(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883509
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】構造物の被害判定方法及び構造物の補強工法選定方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/04 20060101AFI20210531BHJP
E01D 19/02 20060101ALI20210531BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
E01D19/04 101
E01D19/02
E01D1/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-240251(P2017-240251)
(22)【出願日】2017年12月15日
(65)【公開番号】特開2019-108659(P2019-108659A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2020年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健
(72)【発明者】
【氏名】大野 又稔
(72)【発明者】
【氏名】轟 俊太朗
【審査官】
彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−149466(JP,A)
【文献】
特開2016−075120(JP,A)
【文献】
特開2016−075121(JP,A)
【文献】
特開2010−210335(JP,A)
【文献】
大野又稔 他2名,コンクリート橋りょうに作用する鉛直流体力の算定方法に関する一考察,土木学会論文集B2(海岸工学),土木学会,2016年,Vol. 72、No. 2,pp.I_1003-I_1008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/04
E01D 1/00
E01D 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
想定水位及び想定流速を決定する工程と、
前記想定水位及び前記想定流速を用いて、構造物に対して作用する水平流体力及び鉛直流体力を求める工程と、
前記鉛直流体力を用いて、前記構造物の支承・落橋防止の破壊耐力を求める工程と、
前記構造物の橋脚の破壊耐力を求める工程と、
前記水平流体力と前記支承・落橋防止の破壊耐力を比較する工程と、
前記水平流体力と前記橋脚の破壊耐力を比較する工程と、
を備えることを特徴とする構造物の被害判定方法。
【請求項2】
想定水位及び想定流速を決定する工程と、
前記想定水位及び前記想定流速を用いて、構造物に対して作用する水平流体力及び鉛直流体力を求める工程と、
前記鉛直流体力を用いて、前記構造物の支承・落橋防止の破壊耐力を求める工程と、
前記構造物の橋脚の破壊耐力を求める工程と、
前記水平流体力と前記支承・落橋防止の破壊耐力又は前記橋脚の破壊耐力とを比較して構造物の補強工法を選択する工程とを備えることを特徴とする構造物の補強工法選定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の構造物の補強工法選定方法において、
前記水平流体力が前記支承・落橋防止の破壊耐力よりも大きい場合に、橋桁流出補強工法を選択することを特徴とする構造物の補強工法選定方法。
【請求項4】
請求項2に記載の構造物の補強工法選定方法において、
前記水平流体力が前記橋脚の破壊耐力よりも大きい場合に、橋脚補強工法を選択することを特徴とする構造物の補強工法選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の被害判定方法及び構造物の補強工法選定方法に関する。より具体的には、津波や河川の増水による橋梁の被害判定に関するもの、橋梁の新規設計時に被害予想するための判定方法に関するもの及び橋梁の補強設計に関し、どの補強工法を選択するかを決定する選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体によって構造物に対して発生する流体力を算出する手法としてモリソン式等を用いて評価する判定方法が知られている(特許文献1)。ここで、モリソン式とは、構造物が流体から受ける水平流体力を算出する方法であって、次式を用いて算出される。
【0003】
【数1】
ここで、ρ
wは、水の密度(kg/m
3)、C
dは、抗力係数,νは、流速(m/s)、A
hは、有効鉛直投影面積(m
2)とする。
【0004】
また、モリソン式などを用いて得られた水平流体力を構造物である橋梁の橋桁、橋脚及び支承部等が受けた場合のこれらの構造物の破壊耐力の算定方法が知られている。さらに、地震や津波による被害を防止するための橋梁の落橋防止工法や耐震・津波補強工法が知られている(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−149466号公報
【特許文献2】特開2016−75120号公報
【特許文献3】特開2016−75121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、モリソン式による判定方法では、桁高が高く、橋桁の上下流で水位差が生じる場合に橋梁が受ける水平力が過小に評価されており、判定精度が低く適切な評価が困難であった。また、橋桁、橋脚及び支承部等における部位ごとの被害判定方法については、個別に評価することが可能であったが、橋梁全体で橋桁の流出や橋脚の破壊などを適切に評価する判定方法は知られていない。
【0007】
さらに、地震や津波による橋桁の流出や橋脚の破壊に対して橋桁の流出を防止する橋桁流出補強工法や橋脚を補強する橋脚補強工法は知られているが、橋梁に津波が来襲した場合に想定される増水量や流速に応じて、いずれの補強工法を適用すべきであるか評価することができる方法は知られていなかった。
【0008】
そこで、本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、津波や河川の大雨などによる増水に対する橋梁の被害軽減や、早期復旧を実現するために、事前に被害の有無や損傷部位を特定するといった、被害判定を実施可能な被害判定方法及び、既設の橋梁などの構造物に対し、優先的に対策すべき構造物の選定や橋桁流出補強工法及び橋脚補強工法を適切に選定することができる補強工法選定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明にかかる構造物の被害判定方法は、想定水位及び想定流速を決定する工程と、前記想定水位及び前記想定流速を用いて、構造物に対して作用する水平流体力及び鉛直流体力を求める工程と、前記鉛直流体力を用いて、前記構造物の支承・落橋防止の破壊耐力を求める工程と、前記構造物の橋脚の破壊耐力を求める工程と、前記水平流体力と前記支承・落橋防止の破壊耐力を比較する工程と、前記水平流体力と前記
橋脚の破壊耐力を比較する工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る構造物の補強工法選定方法は、想定水位及び想定流速を決定する工程と、前記想定水位及び前記想定流速を用いて、構造物に対して作用する水平流体力及び鉛直流体力を求める工程と、前記鉛直流体力を用いて、前記構造物の支承・落橋防止の破壊耐力を求める工程と、前記構造物の橋脚の破壊耐力を求める工程と、前記水平流体力と前記支承・落橋防止の破壊耐力又は前
記橋脚の破壊耐力とを比較して構造物の補強工法を選択する工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る構造物の補強工法選定方法において、前記水平流体力が前記支承・落橋防止の破壊耐力よりも大きい場合に、橋桁流出補強工法を選択すると好適である。
【0012】
また、本発明に係る構造物の補強工法選定方法において、前記水平流体力が前
記橋脚の破壊耐力よりも大きい場合に、橋脚補強工法を選択すると好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る構造物の被害判定方法によれば、鉛直流体力を用いて、構造物の支承・落橋防止の破壊耐力を求め、構造物の橋脚の破壊耐力を求める工程を備えているので、鉛直方向の流体力である揚力、浮力及びダウンフォースを加味した抵抗力算定を行うことができ、従来のモリソン式を用いた判定方法では適切な評価が難しかった桁高が高い橋桁を有する橋梁についても適切な被害判定を行うことが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る構造物の補強工法選定方法によれば、想定される水位や流速に対して構造物がどのような補強工法を必要とするか精度よく被害判定を行うことができるので、この判定結果に基づいて適切な工法を選定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本実施形態に係る構造物の被害判定方法及び補強工法選定方法のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本願発明の実施形態にかかる構造物の被害判定方法及び補強工法選定方法について図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
図1は、橋梁に加わる流体力を説明するための図であり、
図2は、本実施形態に係る構造物の被害判定方法及び補強工法選定方法のフロー図であり、
図3は、橋梁の橋桁の流出を説明するための図であり、
図4は、橋梁の橋脚の破壊を説明するための図である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態にかかる構造物の被害判定方法及び構造物の補強工法選定方法は、例えば、構造物としての橋梁10に津波が来襲した場合を想定して、該津波による被害を想定し、その想定される被害に応じた補強工法を選定するものである。
【0019】
橋梁10は、下部工としての橋脚11と、上部工としての橋桁12とを有しており、橋桁12は、橋脚11の上部に載置された支承部14を介して橋脚11に載置された構成となっている。また、橋脚11と橋桁12とは、落橋防止装置13によって連結固定されている。この落橋防止装置13は、従来周知の種々の構成が採用される。
【0020】
ここで、本実施形態に係る構造物の被害判定方法は、
図2に示すように、想定水位H
0及び想定流速V
0を決定する工程(S101)と、想定水位H
0及び想定流速V
0を用いて橋梁10に対して作用する水平流体力F
xを求める工程(S102)と、想定水位H
0及び想定流速V
0を用いて橋梁10に対して作用する鉛直流体力F
zを求める工程(S103)と、鉛直流体力F
zを用いて橋梁10の支承・落橋防止の破壊耐力R
桁を算出する工程(S104)と橋梁10の橋脚11の破壊耐力R
柱を算出する工程(S105)と、水平流体力F
xと支承・落橋防止の破壊耐力R
桁を比較する工程(S106)と、水平流体力F
xと橋脚11の破壊耐力R
柱を比較する工程(S107)とを備えている。
【0021】
想定水位H
0及び想定流速V
0を決定する工程(S101)では、被害判定を行う対象である橋梁10の周辺環境や地震や大雨などの要因によってどの程度の増水が生じるのか、その際の流速はどの程度であるのか、を決定する。
【0022】
想定水位H
0及び想定流速V
0を用いて橋梁10に対して作用する水平流体力F
xを求める工程(S102)では、桁高が高い場合も含めて、橋梁10の形状に基づいて水平方向に働く水平流体力F
xを算出する。この算出方法については、水平方向の流体力を算出することができれば、どのような算出方法を採用しても構わないが、桁高を考慮すると、以下の数式を用いて算出されると好適である。
【0023】
【数2】
ここで、ρは、水の密度(kg/m
3)、gは、重力加速度(m/sec
2)、H
1は、上流側水位(m)、νは、流速(m/s)、C
cは、縮脈係数とする。また、qは、流量(m
2/S)であって、流速νと上流側水位H
1の積である。
【0024】
想定水位H
0及び想定流速V
0を用いて橋梁10に対して作用する鉛直流体力F
zを求める工程(S103)は、桁高が高い場合も含めて、橋梁10の形状に基づいて鉛直方向に働く鉛直流体力F
zを算出する。この算出方法については、鉛直方向の流体力を算出することができれば、どのような算出方法を採用しても構わないが、桁高を考慮すると、以下の数式を用いて算出されると好適である。
【0025】
【数3】
ここで、p
上(x,z)は、任意点の上面圧力(N/m
2)であり、p
下(x,z)は、任意点の下面圧力(N/m
2)であり、Aは、任意点の面積(m
2)であり、ρは、水の密度(kg/m
3)であり、gは、重力加速度(m/sec
2)であり、h▲
1▼、桁上流側水位(m)であり、H
柱は、柱高さ(m)であり、H
桁は、桁高(m)であり、H
防音壁は、防音壁高さ(m)であり、h
(x)は、x位置の水位(m)であり、ν
x(x,z)は、座標(x,z)における水平方向の流速(m/s)であり、ν
x▲
1▼は、桁上流側水面の水平方向の流速(m/s)であり、ν
x▲
2▼は、桁下流側桁下の水平方向の最大流速(m/s)であり、ν
x▲
3▼は、桁下流側桁下面の水平方向の流速(m/s)であり、x
0は、最大流速線の起点のx座標(m)である。
【0026】
鉛直流体力F
zを用いて橋梁10の支承・落橋防止の破壊耐力R
桁を算出する工程(S104)は、既に算出した鉛直流体力F
zを用いて橋梁10の支承・落橋防止の破壊耐力R
桁を算出する。ここで、橋梁10の支承・落橋防止の破壊耐力R
桁とは、橋梁10が流体力を受けた場合に、橋梁10から橋桁12が流出しない流体力の最大値をいい、橋桁12の流出とは、
図3に示すように橋梁10が流体力を受けた場合に、橋脚11は破損に至らないが、橋桁12と橋脚11を連結している落橋防止装置13が破損して支承部14から橋桁12が脱落することをいう。この支承・落橋防止の破壊耐力R
桁の算出方法については、橋梁10の支承・落橋防止の破壊耐力を算出することができれば、どのような算出方法を採用しても構わないが、以下の式を用いて支承摩擦抵抗を算出し、当該支承摩擦抵抗を支承・落橋防止の破壊耐力とみなして算出すると好適である。
【0027】
【数4】
ここで、μは、摩擦抵抗であり、Wは、上部工である橋桁12の重量(N)である。
【0028】
橋梁10の橋脚11の破壊耐力R
柱を算出する工程(S105)は、橋梁10が流体力を受けた場合に橋脚11が破損しない流体力の最大値をいい、橋脚11の破損とは、
図4に示すように、橋桁12の流出には至らないが、橋脚11が破損することをいう。この破壊耐力の算出方法については、橋脚11の破壊耐力を算出することができれば、どのような算出方法を採用しても構わないが、以下の式を用いて橋脚11が受ける曲げ・せん断耐力を算出し、当該曲げ・せん断耐力を破壊耐力とみなして算出すると好適である。
【0029】
【数5】
ここで、M
udは、橋脚の設計曲げ耐力(kN・m)であり、L
aは、橋脚のせん断スパン(m)であり、V
ydは、橋脚の設計せん断耐力(kN)である。
【0030】
水平流体力F
xと支承・落橋防止の破壊耐力R
桁を比較する工程(S106)は、想定水位H
0及び想定流速V
0を用いて橋梁10に対して作用する水平流体力F
xを求める工程(S102)と、鉛直流体力F
zを用いて橋梁10の支承・落橋防止の破壊耐力R
桁を算出する工程(S104)とでそれぞれ算出した水平流体力F
xと支承・落橋防止の破壊耐力R
桁とを比較する。ここで、水平流体力F
xが支承・落橋防止の破壊耐力R
桁よりも小さい場合には、橋桁12の流出が起こらないため、次の工程である水平流体力F
xと橋脚11の破壊耐力R
柱を比較する工程(S107)を実行する。また、水平流体力F
xが支承・落橋防止の破壊耐力R
桁よりも大きい場合には、津波や大雨増水によって、想定水位H
0及び想定流速V
0による流体力を橋梁10が受けると橋桁12が橋脚11から流出するという被害判定を行うことができる。
【0031】
また、この場合、橋桁流出補強工法が必要であると選択することができるので、適切な構造物の補強工法を選定することができる。この場合、どのような橋桁流出補強工法を適用するかは、種々の橋桁流出補強工法を採用することができる。
【0032】
水平流体力F
xと橋脚11の破壊耐力R
柱を比較する工程(S107)は、想定水位H
0及び想定流速V
0を用いて橋梁10に対して作用する水平流体力F
xを求める工程(S102)と、橋梁10の橋脚11の破壊耐力R
柱を算出する工程(S105)とでそれぞれ算出した水平流体力F
xと橋脚11の破壊耐力R
柱とを比較する。ここで、水平流体力F
xが橋脚11の破壊耐力よりも小さい場合には、橋脚11の破損が起こらないため、想定水位H
0及び想定流速V
0による津波や大雨増水は発生した場合でも、橋梁の破壊は起こらず、橋梁10の補強は必要ないと判定することができる。
【0033】
また、水平流体力F
xが橋脚11の破壊耐力R
柱よりも大きい場合には、津波や大雨増水によって、想定水位H
0及び想定流速V
0による流体力を橋梁10が受けると橋脚11が破損するという被害判定を行うことができる。
【0034】
また、この場合、橋脚補強工法が必要であると選択することができるので、適切な構造物の補強工法を選定することができる。この場合、どのような橋脚補強工法を適用するかは、種々の橋脚補強工法を採用することができる。
【0035】
このように、本実施形態に係る構造物の被害判定方法及び構造物の補強工法選定方法によれば、鉛直流体力を用いて、構造物の支承・落橋防止の破壊耐力を求め、構造物の橋脚の破壊耐力を求める工程を備えているので、鉛直方向の流体力である揚力、浮力及びダウンフォースを加味した抵抗力算定を行うことができ、従来のモリソン式を用いた判定方法では適切な評価が難しかった桁高が高い橋桁を有する橋梁についても適切な被害判定を行うことが可能となり、想定される水位や流速に対して構造物がどのような補強工法を必要とするか精度よく被害判定を行うことができるので、この判定結果に基づいて適切な工法を選定することが可能となる。
【0036】
なお、本実施形態に係る構造物の被害判定方法及び構造物の補強工法選定方法は、上記式2〜5を用いて水平流体力、鉛直流体力、支承・落橋防止の破壊耐力及び橋脚の破壊耐力を算出した場合について説明を行ったが、具体的な算出方法は、これらの数式に限定されず、種々の算出方法が適用可能である。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0037】
10 橋梁, 11 橋脚, 12 橋桁, 13 落橋防止装置, 14 支承部。