(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883240
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】車両のステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/185 20060101AFI20210531BHJP
【FI】
B62D1/185
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-98684(P2017-98684)
(22)【出願日】2017年5月18日
(65)【公開番号】特開2018-192929(P2018-192929A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(72)【発明者】
【氏名】及川 達也
【審査官】
神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−057642(JP,A)
【文献】
特開2012−218455(JP,A)
【文献】
特開2004−291791(JP,A)
【文献】
特開2009−101838(JP,A)
【文献】
特開2007−055580(JP,A)
【文献】
特開2009−096409(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0232117(US,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102012112197(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/16 − 1/20
F16H 25/20 − 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に支持されるメインハウジングと、
該メインハウジングに対し軸方向移動可能に支持されるコラムハウジングと、
該コラムハウジングに対し軸方向移動可能に支持されるコラムチューブと、
該コラムチューブ内に収容されて保持されるステアリングシャフトと、
該ステアリングシャフトに固定されるステアリングホイールと、
前記コラムハウジングに支持される電動モータと、
該電動モータの出力軸に一端部が連結される第1の螺子軸と、
該第1の螺子軸に螺合されると共に、前記コラムチューブに固定されるナット部材と、
前記第1の螺子軸に対して平行に配置され、前記メインハウジングに一端部が固定される第2の螺子軸と、
前記第1の螺子軸に固定される歯車部材であって、該歯車部材の外歯が、前記電動モータの出力軸に連結される前記第1の螺子軸の連結部と前記ナット部材が螺合される前記第1の螺子軸の螺合部との間で、前記第2の螺子軸に噛合するように配置される歯車部材とを備え、
前記電動モータの回転駆動に応じて、前記コラムハウジングが前記メインハウジングに対し前記第1の螺子軸の軸方向に移動すると共に、前記コラムチューブが前記コラムハウジングに対し前記第1の螺子軸の軸方向に移動し、前記ステアリングシャフトが前記コラムチューブと共に車体前後方向に移動するように構成されていることを特徴とする車両のステアリング装置。
【請求項2】
前記電動モータの出力軸及び前記第1の螺子軸に連結され、前記電動モータの出力を減速して前記第1の螺子軸に伝達する減速機構を備え、該減速機構を介して前記電動モータの出力軸が前記第1の螺子軸の軸に対して直交するように、前記電動モータが前記コラムハウジングに支持されていることを特徴とする請求項1記載の車両のステアリング装置。
【請求項3】
前記減速機構は、前記電動モータの出力軸に固定されるウォームギヤと、該ウォームギヤに噛合し前記第1の螺子軸の端部に固定されるウォームホイールとを備え、前記歯車部材が、前記ウォームホイールと前記ナット部材との間の前記第1の螺子軸に固定される平歯車であることを特徴とする請求項2記載の車両のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のステアリング装置に関し、特に、ステアリングホイールの車体前後方向の操作位置を調整し得るステアリング装置に係る。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールの車体前後方向の操作位置を調節可能なステアリング装置に関し、例えば特許文献1には、「車体に支持するメインチューブと、該メインチューブ内に摺動自在に保持するテレスコピックチューブを備え、該テレスコピックチューブを軸方向移動可能に支持し、ステアリングホイールの車体前後方向の操作位置を調整し得る車両のステアリング装置において、前記メインチューブが、軸方向に延在する閉じた開口部を有する筒体であって、前記開口部内を軸方向に移動可能に配置し前記テレスコピックチューブに固着する連結部材と、該連結部材に連結する駆動部材と、該駆動部材を介して前記連結部材を軸方向に駆動する駆動源とを備える」ステアリング装置が提案されており、「前記駆動源を、前記メインチューブに支持した電動モータとし、前記駆動部材を、前記電動モータの出力軸に連結する螺子軸と、該螺子軸に螺合するナットを備えたものとし、前記電動モータによる前記螺子軸の回転駆動に応じて、前記ナットが前記螺子軸の軸方向に移動し、前記ナットと共に前記テレスコピックチューブが車体前後方向に移動するように構成することができる」旨記載されている(特許文献1の段落〔0007〕及び〔0011〕に記載)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−218455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のステアリング装置における「メインチューブ」及び「テレスコピックチューブ」は、夫々「メインハウジング」及び「コラムハウジング」に対応しており、電動モータによる螺子軸の回転駆動に応じて、ナットが螺子軸の軸方向に移動し、ナットと共にテレスコピックチューブ(コラムハウジング)がメインチューブ(メインハウジング)に対し車体前後方向に移動するように構成されている。従って、ステアリングホイールの車体前後方向のストロークを増大させるためには、テレスコピックチューブ(コラムハウジング)のストロークを増大すべく上記の螺子軸を必要な長さまで延長する必要があるが、車両への搭載性が損なわれる等、新たな問題が生ずるので、上記ストロークの増大は容易ではない。
【0005】
そこで、本発明は、従前の螺子軸の全長を増大することなく最終的にステアリングホイールの車体前後方向のストロークを増大し得る車両のステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するため、本発明のステアリング装置は、車体に支持されるメインハウジングと、該メインハウジングに対し軸方向移動可能に支持されるコラムハウジングと、該コラムハウジングに対し軸方向移動可能に支持されるコラムチューブと、該コラムチューブ内に収容されて保持されるステアリングシャフトと、該ステアリングシャフトに固定されるステアリングホイールと、前記コラムハウジングに支持される電動モータと、該電動モータの出力軸に一端部が連結される第1の螺子軸と、該第1の螺子軸に螺合されると共に、前記コラムチューブに固定されるナット部材と、前記第1の螺子軸に対して平行に配置され、前記メインハウジングに一端部が固定される第2の螺子軸と、前記第1の螺子軸に固定される歯車部材であって、該歯車部材の外歯が、前記電動モータの出力軸に連結される前記第1の螺子軸の連結部と前記ナット部材が螺合される前記第1の螺子軸の螺合部との間で、前記第2の螺子軸に噛合するように配置される歯車部材とを備え、前記電動モータの回転駆動に応じて、前記コラムハウジングが前記メインハウジングに対し前記第1の螺子軸の軸方向に移動すると共に、前記コラムチューブが前記コラムハウジングに対し前記第1の螺子軸の軸方向に移動し、前記ステアリングシャフトが前記コラムチューブと共に車体前後方向に移動するように構成されている。尚、上記の「車体前後方向」は必ずしも路面に対して平行を意味するものではなく、路面に対し傾斜している方向を含む(以下、同様)。
【0007】
上記のステアリング装置において、前記電動モータの出力軸及び前記第1の螺子軸に連結され、前記電動モータの出力を減速して前記第1の螺子軸に伝達する減速機構を備え、該減速機構を介して前記電動モータの出力軸が前記第1の螺子軸の軸に対して直交するように、前記電動モータが前記コラムハウジングに支持されているものとするとよい。
【0008】
更に、前記減速機構は、前記電動モータの出力軸に固定されるウォームギヤと、該ウォームギヤに噛合し前記第1の螺子軸の端部に固定されるウォームホイールとを備えたものとし、前記歯車部材を、前記ウォームホイールと前記ナット部材との間の前記第1の螺子軸に固定される平歯車で構成するとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、本発明のステアリング装置は、上記のメインハウジング、コラムハウジング、コラムチューブ、ステアリングシャフト及び電動モータを備え、更に、電動モータの出力軸に一端部が連結される第1の螺子軸と、第1の螺子軸に螺合されると共に、コラムチューブに固定されるナット部材と、第1の螺子軸に対して平行に配置され、メインハウジングに一端部が固定される第2の螺子軸と、第1の螺子軸に固定される歯車部材であって、この歯車部材の外歯が、電動モータの出力軸に連結される第1の螺子軸の連結部とナット部材が螺合される第1の螺子軸の螺合部との間で、第2の螺子軸に噛合するように配置される歯車部材とを備え、電動モータの回転駆動に応じて、コラムハウジングがメインハウジングに対し第1の螺子軸の軸方向に移動すると共に、コラムチューブがコラムハウジングに対し同方向に移動するように構成されているので、従前の螺子軸の全長を増大することなく、最終的にステアリングホイールの車体前後方向のストロークを増大することができる。而して、車両への搭載性を損なうことなく容易に上記ストローク増大することができる。
【0010】
上記のステアリング装置において、電動モータの出力軸及び第1の螺子軸に連結され、電動モータの出力を減速して第1の螺子軸に伝達する減速機構を備え、減速機構を介して電動モータの出力軸が第1の螺子軸の軸に対して直交するように、電動モータがコラムハウジングに支持されている構成とすれば、小型で組付け作業が容易な装置となる。
【0011】
更に、減速機構は、電動モータの出力軸に固定されるウォームギヤと、ウォームギヤに噛合し第1の螺子軸の端部に固定されるウォームホイールとを備えたものとし、歯車部材を、ウォームホイールとナット部材との間の第1の螺子軸に固定される平歯車で構成すれば、組付けが容易で安価な装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るステアリング装置の主要構成の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るステアリング装置の主要構成の正面図である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるテレスコピック作動前後の状態を示す正面図である。
【
図4】本発明の一実施形態におけるテレスコピック作動後の状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の望ましい実施形態について図面を参照して説明する。
図1及び
図2は本発明の一実施形態に係るステアリング装置の主要構成を示すもので、固定ブラケットBRを介して、車体(図示せず)に対しメインハウジング1が揺動可能に支持されている(Cは揺動中心を示す)。このメインハウジング1に対し、コラムハウジング2が軸方向移動可能に支持されると共に、コラムハウジング2に対しコラムチューブ3が軸方向移動可能に支持されている。コラムチューブ3内にはステアリングシャフト4が収容されて保持され、ステアリングシャフト4の先端にはステアリングホイール(図示せず)が固定される。コラムハウジング2には電動モータ5が支持され、その出力軸(5a)に第1の螺子軸6の一端部(6a)が連結されている。第1の螺子軸6の螺合部(6b)にはナット部材7が螺合され、このナット部材7はコラムチューブ3に固定されている。尚、メインハウジング1及びコラムハウジング2は、それらの位置関係から、夫々「ロアハウジング」及び「アッパハウジング」とも呼ばれ、コラムチューブ3及びステアリングシャフト4は、夫々「アッパチューブ」及び「アッパシャフト」とも呼ばれる。
【0014】
更に、第1の螺子軸6に対して平行に第2の螺子軸8が配置され、その一端部(8a)がコラムハウジング2に固定されている。第1の螺子軸6には歯車部材9が固定され、その外歯が、電動モータ5の出力軸(5a)に連結される第1の螺子軸6の連結部6aと、ナット部材7が螺合される第1の螺子軸6の螺合部6bとの間で、第2の螺子軸8に噛合するように配置されている。而して、電動モータ5の回転駆動に応じて、コラムハウジング2がメインハウジング1に対し第1の螺子軸6の軸方向に移動すると共に、コラムチューブ3がコラムハウジング2に対し第1の螺子軸6の軸方向に移動し、ステアリングシャフト4がコラムチューブ3と共に車体前後方向に移動するように構成されている。即ち、メインハウジング1に対しコラムハウジング2とコラムチューブ3(及びステアリングシャフト4)が同期して車体前後方向に移動するテレスコピック機構が構成されている。
【0015】
本実施形態においては、電動モータ5の出力軸(5a)及び第1の螺子軸6に連結され、電動モータ5の出力を減速して第1の螺子軸6に伝達する減速機構10が設けられており、
図2に示すように、減速機構10を介して電動モータ5の出力軸(5a)が第1の螺子軸6に対して直交するように、電動モータ5がコラムハウジング2に支持されている。本実施形態の減速機構10は、電動モータ5の出力軸(5a)に固定されるウォームギヤ(図示せず)と、このウォームギヤに噛合し第1の螺子軸6の端部(6a)に固定されるウォームホイール(図示せず)とを備えており、歯車部材9は、このウォームホイールとナット部材7との間に固定され、第2の螺子軸8に噛合する外歯を有する平歯車で構成されている。尚、第1の螺子軸6及び第2の螺子軸8は台形螺子で構成されている。
【0016】
上記の構成になるステアリング装置の作動について
図3及び
図4を参照して説明する。尚、
図3では視認性の観点から、
図1及び
図2に示した歯車記号を省略している。
図3に2点鎖線で示す初期位置において、電動モータ5が回転駆動されると、減速機構10を介して第1の螺子軸6がその軸芯を中心に回転駆動され、これと一体で第2の螺子軸8に外歯が噛合する歯車部材9が、その軸芯を中心に回転駆動されながら、第1の螺子軸6の軸方向に移動する。この結果、第1の螺子軸6と一体の歯車部材9が2点鎖線で示す初期位置から第1の螺子軸6の軸方向に移動し、第1の螺子軸6が固定されたコラムハウジング2もメインハウジング1に対し同方向に同距離移動する。この場合の歯車部材9の最大移動距離は、2点鎖線で示す初期位置から実線で示す移動後の位置までの軸方向距離(
図3にLaで示す)となる。
【0017】
上記コラムハウジング2の移動と同時に、第1の螺子軸6に螺合するナット部材7が、その軸芯を中心に回転駆動されながら、第1の螺子軸6の軸方向に移動する。この結果、ナット部材7が2点鎖線で示す初期位置から第1の螺子軸6の軸方向に移動し、ナット部材7が固定されたコラムチューブ3もコラムハウジング2に対し同方向に同距離移動する。この場合のナット部材7の最大移動距離は2点鎖線で示す初期位置から実線で示す移動後の位置までの軸方向距離(
図3にLbで示す)となる。即ち、メインハウジング1に対し、コラムハウジング2とコラムチューブ3(及びステアリングシャフト4)が同期して車体前後方向に最長(La+Lb)の軸方向距離を移動し、
図4に示す状態となる。而して、ステアリングホイール(図示せず)が車体前後方向に移動してテレスコピック作動が行われる。この場合において、コラムハウジング2とコラムチューブ3の軸方向移動は同時に行われ、上記作動説明の順序は無関係であり、
図3に示すLa及びLbも作動順序とは無関係である。
【0018】
尚、電動モータ5及び減速機構10は従前の構造と基本的に同様であるので、構造の説明は省略する。更に、これらと同様の機構の駆動制御によって車体(図示せず)に対しメインハウジング1(ひいてはステアリングシャフト4)が(Cを中心に)揺動するチルト機構も配設されているが、本願発明と直接関係するものではないので、これについても説明を省略する。
【符号の説明】
【0019】
1 メインハウジング
2 コラムハウジング
3 コラムチューブ
4 ステアリングシャフト
5 電動モータ
6 第1の螺子軸
7 ナット部材
8 第2の螺子軸
9 歯車部材
10 減速機構