(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2絶縁膜が、前記グランド電極膜の前記延在方向と直交する方向の両端部の一部を露出させるように載置されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の生体情報測定シート。
前記第3絶縁膜が、前記導電性シールド膜の前記延在方向と直交する方向の両端部の一部を露出させるように載置されている、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の生体情報測定シート。
前記第2電極膜が、前記第3絶縁膜の前記延在方向と直交する方向の両端部の一部を露出させるように載置されている、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の生体情報測定シート。
前記第2電極膜からバッファを介して前記第2生体情報取得部に入力された二以上の心電図用生体電気信号の電位差から心電図を生成することを特徴とする請求項6に記載の生体情報測定装置。
前記第2電極膜からバッファを介して前記第2生体情報取得部に入力された二以上の心電図用生体電気信号を前記心電図成分と前記呼吸成分とに分離する分離フィルタを備え、
前記第2電極膜ごとに分離された前記呼吸成分を算出し、
それぞれの前記呼吸成分の位相差を算出することを特徴とする請求項6に記載の生体情報測定装置。
前記第1電極膜であって、前記延在方向の先端部に、前記延在方向と直交するように前記第1絶縁膜に載置された上背部用電極膜から入力された上背部体位用電気信号と、前記グランド電極膜もしくは前記グランドから入力されたグランド電気信号と、から人体の上背部と前記上背部用電極膜との結合状態を計測することを特徴とする請求項6または7に記載の生体情報測定装置。
前記第1電極膜であって、前記延在方向の終端部に、前記延在方向と直交するように前記第1絶縁膜に載置された腰部用電極膜から入力された腰部体位用電気信号と、前記グランド電極膜もしくは前記グランドから入力されたグランド電気信号と、から人体の腰部と前記腰部用電極膜との結合状態を計測することを特徴とする請求項6または7に記載の生体情報測定装置。
前記第1電極膜であって、前記延在方向の先端部に、前記延在方向と直交するように前記第1絶縁膜に載置された上背部用電極膜から入力された上背部体位用電気信号と、前記グランド電極膜もしくは前記グランドから入力されたグランド電気信号と、から胸部呼吸成分と上背部脈波成分とを分離する分離フィルタを備え、
分離された前記胸部呼吸成分と前記上背部脈波成分とから、胸部呼吸運動信号と上背部脈波信号を計測することを特徴とする請求項6または7に記載の生体情報測定装置。
前記心電図のR波発生時刻と前記上背部脈波信号のピーク値もしくはボトム値あるいはゼロ交差が発生する時刻との差分によって上背部脈波到達時間を計測することを特徴とする請求項12に記載の生体情報測定装置。
前記第1電極膜であって、前記延在方向の終端部に、前記延在方向と直交するように前記第1絶縁膜に載置された腰部用電極膜から入力された腰部体位用電気信号と、前記グランド電極膜もしくは前記グランドから入力されたグランド電気信号と、から腹部呼吸成分と腰部脈波成分とを分離する分離フィルタを備え、
分離された前記腹部呼吸成分と前記腰部脈波成分とから、腹部呼吸運動信号と腰部脈波信号を計測することを特徴とする請求項6または7に記載の生体情報測定装置。
前記心電図のR波発生時刻と前記腰部脈波信号のピーク値もしくはボトム値あるいはゼロ交差が発生する時刻との差分によって腰部脈波到達時間を算出することを特徴とする請求項14に記載の生体情報測定装置。
請求項13に記載された前記上背部脈波到達時間と請求項15に記載された前記腰部脈波到達時間によって、上背部と腰部との間の脈波伝播時間および上背部と腰部との間の脈波伝播速度を算出することを特徴とする生体情報測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
常時計測することが好ましい生体情報には、血圧、心電図、呼吸運動、脈動、酸素飽和度、体位情報、離床・着床行動、脈動等がある。この中で、酸素飽和度血圧については手指に嵌めるだけで容易に測定できる技術が既に商品化されており、非装着式計測へのニーズは必ずしも高くない。その他の生体情報である血圧、心電図、呼吸運動、脈動、体位情報、離床・着床行動、脈動のいずれかの測定項目について、前記したシーツやマットに備えた生体電極による非装着式の計測が試みられている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、非装着式の生体電極による計測の場合、心電図計測装置の初段回路が高感度であるため、呼吸運動、脈動、体位情報、離床・着床行動を計測するための交流信号が心電図計測信号に混入し波形歪を生じさせ、同時に計測することが困難であった。その結果、血圧との関係が報告されている心電図-脈動の時間差情報と2か所の脈動の時間差情報と脈動伝播速度情報を、非装着式の生体電極で計測した信号のみから算出することも困難であった。
【0006】
本発明は、前記背景におけるこれらの実情に鑑みてなされたものであり、心電図、呼吸運動、脈動、体位情報、離床・着床行動を同時に計測でき、かつ、心電図-脈動時間差情報と2か所の脈動の時間差情報と脈動伝播速度情報を提供できる生体情報測定シートおよび生体情報測定装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、寝具・ベッド等に使用されるシート状の生体情報測定シートであり、以下の構成からなる。
この生体情報測定シートは、人体の肩部から臀部にかけて延在するシート状の第1絶縁膜と、前記延在方向の先端部および終端部付近に、前記延在方向と直交するように前記第1絶縁膜に載置された帯状の二つの第1電極膜と、前記第1絶縁膜の前記二つの第1電極膜の間に載置されたシート状のグランド電極膜と、前記グランド電極膜の先端側と終端側を一部露出させるように前記グランド電極膜に載置されたシート状の第2絶縁膜と、からなる第1生体情報測定部を備える。
さらに、前記第2絶縁膜の前記延在方向と直交する帯状の導電性シールド膜と、前記導電性シールド膜の先端側と終端側を一部露出させるように前記導電性シールド膜に載置された帯状の第3絶縁膜と、前記第3絶縁膜の先端側と終端側を一部露出させるように前記第3絶縁膜に載置された帯状の第2電極膜と、からなる第2生体情報測定部を備える。
そして、前記第2生体情報測定部が、前記第2絶縁膜上の前記延在方向に並行して二以上載置される構成としている。
【0008】
この態様によれば、第1生体情報測定部の第1絶縁膜を測定対象である人体の肩部から臀部にかけて延在させ、延在方向の先端部および終端部付近に、延在方向と直交するように第1絶縁膜に載置された帯状の二つの第1電極膜と、前記第1絶縁膜の前記二つの第1電極膜の間に載置されたシート状のグランド電極膜を備えることで、二つの第1電極膜とグランド電極膜から、人体の肩部付近と臀部付近の変化が測定できるため、第1生体情報測定部が備えられたベッド上にいる被験者の離床・着床行動を検出することができる。
【0009】
この態様によれば、大面積の絶縁膜の上に、生体情報を検出する電極等の測定部が載置されることで、裏側へのリークする電流を抑制することができる。また、
二つの第1電極膜の間にグランド電極膜を配置し、かつ三つの電極膜全てが臥位の人体に対して並行になるように備えることで、互いの干渉を抑制できるため、信号/雑音比の高い計測をすることができる。更に、グランド電極膜の面積に比して第1電極膜の面積を十分小さくすることで、各第一電極膜近傍の局所的な生体情報を検出しやすくしている。
【0010】
この態様によれば、第2絶縁膜の延在方向と直交する帯状の導電性シールド膜と、この導電性シールド膜の先端側と終端側を一部露出させるように導電性シールド膜に載置された帯状の第3絶縁膜と、この第3絶縁膜の先端側と終端側を一部露出させるように第3絶縁膜に載置された帯状の第2電極膜と、からなる第2生体情報測定部を備えて、この第2生体情報測定部が、第2絶縁膜上の延在方向に並行して2以上載置されていることで、二つの第2電極膜から、電極間の差動電圧(電位差)が測定できるため、外部からの雑音が少ない被験者の心電図を取得することができる。
【0011】
この態様によれば、第2生体情報測定部が、大面積の第2絶縁膜上で、かつシールドとして作用するグランド電極膜上に載置されることで、裏側から混入する雑音を抑制することができるとともに、表面からのアーチファクトを除去することができるため、雑音の少ない計測をすることができる。
【0012】
加えて、第2電極膜が、第3絶縁膜上で、かつドリブンシールドとして作用する導電性シールド膜上に載置されることで、裏側へのリークする電流と表面からリークする電流とを抑制することができるため、更に雑音の少ない計測をすることができる。
【0013】
なお、ドリブンシールドとは、高入力インピーダンスを持つオペアンプ等の増幅器の入力安定性を高めるために、ガード電極として採用される技術であり、増幅器の入力部と入力部周辺の基準電位との間に発生するストレー容量やリーク電流を防止する回路技術である。
【0014】
この態様によれば、絶縁シート、導電性シート、電極を積層することで、生体情報測定シートを製作することができることから、高生産性、低コストにて生産することができる。
【0015】
この態様によれば、離床・着床等の体位情報、心電図を、互いの干渉を抑制して、独立に計測することができる。そして、この計測結果は、特定の周波数の信号を抽出・分析されることで、従来技術では困難であった心電図、呼吸運動、脈動、体位の変化、離床・着床行動を同時に計測することができる。
【0016】
前記態様において、前記第1電極膜に第4絶縁膜を載置するように構成することができる。この態様によれば、発汗時の感度の劣化を抑制することができる。
【0017】
本発明の他の態様は、前記した生体情報測定シートの態様において、前記第2絶縁膜が、前記グランド電極膜の前記延在方向と直交する方向の両端部の一部を露出させるように載置されている構成とすることができる。
【0018】
この態様によれば、グランド電極が第2絶縁膜および第2絶縁膜に載置される第2生体情報測定部を包み込むようにすることで、外部から第2生体情報測定部へ混入する雑音を除去することができるため、雑音の少ない計測をすることができる。
【0019】
本発明の他の態様は、前記した生体情報測定シートの態様において、前記第3絶縁膜が、前記導電性シールド膜の前記延在方向と直交する方向の両端部の一部を露出させるように載置する構成にすることができる。
【0020】
この態様によれば、導電性シールド膜が第3絶縁膜および第2電極膜を包み込むようにすることで、外部から第2電極膜へ混入する雑音を除去することができるため、雑音の少ない計測をすることができる。
【0021】
本発明の他の態様は、前記した生体情報測定シートの態様において、前記第2電極が、前記第3絶縁膜の前記延在方向と直交する方向の両端部の一部を露出させるように載置する構成とすることができる。
【0022】
この態様によれば、第3絶縁膜が第2電極膜を包み込むようにすることで、外部から第2電極膜へ混入する雑音を除去することができるため、雑音の少ない計測をすることができる。
【0023】
本発明の他の態様は前記した生体情報測定シートと、前記第1電極膜と前記グランド電極膜もしくは前記グランドとから検出された生体情報によって、人体の呼吸運動、脈動、体位情報、離床・着床行動に関する情報を取得する第1生体情報取得部と、前記第2電極膜と前記導電性シールド膜とから検出された生体情報によって、心電図、呼吸位相差に関する情報を取得する第2生体情報取得部と、を備えた生体情報測定装置として構成することができる。
【0024】
この態様によれば互いの干渉を抑制して独立に計測することができる第1生体情報測定部と第2生体情報測定部に対応した、呼吸運動、脈動、体位情報、離床・着床行動に関する情報を取得する第1生体情報取得部と、心電図、呼吸位相差に関する情報を取得する第2生体情報取得部と、をそれぞれ独立に備えることで、心電図、呼吸運動、脈動、体位情報、離床・着床行動を同時に計測できる。
【0025】
本発明の他の態様は、前記した生体情報測定装置の態様において、前記第2電極膜からバッファを介して前記第2生体情報取得部に入力された二以上の心電図用生体電気信号の電位差から心電図を生成するように構成することができる。
【0026】
この態様によれば、第2電極膜からの信号をバッファによって出力波形の整形や出力インピーダンスを変換するとともに、ドリブンシールドとなる導電性シールドによって雑音を減少させることで、質の高い心電図を生成することができる。なお、ドリブンシールドは、バッファからの出力波形を各第2電極膜に隣接する導電性シールド膜に帰還し実現する場合と、二つのバッファからの信号の中間電位を反転増幅して両導電性シールド膜に帰還し実現する場合がある。
【0027】
本発明の他の態様は、前記した生体情報測定装置の態様において、前記第2電極膜からバッファを介して前記第2生体情報取得部に入力された二以上の心電図用生体電気信号を前記心電図成分と前記呼吸成分とに分離する分離フィルタを備え、前記第2電極膜ごとに分離された前記呼吸成分を算出し、それぞれの前記呼吸成分の位相差を算出するように構成することができる。
【0028】
この態様によれば、心電図用の第2生体情報測定部が第2絶縁膜上の延在方向に並行して人体の胸部および腹部付近に2以上載置されていることを利用して、心電図と周波数成分が異なる呼吸成分を分離することで、胸部と腹部の呼吸運動の位相差を検出することができる。この呼吸運動の位相差は、被験者の上気道の閉塞発生等を検出することができるため、睡眠時無呼吸症候群の早期発見や治療効果の確認に寄与することができる。
【0029】
本発明の他の態様は、前記した生体情報測定装置の態様において、前記第2絶縁膜に第3電極膜を載置し、該第3電極膜を囲うように前記第2絶縁膜に第5絶縁膜を載置し、該第3電極膜と前記バッファとがドリブン・シート・グラウンド回路を介して電気的に繋がれているように構成することができる。
【0030】
非接触で心電計側を行う場合、そのインピーダンスは大きく減じられないことから取得された信号を飽和させるほど、同相雑音(コモンモードノイズ)が高い場合がある。この高い同相雑音は、ローパスフィルターやハイカットオフフィルターを使っても減じることは難しく、心電計側をする上で障害となる。
【0031】
一方、ドリブン・シート・グラウンド回路(Driven-Seat-Ground circuit:以下「DSG回路」と言う場合がある)は、心電図計測において信号ラインと接地間にノイズ源が存在するとき、信号ラインに伝達される同相雑音を減少させるために用いられている。
【0032】
この態様によれば、DSG回路を第3電極膜と前記バッファとの間に配することで、心電図計測のための増幅器に入力される同相信号の位相を反転させることでき、同相雑音を低減することができる。
【0033】
本発明の他の態様は、前記した生体情報測定装置の態様において、前記第1電極膜であって、前記延在方向の先端部に、前記延在方向と直交するように前記第1絶縁膜に載置された上背部用電極膜から入力された上背部体位用電気信号と、前記グランド電極膜もしくは前記グランドから入力されたグランド電気信号と、から人体の上背部と前記上背部用電極膜との結合状態を計測するように構成することができる。
【0034】
この態様によれば、第1電極膜とグランド電極膜もしくはグランドから、人体の肩部付近の変化が測定できるため、第1生体情報測定部が備えられたベッド上にいる被験者の離床・着床行動、仰(腹)臥位・側臥位の体位情報を検出することができる。また、離床行動情報は入院患者や高齢者の転倒リスクや徘徊の警報信号として利用できるほか、着床行動情報と組み合わせて頻尿や夜間の異常行動の検知に使用できる。仰(腹)臥位・側臥位の情報は、睡眠時無呼吸患者の睡眠姿勢の評価や指導に利用できるほか、持続時間を計測することで褥瘡予防に使用することができる。
【0035】
本発明の他の態様は、前記した生体情報測定装置の態様において、前記第1電極膜であって、前記延在方向の終端部に、前記延在方向と直交するように前記第1絶縁膜に載置された腰部用電極膜から入力された腰部体位用電気信号と、前記グランド電極膜もしくは前記グランドから入力されたグランド電気信号と、から人体の腰部と前記腰部用電極膜との結合状態を計測するように構成することができる。
【0036】
この態様によれば、第1電極膜とグランド電極膜もしくはグランドから、人体の腰部付近の変化が測定できるため、第1生体情報測定部が備えられたベッド上にいる被験者の離床・着床行動、仰(腹)臥位・側臥位の体位情報を検出することができる。離床行動情報は入院患者や高齢者の転倒リスクや徘徊の警報信号として利用できるほか、着床行動情報と組み合わせて頻尿や夜間の異常行動の検知に使用できる。仰(腹)臥位・側臥位の情報は、睡眠時無呼吸患者の睡眠姿勢の評価や指導に利用できるほか、持続時間を計測することで褥瘡予防に使用することができる。また、前記した肩部(上背部)付近の情報と組み合わせることで、情報の信頼度の向上に利用できる。
【0037】
本発明の他の態様は、前記した生体情報測定装置の態様において、前記第1電極膜であって、前記延在方向の先端部に、前記延在方向と直交するように前記第1絶縁膜に載置された上背部用電極膜から入力された上背部体位用電気信号と、前記グランド電極膜もしくは前記グランドから入力されたグランド電気信号と、から胸部呼吸成分と上背部脈波成分とを分離する分離フィルタを備え、分離された前記胸部呼吸成分と前記上背部脈波成分とから、胸部呼吸運動信号と上背部脈波信号を計測するように構成することができる。
【0038】
この態様によれば、周波数帯の異なる呼吸成分と脈波成分を分離することで、呼吸運動と脈波を計測することができる。分離フィルタは、例えば、入力された信号を、第1の周波数帯と第2の周波数帯に分離する。安静時の呼吸成分は0.15〜0.5Hzであり、一方、脈波成分は0.7〜30Hzであることから、当該分離フィルタでは、例えば、0.5Hz以上0.7Hz以下の間の所定値を境目とし、所定位置以上の帯域を第1の周波数帯(脈波成分)、所定値未満の帯域を第2の周波数帯(呼吸成分)として分離することができる。
【0039】
なお、態様にて用いられる生体情報測定シートは、下層の絶縁膜から中間層にグランド電極膜を備えた、包み込むような積層状態としており、雑音の混入やリークを防止できることから、質の高い信号が取得されるために、信号成分の分離によって信頼性の高い胸部呼吸運動信号と上背部脈波信号を計測することができる。
【0040】
また、前記態様において、前記心電図のR波発生時刻と前記上背部脈波信号のピーク値もしくはボトム値、あるいはゼロ公差が発生する時刻との差分によって上背部脈波到達時間を計測するように構成することができる。なお、R波は心電図において心臓が収縮するときの電気信号を表すものである。
【0041】
この態様によれば心電図および脈波信号を同時に計測することで、それぞれのピーク値もしくはボトム値、あるいはゼロ交差の発生時間が容易に取得できるため、脈波到達時間を計測することができる。脈波到達時間は血圧などの血行動態指標の推定に使用することができる。
【0042】
本発明の他の態様は、前記した生体情報測定装置の態様において、前記第1電極膜であって、前記延在方向の終端部に、前記延在方向と直交するように前記第1絶縁膜に載置された腰部用電極膜から入力された腰部体位用電気信号と、前記グランド電極膜もしくは前記グランドから入力されたグランド電気信号と、から腹部呼吸成分と腰部脈波成分とを分離する分離フィルタを備え、分離された前記腹部呼吸成分と前記腰部脈波成分とから、腹部呼吸運動信号と腰部脈波信号を計測するように構成することができる。
【0043】
この態様によれば、周波数帯の異なる呼吸成分と脈波成分を分離することで、呼吸運動と脈波を計測することができる。分離フィルタは、例えば、入力された信号を、第1の周波数帯と第2の周波数帯に分離する。安静時の呼吸成分は0.15〜0.5Hzであり、一方、脈波成分は0.7〜30Hzであることから、当該分離フィルタでは、例えば、0.5Hz以上0.7Hz以下の間の所定値を境目とし、所定位置以上の帯域を第1の周波数帯(脈波成分)、所定値未満の帯域を第2の周波数帯(呼吸成分)として分離することができる。
なお、態様にて用いられる生体情報測定シートは、下層の絶縁膜から中間層にグランド電極膜を備えた、包み込むような積層状態としており、雑音の混入やリークを防止できることから、質の高い信号が取得されるために、信号成分の分離によって信頼性の高い胸部呼吸運動信号と上背部脈波信号を計測することができる。
【0044】
本発明の他の態様は、前記心電図のR波発生時刻と前記腰部脈波信号のピーク値もしくはボトム値、あるいはゼロ公差が発生する時刻との差分によって腰部脈波到達時間を算出するように構成することができる。
【0045】
この態様によれば心電図および脈波信号を同時に計測することで、それぞれのピーク値もしくはボトム値、あるいはゼロ交差の発生時間が容易に取得できるため、脈波到達時間を計測することができる。脈波到達時間は血圧などの血行動態指標の推定に使用することができる。
【0046】
本発明の他の態様は、前記した生体情報測定装置の態様において、前記上背部脈波到達時間と前記腰部脈波到達時間によって、上背部と腰部との間の脈波伝播時間および上背部と腰部との間の脈波伝播速度を算出するように構成することができる。
【0047】
この態様によれば心電図および脈波信号を同時に計測することで、それぞれのピーク値もしくはボトム値の発生時間が容易に取得できるため、脈波伝播速度を算出することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明は、心電図、呼吸運動、脈動、体位情報、離床・着床行動を同時に計測できる生体情報測定シートおよび生体情報測定装置を提供することができる。詳しくは、(1)モニタ用心電図、(2)胸部の呼吸運動、(3)腹部の呼吸運動、(4)胸部−腹部間の呼吸運動位相差、(5)上背部の脈波、(6)腰部の脈波、(7)上背部の脈波到達時間、(8)腰部の脈波到達時間、(9)上背部−腰部間の脈波伝播時間、(10)上背部−腰部間の脈波伝播速度、(11)上背部の電極結合状態、(12)腰部の電極結合状態について、全項目もしくは一部項目を同時に計測できる生体情報測定シートおよび生体情報測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、図面を参照しながら、本発明の生体情報測定シートおよびこの生体情報測定シートを用いた生体情報測定装置に係る好適な実施の形態について説明する。以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。また、以下の説明の中で、肩部と上背部、臀部と腰部を同義に使う場合がある。
【0051】
本発明の一態様は、寝具・ベッド等に使用されるシート状の生体情報測定シートであり、この生体情報測定シートは、人体の肩部から臀部にかけて延在するシート状の第1絶縁膜と、前記延在方向の先端部および終端部付近に、前記延在方向と直交するように前記第1絶縁膜に載置された帯状の二つの第1電極膜と、前記第1絶縁膜の前記二つの第1電極膜の間に載置されたシート状のグランド電極膜と、前記グランド電極膜の先端側と終端側を一部露出させるように前記グランド電極膜に載置されたシート状の第2絶縁膜と、からなる第1生体情報測定部を備え、さらに、前記第2絶縁膜の前記延在方向と直交する帯状の導電性シールド膜と、前記導電性シールド膜の先端側と終端側を一部露出させるように前記導電性シールド膜に載置された帯状の第3絶縁膜と、前記第3絶縁膜の先端側と終端側を一部露出させるように前記第3絶縁膜に載置された帯状の第2電極膜と、からなる第2生体情報測定部を備え、そして、前記第2生体情報測定部が、前記第2絶縁膜上の前記延在方向に並行して二以上載置されているものであれば、その具体的態様は、いかなるものであっても構わない。
【0052】
(生体情報測定シートの説明)
はじめに、本発明に係る第1実施形態の生体情報測定シートについて、
図1〜
図3に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る生体情報測定シートの(A)分解斜視図および(B)全体斜視図であり、
図2は平面図であり、
図3は、
図2のA−A断面図である。なお、以下の説明において、
図2に示すように、人体BODYの肩部から臀部(もしくは、頭部から足部)にかけて延在する方向をX方向、このX方向に直交する方向をY方向とする。
【0053】
図1を参照すると、生体情報測定シート100は、主にシートに対する人体の結合状況を検出する第1生体情報測定部10と、主に心電図を検出する第2生体情報測定部20と、からなる。以下、第1生体情報測定部10と第2生体情報測定部20についてそれぞれ説明する。
【0054】
なお、本実施形態における測定は被験者である人体BODYが電極に直接接触することのない静電容量結合による接触を測定原理としている。従って、人体BODYは、絶縁物としての薄地の布等を介して、生体情報測定シート100に密着され、被験者の体表面に生ずる生体電気信号の変化を検出する。
【0055】
(第1生体情報測定部の説明)
第1生体情報測定部10は、最下層にシート状の第1絶縁膜11と、その上の層に二つの帯状の第1電極膜13およびシート状のグランド電極膜12と、グランド電極膜12の上の層に第2絶縁膜14が載置された多層のシートである。
【0056】
図2も合わせて参照すると、第1絶縁膜11は、X方向に対して人体BODYの肩部から臀部を被い、Y方向に対して仰臥位において両肩、両腕を被うようにサイズが設定される。このように被験者の体格に応じて第1絶縁膜11のサイズを選択することができる。第1絶縁膜11は、絶縁フィルムや、シート材への絶縁材の塗布、印刷等による積層材を用いることができる。
【0057】
次に、二つの帯状の第1電極膜13が人体BODYに対して肩部付近と臀部付近に位置し、互いに平行となるように第1絶縁膜11上にそれぞれ載置される。ここで、それぞれの第1電極膜13は、それぞれ肩部付近を上背部用電極膜13A、臀部付近を腰部用電極膜13Bとしている。このように生体信号を検出する電極を離れた位置に並行に配置し、さらに大面積の第1絶縁膜11に包み込むようにすることで、漏れ電流を防ぐとともに外部からの雑音の影響を抑制することができる。
【0058】
第1電極膜13およびグランド電極膜12は、金、銀、銅やニクロム等の金属、もしくは、カーボン、グラファイト等の炭素系材料、金属、金属酸化物等の半導体からなる粒子、アセチレン系、複素5員環系、フェニレン系、アニリン系などの導電性高分子等を選択することができる。
【0059】
上背部用電極膜13Aと腰部用電極膜13Bとの間にグランド電極膜12が配置され、グランド電極膜12上には、グランド電極膜12のX方向およびY方向の両端の面の一部が露出するように第2絶縁膜14が載置される。第2絶縁膜14は、第1絶縁膜11と同様に、絶縁フィルムや、シート材への絶縁材の塗布、印刷等による積層材を用いることができる。なお、グランド電極膜12は、グランドGNDに繋がれ零電位とされている。
【0060】
図2を参照すると、上面からは第2絶縁膜14を囲むようにグランド電極膜12が配置されているように見える。グランド電極膜12の露出した部分が第2絶縁膜14の外縁を取り囲むことによって、第1生体情報測定部10と、主に心電図を検出する第2生体情報測定部20とを交流的に分離して、それぞれの測定部が検出する信号が互いに影響することを避けることができる。
【0061】
このように構成された第1生体情報測定部10は、
図2、3に示すように、生体情報測定装置200に検出した信号を送信する。すなわち、上背部用電極膜13Aから上背部用結合状態計測モジュール210へ、腰部用電極膜13Bから腰部結合状態モジュール230へ、信号が送られる。なお、上背部用結合状態計測モジュール210と腰部結合状態モジュール230は、それぞれグランドGNDに繋がっており、このグランドGNDから混入する雑音によって、第1生体情報測定部10が受信した信号から同相雑音を除去するようにしている。
【0062】
なお、
図2では上背部用結合状態計測モジュール210と腰部結合状態モジュール230は、それぞれ独立して直接グランドGNDに繋がれているが、配線のスペースや取り回しの都合から、グランド電極膜12に繋ぐ構成とすることもできる。
【0063】
また、本実施形態では第2絶縁膜14を囲むようにグランド電極膜12が配置されている構成としているが、Y方向の外縁側については取り囲まずに、上面側からX方向の積層だけが見えるように構成しても良い。この構成では囲む場合と比べて外部からの雑音の混入は多くなる可能性があるが、製作が容易となる。
【0064】
第1生体情報測定部10の製作は、導電性糸もしくは絶縁性糸によるそれぞれの膜の縫合、または導電性接着剤もしくは絶縁性接着剤によるそれぞれの膜の接着等によって行うことができるが、それぞれの膜間の導電もしくは絶縁状態が確保されれば、特に限定はされない。ただし、被験者である人体BODYの動作によらず、確実に生体信号が検出できるように適宜選択することが好ましい。
【0065】
(第2生体情報測定部の説明)
第2生体情報測定部20は、最下層にシート状の導電性シールド膜21、25と、その上の層に帯状の第3絶縁膜22、26と、第3絶縁膜22、26の上の層に帯状の第2電極膜23、27が載置された多層のシートである。
【0066】
図2も合わせて参照して上面から見ると、第2電極膜23、27を囲むように第3絶縁膜22、26が配置され、さらに第3絶縁膜22、26を囲むように導電性シールド膜21、25が配置されている。このようにそれぞれの膜が積層されるとともに外縁を取り囲むように構成することで、漏れ電流を抑制し、外部からの雑音の混入を防止することができる。
【0067】
この第2生体情報測定部20は、第2絶縁膜14上のX方向の人体BODYの胸付近に並行して2つ配置されている。なお、第2生体情報測定部20の正確な位置やサイズは、人体BODYの体格・身長等によって適宜選択することができる。このように並行に2以上載置されていることで、二つの第2電極膜23、27と導電性シールド膜21、25から、電極間の差動電圧(電位差)が測定できるため、外部からの雑音が少ない被験者の心電図を取得することができる。
【0068】
第2生体情報測定部20が、大面積の第2絶縁膜14上で、かつドリブンシールドとして作用する導電性シールド膜21、25上に載置されることで、裏側へのリークする電流を抑制することができるとともに、表面からのアーチファクトを除去することができるため、雑音の少ない計測をすることができる。
【0069】
なお、ドリブンシールドとは、高入力インピーダンスを持つオペアンプ等の増幅器の入力安定性を高めるために、ガード電極として採用される技術であり、増幅器の入力部と入力部周辺の基準電位との間に発生するストレー容量やリーク電流を防止する回路技術である。
【0070】
ここで、第2電極膜23、27および導電性シールド膜21、25は、第1電極膜13およびグランド電極膜12と同様に、金、銀、銅やニクロム等の金属、もしくは、カーボン、グラファイト等の炭素系材料、金属、金属酸化物等の半導体からなる粒子、アセチレン系、複素5員環系、フェニレン系、アニリン系などの導電性高分子等を選択することができる。また、第3絶縁膜22、26は、第1絶縁膜11、第2絶縁膜14と同様に、絶縁フィルムや、シート材への絶縁材の塗布、印刷等による積層材を用いることができる。
【0071】
このように構成された第2生体情報測定部20は、
図3に示すように、生体情報測定装置200に検出した信号を送信する。詳しくは、第2電極膜23、27からバッファ31、41を介して心電図計測モジュール220へ信号が送られる。また心電図計測モジュール220は、抵抗32、42を介して導電性シールド膜21と繋ぐ構成としている。
【0072】
この構成では、第2電極膜23、27からの信号をバッファ31、41によって出力波形の整形や出力インピーダンスを変換するとともに、ドリブンシールドとなる導電性シールド膜21、25によって雑音を減少させることで、質の高い心電図を生成することができる。抵抗32、42は、第2電極膜23、27と導電性シールド膜21、25との間で発生するおそれがある発振を抑制するために備えている。
【0073】
なお、心電図計測モジュール220は、グランドGNDに繋がっており、このグランドGNDから混入する雑音によって、第2生体情報測定部20が受信した信号から同相雑音を除去するようにしている。
【0074】
第2生体情報測定部20の製作は、第1生体情報測定部10と同様に、導電性糸もしくは絶縁性糸によるそれぞれの膜の縫合、または導電性接着剤もしくは絶縁性接着剤によるそれぞれの膜の接着等によって行うことができるが、それぞれの膜間の導電もしくは絶縁状態が確保されれば、特に限定はされない。また、第2生体情報測定部20の第2絶縁膜14への載置においても同様としている。
【0075】
以上のように構成された生体情報測定シートは、下層側に大面積の絶縁体、グランド導体を載置して、その上に導体もしくは絶縁体を積層する構造としたことから、シートの下側への漏れ電流を防止する。また、包み込むような構成とすることで、外部からの雑音を防止する。さらに、
図2に示すように人体に対して導体が並行して配置されることで、生体情報を検出する電極相互の干渉を抑制することができる。そして、この生体情報測定シートは、簡単な構成であるため、特殊な素材や組み立て、製造を必要とせず、容易に製作することができる。
【0076】
(生体情報測定シート変形例の説明)
ここで、
図4を参照して、生体情報測定シートの変形例を説明する。本変形例は、
図1〜3にて説明した生体情報測定シート100の第1電極膜13A,13Bの上に第4絶縁膜51,52が載置されている。この態様によって、第2電極膜23,27への外部からの雑音をさらに抑制することができる。この変形例のように使用環境に応じて絶縁体を適宜追加・配置することで、より良好な信号を取得することができることは言うまでも無い。
【0077】
このように本実施形態は、心電図、呼吸運動、体位の変化、脈動を同時に計測でき、信頼性の高い検出を行えるとともに、低コストで生産性が高い生体情報測定シートを提供することができる。
【0078】
(生体情報測定装置の説明)
次に
図5〜11を参照して、本実施形態に係る生体情報測定装置について説明する。
図5は、本発明の第1実施形態に係る生体情報測定装置の概要を示すブロック図である。
図6は、本発明の第1実施形態に係る生体情報測定装置のモニタ用心電図の出力例である。
図7は、本発明の第1実施形態に係る生体情報測定装置の胸部の呼吸運動と腹部の呼吸運動の出力例である。
図8は、本発明の第1実施形態に係る生体情報測定装置のモニタ用心電図に対する上背部の脈波と腰部の脈波の出力例である。
図9は、本発明の第1実施形態に係る生体情報測定装置の上背部の脈波到達時間、腰部の脈波到達時間、上背部−腰部の脈波伝播時間、上背部−腰部の脈波伝播速度の出力例である。
図10は、本発明の第1実施形態に係る生体情報測定装置の上背部の電極結合状態と腰部の電極結合状態の出力例である。
図11は、本発明の第1実施形態に係る生体情報測定装置の胸部−腹部間の呼吸運動位相差の出力例である。
【0079】
初めに
図5を参照して、本実施形態に係る生体情報測定装置200の全体概要について説明する。なお、以下では、生体情報測定装置200が計測もしくは算出する項目を、次のような番号を付して説明する。すなわち、(1)モニタ用心電図、(2)胸部の呼吸運動、(3)腹部の呼吸運動、(4)胸部−腹部間の呼吸運動位相差、(5)上背部の脈波、(6)腰部の脈波、(7)上背部の脈波到達時間、(8)腰部の脈波到達時間、(9)上背部−腰部間の脈波到達時間、(10)上背部−腰部間の脈波伝搬速度、(11)上背部の電極結合状態、(12)腰部の電極結合状態、とする。
【0080】
図2,3において説明したように、生体情報測定シート100によって検出された生体電気信号は、生体情報測定装置200の入力インタフェースとなる上背部結合状態計測モジュール210,心電図計測モジュール220、腰部結合状態計測モジュール230に入力される。
【0081】
上背部結合状態計測モジュール210からは、(11)上背部の電極結合状態211、胸部呼吸運動用フィルタ・増幅部212を介して(2)胸部の呼吸運動213、および、上背部脈波用フィルタ・増幅部214を介して(5)上背部の脈波215が検出・計測される。
【0082】
心電図計測モジュール220からは、(1)モニタ用心電
図221、および、呼吸運動位相差用フィルタ・増幅部222を介して(4)胸部−腹部間の呼吸運動位相差223が検出・計測される。
【0083】
腰部結合状態計測モジュール230からは、腰部脈波用フィルタ・増幅部231を介して(6)腰部の脈波232、腹部呼吸運動用フィルタ・増幅部233を介して(3)腹部の呼吸運動234、および、(12)腰部の電極結合状態235が検出・計測される。
【0084】
さらに、(11)上背部の電極結合状態211の信号はA/D変換器270を介してディジタル信号となり、A/D変換の算出例を示すブロック216のように離床/着床の判別、仰・腹臥位/側臥位の判別、結合安定度の判別、体位持続時間の係数算出等の処理を行うことができる。
【0085】
さらに、(5)上背部の脈波215、(1)モニタ用心電
図221、(6)腰部の脈波232をA/D変換器270を介してディジタル化して、(5)上背部の脈波215と(6)腰部の脈波232からはピーク/ボトム/ゼロ公差時刻検出器217,236によってピーク/ボトム/ゼロ公差の時刻を検出し、(1)モニタ用心電
図221からはR波時刻検出器224によってR波の発生時刻を検出する。なお、R波は心臓が収縮するときの電気の流れをいう。
【0086】
上背部脈波のピーク/ボトム/ゼロ公差時刻とR波時刻とは時間差演算240によって発生時刻の差分をとることで(7)上背部の脈波到達時間241が算出される。同様に、腰部脈波のピーク/ボトム/ゼロ公差時刻とR波時刻とは時間差演算260によって発生時刻の差分をとることで(8)上背部の脈波到達時間261が算出される。
【0087】
また、上背部脈波のピーク/ボトム/ゼロ公差時刻と腰部脈波のピーク/ボトム/ゼロ公差時刻とから時間差・速度演算250による演算を行うことで、(9)上背部−腰部間の脈波到達時間251、(10)上背部−腰部間の脈波伝播速度252が算出される。
【0088】
そして、(12)腰部の電極結合状態235の信号はA/D変換器270を介してディジタル信号となり、A/D変換の算出例を示すブロック237のように離床/着床の判別、仰・腹臥位/側臥位の判別、結合安定度の判別、体位持続時間の係数算出等の処理を行うことができる。
【0089】
このように、本実施形態に係る生体情報測定装置200は、少なくとも(1)〜(12)の計測もしくは算出する項目を備えており、さらにこれらの検出信号についてディジタル変換を行うことで種々の判定・評価を可能としている。
【0090】
例えば、体位(側臥位か仰臥位・腹臥位か)を判別して、閉塞型の睡眠時無呼吸症候群(SAS)が発症したときに本人が仰臥位/腹臥位で寝ていたら、警報を出して、病院の看護師や自宅にいる家族に体位変換を促すように報知することができる。また、閉塞型SASの患者は50%近くが夜間に不整脈を合併しているため、この不整脈異常は心電図計測によって検知できる。前記した体位変化の異常と不整脈との合併状況を検知することで、心疾患の治療を先に行うなどの治療方針を適切に設定することができる。
【0091】
次に、生体情報測定装置200が計測もしくは算出する項目の実施例を説明する。
【0092】
((1)モニタ用心電図の出力例)
以下で説明する本実施形態における測定は、被験者である人体BODYが電極に直接接触することのない静電容量結合による接触を測定原理としていることから、人体BODYは、絶縁物としての薄地の布等を介して、生体情報測定シート100に密着され、被験者の体表面に生ずる生体電気信号の変化を検出している。
【0093】
二つの第2電極膜23、27から、心電図計測モジュール220へ入力された信号によって、二つの電極間の差動電圧(電位差)が測定されて、
図6に示すモニタ用心電図が出力される。
【0094】
図6に示すように、本実施形態は、外部からの雑音や、シート下面からの漏れ電流を極力防止するように構成された生体情報測定シートを適用することで、安定した心電図を取得することができる
【0095】
((2)胸部の呼吸運動、(3)腹部の呼吸運動の出力例)
上背部用電極膜13Aから上背部結合状態計測モジュール210へ、そして腰部用電極膜13Bから腰部結合状態計測モジュール230へ入力された信号は、フィルタによって呼吸成分が抽出され、増幅されて、
図7に示す(2)胸部の呼吸運動と(3)腹部の呼吸運動が出力される。
【0096】
この実施例では、呼吸運動は呼吸運動を停止すると、出力振幅が0に近づき小さくなることから、呼吸停止区間を設けて、計測の妥当性を確認している。
図7に示すように(2)胸部の呼吸運動、(3)腹部の呼吸運動とも、平常時の呼吸運動の区間と呼吸停止区間の出力振幅が0に近づく区間とが明確に現れている。
【0097】
このように、本実施形態は、上背部結合状態計測モジュール210および腰部結合状態計測モジュール230からの信号をフィルタによって分離し、増幅することで良好な呼吸運動のチャートを出力することができる。
【0098】
((5)上背部の脈波、(6)腰部の脈波の出力例)
上背部用電極膜13Aから上背部結合状態計測モジュール210へ、そして腰部用電極膜13Bから腰部結合状態計測モジュール230へ入力された信号は、フィルタによって脈波成分が抽出され、増幅されて、
図8に示す(5)上背部の脈波と(6)腰部の脈波が出力される。
【0099】
図8に示す実施例では、
図6に示した心臓の電気的な活動の様子である(1)モニタ用心電図の出力例も合わせて掲載した。
図8に示すように(1)モニタ用心電図のR波発生に伴い、(5)上背部の脈波から(6)腰部の脈波へと波形が推移していることが分かる。
【0100】
このように、本実施形態は、上背部結合状態計測モジュール210および腰部結合状態計測モジュール230からの信号をフィルタによって分離し、増幅することで良好な脈波のチャートを出力することができる。また、心電図と併記する処理をすることで、血流の異常を検出することができる。
【0101】
((7)上背部の脈波到達時間、(8)腰部の脈波到達時間、(9)上背部−腰部の脈波伝播時間、(10)上背部−腰部の脈波伝播速度の出力例)
図9は、
図8の時間スケールを大きくして、(1)モニタ用心電図、(5)上背部脈波、(6)腰部脈波の関係を表している。
【0102】
まず、(7)上背部の脈波到達時間は、(1)モニタ用心電図のR波発生時刻と上背部脈波信号のボトム値が発生する時刻との差分によって計測される。本実施例ではボトム値としているが、ピーク値発生時刻との差分でも良く、ピーク値発生時刻の場合には、取得した波形に基づいて、(7)上背部の脈波到達時間を算出することができる。
【0103】
次に、(8)腰部の脈波到達時間も、(7)上背部の脈波到達時間と同様に、(1)モニタ用心電図のR波発生時刻と要部脈波信号のボトム値が発生する時刻との差分によって計測される。本実施例ではボトム値としているが、ピーク値発生時刻との差分でも良く、ピーク値発生時刻の場合には、取得した波形に基づいて、(8)腰部の脈波到達時間を算出することができる。
【0104】
そして、(9)上背部−腰部の脈波伝播時間については、(5)上背部脈波と(6)腰部脈波の近接するボトム値が発生する時刻の差分によって表され、(10)上背部−腰部の脈波伝播速度については、(9)上背部−腰部の脈波伝播時間を電極間の距離で除することで算出することができる。
【0105】
このように、本実施形態では、互いに影響を受けず、外部からの雑音も抑制された脈波と心電図を同時に測定することができることから、血流の異常等を数値として算出することができるため、例えば、判定・評価等のしきい値を設けることで、異常検出の報知システムを容易に構築することができる。
【0106】
((11)上背部の電極結合状態、(12)腰部の電極結合状態の出力例)
上背部用電極膜13Aから上背部結合状態計測モジュール210へ、そして腰部用電極膜13Bから腰部結合状態計測モジュール230へ入力された信号によって、
図10に示す(11)上背部の電極結合状態、(12)腰部の電極結合状態が出力される。
【0107】
図10を参照すると、(11)上背部の電極結合状態は、人体BODYが生体情報測定シート100上に臥位の状態のときには低い電位となっており、離床したときには電位が上昇する。そして、人体BODYが寝返り動作等によって生体情報測定シート100上での動きがあったときには電極の結合状態が変化するため、電位にも変化が現れる。
【0108】
次に、(12)腰部の電極結合状態を見ると、前記した(11)上背部の電極結合状態と同様な電位の変化が見られるが、仰臥位と側臥位との電極結合状態の違いから出力される電位に差が生じ、仰臥位に比べて側臥位の方が高い電位となる。
【0109】
そして、(11)上背部の電極結合状態と(12)腰部の電極結合状態の出力を合わせて観測することで、被験者の人体BODYの着床(仰臥位か側臥位)、寝返り、離床等の状況を把握することができる。
【0110】
このように、本実施形態では、被験者の就寝状態等を上背部と腰部の電極結合状態を出力することにより観測することができるため、異常や徘徊等について早期に検出することができる。例えば、寝返りの頻度を算出して、所定のしきい値よりも少ない場合には、看護師等に報知するシステムを構築することも可能であり、細やかな介護を実現することができる。
【0111】
((4)胸部−腹部間の呼吸運動位相差の出力例)
心電図計測モジュール220からは、呼吸運動位相差用フィルタ・増幅部222を介して(4)胸部−腹部間の呼吸運動位相差が出力される。なお、(4)胸部−腹部間の呼吸運動位相差は、(2)胸部の呼吸運動、(3)腹部の呼吸運動の情報からディジタル信号処理で算出して出力することもできるが、
図11に示す本実施例のようにアナログ信号として出力することで観測者にとって見やすいチャートとすることができる。
【0112】
(4)胸部−腹部間の呼吸運動位相差の情報は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の種類の鑑別に利用できる。SASには閉そく型と中枢型、混合型があり、治療方針が異なることからこれらの医師による鑑別が必要となる。また、SASの閉そく型と混合型では、胸部の呼吸運動と腹部の呼吸運動が逆相になることが知られている。
【0113】
図11において、右側の「胸部−腹部逆相 呼吸運動(閉そく模擬)指示期間」は、閉そく型睡眠時無呼吸症候群を模擬して、被験者が意図的に気道を閉そくし、かつ、呼吸運動を行った場合の出力結果となる。
【0114】
図11を参照して、通常の呼吸運動(胸部−腹部同相 呼吸運動指示期間)と、閉そく模擬(腹部−右側の胸部−腹部逆相 呼吸運動指示期間)とを比較すると、振幅に大きな差異を生じており、異常を容易に検出することができる。
【0115】
閉塞型SASの患者では50%近くが夜間に不整脈を合併する。不整脈の合併は治療方針に影響し(心疾患の治療を先に行うなど)、不整脈は心電図計測でのみ検知でき、閉塞型のSAS患者に対しては夜間に心電図を計測することが効果的となる。
【0116】
図11に示す本実施例では、閉塞型のSASかどうかを、腹部と胸部の呼吸運動(の位相差)の計測にて容易に判定できることから、(4)胸部−腹部間の呼吸運動位相差の出力と(1)モニタ用心電図の出力と、を同時計測できる本実施形態は、閉塞型SASの検知と検知後の治療方針の決定に有用となる。
【0117】
さらに軽度の閉塞型SASでは、側臥位をとることでAHI(睡眠時無呼吸の重症度の指標)が50%程度の症例で改善することから、(4)胸部−腹部間の呼吸運動位相差の出力と(11)上背部の電極結合状態、(12)腰部の電極結合状態の出力と、を同時計測することで、閉塞型SASが発症したときに本人が仰臥位/腹臥位で寝ていたら、病院の看護師や自宅の家族に向けて警報を出して、被験者の体位変換を促すシステムを構築することもできる。
【0118】
また、(4)胸部−腹部間の呼吸運動位相差の出力情報からAHIを算出できるため、体位によるAHIへの影響の評価を行うことができる。
【0119】
このように、本実施形態では、(4)胸部−腹部間の呼吸運動位相差の情報だけで無く、心電図や体位の状態等と併せて観測することで、看護師等に報知するシステムを構築することも可能であり、細やかな介護を実現することができる。
【0120】
(第2実施形態)
次に、
図12を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
図12は、本発明の第2実施形態に係る生体情報測定シートの一例の説明図である。本発明の第2実施形態は、計測時の同相雑音を抑制するための構成を第1実施形態に付加した実施形態であり、その他の構成については第1実施形態と同じであるため、以下の説明において、第1実施形態と重複する構成についてはその説明を省略する。
【0121】
図12を参照すると、本実施形態に係る生体情報測定シート300は、第1実施形態で説明した生体情報測定シート100の二つの第2生体情報測定部20、20の間の第2絶縁膜14の上にさらに第3電極膜61を載置し、この第3電極膜61を囲うように第2絶縁膜14の上に第5絶縁膜71を載置している。第3電極膜61とバッファ31,41はDSG(ドリブン・シート・グラウンド)回路75を介して電気的に繋がれている。ここで、DSG回路75の配置は二つの第2生体情報測定部20、20の間の第2電極膜14の上に限定されることはない。
【0122】
DSG回路75は、心電図計測において信号ラインと接地間にノイズ源が存在するとき、信号ラインに伝達される同相雑音を減少させるために用いられるフィードバック回路である。
図12の矢印Xで示すように、バッファ31,41からの信号がDSG回路75に送られる。これらの信号はDSG回路75にて加算されて、第3電極膜61へ矢印Yで示すように負帰還されている。
【0123】
非接触で心電計側を行う場合、そのインピーダンスは大きく減じられないことから取得された信号を飽和させるほど、同相雑音(コモンモードノイズ)が高くなるときがある。この高い同相雑音は、ローパスフィルターやハイカットオフフィルターを付加しても減じることは難しく、心電計側をする上で障害となる。しかしながら、本実施形態によれば、DSG回路75を第3電極膜61とバッファ31,41との間に配して、第3電極膜61をフィードバック電極とすることで、心電図計測のための増幅器に入力される同相信号の位相を反転させることでき、同相雑音を低減することができる。
【0124】
ここで、バッファ31,41は、入力インピーダンスが高く利得が1であるボルテージフォロアを適用することが好ましい。ボルテージフォロアは、アンプの入出力インピーダンスを利用してインピーダンス変換を行う回路である。例えば、高いインピーダンスのセンサから出力されている電圧を集録するときに、入力側と出力側で分圧・分流が生じて正しい電圧を取得できないことがある。このような場合にボルテージフォロア回路を使用することで、入力回路のインピーダンスを抑えることができる。
【0125】
また、本実施形態では第2絶縁膜14の上に第3電極膜61を囲うようにさらに第5絶縁膜71を載置する構成としているが、ノイズ等を抑制する効果は多少低下するが、第5絶縁膜71を載置せずに、第2絶縁膜14の上に直接第3電極膜61のみを載置する構成とすることもできる。
【0126】
次に
図13,14を参照して、本実施形態の構成を適用した一例について説明する。
図13は、本実施形態に係る生体情報測定装置のモニタ用心電図にて計測波形の出力例である。
図14は、本実施形態に係る生体情報測定装置のモニタ用心電図の出力例である。
【0127】
図13は、本実施形態のDSG回路75を付加した場合における同相雑音に対する影響を確認した結果を、DSG回路75が無い第1実施形態の結果と比較したものである。以下ではDSG回路75が付加された本実施形態を実施例、DSG回路75を有さない実施形態を参考例として説明する。
【0128】
図13は、モニタ用心電図にて計測波形の出力について、心電図の波形が基線(一般にP波の始まりから次の始まりまでを結んだ線をいう)へ復帰する時間について、(A)参考例と(B)実施例とを比較したものである。
【0129】
試験は、3名の被験者の両肩が寝具についたタイミングSから、安定時の基線電圧の±5%に基線が収まった時間Eを基線復帰時間として評価した。
図13の縦軸方向の破線は、SとEの位置を示しており、SとEとの間隔が基線復帰時間となる。
【0130】
図13に示すように、(A)参考例と(B)実施例とを比べると、明らかに(B)実施例の方が、基線復帰時間が短縮されている。3名の被験者ごとに複数回試験を行って、基線復帰時間をまとめた結果は、以下の通りである。なお、計測時間内に基線が復帰しなかった実験は対象外とした。
第1被験者:参考例(15.94sec)、実施例(13.91sec)、
第2被験者:参考例(22.61sec)、実施例(14.11sec)、
第3被験者:参考例( 8.24sec)、実施例( 6.84sec)、
【0131】
このように、それぞれの被験者においての平均基線復帰時間は、DSG回路導入後のシステムにより短縮されていることが確認された。一つ一つの計測結果を見ると、第1、第2被験者は、全ての実験結果において、DSG回路の導入により、基線復帰時間が短縮された。しかし、第3被験者は、何回かの計測において、DSG回路導入後の基線復帰時間が導入前より延長するという結果となったが、平均としては実施例の基線復帰時間は短縮された。
【0132】
次に
図14を参照すると、DSG回路75と第3電極膜61の間にオン/オフスイッチを設けて(図示せず)、このスイッチを切り替えたときの心電図計測波形を示している。すなわち、
図13の説明において、オンはDSG回路が付加された実施例、オフはDSG回路を有さない参考例に相当する。
【0133】
図14(A)の上段に示した心電図生波形を見ると、スイッチオフからオンへ切り替え後に、大幅に同相雑音が低減している。次に
図14(A)の下段に示した移動平均波形を見ると、スイッチ切り替え前後でほぼ波形に変化は現れていない。このことから本実施形態に係る実施例が、同相雑音のみの低減を可能にしていることが示されている。
【0134】
さらに、
図14(B)は、試験中に同相雑音の電圧値制御が上手くいかず、飽和してしまった際の波形であり、(A)と比べてオフ時の同相雑音が大きな状態となっている。スイッチオフの際は、
図14(B)の下段に示した移動平均波形である心電図が確認できないのに対し、スイッチオン後は、同相雑音が低減され、心電図を確認することができている。
【0135】
治療・手術後には患者の体温回復や冬季の加温用に電気毛布が使用される。しかしながら,電気毛布は発熱させるため,心電図波形に商用電源とその高調波からなる同相雑音が重畳して、波形が歪むことや信号雑音比(SNR)の低下の問題が生じていた。この状況は、
図13の参考例や、
図14のオフ時の状態となる。
しかしながら、本実施形態に係る生体情報測定シート300によればDSG回路を付加することで、同相雑音を低減することができ、良好な心電計側を実現できる。
【0136】
以上で説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、
図5に示すようにA/D変換を行うことで、時間を基準とした種々のディジタル信号処理を行うことができるため、各出力値との関連性の解析を通じて、新たな指標や、その指標に基づく報知システム等の構築に応用することもできる。
【0137】
また、静電容量結合は、汗や失禁等の水分等が介在することによっても変化を計測することができる。このような水分量による静電容量結合の変化は一例であって、本発明は、実施行為の蓄積によって、新たな状態量に係る情報を取得することができる。