【文献】
J Lou et al.,,The influence of filament temperature and oxygen concentraition on tungsten oxide nanostructures by hot filament metal oxide deposition,Journal of physics.D.Applied physics,英国,2008年 7月11日,pp.155410,1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、高融点金属酸化物等の薄膜形成する方法として、主として以下の3つの方法が実施されている。第1の方法は、薄膜の原料となる試料をペレット等の形状とし、低圧の真空容器内で高出力レーザー等を試料に照射することで試料を加熱・溶融させ、蒸発した試料を対象物へ付着させる、蒸着法である。このような蒸着法を用いて、タングステン薄膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
第2の方法としては、スパッタリング法が挙げられる。この方法は、第1の方法と同様に、低圧の真空容器に薄膜材料となる原料のバルク体であるターゲットを備え、ターゲット裏側へマグネットによる磁気回路を形成し、ターゲットへ電圧を印加する。またその際に真空容器内にはプロセス用のアルゴンや窒素、その他の希ガスが導入され、ターゲット表面近傍にプラズマが形成される。そして、プロセスガスであるArイオン等がターゲット表面へ衝突することでターゲット原子がはじき出され、対象へ堆積していく。また、酸素などの反応性ガスを導入し、はじき飛ばされた粒子と反応させる反応性スパッタリングも用いられる。スパッタリング法による高融点金属の酸化物薄膜の形成法として、例えば、特定の組成を備えるスパッタリングターゲットを用いる技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。また、CVD(Chemical vapor deposition)法も用いられる。
【0004】
また第3の方法では、種々のめっき法が挙げられる(例えば、特許文献3を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した第1〜第3の方法による高融点金属酸化物の薄膜製造方法では次のような問題点がある。第1の方法では、試料蒸発に必要な熱量を発生させる電子銃やビーム照射装置に大きなコストがかかることがあった。また発生した大きな熱量から装置構造材を保護する冷却機構が必須となり、装置の複雑化を伴うことがあった。さらに、複数の組成の酸化物をとる材料の場合、蒸着源として、純度の高い所定の酸化物を用いることが難しい場合があった。
【0007】
また、第2の方法でも同様に、高純度の試料ターゲットの製作費および、プラズマを制御する時期回路形成用のマグネット回路、更にプラズマの熱から保護する冷却機構が必要となり、装置コストが高騰する。さらに、酸化物の酸素欠損の制御が難しい。第3の方法ではめっき浴の管理、薬剤濃度の管理及び、電流・電圧の管理、更にメッキ後の洗浄など工程と作業管理が複雑になる。
【0008】
さらに、スパッタリングやCVDなどの成膜方法は、成膜対象物に損傷を与えるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、高融点金属の金属酸化物薄膜を安価かつ簡易な構成で得ることができる金属酸化物薄膜の製造方法を提供することを目的とする。すなわち、本発明は、一実施形態によれば、金属酸化物薄膜の製造方法であって、基材をチャンバ内に投入する準備工程と、前記準備工程後、前記チャンバ内を排気する減圧工程と、前記減圧工程後、前記チャンバ内を酸素を含んだ低圧の雰囲気にして、前記チャンバ内に設置した金属を加熱して金属酸化物を生成させる金属酸化物生成工程と、前記金属酸化物を蒸発温度まで加熱し、前記基材上に堆積させる成膜工程とを含む、金属酸化物の蒸発温度より金属の蒸発温度が高い金属酸化物薄膜の製造方法に関する。
【0010】
前記金属酸化物生成工程において、前記チャンバ内に水素を添加することが好ましい。
【0011】
前記金属酸化物薄膜の製造方法において、前記金属がタングステンであることが好ましい。
【0012】
前記金属酸化物薄膜の製造方法において、前記蒸発温度が三酸化タングステンの蒸発温度であり、製造される金属酸化物薄膜が三酸化タングステン薄膜であることが好ましい。
【0013】
前記金属酸化物薄膜の製造方法において、前記蒸発温度が二酸化タングステンの蒸発温度であり、製造される金属酸化物薄膜が二酸化タングステン薄膜であることが好ましい。
【0014】
前記二酸化タングステン薄膜の製造方法において、前記二酸化タングステンの蒸発温度に達するまで、気体状の前記金属酸化物から前記基材を遮蔽する工程を含むことが好ましい。
【0015】
本発明は、別の局面によれば、基材上に金属酸化物薄膜を生成する薄膜製造装置であって、減圧可能なチャンバと、前記チャンバ内部に設置され、外部電源に接続された金属からなる加熱体と、前記チャンバ内部に設置された支持体であって、前記基材を支持する支持体とを備え、前記加熱体が前記金属酸化物薄膜の金属源を兼ねる、薄膜製造装置に関する。
【0016】
前記薄膜製造装置において、前記加熱体の温度を検知する温度検知装置をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る金属酸化物薄膜の製造方法によれば、タングステンなどの高融点金属の酸化物薄膜を簡便に形成することが可能となる。また、薄膜材料となる金属線は入手が容易かつ安価である為、高価なターゲット材や特殊ガス、蒸着源及び薬液を用いる必要が無く、低コストでの薄膜形成が可能となる。また金属線は消耗する点で上記に挙げた従来手法と同様だが、交換が容易なため、メンテナンス費用の削減も可能である。また、本発明に係る薄膜製造装置によれば、金属源としての機能を兼ね備えた加熱体を用いることにより、装置構成が単純で取り扱いやすく、かつ低コストの装置を用いて、金属薄膜を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0020】
本発明は一実施形態によれば、金属酸化物薄膜の製造方法に関する。本発明において、製造の対象となる金属酸化物は、金属酸化物の蒸発温度より、金属の蒸発温度が高い特性を持つ元素の任意の酸化数の金属酸化物薄膜である。ここで、蒸発温度とは、金属もしくは金属酸化物が、蒸発あるいは昇華して、気体状の金属もしくは金属酸化物を生成する温度であって、気体生成温度ともいい、詳細は後述する。また、金属の蒸発温度とは、酸化物や窒化物などの化合物ではなく、金属単体の蒸発温度をいうものとする。このような特性を持つ金属元素としては、例えば、タングステン(W)、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)が挙げられるが、これらには限定されない。また、製造される薄膜の厚みは特に限定されず、例えば、数十nm〜10μm程度の任意の厚みの薄膜を製造することができる。
【0021】
図1は、本発明にかかる製造方法を実施するために用いられる薄膜製造装置の一例を示す概念図である。
図1を参照すると、薄膜製造装置は、主として、金属線2と処理ステージ3とを備えたチャンバ4から構成される。
【0022】
金属線2は、金属酸化物を生成するための金属源であって、チャンバ4外部に設けられた電源9から出力される電流導入端子10が接続され、所望の温度、特には蒸発温度以上にまで加熱されるように構成されている。金属線2は、所望の薄膜の構成成分となる上述の特性を持つ元素から選択される金属で構成されたものを用いることができるが、使用時の状況により、表面が一部酸化している金属線も用いることができる。金属線2は、好ましくは線径が概ね0.2〜1.0mm程度のワイヤー状である。このようなワイヤー状の金属線2は、ジグザク形状(千鳥足形状)、電球のフィラメントのようなスパイラル形状等に加工されていることが好ましく、製造する薄膜の大きさ・形状に応じて任意の形状とすることが可能である。また、複数の金属線が別個に取り付けられていてもよく、その態様は特には限定されない。なお、本発明の方法においては、金属源は、必ずしも線状である必要はなく、板箔上でもよく、金属が酸化し、酸化物が昇華もしくは蒸発することが可能な任意の形態であってよい。金属線2に接続する電源9は、一般的なDC、AC電源の他、簡易にはスライダック等も用いることが可能である。つまり、金属源である金属線2に電流を流すことで、金属源自体を加熱し、表面に酸化物を形成する。金属源と加熱体が一体となった構造である。また、任意選択的に、金属線2の温度を検知する温度センサが、チャンバ4内に設置されていてもよい。あるいは、放射温度計などの非接触温度センサであれば、チャンバ外に設置されていてもよい。このようなセンサにより、一つの金属源を原料として、蒸発温度及び酸化数が異なる二以上の金属酸化物の蒸発温度差をモニターし、任意に選択製膜をすることができる。
【0023】
処理ステージ3は、表面に金属酸化物薄膜が形成される対象物である基材1を載置、保持する。処理ステージ3は、金属線2が酸化し、昇華もしくは蒸発してできる気体状の金属酸化物が基材1に接触可能な態様で設置される。図示する実施形態においては、処理ステージ3は金属線2に対向して設けられている。処理ステージ3は、任意選択的に、基材1の加熱機構及び/または冷却機構を備えていてもよく、また、金属線2と基材1との距離を調節可能な可動機構を備えるように構成してもよい。なお、
図1では、処理ステージ3が、金属線2の鉛直方向下方に配置されているが、処理ステージ3と金属線2との設置態様は図示するものには限定されない。チャンバの底部に金属線が、天井部に処理ステージが設けられていても良く、チャンバの向かい合った側壁もしくは隣り合った側壁に金属線、処理ステージがそれぞれ設けられていてもよい。これらの態様においては、処理ステージに基材を固定する機構がさらに設けられていてもよい。
【0024】
チャンバ4は、その内部を好ましくは10
−4Pa程度まで減圧することが可能であり、かつ、金属線2の最高加熱温度に耐えられる容器である。具体的には、一般的なSUS及びAl材で形成され、パッキン5を備えた分割開閉構造を備えるものであることが好ましい。基材1の出し入れ、及び場合により、金属線2の交換のためである。チャンバ4はさらに、プロセスガス供給口6、N
2ガス供給口7を備えており、減圧装置8が接続されている。プロセスガス供給口6及びN
2ガス供給口7は、外部のボンベや工場ガスラインと接続されており、チャンバ4内へのガス供給を可能にする。ガスの供給と流量制御のためのマスフローコントローラー及び/または簡易なマニュアルバルブをさらに備えていてもよい。減圧装置8は、チャンバ4に接続してチャンバ4の減圧が可能なものであればよい。簡易な構成で運用が可能で、到達圧力が10
−4Pa程度の真空ポンプが好ましく、一般的なロータリーポンプ等を用いることができる。チャンバ4には必要に応じて、チャンバ内を加熱あるいは冷却する機構をさらに備えてもよい。加熱機構を備えることで、例えば、チャンバ4内の水分やアウトガスを低減し、製造する薄膜の質を向上させることが可能となる。
【0025】
薄膜製造装置の付加的な構成として、処理ステージ3に保持される基材1を、金属線2の周囲雰囲気から隔離する隔壁をチャンバ4内に設けてもよい(図示せず)。隔壁は、開閉可能に構成されて、金属線2あるいはチャンバ4内の雰囲気に由来して飛来する所望しない化合物から、基材1を遮蔽し、保護する場合に好ましく用いられる。一例としては、シャッター機構、シールド板などを用いることができるが、特定の態様には限定されない。その他に、チャンバ4には、必要に応じて、本発明の実施に使用可能な任意の機構を設けてもよい。
【0026】
したがって、本発明はある実施形態においては、基材上に金属酸化物薄膜を生成する薄膜製造装置であって、減圧可能なチャンバと、前記チャンバ内部に設置され、外部電源に接続された金属からなる加熱体と、前記チャンバ内部に設置された支持体であって、前記基材を支持する支持体とを備え、前記加熱体が前記金属酸化物薄膜の金属源を兼ねる、薄膜製造装置に関するものともいえる。チャンバの構成は、
図1を参照して上述した態様であってよい。また、加熱体は、上述した金属線のような金属源であってよく、支持体は上述した処理ステージと同様の機能を有するものであってよい。薄膜製造装置には、前記加熱体の温度を検知する温度検知装置をさらに備えてもよい。このような温度検知装置としては、上述した温度センサ等であってよい。このような薄膜製造装置は、加熱体と金属酸化物薄膜の金属源を兼ねることで、従来知られている装置と比較して、より簡便な機構により、金属酸化物薄膜を製造することができる。なお、
図1に示す装置は、本発明を実施することができる装置の一例であって、本発明に係る方法は当該装置によって実施されるものには限定されない。
【0027】
本発明の一実施形態に係る金属酸化物薄膜の製造方法は、基材をチャンバ内に投入する準備工程と、前記準備工程後、前記チャンバ内を排気する減圧工程と、前記減圧工程後、前記チャンバ内を、酸素を含んだ低圧の雰囲気にして、前記チャンバ内に設置した金属を加熱し、金属酸化物を生成させる金属酸化物生成工程と、前記金属酸化物を蒸発温度まで加熱し、前記基材上に堆積させる成膜工程とを含む。
【0028】
準備工程では、
図1に示す装置の処理ステージ3上に、基材1を設置する。基材1は、特に限定されるものではなく、本発明のプロセス条件に耐えられる任意の材質、例えば、金属基板、ガラス基板、シリコンウェハ、ITOなどの電極材料、セラミクス、樹脂フィルム、あるいはこれらの積層体等であってよい。耐熱性が低い基材1を用いる場合には、冷却機構を備える処理ステージ3を用い、基材1を冷却しながら本発明の方法を実施することができる。基材1の大きさ及び形状も特には限定されるものではない。したがって、基材1は、金属酸化物薄膜の被形成面が露出していれば図示するような平板形状には限定されず、不定形状であってもよい。
【0029】
準備工程後、チャンバ4を密閉して減圧工程を実施する。減圧工程では、減圧装置8を作動させて、チャンバ4内を所定の真空度まで減圧させる。真空度は、例えば、10
−4〜10Pa程度とすることが好ましい。
図2を参照すると、時間T0において減圧を開始し、所定の圧力、例えば1Paに達するT1まで減圧を継続する。その間、金属線2の加熱(金属線2への通電)は行わない。また、この工程では一般的には加熱操作を伴わず、チャンバ4内は概ね常温に保持される。減圧工程における操作により、処理の弊害となる水分等をチャンバ4から排出し、チャンバ内を清浄な真空状態とすることができる。なお、タイミングT0からT4までの全工程において、減圧装置8は、常に作動した状態として、チャンバ4内の排気を継続することが好ましい。各工程で生じうる副生成物や膜形成に使用されなかった物質などを、排出物cとして、チャンバ4外に排出するためである。
【0030】
減圧工程の終了後、次いで、金属酸化物生成工程及び成膜工程を実施する。これらの工程では、プロセスガスaをプロセスガス供給口6から、チャンバ4内に導入する。プロセスガスaとしては、N
2、Arなどの不活性ガスと、酸素との混合ガスを用いることが好ましい。金属酸化物生成工程及び成膜工程のチャンバ内の圧力をプロセス圧力とすると、プロセス圧力は、大気圧より圧力の低い低圧とすることが好ましい。概ね10Pa〜5x10
3Pa程度が好ましく、10Pa〜1000Pa程度がさらに好ましい。チャンバ4内の圧力を低くすることで、不純物の少ない品質の良い金属酸化膜を形成することができる。また、金属酸化物の蒸発温度を低下させ、比較的低い温度で金属酸化物の気体を生成させるためである。また、この際の酸素濃度は、多くとも10
3ppm以下、例えば、10〜1000ppm、さらに好ましくは、10〜500ppmとすることができる。金属線の急激な酸化を抑制し、意図しない燃焼や爆発を防止するためである。プロセスガスaには、さらに水素(H
2)ガスを含んでもよい。成膜速度を調整するためである。水素ガスは、金属線2の表面に生成した酸化物を、還元し、除去することができるため、金属酸化物の生成量及び/または生成速度を調節することができる。この際の水素濃度は、上記酸素濃度と同程度であってよく、10
3ppm以下、例えば、10〜1000ppm、さらに好ましくは、10〜500ppmとすることができる。
図2を参照すると、時間T1においてプロセスガスaの導入を開始する。プロセスガスaの導入は、時間T2まで継続する。時間T1からT2までの間、マスフローコントローラーなどを用いて、プロセスガスaによるプロセス圧力が一定になるように制御することが好ましい。
【0031】
所定の圧力条件に達した後、金属線2の通電加熱を開始する。金属酸化物生成工程及び成膜工程は、いずれも金属線2の加熱により実施することができる。金属線表面への金属酸化物生成工程では、T1において常温である金属線2に通電し、当該金属線2を構成する金属が酸化する酸化温度にまで金属線2を昇温する。酸化温度とは、当該工程における圧力条件、雰囲気において金属線2を十分に酸化することができる温度をいう。酸化温度は、後述する金属酸化物の蒸発温度よりも低いため、常温から蒸発温度まで加熱する間に酸化温度を経ることとなる。場合により、酸化温度において一定時間保持した後、さらに昇温してもよい。このように、酸化温度において一定時間保持することで、金属線表面により均質な酸化膜を形成することができる。金属酸化物生成工程を実施した後、後続の成膜工程を実施する前に、圧力条件や雰囲気の条件を変化させて、これらの工程を分けることができ、例えば成膜工程において、より低圧にして低温で成膜することができる。次いで、成膜工程では、金属酸化物生成工程で生成した金属酸化物の蒸発温度まで加熱する。金属酸化物の蒸発温度とは、当該工程における圧力条件、雰囲気において、金属酸化物を昇華もしくは蒸発させ、十分な量の気体状の金属酸化物を生成する温度、例えば、蒸気圧が1Pa以上となる程度に金属酸化物を生成する温度である。このような蒸発温度は、金属酸化物の種類やチャンバ内のプロセス圧力により異なるが、金属便覧や学術論文等から既知の値に基づいて当業者が適宜決定することができる。金属酸化物生成工程及び成膜工程では、金属線2を常温から、蒸発温度にまで加熱する過程で、金属線2が雰囲気中の酸素により酸化されて金属酸化物を生成する。蒸発温度まで加熱した状態において、雰囲気中に酸素が存在すれば、金属酸化物の生成がおこり、金属酸化物生成・昇華もしくは蒸発が繰り返される。蒸発温度に加熱された金属酸化物は、気体となって拡散し、基材1表面に飛来して基材1上に堆積する。上記の所定の金属を金属線として用いることで、酸化による融点降下が生じ、金属自体の融点が非常に高いもの、例えば融点が3400℃近いタングステンであっても、比較的低い温度で酸化物を気化させることができる。
【0032】
金属が複数の酸化状態を持つ場合には、複数種の金属酸化物が生成し、金属酸化物の種類によって蒸発温度が異なる。例えば、金属がタングステンの場合、金属酸化物は、二酸化タングステン(WO
2)と三酸化タングステン(WO
3)が知られている。三酸化タングステンの融点は1473℃であり、三酸化タングステンの蒸気圧が1Paに達する温度は、1200℃程度である。一方、二酸化タングステンの融点は1700℃であり、二酸化タングステンの蒸気圧が1Paに達する温度は、1800℃程度である。したがって、所望の金属酸化物薄膜が三酸化タングステン薄膜の場合には、金属タングステン線を三酸化タングステンの蒸発温度である1200℃程度にまで加熱する。これにより、気体状の三酸化タングステンを生成して、基材1上に堆積させることができる。一方、所望の金属酸化物薄膜が二酸化タングステン薄膜である場合には、二酸化タングステンの蒸発温度である1800℃程度にまで加熱することができるが、加熱の過程で三酸化タングステンの昇華もしくは蒸発が生じる。このとき、三酸化タングステンが基材に接触することを防止するためには、例えば、二酸化タングステンの蒸発温度付近に達するまで、基材1を気化した金属酸化物の雰囲気から保護してもよい。基材1の保護は、例えば、金属線2が配置される領域と、基材1が載置される処理ステージ3が設けられる領域とが、シャッターの開閉により区分可能な構成とすることにより実施することができる。そして、1800℃程度でシャッターを開けて、金属線2から昇華もしくは蒸発した二酸化タングステンが基材1と接触可能な態様とすることで、基材1上に選択的に二酸化タングステン薄膜を形成することができる。
【0033】
所定の蒸発温度にまで加熱した後、所定の蒸発温度で一定時間にわたって保持してもよい。この保持時間によって、金属酸化物薄膜の厚さを調整することができる。また、金属線の投入電力の調整によっても、膜厚を制御することができる。金属線2の加熱プロファイルは、当業者が適宜決定することができ、特には限定されない。例えば、蒸発温度に達するまで一定の昇温速度で昇温してもよく、金属線の酸化温度に達するまで一定の昇温速度で昇温し、酸化温度で一定時間保持した後、さらに所望の金属酸化物の蒸発温度に達するまで、一定の昇温速度で昇温することもできる。
【0034】
また、金属酸化物生成工程と成膜工程を別々の工程として行うこともできる。具体的には、金属酸化物生成工程として、酸素を有する雰囲気中で酸化温度まで加熱し、金属線表面上に金属酸化物を生成させる。その後、成膜工程として、酸素および水素の導入を停止し、かつこれらの気体をチャンバ内より排出することで、金属線表面における金属酸化膜の生成を止める。そして、減圧環境下で金属線を蒸発温度まで加熱し、前記金属酸化物を昇華もしくは蒸発させ、基板1上に堆積させる。このように、金属酸化物生成工程と成膜工程を別々の工程として行い、酸素及び水素の実質的な非存在下で成膜工程を実施することで、気体状の所望の酸化物以外の不純物が少ない条件で成膜を実施することができ、純度の高い膜を生成することができる。また、金属酸化物生成工程と成膜工程とを繰り返してもよい。これらの工程を繰り返して実施することで、より純度の高い薄膜を、精度よく所望の厚みで形成することが可能になる。その際、成膜工程後に、水素ガスをチャンバ4内に供給して、金属線2の表面上の金属酸化物を還元し、除去してもよい。
【0035】
基材1上に所望の厚さの薄膜が形成された後、金属線2への電力供給を遮断し、T2にて成膜工程を終了する。次いで、T2からT3へ向けて減圧を行う。チャンバ4内に残留するプロセスガスを排出するためである。T2の時点で、チャンバ4内は金属線の加熱により昇温している場合があり、必要に応じてチャンバ4内を冷却してもよく、自然冷却してもよい。T3にて減圧完了後は、窒素によるガス置換を開始する。ガス置換は、N
2ガス供給口7からチャンバ4内に窒素ガスbを供給することにより実施する。チャンバ内圧力が、大気圧付近となるまで窒素ガスbを供給することが好ましい。チャンバ4内が、所望の圧力に達した時点T4でプロセスを終了し、チャンバ4を開放して、薄膜が形成された基材1を取り出すことができる。
【0036】
大気開放したチャンバ4内の金属線2が酸化している場合には、基材1を取り出した後、再度チャンバ4内を減圧し、プロセスガス供給口6から水素ガスをチャンバ4内に供給して、金属線2のへ電力を投入し加熱することで金属線2表面を還元することができる。
【0037】
本発明の方法により、従来と比較して簡便な装置及び原料を用いて、金属酸化物薄膜を得ることができる。金属酸化物薄膜はその物性により、所望の様々な用途に使用することができる。例えば、金属タングステンを原料として本発明の方法により、タングステンの酸化物薄膜を製造することができる。三酸化タングステンは、n型半導体であり、フォトクロミックディスプレイ等に用いられ、光触媒としても用いられる。二酸化タングステンは導電性を有するため様々な用途に用いられる。また、耐食性に優れることから、各種保護膜としても用いられ、さらに、装飾用にも用いられる。また、同様の方法でコバルト酸化物薄膜、ジルコニア薄膜、ニッケル酸化物薄膜を得ることができる。ジルコニア(ZrO
2)は高強度かつ高屈折率材料であり、ジルコニア薄膜は各種コーティング材として、また電子部材として有用である。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を参照して、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0039】
本発明に係る金属酸化物薄膜の製造方法を用いて、酸化タングステン薄膜を製造した。薄膜製造装置は、
図1に示す概略図で表されるものを用い、金属線としては、径が0.5μm、長さが1.5mのタングステンワイヤを、ジグザク(千鳥足)形状に加工したものを用い、これをチャンバの天井部に取り付けた。基材としては、径が50mm、厚さが3mmのガラス基板およびSiウェハを用いた。
【0040】
薄膜の製造は、
図2に示すチャートに従って実施した。金属線を取り付けたチャンバの処理ステージに、基材を載置した。次いで、チャンバ4を密閉し、減圧装置8を作動させた時点をT0(0min)としてチャンバの減圧を行った。括弧書きで示す時間(min)は、T0からの経過時間(分)を表す。圧力が概ね1Paとなった時点をT1(5min)とし、プロセスガスとして、H
2ガスとO
2ガスをほぼ同量でチャンバ内に供給し、プロセス圧力を形成した。この際のチャンバ4内の圧力は、概ね500Paとし、T2まで一定圧力を保持した。また、この間、減圧装置8は作動させた状態で、チャンバ4内の排気を継続した。圧力形成後、金属線2の加熱を開始し、昇温速度を概ね50℃/minで蒸発温度である1200℃まで加熱し、10min保持した。そして、T2(15min)において通電加熱を終了し、プロセスガスの供給も遮断した。その後、チャンバ内を真空排気し、チャンバ内の圧力が概ね1Paとなった時点をT3(20min)とした。次いで、チャンバ内をN
2ガスで置換し、チャンバ内が常圧となった時点をT4(22min)として、プロセスを終了した。チャンバ内を大気開放し、基材を取り出したところ、基材上に、三酸化タングステン薄膜が生成していることが視認できた。電子顕微鏡で観察した結果、膜厚が、約10μmの概ね均一な薄膜が生成していることが確認できた。