特許第6883276号(P6883276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6883276界面接合強度に優れた多結晶ダイヤモンド焼結体工具及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883276
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】界面接合強度に優れた多結晶ダイヤモンド焼結体工具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20210531BHJP
   E21B 10/46 20060101ALI20210531BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20210531BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   B23B27/14 B
   E21B10/46
   B23B27/20
   C04B35/52
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-571358(P2016-571358)
(86)(22)【出願日】2016年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2016084440
(87)【国際公開番号】WO2017086485
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2019年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-226537(P2015-226537)
(32)【優先日】2015年11月19日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年5月26日に静岡グランシップにおいて開催された第9回国際会議「New Diamond and Nano Carbons 2015」にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】アフマディ・エコ・ワルドヨ
(72)【発明者】
【氏名】赤石 實
【審査官】 中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−118802(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/096402(WO,A1)
【文献】 特開昭60−094204(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/072250(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0152017(US,A1)
【文献】 特表2014−531967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B01J 23/75
B22F 3/10
B22F 7/00
B22F 7/06
B23B 27/18
B23B 27/20
C01B 32/25
C04B 35/52
C22C 1/05
C22C 29/08
E21B 10/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WCを主体としCoを含む超硬合金基材上にCoからなる金属触媒を含有するダイヤモンド層が設けられた多結晶ダイヤモンド焼結体工具において、
前記超硬合金基材と前記ダイヤモンド層との界面に形成されているCoリッチ層の平均層厚は30μm以下であり、
前記ダイヤモンド層に含有されるCoの平均含有量をCDIAとし、また、前記Coリッチ層におけるCo含有量のピーク値をCMAXとした時、CMAX/CDIAの値が2以下であり、
前記超硬合金基材と前記ダイヤモンド層との界面からダイヤモンド層の内部へ向かう50μmまでの領域におけるWC粒子の平均粒径Dは、超硬合金基材の内部におけるWC粒子の平均粒径をDoとした時、D/Doの値が2未満であることを特徴とする多結晶ダイヤモンド焼結体工具。
【請求項2】
前記Coリッチ層と前記超硬合金基材との界面に平均層厚が5μm以上15μm以下の緩衝層を備えることを特徴とする請求項に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具。
【請求項3】
前記Coリッチ層と前記超硬合金基材との界面に平均層厚が8μm以上15μm以下の緩衝層を備えることを特徴とする請求項に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具。
【請求項4】
前記Coリッチ層の平均層厚が21μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具。
【請求項5】
前記ダイヤモンド層の平均層厚が0.5mmから15mmであり、
前記ダイヤモンド層は前記Coリッチ層の直上に形成され、
前記Coリッチ層は前記緩衝層の直上に形成され、
前記緩衝層は前記超硬合金基材の直上に形成されていることを特徴とする請求項乃至4のいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具。
【請求項6】
Coを9〜18質量%含有し、平均粒径0.5〜4μmのWC粒子を含有する超硬合金基材上に、平均粒径1〜11μmのダイヤモンド粉末中に15〜33質量%のCo粉末を混合したダイヤモンド原料粉末を積層し、熱力学的にダイヤモンドが安定する領域である焼結圧力5GPa以上かつ焼結温度1400℃ 以上の条件の超高圧高温装置内で焼結することを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具の製造方法。
【請求項7】
焼結前に前記ダイヤモンド層に混合されるCo混合量から前記超硬合金基材のCo平均含有量を引いた値が1質量%から30質量%であることを特徴とする請求項に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具の製造方法
【請求項8】
焼結前に前記ダイヤモンド層に混合されるCo混合量から前記超硬合金基材のCo平均含有量を引いた値が10質量%から30質量%であることを特徴とする請求項に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具の製造方法
【請求項9】
焼結前に前記ダイヤモンド層に混合されるCo混合量から前記超硬合金基材のCo平均含有量を引いた値が16質量%から28質量%であることを特徴とする請求項に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶ダイヤモンド焼結体工具に関し、例えば、非鉄金属の切削、あるいは、石油・天然ガス・地熱井掘削等に用いられる工具であって、超硬合金基材と多結晶ダイヤモンド層との界面接合強度に優れた多結晶ダイヤモンド焼結体(以下、「PCD」で示す場合がある。)工具及びその製造方法に関する。
本願は、2015年11月19日に、日本に出願された特願2015−226537号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来から、非鉄金属の切削、あるいは、石油、天然ガス、地熱掘削用としては、その過酷な使用条件に耐えるため、硬度、化学安定性、耐摩耗性、耐欠損性に優れたPCD工具が使用されている。
そして、従来のPCD工具においては、通常、ダイヤモンド焼結体内のCo等の金属触媒の含有量を調整することによって、そのすぐれた耐摩耗性、耐欠損性を得ていた。
なお、ダイヤモンド焼結体内へのCo等の金属触媒の浸透は、ダイヤモンド粒子間の間隙と、焼結時のその外側の圧力に差があるため、溶解したCo等の金属触媒が差圧を駆動力としてダイヤモンド粒子の間隙を埋めるように移動することによって生じる。
【0003】
従来のPCDの製造方法としては、例えば、特許文献1で溶浸法が提案され、また、特許文献2では、事前混合法が提案されている。これらの技術においては、ダイヤモンド焼結体内のCo等の金属触媒の含有量を変化させることによって、PCDの耐摩耗性と耐欠損性を調整している。
しかし、PCD工具の性能を左右するのは、PCDの耐摩耗性と耐欠損性だけではなく、PCDと超硬合金基材との界面接合強度の良否にも大きく影響される。
上記界面接合強度が低いと、PCD工具に高負荷が作用した場合、PCDと超硬合金基材との界面でのクラック発生等により、PCDの剥離、欠損が発生することになる。
【0004】
そこで、超硬合金基材とダイヤモンド焼結体の界面の強度を維持するため、特許文献3に示されるように“non−planar”の界面技術を用いることが提案され、また、非特許文献1に示されるように、超硬合金基材のWC粒子が粒成長しないように、W粒子を界面近傍に事前添加する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3745623号明細書
【特許文献2】米国特許第4604106号明細書
【特許文献3】米国特許第6042463号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Control of exaggerated tungsten carbide grain growth at the diamond−substrate interface of polycrystalline diamond cutters(PDC)」Int.Journal of Refractory and Hard Materials,29(2011)361−364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2で提案された溶浸法あるいは事前混合法によるPCDの作製は、主にダイヤモンド層内のCo等の金属触媒の含有量と触媒分布の均一性を調整するために行われている。しかし、焼結に際し、超硬合金基材からダイヤモンド層へのCo等からなる金属触媒の移動があるため、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面には、金属触媒リッチ層が形成され、さらに、金属触媒の移動に伴い、WC粒子も一部移動するとともに、WC粒子の異常成長が生じる。
PCD工具を切削工具あるいは掘削工具として使用する際、使用環境により高い耐熱性が求められる場合があるが、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面に金属触媒リッチ層が存在すると、超硬合金基体とダイヤモンド層間の界面接合強度は低下し、高負荷が作用した時に界面からのクラックの発生、剥離の発生等の問題が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、前記従来のPCD工具の問題点を解決すべく、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面接合強度を高くする方策について鋭意研究した。超硬合金とは、周期律表IVa、Va、VIa族金属の炭化物をFe、Co、Niなどの鉄系金属で焼結した複合材料を超硬合金(Hartmetalle, hard metals、Cemented Carbide)の総称である。本願において、超硬合金基材とはWCを主体としCoを含む超硬合金基材であり、「WC基超硬合金基材」と称されることもある。WC基超硬合金基材のWC及びCoの含有量は、WC基超硬合金基材の全体重量の95重量%以上であり用途に応じて5重量%未満のCr等の微量元素を含むこともある。
その結果、超硬合金基材とダイヤモンド層を積層した状態で超高圧高温装置内にて焼結するに当たり、予めダイヤモンド粉末に混合するCoからなる金属触媒粉末の混合量を適正化することによって、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面に形成されるCoリッチ層の厚さを抑制するとともに、界面におけるWC粒子の異常成長を抑制できることを見出した。
そして、過剰な層厚のCoリッチ層の形成を抑制し、また、WC粒子の異常成長を抑制することによって、本発明のPCD工具は、耐熱性向上に加えて、界面接合強度も向上することから、工具側面から衝撃的負荷に対する耐衝撃性が向上し、界面におけるクラックの発生、剥離の発生を抑制し得ることを見出したのである。
【0009】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)WCを主体としCoを含む超硬合金基材上にCoからなる金属触媒を含有するダイヤモンド層が設けられた多結晶ダイヤモンド焼結体工具において、
前記超硬合金基材と前記ダイヤモンド層との界面に形成されているCoリッチ層の平均層厚は30μm以下であり、
前記ダイヤモンド層に含有されるCoの平均含有量をCDIAとし、また、前記Coリッチ層におけるCo含有量のピーク値をCMAXとした時、CMAX/CDIAの値が2以下であり、
前記超硬合金基材と前記ダイヤモンド層との界面からダイヤモンド層の内部へ向かう50μmまでの領域におけるWC粒子の平均粒径Dは、超硬合金基材の内部におけるWC粒子の平均粒径をDoとした時、D/Doの値が2未満であることを特徴とする多結晶ダイヤモンド焼結体工具。
(2)前記Coリッチ層と前記超硬合金基材との界面に平均層厚が5μm以上15μm以下の緩衝層を備えることを特徴とする(1)に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具。
(3)前記Coリッチ層と前記超硬合金基材との界面に平均層厚が8μm以上15μm以下の緩衝層を備えることを特徴とする(2)に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具。
(4)前記Coリッチ層の平均層厚が21μm以上30μm以下であることを特徴とする(3)に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具。
(5)前記ダイヤモンド層の平均層厚が0.5mmから15mmであり、
前記ダイヤモンド層は前記Coリッチ層の直上に形成され、
前記Coリッチ層は前記緩衝層の直上に形成され、
前記緩衝層は前記超硬合金基材の直上に形成されていることを特徴とする前記()乃至(4)のいずれかに記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具。
(6)Coを9〜18質量%含有し、平均粒径0.5〜4μmのWC粒子を含有する超硬合金基材上に、平均粒径1〜11μmのダイヤモンド粉末中に15〜33質量%のCo粉末を混合したダイヤモンド原料粉末を積層し、熱力学的にダイヤモンドが安定する領域である焼結圧力5GPa以上かつ焼結温度1400℃ 以上の条件の超高圧高温装置内で焼結することを特徴とする前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具の製造方法。
(7)焼結前に前記ダイヤモンド層に混合されるCo混合量から前記超硬合金基材のCo平均含有量を引いた値が1質量%から30質量%であることを特徴とする(6)に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具の製造方法。
(8)焼結前に前記ダイヤモンド層に混合されるCo混合量から前記超硬合金基材のCo平均含有量を引いた値が10質量%から30質量%であることを特徴とする(6)に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具の製造方法。
(9)焼結前に前記ダイヤモンド層に混合されるCo混合量から前記超硬合金基材のCo平均含有量を引いた値が16質量%から28質量%であることを特徴とする(6)に記載の多結晶ダイヤモンド焼結体工具の製造方法。」
を特徴とするものである。
【0010】
以下に、本発明について、詳細に説明する。
【0011】
図1に、本発明の多結晶ダイヤモンド焼結体(PCD)工具を製造するための超高圧高温装置の概略模式図を示す。
図1に示すように、本発明のPCD工具は、例えば、Taカプセル(9)の底部から上方へ順に、所定平均粒径のダイヤモンド粉末中に所定量のCo粉末を混合したダイヤモンド原料粉末(8)、所定量のCoを含有し所定の平均粒径のWC粒子を含有する超硬合金基材(1)、Ta箔(6)、グラファイトディスク(2)を積層し、さらにその上に、Ta箔(6)、超硬合金基材(1)、ダイヤモンド原料粉末(8)を積層し、Taカプセル内にこのように焼結用原料を積層した状態で、熱力学的にダイヤモンドが安定する領域、すなわち、圧力5GPa〜10GPaかつ焼結温度1400℃〜2200℃以上で超高圧高温焼結することによって作製することができる。
【0012】
前記超高圧高温装置による焼結において、焼結圧力が5GPa未満では、所定の焼結温度において、ダイヤモンドの安定領域でないため、ダイヤモンドが黒鉛(グラファイト)逆変換し、高硬度の焼結体が得られないことから、焼結圧力は5GPa以上とする必要があるが、その効果は10GPa以下で十分であり、それを超えると装置コストが高くなるので、加圧圧力は5〜10GPaとすることが望ましい。
また、焼結温度が1400℃未満では、金属触媒であるCo等が十分に溶解せず、未焼結又は焼結反応が不十分となり焼結体の緻密化を図れないので、焼結温度は1400℃以上とする必要があり、一方、焼結温度が2200℃を超えると、所定の焼結圧力において、ダイヤモンドの安定領域でないため、過焼結状態となり、ダイヤモンド粒子がグラファイト化する現象が生じるばかりか、超硬合金基材とダイヤモンド層の界面におけるCoリッチ層の層厚が厚くなりすぎるとともに、WC粒子の異常成長が生じるため、焼結温度は1400℃以上2500℃以下、好ましくは、1450℃以上2000℃以下とする。
【0013】
超硬合金基材とダイヤモンド層の界面のCoリッチ層:
図6は、本発明の一実施形態のPCD工具の模式的な縦断面図を示す。本発明では、超硬合金基材(17)とダイヤモンド層(18)の界面に形成されるCoリッチ層(19)の厚さを適正範囲に抑え、さらに、界面におけるWC粒子の異常成長を抑制するために、超硬合金基材中に含有されるCo含有量、ダイヤモンド粉末に事前混合するCo含有量、ダイヤモンド粉末の平均粒径および超硬合金基材におけるWC粒子の平均粒径を所定の範囲内とすることが重要である。
ダイヤモンド層(18)の好ましい平均層厚は0.5mm〜15mmである。ダイヤモンド層(18)の平均層厚が0.5mm未満では、ダイヤモンド層の厚みが不十分であり、工具として使用した場合、摩耗が短期間で超硬合金基材へ到達し、急速に摩耗が進行する。その結果、工具寿命が低下する。一方、ダイヤモンド層(18)の平均層厚が15mmを越えると、製造コストに見合う効果の向上がない。ダイヤモンド層(18)のより好ましい平均層厚は1.0mm〜10mmであり、さらにより好ましくは2.0mm〜8.0mmである。
図7は、本発明の他実施形態のPCD工具の模式的な縦断面図を示す。この場合、Coリッチ層(19)と超硬合金基材(17)との界面に緩衝層(20)が更に形成されている。
図7に示す本発明の他実施形態のPCD工具では、焼結前にダイヤモンド層(18)に混合されるCo混合量から超硬合金基材(17)のCo平均含有量を引いた値が1質量%から30質量%の範囲内に設定されている。この値が1質量%未満では、緩衝層が形成されず、30質量%を超えるとダイヤモンド層中に含有するCoの含有量が多くなり過ぎるために、摩耗性能が著しく低下し、工具として使用した場合には性能が低下する。
緩衝層(20)の境界線は、以下のように定義する。上述したように緩衝層(20)は、Coリッチ層(19)と超硬合金基材(17)との界面に形成される。Coリッチ層(19)と緩衝層(20)との間の境界線は、Coリッチ層(19)中で一度Cmaxの値まで上昇したCo含有量が超硬合金基材(17)側に向けて減少し、Co含有量が1.1×CDIAの値未満となるところである。緩衝層(20)と超硬合金基材(17)との間の境界線は、緩衝層(20)中でCo含有量が超硬合金基材(17)側に向けて減少し、超硬合金基材(17)に含有されるCoの平均含有量Cwcとなったところである。
緩衝層(20)の平均層厚は、複数の点で上記の境界線間の距離を、層厚方向で測定することで得ることができる。
そのため、ダイヤモンド層(18)と超硬合金基材(17)との界面から超硬合金基材(17)へ向けてのCo含有量の変化は、急激に減少せず、緩やかに緩衝層(20)の厚み方向の距離にほぼ比例した形で一方向的に減少する。ここで、一方向的に減少するとは、緩衝層のCoリッチ層(18)側から超硬合金基材(17)側にかけて、Co含有量が増加することなく減少し続けることを意味する(微視的な観察による局所的なノイズとしての増加は除く)。
物理特性が異なるダイヤモンド層(18)とWC超硬合金基材(17)との間でCo含有量が、ダイヤモンド層(18)からWC超硬合金基材(17)に向けて、緩やかに減少することで、組織・組成の違いに起因する物理特性の変化の度合いも緩やかなものとすることができる。
Coリッチ層(19)と超硬合金基材(17)との界面に緩衝層(20)が更に形成されていることにより、ダイヤモンド層(18)とWC超硬合金基材(17)との界面接合強度をさらに向上させることができる。例えば、瞬間的な衝撃に起因したダイヤモンド層(17)の剥離の発生を抑制することができる。
この瞬間的な衝撃に起因したダイヤモンド層(17)の剥離の発生は、図8に示した試験片を用いて、図9及び図10に示した衝撃せん断強度試験により評価することができる。
焼結前にダイヤモンド層(18)に混合されるCo混合量から超硬合金基材(17)のCo平均含有量を引いた値のより好ましい範囲は、10質量%から30質量%である。さらにより好ましくは16質量%から28質量%である。

焼結されると焼結前のダイヤモンド層(18)に混合されるCo混合量は変化する。焼結前にダイヤモンド層(18)に混合されるCo混合量から超硬合金基材(17)のCo平均含有量を引いた値が1質量%から30質量%の範囲内に設定されており、例えば上記焼結条件で焼結を行った場合は、焼結後のダイヤモンド層(18)の質量%でのCo含有量から焼結後の超硬合金基材(17)の質量%でのCo含有量を引いた値は、−5質量%から25質量%となる。
緩衝層(20)の好ましい平均層厚は5μmから15μmである。より好ましくは8μm〜15μmである。さらにより好ましくは、8μm〜10μmである。緩衝層(20)の平均層厚が5μm未満だと、衝撃性能が低下し、緩衝層の持つ耐衝撃性向上の効果がなくなる。一方、緩衝層(20)の平均層厚が15μmを越えると、焼結前にダイヤモンド層(18)に混合されるCo混合量から超硬合金基材(17)のCo平均含有量を引いた値を30質量%超とする必要が生じ、ダイヤモンド層に含有されるCo含有量が過剰となり、結果として耐摩耗性能が低下する。
緩衝層(20)におけるCo含有量の減少の傾きは、1質量%/μm〜10質量%/μmの範囲内である。より好ましくは1.5質量%/μm〜7.5質量%/μmの範囲内である。さらにより好ましくは、2質量%/μm〜5質量%/μmの範囲内である。
【0014】
超硬合金基材(17)とダイヤモンド層(18)の界面に形成されるCoリッチ層(19)の平均層厚は、その厚さが30μmを超えると、界面強度が低下し、その結果、界面でのクラック発生、剥離発生等の問題が生じるので、Coリッチ層(19)の平均層厚は30μm以下、好ましくは、20μm以下とする。
ここで、Coリッチ層(19)の平均層厚とは、焼結後のダイヤモンド層に含有される金属触媒として残留したCoリッチ層以外の領域における平均Co含有量をCDIAとしたとき、超硬合金基材(17)とダイヤモンド層(18)の界面から、超硬合金基材とダイヤモンド層の内部方向に向かって、それぞれ50μm(ダイヤモンド層と超硬基材層と合わせて100μm)に渡り、Co含有量を測定し、測定されたCo含有量の値が、1.1×CDIA以上になる超硬合金基材とダイヤモンド層の界面の距離を測定位置の異なる複数個所で測定し、これらの値を平均することにより求めたCoリッチ層の層厚であると定義する。
また、本発明では、前記Coリッチ層(19)におけるCo含有量のピーク値をCMAXとした時、ダイヤモンド層(18)に含有されるCoの平均含有量CDIAとの比の値CMAX/CDIAが2以下であることが望ましい。これは、Coリッチ層(19)の層厚が薄い場合(平均層厚が30μm以下)であっても、前記CMAX/CDIAの値が2を超えるような場合には、超硬合金基材(17)とダイヤモンド層(18)の界面におけるCo含有量の濃度変化率が急激に大きくなるため、Coリッチ層(19)を薄くしたことによる界面強度の向上効果が低減するからである。したがって、Coリッチ層(19)におけるCMAX/CDIAの値は2以下とすることが望ましい。
なお、ダイヤモンド層(18)から、超硬合金基材(17)とダイヤモンド層(18)の界面に向かうCo含有量(即ち、CMAX、CDIA)の測定は、例えば、EPMA(電子線マイクロアナライザ)のライン分析によって行うことができる。例えば、図3図4に示すように、ダイヤモンド層から超硬基材に向かって約100μm(ダイヤモンド層と超硬基材層をそれぞれ約50μm)の距離を20μmビーム径で、0.5μm測定間隔で走査し、EPMAから照射された加速電子線により発生するCoの特性X線を検出し、各位置におけるCo含有量をカウント数(単位:cps。count per second,一秒当たりのX線のカウント数)として求めることによって、CMAX、CDIAの値を測定することができる。
なお、ダイヤモンド層(18)に含有されるCoの平均含有量CDIAの値は、Coリッチ層(19)の存在によってCo含有量が大きく変化せず、Co含有量(カウント数)が±6%の範囲でほぼ一定値として測定される値である。
このCDIAの値は、Coリッチ層(19)を越えたところからダイヤモンド層(18)側に向けて、ダイヤモンド層(18)の層方向に0.5μm測定間隔で、異なる少なくとも200点で測定した値の平均値として定義される。
例えば、図3に示す本発明PCD工具(H)のライン分析においては、ダイヤモンド層と超硬合金基材との界面からほぼ30μm以上離れたダイヤモンド層におけるCo含有量のカウント数は5914±6%で一定値を示すから、本発明PCD工具(H)におけるCDIAの値は5914となる。
一方、図4に示す比較例PCD工具(G)のライン分析においては、ダイヤモンド層と超硬合金基材との界面からほぼ50μm以上離れたダイヤモンド層におけるCo含有量は3907±6%カウントでほぼ一定となるから、比較例PCD工具(G)におけるCDIAの値は3907となる。
超硬合金基材のCwcの値は、Coリッチ層(19)を越えて、さらに50μm先から超硬合金基材(17)側に向けて、超硬合金基材(17)の層方向に0.5μm測定間隔で、異なる少なくとも200点で測定した値の平均値として定義する。
なお、超硬合金基材(17)に含有されるCoの平均含有量Cwcの値は、緩衝層(20)の存在によってCo含有量が大きく変化せず、Co含有量(カウント数)が±6%の範囲でほぼ一定値として測定される値である。
【0015】
超硬合金基材とダイヤモンド層の界面のWC結晶粒:
超硬合金基材(17)とダイヤモンド層(18)との界面に形成されている前記Coリッチ層領域、あるいは、Coリッチ層領域と緩衝層領域におけるWC粒子の平均粒径をDとし、また、超硬合金基材内部におけるWC粒子の平均粒径をDoとした時、D/Doの値が2以上になると、界面近傍のCoリッチ層領域、あるいは、Coリッチ層領域と緩衝層領域におけるWC粒子の異常成長により、超硬合金基材(17)とダイヤモンド層(18)との界面強度が低下し、高負荷が作用した場合にクラック・剥離が発生しやすくなるので、D/Doの値は2未満とする。
なお、前記WC粒子の粒径の測定は、500倍〜3000倍で観察したSEM(走査型電子顕微鏡)写真の画像処理(使用ソフト、アメリカ国立衛生研究所製ImageJ Ver:1.49)によって行い、これらの複数個所における測定値を平均することによってWC粒子の平均粒径を求めることができる。
【0016】
Coリッチ層(19)の平均層厚が30μm以下であり、Coリッチ層(19)におけるCo含有量のピーク値CMAXと、ダイヤモンド層の平均Co含有量CDIAの比の値CMAX/CDIAが2以下であり、Coリッチ層におけるWC粒子の平均粒径DがD/Do<2を満足する本発明のPCD工具は、Coを9〜18質量%含有し、平均粒径0.5〜4μmのWC粒子を含有する超硬合金を基材とし、平均粒径1〜11μmのダイヤモンド粉末中に金属触媒として15〜33質量%のCo粉末を混合したダイヤモンド原料粉末を積層し、超高圧高温装置内で焼結することによって作製することができる。
【0017】
超硬合金基材(17)におけるCo含有量が9質量%未満では、結合相成分が少ないため、超硬合金の焼結性が悪く超硬合金基材(17)自体の靱性が低下し、一方、Co含有量が18質量%を超えると、超硬合金基材(17)とダイヤモンド層(18)との界面に形成されるCoリッチ層(19)の層厚が30μmを超えてしまうため、超硬合金基材(17)とダイヤモンド層(18)間の界面接合強度は低下し、高負荷が作用した場合に界面からのクラックの発生、剥離の発生等が生じる。
したがって、超硬合金基材(17)におけるCo含有量は9〜18質量%とする。
【0018】
また、超硬合金基材(17)におけるWC粒子の平均粒径が、0.5μm未満であると、超硬基材内のWC粒子が粒成長しやすく、破壊靭性値をはじめとする機械的特性が低下し、PCD自体が割れ(クラック)が発生しやすくなる。
一方、平均粒径が4μmを超えると、破壊靭性値を高くすることができるが、硬さが低下するため、PCD焼結時に変形(反り)が発生しやすくなるから、超硬合金基材(17)におけるWC粒子の平均粒径は、0.5〜4μmとする。
【0019】
ダイヤモンド層(18)形成するダイヤモンド粉末の平均粒径が1μm未満であると、ダイヤモンド粒子が異常粒成長しやすく、耐摩耗性が低下し、一方、平均粒径が11μmを超えると、高負荷が作用した際にダイヤモンド粒子の脱落が生じやすくなり、また、被削物の面粗さが悪くなることから、ダイヤモンド粉末の平均粒径は1〜11μmとする。
【0020】
さらに、ダイヤモンド原料粉末には金属触媒としてのCo粉末を混合するが、Co混合量が15質量%未満であると、超高圧高温装置内で焼結する際に、超硬合金基材(17)からダイヤモンド層(18)へのCoの拡散速度が速くなり、その結果、WC超硬合金基材(17)とダイヤモンド層(18)との界面に、過剰厚さのCoリッチ層(19)が形成されてしまい、界面特性を劣化させる。一方、Co混合量が33質量%を超えると、ダイヤモンド層内に部分的にCoのマトリックスが形成され、ダイヤモンド粉末同士の直接接合が阻害され、ダイヤモンド層の耐摩耗性、耐欠損性が低下する。
したがって、ダイヤモンド粉末に事前に混合させるCo粉末の混合量は、15〜33質量%とする。
【0021】
前記の超硬合金基体(1)とダイヤモンド原料粉末(8)をTa製カプセル内に装入・積層して、熱力学的にダイヤモンドが安定する領域である焼結圧力5GPa以上かつ焼結温度1400〜2200℃以上という条件の超高圧高温装置内で焼結することにより、本発明のPCD工具を作製することができる。
本発明のPCD工具は、様々な形状及び用途の工具に適用可能である。例えば平面状の積層体から切り出し、工具基体にろう付して使用することもできる。また、先端部が半球形状の円筒形状の工具基体の先端部にダイヤモンド層を積層し焼結して製造される掘削ビットインサートとしても使用することができる。さらに、ドリルやエンドミル等の複雑な形状をした回転工具の刃先部分にも使用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のPCD工具は、通常のPCD工具が有するすぐれた硬度、化学安定性に加えて、超硬合金基材とダイヤモンド層の界面に形成されるCoリッチ層の平均層厚を抑制し、また、Coリッチ層におけるWC粒子の異常成長を抑制することによって、界面の接合強度が向上する。
したがって、本発明のPCD工具を、非鉄金属の切削用工具、あるいは、石油・天然ガス・地熱井掘削用工具等として用いた場合、界面接合強度が向上することによって、工具側面からの衝撃的負荷に対する耐衝撃性が向上するとともに、界面におけるクラックの発生、剥離の発生が抑制され、工具寿命の延長が図られる。
また、本発明によれば、超硬合金基材のCo含有量、WC粒子の平均粒径と、ダイヤモンド原料粉末中に金属触媒として混合されるCo混合量、ダイヤモンド粉末の平均粒径を調整して、超高圧高温装置で焼結を行うという簡易な操作で、超硬合金基材とダイヤモンド層の界面強度が向上し、耐衝撃性が向上するとともに、界面におけるクラック発生、剥離発生の少ないPCD工具を製造することができる。
また、本発明によれば、焼結時にダイヤモンド層と超硬合金基材との間に、物理的に中間的な性質を有する中間層を積層させずに、超硬合金基材に必要とされるダイヤモンド最外層を直接積層し、焼結工具を製造しても、すぐれた耐摩耗性、耐欠損性及び超硬合金基体とダイヤモンド層間の高い界面接合強度を備える焼結体工具得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】PCD工具を製造するための超高圧高温装置の概略模式図を示す。
図2】PCD工具における超硬合金基材とダイヤモンド層の界面近傍のSEM像の一例を示し、(A)〜(D)は、比較例のPCD工具、(E)、(F)は、本発明のPCD工具を示す。
図3】本発明PCD工具(H)について実施したCo含有量のライン分析の概略説明図と分析結果を示す。
図4】比較例PCD工具(G)について実施したCo含有量のライン分析の概略説明図と分析結果を示す。
図5】PCD工具に熱処理試験を施した後のダイヤモンド層(上段)と超硬合金基材とダイヤモンド層の界面近傍(下段)のSEM像を示し、(C)、(D)は、比較例PCD工具(C)、比較例PCD工具(D)を、750℃で熱処理を施した後のSEM像、(F)は、本発明のPCD工具(F)を850℃で熱処理を施した後のSEM像を示す。
図6】本発明の一実施形態のPCD工具の模式的な縦断面図を示す。
図7】本発明の他実施形態のPCD工具の模式的な縦断面図を示す。
図8】衝撃せん断強度の評価に用いる試験片の正面図及び側面図を示す。
図9】衝撃せん断強度の評価に用いる測定装置の模式的な断面図を示す。錘を落下させる前の状態を示す。
図10】衝撃せん断強度の評価に用いる測定装置の模式的な断面図を示す。錘を落下させた後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明について、実施例を用いて、以下に詳細に説明する。
【実施例】
【0025】
表1に、実施例で使用した超硬合金とダイヤモンド原料粉末の組み合わせを示す。本発明の代表例として、表1中の(E)、(F)及び(H)に示される超硬合金とダイヤモンド原料粉末の組み合わせからなる、本発明のPCD工具(E)、(F)、(H)、(I)及び(J)を作製した。
具体的に言えば、PCD工具(E)は、平均粒径9μmのダイヤモンド粉末中に、17質量%のCo粉末を混合したダイヤモンド原料粉末と、Co含有量が16質量%でかつ平均粒径2.2μmのWC粒子からなる超硬合金基材(表1(E)参照)を、図1に示すようにTaカプセル内に積層した状態で充填し、焼結圧力5.8GPa、焼結温度1500℃の超高圧高温装置内で焼結することにより作製した。
PCD工具(F)は、平均粒径9μmのダイヤモンド粉末中に、31質量%のCo粉末を混合したダイヤモンド原料粉末と、Co含有量が16質量%でかつ平均粒径2.2μmのWC粒子からなる超硬合金基材(表1(F)参照)を、同じく図1に示すようにTaカプセル内に積層した状態で装入し、焼結圧力5.8GPa、焼結温度1500℃の超高圧高温装置内で焼結することにより作製した。
また、PCD工具(H)は、平均粒径3μmのダイヤモンド粉末中に、33質量%のCo粉末を混合したダイヤモンド原料粉末と、Co含有量が10質量%でかつ平均粒径2.2μmのWC粒子からなる超硬合金基材(表1(H)参照)を、同じく図1に示すようにTaカプセル内に積層した状態で装入し、焼結圧力5.8GPa、焼結温度1500℃の超高圧高温装置内で焼結することにより作製した。
また、PCD工具(I)は、平均粒径6μmのダイヤモンド粉末中に、33質量%のCo粉末を混合したダイヤモンド原料粉末と、Co含有量が10質量%でかつ平均粒径2.2μmのWC粒子からなる超硬合金基材(表1のI参照)を、同じく図1に示すようにTaカプセル内に積層した状態で装入し、焼結圧力5.8GPa、焼結温度1500℃の超高圧高温装置内で焼結することにより作製した。
また、PCD工具(J)は、平均粒径9μmのダイヤモンド粉末中に、33質量%のCo粉末を混合したダイヤモンド原料粉末と、Co含有量が10質量%でかつ平均粒径2.2μmのWC粒子からなる超硬合金基材(表1のJ参照)を、同じく図1に示すようにTaカプセル内に積層した状態で装入し、焼結圧力5.8GPa、焼結温度1500℃の超高圧高温装置内で焼結することにより作製した。
【0026】
【表1】
【0027】
上記で作製した本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)のうちの、PCD工具(E)、(F)について、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面近傍を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られたSEM像を、それぞれ図の(E)、(F)として示す。
(E)、(F)からも明らかなように、本発明のPCD工具(E)においては、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面に形成されるCoリッチ層の平均層厚は10μm以下であり、また、本発明のPCD工具(F)においては、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面に形成されるCoリッチ層の平均層厚は20μmであった。
【0028】
表2に、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)について測定したCoリッチ層の平均層厚の値を示す。
Coリッチ層の平均層厚は、例えば、図3(これは、本発明PCD工具(H)に関するものである)に示すように、ダイヤモンド層から超硬基材に向かって約100μm(ダイヤモンド層と超硬基材層をそれぞれ約50μm)の距離を20μmビーム径で、0.5μm測定間隔でEPMA(電子線マイクロアナライザ)のライン分析を行ってCo含有量(CDIA)を測定し、測定されたCo含有量の値が、1.1×CDIA以上である領域をCoリッチ層とし、該領域の層厚を測定し、複数個所で測定したCoリッチ層の層厚を平均することによって、Coリッチ層の平均層厚求めることができる。
なお、CDIAは、焼結後のダイヤモンド層における金属触媒として残留したCo含有量である。また、Coリッチ層におけるCo含有量のピーク値CMAXを測定し、ダイヤモンド層の平均Co含有量CDIAとの比の値CMAX/CDIAを算出した。
表2から、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)の全てについて、Coリッチ層の平均層厚は30μm以下であり、また、CMAX/CDIAの値は2以下であることがわかり、また、図3によれば、Coリッチ層の層厚は約28μm、CMAX/CDIAの値は1.7であることがわかる。
また、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)について測定したダイヤモンド層の平均層厚の値を示す。
ダイヤモンド層の平均層厚は、ダイヤモンド層とCoリッチ層の境界線からダイヤモンド層の最外面までの距離を層厚方向で複数点で測定し、それら測定値から平均値を算出することで得られる。
本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)のダイヤモンド層の平均層厚は、5.0mm〜8.0mmの範囲内であった。
また、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)について測定した緩衝層の平均層厚の値を示す。
緩衝層の平均層厚は、緩衝層の境界線間の距離を層厚方向で複数点で測定し、それら測定値から平均値を算出することで得られる。
本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)の緩衝層の平均層厚は、5μm〜9μmの範囲内であった。
【0029】
また、上記本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J) について、それぞれの超硬合金基材とダイヤモンド層との界面からダイヤモンド層の内部へ向かう50μmまでの領域を、倍率500倍〜3000倍のSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、該領域におけるWC粒子の粒径を、観察したSEM写真の画像処理(使用ソフト、アメリカ国立衛生研究所製ImageJ Ver:1.49)によって測定し、これらの複数個所における測定値を平均することによって、前記界面からダイヤモンド層の内部へ向かう50μmまでの領域におけるWC粒子の平均粒径Dを求めた。
また、超硬合金基材内部におけるWC粒子の平均粒径Doについても、同様にして求め、D/Doの値を算出した。
表2に、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J) について求めた、それぞれの超硬合金基材とダイヤモンド層との界面からダイヤモンド層の内部へ向かう50μmまでの領域におけるWC粒子の平均粒径Dの値、超硬合金基材内部におけるWC粒子の平均粒径Doの値、D/Doの値を示す。
表2から、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)の全てについて、D/Doの値は2未満であることがわかる。
【0030】
比較のため、表1の(A)〜(D)、(G)として示される超硬合金とダイヤモンド原料粉末の組み合わせにより、比較例のPCD工具(A)〜(D)、(G)を作製した。
なお、比較例のPCD工具(A)〜(D)、(G)を作製する際の超高圧高温装置による焼結圧力は5.8GPa、焼結温度は1500℃であって、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)と同じ焼結条件である。
【0031】
上記で作製した比較例PCD工具(A)〜(D)、(G)のうちの、PCD工具(A)〜(D)について、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面近傍を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られたSEM像を、それぞれ、図(A)〜(D)として示す。
(A)〜(D)から、ダイヤモンド粉末にCo粉末を事前混合していない比較例PCD工具(A)〜(D)においては、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面に40μm以上の平均層厚のCoリッチ層(図(A)、(B))が、あるいは、30μmを超える平均層厚のCoリッチ層(図(C)、(D))が形成されていることがわかる。
【0032】
さらに、上記比較例PCD工具(A)〜(D)、(G)の超硬合金基材とダイヤモンド層との界面からダイヤモンド層の内部へ50μmまでの領域において、粒径が大きく異常成長したWC粒子も観察される。
なお、図2(A)〜(D)を比較した場合、使用したダイヤモンド粉末の平均粒径が相対的に小さい(3μm)PCD工具(A)〜(C)は、ダイヤモンド粉末の平均粒径が相対的に大きい(9μm)PCD工具(D)に比して、Coリッチ層の層厚が厚くなり、WC粒子の異常成長が起こること、また、使用した超硬合金基材中のCo含有量が相対的に少ない(10質量%)PCD工具(A)、(B)は、超硬合金基材中のCo含有量が相対的に多い(16質量%)PCD工具(C)、(D)に比して、Coリッチ層の平均層厚が厚くなることがわかる。
【0033】
表2には、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)と同様に測定して求めた、比較例PCD工具(A)〜(D)、(G)のダイヤモンド層の平均層厚、Coリッチ層の平均層厚、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面からダイヤモンド層の内部へ50μmまでの領域におけるWC粒子の平均粒径Dの値、超硬合金基材内部におけるWC粒子の平均粒径をDoの値、D/Doの値、緩衝層の平均層厚を示す。
なお、表1の試料(A)〜(D)、(G)におけるダイヤモンド原料粉末中のCo含有量はゼロであるが、焼結によって、ダイヤモンド層中に超硬合金からCoが溶浸されることによって、表2中にCDIAとして示される量のCoがダイヤモンド層中に含有されることになる。
また、図4には、比較例PCD工具(G)について実施したライン分析の概略説明と分析結果を示すが、Coリッチ層の層厚は約50μm、CMAX/CDIAの値は4.3であることがわかる。
【0034】
表2によれば、比較例PCD工具(A)〜(D)、(G)においては、Coリッチ層の平均層厚はすべて30μmを超えるものであり、また、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面からダイヤモンド層の内部へ50μmまでの領域におけるD/Doは、3〜12であった。また、比較例PCD工具(A)〜(D)、(G)においては、ダイヤモンド層の平均層厚は全て0.8mm以下であり、また、緩衝層は存在しなかった。
【0035】
【表2】
【0036】
ついで、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)と比較例PCD工具(A)〜(D)、(G)について、耐熱特性及び耐クラック性・耐剥離性を調べるため、750〜850℃×60分間の熱処理試験を実施した。
比較例PCD工具(A)〜(D)、(G)については、750℃×60分間の熱処理により、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面にクラックの発生・剥離の発生が観察された。
これに対して、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)においては、750℃×60分間の熱処理では、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面にクラック発生はなかった。
本発明PCD工具(E)、(H)、(I)と(J)においては、800℃×60分間の熱処理により、初めて超硬合金基材とダイヤモンド層との界面にクラックの発生が観察された。
本発明PCD工具(F)においては、850℃×60分間の熱処理でも超硬合金基材とダイヤモンド層との界面にクラックは発生しなかったが、ダイヤモンド層中に微細なクラックの発生が観察された。
本発明PCD工具(F)における微細なクラック発生の原因は、(A)〜(D)、(G)および(E)、(H)〜(J)よりも耐熱試験温度が高いために、Coの熱応力が、ダイヤモンド粒子間の結合力を上回り、結果、ダイヤモンド層自体の内部に微細クラックが発生したものと推測される。
さらに、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)と比較例PCD工具(A)〜(D)、(G)について、瞬間的な衝撃に起因したダイヤモンド層の剥離に対する耐性を調べるため、衝撃せん断強度試験を実施した。その結果を表2に示す。
衝撃せん断強度の評価には、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)と比較例PCD工具(A)〜(D)、(G)に対応する試験片を図8に示す寸法で作製して用いた。
試験片は図9に示す試験片固定治具(25)に、WC−Co層側でクランプ(24)を介して固定する。ハンマー(21)は、その下端が試験片のダイヤモンド層(18)に当接するようにセットされる。そして、ハンマー(21)上端に所定の質量(kg)の錘(22)を所定の高さから落下させる。図10は、錘(22)の落下によりダイヤモンド層(18)が破断した状態を示す。
ダイヤモンド層(18)が破断(超硬合金基材(17)から剥離)しない場合、錘(22)の落下高さを高くし、再試験する。破断した場合、そのときの落錘エネルギー(J)を衝撃せん断強度とする。
落錘エネルギーは、落錘エネルギー(J)=錘の質量(kg)×重力定数(ms−2)×高さ(m)の式から得られる。
せん断強度(J/cm)は、せん断強度(J/cm)=破断した際の落錘エネルギー(J)/試験片断面積(cm)の式から得られる。
表2から分かるように、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)の衝撃せん断強度は7.3J/cm〜12.1J/cmであった。平均層厚が5μm以上15μm以下の緩衝層を備えるPCD工具(H)、(I)及び(J)では、衝撃せん断強度が約10J/cm以上の値を示し、特に(I)、(J)が衝撃せん断強度が高いことが分かる。
一方、比較例PCD工具(A)〜(D)、(G)では、瞬間的な衝撃に起因したダイヤモンド層(17)の剥離に対する衝撃せん断強度(J/cm)は2.9J/cm〜5.1J/cmであり、本発明PCD工具(E)、(F)、(H)、(I)、(J)より、衝撃せん断強度は顕著に低いことが分かる。
【0037】
に、前記熱処理試験を行った後の比較例PCD工具(C)、(D)及び本発明PCD工具(F)について求めたSEM像を示す。
【0038】
に示す結果からも明らかなように、超硬合金基材とダイヤモンド層の界面に形成されるCoリッチ層の平均層厚を30μm以下に抑制し、また、超硬合金基材とダイヤモンド層との界面からダイヤモンド層の内部へ50μmまでの領域におけるWC粒子の平均粒径Dが、超硬合金基材の内部におけるWC粒子の平均粒径Doに対して、D/Do<2を満足する本発明PCD工具(E)、(F)、(H)は、耐熱性・耐衝撃性に優れるとともに、耐クラック性・耐剥離性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上のとおり、本発明のPCD工具は、通常のPCD工具が有するすぐれた硬度、熱伝導性、化学安定性に加えて、すぐれた界面接合強度とすぐれた耐熱性・耐衝撃性を有するため、非鉄金属、超硬合金、セラミックス等の切削、あるいは、石油・天然ガス・地熱井等の掘削等において、長寿命のPCD工具として利用される。
【符号の説明】
【0040】
1 WC−Co基材(超硬合金基材)
2 グラファイトディスク
3 グラファイト
4 ヒーター
5 スチールリング
6 Ta箔
7 NaCl−10wt%ZrO
8 ダイヤモンド粉末又は(ダイヤモンド+Co)混合粉末
9 Taカプセル
10 Coリッチ層
11 WC粒子(白色)
12 Co(灰色)
13 ダイヤモンド粒子(黒色)
14 分析方向
15 界面クラック
16 ダイヤモンド層内クラック
17 超硬合金基材
18 ダイヤモンド層
19 Coリッチ層
20 緩衝層(バッファー層)
21 ハンマー
22 錘
23 落下
24 クランプ
25 試験片固定用治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10