特許第6883684号(P6883684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883684
(24)【登録日】2021年5月12日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】自己調節式時計発振器
(51)【国際特許分類】
   G04C 3/04 20060101AFI20210531BHJP
   G04B 17/20 20060101ALI20210531BHJP
   G04C 3/06 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   G04C3/04 B
   G04B17/20
   G04C3/06 D
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-59492(P2020-59492)
(22)【出願日】2020年3月30日
(65)【公開番号】特開2020-169988(P2020-169988A)
(43)【公開日】2020年10月15日
【審査請求日】2020年3月30日
(31)【優先権主張番号】19166996.9
(32)【優先日】2019年4月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−ジャック・ボルン
(72)【発明者】
【氏名】パウロ・ブラヴォ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・マテイ
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−106830(JP,A)
【文献】 スイス国特許出願公開第713306(CH,A3)
【文献】 独国特許出願公開第2065852(DE,A1)
【文献】 特表2017−508996(JP,A)
【文献】 特開昭49−106861(JP,A)
【文献】 特開2013−198272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 − 99/00
G04C 1/00 − 99/00
G04D 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
−プレート(7);
−機械式共振器(8)であって、該共振器は:
・軸(12)周りに前記プレート(7)に対して回転可能に取付ける振動テンプ(11)であって、該テンプ(11)は、上面(16)及び下面(17)を有する、振動テンプ(11)、及び
・前記テンプ(11)に結合する渦巻ばね(22)であって、該渦巻ばね(22)は、前記プレート(7)に対して固定する第1端部(23)、及び前記テンプ(11)に固着する第2端部を有する、渦巻ばね(22)
を含む、機械式共振器(8);
−前記機械式共振器(8)に結合して、前記テンプ(11)の振動の周波数を調整する電磁調整器(29)であって、該電磁調整器(29)は:
・少なくとも1個の永久磁石(30)、
・少なくとも1個のコイル(31)、
・クォーツ又はシリコン共振器(32)、及び
・前記共振器(32)と前記コイル(31)に接続する電子回路(33)
を含む、電磁調整器(29)
を含む、時計ムーブメント(6)であって、
該ムーブメント(6)は:
−前記磁石(30)を、前記プレート(7)に対して固定的に取付けること;
−前記コイル(31)、前記共振器(32)及び前記電子回路(33)を、前記テンプ(11)によって範囲を定めた少なくとも1つの内部空洞(18)内に完全に含みながら、前記テンプ(11)に取付けること
を特徴とする、ムーブメント(6)。
【請求項2】
前記空洞(18)を、前記テンプ(11)の前記面(16、17)の少なくとも一方の側で、塞ぐことを特徴とする、請求項1に記載のムーブメント(6)。
【請求項3】
前記テンプ(6)は、空洞(18)を画成する外縁(20)を含み、前記空洞内に、前記(又は各)コイル(31)、前記クォーツ共振器(32)及び前記電子回路(33)を収容することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のムーブメント(6)。
【請求項4】
前記調整器(29)は、一対のコイル(31)を含むことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のムーブメント(6)。
【請求項5】
前記コイル(31)は、径方向反対側にあることを特徴とする、請求項4に記載のムーブメント(6)。
【請求項6】
前記電磁調整器(29)は、前記電子回路(33)と結合するコンデンサ(36)を含むことを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のムーブメント(6)。
【請求項7】
前記ムーブメント(6)は、前記テンプ(11)に取付け、前記外縁(20)によって画成する前記空洞(18)を閉鎖するカバー(37)を含むことを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のムーブメント(6)。
【請求項8】
前記(又は各)永久磁石(30)は、ネオジウム鉄ボロン合金製であることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のムーブメント(6)。
【請求項9】
前記電磁調整器(29)は、前記テンプ(11)の前記上面(16)側で、前記プレート(7)に対して固定的に取付ける少なくとも1対の磁石(30)を含むことを特徴とする、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のムーブメント(6)。
【請求項10】
前記ムーブメント(6)は、互いに対向する少なくとも2個の磁石(30)、即ち、前記テンプ(11)の前記上面(16)側で前記プレート(7)に対して固定的に取付ける上部磁石(30)、及び前記テンプ(11)の前記下面(17)側で前記プレート(7)に対して固定的に取付ける下部磁石(30)を含むことを特徴とする、請求項8に記載のムーブメント(6)。
【請求項11】
前記ムーブメント(6)は、少なくとも2対の磁石(30)、即ち、前記テンプ(11)の前記上面(16)側で前記プレート(7)に対して固定的に取付ける第1上部磁石対(30)、及び前記テンプ(11)の前記下面(17)側で前記プレート(7)に対して固定的に取付ける下部磁石対(30)を含むことを特徴とする、請求項9に記載のムーブメント(6)。
【請求項12】
請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載のムーブメント(6)を搭載した時計(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
機械式テンプ共振器、及びテンプに組込む、コイルを備えた電磁調整器を搭載した時計ムーブメント。
【0002】
本発明は、時計製造の分野に関する。より詳細には、本発明は、時計に搭載するよう意図した時計ムーブメントであって、該時計ムーブメントが:
−渦巻ばねに結合し、周期的な振動によって動く(aminated)テンプを含む機械式共振器、
−機械式共振器と結合して、振動の周波数を調整する電磁調整器、
−電磁調整器を駆動可能にする発電機
を含む、時計ムーブメントに関する。
【背景技術】
【0003】
時計ムーブメントの動作や精確に時間を教える性能は、ムーブメントの機械式共振器の精度、即ち、ムーブメントの振動周波数の精度−及び不変性−によって左右される。
【0004】
しかしながら、様々な要因が、機械式共振器の振動周波数に影響を与える可能性があることが知られている:
−香箱の巻取レベル(香箱によって発生させるモータトルクは、巻取レベルに応じて変化することが知られている)、
−周囲温度(温度は、熱すると膨張し、冷えると収縮する機械部品と、熱すると流動性で、冷えると粘性となる潤滑剤との両方に影響を与えることが知られている)、
−時計の空間定位(重力は、そのベクトルを腕時計の可変基準座標系に固定せず、可動部品、特にテンプの動きに影響を与えることが知られている)。
【0005】
機械式共振器の振動周波数における変動を抑えるために、ムーブメントに電磁調整器を搭載することが知られており、該電磁調整器は、テンプから機械的エネルギの一部を受取り、該エネルギを電力に変換し、ムーブメントの精度を保証できる範囲内に共振器の振動周波数を維持するために、共振器の振動周波数を増大する、又は反対に減少する必要があるか否かに応じて、起電力又は逆起電力を、テンプに対して誘起する。
【0006】
機械式共振器の振動周波数を調整する問題については、スイス国特許出願第713306号(特許文献1)に、詳述されており、該出願は、更に、この問題を解決するために、機械式共振器が、利得又は損失によって影響を受けているか否かを判断するように配設する測定装置と、機械式共振器に、第1制動インパルス又は其々に、第2制動インパルスを選択的に印加できるように配設する調整インパルス印加装置を備える、調整装置を提案している。
【0007】
具体的には、この調整システムは:
−テンプによって保持する可動な永久磁石対、
−テンプ支持体に固着する固定コイルであって、該コイルに対向して、テンプの回転中に磁石が通過する、固定コイル、
−同様にテンプ支持体に固着するクォーツ共振器、
−コイル及びクォーツ共振器に接続し、調整インパルスを印加した時点を計算するように配設する電子制御回路
を含む。
【0008】
特許文献1で提案した解決方法が、機械式共振器を調整するという問題を有効に解決しても、幾つかの新たな問題:
−美観上の問題:調整装置の部品が、時計の着用者に(ケースの密閉ガラスを通して)見えてしまう;
−大きさの問題:ムーブメントの既存の部品中、調整装置の部品のための、特にコイル、クォーツ共振器及び電子制御回路のための場所を提供することが、実際に必要になる;
−磁気結合の問題:テンプが保持する磁石は、テンプの回転中、磁石の磁界と相互作用し、その結果テンプに対して非制御の制動トルクを誘起する可能性がある金属部品を含む環境において、周回する、
を引き起す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】スイス国特許出願第713306号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、これらの問題に対する解決方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
まず、この目的を達成するために、以下を含む時計ムーブメントを提案する:
−プレート;
−機械式共振器であって、該共振器は:
・軸周りにプレートに対して回転可能に取付ける振動テンプであって、該テンプは、上面及び下面を有する、振動テンプ、及び
・テンプに結合する渦巻ばねであって、該渦巻ばねは、プレートに対して固定する第1端部、及びテンプに固着する第2端部を有する、渦巻ばね
を含む、機械式共振器;
−機械式共振器に結合して、テンプの振動の周波数を調整する電磁調整器であって、該電磁調整器は:
・プレートに対してしっかりと固定する少なくとも1個の永久磁石;
・少なくとも1個のコイル、クォーツ共振器、及び共振器とコイルに接続する電子回路であって、それら全てを、テンプによって範囲を定めた少なくとも1つの内部空洞内に完全に含みながら、テンプに取付ける、コイル、クォーツ共振器、及び電子回路
を含む、電磁調整器。
【0012】
このムーブメントは、磁気結合の問題を解決しながら、従来の機械式ムーブメントと同様の大きさを有する(特に、永久磁石を不動にしたために)。
【0013】
単独又は組合わせて、様々な更なる機能を提供できる。
【0014】
従って、例えば、空洞を、テンプの面の少なくとも一方の側で、塞ぐ。
【0015】
調整器は、一対のコイルを含み得る。これらのコイルは、径方向反対側にあるのが好ましいが、幾つかの構成では、これらのコイルを、例えば、120°だけ角度的にずらすことができる。
【0016】
電磁調整器は、好適には、電子回路と結合するコンデンサを含む。
【0017】
カバーを、有利には、空洞を閉鎖するためにテンプに取付ける。
【0018】
永久磁石(又は各永久磁石)を、好適には、ネオジウム鉄ボロン合金製とする。
【0019】
様々な実施形態によると、電磁調整器は:
−テンプの上面側で、プレートに対して固定的に取付ける少なくとも1対の磁石;
−互いに対向する少なくとも2個の磁石、即ち、テンプの上面側でプレートに対して固定的に取付ける上部磁石、及びテンプの下面側でプレートに対して固定的に取付ける下部磁石;
−少なくとも2対の磁石、即ち、テンプの上面側でプレートに対して固定的に取付ける第1上部磁石対、及びテンプの下面側でプレートに対して固定的に取付ける下部磁石対
を含む。
【0020】
第二に、以上で提示したムーブメントを搭載した時計を、提案する。
【0021】
本発明の他の目的及び効果は、添付図を参照して以下で行う実施形態に関する記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明によるムーブメントを搭載した時計の、下からの分解斜視図である。
図2】下面側での、本発明によるムーブメントの分解斜視図である。
図3】上面側での、図2のムーブメントの分解斜視図である。
図4】本発明によるムーブメントの平面図である。
図5】ムーブメントに搭載したテンプの動きを示す部分平面図である。
図6】ムーブメントに搭載したテンプの動きを示す部分平面図である。
図7】ムーブメントに搭載したテンプの動きを示す部分平面図である。
図8】ムーブメントに搭載したテンプの動きを示す部分平面図である。
図9図4のIX−IX平面に沿ったムーブメントの断面図である。
図10】可能な磁石構成を示す略図である。
図11】テンプに関する構造上の変形例を示している。
図12】テンプに関する構造上の変形例を示している。
図13】テンプに関する構造上の変形例を示している。
図14】テンプに関する構造上の変形例を示している。
図15】テンプに関する構造上の変形例を示している。
図16】テンプに関する構造上の変形例を示している。
図17】テンプに関する構造上の変形例を示している。
図18】テンプに関する構造上の変形例を示している。
図19】テンプに関する構造上の変形例を示している。
図20】テンプに関する構造上の変形例を示している。
図21】テンプに関する構造上の変形例を示している。
図22】テンプに関する構造上の変形例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、計時器、この場合時計1を部分的に示している。時計1は、内容積3を画成する中間部2を含む。図説した実施例では、時計1を、手首に着用するように設計している。このために、中間部2は、ホーン4を含み、該ホーンに、腕輪5を固定する。
【0024】
時計1は、少なくとも時間及び分を示すように設計した時計ムーブメント6を含む。ムーブメント6は、機械式である(即ち、エネルギを、香箱ゼンマイによって供給する);香箱ゼンマイの巻回は、手動(即ち、香箱ゼンマイの巻取を、巻回機構を用いて手動で実行する)、又は自動(即ち、香箱ゼンマイの巻取を、振動質量体の回転から生じさせる)とすることができる。
【0025】
ムーブメント6は:
−中間部2によって画成する内容積3内に、中間部2に固定して(通常、ネジを用いて)、収容することを意図したプレート7;
−プレート7上に取付け、時刻表示装置、通常時針及び分針に対して運転速度を提供するように設計する機械式共振器8
を含む。
【0026】
時計1は、ガラス及び裏蓋(図示せず)を更に含み、ガラスは、正面9(着用者を対象とした情報を表示する)側で、及び裏蓋は、背面10(着用者の手首に対向する)側で、其々中間部2に固定する。
【0027】
ムーブメント6の部品の殆どは、中間部2の背面10に向いたプレート7の側に存在する(つまり、プレート7は、中間部2内で上下逆に取付けられる)。その結果、以下では、用語「上」は、中間部2の背面10に向かう方向を指し、用語「下」は、中間部2の正面9に向かう方向を指す。
【0028】
従来、機械式共振器8は、第一に、軸12周りにプレート7に対して回転可能に取付ける振動テンプ11を含む。より詳細には、テンプ11を、プレート7とテンプ11上に固定するテンプ受13の間に取付ける。プレート7は、下側軸受14を組込み、該軸受に、軸12の下端部を嵌合する。テンプ受13は、上側軸受15を組込み、該軸受に、軸12の上端部を嵌合する。
【0029】
テンプ11は、フライホイール機能を実行する。テンプ11は、上面16及び下面17を有し、両面合わせて、少なくとも1つの内部空洞18の範囲を定める。テンプ11は、真鍮製とすることができる。しかしながら、テンプ11は、電気を伝えない材料製、例えば、セラミック製、クォーツ製、シリコン製、又は渦電流損失を防ぐポリマ製とするのが好ましい。
【0030】
図面、特に図2及び図3で図説した好適な実施形態によると、空洞18を、少なくとも面16、17の一方で(図説した例では、下面17で)塞ぐ(即ち、非開口)。
【0031】
特に図2で図説したように、テンプ11は:
−テンプをその軸12上で駆動させるハブ19、
−周縁リングの形をした外縁20、及び
−ハブ19を外縁20に接続する1本又は複数のアーム21(複数可)(ここでの数は、2本だが、この数は、一例にすぎない)
を含む。
【0032】
第二に、機械式共振器8は、テンプ11に結合する渦巻ばね22を含む。渦巻ばね22を、例えば、シリコン製、クォーツ製、ダイヤモンド製、又は当業者に既知の他の非磁性材料製とする。渦巻ばね22は、プレート7に対して固定する第1端部23、及びテンプ11に固着する第2端部を有する。より詳細には、渦巻ばね22の外側にある、第1端部23を、上側軸受15に固着するスタッドホルダ24に嵌め込む。ばねの内側にある、第2端部を、テンプ11の回転軸12に固着する。
【0033】
機械式共振器8は、渦巻ばね22の圧縮戻止サイクルを伴った(及び該サイクルによって拘束する)テンプ11の交互回転によって、列を回転させて、モータトルク(図示しない香箱ゼンマイによって発生させる)を表示機構(通常、針)に順次、規則的に伝達させることを意図している。
【0034】
機械式共振器8の伝達列への結合を、脱進機構25によって確実にするが、該脱進機構25は:
−プレート7に回転可能に取付け、非対称的な外周歯を備えるガンギ車26、及び
−プレート7とアンクル受(pallets bridge)28との間に回転可能に取付け、ガンギ車26の歯に衝突するアンクル石の対、及び片端部に、テンプ11の回転軸12に固着するピンと協働するフォークを備えた棒を備える、アンクル27
を含む。
【0035】
機械式ムーブメントは、時計製造愛好者らによってその確実性ゆえに高く評価されているが、機械式ムーブメントは、機械式共振器の歩度(rate)における電位変動により、クォーツムーブメントほど精確でないままである。
【0036】
機械式共振器8の歩度は、時計1の香箱ゼンマイの巻取レベル、周囲温度、又は空間定位によって、特に影響を受けることがある。
【0037】
機械式である限り、即ち、ばねから動力を得る限り、ムーブメント6は、機械式共振器8の歩度における如何なる変動も補正する電磁式の調整器29を搭載して、より精確にする。
【0038】
より詳細には、電磁調整器29を、機械式共振器8に結合して、テンプ11の振動周波数を調整する。この電磁調整器29は:
・少なくとも1個の永久磁石30、
・少なくとも1個のコイル31、
・クォーツ又はシリコン共振器32、及び
・共振器とコイルに接続する電子回路33
を含む。
【0039】
図2及び図3で特に示すように、磁石30(又は、各磁石30)を、プレート7に対して固定的に取付ける一方で、コイル31(又は、各コイル31)、クォーツ共振器32及び電子回路33を、テンプ11によって範囲を定めた空洞18内に完全に含みながら、テンプ11に取付ける。
【0040】
磁石30(又は、複数の磁石30)は、永久的で(即ち、該磁石の値が、時間的に不変である)及び安定した(即ち、該磁石の値が、プレート7を基準として用いて、空間的な各点で不変である)磁場を発生する。この磁場について、図9において点線で部分的に示す。
【0041】
磁石30(又は、各磁石30)は、有利には、ネオジウム鉄ボロン合金製であり、該合金は、含有量(及び質量)に対して、強い磁場を発生させるという利点を提供する。
【0042】
磁石30(又は、各磁石30)を、好適には、プレート7に(又はテンプ受13に)形成した凹み34に、少なくとも部分的に(及び好適には完全に、完全にさえ)収容する。
【0043】
電磁調整器29は、好適には、プレート7に対して固定的に取付ける少なくとも1対の磁石30を含む。これらの磁石30を、プレート7上で、又はテンプ受13上で並べて取付けできる。
【0044】
特定の実施形態によると、ムーブメント6は、互いに対向する少なくとも2個の磁石30、即ち:
−テンプ11の上面16側でプレート7に対して固定的に取付ける上部磁石30(この上部磁石30を、例えば、テンプ受13に固定する)、及び
−テンプ11の下面17側でプレート7に対して固定的に取付ける下部磁石30(この下部磁石30を、例えば、プレート7に固定する)
を含む。
【0045】
図2及び図3で特に示す特定の実施形態によると、電磁調整器29は、少なくとも2対の磁石30、即ち:
−テンプ11の上面16側でプレート7に対して固定的に取付ける第1上部磁石対30(これらの上部磁石30を、ここでは、テンプ受13に固定する)、及び
−テンプ11の下面17側でプレート7に対して固定的に取付ける下部磁石対30(該下部磁石30を、ここでは、プレート7に固定する)
を含む。
【0046】
この場合、上部磁石30を、有利には、下部磁石30と一致して配置する。上部磁石30と下部磁石30の対向する面を、有利には、同じ極性にし、それにより 磁場を良好に局所的に集中でき、テンプ11によって掃引する平面と垂直に指向する磁力線を得られる。
【0047】
ネオジウム鉄ボロン合金を使用することで、磁石30は、強い磁場を発生させつつ、限られた容積で、プレート7及び/又はテンプ受13に、磁石を分離して組込み可能となる。実際に、磁石を裸眼で視認できないようにもできる。また、1個又は複数のチップ35を用いて、磁石を被覆することもでき、更に、チップ35は、其々、磁石によって発生する磁場を集中するために、磁極片の役割を果し得る。
【0048】
磁石30を、先程記載した構成に加えて、様々な構成で配置できる。従って、数個の磁石30を、磁石の極性を90度ずつずらして並べて配置する (図10では、文字NとSは、其々磁石30のN極とS極を指していることが、容易に分かる)ハルバッハ構成として知られる、図10で示した構成により磁石30を配設すると、有利であり得る。かかる構成により、矢印で示したように、一連の磁石30の片面に磁場を集中できる一方
で、反対面では、弱い磁場だけを発生する。
【0049】
図2で示す好適な実施形態によると、テンプ11の内部空洞18を、外縁20によって画成する:そのために、外縁20内に、(又は各)コイル31、クォーツ共振器32及び電子回路33を収容する。
【0050】
磁石30(複数可)で発生する磁場内でコイル31(又は各コイル31)を通過させて、そこで電流を誘導し、該電流で、電子回路33とクォーツ共振器32を駆動する。逆圧電効果によって、クォーツ共振器32は、所定の固定周波数で振動し、電子回路33にクロックレートを提供する。電子回路33を、テンプ11の振動周波数を測定するように(その結果、電気インパルスを得る)、及び該振動周波数を、クォーツによって提供されたクロックレートから求めた所定の基準周波数と比較するように、プログラムする。
【0051】
テンプ11の振動周波数が基準周波数と異なると判定すると、電子回路33は、コイル31の端子に、テンプ11の回転周波数を増大させる(この周波数が、基準周波数より低いと判定した場合)、又は減少させる(この周波数が、基準周波数より高いと判定した場合)逆起電力を生成する電圧を、この電圧を印加する時点に応じて、課電する。
【0052】
干渉を最小化するために、クォーツ共振器32と回路33間の距離を短くするのが好ましいことに、留意されたい。
【0053】
機械式共振器8の振動周波数の磁気調整方法は、特許文献1で提案されている。
【0054】
図2図5図8図9及び図11図18に示す実施形態によると、電磁調整器29は、一対のコイル31を含む。これらのコイル31は、径方向反対側に存在できる(図2図5図8図9図11図12図16図17及び図18)。或いは、コイル31を、図13図14及び図15に示すように、例えば、角度120°だけ、角度的にずらすことができる。
【0055】
一方のコイル31が、テンプ11の平衡点(ムーブメント6の稼働中におけるテンプ11の最高速度に対応する)で、磁石30の1つと(又は、磁石30対と)一致して通過することで、電磁誘導によって、回路33において電流を発生する。他方のコイル31が、磁石30の1つと(又は、磁石30対)一致して通過したことを、回路33によって検出して、確実に調整を行う。
【0056】
図面に示すように、様々な構成のテンプ11が可能である:
−2本のアーム21(図2図5図8図17図22)を有する構成;
−3本のアーム21(図13図14図15)を有する構成;
−4本のアーム21(図11図12図16)を有する構成。
【0057】
2個のコイル31が好ましいが、電磁調整器29は、角度的にずらした対向する2個の磁石30(又は、角度的にずらした2対の磁石30)を交互に通過する1個のコイル31だけ(図19図22)を含み得る。
【0058】
以下の組み合わせが、可能である:
−2本のアーム21;1個のコイル31を有するテンプ11 (図19図22);
−2本のアーム21;2個のコイル31を有するテンプ11 (図2図5図8図17図18);
−3本のアーム21;2個のコイル31を有するテンプ11 (図13図14図15);
−4本のアーム21;2個のコイル31を有するテンプ11 (図11図12図16)。
【0059】
図面に示すように、調整器29は、有利には、回路33に結合するコンデンサ36を含み、コンデンサ36の機能は、2つある:回路33の端子を横断する電圧を整流する機能;値を増大することによって、この電圧に対して利得を提供する機能。
【0060】
図2及び図3で特に示した、空洞18が、テンプの面の片方(ここでは、上面16)に開口する実施例では、ムーブメント6は、テンプ11に取付け、空洞18を閉鎖するカバー37を更に含む。このカバー37により、コイル31、クォーツ共振器32及び電気回路33を、ムーブメント6の美的効果のために着用者の視界から隠すことができる。このカバー37を、真鍮製とするのが有利であり、真鍮は、非磁性で、その結果、磁石30(又は、複数の磁石30)によって発生する磁場に浸漬されるテンプ11の動きに影響を与えないという利点を有する。或いは、カバーを、セラミック製、クォーツ製、シリコン製又はポリマ製とすることができる。
【0061】
テンプ11上で質量の釣り合いを保つ必要があるかもしれない。そのために、テンプ11に、凹み又は穴を開けることができ、埋め込む部品(特に、コイル31、水晶共振器32、回路33及びコンデンサ36)によって生じる不均衡を補償するように分布させる。その代わりに、又は組み合わせて、数及び/又は位置を調節可能な、慣性ブロック38を、テンプ11に(通常、外縁20に)取付けできる。
【0062】
先程記載した構造には(該構造の可能な構成全てにおいて)、幾つかの利点がある。
【0063】
第一に、電磁調整器29が、時計1の美的効果のために、時計1の着用者に対して、完全に隠されて、視認不可能になる。これは、調整器29の可動部品(コイル31、クォーツ共振器32、回路33、コンデンサ36)を、テンプ11の内部空洞18に含むことから、生じる。これらの可動部品は、テンプ11の目隠し面によって(ここでは、下面17)又はカバー37によって、着用者の視界から隠れる。磁石30に関して、磁石30も、プレート7の塊体によって、又はテンプ受13の塊体によって、又はチップ35によって、被覆することで、視認不可能になる(又は、最低でも目立たなくなる)。
【0064】
第二に、プレート7及び/又はテンプ受13に省スペース型磁石30(又は、複数の磁石30)を含むのに、プレート7及びテンプ受13の形を特に変形したり、特に増厚したりする必要はない。
【0065】
第三に、テンプ11に(及びより詳細には、外縁20に)コイル(複数可)31、クォーツ共振器32及び電子回路33を含んでも、更なる厚みを生じない。外縁20又はアーム21を、適宜、拡幅する必要があり得るが、この拡幅は、テンプ11の全体的な大きさに影響を与えない。
【0066】
第四に、磁石30を固定しているため、発生する磁場は、所望しない変動によって影響を受けることなく、永久的で、安定している。コイル31が、磁石30によって発生する磁場の外側になると、コイル31は、今度は、受動的となるため、テンプ11の回転周波数は、周辺の環境に金属部品が存在する可能性があっても、影響を受けない。
【符号の説明】
【0067】
1 時計
2 中間部
3 内容積
4 ホーン
5 腕輪
6 ムーブメント
7 プレート
8 機械式共振器
11 テンプ
12 軸
13 テンプ受
14 下側軸受
15 上側軸受
18 空洞
19 ハブ
20 外縁
21 アーム
22 渦巻ばね
25 脱進機構
26 ガンギ車
29 電磁調整器
30 磁石
31 コイル
32 共振器
33 電子回路
34 凹み
35 チップ
36 コンデンサ
37 カバー
38 慣性ブロック
図1
図2
図3
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図5
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