(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アセチルコリンの阻害剤を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物であって、該アセチルコリンの阻害剤が、1または2個の第三級アミノ基と該第三級アミノ基の窒素に結合する炭素数2〜9個のアルキル鎖を含む構造を有する化合物であり、該窒素が正電荷を有している、組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、アトピー性皮膚炎の詳細な発症メカニズムは明らかになっていなかったため、アトピー性皮膚炎に対する有効な治療標的も見出されずにいた。それゆえ、アトピー性皮膚炎を有効に治療することができなかった。本発明の目的は、アトピー性皮膚炎を有効に治療する新規治療薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アトピー性皮膚炎の発症の原因として、アセチルコリン濃度の亢進が深く関与していることを新たに見出し、アセチルコリンの阻害剤をアトピー性皮膚炎の予防/治療のための有効成分として提供することによって、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
アセチルコリンの阻害剤を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物。
(項目2)
前記アセチルコリンの阻害剤が、抗コリン作用物質、アセチルコリンエステラーゼ、アセチルコリンエステラーゼをコードする核酸、アセチルコリン受容体へのアセチルコリンの結合を遮断する抗体、アセチルコリン受容体へのアセチルコリンの結合を遮断する抗体をコードする核酸、アセチルコリン受容体に対する抗体、アセチルコリン受容体に対する抗体をコードする核酸、アセチルコリン受容体遺伝子の発現阻害剤、および、コリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤からなる群から選択される、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記アセチルコリンの阻害剤が、抗コリン作用物質である、項目1に記載の組成物。
(項目4)
ピオクタニンを含まない、項目1に記載の組成物。
(項目5)
前記抗コリン作用物質が、アセチルコリン受容体のアンタゴニストである、項目3に記載の組成物。
(項目6)
前記アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、トリヘキシフェニジル塩酸塩、ブチルスコポラミン臭化物、ピレンゼピン塩酸水和物、臭化イプラトロピウム、臭化オキシトロピウム、臭化チオトロピウム、アトロピン硫酸塩、トロピカミド、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ジシクロベリン、オキシブチニン塩酸塩、シクロペントラート塩酸塩、酒石酸トルテロジン、コハク酸ソリフェナシン、臭化水素酸ダイフェナシン、塩酸メベベリン、塩酸プロシクリジン、アクリジニウム臭化物、プロパンテリン臭化物、スコポラミン臭化水素酸塩水和物、臭化メトスコポラミン、メベンゾラート臭化物、臭化メタンテリニウム、オルフェナドリンクエン酸塩、ホマトロピン臭化物水素塩、プリフィニウム臭化物、メチキセン塩酸塩、臭化エチルピペタナート、塩酸アジフェニン、マザチコール塩酸塩水和物、塩化ユートロピン、イミダフェナシン、フェソテジンフマル酸、スキサメトニウム塩化物水和物、デカメトニウム臭化物、ベクロニウム臭化物、パンクロニウム臭化物、d−ツボクラリン塩化物塩酸水和物、ガラミントリエチオダイド、塩酸メカミラミン、カンシル酸トリメタファン、臭化ヘキサメトニウム、アトラクリウムベシル酸、塩化ドキサクリウム、塩化ミバクリウム、18−メトキシコロナリジン、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、メチルリカコチニン、α−ブンガロトキシン、α−コノトキシンG1、ベンゾキノニウム、およびbPiDDBならびに抗コリン作用を有するこれらの物質のアナログ、類似体、または誘導体からなる群から選択される、項目5に記載の組成物。
(項目7)
前記抗コリン作用物質が、アセチルコリン受容体のパーシャルアゴニストまたはインバースアゴニストである、項目3に記載の組成物。
(項目8)
前記抗コリン作用物質が、TAB、Hexyl−TAB、サブコメリンおよびミラメリンならびに抗コリン作用を有するこれらの物質のアナログ、類似体、または誘導体からなる群から選択されるアセチルコリン受容体のパーシャルアゴニストである、項目7に記載の組成物。
(項目9)
前記抗コリン作用物質が、ピレンゼピンおよび抗コリン作用を有するこれらの物質のアナログ、類似体、または誘導体からなる群から選択されるアセチルコリン受容体のインバースアゴニストである、項目7に記載の組成物。
(項目10)
前記抗コリン作用物質が、1〜2個以上の第三級アミノ基とこれに結合する炭素数1〜9個のアルキル鎖を含む構造を有する化合物である、項目3に記載の組成物。
(項目11)
前記アルキル鎖の炭素数が1〜6個である、項目10に記載の組成物。
(項目12)
前記第三級アミノ基の窒素上の3個の置換基がメチル基である、項目10に記載の組成物。
(項目13)
前記アセチルコリンの阻害剤が、アセチルコリンエステラーゼである、項目1に記載の組成物。
(項目14)
前記アセチルコリンの阻害剤が、アセチルコリン受容体へのアセチルコリンの結合を遮断する抗体である、項目1に記載の組成物。
(項目15)
前記アセチルコリンの阻害剤が、アセチルコリン受容体遺伝子の発現阻害剤である、項目1に記載の組成物。
(項目16)
前記アセチルコリンの阻害剤が、コリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤である、項目1に記載の組成物。
【0009】
本発明は、例えば、さらに以下を提供する。
(項目A1)被験体におけるアトピー性皮膚炎を治療または予防する方法であって、該被験体にアセチルコリンの阻害剤を投与する工程を包含する、方法。
(項目A2)
前記アセチルコリンの阻害剤が、抗コリン作用物質、アセチルコリンエステラーゼ、アセチルコリンエステラーゼをコードする核酸、アセチルコリン受容体へのアセチルコリンの結合を遮断する抗体、アセチルコリン受容体へのアセチルコリンの結合を遮断する抗体をコードする核酸、アセチルコリン受容体に対する抗体、アセチルコリン受容体に対する抗体をコードする核酸、アセチルコリン受容体遺伝子の発現阻害剤、および、コリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤からなる群から選択される、項目A1に記載の方法。
(項目A3)
前記アセチルコリンの阻害剤が、抗コリン作用物質である、項目A1に記載の方法。
(項目A4)
前記アセチルコリンの阻害剤が、ピオクタニンを含まない、項目A1に記載の方法。
(項目A5)
前記抗コリン作用物質が、アセチルコリン受容体のアンタゴニストである、項目A3に記載の方法。
(項目A6)
前記アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、トリヘキシフェニジル塩酸塩、ブチルスコポラミン臭化物、ピレンゼピン塩酸水和物、臭化イプラトロピウム、臭化オキシトロピウム、臭化チオトロピウム、アトロピン硫酸塩、トロピカミド、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ジシクロベリン、オキシブチニン塩酸塩、シクロペントラート塩酸塩、酒石酸トルテロジン、コハク酸ソリフェナシン、臭化水素酸ダイフェナシン、塩酸メベベリン、塩酸プロシクリジン、アクリジニウム臭化物、プロパンテリン臭化物、スコポラミン臭化水素酸塩水和物、臭化メトスコポラミン、メベンゾラート臭化物、臭化メタンテリニウム、オルフェナドリンクエン酸塩、ホマトロピン臭化物水素塩、プリフィニウム臭化物、メチキセン塩酸塩、臭化エチルピペタナート、塩酸アジフェニン、マザチコール塩酸塩水和物、塩化ユートロピン、イミダフェナシン、フェソテジンフマル酸、スキサメトニウム塩化物水和物、デカメトニウム臭化物、ベクロニウム臭化物、パンクロニウム臭化物、d−ツボクラリン塩化物塩酸水和物、ガラミントリエチオダイド、塩酸メカミラミン、カンシル酸トリメタファン、臭化ヘキサメトニウム、アトラクリウムベシル酸、塩化ドキサクリウム、塩化ミバクリウム、18−メトキシコロナリジン、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、メチルリカコチニン、α−ブンガロトキシン、α−コノトキシンG1、ベンゾキノニウム、およびbPiDDBならびに抗コリン作用を有するこれらの物質のアナログ、類似体、または誘導体からなる群から選択される、項目A5に記載の方法。
(項目A7)
前記抗コリン作用物質が、アセチルコリン受容体のパーシャルアゴニストまたはインバースアゴニストである、項目A3に記載の方法。
(項目A8)
前記抗コリン作用物質が、TAB、Hexyl−TAB、サブコメリンおよびミラメリンならびに抗コリン作用を有するこれらの物質のアナログ、類似体、または誘導体からなる群から選択されるアセチルコリン受容体のパーシャルアゴニストである、項目A7に記載の方法。
(項目A9)
前記抗コリン作用物質が、ピレンゼピンおよび抗コリン作用を有するこれらの物質のアナログ、類似体、または誘導体からなる群から選択されるアセチルコリン受容体のインバースアゴニストである、項目A7に記載の方法。
(項目A10)
前記抗コリン作用物質が、1〜2個以上の第三級アミノ基とこれに結合する炭素数1〜9個のアルキル鎖を含む構造を有する化合物である、項目A3に記載の方法。
(項目A11)
前記アルキル鎖の炭素数が1〜6個である、項目A10に記載の方法。
(項目A12)
前記第三級アミノ基の窒素上の3個の置換基がメチル基である、項目A10に記載の方法。
(項目A13)
前記アセチルコリンの阻害剤が、アセチルコリンエステラーゼである、項目A1に記載の方法。
(項目A14)
前記アセチルコリンの阻害剤が、アセチルコリン受容体へのアセチルコリンの結合を遮断する抗体である、項目A1に記載の方法。
(項目A15)
前記アセチルコリンの阻害剤が、アセチルコリン受容体遺伝子の発現阻害剤である、項目A1に記載の方法。
(項目A16)
前記アセチルコリンの阻害剤が、コリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤である、項目A1に記載の方法。
【0010】
本発明は、例えば、さらに以下を提供する。
(項目B1)
ムスカリン性アセチルコリンの阻害剤およびニコチン性アセチルコリンの阻害剤を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物または組み合わせ物。
(項目B2)
前記ムスカリン性アセチルコリンの阻害剤が、ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストであり、前記ニコチン性アセチルコリンの阻害剤が、ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストである、項目B1に記載の組成物または組み合わせ物。
(項目B3)
前記ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、トリヘキシフェニジル塩酸塩、ブチルスコポラミン臭化物、ピレンゼピン塩酸水和物、臭化イプラトロピウム、臭化オキシトロピウム、臭化チオトロピウム、アトロピン硫酸塩、トロピカミド、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ジシクロベリン、オキシブチニン塩酸塩、シクロペントラート塩酸塩、酒石酸トルテロジン、コハク酸ソリフェナシン、臭化水素酸ダイフェナシン、塩酸メベベリン、塩酸プロシクリジン、アクリジニウム臭化物、プロパンテリン臭化物、スコポラミン臭化水素酸塩水和物、臭化メトスコポラミン、メベンゾラート臭化物、臭化メタンテリニウム、オルフェナドリンクエン酸塩、ホマトロピン臭化物水素塩、プリフィニウム臭化物、メチキセン塩酸塩、臭化エチルピペタナート、塩酸アジフェニン、マザチコール塩酸塩水和物、塩化ユートロピン、イミダフェナシン、およびフェソテジンフマル酸からなる群から選択され、
前記ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、スキサメトニウム塩化物水和物、デカメトニウム臭化物、ベクロニウム臭化物、パンクロニウム臭化物、d−ツボクラリン塩化物塩酸水和物、ガラミントリエチオダイド、塩酸メカミラミン、カンシル酸トリメタファン、臭化ヘキサメトニウム、アトラクリウムベシル酸、塩化ドキサクリウム、塩化ミバクリウム、18−メトキシコロナリジン、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、メチルリカコチニン、α−ブンガロトキシン、α−コノトキシンG1、ベンゾキノニウム、およびbPiDDBからなる群から選択される、
項目B2に記載の組成物または組み合わせ物。
(項目B4)
前記ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、コハク酸ソリフェナシン、アクリジニウム臭化物、およびスコポラミン臭化水素酸塩水和物からなる群から選択され、
前記ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、d−ツボクラリン塩化物塩酸水和物、ガラミントリエチオダイド、臭化ヘキサメトニウム、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、およびα−ブンガロトキシンからなる群から選択される、
項目B3に記載の組成物または組み合わせ物。
(項目B5)
前記ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、スコポラミン臭化水素酸塩水和物であり、前記ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、臭化ヘキサメトニウムである、項目B4に記載の組成物または組み合わせ物。
(項目B6)
前記組成物または組み合わせ物が、局所適用、経皮投与、皮内投与、皮下投与、静脈内投与、経口投与、経腸投与、経肺投与、経鼻投与、腹腔内投与、点耳、または点眼により投与されることを特徴とする、項目1〜16および項目B1〜5のいずれか1項に記載の組成物または組み合わせ物。
(項目B7)
前記ムスカリン性アセチルコリンの阻害剤および前記ニコチン性アセチルコリンの阻害剤が、同時にまたは逐次的に投与されることを特徴とする、項目1B〜6Bのいずれか1項に記載の組み合わせ物。
(項目C1)
被験体におけるアトピー性皮膚炎を治療または予防する方法であって、該被験体にムスカリン性アセチルコリンの阻害剤およびニコチン性アセチルコリンの阻害剤を投与する工程を包含する、方法。(項目C2)
前記ムスカリン性アセチルコリンの阻害剤が、ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストであり、前記ニコチン性アセチルコリンの阻害剤が、ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストである、項目C1に記載の方法。
(項目C3)
前記ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、トリヘキシフェニジル塩酸塩、ブチルスコポラミン臭化物、ピレンゼピン塩酸水和物、臭化イプラトロピウム、臭化オキシトロピウム、臭化チオトロピウム、アトロピン硫酸塩、トロピカミド、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ジシクロベリン、オキシブチニン塩酸塩、シクロペントラート塩酸塩、酒石酸トルテロジン、コハク酸ソリフェナシン、臭化水素酸ダイフェナシン、塩酸メベベリン、塩酸プロシクリジン、アクリジニウム臭化物、プロパンテリン臭化物、スコポラミン臭化水素酸塩水和物、臭化メトスコポラミン、メベンゾラート臭化物、臭化メタンテリニウム、オルフェナドリンクエン酸塩、ホマトロピン臭化物水素塩、プリフィニウム臭化物、メチキセン塩酸塩、臭化エチルピペタナート、塩酸アジフェニン、マザチコール塩酸塩水和物、塩化ユートロピン、イミダフェナシン、およびフェソテジンフマル酸からなる群から選択され、
前記ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、スキサメトニウム塩化物水和物、デカメトニウム臭化物、ベクロニウム臭化物、パンクロニウム臭化物、d−ツボクラリン塩化物塩酸水和物、ガラミントリエチオダイド、塩酸メカミラミン、カンシル酸トリメタファン、臭化ヘキサメトニウム、アトラクリウムベシル酸、塩化ドキサクリウム、塩化ミバクリウム、18−メトキシコロナリジン、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、メチルリカコチニン、α−ブンガロトキシン、α−コノトキシンG1、ベンゾキノニウム、およびbPiDDBからなる群から選択される、
項目C2に記載の方法。
(項目C4)
前記ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、コハク酸ソリフェナシン、アクリジニウム臭化物、およびスコポラミン臭化水素酸塩水和物からなる群から選択され、
前記ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、d−ツボクラリン塩化物塩酸水和物、ガラミントリエチオダイド、臭化ヘキサメトニウム、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、およびα−ブンガロトキシンからなる群から選択される、
項目C3に記載の方法。
(項目C5)
前記ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、スコポラミン臭化水素酸塩水和物であり、前記ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストが、臭化ヘキサメトニウムである、項目C4に記載の方法。
(項目C6)
前記ムスカリン性アセチルコリンの阻害剤および前記ニコチン性アセチルコリンの阻害剤が、局所適用、経皮投与、皮内投与、皮下投与、静脈内投与、経口投与、経腸投与、経肺投与、経鼻投与、腹腔内投与、点耳、または点眼により投与されることを特徴とする、項目C1〜C5のいずれか1項に方法。
(項目C7)
ムスカリン性アセチルコリンの阻害剤およびニコチン性アセチルコリンの阻害剤が、同時にまた逐次的に投与されることを特徴とする、請求項C1〜C6のいずれか1項に記載の方法。
【0011】
本発明において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組成物および/または方法は、アセチルコリン受容体の阻害剤を有効成分として提供することによって、これまで有効に治療することが困難であったアトピー性皮膚炎を治療することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0015】
(用語の定義)
「アトピー性皮膚炎」とは、本明細書で使用される場合、痒疹を伴う皮膚炎であり、寛解、憎悪を繰り返す慢性、反復性の経過を特徴とする。多くは、アレルギー性の喘息、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性結膜炎などを家系に有し、および/またはIgE抗体を産生しやすい素因であるアトピー素因を背景に発症する。
【0016】
「アセチルコリン」とは、本明細書で使用される場合、副交感神経や運動神経の末端から放出される、式CH
3COO(CH
2)
2N
+(CH
3)
3で示される神経伝達物質をいう。AChと略記される。アセチルコリンは、ニューロン全体に分布しているが、神経終末で濃度が最も高い。アセチルコリンエラステラーゼ(AChE)により、細胞外に放出されたアセチルコリンをコリンと酢酸に分解する。そのため、細胞外に放出されたアセチルコリンの影響が迅速に消失される。分解されたコリンは再度細胞内に取り込まれ、アセチルコリンの産生に再利用される。
【0017】
「アセチルコリンの阻害剤」とは、本明細書で使用される場合、アセチルコリンの機能を直接的または間接的に阻害する分子をいう。したがって、アセチルコリンの阻害剤としては、例えば、アセチルコリンを阻害する化合物、抗コリン作用物質、アセチルコリンエステラーゼ(もしくはこれをコードする核酸)、アセチルコリン受容体に対する抗体(もしくはこれをコードする核酸)、アセチルコリン受容体の遺伝子発現阻害剤(例えば、アセチルコリン受容体をコードする遺伝子に対するsiRNA、アンチセンス核酸、リボザイム)、または、コリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤、代表的には、コリンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現阻害剤(例えば、遺伝子に対するsiRNA、アンチセンス核酸、リボザイム)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
「抗コリン作用物質」とは、本明細書で使用される場合、アセチルコリン受容体に作用することで、神経伝達物質であるアセチルコリンの作用を部分的または完全に阻害する物質をいう。抗コリン作用物質としては、例えば、アセチルコリン受容体のアンタゴニストが挙げられる。また、アセチルコリン受容体のアゴニストの場合でも、結果的に抑制方向に働くもの(例えば、パーシャルアゴニスト、インバースアゴニスト)であれば、抗コリン作用物質として使用することができる。
【0019】
「アセチルコリンエステラーゼ」とは、本明細書で使用される場合、神経伝達物質として放出されたアセチルコリンをコリンと酢酸に分解し、アセチルコリンの作用を消去する役割を果たす酵素をいう。このような酵素活性から、アセチルコリンエステラーゼは、アセチルコリンの阻害剤としての機能を発揮することができる。AChEと略記される。
【0020】
「アセチルコリン受容体へのアセチルコリンの結合を遮断する抗体」とは、本明細書で使用される場合、アセチルコリンとの結合に関与するアセチルコリン受容体の特定の部分(もしくはその近傍)に特異的に結合することにより、アセチルコリンのアセチルコリン受容体への結合を遮断することができる抗体をいう。このような抗体は、アセチルコリンの作用を阻害することができる。あるいは、「アセチルコリン受容体へのアセチルコリンの結合を遮断する抗体」は、アセチルコリンに結合する抗体であって、アセチルコリンとアセチルコリン受容体との結合を阻害する抗体であってもよい。
【0021】
「siRNA」とは、本明細書で使用される場合、15〜40塩基からなる二本鎖RNA部分を有するRNA分子であり、前記siRNAのアンチセンス鎖と相補的な配列をもつ標的遺伝子のmRNAを切断し、標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する。詳細には、本発明におけるsiRNAは、アセチルコリン受容体等をコードするmRNA中の連続したRNA配列と相同な配列からなるセンスRNA鎖と、該センスRNA配列に相補的な配列からなるアンチセンスRNA鎖とからなる二本鎖RNA部分を含むRNAである。
【0022】
「アセチルコリン受容体」とは、本明細書で使用される場合、アセチルコリンを特異的に認識して結合するタンパク質をいう。AChRと略記される。コリン作動性受容体とも呼ばれる。ニコチンがアゴニストになるものをニコチン性アセチルコリン受容体といい、ムスカリンがアゴニストとなるものをムスカリン性アセチルコリン受容体という。「ニコチン性アセチルコリン受容体」は、「ニコチン受容体」ともいい、nAChRと略記される。ニコチン性アセチルコリン受容体は、骨格筋型と神経型の2種類が知られている。骨格筋型は、運動神経終末部分の神経骨格筋接合部に存在し、神経型は、交感神経と副交感神経の節前線維終末(神経節部分)に存在する。「ムスカリン性アセチルコリン受容体」は、「ムスカリン受容体」ともいい、mAChRと略記される。ムスカリン性アセチルコリン受容体はM1〜M5までの5種類のサブタイプの存在が確認されており、この5種類のサブタイプの分布は臓器によって異なる。
【0023】
「アンタゴニスト」とは、本明細書で使用される場合、受容体に働いてリガンド(例えば、アセチルコリンのような神経伝達物質やホルモンなど)の効果を阻害する物質をいう。拮抗薬、遮断薬、ブロッカーとも呼ばれる。アンタゴニストには、受容体に結合することでリガンドの結合を妨げ、その働きを阻害する競合的拮抗薬(コンペティティブ アンタゴニスト)と、受容体とは別の場所に作用して特定のリガンドと相反する作用をもたらすことでリガンドの作用を阻害する非競合的拮抗薬(ノンコンペティティブ アンタゴニスト)とがある。
【0024】
「アゴニスト」とは、本明細書で使用される場合、受容体に働いてリガンド(例えば、アセチルコリンのような神経伝達物質またはホルモン)の効果と同様または異なる機能を示す物質をいう。作動薬、作用薬とも呼ばれる。アゴニストの中には、本来のリガンドの作用と類似した生理作用を示すものや、高濃度を適用しても本来のリガンドと比べてその作用が低いパーシャルアゴニストが存在する。また、受容体と結合することにより、本来のリガンドの生理作用と反対作用を示すインバースアゴニストも存在する。
【0025】
「コリンアセチルトランスフェラーゼ」とは、本明細書で使用される場合、アセチルCoAとコリンからアセチルコリンとCoAを生成する反応を触媒する酵素をいう。ChATと略記される。
【0026】
「コリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤」とは、コリンアセチルトランスフェラーゼによって触媒されるアセチルコリンの生成を阻害する物質をいう。コリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤としては、例えば、J. Med. Chem., 1969, vol.12, 134−38に開示される化合物、コリンアセチルトランスフェラーゼに特異的に結合することができる抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
「第三級アミノ基」とは、本明細書で使用される場合、R
3N
+−の構造を有する官能基を指す。Rは置換基を指し、置換基としては、アルキル基、アルケニル基、またはアルキニル基が挙げられる。
【0028】
「炭化水素鎖」とは、本明細書で使用される場合、炭素数1個以上のアルキル鎖、アルケニル鎖またはアルキニル鎖を指す。炭化水素鎖は直鎖状でも分岐状であってもよい。
【0029】
「アルキル」とは、本明細書で使用される場合、1個以上の炭素原子を有する飽和脂肪族炭化水素を指す。
【0030】
「アルケニル」とは、本明細書で使用される場合、1個以上の炭素原子および少なくとも1つの二重結合を有する脂肪族炭化水素を指す。
【0031】
「アルキニル」とは、本明細書で使用される場合、1個以上の炭素原子を有し、少なくとも1つの三重結合を有する脂肪族炭素基を指す。
【0032】
「アナログ」とは、親化合物に構造上類似しているが組成においてわずかに異なる化合物を指す(例えば1つの原子を異なる元素の原子に置き換える場合、または特定の官能基の存在下において、1つの官能基を別の官能基に置き換える場合など)。したがって、アナログは、基準となる親化合物に関して機能および外観は類似または同等であるが異なる構造または起原を有する化合物である。
【0033】
「類似体」とは、元の分子の機能活性に必要な分子化学構造を保持しているが、元の分子とは異なる一定の化学構造を包含する分子を意味する。
【0034】
「誘導体」とは、親化合物に構造的に類似しており、親化合物から(実際にまたは理論的に)誘導できる、化学化合物または低分子阻害物質の化学的または生物学的に改変された種類を意味する。「誘導体」は、親化合物が「誘導体」を作製するための出発原料であり得るという点で、「類似体」または「機能的類似体」と異なり、「類似体」または「機能的類似体」を作製するための出発原料としては親化合物を必ずしも使用しなくてもよい。誘導体は、親化合物と異なる化学的特性または物理的特性を有してよく、または有さなくてもよい。例えば、誘導体の方が親水性が高くてもよく、または、誘導体は親化合物と比べて変化した反応性を有してもよい。誘導体化(すなわち、化学的手段または他の手段による改変)は、分子内の1つまたは複数の部分の置換(例えば、官能基中の変化)を伴ってよい。例えば、水素をフッ素もしくは塩素などのハロゲンで置換してよく、または、ヒドロキシル基(−OH)をカルボン酸部分(−COOH)で置換してもよい。「誘導体」という用語はまた、親化合物の結合体およびプロドラッグ(すなわち、生理的条件下で元の化合物に変換され得る、化学的に改変された誘導体)も含む。例えば、プロドラッグは、活性な作用物質の不活性型でよい。生理的条件下で、プロドラッグは化合物の活性型に変換され得る。プロドラッグは、例えば、窒素原子上の1つまたは2つの水素原子をアシル基(アシルプロドラッグ)またはカルバマート基(カルバマートプロドラッグ)で置換することによって、形成することができる。プロドラッグに関するより詳細な情報は、例えば、Fleisher et al., Advanced Drug Delivery Reviews 19 (1996) 115; Design of Prodrugs, H.Bundgaard(編), Elsevier, 1985;およびH. Bundgaard, Drugs of the Future 16 (1991) 443において見出される。「誘導体」という用語はまた、親化合物のあらゆる溶媒和物、例えば、水和物または付加体(例えば、アルコールの付加体)、活性な代謝産物、および塩を説明するのにも使用される。調製され得る塩のタイプは、化合物内の部分の性質に依存する。例えば、カルボン酸基のような酸性基は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩)、ならびに生理的に許容できる四級アンモニウムイオンとの塩、ならびにアンモニアおよび生理的に許容できるトリエチルアミン、エタノールアミン、またはtris−(2−ヒドロキシエチル)アミンなどの有機アミンとの酸付加塩を形成することができる。塩基性基は、例えば、塩酸(「HCl」)、硫酸、もしくはリン酸などの無機酸と、または有機カルボン酸および酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、メタンスルホン酸酸、もしくはp−トルエンスルホン酸などのスルホン酸と酸付加塩を形成することができる。塩基性基および酸性基、例えば、塩基性窒素原子に加えてカルボキシル基を同時に含む化合物は、双性イオンとして存在することができる。塩は、当業者に公知の習慣的な方法によって、例えば、ある化合物を溶媒もしくは希釈液中の無機もしくは有機の酸もしくは塩基と混合することにより、または陽イオン交換もしくは陰イオン交換によって他の塩から得ることができる。
【0035】
「被験体」とは、本発明の治療および予防するための組成物もしくは組み合わせ物または方法の投与対象を指し、被験体としては、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ヤギ、ブタ等)が挙げられる。
【0036】
(好ましい実施形態)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。これらの実施形態について、当業者は適宜、任意の実施形態を組み合わせ得る。
【0037】
本発明は、アセチルコリンの阻害剤を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物を提供する。1つの実施形態において、アセチルコリンの阻害剤としては、抗コリン作用物質、アセチルコリンエステラーゼ、アセチルコリンエステラーゼをコードする核酸、アセチルコリン受容体へのアセチルコリンの結合を遮断する抗体、アセチルコリン受容体へのアセチルコリンの結合を遮断する抗体をコードする核酸、アセチルコリン受容体に対する抗体、アセチルコリン受容体に対する抗体をコードする核酸、およびアセチルコリン受容体をコードする遺伝子に対する発現阻害剤(例えば、遺伝子に対するsiRNA、アンチセンス核酸、リボザイム)、ならびに、コリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤、代表的には、コリンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子の発現阻害剤(例えば、遺伝子に対するsiRNA、アンチセンス核酸、リボザイム)が挙げられるが、これらに限定されない。また、好ましくは、アセチルコリンの阻害剤はピオクタニンを含まない。好ましくは、本発明の組成物は、ピオクタニンを含まない。本発明は、アセチルコリン濃度の亢進がアトピー性皮膚炎の発症の原因であることを新たに見出したことにより完成されたものである。これまで、アトピー性皮膚炎の発症メカニズムは明らかになっていなかったため、アセチルコリンの作用を阻害することで、アトピー性皮膚炎を有効に治療できたことは予想外であった。
【0038】
表皮は、物理的ダメージまたは化学的ダメージ、感染、脱水、熱損失などから身体を保護する役割がある。この役割を達成するために、半透性のバリアである角質層が形成されている。この重要なバリアを維持するために、表皮は再生と修復を繰り返す。ケラチノサイトは最終分化を経て、一連の構造タンパク質やケラチンなどを発現する。これらは線維を形成して角質層における細胞や組織の完全性を維持する。また、細胞間脂質の大部分を構成するセラミドが、ケラチノサイトの角化の過程で合成される。セラミドは、角質層における水分を保持する役割を担っており、皮膚のバリア機能の1つを構成している。表皮における細胞分化やバリア形成は様々な要因によって影響され得る。近年、神経外のコリン作動性システムが、表皮における生理機能における重要な要因であることが明らかになった。ヒトのケラチノサイトおよび内皮細胞は、アセチルコリンを合成および分解することが知られている。アセチルコリンは、ムスカリン性アセチルコリン受容体およびニコチン性アセチルコリン受容体を介して機能し、周囲の細胞で自己分泌または傍分泌される。理論に拘束されることは望まないが、本発明者らは、アトピー性皮膚炎の患者の皮膚内において、アセチルコリン濃度が亢進し、その結果アセチルコリン受容体が常時活性化状態になり、ケラチノサイトの分化異常をもたらしていることを明らかにした。ケラチノサイトの分化異常により細胞のアポトーシスが誘導されにくくなり、また角質層内のセラミドの減少が生じる。その結果、皮膚のバリア機能が低下し、皮膚の刺激に弱くなり掻破行動を繰り返しアトピー性皮膚炎が発症する。
【0039】
(抗コリン作用物質を含む組成物)
1つの態様において、本発明は、抗コリン作用物質を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物を提供する。あるいは、本発明は、抗コリン作用物質を投与する工程を包含する、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための方法を提供する。
【0040】
1つの実施形態において、抗コリン作用物質は、アセチルコリン受容体のアンタゴニストである。アセチルコリン受容体は、ムスカリン性アセチルコリン受容体とニコチン性アセチルコリン受容体とに分類される。ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストとしては、例えば、トリヘキシフェニジル塩酸塩、ブチルスコポラミン臭化物、ピレンゼピン塩酸水和物、臭化イプラトロピウム、臭化オキシトロピウム、臭化チオトロピウム、アトロピン硫酸塩、トロピカミド、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ジシクロベリン、オキシブチニン塩酸塩、シクロペントラート塩酸塩、酒石酸トルテロジン、コハク酸ソリフェナシン、臭化水素酸ダイフェナシン、塩酸メベベリン、塩酸プロシクリジン、アクリジニウム臭化物、プロパンテリン臭化物、スコポラミン臭化水素酸塩水和物、臭化メトスコポラミン、メベンゾラート臭化物、臭化メタンテリニウム、オルフェナドリンクエン酸塩、ホマトロピン臭化物水素塩、プリフィニウム臭化物、メチキセン塩酸塩、臭化エチルピペタナート、塩酸アジフェニン、マザチコール塩酸塩水和物、塩化ユートロピン、イミダフェナシン、およびフェソテジンフマル酸などが挙げられるが、これらに限定されない。ニコチン性アセチルコリン受容体としては、例えば、スキサメトニウム塩化物水和物、デカメトニウム臭化物、ベクロニウム臭化物、パンクロニウム臭化物、d−ツボクラリン塩化物塩酸水和物、ガラミントリエチオダイド、塩酸メカミラミン、カンシル酸トリメタファン、臭化ヘキサメトニウム、アトラクリウムベシル酸、塩化ドキサクリウム、塩化ミバクリウム、18−メトキシコロナリジン、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、メチルリカコチニン、α−ブンガロトキシン、α−コノトキシンG1、ベンゾキノニウム、およびbPiDDBが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
1つの実施形態において、アセチルコリン受容体のアンタゴニストは、コハク酸ソリフェナシン、アクリジニウム臭化物、スコポラミン臭化水素酸塩水和物、d−ツボクラリン塩化物塩酸水和物、ガラミントリエチオダイド、臭化ヘキサメトニウム、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、およびα−ブンガロトキシンからなる群から選択される。
【0042】
別の実施形態において、抗コリン作用物質は、アセチルコリン受容体のパーシャルアゴニストまたはリバースアゴニストである。アゴニストは、通常、受容体に結合して生体分子と同様の作用を示す物質であるが、本来の生理作用に対して部分的な生理作用を示すパーシャルアゴニストや本来の生理作用に対して反対の作用を示すインバースアゴニストは、生体分子の本来の生理作用を抑制することができるため、本発明の組成物に使用することができる。例えば、パーシャルアゴニストとして、臭化テトラメチルアンモニウム(TAB)、臭化ヘキシルトリメチルアンモニウム(Hexyl−TAB)、サブコメリン、ミラメリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、インバースアゴニストとして、ピレンゼピンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本発明の組成物において、アセチルコリンの阻害剤として使用することができるかどうかは、抗コリン作用を測定することで判断することが可能である。例えば、アセチルコリン受容体に対する抗体、またはアセチルコリン受容体をコードする遺伝子の転写を阻害する物質(例えば、アセチルコリン受容体をコードする遺伝子に対するsiRNA、アンチセンス核酸、リボザイム)を作製した場合、作製したものが本発明の組成物に使用することができるかどうかは、抗コリン作用を測定することで判断することが可能である。また、上記に列挙される抗コリン作用物質以外の物質であっても、上記抗コリン作用物質との構造類似性から抗コリン作用を有する可能性がある物質(例えば、アナログ、類似体、誘導体など)の抗コリン作用を測定し、抗コリン作用を有している場合、本発明の組成物に使用することが可能である。
【0044】
抗コリン作用を有する物質の一次スクリーニングは、Biacoreによるアセチルコリン受容体との相互作用の測定により実施することが可能である。例えば、アセチルコリン受容体をフローセルに固定化し、サンプルをフローセルに流し、センサーグラムの変化を指標としてアセチルコリン受容体に結合する物質をスクリーニングすることができる(Spurnyら、Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 May 12;112(19):E2543−52.)。一次スクリーニングによって単離した候補物質について、モルモットの回腸の懸濁物に候補物質を添加した際のアセチルコリン活性の減少を測定することにより、抗コリン作用を有するかどうかを判断することができる(Acredら、Br J Pharmacol Chemother. 1957 Dec;12(4):447−52.)。
【0045】
別の実施形態において、抗コリン作用物質は、1個以上の第三級アミノ基とこれに結合する単一の炭化水素鎖とを含む構造を有する化合物である。好ましい第三級アミノ基の数は、1〜2個であり、より好ましくは2個である。第三級アミノ基が分子内に2個存在する場合は、炭化水素鎖の両末端に存在するのが好ましい。好ましい炭化水素鎖の炭素数は、1〜9個であり、より好ましくは1〜6個である。また、炭化水素鎖は、直鎖状または分岐状のアルキル鎖、アルケニル鎖、またはアルキニル鎖であるが、好ましくは直鎖状アルキル鎖である。特定の実施形態において、第三級アミノ基の窒素上の置換基はアルキル基である。さらなる実施形態において、第三級アミノ基の窒素上の置換基は、少なくとも1個がメチル基であり、好ましくは2個がメチル基であり、最も好ましくは3個がメチル基である。第三級アミノ基の窒素は正電荷を有しており、その対イオンとしては水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい対イオンは臭化物イオンである。これらの化合物が抗コリン作用を有するかどうかは、上記に記載の周知の方法によって決定することが可能である。
【0046】
第三級アミノ基を分子内に1個有する上記化合物の例示的な構造を以下に示す。
【0048】
式中、
R
1、R
2およびR
3は炭素数1個以上のアルキル基であり、好ましくは、R
1、R
2およびR
3はそれぞれCH
3であり;
R
4は、炭素数1〜9個のアルキル鎖であり、好ましくは、炭素数1〜6個のアルキル基であり、;
X
−は、OH
−、F
−、Cl
−、Br
−、およびI
−からなる群から選択される。
【0049】
第三級アミノ基を分子内に2個有する上記化合物の例示的な構造を以下に示す。
【0051】
式中、
R
1、R
2およびR
3は炭素数1個以上のアルキル基であり、好ましくは、R
1、R
2およびR
3はそれぞれCH
3であり;
R
4は、炭素数1〜9個のアルキル鎖であり、好ましくは、炭素数1〜6個のアルキル基であり、;
X
−は、OH
−、F
−、Cl
−、Br
−、およびI
−からなる群から選択され;
R
5、R
6およびR
7は炭素数1個以上のアルキル基であり、好ましくは、R
5、R
6およびR
7はそれぞれCH
3である。
【0052】
1つの実施形態において、抗コリン物質を含む組成物の投与経路としては、局所適用、経皮投与、皮内投与、皮下投与、静脈内投与、経口投与、経腸投与、経肺投与、経鼻投与、腹腔内投与、点耳、点眼などが挙げられるが、これに限定されない。実施例において実証されるように、本発明の組成物は、投与経路に依存することがなく治療効果を発揮することができ、当業者は任意の投与経路で本発明の組成物を投与し得ることを理解する。一部の実施形態では、組成物は、局所適用または経皮投与により投与される。局所適用または経皮投与のための組成物の形態としては、軟膏、発布剤、液剤、乳剤、噴霧剤、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、粉末、油剤、フォーム剤などが挙げられるが、これらに限定されない。局所適用または経皮投与のための組成物中の抗コリン物質の含量は、抗コリン物質の種類および毒性、組成物の形態ならびに投与量に応じて、当業者であれば適宜決定することができる。以下に、局所適用される組成物中の抗コリン物質の具体的な濃度を示すが、これに限定されるものではない。例えば、特定の実施形態において、局所適用される組成物中の抗コリン物質は、約0.001〜約20重量%の濃度で含まれる。抗コリン物質の含有量が少なすぎると、アトピー性皮膚炎を十分に抑制することができない場合があり、抗コリン物質の含有量が多すぎると、毒性が生じたり、製剤化が困難になる場合がある。
【0053】
さらなる実施形態において、局所適用または経皮投与のための組成物は、抗コリン物質以外にも、経皮吸収を促進させうる薬剤や経皮吸収を促進させうる外用基剤を含んでいてもよい。経皮吸収を促進させうる薬剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウムやポリオキシエチレンエーテルなどの界面活性剤、オレイルアルコールなどのアルコール類、モノラウリン酸ソルビタンなどのソルビタンエステル類、l−メントールなどの環状モノテルペン類、尿素が挙げられる。また、本発明の組成物は、抗炎症剤、ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、保存剤、酸化防止剤、湿潤剤、ビタミン類などを含んでいてもよい。抗炎症剤としては、例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、トラネキサム酸やアラントイン、ε―アミノカプロン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
別の実施形態では、本発明の組成物は、経口投与および静脈内投与など(これらに限定されない)の全身投与によって投与され得る。実施例8において、本発明の組成物を、全身投与の一例として経口投与により投与した場合も、治療効果が発揮されることが明らかになった。当業者であれば、全身投与が達成されれば経口投与に限定されず、任意の投与経路で投与され得ることを理解する。全身投与とは、投与された化合物が全身に分布し、全身に利用可能とされ得る投与経路を指す。経口投与のための剤形としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられるが、これらに限定されない。このような剤形は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していてもよい。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウム等が用いられるが、これらに限定されない。
【0055】
静脈内投与する場合は、担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)およびこれらの混合物を含有する溶媒または分散媒であり得る。本発明の注射用の使用に適した組成物は、滅菌水溶液または分散液、あるいは滅菌注射用溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末であってもよい。微生物の作用は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、およびチメロサールなどによって防止され得る。等張剤、例えば、糖、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムを組成物に含めることが好ましい。
【0056】
経口投与または静脈内投与される抗コリン物質の投与量は、投与対象、投与される物質の種類、重篤度、剤形等によって変動し得るが、当業者であれば、適切な投与量を適宜設定することが可能である。
【0057】
別の態様において、アセチルコリンの阻害剤は、アセチルコリン受容体に対する抗体である。アセチルコリン受容体に対する抗体としては、アセチルコリン受容体へのアセチルコリンの結合を遮断するヒトモノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体(またはF(ab)
2断片、Fv断片、単鎖抗体)などが挙げられる。抗体は、キメラ化またはヒト化され得る。本明細書中、キメラ化抗体は、ヒト抗体の定常領域、およびマウス抗体など非ヒト抗体の可変領域を含む。ヒト化抗体は、ヒト抗体の定常領域およびフレームワーク可変領域(すなわち、超可変領域以外の可変領域)、ならびにマウス抗体などの非ヒト抗体の超可変領域を含む。さらなる別の実施形態において、抗体は、ファージディスプレイシステムから選択されるか、またはゼノマウスから産生されるヒト抗体などの、任意の他の手法により得られる抗体またはそれらの抗体誘導体であり得る。
【0058】
さらなる別の態様において、アセチルコリンの阻害剤は、アセチルコリン受容体の遺伝子発現阻害剤である。アセチルコリン受容体の遺伝子発現阻害剤は、本発明の組成物の有効成分として用いることができる。アセチルコリン受容体の遺伝子発現阻害剤としては、例えば、アセチルコリン受容体をコードする遺伝子に対するsiRNA、アンチセンス核酸、リボザイムが挙げられるが、siRNAが好ましい。アセチルコリン受容体をコードする遺伝子に対するsiRNAを用いれば、その発現をノックダウン(抑制)することが可能である。
【0059】
かかるsiRNAおよび後述の変異体siRNAの設計および製造は当業者の技量の範囲内である。アセチルコリン受容体の配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製することは、当業者においては、通常の試行の範囲内において適宜行い得ることである。また、該配列の転写産物であるmRNA配列から、より強いRNAi効果を有するsiRNA配列を選択することも、当業者においては、公知の方法によって適宜実施することが可能である。
【0060】
siRNAを調製する場合には、例えば、(1)GまたはCが連続して4つ以上存在しない、(2)AまたはTが連続して4つ以上存在しない、(3)GあるいはCが9塩基以上存在しない、などの条件を加えてもよい。二本鎖RNA部分の長さは、塩基として、15〜40塩基、好ましくは15〜30塩基、より好ましくは15〜25塩基、更に好ましくは18〜23塩基、最も好ましくは19〜21塩基である。これらの上限および下限は、これら特定のものに限定されず、これら列挙されているものの任意の組み合わせであってもよいことが理解される。siRNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖の末端構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平滑末端を有するものであってもよいし、突出末端(オーバーハング)を有するものであってもよく、3’端が突き出したタイプが好ましい。センスRNA鎖およびアンチセンスRNA鎖の3’末端に数個の塩基、好ましくは1〜3個の塩基、さらに好ましくは2個の塩基からなるオーバーハングを有するsiRNAは、標的遺伝子の発現を抑制する効果が大きい場合が多く、好ましいものである。オーバーハングの塩基の種類は特に制限はなく、RNAを構成する塩基あるいはDNAを構成する塩基のいずれであってもよい。好ましいオーバーハング配列としては、3’末端にdTdT(デオキシTを2bp)等を挙げることができる。例えば、好ましいsiRNAとしては、全てのsiRNAのセンス・アンチセンス鎖の、3’末端にdTdT(デオキシTを2bp)をつけているものが挙げられるがそれに限定されない。
【0061】
さらに、上記siRNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖の一方または両方において1〜数個までのヌクレオチドが欠失、置換、挿入および/または付加されているsiRNAも用いることができる。ここで、1〜数塩基とは、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜4塩基、さらに好ましくは1〜3塩基、最も好ましくは1〜2塩基である。かかる変異の具体例としては、3’オーバーハング部分の塩基数を0〜3個としたもの、3’オーバーハング部分の塩基配列を他の塩基配列に変更したもの、あるいは塩基の挿入、付加または欠失により上記センスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖の長さが1〜3塩基異なるもの、センス鎖および/またはアンチセンス鎖において塩基が別の塩基にて置換されているもの等が挙げられるが、これらに限定されない。ただし、これらの変異体siRNAにおいてセンス鎖とアンチセンス鎖とがハイブリダイゼーションしうること、ならびにこれらの変異体siRNAが変異を有しないsiRNAと同等の遺伝子発現抑制能を有することが必要である。
【0062】
さらに、siRNAは、一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(Short Hairpin RNA;shRNA)であってもよい。shRNAは、標的遺伝子の特定配列のセンス鎖RNA、該センス鎖配列に相補的な配列からなるアンチセンス鎖RNA、およびその両鎖を繋ぐリンカー配列を含むRNAであり、センス鎖部分とアンチセンス鎖部分がハイブリダイズし、二本鎖RNA部分を形成する。
【0063】
本発明のsiRNAを作製するには、化学合成による方法および遺伝子組換え技術を用いる方法等、公知の方法を適宜用いることができる。合成による方法では、配列情報に基づき、常法により二本鎖RNAを合成することができる。また、遺伝子組換え技術を用いる方法では、センス鎖配列やアンチセンス鎖配列をコードする発現ベクターを構築し、該ベクターを宿主細胞に導入後、転写により生成されたセンス鎖RNAやアンチセンス鎖RNAをそれぞれ取得することによって作製することもできる。また、標的遺伝子の特定配列のセンス鎖、該センス鎖配列に相補的な配列からなるアンチセンス鎖、およびその両鎖を繋ぐリンカー配列を含み、ヘアピン構造を形成するshRNAを発現させることにより、所望の二本鎖RNAを作製することもできる。
【0064】
siRNAは、標的遺伝子の発現抑制活性を有する限りにおいては、siRNAを構成する核酸の全体またはその一部は、天然の核酸であってもよいし、修飾された核酸であってもよい。修飾された核酸とは、ヌクレオシド(塩基部位、糖部位)および/またはヌクレオシド間結合部位に修飾が施されていて、天然の核酸と異なった構造を有するものを意味する。
【0065】
また、本発明の核酸または薬剤をリポソームなどのリン脂質小胞体(ベシクル)に導入し、その小胞体を投与することも可能である。siRNAまたはshRNAを保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入することができる。そして、得られる細胞を例えば、静脈内、動脈内等に全身投与する。皮膚の必要な部位等に局所的に投与することもできる。siRNAはin vitroにおいては非常に優れた特異的転写後抑制効果を示すが、in vivoにおいては血清中のヌクレアーゼ活性により速やかに分解されてしまうため持続時間が限られるためより最適で効果的なデリバリーシステム開発が求められてきた。一つの例としては、OCHIYA,T et al., Nature Med.,5:707−710,1999、Curr.Gene Ther.,1 :31−52, 2001より生体親和性材料であるアテロコラーゲンが核酸と混合し複合体を形成させると、生体中の分解酵素から核酸を保護する作用がありsiRNAのキャリアーとして非常に適しているキャリアーであると報告されており、このような形態を利用することができるが、本発明の核酸または医薬の導入の方法はこれには限られない。このようにして、生体内においては血清中の核酸分解酵素の働きにより、速やかに分解されてしまうため長時間の効果の継続を達成することができる。例えば、TakeshitaF. PNAS.(2003) 102(34)12177−82、Minakuchi Y Nucleic Acids Reserch(2004) 32(13) e109では、牛皮膚由来のアテロコラーゲンが核酸と複合体を形成し、生体内の分解酵素から核酸を保護する作用があり、siRNAのキャリアーとして非常に適していると報告されており、このような技術を用いることができる。
【0066】
アセチルコリン受容体の遺伝子発現阻害剤によるアセチルコリン受容体の遺伝子発現の阻害効果は、周知の方法で確認することが可能である。
【0067】
1つの態様において、アセチルコリン受容体の遺伝子発現阻害剤はアンチセンス核酸である。アンチセンス核酸を利用する方法は、当業者によく知られている技術を使用することで行うことができる。アンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻害することができる(平島および井上, 新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現, 日本生化学会編, 東京化学同人, 1993, 319−347.)。
【0068】
一つの実施形態としては、アセチルコリン受容体をコードする遺伝子のmRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3’の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、アセチルコリン受容体をコードする遺伝子の翻訳領域だけでなく、非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は、公知の方法を用いることで細胞に形質転換することができる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換される細胞が有するアセチルコリン受容体をコードする遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に阻害するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも12塩基以上25塩基未満であることが好ましいが、本発明のアンチセンス核酸は必ずしもこの長さに限定されず、例えば、11塩基以下、100塩基以上、または500塩基以上であってもよい。アンチセンス核酸は、DNAのみから構成されていてもよいが、DNA以外の核酸、例えば、ロックド核酸(LNA)を含んでいてもよい。1つの実施形態としては、本発明で用いられるアンチセンス核酸は、5’末端にLNA、3’末端にLNAを含むLNA含有アンチセンス核酸であってもよい。また、本発明において、アンチセンス核酸を用いる実施形態では、例えば平島および井上,新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現,日本生化学会編,東京化学同人,1993,319−347.に記載される方法を用いて、アンチセンス配列を設計することができる。
【0069】
1つの態様において、アセチルコリン受容体の遺伝子発現阻害剤は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAである。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子,タンパク質核酸酵素,1990,35,2191.)。
【0070】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えば、タバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan,JM.,Nature,1986,323,349)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi,Y.&Sasaki,N.,Nucl.Acids Res,1991,19,6751.、菊池洋,化学と生物,1992,30,112.)。このように、リボザイムを用いてアセチルコリン受容体をコードする遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を阻害することができる。
【0071】
別の態様において、本発明は、コリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物を提供する。あるいは、本発明は、コリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤を投与する工程を包含する、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための方法を提供する。上述のとおりアトピー性皮膚炎は、アセチルコリン濃度の亢進により引き起こされることが本発明者らにより新たに見出された。すなわち、アセチルコリンを生成する酵素の作用を阻害することで、アセチルコリンの濃度亢進を抑えることができる。しがたって、アセチルコリンを生成する酵素であるコリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤も、本発明の組成物に使用することができる。
【0072】
1つの実施形態において、コリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤は、4−[2−(2−ナフチル)ビニル]ピリジンまたは4−[2−(2−ナフチル)アセチニル]ピリジン(特表2003−528856、J.Med.Chem.,1969,vol.12,134−38)などのコリンアセチルトランスフェラーゼを阻害する化合物である。別の実施形態においては、コリンアセチルトランスフェラーゼの阻害剤は、抗コリンアセチルトランスフェラーゼ抗体である。
【0073】
さらなる態様において、本発明は、ムスカリン性アセチルコリンの阻害剤およびニコチン性アセチルコリンの阻害剤を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物または組み合わせ物を提供する。ムスカリン性アセチルコリンおよびニコチン性アセチルコリンの両方の作用を抑えることによって、高い治療効果が期待される。1つの実施形態において、ムスカリン性アセチルコリンの阻害剤は、ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストであり、ニコチン性アセチルコリンの阻害剤は、ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストであり得る。組み合わせ物におけるムスカリン性アセチルコリンの阻害剤およびニコチン性アセチルコリンの阻害剤は、同時に投与されても、逐次的に投与されてもよい。
【0074】
さらなる実施形態において、ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストは、トリヘキシフェニジル塩酸塩、ブチルスコポラミン臭化物、ピレンゼピン塩酸水和物、臭化イプラトロピウム、臭化オキシトロピウム、臭化チオトロピウム、アトロピン硫酸塩、トロピカミド、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ジシクロベリン、オキシブチニン塩酸塩、シクロペントラート塩酸塩、酒石酸トルテロジン、コハク酸ソリフェナシン、臭化水素酸ダイフェナシン、塩酸メベベリン、塩酸プロシクリジン、アクリジニウム臭化物、プロパンテリン臭化物、スコポラミン臭化水素酸塩水和物、臭化メトスコポラミン、メベンゾラート臭化物、臭化メタンテリニウム、オルフェナドリンクエン酸塩、ホマトロピン臭化物水素塩、プリフィニウム臭化物、メチキセン塩酸塩、臭化エチルピペタナート、塩酸アジフェニン、マザチコール塩酸塩水和物、塩化ユートロピン、イミダフェナシン、およびフェソテジンフマル酸からなる群から選択される。
【0075】
さらなる実施形態において、ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストは、スキサメトニウム塩化物水和物、デカメトニウム臭化物、ベクロニウム臭化物、パンクロニウム臭化物、d−ツボクラリン塩化物塩酸水和物、ガラミントリエチオダイド、塩酸メカミラミン、カンシル酸トリメタファン、臭化ヘキサメトニウム、アトラクリウムベシル酸、塩化ドキサクリウム、塩化ミバクリウム、18−メトキシコロナリジン、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、メチルリカコチニン、α−ブンガロトキシン、α−コノトキシンG1、ベンゾキノニウム、およびbPiDDBからなる群から選択される。
【0076】
特定の実施形態では、ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストは、コハク酸ソリフェナシン、アクリジニウム臭化物、またはスコポラミン臭化水素酸塩水和物であり、ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストは、d−ツボクラリン塩化物塩酸水和物、ガラミントリエチオダイド、臭化ヘキサメトニウム、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、またはα−ブンガロトキシンであり得る。好ましくは、ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストは、スコポラミン臭化水素酸塩水和物であり、ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストは、臭化ヘキサメトニウムである。
【0077】
さらに別の態様において、本発明は、被験体におけるアトピー性皮膚炎を治療または予防する方法であって、アセチルコリンの阻害剤を被験体に投与する工程を含む方法を提供する。アセチルコリンの阻害剤については、上に詳細に記載されている。
【0078】
さらなる態様において、本発明は、被験体におけるアトピー性皮膚炎を治療または予防する方法であって、被験体にムスカリン性アセチルコリンの阻害剤およびニコチン性アセチルコリンの阻害剤を投与する工程を包含する、方法を提供する。ムスカリン性アセチルコリンの阻害剤およびニコチン性アセチルコリンの阻害剤については、組み合わせ物に使用されるムスカリン性アセチルコリンの阻害剤およびニコチン性アセチルコリンの阻害剤として、上に詳細に記載されている。ムスカリン性アセチルコリンの阻害剤およびニコチン性アセチルコリンの阻害剤は、同時に投与されても、逐次的に投与されてもよい。
【0079】
さらなる態様において、本発明は、被験体におけるアトピー性皮膚炎を治療または予防するための医薬の製造におけるアセチルコリンの阻害剤の使用を提供する。アセチルコリンの阻害剤については、上に詳細に記載されている。
【0080】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0081】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供するものではない。したがって、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0082】
(実施例1:アトピー性皮膚炎モデルマウスにおける薬効評価)
本実施例では、ADスコアを用いた目視による検証および組織解析によって、抗コリン薬がAD疾患治療に効果的な薬剤であるかどうかの確認を行った。
【0083】
(材料および方法)
アトピー性皮膚炎のモデルマウスの作製:
アトピー性皮膚炎のモデル動物として10週齢のNC/Ngaマウス(日本チャールスリバー)を使用した。皮膚炎の誘発にはダニ(コノヒョウヒダニ)抗原であるビオスタAD(和光純薬)を使用した。モデルマウスの作製は、以下の手順で行った。
1.マウスの背部を剃毛し、初回のみ脱毛クリームを使用した。
2.皮膚バリアを破壊するために、150μLの4%SDSを適用し、2〜3時間乾燥した(初回はこの工程を省略した。)。
3.免疫を刺激するために、100mgのビオスタADをマウスの背部および左右耳介に塗布した。
4.これらの工程を週に2回行った。
【0084】
スコア化はビオスタAD添付の説明書記載の方法に従った。4項目の評価項目についてそれぞれ0〜3点で評価を行い、各項目のスコアの合計点をADスコアとした。以下の表1に各評価項目のスコアをまとめる。
【0085】
【表1】
【0086】
被検製剤の調製:
ムスカリン性アセチルコリン受容体の阻害剤として、アクリジニウム臭化物(和光純薬)およびスコポラミン臭化水素酸塩三水和物(東京化成工業)を使用した。ニコチン性アセチルコリン受容体の阻害剤としては、臭化ヘキサメトニウム(sigma−aldrich)、およびデキストロメトルファン臭化水素酸塩一水和物(和光純薬)を使用した。溶媒にはジメチルスルホオキシド(DMSO、和光純薬)、生理食塩水(大塚製薬)、精製水を使用した。被検製剤の終濃度と溶媒をそれぞれ表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
皮膚炎誘発後の薬効評価:
アトピー性皮膚炎を誘発した雌性のNC/Ngaマウス(日本チャールスリバー)を使用した。被検製剤は週5日(月から金曜日)で1日1回の計5回、背部および左右耳介に塗布した。背部には被検製剤を100μL、左右耳介にはそれぞれ25μLを塗布した。月曜日と木曜日には投与前に背部を剃毛し、皮膚炎スコアを評価した。初回投与から7日後にマウスを安楽死後、皮膚組織をサンプリングした。頸部皮膚を重症部、腰部皮膚を軽症部として各種解析に供した。
【0089】
(結果)
皮膚炎誘発後の薬効評価:
図1Aおよび
図1Bに被検製剤を塗布したマウス群の背部の写真を示す。各被検製剤を塗布したマウスの皮膚は、塗布開始7日目には皮膚の損傷が減少しており、回復傾向にあった。また、
図2に示されるように、塗布前と塗布開始7日目とでは大きな体重変化が見られず、被検製剤の塗布による副作用がないことが推察される。
【0090】
図3にADスコアおよびΔADスコア(塗布前と塗布開始後のADスコアの差)の結果をまとめたグラフを示す。
図4に各被検製剤を塗布した各マウス群のADスコアの推移を示す(横軸は日数を示す)。示されるとおり、臭化ヘキサメトニウムが比較的治療効果が高いものの、すべての被検製剤のなかで治療効果に大きな差はなかった。この結果は、アセチルコリンの阻害剤のいずれもがアトピー性皮膚炎の治療に有効であることを示す。
【0091】
(実施例2:肥満細胞の遊走と活性評価)
本実施例では、炎症や免疫反応に関わる肥満細胞の脱顆粒を抑制する効果があるかどうかを確認した。
【0092】
(材料および方法)
被検製剤の調製:
ムスカリン性アセチルコリン受容体の阻害剤として、コハク酸ソリフェナシン(東京化成工業)、アクリジニウム臭化物(和光純薬)、およびスコポラミン臭化水素酸塩三水和物(東京化成工業)を使用した。ニコチン性アセチルコリン受容体の阻害剤としては、ツボクラリンクロリド五水和物(東京化成工業)、ガラミントリエチオジド(sigma−aldrich)、臭化ヘキサメトニウム(sigma−aldrich)、デキストロメトルファン臭化水素酸塩一水和物(和光純薬)、およびα−ブンガロトキシン(alomone labs)を使用した。溶媒にはジメチルスルホオキシド(DMSO、和光純薬)、生理食塩水(大塚製薬)、精製水を使用した。被検製剤の終濃度と溶媒をそれぞれ表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
サンプリングしたアトピー性皮膚炎モデルマウスの背部皮膚を中性ホルマリンで固定し、パラフィン包埋処理を行った。ここから4μm厚の組織切片を作製し、トルイジンブルー染色によって肥満細胞の染色を行った。染色した組織切片を顕微鏡で撮影し、暗紫色に染色された細胞を活性化していない肥満細胞(inactive)とし、赤紫色に染色された細胞を脱顆粒した肥満細胞(active)としてカウントした。また、中間の染色度を示すものを中程度に脱顆粒した細胞(middle)としてカウントした。組織切片画像のうちコラーゲン線維部位のみの面積を測定し(表皮層、脂肪細胞、筋細胞の面積を除去)、単位面積当たりの肥満細胞数と脱顆粒の程度を比較した。
【0095】
(結果)
図5A〜
図5Cに、トルイジンブルー染色した組織切片の顕微鏡写真を示している。顕微鏡写真における肥満細胞の染色度に基づいて、活性化していない肥満細胞、脱顆粒した肥満細胞、および中程度に脱顆粒した肥満細胞をカウントした。
図5Dは、組織切片における肥満細胞のカウントのグラフを示している。アトピー性皮膚炎を誘導しなかったマウス群(Non−treatment)では、肥満細胞の数が、アトピー性皮膚炎を誘導したマウス(10.Saline)と比べて少なく、脱顆粒した細胞はほとんど見られなかった。生理食塩水を塗布したマウス群(10.Saline)の重症部と比べて、被験製剤を塗布したマウス群の重症部における脱顆粒した肥満細胞(active)の数は少なく、反対に、脱顆粒をしていない肥満細胞(inactive)は多い傾向があることが分かった。また、生理食塩水を塗布したマウス群(10.Saline)において、全肥満細胞に対する脱顆粒した肥満細胞の割合は、約40%であるのに対し、被検製剤を塗布したマウス群においては、脱顆粒した肥満細胞の割合は平均約25%程度であり、高くてもツボクラリン塗布群において約33%であった。これらの結果は、被検製剤を塗布したマウス群では、脱顆粒をある程度抑制していたこと示す。
【0096】
(実施例3:皮膚炎誘発と薬剤併用による薬効評価)
本実施例では、被検製剤適用期間にもアトピー性皮膚炎誘発処理を並行して行い、被検製剤の薬効評価を行った。
【0097】
(材料および方法)
アトピー性皮膚炎のモデルマウスの作製およびスコア化は実施例1と同様に行った。被検製剤は、実施例1と同じものを使用した。
【0098】
アトピー性皮膚炎を誘発した雄性のNC/Ngaマウス(日本チャールスリバー)を使用した。被検製剤は週5日(月から金曜日)で1日1回の計10回、背部に塗布した。背部には被検製剤を100μL、左右耳介にはそれぞれ25μLを塗布した。月曜日と木曜日には投与前に背部を剃毛し、皮膚炎スコアを評価した。その後、皮膚炎症状を維持するため、毎週月曜日にのみアトピー性皮膚炎誘発処理を行った。初回投与から11日後、マウスを安楽死後、皮膚組織をサンプリングした。
【0099】
(結果)
図6Aおよび
図6Bに被検製剤を塗布したマウス群の背部の写真を示す。各被検製剤を塗布したマウスの皮膚は、アトピー性皮膚炎誘発処理を並行して行ったが、塗布開始11日目には皮膚の損傷が減少しており、回復傾向にあった。また、
図7に示されるように、塗布前から塗布開始11日目にわたって大きな体重変化が見られず、被検製剤の塗布による副作用がないことが推察される。
【0100】
図8にADスコアおよびΔADスコア(塗布前と塗布後のADスコアの差)をまとめたグラフを示す。
図9に各被検製剤を塗布した各マウス群のADスコアの推移を示す(横軸は日数を示す)。アトピー性皮膚炎誘発処理を並行して行った場合でも、臭化ヘキサメトニウムが比較的治療効果が高かったが、すべての被検製剤のなかで治療効果に大きな差はなかった。この結果は、アセチルコリンの阻害剤のいずれもがアトピー性皮膚炎の治療に有効であることを示す。
【0101】
(実施例4:皮膚内アセチルコリン濃度の定量)
本実施例では、アトピー性皮膚炎のマウスにおける皮膚内のアセチルコリンの濃度が亢進していることを実証する。
【0102】
細切したマウスの背部皮膚組織20mgに生理食塩水100μLを添加し、4℃にて一晩撹拌した後、15,000rpmにて15分間遠心分離した上清を測定試料とした。試料より50μLを分取し、Amplite Fluorimetric Acetylcholine Assay Kit(AAT Bioquest社製)の手引きに従いアセチルコリンの測定を行った。皮膚内アセチルコリン濃度は、試料測定で得られた蛍光シグナル値と標準曲線を元に算出した。
【0103】
(結果)
皮膚内アセチルコリン濃度の測定を、アトピー性皮膚炎を誘導して生理食塩水を塗布したマウス群と、アトピー性皮膚炎を誘導しなかったマウス群の皮膚試料を用いて測定し、これらの皮膚内アセチルコリン濃度を比較した。結果を
図10に示す。示される通り、アトピー性皮膚炎を誘導したマウス群では、皮膚内アセチルコリンが、アトピー性皮膚炎を誘導していないマウス群と比べて顕著に高かった。この結果から、アトピー性皮膚炎のマウスにおいて、正常のマウスと比べて皮膚内アセチルコリンの濃度が亢進していることが実証された。
【0104】
(実施例5:臭化ヘキサメトニウムに類似した分子構造を有する化合物によるアトピー性皮膚炎に対する治療効果)
治療効果の比較的高かった臭化ヘキサメトニウムに類似した分子構造を有する化合物において、アゴニストとアンタゴニスト、アミノ基級数、第三級アミノ基の数および炭素鎖数の違いによるアトピー性皮膚炎治療に対する影響の解析を行った。
【0105】
(材料および方法)
実施例1と同様に、マウス(NC/Nga、10週齢)にダニ抗原(ビオスタAD)を2回/週、4週間塗布することで、アトピー性皮膚炎発症マウスを作製した。ダニ抗原による誘発(2回/週)と被検製剤塗布(5回/週)を3週間、同時に行い、アトピー性皮膚炎誘発の抑制効果についての解析を行った。被検製剤は1週目では12mMを2週目以降は24mMのものを使用した。ただし、臭化デカメトニウムについては強い毒性が確認されたため、2週目以降も12mMを使用し、最終週では2回/週の投与間隔に変更した。対照として無処置群(誘発なし、被検製剤塗布なし)と溶媒塗布群(誘発あり、精製水塗布)を用意した。スコア化は実施例1と同様に行った。
【0106】
被検製剤:
被検製剤の構造を表4に示す。以下の観点(1)〜(4)でアトピー性皮膚炎に対する治療効果を比較した。
(1)アンタゴニストとアゴニスト:ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストとアゴニストを比較するため、臭化ヘキサメトニウムと塩化スキサメトニウム(丸石製薬)及び臭化デカメトニウム(東京化成工業)を使用した。
(2)アミノ基級数:臭化ヘキサメトニウムの第三級アミノ基をそれぞれ第二級アミノ基およびアミノ基に変更したN,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミン(和光純薬、以下TMHDAという)およびヘキサメチレンジアミン(和光純薬、以下HMDAという)との比較を行った。
(3)第三級アミノ基の数:臭化ヘキサメトニウムはその分子内に2つの第三級アミノ基を有する。そこで第三級アミノ基を分子内に1つ有し、且つ炭素数6のアルキル基を有する臭化ヘキシルトリメチルアンモニウム(和光純薬、以下Hexyl−TABという)との比較を行った。
(4)炭素鎖長:臭化ヘキサメトニウム(炭素数6)より炭素鎖長の長い臭化デカメトニウム(炭素数10)との比較を行った。また、分子内に第三級アミノ基を1つ有し且つアルキル基炭素鎖長の異なる、臭化テトラメチルアンモニウム(和光純薬、炭素数1、以下TABという)、臭化ヘキシルトリメチルアンモニウム(炭素数6、以下Hexyl−TABという)及び臭化セチルトリメチルアンモニウム(和光純薬、炭素数16、以下Cetyl−TABという)との比較を行った。
【0107】
それぞれ精製水に溶解し、終濃度12あるいは24mMで試験に供した。
【0108】
【表4-1】
【表4-2】
【0109】
(結果)
被検製剤塗布期間のアトピー性皮膚炎スコア平均変化量を
図11に示す。
【0110】
(1)アンタゴニストとアゴニストの比較
ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストである臭化ヘキサメトニウムと、アゴニストである塩化スキサメトニウム及び臭化デカメトニウムをアトピー性皮膚炎モデルマウスにそれぞれ投与し、皮膚炎スコアの比較を行った。被検製剤塗布期間のアトピー性皮膚炎スコア平均変化量を
図12に示す。臭化スキサメトニウムや臭化デカメトニウムは、溶媒投与群(DW)と比較してよりアトピー性皮膚炎スコアを悪化させることが確認された。一方、アンタゴニストである臭化ヘキサメトニウムを投与した群では、溶媒投与群と比較してアトピー性皮膚炎スコアの上昇が抑制されていた。臭化スキサメトニウムや臭化デカメトニウムは生体内でアセチルコリンよりも過剰に受容体を活性化させるアゴニストであるため、アトピー性皮膚炎スコアを悪化させる結果となったと考えられる。以上より、ニコチン性アセチルコリン受容体のアゴニストは、アトピー性皮膚炎を治療する効果を有さないことが示された。また、アンタゴニストでニコチン性アセチルコリン受容体活性を抑制することで、アトピー性皮膚炎の悪化を抑制できることが確認された。
【0111】
(2)アミノ基級数の比較
臭化ヘキサメトニウムはその分子内に第三級アミノ基を2つ有する。そこで、このアミノ基が第3級あるいは第1級であるTMHDAとHMDAの比較を行った。その結果を
図13に示す。TMHDA及びHMDA共に抑制効果は確認されなかった。以上の結果から、アトピー性皮膚炎の抑制には第三級アミノ基を有する化合物が有効である可能性が示唆された。
【0112】
(3)分子内第三級アミノ基の数の比較
分子内に第三級アミノ基を1つ有するHexyl−TABと2つ有する臭化ヘキサメトニウムの比較を行った。その結果を
図14に示す。Hexyl−TABも臭化ヘキサメトニウムよりわずかに弱いながらも、アトピー性皮膚炎抑制効果が確認された。この結果から、第三級アミンであればアトピー性皮膚炎抑制効果を有し、分子内アミノ基数が多い方がより高い抑制効果を持つことが示唆された。
【0113】
(4)炭素鎖長の比較
臭化ヘキサメトニウムはアミノ基を炭素数6の炭化水素鎖で結合した構造である。この炭化水素鎖長がより長い臭化デカメトニウム(炭素数10)と比較を行った。臭化デカメトニウムは強い毒性が見られ、投与濃度も回数も低かったものの、アトピー性皮膚炎を悪化させる作用が確認された。
【0114】
Hexyl−TAB(炭素数6)の炭素鎖長を中心に、鎖長を短くしたTAB(炭素数1)及び、長くしたCetyl−TAB(炭素数16)で比較を行ったところ(結果は
図15に示すとおり)、TABおよびHexyl−TABではアトピー性皮膚炎の抑制効果が見られた。しかし、Cetyl−TABにおいては悪化させる作用が確認された。以上の結果から、炭素数10未満のアルキル基あるいは炭化水素鎖を有する第三級アミンにおいてアセチルコリン抑制効果を持つことが示された。さらに、TABおよびHexyl−TABはアセチルコリン受容体のパーシャルアゴニストであることが知られており、パーシャルアゴニストも同様にアトピー性皮膚炎の治療効果を示すことも実証された。
【0115】
以上の結果から、アトピー性皮膚炎抑制には第三級アミノ基を分子内に1つ以上有し、且つ炭素鎖長が炭素数10未満の炭化水素鎖を有する物質が効果的であることが示唆された。
【0116】
(実施例6:鳥肌様の皮膚症状の改善効果レプリカ法)
多くの場合、アトピー性皮膚炎患者は鳥肌様皮膚をしている。これは、毛穴周辺のアセチルコリン濃度が高いためだと考えられる。本実施例では、ヘキサメトニウムを塗布したアトピー性皮膚炎患者の毛穴の立ち具合が減少するかどうかを、レプリカ法を使用して検証した。
【0117】
(材料および方法)
ヘキサメトニウム(12mM)をアトピー性皮膚炎患者の首(後部)に塗布し、塗布前と塗布後5分〜10分経過後の皮膚のレプリカ像を得た。レプリカ像は、アトピー性皮膚炎を発症している皮膚を覆うようにシリコン樹脂(SILFLO)を塗布し、5分後に硬化したシリコンを皮膚からはがすことによって採取した。採取したレプリカに一方向から光を当てて皮膚表面の凹凸の比較検討を行い、写真撮影を行った。
【0118】
(結果)
図16にヘキサメトニウム塗布前および塗布後のレプリカ像を示す。へこんだ部分が毛穴に相当し、毛穴入口の漏斗部が盛り上がっていると、毛穴が立った状態を示す。ヘキサメトニウムの塗布後のレプリカ像において、毛穴の立ち具合が治まって、鳥肌様が少なくなっている様子が観察された。したがって、ヘキサメソニウムはアセチルコリンの作用を減弱させる抗コリン作用を発揮し、その結果アトピー性皮膚炎に対する治療効果を発揮していると考えられる。
【0119】
(実施例7:ニコチン性アセチルコリン受容体阻害剤およびムスカリン性アセチルコリン受容体阻害剤の併用)
本実施例では、ニコチン性アセチルコリン受容体阻害剤およびムスカリン性アセチルコリン受容体阻害剤を併用した場合の治療効果について確認した。
【0120】
(材料および方法)
アトピー性皮膚炎のモデルマウスの作製:
アトピー性皮膚炎のモデル動物として10週齢のNC/Ngaマウス(日本チャールスリバー)を使用した。皮膚炎の誘発にはダニ抗原(ビオスタAD、和光純薬)を使用した。モデルマウスの作製およびスコア化はビオスタAD添付の説明書記載の方法に従った(実施例1と同様)。
【0121】
被検製剤の調製:
ムスカリン性アセチルコリン受容体の阻害剤として、スコポラミン臭化水素酸塩三水和物(以降スコポラミン、東京化成工業)を使用し、ニコチン性アセチルコリン受容体の阻害剤としては臭化ヘキサメトニウム(以降ヘキサメトニウム、sigma-aldrich)を使用した。それぞれを精製水で溶解し、終濃度で、ヘキサメトニウムとスコポラミンがそれぞれ6mMになる低濃度群(Hexa. & Scop. Lo.)、およびそれぞれ12mMになる高濃度群(Hexa. & Scop. Hi.)を調製した。陰性対照として精製水(DW)を用いた。
【0122】
試験方法:
アトピー性皮膚炎誘発マウスに対して、低濃度群では1日1回、週5回、計10回、高濃度群では1日1回、週3回、計6回背部に被検製剤を塗布した。背部には被検製剤を100μL、左右耳介にはそれぞれ25μLを塗布した。投与0、7および10日後に皮膚炎スコアを評価し、0日目からの平均変化量を比較した。症状を維持するため、毎週月曜日にのみダニ抗原によるアトピー性皮膚炎誘発処理を行った。
【0123】
(結果)
結果を
図17に示す。低濃度群においては塗布7日目では皮膚炎の改善効果は認められなかったが、10日目において改善効果が見られた。高濃度群においては被検製剤投与回数が低濃度群より少ないにもかかわらず塗布7日目から皮膚炎の改善が見られ、10日目では7日目より高い改善効果が確認された。これらの結果から、ニコチン性アセチルコリン受容体阻害剤およびムスカリン性アセチルコリン受容体阻害剤の併用はアトピー性皮膚炎に対して治療効果を示すことが確認された。またこれらの効果は濃度依存性があり、高濃度の方がより早く治療効果が表れることが確認された。
【0124】
(実施例8:経口投与による治療効果)
本実施例では、全身投与(例えば、経口投与)した場合でも治療効果が発揮されるかどうかを確認した。
【0125】
(材料および方法)
アトピー性皮膚炎のモデルマウスの作製:
アトピー性皮膚炎のモデル動物として10週齢のNC/Ngaマウス(日本チャールスリバー)を使用した。皮膚炎の誘発にはダニ抗原(ビオスタAD、和光純薬)を使用した。モデルマウスの作製及びスコア化はビオスタAD添付の説明書記載の方法に従った(実施例1と同様)。
【0126】
被検製剤の調製:
ニコチン性アセチルコリン受容体の阻害剤として臭化ヘキサメトニウム(以降ヘキサメトニウム、sigma-aldrich)を使用した。精製水で溶解し、終濃度が60mMになるよう調製した。陰性対照として精製水(DW)を用いた。
【0127】
試験方法:
アトピー性皮膚炎誘発マウスに対して、150μLの被検製剤を1日1回、週5回、計10回、経口投与した。投与0および10日後に皮膚炎スコアを評価し、0日目からの平均変化量を比較した。症状を維持するため、毎週月曜日にのみダニ抗原によるアトピー性皮膚炎誘発処理を行った。
【0128】
(結果)
結果を
図18に示す。投与10日目において皮膚炎スコアの改善が観察された。この結果から、投与経路に拠ることなくヘキサメトニウムはアトピー性皮膚炎の改善効果があることが確認された。
【0129】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本出願は、2016年5月9日に出願された日本国出願特願2016−93918号に基づく優先権の利益を主張し、その内容は、その全体が参考として援用される。