特許第6883480号(P6883480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883480
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】電気絶縁板
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/6555 20140101AFI20210531BHJP
   H01B 17/60 20060101ALI20210531BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20210531BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20210531BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20210531BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20210531BHJP
   H01M 10/6568 20140101ALI20210531BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20210531BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALN20210531BHJP
【FI】
   H01M10/6555
   H01B17/60
   H01M10/613
   H01M10/615
   H01M10/653
   H01M10/647
   H01M10/6568
   B32B9/00 A
   !H01M10/6556
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-130796(P2017-130796)
(22)【出願日】2017年7月4日
(65)【公開番号】特開2019-16443(P2019-16443A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】山内 忍
(72)【発明者】
【氏名】古川 裕一
【審査官】 大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−007172(JP,A)
【文献】 特開2009−252501(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/147331(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/076388(WO,A1)
【文献】 特開平9−321356(JP,A)
【文献】 特開2014−127633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52−10/667
H01B 17/60
B32B 9/00
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムと炭素粒子とが複合化されることにより形成された板状の複合体、および複合体の互いに反対側を向いた2つの主面のうち少なくとも一方の主面を覆うアルミニウム製の主面表皮層からなる本体部と、本体部の主面表皮層の表面に形成されたアルマイト皮膜からなる電気絶縁層とを備えている電気絶縁板。
【請求項2】
複合体のアルミニウムと炭素粒子とが焼結複合化されている請求項1記載の電気絶縁板。
【請求項3】
複合体の前記2つの主面がそれぞれアルミニウム製の主面表皮層により覆われるとともに、両主面表皮層の表面にアルマイト皮膜からなる電気絶縁層が形成されており、少なくともいずれか一方の主面表皮層が、複合体と一体に設けられている請求項1または2記載の電気絶縁板。
【請求項4】
複合体の前記2つの主面がそれぞれアルミニウム製の主面表皮層により覆われるとともに、両主面表皮層の表面にアルマイト皮膜からなる電気絶縁層が形成されており、少なくともいずれか一方の主面表皮層が、複合体とは別個に形成されかつ複合体に接合一体化されたアルミニウム板からなる請求項1または2記載の電気絶縁板。
【請求項5】
複合体の前記2つの主面がそれぞれアルミニウム製の主面表皮層により覆われるとともに、両主面表皮層の表面にアルマイト皮膜からなる電気絶縁層が形成されており、一方の主面表皮層が複合体と一体に設けられ、他方の主面表皮層が、複合体とは別個に形成されかつ複合体に接合一体化されたアルミニウム板からなる請求項1または2記載の電気絶縁板。
【請求項6】
主面表皮層の表面に形成されたアルマイト皮膜からなる電気絶縁層の厚みが1μm以上である請求項1〜5のうちのいずれかに記載の電気絶縁板。
【請求項7】
複合体の外周側面がアルミニウム製の側面表皮層により覆われており、側面表皮層の表面にアルマイト皮膜からなる電気絶縁層が形成されている請求項1〜6のうちのいずれかに記載の電気絶縁板。
【請求項8】
側面表皮層の表面に形成されたアルマイト皮膜からなる電気絶縁層の厚みが1μm以上である請求項7記載の電気絶縁板。
【請求項9】
本体部の平面方向の線膨張係数が5×10-6/K〜12×10-6/Kである請求項1〜8のうちのいずれかに記載の電気絶縁板。
【請求項10】
アルミニウムと炭素粒子とが複合化されることにより形成された板状の複合体、および複合体の互いに反対側を向いた2つの主面のうち少なくとも一方の主面を覆うアルミニウム製の主面表皮層からなる本体部と、本体部の主面表皮層の表面に形成されたアルマイト皮膜からなる電気絶縁層とを備えている、電池の冷却または加熱に用いられる電気絶縁板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電気絶縁板に関し、さらに詳しくいえば、互いに反対側を向いた2つの主面間の電気絶縁性が優れているとともに、平面方向の熱伝導性が優れている電気絶縁板に関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、「アルミニウム」という用語には、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【0003】
また、この明細書および特許請求の範囲において、「板」という用語には、箔も含むものとする。
【0004】
さらに、この明細書において、板状体の厚さ方向に対して垂直な面を主面といい、同じく板状体の厚さ方向に対して垂直な方向を平面方向というものとする。
【背景技術】
【0005】
電気絶縁板として、たとえばアルミニウム製ベース基板と、ベース基板の互いに反対側を向いた2つの主面のうち被絶縁物側を向いた一方の主面に形成されたアルマイト皮膜とからなり、アルマイト皮膜の被絶縁物側を向く面に、内壁面がアルマイト皮膜で覆われた複数の細孔が形成され、細孔内に熱伝導材料が充填されたものが知られている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の電気絶縁板の場合、ベース基板とアルマイト皮膜の平面方向の線膨張係数が大きく異なっているので、使用時の温度変化によりアルマイト皮膜に割れが発生して電気絶縁性が維持できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6114948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の目的は、上記問題を解消し、長期間にわたって電気絶縁性を維持しうるとともに、平面方向の熱伝導性に優れた電気絶縁板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0010】
1)アルミニウムと炭素粒子とが複合化されることにより形成された板状の複合体、および複合体の互いに反対側を向いた2つの主面のうち少なくとも一方の主面を覆うアルミニウム製の主面表皮層からなる本体部と、本体部の主面表皮層の表面に形成されたアルマイト皮膜からなる電気絶縁層とを備えている電気絶縁板。
【0011】
2)複合体のアルミニウムと炭素粒子とが焼結複合化されている上記1)記載の電気絶縁板。
【0012】
3)複合体の前記2つの主面がそれぞれアルミニウム製の主面表皮層により覆われるとともに、両主面表皮層の表面にアルマイト皮膜からなる電気絶縁層が形成されており、少なくともいずれか一方の主面表皮層が、複合体と一体に設けられている上記1)または2)記載の電気絶縁板。
【0013】
4)複合体の前記2つの主面がそれぞれアルミニウム製の主面表皮層により覆われるとともに、両主面表皮層の表面にアルマイト皮膜からなる電気絶縁層が形成されており、少なくともいずれか一方の主面表皮層が、複合体とは別個に形成されかつ複合体に接合一体化されたアルミニウム板からなる上記1)または2)記載の電気絶縁板。
【0014】
5)複合体の前記2つの主面がそれぞれアルミニウム製の主面表皮層により覆われるとともに、両主面表皮層の表面にアルマイト皮膜からなる電気絶縁層が形成されており、一方の主面表皮層が複合体と一体に設けられ、他方の主面表皮層が、複合体とは別個に形成されかつ複合体に接合一体化されたアルミニウム板からなる上記1)または2)記載の電気絶縁板。
【0015】
6)主面表皮層の表面に形成されたアルマイト皮膜からなる電気絶縁層の厚みが1μm以上である上記1)〜5)のうちのいずれかに記載の電気絶縁板。
【0016】
7)複合体の外周側面がアルミニウム製の側面表皮層により覆われており、側面表皮層の表面にアルマイト皮膜からなる電気絶縁層が形成されている上記1)〜6)のうちのいずれかに記載の電気絶縁板。
【0017】
8)側面表皮層の表面に形成されたアルマイト皮膜からなる電気絶縁層の厚みが1μm以上である上記7)記載の電気絶縁板。
【0018】
9)本体部の平面方向の線膨張係数が5×10-6/K〜12×10-6/Kである上記1)〜8)のうちのいずれかに記載の電気絶縁板。
【発明の効果】
【0019】
上記1)〜9)の電気絶縁板によれば、主面被覆層の表面に形成されたアルマイト皮膜からなる電気絶縁層の働きによって、2つの主面間の電気絶縁性が確保される。そして、本体部がアルミニウムと炭素粒子とが複合化された複合体を有するので、本体部の平面方向の線膨張係数がアルマイト皮膜の平面方向の線膨張係数と近似したものとなり、使用時の温度変化によるアルマイト皮膜の割れが防止され、電気絶縁性が長期間にわたって維持される。しかも、本体部がアルミニウムと炭素粒子とが複合化された複合体を有するので、平面方向の熱伝導率が高くなって熱伝導性が優れたものになる。
【0020】
上記6)の電気絶縁板によれば、アルマイト皮膜からなる電気絶縁層の電気絶縁性が優れたものになる。
【0021】
上記7)の電気絶縁板によれば、側面表皮層の働きによって本体部の外周側面の機械的強度を確実に高めることができるとともに、本体部の複合体中に含まれる炭素粒子が複合体の外周側面から脱落するのを確実に抑制できる。また、側面被覆層の表面に形成されたアルマイト皮膜からなる電気絶縁層の働きによって、本体部の外周側面と電気絶縁板の外周側面との間の電気絶縁性が確保される。
【0022】
上記8)の電気絶縁板によれば、側面被覆層の表面に形成されたアルマイト皮膜からなる電気絶縁層の電気絶縁性が優れたものになる。
【0023】
上記9)の電気絶縁板によれば、本体部の平面方向の線膨張係数がアルマイト皮膜の平面方向の線膨張係数と近似したものとなり、使用時の温度変化によるアルマイト皮膜の割れが効果的に防止され、電気絶縁性が長期間にわたって維持される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】この発明による電気絶縁板を用いた組電池装置を部分的に示す正面図である。
図2図1の組電池装置に用いられている電気絶縁板の一部分を示す拡大断面図である。
図3図2の電気絶縁板の構成を詳細に示す一部を省略した拡大断面図である。
図4図1の組電池装置に用いられている電気絶縁板の第2の実施形態を示す図3相当の図である。
図5図1の組電池装置に用いられている電気絶縁板の第3の実施形態を示す図2相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。この実施形態は、この発明による電気絶縁板を、複数の直方体状の角形単電池からなる組電池を備えた組電池装置に用いたものである。
【0026】
なお、図1に関する説明においては、図1の上下、左右を上下、左右というものとし、図2図5に関する説明においては、図2図5の上下を上下というものとする。
【0027】
また、全図面を通じて同一物および同一部分には同一符号を付す。
【0028】
図1はこの発明による電気絶縁板を用いた組電池装置の一部分の構成を示し、図2は電気絶縁板の構成を示す。また、図3は電気絶縁板のさらに詳細な構成を示す。
【0029】
図1において、組電池装置は、たとえば複数の角形リチウムイオン二次電池などの扁平状角形単電池(2)からなる組電池(1)と、金属的弾性を有する材料からなり、かつ組電池(1)の隣り合う単電池(2)間に配置されて隣り合う単電池(2)間を電気絶縁状態にする電気絶縁板(3)と、組電池(1)を構成する単電池(2)に冷熱を付与したり、温熱を付与したりする伝熱器(4)とを備えている。
【0030】
組電池(1)は、複数の単電池(2)を、厚み方向が左右方向を向いた状態で左右方向に並べることにより構成されている。各単電池(2)の左右両側面は横長方形であり、長辺が図1の紙面表裏方向を向くとともに短辺が上下方向を向いている。各単電池(2)に1対の端子(5)が突出状に設けられており、端子(5)を利用して全ての単電池(2)が直列状または並列状に接続されることにより組電池(1)が構成されている。
【0031】
電気絶縁板(3)の下部は単電池(2)の下端よりも下方に突出しており、下方に突出した部分が右斜め上方に曲げられてばね状弾性を有する屈曲部(6)が設けられている。屈曲部(6)の先端には右方への突出部(6a)が設けられており、当該突出部(6a)が各電気絶縁板(3)の右隣の単電池(2)の下面に接触している。
【0032】
図2に示すように、電気絶縁板(3)は、アルミニウムと炭素粒子とが複合化されることにより形成された板状の複合体(11)、および複合体(11)の互いに反対側を向いた2つの主面(11a)のうち少なくとも一方、ここでは両主面(11a)を覆うアルミニウム製の主面表皮層(12)からなる板状の本体部(10)と、本体部(10)の主面表皮層(12)の表面に形成されたアルマイト皮膜からなる電気絶縁層(13)とを備えてている。
【0033】
電気絶縁板(3)は、平面方向の線膨張係数が5×10-6/K〜12×10-6/Kとなり、平面方向の熱伝導率が200W/(m・K)以上でかつアルミニウムの熱伝導率よりも高くなっていることが好ましい。電気絶縁板(3)の上述した平面方向の線膨張係数および平面方向の熱伝導率は、複合体(11)に含まれる炭素粒子の働きによって達成される。また、アルマイト皮膜からなる電気絶縁層(13)の働きによって、電気絶縁板(3)の両主面間の電気絶縁性が確保され、組電池(1)の隣り合う単電池(2)間が電気絶縁状態に保たれる。さらに、複合体(11)の主面(11a)方向の線膨張係数が5×10-6/K〜12×10-6/Kであって、板状本体部(10)の平面方向の線膨張係数がアルマイト皮膜の平面方向の線膨張係数と近似したものとなるので、使用時の温度変化によるアルマイト皮膜の割れが効果的に防止され、電気絶縁性が長期間にわたって維持される。
【0034】
両主面表皮層(12)は、複合体(11)とは別個に形成されかつ複合体(11)に接合一体化されたアルミニウム板(14)からなる。
【0035】
アルマイト皮膜からなる電気絶縁層(13)の厚みは、優れた電気絶縁性を得るために1μm以上であることが好ましい。
【0036】
図示は省略したが、伝熱器(4)の内部には、たとえば複数の伝熱媒体流路が形成されており、全伝熱媒体流路内に、伝熱媒体が流されるようになっている。
【0037】
上述した組電池装置において、組電池(1)を構成するすべての単電池(2)を冷却する場合、伝熱器(4)の伝熱媒体流路に冷却液を流通させる。すると、冷却液の有する冷熱が、伝熱器(4)の上壁、および電気絶縁板(3)を経て単電池(2)の左右いずれかの側面と底面とに伝えられ、組電池(1)のすべての単電池(2)が冷却される。
【0038】
寒冷地において、使用開始前に単電池(2)を適正温度まで加熱する必要がある場合には、伝熱器(4)の伝熱媒体流路に温熱を供給しうる伝熱媒体である高温の加熱液を供給する。すると、加熱液の有する温熱が、冷却の場合と同様にして組電池(1)の左右いずれかの側面と底面とに伝えられ、組電池(1)のすべての単電池(2)が適正温度に加熱される。
【0039】
図1に示すように、少なくとも一部の単電池(2)が上下方向にずれて全単電池(2)の下面に段差が発生している場合、電気絶縁板(3)のばね弾性を有する屈曲部(6)が単電池(2)の下面の高さ位置に追従して変形するので、電気絶縁板(3)の屈曲部(6)の突出部(6a)と伝熱器(4)の上面と接触が確実に維持され、電気絶縁板(3)と伝熱器(4)の上面との間の熱伝導性の低下が抑制される。したがって、組電池(1)を構成する全単電池(2)を効率良く冷却または加熱することが可能になる。
【0040】
次に、電気絶縁板(3)の詳細な構造について、図3を参照して説明する。
【0041】
図3に示すように、電気絶縁板(3)の本体部(10)の複合体(11)は、アルミニウムマトリックス(15)、およびアルミニウムマトリックス(15)中に分散した炭素粒子(16)を含むアルミニウム−炭素粒子複合材からなる。
【0042】
本体部(10)の複合体(11)は、アルミニウムマトリックス(15)を構成するアルミニウム材料中に炭素粒子(16)が平面方向に分散した複数の炭素粒子分散層(17)と、アルミニウムマトリックス(15)を構成するアルミニウム材料で形成された複数のアルミニウム層(18)とを積層状に備えている。複合体(11)の厚さは,用途によって定められるべきものであって、限定されるものではないが、0.2〜5mmであることが好ましい。
【0043】
炭素粒子分散層(17)とアルミニウム層(18)は、複合体(11)の厚さ方向の全体に亘って交互に積層された状態に配列されており、図3の上下両端のうちの下端にアルミニウム層(18)が存在し、同上端に炭素粒子分散層(17)が存在するように配列されている。各炭素炭子分散層(17)において、炭素粒子(16)はアルミニウムマトリックス(15)中において複合体(11)の平面方向に分散しており、複合体(11)の厚さ方向には殆ど分散していない。各アルミニウム層(18)中には炭素粒子(16)は実質的に存在していない。そして、複数の炭素粒子分散層(17)と複数のアルミニウム層(18)とが、たとえば焼結複合化により接合一体化されている。炭素粒子分散層(17)の厚さは、限定されるものではないが、1〜100μmであることが好ましい。アルミニウム層(18)の厚さは限定されるものではないが、調達性やコストを考えれば7〜100μmであることが好ましい。
【0044】
本体部(10)の主面表皮層(12)は、複合体(11)とは別個に形成されかつ複合体(11)に、たとえば焼結により接合一体化されたアルミニウム板(14)からなる。すなわち、図3の上側の主面表皮層(12)は同図上端の炭素粒子分散層(17)と接合一体化され、同図の下側の主面表皮層(12)は同図下端のアルミニウム層(18)と接合一体化されている。主面表皮層(12)の厚さは、限定されるものではないが、7〜100μmであることが好ましい。
【0045】
複合体(11)に用いられる炭素粒子の種類は限定されるものではないが、なるべく高い熱伝導率を有するもの、即ち高熱伝導性のものを用いることが望ましい。特に、炭素粒子は、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、天然黒鉛粒子および人造黒鉛粒子からなる群より選択される少なくとも一種であることが望ましく、さらに炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェンおよび天然黒鉛粒子からなる群より選択される少なくとも一種であることがより望ましい。その理由は、複合体の熱伝導率を確実に向上させることができるとともに、アルミニウムと炭素粒子との複合化を確実に行えるからである。
【0046】
炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維などが用いられる。
【0047】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))等が用いられる。
【0048】
天然黒鉛粒子としては、鱗片状黒鉛粒子等が用いられる。
【0049】
人造黒鉛粒子としては、等方性黒鉛粒子、異方性黒鉛粒子、熱分解黒鉛粒子等が用いられる。
【0050】
炭素粒子の大きさは限定されるものではない。しかしながら、炭素粒子が炭素繊維である場合、平均繊維長が10μm以上2mm以下の短炭素繊維が特に好適に用いられる。炭素粒子がカーボンナノチューブである場合、平均長さが1μm以上10μm以下のカーボンナノチューブが特に好適に用いられる。炭素粒子が天然黒鉛粒子および人造黒鉛粒子である場合、平均粒子径が10μm以上3mm以下の天然黒鉛粒子および人造黒鉛粒子が特に好適に用いられる。
【0051】
図示は省略したが、電気絶縁板(3)の製造方法は、アルミニウムマトリックス(15)を構成する材料からなるアルミニウム箔の片面に塗工液を塗布して炭素粒子層が形成された塗工箔を得る工程と、複数の塗工箔を炭素粒子層が同方向を向くように積層した状態の積層体を形成する工程と、当該積層体の積層方向の一端に位置しかつアルミニウム箔における炭素粒子層が外側を向いた塗工箔の炭素粒子層の上に、一方の主面表皮層(12)となるアルミニウム板(14)を積層するとともに、前記積層体の積層方向の他端に位置しかつアルミニウム箔における炭素粒子層が設けられていない側の面に他方の主面表皮層(12)となるアルミニウム板(14)を積層する工程と、これらを加熱することにより複数の塗工箔およびアルミニウム板(14)を接合一体化する工程とを含む。
【0052】
塗工液は、炭素粒子(16)とバインダとバインダ用溶剤とを混合状態に含有するものであり、たとえば炭素粒子(16)とバインダと溶剤とを混合容器内に入れて撹拌混合器により撹拌混合することにより得られる。なお必要に応じて、塗工液には分散剤、表面調整剤などが添加される。
【0053】
バインダは、炭素粒子(16)にアルミニウム箔の片面への付着力を付与して炭素粒子(16)がアルミニウム箔から脱落するのを抑制するためのものである。バインダは通常、有機樹脂等の樹脂からなる。具体的には、バインダとして、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂などを使用できる。
【0054】
溶剤はバインダを溶解するものである。具体的には、溶剤として、親水性溶剤(例:イソプロピルアルコール、水)、有機溶剤などを使用できる。
【0055】
撹拌混合器としては、ディスパー、プラネタリーミキサー、ビーズミルなどを使用できる。
【0056】
塗工液をアルミニウム箔の片面に塗工するための塗工方法は限定されるものではないが、たとえば三本ロール型のオフセット印刷装置を用いて行うことが好ましい。塗工液が塗布されたアルミニウム箔は、その後乾燥装置内に通され、塗工液の溶剤が塗工液から蒸発除去される。
【0057】
塗工液の塗工が三本ロール型のオフセット印刷装置により行われることにより、炭素粒子(16)同士が重ならないように塗工液をアルミニウム箔に容易にかつ確実に塗工することができる。その理由は次のとおりである。
【0058】
すなわち、三本ロール型のオフセット印刷装置では、インキロールの周面から転写ロールの周面に付着する塗工液の量は、インキロールの周面に付着した塗工液の量よりも少なく、また、インキロール−転写ロール間の加圧条件を変更することにより容易に調節可能である。このことから、インキロールの周面に付着する塗工液の量と、インキロール−転写ロール間の加圧条件とをそれぞれ適切に調節することにより、塗工液をアルミニウム箔の片面に薄く塗工することができる。
【0059】
ついで、前記積層体およびアルミニウム板(14)を加圧加熱焼結装置などによって所定の焼結雰囲気(例:非酸化雰囲気)中にて加熱することにより焼結し、これにより複数の塗工箔を一括して焼結一体化するとともに、両アルミニウム板(14)と塗工箔とを焼結一体化して本体部(10)を形成する。
【0060】
積層体および両アルミニウム板(14)の焼結方法は、真空ホットプレス法、放電プラズマ焼結法(SPS法)、熱間静水圧焼結法(HIP法)、押出法、圧延法などから選択される。なお、放電プラズマ焼結法はパルス通電焼結法とも呼ばれている。
【0061】
積層体中に存在するバインダは、この工程において積層体の温度が略室温から積層体の焼結温度まで上昇するように積層体を加熱する途中で昇華または分散等により消失して積層体から除去される。
【0062】
積層体および両アルミニウム板(14)を焼結する工程では、積層体が上述のように加熱されることにより、アルミニウム箔の金属材料の一部が炭素粒子層内に浸透して炭素粒子層内に存在する微細な空隙(例:炭素粒子層中の炭素粒子(16)間の隙間)に充填されて、当該空隙が略消滅する。これにより、複合体(11)の密度が上昇するとともに複合体(11)の強度が向上する。
【0063】
また、アルミニウム箔を構成する材料の一部が炭素粒子層内に浸透することによって、炭素粒子層中の炭素粒子(16)が、得られた本体部(10)の複合体(11)のアルミニウムマトリックス(15)中において平面方向に分散した状態になり、炭素粒子層が複合体(11)の炭素粒子分散層(17)になり、アルミニウム箔が複合体(11)のアルミニウム層(18)になる。さらに、アルミニウム板(14)が主面表皮層(12)になる。
【0064】
したがって、複合体(11)においては、炭素粒子分散層(17)とアルミニウム層(18)は、上述したように複合体(11)の厚さ方向の全体に亘って交互に積層された状態に配列する。こうして、複合体(11)および主面表皮層(12)よりなる本体部(10)が作られる。
【0065】
その後、本体部(10)に陽極酸化処理を施して、アルマイト皮膜からなる電気絶縁層(13)を形成することによって、電気絶縁板(3)が製造される。
【0066】
図4は、この発明による電気絶縁板の第2の実施形態を示す。
【0067】
図4に示す電気絶縁板(20)の場合、本体部(21)は、アルミニウムマトリックス(15)、およびアルミニウムマトリックス(15)中に分散した炭素粒子(16)を含むアルミニウム−炭素粒子複合材からなる複合体(22)と、複合体(22)の2つの主面(22a)(22b)を覆う主面被覆層(12)(23)とよりなる。
【0068】
本体部(21)の複合体(22)は、アルミニウムマトリックス(15)を構成するアルミニウム材料中に炭素粒子(16)が平面方向に分散した複数の炭素粒子分散層(17)と、アルミニウムマトリックス(15)を構成するアルミニウム材料で形成された複数のアルミニウム層(18)とが、複合体(11)の厚さ方向の全体に亘って交互に積層された状態に配列されており、図4の上下両端のうちの両端にそれぞれ炭素粒子分散層(17)が存在するように配列されている。そして、図4上端の炭素粒子分散層(17)における図4上側面が複合体(22)の一方の主面(22a)となり、図4下端の炭素粒子分散層(17)における図4下側面が複合体(22)の他方の主面(22b)となっている。
【0069】
前記一方の主面(22a)は、複合体(11)とは別個に形成されかつ複合体(22)に、たとえば焼結により接合一体化されたアルミニウム板(14)からなる主面表皮層(12)により覆われている。また、図4下端の炭素粒子分散層(17)の外側には、アルミニウムマトリックス(15)を構成するアルミニウム材料で形成されたアルミニウム層からなりかつ複合体(22)の前記他方の主面(22b)を覆う主面表皮層(23)が、複合体(22)に一体に設けられている。
【0070】
その他の構成は、図3に示す電気絶縁板(3)と同様である。
【0071】
図3および図4に示す電気絶縁板(3)(20)の本体部(10)(21)は、放電プラズマ焼結装置の筒状金型内に、アルミニウム粉末と炭素粒子と主面表皮層(12)となるアルミニウム板(14)を入れた状態で、筒状金型内のアルミニウム粉末層、炭素粒子層およびアルミニウム板(14)をその厚さ方向に加圧および加熱することによっても形成することができる。
【0072】
図5は、この発明による電気絶縁板の第3の実施形態を示す。
【0073】
図5に示す電気絶縁板(50)の場合、アルミニウムと炭素粒子とが複合化されることにより形成された板状の複合体(52)、複合体(52)の互いに反対側を向いた2つの主面(52a)を覆うアルミニウム製の主面表皮層(53)、および複合体(52)の外周側面(52b)を覆うアルミニウム製の側面表皮層(54)からなる板状の本体部(51)と、主面表皮層(53)および側面表皮層(54)の表面に形成されたアルマイト皮膜からなる電気絶縁層(55)とを備えている。
【0074】
本体部(51)は、図3および図4に示す電気絶縁板(3)(20)の本体部(10)(21)のうちのいずれかと同様な構成である。主面表皮層(53)の厚さは、限定されるものではないが、7〜100μmであることが好ましい。また、側面表皮層(54)は、2つの主面表皮層(52)を形成するアルミニウムの塑性流動層からなる。側面表皮層(54)の厚さは限定されるものではないが、0.5〜5mmであることが好ましい。その理由は、本体部(51)の外周側面の機械的強度を確実に高めることができるとともに、本体部(51)の複合体(52)中に含まれる炭素粒子が本体部(51)の外周側面から脱落するのを確実に抑制できるからである。
【0075】
アルマイト皮膜からなる電気絶縁層(55)の厚みは、優れた電気絶縁性を得るために1μm以上であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
この発明による電気絶縁板は、たとえば複数のLiイオン二次電池の単電池からなる組電池において、隣り合う単電池間を電気絶縁状態に保つとともに、単電池を冷却するために用いられる。
【符号の説明】
【0077】
(3)(20)(50):電気絶縁板
(10)(21)(51):本体部
(11)(22)(52):複合体
(11a)(22a)(22b)(52a):主面
(12)(23)(53):主面表皮層
(13)(55):電気絶縁層
(16):炭素粒子
(17):炭素粒子分散層
(18):アルミニウム層
(52b):外周側面
(55):電気絶縁層
図1
図2
図3
図4
図5