特許第6883306号(P6883306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883306
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】匂いセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20210531BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   G01N5/02 A
   G01N27/12 C
   G01N27/12 B
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-59775(P2019-59775)
(22)【出願日】2019年3月27日
(62)【分割の表示】特願2017-551540(P2017-551540)の分割
【原出願日】2016年2月22日
(65)【公開番号】特開2019-124700(P2019-124700A)
(43)【公開日】2019年7月25日
【審査請求日】2019年4月9日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2015/082326
(32)【優先日】2015年11月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】715010521
【氏名又は名称】株式会社アロマビット
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 賢一
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0293590(US,A1)
【文献】 特開2006−053059(JP,A)
【文献】 特開平10−142134(JP,A)
【文献】 特表2002−526769(JP,A)
【文献】 特開2009−097905(JP,A)
【文献】 特開平11−264808(JP,A)
【文献】 特開2011−252932(JP,A)
【文献】 特表2005−510711(JP,A)
【文献】 特開2011−179838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/00−5/04
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
匂い物質を吸着する物質吸着膜と、
前記匂い物質の前記物質吸着膜への吸着状況を判断する水晶振動子センサである信号変換部と、
を有するセンサ素子を2つ以上含み、
前記物質吸着膜は、導電性高分子と、前記導電性高分子の物質特性を変化させるドーパントと、を含み、
2つ以上の前記センサ素子が有する各々の前記物質吸着膜は、厚さが10nm〜10μmの範囲であり、かつ、前記導電性高分子に対する前記ドーパントの含有割合がそれぞれ異なり、
前記ドーパントが、塩、又はイオン液体であり、
前記信号変換部は、前記匂い物質が前記物質吸着膜へ吸着することによる重量変化に起因する前記物質吸着膜の振動数変化を検知する、匂いセンサ。
【請求項2】
一つ以上の前記センサ素子が前記物質吸着膜を有さない、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項3】
前記物質吸着膜に振動を加える際の振動数が、複数の前記物質吸着膜の間で異なる、請求項1に記載の匂いセンサ。
【請求項4】
複数の前記物質吸着膜の間で、前記物質吸着膜の厚みが異なる、請求項3に記載の匂いセンサ。
【請求項5】
各々の前記信号変換部が占める領域が、当該信号変換部を覆う前記物質吸着膜が塗布された範囲と、同じか、又はそれよりも小さい、請求項1に記載の匂いセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質吸着膜及び当該吸着膜を用いた匂いセンサに関する。更には、当該匂いセンサを用いた匂い測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
匂いは人間の持つ感覚のうちで唯一センサによる機械的測定ができていないものであり、その一方、匂いデータが持つと予想される情報は、医療、安全、安心、環境、EC(eコマース)、IoT(モノのインターネット)など様々な方面で利用できると期待されている。
【0003】
匂いセンサは炭鉱で使われたカナリアをセンサとして用いた例まで遡るが、1920年台に炭鉱などで発生する可燃性ガスの検出を目的とした接触燃焼式の可燃性ガス検知器が実用されたのが最初である。
【0004】
その後、金属酸化物半導体に各種ガスが接触すると電気伝導度が変化することが1930〜1950年台に知られていたが、これをガスセンサとして利用したセンサは1962年田口らにより日本で実用化された。
【0005】
その後現在に至るまで半導体ガスセンサは金属酸化物の種類もSnO、ZnO、In、WO、Vなどが利用されるようになり、また、これらにPd、Pt、Au、Agなどを添加したり、素子の形状をコントロールするなどして感度を高めたりガスの選択性を持たせたりする検討が行われ、様々な場面で利用されている。
【0006】
近年では検出対象となるガスも可燃性ガスからオゾン、フッ素や塩素を含むハロゲン化ガス、硫化水素そして火災・口臭等の悪臭から発生する不特定混合ガスまで幅広く利用されるようになっている。
【0007】
しかしながらこうしたセンサは基本的には既知の特定ガスに対して応答するセンサを組み合わせて匂いの測定を行うものであり、既知でない物質や複数の物質が相互作用する現実の匂いの表現を行うことは困難であった。
【0008】
こうした試みの中、1990年台になるとポリピロールなどの導電性高分子を用いて複数のセンサからなるアレイ構造のセンサが提案され、アレイ状のセンサの応答差をマッピングすることで匂いを表現する手法が検討され、実用化されている。
【0009】
例えば、Souzaらはp−トルエンスルホン酸など5種類のドーパントを用い、金の4端子電極上に形成したポリピロール薄膜をガス吸着膜とし、ガス吸着による膜の酸化還元電位の変化をマッピングして匂いを表現する方法を発表している(非特許文献1)。
【0010】
また、Freundらは、ポリピロールを重合する際に可塑剤となる物質(ポリスチレンやその誘導体など)を共存させることで膜物性を変え、この膜を抵抗膜とするキャパシタアレイを構成し、ここにガスが吸着したときの容量変化をマッピングすることで匂いを可視化する方法を提案している(非特許文献2)。
【0011】
導電性高分子を用いたセンサはガスの測定用センサに適している可能性があるとして研究されてきた。導電性高分子としてはポリピロールやポリアニリンを用い、それらの酸化還元状態をあらかじめ規定の値に制御した上で、各種ガスの吸着による表面電位の変化を読み取る仕組みのセンサが知られている(非特許文献3)。しかしながら、ここで検討されているセンサは高濃度域では直線性があるものの高感度とは言いがたいものである。
【0012】
また、Pandyらはポリアニリンのナノワイヤを金ナノ粒子上に形成した電極や金属塩上に形成した電極を用いて、それらのガス吸着によるインピーダンス変化を読み取ることで高感度に硫化水素を検出できたことを報告している(非特許文献4)。
【0013】
Liらは水溶性ポリアニリンをQCM上に滴下コートして作成したポリアニリン被覆QCMを試作し、トリエチルアミン、エタノール、及びエチルアセテートの吸着特性を調べている。ポリアニリン被覆QCMは再現性の良い応答を示し、また、吸着するガスの極性により応答が異なることを明らかにした(非特許文献5)。
【0014】
Nathanらは、QCM、金属酸化物半導体、光学式センサ、MEMSセンサ、電気化学センサなどからなり、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性高分子を少なくとも一種類以上形成してなるアレイ型匂いセンサを提案している(特許文献1)。こうした方法により、各種導電性高分子の表面物性の相違によりガス吸着状態が異なることを利用してマトリクス状に配置したセンサアレイのパターンを見ることに成功している。
【0015】
一方、ヒトの嗅覚受容体の数は約380種類あると言われている(非特許文献6)。このことから、できるだけヒトに近い精密な匂いパターン分析を行うためには最低30から40種類のセンサアレイが望ましいと考えられる。
【0016】
前述のNathanらはそのための手段として5種類の導電性高分子とその誘導体を吸着膜に用いることを提案しており、アルキル置換基を有する導電性高分子などの様々な誘導体を用いれば無数の吸着膜を準備することができる。
【0017】
一般的に人を含む動物の鼻の嗅覚メカニズムとしては、以下のように説明されうる。
【0018】
まず鼻から匂い物質が入ると、匂い物質は鼻腔最上部の嗅上皮と呼ばれる特別な粘膜に溶け込み感知され、嗅上皮にある嗅細胞が電気信号を発生、電気信号が嗅神経、嗅球、脳(大脳辺縁系)へと伝達し、匂い感覚が起きる。
【0019】
ここで、嗅上皮の粘膜層に広がっている嗅毛には、匂いをキャッチする嗅覚受容体(匂いセンサ)が存在する。そして一つの匂い分子に対していくつかの嗅覚受容体が反応し、匂いを検知する。また、匂いの濃度が変わると、反応する嗅覚受容体の組み合わせが変わり、違う匂いとして感じられる。
【0020】
外崎はその著書で、アームアの研究では異なる分子構造を持つ複数の匂い原因物質が類似した匂いを与えることに着目し、それら類似した匂いを与える分子の外形の少なくとも一部が大変良く似ていることを見出したと述べている。すなわち、これにより嗅覚受容体が分子の概形構造を認識している可能性があることを示唆している。
【0021】
また、別の研究ではそれぞれの匂い原因物質の与える振動数をこれら嗅覚受容体が認識していると説明している(非特許文献7)。
【0022】
このように、嗅覚受容体は匂い原因物質の持つ属性のうち、これまでの化学分析で用いられてきたような分子量、酸化還元電位、官能基とその結合位置などのような化合物を同定できる比較的直接的な情報ではなく、分子の外形情報などの間接的な物質の特性を検出していると考える方が説明がつきやすいと考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許第6631333号明細書
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Synthetic Metals 102 (1999) 1296-1299 <http://www.cin.ufpe.br/~tbl/artigos/synthetic-metals102.pdf>
【非特許文献2】Proc.Nat’l. Acad. Sci. USA, vol. 92 pp. 2652-2656, March 1995 <http://www.pnas.org/content/92/7/2652.full.pdf>
【非特許文献3】Journal of Scientific & Industrial Research, Vol. 65, July 2006,pp.549-557 <http://nopr.niscair.res.in/bitstream/123456789/4862/1/JSIR%2065(7)%20549-557.pdf?utm_source=The_Journal_Database&trk=right_banner&id=1405260546&ref=a9e18615352a09d89724ffaafef1cd18>
【非特許文献4】Trends in Analytical Chemistry, vol. 32, 2012, pp.87-99 <http://www.researchgate.net/profile/Ki_Hyun_Kim4/publication/228073634_A_review_of_sensor-based_methods_for_monitoring_hydrogen_sulfide/links/09e414fec247ccc0fa000000.pdf>
【非特許文献5】Sensors 2007, 7(10), 2378-2388 <http://www.mdpi.com/1424-8220/7/10/2378/htm>
【非特許文献6】化学と生物, Vol. 45, No. 8, 2007
【非特許文献7】外崎肇一著、「「におい」と「香り」の正体」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、上述した技術を用いた場合であっても、複雑な匂いパターンを的確に検知し得るにたりるセンサを提供するには至っていない。
【0026】
また、センシングに必要なこれら誘導体を合成する場合、多くはモノマーの段階で誘導体化した上で重合して高分子にしなくてはならない。しかしながら上述した方法であらゆる物性の導電性高分子が合成できるわけではない。そのため、必然的に吸着膜の物性の相違の範囲は狭くならざるをえなかった。
【0027】
本発明は、上記課題を鑑み、人間の嗅覚のように、複雑な匂いの集合体から特定の匂いを検出、峻別することを可能とする匂いセンサ、当該匂いセンサに用いられる物質吸着膜、当該物質吸着膜の製造方法を提供することを目的とする。こうしたセンサを用いることで、匂いパターンのデータベースを構成し匂い識別に利用することも可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは、上述の課題を解決するため、物質吸着膜の特性の幅を大きく広げ、それによりセンサアレイの素子数を増やすことを可能にする物質吸着膜の製造方法について検討・研究を行った。
【0029】
その結果、導電性高分子を物質吸着膜の基本骨格とし、その対イオンあるいはドーパントをカチオンとした共イオンとなる塩、又は酸を共存させることにより、導電性高分子基本骨格の物性(極性、親疎水性、立体障害など)を大きく変え、実質的に無限の種類の物質吸着膜を構成することができることを見出し、本発明をなし得るに至った
【0030】
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を提供する。
【0031】
(1)匂い物質を吸着する物質吸着膜と、前記匂い物質の前記物質吸着膜への吸着状況を判断する信号変換部と、を有するセンサ素子を2つ以上含み、前記物質吸着膜は、導電性高分子と、前記導電性高分子の物質特性を変化させるドーパントと、を含み、2つ以上の前記センサ素子が有する各々の前記物質吸着膜は、前記導電性高分子に対する前記ドーパントの含有割合がそれぞれ異なる、匂いセンサ。
【0032】
匂い物質が物質吸着膜に吸着することで、物質吸着膜の特性が変化し、物質吸着膜の物理的、化学的、又は電気的特性等が変化する。この物質吸着膜の特性変化を信号変換部により検出、増幅することで、個々のセンサ素子は匂い物質の物質吸着膜への吸着状況を測定することが可能である。
【0033】
物質吸着膜の匂い物質に対する吸着特性は、物質吸着膜に含まれる導電性高分子の種類や、導電性高分子に添加するドーパントの種類、添加量によって変化させることができる。特定の吸着特性を有する物質吸着膜には、その吸着特性への親和性を有する複数の匂い物質が吸着することができる。気体中には一般的に「匂い」を構成する多数の匂い物質が含まれており、気体に含まれる匂い物質の集合体は、その組成に応じて、ある特定の物質吸着膜への吸着量が変化する。
【0034】
匂いセンサは、それぞれ異なるドーパント含有割合を有する物質吸着膜を備えるセンサ素子を2つ以上含むため、一の気体に対して2つ以上の吸着状況を検知することができる。すなわち、匂いセンサは、一の気体に対して、2つ以上のセンサ素子がそれぞれ測定する吸着状況からなる検出パターンを出力することができる。
【0035】
本発明において「匂い物質」とは、広義において物質吸着膜に吸着可能な物質を意味する。従って、一般的に匂いの原因物質とされていない物質も含まれ得る。「匂い」には原因となる匂い物質が複数含まれることが多く、また、匂い物質として認知されていない物質又は未知の匂い物質も存在し得る。本発明は、それら個々の匂い物質の吸着ではなく、特定の物質吸着膜に吸着し得る特定の吸着特性を有する匂い物質について、その吸着量に着目するものである。なお、本明細書中、単に「匂い物質」と記載した場合であっても、個々の匂い物質ではなく、複数の匂い物質が含まれ得る「匂い物質の集合体」を意味する場合がある。
【0036】
(2)前記信号変換部は、前記匂い物質が前記物質吸着膜へ吸着することに起因する前記物質吸着膜の物理的、化学的、又は電気的特性の変化を測定することにより吸着状況を判断するものであることが好ましい。
【0037】
信号変換部は、物質吸着膜の物理的、化学的、又は電気的特性変化を測定し、その測定結果を電気信号へと変換することにより、コンピュータ等で演算処理可能な電子データとして、匂い物質の吸着状況を表現することができる。
【0038】
(3)前記導電性高分子が、π電子共役高分子を含むことが好ましい。
【0039】
(4)前記π電子共役高分子が、ポリピロール及びその誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリアセチレン及びその誘導体、並びにポリアズレン及びその誘導体からなる群より選択されることが好ましい。
【0040】
導電性高分子として、このようなπ電子共役高分子を用いることにより、各種ドーパントによる吸着特性を制御し易くなる。
【0041】
(5)前記ドーパントが、前記物質吸着膜の吸着特性を変化させることが好ましい。
【0042】
(6)前記ドーパントが、無機イオンであることが好ましい。
【0043】
(7)前記無機イオンが、塩素イオン、塩素酸化物イオン、臭素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、及びホウ酸イオンからなる群より選択されることが好ましい。
【0044】
(8)前記ドーパントが、有機酸アニオンであることが好ましい。
【0045】
(9)前記有機酸アニオンが、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、及びカルボン酸からなる群より選択されることが好ましい。
【0046】
(10)前記ドーパントが、高分子酸アニオンであることが好ましい。
【0047】
(11)前記高分子酸アニオンが、ポリアクリル酸、又はポリスチレンスルホン酸であることが好ましい。
【0048】
(12)前記ドーパントが、塩であることが好ましい。
【0049】
(13)前記ドーパントが、イオン液体であることが好ましい。
【0050】
(14)前記イオン液体が、ピリジン系、脂環族アミン系、又は脂肪族アミン系のイオン液体であることが好ましい。
【0051】
ドーパントとして、上述の無機イオン、有機酸アニオン、高分子酸アニオン、塩、イオン液体等を用いることにより、物質吸着膜の吸着特性を任意に制御することができる。
【0052】
(15)センサ素子を含む匂いセンサが2つ以上配列され、前記匂いセンサは、前記匂い物質を吸着する物質吸着膜と、前記匂い物質の前記物質吸着膜への吸着状況を判断する信号変換部と、を有する前記センサ素子を2つ以上含み、前記物質吸着膜は、導電性高分子と、前記導電性高分子の物質特性を変化させるドーパントと、を含み、2つ以上の前記センサ素子が有する各々の前記物質吸着膜は、前記導電性高分子に対する前記ドーパントの含有割合がそれぞれ異なる、匂いセンサ配列体。
【0053】
匂いセンサが2つ以上配列されていることにより、2つ以上の異なる位置での匂い物質の吸着状況を検知することができるため、匂い物質又はその匂い物質を含む気体の位置情報を検知することができる。
【0054】
(16)2つ以上配列された前記匂いセンサが、それぞれの前記匂いセンサにおける前記匂い物質の吸着量の違いに基づいて、前記匂い物質が接近してきた方向を検知することが好ましい。
【0055】
2つ以上の異なる位置において物質吸着膜への匂い物質の吸着量を測定することができるため、その吸着量の違いに基づいて、匂い物質又はその匂い物質を含む気体の移動方向を把握することができる。すなわち、匂い物質の移動方向を検知することができる。
【0056】
(17)2つ以上の前記匂いセンサが、それぞれ同じ組み合わせの前記物質吸着膜を有することが好ましい。
【0057】
2つ以上配列された匂いセンサが、それぞれ同じ組み合わせの物質吸着膜を有することにより、異なる場所で同じ構成の匂いセンサを用いて検知することが可能である。そのため、匂い物質又はその匂い物質を含む気体が複数存在した場合であっても、それらを判別することができると共に、それらの移動方向を検知することができる。
【0058】
(18)2つ以上の前記匂いセンサにおいて、それぞれの前記センサ素子の配列が同じであることが好ましい。
【0059】
2つ以上配列された匂いセンサが、それぞれ同じ配列を有することにより、匂いセンサ配列体の製造が容易となる。また、特に大型の匂いセンサ配列体とした場合、匂いセンサ配列体の一部に不具合や欠損が生じた場合であっても、修復が容易となる。
【0060】
(19)2つ以上の前記センサ素子が平面状に配列され、2つ以上の前記匂いセンサが平面状に配列されていることが好ましい。
【0061】
各センサ素子が平面状に配列され、かつ各匂いセンサが平面状に配列されることにより、匂いセンサ配列体の全体形状を平板状とすることができる。匂いセンサ配列体の全体形状が平板状であると、壁や天井、床等の任意の平面状の場所への設置が容易である。
【0062】
(20)匂い物質と相互作用する2つ以上のセンサ素子を含む匂いセンサを有する検出部と、前記センサ素子と前記匂い物質との相互作用に基づく電気特性をパターン化して視認化するデータ処理部、前記パターンを解析、認識する解析部と、を含み、前記匂いセンサは、前記匂い物質を吸着する物質吸着膜と、前記匂い物質の前記物質吸着膜への吸着状況を判断する信号変換部と、を有する前記センサ素子を2つ以上含み、前記物質吸着膜は、導電性高分子と、前記導電性高分子の物質特性を変化させるドーパントと、を含み、2つ以上の前記センサ素子が有する各々の前記物質吸着膜は、前記導電性高分子に対する前記ドーパントの含有割合がそれぞれ異なる、匂い測定システム。
【発明の効果】
【0063】
本発明のセンサ素子及びセンサは、匂いの物質特異的な物理、化学又は電気特性を有する物質吸着膜を多種多様に設けることが可能であるため、様々な物質が混在している一般的な環境においても物質を限定することなく検出することができる。
【0064】
また、このような本発明のセンサは、匂いを構成物質の成分としての表現ではなく、匂いのイメージパターンとして出力する点が従来のガス分析を原理とする匂いセンサと異なるところである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1図1は本発明に係る匂いセンサのセンサ素子の断面図である。
図2図2は本発明で用いることのできるパイ電子共役高分子の例である。
図3図3は本発明に係る匂いセンサのドーパントとして用いられる化合物の例である。
図4図4は本発明の匂い測定システムの模式図である。
図5図5は本発明の匂いセンサ配列体の模式図及びその部分拡大図である。
図6図6は水が物質吸着膜に吸着する際の吸着状況の変化を示す説明図である。
図7図7は水が物質吸着膜から脱着する際の吸着状況の変化を示す説明図である。
図8図8は日本酒が物質吸着膜に吸着する際の吸着状況の変化を示す説明図である。
図9図9は日本酒が物質吸着膜から脱着する際の吸着状況の変化を示す説明図である。
図10図10は実施例1の結果を示すグラフである。
図11図11は実施例2の結果を示すグラフである。
図12図12は実施例3の結果1を示すレーダーチャートである。
図13図13は実施例3の結果2を示すレーダーチャートである。
図14図14は実施例3の結果3を示すレーダーチャートである。
図15図15は実施例3の結果4を示すレーダーチャートである。
図16図16は実施例3の結果5を示すレーダーチャートである。
図17図17は実施例4の結果1を示すレーダーチャートである。
図18図18は実施例4の結果2を示すレーダーチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0066】
[実施形態1]
まず、本発明の実施形態1に係る匂いセンサについて説明する。実施形態1に係る匂いセンサは、空気中に含まれる少なくとも一つ以上の匂い物質を吸着する物質吸着膜と、前記物質を吸着後の物質吸着膜の物理、化学又は電気特性を測定する信号変換部とを具備する少なくとも2つのセンサ素子とを含む匂いセンサであって、当該物質吸着膜は、導電性高分子と、前記導電性高分子の物質特性を変性させるドーパントとを含み、前記少なくとも2つのセンサ素子は、前記基本骨格と前記ドーパントの割合が異なる前記物質吸着膜をそれぞれ設けていることを特徴とするものである。
【0067】
この構成によれば、当該物質吸着膜は、ドーパントにより膜特性を変性することが可能となり、各物質吸着膜は選択的にある物質を特異的に吸着することになる。これにより、物質吸着膜の表面に吸着した物質による物理、化学または電気的特性変化を検出することができるため、その変化に基づいて物質の吸着状況を測定することが可能である。
【0068】
ここで、「匂い」とは、人間あるいはそれを含む生物が嗅覚情報として取得することができる、特定の分子単体もしくは異なる分子からなる分子群がそれぞれの濃度を持って集合したものを含む。
【0069】
信号変換部は、匂い物質の物質吸着膜への吸着状況を、匂い物質が物質吸着膜へ吸着することによる物質吸着膜の物理的、化学的、又は電気的特性変化を測定するものであることが好ましい。ここで、「匂い物質の物質吸着膜への吸着状況」は、例えば、「匂い物質の物質吸着膜への吸着量」を概念として含む。匂い物質の物質吸着膜への吸着量の増減によって、物質吸着膜の物理的、化学的、又は電気的特性が変化し、その変化量を測定することで、匂い物質の物質吸着膜への吸着状況を判断する。また、「物理的、化学的、又は電気的特性」としては、具体的には、水晶振動子における周波数変化、光学的特性変化(吸収波長変化、吸光度変化、屈折率変化等)、表面弾性波の速度変化等の物理的特性、電気化学的インピーダンス変化、酸化還元電位の変化等の電気化学的特性、電荷結合、ゲート電圧、インピーダンス、共振周波数、バンドギャップ等の電気的特性が挙げられる。
【0070】
<センサ素子>
以下、図を用いてセンサ素子の説明を行う。
【0071】
図1は本発明のセンサ素子101の断面図である。センサ素子101はセンサ本体部102及びセンサ本体部102表面に設けられ、匂い物質(化学物質)を吸着する物質吸着膜103を表面上に設けている。また、全体構成の一例として図1ではセンサ本体部102は基板110上に設けられている。また、例えば反対側の表面には、励振電極(図示せず)を配置する構成としても良い。
【0072】
物質吸着膜103はπ電子共役高分子からなる薄膜であり、該π電子共役高分子薄膜にはドーパント105として無機酸、有機酸あるいはイオン性液体からなる少なくとも1種類を含むことが可能である。
【0073】
センサ本体部102は、当該物質吸着膜表面に吸着した物質による物理、化学又は電気的特性変化を測定することで物質の吸着状況を測定する信号変換部(トランスデューサ)としての機能を持つように設けられている。その物理、化学又は電気的素子としては、水晶振動子センサ(QCM)、表面弾性波センサ、電界効果トランジスタ(FET)センサ、電荷結合素子センサ、MOS電界効果トランジスターセンサー、金属酸化物半導体センサ、有機導電性ポリマーセンサ、あるいは電気化学的センサなど、センサとしては特に限定されず、その時々の目的等に応じて種々のセンサを適宜用いることができる。
【0074】
素子の構造はセンサの検出目的に応じて種々異なる構造をとることが可能である。例えば水晶振動子の場合には、通常の電極を両面に付けたタイプでも良いし、Q値を高くとることが可能な片面電極のみ分離電極とした構造のものを用いても良い。
【0075】
該物質吸着膜103として用いられるπ電子共役高分子は特に限定されないが、ポリピロール及びその誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリアズレン及びその誘導体などのいわゆるπ電子共役高分子を骨格とする高分子が好都合である。
【0076】
通常、こうしたπ電子共役高分子は酸化状態で骨格高分子自体がカチオンとなり、ドーパントとしてアニオンを含むことによって導電性を発現する。なお、本発明ではドーパントを持たない中性のπ電子共役高分子も物質吸着膜として選択することができる。
【0077】
ドーパントを持ち、導電性を有するπ電子共役高分子を用いる場合には、ドーパントとして様々な物質を用いることが可能である。図2及び3に、使用可能な物質の例を化合式及び表として示す。
【0078】
ドーパント例としては、塩素イオン、塩素酸化物イオン、臭素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、ホウ酸イオンなどの無機イオン、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カルボン酸などの有機酸アニオン、及びポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸などの高分子酸アニオンなどが挙げられる。
【0079】
また、上述のような直接的なアニオンの結合体の他に、中性のπ電子共役高分子に食塩のような塩や、イオン性液体のような陽イオン、陰イオン両方を含むイオン性化合物を共存させることで化学平衡的にドーピングを行う方法も用いることができる。
【0080】
ここで用いることができるイオン液体としては、特に限定されないが例えば陽イオンの種類でピリジン系、脂環族アミン系、脂肪族アミン系のイオン液体が挙げられる。これに組み合わせる陰イオンの種類を選択することで、多様な構造を合成できる。
【0081】
陽イオンの例としては、イミダゾリウム塩類・ピリジニウム塩類などのアンモニウム系、ホスホニウム系イオン、無機イオンなどが挙げられる。
【0082】
陰イオンの採用例としては、臭化物イオンやトリフラートなどのハロゲン系、テトラフェニルボレートなどのホウ素系、ヘキサフルオロホスフェートなどのリン系のイオンがある。
【0083】
π電子共役高分子におけるドーパントの含有量は、該高ドーパントを形成する繰り返し単位2つあたり1分子のドーパントが入る状態を1とする場合に、0.01〜5の範囲、好ましくは0.1〜2の範囲に調整されれば良い。この範囲最低値以下であると膜の特性が消失し、最大値以上にドーパントを含有すると高分子自体の持つ吸着特性の効果が消滅し、やはり望ましい吸着特性の膜を制御して作成するのが困難になる他、通常は低分子量物質であるドーパントが優勢な膜となるために、膜の耐久性が大幅に低下する。よって、上述の範囲であれば匂い物質としての化学物質の検出感度を好適に維持することが可能である。
【0084】
また、物質吸着膜の厚さは吸着対象となる物質の特性に応じて適宜選択することが可能である。例としては10nm〜10μmの範囲とすることができ、好ましくは50nm〜800nmとすることが好ましい。膜厚が10nm未満となると十分な感度が得られない。また、10μmを越えるとセンサ素子が測定できる重量の上限を超えてしまうため、好ましくない。
【0085】
<物質吸着膜の製造方法>
物質吸着膜103の製造方法としては、例えば、溶媒原液を種々溶媒で希釈した後、ドーパント成分を溶解することで膜液を調整した後、マイクロディスペンサなどを用いてセンサ素子表面に滴下する等適宜膜形成方法を選択して製膜することができる。物質吸着膜103の製造にはインクジェットによる膜液塗布も採用することができる。
【0086】
<センサ>
次にセンサ全体について説明する。
【0087】
図4は匂いセンサ100及び後述する本発明の匂い測定システム1000の模式図である。匂いセンサ100は上述したセンサ素子101を含んでいる。
【0088】
本発明の匂いセンサ100は、センサ素子101を複数有することから、その表面に設けられた物質吸着膜103の構成を、例えば素子ごとに変えることで様々な特性を有する物質を吸着することが可能であり、その素子の組み合わせは検出の目的に応じて種々変更することが可能である。物質の吸着パターンを検出することにより全体での物質認識パターンを行い、それによりある一群の匂い物質に係る吸着パターンを示すことができる。
【0089】
従来のいわゆる匂いセンサというものは、匂い原因物質分子を検出するプローブが一つのものがほとんどであり、そのような場合は、匂い物質分子単体の定性的ないしは定量的な測定しかできない。
【0090】
これに対し、本発明の匂いセンサは、複数のセンサ素子を設けている。また、各センサ素子はそれぞれ異なる特性を有する物質吸着膜を表面上に設けることで、作用させようとする分子に特異的な反応を示す構成をとることができ、更に、各対象とする分子への作用の程度を調整することが可能である。
【0091】
ここで、用いられるセンサ素子は全て同一の素子構造、すなわちQCM検出系ならQCMセンサのみからなるアレイ構造を、またFET検出系であればFETセンサのみからなるセンサ素子アレイ構造をとることも可能である。あるいは、前述した素子構造のうち複数のタイプを共存させて素子アレイを構成しても構わない。
【0092】
一方、物質吸着膜103として用いられるπ電子共役高分子は単一膜からなるアレイ構造をとり、ドーパントのみを素子ごとに変えるようなセンサアレイとしてもよいし、π電子共役高分子自体が素子ごとに異なるような構成をとっても良い。また、後者においてもドーパントはπ電子共役高分子とは独立して任意にセンサアレイに配置することができる。
【0093】
また、こうしたセンサアレイを構成するにあたって、一つ以上のセンサ素子において物質吸着膜を形成しないアレイ構造であっても構わない。これら膜形成しない素子はリファレンスとして用いることができるため、検出精度を担保することが可能となる。
【0094】
このように、本発明の匂いセンサはセンサ素子本体及び物質吸着膜の構成を組み合わせて用いることが可能であるため、検出対象とする物質の特性に応じて多様なセンサ構成とすることができる。
【0095】
異なる物質吸着膜103を塗布したセンサ素子は被測定対象である匂い原因物質に対して、異なる相互作用をする。これら異なる物質吸着膜を設けたセンサをアレイ上に配置することで、それぞれのセンサ素子の周波数変化を検知、分析して、匂い要因を定性及び定量分析することができる。
【0096】
例えば、より具体的には、基板上に配置された異なる物質吸着膜を有する各センサ素子の配列規則としてX軸方向、Y軸方向の情報としてどの匂い物質を吸着して検出するセンサであるかといったセンサの配列情報と同素子群の周波数変化(吸着特性や相互左右の度合い)の最低3次元からなる定性的な匂いパターンを得ることができる。
【0097】
ここで、センサ素子や励振電極は任意の導電性材料で形成することができる。例としては、金、銀、白金、クロム、チタン、アルミニウム、ニッケル、ニッケル系合金、シリコン、カーボン、カーボンナノチューブなどの無機材料並びに、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性高分子等有機材料を挙げることができる。
【0098】
また、例えば、空間軸方向に微妙に濃度分布や化学修飾により疎水性、親水性などの強さを傾斜させた機能傾斜膜を物質吸着膜として用いることで、被測定物質である匂い原因物質に対して各アレイを構成する各センサがそれぞれ少しずつ異なる相互作用をすることができる。
【0099】
その他にも、各振動子の共振周波数を変化させることで、共存する他の振動子から受ける影響、すなわちクロストークを低減することも可能であり、好ましい。共通基板内の各振動子が異なる感度を示すよう任意に設計することが可能である。
【0100】
各水晶振動子の共振周波数が同じ場合は、匂い吸着膜の厚みを変化させることで変化させていることも試みられている。加えて、異なる共振周波数の素子(例えば水晶基板の厚みを変えたオーバートーンモード等)を用いることもできる。
【0101】
基板の種類としては、シリコン基板、水晶結晶からなる基板、プリント配線基板、セラミック基板、樹脂基板などが用いることができる。また、基板は、インターポーザ基板など多層配線基板であり、水晶基板を励振動させるための励振電極と実装配線、通電するための電極が任意の位置に配置されており、電気的なグラウンドや他の電子回路基板等へ導通するため、例えばバンプへ結線されている。
【0102】
センサ素子の形状としては一例として、水晶振動子においてはコンベックス形状がより小型でかつ、振動子内にエネルギーを封じ込め、基板内の各振動子間の干渉を防止し、同時にQ値の向上が見込まれるなど、より好ましい形状である。
【0103】
水晶振動子に厚さ分布を与えたコンベックス形状(レンズ形状または凸上)として、なお、片面を分離型の励振電極(振動用の電圧を入力する電極)にし、導電性膜は励振電極と反対面の対向する位置に設置する構造とすることができる。
【0104】
これにより、他の振動モードとの結合を抑制し、振動子にマルチアレイ化した際の水晶振動子間の伝播や反射などの干渉を防止することが可能となることが知られている。そのため、より小型化、低容量化する程、振動子間の距離が短くなり効果も大きくなる。
【0105】
同様に、振動エネルギーの封じ込め効果により、Q値及びコンダクタンスを向上することができ、小型化しても振動エネルギーが低下することなく、外部接触の干渉を受けにくい水晶振動子にすることができる。その結果、S/N比を向上させて高感度化される。
【0106】
なお、ここで形成されるQCMセンサは逆メサ型あるいはコンケイブ型と呼ばれる構造であると、近接した表面実装が可能であるので、小型化のためには好適である。本実施例では、より小型に適したコンベックス型を例にとっているが、より最適な形状があればそれを選択することが可能である。
【0107】
また、逆メサの凹内にコンベックスを入れ込んだ凸ハイブリッド型も試みられている。また、円形だけでなく楕円形もQCM素子の感度(Q値)向上等が見られ、コスト面等を考慮して、より最適なものを用いれば良い。
【0108】
センサ本体(信号変換部)の大きさは、その表面上の物質吸着膜が塗布された範囲と同じか、又はそれよりも小さいことが好ましい。現在の技術的制約上、物質吸着膜の塗布面積の縮小に限界があるため、物質吸着膜が塗布された範囲に、複数のセンサ本体(信号変換部)が割り当てられるように構成されていても良い。このようなセンサ本体(信号変換部)の構造としては、複数の微細なMOSFETから構成されるトランジスタアレイや、電荷結合素子アレイが挙げられ、測定及び小型化の容易さ等の観点から電荷結合素子アレイが特に好ましい。
【0109】
以上、本発明の匂いセンサにおけるセンサアレイの構成について、例示したが、本発明がこれに限定されるものではないということは言うまでもない。
【0110】
以上のような構成により、物質吸着膜103に吸着可能な物質である限り、本発明の匂いセンサはほぼ制限なくあらゆる匂い物質を検出対象とすることが可能となる。また、このような構成により、検出及び特定を所望するだけの数の物質を検出するに必要な数だけセンサ素子を設ければ良く、これにより、匂いそのものに含まれる複数の匂い物質を定量・定性的に測定し、この匂いを全体的に測定することが可能となる。
【0111】
本発明の匂い測定システムでは、匂いセンサ100に配置するセンサ素子101を、測定する物質に応じて選定することが可能である。すなわち、検出及び測定する匂い物質に特異的な特性を持つ物質吸着膜103及びセンサ本体102によるセンサ素子101を適宜選択して配置することができる。
【0112】
センサ素子101の数は少なくとも2つ配置させるため、匂いそのものに含まれる複数の匂い物質をについてそれぞれ特異的に検出することが可能となる。
【0113】
また、物質吸着膜の特性や膜厚等を変えることにより、各センサ素子における検出感度を変えることも可能となる。それにより測定対象とする匂い物質の濃度等も測定することが可能である。
【0114】
このような構成により、サンプルとして気体中に存在するあらゆる匂い物質について測定が可能となる。更に従来であれば単に匂い物質に含まれている個別の分子の量等からその分子特有の匂いの強弱しか測定できなかったが、センサの検出パターンの組み合わせから測定した匂い物質を具体的な匂い、つまり複数の匂い物質からなる匂いそのものを測定し特定することが可能となる。
【0115】
また、本発明の匂いセンサにおいては、検出部1001がアレイ構造の匂いセンサ100を有しているため、特定の物質分子に対して特異的に作用するセンサの数及びその配列やセンサの種類を、作用したときのアレイ全体における反応パターンを任意にデザインした上で決めることが可能である。そして、その反応パターンをあらかじめ匂い情報格納部1004に格納しておくことで、それぞれの匂い物質に対する匂いセンサ100における反応と照合可能となるため、複数の匂い物質の集合体を測定でき、それにより従来の匂いセンサでは実現できなかった匂い物質を複数含む匂いそのものを測定することが可能になる。
【0116】
<匂い測定方法>
次に、本システムで用いられる匂い測定方法に関して説明する。
【0117】
まず、図4に示される本発明の匂い測定システム1000の検出部1001に設けられた匂いセンサ100と、測定対象となる匂い物質とを接触させる。この接触により匂い物質の分子が取り込まれ、センサ素子101の物質吸着膜103に物質が吸着される。
【0118】
匂いセンサ100は、少なくとも2つ以上のセンサ素子101が配置されたマルチアレイ構造になっている。ここで、各センサ素子101はそれぞれ目的とする匂い物質ごとに特有の程度に相互作用をするようになっており、匂いに含まれる様々な匂い原因物質と相互作用するようになっている。このアレイ部分に取り込んだ匂い物質を含む気体を接触させ、それぞれのセンサが示す相互作用の結果をデータとして取得する。
【0119】
この相互作用データは、使用するセンサによるが、例えば発光応答であったり、電気抵抗の変化であったり、あるいは振動周波数の変化等、トランスデューサ部から出力される物理情報である。
【0120】
これら相互作用データのパターンを測定される特定の匂い要因と関連付けされ、センサアレイ上で反応しているセンサの位置情報やその相互作用の強弱を含む信号情報として測定部1002で信号情報の取り込み処理を行う。
【0121】
続いてデータ処理部1003で素子の配列情報に測定データパターンの紐付けをするデータ処理を行う。
【0122】
つまり、このデータ処理を行った測定データパターンを、例えば図4に示すような出力パターンを発光応答の差異により再現したり、あるいはマトリクスの行列情報として表示したりすることで、その匂いそのものについて可視化もしくは認識容易化することが可能となる。
【0123】
また、このデータ処理された相互作用パターン情報を匂いに関わる情報データと共に例えば匂い情報格納部などを設けて格納することでデータベース化し、匂いの再現を行う場合に利用することも可能である。
【0124】
[実施形態2]
<匂いセンサ配列体>
次に、実施形態2に係る匂いセンサ配列体205について説明する。図5は、匂いセンサ配列体205の模式図及びその部分拡大図である。図5中、匂いセンサ配列体205の最も右上に配置された匂いセンサ200及びその近傍を含む部分拡大図を円内に示す。図5では、9個のセンサ素子がY方向に3個、X方向に3個で平面状に配列された匂いセンサ200が、Y方向に5個、X方向に6個で合計30個平面状に配列されている場合を示している。各匂いセンサ200において、9個のセンサ素子201は、いずれも互いに異なる物質吸着膜203を有している。
【0125】
匂いセンサ配列体205は、センサ素子201を含む匂いセンサ200が2つ以上配列されたものである。匂いセンサ200としては、実施形態1において説明した匂いセンサ100と同様のものを用いることができ、匂い物質を吸着する物質吸着膜203と、匂い物質の物質吸着膜203への吸着状況を判断する信号変換部と、を有するセンサ素子201を2つ以上含むものである。物質吸着膜203は、導電性高分子と、導電性高分子の物質特性を変化させるドーパントと、を含む。2つ以上のセンサ素子が有する各々の物質吸着膜203は、導電性高分子に対するドーパントの含有割合がそれぞれ異なっている。
【0126】
匂いセンサ配列体205は、上述の匂いセンサを2つ以上配列したものであるため、2つ以上の異なる位置での匂い物質の吸着状況を検知することができる。これにより、匂い物質又はその匂い物質を含む気体の位置情報を検知することができる。
【0127】
2つ以上の異なる位置において物質吸着膜203への匂い物質の吸着量を測定することができるため、それぞれの匂いセンサにおける匂い物質の吸着量の違いに基づいて、匂い物質又はその匂い物質を含む気体の移動方向を把握することができる。すなわち、匂い物質の移動方向を検知することができる。例えば、発火前のくすぶっている状態に生じるいわゆる「こげ臭」等を匂いセンサ配列体205で検知することにより、そのこげ臭がどの方向から移動してきたかを検知することができ、火元の特定に役立てることが考えられる。
【0128】
また、匂いセンサ配列体205のそれぞれの匂いセンサでの測定値を時系列で記録することができる。これにより、時間の経過と共に匂い物質が移動した道程を把握することができる。当然、匂いセンサ配列体205のそれぞれの匂いセンサに対応する位置における匂い物質の濃度分布及びその遷移過程も把握することができる。
【0129】
匂いセンサ配列体205に含まれる匂いセンサ200は、同じであっても異なっていてもよいが、特定の匂い物質の移動方向を把握する場合には、それぞれの匂いセンサ200が有する少なくとも1種の物質吸着膜203を、それぞれの匂いセンサ200が共通に有していることが好ましい。また、それぞれの匂いセンサ200が有する物質吸着膜203の組み合わせを、それぞれの匂いセンサ200が共通に有していることがより好ましい。更には、それぞれの匂いセンサ200が同一のものであることが好ましい。
【0130】
匂いセンサ配列体205の全体形状は特に限定されないが、例えば、図5に示すように、それぞれ匂いセンサの各センサ素子201が平面状に配列され、それぞれの匂いセンサ200が平面状に配列された平板状の匂いセンサ配列体205であってもよい。匂いセンサ配列体205の全体形状が平板状であると、壁や天井、床等の任意の平面状の場所への設置が容易である。
【0131】
匂いセンサ配列体205の全体形状は、表面が匂いセンサ200で覆われた円筒状や球状であってもよい。このように円筒状や球状のような全体形状とすることにより、匂い物質の移動方向を3次元的に把握することができる。
【0132】
匂いセンサ配列体205の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、電荷結合素子アレイやMOSFET等のトランジスタセンサアレイをセンサ本体(信号変換部)とする場合、ランジスタセンサアレイを、匂いセンサに相当する範囲の区画207、その区画207の中に更にセンサ素子201に相当する範囲の小分画部208に区分けした上で、各小分画部208にそれぞれ異なる物質吸着膜203を形成することができる。
【0133】
<匂いセンサ配列体の応用例>
図6図9を参照しながら、匂いセンサ配列体205の一応用例について説明する。ここでは、平板状の匂いセンサ配列体205を用いて、水と日本酒とをそれぞれ吸着又は脱着させた場合の各匂いセンサ200における測定結果を可視化した例を示す。
【0134】
図6は水が物質吸着膜に吸着する際の吸着状況の変化を示す説明図である。図7は水が物質吸着膜から脱着する際の吸着状況の変化を示す説明図である。図8は日本酒が物質吸着膜に吸着する際の吸着状況の変化を示す説明図である。図9は日本酒が物質吸着膜から脱着する際の吸着状況の変化を示す説明図である。図6図9では、XY平面上に匂いセンサ配列体215,225,235,245を設置し、図中匂いセンサ配列体215,235の左下の円の位置にサンプルとしての水又は日本酒をサンプル容器216,236内に配置した場合を示している。水又は日本酒を配置した直後の測定結果を、図6図8中でそれぞれ「状態1−1」、「状態3−1」と示している。また、水又は日本酒を取り除いた直後の測定結果を、図7図9中でそれぞれ「状態2−1」、「状態4−1」と示している。そして、水又は日本酒を配置又は取り除いてから一定時間経過後の測定結果を、図6図9中でそれぞれ「状態1−2」、「状態2−2」、「状態3−2」、「状態4−2」と、更に一定時間経過後の測定結果を、図6図9中でそれぞれ「状態1−31」、「状態2−3」、「状態3−3」、「状態4−3」と示している。
【0135】
各匂いセンサ200における測定結果を可視化する方法としては、匂い物質が各物質吸着膜203へ吸着することに起因する各物質吸着膜203の物理的、化学的、又は電気的特性の変化を、その変化量の大きさに応じて、例えば色別や、濃淡で表すことができる。図6図9においては、測定結果を変化量の大きさに応じて濃淡で示しており、変化量がゼロ(変化がない)又は小さい場合を薄く、変化量が中程度の場合には中程度に濃く、変化量が大きい場合には更に濃くとのように、変化量が大きくなるに連れて濃淡が濃くなるように示している。図6図9では簡便のため濃淡を3段階で示しているが、もちろん色調変化や濃淡変化等のしきい値は適宜自由に設定することができる。
【0136】
図6において、水を配置した直後の状態1−1では、変化量がゼロ(変化がない)又は小さいが、一定時間経過後の状態1−2では、変化量が中程度の領域が左下から2/3程度まで、変化量が大きい領域が左下から1/3程度まで進行している。更に一定時間経過後の状態1−3では、匂いセンサ配列体215の大部分において変化量が大きくなっており、匂い物質が各匂いセンサ200の物質吸着膜203に吸着している範囲が匂いセンサ配列体215の大部分に広がっていることが分かる。更に、状態1−1〜状態1−3のように時系列上で変化を可視化することによって、匂い物質の移動方向を判断することができる。
【0137】
図7において、水を取り除いた直後の状態2−1では、上述の状態1−3からほぼ変化がないが、状態2−2、状態2−3と、時間の経過と共に、水の蒸発に伴い匂い物質の脱着が進行し、変化量が大きい領域が縮小していることが分かる。
【0138】
図8において、日本酒を配置した直後の状態3−1では、日本酒に含まれる一部の揮発性成分が吸着している。そして、状態3−2、状態3−3と、時間の経過と共に、変化量が大きい領域が拡大していることが分かる。
【0139】
図9において、日本酒を取り除いた直後の状態4−1では、上述の状態3−3からほぼ変化がない。しかしながら、水の脱着の場合と比較して、状態4−2、状態4−3において匂い物質の吸着量が依然大きい領域が多く残っていることが分かる。
【0140】
図5及び図6における水の吸着及び脱着の際の吸着状況の変化と、図7及び図8における日本酒の吸着及び脱着の際の吸着状況の変化と、の比較からも明らかなように、匂い物質の吸着及び脱着の際の吸着状況の変化は、匂い物質に特異的であると考えられる。そのため、匂いセンサ200単独での匂いパターンによる匂い物質又はその集合体の判別だけでなく、匂いセンサ配列体215,225,235,245を用いた吸着状況の時間的変化も匂い物質又はその集合体の判別に用いることができる。
【0141】
各匂いセンサ200が匂いパターンを検知できることから、その匂いセンサ200を備えている匂いセンサ配列体215,225,235,245は、2つ以上の匂い物質の移動を検知することも可能である。更に、2つ以上の匂い物質が匂いセンサ配列体215,225,235,245上で合わさった場合には、2つ以上の匂い物質が合わさった領域における匂いセンサは、その合わさった2つ以上の匂い物質に対応する匂いパターンを検知することができる。これを応用することにより、例えば、香料をブレンドした場合にどのような匂いとなるかを、定性的、定量的に評価し、可視化することも可能となる。
【実施例】
【0142】
以下実施例を用いて本発明の匂いセンサの物質吸着膜を有するセンサ素子について更に説明を行う。
【0143】
実施例1<導電性高分子及びイオン性液体の組み合わせによる物質吸着膜>
1)物質吸着膜の調整
本実施例では、導電性高分子としてポリアニリンを用い、以下の通り膜液の調整を行った。
【0144】
溶媒原液(2%ポリアニリン)をNMP(N−メチル−2−ピロリドン)で10倍に希釈した後、ドーパント成分をアニリン2ユニットに対しモル比1.0になるように量り取り、下記ドーパント成分をNMPに溶解した。
【0145】
次いで上記0.2%ポリアニリン溶液と上記ドーパント溶液を1:1の割合で混合した。
【0146】
系1:2%ポリアニリンのみ
系5:2%ポリアニリンに1%の1エチル3メチルイミダゾリウムp−トルエンスルホン酸(アニオン系ドーパント)を添加、混合して調整した。
【0147】
系7:膜無し
ドーパント=1%1エチル3メチルイミダゾリウムp−トルエンスルホン酸(アニオン系ドーパント)
【0148】
2)サンプル作成:QCMセンサの表面に0.1μLの上記膜液を塗布し、乾燥炉にて100℃10分で乾燥してセンサ素子を得た。
【0149】
3)実験条件:温度25℃、湿度55%
ガス:空気、HO、エタノール、NH
サンプルガスの濃度はそれぞれ10ppmとした。
【0150】
フロー測定:300秒ごとにサンプルガス−空気−サンプルガス−空気、の順で気体を導入後静止、その後空気を導入することでチャンバー内の空気をリフレッシュしながらサンプルガス導入時の周波数の変化を測定した。
【0151】
4)結果
本実験の結果を図10に示す。縦軸はセンサが反応したときの周波数変化を示し、横軸は時間を示す。グラフに示す通り、ドーパント含有物質吸着膜を設けている系5のセンサは各サンプルに対して特異的に反応していることが示された。
【0152】
実施例2(比較例)<イオン性液体単体での製膜による試験>
以下の通りイオン性液体単体で物質吸着膜を作成、試験を行った。
【0153】
1)膜液調整
系4:1−ブチル−3−メチルイミダリゾウム=クロリド0.00963gを1mLのエタノールに溶解し、更にその後エタノールで2倍に希釈した。
【0154】
系7:1−エチル−3−メルチルイミゾリウムートルエンスルホン酸0.02138gを1mLエタノールに溶解、その後更にエタノールで2倍に希釈した。
【0155】
2)サンプル作成
上記それぞれの系の原液1μLをQCMセンサ表面にマイクロピペットを用いて滴下した。次いで乾燥炉100℃、10分で乾燥し製膜した。
【0156】
3)条件:温度25℃、湿度55%
ガス:NH(10%NH及びガラスディッシュに水をいれて湿度調整を行った)、香料(ムスク1mLを40mLエタノールで溶解したもの)、空気
フロー測定:実施例1と同様の手順で行った。
【0157】
4)結果
本試験の結果を図11に示す。グラフの縦軸、横軸は図10と同様である。グラフに示されている通り、多少の反応はあるものの、特定の物質に特異的な反応を示すところまでではなかった。
【0158】
実施例3
1)膜液調整
0.4%ポリアニリンを用いて下記イオン液体をドーパントとして混合して膜液を調整した。
【0159】
A:1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム=クロリド(和光純薬工業027−15201)
B:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムp−トルエンスルホン酸塩(和光純薬工業051−07311)
C:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ソフト型)(混合物)(62%、水湿潤品)(東京化成(TCI)D1238)
【0160】
膜1:0.4%ポリアニリン+A
膜2:0.4%ポリアニリン+B
膜3:0.4%ポリアニリン+B+0.5%添加剤
膜4:0.4%ポリアニリン+B+2.0%添加剤
膜5:0.4%ポリアニリン+C+0.4%ポリエチレンジオキシチオフェン
調整手順は実施例1と同様にして行った。
【0161】
2)サンプル作成
実施例1と同様にして行った。
【0162】
3)実験条件:温度25度、湿度55%
サンプルガス:HO、エタノール、NH(15ppm)、ウイスキー、日本酒
フロー測定:これらサンプルを揮発させて実施例1と同様に空気でリフレッシュしながらガスをチャンバー内に流入させて測定を行った。
【0163】
4)結果
結果を図12から図16に示す。図12図16は上記膜1〜5の各サンプルガスの測定結果を示すレーダーチャートである。該チャートが示すように、導電性高分子であるポリアニリンにドーパントであるイオン液体を混合することにより、その混合条件に応じて膜の物質吸着特性が変わることが分かった。
【0164】
これにより、導電性高分子とドーパントの種類・量などの組み合わせを変えることで様々な物質特異的に匂いを測定することが可能となることが示された。
【0165】
実施例4
実施例4では、導電性高分子としてポリアニリン、ドーパントとして下記イオン液体La〜Llをそれぞれ用いた物質吸着膜a〜lに対して、インスタントコーヒー及びドリップコーヒーの匂い物質集合体を吸着させた場合について評価した。なお、膜液の調製、及びサンプル作成やフロー測定は、イオン液体が異なること以外は、実質的に実施例1と同様である。
【0166】
1)膜液の調製
原料溶液としての2%ポリアニリンをNMP(N−メチル−2−ピロリドン)で10倍に希釈して、0.2%ポリアニリン溶液を調製した。下記列挙のイオン液体をそれぞれ量り取り、NMPに溶解して、各イオン液体(ドーパント)成分のアニリン2ユニットに対するモル比が1.0となるようにイオン液体La〜Llを調製した。次いで、調製した0.2%ポリアニリン溶液と、イオン液体La〜Llを、体積比1:1で混合し、各膜液を調製した。
【0167】
イオン液体La:1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド
イオン液体Lb:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムp−トルエンスルホネート
イオン液体Lc:メタンスルホン酸
イオン液体Ld:アンモニウムベンゾエート
イオン液体Le:ラウリン酸ナトリウム
イオン液体Lf:(+)−3−ブロモカンファー−8−スルホン酸アンモニウム
イオン液体Lg:リン酸
イオン液体Lh:1−エチル−3−メチルイミダゾリウム硫酸塩
イオン液体Li:酢酸
イオン液体Lj:ホウ酸
イオン液体Lk:フェノール
イオン液体Ll:ベンゼンスルホン酸
【0168】
2)サンプル作成
調製した各膜液0.1μLを、QCMセンサの表面に滴下して塗布し、乾燥炉にて温度100℃で10分間乾燥して、物質吸着膜a〜lをそれぞれ有するセンサ素子を作成した。
【0169】
3)実験条件:
温度25℃、湿度55%
サンプルガス:インスタントコーヒー及びドリップコーヒーの粉末を、それぞれ密閉容器に一定時間載置し、密閉容器内の気体をサンプルガスとした。
【0170】
フロー測定:チャンバー内にサンプルガスを導入し、300秒間放置した後、空気を300秒間導入するというサイクルで、サンプルガスを順次導入した。なお、空気を300秒間導入することで、チャンバー内のサンプルガスを追い出し、リフレッシュさせる。
【0171】
4)結果
サンプルガスを導入した場合のQCMセンサの周波数変化のピーク値をそれぞれ結果1又は結果2の測定値として、図17又は図18のレーダーチャートに示した。図17は、実施例4の結果1を示すレーダーチャートであり、インスタントコーヒーの匂い物質集合体を物質吸着膜a〜lに吸着させた場合の結果を示す。図18は実施例4の結果2を示すレーダーチャートであり、ドリップコーヒーの匂い物質集合体を物質吸着膜a〜lに吸着させた場合の結果を示す。
【0172】
以上、物質吸着膜を設けたセンサ素子について実施例を用いて説明したが、本発明がこれに限定されるものではないということは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0173】
従来匂いのもととなる物質を単体でしか検出できなかったセンサ等と異なり、本発明の匂いセンサの物質吸着膜を設けたセンサ素子によるセンサは、物質が複数、複雑に混在している状態であっても、その検出パターンに基づいて匂いそのものを検出することができるという、いわば「第二の鼻」を提供することが可能となる。
【0174】
従って、本発明は化学工業などで多用されるガスセンサの代替として用いることを目的としているものではなく、例えば食品や飲料などの多種多数の化学種から構成され複雑な匂いを有する製品の品質管理や、匂い製品の官能試験の代替、文房具や日用品の匂い設計、など様々な分野で匂いそのもののパターン化、分析に用いられ得るものである。これにより、様々な状況において、匂いに基づくセンシングが可能となる。
【0175】
例えば医療分野においては現在様々な疾患治療・診断において人体の匂いを用いた技術の開発が検討されているが、そのような分野においても本発明は有効に利用可能である。
【0176】
あるいは、現在のIoT(モノのインターネット)社会においては、本発明の匂いセンサ、匂い測定システムを用いて、匂いのパターン測定により匂いを記録し、それに基づいてバーチャル空間における匂い再生システムを提供したりやユーザーが匂いを感じられないネット販売等において匂いをイメージとして表示するようなこと等も可能となる。
【符号の説明】
【0177】
100,200:匂いセンサ 101,201:センサ素子
102:センサ素子本体 103,203:物質吸着膜
205,215,225,235,245:匂いセンサ配列体
207:区画 208:小分画部
216,236:サンプル容器 1000:匂い測定システム
1001:検出部 1002:データ処理部
1003:解析部
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