特許第6883313号(P6883313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社三彩の特許一覧

<>
  • 特許6883313-鮮度保持容器、及びその製造方法 図000004
  • 特許6883313-鮮度保持容器、及びその製造方法 図000005
  • 特許6883313-鮮度保持容器、及びその製造方法 図000006
  • 特許6883313-鮮度保持容器、及びその製造方法 図000007
  • 特許6883313-鮮度保持容器、及びその製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883313
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】鮮度保持容器、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/86 20060101AFI20210531BHJP
   C04B 41/89 20060101ALI20210531BHJP
   A23L 3/26 20060101ALN20210531BHJP
【FI】
   C04B41/86 B
   C04B41/86 R
   C04B41/89 D
   !A23L3/26
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-185626(P2016-185626)
(22)【出願日】2016年9月23日
(65)【公開番号】特開2018-48049(P2018-48049A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】591013045
【氏名又は名称】株式会社三彩
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【弁理士】
【氏名又は名称】楠本 高義
(74)【代理人】
【識別番号】100203688
【弁理士】
【氏名又は名称】平松 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100199761
【弁理士】
【氏名又は名称】福屋 好泰
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100176016
【弁理士】
【氏名又は名称】森 優
(74)【代理人】
【識別番号】100185454
【弁理士】
【氏名又は名称】三雲 悟志
(74)【代理人】
【識別番号】100199831
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100129207
【弁理士】
【氏名又は名称】中越 貴宣
(72)【発明者】
【氏名】上田 和弘
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−325299(JP,A)
【文献】 特開2003−321284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/86
C04B 41/89
A23L 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器状に成形された焼成された素地と、
前記容器状の素地の内側の表面の少なくとも一部を覆い、焼成された釉薬の1層又は2層以上から成る被膜と、
を備える、生鮮食品の鮮度保持容器であって、
少なくとも1層の前記被膜が粉末状のモナズ石を10質量%以上かつ30質量%以下含有する放射性の焼成被膜であり、
前記粉末状のモナズ石は、その粒子の短径が125μmよりも大きくかつ355μm未満であり、篩にかけられたときに42メッシュ(Tyler)の篩を通過するが115メッシュ(Tyler)の篩を通過しないことを特徴とする鮮度保持容器。
【請求項2】
前記1層又は2層以上から成る被膜は、前記放射性の焼成被膜から成るか、または、放射性鉱物を実質的に含有していない非放射性の焼成被膜と前記非放射性の焼成被膜を覆うように積層された当該放射性の焼成被膜とから成り、
前記放射性の焼成被膜が、前記容器状の素地における表面の全てを覆っているか、または、当該容器状の素地における外側の底部を除く表面の全てを覆っている、請求項1に記載の鮮度保持容器。
【請求項3】
前記放射性の焼成被膜から2cm以内の位置で放射線量を測定したときに、0.2μSv/h以上の放射線量が測定される請求項1又は請求項2に記載の鮮度保持容器。
【請求項4】
前記焼成された素地がトレイ状に成形されており、
少なくとも1層の前記放射性の焼成被膜が、前記トレイ状の素地の内底面および内壁面を覆う請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鮮度保持容器。
【請求項5】
容器状に成形された素地を準備する工程と、
シリカ、アルミナ、及びアルカリ塩を混合することにより釉薬を調製する工程と、
前記釉薬を前記容器状の素地の内側の表面の少なくとも一部に1層又は2層以上塗布する工程と、
前記釉薬を塗布された前記素地を焼成する工程と、
を含む、生鮮食品の鮮度保持容器の製造方法であって、
少なくとも1層を塗布するための前記釉薬を調製する工程ではさらに粉末状のモナズ石を混合し、当該釉薬における前記モナズ石の含有量が乾燥質量にして10質量%以上かつ30質量%以下であり、
前記粉末状のモナズ石は、その粒子の短径が125μmよりも大きくかつ355μm未満であり、篩にかけられたときに42メッシュ(Tyler)の篩を通過するが115メッシュ(Tyler)の篩を通過しないことを特徴とする鮮度保持容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生鮮食品の鮮度保持容器、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線が原子や分子と衝突すると、この原子や分子が電離してマイナスイオンになり得る。また、特許文献1では、鮮度保持具が開示されている。この鮮度保持具は、天然の放射性鉱物の微粉末が混合された粘土原料の焼成物によって構成されている。特許文献1によれば、鮮度保持具を冷蔵庫内の底面に載置すると、放射性鉱物から放出されるマイナスイオンが冷蔵庫内に充満するため、冷蔵庫内に収容された肉類、魚介類などの生鮮食品の鮮度を保持することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−299424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、天然の放射性鉱物は高価であるため、その使用量を削減して製造コストを安く抑えたい。
【0005】
そこで、上記した問題に鑑み、本発明の課題は、天然の放射性鉱物を含有している容器であって、例えば家庭用の冷蔵庫内で冷蔵されている生鮮食品の鮮度を保持することに役立ちつつ、この鉱物の使用量が削減された鮮度保持容器、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するために、本発明に係る生鮮食品の鮮度保持容器は、容器状に成形された焼成された素地と、前記容器状の素地の内側の表面の少なくとも一部を覆い、焼成された釉薬の1層又は2層以上から成る被膜と、を備え、少なくとも1層の前記被膜が粉末状のモナズ石を10質量%以上かつ30質量%以下含有する。
【0007】
本発明に係る鮮度保持容器では、前記モナズ石は、篩にかけられたときに、42メッシュ(Tyler)の篩を通過するが115メッシュ(Tyler)の篩を通過しないことが好ましい。
【0008】
本発明に係る鮮度保持容器では、前記被膜から2cm以内の位置で放射線量を測定したときに、0.2μSv/h以上の放射線量が測定されることが好ましい。
【0009】
本発明に係る鮮度保持容器では、前記焼成された素地がトレイ状に成形されており、少なくとも1層の前記被膜が前記トレイ状の素地の内底面および内壁面を覆うことが好ましい。
【0010】
さらに、本発明に係る生鮮食品の鮮度保持容器の製造方法は、容器状に成形された素地を準備する工程と、シリカ、アルミナ、及びアルカリ塩を混合することにより釉薬を調製する工程と、前記釉薬を前記容器状の素地の内側の表面の少なくとも一部に1層又は2層以上塗布する工程と、前記釉薬を塗布された前記素地を焼成する工程と、を含み、少なくとも1層を塗布するための前記釉薬を調製する工程ではさらに粉末状のモナズ石を混合し、当該釉薬における前記モナズ石の含有量が乾燥質量にして10質量%以上かつ30質量%以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る鮮度保持容器の内底面に生鮮食品を載置すると、生鮮食品は、焼成された素地(以下「焼成素地」という。)を覆う被膜(以下「焼成被膜」という。)に接触しているか、又は焼成被膜の近傍にある状態に保たれる。この焼成被膜の少なくとも1層には、粉末状のモナズ石が含有されている。このため、生鮮食品は、モナズ石から放出された後にあまり減衰していない放射線にさらされ続ける。つまり、この容器における焼成素地は、モナズ石から放出される放射線に対して生鮮食品を遮蔽していない。このように焼成被膜の少なくとも1層にモナズ石を含有させることで、モナズ石の使用量が削減されていても生鮮食品を効率よく殺菌することができる。
【0012】
さらに、本発明に係る鮮度保持容器では、少なくとも1層の焼成被膜における粉末状のモナズ石の含有量が10質量%以上かつ30質量%以下であることにより、この焼成被膜上において例えば0.2〜1.0(μSv/h)程度の放射線量が測定される。この程度の量の放射線にさらされ続けることで、生鮮食品は効率よく殺菌される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る陶磁器の第1の実施形態を示す斜視図。
図2】第1の実施形態について、図1中のA−A線での端面図。
図3】本発明に係る陶磁器の第2の実施形態を示す斜視図。
図4】本発明に係る陶磁器の第3の実施形態を示す端面図。
図5】本発明に係る陶磁器の製造方法の一例を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[陶磁器]
本発明に係る鮮度保持容器として、例えば、陶磁器や琺瑯が挙げられる。以下、図1,及び図2に示す陶磁器1aを主に挙げて、本発明に係る鮮度保持容器について説明する。
【0015】
本明細書において陶磁器とは、土を練り固めた素地が施釉されて焼成されて成る焼き物である。本発明に係る陶磁器としては、例えば、施釉されたせっ器、施釉された陶器、施釉された磁器が挙げられ、土器のような施釉されてない陶磁器は含まれていない。
【0016】
陶磁器1aは、焼成素地3aと、放射性の焼成被膜(以下「放射性焼成被膜」という。)5aと、を備える。焼成素地3aは、容器状に成形されており、陶磁器1aの骨格として機能している。放射性焼成被膜5aは、容器状の焼成素地3aの内側の表面31aの少なくとも一部を覆っており、粉末状のモナズ石を含有することにより放射性を示す。
【0017】
放射性焼成被膜5aは、例えばガラス状である。また、放射性焼成被膜5aは、粉末状のモナズ石、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、アルカリ塩、及び水を含む混合物(釉薬)が焼成されて成る。
【0018】
モナズ石は、天然の放射性鉱物の一種である。市販されているため入手が容易であり、生鮮食品を殺菌する上で適度な放射線量を得やすい。モナズ石に含有されている天然放射性核種としては、例えば、トリウム系列の核種、ウラン系列の核種が挙げられる。トリウム系列の核種としては、例えば、228Ra、228Th、228Ac、208TI、212Pbなどが挙げられる。ウラン系列の核種としては、例えば、226Ra、214Bi、214Pbなどが挙げられる。なお、モナズ石は、モナザイトとも称される。
【0019】
本明細書において粉末状とは、篩にかけられたときに42メッシュ(Tyler)の篩を通過するサイズの形状をいう。つまり、本発明における粉末状のモナズ石は、その短径が355μm未満である。また、粉末状のモナズ石は、放射性焼成被膜5aの全体に満遍なく分散して封入されている。このため、放射性焼成被膜5aの表面は滑らかであり、また、生鮮食品が広範囲にわたって満遍なく殺菌されやすい。
【0020】
なお、モナズ石が42メッシュ(Tyler)の篩を通過しない場合には、モナズ石が放射性焼成被膜の表面から突出していることが多い。この場合の陶磁器では、使用時にモナズ石の粒子が放射性焼成被膜から脱落するおそれがある。この場合のモナズ石の粒子は陶磁器の製造時に釉薬に含有されている他の原料の粒子よりも大きすぎるため、釉薬の被膜からはみ出しやすいことによる。
【0021】
放射性焼成被膜5aでは、乾燥質量として、粉末状のモナズ石の含有量が10質量%以上、好ましくは15質量%以上である。なお、粉末状のモナズ石の含有量が10質量%未満である場合には、モナズ石の含有量が少なすぎて放射線量が足りないため、生鮮食品を充分に殺菌することができず、生鮮食品の鮮度を充分には保持できないおそれがある。
【0022】
放射性焼成被膜5aでは、乾燥質量として、粉末状のモナズ石の含有量が30質量%以下、好ましくは25質量%以下である。なお、粉末状のモナズ石の含有量が30質量%を超えて多い場合には、放射性焼成被膜の表面にモナズ石の粒子が多く露出するため、この粒子が放射性焼成被膜から脱落するおそれがある。陶磁器の製造時にモナズ石の含有量が多すぎる釉薬を調製しようとすると、モナズ石の粒子同士がダマを形成して他の原料と略均一に混ざりにくいことによる。また、粉末状のモナズ石の含有量が30質量%を超えて多い場合には、製造時に釉薬がガラス化しにくく素地に粘着しにくいため、陶磁器において放射性焼成被膜が焼成素地から剥離しやすくなってしまう。
【0023】
以上の構成を含んでなる陶磁器1aは、前述した発明の効果を発揮するため、生鮮食品の鮮度を保持するための用途に適している。なお、本発明における生鮮食品とは、加工食品以外の食品であり、例えば、農産物、畜産物、及び水産物からなる群より選ばれた1種以上の調理されていない食品である。農産物としては、例えば米穀、雑穀、豆類、野菜、果実が挙げられる。畜産物としては、例えば、肉類、食用鳥卵などが挙げられる。水産物としては、例えば、魚類、貝類、水産動物類、海産ほ乳動物類、海藻類などが挙げられる。
【0024】
陶磁器1aは、好ましくは、肉類、及び魚類からなる群より選ばれた1種以上の生鮮食品の鮮度を保持するために用いられる。ここでの肉類は、例えば、牛肉、豚肉、いのしし肉、馬肉、めん羊肉、やぎ肉、うさぎ肉、及び家きん肉からなる群より選ばれた1種以上の肉類であり、単に切断または薄切りされたものを含む。ここでの魚類は、例えば、淡水産魚類、さく河性さけ・ます類、にしん・いわし類、かつお・まぐろ・さば類、あじ・ぶり・しいら類、たら類、かれい・ひらめ類、及び、すずき・たい・にべ類からなる群より選ばれた1種以上の魚類であり、切り身、むき身、及び生きたものを含む。
【0025】
肉類や魚類を陶磁器1aの放射性焼成被膜5aに接触させたまま冷蔵して保管すると、肉類や魚類の鮮度が保たれやすいだけでなく、味が熟成しておいしくなりやすい。このときの冷蔵の温度は、好ましくは肉類や魚類の水分の凝固点より高温かつ4℃以下、さらに好ましくは0℃より高温かつ2℃以下である。この場合の肉類や魚類では、自己消化によりアミノ酸などの呈味成分が生成される。さらに、この肉類や魚類は、陶磁器1aにより殺菌されているため腐敗しにくく、呈味成分が雑菌により消費されにくいため呈味成分を蓄積しやすいものと推定される。
【0026】
放射性焼成被膜5aが焼成素地3aから剥離しにくいようにする観点から、粉末状のモナズ石は、篩にかけられたときに、115メッシュ(Tyler)の篩を通過しないサイズの形状であることが好ましい。つまり、本発明における粉末状のモナズ石は、その短径が125μmより大きいことが好ましい。なお、製造時に115メッシュの篩を通過するモナズ石を用いて釉薬を調製すると、モナズ石の粒子が細かすぎるためダマを形成しやすく、このダマにより釉薬が素地に粘着しにくくなるため、陶磁器において放射性焼成被膜が焼成素地から剥がれやすくなる場合があり得る。
【0027】
粉末状のモナズ石の脱落や放射性焼成被膜の剥離を避ける観点から、粉末状のモナズ石は、さらに好ましくは48〜96メッシュ(Tyler)の篩を通過するが115メッシュ(Tyler)の篩を通過しない。つまり、本発明における粉末状のモナズ石は、その短径が125μmより大きく300μm未満であることがさらに好ましい。
【0028】
陶磁器1aでは、放射性焼成被膜5aから2cm以内の位置で放射線量を測定したときに、0.2μSv/h以上の放射線量が測定されることが好ましく、0.3μSv/h以上の放射線量が測定されることがさらに好ましい。これらの場合、放射線の放出により生鮮食品の鮮度が保持されやすい。
【0029】
陶磁器1aでは、使用者の健康維持への悪影響を避ける観点から、上記と同様の条件で放射線量を測定したときに、1.0μSv/h以下の放射線量が測定されることが好ましく、0.7μSv/h以下の放射線量が測定されることがさらに好ましい。
【0030】
上記した放射線量は、放射線計(株式会社堀場製作所製、環境放射線モニタRadi(ラディ)PA−1100)を用いた測定の結果から算出される。測定する直前には、この放射線計を用いて、測定する室内での環境放射線量を測定する。その後に陶磁器1aの放射線量を測定する際には、この放射線計のセンサー部分が放射性焼成被膜5aの直上に位置するように、放射線計を放射性焼成被膜5a上に載置する。この放射線計の厚みは約2cmであるため、放射性焼成被膜5aからセンサー部分への距離は2cm以内に保たれる。この状態で1分間測定したときの測定値の最大値から環境放射線量を減じた値を、上記した放射線量として扱う。
【0031】
本陶磁器では、陶磁器1aのように、焼成素地3aがトレイ状に成形されており、放射性焼成被膜5aがトレイ状の焼成素地3aの内底面(底部33aの上面)および内壁面(側壁35aの内向きの表面)を覆っていることが好ましい。この場合、内底面上に生鮮食品を載置すると、この生鮮食品は、内底面を覆う放射性焼成被膜53aと接触しており、かつ、内壁面を覆う放射性焼成被膜55aに囲まれた状態に保たれる。この生鮮食品は、その近傍にある放射性焼成被膜53aおよび放射性焼成被膜55aから放出された放射線にさらされ続けるため、さらに効率よく殺菌されて鮮度が保持されやすい。
【0032】
上記したトレイ状の形状は、陶磁器1aのように側壁35aが低い形状であっても良いし、図3に示す陶磁器1bのように側壁35bが高い形状であっても良い。鮮度を保持すべき生鮮食品の形状や大きさに応じて、効率よく鮮度を保持できるように形状や大きさに適宜設計することができる。
【0033】
陶磁器1a強度を高める観点から、トレイ状の焼成素地3aの底部33aには、リブ37aが複数設けられていることが好ましい。同様に、トレイ状の焼成素地3bの底部33bには、リブ37bが複数設けられていることが好ましい。これらの場合には、焼成素地3a,3bが歪みの少ないものになりやすい。
【0034】
本陶磁器における焼成素地の容器状の形状としては、トレイ状の他に、例えば、皿状、椀状、鉢状、箱状、鍋状、コップ状、瓶状、壺状などの形状が挙げられる。なお、焼成素地が皿状である場合、皿状の形状のおもて側にある浅い凹状の部分の表面は、皿状の形状の内側の表面であるといえる。また、焼成素地の箱状の形状としては、例えば、弁当箱の形状、重箱の形状などが挙げられる。
【0035】
図4に示す陶磁器1cdは、本体部7と蓋部9を別体の部材として備える。本体部7は、トレイ状に成形された焼成素地3cと、非放射性の焼成被膜(以下「非放射性焼成被膜」という。)6cと、トレイ状の焼成素地3cの内側の表面31cを覆う放射性焼成被膜5cを備える。非放射性焼成被膜6cは、トレイ状の焼成素地3cのほとんど全面を覆う。また、蓋部9は、蓋状に成形された焼成素地3dと、蓋状の焼成素地3dの全面を覆う非放射性焼成被膜6dと、蓋状の焼成素地3dの内側(下側)の表面31dを覆う放射性焼成被膜5dを備える。トレイ状の形状の開口部を塞ぐように本体部7上に蓋部9が載置されたときに、焼成素地3cと焼成素地3dを合わせた形状は箱状である。
【0036】
本体部7と蓋部9の各々は、陶磁器用の素地に釉薬を二度掛けされて焼成されて成る焼き物である。また、非放射性焼成被膜6cおよび非放射性焼成被膜6dの各々は、放射性鉱物を実質的に含有しない公知の釉薬(シリカ、アルミナ、アルカリ塩、及び水を含有する混合物)が焼成されて成り、例えばガラス状である。なお、本明細書において放射性鉱物を実質的に含有しないとは、放射性鉱物の含有量が0.1質量%未満であることをいう。
【0037】
放射性焼成被膜5cおよび放射性焼成被膜5dの各々は、それぞれ粉末状のモナズ石を10〜30質量%含有する。放射性焼成被膜5cは、粉末状のモナズ石を含有する釉薬が非放射性焼成被膜6cの表面に塗布されて焼成されて成る。放射性焼成被膜5dは、モナズ石を含有する釉薬が非放射性焼成被膜6dの表面に塗布されて焼成されて成る。
【0038】
陶磁器1cdの焼成素地3cの内底面を覆う放射性焼成被膜5c上に生鮮食品を載置したときに、この生鮮食品は、放射性焼成被膜5cだけでなく放射性焼成被膜5dにも囲まれる。この場合の生鮮食品は、その上側からの方向を含めて周囲から放出される放射線にさらされ続けて、さらに効率よく殺菌され得る。また、焼成素地3cは非放射性焼成被膜6cにほとんど全面を覆われており、焼成素地3dは非放射性焼成被膜6dに全面を覆われているため、汚れを吸着しにくく、強度が補強されている。また、モナズ石を含有する放射性焼成被膜5c,5dは箱型の形状の外側の表面を実質的に覆っていないため、陶磁器1cdの製造コストは抑えられている。
【0039】
あるいは、本陶磁器における容器状の焼成素地の内側の表面では、焼成素地上に放射性焼成被膜が積層され、この放射性焼成被膜上に非放射性焼成被膜が積層されていても良い。この場合には、非放射性焼成被膜により粉末状のモナズ石の脱落がさらに抑えられる。なお、この場合の陶磁器で放射線量を測定する際には、放射線計(PA−1100)のセンサー部分が放射性焼成被膜の2cm以内かつ直上に位置するように、この放射線計を非放射性焼成被膜上に載置する。
【0040】
焼成素地、放射性焼成被膜、及び非放射性焼成被膜の各々は、後述する陶磁器の製造方法により形成されたものであることが好ましい。
【0041】
[琺瑯]
本明細書における琺瑯とは、金属製の素地が施釉されて焼成されて成る製品である。琺瑯における素地の材質としては、例えば、鉄、アルミニウムなどの金属材料が挙げられる。また、本発明に係る琺瑯は、焼成素地の材質が金属材料である点や後述する製造方法が一部異なる点を除けば、前述した本陶磁器と同様の構造や特性を有し、同様の作用効果を奏する。
【0042】
[陶磁器の製造方法]
本発明に係る陶磁器の製造方法は、陶磁器の素地を準備する工程と、釉薬を調製する工程と、釉薬を素地に塗布する工程と、釉薬を塗布された素地を焼成する工程と、を含む。以下、本陶磁器の製造方法について、図5に示す一例に基づいて説明する。
【0043】
図5に示す製造方法の一例では、素地の原料となる原土を準備する。この原土から陶磁器の素地に適した土を作るため、原土を篩に通すことにより不純物を除去したり粒子の細かさを揃えて、これにより得られる粘土を練ることにより粘土の固さを均質にする。ロクロまたは成形型などを用いる等して、この粘土を容器状、例えばトレイ状に成形する。成形された粘土を乾燥させる。乾燥した粘土を窯で素焼きすることで、陶磁器用の素地を得ることができる。原土を準備する工程、土作りする工程、成形する工程、乾燥させる工程、及び素焼きする工程の一連の流れにより、容器状に成形された陶磁器の素地を準備することができる。
【0044】
また、釉薬の原料として、粉末状のモナズ石、シリカを含有する原料、アルミナを含有する原料、及びアルカリ塩を含有する原料を準備する。シリカを含有する原料としては、例えば、珪砂、長石などが挙げられる。アルミナを含有する原料としては、例えば、カオリン、蛙目粘土、大道土などが挙げられる。アルカリ塩は、例えばアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩であり、具体例として炭酸バリウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。アルカリ塩を含有する原料としては、例えば、合成土灰、天然の松灰、マグネサイトなどが挙げられる。
【0045】
準備した釉薬の原料について、粉末状のモナズ石の含有量が乾燥質量にして10質量%以上かつ30質量%以下となる配合割合により混合する。さらに、この混合物に例えば1.5倍量の水を加えてから48〜96メッシュ(Tyler)の篩に通すなどしてダマを除いて釉薬を調製することができる。釉薬の原料を準備する工程、原料を混合して加水する工程、及びダマを除去する工程の一連の流れにより、釉薬を調製することができる。
【0046】
釉薬を容器状の素地の内側の表面の少なくとも一部に塗布(施釉)する方法としては、例えば、柄杓などを用いて釉薬を素地に流しかける方法、筆で釉薬を素地に塗りかける方法、霧吹きやスプレーガンにより釉薬を素地に吹きかける方法などが挙げられる。表面の一部に施釉する方法は、モナズ石の使用量をさらに削減できる観点から好ましい。あるいは、釉薬を素地の表面の全て、又はほとんど全てに塗布(施釉)する方法としては、例えば、大量の釉薬に素地を浸す方法が挙げられる。大量の釉薬に素地を浸す方法は、施釉する工程を簡易にできる観点から好ましい。
【0047】
釉薬を塗布された陶磁器用の素地を、焼成(本焼き)する。例えば、釉薬を塗布された素地を窯内に載置して、1,100℃以上かつ1,400℃以下の温度で18時間以上かつ24時間以下かけて焼成する。この焼成(本焼き)により、本陶磁器を得ることができる。
【0048】
釉薬を調製する工程では、加水された混合物からダマを除いて得られる液体に比重計を浮かべて、必要に応じてさらに加水することで、4℃での比重が1.26以上かつ1.53以下である釉薬を調製することが好ましい。この場合の釉薬は、適度な粘性を有するため、素地の表面に適度な厚さで塗布しやすい。この場合の釉薬の焼成被膜は、薄すぎないため、発色しやすく、粉末状のモナズ石が適度に満遍なく封入されやすい。また、この場合の釉薬の焼成被膜はぶ厚すぎないため、陶磁器の製造コストが高くなり過ぎない。
【0049】
素地を準備する工程として、出来合いの素地を入手しても良い。釉薬を調製する工程では、さらに着色剤や結晶剤が混合されても良い。着色剤としては、例えば、ベンガラ、中国黄土、酸化コバルト、酸化銅、珪酸ジルコニウムなどが挙げられる。結晶剤としては、例えば、酸化チタン、酸化ルチールなどが挙げられる。
【0050】
釉薬の二度掛けをしても良い。つまり、釉薬を素地に塗布する工程および焼成する工程において、放射性鉱物を実質的に含有しない公知の釉薬を陶磁器用の素地に塗布したものを焼成して非放射性焼成被膜を形成させてから、この非放射性焼成被膜に粉末状のモナズ石を含有する釉薬を塗布して焼成しても良い。あるいは、粉末状のモナズ石を含有する釉薬を陶磁器用の素地に塗布して焼成して放射性焼成被膜を形成させてから、この放射性焼成被膜に放射性鉱物を実質的に含有しない公知の釉薬を塗布して焼成しても良い。必要に応じて、釉薬を三度以上掛けても良い。
【0051】
[琺瑯の製造方法]
本発明に係る琺瑯の製造方法は、琺瑯の素地を準備する工程と、釉薬を調製する工程と、釉薬を素地に塗布する工程と、釉薬を塗布された素地を焼成する工程と、を含む。本琺瑯の製造方法は、前述した本陶磁器の製造方法と概ね同様であるが、以下に説明する点で異なる。
【0052】
琺瑯の素地を準備する工程では、例えば、金属板を成形加工することにより金属製の素地を得る。例えば、鋼板の切片をプレス加工したり、折り曲げた鋼板の端部同士を溶接することにより、琺瑯用の素地を得ることができる。必要に応じて、金属製の素地を洗剤で洗って脱脂したり、酸で洗ったり、表面に釉薬が付着しやすいようにニッケル溶液に浸けてから中和させることが好ましい。
【0053】
釉薬を塗布された琺瑯用の素地を焼成する際には、例えば、この素地を窯内に載置して、750℃以上かつ900℃以下の温度で焼成する。この焼成により、本琺瑯を得ることができる。
【実施例】
【0054】
シリカ及びアルミナを含有する原料として、市販の長石、及び市販のフリットを準備した。アルカリ塩を含有する原料として、市販の合成土灰を準備した。着色剤として、黒色の絵の具を準備した。
【0055】
さらに、市販されている粉末状のモナズ石を準備した。なお、重量10.3g、比重1.30g/ccのこのモナズ石を直径44mm、厚さ5mmの円盤状になるようにプラスチック製の容器に入れた状態で、ガンマ核種分析装置(Ge(Li)半導体検出器、4096チャンネル波高分析器)により60分かけて核種を分析した。比重1.3の標準容積線源で較正した計数効率を用いて算出した核種の測定結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
表1中の数値の単位はBq/gである。
【0057】
次の表2に示す配合で原料を混合して、混合物の1.5倍量の水を加えて攪拌し、64メッシュ(Tyler)の篩に通してダマを除去することにより釉薬を調製した。この釉薬の4℃での比重は1.26であった。なお、表2中の数値は、釉薬における各々の原料の乾燥質量での含有量を示す。
【0058】
【表2】
【0059】
また、信楽焼き用の原土を準備して、この原土を篩に通して粘土を得た。この粘土を練ってから成形型を用いて、図1に示す陶磁器1aのように粘土をトレイ状に成形した。成形後の粘土を乾燥させ、窯内に載置して約800℃で素焼きすることで、陶磁器用の素地を得た。調製した釉薬に素地を浸すことによって、表面の全てに釉薬を塗布された素地を得た。この素地を窯内に載置して約1,250℃で20時間かけて焼成(本焼き)した。これにより、実施例に係る陶磁器を得た。
【0060】
実施例に係る陶磁器は、焼成素地と、トレイ状の焼成素地のほとんど全面を覆う放射性焼成被膜を備えており、その製造時に焼成(本焼き)されて収縮した結果、外形として幅31cm×奥行24cm×高さ6cm、厚さ0.5cmというサイズの黒色の信楽焼となった。さらに、放射線計(PA−1100)を用いて前述した方法により測定された放射線量は、0.55μSv/hであった。
【符号の説明】
【0061】
1a,1b,1cd:陶磁器(鮮度保持容器)
3a,3b,3c,3d:焼成された素地(焼成素地)
5a,5b,5c,5d:放射性の焼成された釉薬の被膜(放射性焼成被膜)
31a,31b,31c,31d:容器状の焼成素地の内側の表面
図1
図2
図3
図4
図5