(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
医療用途に用いられる注射器として、予め薬液が充填された注射器(「プレフィルド注射器」と称される。)がある。プレフィルド注射器は、薬液を移し替る手間が不要で、簡便に使用できる利点がある。また、薬液を移し替る際の過誤を防止できる利点もある。このため、近年使用が増えている。
プレフィルド注射器は、従来の注射器、すなわち使用直前にバイアル等他の容器から薬液を吸い上げて使用する従来の注射器とは異なり、長期間薬液が接する容器としての性能が要求される。
【0003】
注射器は、通常、シリンジと、シリンジ内を往復移動し得るプランジャと、プランジャの先端に設けられたガスケットとを含んでいる。
注射器に使用されるガスケットは、一般に架橋ゴムで作られる。架橋ゴムには通常架橋用の様々な成分が添加されており、このような成分またはその熱分解物は、薬液と接触することで薬液中へと移行することが知られている。そして、一部の薬液に対してこれらの移行物は、薬液の効果や安定性に悪影響を与えることも知られている。
【0004】
また、注射器を使用するときに、ガスケットが滑らかに摺動することが求められる。一般に、架橋ゴムからなるガスケットは摺動性が悪い。そこで、シリンジの内面またはガスケットの表面にシリコーンオイルを塗布することが一般に行われている。しかし、一部の薬液に対してシリコーンオイルは、薬液の効果や安定性に悪影響を与えることも知られている。
【0005】
以上のような観点から、医療用注射器においては、ゴム製ガスケットの表面を摺動性の良いフィルムでラミネートしたラミネートガスケットと呼ばれる製品が使用されることが多くなっている。ラミネートガスケットは、ゴム製ガスケットの表面を摺動性の良いフィルムで覆うことにより、架橋ゴムの成分が薬液へ移行することを防ぎ、かつ、シリコーンオイルなしでも摺動性を確保することができる。
【0006】
このような目的で使用されるフィルムとしては、摺動性の良い超高分子量ポリエチレンやフッ素系樹脂が例示できる。このうち、フッ素系樹脂は摺動性が良く、かつ化学的に安定であるため好適であり、フッ素系樹脂のなかでもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は摺動性、安定性ともにきわめて良好であり特に好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、ラミネートガスケットにおいては、表面にラミネートされるフィルムは弾性を有しておらず、内部の架橋ゴムの弾性を阻害するという課題がある。ガスケットにおける弾性は、シリンジ内に充填された薬液の確実な封止に必須の要件であり、ガスケットの弾性が十分でない場合、シリンジ内の薬液が漏れてしまうという不具合につながる。
また、シリンジに挿入された時のガスケットの摺動性についてもさらなる改善が必要である。
【0009】
この課題を解決するために、発明者等は検討を行った結果、ラミネートするフィルムの厚みの制御や、フィルムの表面改質などにより、薬液漏れを生じないラミネートガスケットが得られることを見出した。
ところで、ゴム製品の製造工程においては、所望の製品形状の空隙を有する金型内においてゴムを加硫成型し、形状を付与した後、金型より取り出す方法が一般的に行われている。ところが、この発明に係るラミネートガスケットを、従来の製造工程で製造しようと
すると、製品を金型から取り出す際に、金型と製品とが擦れることによりラミネートガスケットの表面に微細な傷が発生してしまい、この微細な傷が薬液の確実な封止を阻害する恐れがあることが判明した。さらに、ラミネートガスケットの成型においては、表面にフィルム層が積層されるため、金型の空隙形状への充填性(馴染み性、転写性)が悪く、金型内に微細な溝構造等が形成されていても、フィルム層にその形状を完全に転写して成型することが困難であることも判明した。
【0010】
そこで、発明者等は、従来の製造方法では製造できなかった新規なラミネートガスケットの製造方法を発明するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項
1記載の発明は、医療用注射器に適用されるガスケットの製造方法であって、ガスケット成型金型内にて、表面にフィルムが積層された円周面部を有するガスケットを成型する工程、および金型からガスケットを取り出した後、
レーザー光を照射することにより、前記円周面部に周方向に延びる円環溝を形成する工程、を含み、前記
円環溝を形成する工程では、
前記円周面部における1点をレーザー光照射点として定め、レーザー光照射点における法線方向に対してレーザー光の入射角度αを30°≦α<90°の範囲内で傾けた斜め照射によりレーザー光を照射し、前記斜め照射するレーザー光によって照射される部位が、前記斜め照射するレーザー光から遠ざかる方向に、前記ガスケットを軸芯を中心に回転させることを特徴とする、ガスケットの製造方法である。
請求項2記載の発明は、前記円環溝を形成する工程において、前記斜め照射するレーザー光の入射角度αが、38°≦α≦84°の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載のガスケットの製造方法である。
請求項3に記載の発明は、前記円環溝を形成する工程において、前記円周面部に積層された前記フィルムの厚みをT[μm]としたときに、T[μm]以上の深さの円環溝を形成することを特徴とする、請求項1または2に記載のガスケットの製造方法である。
請求項4に記載の発明は、前記円環溝を形成する工程において、溝幅が102〜105[μm]で、溝の両縁に蓄積される外縁部の高さが20〜24[μm]で、外縁部の幅が27〜36[μm]の円環溝を形成することを特徴とする、請求項3に記載のガスケットの製造方法である。
請求項5に記載の発明は、前記円環溝を形成する工程において、前記斜め照射するレーザー光により形成される溝加工開始位置と溝加工終了位置とが繋がった溝接合領域において、溝の両縁に蓄積される外縁部の高さの最大値と最小値の差が5[μm]以下になるように円環溝を形成することを特徴とする、請求項4に記載のガスケットの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、封止性および摺動性に優れた医療用注射器のラミネートガスケットを得ることができる。特に、プレフィルド注射器に好適なラミネートガスケットを得ることができる。
また、この発明によれば、封止性に優れ、長期間薬液と接しても薬液の効果や安定性に悪影響を与えない医療用注射器、特にプレフィルド注射器を得ることができる。
【0018】
さらに、この発明によれば、封止性および摺動性に優れたラミネートガスケットの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下には、図面を参照して、この発明の一実施形態について具体的に説明をする。
図1は、この発明の一実施形態に係る医療用注射器、いわゆるプレフィルド注射器と呼ばれる注射器を分解状態で示す図である。
図1において、シリンジ11およびガスケット13は、半分が断面で表わされている。
図1を参照して、プレフィルド注射器10は、円筒形状のシリンジ11と、シリンジ11と組み合わされ、シリンジ11内を往復移動し得るプランジャ12と、プランジャ12の先端に装着されるガスケット13とを含んでいる。ガスケット13は、弾性材(ゴムまたはエラストマ等)で構成された本体14と、本体14の表面に積層されたラミネートフィルム15とを含むいわゆるラミネートガスケットである。ガスケット13にはシリンジ11の内周面16と気密的・液密的に接する円周面部17が備えられている。
【0021】
プランジャ12は、たとえば横断面が十文字状の樹脂製板片で構成され、その先端部にはガスケット13が取り付けられるヘッド部18が備えられている。ヘッド部18は、プランジャ12と一体に形成された樹脂製で、雄ねじ形状に加工されている。
ガスケット13は、短軸の略円柱形状で、その先端面は、たとえば軸中心部が突出する
鈍角の山形形状をしている。そして後端面から軸方向に彫り込まれた雌ねじ形状の嵌合凹部21が形成されている。プランジャ12のヘッド部18が、ガスケット13の嵌合凹部21にねじ込まれることにより、プランジャ12の先端にガスケット13が装着される。
【0022】
図2は、
図1に示すガスケット13だけを拡大して描いた図で、ガスケット13の半分が断面で示されている。
図2を参照して、この実施形態に係るガスケット13の構成について、より詳細に説明をする。
ガスケット13は、本体14と、本体14の表面に積層されたラミネートフィルム15とを含む。本体14は、弾性材で構成されていればよく、その素材に関しては特に限定されるものではない。たとえば、熱硬化型ゴムや、熱可塑性エラストマで構成することができる。このうち、耐熱性に優れることから、熱硬化性ゴムや、熱可塑性エラストマのうち架橋点を有する動的架橋型熱可塑性エラストマがより好ましい。これらのポリマー成分も特に限定されるものではなく、強いて言えば、成型性に優れるエチレン−プロピレン−ジエンゴムやブタジエンゴムが好ましい。また、耐ガス透過性に優れるブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムも好ましい。
【0023】
本体14の表面に積層するラミネートフィルム15は、架橋ゴム(本体14)からの成分の移行を阻止でき、かつ、ゴムよりも摺動性の優れるもの、すなわちゴムより摩擦係数の小さいフィルムであれば、その種類は特に限定されない。一例として、医療用途に実績のある超高分子量ポリエチレンやフッ素系樹脂のフィルムを挙げることができる。このうち、フッ素系樹脂は摺動性に優れ、かつ、表面の化学的な安定性に優れているので好ましい。フッ素系樹脂としては、フッ素を含む樹脂であれば公知のものを使用すればよく、例として、PTFE、変性PTFE、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、パーフルオロアルキルエーテル(PFA)などが挙げられる。PTFEや変性PTFEは、摺動性および化学的な安定性共に優れており好ましい。ETFEは、γ線滅菌への耐性が良く好ましい。本体14との接着性の観点からは、これらの樹脂の混合物、もしくは積層からなるフィルムを用いることもできる。
【0024】
この実施形態に係るラミネートガスケット13の特徴は、シリンジ11の内周面16に気密的、液密的に接する円周面部17を備えており、その円周面部17の表面に配置されたラミネートフィルム15には、ラミネートフィルム15の表面に周方向に延びる溝22が形成されていることである。
溝22は、円周面部17を周回する円環溝とされており、この実施形態では、1本の溝22が設けられた例が示されている。
【0025】
しかし、溝22の本数としては、1本以上であればよく、ガスケット13の軸方向に所定の間隔を開けて複数本設けてもよく、特に上限を設ける必要はない。
溝22は、円周面部17の周方向にわたってその始点と終点が一致する円環溝である。これにより、円周面部17の周方向全体にわたって薬液封止性の面で均一な効果が得られる。なお、ガスケット13の円周面部17を展開して考えた場合、概略直線状の溝22となることが好ましい。
【0026】
図3は、
図2の円周面部17における1本の溝22の拡大部分断面図である。すなわち、
図2のA部分の拡大断面図である。
図3を参照して説明すると、溝22は、ラミネートフィルム15の表面から窪まされた溝となっており、本体14は溝22に応じて凹んだりしてはいない。すなわち、溝22は、本体14の形状には影響を全く与えておらず、ラミネートフィルム15にのみ形成された溝となっている。なお、後述するように、ラミネートフィルム15の厚みT以上に深い溝を形成してもかまわない。
【0027】
ガスケット13の円周面部17に配置されたラミネートフィルム15の厚みT[μm]は特に制限はないが、10μm以上100μm以下が好ましい。厚みが厚すぎると、ガスケット13をシリンジ11に挿入した際の変形追随性が悪くなり、薬液の密封性が悪くなる。厚みTが薄くなりすぎると、成型時にフィルムの破れなどが起きやすくなる。
形成する溝の深さDとしては、0.8T[μm]以上が好ましく、T[μm]以上がより好ましい。深さの上限は特に制限はないが、ガスケット13の形状安定性の観点から、1mm以下にするのが好ましい。
【0028】
形成する溝22の幅Wとしては、形成する溝22の深さDとフィルムおよびゴムの物性により適宜選択すればよいが、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。幅Wが広すぎる場合、シリンジ内部に挿入したときに、圧縮されたゴムの弾性により溝の底部が押し出され構造を維持できずシリンジ内面16に押し当てられるため好ましくない。一方、溝の幅Wが1μm以下の場合、加工精度から均一な溝形成が困難で、所望の効果を得られない。
【0029】
形成する溝22の断面形状は、特に限定されない。生産性の面から、単純な凹形状、または、丸みを帯びた凹形状が好ましい。
溝の作成方法としては、レーザー光の照射による切削を用いるが、レーザー光の照射は、ガスケットの円周面に対して斜めに照射する。具体的には、ガスケットの円周面に対するレーザーの入射角度が、好ましくは30°以上90°未満、より好ましくは45°以上90°未満、さらに好ましくは60°以上90°未満の範囲にあるように斜めにレーザー光を照射する。上記範囲を外れた入射角度でレーザー光を照射すると溝接合領域での外縁部高さにばらつきが生じ、シリンジに入れた際の液封止性などの効果が得られない可能性がある。
【0030】
ところで、一般に溝22の両縁23は、元の素材厚みより若干厚くなるのが通常である。レーザー光による加工の場合、蒸発もしくは分解された素材の一部が溝の両縁23に再蓄積されるためである。
金型を用いてラミネートガスケット13を成型し、成型したラミネートガスケット13を金型から取り出す際に、ラミネートガスケット13が金型と擦れることにより表面に微細な傷が発生することがある。取り出したラミネートガスケット13に溝22を形成するので、外縁部(膨張部)24が微細な傷を埋めるという観点から、外縁部24が溝22の両縁23に存在することは、好ましいことと言える。
【0031】
溝22を円環溝とした場合、外縁部24の形状に関して、溝加工開始位置と溝加工終了位置とが繋がった溝接合領域(前後100μm)において外縁部24高さの最大値、最小値の差が5μm以下であることが望ましい。5μmを超える高さ差が存在すると、ガスケット13をシリンジ11に入れた場合の液封止性が得られない場合があるからである。
溝接合領域を除けば、外縁部24の形状に関しては特に制限はないが、高さhについては好ましくは、2μm以上30μm以下、より好ましくは4μm以上25μm以下、より好ましくは6μm以上23μm以下である。幅wについては、2μm以上40μm以下、より好ましくは4μm以上35μm以下、さらに好ましくは6μm以上30μm以下である。
【0032】
なお、溝形状の測定方法としては、特に制限はないが好ましくはレーザー顕微鏡が用いられる。未加工部を基準として、溝の深さ・幅、外縁部の高さ・幅を計測する。
次に、この実施形態に係るガスケット13の製造方法について説明をする。
この実施形態に係るガスケット13は、以下の製造工程により製造される。
(1)ガスケット成型金型内にて、表面にラミネートフィルムが積層されたガスケットを成型する工程、
(2)金型からラミネートガスケットを取り出した後、ラミネートフィルムに、円周面部に対して周方向に延びる溝を形成する工程、
という工程により製造される。そして、溝を形成する工程は、前述したように、レーザー加工法によって行われる。
【0033】
まず、金型内にて、表面にラミネートフィルムが積層されたガスケットを成型する工程では、ラミネートフィルムの内表面に加硫前のゴムを重ね合わせて金型内に入れ、加硫成型する。
たとえば、架橋材が混合された加硫前のゴムのシート等にラミネートフィルムが重ね合わされ、成型金型により加硫成型されて、所定の形状のガスケットに加工される。
【0034】
この場合において、ラミネートフィルム15のゴムが重ね合わされる内表面は、予め粗面化処理されていることが好ましい。フィルム15の内表面を粗面化処理することにより、接着材等を使用することなく、加硫成型によってフィルム15とゴムとを強固に固着できるからである。この固着は、加硫されたゴムが粗面化したフィルム15の内表面に入り込んだアンカー効果によるものである。
【0035】
ラミネートフィルム15の内表面の改質は、たとえばイオンビームを照射することにより、内表面近傍の内部の分子構造を破壊して、粗面化を行う方法を採用することができる(たとえば、特許第4908617号公報参照)。
別の製造方法としては、ラミネートフィルム15の内表面を粗面化せず、ラミネートフィルムの内表面に接着層を塗布し、その上に加硫前のゴム材を重ね、それを金型に入れてガスケットを成型するようにしてもよい。
【0036】
ガスケットを金型で成型した後、溝を形成することにより、封止性に優れたガスケットを製造することができる。
なぜなら、ガスケットの成型と同時に溝を成型する製造方法、すなわち、金型に予め溝構造を作り、その溝構造をガスケットの表面に転写する製造工程では、成型されたガスケットを金型から取り外す際(脱型時)に、微細な傷などの損傷を受けるおそれがある。
【0037】
そこで、ガスケットの成型後に溝を形成することで、ガスケットの脱型時に微細な傷が生じても、その後の溝の形成工程において、生じた微細な傷をある程度修復可能になる。また、ガスケット成型後に溝を形成することにより、形成された溝が所望の効果を発揮する好ましい溝となる。
ガスケットの成型後に溝を形成する方法としては、以下のレーザー加工方法を採用する。
【0038】
図4は、この実施形態に係るレーザー加工方法を説明するための図である。
図4を参照して、ガスケットの円周面に対して、レーザー光を斜めに照射する。そのとき、円周面に対するレーザー光の入射角度α
は、円周面におけるレーザー光の照射位置の法線に対して、30°≦α<90°に設定する。
また、ガスケットの円周面に対して円環溝を形成するために、レーザー光源は固定し、ガスケットをその軸芯を中心に回転させながら、レーザー光を照射する。これにより、円周面のどの角度位置に対しても一定の斜め入射角度αでレーザー光を照射することができ、均等な円環溝を形成できる。
【0039】
さらに、レーザー光を斜めに照射しながら、ガスケットを回転させるが、ガスケットの回転方向は、斜めに照射されるレーザー光の照射位置に対して円周面が遠ざかる方向に回転させる(
図4においては、ガスケットを右回りに回す)。
このレーザー加工を施すことによって、ガスケットの円周面に、ほぼ均一な円環溝を形成でき、しかも所望の外縁部24を備えた溝を形成できる。
【0040】
次に、レーザー光を円周面に斜めに照射することの利点について説明する。
図5は、
レーザー光の照射位置の法線に対して入射角α=0の通常のレーザー光照射の場合に、溝22および外縁部24が形成される様子を示す図解図である。入射角α=0の場合、レーザー光の照射開始部分の外縁部24の高さは低くなる。
図6は、入射角α=30°〜90°の斜めレーザー光照射の場合に、外縁部24が形成される様子を示す図解図である。斜めレーザー光照射にすれば、照射開始部分の外縁部24の高さを高くできる。
【0041】
また、
図7に示すように、ガスケットの回転方向を、斜めレーザー光に対して遠ざかる回転方向とした場合、円環溝を形成した際に、照射開始部分の外縁部24の高さが高いので、溝が環状に接合されたときに、この高さの高い外縁部24が良好に機能し、外縁部24の高さがそろった円環溝を形成できる。
なお、
図8に示すように、ガスケットの回転方向を、斜めレーザー光に対して近づく回転方向とした場合、円環溝を形成した際に、特に接合部において、外縁部24の高さにばらつきが生じることも確認した。
【0042】
なお、レーザー光の照射による切削の場合、用いるレーザー光の種類、出力などは公知の技術を用いればよい。レーザー光の種類としては、フィルム素材や溝の深さなどにより適宜選択すればよい。赤外線を利用するレーザー光による加工が、産業上取り扱いが容易であり好ましい。レーザー光の照射時間に関しては、成型条件により適宜選択を行えばよいが、特に、短いパルスでの照射が、形成部周辺への熱の影響が少なくなるために好ましい。
【実施例】
【0043】
2種類のラミネートフィルム(PTFEおよび変性PTFE)を使用し、それらラミネートフィルムと未加硫ゴムとを用い、ガスケット形状を加硫成型した。そしてそのガスケット形状に対し、円周面部に周方向に延びる円環溝を形成したもの(実施例1〜6および比較例2〜4)ならびに溝を形成しなかったもの(比較例1)を得た。
[使用したラミネートフィルム]
(1)PTFEフィルム(日本バルカー株式会社製 バルフロン(登録商標))
(2)変性PTFEフィルム(日本バルカー株式会社製 バルフロンEx1(登録商標))
各ラミネートフィルムの内表面(未加硫ゴムシートが重ね合わされる面)には、予めイオンビームを照射し、表面の粗面化を行った。各フィルムの厚みTは、表1に示す通りである。
【0044】
[使用した本体材料]
未加硫ゴムシート ハロゲン化ブチルゴム
架橋材 2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン 三協化成株式会社製、ジスネットDB(登録商標)
[製造条件]
加硫温度180℃、加硫時間8分、処理圧力20MPa
[製品形状]
図2に示すガスケット13の形状を得て、その円周面部17の径はφ6.60mmに成型した。
[溝の形成]
溝の形成は、製品形状を得た後に実施した。溝の形成は、レーザー光による加工で行った。
[レーザー光による加工]
装置:株式会社キーエンス製 3−Axis CO2 Laser Marker ML−Z9550T
波長9300nmのレーザー光を照射し、加工を行った。
レーザー加工機の光源の位置は、ガスケットの円頂の鉛直上とした。
【0045】
[試験方法]
・溝の寸法測定
溝の成型後の製品をレーザーマイクロ顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK−X100)を用いて、倍率50倍の対物レンズを用いて表面形状の測定を行った。溝の最大深さ、および、幅部分を画面より選択し数値を得た。製品上の4箇所を測定し、その算術平均を表わした。
・薬液の封止性
成型後の製品をシリンジに挿入後、試験液を充填し、反対側をキャップした。40℃にて1週間静置後、ビデオマイクロスコープ(ライカマイクロシステムズ株式会社製 DVM5000)にて対物レンズ50倍で観察し、液漏れの有無を測定した。20個の製品を観察し、試験液がガスケットの最大径部分(円周面部17)を超えたものは、液漏れと判定し、その個数を記載した。2以下を良好とした。試験液は水に色素(メチレンブルー シグマアルドリッチジャパン合同会社製)0.2g/リットル、および界面活性剤(ポリソルベート80 日油株式会社製)1.0g/リットル加えたものを使用し、シリンジはガラス製(内径φ6.35mm)を使用した。
・摺動性
加工後の製品をシリンジに挿入し、プランジャで100mm/minの速度で押し込む際に要する力を精密万能試験機(AG-X 100kN、株式会社島津製作所製)を用いて計測した。摺動距離10mmから15mmでの摺動に要する力の平均値を摺動抵抗として記録した。
【0046】
【表1】
【0047】
[試験結果]
レーザー光をピーク部円周方向に一定角度以上斜め方向に照射した例(実施例1〜6)では、比較例2〜4と比較して液漏れ本数が減少した。