(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アルカリ土類金属元素はBe、Mg、Ca、Sr及びBaを含み、前記希土類金属元素はLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbを含み、前記遷移金属元素はCo、Cr、Fe、Mn、Ni、Cu、Ti、Zn、Sc及びVを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の固体燃料電池。
前記基板はセラミック基板、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、又はポリマーのうちの1つであり、前記ステップS120は、パルスレーザー堆積の方法によって前記基板上でエピタキシャル成長により前記遷移金属酸化物薄膜を取得する、ことを特徴とする請求項6に記載の固体電解質の調製方法。
【背景技術】
【0003】
燃料電池は化学エネルギーを電気エネルギーに直射変換することができ、エネルギー変換率が高い、環境に優しい、汚染がないなどの利点を有するため、近年、ますます注目され研究されている。固体酸化物燃料電池(SOFC)はエネルギー変換装置であり、酸化物電解質を介して可燃性ガス(例えば、水素、一酸化炭素など)を酸化剤(例えば、酸素)と電気化学的に反応させることによって、直流を発生させる。現在のSOFC技術の主な特徴は、全固体構造、複数の燃料を受け入れる能力、及び高温作業性などを含む。以上の特性により、SOFCは高性能かつクリーンで効率的なエネルギー変換手段になる可能性がある。従来の固体酸化物燃料電池は、通常、1000℃を超えるなど、比較的高い動作温度を有する。比較的低い動作温度を有する固体酸化物燃料電池も存在し、その動作温度は600℃までとすることができる。しかしながら、固体酸化物燃料電池における電解質は低温領域でイオン伝導性が弱いなどの材料特性により制限され、固体酸化物燃料電池の動作温度を更に低くすることは困難である。現在、固体酸化物燃料電池の発展を制限している主な要因の1つは、電解質中のイオン伝導性が比較的低いという問題及び高い動作温度が必要であるという問題をどのように解決するかということである。したがって、電解質の低温イオン伝導性を向上させることは固体酸化物燃料電池の研究における重要な問題となっている。
【0004】
従来技術では、酸素イオンSOFCも水素イオンSOFCも、酸素空孔の存在を必要とする。正極及び負極触媒の還元及び酸化によって、O
2及びH
2は、O
2−及びH
+に触媒される。O
2−(又はH
+)はまた、酸素空孔及び格子中の酸素と結合して、M−O結合(Mは金属イオンである)又はH−O結合を形成し、格子中の等価占有サイトとの置換によって誘電体材料中に伝導され、最終的に負極(又は正極)に到達し、H
+(又はO
2−)と反応してH
2Oを生成し、同時に外部電子が伝導される。これは、燃料電池の動作原理である。比較的高いイオン伝導性を有する酸化物は、Gd
0.2Ce
0.8O
2−δ(GDC)、Y
0.16Zr
0.84O
2−δ(YSZ)、BaZr
0.8Y
0.2O
3−δ(BZY)、La
0.9Sr
0.1Ga
0.8Mg
0.2O
3−δ(LSGM)などを含む。また、比較的高いイオン伝導性を有する更なる物質は、例えば、CsHSO
4、CsH
2PO
4、CsHSeO
4、Rb
3H(SeO
4)
2、(NH
4)
3H(SO
4)
2、K
3H(SO
4)
2などの固体酸である。固体酸には大量のH−O結合が存在する。温度の上昇に伴い、固体酸の構造相転移が生じるとともに、水素イオン伝導性が向上する。これは主に、酸基(例えば、SO
42−)六面体の変形により幾つかの定常状態配置が存在し、それにより、H−O結合のねじれを引き起こし、水素イオンの伝導を実現するためである。さらに、最近、高い水素イオン伝導性を有するSmNiO
3酸化物は、酸素空孔を有していないが、比較的高い水素イオン伝導性を表すことが発見された。その具体的な水素イオン伝導性メカニズムはさらに研究されるべきである。大きなイオンチャネルを有する金属有機構造体(MOF−Metal Organic Framework)のような他の種類の電解質も存在し、それらも高いイオン伝導性を有する。また、幾つかの特別な構造を人工的に設計することによって、イオン伝導性を向上させることもできる。例えば、CaF
2/BaF
2の超格子、YSZ/STOのヘテロ界面、SDC/STOのナノ柱状体構造及びLMOのナノワイヤー構造を構築することによって、イオン伝導性が向上する。さらに、応力の印加も電解質のイオン伝導性を変化させる。
【0005】
現在、電解質のイオン伝導性を向上させるために、様々な方法が試みられ、例えば、上記の様々な方法がある。しかしながら、得られたイオン伝導性のイオン輸送能力及び動作温度は、実際の応用における低温燃料電池の発展のニーズを依然として満たすことができない。したがって、高いイオン伝導性及び低い動作温度を有する電解質材料の探索は、関連分野の現在の発展において依然として解決されるべき重要な問題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに基づいて、上記の技術的課題に対して、より低い動作温度を有する固体燃料電池、及びこの固体燃料電池の固体電解質の調製方法を提供することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
固体燃料電池は、陽極、前記陽極と間隔をおいて配置された陰極、及び前記陽極と前記陰極との間に配置された固体電解質を含む。固体電解質の材料は、構造式ABO
xH
yを有する水素含有遷移金属酸化物である。Aはアルカリ土類金属元素及び希土類金属元素のうちの1つ以上であり、Bは遷移金属元素のうちの1つ以上であり、xの値の範囲は1〜3であり、yの値の範囲は0〜2.5である。
【0008】
一実施例では、前記アルカリ土類金属元素はBe、Mg、Ca、Sr及びBaを含み、前記希土類金属元素はLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbを含み、前記遷移金属元素はCo、Cr、Fe、Mn、Ni、Cu、Ti、Zn、Sc及びVを含む。
【0009】
一実施例では、Bは遷移金属元素Coである。
【0010】
一実施例では、Aはアルカリ土類金属元素Srである。
【0011】
一実施例では、xは2.5であり、yは0〜2.5である。
【0012】
上記の実施例に記載の固体燃料電池の固体電解質の調製方法は、以下のステップS100〜S300を含む:
S100では、構造式ABO
zを有する遷移金属酸化物を提供し、zは2以上且つ3以下であり、
S200では、前記遷移金属酸化物をイオン液体に浸漬し、前記イオン液体中の水は、電場の作用下で水素イオン及び酸素イオンに分解し、
S300では、前記遷移金属酸化物に電場を印加して、イオン液体中の水素イオンを前記遷移金属酸化物に挿入する。
【0013】
一実施例では、前記ステップS100は以下のステップS110〜S130を含む:
S110では、基板を提供し、
S120では、構造式ABO
zを有する遷移金属酸化物薄膜を前記基板の表面に堆積して形成し、
S130では、前記遷移金属酸化物薄膜の表面に第1電極を形成する。
【0014】
一実施例では、前記基板はセラミック基板、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、又はポリマーのうちの1つであり、前記ステップS120は、パルスレーザー堆積の方法により前記基板上でエピタキシャル成長により前記遷移金属酸化物薄膜を取得する。
【0015】
一実施例では、前記ステップS130において、前記第1電極は前記遷移金属酸化物薄膜と接触して底部電極を形成する。
【0016】
一実施例では、前記ステップS300は以下のステップS310〜S330を含む:
S310では、第2電極及び電源を提供し、
S320では、前記第2電極と前記第1電極とを間隔をおいて配置し、それぞれ前記電源に電気的に接続し、
S330では、前記第2電極を前記イオン液体に浸漬し、前記電源により前記第2電極から前記第1電極へ向かう電場を印加する。
【0017】
一実施例では、前記固体電解質の構造形式は薄膜、粉末、多結晶又は単結晶バルク材料、ナノ構造及び複合材料を含む。
【発明の効果】
【0018】
本出願は、イオン液体にゲート電圧を印加して調節制御を行う方法により、新規な固体燃料電池の電解質SrCoO
xH
yを調製する。SrCoO
xH
yには大量のHイオンがあり、この結晶構造では、H−O結合の形成により、Co−O八面体及びCo−O四面体は大きな角度でねじれる。また、この構造には大量の空孔があり、H−O結合のねじれ及び水素イオンの輸送のための空間及びチャネルが提供される。本出願の実験結果は、固体燃料電池の電解質SrCoO
xH
yが低温領域(室温〜180℃)において極めて大きな水素イオン伝導性を示すことを明らかにする。このように、本出願によって提供されたその固体燃料電池の電解質を使用する固体燃料電池は、比較的高いHイオン伝導性及びより低い動作温度を有する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願の目的、技術的手段及び利点を更に明らかにするために、以下、添付の図面及び実施例を参照しながら本出願の固体燃料電池、及び固体電解質の調製方法をさらに詳細に説明する。ここで述べる具体的な実施例は本出願の解釈のために用いられ、本出願を限定するためのものではないことを理解するべきである。
【0021】
図1を参照すると、本出願の実施例は固体燃料電池100を提供する。この固体燃料電池100は、陰極110、陽極130及び固体電解質120を含む。前記固体電解質120は前記陰極110と前記陽極130との間に配置される。前記陽極110及び前記陰極130は、任意の既知の固体燃料電池100の陽極及び陰極であってもよい。前記固体電解質120は、比較的低い動作温度を有し、200℃以下で動作することができる。
【0022】
前記固体電解質120は水素含有遷移金属酸化物である。前記水素含有遷移金属酸化物の構造式はABO
xH
yである。Aはアルカリ土類金属及び希土類元素のうちの1つ以上であり、Bは遷移金属元素であり、xの値の範囲は1〜3であり、yの値の範囲は0〜2.5である。好ましくは、前記yの値の範囲は1〜2.5である。ABO
xH
y中のAとBとの比は必ずしも厳密に1:1である必要がなく、酸化物に遍在する空格子点や格子間原子の存在により偏ることもある。そのため、AとBの比が1:1に近い前記水素含有遷移金属酸化物はすべて本出願の保護範囲内にある。前記アルカリ土類金属元素は、Be、Mg、Ca、Sr、Baを含む。前記希土類金属元素はLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybを含む。前記遷移元素は、Co、Cr、Fe、Mn、Ni、Cu、Ti、Zn、Sc、Vのうちの1つ以上を含む。また、Aはアルカリ土類金属元素と希土類金属との合金であってもよく、Bは遷移金属と主族金属との合金であってもよいことが理解され得る。
【0023】
前記水素含有遷移金属酸化物ABO
xH
yは、常温で安定な結晶構造を有する。常温でイオン液体ゲート電圧調節制御の方法を使用して、電場の作用により、イオン液体に浸漬された前記水素含有遷移金属酸化物に対して水素化又は脱水素化、あるいは酸素化又は脱酸素の調節制御を実現することができる。さらに、第1相から第2相への相転移及び前記第2相から前記第1相への相転移、前記第1相から第3相への相転移及び第3相から第1相への転移、並びに前記第2相から第3相への相転移及び前記第3相から第2相への相転移を実現することができる。前記第1相の格子体積は前記第2相の格子体積よりも大きく、前記第2相の格子体積は前記第3相の格子体積よりも大きい。当然のことながら、前記イオン液体ゲート電圧調節制御の方法により、上記3つの相の循環遷移を実現することもできることが理解され得る。前記3つの相で前記水素含有遷移金属酸化物の物理的性質が異なるため、上述の3つの相の遷移により電子デバイス上の応用を実現することができる。前記3つの相での材料の分子式は異なる。前記第1相での材料は前記水素含有遷移金属酸化物ABOxHyである。前記第2相は、前記水素含有遷移金属酸化物ABO
xH
yに基づいて、前記イオン液体ゲート電圧調節制御方法により、前記水素含有遷移金属酸化物ABO
xH
yに水素を析出させるか又は酸素を注入することによって実現される。前記第3相は、前記水素含有遷移金属酸化物ABO
xH
yに基づいて、前記イオン液体ゲート電圧調節制御方法により、前記第2相に基づいて前記水素含有遷移金属酸化物ABO
xH
yにさらに水素を析出させるか又は酸素を注入することによって実現される。一実施例では、前記三相転移は、ABO
xH
yからABO
2.5及びABO
3への三相間の変化を実現することである。同時に、上記相転移は、電場の制御下で3つの完全に異なる相の間で可逆的な構造相転移を形成することができる。これら3つの相は、完全に異なる電気的、光学的及び磁気的特性を有する。本出願の水素含有遷移金属酸化物及びその調製方法、三相の相転移、及び用途について、以下に詳細に説明する。
【0024】
本出願の実施例は固体燃料電池の電解質材料の調製方法をさらに提供する。この方法は、以下のステップS100〜S300を含む:
S100では、構造式ABO
zを有する遷移金属酸化物を提供し、zは2以上且つ3以下であり、
S200では、前記遷移金属酸化物をイオン液体に浸漬し、前記イオン液体中の水は、電場の作用下で水素イオン及び酸素イオンに分解し、
S300では、前記遷移金属酸化物に電場を印加して、イオン液体中の水素イオンを前記遷移金属酸化物に挿入し、それに伴って前記酸化物中の酸素イオンの一部を析出させる。
【0025】
ステップS100では、Aはアルカリ土類金属及び遷移元素のうちの1つ以上であり、Bは遷移金属元素Co、Cr、Fe、Mn、Ni、Cu、Ti、Zn、Sc、Vのうちの1つ以上である。前記アルカリ土類金属元素は、Be、Mg、Ca、Sr、Baを含む。前記希土類金属元素は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybのうちの1つ以上を含む。前記構造式ABO
zを有する遷移金属酸化物の構造は限定されず、薄膜、粉末、バルク材料、ナノ粒子、又は他の材料との複合材料であってもよい。一実施例では、前記構造式ABO
zを有する遷移金属酸化物は薄膜である。薄膜としての前記遷移金属酸化物を調製するための調製方法は限定されず、様々な方法によって調製することができることが理解され得る。
【0026】
一実施例では、前記ステップS100は、以下のステップS110〜S130を含む:
S110では、基板を提供し、
S120では、構造式ABO
zを有する遷移金属酸化物薄膜を前記基板の表面に堆積して形成し、
S130、前記遷移金属酸化物薄膜の表面に第1電極を形成する。
【0027】
前記基板は限定されず、セラミック基板、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、又はポリマーのうちの1つであってもよい。前記構造式ABO
zを有する遷移金属酸化物の薄膜を形成する方法は限定されず、例えば、イオンスパッタリング法、化学気相成長法、マグネトロンスパッタリング法、ゲル法、パルスレーザー堆積などの様々な成膜方法であってもよい。一実施例では、前記ステップS120は、パルスレーザー堆積の方法により前記基板上でエピタキシャル成長により前記遷移金属酸化物薄膜を取得する。成長した遷移金属酸化物薄膜の厚さは限定されない。好ましくは、前記遷移金属酸化物薄膜の厚さは5nm〜200nmである。前記ステップS130では、前記第1電極と前記遷移金属酸化物薄膜とを接触させて底部電極を形成する。前記第1電極の位置は、前記遷移金属酸化物薄膜の前記基板に近接する表面であってもよいし、前記遷移金属酸化薄膜の前記基板から離れた表面であってもよい。前記第1電極は、金属又は様々な導電薄膜、及び遷移金属酸化物薄膜自体であってもよい。一実施例では、前記第1電極はITO薄膜である。前記イオン液体は様々な種類のイオン液体であってもよい。一実施例では、前記イオン液体はDEME−TFSIである。
【0028】
前記ステップS200では、前記遷移金属酸化物の表面にイオン液体層を形成することができる。前記イオン液体は、所望の水素イオン及び酸素イオンを加水分解又は他の手段によって提供することができ、かつ前記遷移金属酸化物を覆うことができる限り、様々な種類のイオン液体であってもよい。前記遷移金属酸化物及び前記イオン液体が電場内にある場合、前記イオン液体中の水素イオン及び酸素イオンは電場の方向により制御されて、前記遷移金属酸化物に挿入するか又はそれから析出させることができる。前記イオン液体中の水の量は制限されない。実験によると、前記イオン液体が少量の水(>100ppm)を有する限り、上述の水素イオン及び酸素イオンの注入及び析出を実現することができる。
【0029】
前記ステップS300では、前記遷移金属酸化物に電場を印加する方法は複数あってもよいことが理解され得る。一実施例では、前記ステップS300は、以下のステップS310〜S330を含む:
S310では、第2電極及び電源を提供し、
S320では、前記第2電極と前記第1電極とを間隔をおいて配置し、それぞれ前記電源に電気的に接続し、
S330では、前記第2電極を前記イオン液体に浸漬し、前記電源により前記第2電極から前記第1電極へ向かう電場を印加する。
【0030】
前記ステップS310では、前記第2電極の形状は限定されず、平行板電極、棒状電極、又は金網電極であってもよい。一実施例では、前記第2電極は、バネ状金属線からなる電極である。前記電源は、様々な直流電源、交流電源などであってもよい。前記電源の電圧は調整可能であり、反応時間を制御するために使用することができる。一実施例では、前記電源は直流電源である。
【0031】
前記ステップS320では、前記第2電極と前記第1電極とは間隔をおいて対向して配置されるので、前記第2電極と前記第1電極との間に配向の電場を形成することができる。前記第2電極、前記第1電極と前記直流電源との接続方法は限定されず、スイッチ制御により前記第1電極及び前記第2電極に電圧を印加することができる。
【0032】
前記ステップS330では、前記第2電極を前記イオン液体に浸漬し、前記第1電極及び前記第2電極に通電すると、前記第1電極を直流電源の負極に接続し、前記第2電極を直流電源の正極に接続することができる。それにより、前記第1電極と前記第2電極との間に前記第2電極から前記第1電極へ向かう電場を生成することができる。前記第1電極と前記第2電極との間にイオン液体があるため、電場の作用下でイオン液体中の正に帯電した水素イオンは前記第1電極に向かって移動し、前記遷移金属酸化物薄膜の表面に集まり、さらに前記遷移金属酸化物に挿入する。それにより、水素含有遷移金属酸化物が得られる。負に帯電した酸素イオンはサンプルから析出し、イオン液体中に注入される。電場が反転されると、上記のイオン変化プロセスは対応する反転を実行することが理解され得る。従って、電場方向の変化により、上記プロセスは可逆プロセスとなる。
【0033】
前記イオン液体ゲート電圧調節制御方法により、異なる水素含有量及び酸素含有量を有するストロンチウムコバルタイトの薄膜SrCoO
xH
yを得ることができる。一実施例では、前記水素含有遷移金属酸化物ABO
xH
yは、SrCoO
2.8H
0.82、SrCoO
2.5H、SrCoO
3H
1.95、SrCoO
2.5H
2.38のうちのいずれである。
【0034】
図2を参照されたい。上記方法により得られたSrCoO
xH
y薄膜中のHとOの含有量を確定するために、本実施例は、水素前方散乱(Hydrogen Forward Scattering)とラザフォード後方散乱(Rutherford Back Scattering)の方法を組み合わせて、3つのSrCoO
xH
y薄膜中のHとOの含有量を定量的に測定した。測定結果によれば、複数の異なる薄膜中のCoとHとの原子比はそれぞれ1:0.82(
図2a及び2b)、1:1.95(
図2c及び2d)及び1:2.38(
図2e及び2f)であった。前記3つのSrCoO
xH
yの元素化学量論比はそれぞれSrCoO
2.8H
0.82、SrCoO
3H
1.95及びSrCoO
2.5H
2.38である。上述のSrCoO
2.8H
0.82、SrCoO
2.5H、SrCoO
3H
1.95、SrCoO
2.5H
2.38はいずれも可逆電場の制御下で3つの完全に異なる相の間のトポロジカル相転移を実現し、3つの相は完全に異なる電気的、光学的及び磁気的特性を有する。前記水素含有遷移金属酸化物ABO
xH
yは、SrCoO
2.8H
0.82、SrCoO
2.5H、SrCoO
3H
1.95、SrCoO
2.5H
2.38のうちのいずれである。
【0035】
以下、SrCoO
2.5Hを例として、SrCoO
2.5、SrCoO
3−δ、SrCoO
2.5Hの三相間の相転移を説明する。SrCoO
2.5Hは第1相に対応し、SrCoO
2.5は第2相に対応し、SrCoO
3−δは第3相に対応する。
【0036】
図3を参照すると、ゲート電圧によりSrCoO
2.5H相転移を調節制御する装置が示される。
図3の装置により、イオン液体ゲート電圧調節制御方法を使用して、室温下で電場制御による新たな相SrCoO
2.5Hの調製並びに三相間の可逆的及び不揮発性変換を実現した。前記SrCoO
2.5H薄膜の縁部に導電性銀ペーストを電極として塗布し、薄膜の表面をイオン液体で覆っている。螺旋状のPt電極は他の電極として機能する。本実施例では、水分子を加水分解して相転移に必要な水素イオン及び酸素イオンを得ることができるDEME−TFSI型のイオン液体を用いた。所望の水素イオン及び酸素イオンを取得し、電場駆動下で材料中に注入又は析出させることができる限り、その効果は他のイオン液体、イオン塩、ポリマー、及び極性材料などに広く適用することができる。
【0037】
図4を参照すると、この図は、ゲート電圧調節制御法により三相転移を制御するin−situXRDを示す。
図4に示すように、イオン液体において、SrCoO
2.5薄膜に対して正のゲート電圧を使用した後(電圧の増加速度は2mV/sである)、45.7度(004)の回折ピークは徐々に弱くなり最終的に消滅する。同時に、新たな相に対応する44度の回折ピークが現れ始め、それにより、新たな構造物相SrCoO
2.5Hが得られる。徐々に負のゲート電圧になると、新たな相SrCoO
2.5HはすぐにSrCoO
2.5に戻り、負のゲート電圧を印加し続けると、SrCoO
2.5Hはペロブスカイト構造を有するSrCoO
3−δ相に転移する。また、このin−situ電場調節制御による構造相転移は、可逆的に調節制御することができる。正のゲート電圧になると、SrCoO
3−δ相はすぐにSrCoO
2.5相及びSrCoO
2.5Hに変換される。従って、電場制御の方式によって、ブラウンミラライト構造を有するSrCoO
2.5、ペロブスカイト構造を有するSrCoO
3−δ及びSrCoO
2.5H相の間の可逆的な構造相転移が実現される。さらに重要なことには、これらの調節制御された新たな相は不揮発性を有する、即ち、構造相及び対応する物理的特性は電界が除去された後も維持される。
【0038】
図5を参照すると、3つの相SrCoO
2.5、SrCoO
3−δ及びSrCoO
2.5HのX線回折パターンが示される。ペロブスカイト構造を有するSrCoO
3−δと比較して、ブラウンミラライト構造を有するSrCoO
2.5相は、酸素八面体及び酸素四面体の面外方向の交互配列に由来する一連の超構造ピークを示す。対応するブラッグ回折角に基づいて、SrCoO
2.5及びSrCoO
3−δ構造の擬立方c軸格子定数はそれぞれ0.397nm及び0.381nmである。これも以前の研究と一致している。新たな相SrCoO
2.5Hも一連の超構造回折ピークを有する。それは、SrCoO
2.5HがSrCoO
2.5構造と同じ長周期格子構造を有することを示す。新たな相SrCoO
2.5Hのc軸格子定数は0.411 nmであり、対応するSrCoO
2.5及びSrCoO
3−δよりも3.7%及び8.0%大きい。また、
図6を参照すると、これら3つの相SrCoO
2.5、SrCoO
3−δ及びSrCoO
2.5Hは、ほぼ同じロッキング曲線半値全幅(FWHM)、及び基板と同じ面内格子定数(逆格子空間の面内Q値が一致する)を有する。それは、in−situ成長及びゲート電圧調節制御後の薄膜が依然として高い結晶品質を維持することを示す。また、
図7及び
図8を参照すると、LSAT(001)上に成長した異なる厚さを有する薄膜(20nm〜100nm)、並びにSTO(001)及びLAO(001)基板上に成長した異なる応力を有する薄膜が提供され、同様の結果が得られた。これは、SrCoO
2.5、SrCoO
3−δ及びSrCoO
2.5Hの三相の可逆相転移の電場制御の有効性及び本質を十分に示している。即ち、この効果は、応力とは無関係であり、材料のサイズや厚さに関係なく、様々な構造形式の材料系に広く適用することができる。
【0039】
図9を参照すると、XRD測定から得られた3つの構造、並びにそれらと既存のSrCoO
3及びSrCoO
2.5バルク材料との格子体積の比較が示される。
図9からわかるように、前記第1相の格子体積は前記第2相の格子体積よりも大きく、前記第2相の格子体積は前記第3相の格子体積よりも大きい。
【0040】
図10を参照されたい。新たな相SrCoO
2.5Hを形成する電子構造を深く理解するために、3つの相SrCoO
2.5、SrCoO
3−δ及びSrCoO
2.5HにおけるCoのL吸収端及びOのK吸収端に対してX線吸収スペクトル測定を行って、その電子構造を研究した。CoのL
2,3吸収端は、2p軌道から3d軌道への電子の遷移を検出し、対応する化合物の原子価状態を判断するための基準として使用できる。
図10aに示すように、新たな相SrCoO
2.5HからSrCoO
2.5に、そしてSrCoO
3−δ相に、CoのL吸収端のピーク位置が徐々に高エネルギー端に移動している。これは、Coの原子価状態が順に増加することを示す。特に、新たな相SrCoO
2.5Hの吸収スペクトル特性はCoOとほぼ同じスペクトル形状とピーク位置を有し、新たな相SrCoO
2.5HにおけるCoの原子価状態は+2価であることを示す。同時に、SrCoO
2.5相におけるCoのX線吸収スペクトルも以前の研究とよく一致する。即ち、SrCoO
2.5相におけるCoは+3価である。SrCoO
2.5相と比較して、SrCoO
3−δ相におけるCoのL
3吸収端のピーク位置は約0.8eV高い。これは、SrCoO
3−δ相における酸素空格子点が少ない(δ<0.1)ことを示す。また、OのK吸収スペクトルを測定することによって、3つの相の電子状態をさらに研究した(
図10b)。ここで、OのK吸収は、O1s被占軌道から空軌道O2p軌道への遷移を測定した。SrCoO
3−δにおけるOのK吸収端と比較して、SrCoO
2.5相において、527.5eVピーク位置での明らかな減衰及び528.5eVピーク位置での明らかな増強は、それが完全な酸素八面体配位から一部の酸素八面体及び一部の酸素四面体配位に変換したことを示す。しかしながら、新たな相において、528eV吸収ピークが完全に消失したことは、OとCoとの間のハイブリダイゼーションがが大幅に減衰したことを示す。
【0041】
図11を参照されたい。SrCoO
2.5格子への水素イオンの挿入を確認するために、二次イオン質量スペクトルの方法を使用して、3つの相におけるH元素及びAl元素(LSAT基板由来)の深さ依存曲線を測定した。LSAT基板及び他の2つの相と比較して、新たな相における明らかなH信号は、著しい量のHがSrCoO
2.5の格子中に挿入し、新たな相中に均一に分布していることを明らかに示す。さらに前の吸収スペクトル試験によると、Coイオンの+2価の原子価状態の実験的証拠を確定することができ、新たな相の化学式がSrCoO
2.5Hであることを確定することができる。また、OのK吸収端(
図11b)では、532.5eVでの強い吸収ピークはO−H結合に起因する可能性がある。これはまた、新たな相におけるH+イオンの存在について強い証拠を提供する。
【0042】
図12を参照されたい。イオン液体ゲート電圧調節制御のプロセス及びその3つの相に対する可逆的調節制御をまとめた。この構造において、SrCoO
3はペロブスカイト構造を有し、Coイオンは酸素イオンに囲まれて酸素八面体構造を形成する。SrCoO
2.5はブラウンミラライト構造を有する。SrCoO
3と比較して、2つのCoイオンごとに1つの酸素イオンが失われるので、材料は、八面体と四面体が互いに重なり合うように形成される。SrCoO
2.5Hでは、水素イオンと酸素四面体における酸素イオンとは接続されて、OH結合を形成する。これら3つの構造の間では、電場駆動下での酸素イオン及び水素イオンの挿入及び析出により、可逆的構造相転移を実現することができる。
【0043】
図13を参照すると、
図13は、ゲート電圧調節制御により、前記構造式ABO
xH
yを有する水素含有遷移金属酸化物のSrCoO
2.5とSrCoO
2.5Hとの二相間の複数回の可逆的相転移が実現されることを示す。正のゲート電圧は、SrCoO
2.5からSrCoO
2.5Hへの相転移を誘導し、負のゲート電圧は、SrCoO
2.5HからSrCoO
2.5への相転移を誘導する。
【0044】
図14を参照すると、
図14は、水素含有遷移金属酸化物ABO
xH
yである固体電解質のオン伝導性測定の実験装置図である。基板上に成長したABO
xH
yの水素含有遷移金属酸化物薄膜のサンプルをプラチナ又はパラジウム電極をメッキし、H
2とArの比が5:95又は10:90の混合ガスを装置に導入し、サンプルを加熱することによって、イオン伝導性を取得することができるナイキスト曲線を測定する。
【0045】
図15を参照すると、
図15は、固体電解質として水素含有遷移金属酸化物ABO
xH
yを用いるプロトン固体酸化物燃料電池の動作原理模式図である。負極(陽極)の可燃性ガス(例えば、H
2)は、メソ孔構造を有するプラチナ又はパラジウム電極に導入され、触媒作用下でH
+に分解されるとともに電子を放出する。H
+は濃度勾配の作用下で正極(陰極)に向かって拡散し、触媒化されて正極(陰極)に入るO
2−イオンと反応して水を生成する。O
2は触媒化プロセスにおいて電子を得る。
【0046】
図16及び
図17を参照すると、
図16はSrCoO
xH
yのインピーダンススペクトル測定曲線(
図16a)であり、等価回路のフィッティング(
図17)により、SrCoO
xH
y中のH
+イオンのイオン伝導性(
図16b)を得ることができる。
【0047】
図18を参照すると、
図18は、インピーダンススペクトルの虚数部と周波数との関係曲線であり、高周波数領域に単一のピークしか存在せず、1種類のイオンのみが伝導に関与することを示す。それと対称なピークの形状は、誘起効果による摂動がないことを示す。
【0048】
図19を参照すると、
図19は、SrCoO
xH
yと他の電解質とのイオン伝導性の比較図を示し、SrCoO
xH
yシステムは低温領域(200℃未満)で非常に優れている水素イオン伝導性を有することを示す。従って、本出願の実施例による固体燃料電池100において、前記固体電解質120は、比較的低い動作温度を有し、200℃以下で動作することができる。
【0049】
本出願は、イオン液体にゲート電圧を印加して調節制御を行う方法により、新規な固体燃料電池の電解質SrCoO
xH
yを調製する。SrCoO
xH
yには大量のHイオンがあり、この結晶構造では、H−O結合の形成により、Co−O八面体及びCo−O四面体は大きな角度でねじれる。また、この構造には大量の空孔があり、H−O結合のねじれ及び水素イオンの輸送のための空間及びチャネルが提供される。本出願の実験結果は、固体燃料電池の電解質SrCoO
xH
yが低温領域(室温〜180℃)において巨大な水素イオン伝導性を示すことを明らかにする。本出願によって提供されたその固体燃料電池の電解質を使用する固体燃料電池100は、比較的高いHイオン伝導性及びより低い動作温度を有する。
【0050】
以上の実施例は本出願の幾つかの実施形態のみを詳細且つ具体的に示しているが、本出願の保護範囲を限定するものではないと理解すべきである。当業者にとって、本出願の創造的構想から逸脱しない前提で、幾つかの変形や改善を行うことができ、これらはすべて本出願の保護範囲に属するべきであると理解しなければならない。従って、本出願の保護範囲は、特許請求の範囲に指定された内容を基準とする。