(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883459
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】有機性排水処理方法及び有機性排水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20060101AFI20210531BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20210531BHJP
C02F 3/12 20060101ALI20210531BHJP
B01D 21/30 20060101ALI20210531BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
C02F3/34 101A
C02F3/34 101C
C02F3/34 101B
B01D65/02
C02F3/12 S
C02F3/12 H
B01D21/30 A
C02F1/44 F
C02F3/12 D
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-74763(P2017-74763)
(22)【出願日】2017年4月4日
(65)【公開番号】特開2018-176016(P2018-176016A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】矢次 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦康
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬仁志
(72)【発明者】
【氏名】森田 優香子
【審査官】
田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4374885(JP,B2)
【文献】
特開2004−148146(JP,A)
【文献】
特開2003−290607(JP,A)
【文献】
特開2007−222814(JP,A)
【文献】
特開2015−097976(JP,A)
【文献】
特開2010−089079(JP,A)
【文献】
特開2010−137185(JP,A)
【文献】
特開2016−182551(JP,A)
【文献】
特開2000−140886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00− 3/34
B01D 21/00−21/34
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素を含む有機性排水を活性汚泥中で生物処理する有機性排水処理方法であって、
有機性排水の流れに沿う上流側に配設された無酸素槽と下流側に配設され膜分離装置が活性汚泥中に浸漬配置された好気槽とを一対の生物処理単位とし、複数の生物処理単位が直列に接続された生物処理槽と、最下流に配設された好気槽から最上流に配設された無酸素槽へ活性汚泥を返送する汚泥返送経路と、を備えた有機性排水処理装置に対して、
有機性排水を各生物処理単位の無酸素槽に分割して供給し、
前記無酸素槽での脱窒処理と前記好気槽での硝化処理を繰り返しながら有機性排水を生物処理し、
各生物処理単位の膜分離装置から膜透過液を処理水として送出し、
有機性排水の流入量、水槽液位、各膜分離装置の膜間差圧、処理水のT-N、処理水のNH3-N濃度の少なくとも一つを指標として、前記生物処理単位毎に稼働中の膜分離装置の停止または停止中の膜分離装置の起動の可否を決定する、ことを特徴とする有機性排水処理方法。
【請求項2】
前記膜分離装置の稼働状況に応じて、前記生物処理槽内の活性汚泥に注入する凝集剤の注入量を調整する、ことを特徴とする請求項1に記載の有機性排水処理方法。
【請求項3】
前記膜分離装置を停止すると決定する場合に、停止対象となる膜分離装置を所定時間毎に切り替える、ことを特徴とする請求項1または2に記載の有機性排水処理方法。
【請求項4】
停止中の膜分離装置に対して二次側から洗浄液を注入して膜洗浄する処理を全ての膜分離装置に対して順次実行し、全ての膜分離装置の洗浄が完了するまでの間は、洗浄済みの膜分離装置の膜ろ過流量を未洗浄の膜分離装置の膜ろ過流量以下に設定して運転する、ことを特徴とする請求項3に記載の有機性排水処理方法。
【請求項5】
好気槽から無酸素槽へ活性汚泥が流出する流出部の開口上端は水没しており、活性汚泥の流出流速が0.5m/sec.以下である、ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の有機性排水処理方法。
【請求項6】
窒素を含む有機性排水を活性汚泥中で生物処理する有機性排水処理装置であって、
有機性排水の流れに沿う上流側に配設された無酸素槽と下流側に配設され膜分離装置が活性汚泥中に浸漬配置された好気槽とを一対の生物処理単位とし、複数の生物処理単位を直列に接続する生物処理槽と、
最下流に配設された好気槽から最上流に配設された無酸素槽へ活性汚泥を返送する汚泥返送経路と、
有機性排水を各生物処理単位の無酸素槽に分割して供給する原水供給経路と、
各生物処理単位の膜分離装置から膜透過液を処理水として送出する処理水送出経路と、
有機性排水の流入量、水槽液位、各膜分離装置の膜間差圧、処理水のT-N、処理水のNH3-N濃度の少なくとも一つを測定する測定装置と、
前記測定装置で得られた測定値を指標として、前記生物処理単位毎に稼働中の膜分離装置の停止または停止中の膜分離装置の起動の可否を判断する制御装置と、を備える、ことを特徴とする有機性排水処理装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記膜分離装置の稼働状況に応じて、前記生物処理槽内の活性汚泥に注入する凝集剤の注入量を調整する、ことを特徴とする請求項6に記載の有機性排水処理装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記膜分離装置を停止すると決定した場合に、停止対象となる膜分離装置を所定時間毎に切り替える、ことを特徴とする請求項6または7に記載の有機性排水処理装置。
【請求項9】
前記好気槽から有機性排水の流れに沿う下流側に隣接する前記無酸素槽へ向けて活性汚泥を送出する流出部の開口部の上端が、前記好気槽の水面から30cm以下の部位に位置している請求項6から8の何れか1項に記載の有機性排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水処理方法及び有機性排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、窒素除去率90%以上で、コンパクトな、窒素含有排液の処理設備を提供することを目的として、嫌気槽、好気槽の順に複数個の嫌気槽と好気槽が交互に直列に結合され、最前段の嫌気槽と2段目以降の少なくともひとつの嫌気槽に窒素含有排液を供給する供給経路を備え、最後段の好気槽には活性汚泥を分離して処理液を得るための浸漬型分離装置を備え、最後段の好気槽から最前段の嫌気槽へ活性汚泥液を返送する経路を備えた処理設備が開示されている。
【0003】
特許文献2には、1槽の処理槽のみで高度処理を行う膜分離装置であって、被処理水が生物学的に処理されるとともに、前記被処理水の旋回流が形成される無端状の処理槽と、前記旋回流の流れ方向に間隔をあけて設置され、前記被処理水を膜分離処理する複数の膜ユニットと、前記処理槽に供給される被処理水が貯留される原水槽を備えた膜分離装置において、前記原水槽を前記旋回流の内側に設け、該原水槽から前記処理槽に前記被処理水を供給する供給手段が、前記旋回流の流れ方向において多段階的に供給を行うことを特徴とする膜分離装置が提案されている。
【0004】
上述した何れの排水処理設備であっても、各分離膜が浸漬配置された好気性処理領域に隣接して形成される嫌気性処理領域に有機性排水が供給されるため、嫌気性処理領域において高BOD濃度下で高い脱窒処理性能が実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−140886号公報
【特許文献2】特許第4374885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した排水処理設備に流入する有機性排水量や窒素含有量が変動する場合の対処方法や、分離膜にファウリング物質が堆積して膜間差圧が大きくなった場合に必要となる効果的な膜洗浄方法については開示されておらず、このような観点でさらに改良すべき点があった。
【0007】
本発明の目的は、窒素を含有する有機性排水の性状に応じて効率的に生物処理を行なうことができる有機性排水処理方法及び有機性排水処理装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明による有機性排水処理方法の第一特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、窒素を含む有機性排水を活性汚泥中で生物処理する有機性排水処理方法であって、有機性排水の流れに沿う上流側に配設された無酸素槽と下流側に配設され膜分離装置が活性汚泥中に浸漬配置された好気槽とを一対の生物処理単位とし、複数の生物処理単位が直列に接続された生物処理槽と、最下流に配設された好気槽から最上流に配設された無酸素槽へ活性汚泥を返送する汚泥返送経路と、を備えた有機性排水処理装置に対して、有機性排水を各生物処理単位の無酸素槽に分割して供給し、前記無酸素槽での脱窒処理と前記好気槽での硝化処理を繰り返しながら有機性排水を生物処理し、各生物処理単位の膜分離装置から膜透過液を処理水として送出し、有機性排水の流入量、水槽液位、各膜分離装置の膜間差圧、処理水のT-N、処理水のNH
3-N濃度の少なくとも一つを指標として、前記生物処理単位毎に稼働中の膜分離装置の停止または停止中の膜分離装置の起動の可否を決定する点にある。
【0009】
窒素を含有する有機性排水に対する硝化処理及び脱窒処理の負荷の程度に基づいて生物処理単位毎に稼働中の膜分離装置の停止または停止中の膜分離装置の起動の可否を決定することにより、膜分離装置に備えた曝気装置に要する動力の適正化を図ることができ、運転コストを低減することができるようになる。負荷の程度を計る指標として、有機性排水の流入量、水槽液位、各膜分離装置の膜間差圧、処理水のT-N、処理水のNH
3-N濃度の少なくとも一つを用いることができる。
【0010】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記膜分離装置の稼働状況に応じて、前記生物処理槽内の活性汚泥に注入する凝集剤の注入量を調整する点にある。
【0011】
生物処理単位で膜分離装置を停止すると、該当する好気槽では曝気装置が停止するため、嫌気状態が強くなる。この状態の活性汚泥がさらに下流側に隣接する無酸素槽に流入すると、当該無酸素槽に供給される有機性排水の影響により活性汚泥からのリンの吐出しが顕著になる。そして、膜分離装置が稼働する好気槽における活性汚泥によるリンの過剰摂取が促進され、凝集剤の注入量を減量しても効率的にリンが除去されるようになり、脱窒処理に加えてリンの効率除去という高度処理が可能になる。
【0012】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記膜分離装置を停止すると決定する場合に、停止対象となる膜分離装置を所定時間毎に切り替える点にある。
【0013】
上述した指標により膜分離装置を停止する場合に、特定の膜分離装置を長時間にわたって停止すると、対応する好気槽の汚泥が腐敗する虞がある。そのような場合でも、停止対象となる膜分離装置を所定時間毎に切り替えることにより、特定の好気槽で汚泥が腐敗するようなこと無く、装置全体として適切に生物処理を行なうことができるようになる。
【0014】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第三の特徴構成に加えて、停止中の膜分離装置に対して二次側から洗浄液を注入して膜洗浄する処理を全ての膜分離装置に対して順次実行し、全ての膜分離装置の洗浄が完了するまでの間は、洗浄済みの膜分離装置の膜ろ過流量を未洗浄の膜分離装置の膜ろ過流量以下に設定して運転する点にある。
【0015】
膜分離装置に備えた分離膜にファウリング物質が堆積して目詰まりするような事態に到ると、洗浄液を用いた膜洗浄処理が必要になる。膜洗浄処理された後の膜分離装置の膜間差圧は他の膜分離装置よりも小さくなるため、結果的に他の膜分離装置よりも膜ろ過量が増えて、早期に目詰まりを起こす虞がある。そのような場合でも、他の膜分離装置に対して順番に洗浄液を用いた膜洗浄処理を行ない、全ての膜分離装置に対する膜洗浄処理が終了するまでの間は、洗浄済みの膜分離装置の膜ろ過流量を未洗浄の膜分離装置の膜ろ過流量以下となるように設定して運転することにより、全体として安定した膜ろ過処理が行なえるようになる。
【0016】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、好気槽から無酸素槽へ活性汚泥が流出する流出部の開口上端は水没しており、活性汚泥の流入流速が0.5m/sec.以下である点にある。
【0017】
膜分離装置が浸漬配置された好気槽では、曝気装置から掃き出された気泡による上向流が発生し、水面近傍で溶存酸素濃度が高い状態になり、水面より底部に向けて次第に溶存酸素濃度が低下する。水面近傍の溶存酸素濃度が高い状態の活性汚泥が無酸素槽に流入すると脱窒効率が低下する虞があるが、流入部の開口の上端が水没するような位置に配置されていることにより、無酸素槽での脱窒効率の低下を抑制できるようになる。しかも、活性汚泥の流入部の開口の流速が0.5m/sec.以下に設定されていれば、活性汚泥が開口部を通過する際の圧力損失による好気槽と無酸素槽の水位差の発生を抑制することができ、各好気槽における活性汚泥に対する曝気の均一化を図ることができる。
【0018】
本発明による排水処理装置の第一特徴構成は、同請求項6に記載した通り、窒素を含む有機性排水を活性汚泥中で生物処理する有機性排水処理装置であって、有機性排水の流れに沿う上流側に配設された無酸素槽と下流側に配設され膜分離装置が活性汚泥中に浸漬配置された好気槽とを一対の生物処理単位とし、複数の生物処理単位を直列に接続する生物処理槽と、最下流に配設された好気槽から最上流に配設された無酸素槽へ活性汚泥を返送する汚泥返送経路と、有機性排水を各生物処理単位の無酸素槽に分割して供給する原水供給経路と、各生物処理単位の膜分離装置から膜透過液を処理水として送出する処理水送出経路と、有機性排水の流入量、水槽液位、各膜分離装置の膜間差圧、処理水のT-N、処理水のNH
3-N濃度の少なくとも一つを測定する測定装置と、前記測定装置で得られた測定値を指標として、前記生物処理単位毎に稼働中の膜分離装置の停止または停止中の膜分離装置の起動の可否を判断する制御装置と、を備える点にある。
【0019】
同第二の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記制御装置は、前記膜分離装置の稼働状況に応じて、前記生物処理槽内の活性汚泥に注入する凝集剤の注入量を調整する点にある。
【0020】
同第三の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記制御装置は、前記膜分離装置を停止すると決定した場合に、停止対象となる膜分離装置を所定時間毎に切り替える点にある。
【0021】
同第四の特徴構成は、同請求項9に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記好気槽から有機性排水の流れに沿う下流側に隣接する前記無酸素槽へ向けて活性汚泥を送出する流出部の開口部の上端が、前記好気槽の水面から30cm以下の部位に位置している点にある。
【0022】
好気槽に浸漬配置された膜分離装置を停止すると、槽内で活性汚泥が沈降するようになる。しかし、無酸素槽へ向けて活性汚泥を送出する流出部の開口部の上端が、前記好気槽の水面から30cm以下の部位に位置していると、上澄みだけが無酸素槽に流入するような不都合な状態を回避し、膜分離装置を停止した状態でも活性汚泥を無酸素槽へ向けて送出することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明した通り、本発明によれば、窒素を含有する有機性排水の性状に応じて効率的に生物処理を行なうことができる有機性排水処理方法及び有機性排水処理装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)は本発明による排水処理装置の平面視説明図,(b)は本発明による排水処理装置の断面視要部説明図
【
図3】本発明による排水処理方法の説明図であり、(a)は右上の膜分離装置を停止した状態の説明図、(b)は左下の膜分離装置を停止した状態の説明図
【
図4】本発明による排水処理方法の説明図であり、(a)は右上及び左下の膜分離装置を停止した状態の説明図、(b)は左上及び右下の膜分離装置を停止した状態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明による排水処理方法及び排水処理装置の実施形態を説明する。
図1(a),(b)に示すように、排水処理装置1は、原水である窒素を含む有機性排水を活性汚泥中で生物処理して処理水を得る有機性排水処理装置であり、一対の無酸素槽10と好気槽20を生物処理単位として、複数の生物処理単位(本実施形態では4対の生物処理単位)を有機性排水の流れに沿って直列に且つ無終端状に配置した生物処理槽2を備えている。
【0026】
なお、単一の生物処理槽2を複数領域に仕切ることにより複数の生物処理単位を構成してもよいし、有機性排水の流れに沿って個別の無酸素槽10と好気槽20を複数対配列することにより生物処理槽2を構成してもよい。
【0027】
また、生物処理槽2を直線状に構成し、最下流の好気槽20から最上流の無酸素槽10へ活性汚泥を返送するための汚泥返送経路としての水路または管路を別途設けてもよい。
【0028】
原水である有機性排水が原水供給経路3を介して各無酸素槽10に略等量に分割して供給され、各無酸素槽10で嫌気性処理である脱窒処理が行なわれた後に下流側の好気槽20に流入して好気処理される。各好気槽20に膜分離装置30が浸漬設置され、その近傍に好気処理のための補助散気装置40が設置されている。
【0029】
最上流側の無酸素槽10(10a)にはエアリフトポンプAPが設置され、ブロワーBからバルブV10を介して供給される気泡により発生するエアリフト管内の上昇流によって活性汚泥とともに有機性排水が下流側の好気槽20(20a)に送液され、以後、無酸素槽10(10b)、好気槽20(20b)、無酸素槽10(10c)、好気槽20(20c)、無酸素槽10(10d)、好気槽20(20d)の順に自然流下する。無酸素槽10にエアリフトポンプAPを設けているため、好気槽20にエアリフトポンプAPを設けて無酸素槽10に液送する場合と比較して、無酸素槽10での溶存酸素量DOの増加を招くことがない。
【0030】
本実施形態では、有機性排水の流れに沿って4対の生物処理単位が無終端状に配置され、最下流に配設された好気槽20(20d)と最上流に配設された無酸素槽10(10a)とが隔壁を隔てて隣接配置され、最下流の好気槽20(20d)の活性汚泥を最上流の無酸素槽10(10a)に返送する汚泥返送経路が当該隔壁の一部に形成されている。
【0031】
無酸素槽10と好気槽20との間に隔壁W1が形成され、無酸素槽10の活性汚泥を含む有機性排水が好気槽20にオーバーフローするように、隔壁W1の上端側一部に切欠き部11(
図1(b)参照。)が設けられている。
【0032】
好気槽20と無酸素槽10との間に隔壁W2が形成され、上下方向で膜分離装置30の底部近傍に対応する位置に活性汚泥を含む有機性排水の流出部21が設けられている。流出部21となる開口の上端は水没しており、好気槽20の水面から30cm以下の部位に設けられている。当該流出部21から活性汚泥の流出流速は0.5m/sec.以下に設定されている。最下流の好気槽20(20d)に形成された流出部21が上述した汚泥返送経路となる。
図1(a)で二点鎖線で示される矢印は、活性汚泥が生物処理ユニット単位に流れて循環流が形成されていることを示している。
【0033】
膜分離装置30は、複数の膜エレメント31と、膜エレメント31の下方に設置された曝気装置32を備えている(
図1(b)参照。)。複数の膜エレメント31は各膜面が縦姿勢となるように、ケーシングに一定間隔を隔てて上下二段に配列収容されている。
【0034】
図2に示すように、膜エレメント31は上部に集水管31cを備えた樹脂製の膜支持体31aの表裏両面に分離膜31bが配置されて構成されている。本実施形態では、分離膜31bは、不織布の表面に多孔性を有する有機高分子膜を備えた公称孔径が0.4μm程度の精密ろ過膜で構成されている。
【0035】
分離膜31bの種類及び膜エレメント31は、上述した態様に限定されるものではなく、任意の種類の分離膜及び任意の形態の膜エレメント(中空糸膜エレメント、管状膜エレメント、モノリス膜エレメント等)を用いることが可能である。
【0036】
分離膜31bを透過した処理水は、膜支持体31aに形成された溝部に沿って集水管31cに流れ、
図1(a),(b)に示すように、集水管31cからヘッダー管34を経由して空気分離タンク35に流入し、空気分離タンク35に接続された送液管36を介して処理水槽37に集水される。
【0037】
各ヘッダー管34には、それぞれ流量調整用のバルブV5,V6,V7,V8が設けられ、送液管36には吸引ポンプPが配されている。吸引ポンプPによる圧力調整及びバルブV5,V6,V7,V8の開度調節によって各膜分離装置30からの膜透過水量が調整される。
【0038】
膜分離装置30の膜間差圧を検出するために、各ヘッダー管34のうちバルブV5,V6,V7,V8の上流に圧力センサPmが設けられている。なお、図中、符号Mはバルブの開度を調整するためのモータを示す。集水管31cからヘッダー管34を経由して空気分離タンク35に流入し、空気分離タンク35に接続された送液管36を介して処理水槽37に集水される経路が処理水送出経路となる。
【0039】
ブロワーBに接続された主送風管Tmに4本の副送風管Tsが分岐接続され、各副送風管Tsに各曝気装置32が接続されている。各好気槽20に設置された膜分離槽30に対応して副送風管Tsにはそれぞれ流量制限用のバルブV1,V2・・・が設けられ、曝気量や曝気の停止及び開始が制御可能に構成されている。
【0040】
補助散気装置40によって好気槽20内の活性汚泥とともに有機性排水が曝気されて、有機物が分解されるとともにアンモニア性窒素が硝酸性窒素に硝化され、膜分離装置30によって一部が処理水として固液分離される。好気槽20で硝化処理された有機性排水は活性汚泥とともに下流側に隣接する無酸素槽10に流入し、硝酸性窒素が窒素ガスに還元除去される脱窒処理が進む。
【0041】
単位時間あたりの原水の流入量をQ、各無酸素槽10への原水の流入量をQ/4とし、各膜分離装置30から総量でQの透過液量の処理水が引抜かれ、最下流の好気槽20(20d)の活性汚泥が汚泥返送経路を介して最上流の無酸素槽10(10a)に3Qの汚泥が返送される場合には、汚泥の実質的な循環比が3×4となり12Qという高い循環比が実現でき、各槽の実質的な汚泥滞留時間SRTを十分な値に維持しながらも槽の容量を小さくすることができる。
【0042】
有機性排水処理装置1には、有機性排水の流入量を測定する流量計、水槽液位を計測する液位計、各膜分離装置の膜間差圧を計測する圧力センサ、処理水槽37に設けられ処理水のT-N、処理水のNH
3-N濃度を測定する測定器Sなどの複数の測定装置が設けられている。そして、それら測定装置により測定された値に基づいて有機性排水処理装置1を運転制御する制御装置となる制御部60が設けられている。制御部60は演算回路、入力回路、出力回路等を備えたコンピュータを備えた制御盤で構成されている。
【0043】
制御部60は、それら測定装置によって測定された原水の流入量の程度、生物処理槽2の水位、各圧力センサPmの値、処理水槽37に備えたトータル窒素(T−N)濃度の測定器Sの値などをモニタしながら、各膜分離装置30をろ過運転状態とリラグゼーション運転状態の二態様で繰返し運転する。
【0044】
ろ過運転状態とは曝気装置32による曝気を行ないつつ集水管31cから膜透過水を処理水として引抜く状態をいい、リラグゼーション運転状態とはヘッダー管34に備えたバルブを閉塞し、または吸引ポンプPを停止した状態で、曝気装置32による曝気を行なうことにより、気泡により生じる上向流で分離膜31bの表面をクリーニングする状態をいう。制御部60によって、第1の所定時間(例えば9分)のろ過運転と、第2の所定時間(例えば1分)のリラグゼーション運転が繰り返される。
【0045】
さらに、制御部60は、測定装置で測定された有機性排水の流入量、水槽液位、各膜分離装置の膜間差圧、処理水のT-N、処理水のNH
3-N濃度の少なくとも一つを指標として、生物処理単位毎に稼働中の膜分離装置30の停止または停止中の膜分離装置30の起動の可否を判断し、制御する。
【0046】
例えば、制御部60は、処理水のトータル窒素濃度に基づいて原水の窒素濃度の高低を判断し、原水の窒素濃度が高いつまり処理負荷が高いと判断すると、各好気槽20に備えた膜分離装置30を稼働状態に維持して、所定量の透過水が得られるように制御する。
【0047】
そして、制御部60は、原水の窒素濃度が低い、つまり処理負荷が低いと判断すると生物処理単位で何れかの膜分離装置30を停止制御する。例えば、好気槽20a,20b,20c,20dの何れかの好気槽に設置された膜分離装置30を停止する。停止する膜分離装置30の数は処理負荷によって設定される。従って、同時に2台以上の膜分離装置30が停止されることもある。
【0048】
膜分離装置30の停止とは、曝気装置32及び補助曝気装置40を停止するとともに、膜透過を停止した状態をいう。バルブV1〜V4の何れかを遮断することにより曝気が停止され、バルブV5〜V8の何れかを遮断することにより膜透過が停止される。
【0049】
図3(a)に表されたハッチングは、好気槽20cの膜分離装置30が停止されたことを示し、
図3(b)に示されたハッチングは、好気槽20aの膜分離装置30が停止されたことを示す。
【0050】
制御部60は、何れかの膜分離装置30を停止すると決定した場合に、停止対象となる膜分離装置を所定時間毎に切り替えるように制御するように構成されている。例えば、一つの好気槽20の膜分離装置30を停止する場合には、上述したろ過運転とリラグゼーション運転の1サイクル毎、或いは数サイクル毎に、停止する膜分離装置30を切り替えるのである。なお、ろ過運転とリラグゼーション運転のサイクル時間に同期して切り替えるのが好ましいが、ろ過運転とリラグゼーション運転のサイクル時間に非同期で切り替えてもよい。
【0051】
例えば、
図3(a)の状態から
図3(b)の状態に切り替えるような態様となる。停止させる膜分離装置30の数は1台に限らず、2台以上の複数台であってもよいが、少なくとも1台は運転されている必要がある。例えば、本実施形態で2台の膜分離装置30を停止させる場合には、ろ過運転とリラグゼーション運転のサイクル時間に同期して2台の膜分離装置30を単位にして交互に切り替えればよい。
図4(a)の状態と
図4(b)の状態を切り替えるような態様となる。
【0052】
上述した指標により処理負荷が軽くなると判断して膜分離装置30を停止する場合に、特定の膜分離装置30を長時間にわたって停止すると、対応する好気槽20の汚泥が腐敗する虞がある。そのような場合でも、停止対象となる膜分離装置30を所定時間毎に切り替えることにより、特定の好気槽で汚泥が腐敗するようなこと無く、装置全体として適切に生物処理を行なうことができるようになる。
【0053】
指標として有機性排水の流入量を採用すると、流入量の多少により処理負荷の程度が判断でき、水槽液位を指標に採用すると、水槽液位が低くなれば処理負荷が低くなっていることが判断できる。各膜分離装置の膜間差圧を指標に採用すると、膜間差圧が低い場合には処理負荷が低くろ過効率がよいので、全ての膜分離装置30を稼働させる必要が無いと判断でき、膜間差圧が高くなると停止中の膜分離装置30を稼働させる必要があると判断できる。処理水のT-N、処理水のNH
3-N濃度を指標に採用すると、脱窒処理の負荷の程度が判断でき、濃度が低くなると全ての膜分離装置30を稼働させる必要が無いと判断でき、濃度が高くなると停止中の膜分離装置30を稼働させる必要があると判断できる。
【0054】
また、制御部60は、膜分離装置30の稼働状況に応じて、生物処理槽2内の活性汚泥に注入する凝集剤の注入量を調整するように構成されている。
【0055】
生物処理単位で膜分離装置30を停止すると、該当する好気槽20では曝気装置32が停止するため、嫌気状態が強くなる。この状態の活性汚泥がさらに下流側に隣接する無酸素槽10に流入すると、当該無酸素槽10に供給される有機性排水の影響により活性汚泥からのリンの吐出しが顕著になる。そして、膜分離装置30が稼働する好気槽20における活性汚泥によるリンの過剰摂取が促進され、凝集剤の注入量を減量しても効率的にリンが除去されるようになり、脱窒処理に加えてリンの効率除去という高度処理が可能になる。
【0056】
好気槽30に備えた流出部の開口部21の上端が水没し、好気槽20の水面から30cm以下の部位に設けられているので、仮に当該好気槽20の膜分離装置30が停止されて、活性汚泥が撹拌されない状態になっても、確実に活性汚泥が下流側の無酸素槽に送られるようになる。
【0057】
しかも、膜分離装置30が稼働状態であっても、膜分離装置30の底部近傍では液面近傍に比較して溶存酸素濃度DOが低いため、下流側の無酸素槽10の溶存酸素濃度の上昇を抑制することができる。
【0058】
さらに、活性汚泥の流入流速が0.5m/sec.以下に設定されていれば、活性汚泥の流入による好気槽と無酸素槽の水位差の発生を抑制することができ、好気槽で活性汚泥に対する曝気の均一化を図ることができる。なお、活性汚泥の流入流速が0.5m/sec.以下となるように切欠き部11が設定され、またエアリフトポンプAPに供給される空気量が調整される。
【0059】
上述した制御部60によって、有機性排水を各生物処理単位の無酸素槽に分割して供給し、無酸素槽での脱窒処理と前記好気槽での硝化処理を繰り返しながら有機性排水を生物処理し、各生物処理単位の膜分離装置から膜透過液を処理水として送出し、有機性排水の流入量、水槽液位、各膜分離装置の膜間差圧、処理水のT-N、処理水のNH
3-N濃度の少なくとも一つを指標として、前記生物処理単位毎に稼働中の膜分離装置の停止または停止中の膜分離装置の起動の可否を決定する有機性排水処理方法が実行される。
【0060】
また、膜分離装置の稼働状況に応じて、生物処理槽内の活性汚泥に注入する凝集剤の注入量が調整される。
【0061】
そして、膜分離装置を停止すると決定する場合に、停止対象となる膜分離装置を所定時間毎に切り替えられる。
【0062】
さらに、停止中の膜分離装置に対して二次側から洗浄液を注入して膜洗浄する処理を全ての膜分離装置に対して順次実行し、全ての膜分離装置の洗浄が完了するまでの間は、洗浄済みの膜分離装置の膜ろ過流量を未洗浄の膜分離装置の膜ろ過流量以下に設定して運転する有機性排水処理方法が実行される。
【0063】
上述した実施形態は、何れも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。また、上述した複数の実施形態の何れかまたは複数を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1:排水処理装置
2:生物処理槽
10:無酸素槽
11:切欠き部
20:好気槽
21:流出部
30:膜分離装置
32:曝気装置
40:補助散気装置
60:制御部(制御装置)