【文献】
竹本喜昭ほか4名,建築用シーリング材に発生したひび割れによる表面損傷度の定量化,日本建築学会構造系論文集,2006年 8月,第606号,pp.51-56
【文献】
宮下亨大ほか2名,画像解析によるポリ塩化ビニル樹脂系防水シートの伸び保持率の推定,日本建築学会構造系論文集,日本,日本建築学会,2011年11月,Vol.76 No.669,pp.2021-2029
【文献】
JIS A 1439:2016 建築用シーリング材の試験方法,kikakurui.com,2017年 7月 1日,URL,https://web.archive.org/web/20170701081314/http://kikakurui.com/a1/A1439-2016-01.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記特徴量は、前記二値化処理した前記不定形シール材の画像全体に対する、前記不定形シール材のひび割れおよびしわの面積率、その最大幅、またはその本数であることを特徴とする請求項1に記載の不定形シール材の診断方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、不定形シール材の表面に生じたひび割れ、しわ、剥離、破断などの劣化状態を目視で診断する場合、目視する者の経験などにより、そのひび割れおよびしわの特定に個人差があるため、診断結果にバラツキが生じてしまう。
【0008】
さらに、このような診断においては、破断の前兆である不定形シール材のひび割れおよびしわの状態を調べることは、劣化の進行度を知るために重要である。しかしながら、不定形シール材のひび割れおよびしわは微細であり、これらの状態を正確に測定することは難しい。これに加えて、不定形シール材のそのものの幅も狭く、不定形シール材の仕上がりの表面が外気に向かって凹形状となっているため、クラックスケール、ひび割れゲージなどにより、不定形シール材のひび割れを正確に測定することが難しい。このような結果、不定形シール材のひび割れおよびしわに基づいて、不定形シール材の劣化状態を正確に診断することは難しい。
【0009】
この点を鑑みると、特許文献1に示す診断方法では、予め測定された不定形シール材の深さとその劣化度との相関関係に基づいて、実際に測定した不定形シール材の深さから、その劣化状態を診断することができるため、その診断結果のバラツキは小さい。しかしながら、施工時において不定形シール材の深さ自体に、既にバラツキがあるため、この場合であっても、不定形シール材の劣化状態を正確に診断することは難しい。
【0010】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、外壁材同士の間に充填された不定形シール材を破壊することなく、不定形シール材の劣化状態を正確に診断することができる不定形シール材の診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を達成すべく、本発明に係る不定形シール材の診断方法は、建物の外壁材同士の間に充填された不定形シール材の劣化状態を診断する不定形シール材の診断方法であって、前記不定形シール材の両側にある前記外壁材の表面と前記不定形シール材の表面とを撮像する撮像工程と、前記撮像工程で撮像した画像から、前記不定形シール材の表面に相当する画像を抽出する抽出工程と、前記抽出工程で抽出した前記不定形シール材の画像を、前記不定形シール材の画像から前記不定形シール材のひび割れおよびしわが特定できるように、二値化処理する二値化処理工程と、前記二値化処理工程で前記二値化処理した前記不定形シール材の画像から、前記不定形シール材のひび割れおよびしわの特徴となるパラメータを特徴量として算出する特徴量算出工程と、前記特徴量算出工程で算出した前記特徴量に基づいて、前記不定形シール材の劣化状態を診断する診断工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、撮像工程で撮像された画像から、不定形シール材の表面に相当する画像を抽出し、この抽出した画像を、不定形シール材のひび割れおよびしわが特定できるように、二値化処理する。二値化処理された画像を用いれば、目視に比べて、不定形シール材のひび割れおよびしわを正確かつ客観的に特定することができる。
【0013】
そして、二値化処理した画像から、不定形シール材のひび割れおよびしわの特徴となるパラメータを、特徴量として算出するので、定量的に抽出された特徴量から、不定形シール材の劣化状態を正確に診断することができる。このようにして、外壁材同士の間に充填された不定形シール材を破壊することなく、不定形シール材の劣化状態を正確に診断することができる。
【0014】
より好ましい態様としては、前記特徴量は、前記二値化処理した前記不定形シール材の画像全体に対する、前記不定形シール材のひび割れおよびしわの面積率、その最大幅、またはその本数である。この態様によれば、不定形シール材のひび割れおよびしわの面積率、その最大幅、またはその本数は、不定形シール材の劣化に起因する特徴量であるため、不定形シール材の劣化状態を正確に診断することができる。
【0015】
さらに好ましい態様としては、前記診断工程において、前記特徴量に基づいて、前記不定形シール材の残存寿命を予測する。この態様によれば、不定形シール材のひび割れおよびしわの特徴となるパラメータの特徴量は、不定形シール材の劣化状態を定量的に判断するパラメータであるので、この特徴量から、不定形シール材の残存寿命を正確に予測することができる。この結果、不定形シール材の残存寿命から、より適切な時期に不定形シール材を改修する時期を決定することができる。
【0016】
さらに好ましい態様としては、前記撮像工程において、矩形状の評価窓が形成された補助カードを用い、前記評価窓から前記外壁材の表面と前記不定形シール材とが見える位置に前記補助カードを配置し、前記評価窓を含む前記補助カードの部分を、撮像する。
【0017】
この態様によれば、撮像工程において、不定形シール材が、評価窓から見える位置に補助カードを配置し、評価窓を含む補助カードの部分を撮像すれば、抽出工程において、不定形シール材の画像を正確に抽出することができる。
【0018】
特に、不定形シール材の仕上がりの表面は、外気に向かって凹形状となっているため、外壁材の表面に補助カードを配置すると、評価窓を介して撮像された不定形シール材の上部には、補助カードによる陰影が形成される。これにより、撮像工程で撮像した画像から、不定形シール材の位置をより正確に特定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の不定形シール材の診断方法によれば、外壁材同士の間に充填された不定形シール材を破壊することなく、不定形シール材の劣化状態を正確に診断することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る不定形シール材の診断方法の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明に係る不定形シール材の診断方法を実施するための装置概略図である。
図2は、本発明に係る不定形シール材の診断方法のフロー図である。
【0022】
1.不定形シール材を診断する装置について
本実施形態に係る不定形シール材の診断方法では、建物の外壁材同士の間に充填された不定形シール材の劣化状態を診断する。この診断方法では、
図1に示す撮像装置20と、処理装置30とを用いて、不定形シール材の劣化状態を診断する。撮像装置20を用いる際には、必要に応じて撮像を補助するための補助カード5を用いる。
【0023】
1−1.撮像装置20について
撮像装置20は、カラーのデジタル画像が撮影できる装置であり、後述する撮像工程S1において、不定形シール材の両側にある外壁材の表面と不定形シール材の表面とを撮像する装置である。撮像装置20としては、たとえば、デジタルカメラ(いわゆるデジカメ)、カメラ機能を有する携帯電話端末、他の携帯情報処理端末(PDA,タブレット)等を挙げることができる。
【0024】
1−2.処理装置30について
処理装置30は、入力装置31、表示装置32、演算装置(CPU)33、および記憶装置(例えばRAM等)34を備えている。処理装置30は、パーソナルコンピュータまたはスマートフォン、タブレット端末等の形態端末である。記憶装置34には、
図2に示す抽出工程S2から二値化処理工程S4までを行う画像処理プログラム34Aと、特徴量算出工程S5を行う特徴量算出プログラム34Bと、診断工程S6を行う診断プログラム34Cと、が記憶されている。なお、記憶装置34には、OS(オペレーションプログラム)(図示せず)が記憶され、これらのプログラム34A〜34Cは、アプリケーションプログラムとしてインストールされている。
【0025】
入力装置31は、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力機器であり、USB規格等のインタフェースなどの入出力ポート(図示せず)を介して、演算装置33および記憶装置34に接続される。入力装置31により、たとえば、修正された各プログラム34A〜34C、各工程の処理条件、および処理内容が入力される。なお、撮像装置20で撮像された画像は、入出力ポートを介して、演算装置33に入力される。表示装置32は、液晶表示装置等の画像を表示可能な出力機器であり、抽出工程S2から二値化処理工程S4で処置された画像、特徴量算出工程S5で算出された特徴量、診断工程S6で診断された診断結果等を表示する。
【0026】
本実施形態では、各工程において、これに対応したプログラム34A〜34Cを起動させ、入力装置31を用いて、作業者が抽出工程S2〜診断工程S6を、実施する。この他にも、たとえば、撮像装置20で撮像された画像が、演算装置33に取り込まれたタイミングで、撮像装置20が、各プログラム34A〜34Cを記憶装置34から読み出して、抽出工程S2〜診断工程S6を自動的に実施してもよい。
【0027】
1−3.補助カード5について
図3は、
図1に示す補助カード5を用いた撮像工程S1を説明するための模式的斜視図である。補助カード5は、0.5mm程度のプラスチック板などの板状の部材であり、少なくとも診断に必要な部分が見える矩形状の評価窓(開口部)53が形成されている。診断に必要な部分が見えれば、評価窓53の形状は、長方形、正方形等特に限定されない。さらに、
図1に示すように、補助カード5の表面には、撮像装置20で、撮像範囲7を特定するための上下の撮影ライン54,55が設けられている。
【0028】
ところで、一般的に、デジタルカメラなどの撮像装置20は、被写体の明るさが中間色の18%グレーで認識されるため、白いものは暗く写り、黒いものは明るく写る。一方、撮像装置20を用いて、18%グレー等の中間色の反射板を自動露出で撮像した場合には、常に適正な露出となるように、明るさが調整されるため、写り込んだ周辺の色は自然に近い色で撮像される。
【0029】
ここで、
図3に示す、建物1おいては、不定形シール材3および外壁材2の表面色は、白に近いものや黒に近いものなど、明度において幅広い。たとえば、純白を基調とした補助カード5を用いて、黒色に近い外壁材2および不定形シール材3を撮像した場合、撮像された画像は、本来の色よりもさらに黒くなる。このため、不定形シール材3の表面のひび割れ(亀裂)等も黒色に撮影されるため、このひび割れを正確に識別することが難しいことがある。
【0030】
一方、漆黒を基調とした補助カード5を用いて、黒色に近い外壁材2および不定形シール材3を撮像した場合、撮像された画像は、本来の色よりもさらに白くなる。このため、黒色となる不定形シール材の表面のひび割れ(亀裂)が白くなってしまい、正確に識別することが難しいことがある。
【0031】
そこで、本実施形態では、補助カード5の撮像側の表面色は、18%グレー等の中間色(具体的には、Lab表示における明度Lが45〜55)を基調とすることで、建物の外壁材および不定形シール材の明度に影響を受け難くなり、適切な露出で評価対象となる不定形シール材3のひび割れ等を撮像することができる。なお、明度Lが、0に近いほど漆黒に近く、100に近いほど純白に近い。
【0032】
本実施形態では、補助カード5の撮像側の表面色は、(L,a*,b*)表色系において、グレー系となる、L=45〜55、a*=0、b*=0であるが、これに限定されることなく、例えば、L=45〜55、a*=50、b*=50のようなレッド系のもの、L=45〜55、a*=0、b*=20のようなブルー系のもの、L=45〜55、a*=30、b*=0のようなグリーン系のものなど、グレースケールにおける中間色であってもよい。
【0033】
ここで、発明者らは、このことを確認するために以下の実験を行った。具体的には、20mm×20mmの評価窓53が形成され、上下の撮影ライン54、55の間隔を50mm、70mm、および100mmとした、ホワイトを基調とした補助カード5と、18%グレーを基調とした補助カード5とをそれぞれ準備した。
【0034】
次に、これらの補助カード5を用いて、評価窓53を介して、上下の撮影ライン54、55が撮像範囲7の上下に位置するように、不定形シール材3の画像を撮像した。次に、撮像された画像から、不定形シール材3の画像を含む評価部分の明度(L値)の平均値を測定した。この結果を、
図4に示す。
図4は、
図3に示す補助カード5の上下の撮影ライン54,55の間隔Hと、評価部分の明度(L値)の平均値との関係を示したグラフである。
【0035】
図4に示すように、ホワイトを基調とした補助カード5を用いた場合、不定形シール材3の画像を含む評価部分の明度(L値)の平均値は、18%グレーを基調とした補助カード5を用いたものに比べて、低い。また、18%グレーを基調とした補助カード5を用いた場合、不定形シール材3の画像を含む評価部分の明度(L値)は、不定形シール材3の本来の明るさに近く、評価対象となる不定形シール材3のひび割れ等を検出するのに好ましいことがわかった。
【0036】
ところで、上下の撮影ライン54,55の間隔Hが大きいほど、撮像装置20から評価窓53(被写体である不定形シール材3)までの距離が大きくなり、撮影した画像における評価窓53の占める割合が小さくなる。この結果、診断すべき不定形シール材3の画像のピクセル数が小さくなってしまう。
【0037】
一方、
図4から、上下の撮影ライン54,55の間隔が大きいほど(撮像装置20から不定形シール材3までの距離が大きいほど)、評価部分の画像の明度(L値)の平均値は小さくなることがわかる。このことから、不定形シール材3を含む評価部分の画像の明度(L値)を確保するために、撮像装置20と不定形シール材3までの最適距離(上下の撮影ライン54,55の最適な間隔)があることがわかる。この例では、評価窓の寸法が20mm×20mmであり、上下の撮影ライン54,55の間隔Hが70mmを超えると、評価部分の画像が暗くなることから、上下の撮影ライン54,55の最適な間隔Hは、20mm〜70mmであることが好ましい。
【0038】
さらに、発明者らは、上下の撮影ライン54,55の間隔を70mmとし、評価窓53のサイズを10mm×10mm、15mm×15mm、20mm×20mmとした18%グレーを基調とした補助カード5を準備した。
【0039】
これらの補助カード5を用いて、評価窓53を介して、上下の撮影ライン54,55が撮像範囲7の上下に位置するように、不定形シール材3の画像を撮像した。次に、撮像された画像から、不定形シール材3の画像を含む評価部分の明度(L値)の平均値を測定した。この結果を、
図5に示す。
図5は、
図3に示す補助カード5の評価窓53のサイズと、評価部分の明度の平均値との関係を示したグラフである。
【0040】
図5に示すように、評価窓53のサイズが大きくなるにしたがって、不定形シール材3を含む評価部分の画像の明度(L値)が大きくなり、サイズ20mm×20mmでは、不定形シール材3の画像の明るさは、不定形シール材3の本来の明るさに近くなった。このことから、矩形状の評価窓53のサイズは、少なくとも1辺の長さBが、20mm以上であることが好ましく、この条件が確保されているのであれば、評価窓53の形状は、長方形状であってもよい。
【0041】
2.不定形シール材3の診断方法について
図2〜
図10を参照しながら、以下に、上述した補助カード5、撮像装置20、および処理装置30を用いた不定形シール材3の診断方法について説明する。本実施形態では、
図2に示すように、不定形シール材3の診断方法は、撮像工程S1から診断工程S6までの工程を行うことにより、建物1の外壁材2,2同士の間に充填された不定形シール材3の劣化状態を診断する。以下に、各工程について説明する。
【0042】
2−1.撮像工程S1について
以下に、撮像工程S1を、上述した
図3および
図6を参照しながら説明する。なお、
図6は、
図2に示す撮像工程S1で撮像した画像7Aを示した図である。撮像工程S1では、不定形シール材3の両側にある外壁材2,2の表面と不定形シール材3の表面とを撮像する。これにより、外壁材2,2の間の目地に相当する不定形シール材3の最大幅を含む表面を撮像することができる。本実施形態では、具体的には、上述した矩形状の評価窓53が形成された補助カード5を用い、評価窓53から外壁材2,2の表面と不定形シール材3とが見える位置に補助カード5を配置し、評価窓53を含む補助カード5の部分(撮像範囲7)を、撮像装置20で撮像する。
【0043】
この際、補助カード5の評価窓53の縦縁部53a,53aが、不定形シール材3が延在する方向と概ね平行になり、評価窓53の横縁部53b,53bが、不定形シール材3が延在する方向と概ね直交するように、補助カード5を外壁材2,2の表面に配置する。この状態で、上下の撮影ライン54,55が、撮像する画像の上下の縁に一致するように、撮像範囲7を撮像する。
【0044】
これにより、
図6に示す、撮像範囲7において撮像した画像7Aを得ることができる。上述した補助カード5を用いることにより、撮影条件を安定させることができ、得られた画像7Aの解像度を一定の範囲に収めることができる。このようにして、劣化状態を診断すべき不定形シール材3の鮮明な画像を含む画像(デジタル画像)7Aを得ることができる。
【0045】
さらに、得られた画像7Aには、評価窓53内に、外壁材2,2の表面と不定形シール材3の表面とが写り込んでいる。このように、撮像工程S1において、不定形シール材3が評価窓53から見える位置に、補助カード5を配置し、評価窓53を含む補助カード5の部分を撮像すれば、後述する抽出工程S2において、不定形シール材3の画像を簡単に特定し、これを正確に抽出することができる。
【0046】
また、不定形シール材3の仕上がりの表面は、外気に向かって凹の形状をしているため、外壁材2,2の表面に接触するように補助カード5を配置すると、評価窓53を介して撮像された不定形シール材3の上部3dには、補助カード5による陰影が形成される。これにより、撮像工程S1で撮像した画像から、不定形シール材3の位置をより正確に特定することができるため、抽出工程S2において、不定形シール材3の画像をより簡単かつ正確に抽出することができる。
【0047】
2−2.抽出工程S2について
以下に、抽出工程S2を、
図6を参照しながら説明する。抽出工程S2では、撮像工程S1で撮像した画像7Aから、不定形シール材3の表面に相当する画像7Bを抽出する。ここでは、処理装置30の画像処理プログラム34Aを用いて、画像7Bの抽出を行う。
【0048】
具体的には、正方形や長方形など一定の範囲でトレミング等により、撮像した画像7Aから、不定形シール材3の画像7Bを抽出する。なお、診断の精度を上げるため、外壁材2,2と不定形シール材3の境界を検出して、目地が垂直になるように、画像7Aを回転させる角度の補正を行った後、画像7Bを抽出してもよい。
【0049】
2−3.画像処理工程S3について
画像処理工程S3を、上述した
図7(a)を参照しながら説明する。
図7(a)は、
図2に示す抽出工程S2後、画像処理工程S3を行った不定形シール材3の画像7Bである。画像処理工程S3では、トレミングで取り出した画像7Bに対して、必要に応じて、不定形シール材3に発生しているひび割れおよびしわが鮮明になるように画像処理を行う。ここでは、処理装置30の画像処理プログラム34Aを用いて、画像処理を行う。
【0050】
たとえば、抽出工程S2において、抽出された画像7Bには、不定形シール材のひび割れなどの他に、ホコリなどが写り込んでいることがあり、必要に応じて、写り込んだほこりなどをノイズとして除去する。このような処理としては、収縮処理、膨張処理、またはメディアンフィルタ処理を挙げることができる。
【0051】
また、抽出工程S2において、抽出された画像7Bが、ぼけた画像である場合には、必要に応じて、画像7Bを鮮明にする鮮鋭化処理を行う。さらに、画像7B内の影等による明るさ分布が均一でないときは、線形濃度変換または非線形濃度変換により、画像7Bを鮮明にする。線形濃度変換では、画像7Bの明るさ(例えばRGBの平均値)をピクセル毎に求めて度数分布図(ヒストグラム)を作成し、作成した度数分布図から分布幅を分析し、偏った分布をより均一にするように画像処理を行う。非線形濃度変換では、画像7B全体が明るく(暗く)なるように、画像処理を行う。
【0052】
このようにして、
図7(a)に示す如く、抽出した不定形シール材3の画像7Bにおいて、不定形シール材3のひび割れおよびしわをより鮮明に特定することができる。なお、抽出工程S2において、抽出した不定形シール材3の画像7Bに、不定形シール材3のひび割れおよびしわが鮮明に写り込んでいる場合には、画像処理工程S3を省略してもよい。
【0053】
2−4.二値化処理工程S4について
次に、二値化処理工程S4を、上述した
図7(a)および
図7(b)を参照しながら説明する。
図7(b)は、
図2に示す二値化処理工程S4を行った不定形シール材3の画像7Cである。二値化処理工程S4では、抽出工程S2で抽出した不定形シール材3の画像7Bを、不定形シール材3の画像7Bから不定形シール材3のひび割れおよびしわが特定できるように、二値化処理する。ここでは、処理装置30の画像処理プログラム34Aを用いて、画像7Bを二値化処理する。
【0054】
具体的には、
図7(a)に示す画像7Bに対して白黒の二値化処理を行う。この二値化処理としては、固定閾値処理、pタイル処理、または、可変閾値処理などを挙げることができる。たとえば、固定閾値処理では、画像7Bの全ピクセルの平均値あるいは平均値に増減値を加えた一定値を基準にして、この一定値を閾値として、全ピクセルに白または黒を割り当てる。また、pタイル処理では、画像7Bの白と黒の分散比が等しくなるようにしきい値を決めて、画像7Bの全ピクセルを二値化する。可変閾値処理では、画像7B内の明るさ分布に応じてその場所のしきい値を求める(適応二値化処理)。
【0055】
このようにして、
図7(a)に示す、画像処理工程S3を行った不定形シール材3の画像7Bから、
図7(b)示す、二値化処理された不定形シール材3の画像7Cを得ることができる。二値化処理された不定形シール材3の画像7Cには、不定形シール材3のひび割れおよびしわが、黒色の部分となって表示される。なお、不定形シール材3のひび割れとしわとは、画像7Cでは区別できない。
【0056】
2−5.特徴量算出工程S5について
特徴量算出工程S5を説明する。画像処理工程S3では、二値化処理した不定形シール材の画像7Cから、不定形シール材3のひび割れおよびしわの特徴となるパラメータを特徴量として算出する。ここでは、処理装置30の特徴量算出プログラム34Bを用いて、特徴量を算出する。
【0057】
特徴量は、不定形シール材3の破断の前兆として現れる、不定形シール材3のひび割れおよびしわの特徴となるパラメータであり、たとえば、ひび割れおよびしわの面積率、その最大幅、その本数、その最大長さ、またはその縦横比の最大値など挙げることができる。本実施形態では、特徴量として、二値化処理した不定形シール材3の画像7C全体に対する、不定形シール材3のひび割れおよびしわの面積率、ひび割れおよびしわの最大幅、または、ひび割れおよびしわの本数を算出する。なお、これらの算出した面積率、最大幅、および本数のパラメータから、2つまたは3つのパラメータを用いて、さらに特徴量を算出してもよい。
【0058】
たとえば、二値化処理した不定形シール材3の画像7C全体に対する、不定形シール材3のひび割れおよびしわの面積率は、画像7Cの全体のピクセル数に対する画像7Cの黒色のピクセル数の割合を算出することにより、得ることができる。
【0059】
また、二値化処理した不定形シール材3の画像7C全体に対する、不定形シール材3のひび割れおよびしわの最大幅は、画像7Cの黒画像の幅方向に連続するピクセル数(あるいはピクセル数から算出されたひび割れ寸法)から算出することができる。
【0060】
また、二値化処理した不定形シール材3の画像7C全体に対する、不定形シール材3のひび割れおよびしわの本数は、画像7CをHough変換することで、自動的に本数を算出することができる。
【0061】
特に、発明者らの実験によれば、不定形シール材3のひび割れおよびしわの面積率と、不定形シール材3のひび割れおよびしわの最大幅とは、相関関係にあり、これらは、不定形シール材3の残存寿命とも相関関係があることが分かっている。以下に、診断工程S6を説明する前に、
図8、
図9、および
図10(a)を参照しながら、これらの相関関係について説明する。
【0062】
2−6.不定形シール材の劣化促進試験について
発明者らは、
図3に示すように、外壁材の目地に不定形シール材を充填した試験片を準備した。次に、不定形シール材に、一定の条件で継続して、加熱および水を噴霧しつつ、応力を加えて紫外線を照射することにより、不定形シール材の劣化を促進させた劣化促進試験を行った。劣化促進試験の開始から所定の時間経過するごとに、
図2で示す撮像工程S1から特徴量算出工程S5までの一連の工程を実施した。特徴量算出工程S5では、不定形シール材のひび割れおよびしわの面積率、および、そのひび割れおよびしわの最大幅を算出した。
【0063】
図8は、不定形シール材の劣化状態を説明するための劣化促進試験の結果である。
図8の上段の画像は、抽出した不定形シール材を画像処理した画像であり、下段の画像は、上段の画像を、二値化処理した画像である。
【0064】
なお、表8では、目視による判断で、不定形シール材のひび割れおよびしわの程度を「なし」「小」、「中」、「大」に分類した。ひび割れの程度が「小」の程度のものを劣化状態「段階1」とし、ひび割れの程度が「中」の程度のものを劣化状態「段階2」とし、ひび割れの程度が「大」の程度のものを劣化状態「段階3」とし、不定形シール材が破断しているものを、劣化状態「段階4」とした。
【0065】
図8に示すように、劣化促進試験の初期では、不定形シール材のひび割れおよびしわが無かったが、劣化促進試験の経過に伴いひび割れおよびしわが大きくなり、二値化処理した画像(二値化画像)における黒色部分の割合が増加し、その幅も大きくなっていることがわかる。すなわち、この劣化促進試験が進むに従って、不定形シール材のひび割れおよびしわの面積率が増加し、そのひび割れおよびしわの最大幅も増加していることがわかる。
【0066】
次に、
図8に示す、劣化促進試験における各二値化処理された画像から、不定形シール材のひび割れおよびしわの面積率、および、そのひび割れおよびしわの最大幅を算出した結果を
図9に示す。
図9は、
図8の実験結果から、不定形シール材のひび割れおよびしわの最大幅と、不定形シール材のひび割れおよびしわの面積率との関係を示したグラフである。なお、
図9では、不定形シール材のひび割れの程度が破断状態(具体的には、
図8に示す段階4の破断状態)における不定形シール材の面積率および最大幅を1.0として換算している。したがって、
図9に示す不定形シール材の面積率および最大幅は、それぞれ、これらの割合に相当するものである。なお、後述する
図10(a)、(b)に示す面積率と最大幅も同様である。
【0067】
図9に示すように、不定形シール材のひび割れおよびしわの最大幅と、不定形シール材のひび割れおよびしわの面積率とは、相関関係がある。したがって、不定形シール材のひび割れおよびしわの最大幅と、不定形シール材のひび割れおよびしわの面積率のいずれかの値を、特徴量として特定すれば、不定形シール材の劣化状態を診断することができる。
【0068】
次に、
図10(a)に、
図8に示す劣化促進試験における経過時間と、不定形シール材のひび割れおよびしわの面積率との関係を示した。なお、
図10(a)では、不定形シール材のひび割れの程度が破断状態(具体的には、
図8に示す段階4の破断状態)における不定形シール材の面積率および経過時間を1.0として換算している。したがって、
図10(a)に示す不定形シール材の経過時間は、割合に相当するものである。
図10(a)に示すように、劣化促進試験における経過時間が長くなれば、不定形シール材のひび割れおよびしわの面積率が増加しており、両者には相関関係がある。このような点を考慮にして、以下に診断工程S6を説明する。
【0069】
2−7.診断工程S6について
診断工程S6を、
図9および
図10(a)、(b)を参照しながら説明する。診断工程S6では、特徴量に基づいて、不定形シール材3の劣化状態を診断する。ここでは、処理装置30の診断プログラム34Cを用いて、不定形シール材3の劣化状態を診断する。診断プログラム34Cには、特徴量算出工程S5で算出した特徴量が、不定形シール材3のひび割れおよびしわの最大幅、または、不定形シール材3のひび割れおよびしわの面積率である場合には、
図9に示すように、この最大幅または面積率の範囲を、劣化状態の段階1〜段階4に区分した情報が記録されている。
【0070】
診断工程S6では、特徴量算出工程S5で算出した特徴量(最大幅または面積率)が、この区分した最大幅または面積率の範囲のどの範囲に収まるかを判断し、その範囲から、不定形シール材3の劣化状態を、段階1〜段階4に分類する。これにより、不定形シール材3の劣化状態を診断することができる。なお、本実施形態では、段階4の面積率および最大幅の或る数値で(例えば、面積率0.8および最大幅0.8で)、不定形シール3が寿命であると設定している。
【0071】
さらに、診断工程S6では、特徴量に基づいて、不定形シール材3の残存寿命を予測する。ここで、
図10(a)から、劣化状態を示す特徴量である不定形シール材3のひび割れおよびしわの面積率から、あとどの程度、劣化促進試験を継続すると、不定形シール材3が破断するかが分かる。したがって、診断プログラム34Cには、
図10(b)に示すように、特徴量である不定形シール材のひび割れおよびしわの面積率または最大幅と、実際の環境下で使用される不定形シール材の残存寿命との関係を推定した関数または数式が記録されている。
【0072】
そして、
図10(b)に示すように、算出した特徴量(不定形シール材3のひび割れおよびしわの面積率または最大幅)の値がSである場合には、
図10(b)に示すグラフから、残存寿命をPと予測することができる。なお、本実施形態では、面積率0.8または最大幅0.8で、残存寿命が0となる。
【0073】
このように本実施形態によれば、撮像工程S1で撮像された画像7Aから、不定形シール材3の表面に相当する画像7Bを抽出し、この抽出した画像7Bを、不定形シール材3のひび割れおよびしわが特定できるように、二値化処理した。これにより得らえた二値化処理された画像7Cを用いれば、目視に比べて、不定形シール材3のひび割れおよびしわをより正確かつ客観的に特定することができる。
【0074】
そして、二値化処理した画像7Cから、不定形シール材3のひび割れおよびしわの特徴量が定量的に算出されるので、不定形シール材3の劣化状態を正確に診断することができる。
【0075】
不定形シール材3のひび割れおよびしわの特徴量は、不定形シール材3の劣化状態を定量的に判断するパラメータであるので、この特徴量から、不定形シール材3の残存寿命を正確に予測することができる。この結果、不定形シール材3の残存寿命から、より適切な時期に不定形シール材3を改修する時期を決定することができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0077】
本実施形態では、撮像工程において補助カードを用いて、不定形シール材を含む部分を撮像したが、不定形シール材を含む部分の鮮明な画像を撮像し、この画像から不定形シール材の画像を正確に抽出することができるのであれば、補助カードを用いずに、撮像工程を実施してもよい。