特許第6883527号(P6883527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883527
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/58 20060101AFI20210531BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20210531BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20210531BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20210531BHJP
   B29C 33/20 20060101ALI20210531BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20210531BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20210531BHJP
【FI】
   B29C43/58
   B29C43/18
   B29C70/06
   B29C70/42
   B29C33/20
   B29K101:12
   B29K105:08
【請求項の数】10
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-560419(P2017-560419)
(86)(22)【出願日】2017年1月6日
(86)【国際出願番号】JP2017000198
(87)【国際公開番号】WO2017119465
(87)【国際公開日】20170713
【審査請求日】2019年12月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-3024(P2016-3024)
(32)【優先日】2016年1月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横溝 穂高
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀平
(72)【発明者】
【氏名】北川 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 秀憲
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−173334(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/194533(WO,A1)
【文献】 特開2011−075121(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102013222357(DE,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102012217373(DE,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0045684(US,A1)
【文献】 特開2014−094489(JP,A)
【文献】 特開2009−196145(JP,A)
【文献】 特開平06−335934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00−43/58
B29C 70/00−70/88
B29C 33/00−33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維とマトリクスとしての熱可塑性樹脂とを含む成形材料を、上型と下型とを有する成形型にて型締めしプレス成形することによる、繊維強化樹脂成形体の製造方法であって、加熱され可塑状態にある成形材料を上型と下型との間に配置し、型締めを開始して、該成形材料のある部位に、略型締め方向への力を作用させ、該成形材料を略型締め方向へ変形させ始めてから、該成形材料の略外周端部の少なくとも一部ではあるが前記のある部位とは異なる固定用部位に、略型締め方向への力を作用させて、該固定用部位を押して固定した後、型締めを完了し、耳部を有する繊維強化樹脂成形体を得て、
成形型として、型締めされた時に、上型と下型によりキャビティが形成され、かつ該キャビティの略外周端部に、該キャビティの略中央部より厚みが小さいピンチング部が形成される成形型を用い、可塑状態にある成形材料の略外周端部の少なくとも一部が、型締め時にキャビティのピンチング部で挟み込まれるように、該成形材料を成形型に配置することにより、該成形材料の略外周端部の固定用部位へ略型締め方向への力を作用させ、
型締めにおける、ピンチング部に作用する最大圧力(MPa)、ピンチング面積(cm)、型締め力(kN)から下式(p)で定義されるピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)が0.5未満である繊維強化樹脂成形体の製造方法。
{ピンチング部最大圧力(MPa)×ピンチング部面積(cm)/10)}/型締め力(kN)=ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN) (p)
【請求項2】
ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)が0.3以下である請求項1に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)が0.05超過0.3未満である請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
キャビティが、略型締め方向に対する略垂直方向からみたキャビティ断面形状において、平面状部と非平面状部を有するものであり、
平面状部の表面と、該表面に連なる非平面状部表面との、略型締め方向の位置間距離が、キャビティの略中央部の厚みより大きい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
強化繊維全量のうち、下記式(1)で定義される臨界単繊維数以上の本数の単繊維の束である強化繊維(A)の量の割合が60vol%〜90vol%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
臨界単繊維数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均単繊維径(μm)である)
【請求項6】
強化繊維の重量平均繊維長が0.1mm〜500mmである請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
成形材料および繊維強化樹脂成形体の双方において、強化繊維が2次元ランダム配向している請求項1〜6のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
成形材料および繊維強化樹脂成形体の少なくともいずれかにおいて、強化繊維及び熱可塑性樹脂について、下記式(u)
強化繊維体積割合Vf=100×強化繊維体積/(強化繊維体積+熱可塑性樹脂体積) (u)
で定義される強化繊維体積割合Vfが5%〜80%である請求項1〜7のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【請求項9】
成形材料の下記式(e)で定義される引張破断伸度εが105%〜400%である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
ε(%)=100×成形材料の伸長後の長さ/成形材料の伸長前の長さ (e)
ここで、成形材料の伸長後の長さとは、成形材料のマトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度で、引張速度20mm/secで伸長された成形材料の長さであり、成形材料の伸長前の長さと同じ単位で表されたものである。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法で得られる耳部を有する繊維強化樹脂成形体の耳部を切削する処理を含む、繊維強化樹脂加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維とマトリクスとしての熱可塑性樹脂とを含む成形材料から、耳部を有する繊維強化樹脂成形体を製造する方法に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、機械分野において、マトリクス樹脂と、炭素繊維などの強化繊維を含む、いわゆる繊維強化樹脂材が注目されている。これら繊維強化樹脂材は、引張弾性率や引張強度、耐衝撃性などに優れており、自動車等の構造部材などへの利用が検討されている。中でも、マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂である繊維強化熱可塑性樹脂材は、熱硬化性樹脂の繊維強化樹脂材と比較して、成形などの量産性に優れるため、数多くの分野での実用化が検討されている。繊維強化熱可塑性樹脂材の成形には、射出成形、圧縮成形等様々な方法があり、成形の材料や方法を適切に選択することで、要求特性に応じた成形体を製造し易いため、繊維強化熱可塑性樹脂成形体は大型部品から小型部品まで幅広く応用できる。
【0003】
成形材料として繊維強化熱可塑性樹脂材を用いて大型部品を製造する際には、プレス成形などを好適に用いる事ができる。プレス成形においては、上下の成形型(以下、成形金型、または単に金型と称することがある)が閉じる前にキャビティ空間が密閉空間となり、型締めと共にキャビティ内圧が上昇しキャビティ内に配置された可塑状態の成形材料が流動し成形型面を転写するクローズドキャビティ法、型締めしてもキャビティ空間は解放された状態であり、キャビティ面圧がかかるオープンキャビティ法が公知である。
【0004】
クローズドキャビティ法では、可塑状態で流動性のある成形材料を用いた場合、キャビティ空間全体に流動充填することが可能となり、偏肉部、深絞り部でも製品肉厚の発現性が優れ、またキャビティ内圧が上がるため成形型の表面転写性が向上する。一方オープンキャビティ法は、可塑状態で流動性がある成形材料を用いると、プレス成形の力が金型の端から成形材料を流出させることにかなり消費されてしまい、キャビティ内の一部が成形材料で充分満たされ難くなりキャビティ内部の圧力が上がらず転写不良が発生する傾向があるので、可塑状態でも流動しない成形材料(非流動性成形材料と称することがある)の成形に用いた方が好ましい。成形材料の流動を伴わないため、非流動性成形材料のオープンキャビティ法による成形では、当然、クローズドキャビティ法のような流動不足による成形不良は発生しない。しかし、オープンキャビティ法では製品外周部に製品とはならない耳部が発生するため成形ののちに製品外周部をトリム加工する必要がある上、非流動性成形材料を用いたプレス成形で、偏肉部または深絞り部を有する成形体や、複雑な形状の成形体を製造しようとすると、型締め時に、成形材料の特定の箇所に張力が強く作用して、その箇所が引き延ばされてキャビティの厚み、つまり設計厚みより薄くなってしまう等の成形不良が起き易い。
このことから、非流動性成形材料を用いたオープンキャビティ法の成形より、流動性を有する成形材料をクローズドキャビティ法で成形することが経済的に好適である。しかしこのクローズドキャビティ法では二つの課題がある。
【0005】
一番目は、製品端部は熱可塑状態の成形材料が流動し形成されるため流動部での強化繊維の配向変化が発生し製品外観変化または機械的物性の変化が発生することである。二番目は、流動不足による未充填成形の発生など、製品端部の品質および成形の歩留りが低下する。それらの問題を解決する為、特許文献1では射出成形ではあるが製品キャビティ端部に余剰部分を設け、その余剰部分に溶融樹脂を充填させ成形したのち、その余剰部分をトリム加工し仕上げる方法を提示している。この方法では、射出成形などの溶融樹脂をクローズドキャビティに充填するときに発生するコールドスラッグなどを余剰部分に集め製品部の外観を向上することは可能であるが、上記、クローズドキャビティ法の課題である未充填を防ぐことは不可能である。特許文献2では、オープンキャビティ法で成形したのち、耳部をトリム加工し製品部を得ることにより外観の良い製品を得ることを提示している。この方法は、本発明と同様にプレス成形に適用可能であるが、オープンキャビティ法のため、流動性の良い成形材料を用いた場合、型締めによってキャビティ内圧が上昇すると成形型合わせ面の開口部から成形材料が流れ出るため成形困難となる。そのため、この発明では、熱可塑状態でも流動しない成形材料を、キャビティ内圧を上げることなく成形することによって達成される。その為、上記発明では、強化繊維とマトリクスとしての熱可塑性樹脂とを含む成形材料をプレス成形して、外観良好な成形体を安定的に生産することは困難であった。
特許文献3には、連続繊維強化熱可塑性樹脂層の少なくとも片面の一部に、不連続繊維強化熱可塑性樹脂層が積層したシート材料をプレス成形し、繊維強化熱可塑性樹脂成形品を製造するための金型であって、キャビティの外周縁には、当該金型を閉めた時に前記不連続繊維強化熱可塑性樹脂層の前記キャビティ外への流出を防止する枠状の堰部が、前記連続繊維強化熱可塑性樹脂層を前記キャビティ外へと延出させる隙間を形成しつつ設けられている金型、および当該金型を用いて繊維強化熱可塑性樹脂成形品を製造すると、プレス成形時の型開きが困難になることが起き難く、バリの発生が抑制されることが示されている。しかし、特許文献3の発明においては、プレス成形時に不連続繊維強化熱可塑性樹脂層が可塑状態になり流動して金型の堰部で流動が止められて成形品形状の一部が形成されており、これは不連続繊維強化熱可塑性樹脂層に関しては実質的にクローズドキャビティ法の成形が行われていることを意味している。つまり、特許文献3の発明では、上記のクローズドキャビティ法の問題点は解決されていない。
特許文献4は、開口部とフランジ部とを有する凹部の型と、該凹部に対応する凸部を有し、該凹部の型との間でキャビティが構成される凸部の型からなる成形型を用いて、強化繊維と熱可塑性樹脂からなる成形材料(以下、特に注記無い場合はプレス成形材料を指す)、をプレス成形する方法であって、前記成形型の下面となる型の上に強化繊維と熱可塑性樹脂からなる、少なくとも下記2種類の形状を有する成形材料(A)、(B)を積層して配置する工程、前記成形型の下面となる型の上に積層、配置した成形材料(A)、(B)を前記成形型の上面となる型を用いて加圧する工程、を有するプレス成形方法を開示している。
成形材料(A):前記キャビティの有する最大面積以上の面積を有する形状。
成形材料(B):少なくとも前記凹部の開口部の投影面積以上の投影面積を有する形状。
更に、特許文献4の図8は、型締め時に成形材料を挟み込み固定する機構を示している。この機構は、上型が成形材料に接触する前に、成形材料を挟み固定する機構であり、型締めとともに固定する部位がスライドする機構である。この機構は、型締め時に、成形材料が引き込まれることを防止し、上層の成形材料がずれることを防いでいる。
この特許文献4の発明は、強化繊維と熱可塑性樹脂からなる成形材料を用いたプレス成形において、煩雑な工程を必要としない優れた作業性と、成形型の複雑形状に対し容易に追随させることができる優れた成形性とを兼ね備えたプレス成形方法であるとされている。
しかし、当該発明は、キャビティの有する最大面積以上の面積を有する形状の成形材料(A)、および、少なくとも前記凹部の開口部の投影面積以上の投影面積を有する形状成形材料(B)の2種類の成形材料を必要とする。成形材料(A)、成形材料(B)のいずれも、それらの定義から、目的の成形品の主要部に相当する大きさであることが分かる。主たる成形材料に、パッチ状の成形材料小片を部分的に積層させてプレス成形を行う程度ならそれほど煩瑣ではないかも知れない。しかし、特許文献4の発明のように、目的の成形品の主要部に相当するほどの大きさで、かつ、微妙に大きさが異なる2つの成形材料を用意し、それらを可塑状態にして特定の状態および条件で金型に配置してプレス成形を行う成形品の製造方法は相当に煩瑣であり、当該製造方法には作業性や量産性の面でかなりの改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公開第2011/0193258号公報
【特許文献2】国際公開第2015/064207号パンフレット
【特許文献3】日本国特開2013−67051号公報
【特許文献4】日本国特開2009−196145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、外観性に優れる繊維強化樹脂成形体を、高い量産性にて製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題の解決について鋭意検討を重ねた結果、プレス成形時に、成形材料の端部へ掛かる圧力が成形性に与える影響を認識し、これを端緒として本発明を完成させた。本発明の要旨を以下に示す。
【0009】
本発明は、強化繊維とマトリクスとしての熱可塑性樹脂とを含む成形材料を、上型と下型とを有する成形型にて型締めしプレス成形することによる、繊維強化樹脂成形体の製造方法であって、加熱され可塑状態にある成形材料を上型と下型との間に配置し、型締めを開始して、該成形材料のある部位に、略型締め方向への力を作用させ、該成形材料を略型締め方向へ変形させ始めてから、該成形材料の略外周端部の少なくとも一部ではあるが前記のある部位とは異なる固定用部位に、略型締め方向への力を作用させて、略外周端部を押して固定した後、型締めを完了し、耳部を有する繊維強化樹脂成形体(以下、耳部付き成形体と略称することがある)を得ることを特徴とする製造方法に関する。
更に、本発明は、上記製造方法で得られる耳部を有する繊維強化樹脂成形体の耳部を切断する処理を含む、繊維強化樹脂加工品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耳部を有する繊維強化樹脂成形体の製造方法によれば、外観性に優れる繊維強化樹脂成形体を高い量産性にて製造することができる。更に、本発明の製造方法では、成形型から成形体への表面転写性が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の耳部を有する繊維強化樹脂成形体の一例(高さ30mmのハット形状成形体)の模式図である。
図2】本発明の耳部を有する繊維強化樹脂成形体の一例(高さ10mmのハット形状成形体)の模式図である。
図3】ピンチング部が、キャビティの略外周端部の最も外側まで形成されている成形型の略外周端部近辺の断面の模式図である。
図4】キャビティの略中央部(製品形状部)の最外部が徐々にキャビティ厚みが小さくなりピンチング部につながるキャビティ形状の成形型の略外周端部近辺の断面の模式図である。
図5】ピンチング部が、キャビティの略外周端部の最も外側では無い部位に形成され、キャビティの略外周端部の最も外側のキャビティ厚みがピンチング部の厚みより大きくなっているキャビティ形状の成形型の略外周端部近辺の断面の模式図である。
図6図6A図6Dは実施例1などで、加熱され可塑状態にある成形材料を上型と下型とを有する成形型にて型締めしプレス成形する際の、成形型の動作、および成形材料の変形を、成形型の型締め方向に対し垂直方向、かつ、成形キャビティの長手方向に見た断面を示した模式図である。図6Aは、成形材料が上型と下型との間に配置された状態の模式図である。図6Bは、型締めを開始して、成形材料のある部位に、略型締め方向への力を作用させ、該成形材料を略型締め方向へ変形させ始めた状態、より具体的に言うと、成形材料の中央部周辺(略中央部)が、上型の凹部により下型の凸部周辺の空間に引き込まれ始めた状態の模式図である。図6Cは、成形材料の略外周端部の固定用部位に、略型締め方向への力を作用させて、該固定用部位を押して固定し始めた状態の模式図である。図6Dは、型締めを完了した状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下で説明される技術、図面、実施例に限定して解釈されるべきではない。図面は、実物どおりの縮尺とは限らない。
本発明は、強化繊維とマトリクスとしての熱可塑性樹脂とを含む成形材料を、上型と下型とを有する成形型にて型締めしプレス成形することによる、繊維強化樹脂成形体の製造方法であって、加熱され可塑状態にある(本発明に関し、「熱可塑状態にある」または「可塑状態にある」と簡略に称することがある)成形材料を上型と下型との間に配置し、型締めを開始して、該成形材料のある部位に、略型締め方向への力を作用させ、該成形材料を略型締め方向へ変形させ始めてから、該成形材料の略外周端部の少なくとも一部ではあるが前記のある部位とは異なる固定用部位に、略型締め方向への力を作用させて、該固定用部位を押して、好ましくは潰しつつ、固定した後、型締めを完了し、耳部を有する繊維強化樹脂成形体を得ることを特徴とする製造方法に関する。ここで、繊維強化樹脂成形体が有する耳部は、プレス成形において、該成形材料の上記固定用部位が、略型締め方向への力を作用され固定されてから型締めが完了することにより形成される。略型締め方向へ力が作用されるとは、成形型の上型から下型への方向、下型から上型への方向、またはその双方向のいずれに力が作用されるものであっても良い。
【0013】
本発明に関して、略型締め方向とは、基本的に型締め方向であるが、成形型の形状や成形材料の配置などにより、型締めにより成形型から成形材料に作用する力が、やや型締め方向から逸れたものとなった場合の方向であってもよい。略型締め方向について、敢えて数値範囲を限定するなら、型締め方向を含むある平面で見たとして、型締め方向±45°の範囲であると好ましく、型締め方向±30°の範囲であるとより好ましく、型締め方向±15°の範囲であると更に好ましい。
【0014】
本発明に関して、成形材料を上型と下型との間に配置するとは、成形材料を下型に載せる、適当な保持機構を有する上型を用いて成形材料を上型に保持する、ロボットアームなどで上型と下型との間の空間に成形材料を保持するなどに例示される操作を意味し、特に限定されず公知の方法を用いることができる。
【0015】
本発明に関して、型締めを開始して、成形材料のある部位に、略型締め方向への力を作用させ、成形材料を略型締め方向へ変形させるとは、深絞り部など凹凸形状があるキャビティの成形型を用いて熱可塑状態の成形材料を型締めすることにより、略型締め方向へ成形材料が変形することが代表的な例である。その他、平板状のキャビティの成形型を用いて熱可塑状態の成形材料を型締めする場合でも、ある種の機構を有する成形型を用いて、成形材料のある部位に略型締め方向への力を作用させることにより、その“ある部位”周辺が隆起することなども含まれる。成形材料の“ある部位”とは、成形材料の略中央部(製品形状部)であることが多いが、成形材料の略外周端部でもよく、1つの部位でも複数の部位でも良い。この“ある部位”を初期変形部位と称しても良い。
【0016】
本発明において、成形材料の略外周端部の少なくとも一部ではあるが前記のある部位とは異なる固定用部位に、略型締め方向への力を作用させて、略外周端部を押して、好ましくは潰しつつ、とは上記のように、型締めを開始して、成形材料のある部位に、略型締め方向への力を作用させ、熱可塑状態にある成形材料を略型締め方向へ変形させてから、該成形材料の該固定用部位に、後述するような金型キャビティのピンチング部などの機構により、略型締め方向への力を作用させ、該成形材料を押して、好ましくは押し潰して固定することを意味する。
【0017】
本発明におけるプレス成形には、油圧式、電動式、機械式などの機構によって所定の圧力にて型締めを行うことが可能であるプレス成形機を用いることができる。ここで、所定の圧力とは、キャビティ部の投影面積に対し5MPa〜30MPa、好ましくは10MPa〜20MPaの圧力をかけることが可能である型締め力を有していることが好ましい。
【0018】
本発明においては、キャビティ内圧は型締め力によってもたらされるので、適宜調整されることが好ましい。プレス成形設備を用いて、加熱され可塑状態にある成形材料を上型と下型とで挟み込み成形を行うにおいて、型締めを開始して成形材料のある部位に略型締め方向への力を作用させて成形材料を略型締め方向に変形させ始めてから成形材料の略外周端部の少なくとも一部である固定用部位に、略型締め方向への力を作用させて、略外周端部を押して固定した後、型締めを完了することが肝要である。実施例1などについて具体的に述べると、成形材料の固定用部位の固定は、成形材料の略中央部が、上型の凹部により下型の凸部周辺の空間に引き込まれ始めてから、但し、型締めが完了する前に行われると好ましい。
本発明により、外観性に優れる繊維強化樹脂成形体を高い量産性にて製造することが可能となり、かつ、成形における成形型から成形体への表面転写性が優れているので、表面に微細な模様や複雑な模様を表面に有する繊維強化樹脂成形体の製造も極めて容易になる。上記これは、従来のプレス成形技術で、成形材料の端部を固定してから型締めを行うとの手法が良好な成形体を得るために好適とされてきたことからは極めて予想し難い効果である。
成形材料の加熱温度は、成形材料が可塑状態となる温度以上の温度であり、具体的にはマトリクスである熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合はガラス転移温度以上の温度、結晶性樹脂の場合は、融点以上の温度に加熱される。この時、重要なのは成形材料の略外周端部の固定用部位を型締め完了より先に押し、好ましくは押し潰し固定化することである。この押しつぶし固定化する手法としては、上型にスライド機構を用いて押し潰し部のスライドブロックを機械的移動させに型締めより先に成形材料に接触させ潰す機構などが考えられるが、本発明における方法としては、成形用金型を用いて金型の開閉動作で成形材料略外周端部を押し、好ましくは潰しつつ、固定する手法が好ましい。具体的には、入れ子構造で取り外しや交換が可能なブロックなどを用いてキャビティの略外周端部に、キャビティの略中央部より厚みが小さいピンチング部が形成される成形用金型を用いて、可塑状態にある成形材料の略外周端部の少なくとも一部である固定用部位が、型締め時にキャビティのピンチング部で挟み込まれるように、該成形材料を成形型に配置することにより、型締め動作にて成形材料の上記固定用部位、好ましくは外周部をキャビティ部の圧縮が開始となる前に押し、好ましくは押し潰し固定化することが可能となる。
【0019】
この時、キャビティの略外周端部に形成されたピンチング部での圧力挙動としては、下式(p)で表されるピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)を指標とすることができる。
{ピンチング部最大圧力(MPa)×ピンチング部面積(cm)/10)}/型締め力(kN)=ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN) (p)
【0020】
この時、ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)の値が0.5未満であると好ましく、0.3以下であると更に好ましい。ピンチング定数Kpが0.5未満であると、型締め力がピンチング部を潰すのに費やされキャビティ内圧力が低下することによる成形不良が起き難くなり好ましい。ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)が0.05より大きいと、ピンチング部にて成形材料の略外周端部の一部を押さえる効果が低下しピンチング部から可塑化状態の成形材料が流出するなどの問題が発生しにくくなる。つまり、ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)は0.05超過であると好ましく、0.05超過0.5未満であるとより好ましく、0.05超過0.3未満であるとより一層好ましい。
このピンチング部に作用する圧力については、具体的には、金型ピンチング部面に設置された圧力センサーによって実測値を計測可能である。このピンチング部圧力を調整する方法としては、ピンチング部の上型下型のクリアランスを調整することが例示される。ピンチング部のクリアランスの好ましい大きさは用いる成形材料に大きく依存する。強化繊維量が少なく流動性が良好である成形材料では必要なクリアランスは狭くなり、逆に強化繊維量が多くまた強化繊維が絡み合って流動しにくい成形材料では必要なクリアランスは広くなる。成形材料からピンチング部のクリアランス量の見当をつける具体的かつ簡易的な方法として、30mm角程度の成形材料を所定の成形条件にて圧縮し押し潰し、得られた押し潰し片の肉厚から推測する方法が例示される。この場合、得られた押し潰し片の厚みの70%から100%、好ましくは80%から90%の大きさでクリアランスを設定することが望ましい。
【0021】
本発明において、耳部付き成形体やその製造に用いることができる金型のキャビティについての略中央部とは、単なる真ん中の部分ということでなく、耳部付き成形体の用途において必要な形状や物性を有する部分を言い、製品形状部と称されることもあるが、単に中央部と呼んでも良い。
【0022】
本発明において、キャビティや成形材料について言う略外周端部とは、それらにより得られる成形体の耳部に相当する箇所であり、略中央部ではない部分である。複雑なキャビティ形状である場合などでは、キャビティや成形材料の中央(成形材料を略型締め方向に見た断面について)に近いところに略外周端部があっても良い。略外周端部は、単に外周端部と称されても良い。
【0023】
本発明において、ピンチング部とは、成形型が型締めされ始め、その上型と下型によりキャビティが形成されようとする時、つまり型締めが完了する前に、該キャビティの略外周端部に形成される、該キャビティの略中央部より厚みが小さい部位を言う。目的の耳部付き成形体の形状に応じて、ピンチング部は、キャビティの略外周端部の外周全域に形成されてもよく、外周の一部に形成されてもよい。
【0024】
本発明において、ピンチング部は、キャビティの略外周端部の最も外側まで形成されるものが最も単純な態様として例示される(図3を参照)。キャビティの略中央部(製品形状部)の最外部が徐々にキャビティ厚みが小さくなりピンチング部につながるキャビティ形状の成形型であると、より外観に優れた耳部付き成形体が得やすくなり好ましい(図4を参照)。
【0025】
本発明においては、ピンチング部が、キャビティの略外周端部の最も外側では無い部位に形成され、その結果、キャビティの略外周端部の最も外側のキャビティ厚みがピンチング部の厚みより大きくなっているキャビティ形状の成形型であってもより外観に優れた耳部付き成形体が得やすくなり好ましい(図5を参照)。
【0026】
本発明の製造方法で得られる耳部付き成形体とは、外周部に、成形時に成形材料が金型キャビティのピンチング部で固定された部位およびその外側の部位に相当する耳部を有するものである。本発明に関する耳部とは、成形体の用途において必ずしも必要ではないが、前記のように成形体の製造方法などに起因して成形体に生じる余剰部のことを指す。この耳部は成形材料が流動し形成された部位を含むため、強化繊維の配向などの状態が製品形状部と比較し変化し、従って外観および物性が製品形状部と比較し変化していることが多い。その為、目的とする製品形状が成形体の略中央部となり、その外周部に耳部を有する成形体が得られるように、成形型や成形条件を設定して、まず、プレス成形により耳部を有する成形体を得てから、耳部を切削して目的形状の成形体にすると、外観や物性が良好なものとなり好ましい。耳部を有しない、目的とする製品形状の繊維強化樹脂成形体について、繊維強化樹脂加工品と称することがある。上記の耳部を切削する方法としては、特に限定されるものではないが、丸鋸、帯鋸、リューター、エンドミルなど物理的切削切断、超音波、レーザーなどの熱的切断など公知のものを用いることができる。ある用途については不要で耳部と判断された部位が、別の用途では好ましい効果を有する等の理由により耳部付き成形体がそのまま製品に用いられることがあったとしても、それは本発明に包含される。耳部付き成形体の耳部を他の部材との接合、例えばボルトとナットによる機械的締結や振動溶着などに用いることも可能である。
本発明の製造方法は、固定用部位を適切に設計することにより、オープンキャビティ法プレス成形では得難い、耳部が小さい耳部付き成形体を与えることができる。
【0027】
本発明の効果は、凹凸を有する製品形状を有する成形体を得る時に特に顕著に発現する。これは、上記のプレス成形時における成形材料の引き込みが、凹凸が大きいほど発生しやすく成形体に意図しないシワなどの不良が発生し易くなるからである。成形体の製品形状部の肉厚以下の高低差となる凹凸しか有しない成形体をプレス成形で得る場合では、成形材料の引き込まれは、ほぼ発生しない。肉厚以上の高低差となる凹凸を有する成形体をプレス成形で得る場合には、成形材料の引き込みが、発生し易くなる。この引き込まれは、キャビティの投影面積と実面積との差によって生じるものである。
【0028】
本発明の製造方法において、キャビティが、略型締め方向に対する略垂直方向からみたキャビティ断面形状において、平面状部と非平面状部を有するものであり、平面状部の表面と、該表面に連なる非平面状部表面との、略型締め方向の位置間距離が、キャビティの略中央部の厚みより大きいものである成形型を用いることで、上記のような、凹凸を有する製品部形状を有する、耳部を有する繊維強化樹脂成形体を好ましく製造することができる。本発明に関して、略型締め方向に対する略垂直方向とは、厳密に略型締め方向に対して90°でなくても良い。略型締め方向に対する略垂直方向について、敢えて数値範囲を限定するなら、略型締め方向に対して90°の方向を含むある平面で見たとして、略型締め方向に対して90°±45°の範囲であると好ましく、略型締め方向に対して90°±30°の範囲であるとより好ましく、略型締め方向に対して90°±15°の範囲であると更に好ましい。
【0029】
本発明におけるプレス成形としては、成形直前に加熱されて可塑状態にある繊維強化樹脂材を、当該繊維強化樹脂材の可塑化温度未満に調節された金型に配置し型締めして成形体を得る、所謂コールドプレス成形が、生産性が高いので好ましい。繊維強化樹脂材を加熱する方法としては、熱風加熱機、赤外線加熱機などが用いられる。コールドプレス成形について具体的に例示すると以下のとおりである:繊維強化樹脂材をそのマトリクスである熱可塑性樹脂の軟化温度+30℃以上分解温度以下の可塑化温度に加熱して可塑状態にした後、上型と下型とを対で構成され、前記熱可塑性樹脂の軟化温度以下の温度に調整された金型内に配置して型締めして加圧し、冷却され固化した成形体を型開きして取り出す。
【0030】
上記のコールドプレス成形において、繊維強化樹脂材を加熱して可塑状態にする温度(加熱温度)としては、軟化温度+15℃以上かつ分解温度−30℃であると好ましい。加熱温度が当該範囲内であると、マトリクス樹脂が充分に溶融・可塑化されて成形しやすく、かつ、熱可塑性樹脂の分解があまり進まず好ましい。
【0031】
本発明の製造方法を用いると、成形体における過剰なシワの発生を抑制することができるため、低い圧力で均一な肉厚の、凹凸を有する製品形状の成形体を得ることが可能である。本発明におけるプレス成形、特にコールドプレス成形において、加圧条件としてはプレス圧が0.1MPa〜20MPaであると好ましく、0.2MPa〜15MPaであるとより好ましく、さらに0.5MPa〜10MPaであるとより一層好ましい。プレス圧が0.1MPa以上であると、繊維強化樹脂材を十分に加圧できるので、スプリングバックなどが発生しにくく素材強度の低下が起き難い。また圧力が20MPa以下であると、例えば繊維強化樹脂材が大きい場合でも、きわめて大きい特殊なプレス機ではなくより一般的なプレス機でプレス成形が可能な場合が多く、経済的に好ましい。また、加圧中の金型内の温度としては、繊維強化樹脂材の種類によるが、溶融した繊維強化樹脂材が冷却されて固化し、繊維強化樹脂成形体が形作られるために、繊維強化樹脂材のマトリクスである熱可塑性樹脂の軟化温度より20℃以下の温度であることが好ましい。本発明について樹脂の軟化温度とは、結晶性熱可塑性樹脂については結晶溶解温度、いわゆる融点であり、非晶性熱可塑性樹脂についてはガラス転移温度である。
【0032】
本発明の製造方法の効果の発現機構について、発明者らは次のように考察している:本発明では、プレス成形時に局所的に加圧力が変化する部分を設けることにより、上記のクローズドキャビティ法の利点である、キャビティ内圧が上がり流動することでの偏肉成形品の成形、金型転写性が優れた成形が可能であり、本発明によって、クローズドキャビティ法の欠点である未充填成形および製品端部での外観・物性の変化を改善することが可能になった。
【0033】
本発明におけるプレス成形では、成形材料、板状のものを下型の上面に配置した後、上型を閉じ加圧し、キャビティ全域への成形材料の充填および賦形を行うことが好ましい。ここで、特に凹凸を有する成形体を製造する場合、型締めと同時に下型上面に配置した成形材料が上型の凸部に押され、下型の凹部に引き込まれ現象が発生する。従来技術では、この引き込まれる現象は成形過程において不安定に発生するため、部分的に成形材料が引き込まれる量が増加するとその部分は成形体における成形材料未充填の不良箇所となり、逆に引き込まれる量が減少すると成形材料がキャビティ外周部まではみ出しクローズドキャビを構成するシャーエッジ部に挟まれ成形不良となる。本発明では、型締め初期に成形材料の引き込みを発生させた後、型締め完了前に、成形材料をキャビティ外周部で固定化することにより未充填成形不良が無くなり、また製品端部に発生する外観および物性の乱れを防ぐことが可能となった。
【0034】
(強化繊維とマトリクスとしての熱可塑性樹脂とを含む成形材料)
本発明で用いる強化繊維と、マトリクスとしての熱可塑性樹脂とを含む成形材料(本発明に関して、繊維強化樹脂材と称することがある)としては、公知のものを好ましく用いることができる。
繊維強化樹脂材中におけるマトリクスとしての熱可塑性樹脂の存在量は、熱可塑性樹脂の種類や強化繊維の種類等に応じて適宜決定することができるものであり、特に限定されるものでは無い。通常、強化繊維100重量部に対して熱可塑性樹脂が3重量部〜1000重量部の範囲内であると好ましく、より好ましくは30〜200重量部であり、更に好ましくは30〜150重量部である。マトリクスとしての熱可塑性樹脂の量が強化繊維100重量部に対し3重量部以上ならば繊維強化樹脂材において樹脂含浸が十分になりドライの強化繊維が少なくなる。マトリクスとしての熱可塑性樹脂の量が1000重量部を以下であると強化繊維の量が充分で、構造材料として適切となることが多い。なお、本発明に関して、便宜上、重量との用語を用いることがあるが、実際には質量のことである。
【0035】
繊維強化樹脂材における強化繊維の配向状態としては、例えば、強化繊維の長軸方向が一方向に配向した一方向配向や、上記長軸方向が繊維強化樹脂材の面内方向においてランダムに配向した2次元ランダム配向を挙げることができる。
本発明で用いられる繊維強化樹脂材における強化繊維の配向状態は、上記の一方向配向又は2次元ランダム配向のいずれであってもよい。上記一方向配向と2次元ランダム配向の中間の無規則配向(強化繊維の長軸方向が完全に一方向に配向しておらず、かつ完全にランダムでない配向状態)であってもよい。強化繊維の繊維長によっては、強化繊維の長軸方向が繊維強化樹脂材の面内方向に対して角度を有するように配向していてもよく、強化繊維が綿状に絡み合うように配向していてもよく、強化繊維が平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙等のように配向していてもよい。
繊維強化樹脂材や耳部付き成形体に含まれる強化繊維が2次元ランダム配向であることについて、特に数値的に定義したい場合は、日本国特開2012−246428号公報に示されているように、強化繊維に関して、面配向度σ=100×(1−(面配向角γが10°以上の強化繊維本数)/(全強化繊維本数))で定義される面配向度σが90%以上である状態を好ましい2次元ランダム配向としてもよい。
更に、成形体試料を厚み方向に切断した断面における任意の矩形領域について、成形体の厚み方向または成形体の厚み方向とは異なる方向をZ方向とし、上記公報に準じて強化繊維に関する観察、測定および面配向度σの算出を行っても良い。その場合、面配向角γの算出に必要な、強化繊維断面の長径と成形板表面が成す角については、成形板表面ではなく、観察対象の矩形領域の上辺または下辺と、強化繊維断面の長径とが成す角を用いても良い。
【0036】
本発明における強化繊維マットとは、強化繊維が堆積し、または絡みあうなどしてマット状になったものをいう。強化繊維マットとしては、強化繊維の長軸方向が繊維強化樹脂材の面内方向においてランダムに配向した2次元ランダム強化繊維マットや、強化繊維が綿状に絡み合うなどして、強化繊維の長軸方向がXYZの各方向においてランダムに配向している3次元ランダム強化繊維マットが例示される。
【0037】
本発明における等方性基材とは、強化繊維マットに、熱可塑性樹脂が含まれるものをいう。本発明における等方性基材において、強化繊維マットに熱可塑性樹脂が含まれる態様としては、例えば、強化繊維マット内に粉末状、繊維状、または塊状の熱可塑性樹脂が含まれる態様や強化繊維マットに熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層が搭載または積層された態様を挙げることができる。強化繊維マットが2次元ランダム強化繊維マットである等方性基材のことを、特に面内等方性基材と称することがある。
【0038】
本発明に用いられる繊維強化樹脂材においては、1枚の繊維強化樹脂材中に、異なる配向状態の強化繊維が含まれていてもよい。繊維強化樹脂材中に異なる配向状態の強化繊維が含まれる態様としては、例えば、(i)繊維強化樹脂材の面内方向に配向状態が異なる強化繊維が配置されている態様、(ii)繊維強化樹脂材の厚み方向に配向状態が異なる強化繊維が配置されている態様を挙げることができる。また、繊維強化樹脂材が複数の層からなる積層構造を有する場合には、(iii)各層に含まれる強化繊維の配向状態が異なる態様を挙げることができる。上記(i)〜(iii)の各態様を複合した態様も挙げることができる。
【0039】
繊維強化樹脂材内における強化繊維の配向態様は、例えば、繊維強化樹脂材の任意の方向、及びこれと直行する方向を基準とする引張試験を行い、引張弾性率を測定した後、測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比(Eδ)を測定することで確認できる。弾性率の比が1に近いほど、強化繊維が等方的に配向していると評価できる。直交する2方向の弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比が2を超えないときに面内等方性であるとされ、この比が1.5未満であると面内等方性が優れているとされ、この比が1.3を超えないときは特に面内等方性に優れていると評価される。
繊維強化樹脂材における強化繊維の目付量は、特に限定されるものではないが、通常、下限値は25g/m〜10000g/mとされる。繊維強化樹脂材をプレス成形して耳部付き成形体を製造する際、特に強化繊維や成形材料の追加がされなければ、繊維強化樹脂材における強化繊維の目付量を、得られる耳部付き成形体における強化繊維の目付量とみなすことができる。
【0040】
本発明に用いられる繊維強化樹脂材の厚みは特に限定されるものではないが、通常、0.01mm〜100mmの範囲内が好ましく、0.01mm〜5mmの範囲内が好ましく、1〜5mmの範囲内がより好ましい。
本発明に用いられる繊維強化樹脂材が複数の層が積層された構成を有する場合、上記厚みは各層の厚みを指すのではなく、各層の厚みを合計した繊維強化樹脂全体の厚みを指すものとする。
【0041】
本発明に用いられる繊維強化樹脂材は、単一の層からなる単層構造を有するものであってもよく、又は複数層が積層された積層構造を有するものであってもよい。
繊維強化樹脂材が上記積層構造を有する態様としては、同一の組成を有する複数の層が積層された態様であってもよく、又は互いに異なる組成を有する複数の層が積層された態様であってもよい。
【0042】
繊維強化樹脂材が上記積層構造を有する態様としては、相互に強化繊維の配向状態が異なる層が積層された態様であってもよい。このような態様としては、例えば、強化繊維が一方向配向している層と、2次元ランダム配向している層を積層する態様を挙げることができる。
3層以上が積層される場合には、任意のコア層と、当該コア層の表裏面上に積層されたスキン層とからなるサンドイッチ構造としてもよい。
本発明で用いる繊維強化樹脂材中には、本発明の目的を損なわない範囲で、有機繊維または無機繊維の各種繊維状または非繊維状のフィラー、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、顔料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0043】
本発明の製造方法で用いられる成形材料(繊維強化樹脂材)および、本発明の製造方法で得られる耳部付き成形体に含まれる強化繊維の体積割合に特に限定は無いが、成形材料か耳部付き成形体の少なくともいずれかにおいて、強化繊維及びマトリックスである熱可塑性樹脂について、下記式(u)で定義される強化繊維体積割合(Vf)が5%〜80%であることが好ましく、Vfが20%〜60%であることがより好ましい。
Vf=100×強化繊維体積/(強化繊維体積+熱可塑性樹脂体積) 式(u)
【0044】
成形材料や耳部付き成形体のVfが5%より高いと、強化繊維による補強効果が十分に発現し好ましく、かつ、Vfが80%以下であると、耳部付き成形体中にボイドが発生しにくくなり、その結果として物性が低下するおそれが少なくなり好ましい。部位によってVfが異なる成形材料や耳部付き成形体の場合、Vfの平均値が上記範囲に入っていると好ましく、Vfの最小値と最大値のいずれも上記範囲に入っているとより好ましい。
別途示したとおり、成形材料を成形して耳部付き成形体を得る場合、成形において、当該成形材料のほかに、他の成形材料、強化繊維、または熱可塑性樹脂などを添加することがなければ、成形材料のVfを耳部付き成形体のVfとみなすことができる。
【0045】
本発明において用いられる成形材料(繊維強化樹脂材)は、引張破断伸度εが105%〜400%であると好ましく、105%〜260%であるとより好ましく、110%〜230%であるとより一層好ましい。引張破断伸度εが105%以上の成形材料であると、金型に配置する際に折り曲げなどをされても裂けにくいので好ましい。引張破断伸度εが400%以下の成形材料であると、可塑状態にあるものをロボットアームで掴むなどして運搬する際に、自重で垂れ下がり著しく変形するようなことが起き難いので好ましい。
【0046】
ここで、成形材料の引張破断伸度εは、成形材料のマトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度で、引張速度20mm/secで伸長された時の成形材料の伸びであり、下記式(e)で表される。
ε(%)=100×成形材料の伸長後の長さ/成形材料の伸長前の長さ (e)
より具体的には、成形材料を、そのマトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度まで昇温して、引張破断伸度ε測定用のプレス成形用の成形型の上に成形材料を配置し、成形型締め付け速度20mm/secで、成形材料を破断させるまで成形型を閉じた後、成形材料を取り出して成形材料が伸長した長さを測定し、成形材料の伸長前の長さで除算して計算される。
【0047】
(強化繊維)
本発明の耳部を有する繊維強化樹脂成形体や繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維として好ましいものは炭素繊維であるが、マトリクス樹脂の種類や繊維強化樹脂材の用途等に応じて、炭素繊維以外の無機繊維又は有機繊維のいずれも用いることができる。
上記炭素繊維以外の無機繊維としては、例えば、活性炭繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、タングステンカーバイド繊維、シリコンカーバイド繊維(炭化ケイ素繊維)、セラミックス繊維、アルミナ繊維、天然繊維、玄武岩などの鉱物繊維、ボロン繊維、窒化ホウ素繊維、炭化ホウ素繊維、及び金属繊維等を挙げることができる。
【0048】
上記金属繊維としては、例えば、アルミニウム繊維、銅繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維を挙げることができる。
上記ガラス繊維としては、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、Tガラス、石英ガラス繊維、ホウケイ酸ガラス繊維等からなるものを挙げることができる。
上記有機繊維としては、例えば、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリアリレート等の樹脂材料からなる繊維を挙げることができる。
【0049】
本発明に関する耳部付き成形体や繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維からなる群より選ばれる1つ以上の強化繊維であり、後記の重量平均繊維長範囲にあるものであると更に好ましい。
本発明においては、2種類以上の強化繊維を併用してもよい。この場合、複数種の無機繊維を併用してもよく、複数種の有機繊維を併用してもよく、無機繊維と有機繊維とを併用してもよい。
【0050】
複数種の無機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維と金属繊維とを併用する態様、炭素繊維とガラス繊維を併用する態様等を挙げることができる。一方、複数種の有機繊維を併用する態様としては、例えば、アラミド繊維と他の有機材料からなる繊維とを併用する態様等を挙げることができる。さらに、無機繊維と有機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維とアラミド繊維とを併用する態様を挙げることができる。
【0051】
本発明においては、上記強化繊維として炭素繊維が好ましい。炭素繊維は、軽量でありながら強度に優れた繊維強化樹脂材を得ることができるからである。
上記炭素繊維としては、一般的にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油ピッチ系炭素繊維、石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長系炭素繊維などが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの炭素繊維であっても好適に用いることができる。
【0052】
中でも、本発明においては引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用いることが好ましい。強化繊維としてPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は100GPa〜600GPaの範囲内であることが好ましく、200GPa〜500GPaの範囲内であることがより好ましく、230GPa〜450GPaの範囲内であることがさらに好ましい。また、引張強度は2000MPa〜10000MPaの範囲内であることが好ましく、3000MPa〜8000MPaの範囲内であることがより好ましい。
【0053】
本発明に用いられる強化繊維は、マトリクス樹脂との密着性を向上させるため、表面にサイジング剤が付着しているものであってもよい。サイジング剤が付着している強化繊維を用いる場合、当該サイジング剤の種類は、強化繊維及びマトリクス樹脂の種類に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。
強化繊維とマトリクス樹脂との密着強度は、ストランド引張せん断試験における強度が5MPa以上であることが望ましい。この強度は、マトリクス樹脂の選択に加え、例えば強化繊維が炭素繊維である場合、表面酸素濃度比(O/C)を変更する方法や、炭素繊維にサイジング剤を付与して、炭素繊維とマトリクス樹脂との密着強度を高める方法などで改善することができる。
【0054】
本発明は強化繊維の少なくとも一部が単繊維状の形状である時、その効果が極めて顕著になる。その一方、繊維強化樹脂材の流動性を高いものにするため、強化繊維の一部の形状が単繊維の束を成している事が好ましい。強化繊維は単繊維状でも単繊維束状でも構わないが、この両者を有している時、本発明の効果をより得ることができる。なお、単繊維束とは、2本以上の強化単繊維が集束剤や静電気力等により近接し束状に存在している事を意味する。単繊維束を形成する強化単繊維の本数として、好ましくは280本以上であり、より好ましくは600本以上である。
本発明において、単繊維束状の強化繊維を用いる場合、各単繊維束を構成する単繊維の数は、各単繊維束においてほぼ均一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0055】
本発明の耳部付き成形体や繊維強化樹脂材に含まれる強化繊維の重量平均繊維長は0.1mm〜500mmであると、強度と生産性の双方の観点から好ましい。重量平均繊維長としてより好ましくは1mm〜100mmであり、更に好ましくは5mm〜100mmであり、より一層好ましくは10mm〜100mmである。
本発明に用いられる強化繊維としては、上記のとおり強度や寸法の面内等方性に優れる重量平均繊維長100mm以下の不連続繊維だけでなく、目的に応じて連続繊維を用いてもよい。
【0056】
本発明においては繊維長が互いに異なる強化繊維を併用してもよい。換言すると、本発明に用いられる強化繊維は、平均繊維長に単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
強化繊維の平均繊維長は、例えば、繊維強化樹脂材から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記式(m)および式(f)に基づいて求めることができる。繊維強化樹脂材からの強化繊維の抽出法は、例えば、繊維強化樹脂材に500℃×1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて樹脂を除去することによって行うことができる。
個数平均繊維長Ln=ΣLi/j (m)
(ここで、Liは強化繊維の繊維長、jは強化繊維の本数である)
重量平均繊維長Lw=(ΣLi)/(ΣLi) (f)
(ここで、Liは強化繊維の繊維長である)
なお、ロータリーカッターで切断した場合など、繊維長が一定長の場合は個数平均繊維長を重量平均繊維長とみなせる。
【0057】
本発明において個数平均繊維長、重量平均繊維長のいずれを採用しても構わないが、繊維強化樹脂材の物性をより正確に反映できるのは、重量平均繊維長である事が多い。
本発明に用いられる強化繊維の単繊維径は、強化繊維の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。
強化繊維として炭素繊維が用いる場合、平均単繊維径は、通常、3μm〜50μmの範囲内であることが好ましく、4μm〜12μmの範囲内であることがより好ましく、5μm〜8μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0058】
一方、例えば強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、平均単繊維径は、通常、3μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
ここで、上記平均単繊維径は、その名のとおり強化繊維の単繊維の直径を指すものであるが、強化繊維が単繊維の束状物である場合は、平均単繊維径を平均繊維径と略称することもある。
強化繊維の平均単繊維径は、例えば、JIS R7607(2000)に記載された方法によって測定することができる。
【0059】
前述のとおり、本発明に用いられる強化繊維は、単繊維束状、つまり2本以上の強化単繊維が、集束剤や静電気力等により近接し束状になったものを含んでいると好ましい。本発明に関し、単繊維束状の強化繊維を便宜上、強化繊維束と称することがある。1つの強化繊維束とは、繊維強化樹脂成形体やその成形材料において、1つの充填物として機能する。繊維強化樹脂成形体や成形材料からそのマトリクスである熱可塑性樹脂を除去したものである強化繊維試料から、不作為に個々の強化繊維をピンセットなどで採取したものが複数の単繊維の束状物であれば、これを強化繊維束と見なすことができる。
強化繊維束としては、複数の単繊維が凡そ同方向を向き、それらの長手側面同士が接して束状になっているものが代表的だが、この形態に限定されない。例えば、複数の単繊維が様々な方向を向いた束状であってもよく、複数の単繊維が長手側面の一部では近接しているが、それ以外の部分では単繊維の間が離れているような束状であってもよい。本発明に用いられる強化繊維が単繊維束状である場合、各単繊維束を構成する単繊維の数は特に限定されるものではないが、通常、2本〜10万本の範囲内とされる。
【0060】
例えば、一般的に、炭素繊維は、数千本〜数万本の単繊維が集合した単繊維束状となっている。強化繊維として炭素繊維などを用いる場合に、単繊維束状のまま使用すると、単繊維束の交絡部が局部的に厚くなり薄肉の繊維強化樹脂材を得ることが困難になる場合がある。このため、単繊維束状の強化繊維を用いる場合は、単繊維束を拡幅したり、又は開繊したりして使用するのが通常である。
【0061】
単繊維束状の強化繊維を拡幅したり、又は開繊したりする場合、本発明における強化繊維は、下記式(1)
臨界単繊維数=600/D (1)
(ここでDは強化単繊維の平均単繊維径(μm)である)
で定義する臨界単繊維数以上の本数の単繊維で構成される強化繊維(A)について、強化繊維全量に対する割合が20vol%以上となる量であることが好ましく、30vol%以上となる量であることがより好ましく、更に好ましくは40vol%以上であり、特に好ましくは50vol%以上となる量である。強化繊維(A)以外の強化繊維として、単繊維の状態または臨界単繊維数未満の本数の単繊維で構成される単繊維束、以下、強化繊維(B)と称する場合がある、が存在してもよい。本発明で用いられる強化繊維については、特定の単繊維数以上で構成される強化繊維(A)の厚みを低減させ、かつ強化繊維単位重量(g)当たりの強化繊維(A)の束数を特定の範囲とすることで繊維強化樹脂材の厚み斑を小さくできるため、そのような強化繊維を含む繊維強化樹脂材を成形することで薄肉でも機械物性に優れた繊維強化樹脂成形体を得ることが可能である。
【0062】
炭素繊維全量に対する強化繊維(A)の量の割合が20vol%以上であれば、本発明の繊維強化樹脂材を成形した際に、強化繊維体積含有率の高い成形体の良品を得ることが容易であり好ましい。一方、強化繊維(A)の量の割合の上限は99vol%であることが好ましい。繊維全量に対する強化繊維(A)の量の割合が99vol%以下であれば、繊維の目隙が大きくならず、機械強度に優れる複合材料を得ることができる。強化繊維全量に対する強化繊維(A)の量の割合はより好ましくは50vol%以上99vol%未満であり、更に好ましくは60vol%以上90vol%以下である。つまり、強化繊維全量に対する強化繊維(A)の量の割合の上限は、95vol%以下がより好ましく、90vol%以下が更に好ましい。
前記のとおり、強化繊維(A)は強化単繊維の束状物であるので、便宜上、強化繊維束(A)と称されることもある。同様に、強化繊維(A)の平均単繊維数が平均繊維数と略称されることがある。
【0063】
(熱可塑性樹脂)
本発明に関する耳部付き成形体や繊維強化樹脂材においては、マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂が含まれている。また、本発明においてはマトリクス樹脂として、熱可塑性樹脂を主成分とする範囲において、熱硬化性樹脂を併用してもよい。
上記熱可塑性樹脂は特に限定されるものではなく、耳部付き成形体やその加工品の用途等に応じて所望の軟化温度を有するものを適宜選択して用いることができる。
上記熱可塑性樹脂としては、通常、軟化温度が180℃〜350℃の範囲内のものが好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。本発明について熱可塑性樹脂の軟化温度とは、結晶性熱可塑性樹脂については結晶溶解温度、いわゆる融点であり、非晶性熱可塑性樹脂についてはガラス転移温度である。
【0064】
上記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上のものを挙げることができる。
【0065】
上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上のものを挙げることができる。
上記ポリスチレン樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂(ABS樹脂)等からなる群より選ばれる1種類以上のものを挙げることができる。
上記ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6樹脂(ナイロン6)、ポリアミド11樹脂(ナイロン11)、ポリアミド12樹脂(ナイロン12)、ポリアミド46樹脂(ナイロン46)、ポリアミド66樹脂(ナイロン66)、ポリアミド610樹脂(ナイロン610)等からなる群より選ばれる1種類以上のものを挙げることができる。
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル等を挙げることができる。
【0066】
上記(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートを挙げることができる。
上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、変性ポリフェニレンエーテル等を挙げることができる。
上記熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等を挙げることができる。
上記ポリスルホン樹脂としては、例えば、変性ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等からなる群より選ばれる1種類以上のものを挙げることができる。
上記ポリエーテルケトン樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂からなる群より選ばれる1種類以上のものを挙げることができる。
上記フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。
【0067】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する態様としては、例えば、相互に軟化温度が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様や、相互に平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様等を挙げることができるが、この限りではない。
【0068】
(繊維強化樹脂材の製造方法)
本発明に用いられる繊維強化樹脂材は、公知の方法を用いて製造することができる。
マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合は、例えば、1.強化繊維をカットする工程、2.カットされた強化繊維を開繊させる工程、3.開繊させた強化繊維と繊維状又は粒子状のマトリクス樹脂を混合し等方性基材とした後、これを加熱圧縮して熱可塑性樹脂の含浸をすすめ繊維強化樹脂材を得る工程により製造することができるが、この限りではない。
等方性基材(2次元ランダム配向マットとも呼ばれる)およびその製造法については、WO2012/105080パンフレット、特開2013−49298号公報の明細書に詳しく記載されている。
【0069】
すなわち、複数の強化繊維からなるストランドを、必要に応じ強化繊維長方向に沿って連続的にスリットして幅0.05mm〜5mmの複数の細幅ストランドにした後、平均繊維長3mm〜100mmに連続的にカットし、カットした強化繊維に気体を吹付けてより小さい単繊維数の強化繊維へと開繊させた状態で、通気性コンベヤーネット等の上に層状に堆積させることによりマットを得ることができる。この際、粒体状もしくは短繊維状の熱可塑性樹脂を強化繊維とともに通気性コンベヤーネット上に堆積させるか、マット状の強化繊維層に溶融した熱可塑性樹脂を膜状に供給し浸透させることにより熱可塑性樹脂を包含する等方性基材を製造する方法により製造することもできる。
【0070】
強化繊維(A)中の単繊維数を制御するために、上述した好適な等方性基材の製造法において、カット工程に供する強化繊維の大きさ、例えば単繊維束としての強化繊維の幅や幅当りの単繊維数を調整することでコントロールすることができる。具体的には拡幅するなどして強化繊維の幅を広げてカット工程に供すること、カット工程の前にスリット工程を設ける方法が挙げられる。また強化繊維をカットと同時に、スリットしてもよい。
【0071】
上述のような等方性基材を使用した繊維強化樹脂材は、その面内において、強化繊維が特定の方向に配向しておらず、無作為な方向に分散して配置されている。すなわち、この様な繊維強化樹脂材は面内等方性の材料である。互いに直交する2方向の引張弾性率の比を求めることで、繊維強化樹脂材の面内等方性を定量的に評価できる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
【0073】
1) 繊維強化樹脂成形体のフランジ部(本実施例においては端部と略称することがある)および立面の外観を目視し、以下の基準から評価した。
A(極めて良好):金型表面が十分に転写され、表面に光沢差もなく均一で平滑な状態である。
B(良好):金型表面が転写されているが、Aより若干光沢が低下しており、表面に若干な光沢差または炭素繊維の状態に差があり異なる外観の領域を確認できる。
C(やや良好):金型表面の転写が部分的に不十分で、まだら模様の外観となっており、表面光沢が失われた部位と光沢がある部位とが明確に認識できる。
D(不良):一部製品肉厚が減少し、まったく金型面を転写しておらず、光沢が失われた部位の表面状態は荒れている。
【0074】
2) フルショット安定性は、プレス成形を連続して行っても良品の成形体が得られるか、つまりは、安定的に成形体を製造できるかの目安である。フルショット安定性の評価として、連続して20ショット成形を行い、フルショット成形体が20個得られた場合は「良好」未充填成形体が含まれた場合は「不良」とした。
【0075】
3) 表面転写性については、目的の成形体の端部のフランジ部に相当する、成形型表面箇所に、半径300μmの半球状の凹部を設け、得られた成形体の該半球の高さを計測し、その高さがどれほど300μmに近い値かによって評価した。
【0076】
4) 成形材料や繊維強化樹脂成形体に含まれる強化繊維のうち、臨界単繊維数以上の本数の単繊維からなる強化繊維(A)が占める割合については、WO2012/105080パンフレットまたは米国特許公開第2014/0178631号公報に記載の方法に準じて実施したに記載の方法に準じて測定および算出を実施した。
【0077】
5) 図1および図2の成形体の模式図に、圧力センサーにてキャビティ内圧を測定した位置を示す。より正確にいうと、当該位置に相当する、成形型キャビティ表面の位置に圧力センサーを設置して、キャビティ内圧を測定した。この圧力センサーは、成形型キャビティ表面に掛かる圧力を測定しているため、キャビティ内の成形用材料が冷却固化するに従って正確に成形材料に掛かる圧力を測定することが困難となる。その為、本発明の実施例では、加圧開始から3秒間の圧力を計測しその間で最も高い圧力を記録し圧力値とした。
【0078】
6) 得られた成形体の肉厚の値は、図1および図2の成形体の模式図にて示す位置の肉厚をマイクロメーターにて測定した値である。
(成形型および成形体形状)
図1および図2に示したようなそれぞれ高さ30mm、10mm、厚みはいずれも2.5mmのハット形状断面の成形体に相当するキャビティが形成される、上型と下型からなる成形型を用いてプレス成形を行った。この成形型において成形体のフランジ部に相当する部分(フランジ相当部)の幅は40mmであり、そのうち幅20mmの部分はキャビティの略中央部の一部と解される肉厚2.5mmの領域であり、残りの幅20mmがキャビティのピンチング部を含む領域である。成形型において、ピンチング部を形成する部位は入れ子構造となっているブロックからなっており、そのブロックを交換することにより、ピンチング部の厚みや幅を調整することが可能である。
成形体および成形型キャビティ形状における幅について、詳細に定義するならば、当該成形型を用いた成形で得られる成形体の長手方向をXYZ座標系のY軸方向、高さをZ軸方向とした場合のX軸方向の成形体寸法が、幅である。
一部の実施例などで、400mm×400mmの平板形状の成形体に相当するキャビティ形状を有する成形型(以下、平板状成形型と称することがある)を用いた。
【0079】
7) 成形材料(繊維強化樹脂材)の引張破断伸度ε(%)
成形材料を、そのマトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度まで昇温して、引張破断伸度ε測定用のプレス成形用の成形型の上に成形材料を配置し、成形型締め付け速度20mm/secで、成形材料を破断させるまで成形型を閉じた後、成形材料を取り出して成形材料が伸長した長さを測定し、成形材料の伸長前の長さで除算して、つまり下記式(e)にて計算される。
ε(%)=100×成形材料の伸長後の長さ/成形材料の伸長前の長さ (e)
【0080】
(成形機)
本出願では、川崎油工株式会社製の油圧式5000kNプレス機を用いた。特に記載が無い限り、成形条件は同一であり、具体的には、後述の成形型を取り付け、加圧圧力15MPa、成形型温度150℃、成形材料の加熱温度は290℃で型締め、つまりプレス成形を実施した。
【0081】
(成形材料)
[製造例1]成形材料の製造
強化繊維として、東邦テナックス社製のPAN系炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24KS(平均単繊維径7μm、単繊維数24000本)をナイロン系サイジング剤処理したものを使用し、マトリクス樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030(融点:225℃)を用いて、WO2012/105080パンフレットに記載された方法に準拠し、重量平均繊維長が20mmの炭素繊維が2次元ランダム配向していて、炭素繊維目付1800g/mである面内等方性基材を作成した。この得られた面内等方性基材を、250℃に設定された平板状成形型に投入し、2MPaで10分間加圧した後、成形型温度を100℃まで下げ、炭素繊維が2次元ランダム配向しているマット構造に、ナイロン6樹脂が充分に含浸した、厚み2.6mmの平板状の面内等方性の成形材料を得た。この成形材料の強化繊維体積割合(Vf)は35%、含有する強化繊維の重量平均繊維長は20mmであり、臨界単繊維数は86本であり、強化繊維全量のうち、臨界単繊維数以上の本数の炭素単繊維からなる強化繊維(A)の量の割合は77vol%であった。成形材料中の、強化繊維(A)以外の強化繊維として、臨界単繊維数未満の本数の炭素単繊維からなる束、および単繊維状の炭素繊維も存在した。この成形材料は、前記式(e)により求められる引張破断伸度εが105%〜400%の範囲にあるものである。
【0082】
[実施例1]
製造例1にて得られた、厚み2.6mmの成形材料を700mm×190mmの矩形型にカットしたものを用いて、以下の手順にてプレス成形(20ショット連続成形)を行った。
成形型として、高さ30mmのハット形状成形体(図1)に対応する形状のキャビティを有する成形型を用いた。この成形型のピンチング部のブロックは、隙間(ピンチング部)厚み1.5mm、ピンチング部の幅がキャビティの略中央部の端から10mmになるように設定されたものであった。
加熱され可塑状態にある成形材料を、その幅方向の両端部が、成形型キャビティのピンチング部で挟みこまれるように成形型の下型の上に設置して、成形型の型締めを始めた。まず、成形材料の中央部周辺(略中央部)が、上型の凹部により下型の凸部周辺の空間に引き込まれてから、成形材料の両端部は型締めによりキャビティのピンチング部で押され、かつ潰されながら固定され、更に型締めが進むと、成形材料の両端部はピンチング部で固定されたままずれることなく、成形材料はキャビティ形状どおりのハット形状となった。型締めが完了し、充分に成形材料が冷却され固化したと判断されてから、成形型を開き、型締め時に、成形材料の両端部、つまり、プレス成形時にキャビティのピンチング部で挟み込まれた部分(幅10mm)およびその外側の部分が耳部となった、耳部を有するハット形状の繊維強化樹脂成形体(以下、ハット形状成形体と略称することがある)を得た。ハット形状成形体の耳部は、その幅方向の両端からそれぞれ20mmの幅の部位となった。
【0083】
上記のプレス成形時の成形型や成形条件について補足すると、成形型のキャビティ投影面積は945cm、ピンチング部の面積は140cm、型締めにおいてピンチング部に作用する最大圧力は38MPa、キャビティ部に作用する最大圧力は20MPaであった。なお、型締め力は1890kNとし、キャビティ投影面積当たり20MPaの圧力となるように設定した。
ピンチング部に作用する最大圧力(MPa)、ピンチング面積(cm)、型締め力(kN)から前記式(p)で定義されるピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)は0.28であった。上記のように得られた耳部を有するハット形状成形体の耳部をエンドミルにより切削し繊維強化樹脂加工品を得た。
得られた繊維強化樹脂加工品について観察、測定を行ったところ、その端部の外観は、流動跡、転写不良などなく良好であった。また製品フランジ部に設置された設計半径300μmの半球状突起の高さは280μmと表面転写性も良好であった。ハット状成形体の天面の肉厚2.4mmに対し、立面の肉厚も2.4mmでキャビティどおりの均一な厚みであり、立面にはしわの跡もなくハット状成形体全体が良好な外観であった。上記の観察、測定結果は耳部が切削される前のハット形状成形体についても当てはまることは明らかである。
本実施例の成形に関する評価の結果について表1に示す。
【0084】
[実施例2]
成形型のブロックを変更し、ピンチング部厚み1.3mm、ピンチング部の幅を5mm、ピンチング部の面積70cmに設定した以外は実施例1と同様に操作を行った。実施例1と同様に良好な外観のハット形状成形体を連続して得ることができた。ピンチング部の最大圧力は56MPa、キャビティ最大圧力は20MPaであり、ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)は0.20であった。
本実施例の成形に関する評価の結果について表1に示す。
【0085】
[実施例3]
成形型のブロックを変更し、ピンチング部厚み1.0mm、ピンチング部の幅を3mm、ピンチング部の面積42cmに設定した以外は、実施例1と同様に操作を行った。実施例1と同様に良好な外観のハット形状成形体を連続して得ることができた。ピンチング部の最大圧力73MPa、キャビティ最大圧力は20MPaであり、ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)は0.16であった。
本実施例の成形に関する評価の結果について表1に示す。
【0086】
[実施例4]
成形型として、図1ではなく図2に記載の高さ10mmのハット形状成形体用のキャビティを有する成形型を用い、成形型のピンチング部のブロックを、ピンチング部の厚み1.3mm、ピンチング部の幅が2mmになるように設定し、成形材料を700mm×150mmの矩形型にカットして用いた以外は、実施例1と同様に操作を行った。実施例1と同様に良好な外観のハット形状成形体を連続して得ることができた。なお、キャビティ投影面積は945cm、ピンチング部の面積は28cm、ピンチング部に作用する最大圧力は49MPa、キャビティ部の最大圧力は20MPaであった。なお、型締め力は1890kNとし、キャビティ投影面積当たり20MPaの圧力となるように設定した。ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)は0.08であった。
本実施例の成形に関する評価の結果について表1に示す。
【0087】
[実施例5]
強化繊維全量のうち強化繊維(A)の量の割合は87vol%である成形材料を用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。実施例1と同様に良好な外観のハット形状成形体を連続して得ることができた。ピンチング部の最大圧力は32MPaとなり、ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)は0.23であった。
本実施例の成形に関する評価の結果について表1に示す。
【0088】
[実施例6]
強化繊維全量のうち強化繊維(A)の量の割合は65vol%である成形材料を用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。実施例1と同様に良好な外観のハット形状成形体を連続して得ることができた。ピンチング部の最大圧力は38MPaとなり、ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)は0.28であった。
本実施例の成形に関する評価の結果について表2に示す。
【0089】
[実施例7]
成形型として、図1に記載のものでなく、400mm×400mm×2.5mmの平板形状の成形体に相当するキャビティ形状を有し、キャビティの全外周の20mm幅の領域が略外周端部であり、製品形状部(略中央部)は360mm平方であり、ブロックによりピンチング部の厚み1.5mm、ピンチング幅5mmに調整されたものを用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。本実施例においても、良好な外観の、耳部を有する成形体を連続して得ることができた。なお、プレス成形において、キャビティ面積は1600cm、ピンチング部の面積は77cmであり、ピンチング部の最大圧力は38MPa、キャビティ最大圧力は20MPaであり、ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)は0.09であった。
本実施例の成形に関する評価の結果について表2に示す。
【0090】
[実施例8]
強化繊維全量のうち強化繊維(A)の量の割合は95vol%である成形材料を用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。実施例1と同様に良好な外観のハット形状成形体を連続して得ることができたが、プレス成形時に、ピンチング部から流出する成形材料の量が若干増加し、得られた耳部を有するハット形状成形体についても、その天面の肉厚が減少して天面部と立面部で肉厚に差が発生した。更に、フランジ部の表面転写性が低下した。ピンチング部の最大圧力は33MPaとなり、ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)は0.24であった。
本実施例の成形に関する評価の結果について表2に示す。
【0091】
[実施例9]
強化繊維全量のうち強化繊維(A)の量の割合は55vol%である成形材料を用いた以外は実施例1と同様に操作を行った。実施例1と同様に良好な外観のハット形状成形体を連続して得ることができたが、得られた耳部を有するハット形状成形体について、その天面の肉厚が増加し、立面部の肉厚が減少しており、かつ立面部の外観が若干悪化していた。更に、フランジ部の表面転写性がかなり低下した。ピンチング部の最大圧力は41MPaとなり、ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)は0.31であった。
本実施例の成形に関する評価の結果について表2に示す。
【0092】
[実施例10]
成形型のブロックを変更し、ピンチング部厚み0.5mm、ピンチング部の幅を5mm、ピンチング部の面積70cmに設定した以外は、実施例1と同様に操作を行った。やや良好な外観のハット形状成形体を連続して得ることができた。ピンチング部の最大圧力110MPa、キャビティ最大圧力は12MPaであり、ピンチング定数Kp(MPa・cm/kN)は0.41であった。
本実施例の成形に関する評価の結果について表2に示す。
【0093】
[比較例1]
下型のピンチング部のブロックに針状の突起を100mmピッチで設置し、加熱され可塑状態にした成形材料を針で突き刺し固定化した後に型締めを始めるとの手法でプレス成形を行った以外は、実施例1と同様に操作を行った。得られた耳部を有するハット形状成形体は、天面部の肉厚が極端に薄くなり、立面部のシワ跡も消滅せず外観が不良のもので、そのフランジ部の転写性も極端に低下したものであり、良品とは言い難いものであった。これは、プレス成形において、成形材料の固定が型締め開始前にされていて、型締めによる成形材料の引き込みが発生せず、型締めによって成形材料が著しく引き延ばされたためと思われる。
本比較例の成形に関する評価の結果について表3に示す。
【0094】
[比較例2]
成形型として、下型のピンチング部を形成する部位のブロックが平坦形状で、上型のピンチング部を形成する部位に、型締めによって40mmストロークする稼働入れ子である押さえブロックが設置された成形型を用い、プレス成形において、型締めにより上型と下型とで成形材料が挟み込まれる前の40mm上位の位置で成形材料が固定されるようにした以外は、実施例1と同様に操作を行った。得られた耳部を有するハット形状成形体は、天面部の肉厚が極端に薄く、立面部のシワ跡も消滅せず外観が不良のもので、そのフランジ部の転写性も極端に悪いものであり、良品とは言い難いものであった。これは、プレス成形において、成形材料の固定が型締め開始前にされていて、型締めによる成形材料の引き込みが発生せず、型締めによって成形材料が著しく引き延ばされたためと思われる。
本比較例の成形に関する評価の結果について表3に示す。
【0095】
[比較例3]
成形材料を700mm×140mmの矩形型にカットして用いた以外は、実施例1と同様に操作を行った。連続でのプレス成形ではショートショットが発生し、安定的に成形体を製造できているとは言い難かった。得られた耳部を有するハット形状成形体は、その端部で流動跡が発生している外観が不良のものであった。これは、プレス成形において、型締め開始とほぼ同時に成形材料が上型で押され下型の凹部に引き込まれ、成形材料の端部がピンチング部で固定されることなくそのまま型締めが行われたためと思われる。
本比較例の成形に関する評価の結果について表3に示す。
【0096】
[比較例4]
成形型のキャビティについて、ピンチング部厚みを、実質キャビティでの厚み(キャビティの略中央部の厚み)と同じ2.5mmに設定し、下型の凸部周辺の空間に成形材料が引き込まれ始めた後でも成形材料の両端部がピンチング部で固定されないようにした以外は、実施例1と同様に操作を行った。連続でのプレス成形では、型締め開始時の成形型への成形材料の引き込みが不安定になり、かつ、ショートショットが発生し安定的に成形体を製造できているとは言い難かった。得られた耳部を有するハット形状成形体はフランジ部での転写性が極めて悪いものであった。
本比較例の成形に関する評価の結果について表3に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の製造方法は、外観に優れた繊維強化樹脂成形体を高い量産性で製造することを可能にするものであり、自動車等の構造部品等の優れた物性と高いコスト競争力が求められる用途に好適である。

本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2016年1月8日に出願された日本特許出願(特願2016−003024号)に基づくものであり、その内容の全てが参照として本出願に組み込まれる。
【符号の説明】
【0101】
1 ハット形状成形体の天面の肉厚の測定箇所
2 ハット形状成形体の立面の肉厚の測定箇所
3 プレス成形時に、成形型のキャビティ部圧力が測定された箇所
4 プレス成形時に、成形型のピンチング部圧力が測定された箇所
5 フランジ部(の幅)
6 製品フランジ部(の幅)
7 耳部(の幅)
8 ハット形状成形体の耳部で、プレス成形時に成形材料がピンチング部で押された領域に相当する部位(の幅)
9 ハット形状成形体の耳部で、プレス成形時に成形材料がピンチング部で押された領域より外側の領域に相当する部位(の幅)
10 上型
11 下型
12 成形材料
13 ピンチング部
14 略中央部(製品形状部)
15 ハット状成形体(耳部付き成形体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6