(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883397
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】屋根構造体の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/342 20060101AFI20210531BHJP
E04B 1/35 20060101ALI20210531BHJP
E04B 1/343 20060101ALI20210531BHJP
E04G 21/14 20060101ALI20210531BHJP
E04G 1/17 20060101ALI20210531BHJP
E04G 5/16 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
E04B1/342 B
E04B1/35 G
E04B1/343 U
E04G21/14
E04G1/17
E04G5/16 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-168848(P2016-168848)
(22)【出願日】2016年8月31日
(65)【公開番号】特開2018-35556(P2018-35556A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 芳裕
【審査官】
兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−130841(JP,A)
【文献】
特開昭63−206568(JP,A)
【文献】
特開昭63−004141(JP,A)
【文献】
特開平06−185120(JP,A)
【文献】
特開平04−089940(JP,A)
【文献】
特開2001−348955(JP,A)
【文献】
特開2009−041307(JP,A)
【文献】
特開2005−304731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/342−1/343,1/35
E04G 21/14−21/16
E04G 1/17,5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根構造体の構築方法であって、
地盤面上に複数の仮設架台を組み立てる工程と、
前記屋根構造体の少なくとも一部を複数の屋根ユニットに分割して、当該複数の屋根ユニットを地組みして前記仮設架台の上面に揚重し、当該複数の屋根ユニット同士を空中で連結する工程と、を備え、
前記仮設架台は、前記屋根ユニットの荷重を支持する枠組足場で構成される支持部と、当該支持部の下側の外周に設けられて当該支持部に連結された枠組足場で構成される補強部と、を備え、
前記補強部の高さは、前記支持部の重心の高さより上方に位置しており、
前記支持部の上端部は、控えワイヤーにより、地盤面上に敷設された控えウエイトに連結されており、
当該控えウエイトは、積層されて互いに連結された複数の敷鉄板であることを特徴とする屋根構造体の構築方法。
【請求項2】
前記補強部は、平面視にて、前記支持部を挟んで略I字形状に一対配置される、前記支持部を中心として略T字形状に3つ配置される、あるいは、前記支持部を中心として略十字形状に4つ配置され、
前記仮設架台の下端側は、上端側よりも水平横断面積が大きいことを特徴とする請求項1に記載の屋根構造体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、大空間を覆う屋根構造体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、大空間を覆う屋根構造体を構築する際、その屋根構造体を組み立てたり仮支持したりするために、地盤面上に仮設架台を設ける場合がある。
この場合、仮設架台の転倒を防止するため、この仮設架台の上部と仮設架台周囲の地盤との間には、控えワイヤーが展張される。
【0003】
しかしながら、このような控えワイヤーを固定する地盤が仮設架台から離れていると、控えワイヤーが障害物となって、揚重機などの建設車両が仮設架台の近くを走行できず、屋根構造体を施工効率が低下する、という問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1のような控えワイヤーの設置方法が提案されている。すなわち、仮設テントの周囲には外部足場が設けられており、外部足場の上端部と地盤面との間には、控えワイヤーが展張されている。この外部足場の上部には張り出し部が設けられ、控えワイヤーは、この張り出し部の先端を通して、外部足場に近接した地盤に固定されている。これにより、揚重機などの建設車両が仮設架台の近くを走行可能となっている。
【0005】
また、特許文献2には、大空間の天井仕上げ工事で採用される高所作業用の吊足場が示されている。この吊足場は、地組みされた後、本設梁に取り付けられた吊り上げ設備によって上方に吊り上げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−185222号公報
【特許文献2】特開2001−329686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
屋根構造体の施工性をより向上させるため、仮設架台の控えワイヤーの本数を削減することが要請されている。
【0008】
本発明は、仮設架台の周囲に設ける控えワイヤーの本数を削減することで、施工効率を向上できる屋根構造体の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の屋根構造体の構築方法は、屋根構造体(例えば、後述の屋根10)の構築方法であって、地盤面(例えば、後述の地盤面2)上に複数の仮設架台(例えば、後述の仮設架台30A、30B)を組み立てる工程(例えば、後述のステップS2)と、前記屋根構造体の少なくとも一部を複数の屋根ユニット(例えば、後述のトラス梁ユニット16、17)に分割して、当該複数の屋根ユニットを地組みして前記仮設架台の上面に揚重し、当該複数の屋根ユニット同士を空中で連結する工程(例えば、後述のステップS3、S4)と、を備え、前記仮設架台は、前記屋根ユニットの荷重を支持する支持部(例えば、後述の支持部31)と、当該支持部の下側の外周に設けられて当該支持部に連結された補強部(例えば、後述の補強部32)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、支持部の下端側の外周に補強部を設けたので、仮設架台の下端側は上端側よりも水平横断面積が大きくなる。よって、水平抵抗力が大きくなり、地震時の水平荷重に対して高い安全性能を確保できる。
また、支持部の下端側を補強部で補強するので、屋根構造体を構築する際、仮設架台の周囲に設ける控えワイヤーの本数を削減できるため、揚重機などの建設車両が仮設架台の近くを走行可能であり、屋根構造体を効率よく構築できる。
【0011】
第2の発明の屋根構造体の構築方法は、前記補強部は、平面視にて、前記支持部を挟んで略I字形状に一対配置される、前記支持部を中心として略T字形状に3つ配置される、あるいは、前記支持部を中心として略十字形状に4つ配置されることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、補強部を、支持部の下端側の外周に、I形状、T字形状あるいは十字形状に配置した。これにより、仮設架台の水平横断面積が大きくなって、水平抵抗力が増大するので、高い安全性能を確保することができる。
【0013】
第3の発明の屋根構造体の構築方法は、前記仮設架台の上端部は、控えワイヤー(例えば、後述の控えワイヤー33)により、地盤面上に敷設された控えウエイト(例えば、後述の控えウエイト34)に連結されており、当該控えウエイトは、積層されて互いに連結された複数の敷鉄板(例えば、後述の敷鉄板40)であることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、控えワイヤーにより、仮設架台の上端部を控えウエイトに連結した。控えウエイトは、積層化された敷鉄板を重ねたものであり、かなりの重量があることから、各控えワイヤーに高い張力を導入して固定できる。よって、控えワイヤー1本当りの水平抵抗力を増大できるから、控えワイヤーの本数を少なくできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、仮設架台の周囲に設ける控えワイヤーの本数を削減することで、施工効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る屋根構造体の構築方法により構築された構造物の平面図である。
【
図3】構造物の構築方法の説明図(その1、仮設架台および控えワイヤーの配置)である。
【
図4】構造物の構築方法の説明図(その2、構築中の縦断面図)である。
【
図5】構造物の構築方法に用いられる控えウエイトの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の屋根構造体の構築方法では、屋根ユニットを連結する際、屋根ユニットを支持する支保工でありかつ高所作業ステージとしても用いる仮設架台を、控えワイヤーで支持するのではなく、その仮設架台の下側に補強部を連結して仮設架台の水平抵抗力を増大させることで、控えワイヤーの本数を削減した。本発明の仮設架台では、その周囲に揚重機などの建設作業
車を近接して移動することが可能であり、効率的に屋根構造体を構築できる。
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る屋根構造体の構築方法により構築された構造物1の平面図である。
【0019】
構造物1は、大空間を覆う平面視で矩形状の屋根構造体としての屋根10と、地盤面2に設けられてこの屋根10を支持する複数本の柱20と、を備える。
屋根10は、
図1中X方向に延びる6本のトラス梁11と、
図1中Y方向に延びる4本のトラス梁12と、
図1中Y方向に延びてトラス梁11同士の間に架設された第1小梁13と、小梁13同士あるいは小梁13とトラス梁12との間に架設された第2小梁14と、トラス梁11、12および小梁13で囲まれた平面に架設された水平ブレース15と、トラス梁11、12および小梁13、14に支持される屋根材(図示省略)と、を備える。
【0020】
柱20は、屋根10の周縁の三辺に沿って略コの字形状に並んで配置されている。なお、理解の容易のため、柱20の位置を、
図1中破線で囲んで示す。
【0021】
以下、構造物1の構築方法について、
図2のフローチャートに従い、
図3および
図4を参照しながら説明する。
図3は、構造物1の構築中の状態を示す平面図である。
図4(a)は、
図3のA−A断面図であり、
図4(b)は、
図3のB−B断面図である。
本実施形態では、
図4に示すように、トラス梁11、12を、屋根ユニットとしてのトラス梁ユニット16、17に分割して、これらトラス梁ユニット16、17を地組みし、その後、揚重して空中で連結する。
【0022】
ステップS1では、
図4に示すように、柱20を建て込む。
ステップS2では、
図3および
図4に示すように、地盤面2上に複数の仮設架台30A、30Bを組み立てる。これら仮設架台30A、30Bは、トラス梁ユニット16、17同士の連結箇所の直下に配置される。
【0023】
仮設架台30A、30Bは、トラス梁ユニット16、17の荷重を支持する支持部31と、支持部31の下側の外周に設けられて支持部31に連結された補強部32と、を備える。仮設架台30Aでは、補強部32は、平面視にて、支持部31を中心として略十字形状に配置される。一方、仮設架台30Bでは、補強部32は、平面視にて、支持部31を挟んだI字形状に一対配置される。
【0024】
支持部31および補強部32は、枠組足場で構成される。仮設架台30A、30Bは、支持部31とおよび補強部32の鉛直部材同士が水平方向に延びるつなぎ材で連結されて構成される。仮設架台30A、30Bにおいて、補強部32は、支持部31の重心31aの高さより上方の高さまで設置される。
なお、理解の容易のため、
図3および
図4中、補強部32を斜線で示す。
【0025】
このうち、仮設架台30Aの上端部は、控えワイヤー33により、地盤面2上に敷設された控えウエイト34に連結されている。
【0026】
図5は、控えウエイト34の側面図である。
控えウエイトは、積層された2枚の敷鉄板40と、敷鉄板40の四隅に設けられて地盤面2に打ち込まれた鉄筋棒41と、を備える。敷鉄板40は、鉄筋棒41に溶接固定されており、これにより、敷鉄板40同士が互いに連結されている。
控えワイヤー33は、キトークリップ42に固定されており、このキトークリップ42は、レバーブロック(登録商標)43に連結されている。さらに、このレバーブロック(登録商標)43は、シャックル44を介して、敷鉄板40の貫通孔45に連結されている。
【0027】
ステップS3では、トラス梁ユニット16、17を地盤面2上で地組みする。
ステップS4では、トラス梁ユニット16、17を仮設架台30A、30Bの上面に揚重し、これら複数のトラス梁ユニット16、17同士を空中で連結して組み立てる。このとき、
図4(a)に示すように、揚重機50が仮設架台30Aの近傍を走行可能となっている。
ステップS5では、小梁13、14、水平ブレース15および屋根材を取り付ける。
ステップS6では、仮設架台30A、30Bを解体して撤去する。
【0028】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)支持部31の下側の外周に補強部32を設けたので、仮設架台30A、30Bの下端側は上端側よりも水平横断面積が大きくなる。よって、地盤面2上に設置される仮設架台30A、30Bの下端側の水平抵抗力を大きくすることで、地震時に水平荷重が仮設架台30A、30Bに作用しても高い安全性能を確保できる。また、補強部32の高さを、支持部31の重心31aの高さより高くすることで、仮設架台30A、30Bの構造安定性を高めることができる。
また、支持部31の下端側を補強部32で補強するので、屋根10を構築する際、仮設架台30Aの周囲に設ける控えワイヤー33の本数を削減できる。また、控えワイヤー33の架設本数が少なることで、揚重機50などの建設車両が仮設架台30Aの近くを走行可能となり、屋根10を効率よく構築できる。
【0029】
(2)補強部32を、支持部31の下側の外周に、I形状あるいは十字形状に配置した。これにより、仮設架台30A、30Bの水平横断面積が大きくなって、水平抵抗力が増大するので、高い安全性能を確保できる。従来では、支持部の自立性を高めるために控えワイヤーを架設していたが、この支持部31の側面に補強部32を配置することで、控えワイヤー33の架設本数を削減できる。
【0030】
(3)隣接する仮設架台30Aの上端部同士を控えワイヤー33で連結するとともに、この控えワイヤー33を控えウエイト34に緊結した。控えウエイト34は、積層化された敷鉄板40を重ねたものであり、かなりの重量があることから、各控えワイヤー33に高い張力を導入して固定できる。よって、控えワイヤー1本当りの水平抵抗力を増大できるから、控えワイヤー33の本数を少なくできる。
【0031】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、補強部32を、支持部を挟んでI字形状に一対配置、あるいは、支持部を中心として略十字形状に4つ配置したが、これに限らず、支持部を中心として略T字形状に3つ配置してもよい。
【符号の説明】
【0032】
1…構造物 2…地盤面
10…屋根(屋根構造体) 11、12…トラス梁
13…第1小梁 14…第2小梁 15…水平ブレース
16、17…トラス梁ユニット(屋根ユニット) 20…柱
30A、30B…仮設架台 31…支持部 31a…支持部の重心
32…補強部 33…控えワイヤー 34…控えウエイト
40…敷鉄板 41…鉄筋棒 42…キトークリップ 44…シャックル
45…貫通孔 50…揚重機