【実施例1】
【0034】
まず
図1を参照して本発明に係る水田肥料用袋100を説明する。
水田肥料用袋100は、水溶解発熱性肥料102(
図5参照)を内包する機能を有し、本実施例1においては、シート状体103である袋構成体104により、水溶解発熱性肥料102が内包されない場合、矩形の袋状部106と詰込兼封止部108とによって、正面視において倒立L型に形成されている。なお、水田肥料用袋100の容積は、水溶解発熱性肥料102が10Kg内包される程度が良い。高齢者及び女性労働者にとっての作業負担にならないようにするためである。
【0035】
次に袋構成体104を説明する。
袋構成体104は、水溶解発熱性肥料102を内包するための水田肥料用袋100を構成すると共に、灌漑用水IW中に配置される場合は透水性を有すると共にシート状体103を継続する機能を有し、本実施例1においては、透水性部110を有する二枚の薄いシート状体103の第1袋構成体104Aと第2袋構成体104Bとによって構成されている。しかし、袋構成体104は二枚に分ける必要は無く、左右又は上下対称に一枚として構成し、対称軸を軸として折り返すようにして、二枚のシート状体103になるように構成し、又は、筒型に製造した袋構成体104を適当な長さに切断し、当該筒型の袋構成体104の両端部の開口部を温水溶解性結合手段112によって閉口するようにしても良い。
【0036】
次に透水性部110を説明する。
透水性部110は、袋構成体104において、水田肥料用袋100外から内部へ水を通す機能を有し、袋構成体104の一部が透水性部110に構成されても良いし、袋構成体104の全体が透水性部110として構成されても良い。本実施例1においては、袋構成体104(第1袋構成体104A、第2袋構成体104B)の全体が透水性部110として構成さている。
【0037】
次に第1袋構成体104Aと第2袋構成体104Bを説明する。
第1袋構成体104Aと第2袋構成体104Bは同一構成であるため、第1袋構成体104Aを代表して説明し、第2袋構成体104Bの同一部位は末尾のAをBに変更して表示することで説明を省略する。なお、
図1においては、便宜上、上側を第1袋構成体104Aとし、下側を第2袋構成体104Bとして説明する。
第1袋構成体104Aは、透水性を有すると共に内包した水溶解発熱性肥料102(粉体肥料を含む)を袋内部に止める不透過性、所謂フィルタ機能を有し、更に、水中でもシート状体103を維持する機能を有し、本実施例1では所定の不織布120が用いられているが、織布、編物、又は、フェルト等を用いることもできる。肥料として後述の粉体水溶解発熱性肥料102Pを用いる場合、不織布120としてはポリエステル糸とポリプロピレン糸で積層された長繊維不織布、例えば、
図2に示すユニセル株式会社製商品名ユニセル(登録商標)を用いることが好ましい。織物に近い強力があり、カットしても端がほつれないためである。また、粉体水溶解発熱性肥料102Pを用いる場合、不織布120のフィルタ機能としては、金網に用いられている200メッシュ/インチ相当品を用いることが好ましい。粉体水溶解発熱性肥料102Pを内包させる場合、後述するように粉体水溶解発熱性肥料102Pは60〜90ミクロン相当の直径を有するので、それらが実質的に通過しない隙間の不織布が200メッシュ/インチ相当品だからである。しかし、固体肥料を用いる場合、更に大きな隙間を有する不織布120を用いることができる。
第1袋構成体104Aは、
図1に示すように、袋状部106と詰込兼封止部108とによって倒立L型に形成されている。すなわち、
図3(A)に示すように、第1袋構成体104Aは大凡縦長矩形の第1袋状部分106Aと、第1袋状部分106Aの上端部から横向きに矩形に突出する第1詰込兼封止部108Aによって、倒立L型に形成されている。水田肥料用袋100は、これら第1袋構成体104Aと第2袋構成体104Bを温水溶解性結合手段112によって合体させることにより構成される。
【0038】
次に温水溶解性結合手段112を説明する。
温水溶解性結合手段112は、第1袋構成体104Aと第2袋構成体104Bを合体させて開口部を閉口させる機能、及び、周囲の水が所定温度以上になった場合、溶解される機能を有し、本実施例1においては、水溶性繊維によって構成された縫合糸113たる温水溶解性糸114によって、第1袋構成体104Aと第2袋構成体104Bとを縫製116をすることによって両者を合体させている。
温水溶解性結合手段112としては、実施例1における温水溶解性糸114による縫製の他、水溶性媒体による接着等が想定されるが、水溶性媒体による接着は、接着強度が低いため、小容量の水田肥料用袋100に適している。
【0039】
次に温水溶解性糸114を説明する。
温水溶解性糸114は、第1袋構成体104A、及び/又は、第2袋構成体104Bの一部を合体させると共に、周囲の水温が所定値以上になった場合、溶解される機能を有し、本実施例1においては水溶性繊維糸118(
図4(B))が用いられている。水溶性繊維糸118としては、ポリビニルアルコール(以下「PVA」と略記する)系重合体、ポリエチレンオキサイド、アルギン酸ソーダなどから得られる合成繊維が挙げられ、中でもPVA系重合体から得られる合成繊維が好ましい。PVA系重合体としては、低ケン化PVA、カルボン酸変性PVA、アリルアルコール変性PVA等の重合体があり、平均重合度は 800 〜 2400 のものが好ましい。また、平均重合度やケン化度の異なるPVA系重合体を混合して使用することもできる。本実施例1において、温水溶解性糸114として、株式会社ニチビ製の商品名ソルブロン(登録商標)のタイプSSであって、60フィラメントで太さが220デシテックス、溶解処理温度30℃以上、乾強度(CN/T)2.7〜3.7、乾伸度(%)15〜25、溶解点(℃)20±4の水溶性繊維糸118が用いられている。
【0040】
次に縫製116を説明する。
縫製116とは、2つ又はそれ以上のシート状体103を縫い合わせる機能であり、本実施例1においては、第1袋構成体104Aと第2袋構成体104Bとを縫合する機能を有し、具体的には、ミシンによる機械縫製が採用されている。機械縫製は生産性が高いとと共に、作業者による縫製品質のバラツキが小さいためである。しかし、手縫いを採用することもできる。また、縫い目が連続する縫製の他、縫い目毎に温水溶解性糸114が結ばれ、縫い目がそれぞれ独立した縫製であっても良い。
【0041】
次にミシンによる縫製116を
図3及び
図4を参照しつつ説明する。
ミシンによる縫製116は、上糸116Aと下糸116Uを用いて行われるので、上糸116Aと下糸116Uとの両者を温水溶解性糸114としても良いし、何れか一方を非温水溶解性糸122、例えば、一般的に用いられているカタン糸又はその他の糸を用いることができ、本実施例1においては、上糸116Aに温水溶解性糸114を用い、下糸116Uに非温水溶解性糸122としてのカタン糸を用いているが、この逆であっても良い。一方の糸に非温水溶解性糸122を用いることにより、温水溶解性糸114は高価であることから、コスト低減を図ることができる。ミシンによる縫製116における縫製ピッチPは、約3ミリメートルとすることが好ましい。内包する水溶解発熱性肥料102が漏れないと共に、1つの水田肥料用袋100当たりの高価な温水溶解性糸114の使用量を減らせる利点がある。さらに、温水溶解性糸114の使用量を減少させるため、
図4(C)に示すように、温水溶解性糸114の張力を高めて一直線状とし、逆に非温水溶解性糸122の張力を緩めて温水溶解性糸114との交絡部がU状になるようにすることで、高価な温水溶解性糸114の使用量を一層減らすことができる。
【0042】
次に実施例1の水田肥料用袋100の製造方法を
図3を参照しつつ説明する。
まず
図3(A)に示すように、第1袋構成体104A及び第2袋構成体104Bを不織布120から型紙等を用いて切り出す。水田肥料用袋100の水溶解発熱性肥料102の内包容量を10Kgとすると、第1袋構成体104A及び第2袋構成体104Bの長手方向の高さは、約65cm、袋状部106の幅は約30cm、詰込兼封止部108の長さ(横方向)は約7cm、高さは約10cmである。ここで、第1袋構成体104Aにおける第1詰込兼封止部108Aの突出量は、第2袋構成体104Bにおける第2詰込兼封止部108Bの突出量よりも幾分短く形成されている。後述の水溶解発熱性肥料102を充填する際、ノズル挿入開口124を開口しやすくするためである。
次に
図3(B)に示すように、第1袋構成体104A及び第2袋構成体104Bを上下に重ね合わせ、第1袋構成体104Aと第2袋構成体104Bとの袋状部106が重なるように位置合わせした後、矩形の水田肥料用袋100の第1辺100Aたる詰込兼封止部108側の上端縁を上糸116A及び下糸116Uとも非温水溶解性糸122を用いてミシンによって直線的な第1縫合部126Aを形成し、縫製116をする。なお、非温水溶解性糸122によって縫製する縫合部については、不織布120の素材を利用した溶着によって合体させてもよい。
次に
図3(C)に示すように、第2辺100Bたる袋状部106の左端部を上糸116A又は下糸116Uに温水溶解性糸114を用いてミシンによって直線的な第2縫合部126Bを形成し、縫製116をする。
次に第3辺100Cたる袋状部106の下端部を上糸116A又は下糸116Uに温水溶解性糸114を用いてミシンによって直線的な第3縫合部126Cを形成し、縫製116をする。
次に第4辺100Dたる袋状部106の右端部を上糸116A又は下糸116Uに温水溶解性糸114を用いてミシンによって直線的な第4縫合部126Dを形成し、縫製116をする。
次に第5辺100Eたる詰込兼封止部108の下端部を上糸116A又は下糸116Uに温水溶解性糸114を用いてミシンによって直線的な第5縫合部126Eを形成し、縫製する。
これによって、袋状部106の上側端部、左側端部、下側端部、右側端部、及び、詰込兼封止部108の下側が縫製され、換言すれば、矩形の水田肥料用袋100の第1辺100Aが第1縫合部126A、第2辺100Bが第2縫合部126B、第3辺100Cが第3縫合部126C、第4辺100Dの大部分が第4縫合部126D、及び、詰込兼封止部108の下側100Eが第5縫合部126Eによって縫製され、詰込兼封止部108の一部がノズル挿入開口124として残されることにより、周囲の大凡が囲われた中空の肥料充填部128が形成されると共に、当該肥料充填部128に連なる充填通路132が形成される。換言すれば、実施例1の水田肥料用袋100は、大凡矩形であって、その第1辺100Aが非温水溶解性糸122、第2辺100B、第3辺100C、第4辺100D、及び、第5辺100Eが温水溶解性糸114によって縫合されている。換言すれば、第1辺100Aを閉口している第1縫合部126Aを解除すれば、第1開口部134Aが開口され、第2辺100Bを閉口している第2縫合部126Bを解除すれば、第2開口部134Bが開口され、第3辺100Cを閉口している第3縫合部126Cを解除すれば、第3開口部134Cが開口され、第4辺100Dを閉口している第4縫合部126Dを解除すれば、第4開口部134Dが開口され、及び、第5辺100Eを閉口している第5縫合部126Eを解除すれば、第5開口部134Eが開口される。しかし、第1辺100Aの第1縫合部126Aは非温水溶解性糸122によって縫製されているので、通常の使用状態において、解除されることはない。一方、第2辺100B、第3辺100C、第4辺100D、及び、第5辺100Eは、温水溶解性糸114によって縫合されているので、水田肥料用袋100が溶解温度以上の温水に浸された場合、外側から内側へ向かって徐々に溶解されついには全て溶解される。温水溶解性糸114の強度は、溶解につれて低下することから、水田肥料用袋100に作用する力によって、所定の太さに減少した場合、切断されることから、各辺に対応する第2縫合部126B〜第5縫合部126Eの温水溶解性糸114が切断された場合、各辺に対応する第2開口部134B〜第5開口部134Eが開口される。第2開口部134B〜第5開口部134Eの全てが開口した場合、第1袋構成体104Aと第2袋構成体104Bは、第1縫合部126Aによって合体された一枚のシート状になる。
【0043】
次に水田肥料用袋100に内包される水溶解発熱性肥料102を説明する。
水溶解発熱性肥料102は、水田12に植え付けられた出穂前の稲36(
図8)に養分を補給する機能、及び、水と反応して発熱する機能を有し、例えば、苦土又は石灰を主成分とする肥料が用いられる。苦土及び石灰は、水と接触すると発熱する性質を有すると共に、肥料としての機能も有するからである。本実施例1においては、粉体水溶解発熱性肥料102Pが用いられる。しかし、水溶解発熱性肥料102は、粉体水溶解発熱性肥料102Pと同様の機能を有する場合、粒子状等の固形肥料を用いることができる。水溶解発熱性肥料102を用いることにより、その発熱で加温された灌漑用水IWによって、温水溶解性糸114を溶解させることができるためである。本実施例1における粉体水溶解発熱性肥料102Pを用いた場合、水と接触すると熱を発しつつ粘土状に一塊の塊肥料102Lとなる性質を有し、設置した位置において溶解させることができるからである。本実施例1においては、エムシー・ファーティコム株式会社における肥料の名称「ダイケミ苦土マンガンほう素入り複合11号」(成分 水溶性苦土14%、水溶性マンガン0.4%、水溶性ほう素0.3%、銅0.02%、亜鉛0.03%、モリブデン0.004%)を直径60〜90ミクロンに粉砕して粉体化した粉体水溶解発熱性肥料102Pを用いている。すなわち、本発明の水田肥料用袋100に粉体水溶解発熱性肥料102Pを詰め込んで内包させた水田肥料用袋体136が製造される。なお、粉体水溶解発熱性肥料102Pは、上記肥料の名称と同等品を用いることができる。
【0044】
次ぎに水田肥料用袋100に粉体水溶解発熱性肥料102Pを充填し、水田肥料用袋体136を製造する工程を主に
図5を参照しつつ説明する。
粉体水溶解発熱性肥料102Pは、予め貯蔵タンク(図示せず)に貯蔵されている。
まず、前述の工程によって作成した水田肥料用袋100を準備する(
図5(A))。
次に、肥料充填部128に連なるノズル挿入開口124を開口させ、当該ノズル挿入開口124を介して詰込兼封止部108内に肥料送給ノズル138を挿入した後、当該肥料送給ノズル138へ貯蔵タンク(図示せず)から粉体水溶解発熱性肥料102Pを圧縮空気と共に吹き送る(
図5(B))。これにより、重量を有する粉体水溶解発熱性肥料102Pは水田肥料用袋100の肥料充填部128に堆積し、空気は、肥料送給ノズル138と詰込兼封止部108との隙間から外部へ排気される。この粉体水溶解発熱性肥料102Pの充填作業を、所定重量、例えば、10キログラムになるまで継続する。
次に、粉体水溶解発熱性肥料102Pの充填が終了した後、肥料送給ノズル138を詰込兼封止部108から抜き出した後、
図5(C)に示すように、詰込兼封止部108を肥料充填部128内に折り込んで水田肥料用袋体136を構成する。これにより、詰込兼封止部108は扁平になって、ノズル挿入開口124が閉止されると共に、肥料充填部128に位置されるので、粉体水溶解発熱性肥料102Pがノズル挿入開口124から漏出することはない。
ついで、水田肥料用袋体136を詰込兼封止部108が投入開口144側に位置するようにして包装箱142内に収納し、葢146Lを閉じて投入開口144を閉止することにより、出荷準備が終了する。
【0045】
次に、包装箱142を主に
図6を参照しつつ説明する。
包装箱142は、水溶解発熱性肥料102を内包する水田肥料用袋体136を収納する機能を有し、紙、樹脂、木等によって作成されるが、本実施例1においては段ボールシートによって縦長直方体形状に形成され、
図6(A)に図示するように、直方体頂部の投入開口144を易開口手段146としての上側端部に左フラップ146FL、右フラップ146FR、及び、タック146T付きの葢146Lを用いて閉止する。
このように構成した包装箱142に、水田肥料用袋体136を詰込兼封止部108が投入開口144側に位置するように投入開口144から挿入して収納した後、左フラップ146FL及び右フラップ146FRを投入開口144に被せ、次いで葢146Lを投入開口144に被せた後、タック146Tを左フラップ146FL及び右フラップ146FRの側縁と側壁142Sとの間に挿入して包装が終了する。したがって、易開口手段146としての葢146Lを引き上げることで投入開口144を開口させることにより、水田肥料用袋体136の取り出しが可能になり、極めて容易に水田肥料用袋体136を利用出来るようなる。このように、水田肥料用袋体136を直方体形状の包装箱142内に収納した場合、工場からの出荷や稲作農家等への配送時にそれらを積み重ねしやすく、かつ、平面同士が接触し、積み上げ姿勢が安定するので運搬がしやすい利点がある。
【0046】
次に易開口手段146を
図6を参照して説明する。
易開口手段146は、運搬時は閉じられている包装箱142を構成する6面の内の一面を容易に開口する機能を有し、本実施例1においては、前述した左フラップ146FL、右フラップ146FR、及び、タック146T付きの葢146Lによって構成されている。しかし、タック146Tを設けずに、葢146Lの裏面を左フラップ146FL及び右フラップ146FRの上面に接着剤によって貼り付けて葢146Lが容易に開口しないようにして易開口手段146を構成しても良い。この場合、葢146Lを強制的に引き上げることにより接着が剥がれ、若しくは、葢146Lと左フラップ146FL又は右フラップ146FR側の紙が破れて、容易に投入開口144を開口することができる。そして、包装箱142を傾けて当該投入開口144を下向きにすることにより、水田肥料用袋体136は自己の重量によって、包装箱142の側壁142S上を滑り台のように滑り落ち、水田12中に落下させることができる。
易開口手段146の別の例として、
図6(B)に図示するように、包装箱142の側壁142Sの全周に2本の平行するミシン目148A、148Bを形成すると共に、それらミシン目148A、148Bに挟まれた切出部分152の一端を側壁142Sから突出させて切出端部152Tを設けることにより構成することができる。この例の場合、切出端部152Tを側壁142Sから離すように引くことにより、葢側部分142Pをミシン目148A、148Bに沿って切り離すことが出来、包装箱142の一端面が開口されるので、水田肥料用袋体136を取り出すことが可能になる。なお、易開口手段146は、上記した例の他、同様の機能を有する他の構造に変更することができる。
【0047】
次に
図7〜
図9を参照して、水溶解発熱性肥料102の施肥方法を説明する。なお、従来技術と同一機能部には同一符号を付し、説明を省略する。
まずステップS1において、水田12における灌漑用水IWの水位を調整した後、ステップS2へ進む。水位調整は、水田12内に灌漑用水IWが存在しない場合、水口14を開いて灌漑用水IWを所定量導入し、水田12内の灌漑用水IWが多い場合、水口14を閉じた状態で水尻26を開いて水田12内の灌漑用水IWを排水してひたひた状態である初期水位WLIに設定する。ひたひた状態とは、足水状態から平均水位が2センチメートル迄をいう。足水状態とは、水田12に足跡を形成した場合、当該足跡の窪みに直ぐに水が溜まり、水田面と同一の水位になる状態である。本実施例1においては、水田12内の水位がひたひた状態よりも高い状態である。
【0048】
ステップS2において、水口14を閉じて灌漑用水IWの流入を停止した後ステップS3へ進む。これによって、水田12内の灌漑用水IWを水尻26から排水し、ひたひた状態にする。
【0049】
ステップS3において、水尻26を閉じて水田12内の灌漑用水IWの流出を停止した後、ステップS4へ進む。なお、本実施例1とは逆に、水田12内の灌漑用水がIWがひたひた状態よりも少ない場合、水尻26を閉じた後、水口14を開いて灌漑用水IWを流入させてひたひた状態にする。この場合、ステップS3とS2とは逆転されることになる。
【0050】
ステップS4において、所定数の水田肥料用袋体136を水口14の近傍に設置した後、ステップS5へ進む。具体的には、包装箱142の易開口手段146を操作して包装箱142の端面を開口した後、当該開口が下向きになるように包装箱142を所定角度に傾けることにより、水田肥料用袋体136は包装箱142の側壁142Sに案内されつつ落下し、水田12における水口14の近傍に設置される。この際、水田肥料用袋体136の詰込兼封止部108が投入開口144側に位置されていることから、当該詰込兼封止部108側、換言すれば、第1辺100A側が水口14から遠くに位置し、第3辺100C側が水口14側に位置するように設置する。これにより、温水溶解性糸114によって縫製された第3辺100Cが水口14側に設置される。この際、水田肥料用袋体136の第3辺100Cが水口14からの灌漑用水IWの流れ方向に対し大凡直角になるように設置することが好ましい。水田肥料用袋体136の数は、10キログラム入りで水田10アール当たり1〜2個が目安であるので、10アールである場合、水田肥料用袋体136は1個設置し、20アールである場合、水田肥料用袋体136は2個設置し、30アールである場合、水田肥料用袋体136は3個設置し、何れの水田肥料用袋体136に対しても大凡均等に灌漑用水IWに曝されるように設置する。水田肥料用袋体136が3個である場合、下に2個、その上に1個を載せるようにして積み上げることもできる。
図8の例においては、20アールであるので、2個の水田肥料用袋体136が設置される。この状態において、水田12における水位は、
図9に示すように、初期水位WLIであり、多くとも、水位は2cmである。したがって、この状態で投入された水田肥料用袋体136の下部の一部は灌漑水IW中に位置し、灌漑用水IWは透水性シートたる袋構成体104(第1袋構成体104A、第2袋構成体104B)を透水して粉体水溶解発熱性肥料102P中に浸透し始める。
【0051】
ステップS5において、水口14を開けて灌漑用水IWが水田12に流れ込むようにした後、ステップS6へ進む。灌漑用水IWの流入によって、水田肥料用袋体136は灌漑用水IWに浸され、水位の上昇に伴って
図9に示すように、水田肥料用袋体136は灌漑用水IW中に水没し、最終水位WLFとして約10〜20cm、好ましくは約15cmになるまで灌漑用水IWが導入される。水田肥料用袋体136が灌漑用水IWに浸されると、前記のように、水田12内の灌漑用水IWが水田肥料用袋100内に浸水し、内包されている水溶解発熱性肥料102が灌漑用水IWに浸される。一方、水田肥料用袋体136は水口14の近傍に配置されることから、灌漑用水IWの流勢が比較的強く、水田肥料用袋体136は、灌漑用水IWの流れの揺らぎによって揺らされ、内包される水溶解発熱性肥料102は揺らされることにより、作業者の手で揉まれるのと同様の作用を受けることから、灌漑用水IWと水との混合が促進され、粉体水溶解発熱性肥料102Pは発熱しつつ肥料どうしが粘土状に結合すると共に、灌漑用水IWの浸透と共に、外側から内側へ粘土状に固まり、一塊の塊肥料102Lになる。粘土状の塊肥料102Lは、灌漑用水IWとの接触によって溶出を始めるが、水田肥料用袋体136に囲われているため、当該水田肥料用袋体136外への流出は制限される。一方、水溶解発熱性肥料102からの発熱によって、水田肥料用袋体136内の灌漑用水IWは水口14における灌漑用水IWの水温よりも温められる。これによって、水田肥料用袋体136の開口部134を閉じていた温水溶解性結合手段112たる温水溶解性糸114が溶解温度以上に温められるため、溶解を始める。これによって、灌漑用水IWの流れの揺らぎによる水田肥料用袋体136への揺さぶり作用とも相まって、温水溶解性結合手段112はその結合力が低下し、水田肥料用袋体136の開口部134は最終的に開口状態になる。換言すれば、温水溶解性結合手段112は強度が低下若しくは消滅することから、当該温水溶解性結合手段112によって閉口されていた開口部134がその拘束を解かれるので、粉体水溶解発熱性肥料102Pが実質的に一塊の塊肥料102Lになった直後に、水田肥料用袋体136の一部が開口することになる。本実施例1においては、第2縫合部126B、第3縫合部126C、第4縫合部126D、及び、第5縫合部126Eが消滅することから、第2開口部134B、第3開口部134C、第4開口部134D、及び、第5開口部134Eが開口される。結果として、上側に位置する第1袋構成体104Aが自由状態になり、灌漑用水IWの水流によって下流側へ流されることから、塊肥料102Lの上面及び全側面が、水勢がある灌漑用水IWに直に接することから、設置された位置において塊肥料102Lの溶出が促進される。溶出した水溶解発熱性肥料102は、灌漑用水IWに溶け込んで灌漑用水IWの拡散と共に水田12の全体に拡散される。なお、水田肥料用袋体136の水田12への投入は短時間に終了するので、ステップS2及びS5を行わず、水口14から灌漑用水IWを流入させつつ水田肥料用袋体136を設置しても良い。
【0052】
ステップS6において、一枚のシート状になった水田肥料用袋100の残体を除去した後、ステップS7へ進む。すなわち、温水溶解性糸114による縫製116を解かれ、上側に位置する第1袋構成体104A又は第2袋構成体104Bは水口14から流入する灌漑用水IWによって、下流側へ流され一枚のシート状になるが、下側の第2袋構成体104B又は第1袋構成体104Aは、塊肥料102Lが上側に位置しているため、それが重しとなってその位置に留まっているか、灌漑用水IWの水流に流されて水口14近傍の稲に引っかかって留まっているので、当該水田肥料用袋100の残体を除去する。
【0053】
ステップS7において、最終水位WLF、すなわち、水位が10cm〜20cmになったか確認し、最終水位WLFにならない場合、灌漑用水IWの入水を継続し、最終水位WLFになったと判断した場合、ステップS8へ進む。
【0054】
ステップS8において、水口14を閉止した後ステップS9へ進む。
水口14が閉止されると灌漑用水IWの流入は停止するので、水田12内の灌漑用水IWの移動は原則停止する。
【0055】
ステップS9において、最低限2日間は水口14及び水尻26の開口を行うこと無く灌漑用水IWが所定の水位を保った状態を継続し、灌漑用水IWに溶出した水溶解発熱性肥料102の定着を行わせる。
この後、稲36の状況に合わせて水尻26を開口させて落水させても良いし、水口14を開いて更に灌漑用水IWを入水させても良い。
なお、本発明は、水稲だけでは無く、水田12において栽培するレンコン、い草等の灌水栽培植物に採用することができる。
【0056】
次に
図10〜
図12を参照して、本実施例1に係る不織布120、温水溶解性糸114、及び、非温水溶解性糸122によって構成した水田肥料用袋100に、前述した粉体水溶解発熱性肥料102Pを内包させた水田肥料用袋体136を用いて一区画30アールの水田12において秘密状態において行った試験結果を説明する。水田肥料用袋体136を水口14の近傍に5個設置した水溶解発熱性肥料102の拡散状況を所定のタイミングにおいて測定した。水溶解発熱性肥料102の拡散状況は、水田12を灌漑用水溝10の延在方向にA〜Cまで等幅に3分割し、水口14から水尻26までの長手方向に10分割した30区画における中央部分における肥料濃度を電気導電率(EC濃度)によって測定した結果により表した。単位はミリジーメンス毎センチメートル(mS/cm)である。理解の便宜的のため、EC濃度のランクは、EC濃度0.25mS/cm以下がレベル1、EC濃度0.26〜0.50mS/cmがレベル2、EC濃度0.51〜1.00mS/cmがレベル3、及び、EC濃度1.01mS/cm以上がレベル4として表してある。
【0057】
まず
図10に示す結果を説明する。
図10は水田肥料用袋体136を設置して水口14を開口した後、1.5時間経過後の拡散状況であり、水口14の近傍の区画A−1がレベル4、水口14から遠く、水尻26に近い区画B−6、B−8、B−9、C−10がレベル1、それらの近傍の区画B−7、B−10、C−2、C−5、C−8、及び、C−9がレベル2、その他がレベル3である。全体的には水口14を中心に放射状に拡散していることが理解出来る。A列における区画A−1がレベル4であるのは、水溶解発熱性肥料102が溶出中であるからであり、A列のその他がレベル3であることは水口14からの主水流が直線的に指向している結果であると推測され、区画C−2、C−5が飛び地的にレベル2であるのは水田面の高さが周囲よりも幾分高いためであると推測される。
【0058】
次に
図11示す結果を説明する。
図11は水田肥料用袋体136を設置して水口14を開口した後、4.5時間経過後の拡散状況であり、水口14を閉口する直前の状態である。区画A−1〜A−6、区画B−3、B−4、B−9、B−10、C−3、C−4、C−9及びC−10がレベル2、及び、区画B−2がレベル1であり、それら以外はレベル3である。水口14近傍の区画A−1〜A−6、B−1、B−3〜B−4がレベル2であるのは、水溶解発熱性肥料102の溶出が殆ど終了した後に流入した灌漑用水IWによって、薄められたためであると推測される。
【0059】
次に
図12示す結果を説明する。
図12は水田肥料用袋体136を設置して水口14を開口した後、22時間経過後の拡散状況であり、水口14を閉止した後、大凡17時間経過後の状況であり、区画A−3がレベル1であり、他の区画は全てレベル2である。よって、所定時間が経過すると水田12全体に大凡均等に水溶解発熱性肥料102が分散されることが解る。