(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
HEV/EVや電車等の電力制御にパワー半導体モジュールが使用されている。パワー半導体モジュールは、例えばスイッチング素子、IGBT、MOSFETなどのパワー半導体を実装するための電気回路及び絶縁放熱基板、冷却部材、筺体で構成される。パワー半導体モジュールは、大電力制御を行うため高発熱であり、また、冷熱サイクル環境下で使用される。それゆえ、パワー半導体を実装する絶縁放熱基板には、電気絶縁性、放熱性に加え、冷熱サイクルに対する信頼性(耐久性)が要求される。
【0003】
従来、絶縁放熱基板としては、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、窒化珪素基板などに薄銅板を直接接合したDCB基板が広く知られている。また、拡散接合法によって窒化珪素基板と銅板とを接合する態様も、すでに公知である(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、あるいは窒化珪素基板などのセラミックス基板と薄銅板とを、活性金属を含むロウ材(接合材)を用いて形成される接合層を介して接合してなるAMB基板も、絶縁放熱基板として広く知られている。AMB基板としては、接合層の形成に際しAgを含むろう材を用いるもの(例えば、特許文献1および特許文献2参照)、および、Agを含まないろう材を用いるもの(例えば、特許文献3および特許文献4参照)が、いずれも公知である。
【0005】
また、ろう材による絶縁基板と金属板(回路基板)との接合の手法として、加熱加圧接合がすでに公知である(例えば、特許文献5ないし特許文献9参照)。
【0006】
近年、パワー半導体モジュールに対しては、出力密度の向上や小型化が要求されるようになってきている。係る要求を受けて、パワー半導体モジュールに用いる絶縁放熱基板については、放熱性と小型化とを両立させる目的で、銅板を厚板化することが検討されている。
【0007】
しかし、厚銅板を用いる場合、銅とセラミックスとの熱膨張差に起因して銅板とセラミックス基板との接合端部に発生する熱応力が大きくなり、セラミックス基板と銅板とを接合する際の熱処理で発生する残留熱応力と実使用時の温度変化により生じる繰り返し熱応力とによって、セラミックス基板にクラックが発生する問題が生じる。
【0008】
本発明の発明者は、鋭意検討の結果、Agを含むろう材を用いて接合層を形成してなるAMB基板においては、銅板と接合層との界面近傍におけるAgの存在形態が冷熱サイクルに対する信頼性に影響を及ぼすことを、見出した。
【0009】
特許文献1、特許文献2、および、特許文献5ないし特許文献9のいずれにも、AMB基板における銅板と接合層との界面近傍におけるAgの存在形態と、冷熱サイクルとの関係について、何らの開示も示唆もなされてはいない。
【0010】
例えば、特許文献1は、空隙等の欠陥の少ないろう材はみ出し部を設けることによって耐熱サイクルの向上を図る技術を開示するに過ぎない。
【0011】
また、特許文献2は、窒化珪素基板自体の組成および粒界の数を調整することで耐熱サイクル性を向上させる技術を開示するに過ぎない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<接合基板の概要>
図1は、本発明の実施の形態に係る接合基板10(10A、10B)の断面構成を模式的に示す図である。接合基板10は、例えばスイッチング素子、IGBT、MOSFETなどの図示しないパワー半導体を含むパワー半導体モジュールにおいて、該パワー半導体が実装される基板である。
【0024】
接合基板10は、概略、セラミックス基板1の一方主面に接合層2を介して銅板3が接合された構成を有する。係る接合基板10は、セラミックス基板1の一方主面上に少なくともAg、Tiを含むペースト状のろう材を塗布した後、該ろう材の塗布面に銅板3を重ね合わせ、真空下もしくはAr雰囲気下で加熱および加圧することによって(真空下もしくはAr雰囲気下での加熱加圧接合によって)得られる。換言すれば、接合基板10は、接合層2が相異なる界面においてセラミックス基板1と銅板3との双方に隣接する構成を有する。
図1においては、セラミックス基板1と接合層2とが界面I1をなし、接合層2と銅板3とが界面I2をなすものとしている。
【0025】
セラミックス基板1としては、窒化珪素(Si
3N
4)基板や窒化アルミニウム(AlN)基板などの窒化物セラミックス基板が例示される。本発明を実現するうえにおいては、セラミックス基板1の平面形状やサイズに特段の制限はないが、パワー半導体モジュールの小型化を図るという観点からは、一辺が20mm〜70mm程度で厚みが0.1mm〜1.0mmの平面視矩形状のセラミックス基板1が例示される。
【0026】
銅板3は、セラミックス基板1の平面サイズと同じ平面サイズを有していてもよく、あるいは、セラミックス基板1よりもわずかに小さい平面サイズを有していてもよい。
図1に示す構成は、前者の場合に相当する。後者の場合、セラミックス基板1の外縁部は銅板3が接合されずに露出することになる。一方、厚みについては、パワー半導体モジュールの小型化を図るという観点からは、0.5mm〜2.0mm程度であることが好ましい。
【0027】
より詳細には、パワー半導体は接合基板10を構成する銅板3の非接合面(接合層2が存在する側とは反対側の主面)上に実装される。係る場合において、銅板3はそれ自体に電気回路パターンが形成されてなる回路基板として用意され、該電気回路パターン上にパワー半導体が実装される態様であってよい。ただし、以降の説明においては、このような電気回路パターンが形成されてなる回路基板も含め、単に銅板3と総称する。
【0028】
接合層2は、TiNを主成分とする層である。係る接合層2のTiNは、上述した加熱加圧接合の過程において、ろう材中に活性金属として含まれるTiと、セラミックス基板1を構成するNとから生成される。接合層2は、概ねサブミクロンオーダーから数μm程度の厚みを有して形成されるが、セラミックス基板1と銅板3の表面凹凸に比して厚みが小さい等の理由から必ずしも一様な厚みに形成されるものではなく、場所によるばらつき(層内ばらつき)があってもよい。
【0029】
<接合部分の詳細と接合基板の特性>
図2および
図3は、本実施の形態に係る接合基板10(10A、10B)の接合層2と銅板3との界面領域における微細構造を模式的に示す断面図である。
【0030】
一方、
図4は、対比のために示す、本実施の形態に係る接合基板10とは異なる構成を有する接合基板20の断面構成を、模式的に示す図である。そして、
図5は、接合基板20の接合層2から銅板3に至る界面領域における微細構造を模式的に示す断面図である。
【0031】
接合基板10と接合基板20はいずれも、セラミックス基板1と銅板3とを、Tiに加えてAgを含むろう材を用いて加熱加圧接合することで得られるものであるが、その際の接合条件を違えることで、作り分けられるものである。
【0032】
なお、ろう材としては、低融点化のためにCuやSn、In等が添加されたもの、また、それらの合金粉末に、Tiを加えたものを用いることができる。例えば、Ag−Cu−Ti系のろう材としては、Ag、Cu、Tiをそれぞれ組成重量比で30〜70%、0〜40%、0.1〜20%なる範囲で含有するものが例示され、これらの組成範囲を充足する市販のものを用いることも可能である。
【0033】
接合基板10においては、
図1に示すように接合層2と銅板3とが直接に接するものとなっている。
【0034】
加えて、
図1の概略図においては省略しているが、接合基板10においては、
図2および
図3においてドットにて模式的に示すように、銅板3内の、少なくとも接合層2との界面I2近傍に、Ag原子が分布している。Ag原子は、界面I2から遠くなるほど(銅板3の非接合面に近づくほど)濃度が小さくなる態様にて分布している。なお、
図2および
図3においては、Ag原子の存在比率が大きい領域ほどドットが密であるように表している。
【0035】
セラミックス基板1と銅板3とをろう材を用いて接合するという接合基板10の作製過程と、銅板3におけるAg原子の分布態様とを鑑みれば、銅板3内に存在するAg原子は、そもそもはろう材に含有されていたものが、加熱加圧接合の過程において固体状態の銅板3へと拡散した(固溶した)ものに他ならない。
【0036】
これはすなわち、本実施の形態に係る接合基板10を得るための加熱加圧接合が、セラミックス基板1と銅板3との間にTiNを含む接合層2が形成されるとともに、銅板3の少なくとも接合層2との界面I2近傍にAg分布領域3dが形成される条件でなされることを意味する。ただし、Ag分布領域3dにおけるAg原子の存在比率(固溶比)は最大でも15at%に留まる。
【0037】
Agの方がCuよりも熱伝導率が高いことから、銅板3におけるAg分布領域3dの形成は、接合基板10の熱抵抗を低減し、放熱性を向上させる効果がある。
【0038】
一方、接合基板20は、銅板3にAg分布領域3dが形成される点では接合基板10と共通するが、接合層2と銅板3とが直接に界面を構成せず、両者の間に副接合層ともいうべきAg−Cu層(Ag−Cu合金からなる層)6が介在している点で接合基板10と相違している。Ag−Cu層6は、接合層2の略全面に形成されてなる。Ag−Cu層6は、Agリッチ相とCuリッチ相の両方、もしくはどちらか1つから成る。Agリッチ相はAgが80%以上で残部がCuというAg−Cu合金であり、Cuリッチ相はCuが80〜96%で残部がAgというAg−Cu合金である。Agリッチ相とCuリッチ相の組成はともに、ろう材添加剤(SnやInなど)を含む場合は前述の組成比から変わり得る。
【0039】
なお、Ag原子の分布状態、すなわち銅板3におけるAgの拡散やAg−Cu層6の存在の有無などは、例えばEPMAにて接合基板10および20の断面を対象に組成分布を分析することなどによって、確認することができる。
【0040】
確認的にいえば、銅板3におけるAg分布領域3dは、加熱加圧接合の過程においても固体状態を保っている銅板3に対しろう材中のAgが拡散することによって形成される領域であるので、結晶格子のマトリックスはあくまでCu原子によって構成され、Agの含有率は微量である。これに対し、Ag−Cu層6は、加熱加圧接合の過程においてAg原子とCu原子とが合金化することによって生じるものであって、上述のように、Agリッチ相とCuリッチ相の両方、もしくはどちらか1つから成る。それゆえ、Ag−Cu層6の結晶格子(Ag原子とCu原子の配置)は、合金組成に応じたものとなる。すなわち、Ag−Cu層6と銅板3におけるAg分布領域3dとは、形成過程及びその組成比が異なる。
【0041】
上述のような接合基板10と接合基板20の構成上の相違は、接合基板20が形成される接合条件が、接合基板10が形成される接合条件とは異なることを意味する。
【0042】
そして、係る接合基板10と接合基板20の構成上の相違は、両者の冷熱サイクルに対する信頼性に対し、差異を与えるものとなる。
【0043】
一般に、セラミックス基板と他の部材とを接合してなる接合基板において、セラミックス板とセラミックス板に沿って存在する他の部材との熱膨張率に差がある場合、接合基板に温度変化を与えると、セラミックス板と他の部材との熱膨張に差が生じて熱応力が発生する。このような接合基板に対し冷熱サイクルを印加し続けると、この熱応力が繰り返し発生し、どこかの時点でセラミックス基板に材料破壊が生じてクラックが発生することになる。
【0044】
接合基板10と接合基板20についてみれば、両者はまず接合層2とセラミックス基板1とが隣接する構成において共通するが、接合層2はセラミックス基板1とほぼ同程度の熱膨張率を有するために、接合基板10と接合基板20のいずれにおいても、接合層2とセラミックス基板1との間には熱応力はほぼ発生しない。接合層2の厚みはセラミックス基板1に比べて十分に小さいことも踏まえると、熱応力を考察するうえにおいては、接合基板10と接合基板20の双方ともに、接合層2はセラミックス基板1と同一視することができる。
【0045】
一方、接合基板10において接合層2と隣接するのは銅板3であるのに対し、接合基板20において接合層2と隣接するのはAg−Cu層6である。そして、銅板3とAg−Cu層6とはいずれも、セラミックス基板1とは異なる熱膨張率を有している。それゆえ、接合基板10においては銅板3とセラミックス基板1との間に熱応力が発生し、接合基板20においてはAg−Cu層6とセラミックス基板1との間に熱応力が発生すると捉えることができる。
【0046】
この点から接合基板10と接合基板20とを対比すると、銅板3の方がAg−Cu層6よりも機械変形的な耐力低い(降伏応力が小さい)ため、接合基板10においてセラミックス基板1と銅板3との熱膨張差に起因して生じる熱応力は、接合基板20においてセラミックス基板1とAg−Cu層6の熱膨張差に起因して生じる熱応力よりも、小さくなる。これにより、同じように冷熱サイクルを印加した場合、本実施の形態に係る接合基板10の方が、接合基板20よりも、セラミックス基板1においてクラックが発生しにくい、ということができる。
【0047】
このことは、Ag、Tiを含むろう材を用いつつもAg−Cu層を介在させない態様にてセラミックス基板1と銅板3とを接合してなる本実施の形態に係る接合基板10は、Ag−Cu層6が介在するように構成された接合基板20よりも、冷熱サイクルに対する信頼性が高いものである、ということを意味する。
【0048】
係る接合基板10についてさらにいえば、接合基板10を構成するセラミックス基板1および銅板3の表面には通常、微細な凹凸がランダムに存在することから、ろう材による接合の結果として両者と接合層2との間に形成される界面I1、I2も微視的にはランダムな凹凸を有するものとなっている。
【0049】
加えて、より詳細には、
図2に示すように、接合層2と銅板3との界面I2にボイド4が離散的に存在する場合がある。以下、係る態様にてボイド4が存在する接合基板10を特に接合基板10Aと称する。
【0050】
あるいは、
図3においてハッチングにて示すように、界面I2にAgリッチ相5が離散的に存在する場合もある。以下、係る態様にてAgリッチ相5が存在する接合基板10を特に接合基板10Bと称する。ここで、Agリッチ相5とは、Agの存在比率が60at%を超え100at%以下であるAgリッチなAg−Cu合金の偏在領域である。
【0051】
ただし、Agリッチ相5は、あくまで接合層2と銅板3との界面I2にあくまで離散的に存在するという点で、接合基板20において接合層2の全面に隣接する態様にて備わるAg−Cu層6とは構造的に区別される。前者と違って、後者の場合、接合層2と銅板3とが直接に界面を構成することはない。
【0052】
接合基板10Aと接合基板10Bの構成上の相違は、両者を得るための接合条件が、Ag−Cu層6が形成されない前提のもとで異なっていることを意味する。なお、接合基板10BにおけるAgリッチ相5の形成は、異なる接合条件のもとではボイド4となり得る箇所がAgリッチ相5にて埋設されたものとも捉えることができる。
【0053】
また、係る構成上の相違は、接合基板10Aと接合基板10Bの絶縁耐圧に対し、差異を与えるものである。
【0054】
一般に、接合基板に空隙部が存在する場合、該空隙部に電界が集中し絶縁破壊の起点となるリスクが高い。それゆえ、ボイド4を内包する接合基板10Aよりも、ボイド4となり得る位置にAgリッチ相5が存在することでボイドレスな構造を有してなる接合基板10Bの方が、絶縁耐圧(絶縁破壊電圧)が大きくなる傾向がある。すなわち、接合基板10Bの方が接合基板10Aよりも、電気的な絶縁破壊に対する信頼性が高いといえる。
【0055】
このことは、Ag、Tiを含むろう材を用いつつもAg−Cu層を介在させない態様にてセラミックス基板1と銅板3とを接合することによって接合基板を得るにあたって、接合層2と銅板3との界面にAgリッチ相5を離散的に存在させることによって当該界面をボイドレスな構造とした場合には、冷熱サイクルに対する信頼性が高く電気的な絶縁破壊に対する信頼性が高い接合基板10が実現される、ということを意味する。
【0056】
なお、係る場合において、Agリッチ相5のサイズ(最大サイズ)は、接合基板10の厚み方向においては例えば0.1μm〜3μm程度であり、厚み方向に垂直な面内においては例えば0.1μm〜5μm程度である。また、厚み方向に垂直な面内におけるAgリッチ相5の面積比率は1%〜20%程度であればよく、Agリッチ相5同士の間隔は1μm〜100μm程度であればよい。
【0057】
<接合条件と基板構成との関係>
上述のように、本実施の形態に係る接合基板10(10A、10B)は、セラミックス基板1と銅板3とをAg、Tiを含むろう材を用いて加熱加圧接合することによって得られる。加熱加圧接合については公知の技術を適用することが可能であるが、少なくともAg−Cu層6が形成されない接合条件(接合雰囲気、接合温度、接合圧力、ろう材の塗布量)にて接合を行う必要がある。加えて、接合層2と銅板3との界面I2がボイドレスな構造と接合条件にて接合を行うことが好ましい。
【0058】
まず、接合雰囲気は、活性金属であるTiが酸化もしくは窒化すると、そもそも接合ができないために、真空もしくはAr雰囲気とする必要がある。
【0059】
接合圧力は5MPa以上が望ましい。接合圧力が低いほどAg−Cu層6およびボイド4が形成されやすい傾向があるからである。また、接合圧力は25MPa以下が望ましい。接合圧力が高いほどAg−Cu層6およびボイド4が形成され難い傾向にあるが、接合圧力が高すぎると接合の際にセラミックス基板1を破壊してしまうおそれがあるからである。
【0060】
接合温度は、Ag、Tiを含むろう材を用いるという点から800℃〜1000℃程度とするのが好適であるが、800℃〜1000℃の温度範囲において、接合温度は高いほどAg−Cu層6が形成され難く、低いほどAg−Cu層6が形成されやすい傾向にある。
【0061】
ろう材の塗布量(塗布厚)は、接合後に得られる接合層の厚みが0.1μm〜5μmとなるように定めるのが望ましい。塗布量(塗布厚)が多いほどAg-Cu層6が形成されやすく、塗布量(塗布厚)が小さいほどAg-Cu層6が形成され難い傾向にある。
【0062】
例えば、接合圧力を5MPa〜25MPaとし、接合温度を850℃とし、ろう材の塗布量(塗布厚)を、接合後に得られる接合層の厚みが0.1μm〜5μmとなるように定めた場合には、Ag−Cu層6が形成されない一方でAgリッチ相5が離散的に存在するボイドレスな接合基板10Bが得られる。
【0063】
これに対し、接合圧力を1MPa〜1.5MPaとし、接合温度を800℃とし、ろう材の塗布量(塗布厚)を接合後に得られる接合層の厚みが10μm〜20μmとなるように定めた場合には、Ag−Cu層6が形成されてしまう(接合基板20が得られてしまう)ことになる。
【0064】
一方、接合圧力を5MPa〜25MPaとし、接合温度を950℃とし、ろう材の塗布量(塗布厚)を接合後に得られる接合層の厚みが0.1μm〜5μmとなるように定めた場合には、Ag−Cu層6およびAgリッチ相5ともに形成されないもののボイド4が存在する接合基板10Aが得られる。これは、係る接合条件の場合、Ag原子が接合層2と銅板3の間に留まらず銅板3の中に拡散してしまうことによるものと考えられる。
【0065】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、セラミックス基板と銅板とをAg−Cu−Ti系のろう材を用いて加熱加圧接合することによって得られる接合基板を、TiNを含む接合層と銅板との間にAg−Cu層が介在しない一方で、銅板にAgが拡散させた構成とすることで、冷熱サイクルに対する信頼性が高く、かつ、放熱性の優れた接合基板を得ることができる。
【0066】
加えて、係るAg−Cu層が介在しない接合基板において、接合層と銅板との界面を、ボイドが存在せず、Agリッチ相が離散的に存在する構成とすることで、冷熱サイクルのみならず電気的な絶縁破壊に対しても信頼性が高い接合基板を得ることができる。
【0067】
<変形例>
上述の実施の形態においてはセラミックス基板1の一方主面側に銅板3が接合されることで接合基板が構成されていたが、他方主面側にも上述の実施の形態と同様の態様にて銅板3が接合されることで接合基板が構成されてもよい。つまりはセラミックス基板1の両方の主面に銅板3が接合されることで接合基板が構成されてもよい。
【実施例】
【0068】
(接合基板の作製とその構造評価)
実施例1〜実施例6として、セラミックス基板1の材質および厚みと銅板(Cu板)3の厚みとの組み合わせを種々に違えた6水準の接合基板10Aを、加熱加圧接合により作製した。
【0069】
セラミックス基板1の材質は窒化珪素(Si
3N
4)または窒化アルミニウム(AlN)とした。窒化珪素(Si
3N
4)基板については厚みを0.32mmとし、窒化アルミニウム(AlN)については厚みを0.63mmとした。また、銅板3の厚みは、セラミックス基板1が窒化珪素(Si
3N
4)基板であるものについては0.3mm、0.6mm、1mm、1.5mm、2.0mmの5水準に違え、セラミックス基板1が窒化アルミニウム(AlN)基板であるものについては0.3mmとした。
【0070】
実施例7〜実施例12として、セラミックス基板1の材質および厚みと銅板3の厚みとの組み合わせを実施例1〜実施例6と同様にした6水準の接合基板10Bを、加熱加圧接合により作製した。
【0071】
比較例1〜比較例6として、セラミックス基板1の材質および厚みと銅板3の厚みとの組み合わせを実施例1〜実施例6と同様にした6水準の接合基板20を、加熱加圧接合により作製した。
【0072】
実施例1〜実施例12および比較例1〜比較例6のいずれの場合も、加熱加圧接合に用いるろう材としては、組成重量比がAg:51%、Cu:24%、In:11%、Ti:14%であるものを用い、接合雰囲気は真空とした。
【0073】
一方、ろう材の塗布量は、実施例1〜実施例6については接合後に得られる接合層の厚みが層内ばらつき0.1μm〜3μmの範囲内に収まるように定め、実施例7〜実施例12については0.1μm〜3μmの範囲内に収まるように定め、比較例1〜比較例6については係る層内ばらつきが13μm〜20μmの範囲内に収まるように定めた。
【0074】
また、接合圧力については、実施例1〜実施例12については20MPaとし、比較例1〜比較例6については実施例1〜実施例12よりも軽荷重の1MPaとした。
【0075】
さらに、比較例7〜比較例12として、セラミックス基板1の材質および厚みと、銅板3の厚みとの組み合わせを実施例1〜実施例6と同様にする一方で、ろう材を用いる代わりに、セラミックス基板1の上にTi膜を10nm〜100nmの範囲の値にて形成し、該Ti膜と銅板3とを重ね合わせて加熱加圧接合することにより、6水準の接合基板30を得た。接合雰囲気は真空とし、また、接合温度は1000℃とし、接合圧力は20MPaとした。
【0076】
図6は、係る接合基板30の接合層7と銅板3との界面領域における微細構造を模式的に示す断面図である。
図6に示すように、接合基板30においては、セラミックス基板1と銅板3とが接合層7によって接合されてなる。また、接合基板10Aと同様、銅板3と接合層7の界面部分にはボイド4が存在する。
【0077】
実施例1〜実施例12および比較例1〜比較例12に係る接合基板のそれぞれについて、接合面に垂直に切断して得られる切断面を電子顕微鏡で観察して、接合層と銅板との間における接合層に連続するAg−Cu層の有無、およびAgリッチ相の有無を確認した。観察は、切断面の基板面内方向における左右端部と中央部との3箇所を対象に行い、観察倍率は1000倍とし、各箇所での基板面内方向における観察幅は0.1mmとした。係る場合においては、0.5μm〜3μmの厚みかつ0.5μm〜5μmの幅でAgが偏在する領域を、Agリッチ相と判定した。
【0078】
加えて、銅板3中へのAgの拡散の有無を確認するべく、切断面の各観察箇所において、接合層2との接合界面から銅板3の厚み方向10μmのエリアについてEDSで組成マッピングを実施した。
【0079】
表1に、実施例1〜実施例12および比較例1〜比較例12に係る接合基板におけるセラミックス基板および銅板(Cu板)の条件と、接合層に連続するAg−Cu層の有無と、銅板(Cu板)へのAgの拡散の有無と、Agリッチ相を、一覧にして示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示すように、実施例1〜実施例12においては接合層に連続するAg−Cu層は存在せず、銅板3にAgが拡散している点で共通したが、実施例1〜実施例6ではAgリッチ相が存在しないのに対して、実施例7〜実施例12ではAgリッチ相が存在した。
【0082】
なお、実施例1〜実施例6においては接合層と銅板との界面にボイドが存在していた。また、実施例7〜実施例12におけるAgリッチ相の分布態様は、実施例1〜実施例6におけるボイドの分布態様と類似していた。
図7は、実施例9の界面近傍についてのSEM像(上段)とTi、Ag、CuについてのEPMA元素マッピング像(下段)とを併せて示す図である。
図7からは、銅板内にAgが厚み方向に拡散しており、接合層と銅板との界面から離れるほど濃度が小さくなるように分布していることに加え、接合層と銅板との界面に局所的に偏在していること、つまりはAgリッチ相が存在していることが、確認される(Agのマッピング像で白く見える微小領域がAgリッチ相である)。係る結果は、Agリッチ相の形成が、異なる接合条件のもとではボイドとなり得る箇所において生じることを示唆するものと考えられる。
【0083】
また、比較例1〜比較例6については、接合層に連続するAg−Cu層が存在したため、Agリッチ相については判定を行わなかった。
【0084】
一方、比較例7〜比較例12については、実施例1〜実施例12と同様、接合層に連続するAg−Cu層は存在しなかったが、銅板へのAgの拡散が確認されなかった点で実施例1〜実施例12とは相違した。
【0085】
(冷熱サイクル試験)
実施例1〜実施例12および比較例1〜比較例12に係る接合基板のそれぞれについて、冷熱サイクル試験を行った。それぞれの実施例及び比較例において、試験サンプル数は5とした。試験は、各サンプルに対し−55℃(15分)/150℃(15分)の冷熱サイクルを3000cyc(サイクル)与えることにより行い、途中100cyc毎に(つまりは全30回)、実体顕微鏡による外観確認と超音波探傷とによって、接合部の剥がれおよびセラミックス基板におけるクラックの有無(以下、これらをまとめて「破壊」と総称する)について確認した。
【0086】
表2に、実施例1〜実施例12および比較例1〜比較例12に係る接合基板の全てのサンプルについての、冷熱サイクル試験において破壊が確認された評価回(何回目の評価で破壊が確認されたか)と、5つのサンプルについての平均値とを、一覧にして示す。例えば破壊が確認された評価回が29回目ということであれば、2800cyc〜2900cycの間に破壊が生じたことを意味する。また、冷熱サイクルを3000cyc与えた後の30回目の評価においても破壊は確認されなかったサンプルについては、「確認されず」と記している。
【0087】
【表2】
【0088】
表2に示すように、セラミックス基板に窒化珪素(Si
3N
4)を用いた実施例1〜実施例5および実施例7〜実施例11では、破壊が確認されたのは概ね25回目以降の評価回であり、特に、銅板3の厚みが小さい実施例1〜実施例4および実施例7〜実施例10においては、全てのサンプルにおいて、冷熱サイクルを3000cyc与えた後の30回目の評価においても破壊は確認されなかった。
【0089】
一方、セラミックス基板に窒化アルミニウム(AlN)を用いた実施例6および実施例12では、平均して16回〜17回の評価回で破壊が確認された。
【0090】
これに対し、Ag−Cu層が形成された比較例1〜比較例6では、最も遅くとも14回目の評価回までには破壊が確認され、銅板へのAgの拡散が確認されなかった比較例7〜比較例12については、遅くとも6回目の評価回までに破壊が確認された。
【0091】
以上の結果は、Ag−Cu層が介在せず、かつ銅板にAgが拡散するように構成された実施例1〜実施例12に係る接合基板10Aおよび10Bは、Ag−Cu層が介在する比較例1〜比較例6に係る接合基板20、および、銅板にAgが拡散していない比較例7〜比較例12に係る接合基板30に比して、冷熱サイクルに対する信頼性が高いことを指し示している。特に、比較例1〜比較例6との対比に関していえば、Ag−Cu層が介在しないことでセラミックス基板に発生する熱応力が低減されることの効果が、現れているといえる。
【0092】
(モジュール熱抵抗測定)
実施例1〜実施例12および比較例1〜比較例12に係る接合基板のそれぞれを対象に、熱抵抗測定を行った。評価用のサンプルとして、平面サイズが21mm×21mmのセラミックス基板の両面に平面サイズが20mm×20mmの銅板を各実施例もしくは比較例に係る条件で接合した接合基板を用意した。
【0093】
さらに、接合基板の片側中央へ8mm×8mmサイズの半導体チップをハンダ実装した。そして、半導体チップ実装面とセラミックス基板を挟んで対向するもう一方の銅板表面を、平面サイズが50mm×50mmで厚みが4mmの銅ベース板にハンダ接合し、銅ベース板を冷却板にサーマルグリスを介して設置することで、評価用モジュールを得た。
【0094】
測定はJEDECの規格JESD51−14に準拠して行った。それぞれの実施例及び比較例において、試験サンプル数は5とした。
【0095】
表3に、実施例1〜実施例12および比較例1〜比較例12に係る接合基板の全てのサンプルについての熱抵抗測定の結果と、5つのサンプルについての平均値とを、一覧にして示す。
【0096】
【表3】
【0097】
表3に示すように、セラミックス基板に窒化珪素(Si
3N
4)を用いた接合基板のうち、銅板へのAgの拡散が生じた実施例1〜実施例5、実施例7〜実施例11、および、比較例1〜比較例5では、熱抵抗の値はおおよそ0.135K/W〜0.15K/W程度であるのに対し、銅板へのAgの拡散が生じていない比較例7〜比較例11では、熱抵抗の値はおおよそ0.25K/W〜0.28K/W程度と高い傾向がある。また、係る傾向は、絶対値こそ異なるものの、セラミックス基板に窒化アルミニウム(AlN)を用いた実施例6、実施例12および比較例6(熱抵抗の値はおおよそ0.20K/W〜0.21K/W程度)と比較例12と(同0.334K/W〜0.341K/W)の間でも同様である。
【0098】
以上の結果は、銅板にCuよりも熱伝導率の高いAgを拡散させることが、接合基板の熱抵抗を低減させる効果があることを指し示している。
【0099】
(絶縁耐圧測定)
実施例1〜実施例12に係る接合基板のそれぞれを対象に、絶縁耐圧(絶縁破壊電圧)の測定を行った。それぞれの実施例において、試験サンプル数は10とした。測定は、絶縁油中において接合基板の回路面である銅板の非接合面と、放熱面であるセラミックス基板の非接合面との間に、交流電圧を印加することにより行った。
【0100】
表4に、実施例1〜実施例12に係る接合基板の全てのサンプルについての絶縁耐圧の測定結果と、10個のサンプルについての平均値および標準偏差σを、一覧にして示す。
【0101】
【表4】
【0102】
表4に示すように、接合層と銅板との界面にボイドが確認される一方でAgリッチ相が確認されなかった実施例1〜実施例6については、絶縁耐圧の平均値は最大でも8.3kV/mmであってσの値が最小で1.6kV/mmであるのに対して、接合層と銅板との界面にボイドが確認されない一方でAgリッチ相が確認された実施例7〜実施例12については、絶縁耐圧の平均値は最小でも8.8kV/mmである一方σの値は最大でも1.3kV/mmであった。
【0103】
以上の結果は、接合層と銅板との界面においてボイドを生じさせず、代わってAgリッチ相を介在させることが、電気的な絶縁破壊に対する信頼性を高める効果があることを指し示している。