(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0033】
発明の詳細な説明
本開示の以下の説明は、単に本開示の様々な実施形態を説明することを意図されるだけである。故に、説明される特定の変更は本開示の範囲を限定するものと理解されないべきである。様々な同等物、変化、および改変は本開示の範囲から逸脱することなしに実施され得ることが当業者には明らかであるし、そうした同等な実施形態は本発明に含まれるものと理解される。本明細書に引用されるすべての引用物は出版物、特許および特許出願を含めてすべて引用によって本明細書に組み込まれる。
【0034】
定義
本明細書で使用される「抗体」という用語は、特異的な抗原に結合するあらゆるイムノグロブリン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体、または二重特異性(2価)抗体を含む。天然の完全な抗体は2本の重鎖と2本の軽鎖を含む。各重鎖は可変領域と第1、第2、および第3の定常領域からなり、各軽鎖は可変領域と定常領域からなる。哺乳類の重鎖はα、δ、ε、γおよびμに分類され、哺乳類の軽鎖はλまたはκに分類される。抗体は「Y」の形をしていて、Yの基部はジスルフィド結合で1つに結合した2本の重鎖の第2および第3の定常領域からなる。Yの各アームは単一軽鎖の可変領域および定常領域に結合した単一重鎖の可変領域および第1定常領域を含む。軽鎖と重鎖の可変領域は抗原結合を担う。両鎖の可変領域は一般的に相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3個の超可変ループを含む(軽(L)鎖CDRはLCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含み、重(H)鎖CDRは、HCDR1、HCDR2、HCDR3を含む)。本明細書に開示される抗体および抗原結合性断片のCDRの境界はKabat、Chothia、またはAl-Lazikani(Al-Lazikani, B., Chothia, C., Lesk, A. M., J. Mol. Biol., 273(4), 927 (1997);Chothia, C. et al., J Mol Biol. Dec 5;186(3):651-63 (1985); Chothia, C. and Lesk, A.M., J.Mol.Biol., 196,901 (1987); Chothia, C. et al., Nature. Dec 21-28;342(6252):877-83 (1989);Kabat E.A. et al., National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))の慣例によって定義または同定されうる。3個のCDRは、CDRに比べてより高度に保存されており超可変ループを支える足場を形成するフレームワーク領域(FR)として公知の隣接したストレッチに挟まれている。重鎖と軽鎖の定常領域は抗原結合に関わらないが、様々なエフェクター機能を示す。抗体は重鎖の定常領域のアミノ酸配列に基づきクラスに分類される。抗体の主要な5つのクラスまたはアイソタイプは、α、δ、ε、γおよびμの重鎖の存在によりそれぞれ特徴づけられるIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMである。主要な抗体クラスのうちの数種類はIgG1(γ1重鎖)、IgG2(γ2重鎖)、IgG3(γ3重鎖)、IgG4(γ4重鎖)、IgA1(α1重鎖)またはIgA2(α2重鎖)などのサブクラスに分けられる。
【0035】
本明細書で使用される「抗体結合性断片」という用語は、1個以上のCDRを含む抗体の一部から形成される抗体断片、または、抗原に結合するが完全な天然の抗体構造を含まない他のあらゆる抗体断片を指す。抗体結合性断片の例は、以下に限定されることはないが、ディアボディ、Fab、Fab'、F(ab')
2、Fvフラグメント、ジスルフィド結合により安定化したFvフラグメント(dsFv)、(dsFv)
2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv')、ジスルフィド結合により安定化したディアボディ(dsディアボディ)、単鎖抗体分子(scFv)、二量体scFv(2価ディアボディ)、多重特異性抗体、ラクダ化シングルドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、および2価ドメイン抗体を含む。抗原結合性断片は、その元となる抗体が結合する同じ抗原に結合することができる。一実施形態では、抗原結合性断片は、1個以上の異なるヒト抗体からフレームワーク領域に移植した特定のヒト抗体由来の1個以上のCDRを含んでもよい。
【0036】
ある抗体に関する「Fab」は、単一の重鎖の可変領域と第1定常領域にジスルフィド結合で結合した単一の軽鎖(可変領域と定常領域の両方)からなる、その抗体の一部分を指す。
【0037】
「Fab'」は、ヒンジ領域の一部を含んだFab断片を指す。
【0038】
「F(ab')
2」は、Fab'の二量体を指す。
【0039】
ある抗体に関する「Fc」は、1本の重鎖における第2および第3の定常領域にジスルフィド結合を介して結合した2本目の重鎖の第2および第3の定常領域からなる、その抗体の一部分を指す。抗体のFc部分はADCCやCDCなどの様々なエフェクター機能を担うが、抗原結合では機能しない。
【0040】
ある抗体に関する「Fv」は、その抗体の、完全な抗原結合部位を有する最小断片を指す。Fvフラグメントは単一の重鎖の可変領域に結合した単一の軽鎖の可変領域からなる。
【0041】
「単鎖Fv抗体」または「scFv」は、直接またはペプチドリンカー配列を介して互いに結合した軽鎖可変領域および重鎖可変領域からなる操作された抗体を指す(Huston JS et al. Proc Natl Acad Sci USA, 85:5879(1988))。
【0042】
「単鎖Fv-Fc抗体」または「scFv-Fc」は、抗体のFc領域に結合したscFvからなる操作された抗体を指す。
【0043】
「ラクダ化シングルドメイン抗体」、「重鎖抗体」または「HCAb」は、2つのV
Hドメインを含み軽鎖を含まない抗体を指す(Riechmann L. and Muyldermans S., J Immunol Methods. Dec 10; 231(1-2):25-38 (1999); Muyldermans S., J Biotechnol. Jun; 74(4):277-302 (2001);WO94/04678;WO94/25591;U.S. Patent No. 6,005,079)。重鎖抗体は元来ラクダ科(Camelidae)(ラクダ、ヒトコブラクダおよびラマ)に由来していた。ラクダ化抗体は、軽鎖を持たないが、正真正銘の抗原結合レパートリーを有する(Hamers-Casterman C. et al., Nature. Jun 3;363(6428):446-8 (1993);Nguyen VK. et al. “Heavy-chain antibodies in Camelidae; a case of evolutionary innovation,” Immunogenetics. Apr;54(1):39-47 (2002);Nguyen VK. et al.Immunology. May;109(1):93-101 (2003))。重鎖抗体の可変ドメイン(VHHドメイン)は適応免疫反応によって作り出される公知の中で最小の抗原結合単位である(Koch-Nolte F. et al., FASEB J. Nov;21(13):3490-8. Epub 2007 Jun 15 (2007))。
【0044】
「ナノボディ」は重鎖抗体由来のVHHドメインおよび2つの定常ドメインであるCH2とCH3からなる抗体断片を指す。
【0045】
「ディアボディ」は、同一のポリペプチド鎖中でV
Lドメインに結合したV
Hドメイン(V
H-V
LまたはV
L-V
H)を含む、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片である(例えばHolliger P. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. Jul 15;90(14):6444-8 (1993);EP404097;WO93/11161を参照)。同一鎖中の2つのドメインの間で対合が起きるには短すぎるリンカーを使うことで、前記ドメインは別の鎖の相補的なドメインに対合させられ、これにより2つの抗原結合部位を作り出す。前記結合部位は異なる抗原(またはエピトープ)のものを標的としてもよい。
【0046】
「ドメイン抗体」は重鎖可変領域のみ、または軽鎖可変領域のみを含む抗体断片を指す。一例では、2個以上のV
Hドメインがペプチドリンカーで共有結合され、2価または多価ドメイン抗体が作られる。2価ドメイン抗体の2つのV
Hドメインは同一の抗原を標的としてもよいし、あるいは異なる抗原を標的としてもよい。
【0047】
一実施形態では、「(dsFv)
2」は、ペプチドリンカーで結合された2個のV
H部分が2個のV
L部分にジスルフィド架橋で結合された、3本のペプチド鎖を含む。
【0048】
一実施形態では、「二重特異性dsディアボディ」はV
H1とV
L1の間のジスルフィド架橋によりV
L1-V
H2(ペプチドリンカーで結合)に結合したV
H1-V
L2(こちらもまたペプチドリンカーで結合)を含む。
【0049】
一実施形態では、「二重特異性dsFv」または「dsFv-dsFv’」は、重鎖間がペプチドリンカー(例えば、長くて柔軟性のリンカー)で結合したV
H1-V
H2部分が、V
L1部分とV
L2部分にそれぞれジスルフィド架橋で結合しており、ジスルフィド架橋された重鎖と軽鎖の各ペアが異なる抗原特異性を有している3本のペプチド鎖を含む。
【0050】
一実施形態では、「二量体scFv」は、別のV
L-V
H部分と二量体化したV
H-V
L(ペプチドリンカーで結合している)を含み、それにより、片方の部分のV
Hがもう一方の部分のV
Lと一体となり同じ抗原(またはエピトープ)または異なる抗原(またはエピトープ)を標的とすることができる2つの結合部位を形成する、2価ディアボディまたは2価ScFv(BsFv)である。他の実施形態では、「二量体scFv」は、V
L1-V
H2(ペプチドリンカーで結合している)と共にV
H1-V
L2(こちらもまたペプチドリンカーで結合している)を含み、それにより、V
H1とV
L1が一体となり、かつV
H2とV
L2が一体となりそれぞれ一体となったペアが異なる抗原特異性を有する、二重特異性ディアボディである。
【0051】
本明細書で使用される「完全ヒト」という用語は、抗体または抗原結合性断片に関して、その抗体またはその抗原結合性断片が、ヒト個体もしくはヒト免疫細胞によって産生される抗体、または、ヒト抗体レパートリーもしくはヒト抗体をコードする他の配列を利用した非ヒトトランスジェニック動物などの非ヒト起源由来の抗体のアミノ酸配列に対応したアミノ酸配列を有するかまたは前記アミノ酸配列からなることを意味する。一実施形態では、完全ヒト抗体は非ヒト抗体に由来するアミノ酸残基(特に抗原結合性残基)を含まない。
【0052】
本明細書で使用される「ヒト化」という用語は、抗体または抗原結合性断片に関して、その抗体またはその抗原結合性断片が、非ヒト動物に由来するCDR、ヒトに由来するFR領域、および、適用する場合にはヒトに由来する定常領域を含むことを意味する。ヒト化抗体またはヒト化抗原結合性断片は、ヒトにおける低下した免疫原性を有するため、一実施形態ではヒトの治療法として役立つ。一実施形態では、非ヒト動物は哺乳類であり、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、モルモットまたはハムスターである。一実施形態では、ヒト化抗体またはヒト化抗原結合性断片は、非ヒト性のCDR配列以外は実質的にすべてヒト配列から構成される。一実施形態では、ヒト由来のFR領域は、そのFR領域が由来するヒト抗体と同じアミノ酸配列を含んでもよいし、または、アミノ酸の変化、例えばアミノ酸10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下もしくは1個以下の変化を含んでもよい。一部の実施形態では、アミノ酸のそのような変化は重鎖FR領域のみに存在してもよいし、軽鎖FR領域のみに存在してもよく、または両方の鎖に存在してもよい。ある好ましい実施形態では、ヒト化抗体はヒトFR1〜3ならびにヒトJHおよびヒトJκを含む。
【0053】
本明細書で使用される「キメラ」という用語は、重鎖および/または軽鎖の一部が1種類の種に由来していて、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が別の種に由来している抗体または抗原結合性断片を意味する。説明のための例として、キメラ抗体はヒト由来の定常領域およびマウスなどの非ヒトの種に由来する可変領域を含んでもよい。
【0054】
本明細書で使用される「PD-1」はイムノグロブリンスーパーファミリーに属し、免疫系を負に制御する共抑制性受容体として機能するプログラム細胞死タンパク質を指す。PD-1はCD28/CTLA-4ファミリーのメンバーであり、PD-L1とPD-L2を含む2種類の既知のリガンドを有する。ヒトPD-1の代表アミノ酸配列はNCBIアクセッション番号NP_005009.2で開示されており、ヒトPD-1をコードする代表核酸配列はNCBIアクセッション番号NM_005018.2で示されている。
【0055】
本明細書で使用される「PD-L1」はプログラム細胞死リガンド1(programmed cell death ligand 1)(PD-L1、例えばFreeman et al. (2000) J. Exp. Med. 192:1027を参照)を指す。ヒトPD-L1の代表アミノ酸配列はNCBIアクセッション番号NP_054862.1で開示されており、ヒトPD-L1をコードする代表核酸配列はNCBIアクセッション番号NM_014143.3で示されている。PD-L1は胎盤、脾臓、リンパ節、胸腺、心臓、胎児肝臓で発現しており、また多くの腫瘍またはがん細胞上にも見られる。PD-L1は、活性化したT細胞、B細胞および骨髄細胞上に発現するPD-L1の受容体であるPD-1またはB7-1に結合する。PD-L1とその受容体の結合は、サイトカイン産生とT細胞増殖のTCRを介した活性化を抑制するシグナル伝達を誘導する。したがって、PD-L1は妊娠、自己免疫疾患、組織同種移植などの特定のイベントの間に免疫系を抑制する上で主要な役割を果たし、腫瘍細胞またはがん細胞が免疫チェックポイントを回避し免疫反応を逃れることを可能にすると信じられている。
【0056】
本明細書で使用される「抗PD-1抗体」は診断用の使用および/または治療上の使用のために提供するのに十分な親和性でPD-1(例えばヒトまたはサルPD-1)に特異的に結合することができる抗体を指す。
【0057】
本明細書で使用される「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、例えば抗体と抗原の間などの2分子間のランダムでない結合反応を指す。一実施形態では、本明細書で提供される抗体または抗体結合性断片はヒトおよび/またはサルPD-1に10
-6M以下(例えば、5x10
-7M以下、2x10
-7M以下、10
-7M以下、5x10
-8M以下、2x10
-8M以下、10
-8M以下、5x10
-9M以下、2x10
-9M以下、10
-9M以下、10
-10M以下)の結合親和性(K
D)で特異的に結合する。本明細書で使用されるK
Dは会合速度に対する解離速度の比率(K
off/K
on)を指し、例えばBiacoreなどの装置を用いて表面プラズモン共鳴法を使用して決定することができる。
【0058】
本明細書で使用される「結合を阻害する」能力または「同じエピトープについて競合する」能力は、抗体または抗原結合性断片が2分子(例えばヒトPD-1および抗PD-1抗体)間の結合相互作用をあらゆる検出可能な程度で阻害する能力を指す。一実施形態では、2分子間の結合を阻害する抗体または抗原結合性断片は2分子間の結合相互作用を少なくとも50%阻害する。一実施形態では、この阻害は60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上でもよい。
【0059】
本明細書で使用される「エピトープ」という用語は、抗体が結合する抗原上の特定の群の原子またはアミノ酸を指す。2つの抗体が抗原に対して競合的な結合を示す場合には、その2つの抗体は抗原内の同じエピトープに結合しうる。例えば、本明細書で開示される抗体または抗原結合性断片が、1.7.3 hAb、1.49.9 hAb、1.103.11 hAb、1.103.11-v2 hAb、1.139.15 hAb、および1.153.7 hAbなどの例示的な抗体のヒトPD-1への結合を阻害するならば、その抗体または抗原結合性断片はそれらの例示的な抗体と同じエピトープに結合すると考えられうる。
【0060】
エピトープ内の特定のアミノ酸残基は例えばアラニンスキャニング変異導入法によって変異させることができ、タンパク質の結合を減少するかまたは阻止する変異が同定される。「アラニンスキャニング変異導入法」は、タンパク質に結合する別の化合物または別のタンパク質とのエピトープの相互作用に影響するそのタンパク質の特定の残基または領域を同定するために行うことができる方法である。タンパク質中の1残基または1群の標的残基が中性アミノ酸または負に荷電したアミノ酸(最も好ましくはアラニンもしくはポリアラニンまたは保存的アミノ酸置換)に置換される。閾値以下にタンパク質の結合を減少させるか、またはタンパク質の結合を他の変異に比べて最大程度に減少させるアミノ酸残基のいかなる変異またはそれをコードするコドンも、そのタンパク質により結合されるエピトープ内にある可能性がある。本開示の一実施形態では、PD-1抗体にとって重要なエピトープはV64、P83、D85、L128、A129、P130、K131、A132およびQ133のうち少なくとも1個を含む。
【0061】
本明細書で使用される「1.7.3 hAb」は、配列番号45の重鎖可変領域、配列番号47の軽鎖可変領域、およびIgG4アイソタイプのヒト定常領域を持つ完全ヒトモノクローナル抗体を指す。
【0062】
本明細書で使用される「1.49.9 hAb」は、配列番号49の重鎖可変領域、配列番号51の軽鎖可変領域、およびIgG4アイソタイプのヒト定常領域を持つ完全ヒトモノクローナル抗体を指す。
【0063】
本明細書で使用される「1.103.11 hAb」は、配列番号53の重鎖可変領域、配列番号55の軽鎖可変領域、およびIgG4アイソタイプのヒト定常領域を持つ完全ヒトモノクローナル抗体を指す。
【0064】
本明細書で使用される「1.103.11-v2 hAb」は、配列番号53の重鎖可変領域、配列番号67の軽鎖可変領域、およびIgG4アイソタイプのヒト定常領域を持つ完全ヒトモノクローナル抗体を指す。
【0065】
本明細書で使用される「1.139.15 hAb」は、配列番号57の重鎖可変領域、配列番号59の軽鎖可変領域、およびIgG4アイソタイプのヒト定常領域を持つ完全ヒトモノクローナル抗体を指す。
【0066】
本明細書で使用される「1.153.7 hAb」は、配列番号61の重鎖可変領域、配列番号63の軽鎖可変領域、およびIgG4アイソタイプのヒト定常領域を持つ完全ヒトモノクローナル抗体を指す。
【0067】
アミノ酸配列に関連した「保存的置換」はアミノ酸残基を似た生理化学的性質の側鎖を持つ異なるアミノ酸残基に置き換えることを指す。例えば、保存的置換は、疎水性側鎖を持つアミノ酸残基(例えばMet、Ala、Val、LeuおよびIle)の間、中性親水性側鎖を持つアミノ酸残基(例えばCys、Ser、Thr、AsnおよびGln)の間、酸性側鎖を持つアミノ酸残基(例えばAsp、Glu)の間、塩基性側鎖を持つアミノ酸残基(例えばHis、Lys、およびArg)の間、または芳香族側鎖を持つアミノ酸残基(例えばTrp、TyrおよびPhe)の間で実施することができる。当技術分野で知られている通り、保存的置換は通常、タンパク質の立体構造に著しい変化を引き起こさず、故にタンパク質の生物学的活性を保持し得る。
【0068】
アミノ酸配列(または核酸配列)に関する「配列同一性パーセント(%)」は、同一アミノ酸(または核酸)の数が最大になるように、必要な場合はギャップを導入して配列をアラインメントさせた後、参照配列中のアミノ酸(または核酸)残基と同一な候補配列中のアミノ酸(または核酸)残基のパーセンテージとして定義される。アミノ酸残基の保存的置換は同一残基と考えても考えなくてもよい。アミノ酸(または核酸)配列同一性パーセントを決定する目的でのアラインメントは、例えばBLASTN、BLASTp(米国National Center for Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイトで利用可能、またAltschul S.F. et al, J. Mol. Biol., 215:403-410 (1990);Stephen F. et al, Nucleic Acids Res., 25:3389-3402 (1997)も参照)、ClustalW2(European Bioinformatics Instituteのウェブサイトで利用可能、またHiggins D.G. et al, Methods in Enzymology, 266:383-402 (1996);Larkin M.A. et al, Bioinformatics (Oxford、England), 23(21): 2947-8 (2007)も参照)、およびALIGNなどの公けに利用可能なツール、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを使用して達成することができる。当業者は前記ツールにより提供されるデフォルトパラメーターを使用してもよいし、または例えば好適なアルゴリズムの選択などによりアラインメントのために適宜パラメーターをカスタマイズしてもよい。
【0069】
本明細書で使用される「T細胞」は、CD4
+T細胞、CD8
+T細胞、ヘルパーT1型T細胞、ヘルパーT2型T細胞、ヘルパーT17型T細胞および抑制性T細胞を包含する。
【0070】
本明細書で使用される「エフェクター機能」は、C1複合体やFc受容体などの抗体エフェクターへの抗体Fc領域の結合に起因する生物学的活性を指す。例となるエフェクター機能は、抗体とC1複合体上のC1qとの相互作用によって誘導される補体依存性細胞傷害性(CDC);エフェクター細胞上のFc受容体への抗体Fc領域の結合によって誘導される抗体媒介性細胞傷害性(ADCC);およびファゴサイトーシスを包含する。
【0071】
本明細書で使用される「がん」または「がん性状態」は、腫瘍性または悪性の細胞成長、増殖または転移によって媒介されるあらゆる医学的状態を指し、固形がんおよび白血病などの非固形のがんの両方を包含する。本明細書で使用される「腫瘍」は、腫瘍性および/または悪性の細胞の固体塊を指す。
【0072】
本明細書で使用されるある状態を「治療すること」またはある状態の「治療」は、ある状態の予防または緩和、ある状態の発達開始もしくは発達速度を遅らせること、ある状態の発達リスクの低減、ある状態に関連した症状の発達の予防もしくは遅延、ある状態に関連した症状を低減もしくは終わらせること、ある状態の完全もしくは部分的な退縮を生じること、ある状態を治癒させること、またはそのいくつかの組み合わせを包含する。がんに関して、「治療すること」または「治療」は、腫瘍性もしくは悪性の細胞成長、細胞増殖もしくは細胞転移を阻害するかもしくは遅らせること、腫瘍性もしくは悪性の細胞成長、細胞増殖もしくは細胞転移の発達の予防もしくは遅延、またはそのいくつかの組み合わせを指してもよい。腫瘍に関連した場合には、「治療すること」または「治療」は腫瘍のすべてまた一部を根絶すること、腫瘍の成長と転移を阻害するかもしくはその速度を遅らせること、腫瘍の発達を防止するかもしくはその時期を遅らせること、またはそのいくつかの組み合わせを包含する。
【0073】
「単離された」物質は、自然な状態から人間の手により変化させられている。「単離された」組成物または物質が自然界に生じるならば、それは元々の環境から変化させられたかもしくは取り出されたか、またはその両方である。例えば、生きている動物中に自然に存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは「単離」されていないが、もしもそれがその自然な状態で共存する材料から十分に分離されて実質的に純粋な状態で存在するならば、同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは「単離」されている。一実施形態では、抗体または抗原結合性断片は電気泳動法(例えばSDS-PAGE、等電点電気泳動、キャピラリー電気泳動など)またはクロマトグラフィー法(例えばイオン交換クロマトグラフィーまたは逆相HPLCなど)を用いて決定した90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の純度を有する。
【0074】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、タンパク質をコードするポリヌクレオチドが、そのタンパク質を発現させるように機能し得るように挿入することができる運搬体を指す。ベクターは、ベクターが運ぶ遺伝因子を宿主細胞で発現させるように、宿主細胞の形質転換、形質導入または遺伝子導入のために使用してもよい。ベクターの例は、プラスミド、ファージミド、コスミド、例えば酵母人工染色体(YAC)、バクテリア人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC)などの人工染色体、例えばラムダファージまたはM13ファージなどのバクテリオファージ、および動物ウイルスを含む。ベクターとして使用される動物ウイルスのカテゴリーは、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポバウイルス(例えばSV40)を含む。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択可能エレメント、およびレポーター遺伝子を含めて、発現制御のための様々なエレメントを含んでもよい。加えて、ベクターは複製起点を含んでもよい。ベクターはまた、ウイルス粒子、リポソーム、またはタンパク質コーティングを非限定的に含む、細胞内への侵入を助ける材料を含んでもよい。
【0075】
本明細書で使用される「宿主」という表現は、外因性のポリヌクレオチドおよび/またはベクターが導入された細胞を指す。
【0076】
本明細書で使用される「PD-1に関連または関係した疾患」は、PD-1(例えばヒトPD-1)の増加もしくは減少した発現もしくは活性によって引き起こされたか、悪化したか、または別の形でそれに結び付いたあらゆる状態を指す。
【0077】
本明細書で使用される「治療上有効量」または「有効な用量」という用語は、ヒトPD-1に関連した疾患または状態を治療するのに有効な薬剤の用量または濃度を指す。例えば、がんを治療するための、本明細書で開示される抗体または抗原結合性断片の使用に関して、治療上有効量は、腫瘍の全部もしくは一部を根絶すること、腫瘍の成長を阻害するかもしくは遅らせること、がん性状態を媒介する細胞の成長もしくは増殖を阻害すること、腫瘍細胞の転移を阻害すること、腫瘍性状態もしくはがん性状態に関連した症状もしくはマーカーを改善すること、腫瘍性状態もしくはがん性状態の発達の防止もしくは遅延、またはそのいくつかの組み合わせを可能にする抗体または抗原結合性断片の用量または濃度である。
【0078】
「薬学的に許容される」という用語は、指定された担体、ビヒクル、希釈剤、賦形剤、および/または塩が、その製剤を含むその他の成分と全体的、化学的および/または物質的に適合性であり、そのレシピエントと生理学的に適合することを意味する。
【0079】
抗PD-1抗体
一態様では、本開示は抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片を提供する。PD-1はCD279とも呼ばれ、活性化T細胞によって発現される鍵となる免疫チェックポイント受容体であり、免疫抑制を媒介する受容体として知られる。PD-1リガンド1(PD-1 ligand 1)(PD-L1)は様々な腫瘍細胞、ストローマ細胞、またはその両方に発現する40 kDaの膜貫通型タンパク質であり、PD-1に結合する。PD-1とPD-L1の間の相互作用の阻害は、T細胞の反応を増強することができ、それにより抗がん活性を媒介する。
【0080】
一実施形態では、本開示は例示的な完全ヒトモノクローナル抗体1.7.3 hAb、1.49.9 hAb、1.103.11 hAb、1.103.11-v2 hAb、1.139.15 hAb、および1.153.7 hAbを提供し、前記抗体のCDR配列は以下の表1に示され、その重鎖可変領域または軽鎖可変領域の配列もまた以下に示される。
【表1】
【0081】
1.7.3 hAb -VH(23466-VH):(アミノ酸配列は配列番号45であり、核酸配列は配列番号46である)重鎖のCDR 1〜3について、それぞれ配列番号1、3、5がアミノ酸配列であり、それぞれ配列番号2、4、6が核酸配列である。
【化1】
【0082】
1.7.3 hAb -VL(23195-VL):(アミノ酸配列は配列番号47であり、核酸配列は配列番号48である)軽鎖のCDR 1〜3について、それぞれ配列番号7、9、11がアミノ酸配列であり、それぞれ配列番号8、10、12が核酸配列である。
【化2】
【0083】
1.49.9 hAb -VH(20951-VH):(アミノ酸配列は配列番号49であり、核酸配列は配列番号50である)重鎖のCDR 1〜3について、それぞれ配列番号13、15、5がアミノ酸配列であり、それぞれ配列番号14、16、6が核酸配列である。
【化3】
【0084】
1.49.9 hAb -VL(21526-VL):(アミノ酸配列は配列番号51であり、核酸配列は配列番号52である)軽鎖のCDR 1〜3について、それぞれ配列番号7、17、11がアミノ酸配列であり、それぞれ配列番号8、18、12が核酸配列である。
【化4】
【0085】
1.103.11 hAb -VH(20975-VH):(アミノ酸配列は配列番号53であり、核酸配列は配列番号54である)重鎖のCDR 1〜3について、それぞれ配列番号1、15、5がアミノ酸配列であり、それぞれ配列番号2、16、6が核酸配列である。
【化5】
【0086】
1.103.11 hAb -VL(21038-VL):(アミノ酸配列は配列番号55であり、核酸配列は配列番号56である)軽鎖のCDR 1〜3について、それぞれ配列番号7、17、19がアミノ酸配列であり、それぞれ配列番号8、18、20が核酸配列である。
【化6】
【0087】
1.139.15 hAb -VH(23521-VH):(アミノ酸配列は配列番号57であり、核酸配列は配列番号58である)重鎖のCDR 1〜3について、それぞれ配列番号21、23、25がアミノ酸配列であり、それぞれ配列番号22、24、26が核酸配列である。
【化7】
【0088】
1.139.15 hAb -VL(22895-VL):(アミノ酸配列は配列番号59であり、核酸配列は配列番号60である)軽鎖のCDR 1〜3について、それぞれ配列番号27、29、31がアミノ酸配列であり、それぞれ配列番号28、30、32が核酸配列である。
【化8】
【0089】
1.153.7 hAb -VH(20942-VH):(アミノ酸配列は配列番号61であり、核酸配列は配列番号62である)重鎖のCDR 1〜3について、それぞれ配列番号33、35、37がアミノ酸配列であり、それぞれ配列番号34、36、38が核酸配列である。
【化9】
【0090】
1.153.7 hAb -VL(21110-VL):(アミノ酸配列は配列番号63であり、核酸配列は配列番号64である)軽鎖のCDR 1〜3について、それぞれ配列番号39、41、43がアミノ酸配列であり、それぞれ配列番号40、42、44が核酸配列である。
【化10】
【0091】
1.103.11-v2 hAb -VH(20975-VH):(アミノ酸配列は配列番号53であり、核酸配列は配列番号54である)重鎖のCDR 1〜3について、それぞれ配列番号1、15、5がアミノ酸配列であり、それぞれ配列番号2、16、6が核酸配列である。
【化11】
【0092】
1.103.11-v2 hAb -VL(21038-2-VL):(アミノ酸配列は配列番号67であり、核酸配列は配列番号68である)軽鎖のCDR 1〜3について、それぞれ配列番号7、17、65がアミノ酸配列であり、それぞれ配列番号8、18、66が核酸配列である。
【化12】
【0093】
一実施形態では、抗PD-1抗体とその抗原結合性断片は、配列番号1、3、5、13、15、21、23、25、33、35および37からなる群から選択される重鎖CDR配列を含む。一実施形態では、抗PD-1抗体とその抗原結合性断片は、配列番号7、9、11、17、19、27、29、31、39、41、43および65からなる群から選択される軽鎖CDR配列を含む。一実施形態では、得られた抗体が親抗体に比べて1つ以上の性質において改善され(例えば、抗原結合能の改善、グリコシル化パターンの改善、CDR残基のグリコシル化のリスク低減、CDR残基の脱アミノ化の減少、薬物動態上の半減期の増加、pH感受性、コンジュゲート付加への適合性など)、その他の点では親抗体と同等である(すなわち、上述の改変または変化を除き同一セットのCDR配列を有する抗体である)か、少なくとも、親抗体の抗体結合特性を実質的に保持するように、本明細書で提供される1個以上のCDR配列は改変または変化させることができる。
【0094】
一実施形態では、抗PD-1抗体とその抗原結合性断片は、配列番号1、配列番号3および/または配列番号5を含む重鎖可変領域;配列番号13、配列番号15および/または配列番号5を含む重鎖可変領域;配列番号1、配列番号15および/または配列番号5を含む重鎖可変領域;配列番号21、配列番号23および/または配列番号25を含む重鎖可変領域;ならびに配列番号33、配列番号35および/または配列番号37を含む重鎖可変領域からなる群から選択される重鎖可変領域を含む。
【0095】
一実施形態では、抗PD-1抗体とその抗原結合性断片は、配列番号7、配列番号9、および/または配列番号11を含む軽鎖可変領域;配列番号7、配列番号17、および/または配列番号11を含む軽鎖可変領域;配列番号7、 配列番号17、および/または配列番号19を含む軽鎖可変領域;配列番号27、配列番号29、および/または配列番号31を含む軽鎖可変領域;配列番号39、配列番号41、および/または配列番号43を含む軽鎖可変領域;ならびに配列番号7、配列番号17、および/または配列番号65を含む軽鎖可変領域からなる群から選択される軽鎖可変領域を含む。
【0096】
一実施形態では、抗PD-1抗体とその抗原結合性断片は、a)配列番号1、配列番号3、および/もしくは配列番号5を含む重鎖可変領域;ならびに、配列番号7、配列番号9、および/もしくは配列番号11を含む軽鎖可変領域;b)配列番号13、配列番号15、および/もしくは配列番号5を含む重鎖可変領域;ならびに、配列番号7、配列番号17、および/もしくは配列番号11を含む軽鎖可変領域;c)配列番号1、配列番号15、および/もしくは配列番号5を含む重鎖可変領域;ならびに配列番号7、配列番号17、および/もしくは配列番号19を含む軽鎖可変領域;d)配列番号21、配列番号23、および/もしくは配列番号25を含む重鎖可変領域;ならびに配列番号27、配列番号29、および/もしくは配列番号31を含む軽鎖可変領域;e)配列番号33、配列番号35、および/もしくは配列番号37を含む重鎖可変領域;ならびに配列番号39、配列番号41、および/もしくは配列番号43を含む軽鎖可変領域;またはf)配列番号1、配列番号15、および/もしくは配列番号5を含む重鎖可変領域;ならびに配列番号7、配列番号17、および/もしくは配列番号65を含む軽鎖可変領域を含む。
【0097】
当業者は、ヒトPD-1への改善された結合親和性などの改善された生物学的活性を提供するように、表1に提供されたCDR配列は1個以上のアミノ酸置換を含むように改変できることを理解するだろう。例えば、抗体バリアント(FabまたはscFvバリアントなど)のライブラリーを作製して、ファージディスプレイ技術を用いて発現し、その後ヒトPD-1への結合親和性についてスクリーニングすることができる。別の例では、コンピューターソフトウェアを使用して抗体のヒトPD-1への結合を仮想シミュレーションし、結合界面を形成する抗体上のアミノ酸残基を同定することができる。そのような残基は結合親和性の低下を防ぐために置換において避けてもよいし、またはより強い結合の提供のために置換の標的にしてもよい。一実施形態では、CDR配列における1個以上またはすべての置換が保存的置換である。
【0098】
一実施形態では、抗PD-1抗体とその抗原結合性断片は、表1にリストされたCDR配列に対して80%以上(例えば、85%以上、88%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の配列同一性を有する1個以上のCDR配列を含み、同時に、対応するCDR配列が表1にリストされたCDR配列に対し100%の配列同一性を示すこと以外は実質的に同じ配列を有する親抗体と類似するレベルまたはそれよりも高いレベルでヒトPD-1への結合親和性を保持する。
【0099】
一実施形態では、抗PD-1抗体とその抗原結合性断片は、完全ヒト型である。完全ヒト抗体は、ヒト化抗体でしばしば観察されるようなヒトにおける免疫原性の問題および/または減少した結合親和性の問題を持たない。
【0100】
一部の実施形態では、完全ヒト抗PD-1抗体とその抗原結合性断片は、配列番号45、配列番号49、配列番号53、配列番号57、配列番号61、およびその80%以上(例えば85%以上、88%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択される重鎖可変領域;ならびに/または配列番号47、配列番号51、配列番号55、配列番号59、配列番号63、配列番号67、およびその80%以上(例えば85%以上、88%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択される軽鎖可変領域を含む。これらの完全ヒト抗体は、好ましくは例示的な抗体:1.7.3 hAb、1.49.9 hAb、1.103.11 hAb、1.103.11-v2 hAb、1.139.15 hAb、および1.153.7 hAbのうちの1つと似たようなレベルでヒトPD-1への結合親和性を保持する。
【0101】
一部の実施形態では、完全ヒト抗PD-1抗体とその抗原結合性断片は、a)配列番号45を含む重鎖可変領域;および配列番号47を含む軽鎖可変領域;b)配列番号49を含む重鎖可変領域;および配列番号51を含む軽鎖可変領域;c)配列番号53を含む重鎖可変領域;および配列番号55を含む軽鎖可変領域;d)配列番号57を含む重鎖可変領域;および配列番号59を含む軽鎖可変領域;e)配列番号61を含む重鎖可変領域;および配列番号63を含む軽鎖可変領域;またはf)配列番号53を含む重鎖可変領域;および配列番号67を含む軽鎖可変領域を含む。
【0102】
本明細書で提供される抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片と同じエピトープについて競合する抗体およびその抗原結合性断片もまた、本明細書において考慮される。一実施形態では、前記抗体は、例えば10
-6M未満、10
-7M未満、10
-7.5M未満、10
-8M未満、10
-8.5M未満、10
-9M未満、または10
-10M未満のIC
50値(すなわち50%阻害濃度)で1.7.3 hAb、1.49.9 hAb、1.103.11 hAb、1.103.11-v2 hAb、1.139.15 hAb、または1.153.7 hAbのヒトまたはサルPD-1への結合を阻害する。IC
50値はELISAアッセイ、放射性リガンド競合結合アッセイ、およびFACS解析などの競合アッセイに基づいて決定される。
【0103】
一部の実施形態では、本明細書で提供される抗PD-1抗体および抗原結合性断片は、プラズモン共鳴結合アッセイで測定された10
-6M以下(例えば5x10
-7M以下、2x10
-7M以下、10
-7M以下、5x10
-8M以下、2x10
-8M以下、10
-8M以下、5x10
-9M以下、2x10
-9M以下、10
-9M以下、10
-10M以下)の結合親和性(Kd)でヒトPD-1に特異的に結合することができる。結合親和性は、抗原と抗原結合分子の結合が平衡に達するときの会合速度に対する解離速度の割合(K
off/K
on)として計算されるK
Dにより表すことができる。抗原結合親和性(たとえばK
D)は、例えば、Biacoreなどの装置を使用したプラズモン共鳴結合アッセイを含めた、当技術分野において公知の好適な方法を使用して適切に決定することができる(例えば、Murphy,M. et al, Current protocols in protein science,Chapter 19,unit 19.14,2006を参照。)。
【0104】
一実施形態では、本明細書で提供される抗体および抗原結合性断片は、0.1nM〜100nM(例えば0.1nM〜50nM、0.1nM〜30nM、0.1nM〜20nM、0.1nM〜10nM、または0.1nM〜1nM)のEC
50(すなわち50%結合濃度)でヒトPD-1に結合する。ヒトPD-1への抗体の結合は例えば、ELISA、ウェスタンブロット、FACSまたは他の結合アッセイなどのサンドイッチアッセイなどの当技術分野で公知の方法によって測定することができる。例示として、試験抗体(すなわち第1の抗体)を、固定化したヒトPD-1またはヒトPD-1発現細胞に結合させ、未結合の抗体を洗い流した後に、第1の抗体に結合することができ、それにより結合した第1の抗体を検出することを可能にする標識した二次抗体が導入される。検出は、固定化したPD-1が使用された場合にはマイクロプレートリーダーを用いて行い、ヒトPD-1発現細胞が使用された場合にはFACS解析を使用して行われる。一実施形態では、本明細書で提供される抗体およびその抗原結合性断片は、FACS解析で測定された1nM〜10nMまたは1nM〜5nMのEC
50(すなわち50%有効濃度)でヒトPD-1に結合する。
【0105】
一実施形態では、本明細書で提供される抗体および抗原結合性断片は、競合アッセイで測定した0.2nM〜100nM(例えば0.2nM〜50nM、0.2nM〜30nM、0.2nM〜20nM、0.2nM-10nM、または1nM〜10nM)のIC
50でヒトPD-1のそのリガンドへの結合を阻害する。
【0106】
一実施形態では、本明細書で提供される抗体および抗原結合性断片は、ヒトPD-1のそのリガンドへの結合を阻害し、それにより例えば活性化T細胞(例えばCD4
+T細胞およびCD8
+T細胞など)からのサイトカイン産生の誘導、活性化T細胞(例えばCD4
+T細胞およびCD8
+T細胞など)の増殖の誘導、制御性T細胞の抑制機能の無効化を含む生物学的活性を提供する。例となるサイトカインはIL-2およびIFNγを包含する。「IL-2」という用語はインターロイキン2、すなわち白血球(例えばロイコサイト)の活性を制御する、免疫系におけるある種のサイトカインシグナル分子を指す。「インターフェロンガンマ(IFNγ)」という用語は、ナチュラルキラー(NK)細胞、NKT細胞、CD4
+T細胞およびCD8
+T細胞によって産生されるサイトカインであり、マクロファージの重要な活性化因子であり主要組織適合複合体(MHC)分子の発現の誘導因子である。サイトカインの産生は例えばELISAのような当技術分野で公知の方法を使用して測定することができる。[
3H]チミジン取り込みアッセイを含め、T細胞の増殖を検出する方法もまた使用することができる。
【0107】
抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片はPD-1に特異的である。一実施形態では、抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片はCD28および/またはCTLA-4に結合しない。例えば、CD28および/またはCTLA-4との結合親和性は、PD-1との結合親和性の15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%未満である。
【0108】
一実施形態では、抗体およびその抗原結合性断片は、ELISAで測定した、100nM以下、例えば、10nM、9nM、8nM、7nM、6nM、5nM、4nM、3nM、2nM、1nM、0.9nM、0.8nM、0.7nM、0.6nM、0.5nM、0.4nM、0.3nM、0.2nM、0.1nM、0.09nM、0.08nM、0.07nM、0.06nM、0.05nM、0.04nM、0.03nM、0.02nM、または0.01nM以下又はおよそその値のEC50でサルPD-1に結合する。一実施形態では、抗体およびその抗原結合性断片は、約1nM〜10nMのEC50でサルPD-1に結合する。
【0109】
一実施形態では、抗体およびその抗原結合性断片は、ヒトPD-1との結合親和性と同様の結合親和性でマウスPD-1に結合しないがサルPD-1には結合する。例えば、例示的な抗体1.7.3 hAb、1.49.9 hAb、1.103.11 hAb、1.103.11-v2 hAb、1.139.15 hAb、および1.153.7 hAbのマウスPD-1への結合は、ELISAまたはFACS解析などの通常の結合アッセイでは検出できないが、これらの抗体のサルPD-1への結合は、ELISAまたはFACSで測定した際にヒトPD-1と同様の親和性またはEC50値での結合である。
【0110】
一実施形態では、抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片は、エフェクター機能が減少または激減している。一実施形態では、抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片は、エフェクター機能が減少または激減しているIgG4アイソタイプの定常領域を有する。ADCCおよびCDCなどのエフェクター機能はPD-1発現細胞への細胞傷害性につながり得る。T細胞などの多くの細胞が通常PD-1を発現する。これらの正常な細胞への望ましくない毒性の可能性を回避するために、本明細書で提供される抗体およびその抗原結合性断片の一実施形態は、減少または激減さえしたエフェクター機能を有し得る。例えば、Fc受容体結合アッセイ、C1q結合アッセイ、および細胞溶解アッセイなどのADCCまたはCDC活性を評価する様々なアッセイが知られており、当技術分野の人々により容易に選択され得る。理論に拘束されることは望まないが、ADCCまたはCDCなどのエフェクター機能が減少または激減した抗体は、PD-1発現細胞、例えばそのようなT細胞に対し、細胞傷害性を引き起こさないか又は最小限の細胞傷害性を引き起こし、故に望ましくない副作用がなく、一方それと同時に、PD-1の阻害ががんまたは慢性感染症などの状態の治療のために免疫系を強化する。
【0111】
一実施形態では、本明細書で提供される抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片は減少した副作用を示す。例えば、本明細書で提供される抗体およびその抗原結合性断片は完全ヒトIgG配列を有することができ、それ故に対応するヒト化抗体に比べて免疫原性が低下している。別の例では、本明細書で提供される抗体およびその抗原結合性断片はADCCおよびCDCを除くためにIgG4型でもよい。
【0112】
一実施形態では、本明細書で提供される抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片は、免疫原性物質、例えば、腫瘍細胞、精製した腫瘍抗原、免疫刺激性サイトカインをコードする遺伝子を遺伝子導入した細胞、および腫瘍ワクチンと組み合わせて使用してもよいという点で有利である。加えて、抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片は、標準的な化学療法および放射線療法、標的に合わせた低分子療法、新たな他の免疫チェックポイント調節因子療法を含めた併用療法に含めてもよい。一実施形態では、抗体およびその抗原結合性断片は抗体-薬物コンジュゲート、二重特異性抗体または多価抗体のベースとして使用することができる。
【0113】
本明細書で提供される抗PD-1抗体または抗原結合性断片はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、組換え抗体、二重特異性抗体、標識抗体、2価抗体、または抗イディオタイプ抗体であってもよい。組換え抗体は、動物個体中ではなく組換え法を使用してin vitroで調製された抗体である。二重特異性抗体または2価抗体は2つの異なるモノクローナル抗体の断片を持つ人工的な抗体であり、2つの異なる抗原に結合することができる。「2価」抗体またはその「2価」抗原結合性断片は2つの抗原結合部位を含む。2つの抗原結合部位は同一の抗原に結合してもよいし、それぞれ異なる抗原に結合してもよく、後者の場合にはその抗体または抗原結合性断片は「二重特異性」と特徴づけられる。
【0114】
一実施形態では、本明細書で提供される抗PD-1抗体またはその抗原結合性断片は完全ヒト抗体である。一実施形態では、完全ヒト抗体は組換え法を使用して調製される。例えば、マウスなどのトランスジェニック動物はヒトイムノグロブリン遺伝子の導入遺伝子または導入染色体を持つように作製し、それ故にヒトPD-1などの適切な抗原を用いた免疫後に完全ヒト抗体を産生できるようにすることができる。完全ヒト抗体は、そのようなトランスジェニック動物から単離するか、または別法として、ハイブリドーマ技術によってトランスジェニック動物の脾臓細胞を不死性の細胞系と融合して完全ヒト抗体を分泌するハイブリドーマ細胞を作製することにより作製することができる。例示的なトランスジェニック動物は、以下に限定されるわけではないが、ラットイムノグロブリン遺伝子の内在的な発現が不活性化されていて同時に機能的な組換えヒトイムノグロブリン遺伝子座を含むように操作されているOmniRat;マウスイムノグロブリン遺伝子の内在的な発現が不活性化されていて同時にJ遺伝子座の欠失とCκ変異を有する組換えヒトイムノグロブリン遺伝子座を含むように操作されているOmniMouse;ラットイムノグロブリン遺伝子の内在的な発現が不活性化されていて同時に単一で共通の再構成VkJk軽鎖および機能的な重鎖を持つ組換えヒトイムノグロブリン遺伝子座を含むように操作されているトランスジェニックラットであるOmniFlicを含む。詳細な情報はOsborn M. et al, Journal of Immunology, 2013, 190: 1481-90;Ma B. et al, Journal of Immunological Methods 400-401 (2013) 78-86;Geurts A. et al, Science, 2009, 325:433;米国特許8,907,157;欧州特許2152880B1;欧州特許2336329B1でさらに見つけることができ、これらすべての引用物はそのすべてが引用によって本明細書に組み込まれる。他の好適なトランスジェニック動物、例えば、HuMabマウス(詳細についてはLonberg, N. et al. Nature 368(6474): 856 859 (1994)を参照)、Xenoマウス(Mendez et al. Nat Genet., 1997, 15:146-156)、TransChromoマウス(Ishida et al. Cloning Stem Cells, 2002, 4:91-102)およびVelocImmuneマウス(Murphy et al. Proc Natl Acad Sci USA、2014, 111:5153-5158)、Kymouse(Lee et al. Nat Biotechnol, 2014, 32:356-363)、ならびにトランスジェニックウサギ(Flisikowska et al. PLoS One, 2011, 6:e21045)もまた使用することができる。
【0115】
一部の実施形態では、抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片は、ラクダ化シングルドメイン抗体、ディアボディ、scFv、二量体scFv、BsFv、dsFv、(dsFv)2、dsFv-dsFv'、Fvフラグメント、Fab、Fab'、F(ab')2、dsディアボディ、ナノボディ、ドメイン抗体、または2価ドメイン抗体である。
【0116】
一部の実施形態では、抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片は、さらにイムノグロブリン定常領域を含む。一部の実施形態では、イムノグロブリン定常領域は重鎖定常領域および/または軽鎖定常領域を含む。重鎖定常領域はCH1、CH1-CH2、またはCH1-CH3領域を含む。一部の実施形態では、定常領域は望ましい性質を与えるためにさらに1個以上の改変を含んでもよい。例えば、定常領域はFcRn受容体への結合能を向上させるために1個以上のエフェクター機能を減少または激減させるように改変してもよいし、または1個以上のシステイン残基を導入するように改変してもよい。
【0117】
一実施形態では、抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片は、さらにコンジュゲートを含む。様々なコンジュゲートを本明細書で提供される抗体または抗原結合性断片に結合してもよいことが意図される(例えば"Conjugate Vaccines", Contributions to Microbiology and Immunology, J. M. Cruse and R. E. Lewis, Jr. (eds.), Carger Press, New York, (1989)を参照)。これらのコンジュゲートは、他の方法の中でも特に共有結合、親和性結合、インターカレーション、配位結合、複合体形成、会合、混合、または付加によって抗体または抗原結合性断片に結合してもよい。一実施形態では、本明細書に開示される抗体および抗原結合性断片は、1個以上のコンジュゲートへの結合に利用できる特異的部位をエピトープ結合部位の外に含むように操作されてもよい。例えば、そのような部位は、コンジュゲートへの共有結合を促進するために、例えばシステイン残基またはヒスチジン残基などの1個以上の反応性アミノ酸残基を含んでもよい。一実施形態では、抗体が間接的にまたは別のコンジュゲートを介してコンジュゲートに結合されてもよい。例えば、抗体または抗原結合性断片はビオチンにコンジュゲートし、その後アビジンにコンジュゲートした第2のコンジュゲートに間接的にコンジュゲートしてもよい。コンジュゲートは検出可能な標識、薬物動態改変成分、精製用成分、または細胞傷害性成分であってもよい。検出可能な標識の例は、検出用の、蛍光標識(例えば、フルオレセイン、ローダミン、ダンシル、フィコエリスリン、またはテキサスレッド)、酵素基質標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖酸化酵素またはβ-D-ガラクトシダーゼ)、ラジオアイソトープ(例えば、
123I、
124I、
125I、
131I、
35S、
3H、
111In、
112In、
14C、
64Cu、
67Cu、
86Y、
88Y、
90Y、
177Lu、
211At、
186Re、
188Re、
153Sm、
212Bi、および
32P、他のランタニド、発光標識)、発色成分、ジゴキシゲニン、ビオチン/アビジン、DNA分子または金を含みうる。一実施形態では、コンジュゲートは抗体の半減期の増加を助けるPEGなどの薬物動態改変成分であってもよい。他の好適なポリマーは、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチレングリコール/プロピレングリコールの共重合体等を含む。一実施形態では、コンジュゲートは磁性ビーズなどの精製用成分であってもよい。「細胞傷害性成分」は、細胞に有害であるか、または細胞を損傷または死滅させることができる任意の薬剤であってよい。細胞傷害性成分の例には、以下に限定されるわけではないが、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テニポシド(tenoposide)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラセンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-ジヒドロテストステロン(1-dehydrotestosterone)、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、ピューロマイシンおよびそのアナログ、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキセート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシルダカルバジン)、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオテパ(thioepa)クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド(cyclothosphamide)、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、およびシス-ジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アンスラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(以前はダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、およびアントラマイシン(AMC))、ならびに有糸分裂阻害薬(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)が挙げられる。
【0118】
ポリヌクレオチドおよび組換え法
本開示は抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。一実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、表1に提供されるCDR配列をコードする、表1に示された1個以上の核酸配列を含む。
【0119】
一部の実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは重鎖可変領域をコードし、配列番号46、配列番号50、配列番号54、配列番号58、配列番号62および80%以上(例えば85%以上、88%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択される配列を含む。一部の実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは軽鎖可変領域をコードし、配列番号48、配列番号52、配列番号56、配列番号60、配列番号64、配列番号68および80%以上(例えば85%以上、88%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の配列同一性を有するその相同配列からなる群から選択される配列を含む。一実施形態では、同一性パーセントは遺伝暗号縮重によるものであり、コードされるタンパク質配列は同一のままである。
【0120】
抗PD-1抗体およびその抗原結合性断片をコードする単離されたポリヌクレオチド(例えば表1記載の配列を含む)は、当技術分野で公知の組換え技術を使用して、さらなるクローニング(DNAの増幅)または発現のためにベクターに挿入することができる。別の実施形態では、抗体は、当技術分野で公知の相同組換えによって生産されてもよい。モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の方法(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブの使用による)を使用して容易に単離し配列決定される。多くのベクターが利用可能である。ベクターの構成要素としては、一般的に、以下に限定されるわけではないが、シグナル配列、複製起点、1個以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター(例えばSV40、CMV、EF-1α)、および転写終結配列のうち1個以上が挙げられる。
【0121】
一実施形態では、ベクター系としては哺乳類、細菌、酵母の系などが挙げられ、以下に限定されるわけではないが、pALTER、pBAD、pcDNA、pCal、pL、pET、pGEMEX、pGEX、pCI、pCMV、pEGFP、pEGFT、pSV2、pFUSE、pVITRO,pVIVO、pMAL、pMONO、pSELECT、pUNO、pDUO、Psg5L、pBABE、pWPXL、pBI、p15TV-L、pPro18、pTD、pRS420、pLexA、pACT2.2など、ならびに他の研究室および市販のベクターなどのプラスミドを含む。好適なベクターとしてはプラスミドまたはウイルスベクター(例えば複製欠損のレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス)が挙げられ得る。
【0122】
抗体または抗原結合性断片をコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターはクローニングまたは遺伝子発現のために宿主細胞に導入することができる。本発明においてベクター中でDNAをクローニングするか、または発現させるための好適な宿主細胞は、原核生物、酵母、または上述のより高等な真核生物の細胞である。この目的に好適な原核生物としては、グラム陰性またはグラム陽性生物などの真正細菌、例えば、大腸菌(E. coli)等の大腸菌属、エンテロバクター属、エルウィニア属、クレブシエラ属、プロテウス属、ネズミチフス菌などのサルモネラ属、セラチア菌(Serratia marcescans)などのセラチア属、シゲラ属、枯草菌およびB.リケニフォルミス(B. licheniformis)などのバチルス属、緑膿菌などのシュードモナス属、ならびにストレプトミセス属などの腸内細菌科などが挙げられる。
【0123】
原核生物に加えて、糸状菌または酵母などの真核微生物は、抗PD-1抗体をコードするベクターに好適なクローニング用または発現用の宿主である。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、すなわち一般的なパン酵母は下等真核宿主微生物の中でも最もよく使用される。しかし、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe);K.ラクティス(K. lactis)、K.フラジリス(K. fragilis)(ATCC 12,424)、K.ブルガリカス(K. bulgaricus)(ATCC 16,045)、K.ウィッカーラミイ(K. wickeramii)(ATCC 24,178)、K.ウォルティ(K. waltii)(ATCC 56,500)、K.ドロソフィララム(K. drosophilarum)(ATCC 36,906)、K.サーモトレランス(K. thermotolerans)、およびK.マルシアヌス(K. marxianus)などのクリベロマイセス属の宿主;ヤロウイア属(EP 402,226);ピキア・パストリス(EP 183,070);カンジダ属;トリコデルマ・レシア(Trichoderma reesia)(EP 244,234);アカパンカビ;シュワンニオミセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)などのシュワンニオミセス属;ならびに、例えばニューロスポラ属、ペニシリウム属、トリポクラジウム属、偽巣性コウジ菌(A. nidulans)およびA.ニガー(A. niger)などのアスペルギルス属の宿主などの糸状菌などの多数の他の属、種、および株が一般に入手可能で本発明に有用である。
【0124】
本明細書で提供されるグリコシル化された抗体または抗原断片の発現に好適な宿主細胞は、多細胞生物に由来する。無脊椎動物細胞の例は植物細胞および昆虫細胞を含む。多数のバキュロウイルスの株と変種、およびスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ショウジョウバエ)およびカイコ(Bombyx mori)などの、対応する感染許容性の昆虫宿主細胞が同定されている。遺伝子導入のための様々なウイルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL-1変種およびカイコ(Bombyx mori)NPVのBm-5株などが公的に入手可能であり、特にスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)の細胞に遺伝子導入するために、そのようなウイルスを本発明に従って本明細書におけるウイルスとして使用してもよい。ワタ、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、およびタバコの植物細胞培養物も、宿主として利用してもよい。
【0125】
しかし、脊椎動物細胞への関心が最も大きく、培養(組織培養)中の脊椎動物細胞の増殖は通常の手法になっている。有用な哺乳類宿主細胞株の例は、SV40で形質転換されるサル腎細胞CV1系(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚性腎臓細胞系(293細胞か、または浮遊培養での増殖のためにサブクローン化された293細胞、Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK細胞、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/DHFR欠損株(CHO、Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980));サル腎細胞(CV1、ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸がん細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファロー系ラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳房腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982));MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒト肝がん由来細胞株(Hep G2)である。好ましい一実施形態では、宿主細胞は293F細胞である。
【0126】
宿主細胞は、抗PD-1抗体を生産するために上述の発現ベクターまたはクローニングベクターで形質転換され、そして、プロモーターを誘導し、形質転換体を選抜し、または所望の配列をコードする遺伝子を増幅するのに適するように改変した従来の栄養培地で培養される。
【0127】
本明細書で提供される抗体または抗原結合性断片を生産するために使用される宿主細胞は、様々な培地で培養してもよい。Ham's F10(シグマ)、最小必須培地(Minimal Essential Medium;MEM)(シグマ)、RPMI-1640(シグマ)、およびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(シグマ)などの市販の培地は、宿主細胞を培養するのに好適である。加えて、Ham et al., Meth. Enz. 58:44 (1979)、Barnes et al., Anal. Biochem. 102:255 (1980)、米国特許第4,767,704;4,657,866;4,927,762;4,560,655;もしくは5,122,469;WO 90/03430;WO 87/00195;または米国特許Re. 30,985に説明されるいかなる培地も、宿主細胞の培養培地として使用してよい。これらの培地のどれも、必要に応じてホルモンおよび/または他の成長因子(例えばインスリン、トランスフェリン、もしくは上皮成長因子など)、塩(例えば塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸など)、緩衝液(例えばHEPESなど)、ヌクレオチド(例えばアデノシンおよびチミジンなど)、抗生物質(例えばゲンタマイシン(商標)剤など)、微量元素(通常、終濃度がマイクロモル濃度範囲で存在する無機化合物と定義される)、ならびにグルコースまたは等価なエネルギー源を補充してもよい。当業者に公知のいかなる他の必要な補充物質もまた適切な濃度で含められてよい。温度、pH等のような培養条件は、発現用に選択された宿主細胞で過去に使用された培養条件であり、当業者には明らかであろう。
【0128】
組換え技術を使用する場合には、抗体は細胞内もしくは細胞膜周辺腔で生産されるか、または培地中に直接分泌される。抗体が細胞内で生産されるならば、最初のステップとして、宿主細胞または溶解した断片である粒子状の残骸が例えば遠心または限外濾過によって除去される。Carter et al., Bio/Technology 10:163-167 (1992)は、大腸菌(E.coli)の細胞膜周辺腔に分泌された抗体を単離する方法を説明する。手短に述べれば、細胞ペーストを約30分以上酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、およびフッ化フェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)存在下で融解する。細胞の残骸は遠心で除くことができる。抗体が培地中に分泌される場合は、例えばアミコンまたはミリポア・ペリコンの限外濾過ユニットなどの市販のタンパク質濃縮フィルターを使用してその発現系の上清を一般的には最初に濃縮する。前述のいかなるステップにも、タンパク質分解を阻害するために、PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤が含められてもよいし、外来性の汚染菌の増殖を防ぐために抗生物質が含められてもよい。
【0129】
細胞から調製された抗体は、例えばヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、DEAEセルロースイオン交換クロマトグラフィー、硫安沈殿、塩析、およびアフィニティクロマトグラフィーを使用して精製することができ、この中でアフィニティクロマトグラフィーが好ましい精製技術である。プロテインAのアフィニティーリガンドとしての適性は抗体中に存在するイムノグブリンFcドメインの種類とアイソタイプに依存する。プロテインAはヒトのガンマ1、ガンマ2、ガンマ3、またはガンマ4の重鎖に基づく抗体を精製するために使用できる(Lindmark et al., J. Immunol. Meth. 62:1-13 (1983))。プロテインGはマウスのすべてのアイソタイプおよびヒトのガンマ3のために推奨される(Guss et al., EMBO J. 5:1567 1575 (1986))。アフィニティーリガンドを結合させるマトリックスは最もよく使われるのはアガロースであるが、他のマトリックスも利用できる。制御多孔ガラスまたはポリスチレンジビニルベンゼンなどの機械的に安定なマトリックスはアガロースを用いた場合に比べてより速い流速とより短い処理時間を可能にする。マトリックスがCH3ドメインを含む場合は、Bakerbond ABX.TM.樹脂(J. T. Baker, Phillipsburg, N.J.)が精製に役立つ。イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上のクロマトグラフィー、ヘパリンセファロース(商標)上のクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン交換樹脂上のクロマトグラフィー(例えばポリアスパラギン酸カラムなど)、等電点電気泳動、SDS-PAGE、および硫安沈殿などの他のタンパク質精製技術もまた回収する抗体に応じて利用できる。
【0130】
あらゆる一次精製ステップに続き、目的の抗体と夾雑物を含む混合物は、好ましくは低塩濃度(例えば約0〜0.25Mの塩)で、約2.5〜4.5の間のpHの溶出緩衝液を使用する低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供してもよい。
【0131】
キット
本開示は抗PD-1抗体またはその抗原結合性断片を含むキットを提供する。一部の実施形態では、前記キットは生体試料中のPD-1の存在またはレベルを検出するのに役立つ。生体試料は細胞または組織を含んでもよい。
【0132】
一部の実施形態では、キットは検出可能な標識をコンジュゲートした抗PD-1抗体またはその抗原結合性断片を含む。他の一実施形態では、キットは標識されていない抗PD-1抗体またはその抗原結合性断片を含み、標識されていない抗PD-1抗体に結合することができる標識された2次抗体をさらに含む。キットはさらに使用説明書、およびキット中の各構成要素を隔てる容器をさらに含んでもよい。
【0133】
一実施形態では、前記抗PD-1抗体またはその抗原結合性断片は、例えばELISAなどのサンドイッチアッセイまたはイムノグラフィック(immunographic)なアッセイで役立つ基質または装置を伴う。有用な基質または装置は、例えばマイクロタイタープレートおよび試験紙であってもよい。
【0134】
医薬組成物および治療方法
本開示はさらに、抗PD-1抗体またはその抗原結合性断片と1個以上の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0135】
本明細書で開示される医薬組成物における使用のための薬学的に許容される担体は、例えば、薬学的に許容される液体、ゲル、もしくは固形担体、水性ビヒクル、非水性ビヒクル、抗菌剤、等張剤、緩衝液、酸化防止剤、麻酔剤、懸濁化剤/分注剤(dispending agent)、封鎖剤またはキレート剤、希釈剤、アジュバント、賦形剤、もしくは非毒性の補助物質、当技術分野で公知の他の構成成分、またはその様々な組み合わせを含んでもよい。
【0136】
好適な構成成分としては、例えば、酸化防止剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、緩衝剤、保存剤、潤滑剤、香味料、増粘剤、着色料、例えば糖およびシクロデキストリンなどの乳化剤または安定剤が挙げられ得る。好適な酸化防止剤としては、例えば、メチオニン、アスコルビン酸、EDTA、チオ硫酸ナトリウム、白金、カタラーゼ、クエン酸、システイン、チオグリセロール、チオグリコール酸、チオソルビトール、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、および/または没食子酸プロピルが挙げられ得る。本明細書に開示されるように、本明細書で提供される抗体または抗原結合性断片とコンジュゲートとを含む組成物中にメチオニンなどの酸化防止剤を1つ以上含めることにより、抗体または抗原結合性断片の酸化が減少する。この酸化の低減が、結合親和性の喪失を防止または減少し、それにより抗体の安定性を改善し保存可能期間を最大化する。したがって、一実施形態では、本明細書で開示される抗体または抗原結合性断片の1つ以上と、メチオニンなどの酸化防止剤の1つ以上とを含む組成物が提供される。本明細書で提供される抗体または抗原結合性断片と例えばメチオニンなどの1個以上の酸化防止剤を混合することにより、抗体または抗原結合性断片の酸化を防ぎ、保存可能期間を延ばし、および/または有効性を改善するための方法がさらに提供される。
【0137】
さらに説明すれば、薬学的に許容される担体としては、例えば塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、等張ブドウ糖注射液、注射用無菌水、ブドウ糖加乳酸リンゲル液などの水性ビヒクル、例えば植物由来の固定油、綿実油、コーン油、ゴマ油またはピーナッツ油などの非水性ビヒクル、静菌性または静真菌性の濃度の抗菌剤、例えば塩化ナトリウムまたはブドウ糖などの等張剤、例えばリン酸緩衝液またはクエン酸緩衝液などの緩衝液、例えば硫酸水素ナトリウムなどの酸化防止剤、例えばプロカイン塩酸塩などの局所麻酔剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはポリビニルピロリドンなどの懸濁化剤および分散剤、例えばポリソルベート80(TWEEN-80)などの乳化剤、例えばEDTA(エチレンジアミン四酢酸)もしくはEGTA(エチレングリコールビス四酢酸)などの封鎖剤またはキレート剤、エチルアルコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、水酸化ナトリウム、塩酸、クエン酸または乳酸が挙げられ得る。担体として利用される抗菌剤としては、フェノールまたはクレゾール、水銀、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルp-ヒドロキシ安息香酸エステル、プロピルp-ヒドロキシ安息香酸エステル、チメロサール、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムが挙げられ、それを複数用量容器中の医薬組成物に加えてもよい。好適な賦形剤としては、例えば、水、生理食塩水、ブドウ糖、グリセロール、またはエタノールが挙げられ得る。好適な非毒性の補助物質としては、例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、安定剤、溶解度向上剤、例えば酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミン、またはシクロデキストリンなどが挙げられ得る。
【0138】
医薬組成物は液体溶液、懸濁液、乳液、ピル、カプセル、タブレット、放出制御製剤、または粉末剤であってもよい。経口製剤は、医薬グレードのマンニトール、乳糖、でんぷん、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどといった標準的な担体を含んでもよい。
【0139】
一実施形態では、医薬組成物は注射可能な組成物の形態にする。注射可能な医薬組成物は、例えば、液体溶液、懸濁液、乳液、または、液体溶液、懸濁液もしくは乳液を作製するのに好適な固形形態など、いかなる従来の形態で調製してもよい。注射用調製物としては、注射用に準備された無菌および/または非発熱性の溶液、無菌乾燥可溶性製品、例えば使用直前に溶媒と組み合わせるように準備された凍結乾燥粉末(皮下注射用錠剤を含め)、注射用に準備された無菌懸濁液、使用直前にビヒクルと組み合わせるように準備された無菌乾燥不溶性製品、ならびに無菌および/または非発熱性の乳液が挙げられ得る。
【0140】
一実施形態では、単位用量の非経口調製物がアンプル、バイアルまたは針付シリンジに包装される。当技術分野で公知でありかつ実施されているように、非経口投与用のいかなる調製物も無菌かつ非発熱性であるべきである。
【0141】
一実施形態では、無菌の凍結乾燥粉末は本明細書で開示される抗体または抗原結合性断片を好適な溶媒に溶解することにより調製される。溶媒は、粉末またはその粉末から調製された再構成溶液の安定性または他の薬理成分を改善する賦形剤を含んでもよい。使用されてもよい賦形剤としては、以下に限らないが、水、ブドウ糖、ソルビトール(sorbital)、果糖、コーンシロップ、キシリトール、グリセリン、グルコース、ショ糖または他の好適な薬剤が挙げられる。溶媒は、クエン酸、リン酸ナトリウムもしくはリン酸カリウム、または、一実施形態ではほぼ中性pHである、当業者に公知の他のそのような緩衝液などの緩衝液を含んでもよい。それに続く溶液の無菌濾過(その後に当業者に公知の標準的な条件下での凍結乾燥を続けて行う)は、望ましい製剤を提供する。一実施形態では、得られた溶液は凍結乾燥用にバイアルに分配する。各バイアルは、抗PD-1抗体もしくはその抗原結合性断片またはその組成物の1回の用量または複数回の用量を含んでもよい。1回の用量または1セットの用量に必要な量を少し超える量(例えば約10%)でバイアルを過充填することは、正確な試料取り出しおよび正確な投薬を容易にするために許容される。凍結乾燥粉末は、約4℃から室温までといった適切な条件で保存することができる。
【0142】
注射用水での凍結乾燥粉末の再構成は、非経口投与における使用のための製剤を提供する。一実施形態では、調製のために無菌および/もしくは非発熱性の水または他の液状の好適な担体が凍結乾燥粉末に加えられる。正確な量は、施されている選択された治療法に依存し、経験的に決めらることができる。
【0143】
本明細書で提供される治療上有効量の抗体または抗原結合性断片を、それを必要とする対象に投与し、それによりPD-1に関連するかまたはPD-1に関係する状態または障害を治療または予防することを含む、治療方法もまた提供される。別の態様では、治療上有効量の本明細書で提供される抗体または抗原結合性断片を、それを必要とする対象に投与することを含む、免疫反応の上方調節により効果を見込める対象における状態を治療する方法が提供される。
【0144】
治療上有効量の本明細書で提供される抗体または抗原結合性断片は、例えば体重、年齢、過去の医療履歴、現在の投薬治療、対象の健康状態、ならびに交差反応、アレルギー、感受性および有害な副作用の可能性、ならびに投与経路および腫瘍の発達程度などの当技術分野で公知の様々な要因に依存する。これらのおよび他の状況または必要条件に示されるように、用量は当業者(例えば、医師または獣医師)によって比例的に減らすかまたは増やすかされてもよい。
【0145】
一実施形態では、本明細書で提供される抗体または抗原結合性断片は、約0.01 mg/kgから約100 mg/kgまで(例えば、約0.01 mg/kg、約0.5 mg/kg、約1 mg/kg、約2 mg/kg、約5 mg/kg、約10 mg/kg、約15 mg/kg、約20 mg/kg、約25 mg/kg、約30 mg/kg、約35 mg/kg、約40 mg/kg、約45 mg/kg、約50 mg/kg、約55 mg/kg、約60 mg/kg、約65 mg/kg、約70 mg/kg、約75 mg/kg、約80 mg/kg、約85 mg/kg、約90 mg/kg、約95 mg/kg、または約100 mg/kg)の治療上有効な用量で投与されてもよい。これらの実施形態のあるものでは抗体または抗原結合性断片は約50 mg/kg以下の用量で投与され、またこれらの実施形態のあるものでは用量は10 mg/kg以下、5 mg/kg以下、1 mg/kg以下、0.5 mg/kg以下、または0.1 mg/kg以下である。一実施形態では、投与量は治療過程で変化してもよい。例えば一実施形態では、最初の投与量は、後の投与量よりも多くてもよい。一実施形態では、投与量は対象の反応に応じて治療過程の間に変動してもよい。
【0146】
投薬レジメンは最適な望ましい反応(例えば、治療反応)をもたらすように調整されうる。例えば、1回の投与が与えられてもよいし、または数回に分割された用量が時間をかけて投与されてもよい。
【0147】
本明細書で開示される抗体および抗原結合性断片は、例えば非経口経路(例えば、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注入を含めた静脈注射、筋肉注射、もしくは皮内注射)または非経口でない経路(経口、経鼻、眼球内、舌下、直腸内もしくは局所)などの当技術分野で公知の任意の経路で投与されてもよい。
【0148】
PD-1に関連した状態および障害は、免疫関連の疾患または障害であってよい。一実施形態では、PD-1に関連した状態または障害としては、腫瘍およびがん、例えば、非小細胞性肺がん、小細胞性肺がん、腎細胞がん、大腸がん、卵巣がん、乳がん、膵臓がん、胃がん、膀胱がん、食道がん、中皮腫、黒色腫、頭頸部がん、甲状腺がん、肉腫、前立腺がん、膠芽細胞腫、子宮頸がん、胸腺がん、白血病、リンパ腫、骨髄腫、菌状息肉腫、メルケル細胞がん、ならびに他の血液悪性腫瘍、例えば古典的ホジキンリンパ腫(CHL)、縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫、T細胞/組織球豊富型B細胞リンパ腫、EBV陽性および陰性PTLD、ならびにEBV関連びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、形質芽球性リンパ腫、節外性NK細胞/T細胞リンパ腫、鼻咽腔がん、ならびにHHV8関連原発性滲出液リンパ腫、ホジキンリンパ腫、中枢神経系(CNS)の腫瘍、例えば原発性CNSリンパ腫、脊髄軸腫瘍、脳幹グリオーマが挙げられる。一実施形態では、腫瘍およびがんは転移性であり、特にPD-L1を発現する転移性腫瘍である。一実施形態では、PD-1に関連した状態および障害としては、全身性エリテマトーデス(SLE)、乾癬、全身性皮膚硬化症、自己免疫性糖尿病等の自己免疫疾患が挙げられる。一実施形態では、PD-1に関連した状態および障害としては、慢性ウイルス感染症などの感染症、例えば、B型肝炎、C型肝炎、ヘルペスウイルス、エプスタイン-バーウイルス、HIV、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルスI型、単純ヘルペスウイルスII型、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、カポジウエスト肉腫関連ヘルペスウイルスの流行(Kaposi West sarcoma associated herpes virus epidemics)、シンリングウイルス(thin ring virus)(トルクエテノウイルス(Torquetenovirus))、JCウイルスまたはBKウイルスなどのウイルス感染が挙げられる。
【0150】
本開示はさらに抗PD-1抗体またはその抗原結合性断片を使用する方法を提供する。
【0151】
一実施形態では、本開示は、治療上有効量の抗PD-1抗体またはその抗原結合性断片を投与することを含む、個体においてPD-1に関連するかまたはPD-1に関係する状態または障害を治療する方法を提供する。一実施形態では、個体はPD-1拮抗薬に反応する見込みのある障害または状態を有すると同定されている。
【0152】
目的の生体試料上のPD-L1の存在またはレベルは、その生体試料が由来する個体がPD-1拮抗薬に反応する見込みがあるかどうかの指標になり得る。様々な方法が、個体に由来する試験生体試料におけるPD-L1の存在またはレベルを決定するために使用されてもよい。例えば、試験生体試料は、発現されたPD-L1タンパク質に結合してそれを検出する抗PD-L1抗体またはその抗原結合性断片に暴露されてもよい。別法では、qPCR、逆転写酵素PCR、マイクロアレイ、SAGE、FISH等の方法を使用して、PD-L1はまた核酸発現レベルで検出されてもよい。一部の実施形態では、試験試料はがん細胞もしくはがん組織、または腫瘍浸潤免疫細胞に由来する。一実施形態では、試験生体試料中のPD-L1の存在またはレベルの上方調節は反応性の見込みを示す。本明細書で使用される「上方調節」という用語は、同じ抗体を使用して検出される参照試料中のPD-L1タンパク質レベルと比較した、本明細書で提供される抗体または抗原結合性断片を使用して検出される試験試料中のPD-L1のタンパク質レベルにおける10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、またはそれ以上の全体的増加を指す。参照試料は、健常な、もしくは疾患ではない個体から取得された対照試料であっても、試験試料が取得された同じ個体から取得された健常な、もしくは疾患ではない試料であってもよい。例えば、参照試料は、試験試料(例えば、腫瘍)に隣接するかまたはその近傍の疾患でない試料であってもよい。
【0153】
本明細書で開示される抗体または抗原結合性断片は、単独か、または1つ以上の追加的な治療手段もしくは治療薬と組み合わせて投与されてもよい。例えば、本明細書で開示される抗体または抗原結合性断片は、化学療法、放射線療法、がん治療のための手術(例えば、腫瘍摘出術)、化学療法に由来する合併症のための1つ以上の制吐剤もしくは他の治療、またはPD-1によって媒介されるがんもしくはあらゆる内科的障害の治療において使用するための任意の他の治療薬と組み合わせて投与されてもよい。これらの実施形態のあるものでは、1つ以上の追加的な治療薬と組み合わせて投与される本明細書で開示される抗体または抗原結合性断片は、1つ以上の追加的な治療薬と同時に投与されてもよく、これらの実施形態のあるものでは、抗体または抗原結合性断片と追加的な治療薬は同じ医薬組成物の一部として投与されてもよい。しかし、別の治療薬と「組み合わせて」投与される抗体または抗原結合性断片は、必ずしもその薬剤と一緒に同時に投与される必要はないし、またはその薬剤と同じ組成物中で投与される必要もない。たとえ抗体または抗原結合性断片と第2の薬剤が異なる経路で投与されたとしても、「組み合わせて」という表現が本発明で使用される場合には、もう一方の薬剤の前または後に投与される抗体または抗原結合性断片は、その薬剤と「組み合わせて」投与されると考えられる。可能である場合には、本明細書で開示される抗体または抗原結合性断片と組み合わせて投与される追加的な治療薬は、その追加的な治療薬の製品情報シートに記載されたスケジュールに従うか、または医師用卓上参考書2003(Physicians' Desk Reference, 57版; Medical Economics Company; ISBN: 1563634457; 57版 (2002年11月))もしくは当技術分野でよく知られたプロトコルに従って投与される。
【0154】
一実施形態では、治療薬はがんに対して免疫反応を誘導または増強することができる。例えば、腫瘍ワクチンはある種の腫瘍またはがんへの免疫反応を誘導するために使用されてもよい。サイトカイン療法もまた免疫系への腫瘍抗原提示を増強するために使用されてもい。サイトカイン療法の例は、以下に限定されるわけではないが、インターフェロン-α、-β、および-γなどのインターフェロン、マクロファージ-CSF、顆粒球マクロファージCSF、顆粒球-CSFなどのコロニー刺激因子、IL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、およびIL-12などのインターロイキン、TNF-αおよびTNF-βなどの腫瘍壊死因子を含む。免疫抑制性標的を不活性化する薬剤、例えば、TGF-ベータ阻害剤、IL-10阻害剤、およびFasリガンド阻害剤もまた使用されてもよい。別の群の薬剤は、腫瘍またはがん細胞への免疫反応性を活性化する薬剤、例えば、T細胞活性化を増強するもの(例えば、CTLA-4、ICOS、およびOX-40などのT細胞共刺激分子のアゴニスト)、ならびに樹状細胞の機能および抗原提示を増強するものを含む。
【0155】
以下の実施例は特許請求した本発明をよりよく説明するために提供され、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。以下に説明されるすべての具体的な組成物、材料、および方法は、その全体またはその一部が、本発明の範囲内に入る。これらの具体的な組成物、材料、および方法は本発明を限定することを意図されておらず、本発明の範囲内に入る具体的な実施形態を単に説明することを意図されている。当業者は発明能力を発揮することなしに、また本発明の範囲から逸脱せずに、等価な組成物、材料、および方法を開発し得る。本発明の範囲内になお留まりながらも本明細書に説明される手順に多くの変更を加えることができることが理解されるだろう。そのような変更は本発明の範囲内に含まれることが本発明者らの意図である。
【実施例】
【0156】
〔実施例1:抗体ハイブリドーマの作製〕
【0157】
1.1 免疫原の作製:PD-1およびPD-L1 ECDまたは完全長をコードするDNAが合成され、発現ベクターpcDNA3.3に挿入された。プラスミドDNAをマキシプレップ(Max-prep)して挿入DNAの配列がシーケンシングにより確認された。ヒトFc、マウスFc、およびHisタグを含む様々なタグを含む融合タンパク質PD-1 ECDおよびPD-L1 ECDが、ヒトPD-1 ECD遺伝子をCHO-S細胞またはHEK293細胞に遺伝子導入することで得られた。5日後、一過的に遺伝子導入された細胞の培養物から回収された上清がタンパク質精製に使用された。融合タンパク質は免疫とスクリーニングの使用のために精製され定量された。
【0158】
1.2 安定な細胞系の確立。抗体スクリーニングと抗体評価のためのツールを得るために、本発明者らはPD-1およびPD-L1の遺伝子導入細胞系を作製した。手短に述べると、CHO-K1、293FまたはBa/F3細胞に、製造業者のプロトコルに従いリポフェクタミン2000遺伝子導入キットを使用して完全長PD-1またはPD-L1を含むpCND3.3発現ベクターが遺伝子導入された。遺伝子導入から48〜72時間後、遺伝子導入された細胞は選択のためにブラストサイジンまたはG418を含む培地で培養された。時と共に、これによりPD-1またはPD-L1遺伝子をゲノムDNA中に安定に取り込んだ細胞が選択される。一方、細胞目的の遺伝子であるPD-1およびPD-L1の発現について調べられた。発現が確認されたら、目的の単一クローンが限界希釈法により選び出され、大容量にスケールアップされた。確立された単クローン性の細胞系はその後、より低い用量の抗生物質ブラストサイジンまたはG418を含む培地で維持された。
1.3 抗体ハイブリドーマの作製
【0159】
1.3.1 免疫および細胞融合:8〜10週齢のOMTラット(Open Monoclonal Technology, Inc., Palo Alto, USから入手)が、初回ブーストにはTiterMax中の10μgのヒトPD-1 ECDで足蹠に免疫され、3日毎にアルミニウム中のPD-1 ECDタンパク質で免疫を繰り返した。2週間毎にラットから採血して血清を回収し、抗体価がELISAまたはFACSアッセイにより測定された。抗体価が十分な高さに到達したら、ラットはアジュバントなし(代わりに100μlの1XPBSを加える)の最後のブーストを与えられ、細胞融合が以下のように実施された:免疫されたOMTラットのリンパ節から単離されたBリンパ球が骨髄腫細胞と(1:1の比率で)一緒にされた。細胞の混合物は洗浄されて5〜10mlのECF溶液で懸濁された。ECF溶液を加えて濃度を2x10
6細胞/mlに合わせた。電気的な細胞融合の後、融合チェンバー中の細胞懸濁液はすぐにより大きな体積の培地を含む無菌チューブに移された。37℃で24時間超インキュベーションした後、細胞懸濁液は混合され96ウェルプレートに分注された(0.5x10
6細胞/プレート)。細胞は37℃、5%CO
2でインキュベートされた。クローンの数が十分大きくなったときに、100μlの上清を96ウェルプレートから抗体スクリーニングのアッセイへと移した。
【0160】
1.3.2 ハイブリドーマ上清の最初および確認のスクリーニング:ハイブリドーマ上清のPD-1タンパク質への結合を試験するための最初のスクリーニング方法としてELISAアッセイが使用された。手短に述べると、プレート(Nunc)が1μg/mlのヒトPD-1細胞外ドメインの可溶性タンパク質で一晩4℃でコートされた。ブロッキングと洗浄の後、ハイブリドーマ上清はコートされたプレートに移され、1時間室温でインキュベートされた。プレートは次に洗浄され、その後2次抗体であるヤギ抗ラットIgG1 HRP(Benthyl)およびヤギ抗ラットIgG2b HRP(Benthyl)で45分間インキュベートされた。洗浄後、TMB基質が加えられ、2M HClにより相互作用が停止された。450nmでの吸光度がマイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス)を使用して読み取られた。細胞膜上に発現された立体構造PD-1分子へのPD-1抗体の天然の結合を確認するために、FACS解析がPD-1遺伝子導入CHO-S細胞系について実施された。ヒトPD-1を発現するCHO-S細胞が1x10
6細胞/mlの密度で96ウェルU字底プレート(BD)の中へ移された。次にハイブリドーマ上清がプレートに移され、4℃で1時間インキュベートされた。1XPBS/1%BSAで洗浄した後、2次抗体であるヤギ抗ラットFITC(Jackson Immunoresearch Lab)が加えられて暗所にて4℃で1時間細胞とともにインキュベートされた。細胞は次に洗浄されて1XPBS/1%BSA中に再懸濁されるか、または4%パラホルムアルデヒドで固定され、フローサイトメトリー(BD)で解析された。親CHO-S細胞系への抗体結合は同じ方法を使用して実施された。
図1は抗ヒトPD-1抗体のPD-1発現CHO細胞への結合を示す。完全長ヒトPD-1を遺伝子導入されたCHO細胞がラットハイブリドーマ由来のヒトPD-1に対する抗体で染色され、その後FITCコンジュゲートヤギ抗ラットIgG Fcで2次抗体染色を行い、FACSにより解析された。データは、抗体がCHO細胞に発現されたPD-1に特異的に結合することを示す。
【0161】
ヒトCD4+T細胞上に発現された天然PD-1への抗体の結合親和性を試験するために、ヒトCD4+T細胞がIL-2およびOKT3存在下で3日間培養されたPBMCから作製され、ヒトPD-1に対する抗体により染色された。抗体のT細胞上のPD-1への結合はFACSにより解析された。
図3に示されるように、FACS解析は抗体がCD4+T細胞上に発現された天然PD-1に特異的に結合することを示した。
【0162】
抗体の阻害活性の試験が、確認スクリーニングとして使用されて抗体候補ヒットが選択された。選択された抗体は、PD-1を遺伝子導入されたCHO-S細胞へのリガンドPD-L1の結合を阻害する能力についてFACS解析で試験された。ヒトPD-1を発現するCHO-S細胞は1x10
6細胞/mlの密度で96ウェルU字底プレート(BD)の中へ移された。抗体は洗浄緩衝液(1XPBS/1%BSA)で段階希釈され、4℃で1時間細胞とともにインキュベートされた。洗浄後、ヒトFc融合ヒトPD-L1タンパク質が加えられ、4℃で1時間インキュベートされた。2次抗体であるヤギ抗ヒトIgG Fc FITC抗体(ラットIgG Fcへの交差反応性無し、Jackson Immunoresearch Lab)が暗所にて4℃で1時間細胞とともにインキュベートされた。細胞は次に洗浄されて1XPBS/1%BSA中に再懸濁されるか、または4%パラホルムアルデヒドで固定され、フローサイトメトリー(BD)により解析された。
【0163】
1.3.3 ハイブリドーマのサブクローニング:特異的結合および特異的阻害が最初および確認のスクリーニングを通じて確かめられた後は、陽性のハイブリドーマ細胞系はサブクローニングに使用されることができる。手短に述べれば、各ハイブリドーマ細胞系について、細胞はその数を計測され、クローニング培地中で5細胞/ウェル、1細胞/ウェルおよび0.5細胞/ウェルになるように希釈された。96ウェルプレートに200μl/ウェルで播き、1枚のプレートは5細胞/ウェル、1枚のプレートは1細胞/ウェル、4枚のプレートは0.5細胞/ウェルとした。すべてのプレートを37℃、5%CO
2のインキュベーターに置く。すべての細胞系をELISAアッセイで調べられるまでインキュベートする。
【0164】
〔実施例2:抗体ハイブリドーマ細胞のシーケンスと完全ヒト抗体の性質決定〕
2.1 抗体ハイブリドーマ細胞のシーケンス:RNAはモノクローナルハイブリドーマ細胞からTrizol試薬を用いて単離された。PD-1抗体のVHおよびVLが以下のプロトコルに従って増幅された:手短に述べれば、RNAはまず以下に述べるように逆転写酵素を使用してcDNAに逆転写される。
反応系(20μl):
10×RT緩衝液 2.0μl
25×dNTPミックス (100 mM) 0.8μl
10×RTランダムプライマー/オリゴdT/特異的プライマー 2.0μl
MultiScribe(商標)逆転写酵素 1.0μl
RNaseインヒビター 1.0μl
RNA 2μg
ヌクレアーゼフリーH
2O 20.0μlまで
【0165】
反応条件
【0166】
結果として生じたcDNAは目的の遺伝子に特異的なプライマーを使用するその後のPCR増幅の鋳型として使用される。PCR反応は以下の手順のように実施された。
【0167】
PCR反応液を10μlとり、pMD18-Tベクターとのライゲーションを行う。10μlのライゲーション産物を用いてTop10コンピテントセルの形質転換を行い、標準プロトコルに従って事前に温めておいた2-YT+Cabプレート上に混合物を移し、一晩インキュベートする。陽性クローンはM13-48およびM13-47プライマーを使用するPCRにより検査し、その後シーケンシングを行う。
【0168】
2.2 完全ヒト抗体分子の構築:PD-1抗体のVHおよびVLは上に説明されたように増幅された。PCR反応液はPCR洗浄キットを用いて精製され、VLおよびpCIベクターは制限酵素Pme IおよびBssH IIを用いて37℃で2時間消化された。反応液を1%アガロースに流し、製造者の指示に従ってキットを用いてゲル抽出を行う。消化されたVLおよびpCIベクターのライゲーションは以下の手順による:
【0169】
混合物は16℃で30分間インキュベートされた。10μlの反応液が形質転換とクローン増殖に使用された。確認されたクローンはプラスミドpCI-VLのDNAの抽出に使用された。pCI-VLベクターおよびVH断片は次にXbaIおよびSalIで消化され、精製され消化されたVHおよびベクターはT4 DNAリガーゼを用いて16℃で30分間ライゲーションされた。挿入されたVLおよびVHの配列がシーケンシングにより確認された後、完全ヒトPD-1抗体のIgG全体を含む発現ベクターが一過的な遺伝子導入および安定な細胞系の開発に使用された。
【0170】
〔実施例3:完全ヒト抗体の特性決定〕
3.1 フローサイトメトリー(FACS)で試験される細胞表面PD-1分子へのPD-1抗体の結合親和性:細胞表面PD-1への抗体結合親和性がFACS解析により実施された。ヒトPD-1を発現するCHO-S細胞が5x10
5細胞/mlの密度で96ウェルU字底プレート(BD)の中へ移された。試験される抗体は洗浄緩衝液(1XPBS/1%BSA)で1:2で段階希釈され、4℃で1時間細胞とともにインキュベートされた。2次抗体であるヤギ抗ヒトIgG Fc FITC(モルIgG当たり3.0モルFITC(Jackson Immunoresearch Lab))が加えられ、暗所にて4℃で1時間インキュベートされた。細胞は次に1回洗浄され、1XPBS/1%BSA中に再懸濁され、フローサイトメトリー(BD)で解析された。蛍光強度は、定量ビーズであるQuantum(商標) MESFキット(Bangs Laboratories, Inc.)に基づいて結合した分子/細胞比率に変換される。KDはグラフパッドプリズム5を使用して計算された。
図2は完全ヒトPD-1抗体(すなわち1.7.3 hAb、1.49.9 hAb、1.103.11 hAb、1.139.15 hAb、および1.153.7 hAb)の、PD-1を発現するCHO細胞への結合を示す。ヒトPD-1に対する完全ヒト抗体はPD-1を遺伝子導入されたCHO細胞を染色するために使用され、完全ヒトPD-1抗体が約2nmol/LのEC
50で特異的にPD-1に結合することをFACS解析が示す。
【0171】
1.103.11-v2 hAbは、CDR残基でのグリコシル化のリスクを減少させるために、元の抗体1.103.11 hAb -VH(20975-VL)上の単一アミノ酸Asn93(Kabatの番号付け)をセリン残基に変異させることにより作製された。Asn93は軽鎖CDR3に位置しているのにも関わらず、コンピューター上のドッキングから作製された抗体-抗原複合体モデルは、Asn93はヒトPD-1の抗原上のいかなる残基とも直接的には接触しないことを示唆した。軽鎖CDR3の結合機能の多くは、PD-1 FGループ上のいくつかの残基と相互作用する隣接する残基Tyr91によりもたらされているようである。1.103.11-v2 hAbの、細胞に基づいた機能アッセイは、その変異がいかなる結合能にも何ら影響しなかったことを確認した(以下の実験結果ならびに
図15および16を参照)。
【0172】
1.103.11-v2 hAbのヒトPD-1への結合親和性がFACSおよびELISアッセイにより測定された。
図16は種々の緩衝液中における、PD-1を発現するCHO細胞への1.103.11-v2 hAbの結合を示し、その結合はまた、抗体が製剤緩衝液中にあるか1xPBS(pH7.4)中にあり、ヒトPD-1を発現するCHO-S細胞が2x10
5細胞/mlの密度で96ウェルU字底プレート(BD)の中へ移されたこと以外については、上述のFACSアッセイと同じ条件下で試験された。結果は1.103.11 hAbの結果と同等であった。「緩衝液中の1.103.11-v2 hAb」は製剤緩衝液中の抗体を指し、「PBS中の1.103.11-v2 hAb」は1xPBS、pH7.4中の抗体を指す。抗体は両方の溶液中でCHO細胞上の細胞表面PD-1に結合し、2つの条件間でヒトPD-1への親和性に大きな違いはなかった(1xPBSについてはEC50は約2.52nmol/Lであり、製剤緩衝液についてはEC50は約3.12nmol/Lであった)。
【0173】
図15はELISAで測定された、種々の溶液中の抗体1.103.11-v2 hAbのPD-1タンパク質への結合を示す。上述したものと同じELISAプロトコルに従って、1.103.11-v2 hAbのインキュベーション時間は2時間であり、2次抗体であるヤギ抗ヒトIgG FcHRP(1:5000、Abcam)のインキュベーション時間は1時間であった。「緩衝液中の1.103.11-v2 hAb」は製剤緩衝液中の抗体を指し、「PBS中の1.103.11-v2 hAb」は1xPBS(pH7.4)中の抗体を指す。ヒトPD-1への結合親和性は両方の条件で示された。
【0174】
ヒトPD-1を発現するCHO細胞は異なる濃度のPD-1に対する抗体とともにインキュベートされ、次にマウスFcにタグ付けされたヒトPD-L1が細胞に加えられた。ヒトPD-L1のPD-1発現細胞への結合は、FITCをコンジュゲートされたヤギ抗マウスIgGを使用し、続いてFACS解析を行うことで検出された。
図4に示されるように、PD-1に対する抗体は、PD-1を遺伝子導入されたCHO細胞へのPD-L1の結合を阻害した。1.103.11-v2 hAbもまた、PD-1を遺伝子導入されたCHO細胞へのPD-L1の結合の阻害について試験され、結果は1.103.11 hAbと同等であった。
【0175】
3.2 表面プラズモン共鳴(SPR)により試験された全体キネティック結合親和性:ProteOn XPR36(バイオ・ラッド)を使用したSPRアッセイによりPD-1への親和性と結合キネティクスについて抗体を特性決定した。プロテインAタンパク質(シグマ)がアミン結合を通じてGLMセンサーチップ(バイオ・ラッド)に固定化された。精製された抗体はセンサーチップ上に流されてプロテインAにより捕捉された。チップは90°回転され、ベースラインが安定になるまでランニング緩衝液(1XPBS/0.01% Tween20、バイオ・ラッド)を用いて洗浄された。5種類の濃度のヒトPD-1およびランニング緩衝液が、240秒間の会合段階、続く600秒間の解離の間に100μL/分の流速で、抗体フローセルに対して流された。チップは各ランの後にpH1.7 H
3PO
4を用いて再生された。会合曲線と解離曲線は、ProteOnソフトウェアを使用して1:1ラングミュア結合モデルにフィットされた。
【0176】
図7に示されるように、表面プラズモン共鳴を使用して、PD-1に対する抗体の組換えヒトPD-1への親和性は、3.76E-9から1.76E-10ml/Lまでであった。1.103.11-v2 hAbの親和性は1.103.11 hAbの親和性と同等であると期待される。
【0177】
3.3 オルソログ(異種間交差)とホモログ(ファミリー間交差)のスクリーニング:
【0178】
3.3.1 カニクイザルPD-1およびマウスPD-1への交差反応性:交差反応性はELISAにより測定された。プレート(Nunc)が、一晩4℃にて1μg/mlのカニクイザルPD-1(Sino Biological)およびマウスPD-1(Sino Biological)でコートされた。ブロッキングおよび洗浄の後、1μg/mlの抗体がプレートに加えられ室温で1時間インキュベートされた。プレートは次に洗浄され、その後2次抗体であるヤギ抗ラットIgG1 HRP(Benthyl)およびヤギ抗ラットIgG2b HRP(Benthyl)で45分間インキュベートされた。洗浄後、TMB基質が加えられ、2M HClにより相互作用が停止された。450 nmでの吸光度がマイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス)を使用して読み取られた。
【0179】
異種間交差実験の結果は、PD-1に対する抗体はカニクイザルのサルPD-1には結合するがマウスPD-1には結合しないことを示す(
図6)。同じ実験で1.103.11-v2 hAbは1.103.11 hAbと同等な結果を示すと予測される。
【0180】
3.3.2 PD-1ファミリーメンバーCD28、CTLA4およびICOSへの交差反応性:完全ヒト抗体のファミリー間結合活性を調べるために、PD-1、CD-28、CTLA4またはICOSを発現する細胞系が当該抗体で染色され、続いてFITCコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG Fcで2次抗体染色を行った。PD-1発現細胞が陽性対照として使用された。対応する親細胞系が陰性対照として使用された。染色された細胞はBD Biosciences FACSCanto IIおよびFlowJo Versionソフトウェアを使用して解析された。
【0181】
図5はPD-1、CD28を遺伝子導入されたCHO細胞およびCTLA4を遺伝子導入された293FがPD-1に対する抗体で染色されFACSにより解析されたことを示す。結果は、PD-1抗体はPD-1に特異的に結合するが、PD-1ファミリーのCD28およびCTLA4には結合しないことを示す。同じ実験で1.103.11-v2 hAbは1.103.11 hAbと同等な結果を示すと予測される。
【0182】
3.4 エピトープビン試験
3.4.1 PD-1抗体の結合エピトープは、ProteOn XPR36(バイオ・ラッド)を使用したSPRアッセイにより基準抗体AおよびBに対してビン決定を行った。基準抗体AおよびBは、アミンカップリングを通じてGLCセンサーチップ(バイオ・ラッド)上に固定化された。ヒトPD-1溶液は抗体固定化流路上に流され、基準抗体に捕捉された。チップは次に90°回転され、ベースラインが安定になるまでランニング緩衝液により洗浄された。選択された抗体はセンサーチップ上に流された。
【0183】
3.4.2 PD-1抗体の結合エピトープは、FACSにより基準抗体AおよびBに対してビン決定を実施された。細胞表面にヒトPD-1を発現するCHO細胞が1時間、10μg/ml濃度の基準抗体AおよびBとともにインキュベートされた。細胞は洗浄され、本開示のPD-1抗体が加えられ1時間インキュベートされた。2次抗体である抗ラットIgG-FITCが加えられ、4℃で1時間インキュベートされた。細胞は次に1回洗浄され、1XPBS/1%BSA中に再懸濁され、フローサイトメトリー(BD)により解析された。
【0184】
ビン試験に関するSPRアッセイおよびFACSの結果は、完全ヒトPD-1抗体(すなわち1.7.3 hAb、1.49.9 hAb、1.103.11 hAb、1.139.15 hAb、および1.153.7 hAb)によって結合されるヒトPD-1上のエピトープは、既存のPD-1抗体(すなわち基準抗体AおよびB)とは異なっていたことを示した。同じ実験における1.103.11-v2 hAbは1.103.11 hAbと同等な結果を示すと予測される。
【0185】
3.5 細胞に基づいたアッセイにより試験されたPD-1抗体のin vitroの機能
【0186】
3.5.1 ヒトPD-1抗体のT細胞増殖に対する効果。同種異系反応が、PD-1抗体のTリンパ球増殖に対する影響を試験するために使用された。樹状細胞(DC)で刺激した1次MLRが、96ウェルU字底組織培養プレートにて、10%FCSおよび抗生物質を含む200μlのRPMI 1640中で実施された。DCは、1X10
5個の同種のトータルCD4
+T細胞と、1:10〜1:100のDC:T細胞比率で混合された。培養はまた中和モノクローナル抗体:ヒトPD-1抗体および基準抗体AおよびBの存在下または非存在下で行われた、10μg/mlで使用された。アッセイは5日間インキュベートされ、最後の16時間は[
3H]チミジンが1 uCi/ウェルで加えられた。[
3H]チミジン取り込みはシンチレーション測定により測定され、増殖反応が3つ組ウェルの平均[
3H]チミジン取り込み(1分間当たりの計測値)として表された。DC単独に起因する計測値は常に1000cpm未満だった。示された結果は、最低5回実施された実験の代表例である。
【0187】
上記の同種MLRで使用されたヒト樹状細胞(DC)ならびにCD4
+T細胞、CD8
+T細胞およびトータルの細胞は以下の手順によりPBMCから作製された:ヒト単球は、製造者(StemCell Meylan)の指示に従いヒト単球濃縮カクテルキットを使用したネガティブセレクションによりPBMCから精製された。手短に述べれば、PBMCはフィコール-パック勾配を使用して健常なドナーの血液から単離された。細胞はPBSで2回洗浄され、次に単離緩衝液中で1X10
8細胞/mlで再懸濁され、4℃にて30分間、単球濃縮抗体混合液とともにインキュベートされた。細胞は洗浄され、その後4℃にて30分間、磁性コロイドとともにインキュベートされた。未標識の単球はMACSカラムを通過して回収された。iDCを作製するために、単球は2X10
6細胞/mlの濃度で、GM-CSF(PeproTech、Rocky Hill、NJ;800U/ml)およびIL-4(PeproTech;500U/ml)とともに、10%FCSおよび抗生物質を含むRPMI 1640培地中で培養された。培地の半分がGM-CSFおよびIL-4を含む培地で1日おきに取り換えられた。5日目にさらに24時間、LPS(026: B6;シグマ アルドリッチ、St. Louis、MO;1μg/ml)でiDCを刺激することにより、成熟DCが作製された。CD4
+T細胞、CD8
+T細胞およびトータルT細胞は、製造者の指示(Stemsep)に従いPBMCをヒトCD4
+T細胞、CD8
+T細胞およびトータルT細胞の濃縮混合物および磁性コロイドとともにインキュベートすることによるネガティブセレクションにより精製された。
【0188】
ヒトCD4
+T細胞は、PD-1抗体1.7.3 hAb、1.49.9 hAb、1.103.11 hAb、1.139.15 hAb、および1.153.7 hAbの存在下または非存在下において同種DCで刺激された。CD4
+T細胞の増殖は、[
3H]チミジン取り込みにより調べられた。
図10は、1.7.3 hAb、1.49.9 hAb、1.103.11 hAb、1.139.15 hAb、および1.153.7 hAbが濃度依存的なT細胞増殖を増強したことを示した。同じ実験における1.103.11-v2 hAbは1.103.11 hAbと同等な結果を示すと予測される。
【0189】
3.5.2 in vitroでのサイトカインIFNγ分泌に対するヒトPD-1抗体の効果:サイトカインIFNγ産生へのヒトPD-1抗体阻害の効果を直接的に調べるために、我々は、同種MLRにおけるIFNγ産生に関する実験を実施した。手短に述べれば、ヒトCD4
+T細胞は、製造者の指示に従いCD4
+T細胞濃縮カクテルキットを用いたネガティブセレクションによりPBMCから精製された。未成熟DCはGM-CSFおよびIL-4中で5日間培養することにより単球から作製され、成熟DCは1μg/mlのLPSで一晩刺激することにより分化された。CD4
+T細胞は、10:1〜100:1のT細胞:DC比率でのiDC/mDcとの混合物である。培養は、ヒトPD-1抗体および基準抗体の存在下または非存在下で行われた。5日後、各培養液からの上清がサイトカインIFNγ測定のために回収された。上清におけるIFNγのレベルはELISAアッセイにより測定された。手短に述べれば、コーティング緩衝液中に希釈された抗ヒトIFN-ガンマモノクローナル抗体(0.75μg/ml;すなわち1/1360倍希釈)を50μl/ウェル(すなわち全96ウェルプレートに対しては5mlのコーティング緩衝液に3.7μlの抗体を加える)で用い、4℃で一晩インキュベートしてMaxisorpプレートをコートする。200μl/ウェルのブロッキング緩衝液を加えて2時間置くことにより余ったタンパク質結合能力を封鎖する。標準液として機能するように組換えIFN-ガンマの希釈系列を、8000pg/mlから125pg/mlまでの2倍希釈で、完全培地中の希釈で調製し、加えて完全培地単独のものも準備する。プレートを洗浄して標準液と試験上清を加え(100μl/ウェル)、2〜4時間インキュベートする。ブロッキング緩衝液中のビオチン化抗IFN-ガンマモノクローナル抗体(1/1333)が加えられ、続いてExtra-アビジンペルオキシダーゼが加えられた。反応はTMB基質を加えることにより開始され、2M HClにより停止された。450nmでの吸光度を測定する。
【0190】
図9はヒトCD4
+細胞が抗体1.7.3 hAb、1.49.9 hAb、1.103.11 hAb、1.139.15 hAb、および1.153.7 hAbの存在下または非存在下で同種DCで刺激されたことを示す。IFNγのレベルはELISAにより測定された。結果は、完全ヒトPD-1抗体が、用量様式でIFNγ分泌を増加したことを示した。同じ実験における1.103.11-v2 hAbは1.103.11 hAbと同等な結果を示すと予測される。
【0191】
3.5.3 ヒトPD-1抗体のインターロイキン2(IL-2)のin vitro産生に対する効果:CD4
+T細胞は、10:1〜100:1のT細胞:DC比率でのiDC/mDcとの混合物である。培養は、ヒトPD-1抗体および基準抗体の存在下または非存在下で実施された。5日後、各培養液からの上清がサイトカイン測定のために回収された。上清におけるIL-2のレベルはELISAアッセイにより測定された。
【0192】
図8は、ヒトCD4
+T細胞がリード抗体または対照抗体の存在下または非存在下で同種DCで刺激されたことを示す。IL-2のレベルはELISAにより測定された。結果は、PD-1に対する抗体は用量依存的な様式でIL-2分泌を増加させたことを示した。同じ実験における1.103.11-v2 hAbは1.103.11 hAbと同等な結果を示すと予測される。
【0193】
3.5.4 自己抗原特異的免疫反応による、ヒトPD-1抗体の細胞増殖およびサイトカイン産生への効果:このアッセイでは、T細胞およびDCは同じドナーに由来する。手短に述べれば、CD4
+T細胞はPBMCから精製され、CMV pp65ペプチドおよび低い用量のIL2(20U/ml)の存在下で培養され、一方同時に、DCはGM-CSFおよびIL-4中で同じドナーのPBMCに由来する単球の培養により作製された。5日後、CMV pp65ペプチドで処理されたCD4
+T細胞は、ヒトPD-1抗体および基準抗体(対照として)の存在下または非存在下でpp65ペプチドでパルスしたDCと共培養された。5日目に、サイトカインIFNγおよびIL-2の測定のために各培養液から100μlの上清が取り出された。IFNγおよびIL-2産生のレベルはELISAアッセイにより検出された。CMV pp65ペプチドでパルスされたDCに特異的なT細胞の増殖は、[
3H]チミジン取り込みにより調べられた。
【0194】
図11に示されるように、PD-1抗体は、CMV pp65ペプチドをロードした自己DCで刺激されたCMV
+-CD4
+T細胞の濃度依存的な増殖を増強した。同じ実験における1.103.11-v2 hAbは1.103.11 hAbと同等な結果を示すと予測される。
【0195】
3.5.5 制御性T細胞(Treg)の抑制機能に対するヒトPD-1抗体の効果:T細胞のサブ集団である制御性T細胞(Treg)は鍵となる免疫調節因子であり、自己寛容を維持する上で鍵となる役割を果たす。制御性T細胞の数の上昇は、複数のがんを患う患者で見られ、より悪い予後と関連しているため、CD4
+CD25
+制御性T細胞は腫瘍と関連している。免疫抑制反応へのヒトPD-1抗体の効果を直接的に調べるために、我々は制御性T細胞に関する実験を行った。CD4
+CD25
+およびCD4
+CD25
-T細胞が、特異的抗CD25マイクロビーズ(Miltenyi Biotec、Auburn、CA)および、それぞれポジティブまたはネガティブセレクションを使用して分離された。まず、製造者の指示(Stemsep)に従いPBMCをヒトCD4
+T細胞濃縮混合物および磁性コロイドとともにインキュベートすることによるネガティブセレクションによりCD4
+T細胞を精製した。CD4
+T細胞は次にMACS緩衝液に再懸濁され、30分間氷上でCD25+マイクロビーズとともにインキュベートされ、洗浄され、カラムにロードされた。カラムに結合しなかったCD4
+CD25
-T細胞はフロースルーから回収され、使用前に洗浄された。CD4
+CD25
+細胞はその後カラムから回収され使用前に洗浄された。制御性T細胞はCD4
+CD25
-T細胞およびDC(制御性T細胞:Teffは1:1の比率)とともに、10μg/ml濃度のヒトPD-1抗体の存在下または非存在下で培養された。抗体の無い条件またはアイソタイプ抗体のいずれかが陰性対照として使用された。ELISAによるサイトカイン検出のために5日目に培養液の上清が取り出され、細胞増殖は[
3H]チミジンを1uCi/ウェルの濃度で加え、さらに18時間インキュベートすることで測定された。[
3H]チミジン取り込みはシンチレーション測定により測定された。
図12に示されるように、PD-1抗体は制御性T細胞の抑制機能を抑制し、反応するT細胞の増殖およびIFNγ分泌を回復させた。同じ実験における1.103.11-v2 hAbは1.103.11 hAbと同等な結果を示すと予測される。
【0196】
3.6 ADCC/CDCアッセイ:健常なPD-1
+細胞への望ましくない毒性を最小化するために、選択された抗PD-1完全ヒト抗体はADCCおよびCDC機能を持たないことが確認された。
【0197】
3.6.1 ADCC:高いレベルの細胞表面PD-1を発現する活性化T細胞が標的細胞として使用され、96ウェルプレート中で30分間、様々な濃度の完全ヒト抗体とともに事前にインキュベートされ、次にIL-2により活性化されたPBMC(ナチュラルキラー(NK)細胞、すなわちエフェクター細胞の源として使用される)が50:1のエフェクター/標的比率で加えられた。プレートは5%CO
2インキュベーター中で37℃にて6時間インキュベートされた。標的細胞の溶解は細胞傷害性検出キット(ロシュ)により決定された。光学密度はモレキュラーデバイスSpectraMax M5eプレートリーダーにより測定された。結果は、試験されたPD-1に対する完全ヒト抗体はADCCを媒介しなかったことを示した(
図13)。同じ実験における1.103.11-v2 hAbは1.103.11 hAbと同等な結果を示すと予測される。
【0198】
3.6.2 CDC:標的細胞(活性化T細胞)、希釈されたヒト血清補体(Quidel-A112)および様々な濃度の完全ヒトPD-1抗体が96ウェルプレート中で混合された。プレートは5%CO
2インキュベーター中で37℃にて4時間インキュベートされた。標的細胞の溶解はCellTiter glo(プロメガ-G7573)により決定された。リツキサン(ロシュ)およびヒトリンパ球細胞系Raji(CD20陽性)が陽性対照として使用された。データは、PD-1抗体はCDCを媒介しなかったことを示した(
図14)。同じ実験における1.103.11-v2 hAbは1.103.11 hAbと同等な結果を示すと予測される。
【0199】
〔実施例4:完全ヒト抗体のエピトープマッピング〕
本明細書で提供される本発明の抗体1.103.11 hAbと公知のhPD-1抗体であるキイトルーダとの間のエピトープの違いを決定するために、hPD-1に関するアラニンスキャニング実験および抗体結合への効果の評価が1.103.11 hAb、キイトルーダおよび11.148.10(1.103.11 hAbのエピトープまたはキイトルーダのエピトープと重ならないエピトープに結合する対照hPD-1抗体)を使用して行われた。
【0200】
hPD-1のアラニン残基はグリシンのコドンに変異させられ、すべての他の残基はアラニンのコドンに変異させられた。hPD-1の細胞外ドメイン(ECD)の各残基について、2つの連続したPCRステップを使用して点アミノ酸置換が行われた。ヒトPD-1およびC末端HisタグをコードするpcDNA3.3-hPD-1_ECD.Hisプラスミドが鋳型として使用され、QuikChange lightning multi-site-directed変異導入キット(アジレント・テクノロジーズ、Palo Alto、Ca)を使用し、変異導入用プライマーのセットが第一ステップPCRに使用された。DpnIエンドヌクレアーゼが変異鎖合成反応後に親鋳型を消化するために使用された。第2ステップPCRでは、CMVプロモーター、PD-1の細胞外ドメイン(ECD)、Hisタグおよび単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)ポリアデニレーションから構成される直鎖DNA発現カセットが増幅され一過的にHEK293F細胞(ライフテクノロジーズ、Gaithersburg、MD)で発現された。
【0201】
モノクローナル抗体1.103.11 hAb、キイトルーダおよび11.148.10 hAbはELISA結合アッセイ用にプレート中にコートされた。定量されたPD-1変異体を含む上清と相互作用した後に、HRPコンジュゲート抗His抗体(Rockland、Cat#200-303-382)が検出抗体として加えられた。吸光度は対照変異体の平均に従い標準化された。結合のフォールド変化に追加的なカットオフ値(0.55以下)を設定した後に、最終的に決定されたエピトープ残基が同定された。
【0202】
抗体結合を有意に減少させた上位30個の点置換hPD-1変異体が表6に示された。hPD-1結晶構造(PDBコード3RRQおよび4ZQK)上でのすべてのこれらの残基の位置を調べたところ、いくつかのアミノ酸(例えば、Val144、Leu142、Val110、Met108、Cys123など)がタンパク質中に完全に埋まっており、いかなる抗体とも直接的に接触しそうになかった。観察された結合の減少は、アラニン置換後のhPD-1構造の不安定性またはさらには崩壊によって生じた可能性が最も高い。これらのデータをエピトープのホットスポットとして誤って解釈することを避けるために、我々は、抗原上の全く異なる場所に結合するが、hPD-1構造の崩壊が実際に起きるのであればその崩壊に反応すると予想される対照抗体11.148.10 hAbを利用した。両方の抗体に影響する変異体は偽ホットスポットとして扱われ、リストから除外された。結合倍率変化に追加的なカットオフ値(0.55以下)を設定した後に、最終的に決定されたエピトープ残基が表3にリストされた。それらは1.103.11 hAbには9箇所であり、キイトルーダには5箇所であり、対照抗体11.148.10 hAbには10残基であった。
【0203】
【表2】
【0204】
【表3】
【0205】
表3において1.103.11 hAbおよびキイトルーダのエピトープ残基を比較すると、2個の重なったホットスポット残基のみが明らかになった。残りは全く異なっているように見え、そのことは、2つの抗体はhPD-1結合とhPD-L1阻害に関して全く異なる機構を採用しているかもしれないことを示した。表3の残基番号を読むことはその機構を解釈する上で分かりやすくはない。故に、よりよく視覚化し比較するために、表3のすべてのデータは、hPD-L1結合サイトとともに、hPD-1結晶構造上にマップされた(
図17)。
【0206】
図17に示されるように、hPD-L1結合を担うホットスポット残基はすべてC、FおよびG鎖の中央に集まった(
図17A)。2つの検証を行われた抗体1.103.11 hAbおよびキイトルーダは、両方ともhPD-1に結合しhPD-L1を阻害する上では機能的であるにも関わらず、明らかに異なるエピトープを有する(
図17Bは1.103.11 hAbについて示し、
図17Cはキイトルーダについて示す)。キイトルーダのエピトープには、PD-L1結合サイトと全く交わらなかったC'Dループ(mPD-1のC''鎖に対応する)上の残基が主に寄与する。このことはキイトルーダのhPD-L1阻害機能は抗体のサイズにより提供される立体障害効果により大きく依存していたことを示唆した。対照的に、我々のリード抗体1.103.11 hAbは複数の場所にまたがって分布するホットスポットから構成されており、hPD-L1結合部位と直接的な重なりを有する(
図17A、17B)。本発明の1.103.11 hAbは、共通の結合部位に反応する際にhPD-L1よりも優位に立つことにより、hPD-L1を阻害した。1.103.11 hAbは故にその後の開発においてより機能的であると予測される。
【0207】
しかし、抗体11.148.10 hAbは2個の機能的な抗体と完全に異なる場所(
図17D)に結合し、このことはこの抗体自体がアラニン置換を実施するに当たりhPD-1の機能性を測定するのに良い対照抗体であることを確認した。
【0208】
本開示は特に具体的な実施形態(そのいくつかは好ましい実施形態である)に言及しながら示され説明されている一方で、本明細書に開示される本開示の趣旨と範囲から逸脱することなくその中で形態や詳細の様々な変更をなし得ることが当業者に理解されるはずである。