【実施例】
【0038】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(A)材料と方法
(1−1)動物
バクテリア人工染色体技術によって作成されたトランスジェニックマウス、Six2GFPCreは、アンドリュー・マクマホン(南カリフォルニア大学)により提供された。すべての動物操作は、熊本大学の実験動物委員会のガイドライン(#のA27-018)にしたがって行った。
(1−2)iPS細胞
iPS細胞(201B7)は、理研バイオリソースセンターから入手した。
【0040】
(2)マウス胚腎臓からのネフロン前駆細胞の単離および増幅
Six2プロモーター下でGFPを発現する系統であるSix2−GFPマウスを用いた。胎生11.5日目(E11.5)のSix2−GFPマウスの胎児の腎臓を摘出し、後腎間葉(MM)を、コラゲナーゼXI(Sigma)を用いて尿管芽から単離し、次いで、2%ウシ胎児血清(FCS)、DNase(Roche)、CaCl
2、およびNaHCO
3を含むHepes緩衝生理食塩水(HBSS)で洗浄した。単離したMMは、トリプシン処理(0.25%トリプシン/EDTA)し、緩衝液で洗浄後、FACS緩衝液(1×HBSS、1%BSA、0.035% NaHCO
3、および1μg/ml ヨウ化プロピジウム)中に懸濁した。E15.5 Six2−GFP陽性細胞の単離は、腎臓を37℃で10分間、0.25%トリプシン/EDTAでンキュベートし、そして細胞を、10%FCSを含む冷却DMEM中でピペッティングにより分離した。新生児腎臓を、コラゲナーゼXI(Sigma−Aldrich社)、ディスパーゼ(Life Technologies社)、およびDNase(Roche)の混合物を用いて、37℃で10分間、処理し、次いで、0.25%トリプシン−EDTAで、37℃にて5分間処理して、単一の細胞に分離した。
【0041】
Six2−GFP陽性細胞は、FACSAria SORP(BD)によりソートし、U−底 low−cellbinding 96ウェルプレート(Thermo)に、ウェルあたり3000−10,000細胞を播種した。48時間後、細胞凝集体をiMatrix被覆プレート(0.5μg/cm
2)に移し、さらに5日間培養した(day 7)。基礎培地は、トリヨードサイロニン、ヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、セレニウム、10 ng/mlのTGF−α(Peprotech)、および50 ng/mlのFgf2(Peprotech社)/Fgf9(R&D Systems)を補充した無血清 DMEM/F12(Life Technologies)を用いた(「FT」と略す)。最適条件(「CDBLY」と略す)は、さらに、1μMのCHIR99021(和光)、2.5μMのDAPT(Merck Milliopore)、5 ng/mlのBMP7(R&D Systems)、5 ng/mlのLIF(Millopore)、および10μMのY27632(和光)を添加した。
【0042】
Day 8にて、培養した細胞を、解離溶液(Reprocell)を使用して小さな塊に分離し、3プレートに分けた。培地は、次の継代まで、3〜4日間、24時間毎に交換した。培養細胞の総数は、Countess自動セルカウンター(Life Technologies)で計数した。ネフロン前駆細胞の数は、FACS分析によって同定したSix2−GFP陽性細胞の割合を用いて算出した。
【0043】
(3)マウスES細胞から作成したネフロン前駆細胞の単離
OSR1−GFPマウスES細胞を、ネフロン前駆細胞の誘導に使用した。ES細胞は、フィーダーを除去するために2日間ゼラチンコートプレート上で継代した。次いで、細胞を、メーカー記載の5段階のプロトコルに従い、Accutase(Merck Millipore)により回収し、凝集させ、分化させた。誘導したスフェロイドは、day 8.5で回収し、0.25%トリプシンEDTAを用いて解離させた。細胞は、正常マウス血清によってブロックし、そしてFACS緩衝液中で、抗integrinα8(R&D Systems)および抗PDGFRα(Cell signaling)抗体で染色した。OSR1−GFP+/integrinα8+/Pdgfrα− フラクションをFACSAria SORP(BD)でソートし、CDBLY添加培地で培養した。
【0044】
(4)培養マウス前駆細胞から作成したネフロン構造体の免疫染色
培養細胞は、low−cell−binding platesに播種し、48時間かけて凝集体を形成させた。そして、10%FCSを含むDMEM培地に浮遊させたNucleopore膜(Millipore)上で、胚の脊髄と7日間共培養した。培地は3日ごとに交換した。培養した移植片を10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。6ミクロンの切片にスライスし、脱パラフィンし、次いで、121℃で5分間、クエン酸(10mM、pH6.0)により抗原回復を行った。切片は、1%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロックし、一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした後、室温で1時間二次抗体とインキュベートした。共焦点画像は、LSM780共焦点顕微鏡(Zeiss)によって撮像した。用いた一次抗体は以下の通りである:抗Cadherin1(BD)、抗Cadherin6(グレゴリー・ドレスラー博士、Department of Pathology, University of Michigan, AnnArbor, MI 48109, USA、から供与)、抗ネフリン(Progen)、および抗WT1(Santa Cruz)。用いた二次次抗体は以下の通りである:抗ウサギAlexa488、抗モルモットAlexa468、および抗マウスAlexa594(Life Technologies)。
【0045】
(5)定量的PCR(qPCR)
全RNAをRNeasy Plus Micro Kit(Qiagen)を用いて単離し、そしてcDNAを、製造業者の指示にしたがって、VILO cDNA合成キット(Life Technologies)により合成した。PCR反応は、Thunderbird PCR mixture(東洋紡)およびDice Real Time System Thermal Cycler(タカラバイオ)を用いて行った。各マーカー遺伝子(β−Actin,E−Cadherin,Lef1,Osr1,Pax2,Sall1,Six2,およびWnt1)に対するqPCR用のプライマー配列はタカラバイオから購入した。インキュベーション条件は、45サイクルとした(95℃で15秒、60℃で45秒)。全てのサンプルはアクチン発現で正規化した。
【0046】
(6)統計分析
データは、スチューデントのt検定を用いて解析し、統計的有意性を評価した。全ての実験は、独立して、少なくとも3回実施し、そして代表的なデータを示した。結果は、平均±標準偏差として示した。
【0047】
B.実施例
実施例1:後腎間葉からネフロン前駆細胞の部分的増幅
培養時のマウスのネフロン前駆細胞の割合を正確に測定するために、E11.5でSix2−GFPマウスの腎臓から全MMを単離し、ラットMMの培養に用いたようにしてLIFとY27632(合わせて「LY」と略す)の存在下で、フィブロネクチンコートしたプレート上で、個々の細胞に分散させることなく細胞塊として培養した(
図1)。FACS分析の結果、GFP陽性細胞は、単離されたばかりのMMの22.6%を占めていたが、7日の培養後には、割合は5.0%に低下した。LIFおよびY27632の非存在下では、細胞のわずか0.1%がGFP陽性であった。このことは、LYが、マウス前駆細胞にある種の効果を発揮しているが、ネフロン前駆細胞を維持するのに十分ではなかったことを明らかに示唆している。
7日目のSix2とPax2の発現レベルは、新たに単離したMMのものと比べると低かった。発明者らは以前にNotch2の活性化が未成熟な前駆細胞の分化を引き起こしたことを報告している。そこで、発明者らは、LYに加えて、Notch阻害剤DAPTをテストした。また、コーティングのマトリックスとして、ラミニンのE8フラグメント(iMatrix)をフィブロネクチンと比較した結果、iMatrixとDAPTの組み合わせが、Six2の、そしてより顕著にはPax2のレベルを維持するのに有効であることが判った。結果を
図2に示す。
【0048】
平行して、Wntシグナル伝達は、ネフロン前駆細胞の維持および分化において重要な役割を果たしているので、WntアゴニストCHIR99021(CHIR)を試験した。LIF単独(1−10ng/ml)の存在下で限られた数のSix2−GFP陽性細胞が維持されたが、CHIRは培養7日目でGFP陽性細胞を増加させ、LIFおよびCHIRの組み合わせは、GFP陽性細胞の大量の増幅を示した。そこで、iMatrix被覆プレート上で、LIF、Y27632、CHIR、およびDAPT(「CDLY」と略す)の組み合わせを試験した結果、培養7日後で26.3%が陽性となった。そこでさらに、ネフロン前駆細胞の重要な調節因子であるBMP7を追加した。その結果、顕著な細胞増殖が観察され、GFP陽性細胞は40.6%に増加した。結果を
図3に示す。Six2、Pax2、Sall1、Wt1およびOsr1を含むネフロン前駆細胞マーカーの発現レベルを確認したところ、この条件(CDLY+BMP7:「CDBLY」と略す)では、他の条件よりも高く、新たに単離したMMのものとほぼ同等であった。それゆえ、混合細胞集団を含む全MMから培養を開始しているが、この条件がネフロン前駆細胞の増幅に適していると判った。
【0049】
実施例2:マウスの胚および新生児の腎臓から精製したネフロン前駆細胞のインビトロでの増幅
上記の培養条件(CDBLY)を、精製したSix2−GFP陽性前駆細胞に適用した。細胞数の制限のために、最初は、E11.5の代わりにE15.5および新生児(P0)腎臓を用いて、ソートした結果、GFP陽性細胞は、それぞれ、全細胞の21.1%と8.1%であった。ソートした細胞はその後、スフェロイドを形成するために二日間培養し凝集させ、iMatrix被覆プレート上に播種し、上記した条件で5日間以上培養した。
図4に示されるように、総細胞数は増加し(E15.5で2.4倍、P0で1.7倍)、GFP陽性の割合が非常に高いままであった(E15.5で94.3パーセント、P0で90.9パーセント)。7日目でのネフロン前駆細胞マーカーの発現レベルを確認したところ、新たに単離したネフロン前駆細胞のものとほぼ同等であった。これらの培養細胞を、Wntを発現する間葉上皮転換の強力な誘導因子である脊髄と組み合わせると、管形成が3日以内に観察され、誘導してから5日後に回収したときは多数の糸球体や尿細管が確認された。結果を
図5に示す。糸球体は、丸形で、足細胞特異的マーカーである、Wt1とネフリンが陽性であった。誘導された尿細管は、カドヘリン6陽性近位およびカドヘリン1陽性遠位ドメインに領域化した。したがって、この培養条件は、よく発達した糸球体や尿細管で示される三次元ネフロン構造を形成する能力を維持しながら、精製したネフロン前駆細胞の増殖を可能にした。新生児からの前駆細胞が7日間維持されたことは注目すべきことである。なぜなら、マウスのネフロン前駆細胞は、出生後2〜3日以内には増殖するのをやめ、最終分化をする。したがって、この結果は、本発明の培養条件は、生体内でそれらの生理学的制限時間を超えて前駆細胞の増殖を維持していることを示している。
【0050】
実施例3:マウスネフロン前駆細胞の増殖に対するLIF、FGF2/9、BMP7、およびWntアゴニストの影響
上記の培養条件は、E15.5またはP0から精製ネフロン前駆細胞の増殖を可能にするが、細胞数の増加は劇的ではなかった(約2倍、
図4参照)。上記のように、最初は、E11.5からの全MMを用いて培養条件を最適化し、E15.5やP0でも同様の結果が得られることを確認した。
次に、細胞数が制限されていたが、E11.5でSix2−GFP陽性前駆細胞を精製した。選別された細胞を、7日間、iMatrix被覆プレート上に凝集させ培養した結果、顕著な細胞数の増加(30倍)および95%以上のGFP陽性の残存が観察された(
図6)。これらのデータは、後の発生段階のものと比較して、E11.5でのSix2陽性細胞は、より高い増殖能力を有していることを示唆している。
【0051】
上記の実施例では、全ての実験で使用培地(CDBLY)はFgf2を含んでいた。これは、発明者らが最近報告したラットMM培養の結果に基づいている。インビボにおいてFgf9がマウスネフロン前駆細胞の維持に必要であることが報告されているので、培養におけるFgf2およびFgf9の効果を比較した。Fgf2およびFgdf9の両方とも、非常に高い割合(95%以上)でSix2−GFP陽性細胞を維持したが、より大きな細胞数の増加は、Fgf9に基づく条件で観察された(30倍対60倍)(
図6)。いずれの条件においても、ネフロン前駆細胞マーカー(Six2、Pax2、Sall1、およびWt1)の発現レベルは、E11.5で新たに単離したSix2−GFP陽性細胞のものと同等であった(
図6)。
図7に示すように、脊髄と組み合わせた場合に、いずれの条件でも糸球体および尿細管が形成された。したがって、以下の実験では、Fgf9を使用した。
【0052】
かなり最適化された条件(CDBLY+Fgf9)にて、E11.5からのSix2陽性ネフロン前駆細胞を用いて、その維持および増殖のための各要素の必要性を再検討した。細胞はFgfの非存在下で増殖することができなかったので、Fgfシグナリングが重要であると判った(
図6参照)。カノニカルWntシグナルはネフロン前駆細胞の分化に関連しているので、次に、Wntシグナル伝達の必要性を検討した。種々の濃度のCHIRとBmp7を試験した。結果を
図8に示す。その結果、Six2陽性細胞は、CHIRに関し、1μMまでは濃度依存的に増加したことがわかった。2.5μMのCHIR処理は、GFP陰性細胞は増幅したが、前駆細胞の維持は出来なかった。これらのデータは、Wntシグナルの最適な強度が自己複製のために必要であり、過剰な信号は増殖を伴う分化を誘導することを示唆している。また、Bmp7については、高濃度(25ng/mL超)はGFP+前駆細胞を減少させたが、低濃度(5ng/mL)は至適であった。次に、培養条件におけるLIFおよびBmp7の役割を検討した。結果を
図9に示す。LIFを培地から除くと、全細胞数がわずかに増加したが、GFP陽性細胞の割合が84%に減少した。このことは、LIFが分化した細胞の増殖を阻害し得ることを示唆している。Bmp7の非存在下では、全細胞数は減少したが、GFP陽性の割合は高いままであった。LIFおよびBMP7を除くと、細胞数はBMP7のみが非存在下のものよりも多かったが、GFP陽性細胞の割合は大幅に減少した。このことより、LIFは、分化を阻害するだけでなく前駆細胞および分化した細胞の両方の増殖を阻害することができ、一方、Bmp7は、前駆細胞に対するLIFの負の効果に対抗して前駆細胞の増殖を高め、それによってネフロン前駆細胞の自己複製を可能にすると推測できる。さらなるメカニズムの研究が必要であるが、これらのデータは、LIFおよびBmp7の両方が最適化された培養条件のために必要であることを示している。
【0053】
実施例4:マウスの19日間継代胚性ネフロン前駆細胞を用いた三次元ネフロン構造の再構成
次に、一週間を超える前駆細胞の増幅を試みた。8日目での単一細胞への分散は、細胞のさらなる増殖を妨げた(データ示さず)。しかし、細胞を小さな塊(凝集体)に分離し3つのプレートに分割した場合は、細胞は成長を続け、19日目まで3〜4日ごとに継代することができた(
図10参照)。19日目で、細胞数が増加し、97%がSix2−GFP陽性のままであった(
図11)。最適条件(全ての因子を添加)では、19日目でGFP陽性細胞の割合は97%であった。LIFの非存在下では、GFP陽性細胞の割合が8日目に急激に低下し、19日で73%であったが、逆に、LIF存在の条件と比較した場合、全細胞数は増加した。結果を
図12に示す。このことは、
図9の状況と同様である。興味深いことに、Bmp7の非存在下では、GFP陽性細胞の割合は、11日目まで高いレベルに維持され、19日目で53%にまで急激に減少した。したがって、Bmp7は、GFP陽性細胞の長期維持に必須であった。培地からのLIFおよびBmp7の排除はまた、全細胞数の増加にもかかわらず、Six2陽性細胞を維持することができなかった(68%)。したがって、LIFおよびBmp7の両方がネフロン前駆細胞の自己複製に必要であると判った。この最適化された状態(CDBLY+Fgf9)では、Pax2を除くネフロン前駆細胞マーカーのほとんどが、8日目より低いレベルであったが、19日目で維持されていた(
図13)。さらに、
図14に示すように、培養細胞は、脊髄と組み合わせることにより、3次元ネフロン構造(糸球体と尿細管)を形成した。したがって、培養細胞は、19日間、分化能を保持していた。
【0054】
インビボおよびインビトロでの増幅理論細胞数を計算した。結果を
図15に示す。インビボでは、Six2−GFP陽性ネフロン前駆細胞の割合は減少したが、1腎臓内の全細胞数は増加した。したがって、1腎臓における前駆細胞の絶対数は、E11.5での21257±7344から出生時に386500±84403へと増加したと推定された(18倍の増加)。E11.5での前駆細胞の同じ数の前駆体をインビトロに置くと、GFP陽性細胞数が、8日目で170万(60倍の増加)、19日目で4500万(1500倍の増加)と推定された。よって、分化能を維持したまま、細胞数および期間の両者で、成体内での生理的限界を遥かに超えて、インビトロでのネフロン前駆細胞の増幅に成功した。
【0055】
以上の結果より、本発明の方法を用いて、マウス胎児のネフロン前駆細胞を、未分化の状態を維持したまま19日間の培養で約1500倍に増幅し、培養後も増幅した前駆細胞から糸球体と尿細管の3次元構造を形成できることが判った。
【0056】
実施例5:マウスES細胞から作成されたネフロン前駆細胞の増幅とネフロン形成能
発明者らは、マウスES細胞からネフロン前駆細胞の作成を最近報告している(非特許文献6;特許文献1)。そこで、上記の増幅培養方法が、ES細胞由来ネフロン前駆細胞に適用することができるかどうかを検討した。腎臓系統への分化能を持つSix2−GFP ES細胞は入手できなかったので、ネフロン前駆細胞およびそれに続いて三次元ネフロンに分化することが示されているOsr1−GFP ES細胞を用いた。マウスES細胞から誘導された凝集体は、おそらくE10.5−11.5でのネフロン前駆細胞に相当する。Osr1は、ネフロン前駆細胞で発現されているばかりでなくこの段階での間質でも発現されているが、発達の後期段階ではその発現はネフロン前駆細胞に制限されている。したがって、ネフロン前駆細胞画分としてOsr1−GFP+/インテグリンα8+/Pdgfrα−集団を選別し、それを7日間培養した。細胞は15倍に増殖し、それらの90.3パーセントはOsr1−GFPについて陽性のままであったが、インテグリンα8+/Pdgfrα−画分の割合は65.2パーセントに減少した。結果を
図16に示す。7日目のOsr1−GFP陽性細胞におけるネフロン前駆細胞マーカー(Six2、Pax2、Sall1、Wt1およびOsr1)の発現レベルは、E11.5でのインビボでのSix2陽性細胞のものと同等であった。これらの培養細胞は、脊髄により刺激されると、三次元ネフロン構造を形成した(
図17)。したがって、マウスES細胞から作成されたネフロン前駆細胞は、ネフロン形成能を維持したまま増幅でき、このことは、本発明の培養条件がしっかりしたものであることを示している。
【0057】
以上の結果より、本発明の方法により、マウスES細胞から誘導したネフロン前駆細胞は培養7日間で15倍に増幅し、増幅した細胞が糸球体と尿細管の3次元構造を形成できることが判った。
【0058】
実施例6:ヒトiPS細胞から作成されたネフロン前駆細胞の増幅とネフロン形成
太口らの方法(非特許文献6)に沿ってヒトiPS細胞からネフロン前駆細胞を誘導する。その際に、ネフロン前駆細胞マーカーがGFPで光るヒトiPS細胞を作成し、FACSによってネフロン前駆細胞を単離する。その後、上記の実施例と同様にし、本発明の記載の各化合物の濃度にて、ネフロン細胞の培養を行う。培養したネフロン前駆細胞を用い、上記実施例と同様にして、本発明者の公知の報告(非特許文献6;特許文献1)に従い、三次元ネフロン構造を形成する。
具体的には以下のようにして行った。概略を
図18に示す。
iPS細胞(201B7)から太口らの方法に従いヒトネフロン前駆細胞を作成した。培養14日目の前駆体スフェロイドを、解離溶液(CTK溶液、Reprocell)で処理して、小さな塊に解離した。前駆体スフェロイドを約1/4に分割した塊を、iMatrix被覆プレートに播き、CDBLYを添加したDMEM/F12培地(CHIR99021:1μM、DAPT:2.5μM、BMP7:5ng/ml、LIF:5ng/ml、Y27632:10μM)中で培養した。培地を毎日交換し、8日間培養を続けた。培養8日目のネフロン前駆体細胞数及びネフロン前駆細胞マーカーの遺伝子発現レベルを測定した結果を
図19に示す。8日間で細胞が4倍に増幅された。
培養8日目の細胞を用いて、ネフロンへの分化アッセイを行った。培養8日目のiPS細胞由来ネフロン前駆体細胞を解離溶液(CTK溶液)を用いて小さな塊に解離し、96ウェルのU底low−cell−binding platesに播種して(ウェル当たり200,000細胞)24−48時間培養して凝集体を形成させ、次いで、胚の脊髄とともに共培養することにより、ネフロンを形成させた。その結果を
図20に示す。糸球体や尿細管が確認された。
【0059】
実施例7:ヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞からのネフロン形成
実施例6と同様にして、ヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞の増幅と増幅した細胞のネフロン形成を行った。但し、ネフロン前駆細胞の増幅は、iMartix被覆プレートの代わりに96ウェルのU底low−cell−binding platesを用いて培養14日目の前駆体スフェロイドをタングステン針で4分割し、スフェロイド状で培養した。結果は、実施例6と同様に、ネフロンが形成され、多数の糸球体や尿細管が確認された(データは示さず)。
【0060】
実施例8:純化したヒトiPS細胞由来のネフロン前駆細胞の増幅培養
ヒトiPS細胞201B7から太口らの方法に従い誘導したspheroid様のネフロン前駆細胞を含む組織を1xAccumax細胞剥離液(Millipore社)に浸し、37度、8分間処理し、解離した(20個spheroid/500μLのAccumax細胞剥離液)。その間、2分ごとに溶液を攪拌した。
反応後、すぐに遠心を行った(1000rpm,2分)。次いで、上清を取り除き、500μLのFACS wash buffer(HBSS,FCS,DNase,CaCl2, NaHCO
3)で再懸濁した。
Integrin α抗体およびPDGFR α抗体で細胞を処理し、FACSによりIntegrin α陽性/PDGFR α陰性の細胞を単離した。
これをネフロン前駆細胞として、実施例6に記載の培地条件および培養条件にて培養した。具体的には、純化した10,000個のIntegrin α陽性のネフロン前駆細胞をlow−cell binding plateにて培養し凝集体を形成させた。その結果、8日間の培養で40−60倍に増幅した。さらに、増幅した細胞から尿細管、糸球体様の組織をマウス胎児の脊髄との共培養によって再構築することできた。
【0061】
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。