   H01L41/04
   H01L41/22
   G01N33/24 A
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-197335(P2019-197335)
(22)【出願日】2019年10月30日
(62)【分割の表示】特願2014-173508(P2014-173508)の分割
【原出願日】2014年8月28日
(65)【公開番号】特開2020-74393(P2020-74393A)
(43)【公開日】2020年5月14日
【審査請求日】2019年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】501399245
【氏名又は名称】有限会社マクシス・ワン
(74)【代理人】
【識別番号】100090413
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 康稔
(72)【発明者】
【氏名】小林 了
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昇
【審査官】 小山 満
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−183415(JP,A)
【文献】 特開2010−177976(JP,A)
【文献】 米国特許第06230113(US,B1)
【文献】 特開平11−298278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/00−41/47
G01N 33/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面の中心に平坦面が形成されており、この平坦面から端に向かって厚みを減少させて曲面を形成した形状の水晶振動子の振動特性を解析する水晶解析方法であって、
解析対象となる水晶振動子の前記形状のデータを入力するステップ,
該ステップによって入力された形状のデータに基づいて、前記振動特性を解析するステップ,
該ステップによる解析結果を出力するステップ,
前記形状のデータを変更して繰り返し前記振動特性を解析する際に、前記形状の曲率半径の数値を大きく設定するステップ,
を備えたことを特徴とする水晶解析方法。
【請求項2】
主面の中心に平坦面が形成されており、この平坦面から端に向かって厚みを減少させて曲面を形成した形状の水晶振動子の振動特性を解析する水晶解析システムであって、
解析対象となる水晶振動子の前記形状のデータを入力する入力手段,
この入力手段によって入力された形状のデータに基づいて、前記振動特性を解析する解析手段,
この解析手段の解析結果を出力する出力手段,
前記入力手段による形状のデータを変更して繰り返し前記解析手段による解析を行う際に、前記形状の曲率半径の数値を大きく設定する曲率半径設定手段,
を備えたことを特徴とする水晶解析システム。
【請求項3】
前記曲率半径の数値を大きく設定することで、水晶振動子の等価直列抵抗値を小さくすることを特徴とする請求項2記載の水晶解析システム。
【請求項4】
前記入力手段では、解析対象の水晶振動子の形状測定装置による測定データ,もしくは、既存の形状データが入力されることを特徴とする請求項2又は3記載の水晶解析システム。
【請求項5】
前記解析手段は、機械的な特性の解析を行う解析手段と、電気的な特性の解析を行う解析手段の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の水晶解析システム。
【請求項6】
前記入力手段,出力手段及び曲率半径設定手段を含む少なくとも一つの入出力端末を、ネットワークを通じて前記解析手段に接続したことを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の水晶解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶の形状に伴う特性を解析する解析方法及びそのシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の水晶振動子(圧電振動子も含む。)の開発・設計作業は、熟練技術者の経験と勘に基づいて、以下の手順で行われているのが現状である。
a,まず、要求されるインピーダンスなどの仕様に対し、熟練技術者の経験と勘に基づいて、べベル加工、平板加工のいずれを施すかを決める。すなわち、べベル形状やフラット寸法など、インピーダンスに最も影響のある形状の数値化された値は存在しない。このため、要求される仕様を満たすべく、熟練技術者による多くの経験と勘のみが頼りの作業となる。
b,次に、これも熟練技術者の経験と勘に基づく作業であるが、試作のブランクを設計製作し、インピーダンスの傾向を見る予備作業を行う。例えば、500〜1000個ほどの水晶ブランクの現物を試作し、電極を形成してパッケージに収納し、インピーダンス特性を確認する。水晶振動子と温度補償発振回路を一つのパッケージに組み込んだ温度補償水晶発振器(TCXO)では、集積回路(IC)を搭載して試験を重ねる。あらゆる加工には公差を伴うため、CI値(クリスタルインピーダンス値)が大きく変動する。そこで、多くのサンプルを測定し、統計処理を行う方法で等価定数を求める。このとき、ネットワークアナライザ(N/A)で正確に等価定数を測定するためのπ回路も数種類準備する必要がある。スプリアス(DIP),温度特性(TC),その他の特性も、同時に測定して確認する。
c,以上の作業を行って、要求仕様を満たしたものができれば問題ない。しかし、通常はこれを3回〜5回繰り返すことになり、熟練の技術者が行っても3〜6か月の期間を要する。
d,次に、数千〜1万個の量産試作を行い、歩留まりの確認を行う。理想的には90%以上を目指す。もし歩留まりが低ければ、前記aからの作業を繰り返す。
【0003】
以上の作業を実行するために、測定設備の準備,水晶ブランクの洗浄,電極の蒸着,接着剤の塗布,パッケージの蓋のシーム溶接など、多数の工数とそれを行う作業者の確保など、膨大な費用が必要となる。
【0004】
水晶振動子を効率よく製造する方法として、例えば下記特許文献1記載の製造手法がある。これによれば、まず、水晶振動子素板を水晶振動子ベースに載置する。一方、水晶振動子の振動シミュレーションデータに基づいて水晶振動子の電極形状データを算出し、これをCADシステムに自動的に転送する。そして、CADシステムのデータを、電極材料を飛散させる装置に送り、この装置によって水晶振動子素板の主面上に任意形状の電極形成をしながら同時に先の水晶振動子素板の周波数調整を行うとともに、蓋を被せて気密封止して水晶振動子を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-129299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水晶振動子のインピーダンスや周波数は、電極形状のみならず、ブランクベベルの形状,表面粗さ,電極形成用マスクの形状寸法,リード(端子)の形状,接着剤の条件など、多くの要因によって変動し、必要とされる仕様の許容範囲に収まるものを製造することは容易ではない。
【0007】
本発明は、以上のような点に着目したもので、その目的は、各種の要因があったとしても、全体として短時間で必要な仕様の水晶振動子を設計することである。他の目的は、熟練を要することなく、水晶振動子の設計を行うことである。更に他の目的は、製造過程における歩留まりの向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水晶解析方法は、主面の中心に平坦面が形成されており、この平坦面から端に向かって厚みを減少させて曲面を形成した形状の水晶振動子の振動特性を解析する水晶解析方法であって、解析対象となる水晶振動子の前記形状のデータを入力するステップ,該ステップによって入力された形状のデータに基づいて、前記振動特性を解析するステップ,該ステップによる解析結果を出力するステップ,前記形状のデータを変更して繰り返し前記振動特性を解析する際に、前記形状の曲率半径の数値を大きく設定するステップ,を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明の水晶解析システムは、主面の中心に平坦面が形成されており、この平坦面から端に向かって厚みを減少させて曲面を形成した形状の水晶振動子の振動特性を解析する水晶解析システムであって、解析対象となる水晶振動子の前記形状のデータを入力する入力手段,この入力手段によって入力された形状のデータに基づいて、前記振動特性を解析する解析手段,この解析手段の解析結果を出力する出力手段,前記入力手段による形状のデータを変更して繰り返し前記解析手段による解析を行う際に、前記形状の曲率半径の数値を大きく設定する曲率半径設定手段,を備えたことを特徴とする。
【0010】
主要な形態の一つによれば、前記曲率半径の数値を大きく設定することで、水晶振動子の等価直列抵抗値を小さくすることを特徴とする。他の形態の一つによれば、前記入力手段では、解析対象の水晶振動子の形状測定装置による測定データ,もしくは、既存の形状データが入力されることを特徴とする。更に他の形態によれば、前記解析手段は、機械的な特性の解析を行う解析手段と、電気的な特性の解析を行う解析手段の少なくとも一方を含むことを特徴とする。更に他の形態によれば、前記入力手段,出力手段及び曲率半径設定手段を含む少なくとも一つの入出力端末を、ネットワークを通じて前記解析手段に接続したことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水晶振動子の主面中心の平坦面から端に向かって厚みを減少させて形成した曲面の形状の曲率半径を大きく設定することで、等価直列抵抗を抑制することとしたので、ばらつきが低減され、熟練を要することなく、短時間で必要な仕様の水晶振動子を設計することができ、製造過程における歩留まりの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)は水晶振動子の等価回路図、(B)は本発明の基本的な考え方を示す説明図である。
図2】本発明の実施例にかかる解析システムの構成を示すブロック図である。
図3】前記実施例の固有値振動解析における入力データと演算内容と出力データの一例を示す図である。
図4】前記実施例の圧電弾性振動解析における入力データと演算内容と出力データの一例を示す説明図である。
図5】前記実施例における形状測定装置の一例を示すブロック説明図である。
図6】前記形状測定装置における撮影画像と測定形状の一例を示す説明図である。
図7】シミュレーション動作の全体を示すフローチャートである。
図8】前記シミュレーション動作における入力画面の一例を示す図である。
図9】前記シミュレーション動作における電極形状の設定画面の一例を示す図である。
図10】シミュレーション結果の一例を示す図である。
図11】シミュレーション結果の一例を示す図である。(A)は振動領域を示し、(B)〜(E)はベベル形状を示す。
図12】シミュレーション結果の一例を示す図である。(A)は振動領域を示し、(B)〜(E)はベベル形状を示す。
図13】シミュレーション結果の一例を示す図である。(A)は振動領域を示し、(B)〜(E)はベベル形状を示す。
図14】シミュレーション結果の一例を示す図であり、(A)はアドミタンスの変化を示すグラフ、(B)はナイキスト線図である。
図15】(A)は曲率半径とアドミタンスとの関係の一例を示すグラフ、(B)は曲率半径の設定画面の一例を示す図である。
図16】サンプルの等価直列抵抗値の測定結果を、従来手法と本発明の手法について対比して示すグラフである。
図17】本発明の実施例2の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
最初に、図1を参照しながら本発明の基本的な原理を説明する。水晶振動子は、よく知られているように、図1(A)に示すような等価回路で表される(例えば、株式会社テクノ発行,岡野庄太郎著「水晶周波数制御デバイス」を参照)。同図において、等価直列抵抗R1は、等価直列キャパシタンスC1及び等価直列インダクタンスL1と直列に接続されており、これらR1,C1,L1と並列に等価並列キャパシタンスC0が接続されている。なお、他に、水晶振動子が収納されるケースとの間の浮遊容量や電極容量があるが、これらは等価並列キャパシタンスC0に含めて考慮している。これらのうち、等価直列抵抗R1は、振動子の損失に対応するもので、最も重要な要素でありながら、変動幅が大きい。
【0015】
ところで、統計学ないし確率論で知られているように、独立な多数の因子の和として表される確率変数は正規分布に従っており、水晶ブランクのような人工加工物でも、その形状等は必ず公差を伴い、そのバラツキは正規分布となる。このような観点から、多数の水晶ブランクの回路定数も、そのばらつきは正規分布となると考えられる。
【0016】
上述した等価直列抵抗R1に着目すると、図1(B)に示すようにその測定値は変動し、通常はMax(最大),Min(最少),Ave(平均)として表現されるほどである。このような実測値Riの変動は、ブランクべベルの形状,表面粗さ,マスクの形状寸法,リード,接着剤などの条件にそれぞれ公差があり、それら多くの公差の結果生じたもので、シミュレーションから得られる理想の等価直列抵抗理想値R1の関数と考えることができ、変動要因をxとすると、次の(1)式のようになる。
Ri=R1×FP(x) ・・・(1)
【0017】
このように考えると、仮に等価直列抵抗理想値R1を1/2にすれば、その分布FP(x)の範囲も自ずから1/2に収れんしてFQ(x)になると考えられる(矢印F1参照)。すなわち、水晶振動子の設計において、等価直列抵抗理想値R1を小さくするように設計すれば、バラツキの分布も狭くなり、結果的に歩留まりの向上を図ることができる。加えて、水晶振動子における等価直列抵抗理想値R1は、回路的には損失を表すので、その点からも小さいほうがよい。なお、このような考察は、他の等価回路定数についても同様であるが、上述したように等価直列抵抗理想値R1は、最も重要な要素で変動幅も大きいので、他の等価回路定数を小さくする場合よりも好都合である。
【0018】
ところで、等価直列抵抗理想値R1は、ナイキスト図による解析から、水晶ブランクのべベル形状の曲率半径(フラット寸法)を大きくすることで容易に小さくすることが可能となる。詳述すると、水晶ブランクの振動領域(振動部分の面積)deは、ベベル形状の曲率半径をRc,周波数をfとしたとき、次の(2)式で表される。
de={2.06√(Rc)}/f ・・・(2)
【0019】
これによれば、振動領域deは周波数fに反比例する。すなわち、周波数が低いと振動領域deは広くなってブランク全体が振動するようになる。逆に周波数が高いと振動領域deは狭くなり、ブランクは部分的に振動するようになる。一方、ベベル形状の曲率半径Rcの変化は、その√での影響にとどまり、曲率半径Rcを変化させても振動領域deへの影響は小さく、無視しても差し支えない程度である。
【0020】
等価直列抵抗実測値Riのばらつきは、水晶ブランクの主面の粗さ,ベベル形状の曲率半径Rc,周波数fに依存する振動領域deが主な原因であると考えられる。蒸着電極は、膜厚が一定量を超えると抵抗の変化は極めて少ないので、蒸着膜厚のバラツキは無視してよいと考えられる。
【0021】
以上のような点からすると、上述した(1)式の変動要因xとしては、周波数f,ベベル形状の曲率半径Rc,主面の粗さSv等が考えられ、前記(1)式は、次の(3)式のようになる。
Ri=R1×F(f,Sv,Rc,・・・) ・・・(3)
【0022】
ベベル形状の曲率半径Rcを大きくすることは、フラット寸法を大きくすることになるが、水晶ブランクが平板に近づくことにもつながり、しいては等価直列抵抗理想値R1が小さくなる。等価回路のナイキスト図で求めたR1は、理想の値であって、極めて信頼性があるので、変化に対する基準の値として有効であると考えられ、ベベル形状の曲率半径Rcの変化を管理可能な数字の指標に適用させると、等価直列抵抗理想値R1の値に収れんすることになる。このような理由から、ベベル形状の曲率半径Rcを、等価直列抵抗理想値R1が小さくなるように設定すれば、全体としてばらつきを小さく抑えることができると考えられる。
【0023】
以上のような原理から、本発明では、シミュレーションを行う際に、ベベル形状の曲率半径Rcを大きく設定してシミュレーションを繰り返すことで、等価直列抵抗の値を下げるようにしている。これにより、ばらつきの分布の範囲も全体として狭くなって、歩留まりの向上を図ることができる。
【0024】
次に、図2図8も参照しながら、本発明の解析システムについて説明する。図2には、本発明の解析システムの一実施例の構成が示されている。同図において、解析システム10は、シミュレーション装置100と、入出力端末200とによって構成されている。入出力端末200は、必要に応じて複数用意してもよい。
【0025】
これらのうち、シミュレーション装置100は、サーバーコンピュータによって構成されており、CPU110,プログラムメモリ120,データメモリ130を含んでいる。CPU110は、プログラムメモリ120に格納されているプログラムを実行するためのもので、十分な処理能力を確保するために複数台用意される。プログラムメモリ120は、水晶振動子の特性解析を行うためのシミュレーションプログラム122が用意されている。図示の例では、機械的な特性の解析を主として行う固有値振動解析プログラムPAと、電気的な特性の解析を主として行う圧電弾性振動解析プログラムPBが用意されている。データメモリ130は、入出力端末200から入力された入力データDA,入出力端末200に出力される出力データDB,シミュレーション途中において適宜保存する必要がある演算データDCを保存するためのものである。なお、必要に応じて、ディスプレイ,キーボード,プリンタなどが接続され、各種の入出力処理が行われるようになっている(図示せず)。
【0026】
入出力端末200は、例えばPC(パーソナルコンピュータ)210に、表示装置212,キーボードやマウスなどの入力装置214,プリンタ216が接続された一般的な構成となっている。PC210では入出力プログラムPQが実行されて、表示装置212上に入力画面や出力画面が表示されるようになっている。
【0027】
上述した固有値振動解析プログラムPAは、図3に示すように、水晶ブランクの形状データDAa,電極データDAb,切断データDAcに基づいて、弾性定数等の演算Eaや固有値振動解析Ebを行い、出力データDBaを出力する。形状データDAaには、例えば形状寸法や拘束条件データが含まれる。電極データDAbには、例えば電極材料密度や電極寸法が含まれる。切断データDAcには、例えば結晶の切断角度や温度データが含まれる。これらのデータは、新規に任意データDAdとして入力してもよいが、過去に行ったシミュレーションで使用した既存のデータDAeを使用してもよい。また、形状測定装置300で測定した測定データDAfをそのまま取り込んで使用してもよい。出力データDBaには、例えば、振動のモードチャート,周波数−温度特性などが含まれる。また、プログラム実行過程において保存される演算データDCaとしては、例えばマトリックスデータ,固有値,振動モードなどのデータが含まれる。
【0028】
圧電弾性振動解析プログラムPBの場合は、図4に示すように、水晶ブランクの形状データDAu,電極データDAv,切断データDAwに基づいて、弾性定数等の演算Euや圧電弾性振動解析Evを行い、出力データDBuを出力する。形状データDAuには、上述した形状寸法や拘束条件に加えて電極位置やサイズのデータも含まれる。電極データDAvには、上述した電極材料密度や電極寸法に加えて印加電圧のデータも含まれる。切断データDAwには、例えば結晶の切断角度や温度データが含まれる。これらのデータは、新規に任意データDAxとして入力してもよいが、過去に行ったシミュレーションで使用した既存のデータDAyを使用してもよい。また、形状測定装置300で測定した測定データDAzをそのまま取り込んで使用してもよい。出力データDBuには、例えば、アドミタンス特性,変位モード図,電位モード図などが含まれる。また、プログラム実行過程における演算データDCuとしては、例えば形状データ,マトリックスデータ,解析結果,アドミタンス,変位ベクトル,電位などのデータが含まれる。
【0029】
図5には、形状測定装置300の一例が示されており、データ処理部310と、光学計測部350を中心に構成されている。データ処理部310は、例えばパソコンなどによって構成されており、CPU312,プログラムメモリ320,データメモリ330を含んでいる。プログラムメモリ320には形状測定プログラム322が用意されており、これがCPU312で実行されることで、水晶ブランクの形状測定が行われるようになっている。データメモリ330には、測定データ332が保存され、表示装置370に表示されるようになっている。また、前記測定データ332は、図3図4に示した測定データDAf,DAzとして出力される。
【0030】
一方、光学計測部350は、撮像素子であるCCDカメラ352により、撮像光学系354を介してブランクトレイ356上の水晶ブランクを撮像できるようになっている。ブランクトレイ356は、位置調整テーブル358上に設置されており、これによってCCDカメラ352の視野内に水晶ブランクが位置するように調整可能となっている。
【0031】
上述した光学計測部350で撮像された水晶ブランクの画像データは、データ処理部310で測定及び解析が行われる。図6(A)には画像データの一例が示されており、図6(B)にはその解析後の平面、縦断面,横断面の測定結果の一例が示されている。
【0032】
次に、図7図16を参照しながら、本実施例の動作を説明する。図7は、全体の動作の流れを示すフローチャートである。この動作は、条件を変更して繰り返し行われる。
【0033】
図2の入出力端末200のPC210では入出力プログラムPQが実行される。作業者は、入力装置214を利用して、シミュレーションに必要なデータを入力して設定する(ステップSA)。過去に行ったシミュレーションにおける既存データを取り込むようにしてもよいし(ステップSB)、形状測定装置300から測定データを取り込むようにしてもよい(ステップSC)。入力データDAは、表示装置212に設定画面として表示される(ステップSD)。必要があれば、この設定画面上で入力データDAを変更する(ステップSE)。
【0034】
設定画面の一例を示すと図8のようになり、上述した入力データDAa,DAb,・・が表示されている。電極の条件設定画面の一例を示すと図9のようになる。同図(A)の画面には、電極形状の数値データDBa,DBb,平面画像Ha,横断面からみた高さの変化Hb,縦断面からみた高さの変化Hcが表示されている。同図(B)は、表示倍率などの条件DDが示されている。入力データDAは、シミュレーション装置100に送られ、データメモリ130に保存される。
【0035】
次に、シミュレーション装置100では、プログラムメモリ120に格納されているシミュレーションプログラム122がCPU110で実行される(ステップSF)。すなわち、固有値振動解析プログラムPAの場合は、図3に示した弾性定数等演算Eaや固有値振動解析EbがCPU110で実行される。圧電弾性振動解析プログラムPBの場合は、図4に示した弾性定数等演算Euや圧電弾性振動解析EvがCPU110で実行される。このとき、必要に応じて演算データDCa,DCbがデータメモリ130に保存される(ステップSG)。
【0036】
次に、シミュレーション結果は、出力データDBとして、データメモリ130に格納されるとともに、入出力プログラムPQによる表示処理が行われて入出力端末200に送られる。入出力端末200では、シミュレーション結果が表示装置212に表示される(ステップSH)。
【0037】
図10図14には、シミュレーション結果の出力画面の例が示されている。図10(A)はモードチャートの一例であり、縦軸は周波数、横軸は温度である。図示の例では、周波数19.2MHzの主振動に対して複数のスプリアスがあり、それらの交点から主振動に対するスプリアスの影響を知ることができる。同図(B)は温度特性の一例であり、縦軸はΔFないし振動強度、横軸は温度である。同図(A)に示す温度範囲において振動強度がどのように変化するかを示している。図示の例では、振動強度の変化は小さく、また、同図(A)の主振動とスプリアスの交点においても振動強度の特異な変動は見られず、スプリアスの影響がほとんどないことが推測される。
【0038】
図11図13は、ベベル形状の曲率半径が異なる3つのサンプルS1〜S3について示すものである。図中、(A)は電極を形成した状態での振動時における振動領域を三次元的に示したものである。(B)〜(E)は、図5に示した形状測定装置300で計測した水晶ブランクの形状を示すもので、(B)は平面形状,(C)は(B)の横断面形状,(D)は(B)を立体的に示したものである。(E)は形状に関するデータの数値を示したものである。図11図13のうち、図11のサンプルS1は、最も曲率半径が小さいベベル形状であり、図13のサンプルS3は最も曲率半径が大きい平坦なベベル形状であり、図12のサンプルS2はその中間のベベル形状である。具体的には、図11の例の曲率半径は、X:12.724mm,Y:7.173mmである。図12の例の曲率半径は、X:19.586mm,Y:13.058mmである。図13の例の曲率半径は、X:48.464mm,Y:21.286mmである。
【0039】
図14(A)はアドミタンス図であり、横軸は周波数,縦軸はアドミタンスである。同図(B)はナイキスト線図であり、横軸はコンダクタンス,縦軸はサセプタンスである。このグラフから、直列共振周波数Fs,低周波側半値周波数F1,高周波側半値周波数F2,中心サセプタンスBs,最大コンダクタンスGsを求めることで、図1(A)に示した等価回路定数R1,C1,L1,C0,Qの値を知ることができる。
R1=1/Gs
Q=Fs/|F2−F1|
C0=Bs/(2π*Fs) ・・・(3)
C1=1/(2π*Fs*Q*R1)
L1=Q*R1(2π*Fs)
【0040】
次に、作業者は、所望の結果が得られたと判断すれば(ステップSIのYes)、作業を終了し、得られないときは(ステップSIのNo)、入力データ変更して(ステップSJ)、再度シミュレーションを行う(ステップSF)。
【0041】
以上は、通常のシミュレーションの動作であるが、本実施例では、上述したように、ベベル形状の曲率半径を大きくするようにシミュレーションが行われる。曲率半径を大きくする設定は、図7のステップSA,SE,SJで必要に応じて行われる。図15(A)には、ベベル形状の曲率半径を変化させたときのアドミタンスの変化の一例が示されている。同図のように、曲率半径を大きくするとアドミタンスも大きくなっている。アドミタンスYとインピーダンスZはY=1/Zの関係にあるので、曲率半径を大きくすればインピーダンスは小さくなることになる。インピーダンスに最も寄与しているのは等価直列抵抗であることからすれば、曲率半径を大きくして、平坦なブランク形状とすることで等価直列抵抗値R1を小さくすることができ、図1(B)で示したように各種要因のばらつきの影響が低減されるようになる。平坦な形状のほうが、ベベルの加工時間を短縮できるという利点もある。
【0042】
図11〜13の(A)を比較すると、曲率半径が小さい図11図12のサンプルS1,S2は振動領域が広く、曲率半径が大きい図13のサンプルS3は振動領域が狭い。振動領域が狭いほど、不安定要因のばらつきの影響を受けにくくなるので、安定した振動が可能となると考えることもできる。なお、曲率形状を設定する画面は、例えば図15(B)に示すようになる。このような画面を参照しながら、作業者は、曲率半径を大きくするようにシミュレーションの条件を変更していく。
【0043】
図16には、共振周波数と等価直列抵抗値の関係の一例が示されている。同図は、上述した図11図13の各サンプルS1〜S3における等価直列抵抗値を比較したグラフであり、サンプルS1〜S3の共振周波数は、それぞれ24MHz,27MHz,37MHzである。グラフGRmax,GRminは従来手法による等価直列抵抗値の最大値,最小値を示し、グラフGRSmax,GRSminは本実施例によるシミュレーションによって得たサンプルの等価直列抵抗値の最大値,最小値を示している。
【0044】
これらのグラフを比較すると、等価直列抵抗値は、S1→S2→S3の順に小さくなっており、ベベル形状の曲率半径を大きくして平坦なブランク形状とすることで、等価直列抵抗値R1を小さくすることができる点で共通している。次に、従来手法の場合は、最大値と最小値のばらつきの幅が大きく開いているのに対し、本実施例の手法の場合は、等価直列抵抗値の最大値と最小値がほぼ一致しており、最大値と最小値のばらつきが良好に低減されている。
【0045】
ところで、図16において、グラフGRmax,GRminに着目し、サンプルS3からS2の方向にグラフを延長すると、サンプルS1の周波数24MHzにおいて、仮想サンプルの抵抗値Qmax,Qminを得ることができる。これら仮想サンプルの抵抗値Qmax,Qminの差ΔQを、サンプルS1の抵抗値Pmax,Pminの差ΔPと比較すると、ΔP>ΔQとなっている。すなわち、最大最小の分布が、サンプルS1よりも仮想サンプルの方が小さくなっている。これは、図1(B)に示したばらつきの分布FP(x)とFQ(x)の関係に対応していると見ることができ、サンプルS1よりも仮想サンプルの方がばらつきの範囲が狭い。別言すれば、サンプルS1は、仮想サンプルよりもベベル形状の曲率半径が必要以上に小さくなっており、不要な加工が行われているのであって、歩留まりも悪く、等価直列抵抗値も大きい。しかし、仮想サンプルであれば、加工時間も短縮されるとともに、ばらつきの分布も狭くなり、等価直列抵抗値も小さくなる。
【0046】
以上のように、本実施例によれば、次のような効果がある。
a,水晶ブランクの試作サンプルがない場合でも、コンピュータ上でゲーム感覚で作業を進めることができる。
b,熟練技術者のような特別の知識がなくても解析を行うことができ、数日〜1週間程度で最適な設計条件を得ることが可能である。
c,作業効率を大幅に効率化でき、作業時間も短縮でき、歩留まりが向上してコストを削減することができる。
【実施例2】
【0047】
次に、図17を参照しながら、本発明の実施例2について説明する。上述した実施例1は、図2に示したように、シミュレーション装置100と入出力端末200による組み合わせによって解析システム10を構成したが、本実施例では、ネットワークを利用して解析システムを構成している。図17に示すように、本実施例の解析システム500は、上述したシミュレーション装置100と入出力端末200の他に、入出力端末600,602を備えており、これらがインターネット502を介して接続された構成となっている。シミュレーション装置100は、入出力端末600を介してインターネット502に接続されており、直接はインターネット502には接続されておらず、入出力端末600がファイアウォールとしても機能するようになっている。入出力端末602は、必要に応じて複数台接続される。
【0048】
例えば、シミュレーション装置100,入出力端末200及び600を本社に設置し、入出力端末602を支社(研究所)に設置することで、本社のみならず支社においてもシミュレーションを行うことができる,シミュレーション装置100におけるシミュレーション結果を本社と支社との間で共有する,といった利点がある。また、シミュレーション装置100をシミュレーションサービスを提供する会社に設置し、入出力端末602を複数のシミュレーションを希望する会社にそれぞれ設置するようにすれば、それらの会社でシミュレーション装置100を共有することができる。別言すれば、シミュレーションサービス会社は多数の会社にサービスを提供することができる。更に、入出力端末602をホームページ上の入出力画面として提供し、Webからの入出力を可能とすることで、シミュレーションをWeb上のサービスとして提供するようにしてもよい。
【0049】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した画面や数値は一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。
(2)前記実施例では、作業者が、曲率半径の設定画面でその値を大きく設定することとしたが、曲率半径の最小値と最大値を予め設定し、適宜の刻み幅で曲率半径を自動的に変更してシミュレーションを自動的に繰り返し行うようにしてもよい。
(3)水晶振動子のシミュレーションは、電極無しのブランクのみで行ってもよいし、電極付きの場合,接着剤付きの場合,など各種の形態で行ってよく、いずれの場合も本発明は適用可能である。
(4)前記実施例で示したシミュレーション装置や入出力装置の構成も一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、水晶振動子の主面中心の平坦面から端に向かって厚みを減少させて形成した曲面の形状の曲率半径を大きく設定することとしたので、等価直列抵抗値が減少し、全体としてばらつきが低減されるようになる。このため、熟練を要することなく、短時間で必要な仕様の水晶振動子を設計することができ、製造過程における歩留まりの向上を図ることができる。

【符号の説明】
【0051】
10,500:解析システム
100:シミュレーション装置
110:CPU
120:プログラムメモリ
122:シミュレーションプログラム
130:データメモリ
200,600,602:入出力端末
210,610:PC
212,612:表示装置
214,614:入力装置
216,616:プリンタ
300:形状測定装置
310:データ処理部
312:CPU
320:プログラムメモリ
322:形状測定プログラム
330:データメモリ
332:測定データ
350:光学計測部
352:CCDカメラ
354:撮像光学系
356:ブランクトレイ
358:位置調整テーブル
370:表示装置
502:インターネット
R1,C1,L1,C0,Q:等価回路定数
DA:入力データ
DAa,DAu:形状データ
DAb,DAv:電極データ
DAc,DAw:切断データ
DAd,DAx:任意データ
DAe,DAy:既存データ
DAf,DAz:測定データ
DB,DBa:出力データ
DC,DCa,DCb:演算データ
DD:表示条件
Ea,Eu:弾性定数等演算
Eb,Ev:固有値振動解析
PA:固有値振動解析プログラム
PB:圧電弾性振動解析プログラム
PQ:入出力プログラム
図1
図2
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図17