【文献】
SHINODA Wataru,Permeability across lipid membranes,Biochimica et Biophysica Acta,2016年 4月14日,Vol.1858,pp.2254-2265
【文献】
TORIN Huzil J.,Drug delivery through the skin: molecular simulations of barrier lipids to design more effective noninvasive dermal and transdermal delivery systems for small molecules, biologics, and cosmetics,Wiley Interdiscip Rev Nanomed Nanobiotechnol.,2011年,Vol.3 No.5,pp.449-462
【文献】
WAN Guang,Interaction of menthol with mixed-lipid bilayer of stratum corneum: A coarse-grained simulation study,Journal of Molecular Graphics and Modelling,2015年 6月18日,Vol.60,pp.98-107
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
皮膚は、体の最大の器官であり、体外病原体の攻撃から保護し、多くの有害分子の浸透へのバリアを提供し、組織の水和レベルを維持する。角質層(SC)としても知られている皮膚の最外層が主にこれらのバリア性を担当する。
【0004】
皮膚を通した薬剤の送達は、皮膚の表面積が広いため、好都合な投与経路を提供し、通常、自己投与することができる。したがって、皮膚が化学物質を吸収する正確な予測は、経皮薬剤送達及び化粧品の局所適用の両方に関連する。近年、小分子(疎水性/親水性薬剤)及びマクロ分子(タンパク質、酵素)の経皮送達は、研究の魅力的であると共に困難な分野になっている。経皮経路は、従来の経口/静脈経路よりも優れた様々な利点を提供する。経皮経路では、投与する薬剤量を低減することができ、それにより、薬剤の毒性を低減することができる。消化管(経口経路での主な障壁)の回避に起因して、生物学的利用率が不良であるか、又は低い薬剤を送達することができる。この方法は、痛みがなく容易な投与及び患者コンプライアンスの強化を提供する。
【0005】
皮膚の化学物質吸収の正確な予測は、経皮薬剤送達及び化粧品の局所適用の両方に関連する。様々な薬剤及び化粧品の分子の皮膚透過性を予測するために、幅広い研究が長年にわたり実行されている。これらの努力は、実験研究、理論モデルの開発、及び経験的方法を含む。しかし、医薬品及び化粧品の両方での現在の業界規格は、詳細な生体外及び生体内の臨床試験を行うことである。これらは明らかに、巨大な費用を生じさせ、それにより、規制当局(FDA)により最終的に承認される成功した候補が非常に少ないことに繋がる。2D生体外細胞培養研究は、生体内皮膚環境で3Dで存在する多くの細胞間で生じる複雑な相互作用を正確には反映しない。齧歯類及び他の小型動物での生体内研究は、解剖学的構造の違いに起因して、人体状況にうまく置き換えられない。EpiSkin(登録商標)(LOreal(登録商標)、パリ)及びEpiDerm(登録商標)(MatTek(登録商標)、マサチューセッツ)のような幾つかの市販の人間の皮膚の均等物があるが、これらは高度に専門的な技能を必要とし、非常に高価である。
【0006】
更に、欧州連合(EU)規制(76/768/EEC、2003年2月)は、化粧品及び医薬品成分の開発及びテストでの動物又は動物由来の物質の使用を禁止している。2008年までに、FDAにより承認された経皮製剤が20のみであることが、経皮製剤に関わる困難さを実証している。
【0007】
新規薬剤/化粧品製剤の開発及びテストに関わる時間及びコストを考慮すると、入り組んだ生体内/生体外テストの幾つかをコンピュータテストで補足/置換することは必須である。人間の皮膚の現実的なコンピュータモデルは存在していない。様々な分子の皮膚透過性を予測するために、幅広い研究が過去数十年にわたり行われてきた。これらの努力は、定量的構造−透過性関係及び多孔性経路理論等の経験的手法の開発並びに厳密な構造ベースのモデルの開発を含む。しかし、分子構造のみの知識からの薬剤透過性を予測するために、高速コンピュータスクリーニングの開発に最終的に繋がる皮膚の表面層−角質層(SC)の分子レベルの理解は、依然として兆しが見えていない。SC構造の近年の分子レベルの解読により、現在、バリア特性を正確に模倣するのに適切な仮想モデルを開発することが可能である。
【0008】
分子シミュレーションは、分子特性及びバルク特性を再現する能力を用いて重要な物理的洞察及び分子レベル分解能をもたらす方法を提供する。二重層、ミセル、及びタンパク質のような生体分子の研究の効率的で多用途な技法として認識されてきた。様々な従来技術は、薬剤/化粧品をそれらの透過性に基づいてスクリーニングする実験の要因計画に焦点を当てていた。これまでのシミュレーション作業の大半は、実際の皮膚組成から離れた純粋なセラミド二重層のみに関わっていた。更に、従来のシミュレーション作業は、主に、分子動力学シミュレーションでのサンプリングを容易にする液晶相でのリン脂質細胞膜に焦点を当てていた。それに加えて、水の透過性のみに焦点を当てていた。今までのシミュレーションは、生理学的状況及び実際の皮膚組成で実行されていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書の実施形態並びにその様々な特徴及び利点について、添付図面に示され、以下の説明に詳述される非限定的な実施形態を参照してより詳細に説明する。本明細書で使用される例は、単に本明細書の実施形態を実施し得る方法の理解を促進し、更に、当業者が本明細書の実施形態を実施できるようにすることが意図される。したがって、例は、本明細書の実施形態の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0017】
これより、同様の参照文字が図全体を通して一貫して対応する特徴を示す図面、特に
図1を参照して、好ましい実施形態が示され、これらの実施形態は、以下の例示的なシステム及び/又は方法に関連して説明される。
【0018】
本開示の実施形態によれば、皮膚膜のシミュレーションを使用して活性分子をテストするシステム100が、
図1のブロック図及び
図2の構造的ワークフローに示される。システム100は、原子論的レベルで複雑な皮膚モデルを開発するための分子モデリングに基づく手法と、制約分子動力学シミュレーションを使用した分子の透過性、拡散性、分配係数、及び透過の自由エネルギー等の様々なパラメータの更なる計算とを提供する。システム100は、皮膚脂質膜をシミュレートするためのコンピュータ分子処理、テスト、及びスクリーニングに向けても構成される。この仮想皮膚膜を通る小分子の輸送特性が計算され、実験データと比較される。こうして検証されたモデル及び方法論は、製品の仮想スクリーニングに向けて大きく複雑な医薬品/化粧品の設計及び開発に更に使用することができる。システム100は、皮膚脂質を通る活性分子透過性のナノスケールレベルのピクチャを提供する。
【0019】
本開示の実施形態によれば、システム100は、薬剤及び化粧品のような様々な活性分子を使用し得る。これらの活性分子は、制約分子動力学シミュレーションを使用して、上述した皮膚モデルを通してナノスケールレベルのピクチャを提供する。活性分子は、タンパク質、薬剤、ポリマー、ナノ粒子等を含み得る。しかし、システム100でのテストへの任意の他の分子の使用が、本開示の範囲内にあることを理解されたい。様々な例では、小分子(疎水性/親水性薬剤)及びマクロ分子(タンパク質、酵素)の経皮送達も使用されている。
【0020】
本開示の実施形態によれば、システム100は、
図1に示されるように、ユーザインタフェース102、メモリ104、及びメモリ104と通信するプロセッサ106を含む。プロセッサ106は、メモリ104に記憶された複数のアルゴリズムを実行するように構成される。プロセッサ106は、様々な機能を実行する複数のモジュールを更に含む。複数のモジュールは、モデル生成モジュール108、シミュレーションモジュール110、拡散性計算モジュール112、分配係数計算モジュール114、及び透過性予測モジュール116を含む。
【0021】
ユーザインタフェース102は、構造ライブラリを第1の入力として、且つトポロジライブラリを第2の入力として提供するように構成される。構造ライブラリは、皮膚脂質、角質層成分、生体分子、タンパク質、薬剤、ポリマー、ナノ粒子、水、親水性及び疎水性分子、及び溶媒を含み得る。トポロジライブラリは、力場及び個々の分子パラメータファイルを含む。ユーザインタフェース102は、様々なソフトウェアインタフェース及びハードウェアインタフェース、例えば、ウェブインタフェース、グラフィカルユーザインタフェース等を含み得る。I/Oユーザインタフェースにより、システム100はユーザと直接、又はクライアントデバイスを通して対話することができる。更に、ユーザインタフェース102により、システム100は、ウェブサーバ及び外部データサービス(図示せず)等の他の計算デバイスと通信することができる。ユーザインタフェース102は、有線ネットワーク、例えば、LAN、ケーブル等及びWLAN、セルラ、又は衛星等の無線ネットワークを含め、多種多様なネットワーク及びプロトコルタイプ内の複数の通信を促進することができる。ユーザインタフェース102は、障害を有する人々により使用されるアシスト技術デバイス又は適応製品を含め、幾つかのデバイスを互いに又は別のサーバに接続する1つ又は複数のポートを含み得る。
【0022】
本開示の実施形態によれば、モデル生成モジュール108は、皮膚の保護上層である角質層の脂質マトリックスの分子レベルモデルを生成する。皮膚モデルは、3つの最も重要な成分:セラミド、コレステロール、及び遊離脂肪酸で構成される。分子モデルは、結合パラメータ及び非結合パラメータを利用して、分子間の相互作用を記述する。
【0023】
本開示の実施形態によれば、シミュレーションモジュール110は、皮膚の角質層の分子モデルを使用して、活性分子に対して単一ウィンドウ制約分子動力学シミュレーションで複数の分子を実行する。制約分子動力学シミュレーションは、一定温度及び一定圧力条件下で実行される。制約MDシミュレーション結果は、全二重層位相空間の不適切又は不適当なサンプリングにより隠され得る。主な問題は、異なる制約位置での浸透性を有する二重層の初期構造の開発にある。初期構造は、単一シミュレーションウィンドウに、複数の分子(本シミュレーションでは4つ)を制約することができるように準備される。各ウィンドウ内の分子間の最小距離は、分子間の相互作用を回避するために、1.2nmに維持され、そうすることで、各システムは、単一の制約分子を有する4つのシステムと同等のものを模倣する。システム100はまた、複数の分子をシミュレーションの単一ウィンドウに制約することにより、全位相空間のサンプリングに必要なシミュレーション時間を低減する。
【0024】
制約分子動力学シミュレーションからの結果は、位相空間の不良なサンプリングにより隠されることがある。この問題を回避するために、通常、複数(約200)の長い(約25〜30ns)の独立シミュレーションが実行される。本開示では、独立シミュレーションの数も、複数の制約分子を有する初期構造を生成することにより有意に低減されている(約50)。この方法及び手法は、計算時間を有意に節減し、位相空間の適切なサンプリングを提供する。プロトコルは、面内及び側方拡散性、分配係数、自由エネルギー、及び透過性の計算に制約分子動力学手法を使用する。
【0025】
本開示の実施形態によれば、システム100は様々なパラメータを予測するように構成される。システムは、拡散性計算モジュール112を使用して、シミュレーションに基づいて活性分子の拡散性を予測する。システム100は、分配係数予測モジュール114を使用して、シミュレーションに基づいて活性分子の分配係数を更に予測する。システム100は、透過性予測モジュール116を使用して、シミュレーションに基づいて活性分子の透過性も予測する。
【0026】
本開示の実施形態によれば、システム100により予測されるパラメータは、表示デバイス118に表示することもできる。パラメータは、更なる事後処理に提供されて、様々な他のパラメータを導出することもできる。パラメータは、熱力学的特性を表すこともできる。
【0027】
本開示の実施形態によれば、システム100は、予測された透過性に基づいて、薬剤/化粧品等の活性分子のスクリーニングに必要な実験の要因計画を克服するように構成される。システム100は、ナノスケールでSC層内部の分子の挙動も予測する。
【0028】
本開示の別の実施形態によれば、システム100は、透過性のような輸送特性への分子重量の影響を予測するようにも構成され、分子の側方及びz方向(二重層法線)拡散性を予測することもできる。更に、システム100は、水から二重層位相への分子の分配係数を予測することが可能である。システム100は、水から二重層位相への溶質/分子の透過の自由エネルギーを予測することが可能である。システムは、透過性への疎水性の影響を予測するように更に構成される。
【0029】
動作に当たり、フローチャート200は、本開示の実施形態による、
図3に示されるような皮膚膜のシミュレーションを使用した活性分子のテストに関わるステップを示す。まず、ステップ202において、構造ライブラリが、プロセッサ106への第1の入力として準備される。構造ライブラリが、皮膚資質、角質層成分、生体分子、タンパク質、薬剤、ポリマー、ナノ粒子、水、親水性及び疎水性分子、及び溶媒を含み得ることを理解されたい。ステップ204において、トポロジライブラリが、プロセッサ106への第2の入力として準備される。トポロジライブラリは、力場及び個々の分子パラメータファイルを含む。次のステップ206において、第1の入力及び第2の入力がプロセッサ106に提供される。
【0030】
ステップ208において、初期構成が、プロセッサ106により、第1の入力及び第2の入力を使用して生成される。初期構成が複数の制約分子を用いて生成される。初期構成は、単一シミュレーションウィンドウで複数の分子(本シミュレーションでは4つ)を制約することができるように準備される。次のステップ210において、皮膚の角質層の分子モデルは、前のステップで準備された初期構成を使用して生成される。分子モデリングは、原子論的レベルで複雑な皮膚モデルを開発する。分子モデルは、結合パラメータ及び非結合パラメータを利用して、分子間の相互作用を記述する。
【0031】
ステップ212において、活性分子の単一ウィンドウ制約分子動力学シミュレーションでの複数の分子が、皮膚の角質層の分子モデルを使用して実行される。及び最後に、ステップ214において、活性分子の拡散性が、プロセッサ106により、シミュレーションに基づいて予測される。ステップ214において、活性分子の分配係数が、プロセッサ106により、シミュレーションに基づいて予測される。及びステップ216において、活性分子の透過性が、プロセッサ106により、シミュレーションに基づいて予測される。
【0032】
活性分子の拡散性、分配係数、及び透過性の予測が、本開示の実施形態による実験データと定性的に良好に一致することを理解されたい。
【0033】
角質層(SC)は、主に角質細胞(ブロック)及び脂質マトリックス(モルタル)で構成される。角質細胞は主に不浸透性であり、分子は脂質マトリックスに浸透する。この脂質マトリックスは、バリア機能の主要決定要因であり、主に特定の比率の長鎖セラミド(CER)、コレステロール(CHOL)、及び遊離脂肪酸(FFA)の異質成分からなる混合物で構成される。SCは、頭部基の構造及び付着する脂肪酸鎖長に従って分類される300を超える異なるタイプのCERで構成される。CERの頭部基のわずかな変化(OH基の位置又は数)は、二重層の形態を有意に変化させることができる。可能な全てのCER、FFA、及びCHOLを組み込んだ皮膚のSC層の異質成分からなる混合物の分子モデルの原子論的シミュレーションは困難であり、現在の計算性能を超えている。しかし、現実的なSC層をシミュレートするために、最も豊富なセラミドであるCER−NS24:0及び遊離脂肪酸FFA24:0が、分子モデルに選ばれる。ここで、24及び0は、CER−NS及びFFAの両方での脂肪酸鎖中の二重結合の長さ及び数をそれぞれ表す。
【0034】
本開示では、幾つかの独立長(約30nsまで)の制約MDシミュレーションが実行された。水、エタノール、DMSO、トルエン、ベンゼン等の透過性が、CER、CHOL、及びFFAの等モル混合物で計算される。
【0035】
本開示の実施形態によれば、幾つかの独立長(約30nsまで)の制約MDシミュレーションを実行した。様々な例では、水、エタノール、DMSO、トルエン、及びベンゼンの透過性をCER、CHOL、及びFFAの等モル混合物で計算する。力場パラメータ及びシミュレーションセットアップをシミュレーションに向けて準備した。
【0036】
CERの力場パラメータをBerger力場及びGROMOS87パラメータから採用した。Berger力場は、パルミトイルスフィンゴミエリン(PSM)及びリン脂質二重層に関してパラメータ化されている。PSMは、頭部基ジオメトリ以外はCER−NSと同様の構造を有する。CH
2基及びCH
3基は、ゼロ部分電荷を有する融合原子C単一体として扱われ、偏極水素が明示的に包含され、極性基の電荷は先のシミュレーションから採用した。Ryckaert-Bellemans2面角ポテンシャルをFFA及びCERの炭化水素鎖に使用した。FFA及びCHOLのパラメータは、GROMOSデータセットから採用した。単純点電荷(SPC)モデルを水分子に使用した。
【0037】
シミュレーションをNVTアンサンブル及びNPTアンサンブルで実行した。温度は、時間定数5psを有するNose-Hooverサーモスタット並びに脂質分子及び水に別個に結合されたサーモスタットにより、310Kに制御した。圧力は、時間定数5ps及び半等方結合(XY方向及びZ方向が別様に結合される)での圧縮率4.5×10
−5バールでParrinello-Rahman圧調節器により1バールに制御された。脂質及び溶質分子中の全ての結合は、LINCSアルゴリズムを使用して制約し、一方、SETTLEアルゴリズムを水に使用した。2fsの時間ステップを全てのシミュレーションに使用した。1.2nmのカットオフをVander Wall及び静電相互作用に使用した。全ての系は、少なくとも約5nsにわたり平衡させた。制約シミュレーションの最後の25nsは、制約力及び他の特性の計算に使用した。上記パラメータ(圧調整器、サーモスタット、及び制約アルゴリズム等を含む)は、可変であり、システムに基づいて調整することができ、上で与えられた情報に限定されない。
【0038】
更なる初期二重層及び溶質構造もモデリングされる。等モル二重層構造がNPTアンサンブル中で約200nsにわたり平衡された。等モル二重層は、52個のCER分子、52個のCHOL分子、52個のFFA分子、及び5120個の水分子で構成される。
図4は、310Kでの二重層法線に沿った個々の二重層成分の密度分布を示す。CHOLは主に各層の中央間にあり(z約3.5、6.5)、一方、二重層の中央でのFFA及びCERの密度の増大はわずかである(z約5.5)。二重層の全位相空間をサンプリングするために、複数の溶質を異なるxy平面及びz平面に制約する必要がある。これを効率的に行うために、モデルは以下のように準備された。提案されるプロトコルが、上述される時間及びサイズに限定されないことに留意しなければならない。
【0039】
反応座標は、膜法線zであるように選ばれ、ここで、z=0nmは二重層の質量中心(COM)に対応する。各セットアップで、4つの分子が異なるxy平面及び二重層のCOMから約4.8nmのz距離に手動で配置された。溶質で包まれた水分子を除去し、セットアップをエネルギー最小化した。次に、各セットアップは、溶質分子をそれぞれの位置に固定して維持することにより、更に20nsにわたりNPTアンサンブル中で平衡させた。これらの平衡構造は、制約シミュレーションの初期構成の準備に更に使用した。溶質は、拡散速度を用いて二重層に中心に向かってゆっくりと引っ張られた。このランの時間ステップは1fsに保たれた。脂質の質量中心(COM)と溶質分子との間のz距離が0.2nmだけ変化する毎に、構成を記録した。各ウィンドウで、4つの溶質が異なるz及びxy位置に制約された。合計で24のウィンドウが上記手順を使用して生成された。これらのウィンドウは、二重層の上層から中間までのバルク水からの全空間にわたる。同じウィンドウ内にある溶質間で反復を停止するために、最小z距離を1.2nm(vdW及びクーロンのカットオフ)として維持した。提案されるプロトコルが、上述される時間及びサイズに限定されないことに留意しなければならない。
【0040】
記憶された等距離構成は30nsにわたり更に実行され、そのうち、最初の5nsのシミュレーションは、平衡ランとして破棄した。溶質のCOMと二重層のCOMとの距離は、z方向において制約され、一方、溶質は側方方向において自在に移動することができた。構成は、1ps毎に記憶され、制約力は10fs毎に記憶された。各シミュレーションの最後の25nsランは、拡散及び平均力のポテンシャルの計算に使用した。サンプリングの統計的精度を改善するために、各溶質は、所与のz座標で4つの異なるxy平面で制約された。各溶質のこれらの4つのシミュレーションの平均がここで提示される。二重層が対称であり、二重層の片面からの結果が他面の結果の鏡像であると仮定した。提案されるプロトコルが、上述される時間及びサイズに限定されないことに留意しなければならない。
【0041】
及び最後に、本開示の実施形態により、平均力のポテンシャル及び拡散性が予測される。不均質可溶性拡散モデルは一般に、膜を通る溶質の受動透過性の計算に使用される。このモデルによれば、溶質はまず膜中に溶解し、次に、膜内部を通して拡散し、最後に外側周囲媒体に再び溶解する。このモデルの透過性は、
【数1】
により与えられ、式中、pは二重層にわたる分子の透過性であり、Kは水相から有機相への溶質分配関数であり、Dは溶質の拡散係数であり、dは二重層の厚さである。溶質のサイズ及び組成が透過性を何倍も変化させると共に、局所分配関数が溶質透過性を支配していることが前に示されている。
【0042】
分子動力学シミュレーションは、二重層法線zに沿ったK(z)及びD(z)を計算する方法を提供する。不均質可溶性拡散モデルが、拡散性、分配関数、平均力のポテンシャル(PMF)、及び透過性を計算するように適合された。
【0043】
z方向に法線を有する対称二重層系の透過性は、
【数2】
により与えることができ、式中、pは透過性であり、dは二重層の厚さである。K(z)及びD(z)は、二重層の中心から所与のz位置での分配関数及び拡散係数であり、以下の式
【数3】
を使用して計算され、式中、Rは気体定数であり、Tは温度であり、F(z,t)は所与のzでの溶質への制約力であり、Gは平均力のポテンシャルである。
【0044】
上述したシミュレーションに基づいて、結果を観測した。
・二重層の中心(z約0)での水の透過性の自由エネルギーは、約23kJ/molであり、これは、323Kでのヘキサデカン中の水溶媒和の実験的に観測された自由エネルギー(25kJ/mol)に匹敵する。
・DMSO及びエタノールの透過性の自由エネルギーは、頭部基への部分的変化の存在により、界面においてバルクから下がる(−ve)。
・ベンゼン及びトルエンの透過性の自由エネルギーは、頭部基への部分的変化の存在により、界面においてバルクから上がる。
・水と脂質頭部基との界面近傍でのDMSO及びエタノールの透過性の自由エネルギーは、約−10.0kJ/mol及び−6.0kJ/molであることがわかり、これらは、DMSO(logP=−1.35)がエタノール(logP=−0.31)よりも親水性であることをサポートする。
・分配係数Kは、エタノールと比較してDMSOの場合、界面近傍で1桁高い。
・トルエン及びベンゼンの両方の分配係数Kは、アルカン鎖領域ではより高く、一方、水、DMSO、及びエタノールでは界面でより高い。
・DMSO及びエタノールでのバルク水中の拡散係数は、(4.02+−0.2)×10
−5cm
2/s及び(4.62+−0.5)×10
−5cm
2/sである。
・全溶質でのバルク値と比較して、二重層内部の拡散が1桁近く低減する。
・温度310KでのDMSO及びエタノールの計算された透過性はそれぞれ、4.789×10
−6cm/s及び6.952×10
−6cm/sであることがわかった。
・透過への全体抵抗プロファイルR(z)は、透過性が主に自由エネルギー障壁に依存することを示す自由エネルギープロファイルG(z)に従う。
・分配係数K(z)プロファイルは、自由エネルギープロファイルに対して補足的である。
・透過への抵抗(R)は、DMSOの場合、その高い親水性により、二重層中心においてより高かった。
・透過抵抗(R)は、ベンゼン及びトルエンでは、界面においてより高く、一方、水、DMSO、及びエタノールの場合、アルカン鎖でより高かった。
・計算透過性及び実験透過性は、疎水性透過及び親水性透過で異なる傾向に従う。
【0045】
図5は、単一ウィンドウに制約される複数の分子のシミュレーションスナップショットの側面図を示す。分子は、z方向において互いから少なくとも1.2nm隔てられる。ウィンドウの1つでの異なるxy位置及びz位置での制約分子の初期構成である。上記実験及び結果に基づいて、制約MDシミュレーションから得られるCER:CHOL:FFA混合(1:1:1)二重層を通る様々な活性分子透過の透過自由エネルギー(平均力のポテンシャル)、局所拡散係数、局所分配関数、及び局所抵抗のグラフ表現が、水の場合では
図6に示され、DMSOの場合では
図7に示され、エタノールの場合では
図8に示され、ベンゼンの場合では
図9に示され、トルエンの場合では
図10に示される。更に、
図11は、実験透過性と、制約MDシミュレーションから得られるCER:CHOL:FFA混合(1:1:1)二重層を通る疎水性及び親水性透過物の透過性との比較を示す。
【0046】
記述された説明は、本明細書における主題を記載して、当業者が実施形態を作成し使用できるようにする。主題の実施形態の範囲は、特許請求の範囲により規定され、当業者に想到される他の変更形態を含み得る。そのような他の変更形態は、特許請求の範囲の文字言語と異ならない同様の要素を有する場合、又は特許請求の範囲の文字言語とごくわずかに異なる均等要素を含む場合、特許請求の範囲内にあることが意図される。したがって、実施形態は、皮膚膜のシミュレーションを使用して活性分子をテストするシステム及び方法を提供する。
【0047】
しかし、保護範囲が、そのようなプログラムに、メッセージを内部に有するコンピュータ可読手段に加えて拡張され、そのようなコンピュータ可読記憶手段は、プログラムがサーバ、モバイルデバイス、又は任意の適するプログラマブルデバイスで実行される場合、方法の1つ又は複数のステップを実施するプログラムコード手段を含むことを理解されたい。ハードウェアデバイスは、例えば、サーバ又はパーソナルコンピュータ等又はそれらの任意の組合せのような任意の種類のコンピュータを含め、プログラム可能な任意の種類のデバイスであることができる。デバイスは例えば、例えば特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)のようなハードウェア手段又はハードウェア手段とソフトウェア手段との組合せ、例えば、ASIC及びFPGA若しくは少なくとも1つのプロセッサ及びソフトウェアモジュールが内部に配置された少なくとも1つのメモリであることができる手段を含むこともできる。したがって、手段は、ハードウェア手段及びソフトウェア手段の両方を含むことができる。本明細書に記載される方法実施形態は、ハードウェア及びソフトウェアで実施することができる。デバイスはソフトウェア手段を含むこともできる。代替的には、実施形態は、例えば、複数のCPUを使用して、異なるハードウェアデバイスで実施し得る。
【0048】
本明細書の実施形態は、ハードウェア要素及びソフトウェア要素を含むことができる。ソフトウェアで実施される実施形態は、限定ではないが、ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコード等を含む。本明細書に記載される様々なモジュールにより実行される機能は、他のモジュール又は他のモジュールの組合せで実施し得る。この説明では、コンピュータ使用可能又はコンピュータ可読媒体は、命令実行デバイス、装置、又はデバイスにより使用されるか、又は関連して使用されるプログラムの包含、記憶、通信、伝搬、又は輸送が可能な任意の装置であることができる。
【0049】
媒体は、電子、磁気、光学、電磁、赤外線、又は半導体システム(若しくは装置若しくはデバイス)又は伝搬媒体であることができる。コンピュータ可読媒体の例としては、半導体又は固体状態メモリ、磁気テープ、リムーバブルコンピュータディスケット、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、剛性磁気ディスク、及び光ディスクが挙げられる。光ディスクの現在の例としては、コンパクトディスク−読み取り専用メモリ(CD−ROM)、コンパクトディスク−読み/書き(CD−R/W)及びDVDが挙げられる。
【0050】
プログラムコードの記憶及び/又は実行に適するデータ処理システムは、システムバスを通してメモリ要素に直接又は間接的に結合される少なくとも1つプロセッサを含む。メモリ要素は、プログラムコード、大容量記憶装置、及び実行中、大容量記憶装置からコードを検索しなければならない回数を低減するために、少なくとも幾つかのプログラムコードの一時的記憶を提供するキャッシュメモリの実際の実行中に利用されるローカルメモリを含むことができる。
【0051】
入力/出力(I/O)デバイス(限定ではなく、キーボード、ディスプレイ、ポインティングデバイス等を含む)は、システムに直接又は介在するI/Oコントローラを通して結合することができる。ネットワークアダプタもシステムに結合して、介在する私設ネットワーク又は公衆ネットワークを通して、データ処理システムを他のデータ処理システム、リモートプリンタ、又は記憶デバイスに結合できるようにし得る。モデム、ケーブルモデム、及びEthernetカードは、ネットワークアダプタの現在利用可能なタイプのごく少数である。
【0052】
実施形態を実施する代表的なハードウェア環境は、本明細書の実施形態による情報処理/コンピュータシステムのハードウェア構成を含み得る。本明細書のシステムは、少なくとも1つのプロセッサ又は中央演算処理装置(CPU)を含む。CPUは、システムバスを介してランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、及び入力/出力(I/O)アダプタ等の様々なデバイスに相互接続される。I/Oアダプタは、ディスクユニット及びテープドライブ又はシステムにより可読の他のプログラム記憶デバイス等の周辺機器に接続することができる。システムは、プログラム記憶デバイス上の本発明の命令を読み取り、これらの命令に従って、本明細書の実施形態の方法論を実行することができる。
【0053】
システムは、キーボード、マウス、スピーカ、マイクロフォン、及び/又はタッチスクリーンデバイス(図示せず)等の他のユーザインタフェースデバイスをバスに接続して、ユーザ入力を収集するユーザインタフェースアダプタを更に含む。更に、通信アダプタがバスをデータ処理ネットワークに接続し、ディスプレイアダプタがバスを表示デバイスに接続し、表示デバイスは、例えば、モニタ、プリンタ、又は送信機等の出力デバイスとして実施し得る。
【0054】
上記説明は、様々な実施形態を参照して提示されている。本願が関連する分野の当業者は、原理、趣旨、及び範囲から意味的に逸脱せずに、説明される構造及び動作方法での代替形態又は変更形態が実施可能であることを理解する。