特許第6883235号(P6883235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6883235生体高分子3次元構造再構成の検証システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883235
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】生体高分子3次元構造再構成の検証システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20210531BHJP
   H01J 37/153 20060101ALI20210531BHJP
   H01J 37/21 20060101ALI20210531BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20210531BHJP
   H01J 37/26 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   G01N23/04
   H01J37/153 A
   H01J37/21 A
   H01J37/22 501Z
   H01J37/26
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-125185(P2019-125185)
(22)【出願日】2019年7月4日
(65)【公開番号】特開2020-12822(P2020-12822A)
(43)【公開日】2020年1月23日
【審査請求日】2019年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2018-128762(P2018-128762)
(32)【優先日】2018年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510222006
【氏名又は名称】株式会社バイオネット研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100122574
【弁理士】
【氏名又は名称】吉永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】新川 隆朗
(72)【発明者】
【氏名】細川 史生
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正隆
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 征三
(72)【発明者】
【氏名】森 一成
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−117175(JP,A)
【文献】 特開2005−250721(JP,A)
【文献】 国際公開第02/075658(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0114806(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/083851(WO,A1)
【文献】 上野 豊 他,電子顕微鏡によるタンパク質立体構造の単粒子解析,日本物理学会誌,2002年,Vol.57 No.8,pp568-574,DOI https://doi.org/10.11316/butsuri1946.57.568,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/butsuri1946/57/8/57_8_568/_pdf/-char/ja
【文献】 宮崎 直幸 他,創薬等ライフサイエンス用クライオ電子顕微鏡単粒子解析支援システム,顕微鏡,2018年,Vol.53 No.1,pp8-12,DOI https://doi.org/10.11410/kenbikyo.53.1_8,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenbikyo/53/1/53_8/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01N 23/00−23/2276、
H01J 37/22、37/26
J−Dream III
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温透過型電子顕微鏡にて得られた生体高分子TEM像から推定される3次元分子構造を基に任意の投影方向からのTEMシミュレーション像を計算する手段と、
前記生体高分子TEM像と前記TEMシミュレーション像の一致度を計算する手段と、
前記TEMシミュレーション像から3次元再構成構造として3次元電位分布シミュレーション像を推定する手段と、
前記生体高分子TEM像から3次元再構成構造として推定された3次元電位分布像と、前記3次元電位分布シミュレーション像の一致度を計算する手段と、を備えることを特徴とする生体高分子3次元構造再構成の検証システム。
【請求項2】
前記3次元分子構造を推定するに際し、再構成された前記3次元電位分布像に、推定される既知の3次元分子構造を一部対応させることで3次元分子構造の一部又は全体を原子座標に当てはめる手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子3次元構造再構成の検証システム。
【請求項3】
前記生体高分子TEM像を取得するに際し、前記極低温透過型電子顕微鏡の光学系を制御し、デフォーカス、3次球面収差、5次収差、これらの複数の収差の大きさを所望の値に設定する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子3次元構造再構成の検証システム。
【請求項4】
前記生体高分子TEM像から前記3次元再構成構造を推定するに際し、前記極低温透過型電子顕微鏡にて得られた投影角の異なる複数の前記生体高分子TEM像の投影角ごとの分類にあたって、あらかじめシミュレーションにより準備された候補となりうる構造の異なる複数の試料のすべて又は一部の投影角毎のTEM像を基に、実際に得られた前記生体高分子TEM像の投影角の推定を行う手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子3次元構造再構成の検証システム。
【請求項5】
前記生体高分子TEM像と前記TEMシミュレーション像の一致度を計算するに際し、それぞれの2次元画像を、ラドン変換により1次元データに変換し、探索画像数をすべての投影角とすることなく、x軸投影、y軸投影、z軸投影の3つの画像で済ますことが可能な1次元データ間の相関計算に還元することにより、画像間のマッチング計算時間を大幅に短縮し、かつマッチング精度を維持する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子3次元構造再構成の検証システム。
【請求項6】
前記3次元分子構造が既知の生体高分子を受容体として結合物質が結合された場合の結合状態と結合位置を推定するに際し、前記生体高分子TEM像が前記極低温透過電子顕微鏡を用いて前記生体高分子と前記結合物質の混合試料から取得されるとともに、前記TEMシミュレーション像が前記結合物質の構造と結合部位を推定して前記結合物質を配した3次元分子構造として取得され、それぞれ取得された前記生体高分子TEM像と前記TEMシミュレーション像の相関関係を求めることにより前記結合物質の結合状態と結合位置を推定することを特徴とする請求項1に記載の生体高分子3次元構造再構成の検証システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオTEM(極低温透過型電子顕微鏡)による生体高分子単粒子解析法を用いた生体高分子3次元構造再構成の検証システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造生物学や細胞生物学の分野では、タンパク質などの生体高分子の水溶液を瞬間凍結して得られた凍結試料を用いて、クライオTEM(Cryo-Transmission Electron Microscope)により大量の生体高分子のTEM画像を取得し、その多量の画像からコンピュータ・トモグラフィ(断層撮影)技術により、その生体高分子の3次元電位分布を推定する手法がタンパク質を中心に構造解析手法として確立されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところが、従来の方法における解析結果に対する妥当性の確認法に関しては、確立された手法は無かった。この点、従来は、求められた3次元電位分布像についての妥当性の確認法の一例として、用いた単粒子TEM像が、例えば10万個の単粒子像であった場合、任意の5万個の単粒子TEM像の組を2組作り、同一のコンピュータ・トモグラフィのアルゴリズムを用いて、2組の3次元電位分布像を計算し、得られた2組の3次元電位分布像の相関度により、分解能を求めるなどしていた。しかしながら、この確認法では、同じ計算結果を比較するので、同じ誤りに導かれた結果同士を比較する可能性を否定できないため、十分に計算の妥当性を保証するものではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−117175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、生体高分子単粒子解析法を用いた解析結果に対して、物理的に十分な妥当性の検証を与える検証システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために本発明の一態様は生体高分子3次元構造再構成の検証システムであって、極低温透過型電子顕微鏡にて得られた生体高分子TEM像から推定される3次元分子構造を基に任意の投影方向からのTEMシミュレーション像を計算する手段と、前記生体高分子TEM像と前記TEMシミュレーション像の一致度を計算する手段と、前記TEMシミュレーション像から3次元再構成構造として3次元電位分布シミュレーション像を推定する手段と、前記生体高分子TEM像から3次元再構成構造として推定された3次元電位分布像と、前記3次元電位分布シミュレーション像の一致度を計算する手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生体高分子単粒子解析法を用いた解析結果に対して、物理的に十分な妥当性の検証を与える検証システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る検証システムの全体構成を示す図である。
図2】検証システムの要部を説明する図である。
図3】検証システムのうち3次元分子構造推定システムを説明する図である。
図4】検証システムのうち生体高分子TEMシミュレーションシステムを用いて、最適なTEM制御パラメータを設定する図である。
図5】検証システムのうち生体高分子TEMシミュレーションシステムについて、その機械学習を説明する図である。
図6】検証システムのうち生体高分子TEM像妥当性評価システムを説明する図である。
図7】検証システムのうち3次元電位分布シミュレーションシステム及び3次元電位分布像妥当性評価システムを説明する図である。
図8】検証システムを用いて、リガンドを含む結合物質の結合状態と結合位置を推定する場合を説明する図である。
図9】TEM画像の例を示す図である。
図10】TEM画像から単粒子像を抽出する例を示す図である。
図11】単粒子像から造成された2次元積算像の例を示す図である。
図12】2次元積算像を基に推定された3次元電位分布像の例を示す図である。
図13】3次元電位分布像に原子位置を当てはめて得られた3次元分子構造の例を示す図である。
図14図13の3次元分子構造の模式図である。
図15図13の3次元分子構造からシミュレーションされたTEMシミュレーション像の例を示す図である。
図16】単粒子TEMシミュレーション像から3次元電位分布像の再構成例を示す図である。
図17】氷膜中の単粒子TEMシミュレーション像の作成例を示す図である。
図18】左図はβガラクトシダーゼの3次元分子構造の例を示す図、右図はβガラクトシダーゼのTEMシミュレーション像の例を示す図である。
図19】様々な投影方向からのβガラクトシダーゼのTEMシミュレーション像の例を示す図である。
図20】TEMシミュレーション像の計算時のTEMのコントラスト伝達関数を示す図である。
図21】氷包埋中のβガラクトシダーゼのTEMシミュレーション像から3次元電位分布像の再構成を行った例を示す図である。
図22】Chignolinタンパク質分子を用いた、2次元TEM像と、3次元分子構造のx,y,z方向の投影像とのマッチングを、1次元マッチングシステムを用いて行った例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図1から図8に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されることはなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
【0010】
(検証システムの全体構成)
まず、図1を参照して、本実施形態に係る検証システムの全体構成について説明する。なお、本明細書では、検証システムを構成する各部に対し、それぞれが実行する手段を冠した個別のシステム名を付している。
【0011】
図1に示すように、検証システムは、TEM像取得システム(1−1)、生体高分子単粒子自動サンプリングシステム(1−2)、3次元電位分布再構成システム(1−3)、生体高分子3次元分子構造推定システム(1−4)、生体高分子TEMシミュレーションシステム(1−5)、生体高分子TEM像妥当性評価システム(1−6)、3次元電位分布シミュレーションシステム(1−7)、及び生体高分子3次元電位分布像妥当性評価システム(1−8)を備えている。
【0012】
TEM像取得システム(1−1)は、最適光学条件下において、TEMシステム(1−9)(極低温透過型電子顕微鏡)から、最適光学条件のTEM画像(1−10)を取得する。そして、生体高分子単粒子自動サンプリング・システム(1−2)は、既知の生体高分子構造のデータベース(1−11)から、観察対象の生体高分子に近似する生体高分子の構造情報を用いて、TEM画像(1−10)中の生体高分子の単粒子を自動サンプリングして、生体高分子の単粒子TEM像(1−12)を出力する。
【0013】
次に、3次元電位分布再構成システム(1−3)は、生体高分子の単粒子TEM像(1−12)から、当該生体高分子の3次元電位分布像(1−13)を推定する。そして、生体高分子3次元分子構造推定システム(1−4)は、3次元電位分布像(1−13)、及び、当該生体高分子がタンパク質であってそのゲノム情報(1−14)が既知となっている場合には、そのゲノム情報(1−14)を用いて、生体高分子3次元分子構造(1−15)を推定する。
【0014】
次に、生体高分子TEMシミュレーションシステム(1−5)は、生体高分子3次元分子構造(1−15)を入力し、任意の投影角の生体高分子TEMシミュレーション像(1−16)を出力する。そして、生体高分子TEM像妥当性評価システム(1−6)は、生体高分子TEMシミュレーション像(1−16)と生体高分子の単粒子TEM像(1−12)を比較し、生体高分子TEM像の妥当性を評価し、生体高分子3次元構造推定の妥当性評価(1−18)を出力する。
【0015】
また、3次元電位分布シミュレーションシステム(1−7)は、生体高分子TEMシミュレーション像(1−16)を入力し、3次元電位分布シミュレーション像(1−17)を推定する。そして、生体高分子3次元電位分布像妥当性評価システム(1−8)は、生体高分子3次元電位分布シミュレーション像(1−17)と生体高分子の3次元電位分布像(1−13)を比較し、生体高分子3次元電位分布像(1−13)の妥当性を評価し、生体高分子3次元構造推定の妥当性評価(1−18)を出力する。
【0016】
(実施形態の動作)
上記の検証システムについて、各段階で出力される項目に沿って動作を説明すると、次のとおりである。すなわち、まず、生体高分子の単粒子試料を用いて、生体高分子の単粒子TEM像(1−12)、コンピュータ・トモグラフィによる3次元電位分布像(1−13)、生体高分子3次元分子構造(1−15)が、順次、取得される。
【0017】
生体高分子3次元分子構造(1−15)からは、コンピュータ・シミュレーションによって生体高分子TEMシミュレーション像(1−16)が計算される。そして、取得された生体高分子の単粒子TEM像(1−12)と、コンピュータ・シミュレーションによる生体高分子TEMシミュレーション像(1−16)の比較により、同一投影角からのTEM像の相関性(妥当性)が求められる。
【0018】
その結果として、双方の像の一致が認められれば、生体高分子の単粒子TEM像(1−12)を用いて推定された生体高分子3次元分子構造(1−15)を基に、TEM像取得時のTEMの光学条件を用いたコンピュータ・シミュレーション結果の生体高分子TEMシミュレーション像(1−16)が、生体高分子の単粒子TEM像(1−12)と一致したことになる。このことが成立するためには、単粒子TEM像(1−12)を用いたコンピュータ・トモグラフィによる3次元電位分布像(1−13)の取得と、その後の生体高分子3次元分子構造(1−15)の推定が正しく行われた場合にのみ成立する。
【0019】
さらに、単粒子TEM像(1−12)を用いたコンピュータ・トモグラフィでは、単粒子の透過像について、投影角が一意的に決められない像に関してのトモグラフィ・アルゴリズムによる3次元再構成を行う必要があるが、コンピュータ・シミュレーション結果の生体高分子TEMシミュレーション像(1−16)を用いたコンピュータ・トモグラフィ手法では、単粒子に対する電子線の投影角が一意的に決められている場合のトモグラフィ・アルゴリズムの適用が可能である。例えば、X線CT法に通常用いられているバックプロジェクション法などを適用した3次元電位分布像のシミュレーションが可能である。
【0020】
その結果、異なるアルゴリズムで計算された3次元電位分布シミュレーション像(1−17)と、単粒子TEM像(1−12)を用いたコンピュータ・トモグラフィによる3次元電位分布像(1−13)との間の相関性(妥当性)に対し、一致が認められれば、生体高分子の単粒子TEM像(1−12)を用いて推定された生体高分子3次元分子構造(1−15)を基に、TEM像取得時のTEMの光学条件を用いたコンピュータ・シミュレーション結果の3次元電位分布シミュレーション像(1−17)が一致したことになる。このことが成立するためには、コンピュータ・トモグラフィによる3次元電位分布像(1−13)の取得についてのアルゴリズムの正当性を、他の確立されているアルゴリズム(例えば、X線CTで広く使われているバックプロジェクション法)で検証できたと言える。
【0021】
数学的な観点からの証明問題として述べれば、生体高分子3次元分子構造(1−15)を推定するということは、単粒子TEM像(1−12)という多量の2次元像から3次元構造を求めるという逆問題を解くことに関して、逆問題の解の正当性を、その解を用いてコンピュータ・シミュレーションにより正問題を推論し、元の単粒子TEM像(1−12)に戻すことができることを証明することにより、逆問題の解の正当性を証明することになる。また、なおかつ、コンピュータ・シミュレーション結果の生体高分子TEMシミュレーション像(1−16)を用いて、他の既知のコンピュータ・トモグラフィ技術によって逆問題を解いても同じ3次元構造の結果が得られた場合に、2重の妥当性評価を行うことできると言える。
【0022】
(検証システムの要部)
次に、図2以降を参照して、検証システムの要部を順次説明する。図2は、検証システムの要部を抽出して示しており、図2の(2−1)〜(2−6)は図1の(1−3)〜(1−8)に、図2の(2−8)〜(2−11)は図1の(1−10)、(1−13)、(1−15)、(1−16)に、それぞれ対応している。
【0023】
図2に示すように、まず、3次元電位分布像再構成システム(2−1)は、TEM観察時の光学条件(2−7)及びTEM観察によって得られた生体高分子TEM像(2−8)を用いて、生体高分子3次元電位分布像(2−9)を推定する。そして、3次元高分子構造推定システム(2−2)は、生体高分子3次元電位分布像(2−9)を用いて、生体高分子3次元分子構造(2−10)を推定する。
【0024】
引き続いて、生体高分子TEM像シミュレーションシステム(2−3)は、生体高分子3次元分子構造(2−10)を用いて、生体高分子TEMシミュレーション像(2−11)を計算する。そして、生体高分子TEM像妥当性評価システム(2−4)は、生体高分子TEM像(2−8)及び生体高分子TEMシミュレーション像(2−11)を用いて、生体高分子TEM像妥当性評価結果(2−12)を出力する。
【0025】
さらに、生体高分子3次元電位分布像シミュレーションシステム(2−5)は、生体高分子TEMシミュレーション像(2−11)を用いて、生体高分子3次元電位分布シミュレーション像(2−13)を計算する。そして、生体高分子3次元電位分布像妥当性評価システム(2−6)は、生体高分子3次元電位分布像(2−9)と生体高分子3次元電位分布シミュレーション像(2−13)を用いて、生体高分子3次元電位分布像妥当性評価結果(2−14)を出力する。
【0026】
以上を整理すると、本実施形態に係る検証システムは、極低温透過型電子顕微鏡にて得られた生体高分子TEM像から推定される3次元分子構造を基に任意の投影方向からのTEMシミュレーション像を計算する手段と、生体高分子TEM像とTEMシミュレーション像の一致度を計算する手段と、TEMシミュレーション像から3次元再構成構造として3次元電位分布シミュレーション像を推定する手段と、生体高分子TEM像から3次元再構成構造として推定された3次元電位分布像と、3次元電位分布シミュレーション像の一致度を計算する手段と、を備えるものである。
【0027】
以上の構成により、本実施形態に係る検証システムでは、生体高分子3次元分子構造の推定のための元データとなるクライオTEMで取得した生体高分子の単粒子TEM像(2−8)が、取得時のTEM光学条件を用いたシミュレーションにより再現可能であり、さらに、計測結果から得られた生体高分子3次元分子構造(2−10)についても、取得時のTEM光学条件を用いたシミュレーションに基づく3次元再構成で実現可能である。
【0028】
(3次元高分子構造推定システム(2−2))
次に、図3を参照して、前述した3次元高分子構造推定システム(2−2)について、詳しく説明する。図3は、3次元高分子構造推定システム(2−2)の細部を抽出して示している。
【0029】
本実施形態では、クライオTEMによるタンパク質の3次元構造の再構成法として、TEM観察によって得られた大量の生体高分子単粒子のクライオTEM像から、コンピュータ・トモグラフィにより得られたタンパク質の3次元電位分布像を構築する。従来は、得られた3次元電位分布像から目的とする3次元分子構造推定は、人手による作業で、個々の原子位置を推定していたが、本実施形態では、この作業を、既知情報を用いて1個又は1個以上の構造ブロックを全体構造の適切な位置に初期位置として設定することにより、計算時間を短縮する。より具体的には、例えば目的タンパク質のアミノ酸連鎖情報から、構造単位(ヘリックス構造、シート構造、モチーフ構造、ドメイン構造、サブユニット構造など)を推定し、3次元電位分布像の適切な位置に初期設定することにより、計算時間を短縮し、タンパク質の3次元分子構造を半自動的に推定するシステムとして、例えば、図3に示す構成がある。
【0030】
図3に示すように、まず、アミノ酸配列情報の解析・特徴抽出システム(3−1)は、アミノ酸配列情報(3−6)を用いて、目的タンパク質に係る二次構造及び超二次構造について、構造単位(ヘリックス構造、シート構造、モチーフ構造、ドメイン構造、サブユニット構造など)を分子力場計算することによって構造単位(ヘリックス構造、シート構造、モチーフ構造、ドメイン構造、サブユニット構造など)の相対位置情報(3−7)を求める。そして、生体高分子3次元電位分布像上の構造単位の推定システム(3−2)は、構造単位(ヘリックス構造、シート構造、モチーフ構造、ドメイン構造、サブユニット構造など)の相対位置情報(3−7)及び生体高分子3次元電位分布像(3−8)を用いて、生体高分子3次元分子推定初期構造(3−9)を推定し、さらに、残余部分の構造推定システム(3−21)は、アミノ酸配列情報(3−6)及び構造単位(ヘリックス構造、シート構造、モチーフ構造、ドメイン構造、サブユニット構造など)の相対位置情報(3−7)を組み合わせて残余部分を分子力場計算により推定して生体高分子3次元分子推定初期構造(3−9)に反映し、分子全体の3次元的推定原子位置を定める。なお、構造単位(ヘリックス構造、シート構造、モチーフ構造、ドメイン構造、サブユニット構造など)の相対位置情報(3−7)は、まとめて、3次元推定分子構造情報ということもできる。
【0031】
ここで、従来、TEMによる生体高分子の3次元再構成法において、人手で行われていた、3次元電位分布像(3−8)を基に行う3次元分子構造の決定作業に対し、本実施形態では、個々の原子位置の決定作業は、既知情報を活用することにより、計算時間を短縮する。既知情報としてはX線結晶解析、NMR構造解析、分子分光学等で得られた任意の分子の構造全体または一部を含む。より具体的には、たんぱく質においては、DNAまたはRNA配列情報からアミノ酸配列が推定でき、得られたアミノ酸配列の情報を基に、構造単位(ヘリックス構造、シート構造、モチーフ構造、ドメイン構造、サブユニット構造など)の存在ならびに相対位置が推定できる。これら既知構造情報に組み合わせて、残余部分の構造については、分子力場計算によって推定し、分子全体の3次元的推定原子位置を定める。次いで定められた原子位置を基に3次元電位分布を計算し、TEMシミュレーション像を作成し初期構造とする。上記の過程において、既知構造情報を初期値として設定することにより、タンパク質の3次元分子構造計算時間が短縮される。
【0032】
引き続いて、生体高分子3次元電位分布像上の原子位置推定システム(3−3)は、アミノ酸配列情報(3−6)、生体高分子3次元電位分布像(3−8)及び生体高分子3次元分子推定初期構造(3−9)を用いて、生体高分子3次元分布推定構造(3−10)を推定する。そして、生体高分子3次元電位分布像と生体高分子3次元分子推定構造との誤差推定システム(3−4)は、生体高分子3次元電位分布像(3−8)と生体高分子3次元分布推定構造(3−10)を用いて、両者の空間位置の誤差率(3−11)を推定する。ここで、生体高分子3次元分子推定構造(3−10)を決定するには、生体高分子3次元電位分布像(3−8)と生体高分子3次元分子推定構造(3−10)との誤差を最小にすべく、原子位置の初期位置からの修正が求められる。この計算の初期過程において、構造単位については、細部に立ち入ることなく、全体として並進及び回転で調整することにより、3次元分子構造計算時間を短縮する。また残余部分の構造については、個々の原子位置を独立に修正するのでなく、分子力場による制限条件下で最適化することにより、3次元分子構造計算時間を短縮する。
【0033】
生体高分子3次元電位分布像(3−8)と生体高分子3次元分布推定構造(3−10)との空間位置の誤差率(3−11)については、誤差判定システム(3−5)が誤差の程度を評価し、生体高分子3次元電位分布像上の構造単位の推定システム(3−2)を再実行するか、生体高分子3次元電位分布像上の原子位置推定システム(3−3)を再実行するか、又は生体高分子3次元分子確定構造(3−12)を出力して終了するかについて、判定を行う。
【0034】
なお、二次構造を構成しない残余部分であるループ構造や柔構造部分及び側鎖構造等は、それらの構成成分の原子位置を分子力場計算(分子力学及び分子動力学)にて求め、推定全体構造を構築する。
【0035】
以上を整理すると、本実施形態に係る検証システムは、3次元分子構造を推定するに際し、再構成された3次元電位分布像に、推定される既知の3次元分子構造を一部対応させることで3次元構造の一部又は全体を原子座標に当てはめる手段を備えるものである。
【0036】
以上の構成により、本実施形態に係る検証システムでは、従来、人手の作業により、生体高分子3次元電位分布像(3−8)から生体高分子3次元分子構造(3−9又は3−10に相当)へのマッピング作業が必要であったことに対し、構造単位(ヘリックス構造、シート構造、モチーフ構造、ドメイン構造、サブユニット構造など)を自動マッピングすることで、他のアミノ酸配列の位置推定を容易にできる。
【0037】
(3次元電位分布像再構成システム(2−1)の制御パラメータ)
次に、図4を参照して、前述した3次元電位分布像再構成システム(2−1)において生体高分子TEM像を取得する際の制御パラメータについて、説明する。図4は、3次元電位分布像再構成システム(2−1)の細目のうち制御パラメータに係る部分を抽出して示している。
【0038】
本実施形態では、3次元分子構造からコンピュータ・シミュレーションにより、TEMシミュレーション像の計算及びこれを用いての3次元電位分布像を計算することで、実際の実験における生体高分子の単粒子クライオTEM像を用いての生体高分子の3次元再構成電位分布像の適正な分解能を得るために必要な、電子顕微鏡の各種収差量等の光学条件を求める。適正な分解能及びそれを与える光学条件は、一意的に決まるものではなく、目的生体高分子の形状・大きさ・分子数等に依存する。TEMの分解能は試料から像に、どの程度まで微細な構造が伝達されるかを表す指標であるが、高い分解能を得る光学条件では試料の大まかな構造はかえって像に伝達されなくなる。試料の大まかな構造は、非常に大きなデフォーカスを与えることで像に伝達されやすくなるが、そのような大きなデフォーカス(大きなピンボケ)では微細構造を伝達する指標である分解能は劣化する。このような事情により、構造を得ようとしている生体高分子に対してそれぞれに適正な結像条件、すなわち、微細構造の像への伝達と大まかな構造の像への伝達のトレードオフの関係を試料ごとに設定することが望ましい。生体高分子に対するTEM像シミュレーションにより、このトレードオフの関係が事前に視覚化できるので、光学条件の最適化にあたっての非常に有効な手段となる。本実施形態では、最適なTEMの制御パラメータに関し、コンピュータ・シミュレーションにより最適なフォーカス補正と収差補正の候補を求める機構と、TEMの制御パラメータ設定機構と、得られたTEM像から、像の持つ情報量を推定する機構を持つシステムとして、例えば、図4に示す構成がある。
【0039】
図4に示すように、まず、デフォーカス値・収差補正値等観察条件読み取りシステム(4−1)は、クライオTEMシステム(4−11)に設定された光学条件のデフォーカス、3次球面収差及び5次球面収差を、クライオTEMシステム(4−11)から読み取り、デフォーカス値・収差補正値等観察条件(4−6)として保存する。そして、最適デフォーカス値・収差補正値のシミュレーションシステム(4−2)は、デフォーカス値・収差補正値等観察条件(4−6)及び生体高分子の大きさ、氷膜の厚さ等の試料条件(4−7)を用いて、最適デフォーカス値・収差補正値(4−8)を求める。
【0040】
引き続いて、最適デフォーカス値・収差補正値設定システム(4−3)は、最適デフォーカス値・収差補正値(4−8)を、クライオTEMシステム(4−11)に設定する。その結果として、クライオTEMシステム(4−11)から得られる生体高分子のTEM像(4−9)を用いて、TEM像から像質を判断するシステム(4−4)は、像質判定基準(4−10)を推定し、
像質判定基準(4−10)を用いて、分解能判定システム(4−5)により、最適デフォーカス値・収差補正値のシミュレーションシステム(4−2)を再実行するか、終了するかについて、判定を行う。
【0041】
以上を整理すると、本実施形態に係る検証システムは、生体高分子TEM像を取得するに際し、極低温透過型電子顕微鏡の光学系を制御し、デフォーカス、3次球面収差、5次球面収差、これらの複数の収差の大きさを所望の値に設定する手段を備えるものである。
【0042】
以上の構成により、本実施形態に係る検証システムでは、次のことが可能となる。すなわち、従来、生体高分子試料のTEM観察時に最も困難であったことは、電子線による試料ダメージ(変形等)を防ぐため極端に照射電流量が少なく、S/N(Signal/Noise)比の小さな画像の中で単粒子像を探索することであった。そのため多くはデフォーカス量を大きく取り、コントラストを強くして撮像していた。しかしながら、3次元電位分布像の再構成のために必要な、得られる情報量を最大化することとは一致していなかった。これに対し、本実施形態では、上記の自動制御システムを組み込むことにより、最適なTEMの光学条件で生体高分子試料を撮像することが可能となる。
【0043】
(3次元電位分布像再構成システム(2−1)の機械学習)
次に、図5を参照して、前述した3次元電位分布像再構成システム(2−1)の機械学習について、説明する。図5は、3次元電位分布像再構成システム(2−1)の細目のうち機械学習に係る部分を抽出して示している。
【0044】
本実施形態では、あらかじめ、観察対象の生体高分子と相当な形状や分子量の分子で、3次元分子構造が既知である複数の生体高分子とTEM観察時と同等なTEMの光学条件と推定される氷の膜厚を用いて、生体高分子の単粒子の様々な投影角に対するTEMシミュレーション像をシミュレーションにより求め、それらの大量なTEMシミュレーション像を機械学習により、生体高分子の単粒子像であることを学習させておく。生体高分子のTEM観察で得られるTEM画像には、通常1枚の画像中に数10個〜数100個の単粒子像が含まれるが、その画像に対し、上記機械学習で得られた知識を基に、画像上の何処に単粒子像が有るかを自動認識し、自動で単粒子像をピックアップするシステムとして、例えば、図5に示す構成がある。
【0045】
図5に示すように、まず、投影角毎の生体高分子単粒子TEM像シミュレーションシステム(5−1)は、既知の生体高分子構造のデータベース(5−4)から観察対象に相当する形状や分子量の生体高分子を複数種類選択し、TEM観察時と同等の光学条件及び数種類の典型的な氷の膜厚(50〜200nm)条件をTEM観察光学条件・氷の厚さ条件(5−5)から読取り、様々な投影角から計算した大量な単粒子のTEMシミュレーション像を、複数種の単粒子の投影角毎のシミュレーション像(5−6)として出力する。このときに、対応する氷の厚さに相当する、単粒子の存在しない、氷のみのノイズ画像のシミュレーション像(5−7)も出力する。
【0046】
次に、TEM像の機械学習システム(5−2)は、大量の複数種の単粒子の投影角毎のシミュレーション像(5−6)と氷のみのノイズ画像のシミュレーション像(5−7)を用いて、単粒子が存在する画像と存在しない画像について学習し、その学習結果を、機械学習の学習結果の重み係数(5−8)として出力する。
【0047】
引き続いて、機械学習による生体高分子単粒子自動サンプリング・システム(5−3)は、TEM画像(5−9)を読み込み、1枚のTEM画像中に存在する数10個〜数100個の単粒子像を、機械学習の学習結果の重み係数(5−8)を用いて、機械学習で探索し、その存在する位置を決定し、各単粒子像を自動抽出し、自動サンプリングされた単粒子像(5−10)に出力する。
【0048】
以上を整理すると、本実施形態に係る検証システムは、生体高分子TEM像から3次元再構成構造を推定するに際し、極低温透過型電子顕微鏡にて得られた投影角の異なる複数の生体高分子TEM像の投影角ごとの分類にあたって、あらかじめシミュレーションにより準備された候補となりうる構造の異なる複数の試料のすべて又は一部の投影角毎のTEM像を基に、実際に得られた生体高分子TEM像の投影角の推定を行う手段を備えるものである。
【0049】
以上の構成により、本実施形態に係る検証システムでは、次のことが可能となる。すなわち、従来、TEM画像中の単粒子像の自動サンプリングを行うためには、事前に数百個〜数千個の生体高分子の単粒子を手作業で、例えば単粒子が有ると思われる画像部分をマウスクリックして抜き取るような作業でTEM画像中からサンプリングする必要があった。そのデータをコンピュータに入力し、コンピュータが、それらのデータについて、投影角を推定し、投影角ごとに単粒子像を積算し、S/N比を向上させるという手順が必要であった。その際も人の判断で、積算像の取捨選択を行うために、3次元再構成像に対し恣意性が生じる可能性を否定できなかった。これに対し、本実施形態では、あらかじめ、既存のデータベースを用いた、学習データの作成が可能なため、作業時間の大幅な短縮と、人の判断による恣意性の排除が可能となる。また、電子線の投影角についても既知のため、あらかじめ設定した角度での画像に対する自動サンプリングも可能となる。
【0050】
(生体高分子TEM像妥当性評価システム(2−4))
次に、図6を参照して、前述した生体高分子TEM像妥当性評価システム(2−4)について、説明する。図6は、生体高分子TEM像シミュレーションシステム(2−3)から生体高分子TEM像妥当性評価システム(2−4)に至る細目を抽出して示している。なお、図6の(6−1)は図2の(2−3)に、図6の(6−5)は図2の(2−4)に、それぞれ対応している。
【0051】
生体高分子TEM像シミュレーションシステム(6−1)によって推定される構造を基に任意の投影方向からのTEM像をシミュレーション計算する手段と、生体高分子TEM像妥当性評価システム(6−5)によって高分子像とシミュレーション像の一致度を計算する手段の例を説明する。生体高分子単粒子のクライオTEM像と生体高分子単粒子のクライオTEMシミュレーション像を比較し、その一致度を推定するシステムにおいて、それぞれの2次元画像に対し、1次元的比較及び2次元的比較により、相関度を決定するシステムとして、例えば、図6に示す構成がある。
【0052】
図6に示すように、まず、生体高分子のTEM像シミュレーションシステム(6−1)は、生体高分子3次元分子構造(6−6)を入力として、投影角が既知の任意方向の生体高分子のTEMシミュレーション像(6−7)を出力する。そして、1次元マッチング・システム(6−2)は、投影角が既知のTEMシミュレーション像のうち、x方向投影、y方向投影、z方向投影の計3つの2次元画像を、ラドン変換により1次元データ集合に変換し、これらの1次元データ集合に対して、実際に得られたTEM像のラドン変換で得られる1次元データ集合の1次元相関関数を計算する。実際に得られたTEM像のラドン変換で得られる1次元データ集合と、x方向投影、y方向投影、z方向投影、のラドン変換データ集合との、相関関数のそれぞれの最大値(..たとえば3つの二乗平均平方根..)が、実験によるTEM像と想定している生体高分子3次元分子構造の一致度とみなせる。また相関関数の最大値を与える3つのラインプロファイル(x方向投影、y軸方向投影、z軸方向投影に関して、相関の最大値を示す3つのラインプロファイル)は、各投影像上に図示することが可能であり、図示の結果より各ラインプロファイルのベクトル成分表示が得られる。この3つのラインプロファイルはまた、実際に得られたTEM像上にも図示可能であり、これらのベクトル成分表示を用いてのベクトル外積を計算することで、実際に得られたTEM像に垂直なベクトルが得られる。この垂直なベクトルが、生体高分子3次元分子構造から得られるTEM像の投影角ベクトルである。これらの結果は、1次元のマッチング結果(6−9)として出力される。
【0053】
1次元マッチング・システム(6−2)は、1次元のマッチング結果(6−9)を用いて、TEMシミュレーション像(6−7)とTEM像(6−8)間のマッチング精度を判定し、不十分であれば、異なった投影角に対応するTEMシミュレーション像(6−7)とTEM像(6−8)間で再度の1次元のマッチング(6−2)を行うか、後述する2次元マッチングに進むかについて、1次元マッチング判定(6−3)を行う。
【0054】
引き続いて、2次元マッチング・システム(6−4)は、すべての投影角について計算した、投影角が既知の生体高分子のTEMシミュレーション像(集合)(6−7)に対して、投影角が未知の生体高分子のTEM像(6−8)との2次元相互相関関数を計算する。生体高分子のTEM像と、最も高い2次元相互相関の値を示す生体高分子のTEMシミュレーション像を検索し、その2次元相互相関関数の値(最大値)が、実験によるTEM像と想定している生体高分子3次元分子構造の一致度となる。また、最も高い2次元相互相関の値を示す生体高分子のTEMシミュレーション像の(既知の)投影角が、生体高分子のTEM像の投影角となる。これらの結果は、相互の像間の2次元のマッチング結果(6−10)として出力される。そして、TEM像妥当性評価システム(6−5)は、1次元のマッチング結果(6−9)と2次元のマッチング結果(6−10)を用いて、TEM像(6−8)の妥当性評価値(6−11)を出力する。
【0055】
以上を整理すると、本実施形態に係る検証システムは、生体高分子TEM像とTEMシミュレーション像の一致度を計算するに際し、それぞれの2次元画像を、ラドン変換により1次元データに変換し、探索画像数をすべての投影角とすることなく、x軸投影、y軸投影、z軸投影の3つの画像で済ますことが可能な1次元データ間の相関計算に還元することにより、画像間のマッチング計算時間を大幅に短縮し、かつマッチング精度を維持する手段を備えるものである。
【0056】
以上の構成により、本実施形態に係る検証システムでは、電子線の投影角が未知の2次元TEM像(6−8)と投影角が既知のTEMシミュレーション像(6−7)について1次元的にマッチングを取ることで、高速に多量なTEM像のマッチングを取ることができる。すなわち、探索画像数をすべての投影角とすることなく、x軸投影、y軸投影、z軸投影の3つの画像とし、1次元データ間の相関関数の最大値を整合性の数値とすることで、通常このような場合に用いられる2次元画像間のマッチングに比べて、計算時間を大幅に短縮し、かつ、生体高分子TEM像と3次元分子構造の整合性における数値化の精度を維持することができる。その結果、高度な相関が得られた画像間について、更に2次元的なマッチングを行い、精査することが可能となっている。
【0057】
(生体高分子3次元電位分布像シミュレーションシステム(2−5)、生体高分子3次元電位分布像妥当性評価システム(2−6))
次に、図7を参照して、前述した生体高分子3次元電位分布像妥当性評価システム(2−6)について、説明する。図7は、生体高分子3次元電位分布像シミュレーションシステム(2−5)から生体高分子3次元電位分布像妥当性評価システム(2−6)に至る細目を抽出して示している。なお、図7の(7−1)は図2の(2−5)に、図7の(7−5)は図2の(2−6)に、それぞれ対応している。
【0058】
生体高分子の3次元電位分布像シミュレーションシステム(7−1)によってシミュレーション像から3次元再構成を行う手段と、3次元電位分布像妥当性評価システム(7−5)によって生体高分子の3次元再構成構造とシミュレーション像からの3次元再構構造の一致度を計算する手段の例を説明する。タンパク質の3次元電位分布像と、3次元電位分布シミュレーション像を比較し、その一致度を推定するシステムにおいて、それぞれの3次元画像に対し、2次元的比較及び3次元的比較により、相関度を決定するシステムとして、例えば、図7に示す構成がある。
【0059】
図7に示すように、まず、生体高分子の3次元電位分布像シミュレーションシステム(7−1)は、投影角が既知の生体高分子のTEMシミュレーション像(7−6)を入力として、生体高分子の3次元電位分布シミュレーション像(7−7)を出力する。そして、2次元マッチング・システム(7−2)は、生体高分子の3次元電位分布シミュレーション像(7−7)及び生体高分子の3次元電位分布像(7−8)を用いて、それぞれの3次元構造のクロスセクションに関する2次元マッチングを行い、2次元マッチング結果(7−9)を出力する。2次元マッチングは、それぞれの3次元構造データを、2次元データに変換して、2次元データ間の相関計算に還元して行う。
【0060】
2次元マッチング・システム(7−2)は、2次元マッチング結果(7−9)を用いて、2次元マッチング精度の評価を行い、不十分であれば、3次元電位分布シミュレーション像(7−7)のクロスセクション方向を変更して再度の2次元のマッチング(7−2)を行うか、後述する3次元マッチングに進むかについて、2次元マッチング判定(7−3)を行う。
【0061】
引き続いて、3次元マッチング・システム(7−4)は、生体高分子の3次元電位分布シミュレーション像(7−7)と生体高分子の3次元電位分布像(7−8)を用いて、3次元構造のマッチングを行って、3次元マッチング結果(7−10)を出力する。そして、3次元電位分布像妥当性評価システム(7−5)は、2次元のマッチング結果(7−9)と3次元のマッチング結果(7−10)を用いて、3次元電位分布像の妥当性評価値(7−11)を出力する。
【0062】
以上を整理すると、本実施形態に係る検証システムは、生体高分子TEM像の3次元再構成構造とTEMシミュレーション像からの3次元再構成構造の一致度を計算するに際し、それぞれの3次元構造データを、2次元データに変換し、2次元データ間の相関計算に還元することにより、構造間のマッチング計算時間を大幅に短縮し、かつマッチング精度を維持する手段を備えるものである。
【0063】
以上の構成により、本実施形態に係る検証システムでは、3次元電位分布像(7−8)と3次元電位分布シミュレーション像(7−7)について2次元的にそれぞれのクロスセクションのマッチングを取ることで、高速に多量な3次元像のマッチングを取ることができる。その結果、高度な相関が得られた画像間について、更に3次元的なマッチングを行い、精査することが可能となっている。
【0064】
(リガンドを含む結合物質の結合状態と結合位置の推定)
次に、本実施形態に係る検証システムを用いて、3次元分子構造が既知の生体高分子にリガンドを含む何らかの結合物質を付与した場合の結合状態と結合位置を推定する場合について、図8を参照して説明する。
【0065】
すなわち、検証システムは、3次元分子構造が既知の生体高分子を受容体として結合物質が結合された場合の結合状態と結合位置を推定するに際し、生体高分子TEM像が極低温透過電子顕微鏡を用いて生体高分子と結合物質の混合試料から取得されるとともに、TEMシミュレーション像が結合物質の構造と結合部位を推定して結合物質を配した3次元分子構造として取得され、それぞれ取得された生体高分子TEM像とTEMシミュレーション像の相関関係を求めることにより結合物質の結合状態と結合位置が推定される
【0066】
なお、本明細書では、ある物質(本明細書では生体高分子)の受容体に特異的に結合する物質であるリガンド(配位子)に加え、非特異的結合分子又はそのイオン、異種核原子やイオン又はその複合体などを含めて、結合物質と称している。図8を含めて以下では結合物質としてリガンドを採り上げて説明するが、他の結合物質にも妥当することに留意されたい。
【0067】
具体的な手順は図8に示すとおりであり、図8に示すように、まず、リガンドの構造決定と結合部位の推定を行い(8−1)、生体高分子の受容体に同リガンドを配した3次元分子構造を推定して、生体高分子のTEMシミュレーション像を取得する(8−2)。TEMシステムの最適光学条件を決定する(8−3)。TEMシミュ―レーション像は、前述した生体高分子TEMシミュレーションシステムによって取得される。
【0068】
一方、生体高分子とリガンドの混合試薬を準備し(8−4)、上記したTEMシステムの最適光学条件によって極低温透過型電子顕微鏡を用いてTEM像を取得する(8−5)。そして、TEMシミュレーション像とTEM像を用いて2次元像のマッチングを行い(8−6)、相関関係を求めることにより2次元マッチング判定を行う(8−7)。この判定の結果が良好でなければ(図中、“NG”)、リガンドの結合推定位置や結合状態の再推定を行い(8−8)、(8−2)に戻り、判定を繰り返す。そして、判定の結果が良好であれば(図中、“OK”)、リガンドの結合推定位置と結合状態を決定する(8−9)。2次元像のマッチングにおける相関関係は、前述した2次元マッチング・システムによって判定される。
【0069】
(実施形態の効果)
本実施形態によれば、生体高分子単粒子解析法を用いた解析結果に対して、物理的に十分な妥当性の検証を与える検証システムを提供することができる。具体的には、以下のとおりである。
【0070】
従来、TEMによる生体高分子の3次元再構成法において、人手で行われていた、3次元電位分布像を基に行う3次元分子構造の決定作業において、既知のアミノ酸の連鎖の情報を基に、あらかじめ構造単位(ヘリックス構造、シート構造、モチーフ構造、ドメイン構造、サブユニット構造など)、さらには残余部分の構造を初期位置として設定することにより、より容易にタンパク質の3次元分子構造を決定することができる。
【0071】
現在、電子顕微鏡のフォーカス量、各種収差量については、生体高分子の3次元構造の再構成に必要な、最も情報量の多いTEMの光学条件で撮像されていない。このことは、タンパク質等の生体高分子が、水素・酸素・炭素等の低元素が主体のため、電子線に対し殆どコントラストが得られないことに起因する。タンパク質などの生体高分子のTEM像のコントラストが低いため、TEM観察は困難を極める。生体高分子の形が見えないため、通常はフォーカスを大きくアンダーフォーカス状態に設定し、コントラストを上げて撮像する。しかしこの状態は、高分解能での3次元再構成のためには最適ではない。本実施形態では、シミュレーションによりあらかじめ得られた、最適な電子顕微鏡のフォーカス量、各種収差量を電子顕微鏡に設定することにより、3次元再構成に最適なTEM像の取得が可能となる。
【0072】
生体高分子単粒子のTEM像と生体高分子単粒子のTEMシミュレーション像を比較し、その一致度を推定することにより、計測結果の生体高分子の単粒子TEM像と、3次元電位分布像の妥当性を評価することが可能となる。
【0073】
計測結果の3次元電位分布像と3次元電位分布のシミュレーション像を比較し、その一致度を推定することにより、異なるアルゴリズムで3次元電位分布像の妥当性を評価することが可能となる。
【0074】
観察対象と同等な大きさを持つ3次元分子構造が既知の生体高分子の情報を入手し、その情報とTEM観察時の光学条件から、様々な投影角に対応するノイズを含む大量のTEMシミュレーション像を得て、機械学習により像の学習を行い、その結果を用いて、実際に取得したTEM観察画像から、観察対象の生体高分子の存在する位置を推定し、自動で単粒子像のピッキングを行う。このことにより、現状では、人手で、目視観察により、TEM観察画像からノイズに埋もれた数千個の様々な投影角の単粒子像をピッキングするためにかかっている膨大な時間を、削減することができる。
【0075】
生体高分子にリガンド等の結合物質を付与した場合を検証システムの対象とすることにより、生体高分子へのリガンド等の結合物質の結合状態と結合位置を推定することが可能となる。
【実施例】
【0076】
以上説明した本実施形態について、その実施例を図9図22を参照して説明する。
【0077】
(生体高分子の単粒子TEM像の取得と3次元再構成の実施例)
まず、βガラクトシダーゼを生体高分子の例として、クライオTEMによって図9に示すTEM画像を取得する。この1枚のTEM画像中に多くのβガラクトシダーゼの単粒子像が含まれる。このTEM画像から、図10に示すように、単粒子をサンプリングした単粒子像(図中、小さな丸印で囲われている範囲)を抽出する。次に、図11に示すように、サンプリングした単粒子像を基に、想定される投影角ごとに分類し、2次元積算像を造成する。
【0078】
これらの投影角毎の2次元積算像を基に、図12に示すように、3次元電位分布像を推定する、すなわち、3次元再構成を行う。そして、3次元電位分布像を基に、βガラクトシダーゼのアミノ酸配列を考慮し、アミノ酸を当てはめていき、βガラクトシダーゼの立体的な原子位置を決定することにより、図13に示す3次元分子構造図や図14に示す3次元分子構造の模式図を得る。
【0079】
(生体高分子の3次元分子構造を用いた単粒子TEMシミュレーション像の計算例)
図13に示す3次元分子構造図を用いて、コンピュータ・シミュレーションにより得たTEMシミュレーション像を図15に示す。
【0080】
ここで、シミュレーション時の、βガラクトシダーゼ(lacZ)の投影角及びTEMの光学条件は、以下のとおりである。
(1)βガラクトシダーゼ(lacZ)の投影角
lacZ.xyz
・Amp −> 94.13
・Dir −> 87.43
・Rot −> 273.12
(2)TEMの光学条件
TEM画像
・Specimen thickness(A)=140.00
・Slice Thickness(A)=5.00
・Kv=200.00
・Lambda(A)=0.02508
・Cs(mm)=0.26480
・df(A)=20000.00
・Cc(mm)=1.70
・de(ev)=0.00
・alpha(mrad)=0.10
・OL Aperture radius(mrad)=2.51
・OL Aperture radius(1/A)=0.10
・Pixel size(A)=1.2500
・Max. Intens.=1.4390
【0081】
このように、一旦、生体高分子の3次元分子構造が定まると、その情報を基に、任意の投影角で、かつ任意のTEMの光学条件下でのTEMシミュレーション像の取得が可能となる。
【0082】
(単粒子TEMシミュレーション像から3次元電位分布像の再構成例)
IP3R(イノシトールトリスリン酸受容体)タンパクを例として、単粒子TEMシミュレーション像から3次元電位分布像の再構成例を図16に示す。図16は、IP3Rの投影角を1度ごとに回転させた360枚のTEMシミュレーション像を基に、X線CTなどで用いられるバックプロジェクション法で3次元構造を再構成し、その立体構造の水平面上の4面のクロスセクションを右側の4枚の画像で示したものである。
【0083】
(氷膜中の単粒子TEMシミュレーション像の作成例)
IP3R(イノシトールトリスリン酸受容体)タンパクを例として、氷膜中の単粒子TEMシミュレーション像の作成例を図17に示す。本シミュレーション像では、水膜の厚さが増すにつれて、単粒子像のS/N比の低下が示されている。
【0084】
(生体高分子の3次元分子構造からTEMシミュレーション像のシミュレーション例)
図18の左側に示すβガラクトシダーゼの3次元分子構造図の情報に含まれる構成原子の位置情報から、TEM像のシミュレーションを行った画像が図18の右側に示す図である。シミュレーションにより、任意の投影方向からのTEMシミュレーション像が得られる。
【0085】
(様々な投影方向からのTEMシミュレーション像を基に3次元電位分布のシミュレーションと、デフォーカス値・Cs収差値、C5収差値の最適値計算例)
図19(a)は、様々な投影方向からのβガラクトシダーゼのTEMシミュレーション像の例であって、推定される構造を基に任意の投影方向からのTEM像をシミュレーション計算する手段を示す例である。通常、生体高分子は図19(a)に示すようにコントラストが低く画像の認識が困難であるため、図19(b)として、これらのうち1つの投影TEMシミュレーション像(図19(a)の中央で破線〇囲みしたもの)を拡大して示す。
【0086】
図19(a)のTEMシミュレーション像の計算時におけるTEMの光学系の諸条件は、次のとおりである。
・Specimen thickness(A)=105.00
・Slice Thickness(A)=5.00
・Kv=300.00
・Lambda(A)=0.01969
・Cs(mm)=5.45550
・df(A)=−1167.66
・Cc(mm)=1.25
・de(ev)=0.34
・alpha(mrad)=0.10
・C5:amp(mm)=−50561.0000
【0087】
図20は、図19(a)の計算に用いたTEMのコントラスト伝達関数(CTF:Contrast Transfer Function)を図示したものである。CTFは逆空間で定義される関数であり、試料構造を構成する空間周波数成分(フーリエ係数:複素数、強度と位相をもつ)が、TEM観察によりどのように像に伝達されるかを示すものである。CTFは、点の広がり具合(PSF:Point Spread Function)のフーリエ変換と解釈できる。図20の横軸は、TEM像に含まれる空間周波数であり、縦軸はコントラストの強度を示す。図20では、3次球面収差(Cs)と5次球面収差(C5)を、デフォーカス量:Df=−1167.66Åに対して最適化したものであり、空間周波数が1/5〜1/2(Å−1)の帯域(実空間で言えば信号成分の波長が2〜5Åの間で)ほぼ一様なコントラストを得ることができる。比較的大きなデフォーカス量:Df=−1167.66Åにより、10Å程度の比較的大きな試料構造も十分な強度で、像に伝達可能な光学条件となっており、10Å程度の構造成分により形状が識別できるような生体高分子の解析に適した、TEMの光学条件を実現できることを示している。本計算例は、生体高分子像の取得の際、電子顕微鏡の光学系を制御し、デフォーカス、3次球面収差、5次球面収差、これらの複数の収差の大きさを、所望の値に設定する際、それらの値がどのような構造を有する生体高分子に対して有効であるかを示す例である。
【0088】
(氷包埋中の生体高分子のTEMシミュレーション像から3次元電位分布像の再構成例)
図21は、図19(a)の様々な投影角から成るβガラクトシダーゼのTEMシミュレーション像を用いて、3次元電位分布像を再構成し、そのクロスセクション部分を、3次元電位分布データより読出し、それぞれ矢印に示す2次元電位分布像を表示したものである。本計算例は、TEMシミュレーション像から3次元再構成を行う手段を示す例である。
【0089】
(シニョリンタンパク質分子を例に、1次元マッチングシステムの動作をデモンストレーションした例)
図22(a)、図22(b)、図22(c)は、実験像取得前にあらかじめ計算した、シニョリンタンパクのx投影画像、y投影画像、z投影画像である。図22(d)は、実験で取得した電子顕微鏡像(ただし、ここでは、構造モデルに任意の投影角を与えて、計算にて作成したSTEM像)、図22(e)は、あらかじめ計算した投影像と実験取得像のラインプロファイル解析の結果えられた実験像の投影方位をもとに、計算で再現した投影方向への投影モデルである。
【0090】
図22(d)の実験像と、あらかじめ計算した図22(a)〜(c)の各投影像の整合性(ラドン変換同士の相関関数の最大値)は、以下のとおりである。相関関数は最大1となるように規格化されており、以下に示した1次元相関関数の値は1に近い値となっている。
実験像と各投影像の整合性を表す1次元相関関数の値:
・X方向投影図 −> 0.9972
・Y方向投影図 −> 0.9918
・Z方向投影図 −> 0.9940
・二乗平均平方根 −> 0.9943
・ラインプロファイルベクトルの外積による投影方位の解析結果 −> −0.80,−0.78,−1.0
【0091】
上記したラインプロファイルの解析から得られた投影方位(−0.80,−0.78,−1.0)を用いることで、図22(e)の再現図は、図22(d)の実験像の構造を再現できており、よく一致する。なお、ここでは、図22(d)の実験像はモデルからシミュレーションにより作成しているが(したがって一致度は1に近い値が得られる)、シミュレーションにより得られる像は実験像とほぼ同じ画像であると考えられる。
【符号の説明】
【0092】
1−1…TEM像取得システム
1−2…生体高分子単粒子自動サンプリングシステム
1−3…3次元電位分布再構成システム
1−4…生体高分子3次元分子構造推定システム
1−5…生体高分子TEMシミュレーションシステム
1−6…生体高分子TEM像妥当性評価システム
1−7…3次元電位分布シミュレーションシステム
1−8…生体高分子3次元電位分布像妥当性評価システム
1−9…TEMシステム(極低温透過型電子顕微鏡)
図1
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