特許第6883339号(P6883339)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883339
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】エジェクタ
(51)【国際特許分類】
   F04F 5/46 20060101AFI20210531BHJP
   F04F 5/20 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   F04F5/46 B
   F04F5/20 E
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-168959(P2018-168959)
(22)【出願日】2018年9月10日
(65)【公開番号】特開2020-41471(P2020-41471A)
(43)【公開日】2020年3月19日
【審査請求日】2019年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 進
(72)【発明者】
【氏名】谷 香一郎
【審査官】 井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−188099(JP,A)
【文献】 特開2008−133796(JP,A)
【文献】 特開2004−270460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04F 5/46
F04F 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロート部を有し第1方向に流体が流れる第1流路が形成されたラバールノズルと、
管状に形成されて、内部に配置された前記ラバールノズルが内面の一部に固定され、前記内面の残部と前記ラバールノズルとの間に第2流路が形成された本体と、
を備え、
前記第2流路が前記第1流路に対して前記第1方向に直交する第2方向の第1の側に位置するとしたときに、前記第1流路の下流側の端における開口が形成された第1面は、前記下流側に向かうに従い前記第1の側とは反対側の第2の側に向かうように傾斜し、
前記ラバールノズルにおける、前記開口と前記第2流路との間の第2面は、前記第2方向に沿い、
前記ラバールノズルは、前記下流側に向かうに従い前記第1流路の前記第1方向に直交する断面積が大きくなる拡径部を有し、
前記拡径部内を流れる前記流体の流速が、超音速になるエジェクタ。
【請求項2】
前記本体における前記第2の側の内面は、前記ラバールノズルよりも前記下流側に前記第1方向に対して平行に延び、
前記本体の前記第2の側の外面に固定された第1案内部材を備え、
前記第1案内部材における前記本体よりも前記下流側の外面は、前記下流側に向かうに従い前記第2の側に向かうように傾斜している請求項1に記載のエジェクタ。
【請求項3】
前記第1方向と前記第1面とがなす角度は、0°よりも大きく90°未満である請求項1又は2に記載のエジェクタ。
【請求項4】
前記ラバールノズルは、長手方向に直交する断面が矩形の角管状であり、内部に前記第1流路が形成されたノズル本体を有し、
前記スロート部は、前記ノズル本体内に形成されている請求項1から3のいずれか一項に記載のエジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
エジェクタは、水蒸気等の流体をノズルから噴流し、噴流部出口の負圧を利用して他の流体を吸引する流体ポンプであり、産業用エジェクタ等に使われている(例えば、特許文献1から3参照)。すなわち、エジェクタは、一次流を高速で噴射して、周辺の流体を二次流として吸い込む。
【0003】
また、プラントの分野、例えば炉過、蒸溜、浸透、吸収、乾操、混合、真空輸送、真空冷却、水冷却、及び脱水等の装置に、エジェクタが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−56500号公報
【特許文献2】特開2011−117349号公報
【特許文献3】特開2017−155621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のエジェクタにおいて、1次流の圧力に対する2次流の吸込み流量の変化の典型的な特性を、図7中に実線の線L1で示す。なお、図7の縦軸は、吸込み性能(Suction Performance)を表す。マッハ数が1のときに、エジェクタのスロート部に流れる流体の流量は最大になる。吸込み性能は、スロート部に流れる流体の最大流量に対する、スロート部に実際に流れる流体の流量の比のことを意味する。吸込み性能は、1以下の値になる。吸込み性能が大きくなるほど、2次流の吸込み流量が多くなる。
【0006】
線L1で示すように、1次流の圧力を大きくしていくと吸込み性能が大きくなり、2次流の吸込み流量も多くなる。しかし、1次流の圧力が圧力Pssのときに、吸い込まれた2次流の空気が閉塞してしまう。1次流の圧力をさらに大きくしていくと、1次流の圧力が圧力Pseのときに、2次流の空気の吸込み流量は少なくなり始める。さらに、1次流の圧力を大きくしていくと、1次流の圧力が圧力Peのときに、2次流の空気はエジェクタ内に入ってくることができなくなる。
【0007】
線L1で示される特性の欠点は、1次流の圧力が大きくなると吸込み性能が低下することである。点線の線L2で示す特性のように、1次流の圧力が大きくても吸込み性能が大きいことが望ましい。
一点鎖線の線L3で示す特性の欠点は、1次流の圧力が大きくても吸込み性能が閉塞まで達しないことである。線L1又は線L2で示される特性のように、吸込み性能を閉塞まで達成できることが望ましい。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、吸込み性能を向上させたエジェクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明のエジェクタは、スロート部を有し第1方向に流体が流れる第1流路が形成されたラバールノズルと、管状に形成されて、内部に配置された前記ラバールノズルが内面の一部に固定され、前記内面の残部と前記ラバールノズルとの間に第2流路が形成された本体と、を備え、前記第2流路が前記第1流路に対して前記第1方向に直交する第2方向の第1の側に位置するとしたときに、前記第1流路の下流側の端における開口が形成された第1面は、前記下流側に向かうに従い前記第1の側とは反対側の第2の側に向かうように傾斜し、前記ラバールノズルにおける、前記開口と前記第2流路との間の第2面は、前記第2方向に沿い、前記ラバールノズルは、前記下流側に向かうに従い前記第1流路の前記第1方向に直交する断面積が大きくなる拡径部を有し、前記拡径部内を流れる前記流体の流速が、超音速になることを特徴としている。
【0010】
また、上記のエジェクタにおいて、前記本体における前記第2の側の内面は、前記ラバールノズルよりも前記下流側に前記第1方向に対して平行に延び、前記本体の前記第2の側の外面に固定された第1案内部材を備え、前記第1案内部材における前記本体よりも前記下流側の外面は、前記下流側に向かうに従い前記第2の側に向かうように傾斜していてもよい。
【0011】
また、上記のエジェクタにおいて、前記第1方向と前記第1面とがなす角度は、0°よりも大きく90°未満であってもよい。
この発明によれば、第1流路内におけるスロート部よりも下流側で圧力が下がった流体を、第1の側に向かってより適切な向きで流すことにより、エジェクタの吸込み性能をさらに向上させることができる。
【0012】
また、上記のエジェクタにおいて、前記ラバールノズルは、長手方向に直交する断面が矩形の角管状であり、内部に前記第1流路が形成されたノズル本体を有し、前記スロート部は、前記ノズル本体内に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエジェクタによれば、吸込み性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態のエジェクタの斜視図である。
図2図1中の要部の拡大図である。
図3図2中の要部の断面図である。
図4】エジェクタのよどみ点の圧力に対する吸込み性能の関係を示す図である。
図5】本発明の一実施形態の変形例におけるエジェクタの斜視図である。
図6】本発明の一実施形態の変形例におけるエジェクタの斜視図である。
図7】従来のエジェクタにおける1次流の圧力に対する吸込み性能の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るエジェクタの一実施形態を、図1から図6を参照しながら説明する。
図1から図3に示すように、本実施形態のエジェクタ1は、ラバールノズル11と、チャンバー(本体)21と、案内部材26と、を備えている。なお、図1及び図2、及び後述する図5及び図6では、チャンバー21の一部を示していない。
図3に示すように、ラバールノズル11内に第1流体(流体)が流れる第1流路C1が形成され、チャンバー21内に第2流体が流れる第2流路C2が形成されている。
【0016】
ラバールノズル11は、管状部12と、突出部13と、を備えている。管状部12の形状は、特に限定されない。本実施形態では、管状部12は、長手方向に直交する断面が矩形の角管状に形成されている。管状部12内を第1流体が流れる第1方向Xは、管状部12の軸線に沿う方向である。
管状部12における、管状部12内を第1流体が流れる下流側X1の端部には、切欠き12aが形成されている。下流側X1は、第1方向Xのうちの1つの向きである。
ここで、第1流路C1に対して第2流路C2が位置する向きを、第1方向Xに直交する第2方向Yの第1の側Y1と規定する。切欠き12aは、管状部12の第1の側Y1に形成されている。
なお、第1流体としては、窒素等のガスや、燃料等が用いられる。第2流体には、空気等が挙げられる。
【0017】
突出部13は、角筒状に形成されている。突出部13の内部空間は、第1流路C1の一部を構成している。突出部13は、管状部12の下流側X1の端部における内周面に固定されている。
突出部13は、縮径部14と、拡径部15と、を備えている。
縮径部14は、下流側X1に向かうに従い、第1流路C1の第1方向Xに直交する断面積が小さくなるように形成されている。一方で、拡径部15は、下流側X1に向かうに従い、第1流路C1の第1方向Xに直交する断面積が大きくなるように形成されている。本実施形態では、拡径部15内の第1流路C1は円錐状である。拡径部15の下流側X1の端に形成された開口15aは、第1流路C1の下流側X1の端に形成された開口となる。
開口15aは、第1流路C1のうち下流側X1の端面に開口する部分である。図2に示すように、開口15aは楕円状である。
【0018】
図3に示すように、縮径部14と拡径部15との接続部分における第1流路C1として、突出部13にスロート部16が形成されている。スロート部16は、第1流路C1の中で第1方向Xに直交する断面積が最も小さい。
開口15aは、下流側X1に向かうに従い第1の側Y1に向かうように傾斜している。図3に示す、第1方向Xと開口15aとがなす角度θ1は、0°よりも大きく90°未満である。角度θ1は、第1方向Xに沿う軸線と開口15aとがなす角度であり、開口15aよりも下流側X1、かつ、軸線よりも第1の側Y1とは反対側の第2の側Y2に形成される角度である。
開口15aが第1方向Xよりも第2流路C2側に向く角度θ2は、0°よりも大きく90°未満である。なお、角度θ2は、90°から角度θ1を引いた値である。
このように構成されたラバールノズル11は、第1方向Xに沿う軸線周りに回転対称ではない。
【0019】
チャンバー21は、長手方向である第1方向Xに直交する断面が矩形の角管状(管状)に形成されている。チャンバー21の内径は、ラバールノズル11の外径よりも大きい。ラバールノズル11は、チャンバー21の内部に配置されている。チャンバー21の内面における第2の側Y2の部分(内面の一部)に、ラバールノズル11が固定されている。
前述の第2流路C2は、チャンバー21の第1の側Y1の内面(内面の残部)と、ラバールノズル11と、の間に形成されている。第2流路C2は、ラバールノズル11の開口15aに、開口15aの第1の側Y1から連通する。
チャンバー21は、ラバールノズル11よりも下流X1側に延びている。
【0020】
図1及び図2に示すように、案内部材26は、第1案内部材27と、第2案内部材28と、を備えている。
第1案内部材27は、チャンバー21の第2の側Y2の外面に固定されている。第1案内部材27は、チャンバー21よりも下流側X1に延びている。第1案内部材27におけるチャンバー21の第2の側Y2の内面に連なる外面27aは、下流側X1に向かうに従い第2の側Y2に向かうように傾斜している。
【0021】
第2案内部材28は、第1案内部材27の、第1方向X及び第2方向Yにそれぞれ直交する第3方向Zの外面に固定されている。第2案内部材28は、第1案内部材27よりも第1の側Y1にそれぞれ突出している。
【0022】
次に、以上のように構成されたエジェクタ1の動作について説明する。
ラバールノズル11の第1流路C1内に、上流側X2から第1流体を流す。第1流体はスロート部16で絞られることにより流速が速くなり、圧力が下がる。この際に、スロート部16内を流れる第1流体の流速のマッハ数が1になるように、第1流路C1内に流す第1流体の流量を調整することが好ましい。
スロート部16で絞られた第1流体は、第1流路C1内における開口15aよりも下流側X1の拡径部15内で圧力が下がる。このとき、第1流体の流速は超音速になる。開口15aは、下流側X1に向かうに従い第1の側Y1に向かうように傾斜しているため、圧力が下がった第1流体は、下流側X1に向かうに従い第1の側Y1に向かって流れる。この圧力が下がった第1流体により、第2流路C2を通して第2流体が効率的に吸い込まれる。
なお、互いに合流した第1流体及び第2流体は、案内部材26に沿って下流X1側に流れる。
以上説明したように、本実施形態のエジェクタ1によれば、エジェクタ1の吸込み性能を向上させることができる。
【0023】
角度θ1は、0°よりも大きく90°未満である。角度θ2は、0°よも大きく90°未満である。
角度θ1を0°よりも大きく90°未満にすることにより、第1流路C1内におけるスロート部16よりも下流側X1で圧力が下がった第1流体が、第1の側X1に向かってより適切な向きで流れ、エジェクタ1の吸込み性能をさらに向上させることができる。
【0024】
ここで、実施例及び比較例のエジェクタの吸込み性能をシミュレーションした結果について説明する。各エジェクタに対して、ラバールノズル内の第1流体のよどみ点の圧力を変化させて吸込み性能を算出した。
実施例のエジェクタは、角度θ1を30°、45°、60°とした。比較例のエジェクタは、角度θ1を90°とした。
シミュレーション結果を、図4に示す。図4において、横軸はよどみ点の圧力(MPa(メガパスカル))を表し、縦軸は吸込み性能を表す。よどみ点の圧力は、エジェクタをロケットに用いたときのロケット圧力になる。
なお、ラバールノズル内の第1流体のよどみ点の圧力に代えて、ラバールノズル内の第1流体の全圧等を用いてもよい。
【0025】
実線の線L11は、比較例のエジェクタを表す。二点鎖線の線L12は、角度θ1が30°である実施例のエジェクタを表す。一点鎖線の線L13は、角度θ1が45°である実施例のエジェクタを表す。点線の線L14は、角度θ1が60°である実施例のエジェクタを表す。
【0026】
比較例のエジェクタでは、よどみ点の圧力が約0.6MPaから約1.1MPaまで高くなるのに従い、吸込み性能が大きくなる。よどみ点の圧力が約1.1MPaよりも高い場合には、よどみ点の圧力が高くなるのに従い、吸込み性能が小さくなる。
一方で、実施例のエジェクタでは、よどみ点の圧力が約0.6MPaから約2.2MPaまでの範囲のいずれにおいても、比較例のエジェクタに比べて吸込み性能が大きくなる。
【0027】
よどみ点の圧力が約0.6MPaから約2.2MPaまでの範囲のいずれにおいても、角度θ1が60°であるエジェクタの吸込み性能よりも、角度θ1が30°及び45°であるエジェクタの吸込み性能が大きくなる。角度θ1が30°であるエジェクタの吸込み性能は、角度θ1が45°であるエジェクタの吸込み性能に比べて、よどみ点の圧力が約0.6MPaから約1.8MPa未満までの範囲において大きくなる。
【0028】
角度θ1は、15°以上75°以下であることが好ましく、30°以上60°以下であることがより好ましく、40°以上50°以下であることがさらに好ましい。
【0029】
比較例のエジェクタにおいて前述の吸込み性能が閉塞まで達成しないときでも、実施例のでエジェクタ1において角度θ1を0°よりも大きくすることにより、吸込み性能を閉塞まで達成することができる。角度θ1を調節することにより、エジェクタの使用用途に適した性能を得ることができる。
【0030】
なお、本実施形態では、図5に示すように、エジェクタ2が複数(この変形例では3つ)のラバールノズル11を備えてもよい。複数のラバールノズル11は、第3方向Zに並べて配置されている。なお、エジェクタが備えるラバールノズル11の数は、限定されない。
また、図6に示すように、エジェクタ3が、開口15aAが矩形状のラバールノズル11Aを備えてもよい。
【0031】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態及び変形例では、チャンバー21は、円管状等に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1,2,3 エジェクタ
11,11A ラバールノズル
15a,15aA 開口
16 スロート部
21 チャンバー(本体)
C1 第1流路
C2 第2流路
X 第1方向
X1 下流側
Y 第2方向
Y1 第1の側
θ1 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7