特許第6883264号(P6883264)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883264
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】合成繊維平滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/02 20060101AFI20210531BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20210531BHJP
   C08G 65/28 20060101ALI20210531BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20210531BHJP
   D06M 15/01 20060101ALI20210531BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20210531BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   C08L71/02
   C08L91/00
   C08G65/28
   D06M15/53
   D06M15/01
   G01N30/88 C
   G01N30/86 B
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-225358(P2017-225358)
(22)【出願日】2017年11月24日
(65)【公開番号】特開2019-94436(P2019-94436A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2020年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】荻 宏行
(72)【発明者】
【氏名】砂田 和輝
(72)【発明者】
【氏名】原 優介
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−025453(JP,A)
【文献】 特開2007−131845(JP,A)
【文献】 特開2003−138485(JP,A)
【文献】 特開2001−011172(JP,A)
【文献】 特開2000−344883(JP,A)
【文献】 特開2000−154161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/02
C08L 91/00
C08G 65/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)と成分(B)とを99/1〜65/35の質量比((A)/(B))で含有することを特徴とする、合成繊維平滑剤組成物。

(A) 37.8℃における動粘度が1〜200mm/sの脂肪族炭化水素油

(B) 式(1)で表され、かつゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムから算出されるMとMとが式(2)の関係を満足するアルキルオキシラン誘導体

O−(BO)n−H ・・・・(1)

(式(1)中、
は炭素数1〜22の炭化水素基を示し、
BOは炭素数4のエチルオキシランの開環付加に伴い生成するオキシブチレン基を示し、
nは25以上の数を示す。)

0.35≦M/M≦0.75・・・・(2)

(前記クロマトグラム上の屈折率強度が最大となる極大点KからベースラインBへの垂線の長さをLとし、屈折率強度がL/2となるクロマトグラム上の2点のうち溶出時間が早いほうを点Oとし、溶出時間が遅いほうを点Qとし、点Oと点Qを結ぶ直線Gと前記極大点Kから前記ベースラインへ引いた垂線との交点をPとしたとき、点Oと交点Pの距離をMとし、点Qと交点Pの距離をMとする。)
【請求項2】
前記クロマトグラムから算出されるAsが式(3)および式(4)の関係を満たすことを特徴とする、請求項1記載の合成繊維平滑剤組成物。

As=W1/2/W5% ・・・(3)
0.30≦As≦0.70 ・・・(4)

(前記クロマトグラム上で屈折率強度がL/20となる2点のうち溶出時間が早いほうを点Rとし、溶出時間が遅いほうを点Sとし、点Rと点Sを結んだ直線Hと前記極大点Kから前記ベースラインBへ引いた垂線との交点をTとし、点Rと交点Tの距離をW1/2、点Rと点Sの距離をW5%とする。)
【請求項3】
前記クロマトグラムから算出されるクロマトグラム上の屈折率強度極大点Kが示すピークトップ分子量が1,500〜10,000であることを特徴とする、請求項1または2記載の合成繊維平滑剤組成物。
【請求項4】
前記クロマトグラムが前記屈折率強度極大点Kを1つ有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の合成繊維平滑剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維に対して十分な平滑性を付与することができる合成繊維平滑剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維の製糸工程、編成工程、布・ニット・糸染色工程、仕上げ加工工程等の繊維処理製品の製造工程において、各工程によって被処理物の形態に違いはあっても、鉱物油、炭化水素油、エステル油などの油剤が配合された繊維処理剤が多く使用されている。
【0003】
例えば、有機重合体を溶融紡糸して合成繊維を製造するにあたって、紡糸操作や、それに続く延伸、巻き取り編織等の種々の処理工程を円滑に行うために、潤滑性や集束性を付与できる合成繊維平滑剤が配合されている。
【0004】
合成繊維平滑剤として、ポリオキシアルキレングリコール誘導体などの高分子量化合物や、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリウレタン、シリコーンなどの皮膜形成能を有する熱可塑性樹脂を配合した繊維処理剤を、未延伸糸束に給油した後に延伸する方法が提案されている。しかし、これら高分子量の化合物は他の油剤との相溶性が劣り、今般の高速紡糸では、繊維の平滑性について不十分な場合があった。
【0005】
特許文献1には、シリコーン油剤に対し、ポリオキシアルキレンブロックを主鎖中に直鎖状に導入した変性シリコーンを添加した合成繊維処理用油剤が提案されており、シリコーン油剤への相溶性向上により集束性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4427149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では、合成繊維の平滑性については記載されていない。
【0008】
本発明の課題は、合成繊維に対して十分な平滑性を付与することができる合成繊維平滑剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の炭化水素油とアルキルオキシラン誘導体とを所定の比率で配合した組成物が上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4) に係るものである。
(1)下記の成分(A)と成分(B)とを99/1〜65/35の質量比((A)/(B))で含有することを特徴とする、合成繊維平滑剤組成物。

(A) 37.8℃における動粘度が1〜200mm/sの脂肪族炭化水素油

(B) 式(1)で表され、かつゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムから算出されるMとMとが式(2)の関係を満足するアルキルオキシラン誘導体

O−(BO)n−H ・・・・(1)

(式(1)中、
は炭素数1〜22の炭化水素基を示し、
BOは炭素数4のエチルオキシランの開環付加に伴い生成するオキシブチレン基を示し、
nは25以上の数を示す。)

0.35≦M/M≦0.75・・・・(2)

(前記クロマトグラム上の屈折率強度が最大となる極大点KからベースラインBへの垂線の長さをLとし、屈折率強度がL/2となるクロマトグラム上の2点のうち溶出時間が早いほうを点Oとし、溶出時間が遅いほうを点Qとし、点Oと点Qを結ぶ直線Gと前記極大点Kから前記ベースラインへ引いた垂線との交点をPとしたとき、点Oと交点Pの距離をMとし、点Qと交点Pの距離をMとする。)
【0011】
(2)前記クロマトグラムから算出されるAsが式(3)および式(4)の関係を満たすことを特徴とする、(1)の合成繊維平滑剤組成物。

As=W1/2/W5% ・・・(3)
0.30≦As≦0.70 ・・・(4)

(前記クロマトグラム上で屈折率強度がL/20となる2点のうち溶出時間が早いほうを点Rとし、溶出時間が遅いほうを点Sとし、点Rと点Sを結んだ直線Hと前記極大点Kから前記ベースラインBへ引いた垂線との交点をTとし、点Rと交点Tの距離をW1/2、点Rと点Sの距離をW5%とする。)
【0012】
(3)前記クロマトグラムから算出されるクロマトグラム上の屈折率強度極大点Kが示すピークトップ分子量が1,500〜10,000であることを特徴とする、(1)または(2)の合成繊維平滑剤組成物。
【0013】
(4)前記クロマトグラムが前記屈折率強度極大点Kを1つ有することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかの合成繊維平滑剤組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、合成繊維に対して十分な平滑性を付与することができる合成繊維平滑剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明にて定義されるMとMを説明するためのモデルクロマトグラム図である。
図2図2は、本発明にて定義されるW1/2とW5%を説明するためのモデルクロマトグラム図である。
図3図3は、合成例1のクロマトグラム図である。
図4図4は、比較合成例1のクロマトグラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明の合成繊維平滑剤組成物は、成分(A)(特定の脂肪族炭化水素油)と、成分(B)(特定のアルキルオキシラン誘導体)を少なくとも含有する。以下、各成分について説明する。
【0017】
〔(A)成分〕
本発明に用いる(A)成分は、37.8℃における動粘度が1〜200mm/sの脂肪族炭化水素油である。
脂肪族炭化水素油は、炭素と水素からなる化合物であれば特に限定はされず、飽和脂肪族炭化水素油及び不飽和脂肪族炭化水素油のいずれであってもよい。
【0018】
飽和脂肪族炭化水素油としては、例えば、流動パラフィン、水添ポリイソブテン、α−オレフィンオリゴマーなどが挙げられる。不飽和脂肪族炭化水素油としては、例えば、ポリブテンなどが挙げられる。
成分(A)は、1種を単独で、又は2種以上を併せて用いることができる。
【0019】
成分(A)の脂肪族炭化水素油は、37.8℃における動粘度が1〜200mm/sの範囲内であり、好ましくは1〜100mm/s、特に好ましくは1〜50mm/sの範囲内である。動粘度が高すぎると、繊維等にベタツキが生じ易くなる。なお、脂肪族炭化水素油(A)の動粘度は、JIS K 2283:2000の「5.動粘度試験方法」に従って、キャノンフェンスケ粘度計を用いて、37.8℃の試験温度で測定することにより、得ることができる。
【0020】
〔成分(B)〕
成分(B)は、式(1)で示される化合物である。

O−(BO)n−H ・・・・(1)
【0021】
式(1)において、Rは、炭素数1〜22の炭化水素基であり、BOは炭素数4のエチルオキシランの開環付加に伴い生成するオキシブチレン基であり、すなわち1,2−オキシブチレン基(−O−CH(CHCH)−CH−)である。nは1,2−オキシブチレン基の平均付加モル数であり、25以上である。nはアルキルオキシラン誘導体の水酸基価より算出することができる。
【0022】
式(1)において、Rで示される炭素数1〜22の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アリル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert―ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イソオクタデシル基、オクチルドデシル基、ドコシル基等の脂肪族炭化水素基、フェニル基、ベンジル基、クレジル基、ブチルフェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられ、これらは1種のみでも、2種以上でも良い。好ましくはメチル基、エチル基、アリル基、ブチル基などの炭素数1〜4の炭化水素基であり、さらに好ましくはメチル基、ブチル基である。
【0023】
BOは炭素数4のエチルオキシランの開環付加に伴い生成するオキシブチレン基である。
【0024】
また、nは、炭素数4のエチルオキシランの開環付加に伴い生成するオキシブチレン基BOの平均付加モル数であり、25以上である。nが25未満であると、分子量10,000を超えるような高分子量体の生成が少なく、鉱物油や流動パラフィン等の他の潤滑油に配合した際の潤滑性向上が不十分となる可能性がある。こうした観点から、nを25以上とするが、30以上が更に好ましい。
【0025】
また、nが大きくなるにつれて、粘度が上昇する傾向がある。潤滑油は粘度コントロールが非常に重要であり、潤滑油の製造のし易さや取り扱い易さの観点から、nは400以下であることが好ましく、300以下であることが更に好ましい。
【0026】
本発明のアルキルオキシラン誘導体は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)において、示差屈折率計を用いて得られたクロマトグラムによって規定される。このクロマトグラムとは、屈折率強度と溶出時間との関係を表すグラフである。本発明のアルキルオキシラン誘導体では、クロマトグラムが左右非対称であり、式(2)の関係を満たす。なお、M/Mが1に近い値となるほど、クロマトグラムの形状は左右対称となる。

0.35≦M/M≦0.75 ・・・・(2)
【0027】
ここで、図1は、アルキルオキシラン誘導体のゲル浸透クロマトグラフィーにより得られるクロマトグラムのモデル図であり、横軸は溶出時間を、縦軸は示差屈折率計を用いて得られた屈折率強度を示す。
【0028】
ゲル浸透クロマトグラフに試料溶液を注入して展開すると、最も分子量の高い分子から溶出が始まり、屈折率強度の増加に伴い、溶出曲線が上昇していく。その後、屈折率強度が最大となる屈折率強度極大点Kを過ぎると、溶出曲線は下降していく。
【0029】
また、本発明のアルキルオキシラン誘導体のゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、クロマトグラムの屈折率極大点が複数ある場合は、それらのうち屈折率強度が最も大きい点を屈折率強度極大点Kとする。さらに同じ屈折率強度の極大点が複数ある場合は、溶出時間の遅いほうを屈折率強度極大点Kとする。この際、ゲル浸透クロマトグラフィーに使用した展開溶媒などに起因するピークや、使用したカラムや装置に起因するベースラインの揺らぎによる疑似ピークは除く。
【0030】
/Mは、それぞれ、以下のようにしてクロマトグラムから算出する。
(1) クロマトグラム上の屈折率強度極大点KからベースラインBへ垂線を引き、垂線の長さをLとする。
(2) 屈折率強度がL/2となるクロマトグラム上の2点のうち、溶出時間が早いほうを点Oとし、溶出時間が遅いほうを点Qとする。
(3) 点Oと点Qを結んだ直線Gと、屈折率強度極大点KからベースラインBへ引いた垂線との交点をPとする。
(4) 点Oと交点Pの距離をM、交点Pと点Qの距離をMとする。
【0031】
本発明のアルキルオキシラン誘導体は、M/Mが0.35≦M/M≦0.75を満たすものである。M/Mが0.75より大きくなると、アルキルオキシラン誘導体の潤滑性が低下し、これを鉱物油や流動パラフィン等の他の潤滑油に配合した際、十分な潤滑性向上効果が発揮されない。
【0032】
また、M/Mが小さくなるほど、分子量分布における高分子量側の偏りが大きくなり、それに由来する粘度の上昇などが見られる。M/M が0.35より小さくなると、粘度が高くなりすぎ、例えば鉱物油や流動パラフィン等の他の潤滑油への配合を考えると、基油粘度に与える影響が大きくなることと、ハンドリングが著しく悪化することから配合しにくくなる。この観点から、M/Mを0.35以上とするが、0.40以上とすることが更に好ましく、0.50以上とすることが特に好ましい。
【0033】
好適な実施形態においては、ゲル浸透クロマトグラフィーにおいて、示差屈折率計を用いて得られた屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムが左右非対称であり、以下に示すようにして求められるクロマトグラムのピークの非対称値Asが以下の式(3)、式(4)を満たす。

As=W1/2/W5% ・・・(3)
0.30≦As≦0.80 ・・・(4)
【0034】
図2のクロマトグラムのモデル図を参照しつつ、Asの算出方法について更に説明する。横軸は溶出時間を、縦軸は示差屈折率計を用いて得られた屈折率強度を示す。
【0035】
ゲルクロマトグラフに試料溶液を注入して展開すると、最も分子量の高い分子から溶出が始まり、屈折率強度の増加に伴い溶出曲線が上昇していく。その後、屈折率強度が最大となる屈折率強度極大点を過ぎ、溶出曲線は下降していく。
(1) クロマトグラム上の屈折率強度極大点KからベースラインBへ垂線を引き、その長さをLとする。
(2) 屈折率強度がL/20となるクロマトグラム上の2点のうち、溶出時間が早いほうを点Rとし、溶出時間が遅いほうを点Sとする。
(3) 点Rと点Sを結んだ直線Hと、屈折率強度極大点KからベースラインBへ引いた垂線との交点をTとする。
(4) 点Rと交点Tの距離をW1/2、点Rと点Sの距離をW5%とする。
【0036】
好適な実施形態においては、Asが0.30≦As≦0.80を満たす。Asを0.80以下とすることによって、潤滑性が向上し、アルキルオキシラン誘導体を例えば潤滑剤に配合した際、顕著に潤滑性が向上する傾向がある。この観点からは、Asを0.75以下とすることが更に好ましい。
【0037】
また、Asが小さくなるほど、分子量分布における高分子両側の偏りが大きくなり、それに由来する粘度の上昇などが見られる。Asを0.30以上とすることによって、粘度が高くなりハンドリングが著しく悪化することを抑制し、鉱物油や流動パラフィン等の他の潤滑油に配合し易くできる。この観点からは、Asは0.60以上とすることが更に好ましい。
【0038】
前記クロマトグラムから算出されるクロマトグラム上の屈折率強度極大点Kが示すピークトップ分子量を1,500〜10,000とすることで、粘度上昇によるハンドリング性の悪化を引き起こすこと無く、潤滑性を向上させることができる。この観点からは、屈折率強度極大点Kが示すピークトップ分子量を1,800〜5,000とすることが好ましい。さらに、前記クロマトグラムから算出されるクロマトグラム上の屈折率強度極大点Kが示すピークトップ分子量の5倍以上の高分子量体を、クロマトグラムにおける化合物全体のピーク面積の0.5%〜50.0%含有することで、粘度上昇によるハンドリング性の悪化を引き起こすこと無く、潤滑性を向上させることができる。屈折率強度極大点Kが示すピークトップ分子量の5倍以上の高分子量体がクロマトグラムにおける化合物全体のピーク面積の0.5%以下の含有率であると、潤滑性の向上が期待できず、50.0%以上の含有率であると、粘度が高くなりハンドリングが著しく悪化する。この観点からは、屈折率強度極大点Kが示すピークトップ分子量の5倍以上の高分子量体をクロマトグラムにおける化合物全体のピーク面積の0.5%〜35.0%含有することが好ましい。
【0039】
本発明において、M、MおよびAsを求めるためのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、システムとしてSHODEX(登録商標) GPC101GPC専用システム、示差屈折率計としてSHODEX RI−71s、ガードカラムとしてSHODEX KF−G、カラムとしてSHODEX KF804Lを3本連続装着し、カラム温度40℃、展開溶剤としてテトラヒドロフランを1ml/分の流速で流し、得られた反応物の0.1重量%テトラヒドロフラン溶液0.1mlを注入し、BORWIN GPC計算プログラムを用いて、屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムを得る。
【0040】
本発明のアルキルオキシラン誘導体を製造する際には、好ましくは、開始剤として、複合金属シアン化物触媒(以下、DMC触媒と略記する) の存在下で、炭素数4のエチルオキシランを開環付加させる。反応容器内に、分子中に少なくとも1個の水酸基を有する開始剤とDMC触媒を加え、反応容器内を不活性ガス雰囲気下にした後、加圧下もしくは大気圧下で、アルキルオキシランを連続的もしくは断続的に添加し、攪拌することで付加重合する。
【0041】
この時、アルキルオキシランの平均供給速度は問わないが、安定して製造するためには、開始剤に対するアルキルオキシランの全仕込みモル当量によって変化させることが望ましい。具体的には開始剤に対してアルキルオキシランの全仕込みモル当量が60未満の場合のアルキルオキシランの平均供給速度V=2〜50モル当量/時間、アルキルオキシランの全仕込みモル当量が60以上、100未満の場合のアルキルオキシランの平均供給速度V=4〜40モル当量/時間、アルキルオキシランの全仕込みモル当量が100以上、250未満の場合のアルキルオキシランの平均供給速度V=5〜30モル当量/時間、アルキルオキシランの全仕込みモル当量が250以上の場合のアルキルオキシランの平均供給速度V=7〜30モル当量/時間となるようにアルキルオキシランの平均供給速度を制御することが好ましい。
【0042】
また、反応温度は、50℃〜150℃が好ましく、70℃〜110℃がより好ましい。反応温度が150℃より高いと、触媒が失活するおそれがある。反応温度が50℃より低いと、反応速度が遅く、生産性に劣る。
【0043】
本発明における開始剤としては、具体的には下記のものが挙げられるが、これらに限られない。
メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、アリルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert―ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、ネオペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ペンタデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ヘプタデシルアルコール、オクタデシルアルコール、ノナデシルアルコール、イコシルアルコール、ヘンイコシルアルコール、ドコシルアルコール、トリコシルアルコール、ブチルプロピレングリコールなど。またこれらの開始剤のエチルオキシラン付加物も同様に開始剤として使用できる。さらに開始剤に含まれる微量の水分量については特に問わないが、開始剤に含まれる水分量は0.5wt%以下であることが望ましい。
【0044】
DMC触媒の使用量は、特に制限されるものではないが、生成するアルキルオキシラン誘導体に対して、0.0001〜0.1wt%が好ましく、0.001〜0.05wt%がより好ましい。DMC触媒の反応系への投入は初めに一括して導入してもよいし、順次分割して導入してもよい。重合反応終了後、複合金属錯体触媒の除去を行う。触媒の除去はろ過や吸着剤処理等により行うことが出来る。
【0045】
本発明に用いるDMC触媒は公知のものを用いることができるが、たとえば、式(5)で表わすことができる。

Ma[M’x(CN)y]b(HO)c・(R)d ・・・(5)
【0046】
式(5)中、MおよびM’は金属、Rは有機配位子、a、b、xおよびyは金属の原子価と配位数により変わる正の整数であり、cおよびdは、金属の配位数により変わる正の整数である。
【0047】
金属Mとしては、Zn(II)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Al(III)、Sr(II)、Mn(II)、Cr(III)、Cu(II)、Sn(II)、Pb(II)、Mo(IV)、Mo(VI)、W(IV)、W(VI)などがあげられ、なかでもZn(II)が好ましく用いられる。
【0048】
金属M’としては、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ni(II)、V(IV)、V(V)などがあげられ、なかでもFe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)が好ましく用いられる。
【0049】
有機配位子Rとしてはアルコール、エーテル、ケトン、エステルなどが使用でき、アルコールがより好ましい。好ましい有機配位子は水溶性のものであり、具体例としては、tert−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、N,N−ジメチルアセトアミド、エチレングリコールジメチルエーテル(グライム) 、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)などが挙げられる。特に好ましくはtert−ブチルアルコールが配位したZn[Co(CN)である。
【0050】
成分(A)の脂肪族炭化水素油と成分(B)のアルキルオキシラン誘導体(B)の配合量は、質量比で、(A)/(B)=99/1〜65/35の範囲内であり、好ましくは97/3〜75/25、特に好ましくは95/5〜85/15である。(B)成分の配合量がこの範囲内である場合、合成繊維の平滑性が著しく向上する。
【0051】
本発明の合成繊維平滑剤組成物は、合成繊維の製造工程において、製造された繊維製品に対して、そのまま、あるいは水中油型エマルションに調製して、または溶剤などで希釈して使用することができる。使用方法としては、例えば、含浸機(浴)で含浸する方法、噴霧器により噴霧する方法、塗工機により塗布する方法、ロール等で繊維に付着させる方法などが挙げられる。また、本発明の合成繊維平滑剤組成物を溶融ポリマーに混錬して紡糸したり、紡糸後に繊維の仕上げ油剤として使用したりすることも可能である。更に、本発明の合成繊維平滑剤組成物を付着させて乾燥後、熱処理する方法も採用できる。
【0052】
本発明の合成繊維平滑剤組成物で処理可能な合成繊維であれば特に限定はなく、例えば、ナイロン6やナイロン66で代表されるポリアミド系合成繊維、ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系合成繊維に対して有効である。また、繊維等の形態、形状にしても制限はなく、フィラメント、糸等のような原材料形状に限らず、織物、編み物、不織布等の多様な加工形態の繊維製品も、本発明の合成繊維平滑剤組成物で処理可能な対象となる。なかでも特に平滑性を求められる合成繊維フィラメントの処理に適している。
【0053】
本発明の合成繊維平滑剤組成物は、本発明の目的を損なわない範囲において、他の添加剤を含有していてもよい。例えば、保湿剤、帯電防止剤、酸化防止剤、防腐剤、防錆剤、防しわ剤、難燃剤、柔軟仕上げ剤、撥水剤、吸水剤、バインダー樹脂等の通常の機能性付与剤を併用することができる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
(参考合成例:複合金属シアン化物錯体触媒の合成)
塩化亜鉛2.1gを含む2.0mlの水溶液中に、カリウムヘキサシアノコバルテートKCo(CN)を0.84g含む15mlの水溶液を、40℃にて攪拌しながら15分間かけて滴下した。滴下終了後、水16ml、tert−ブチルアルコール16gを加え、70℃に昇温し、1時間攪拌した。室温まで冷却後、濾過操作(1回目濾過)を行い、固体を得た。この固体に、水14ml、tert−ブチルアルコール8.0gを加え、30分間攪拌したのち濾過操作(2回目濾過)を行い、固体を得た。
【0055】
さらに再度、この固体にtert−ブチルアルコール18.6g、メタノール1.2gを加え、30分間攪拌したのち濾過操作(3回目濾過)を行い、得られた固体を40℃、減圧下で3時間乾燥し、複合金属シアン化物錯体触媒0.7gを得た。
【0056】
(合成例1)
温度計、圧力計、安全弁、窒素ガス吹き込み管、撹拌機、真空排気管、冷却コイル、蒸気ジャケットを装備したステンレス製5リットル(内容積4,890ml)の耐圧反応装置にn−ブタノール74g(1モル)と参考合成例の複合金属シアン化物錯体触媒0.2gを仕込んだ。窒素置換後、110℃へと昇温し、0.6MPa以下の条件で、攪拌しながら、窒素ガス吹き込み管より、エチルオキシラン216g(3モル)を1時間かけて仕込んだ。この際、反応槽内の圧力と温度の経時的変化を測定した。
【0057】
3時間後、反応槽内の圧力が急激に減少した。その後、反応槽内を110℃に保ちながら、0.6MPa以下の条件で、窒素ガス吹き込み管より、徐々にエチルオキシランを加圧添加し、全量で3,750g(52モル)のエチルオキシランを撹拌下で連続的に加圧添加した。このとき、エチルオキシラン全量を仕込むまでの時間は360分であった。
【0058】
添加終了後、110℃で1時間反応させ、窒素ガスを吹き込みながら、75〜85℃、50〜100Torrで1時間減圧処理後、ろ過を行った。得られた反応物(合成例1)について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0059】
ゲル浸透クロマトグラフィーには、システムとしてSHODEX GPC101GPC専用システム、示差屈折率計としてSHODEX RI−71S、ガードカラムとしてSHODEX KF−GS、カラムとしてHODEX KF804Lを3本連続装着し、カラム温度40℃、展開溶剤としてテトラヒドロフランを1ml/分の流速で流し、得られた反応物の0.1重量%テトラヒドロフラン溶液0.1mlを注入し、BORWIN GPC計算プログラムを用いて、屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムを得た。図3は、得られたクロマトグラムである。このクロマトグラムからM/Mを求めると、0.72であり、Asは0.75であった。
【0060】
(合成例2)
開始剤をn−ブタノールの替わりに、テトラデシルアルコール215gを使用したこと以外は、合成例1と同様に反応を行うことで、反応物を得た。得られた反応物について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。その結果、M/Mは0.74、Asは0.76であった。
【0061】
(合成例3)
エチルオキシランを全量で5,048g(70モル)添加すること以外は、合成例1と同様に反応を行うことで、反応物を得た。得られた反応物について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。その結果、M/Mは0.61、Asは0.70であった。
【0062】
(比較合成例1)
温度計、圧力計、安全弁、窒素ガス吹き込み管、撹拌機、真空排気管、冷却コイル、蒸気ジャケットを装備したステンレス製5リットル(内容積4,890ml)の耐圧反応装置に、n−ブタノール50g(0.7モル)とナトリウムメトキシド7.7g(0.1モル)を仕込んだ。120℃で、エチルオキシラン3,750g(52モル)を80時間かけて反応させた。75〜85℃、30分間、減圧下で残存するエチルオキシランを除去し、反応物を5Lナスフラスコに移し、速やかに1N塩酸で中和し、窒素ガス雰囲気下で脱水後、ろ過を行った。
【0063】
得られた反応物(比較合成例1)について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。合成例1と同様にクロマトグラムからM/Mを求めると、1.45であり、Asは1.47であった。
【0064】
表1中、水酸基価はJIS K−1557−1、動粘度はJIS K−2283に準拠して測定したものであり、BO付加モル数(n)は水酸基価から換算した分子量から算出した。また、表1中の動粘度はJIS K−2283に準拠して測定したものである。また、屈折率強度極大点Kが示すピークトップ分子量の5倍以上の高分子量体の含有比率も表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
以下、本発明の実施例及び比較例の合成繊維平滑剤組成物を製造した。ただし、配合成分(A)、(B)としては、それぞれ以下のものを用いた。また、各成分の種類および質量比を表2、表3に示す。また、各組成物の平滑性を測定し、測定値および評価結果を表2、3に示す。
【0067】
成分(A): 脂肪族炭化水素油
(A−1)パールリーム4(37.8℃における動粘度が3mm/sの水添ポリイソブテン、日油(株)製)
(A−2)パールリーム6(37.8℃における動粘度が20mm/sの水添ポリイソブテン、日油(株)製)
(A−3)流動パラフィン(37.8℃における動粘度が75mm/sの流動パラフィン、MORESCO製)
(A−4)ポリブテン015N(37.8℃における動粘度が680mm/sのポリブテン、日油(株)製)

成分(B):アルキルオキシラン誘導体
(B−1) 合成例3
【0068】
〔実施例1〜4及び比較例1〜5〕
1.合成繊維平滑剤組成物の製造
(実施例1)
水添ポリイソブテン(A−1)900gとアルキルオキシラン誘導体(B−1)100gを2Lセパラブルフラスコに仕込み、内容物を攪拌しながら140℃で5時間溶融混合した後、冷却し、合成繊維平滑剤組成物を得た。
【0069】
(実施例2〜4)
実施例2〜4については、表2に示す配合比率で実施例1と同じ方法で合成繊維平滑剤組成物を得た。
【0070】
(比較例1〜5)
比較例1〜5については、表3に示す配合比率で実施例1と同じ方法で合成繊維平滑剤組成物を得た。
【0071】
2.試験糸束の調製
実施例1〜4及び比較例1〜5については、得られた合成繊維平滑剤組成物の濃度が15質量%になるように、合成繊維平滑剤組成物15g、トルエン85gを配合した。得られたトルエン溶液に、ナイロン製ミシン糸束((株)フジックス製100%ナイロン、122dtex×1×2 ウーリーロックミシン糸、30本束)を1分浸漬した後、100℃で2分間の乾燥後、更に120℃で2分間加熱処理して評価用の試験糸束を得た。
【0072】
得られた各評価用の試験糸束について、以下の評価方法により平滑性を評価した。評価の結果を表2、表3に示す。
【0073】
3.評価方法(平滑性)
カトーテック(株)製の摩擦感テスター(KES−SE)を用いて、試験糸束にテンション(60g)を掛けた状態で、それぞれ3回測定し、平均値を算出した。試験結果を示す数字が小さいほど平滑性が高いことを示す。測定した値を次の基準により評価した。

◎(優良): 0.5未満
○(良): 0.5以上、0.6未満
△(可): 0.6以上、0.7未満
×(不良): 0.7以上
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
表2に示すとおり、実施例1〜4の合成繊維平滑剤組成物は、平滑性に優れていた。
【0077】
一方、比較例1〜5では、(B)成分を含有していないので平滑性を得られなかった。
図1
図2
図3
図4