特許第6883193号(P6883193)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6883193液滴吐出装置、画像形成装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883193
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】液滴吐出装置、画像形成装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20210531BHJP
   B41J 2/015 20060101ALI20210531BHJP
   B41J 2/045 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   B41J2/01 205
   B41J2/015 101
   B41J2/045
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-204993(P2016-204993)
(22)【出願日】2016年10月19日
(65)【公開番号】特開2018-65286(P2018-65286A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 貢太郎
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 信二
【審査官】 加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−208445(JP,A)
【文献】 特開2015−110340(JP,A)
【文献】 特開2004−358701(JP,A)
【文献】 特開2006−076085(JP,A)
【文献】 特開2004−001364(JP,A)
【文献】 特開2016−147400(JP,A)
【文献】 特開2011−121211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の搬送方向に交差する交差方向に沿って、偏向量を変えて液滴を吐出可能なノズルが、前記交差方向に沿って複数配列された吐出部と、
前記吐出部のノズルに不良ノズルが存在する場合に、前記不良ノズルから予め定められた距離以内に位置するノズルの液滴の吐出方向を、前記不良ノズルの液滴の着弾位置の方向に偏向させて前記液滴を吐出させる制御を行う制御部と、
を備え
前記制御部は、前記不良ノズルから前記距離以内に位置する複数個のノズルの液滴の吐出方向を偏向させる場合、偏向させるノズルの個数が多いほど、偏向量を大きくして前記制御を行う
液滴吐出装置。
【請求項2】
記録媒体の搬送方向に交差する交差方向に沿って、偏向量を変えて液滴を吐出可能なノズルが、前記交差方向に沿って複数配列された吐出部と、
前記吐出部のノズルに不良ノズルが存在する場合に、前記不良ノズルから予め定められた距離以内に位置するノズルの液滴の吐出方向を、前記不良ノズルの液滴の着弾位置の方向に偏向させて前記液滴を吐出させる制御を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記制御を行う場合、液滴の吐出方向を偏向させるノズルから吐出される液滴のサイズを、液滴の吐出方向を偏向させないノズルから吐出される液滴のサイズよりも大きくする
液滴吐出装置。
【請求項3】
前記距離以内に位置するノズルは、前記不良ノズルに隣り合うノズルである
請求項に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記制御を行う場合、前記搬送方向に沿った画素毎に、液滴の吐出方向を偏向させるノズルを異ならせる
請求項に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記不良ノズルから前記距離以内に位置する複数個のノズルの液滴の吐出方向を偏向させる場合、前記偏向させるノズルの個数が多いほど、前記偏向させるノズルから吐出される液滴のサイズを、前記偏向させないノズルから吐出される液滴のサイズよりも大きくする度合いを小さくする
請求項2から請求項4の何れか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
記録媒体を搬送する搬送部と、
前記搬送部により搬送される記録媒体に液滴を吐出する請求項1から請求項の何れか1項に記載の液滴吐出装置と、
を備えた画像形成装置。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1から請求項の何れか1項に記載の液滴吐出装置の制御部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置、画像形成装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、記録媒体の搬送方向に交差する交差方向に沿って偏向量を変えて液滴を吐出可能なノズルを備えた画像形成装置が開示されている。
【0003】
特許文献2には、不良ノズル周辺のノズルで記録する画素については、階調値の最大値が記録されたときの最大濃度に対応する濃度変換テーブルに基づいて変換した階調値に応じた大きさのドットを記録する画像形成装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−121211号公報
【特許文献2】特開2006−076085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、液滴を吐出するノズルが、記録媒体の搬送方向に交差する交差方向に沿って複数配列された吐出部を備えた画像形成装置において、不良ノズルが存在する場合、記録媒体に形成された画像にはスジ等が発生し、画質が低下する。なお、ここでいう不良ノズルとは、液滴を吐出する指示が入力された場合に液滴が吐出されないノズル、及び規定量未満の液滴が吐出されるノズル等を意味する。
【0006】
これに対し、例えば、不良ノズルと隣り合うノズルから大滴を吐出することによって、画質の低下を抑制することが考えられるが、この場合、記録媒体に形成される画像の粒状性が悪化してしまう場合がある。
【0007】
本発明は、不良ノズルと隣り合うノズルから大滴を吐出する場合に比較して、不良ノズルに起因する画質の低下の抑制処理に伴う粒状性の悪化を抑制することができる液滴吐出装置、画像形成装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の液滴吐出装置は、記録媒体の搬送方向に交差する交差方向に沿って、偏向量を変えて液滴を吐出可能なノズルが、前記交差方向に沿って複数配列された吐出部と、前記吐出部のノズルに不良ノズルが存在する場合に、前記不良ノズルから予め定められた距離以内に位置するノズルの液滴の吐出方向を、前記不良ノズルの液滴の着弾位置の方向に偏向させて前記液滴を吐出させる制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記不良ノズルから前記距離以内に位置する複数個のノズルの液滴の吐出方向を偏向させる場合、偏向させるノズルの個数が多いほど、偏向量を大きくして前記制御を行う
また、請求項2に記載の液滴吐出装置は、記録媒体の搬送方向に交差する交差方向に沿って、偏向量を変えて液滴を吐出可能なノズルが、前記交差方向に沿って複数配列された吐出部と、前記吐出部のノズルに不良ノズルが存在する場合に、前記不良ノズルから予め定められた距離以内に位置するノズルの液滴の吐出方向を、前記不良ノズルの液滴の着弾位置の方向に偏向させて前記液滴を吐出させる制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記制御を行う場合、液滴の吐出方向を偏向させるノズルから吐出される液滴のサイズを、液滴の吐出方向を偏向させないノズルから吐出される液滴のサイズよりも大きくする。
【0009】
また、請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記距離以内に位置するノズルが、前記不良ノズルに隣り合うノズルであるものである。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記制御部が、前記制御を行う場合、前記搬送方向に沿った画素毎に、液滴の吐出方向を偏向させるノズルを異ならせるものである。
【0013】
また、請求項に記載の発明は、請求項2から請求項4の何れか1項に記載の発明において、前記制御部が、前記不良ノズルから前記距離以内に位置する複数個のノズルの液滴の吐出方向を偏向させる場合、前記偏向させるノズルの個数が多いほど、前記偏向させるノズルから吐出される液滴のサイズを、前記偏向させないノズルから吐出される液滴のサイズよりも大きくする度合いを小さくするものである。
【0014】
一方、上記目的を達成するために、請求項に記載の画像形成装置は、記録媒体を搬送する搬送部と、前記搬送部により搬送される記録媒体に液滴を吐出する請求項1から請求項の何れか1項に記載の液滴吐出装置と、を備えている。
【0015】
また、上記目的を達成するために、請求項に記載のプログラムは、コンピュータを、請求項1から請求項の何れか1項に記載の液滴吐出装置の制御部として機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1、請求項2、請求項、及び請求項に記載の発明によれば、不良ノズルと隣り合うノズルから大滴を吐出する場合に比較して、不良ノズルに起因する画質の低下の抑制処理に伴う粒状性の悪化を抑制することができる。
【0017】
請求項に記載の発明によれば、不良ノズルに隣り合わないノズルの液滴を偏向させる場合に比較して、小さい偏向量で不良ノズルに起因する画質の低下を抑制することができる。
【0018】
請求項に記載の発明によれば、偏向量を固定する場合に比較して、不良ノズルに起因する画質の低下をより抑制することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、液滴を偏向させるノズルを固定する場合に比較して、不良ノズルに起因する画質の低下をより抑制することができる。
【0020】
請求項に記載の発明によれば、液滴のサイズを固定する場合に比較して、不良ノズルに起因する画質の低下をより抑制することができる。
【0021】
請求項に記載の発明によれば、隣り合う1個のノズルの液滴を偏向させる場合に比較して、不良ノズルに起因する画質の低下をより抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施の形態に係る液滴吐出型記録装置の要部構成を示す概略構成図である。
図2】実施の形態に係るヘッドの概略構成を示す平面図である。
図3】実施の形態に係る液滴吐出部材の内部構造を示す断面図である。
図4】実施の形態に係る液滴の吐出角度の説明に供する断面図である。
図5】実施の形態に係るマイナスの吐出角度で液滴を偏向させる場合の吐出信号及び偏向信号の波形の一例を示す波形図である。
図6】実施の形態に係る偏向電圧と吐出角度との関係の一例を示すグラフである。
図7】実施の形態に係るプラスの吐出角度で液滴を偏向させる場合の吐出信号及び偏向信号の波形の一例を示す波形図である。
図8】実施の形態に係る位相差と吐出角度との関係の一例を示すグラフである。
図9】実施の形態に係る液滴吐出型記録装置の電気系の要部構成を示すブロック図である。
図10】実施の形態に係る液滴を偏向させなかった場合と偏向させた場合との用紙に着弾した液滴の一例を示す平面図である。
図11】実施の形態に係る偏向処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
図12】変形例に係る液滴の偏向量の説明に供する図である。
図13】変形例に係る液滴を偏向させなかった場合と偏向させた場合との用紙に着弾した液滴の一例を示す平面図である。
図14】変形例に係る液滴を偏向させなかった場合と偏向させた場合との用紙に着弾した液滴の一例を示す平面図である。
図15】変形例に係る吐出電圧の電圧値の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態例を詳細に説明する。
【0024】
まず、図1を参照して、本実施の形態に係る画像形成装置の一例としての液滴吐出型記録装置10の構成について説明する。なお、以下では、シアン色をC、マゼンタ色をM、黄色をY、黒色をKで表すと共に、各構成部品及びトナー画像を色毎に区別する必要がある場合には、符号の末尾に各色に対応する色の符号(C、M、Y、K)を付して説明する。また、以下では、各構成部品及びトナー画像を色毎に区別せずに総称する場合には、符号の末尾の色の符号を省略して説明する。
【0025】
液滴吐出型記録装置10は、例えば、1回の搬送で用紙Pの両面に画像を形成する2組の画像形成部12A、12B、制御部14、給紙ロール16、排出ロール18、及び複数の搬送ローラ20を備えている。
【0026】
また、画像形成部12Aは、ヘッド駆動部22A、ヘッド24A、及び乾燥装置26Aを備えている。同様に、画像形成部12Bは、ヘッド駆動部22B、ヘッド24B、及び乾燥装置26Bを備えている。なお、以下では画像形成部12A及び画像形成部12B、並びに、画像形成部12A及び画像形成部12Bに含まれる共通の部材を、それぞれ区別する必要がない場合には、符号の末尾の符号“A”及び符号“B”を省略して表す場合がある。
【0027】
制御部14は、搬送モータ62(図9参照)を駆動することで、例えば搬送モータ62とギヤ等の機構を介して接続された搬送ローラ20の回転を制御する。給紙ロール16には、記録媒体の一例として長尺状の用紙Pが巻き付けられており、搬送ローラ20の回転に伴って用紙Pが図1の矢印Aの方向に搬送される。なお、以下では、用紙Pの搬送方向(図1の矢印Aの方向)を単に「搬送方向」という。
【0028】
制御部14は、画像情報を受け付け、画像情報に含まれる画像の画素毎の色情報に基づいて画像形成部12Aを制御することで、用紙Pの一方の画像形成面に、画像情報に対応する画像を形成する。
【0029】
具体的には、制御部14は、ヘッド駆動部22Aに液滴の吐出タイミングを指示してヘッド駆動部22Aを制御する。そして、ヘッド駆動部22Aは、制御部14から指示された液滴の吐出タイミングに従って、ヘッド駆動部22Aに接続されたヘッド24Aを駆動して、ヘッド24Aから液滴を吐出させ、制御部14の制御に応じて搬送される用紙Pの一方の画像形成面上に画像情報に対応した画像を形成する。
【0030】
なお、画像情報に含まれる画像の画素毎の色情報は、画素の色を一意に示す情報を含む。本実施の形態では、一例として、画像の画素毎の色情報がC、M、Y、Kの各々の濃度によって表されているものとするが、画素の色を一意に示す他の表現方法を用いてもよい。
【0031】
ヘッド24Aは、C、M、Y、Kの4色それぞれに対応した4つのヘッド24AC、24AM、24AY、24AKを含み、各ヘッド24Aから対応する色の液滴を吐出する。なお、ヘッド駆動部22及びヘッド24は本発明の吐出部の一例である。
【0032】
制御部14は乾燥装置26Aにより、用紙Pに形成された画像を乾燥させて、用紙Pへの画像の定着を図る。
【0033】
その後、用紙Pは、搬送ローラ20の回転に伴って、画像形成部12Bと対向する位置に搬送される。この際、用紙Pは、画像形成部12Aによって画像が形成された画像形成面とは異なる他方の画像形成面が画像形成部12Bと向き合うように、表裏が反転されて搬送される。
【0034】
制御部14は、前述した画像形成部12Aに対する制御と同様の制御を画像形成部12Bに対しても実行することで、用紙Pの上記他方の画像形成面に画像情報に対応する画像を形成する。
【0035】
ヘッド24Bは、C、M、Y、Kの4色それぞれに対応した4つのヘッド24BC、24BM、24BY、24BKを含み、各ヘッド24Bから対応する色の液滴を吐出する。
【0036】
制御部14は乾燥装置26Bにより、用紙Pに形成された画像を乾燥させて、用紙Pへの画像の定着を図る。
【0037】
その後、用紙Pは、搬送ローラ20の回転に伴って排出ロール18の位置まで搬送され、排出ロール18に巻き取られる。
【0038】
なお、本実施の形態に係る液滴吐出型記録装置10では、給紙ロール16から排出ロール18までの1回の搬送で、用紙Pの両面に画像を形成する装置構成を説明したが、用紙Pの片面に画像を形成する装置構成であってもよい。
【0039】
また、本実施の形態に係る液滴吐出型記録装置10では、液滴として水性インクを適用しているが、これに限定されず、液滴として、例えば、溶媒が蒸発するインクである油性インク、紫外線硬化型インク等を適用してもよい。
【0040】
次に、図2を参照して、本実施の形態に係るヘッド24の構成について説明する。図2に示すように、ヘッド24は、複数の液滴吐出部材30がヘッド24の長手方向に沿って直線状に配置されている。なお、ヘッド24の長手方向は、搬送方向(図2の矢印A方向)と交差(本実施の形態では、直交)する交差方向(以下、単に「交差方向」という)である。
【0041】
なお、液滴吐出部材30は、交差方向に沿って直線状に配置されることに限定されず、例えば、交差方向に沿って千鳥状に配置されてもよい。
【0042】
次に、図3を参照して、本実施の形態に係る液滴吐出部材30の構成について説明する。図3に示すように、液滴吐出部材30は、1つのノズル32、及び2つの圧力室34A、34Bを備えている。
【0043】
また、液滴吐出部材30は、圧力室34A、34Bの各々に対応して共通流路36A、36Bを備えている。共通流路36A、36Bは、インク液の供給源であるインク供給タンク(図示省略)から液滴吐出部材30の圧力室34A、34Bへ流路38A、38Bを介してインク液を供給する。また、圧力室34A、34Bは、流路40A、40Bを介して、ノズル32と繋がっている。
【0044】
圧力室34A、34Bの天井部上面には、振動板42が取り付けられている。また、圧力室34A、34Bの各々に対応して、振動板42の上面には、圧電素子44A、44Bが積層されている。圧電素子44Aには、後述する吐出波形の信号(以下、「吐出信号」という)に従って電圧(以下、「吐出電圧」という)が印加される。圧電素子44Bには、後述する偏向波形の信号(以下、「偏向信号」という)に従って電圧(以下、「偏向電圧」という)が印加される。
【0045】
圧電素子44Aに吐出電圧が印加され、かつ圧電素子44Bに偏向電圧が印加されると、圧電素子44A、44Bは、各々対応する圧力室34A、34Bの容積を変化させるように振動板42を変位させて、圧力室34A、34B内に充填されているインク液に対して圧力を発生させる。これにより、圧力室34A、34Bから流路40A、40Bを介してノズル32にインク液が供給され、ノズル32から液滴が吐出される。
【0046】
制御部14は、画像情報に基づいてヘッド駆動部22を制御し、圧電素子44Aに対して吐出電圧を印加するための吐出信号を生成する。また、制御部14は、画像情報に基づいてヘッド駆動部22を制御し、圧電素子44Bに対して偏向電圧を印加するための偏向信号を生成する。
【0047】
ところで、本実施の形態に係る液滴吐出部材30は、一例として図4に示すように、ノズル32の液滴の吐出方向を、交差方向に沿って偏向量を変えて偏向させて液滴を吐出することが可能とされている。なお、以下では、単に偏向という場合は、交差方向に沿った偏向を意味するものとする。
【0048】
制御部14は、液滴を偏向させずにノズル32から吐出させる場合は、圧電素子44Bに偏向電圧を印加せず、圧電素子44Aに吐出電圧を印加する。一方、制御部14は、液滴を偏向させてノズル32から吐出させる場合は、圧電素子44Bに偏向電圧を印加し、かつ圧電素子44Aに吐出電圧を印加する。
【0049】
なお、以下では、図4に示すように、液滴を偏向させずにノズル32から吐出させた場合の液滴の吐出方向を基準とした、圧電素子44A側(図4の例では左側)に液滴を偏向させた場合の液滴の吐出方向の吐出角度θをプラスの角度とする。また、液滴を偏向させずにノズル32から吐出させた場合の液滴の吐出方向を基準とした、圧電素子44B側(図4の例では右側)に液滴を偏向させた場合の液滴の吐出方向の吐出角度θをマイナスの角度とする。
【0050】
次に、図5図8を参照して、ノズル32から液滴を交差方向に沿って偏向させて吐出する制御について説明する。
【0051】
制御部14は、マイナスの角度の吐出角度θで液滴を偏向させる場合、一例として図5の上段に示す吐出波形の吐出信号に従って、吐出電圧Vmを圧電素子44Aに印加する。なお、本実施の形態では、吐出電圧Vmとして、標準のサイズの液滴を吐出させるための電圧として、予め定められた電圧(本実施形態では、24[V])を適用している。
【0052】
また、制御部14は、マイナスの角度の吐出角度θで液滴を偏向させる場合、一例として図5の下段に示す偏向波形の偏向信号に従って、偏向電圧Vcを圧電素子44Bに印加する。また、制御部14は、一例として図6に示すように、偏向電圧Vcの電圧値を変えることによって、吐出角度θを変えて液滴をノズル32から吐出させる。
【0053】
一方、制御部14は、プラスの角度の吐出角度θで液滴を偏向させる場合、一例として図7の上段に示す吐出信号(図5の上段に示した吐出信号と同様の信号)に従って、吐出電圧Vmを圧電素子44Aに印加する。また、制御部14は、プラスの角度の吐出角度θで液滴を偏向させる場合、一例として図7の下段に示す偏向信号に従って、偏向電圧Vc(例えば、5[V]の電圧)を圧電素子44Bに印加する。また、制御部14は、一例として図8に示すように、吐出信号と偏向信号との位相差Tdを変えることによって、吐出角度θを変えて液滴をノズル32から吐出させる。以下では、図5の下段に示した偏向信号を「第1偏向信号」といい、図7の下段に示した偏向信号を「第2偏向信号」という。
【0054】
なお、ノズル32から液滴を交差方向に沿って偏向させて吐出する制御の詳細な内容については、特開2011−121211号公報に開示されているため、ここでのこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0055】
次に、図9を参照して、本実施の形態に係る液滴吐出型記録装置10の電気系の要部構成について説明する。
【0056】
図9に示すように、本実施の形態に係る制御部14は、液滴吐出型記録装置10の全体的な動作を司るCPU(Central Processing Unit)50、及び各種プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM(Read Only Memory)52を備えている。また、制御部14は、CPU50による各種プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM(Random Access Memory)54を備えている。
【0057】
また、液滴吐出型記録装置10は、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶部56、及び外部装置と通信データの送受信を行う通信回線I/F(Interface)部58を備えている。また、液滴吐出型記録装置10は、液滴吐出型記録装置10に対するユーザからの指示を受け付ける一方、ユーザに対して液滴吐出型記録装置10の動作状況等に関する各種情報を表示する操作表示部60を備えている。なお、操作表示部60は、例えば、プログラムの実行により操作指示の受け付けを実現する表示ボタンや各種情報が表示される表示面にタッチパネルが設けられたディスプレイ、及びテンキーやスタートボタン等のハードウェアキーを含む。
【0058】
そして、CPU50、ROM52、RAM54、記憶部56、通信回線I/F部58、操作表示部60、搬送モータ62、ヘッド駆動部22、及び乾燥装置26の各部がアドレスバス、データバス、及び制御バス等のバス64を介して互いに接続されている。
【0059】
以上の構成により、本実施の形態に係る液滴吐出型記録装置10は、CPU50により、ROM52、RAM54、及び記憶部56に対するアクセス、並びに通信回線I/F部58を介した外部装置との間での通信データの送受信を各々行う。また、液滴吐出型記録装置10は、CPU50により、操作表示部60を介した各種指示情報の取得、及び操作表示部60に対する各種情報の表示を各々行う。また、液滴吐出型記録装置10は、CPU50により、搬送モータ62の制御、ヘッド駆動部22の制御、及び乾燥装置26の制御を各々行う。
【0060】
ところで、本実施の形態に係るヘッド24では、ヘッド24に設けられた複数の液滴吐出部材30のノズル32に、不良ノズルが存在する場合がある。この場合、各ノズル32から液滴を偏向させずに吐出した場合、不良ノズルに対応する部分のドットが欠け、用紙Pに形成される画像に搬送方向に沿ったスジ等が発生し、画質が低下する。
【0061】
そこで、本実施の形態に係る液滴吐出型記録装置10は、不良ノズルから予め定められた距離以内に位置するノズル32の液滴の吐出方向を、交差方向に沿って不良ノズルの液滴の着弾位置の方向に偏向させて液滴を吐出する。具体的には、液滴吐出型記録装置10は、一例として図10に示すように、不良ノズルの両隣に隣り合う1つずつのノズル32の液滴の吐出方向を、交差方向に沿って不良ノズルの液滴の着弾位置の方向に偏向させて液滴を吐出する。なお、以下では、液滴を偏向させて吐出させるノズル32を「偏向ノズル32」という。
【0062】
また、この場合、液滴吐出型記録装置10は、液滴を偏向させなかった場合の不良ノズルの液滴の着弾位置と偏向ノズル32の液滴の着弾位置との間の位置に、偏向ノズル32の液滴を吐出する。本実施の形態では、一例として、液滴吐出型記録装置10は、偏向ノズル32の液滴の吐出方向を、液滴を偏向させなかった場合を基準として、1ドットの直径の1/3の分、交差方向に沿って不良ノズル側にずらした方向に偏向させて液滴を吐出する。
【0063】
偏向ノズル32の液滴を偏向させなかった場合は、ドット間の最大の空隙長は不良ノズルに対応する1ドットの直径となる。これに対し、本実施の形態に係る液滴吐出型記録装置10では、ドット間の最大の空隙長が1ドットの直径の1/3となる結果、不良ノズルに起因して発生するスジが目立たなくなり、画質の低下が抑制される。
【0064】
なお、本実施の形態では、ヘッド24の製造時に不良ノズルが検出され、不良ノズルを識別するノズル識別情報が記憶部56に予め記憶されている。ノズル識別情報は、不良ノズルを特定可能な情報であれば、特に限定されない。例えば、ヘッド24の一方の端部を基準として各ノズル32に連続する番号を付与しておき、ノズル識別情報として、不良ノズルの番号を適用する形態が例示される。また、例えば、ノズル識別情報として、ヘッド24の一方の端部を基準とした不良ノズルまでの距離を適用する形態が例示される。
【0065】
また、液滴吐出型記録装置10が出荷され、ユーザにより使用が開始された後に、不良ノズルを検出するためのテストチャートを用紙Pに形成し、用紙Pに形成された画像から不良ノズルを検出して、ノズル識別情報を記憶部56に記憶してもよい。
【0066】
また、本実施の形態では、液滴の偏向量に対応する吐出角度θと偏向電圧Vcとの対応関係(図6参照)を示す第1偏向情報が記憶部56に予め記憶されている。また、本実施の形態では、液滴の偏向量に対応する吐出角度θと位相差Tdとの対応関係(図8参照)を示す第2偏向情報が記憶部56に予め記憶されている。
【0067】
次に、図11を参照して、本実施の形態に係る液滴吐出型記録装置10の作用を説明する。なお、図11は、用紙Pに対する画像形成指示が入力された場合にCPU50によって実行される偏向処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。また、本偏向処理プログラムはROM52に予めインストールされている。また、ここでは、錯綜を回避するために、偏向ノズル32以外のノズル32から液滴を吐出する処理については説明を省略する。
【0068】
図11のステップ100で、CPU50は、記憶部56からノズル識別情報を読み出す。次のステップ102で、CPU50は、記憶部56から第1偏向情報を読み出す。次のステップ104で、CPU50は、記憶部56から第2偏向情報を読み出す。次のステップ106で、CPU50は、ステップ100で読み出されたノズル識別情報により示される不良ノズルに隣り合う偏向ノズル32から液滴を偏向させて吐出させる制御を行う。
【0069】
具体的には、CPU50は、不良ノズルの圧電素子44A側に隣り合う偏向ノズル32については、一例として図5に示すように、吐出信号に従って吐出電圧Vmを圧電素子44Aに印加し、かつ第1偏向信号に従って偏向電圧Vcを圧電素子44Bに印加する。この偏向電圧Vcの印加の際、CPU50は、ステップ102で読み出された第1偏向情報に従って、液滴の偏向量に対応する吐出角度θに応じた電圧値の偏向電圧Vcを圧電素子44Bに印加する。
【0070】
一方、CPU50は、不良ノズルの圧電素子44B側に隣り合う偏向ノズル32については、一例として図7に示すように、吐出信号に従って吐出電圧Vmを圧電素子44Aに印加し、かつ第2偏向信号に従って偏向電圧Vcを圧電素子44Bに印加する。この偏向電圧Vcの印加の際、CPU50は、ステップ104で読み出された第2偏向情報に従って、液滴の偏向量に対応する吐出角度θに応じた位相差Tdで偏向電圧Vcを圧電素子44Bに印加する。ステップ106の処理が終了すると、本偏向処理が終了する。
【0071】
以上説明したように、本実施の形態によれば、不良ノズルに隣り合うノズル32の液滴の吐出方向を、交差方向に沿って不良ノズルの液滴の着弾位置の方向に偏向させて液滴を吐出させている。従って、不良ノズルと隣り合うノズルから大滴を吐出する場合に比較して、不良ノズルに起因する画質の低下の抑制処理に伴う粒状性の悪化が抑制される。
【0072】
また、不良ノズルと隣り合うノズルから大滴を吐出する場合、予め定められたサイズ以上の液滴を吐出するには、例えば2周期の吐出信号を用いて液滴を連続的に吐出させ、後から吐出した液滴を先に吐出させた液滴に追いつかせることで大滴を吐出させる場合がある。これに対し、本実施の形態では、液滴のサイズは変えずに、液滴の吐出方向を変えている。従って、本実施の形態によれば、不良ノズルと隣り合うノズルから大滴を吐出する場合に比較して、高周波数でヘッド24が駆動される結果、画像の形成速度が速くなる。
【0073】
なお、上記実施の形態では、不良ノズルの両隣に隣り合う1つずつのノズル32の液滴を偏向させる場合について説明したが、これに限定されない。例えば、不良ノズルから予め定められた距離以内に位置する複数個ずつのノズル32の液滴を偏向させる形態としてもよい。この場合、例えば、以下の(1)式に従って、偏向させるノズル32の個数kが多いほど、偏向量を大きくして液滴を偏向させる形態が例示される。
偏向量=k{(k+2)/(k+1)−1}/2・・・(1)
さらに、この場合、偏向させるノズル32について、不良ノズルからの距離が遠いノズルほど偏向量を小さくする形態が例示される。
【0074】
この形態例では、一例として図12に示すように、偏向させるノズル32の個数kが多いほどドット間の最大の空隙長が小さくなる結果、不良ノズルに起因して発生するスジがより目立たなくなり、画質の低下がより抑制される。
【0075】
また、上記実施の形態では、液滴を偏向させるノズル32を固定する場合について説明したが、これに限定されない。不良ノズルから予め定められた距離以内に位置する複数のノズル32について、搬送方向の画素毎に液滴を偏向させるノズル32を異ならせる形態としてもよい。
【0076】
この形態例では、一例として図13に示すように、不良ノズルに起因するドット欠けが搬送方向に沿って連続する画素に発生しない。従って、不良ノズルに起因して発生するスジがより目立たなくなり、画質の低下がより抑制される。
【0077】
また、上記実施の形態では、液滴のサイズを変更しない場合について説明したが、これに限定されない。例えば、偏向ノズル32から吐出させる液滴のサイズを、液滴を偏向させないノズル32から吐出させる液滴のサイズよりも大きいサイズとする形態としてもよい。この場合、制御部14は、圧電素子44Aに印加可能な最大の電圧値(例えば、29[V])の吐出電圧Vmを、偏向ノズル32に対応する圧電素子44Aに印加する形態が例示される。
【0078】
この形態例では、一例として図14に示すように、液滴のサイズを変更しない場合に比較して、ドット間の空隙が狭くなる。従って、不良ノズルに起因して発生するスジがより目立たなくなり、画質の低下がより抑制される。
【0079】
また、この形態例において、不良ノズルから予め定められた距離以内に位置する複数個ずつの偏向ノズル32から吐出させる液滴のサイズを、液滴を偏向させないノズル32から吐出させる液滴のサイズよりも大きいサイズとする形態としてもよい。この場合、例えば、以下の(2)式に従って、偏向ノズル32の個数kが多いほど、偏向ノズル32に対応する圧電素子44Aに印加する吐出電圧Vmaの電圧値を、液滴を偏向させないノズル32に対応する圧電素子44Aに印加する吐出電圧Vmbよりも大きくする度合いを小さくする形態が例示される。すなわち、この形態例では、偏向ノズル32の個数kが多いほど、偏向させる液滴のサイズを、偏向させない液滴のサイズよりも大きくする度合いが小さくなる。
【0080】
【数1】
【0081】
この形態例では、一例として図15に示すように、液滴のサイズを変更しない場合に比較して、ドット間の空隙が狭くなる。従って、不良ノズルに起因して発生するスジがより目立たなくなり、画質の低下がより抑制される。また、この形態例において、上記(2)式に従って算出した吐出電圧Vmaが圧電素子44Aに印加可能な最大の電圧値を超える場合は、該最大の電圧値の吐出電圧Vmを圧電素子44Aに印加すればよい。
【0082】
また、上記実施の形態では、偏向処理プログラムがROM52に予めインストールされている場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、偏向処理プログラムが、CD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)等の記憶媒体に格納されて提供される形態、又はネットワークを介して提供される形態としてもよい。
【0083】
さらに、上記実施の形態では、偏向処理を、プログラムを実行することにより、コンピュータを利用してソフトウェア構成により実現する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、偏向処理を、ハードウェア構成や、ハードウェア構成とソフトウェア構成の組み合わせによって実現する形態としてもよい。
【0084】
その他、上記実施の形態で説明した液滴吐出型記録装置10の構成(図1図3図9参照。)は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において不要な部分を削除したり、新たな部分を追加したりしてもよいことは言うまでもない。
【0085】
また、上記実施の形態で説明した偏向処理プログラムの処理の流れ(図11参照)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0086】
10 液滴吐出型記録装置
14 制御部
22A、22B ヘッド駆動部
24AC、24AM、24AY、24AK、24BC、24BM、24BY、24BK ヘッド
30 液滴吐出部材
32 ノズル
44A、44B 圧電素子
50 CPU
52 ROM
56 記憶部
P 用紙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15