【実施例】
【0042】
(実施例1)
繊維のアスペクト比が5以上のセルロース系繊維が40質量%添加された複合樹脂にて検討を実施した。
【0043】
図1は、実施例1の木質成形品の形状を示す。
図2は、実施例1の木質成形品の製造工程における樹脂の流動推移を示す。
図3は、
図1に示す形状の成形品について、樹脂温度、金型温度を変えて成形したときの成形品外観を示す。
【0044】
図1(a)は実施例1の成形品100の形状を示す。
図1(b)および
図1(c)に示すように、セルロース系繊維が40質量%添加された複合樹脂は、成形機において、ランナー(図示略)を経て樹脂流入口すなわちゲート101、102の2点から射出される。成形機のシリンダ温度は、母材であるポリプロピレンを溶融し、褐色化成分であるフルフラールを生成させ、さらに、セルロース系繊維の完全な炭化を防ぐため、180℃以上260℃以下の範囲とされるのが好ましい。さらに好ましくは、200℃以上230℃以下の範囲である。実施例1では、200℃と230℃との2条件で成形した。また、金型温度は。20℃以上100℃以下の範囲で設定することが好ましく、40℃以上80℃以下の範囲がさらに好ましい。実施例1では、金型の温度は40℃と80℃とに設定した。つまり、上記シリンダ温度2種類(200℃と230℃)について、それぞれ2種類の金型温度(40℃と80℃)で成形した。すなわち、計4条件で成形した。
【0045】
図2(a)に示すように、2つのゲート101、102から射出された複合樹脂は、射出直後に、樹脂合流界面201の位置で合流する。このとき密閉された金型内に残存している空気は、射出された樹脂の影響を受け、樹脂合流界面201およびその近傍で圧縮され発熱する。また、各ゲート101、102から射出された樹脂は、合流した瞬間に互いに交じり合うことで、せん断発熱を生じる。これらの発熱により、樹脂合流界面201の近傍では、複合樹脂中のセルロース系繊維がシリンダ内で変性して生じたフルフラールよりさらにフルフラールが増加する。その結果、樹脂合流界面201およびその近傍では、それ以外の領域に比べ、複合樹脂の色が濃くなる。
【0046】
図2(b)に示すように、圧縮およびせん断発熱により、樹脂合流界面201およびその近傍において、それ以外の領域に比べより多く生成されたフルフラールは、ウェルドライン202に沿って生成される。その結果、複合樹脂は、色の濃淡が目視で認識できるレベルで木目を形成しながら流動していく。
【0047】
図2(c)に示すように、樹脂流動末端203まで樹脂が流動して充填されることで、成形品100が得られる。
図2(b)に示すように形成されたウェルドライン202は、樹脂流動末端203の位置まで樹脂が流動するにつれて徐々に長さが増加する。すると、ウェルドライン202に沿った木目も、成形品100の表面の長手方向に沿って線状に形成される。
【0048】
図3(a)〜(d)において、木質成形品301〜304は、それぞれ樹脂温度200℃、230℃、金型温度40℃、80℃の組合せでそれぞれ成形されたものである。
【0049】
図3(a)に示される成形品301(樹脂温度200℃、金型温度40℃にて成形)において、ウェルドライン202上に形成された木目の領域(色の濃い領域)ではない、木目以外の領域において、分光測定器による色調測定の結果、明暗を意味するL*の値、赤と緑の尺度a*、黄と青の尺度b*の値が、それぞれ、L
1*=64.89、a
1*=9.03、b
1*=31.23、であった。一方、ウェルドライン202上に形成された木目(フルフラール)の領域において、分光測定器による色調測定の結果、L*、A*、b*の値がそれぞれ、L
2*=58.62、a
2*=10.49、b
2*=29.88、であった。以上の結果から、上記2色間の差を表す色差ΔEは、以下の式より
【0050】
【数1】
【0051】
となった。つまり、明暗を意味するL*の値、赤と緑の尺度a*、黄と青の尺度b*に差異があり、ウェルドライン202上に形成された木目の領域とそれ以外の領域での色差ΔEは6.55となった。すなわち、人間の目視で認識できる色差ΔEが3以上のため、成形品の表面に色の差、濃淡が表されたことになった。すなわち、ウェルドライン202に近い領域の色がウェルドライン202から遠い領域の色よりも濃いという結果になった。
【0052】
また、金型温度が40℃と比較的低温であるため、成形品301の表面近傍には繊維がランダムにトラップ(製品最表面から製品厚み方向に沿って厚みの5%以内に拘束)された繊維浮き305が生じており、これによって更に天然の木材のような風合いが表されていた。
【0053】
繊維浮き305は、樹脂温度や金型温度等の成形条件によって、製品最表面から製品厚み方向に沿って製品厚みの5%以内に拘束されるトラップ量をコントロールできる。詳細には、樹脂温度および金型温度を低く、また圧縮およびせん断発熱量を低くすると、製品表面全面に繊維浮き305を発生させることができる。逆に樹脂温度および金型温度を高く、また圧縮およびせん断発熱量を高くすると、繊維浮き305をほとんど発生させないようにすることができる。
【0054】
図3(b)に示される成形品302(樹脂温度200℃、金型温度80℃にて成形)においては、成形品301同様に木目とそれ以外の領域でΔEが3以上の色差が発生した。しかし、
図3(a)に示される成形品301で発生した繊維浮き305は、発生しなかった。これは、金型の温度が高いために繊維が樹脂内部に沈み込む時間が長く、このため表面硬化開始前に繊維が成形品内部に沈み込んだことが原因したものであると考えられる。
【0055】
図3(c)に示される成形品303(樹脂温度230℃、金型温度40℃にて成形)においては、
図3(a)に示される成形品301よりも全体的に成形品の色が暗く、また木目の領域とそれ以外の領域との色の濃淡もより顕著になった。成形品303のウェルドライン202上に形成された木目(フルフラール)の領域ではない、それ以外の領域において、分光測定器による色調測定の結果、L*、a*、b*の値が、それぞれ、L
3*=50.1、a
3*=9.73、b
3*=25.93、であった。一方、ウェルドライン202上に形成された木目(フルフラール)の領域において、分光測定器による色調測定の結果、L*、a*、b*の値がそれぞれ、L
4*=43.9、a
4*=11.01、b
4*=22.99、であった。以上の結果から、上記2色間の差を表す色差ΔEは、以下の式より
【0056】
【数2】
【0057】
となった。つまり、明暗を意味するL*の値、赤と緑の尺度a*、黄と青の尺度b*に差異があり、ウェルドライン202上に形成された木目の領域とそれ以外の領域での色差ΔEは6.98となり、人間の目視で認識できる色差ΔEが3以上のため、成形品の表面に色の差、濃淡が表されたことになった。また、金型温度が比較的低温であるため、成形品301の表面近傍には繊維がランダムにトラップ(製品最表面から製品厚み方向に沿って厚みの5%以内に拘束)された繊維浮き305が生じており、これによって更に天然の木材のような風合いが表されていた。
【0058】
図3(d)に示される成形品304(樹脂温度230℃、金型温度80℃にて成形)においては、
図3(c)に示される成形品303と同様に木目の領域とそれ以外の領域とで色差が発生したが、成形品303で発生した繊維浮き305は発生しなかった。これは、金型の温度が高いために繊維が樹脂内部に沈み込む時間が長く、このため表面硬化開始前に繊維が成形品内部に沈み込んだことが原因したものであると考えられる。
【0059】
図3(a)に示される成形品301のGC/MS成分分析を行なった結果、射出成形前は未検出であったフルフラールが成形品から検出された。分析試料単位質量あたりから、バイアル瓶気相部分に発生したガス量をトルエンd8を標品として換算したところ、フルフラールの検出量は、ウェルドラインに沿った木目部で0.22[μg/g]、木目以外の領域(基準色)で0.18[μg/g]であり、色の濃淡により0.04[μg/g]の差が生じた。この結果から、樹脂の加熱溶融と圧縮およびせん断発熱とによって、変色(褐色化)成分であるフルフラールが生成されたことが確認できた。かつ、成形品全体でフルフラールの量が不均一となっていることによって、色むらや木目等の木質感および風合いを表していることがわかった。
【0060】
以上の構成によって、特許文献1に記載の技術と同等以上の天然の木質感(色むら、木目、風合い)を有する木質調成形品を、セルロース系繊維を40質量%含有した複合樹脂1種類のみを使用して成形することができた。
【0061】
成形時の樹脂温度(シリンダ温度)を昇降させることで、木目とそれ以外の領域との色味をコントロールすることができた。
【0062】
成形時の金型温度を昇降させることで、成形品の表面極近傍(成形品最表面から板厚方向に板厚の5%以内の範囲)にトラップされる繊維(繊維浮き)の量を制御することができた。詳細には、成形品の厚みをtとし、成形品の最表面から厚み方向に0.05×t以下の範囲に繊維浮きが生じる部分の表面割合(繊維浮き領域/成形品表面積)を、0.1%以上99%以下の間でコントロールすることができた。
【0063】
実施例1では、セルロース系繊維は針葉樹を使用した。これ以外にも、広葉樹、竹等の、セルロース繊維を抽出できる木材や植物であれば使用でき、その素材は特に限定されない。
【0064】
実施例1では母材にポリプロピレンを用いたが、ペレット製造段階でセルロース系繊維が炭化しない範囲で複合樹脂化できる樹脂であればよく、特に限定されない。
【0065】
製品へ直接ゲートを配置する場合に、その位置や数は、金型の構造上可能な範囲で任意に設定でき、特に制限されない。
【0066】
(実施例2)
セルロース系繊維複合樹脂におけるセルロース系繊維の濃度を変化させて、射出成形限界の調査を実施した。表1に、その射出成形限界の調査結果を示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1において、試料1は、実施例1で検討した、母材にポリプロピレンを用いセルロース系繊維を40質量%含有する複合樹脂を、樹脂温度230℃、金型温度80℃の条件で成形したサンプルである。この試料1を基準として、セルロース系繊維の濃度を5質量%間隔で増加させ、成形が可能なセルロース系繊維濃度の見極めを行なった。
【0069】
表1において、試料1〜試料8および比較試料9は、セルロース系繊維40質量%から80質量%の範囲の複合樹脂(5質量%きざみ)を、樹脂温度230℃、金型温度80℃の条件で成形したサンプルである。すなわち、試料1、2、3、4、5、6、7、8は、それぞれセルロース系繊維を40、45、50、55、60、65、70、75質量%含有する複合樹脂、比較試料9はセルロース系繊維を80質量%含有した複合樹脂である。表1には、これらの複合樹脂で成形されたサンプルで充填性を確認した結果を示す。
【0070】
試料1〜8は成形品の形状を規定する金型への充填率が100%であり、未充填部はなかった。表1では、これを「良好」と評価した。一方、比較試料9においては、金型の末端まで樹脂が流動・充填しなかった(100%充填ではない)。表1では、これを「不良」と評価した。以上より、上述の条件下では、セルロース系繊維を75質量%含有した複合樹脂が、射出成形にて製品形状を満足する成形品が得られる成形限界であった。
【0071】
(実施例3)
図4は、本発明の実施例3の成形品の形状を示す。
図5は、
図4に記載の成形品を製造するときの樹脂の流動推移を示す。
【0072】
図4(a)(b)(c)において、成形品500は、タブゲート(製品部外から樹脂を流入させ、成形後に製品から除去するゲート)501に障害物502を有した形状の金型を用いて、ゲート503の1点から樹脂を射出することにより製造される。図示の例では、障害物502は、ゲート503に向いた頂点を有する三角柱状に形成されている。
【0073】
図5(a)(b)において、タブゲート501のゲート503から射出・流入された樹脂は、障害物502を境に流動方向が変化し、二手に分岐する。
【0074】
図5(c)(d)において、障害物502を境に二手に分岐した樹脂は、樹脂合流界面504にて再度合流し、ウェルドライン505を形成する。このとき、実施例1の場合と同様に、金型内部の残留空気圧縮による圧縮発熱と、樹脂合流によるせん断発熱とが生じる。この圧縮発熱とせん断発熱とによって、樹脂合流界面504の近傍に位置する複合樹脂中のセルロース系繊維は変性され、フルフラールを生成する。
【0075】
図5(e)において、ウェルドライン505に沿う形でフルフラールの生成が進み、天然の木材のような風合いを有する木目507が形成される。
【0076】
このようにすることで、成形品500において製品部外に位置するタブゲート501を介して製品部に樹脂が流入し、それによって木目や色むらを付与することができる。このため、上述の実施例1のような製品部に直接ゲートを配置する場合と比較して、ゲート直下でのヒケ等の不具合を防止することができる。
【0077】
障害物502は、樹脂の流動を阻害できればどんな形状でもよく、特に限定されない。
【0078】
(実施例4)
図6は本発明の実施例4の成形品の形状を示す。
図7は
図6に記載の成形品を製造するときの樹脂の流動推移を示す。
【0079】
図6(a)(b)(c)において、成形品700は、タブゲート701に障害物702〜705を有した形状の金型を用いて、ゲート706の1点から樹脂を射出することより製造される。
【0080】
図7(a)(b)において、タブゲート701のゲート706から射出・流入された樹脂は、障害物702〜705を境に流動方向が変化し、タブゲート701および障害物702〜705にて形成される各隙間801〜805に向けて分岐する。
【0081】
図7(a)〜(e)に示すように、隙間801〜805のサイズはそれぞれ異なっており、このため隙間801〜805を通過する樹脂が受ける流動抵抗806〜810には差異が生じる。
【0082】
図示の隙間802に生じる流動抵抗807と隙間803に生じる流動抵抗808とでは、サイズの小さい隙間803すなわち障害物703、704どうしの距離が短い隙間803で生じる流動抵抗808の方が大きい。このため、流動抵抗によるせん断発熱量も隙間803の方が大きくなり、隙間803を通過する樹脂の方が、変性により生じるフルフラールの量も多くなり、フルフラール生成量(褐色化量)が、隙間802を通過する樹脂に比べて大きくなる。
【0083】
図7(e)において、流動末端まで樹脂が流入・充填することにより得られる成形品700は、障害物703〜705の数に応じてウェルドライン812〜815が形成され、ウェルドライン812〜815に沿って木目(色の濃淡)が形成されている。さらに、せん断発熱差によって、それぞれのウェルドライン812〜815に沿って形成された木目は、色の濃さが異なっている。
【0084】
このようにすることで、タブゲート701に配置する障害物702〜705の本数および隙間を任意に設定することで、木目の本数および各木目の濃淡もコントロールすることができる。
【0085】
(実施例5)
図8は、本発明の実施例5における、障害物タブゲートを複数付けた成形品形状を示す。
【0086】
図8(a)において、成形品901には、二つのタブゲート902、903が形成されている。これらのタブゲート902、903は、それぞれタブゲート902、903からの樹脂の流動方向がなす角度917が1度以上90度以下となるように形成されている。それぞれのタブゲート902、903には障害物907、908が配置されている。
【0087】
本構成によって、多点ゲートによる樹脂合流界面でのウェルドライン906の形成や、障害物が配置されていることによるウェルドライン904、905の形成が起こる。これによれば、木目(色の濃淡)を付与すると同時に、流動の方向が異なることによる、ウェルドライン904〜906の方向転換やゆらぎを生じさせることができる。
【0088】
図8(b)において、成形品909は、流動方向のなす角度が0度(一直線上)になるように互いに形成されたタブゲート910、911を有している。それぞれのタブゲート910、911には、障害物915、916が配置されている。
【0089】
本構成によって、多点ゲート910、911からの樹脂による合流界面が形成されることで、流動方向に垂直な方向のウェルドライン914が形成される。また障害物915、916が配置されていることによりウェルドライン912、913の形成が生じ、これによって木目(色の濃淡)を付与することができる。
【0090】
このような構成によれば、任意の位置、角度から複数のゲートに分けて樹脂を射出することにより、形成される木目(色の濃淡)に、ゆらぎや、任意の位置からの方向転換を付与することができる。
【0091】
また、複数のタブゲートから同一射出速度で樹脂を流入させずに、一方を高速、他方を低速で射出することで、或いは射出速度を段階に分けて速度変化させることで、木目(色の濃淡)の方向を細かく変化させることができる。
【0092】
(実施例6)
図9は、本発明の実施例6における、ヒーターにより木目調を形成する様子およびそのための金型構造を示す図である。
【0093】
図9(a)において、キャビティ1005とコア1004とで構成される金型によって成形品1006が成形される。この金型のコア1004側には、ヒーター1001〜1003が設けられている。ヒーター1001〜1003は、成形品1006から任意の距離に配置されるとともに、ヒーター1001〜1003同士も互いに任意の距離をおいて配置されている。
【0094】
ヒーター1001〜1003から、成形品1006におけるヒーター1001〜1003に最も近い部分までの距離は、2mm以上30mm以下が好ましく、さらに好ましくは5mm以上10mm以下である。本実施例6では、成形品1006の表面までの最短距離が5mmになるように、図示のとおりの3本のヒーター1001〜1003を配置した。
【0095】
ヒーター1001〜1003の温度は、それぞれ任意に設定できる。本実施例6では、いずれのヒーター1001〜1003も230℃に設定した。そして、樹脂温度は200℃、金型温度は40℃として、成形を行った。
【0096】
図9(b)は、成形品1006とヒーター1001〜1003のみを記載したものである。この
図9(b)において、上記のように230℃に加熱されたヒーター1001〜1003から最も近い位置の成形品1006の表面付近では、セルロース系繊維がヒーター1001〜1003の熱の影響を受けて、ヒーターの熱の影響を受けない部分に比べてフルフラール成生量が増加し、色が濃くなる。これにより、木目(色の濃淡)1007〜1009が形成される。
【0097】
このような構成によれば、金型内の任意の位置にヒーターを任意の本数配置することで、木目(色の濃淡)の数を制御できる。また、ヒーターの設定温度、あるいは、成形品1006からの最短距離を変化させることで、木目の濃淡の加減をコントロールすることができる。