(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記RI効果曲線は、前記音刺激が与えられた前後のRI効果を耳鳴音量の経過として表す曲線であって、前記耳鳴治療音の提示の開始から終了、さらに前記耳鳴治療音の提示の終了後の耳鳴音量が前記耳鳴治療音の提示の前の音量に戻るまでの経過を表す曲線であり、
前記RI効果曲線の類推は、典型例である1つまたは複数のRI効果曲線をもとに、特定の耳鳴患者群に対する特定の耳鳴治療音のRI効果曲線を類推することで実行される
請求項1に記載の耳鳴治療器。
前記治療プログラムは、各ユーザに対する耳鳴治療音ごとの前記RI効果曲線の類推を、音刺激が一定の間の耳鳴音量の時間変化は特定の値に向かうことを前提として、前記RI効果曲線の典型例である1つまたは複数の曲線を時間軸および音量軸のいずれかまたは両方の方向に線形もしくは非線形にスケーリングをすることで実行する
請求項1または2に記載の耳鳴治療器。
前記治療プログラムは、各ユーザに対する耳鳴治療音ごとの前記TL減少曲線の類推を、前記TL減少曲線の典型例である1つまたは複数の曲線を時間軸および音量軸のいずれかまたは両方の方向に線形または非線形にスケーリングをすることで実行する
請求項1から4のいずれか一項に記載の耳鳴治療器。
前記治療プログラムは、RIまたは長時間マスカー効果によっていったん音量が下げられた前記ユーザの耳鳴がその後に回復する時間において、知覚更新を起こす音刺激を与えるための耳鳴治療音を前記ユーザに提示する
請求項1から3のいずれか一項に記載の耳鳴治療器。
前記治療プログラムは、所定の時間にわたる所定の音量の耳鳴治療音によって前記ユーザにもたらされたTLの減少量である「TL減少に関する音刺激の積算量」から、前記耳鳴治療音の前記所定の時間における音量、音高および音色の平均値に固定した音を前記所定の時間にわたって前記ユーザに提示することで前記ユーザにもたらされたTLの減少量である「TL減少に関する音圧刺激」を減じることで、前記耳鳴治療音についての「TL減少に関する音変化刺激」を算出し、算出した前記「TL減少に関する音変化刺激」に基づいて、前記耳鳴治療音とは異なる耳鳴治療音についてまたは前記ユーザとは異なる耳鳴患者に関して「TL減少に関する音刺激の積算量」、「TL減少に関する音圧刺激」、および「TL減少に関する音変化刺激」の少なくともひとつを類推する
請求項1から4のいずれか1項に記載の耳鳴治療器。
前記治療プログラムは、所定の時間にわたる所定の音量の耳鳴治療音によって前記ユーザにもたらされたRI効果である「RI効果に関する音刺激の積算量」から、前記耳鳴治療音の前記所定の時間における音量、音高および音色の平均値に固定した音を前記所定の時間にわたって前記ユーザに提示することで前記ユーザにもたらされたRI効果である「RI効果に関する音圧刺激」を減算することで、前記耳鳴治療音についての「RI効果に関する音変化刺激」を算出し、算出した前記「RI効果に関する音変化刺激」に基づいて、前記耳鳴治療音とは異なる耳鳴治療音についてまたは異なる耳鳴患者に対しての「RI効果に関する音刺激の積算量」、「RI効果に関する音圧刺激」、および「RI効果に関する音変化刺激」の少なくともひとつを類推する
請求項1から5のいずれか1項に記載の耳鳴治療器。
前記耳鳴検査の結果は、前記耳鳴を表現するピッチ、ラウドネス、および前記ユーザが用いる音色の言語的表現の少なくとも1つを含む結果、並びに前記ユーザに聞かせることで前記耳鳴を遮蔽するマスク音を示す結果の少なくとも一方である
請求項9に記載の耳鳴治療器。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2011−505915号公報
【特許文献2】米国特許第2605361号明細書
【非特許文献】
【0007】
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【発明を実施するための形態】
【0018】
(本発明の基礎となった知見)
発明者は、耳鳴発生のメカニズムに関する新たな理論を考え付くに至った。そして、この理論が従来確認されている現象および我々が本発明に係る耳鳴治療器を用いて行った治療における現象と矛盾がないと考えている。
【0019】
本願はこの理論の真偽を問うものではないが、少なくともこの理論に沿って行った治療、および従来の知見においても、適切な種類の音を適切な大きさで適切な時間、音負荷として患者に与えることで耳鳴を良好に制御できることが示される。
【0020】
以下、この耳鳴発生のメカニズム、およびこのメカニズムに基づく、本発明に係る耳鳴治療器を用いた耳鳴治療の基礎となる理論の概要を述べる。
【0021】
[序論]
耳鳴りは、対応する外部聴覚刺激がない場合の音の知覚である。ほとんどの個体は一過性の耳鳴りを経験するのに対し、慢性耳鳴は人口の約10%−15%にある(非特許文献2)。今までに多くの耳鳴りの説明モデルが提案されているが、幻覚の特徴を適切に総合的に説明するものはほとんどない(非特許文献3)。ほとんどすべてのモデルは、神経活動の変化または聴覚皮質構造の異常が耳鳴りの主な原因であると仮定している(非特許文献4)。しかし、これらのモデルによって提案された神経の変化は、数日間(非特許文献4)を要し、耳鳴りのいくつかの時間的特徴とはかなり対照的である。
【0022】
1.耳鳴りは、人が完全な静かな環境に置かれた後、数分以内に突然現れることがあり、通常の環境に戻るとすぐに鎮静する(非特許文献5、6、7)。
【0023】
2.耳鳴りは、マスカー音の提示によってほぼ即座に(通常は1分以内に)減衰される。マスカー音が除去されると、耳鳴り知覚は数分以内にマスカー以前のレベルに戻る(非特許文献8、9、10、11)。
【0024】
ここで、知覚更新(PU:Perception Update)モデルである耳鳴りの新しいメカニズムモデルを紹介する。このモデルは、差分パルスコード変調(Differential PCM、差分PCMともいう; 特許文献2参照)と呼ばれる音楽および画像ファイルの圧縮に一般的に使用されるデータ圧縮技術に基づく情報処理モデルであり、データ圧縮エラーによる耳鳴りを示す。モデルはさらに、聴覚皮質が前の瞬間の入力とそれを比較することによって音の入力を認識し、入力変化の検出器として働くと仮定する。このモデルでは、聴覚N1は、断続音の開始および終了、または連続音の変化の約100ms後に誘発される聴覚野の顕著な電磁気反応であり(非特許文献12)、聴覚皮質における変化検出のプロセスを現している。実際、最近の研究では、聴覚N1が先行する刺激の情報とその後の刺激の情報を比較することによって変化を検出することが明らかにされている(非特許文献13)。
【0025】
[変化検出器としての聴覚N1]
前述のように、聴覚N1は、聴覚刺激(非特許文献12)の発生(On-response:On−N1)および消失(Off-Response:Off−N1)の両方に対する顕著な脳皮質反応である。聴覚N1は、連続した複雑な音色のピッチや音色のまれな変化によっても引き出される可能性がある(Change−N1、非特許文献14参照)。
【0026】
感覚記憶は、multi-store memory model(非特許文献15)における最短メモリとして定義されており、10秒(非特許文献16)から15秒(非特許文献17)の範囲で持続すると考えられている(非特許文献18)。さらに、感覚記憶は注意に依存せず、感覚システムに特有である。
【0027】
西原らは(非特許文献19)ON−N1とChange−N1の両方が同じ神経メカニズムによって生成され、感覚記憶に基づく変化検出システムの一部であると結論付けた。さらに、彼らは、Change−N1反応が音響刺激の変化によって誘発されるのに対して、ON−N1は先行する静寂からの変化によって誘発される反応であることを示した。最後にYamashiroら(非特許文献20)は、ON−N1と同様に、OFF−N1は、感覚記憶システムに基づく反応であり、ON−N1とOFF−N1の両方がChange−N1のサブタイプであると考えることができると報告している。Change−N1のこれらの知見に照らして、ON−N1およびOFF−N1も、現在、聴覚刺激の検出された変化を知らせる反応と考えられている。
【0028】
[音の変化を積分することで得られる音の認識]
音入力変化の積分がどのようにして知覚につながるかを説明するために、
図1は、聴覚システムに到達する断続的トーンバースト(例えば、6000Hz)の例を示す。聴覚野におけるニューロン発火の顕著な変化は、刺激の発生と消失時に起こる。脳が聴覚入力の変化に基づいて音の強さ(音量)を導く場合、変化の実際の値を積分する必要がある。
【0029】
知覚更新(PU)モデルの背後にある運動仮説は、音の知覚が、絶対的な音のパラメーターを決定することによって得られるのではなく、直前の瞬間からの入力の相対変化を決定することによって聴覚系内で連続的に更新されることである。
【0030】
例えば、聴覚刺激が当初30dBであり、その後、時点Iで80dBに増加し、時点IIで100dBにさらに増加し、最終的に時点IIIで50dBに減少する状況を検討する。聴覚野は、時点I、時点II、および時点IIIで内耳から以前に受信した情報とは異なる新しい情報を受信する。これらの時点のそれぞれにおいて、聴覚N1が音の変化によって引き出される。PUモデルは、聴覚N1が、刺激の絶対的な大きさ(例えば、音のレベル)とは対照的に、変化の大きさ(+50、+20、および−50)を示すことを提案する。結果として、聴覚システムは、聴覚N1によって提供される相対値を積分することによって知覚を達成する。
【0031】
PUモデルは、差分パルス符号変調(差分PCM)(特許文献2)と呼ばれるデータ圧縮/圧縮解凍技術に類似している。差分PCMは、音声および画像ファイルの処理など、隣接するデータと相関のあるデータを処理するために使用される。
図2Aを参照すると、現在のデータ点(データ[n])に対する高度差(差分[n])を加えることによって次のデータ点(データ[n+1])が導出されている。
図2Bは、登山者が尾根に沿う経路を歩く例を用いて、差分PCMがどのように動作するかを示している。経路上の各点での海抜(海面に対する相対的な位置)は、(1)各点の高さを直接測定するか、(2)海抜の高さを点aのみで測定し、他の各点では(直前の点に対して)高度の差を計算することで取得できる。経路上の非常に短い間隔(例えば、10mおき)で海抜を取得したい場合(
図2C)、
図2Bの場合に比べて多くの測定点のために、経路全体での海抜に関するデータのサイズは増加する。ここで、隣接する点間の間隔が短いほど、点間の高さの差もまた減少する。そして、この差はより少ないビット数、つまりデータサイズで表現することができる。したがって、(2)の方法を用いる場合には、(1)の方法に比べてデータサイズの増加の抑制を図ることができる。
【0032】
これは、データ圧縮方法が、元の情報よりも小さなビットによって情報を削減するために、データをどのように処理するかを正確に示しており、非常に細かい間隔で大量の連続した情報を処理するために不可欠である。ここでは、聴覚システムが同様の方法で音声情報を処理することを提案する。実際には、連続的に変化する値に対処するために、数学的積分および微分方程式を用いてデータ圧縮および圧縮解凍計算が達成される。しかし、簡単にするために、これらの階段状の変化を単純な加減算によって評価することができる。
【0033】
[聴覚系の不確定性から生じる音知覚の任意性]
PUモデルは、聴覚系が音響信号の変化に基づいて常にその知覚状態を更新することを仮定し、その知覚は、聴覚N1が誘発されるときに更新される。N1反応がない場合、PUモデルは知覚が感覚記憶の持続期間にわたって維持され得ることを提案する。脳内に複数の短期記憶システムが存在する場合、聴覚系は感覚入力の更新を必要とせずに短期間の知覚を維持することが可能である。このようなシステムには、感覚記憶とエコー記憶が含まれており、10秒(非特許文献16)と15秒(非特許文献17)の間で持続すると考えられているが、いくつかの著者は、これらの記憶システムがさらに長期間にわたって感覚痕跡を保存すると主張している(非特許文献16、非特許文献21、非特許文献22)。しかしながら、内部の損傷が聴覚系の特定の音周波数を知覚する能力を阻害する場合、同じ周波数で提示される音の音量を適切に検出することができないことがある。
図3(パネルAおよびB)は、聴覚システムが30dB以下の最大音量を生成する音の変化を確実に検出できない状況を示している。より具体的には、パネルAは、内耳損傷の場合に一定の閾値以下で音変化を検出できない状況を示し、パネルBにおいて、閾値下の音響変化(時点IV、時点V、時点VI)に対するN1反応がないことを示す。耳鳴りの場合(パネルC)、PUモデルは、感覚記憶の長さよりも長い持続時間の間、音響刺激が与えられた周波数の下限限度を下回ると、知覚を維持することができず不確実になることを示唆している。感覚記憶は刺激の停止に伴って徐々に減少し、約10秒間持続するので(非特許文献16)、感覚知覚へのその影響も徐々に減少し、刺激の停止から約10秒後に終了する。このような場合、感覚記憶の期間を越えると知覚漂流が生じて知覚が不確定になり、幻覚の知覚につながる可能性がある。このような幻覚を生成するものを含め、様々な異なる値をとることができるため、知覚は任意になりうる。
【0034】
その場合、脳は予測符号化などの理論に基づく推測を行うことで、知覚値が予測値に至る。なんらかの原因で通常の環境音から逸脱した予測値に至る傾向を獲得した人が、耳鳴を知覚する。その予測値をTLと定義する。つまり、耳鳴とは、任意となった知覚が、誤った予測値TLに至ったものである。
【0035】
[耳鳴の急性相と慢性相]
正常な聴覚または早期急性耳鳴りの人において音変化の入力がないことで知覚値が変動する場合、その値は通常の環境騒音範囲内にあるため、耳鳴りは出現しないことがある。しかしながら、知覚値が環境のそれよりを上回る大きさに達すると、耳鳴りが出現する可能性がある。PUモデルの基本的な仮定は、耳鳴は誤った予測値、TLの知覚であるということである。静かな環境では、知覚値は耳鳴りのある人のTL(=耳鳴り音量)に等しい。外部音入力がある場合、知覚値はTLに追加された外部入力のラウドネスに等しい。この概念は
図4に示されている。音変化入力が時点Iに到着したとき、PUモデルの定義により、現在の知覚値(TL)に変化入力を加えることによって次の知覚値が計算される。その後の知覚値の計算は、TLに加えられたベースラインからの現在の値に基づいて継続される。つまり、TLは数学的な積分において整数定数のように振る舞う。したがって、外部入力は、対応する周波数帯域(例えば、4000Hz)での耳鳴り知覚に加えて知覚される。
【0036】
さらに、外部入力が後に続くケースも想定する。十分な外部入力がある場合、常にTLが間違った値で固定されているとは限らない。むしろ、内部整合性を保証するために間違ったTLを修正することができる(
図4、b参照)。(非特許文献23)は、自由エネルギーの理論では、脳は一般化座標を用いて予測符号化を最適化すると説明している。一般化座標は、物理学における一般的な概念であり、典型的には、オブジェクトの位置および運動量を評価するために使用される。例えば、動く列車から景色を見るとき、視点は変化するが、景観の位置は固定されていると認識される。視点が動きに応じて変化するという印象は、脳が世界の因果構造について学んだことである。座標移動の概念は、音量の知覚にも当てはまると考える。これは、積分定数TLを変更することは、移動座標に類似しているからである。差分PCMの場合、そのような積分定数による誤差は頻繁に発生する可能性が高く、対処する方法があるはずである。正常な聴覚を有する個体は、低振幅の音を知覚することができる。TLが当初不正確であったとしても、脳は、通常の環境でそのような小さな音の発生確率を計算することによってTLを適切な値に修正することができる。TL値をゼロの値に補正することによって、耳鳴り知覚はゼロになる。この正確な状況は、急性耳鳴りの状態に対応する。
【0037】
一方、知覚値が長期間シフトすると、外部入力が十分であっても、TLをそれ以上修正することは困難となる。幻想の認識は日常生活の基礎であったので、正常な世界への手がかりは失われてしまった。聴覚障害者は、正確な認識を得るための情報が欠けている。その場合、TLは訂正されず、間違ったままである。音変化入力はTL(TLが積分定数であるかのように)によって上にシフトされた状態で計算され、外部音は耳鳴りとともに知覚される(
図4、a)。その後、外部音入力にそれ以上の変化がない場合、予測値および知覚値は再びTLに向かって漂流する。この慢性的な耳鳴り患者の予測値は、漂流するとTLに向かう傾向にある。そのようなものとしてTLを定義した。
【0038】
このTLの概念は、Sedleyモデル(非特許文献3)における耳鳴りの予測値に類似している。両方の理論は、耳鳴りは、予測符号化の枠組みの中で誤った予測の結果であると主張している。PUモデルでは、各周波数について予測値が定義され、知覚は、所定の周波数に対する外部音の値とTLの合計として表される。一方、Sedleyモデルでは、耳鳴り知覚の予測値が別々に定義される。しかしながら、両方のモデルは依然として耳鳴りの出現を十分に説明することができる。
【0039】
[小括]
1.予測値は、所定の周波数に対して数秒間平均された知覚された音量を表す。各周波数は、それに対応する予測値を有する。
2.TLは、予測値の1つであり、特に耳鳴周波数帯に対応する。
3.耳鳴は、誤ったTL(予測値)の知覚である。
(1)典型的な状況
耳鳴音量(TV)=TL。
[外部音がないとき:静寂]:
知覚値=TL(=耳鳴音量):耳鳴りのみ聞こえる。
[外部音があるとき]:
知覚値=TL(=耳鳴音量)+外部音量。:外部音と耳鳴りが聞こえる。
(2)残留抑制の場合
耳鳴音量<TL.:後述(
図5のパネルC参照)。
4.急性耳鳴:TLは可変であり、0に補正することができる。
5.慢性耳鳴:
(1)TLはほぼ一定であり、0に補正することはできない。(長時間マスカーにおいて徐々に変動する。)
(2)知覚値は、TLを基準値(積分定数)とした外部音の変化によって算出される。
(3)知覚値が漂うと、それはTLに向かう。
【0040】
[PUモデルによる残留抑制(RI:Residual Inhibition)のメカニズム]
残留抑制(RI)は、適切なマスキング刺激のオフセット後に耳鳴り知覚が抑制されたままであり、典型的には数十秒の期間持続する現象を指す(非特許文献24、25)。RIは、耳鳴りを遮蔽するのに必要な最小強度より大きな強度を有するマスキング音によって最適に誘導される(非特許文献26)。Galazyukら(非特許文献27)は、覚醒マウスにおけるin vivo細胞外記録を使用して、下丘ニューロンの自発活動の約40%が音オフセット後に前方抑制を示したことを見出した。彼らは、この抑制の持続時間が音響持続時間とともに増加し、30秒間の刺激オフセット後約40秒間続いたことを示し、これらの特性がRIの心理音響特性に類似していると結論付けた。我々はRI現象がPUモデルによっても説明できることを示す。したがって、両理論は互いに排他的ではなく、共存することができると我々は考えている。
【0041】
図5は、慢性的な患者のRIがPUモデルによってどのように説明されるかを示す。パネルAは、実音量においてマスカー音の音量による影響を示す。パネルBは、マスカー音による聴覚N1の反応を示す。パネルCはマスカー音によってもたらされる耳鳴り患者の知覚音量の経過を示す。この特定の例では、4000Hzのマスカーが提示される。この例は4000Hzの音に特有のものだが、この現象はすべての周波数に対して同時に並行して発生すると考えらる。時点Iに先立ち、知覚値は通常の状態のTLに等しく、この慢性患者の予測値(TL)と等しい。時点Iにおいて、マスカーラウドネス(ML:Masker Loudness)が加えられ、その結果知覚値はTL+MLに等しい。このモデルは、マスカーが感覚記憶よりも長い持続時間で提示されるとき、知覚値(TL+ML)を維持することができないと規定している。以前に強調したように、知覚値が不確定で漂流すると、TLに向かう力が作用する。しかし、マスカー音のゆらぎによって知覚が更新されるため、知覚漂流が制限され、知覚値がTLに達しない。
【0042】
マスカー音が止まると、入力の変化(減算)は知覚値を減少させ、耳鳴り知覚の一時的な抑制を引き起こし、耳鳴知覚値がRLとなる。ここで、Residual Inhibition(RI:残留抑制)直後の耳鳴知覚値をRLと定義する。しかし、不変状態が感覚記憶の限界(時点IV)よりも長く続くと、知覚を維持することが不可能になる。その後、知覚値はRLからTLにシフトする。耳鳴りの音量(TL)、マスカーラウドネス(ML)、マスカーの持続時間(時点Iから時点III:マスカー音の提示時間)、RIの深さ(TL−RL:マスカー停止後の耳鳴りラウドネスの減少率)、およびRI持続時間(時点I−時点V)を調べることによってPUモデルの信頼性が確認される。以前の研究の結果は、このセクションの後半で説明するように、この仮説とほぼ一致している。RIが発生するためには、マスカーのラウドネスが耳鳴りのラウドネスを超えなければならず、マスカーの持続時間は、好ましくは10秒以上続くべきである。マスカーの持続時間が増加するにつれて、RI持続時間は、マスカー持続時間の(対数)関数として増加し、約1分後に漸近線に近づき、次いでプラトーに達する(非特許文献24)。マスカーのラウドネス、持続時間、およびRI持続時間の間のこの関係もまた、PUによって行われた予測とよく一致する:マスカーの持続時間が感覚記憶の持続時間に対応する10秒の持続時間を超えると、知覚される音強度は徐々に減少する。マスカーの持続時間(時点Iから時点III)が長いほど、時点IIから時点IIIまでの期間が長くなり、したがって、時点IIIより前の知覚される音響強度の減少が大きくなる。これにより、RI深度が大きくなり、RI持続時間が長くなる。RI持続時間は、最大RI深度によって制限され、ある点を超えてマスカー持続時間を増加させることは、RIに追加の影響を与えないことを意味する。RIの所要時間は通常数十秒程度ですが、RIが数分以上続くことは珍しいことではない(非特許文献25)。
【0043】
これは次のように説明できる。非常に静かな環境であっても、いくつかの音が聞こえることがある(例えば、呼吸、衣服の擦れ)。各個人の聴力に応じて、これらの小さい入力は、聴覚システム内の知覚更新につながることも、そうでないこともある。これらの音が知覚更新なしに個人の聴力閾値以下のままである場合、知覚値は円滑にTLに向かって漂流する。逆に、音が聞こえると、TLに向かう知覚漂流が遅れる。言い換えれば、聴覚の良い人が騒々しい環境にいると、耳鳴りの再現が遅れる。RobertsらおよびTerryらは、RIの深さは、耳鳴りが完全にマスクされていれば、マスカー音量に比例することを示した(非特許文献26、非特許文献24)。また、RIの深さはマスキング音の中心周波数に依存することも示された(非特許文献26)。さらに、聴力障害が存在する周波数領域でマスキング音を使用すると、最良のRI深度が得られる(非特許文献8)。これらの研究は、耳鳴りおよびそのRIが、聴覚障害の周波数領域に及ぶプロセスに依存し、聴覚障害領域の縁(聴力検査エッジ)での音の周波数の皮質表現を生じさせるメカニズムには依存しないことを示した。これらの事実に基づいて、著者らは、ニューロン同期モデルがTonotopic Reorganization Model(非特許文献26)よりもRIメカニズムをより適切に説明できることを示唆した。PUモデルは、聴力障害の周波数に一致するマスカーによってRI深度が理論的に最大化されるという事実を説明することもできる。これは、耳鳴りと聴覚障害(
図3参照)との関係と、耳鳴りとマスキング音(
図5参照)との関係を各周波数で組み合わせることによって導かれる。最後に、PUモデルは、提示されたマスカーのラウドネスおよび周波数をパラメトリックに操作することによって、耳鳴り患者のRI深さと持続時間との間の関係を調べることによってさらに検証することができる。
【0044】
[知覚更新(PU)モデルの検証]
通常の知覚更新は、潜在的知覚漂流の可能性を低減する。
【0045】
PUモデルは、音入力に変化がなければ知覚漂流が発生すると仮定している。我々は、RI期間中に知覚の更新を数回促進することによって知覚漂流が遅れることを検証することができる。具体的には、変化のない期間内にRI効果が変化するかどうかを実験的に確認することができる。
【0046】
[実験1:マスカー提示後(時点IIIから時点V)]
マスカー提示後の知覚値は、RIによって減少された耳鳴りの値であるRLに対応する(
図5)。マスカー提示後の無音期間中、入力の変化はないので、知覚は更新されない。これは知覚的不確実性をもたらし、知覚漂流を生み出す。この期間中にわずかな入力変化が生じた場合、知覚更新を促進し、漂流を減少させるはずである。これは、耳鳴りラウドネスがTLに戻るのに必要な時間を調べるために、マスカー提示後の耳鳴と同じ周波数帯の短いクリック音を提示することによって達成することができる。この概念は
図6に示される。音量の急激な変化が知覚更新を生成し、少ない音量で少数の提示であっても、耳鳴り回復時間のさらなる遅延を引き起こすため、耳鳴りの低減に有効であることが証明されるはずである。安定した音やノイズが、耳鳴り回復時間の遅延に与える影響は、持続時間の短いクリック音よりも小さくなる。実験の開始時に、慢性耳鳴りの各患者に対して遮蔽室で最良のRIを生成する最適条件(マスカー音の種類、マスカー音量、マスカー提示時間)を特定する必要がある。続く測定では、同じ条件でマスカーの提示が繰り返される。
【0047】
対照の条件として、マスカー提示後の無音時に、無音時のRLからTLまでの回復曲線の形状を最初に調べることを提案する。RLは、インスペクタ(患者が耳鳴りの音量に最も近い音量を有するものを選択できるように、様々な音量の音を提示することによって耳鳴りのラウドネスを決定するために使用される標準的な装置)を用いてプレゼンテーションの直後(0分)に測定される。各測定について、マスカー提示の終了から測定までの時間は、1分ステップで1分から10分まで変化し、RLは毎回測定される。マスカー提示自体を繰り返すことは耳鳴りの減少をもたらすので、1日の測定回数には限界があることに留意されたい。この手順は、マスカー提示後の耳鳴りボリューム回復の時間パターン(例えば、対数、線形、または指数関数)を確認することを可能にする。我々は、この時間曲線が、感覚記憶の減衰速度と漂流の速度との複合尺度であるため、RLからTLへの知覚漂流に対応すると仮定する。
【0048】
[実験2:マスカー提示中(時点Iから時点III)(
図5)]
この実験では、マスカーの提示中に音入力が与えられると、聴覚系で知覚更新が行われ、漂流が減速され、RI効果を減少させる。これは、マスカー音を10dBの音量変化の増加および減少に伴って急速に変化させるように適合させることによって達成することができる(
図7B)。第2のパルス状のマスカーが反対の極性(他方が減少している場合には増加し、逆に減少する場合に増加する)であって、マスカーの総量が同じであるとしても、知覚更新によってRI効果は減少する。
【0049】
比較条件については、通常のマスカー音を使用し、全体のラウドネス(Masker+耳鳴音)の知覚漂流の時間曲線を導出することを提案する(
図7A)。インスペクタを使用してマスカー提示を行う前に、耳鳴りの音量を評価することができる。各測定において、マスカー音提示時間は、1秒から10秒またはそれ以上までの1秒ステップで異なり、RLはマスカー提示の終了直後に測定される。異なるマスカー提示時間に対して得られたRLのこの時間シーケンスは、全体的なラウドネス(Masker+耳鳴音)の知覚漂流の時間シーケンスと平行であると考えられる。これにより、マスカー提示中の知覚値の漂流曲線を推定することができる。本願発明者は、それが感覚記憶の減衰速度と漂流速度との複合であると仮定する。
【0050】
[RI(Residual Inhibition:残留抑制)効果曲線を求める]
RI効果曲線を次の手順で求める。
【0051】
ある特定の患者に対してRIを起こすマスカーを用意する。
【0052】
図8Aでは、マスカー提示20秒の例をしめし、マスカー提示前は、患者の固有の値であるTLの知覚値をもち、それが耳鳴の音量であるが、その後の耳鳴音量(TV)の経過をしめす。
【0053】
マスカーの音量とTVが加わった全知覚値も平行して示している。マスカー終了後の知覚値(RL)を求める。マスカー終了後からTVが上昇し始める時間をTdとする。
【0054】
図8B、
図8Cでは、同じ患者に対して、10秒、20秒・・・100秒・・・200秒と10秒ごとに長さのことなる20種類以上の音の長さのマスカーを提示する状態を示す。または、さらに小さな単位でもよい。マスカー提示時間が10秒の場合、(
図8B)のような曲線を得たとするとRL(a)が10秒におけるRI後の知覚値である。TVの減少はaでとまり、その後TV=RL(a)のままでしばらく続く。その後Td秒後から耳鳴音量(TV)が増加して、10分後に耳鳴音量がTL(x)の値まで回復し、その後安定したとする。同様にマスカー提示時間20秒での変化が
図8Cに示される。この場合は、マスカー提示後はTV=RL(b)のままでしばらく継続し、Td秒のときに徐々に増加し、TV=TL(x)の値まで回復する。
【0055】
このようにして、10秒から1分までa,b,c,d,e,f各十秒ごとのマスカー提示時間のRLを順番に求めた様子が(
図8D)であり、これによりRI効果曲線が求まる。RLの減少は、RIの理論で記述されたように1分以降でプラトーとなると予想され、その後のRLの変化は少ない。
【0056】
このRI効果曲線は、耳鳴に対応する知覚値が知覚漂流により減少していく値に対応する。TLは、耳鳴の予測値であるが、短時間の間ではほぼ一定であり、
図8B、
図8CにおけるTL(x)は初期値であるTL(0)とほぼ等しい。長時間になるとTLの変化が無視できなくなり、これが長時間マスカーの効果の指標となる。
【0057】
このようにして、特定の患者に対する特定のマスカー音のRI効果の曲線が求められるが、さらに、他の音源や他の患者群(聴力障害、耳鳴高さ・大きさ)についても可能なかぎり計測し、その他は推測によりデータ群を作成する。
【0058】
これらの曲線は、PUモデルの理論を背景にしており、知覚漂流の速度と感覚記憶の減衰の速度の兼ね合いにより得られるもので、多くのデータとともに、類似の状態を類推できるものであることを検証した。
【0059】
ここで、RI効果曲線について、定義する。RI効果曲線とは、RI効果を耳鳴音量の時間経過として表す曲線であり、
図8Aから
図8Dに示すごとく提示音によって変化する耳鳴音量の経過であり、提示音の開始から終了、さらに終了後の耳鳴音量が元の音量に戻るまでの経過を表す曲線である。
【0060】
このようなRI効果曲線は、患者の聴力の状態、提示音の音量、周波数、音色、それらの時間変化、提示時間により類推可能である。特に近似した患者、提示音からのデータをもとに類推する。
【0061】
ここで、RI効果曲線の類推について説明する。
【0062】
図3(音入力がない)、
図5(音入力が一定、音入力がない)、
図6(音入力が一定)、
図7A(音入力が一定)と、音入力に変化がない場合に、知覚漂流がおき、知覚が一定の値に向かう状態が示されている。これは、「実験2:マスカー提示中」において説明されているように、感覚記憶の減衰速度と漂流速度の複合によって起こると想定される。
【0063】
この場合、知覚が向かう一定の値は、TLであるが、例えば
図5のマスカー提示時間中の知覚漂流は、マスカーのノイズのゆれによって、一定の知覚更新が生じ、知覚漂流がある程度阻害されるために、完全にTLに達しない。一方、
図5のマスカー終了後において、静寂が続くならば、知覚更新は起こらず、知覚漂流が阻害されないために、知覚はTLに達する。つまり、元の耳鳴に戻る。
【0064】
このような背景のために、知覚漂流の曲線は一定の傾向をもち、特定の患者に対して、特定の音源を、特定の音量と特定の期間で提示した場合のRI効果曲線を典型例とすると、その典型的な曲線を、縦軸(知覚値)と横軸(時間軸)に(線形もしくは非線形に)拡大縮小することで、他の患者に対して、他の音源を他の音量と期間で提示した場合のRI効果曲線に近似する曲線を得ることができる。
【0065】
実際にこのような類推にて最小限のデータで、多くのRI効果曲線を得ることができた。
【0066】
[RI効果曲線の類推のために時間軸、音量軸のいずれかの方向に線形もしくは非線形にスケーリングする方法]
図10Aは、マスカー音提示後から一定の時間を経て耳鳴音量が回復していく状態を示す例である。
図8A、
図8B、
図8C、
図8Dに示されるマスカー提示時間終了からTd秒たった時点である、耳鳴音量回復の開始時点が、
図10Aの始点(0秒)と対応する。
【0067】
典型例の時間と耳鳴音量の関係が次の表に示すように、0秒時点で耳鳴音量が10dBで8秒後に25.5dBのもとの耳鳴音量に回復した。
【0069】
別の比較的聴力のよい患者P1で、別の知覚更新を起こしやすい音源T1を提示した例において、0秒時点の耳鳴音量が0dBで、回復時間が1000秒で元の耳鳴音量の25.5dBに回復した。
【0070】
ここで、時間軸の各秒数を指数関数に当てはめると、Exp(1)=2.7、Exp(2)=7.4、Exp(3)=20、Exp(4)=55、Exp(5)=148、Exp(6)=403となる。
【0071】
さらに、知覚音量yにたいして、対数関数を当てはめて、log(y)×30−70.5と変換した値が、log(10)×30−70.5=0、log(14)×30−70.5=7.5、以下同様に、log(17)×30−70.5=13.5、log(20)×30−70.5=19.5、log(22.5)×30−70.5=22.5、log(24)×30−70.5=24.6、log(25)×30−70.5=25.5、log(25.5)×30−70.5=25.5となる。
【0072】
これは、経験に基づくおよその計算であるが、時間の流れを指数関数的と仮定して、さらに実測値に合わせて、知覚音量に関しては、−70dBで補正した値である。次の表に示す。
【0074】
この計算法は、現時点での大まかなものであるが、途中経過も含めて、この患者P1と音源T1の例によく該当した。さらに、知覚更新をやや起こしにくい音源T2で、典型例との中間的な状況において、この数式を用い、補正値を調節することで、途中経過がよく当てはまる場合が多いことが分かった。あくまで数式で近似できた一例であるが、今後の多数例の詳細な検討により進歩するものであり、この計算法に限定するものではない。
また、数式による類推が可能でなくても、後述のTL減少曲線の類推にスケーリングを用いた例で示すように、グラフ上で類推することも含まれる。
【0075】
[長時間マスカー効果のTL減少曲線を求める]
従来、マスカー効果(2から3時間のマスカー負荷により数時間耳鳴が減少する状態)が報告されているが、これはPUモデルにおいて、長時間のマスカーの提示によりTL自体が減少する状態に対応する。
【0076】
ここで、具体的にTL減少曲線の求め方を記述する。
【0077】
図9Aは、例として4000Hzバンドノイズであるマスカー音を10分負荷して、直後のRIによる影響がなくなり安定した状態の耳鳴音量(TV)を求める状態を示している。マスカー提示時間内の全知覚音量は、マスカー音量MLと耳鳴音量TVの合計(ML+TV)であり、図では、全知覚音量(ML+TV)のうちで、MLを除外した耳鳴のみの音量TVを示している。なお、マスカー提示中のTVはTLと等しいと仮定している。マスカー終了直後は、RIの影響でTVが減少する。RIの影響がなくなった後(例えば10分後)のTVは、直前のTLを反映したものと考える。つまり、図示のTL(10分)は、マスカー提示終了時のTV(=TL)とほぼ等しいと考えられる。同様に
図9Bは30分後のTVを求め、それが30分後のTLとしている。このようにして次々と(例えば10分、30分、1時間、2時間、3時間、5時間)と各マスカー提示時間によるTLを求めTL減少曲線を作ったものが、
図9Cである。
【0078】
このように、特定の患者に対して、特定のマスカー音を異なる時間(例えば10分、30分、・・・1時間、3時間、5時間)提示して、それぞれの提示後のTLを計測して、TL減少曲線とする。
【0079】
他の音源や他の患者群(聴力障害、耳鳴高さ・大きさ)についても可能なかぎり計測し、その他は推測によりデータ群を作成する。
【0080】
多数の例を基にすることで、各患者に対する各マスカー音に対するTL減少曲線を類推できるようになる。
【0081】
ここで、TL減少曲線を定義する。TL減少曲線とは、主に長時間の音刺激によるTLの減少の時間経過を表す曲線であり、各TLは
図9Aから
図9Cのごとく提示音の終了から主に数分程度経過してRI効果が無視でき安定した耳鳴音量となったときの耳鳴音量として測定される。さらに、音刺激が終了からもとのTLに回復するまでの曲線も含まれる。
【0082】
このようなTL減少曲線は、患者の聴力の状態、提示音の音量、周波数、音色、それらの時間変化、提示時間により類推可能である。特に近似した患者、提示音からのデータをもとに類推する。
【0083】
ここで、TL減少曲線の類推について説明する。
【0084】
図9Aから
図9C並びに
図11Aおよび
図11Bで示されているように、提示音の提示時間の増加に応じて、徐々にTLが減少することが観測されている。TLは、誤った予測値であり、一定の傾向をもち特定の患者に対して、特定の音源を、特定の音量と特定の期間で提示した場合のTL減少曲線を典型例とすると、その典型的な曲線を、縦軸(知覚値軸)と横軸(時間軸)に(線形もしくは非線形に)拡大縮小することで、他の患者に対して、他の音源を他の音量と期間で提示した場合のTL減少曲線に近似する曲線を得ることができる。
【0085】
実際にこのような類推にて最小限のデータで、多くのTL減少曲線を得ることができた。
【0086】
[TL減少曲線の類推のために時間軸、音量軸のいずれかの方向に線形もしくは非線形にスケーリングする方法]
TL減少曲線の例1)
音源A(4000Hzバンドノイズ)、患者P1(聴力分布:3000Hzから高音漸減、耳鳴:4000Hz,40dB)に対する音源Aの50dB負荷におけるTL減少曲線(抜粋)
【0088】
TL減少曲線の例2)
例1と同じ音源Aを同じ患者P1に用いて音源Aを70dB負荷としたものが次表である。
【0090】
図10Bは、例1と例2を示したものである。
【0091】
上述のRI効果曲線の類推にスケーリングを用いた例では、数式においておよその近似ができたが、例1(音源50dB)と例2(音源70dB)の両者を総合的に説明する数式を探すことは容易ではなかった。しかし、両者のグラフは、交わることがなく、類似の例(例えば60dB)の例は
図10Bに示すようにグラフの上で類推が可能である。さらに多くの例を参照することで、非線形のスケーリングの場合も含めて他例においても類推することができた。
【0092】
また、グラフ上だけでなく可能であれば、上述のRI効果曲線の類推にスケーリングのように数式で類推することも想定される。
【0093】
[TL減少に関する音刺激の積算量の詳細]
短時間のRIにおいてTLの変化は少ないが、音の刺激の積算によりTLが変化し、それが長時間マスカー療法の効果となることが分かった。ここで詳細には、次が成立する。
【0094】
(TL減少に関する)音刺激の積算量=(TL減少に関する)音圧刺激+(TL減少に関する)音変化刺激。
【0095】
音刺激の積算量、音圧刺激、音変化刺激はすべてTLの減少量として表す。
【0096】
「音圧刺激」は具体的には、音の変化の要素を除外した、音圧自体によるTL減少量である。
【0097】
音源が固定音(音量、高さ、波形[音色]が一定:例:ビブラートの少ない楽器音、むらの少ないノイズ)の場合は、その音源は、「音圧刺激」のみを有すると考える。
【0098】
「音変化刺激」は具体的には、音変化の刺激によるTL減少量である。変化の伴う音(例えば、虫の音の「リー、リー」)などは、音量、音高などが短時間で変化する。この変化自体が、TLに影響を及ぼす。
【0099】
固定音以外の音源(音量、高さ、波形のいずれかにおいて変化する音)は、「音圧刺激」と「音変化刺激」の2つの合計の刺激があるとし、その合計を「音刺激の積算」とする。
【0100】
ここで、音刺激の積算量、音圧刺激、音変化刺激はすべて、TLがどの程度減少したかで、定量化する。
【0101】
ある音源、虫の音Aについての各値の求め方は、まず単純に虫の音AによるTLの減少量を求め、それが、虫の音Aが全体としてもつ「音刺激の積算量」である。
【0102】
つぎに音圧のみの刺激量としての音圧刺激を考慮するために、虫の音Aのあらゆる変化(音量、高さ、音色など)をなくして平均化した音を合成し、それによって生じたTL減少量を「音圧刺激」とする。
【0103】
最後に、「音変化刺激」=「音刺激の積算量」−「音圧刺激」として音変化刺激を求める。
【0104】
例えば、虫の音Aを1時間聴かせた後のTLの減少が20dBだった場合(音負荷の積算量)、虫の音Aと平均音圧が同じ一定の音を1時間聴かせた時のTLの減少が15dBだった(音圧刺激)ならば、音変化刺激は20−15=5dBと定義する。
【0105】
このように、すべてTLの減少量で定量化し、「音変化刺激」=「音負荷の積算量」−「音圧刺激」と具体的に求める。
【0106】
これにより各マスカー音源についての性質を明確にして、別のマスカーにおいての類推に役立てる。
【0107】
これらの要素を用い、別の音源についての推定に役立てる。
【0108】
例えば、コオロギ音源B「リー、リー」において、音変化刺激が強い効果があると分かった場合、その音源の音変化をさらに強調する音源を作成する。その強調の程度は、データからその効果が推測することで決定できる。
【0109】
別の音源において、直接計測しなくても、類似の音変化刺激をもつ別の音源からそのTL減少曲線を推定することが可能である。
【0110】
実際、ある音源、虫の音Aは、音変化刺激が強い効果をもたらすことが分かり、この変化を強調した虫の音Bを合成し、そのTL減少曲線を予測した。ほぼ実際値と一致するデータが得られ、有用な音源として登録された。
【0111】
[RI効果における音刺激の積算量の詳細]
RI効果においても、TL減少と同様に
(RI効果に関する)音刺激の積算量=(RI効果に関する)音圧刺激+(RI効果に関する)音変化刺激
として、分析できることが分かった。
【0112】
計算方法においても、同様に特定の音源(例えば虫の音A)に対して、まず、虫の音Aに対するRI効果を「音刺激の積算量」とし、次に虫の音Aの変化を固定した音源を作成し、そのRI効果を「音圧刺激」とし、「音刺激の積算量」−「音圧刺激」=「音変化刺激」
として、音変化刺激を求めた。
【0113】
RI効果については、固定音による音圧刺激と、変化による音変化刺激は、相反する性質を持つ。つまり、固定音は、知覚漂流をおこし、変化は知覚更新を起こして、知覚漂流を阻害するからである。
【0114】
例)
虫の音Aを、50dBで20秒間、患者Pに提示した直後のRI効果が、15dBだったとする。(患者Pの静寂時の耳鳴音量TVはTLであり、静寂時の耳鳴が40dBで、音提示後の耳鳴が25dBだった場合に、40−25dB=15dBが耳鳴の減少量である(RI効果は15dB)。
【0115】
この場合、音刺激の積算量=15dB、である。
【0116】
次に、虫の音Aの音量、音色、音高(周波数)の変化をなくし、平均的な値に固定した音を作成する。具体的には、平均的な周波数分布で固定した音を作成する。あるいは、それに準じた方法で、虫の音Aの変化を極力少なくした音を作成する。
【0117】
その音を同様に50dBで20秒間、患者Pに提示した直後のRI効果が20dBだったとする。この場合、音圧刺激=20dB、である。
【0118】
すると、音変化刺激=音刺激の積算量−音圧刺激=15−20=−5dBと計算できる。
【0119】
これらから、虫の音Aは、
音刺激の積算量(15dB)=音圧刺激(20dB)+音変化刺激(−5dB)
であると解析できた。
【0120】
ここで、他で記述しているように、固定音が知覚漂流をもたらし、音の変化が知覚更新を起こす。
【0121】
「音変化刺激」の値がRIに関して小さいということは、RI効果(つまり知覚漂流)について負の影響があるという意味であり、変化の効果としては、逆に大きいということを意味する。
【0122】
音圧刺激(20dB)に比較して音変化刺激(−5dB)が小さいほど、その音源の音変化刺激がRIに対して強い負の作用を持っており、虫の音Aは、音変化刺激の負の作用が強い(知覚更新の作用が強いこと)を意味する。
【0123】
ここで、さらに、虫の音Aの変化部分を強調した音を合成し、
音刺激の積算量(5dB)=音圧刺激(15dB)+音変化刺激(−10dB)
という虫の音Bを作成したとする。
【0124】
虫の音Bは、RI効果はさらに少なく、知覚更新を起こしやすい音源であることを示す。
【0125】
このことを利用して、いったん静寂にいたった状態から耳鳴が回復する段階で、知覚漂流を起こしにくい虫の音Bのような音源を選択することができる。
【0126】
また、この回復曲線も、音圧刺激と音変化刺激の要素を加味したデータによる累積でより詳細な予想ができる。
【0127】
実測値は、予想値と近く効率的な耳鳴音量の制御が可能であった。
【0128】
[既存の治療法の効果およびその限界]
ここで、一定の有効性があるとされている既存の耳鳴治療法の効果およびその限界を確認のためにまとめる。
【0129】
まず、補聴器は、聴覚障害のある周波数帯域の音を増幅することで、使用者に認識されるべき音、またはなじみやすい音を生成する。そして、この生成された音を自動的に使用者に負荷するものであり、耳鳴治療のための機器として理想的である。しかし、難聴がなく補聴器を使用していない人では使えない。
【0130】
また、1日のうちで、徐々に耳鳴を下げていく効果はあるが、耳鳴をすぐに下げたいという目的を遂行することもできない。
【0131】
次に、マスカー療法では、負荷されたマスク音の周波数分布に関係して長時間マスカーの効果が起こるため、的確なマスク音で施術された場合には、耳鳴音の抑制効果が比較的高い確率で得られる。
【0132】
しかしながら、マスク音と耳鳴音との周波数帯域の関係によっては、耳鳴音の大きさだけでなく、ピッチまたは音色の変化が生じ得る。例えば、マスク音として耳鳴音よりも低い音を重点的に用いてマスキングが実施された場合、施術後の患者は、元の耳鳴音の高い部分が残存し、相対的に耳鳴音が高く変化したと認識する。したがって、変化後の耳鳴音に合わせてピッチおよび音量を変化させたマスク音での施術の継続が必要となる。しかし、従来のマスカー療法では、施術中に耳鳴音の周波数帯域をカバーするようにマスク音を刻々と変化させることはできないし、そのような施術は想定なされていない。また、マスキングによる耳鳴抑制の機序は不明であるために、これ以上の議論がなされていない。
【0133】
本願の発明者は、これらの効果およびその限界に鑑みて、以下で説明する本発明に係る装置を用いて、複数の聴覚障害の患者に、聴覚障害のある周波数帯域の音を1日のうちの所定の長さ以上の時間、所定の大きさ以上の音量で負荷することで、負荷前に比べて耳鳴の少ない状態を継続できることを確認した。さらに、RI効果曲線やTL減少曲線の特性を利用することで、より計画的に効率的に耳鳴音を制御できることを確認した。
【0134】
本願の発明者は、耳鳴患者において音負荷を適切に与えることによって、日常の耳鳴を制御できているならば、それは正常者と同等に、耳鳴を良好に制御下においていると考える。
【0135】
本発明に係る装置は、患者に欠落または不足している周波数帯域の音負荷を適切な量および適切な方法で与えることで、脳内での音認識の誤りの発生防止または訂正を促すことを可能にするものである。
【0136】
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の位置、配置、および接続形態、各ステップ、ステップの順序等は一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。
【0137】
また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素は、任意の構成要素として説明される。
【0138】
[構成]
図12は、本発明の実施の形態に係る耳鳴治療器の機能的構成を説明するためのブロック図である。
【0139】
本発明の実施の形態に係る耳鳴治療器10は、記憶部100、制御部200、操作部300、および表示部400を備える。
【0140】
なお、以下の記載において、耳鳴治療器10のユーザとは、例えば耳鳴治療器10を用いて音を聞く耳鳴の症状を訴える患者、または耳鳴治療器10を使用して当該患者に音を聞かせる医師等の医療従事者若しくは家族が想定されている。
【0141】
記憶部100は、耳鳴治療器10で用いられるデータを記憶する。これらのデータには、音素材データ110、音素材リスト120、コースデータ130、治療計画データ140、および治療履歴データ150が含まれる。これらのデータの詳細は例を用いて後述する。また、記憶部100には、後述の制御部200が読み出して実行するプログラム(図示なし)も記憶される。このような記憶部100は、例えばフラッシュメモリ等の半導体メモリで実現可能である。または、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read-Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)等、各種の記憶装置の組み合わせで実現されてもよい。また、記憶部100は、全体またはその一部が、耳鳴治療器10からの取り外しおよび入れ替えが可能であってもよい。これにより、例えば、プログラム以外の上記のデータを記憶するフラッシュメモリを含むSDカードが入れ替えられることで、1台の耳鳴治療器10を複数の患者に利用させることができる。
【0142】
制御部200は、例えばマイクロコントローラを用いて実現され、耳鳴治療器10が所定の機能を発揮するように、記憶部100に記憶されているプログラムを読み出して実行する。制御部200は、このプログラムに従って、またはさらに後述の操作部300からの入力に応じて、上記の各データの取得および処理、この処理によって得られたデータの出力、並びに他の構成要素の制御を行う。なお、制御部200がマイクロコントローラを用いて実現される場合、その一部である記憶装置は、機能的な意味では耳鳴治療器10の記憶部100に含まれると解されたい。
【0143】
制御部200には、タイマー210、合成音生成部220、音素材データ取得部230、音調整部240、音出力部250、および音負荷統計部260、が含まれる。
【0144】
タイマー210は、例えばRTC(Real Time Clock)等の時計であり、制御部200による後述の各処理のうち、時間に関連する処理のための計時を行う。
【0145】
合成音生成部220、音素材データ取得部230、音調整部240、音出力部250、および音負荷統計部260は、記憶部100からプログラムを読み出して実行する制御部200によって提供される機能的な構成要素である。
【0146】
合成音生成部220は、音、つまり音波形を合成するための数式、例えばサイン波またはバンドノイズを算出するための数式に基づいて波形データを算出することで一時的な音素材データを生成し、音素材データ取得部に送る。この数式は、記憶部100にプログラムの一部として、または当該プログラムで参照されるデータ(図示なし)として記憶される。合成音生成部220が生成する音素材データは、例えばユーザが後述の操作部300を介してした音色または音高等の音の設定の選択のための操作に応じて、または、コースデータ130を参照し、コースデータ130に含まれるコース設定に基づいて決定される。
【0147】
音素材データ取得部230は、合成音生成部220によって生成された一時的な音素材データまたは記憶部100に記憶されている、互いに異なる複数の音を示す音素材データ110を取得する。音素材データ取得部230が取得する音素材データ110は、例えばユーザが後述の操作部300を介してした音色または音高等の音の設定の選択のための操作に応じて、または、コースデータ130を参照し、コースデータ130に含まれるコース設定に基づいて決定される。
【0148】
上述の音素材データとは、例えば互いに異なる音を示す複数の音声データファイルである。コースデータとは、複数の音声データファイルが示す治療音に関するスケジュール(以下ではコース設定ともいう)のようなものを示すデータである。あらかじめ用意されて、またはユーザが作成して記憶部100に保存される。
図13Aは、コースデータ130のデータ構造の一例を示す図である。
【0149】
この例では、コースデータ130はテーブル形式であり、各データ行には、並行して再生される2つの音の組み合わせ(音No.−A、音No.−B)、この組み合わせが再生される時間長(時間 hh:mm:ss)、および各音の再生レベル(再生レベル−A、再生レベル−B)、つまり音量の設定を含むシーンが示されている。また、複数のシーンをまとめて、シーン同士の順序を定めたものがコースである。このコースデータ130の例では、最左の列にてコースを示す番号とそのコースに属するシーンを示す番号とが入力されており、シーンの番号は、順序も示す。コース01は、シーン00からシーン15までの16個のシーンを順に含む。コースデータ130のこの例におけるコース01の冒頭から3分あまりを時系列に沿って示したのが
図13Bである。
【0150】
2つの音を並行して再生することの効果は後述する。
【0151】
なお、2つの音を並行して再生するとは、発明者が試作した上述の装置では、2つの音を混合してmono音としての出力することに相当するが、これに限定されない。出力される音がmono音であるかstereo音であるかを問わず、音を重畳して再生することを指す。
【0152】
コースデータ130に含まれる各コースは、ユーザが選択可能なように後述の表示部400を介して表示される。
【0153】
例えば、ユーザが操作部300を操作してコース01を選択した場合、この選択を示す命令を受け取った音素材データ取得部230は、コース01に含まれる各シーンで再生される音No.に応じた音素材データを取得する。
【0154】
なお、再生される音としては、耳鳴の抑制または緩和の効果および耳鳴治療器10を用いた療法の継続のしやすさに鑑みて以下に挙げるカテゴリの音が含まれている。
【0155】
(1)ノイズ(広範囲周波数帯域)
このカテゴリには、ホワイトノイズおよびピンクノイズ等の各種のカラードノイズが含まれる。このようなノイズは、広い範囲の周波数の音を含むため、多くの耳鳴が遮蔽対象となり、下記の(2)および(3)のカテゴリの音に比べて高い遮蔽効果は得にくいが、周波数の選択が厳密でなくてもよい。また、耳鳴を紛らわせてユーザに安らぎを与える効果が期待される。
【0156】
(2)ノイズ(狭範囲周波数帯域)
このカテゴリに含まれる音の例としては、所定の周波数を中心とする、上記のノイズに比べて狭い周波数帯域にわたるバンドノイズが挙げられる。このようなノイズは、広範囲周波数帯域に比べて、高さを耳鳴の高さにやや正確に合わせる必要があるものの、少ない音量で効果的に耳鳴を遮蔽する効果を奏すると期待される。
【0157】
なお、治療音として用いられるこのカテゴリの音としては正規の規格にそったバンドノイズに限定されない。発明者は、その周波数分布において特定の周波数にピークがあるノイズであれば同様の発揮しうることを確認している。
【0158】
本明細書においてバンドノイズという記述は本カテゴリに含まれる音の代表例としての表現であり、周波数分布において特定の周波数にピークがあるノイズ全般に読み替えて治療音として適用することができる。
【0159】
(3)トーン(音階のある楽器音)
このカテゴリには、バイオリン、オルガンなど音階のある楽器のいわゆるドレミの音階音が含まれる。このような音は、高さを耳鳴の高さに厳密に一致させて聞かせることで極めて効果的に耳鳴を遮蔽すると期待される。
【0160】
(4)トーン(合成音)
(3)と同様に音階音であるが、ビブラートなど音の変化をなくし、倍音を少なくするなどして得られる極めて単調な音である。このような音は、例えば、電子工学的な手法によって合成して得られる。より具体的な例として、いわゆる電子楽器であるシンセサイザーが出力可能な音である。
【0161】
このような音は、含まれる倍音が少ないために、耳鳴遮蔽の効果を得るには、(3)よりもさらに厳密に耳鳴に高さを一致させる必要がある。しかしながら、耳鳴治療器10が出力する他のいずれのカテゴリの音とも異なり時間的な変化のない音を作りえるため、耳鳴治療において特殊な効果をもちうる可能性がある。
【0162】
(5)環境音
このカテゴリには、自然環境や街等にある音が含まれる。具体例としては、雨音、河川や海辺の水音、鳥または虫の鳴き声、雑踏の音が挙げられる。このような音を音負荷として与えることで、例えば耳鳴を紛らわせたり安らぎを与えたりする効果を奏すると期待される。
【0163】
なお、少なくとも上記(1)〜(4)のカテゴリに属する各音は、再生される時間内でレベル変動がほとんどないか、無視できる程度に小さい定常音か、または定常音に近い音である。
【0164】
これらのカテゴリおよび各カテゴリに属する音に関する情報は、シーンを設定してコースを作成するユーザにも提示されてもよい。例えば
図14に示す音素材リスト120は、このような情報をごく簡単に含むリストである。このようなリストが記憶部100に記憶されていれば、制御部200が取得して表示部400上でユーザに提示したり、音素材データの取得のために参照したりしてもよい。
【0165】
なお、
図14に示す音素材リスト120では、音No.0に「無音」というエントリがあるが、このエントリは、一時に再生される音が1つまたは無音の区間をつくる設定を容易に行うために含まれるものであり、このエントリに対応する無音の音声ファイルがあるわけではない。ただし、再生される音が1つまたは無音の区間の実現の手段はこれに限定されない。
【0166】
また、ユーザが後述の操作部300を介してする音色または音高の選択のための操作に応じて合成音生成部220が生成する音素材データも、コースの作成の便宜のために、音素材リスト120に登録されてもよい。
図14の例では、音No.61および62にこのような合成音の音素材データが登録されている。この場合、登録された各合成音の周波数特性を決定するパラメーターも記憶部100に保存され、合成音生成部220は、必要に応じてこのパラメーターと、音波形を合成するための数式とを用いて、登録済みの合成音の音素材データを随時生成する。
【0167】
なお、上記のカテゴリのうち、(1)〜(4)の音は、合成音生成部220が生成する一時的な音素材データが用いられることで、既成の音よりもユーザである患者の耳鳴の抑制または緩和により効果の高い音を出力することができる。また、これらのカテゴリの音は定常音または定常音に近い音であることから、上述のとおりそのデータの生成のため電力消費が小さい。したがって、耳鳴治療器10が携帯しやすいコンパクトなサイズであって、容量の限られるバッテリからの電力供給で動作する場合も、耳鳴の音響療法に望まれる時間長の連続使用が可能である。
【0168】
また、ユーザが好み等に応じて用意した音素材データ、例えば特定の楽曲の演奏または環境音を録音して得られた音素材データが記憶部100に保存され、また、音素材リスト120に登録されてもよい。
図14の例では、音No.63にこのような音の音素材データが登録されている。
【0169】
耳鳴治療器10では、これらの音からユーザによって選択された2つの互いに異なる、治療音として並行して再生される音を示す音信号が、記憶部に記憶されている音素材データ若しくは合成音生成部220が生成する音素材データ、またはこれらの両方を用いて出力される。
【0170】
音調整部240は、音素材データ取得部230が取得した音素材データの変更、または音素材データが示す音の出力レベルの調整を行う。このような動作を、音調整部240は、例えばコースデータ130を参照し、コースデータ130が示すコース設定に基づいて、または、ユーザが後述の操作部300を介してした音色若しくは音高の選択、または音量若しくは2つの音の音量バランス等の音設定の変更のための操作に応じて行う。
【0171】
例えば、音調整部240は、シーンに含まれる各音の再生レベルの設定に従った音量で音が出力されるよう、耳鳴治療器10がさらに備える増幅回路(図示なし)を制御する。
【0172】
また、ユーザが操作部300に対し、治療音全体若しくは各音の再生レベル(絶対音量)の変更または2つの音の再生レベルのバランス(音量比率)を変更するための操作を行った場合、この操作内容を示す命令を受け取った音調整部240は、受け取った命令どおりの再生レベルで音が出力されるよう上記の増幅回路を制御する。
【0173】
また、ユーザが操作部300に対し、いずれかの音を選択して再生するための操作を行った場合、この操作内容を示す命令を受け取った音調整部240は、音素材データ取得部230にこの音の音素材データを取得させる。または、ユーザがした操作が、合成音生成部220が生成する音素材データを用いて再生されている音に変更するための操作であれば、音調整部240は、合成音生成部220に、変更後の音を示す音素材データを生成させる。
【0174】
音調整部240は、耳鳴治療器10が2つの音を治療音として並行して再生中であっても、このようなユーザの操作を随時受け付けて上記のように動作してもよい。例えば、再生中の2つの音のいずれかについて、他の音に変更する操作をユーザが操作部300に対してした場合、音調整部240は、この他の音を示す音素材データを音素材データ取得部230に取得させ、必要に応じて再生レベルを調整した上で音出力部250に音信号を出力させてもよい。
【0175】
これにより、例えば耳鳴治療器10の使用中に患者の耳鳴音の大きさ、ピッチ、または音質等が変わって、その時の耳鳴治療器10からの音が耳鳴音を十分に遮蔽しなかったり、患者にとって不快に感じられるようになった場合に、患者自身がすみやかに適切な音に変更することができる。したがって、耳鳴治療器10による治療の効果が高まる。あるいは、効果の向上、不快感の低下、または自ら制御できることから得られる安心感により、耳鳴治療器10の使用による治療の継続が促される。
【0176】
音出力部250は、音調整部240が調整した後の音を示す音信号を出力する。この音信号は、
図12の例では、耳鳴治療器10の外部にあるスピーカ20に向けて出力されている。スピーカ20は、例えば耳鳴治療器10から音信号の入力が受けられるよう有線または無線で接続されているイヤホンまたはヘッドホンのスピーカである。耳鳴治療器10からの音信号の入力を受けたスピーカ20は、この音信号に従って音を発生させる。スピーカ20は、この例における音提示部の例である。
【0177】
このようにして発生する音を、患者は耳鳴治療のための治療音として聞く。上述のとおり、この治療音は、2つの音が並行して再生されたものであり、これらの各音または治療音全体の音量、および2つの音の間での音量比率、選択される音およびその組み合わせ等の音設定は、RI効果曲線、TL減少曲線など用いて治療に効果的なものが自動的に提案される。
【0178】
そのなかから、医師が医学的見地から推奨してもよいし、患者自身が、自分の知覚している耳鳴音に応じて選択、決定してもよい。また、使用中の耳鳴音の変化または心理状況に応じて、患者の操作によって変更されてもよい。
【0179】
音負荷統計部260は、このように患者に治療音を聞かせることで与えられる音負荷に関する統計を取り、この統計の結果を治療履歴データ150に含めて記憶部100に保存する。
図15は、治療履歴データ150のデータ構造の一例を示す図である。
【0180】
この例では、制御部200が実際に行った音負荷の出力に関して、日付(YYYYMMDDは年4桁月2桁日2桁を表わす)とその日の再生順(No.)と組み合わせ(A/Bが並行して再生)、時間長(hh:mm:ssは時分秒各2桁を表わす)、出力された音の種類(音素材データNo.)およびその周波数(又は周波数帯域)、再生レベル、並びに負荷スコアという項目で記録されている。負荷スコアとは、音量および時間(この例では分単位)の積であり、本実施の形態における音負荷に関する統計の例である。
【0181】
なお、音負荷に関する統計はこの例に限定されず、例えば時間長のみが用いられてもよい。また、この図示の例のデータからさらに得られる統計値、例えば所定の周波数帯域毎に算出される、音量および時間長の積の日別の和が用いられてもよい。また、治療履歴データ150の項目は
図15に記載の項目に限定されず、さらに付加されたり、一部が削除されてもよい。例えば負荷スコアの算出結果の項目は省略されて、他の処理での必要に応じて算出されてもよい。また、負荷スコアの算出方法も上記の例には限定されない。
【0182】
音負荷統計部260はさらに、治療履歴データ150を、記憶部100に記憶されている治療計画データ140と比較し、この比較の結果を、表示部400を介してユーザに提示する。
【0183】
治療計画データ140とは、医師等が患者にした検査の結果に基づいて作成した治療計画を示すものである。
図16は、治療計画データ140のデータ構造の例を示す。
図16に示される例では、治療計画データ140の項目として、計画No.、周波数帯域、および負荷スコアが含まれている。
【0184】
ここでいう治療計画とは、患者に耳鳴の抑制を目的として、所定の期間、例えば1日ごとに聞かせるべき音、つまり与えるべき音負荷の周波数帯域毎の負荷の大きさに関する計画である。このような音負荷を示す治療計画は、例えば患者にされた検査の結果である、ピッチマッチおよびラウドネスで表現される耳鳴の特性、または聴力検査によって特定された聴覚障害のある周波数帯域から得られるRI効果曲線やTL減少曲線によるプログラムに基づいて医師が決定する。また、治療の開始前、または開始後であっても、患者の主観を加えて適宜変更が加えられてもよい。
【0185】
また、比較とは、この例では負荷スコアの比較である。提示される比較の結果とは、負荷スコアの差分でもよいし、治療履歴データ150の負荷スコアの治療計画データ140の負荷スコアに対する割合でもよい。
【0186】
このような治療計画を示す治療計画データ140と患者がした治療の実績を示す治療履歴データ150との比較結果を患者に示すことで、患者にとっては治療の自己管理が容易になる。例えば、患者はあるコースを1日に繰り返すべき回数を数える必要がないし、使用中に中断した場合の進捗度を容易に知ることができるため、まとまった時間が取れない場合であっても耳鳴治療器10を使用しやすい。
【0187】
操作部300は、コースの設定をするために、または耳鳴治療器10の使用中に音量、音の種類(音色)、またはピッチ(音高)を変更するためにユーザによって操作される構成要素で、物理的な、若しくはソフトウェアによって表示部400上で画像として表示されるキー、ボタン、スライダ、ダイヤルなどで実現される。操作部300は、音量操作部310、音色操作部320、および音高操作部330を含み、それぞれ、音量、音色、音高の変更のために用いられる。
【0188】
表示部400は、耳鳴治療器10の動作状況を示す画面、設定画面、音負荷統計部260による比較結果の画面等を表示し、例えば液晶または有機EL等を用いて表示装置で実現される。または、パイロットランプ等の灯火器類も用いられてもよい。
【0189】
このような耳鳴治療器10は、例えば
図17Aに示されるような携帯情報端末を用いて実現することができる。この場合、記憶部100は携帯情報端末の記憶装置、操作部300および表示部400は、携帯情報端末のタッチパネルで実現される。操作部300は、さらに携帯情報端末の物理的なボタン等を用いて実現されてもよい。制御部200は、携帯情報端末の演算処理装置が、記憶部100に記憶された、各機能的構成要素を提供するためのプログラムを実行することで実現される。スピーカ20は、携帯情報端末に接続されるイヤホン等の発音体である。
【0190】
また、耳鳴治療器10は、例えば
図17Bに例示されるような専用の装置を用いて実現されてもよい。この場合、記憶部100は当該装置が備える記憶装置で実現される。操作部300は当該装置のボタン類で実現される。図示の例では、音量操作部310は装置本体の全体音量、バランス、A音量、およびB音量のボタンで実現される。また、音色操作部320および音高操作部330は、
図14の音素材リストでの選択に用いる音No.のボタンで実現される。表示部400は当該装置の本体左上側にある表示器で実現される。制御部200は当該装置のマイクロコントローラが、記憶部100に記憶される、各機能的構成要素を提供するためのプログラムを実行することで実現される。スピーカ20は、当該装置に接続されるイヤホン等の発音体である。
【0191】
ここまで耳鳴治療器10の構成を説明したが、耳鳴治療器10の構成要素には上記以外の物も含まれる。例えば
図17Aおよび
図17Bでそれぞれ示される耳鳴治療器10が外出先での使用が可能な携帯性を有するものであり、このような使用を可能にするために、耳鳴治療器10の各構成要素に動作電力を供給する充電池への充電機能を備える電源部を備えることは言うまでもない。
【0192】
また、耳鳴治療器10は、
図17Aおよび
図17Bで示されるような携帯性があるものに限定されない。例えば、パーソナルコンピュータにインストールされたプログラムが当該パーソナルコンピュータのプロセッサによって実行されることで、制御部200の各機能的構成要素が提供され、記憶装置に記憶部100に記憶される各データが保存および管理されることで耳鳴治療器10が実現されてもよい。また、診療機関または家庭用の専用の装置として実現されてもよい。
【0193】
また、携帯性のある耳鳴治療器10と携帯性のない耳鳴治療器10とが、日々の治療で組み合わせて用いられてもよく、各種の設定、治療計画データ、または治療履歴データ150は、両者間で通信されて同期されてもよい。
【0194】
[動作]
図17Bに示される装置を例に用いて、耳鳴治療器10の動作を使用例に則して説明する。
【0196】
図18Aは、耳鳴治療器10の起動時の画面例である。この画面では、ユーザは「全体音量」のボタンで項目を選択して、OKボタンを押して選択を確定させる。
【0197】
図18Bは、
図18Aの画面で「コースをきく」を選択した場合に表示される画面の例である。この画面では、ユーザは耳鳴治療器10に記憶されているコースから所望のコースを選択し、OKボタンを押して選択を確定させる。
【0198】
図18Cは、
図18Bの画面でコースを選択した場合に表示される画面の例である。この画面では、ユーザは選択したコースに関する情報を確認することができる。この例では、コースの名称、コースの総時間、コースに含まれるシーンの個数、最初のシーンで出力される音およびその音量等の情報が表示されている。
【0199】
ユーザはコースの選択が適切であれば、再生ボタンを押して音を聴き始めることができる。
【0200】
音量は画面左下の数字で、左から順に、治療音全体の音量である30、2つの音のバランス(音量比率)である6:4、Aの絶対音量である18、Bの絶対音量である12を示す。これらの設定は、画面の下にある対応するボタンが押されるたびに変わる数値から選択することができる。
【0201】
図18Dは、
図18Aの画面で次画面を表示させて(下スクロール)コースの編集を選択した場合に表示される画面の例である。この画面では、ユーザはコースを新規作成するか、編集する既存のコースを選択する。
【0202】
図18Eは、
図18Dの画面でコースの新規作成を選択した場合に表示される画面の例である。この画面では、ユーザはボタンを使ってコースの名前を入力する。
【0203】
図18Fは、
図18Eの画面で名前を入力したコースに含まれるシーンの設定をするための画面の例である。この例では、「どくしょ」と名前が付けられたコースの最初のシーンであるシーン00で並行して再生される2つの音が選択されている。ユーザは、所望の音の名称が表示された状態でOKボタンを押すことで、このシーンで再生される音を
図15に示されるコースデータに含めて記憶部100に保存することができる。
【0204】
図18Gは、シーン00で再生される音の音量を設定するための画面の例である。この例では、画面左下の4つの数字を、画面の下にある対応するボタンが押されるたびに変わる数値から選択することができる。これらの数字は、左から順に、治療音全体の音量、2つの音のバランス(音量比率)、音Aの絶対音量、および音Bの絶対音量を示す。ユーザは、音量の所望の設定を示す数字が表示された状態でOKボタンを押すことで、このシーンで再生される音の音量を、
図15に示されるコースデータに含めて記憶部100に保存することができる。
【0205】
図18Hは、シーン00の時間長を設定するための画面の例である。この例では、画面左下の3つの数字を、画面の下にある対応するボタンが押されるたびに変わる数値から選択することができる。これらの数字は、左から順に、時、分、および秒を示す。ユーザは、このシーンの所望の時間長を示す数字が表示された状態でOKボタンを押すことで、このシーンの時間長を、
図15に示されるコースデータに含めて記憶部100に保存することができる。
【0206】
同様の操作で、シーン00に続くシーンで再生される音、その音量、および時間長が設定される。当該コースに含められる各シーンの設定の選択およびこれらのシーンの順序が操作部300を介して入力されて、記憶部100に保存されると、当該コースの作成が完了、つまり複数の治療音に関するスケジュールが決定される。
【0207】
なお、耳鳴治療器10で表示される画面および操作部300の操作の態様、可能な設定の内容は上記の例に限定されない。例えば、音の選択の画面から、ユーザ設定の音の作成の画面に遷移してもよい。また、一旦ひととおりの設定の選択が完了した複数のシーン間で順序の入替が可能であってもよい。または、まず、コースと関係なく、少なくとも音の選択を含む複数のシーンの設定が記憶部100に保存され、その後にユーザがこれらのシーンから選択したシーンの順序、および各シーンで補充が必要な設定(音量及び時間長)の選択をして、コースが作成されてもよい。
【0208】
また、音および音量の選択は上記のとおりシーンの設定にも含まれるが、再生中も操作部300を用いて随時変更可能であってもよい。また、再生中に変更された音または音量を、当該シーンの音または音量の設定として上書き保存が可能であってもよい。また、あるコースに含まれる1つのシーンで音量の設定が変更された場合に、当該コースに含まれる他のシーンの音量の設定も自動的に変更されてもよい。これにより、あるスケジュールを実行中に、シーンが変わる度に音量の調節をするユーザの手間が軽減される。また、このような自動的な設定の変更は、音量に限定されず、音の種類または高さについても実行されてもよい。このようなユーザの手間を軽減する耳鳴治療器10の機能については次項にて後述する。
【0209】
このような使用が可能な耳鳴治療器10は、補聴器の使用を要しない耳鳴患者であっても日常生活に取り込んでの使用がしやすい。また、音負荷の設定の組み合わせが多様であるため、耳鳴症状の異なる各患者に使用であるとともに、一患者における耳鳴症状の変化にも対応可能である。さらに、使用場面または患者自身の好み若しくは急な要請に応じた音負荷の付与が可能であるため、患者による使用頻度の向上および使用の継続を促すことができる。
【0210】
[音負荷の設定]
[音負荷の設定の方針]
耳鳴治療器10を用いて治療音をある大きさである時間にわたって聞かせることで患者に与えられる音負荷は、上記のとおり音(の種類)およびその組み合わせ、音量およびバランス等の点で柔軟に設定することができる。しかしながら、効果を得るためには、適切な音負荷が適切な量で与えられる必要がある。
【0211】
ここでの適切な音負荷に用いられる治療音は、患者の聴力に障害がある周波数帯域および認識する耳鳴に応じた音量、音色、および音高の音である。
【0212】
一方、適切な量を与えるためには、患者による使用の自発的な継続が促されることが望ましく、少なくとも音負荷の付与で不快にさせることは避けられるべきである。この観点で、過度な単調を避けて、患者にとって極力心地のよい音負荷を用いることはひとつの課題である。
【0213】
また、治療音のバリエーションは単に単調さを避けることが目的ではない。上述のとおり、マスク音と耳鳴音との周波数帯域の関係によっては、マスキングの実施後に耳鳴音の大きさだけでなく、ピッチまたは音色の変化が生じ得る。マスカー療法は、耳鳴の周波数帯域をカバーし、耳鳴より大きい音量の音を聞かせることで耳鳴を遮蔽する効果を得るものである。
【0214】
しかしながら、耳鳴治療器10の使用においては、耳鳴を遮蔽することは治療音の設定の指標のひとつにすぎず、聴覚障害帯域の全般が対象であって音量は必ずしも耳鳴を遮蔽する大きさでなくてもよい。例えば、患者にとって耳鳴が気にならなくなる程度の大きさであってもよい。したがって、耳鳴治療器10で患者に聞かせる治療音は、厳密な意味では従来のマスカー療法とは異なる。また、時間積算して、対象帯域の充分な音負荷をかけることが主眼である。
【0215】
耳鳴は、患者の障害された周波数領域のうちの特定の周波数を持つが、すべての周波数を含むわけではない。障害された周波数領域のなかで耳鳴の周波数がどのように決まるかは不明であるが、患者の病態の経過、音環境等によって決まると考えられる。マスキングの実施後に耳鳴音が変化することも、音環境によって耳鳴の周波数が決定される一例である。
【0216】
このように変化する耳鳴音に対応するためにも、耳鳴治療器10は患者が聞く音を変化させることができるよう構成されている。そして、このような音の変化を実現するためには、音負荷の付与前に音の変化を考慮して治療音を決定しておく手法と、音負荷の付与中に患者自身が治療音を変化させる手法がある。これらの手法は併用してもよい。
【0217】
[治療音の決定手法]
まず、付与前に治療音を決定する手法の一例を説明する。この手法では、以下の2点を総合して考慮する。
【0218】
(1)耳鳴検査の結果、ピッチマッチおよびラウドネスの少なくとも一方で表現される耳鳴の特性
(2)聴力検査によって特定した聴覚障害帯域
【0219】
ここで、(1)は、あくまで表象的なものとして扱われる。(2)は耳鳴が起こり得ると想定される範囲として用いられる。なお、状況によって耳鳴は(2)の帯域のなかで変動するものである。これに対し、まず、ピッチマッチおよびラウドネスで得られた耳鳴の特性と同じまたは近似する特性を持つ音を、治療音の本体とする。また、耳鳴がこの特性を持つ音から周辺にずれることを前提として、この音から音域幅を広げた音をさらに選択する。このようにして決定した本体としての音と、音域的に幅のある音との2つの音を、一度にか又はこの幅の範囲で経時的に変化させて治療音として提示する。
【0220】
[RI効果曲線を用いた治療音の選定]
各音源のRI効果を集計するにあたって、音刺激が一定であることによる知覚漂流の観点と、音刺激が変化することによる知覚更新の観点から、各患者群においてデータを収集、定義、類推することで、効果的な治療音の選択とその時間的なプログラムを選択する。
【0221】
例)
音源Aの同患者P1に対する同50dB負荷におけるRI効果曲線(抜粋)
【0223】
音源Aを50dB、30秒提示後すると、耳鳴音量が20dBになった後、通常では回復時間が10分であったが、音源Aの停止後、音源S(20dB)を1分間隔の提示することで、耳鳴回復時間が30分に延長された。
【0224】
例)
ある患者P2に対して、この患者の聴力検査、ピッチマッチ、ラウドネスの検査から、音源A2,音源B2を想定した。患者P2に対するA2を50dB、B2を40dBの合計をそれぞれ10秒間提示した場合の各周波数のRI効果曲線が想定され、その曲線における回復期の状態も想定され、5分間の耳鳴の知覚量の積分値も導出された。各音量負荷の程度に比べ、耳鳴の抑制の程度が高いため、その値を選択して、この患者の治療スケジュール(RI効果1回)とした。
【0225】
例)
図11Aに示すように、10秒間隔のマスカー提示と休止を繰り返した場合の知覚音量の変化が予測された。第1回目の提示で、耳鳴音量(TV)が顕著に低下し、その後は、徐々にマスカー音の音量を低下させても、TVが十分低い値に制御されることが予測されたため、この治療プログラムが十分に効果的であると判断された。個別の患者に対して、異なる治療音と異なる音量に対するTVの経過をシュミレーションできるために、最適なものを選定することができた。
【0226】
例)
図6に示すように、RIや長時間マスカー効果によって、いったん音量をさげられた耳鳴が、その後の回復過程において、知覚更新を起こす効率的な音刺激によって知覚漂流を妨げることにより、耳鳴回復過程を遅延させるプログラムを選定できた。
【0227】
RIにより患者Aにおいて、音源S1を最小限50dBで10秒間提示することで、耳鳴消失という効果が得られ、音源S2(クリック音)を20dB5秒間隔提示することによる知覚更新で、耳鳴が回復するための知覚漂流が妨げられ耳鳴回復時間が遅延することが、各音源のRI効果曲線から導き出される。音源S1を50dB10秒間提示後、音源S2を20dB5秒間で提示するプログラムを実行することで、治療直後より極めて効率的に耳鳴音量が減少した状態を持続させることができた。
【0228】
例)
[TL減少曲線を用いた治療音プログラムの作成]
【0229】
例)
図11Bに示すように、10分間、音源S2を提示したのちにTLが低下することが推測され、そのTLに即して音源S2の音量をさげてさらに効果的にTVを抑制されることが推測されプログラムを実行した。
【0230】
具体例を用いて説明する。(1)耳鳴の特性として、ピッチマッチは6000Hz、ラウドネスは70dBであり、(2)聴力は両耳とも4000Hzから上の範囲にかけて急墜する患者を想定する。
【0231】
この患者には、耳鳴の特性に基づいて、6000Hz周辺のバンドノイズまたは音階音を治療音の本体とし、聴力障害帯域から得られるRI効果曲線やTL減少曲線に基づいて4000Hzから8000Hzにまたがるノイズや環境音を付随させて治療音とその時間的な変化のプログラムを決定する。耳鳴治療器10では、このように決定される治療音が再生されるよう、音量および音量バランス等と合わせて設定の選択がなされる。
【0232】
また、付与中の治療音を変化させる手法は次のとおりである。耳鳴治療器10の使用開始前に決定された音負荷に対して、使用開始後の患者の主観的判断、例えば出力されている治療音についての音量、音高、または音色それぞれについての個別の印象、プログラムから予想された耳鳴抑制と実際の耳鳴抑制の差異、または快不快若しくは好き嫌いなどの感想を反映して治療音の変更、具体的には、2つの音の選択および音量のバランス、並びに全体の音量の調整を行う。この変更は、上記の「2.動作」の項で述べたとおり、耳鳴治療器10の操作部300を用いて、患者自身が即時に実行することができる。
【0233】
このような主観的判断に関する入力を受けた耳鳴治療器10では、例えば耳鳴抑制効果が予想と合致し良好か、当該入力が「快」または「好き」のような患者の肯定的な判断を示す場合には、当該治療音の出力が継続される。耳鳴抑制効果が不良か、当該入力が「不快」または「嫌い」のような患者の否定的な判断を示す場合には、音調整部240が、プログラム上の次善の選択をするか、音量を下げたり、ピッチを変更したり、並行して出力される音の一方を別の音に替える等の治療音の再生の設定の変更をする。
【0234】
また、主観的判断に関する情報が記憶部100に、たとえば治療履歴データの一部として保存されてもよい。そして例えば患者の否定的な判断を示す入力があった場合には、患者が過去に肯定的な判断を示した治療音に変更されてもよい。
【0235】
それでも、以上の方法で作成され出力される治療音が、患者に対して心地よいとは限らない。例えば単調さが苦痛に感じられる場合、微妙な時間変化をつけることで快適になることもある。しかしながら、治療音にそのような変化をつけることは、患者を含むユーザが選択する設定によるもののみでは限界があるか、設定に要する操作のユーザへの負荷が過大になることもある。このような問題は、例えば制御部200において、タイマー210が一定時間を計測するたびに、音調整部240が、現在のシーンに選択されている音に、ピッチ、音量、音量バランス等のランダムな変化を付けることでも解消し得る。このようなランダムな変化の有無は、例えば
図19Aおよび
図19Bに示すような画面で設定され、また、その程度が調整される。
【0236】
あるいは、プログラム上でRI効果曲線、TL減少曲線から別の選択肢を実行する。
【0237】
あるいは、高音の虫の声や、川の流れなど、短時間で音量、音色、ピッチが変化する音は、小さめの音量でも耳鳴を分からなくすることがある。また、聞く者に安らぎを与える効果があることは経験則上知られることである。このような環境音を単独で、またはノイズや音階音と同時に患者に聞かせることができる耳鳴治療器10では、全体の音量を減らしながら使用中の快適さを維持できる。
【0238】
このように、心地よさや時間変化という要素も鑑みて治療音を決定することは、治療を継続するために重要である。
【0239】
また、音負荷付与前の患者の検査結果、これに基づいて決定した治療音、および耳鳴治療器10を用いてこの音負荷を与えた効果のデータが蓄積されれば、聴力検査若しくは耳鳴検査、またはその両方の結果から、効率よく効果が得られる治療音の組み合わせや時間的推移の標準例を導き出すことができると考えられる。
【0240】
[決定された治療音に基づく音負荷の設定]
1つ以上の音を含む治療音を上記の手法で決定し、その治療音を再生する再生レベルおよび時間長の設定を決定することで1つのシーンが決定される。このようなシーンを時系列で複数個に並べてなるコースは、基本的には、RI効果曲線やTL減少曲線により効率的なプログラムが作成される。さらに本節の「2.動作」の項で例示したようにユーザの操作によって設定可能である。しかし、実際には、互いに異なるシーンの設定のために必要な数の治療音を決定する操作および時間がユーザにとって大きな負担になる場合も考えられる。
【0241】
このような1つまたは少数のシーンに含まれる設定に基づいて、別のシーン、さらには複数のシーンを含むコースの設定が自動的に決定されてもよい。より具体的には、既にのべた、RI効果曲線やTL減少曲線の利用により適切なシーン群が自動的に作成される。これにより、適切な音負荷をユーザに与えるためのコースの設定がユーザの少ない負担で効率よく決定され、耳鳴治療器10の使用が促される。以下にこのような複数のシーンおよびコースの設定の手法について具体例を用いて説明する。
【0242】
[治療音の周波数帯域の音量変動の管理]
耳鳴を遮蔽する周波数帯域の音を所定の長さ(数秒)以上の時間にわたって音負荷として付与し、この音負荷の付与を停止するとRIが起こりうる。
【0243】
また、コオロギの鳴き声、水の流れる音などの環境音のように、短い間隔で音量の増減がある音であっても耳鳴を遮蔽する効果がある。このような音では、音量の変化のないまたはごく小さいノイズよりも全体に小さい音量でも充分な遮蔽効果をもつため、この効果を音変化刺激として定量化できる。
【0244】
発明者が行った検証においては、音負荷の付与による耳鳴遮蔽の効果は、患者が認識する耳鳴または聴力に障害がある周波数と少なくとも一部重複する周波数帯域の音の音量の増減の状態によって効果が異なることが確認され、音変化刺激としての定量化が有効であった。
【0245】
また、特定の周波数帯域での音量の増減を管理することで、遮蔽を目的として活用することができる。さらに自然の音だけでなく、それらを積極的に加工したり、最初から人工的な音として合成したりして本発明に係る耳鳴治療器10における治療音として利用することができる。
【0246】
例えば、ある虫の音の音素材のデータを解析して、2000Hzから6000Hzの帯域で0.5秒間隔で30dBの増減があるデータとして記録する。さらに、他の多数の音素材のデータについても、同様の要素を記録する。さらにこれらの音素材データを目的に応じて加工してもよい。たとえば、変動する周波数帯域を変えたり、強弱の程度や、変動の時間間隔を変更して利用してもよい。これらは音変化刺激としてのデータとして記憶され、次のプログラムに活用される。
【0247】
あるいは、自然の音を利用せず、まったく人工的な音として、これらの音変化刺激に配慮した音を作成して音素材として利用してもよい。
【0248】
これらの音素材のデータの利用においては、例えば記憶部100に音素材データとして記憶され、かつ音素材リストに登録される。そして、これらのデータが音素材リストを参照して取得される。
【0249】
このように、音変化刺激として定量化されたデータの解析および管理により、より小さな音量で耳鳴りの遮蔽効果を奏するシーンを作成することができる。
【0250】
[聴力検査結果の利用]
上記の「3.音負荷の設定」の項でも触れたように、治療音の決定には患者の聴力検査の結果が用いられる。そして今日、器械を用いての聴力検査では、その結果がデジタルデータとして記録、またはさらにそのデータの外部出力が一部の限られた器械で可能である。ただし、このようなデータの利用に未対応の検査器械または外部の装置若しくはシステムはまだ多く、また、互換性が考慮された共通のデータ仕様(フォーマット)はない。
【0251】
具体例として、聴覚検査の中でも基本的かつ重要とされる純音聴力検査の結果は、患者の周波数毎の障害の有無及び程度を示すものであり、耳鳴治療器10から出力させる治療音の決定に有用である。純音聴力検査の結果のデータには項目が多いものの、上述のとおりデータの標準的な仕様が存在しないため、検査器械の外部でのデータの利用には不便が伴う。
【0252】
本願の発明者は、患者の聴力検査の結果を数値データとして取り込み、この数値データを利用して耳鳴に関係する聴力障害帯域を特定する方法を以下のとおり提案する。
【0253】
例えば、聴力検査の結果としてモニターに表示される映像または紙に印刷された画像を利用することができる。
【0254】
例として、純音聴力検査の結果を
図20Aおよび
図20Bに示す。
図20Aおよび
図20Bは、それぞれ異なる純音聴力検査装置からモニターに表示された検査結果の映像をキャプチャした画像である。なお、検査対象の患者は異なる。いずれの映像にも、グラフ領域内にプロットされた検査結果の数値を示す記号が含まれる。
【0255】
通常の純音聴力検査の結果は、左右それぞれの耳について、125Hzから8000Hzまで7ポイントの気導聴力、および250Hzから4000Hzまでの5ポイントの骨導聴力の合計24ポイントの各々で、−10dBから110dBまで5dB間隔の25段階程度の数値で表現される。これらの画像例に含まれる検査結果もこのとおりであって情報量は共通する。
【0256】
これらの画像では、コンピュータ等の情報処理装置(図示なし)で画像認識ソフトウェアを用いて一般的に行われている画像での図形認識または文字認識の技術に比較して、ポイントを示す認識対象の記号は少なく、且つ各記号が示し得る数値の段階も少ない。したがって、画像認識が実行可能な情報処理装置に検査結果を示す画像を取り込んで画像認識を実行することで、検査結果の数値を比較的正確に得ることができる。
【0257】
このような情報処理装置によって実行される、取り込んだ画像からの検査結果の数値を取得する手順の例を
図21Aのフロー図に示す。
【0258】
まず、取り込んだ画像内のグラフ領域の軸、補助線、および軸ラベルの文字を認識し、グラフ領域の位置および大きさおよび各軸および補助線が示す数値を取得する(ステップS111)。
【0259】
次に、画像内の凡例の部分を特定し、左右それぞれの気導聴力を示す記号および骨導聴力を示す記号を取得する(ステップS112)。
【0260】
次に、グラフ領域内にある気導聴力を示す記号および骨導聴力を示す記号を見つけ、各記号と各補助線との位置関係から、各記号の位置に応じた数値を取得する(ステップS113)。
【0261】
次に、各記号について取得した数値を、所定のフォーマット内の、各記号の種類および位置に応じた位置に入れて保存する(ステップS114)。
図21Bは、所定のフォーマットの一例を示す図である。この例では、純音聴力検査で測定される左右それぞれの耳の気導聴力を示す数値および骨導聴力を示す数値を入れる各フィールドを含むテーブルが所定のフォーマットとして用いられている。
図21Bの例では、テーブルに
図20Bの画像から取得された数値が納められている。
【0262】
なお、画像認識を実行する情報処理装置に検査の結果を入力する経路およびデータの種類は上記の例に限定されない。例えば、印刷物のスキャナでの取り込み、デジタルカメラで撮影した画像またはPDFファイル等の画像認識の対象となり得るフォーマットのファイルの転送または所定の場所への蓄積等によっても入力は可能である。
【0263】
このように検査の結果をいったん所定のフォーマットのデータにすることで、機器間でのデータの互換的な利用が容易になる。検査の結果の情報処理装置での数値データとしての利用が容易になることから、電子カルテを含む医療管理システムでの管理はもとより、多量のデータを蓄積して統計および分析の対象とすることができる。
【0264】
この分析の結果は、各患者の検査結果のデータを入力として障害帯域と重症度を推定し、当該患者に起こりやすい耳鳴の特性を推測するプログラムの開発に利用することができる。このようなプログラムからは、推測された耳鳴の特性に基づいて、推奨される音負荷の設定がさらに出力されてもよい。また、患者の検査結果のデータと、耳鳴治療器10の使用履歴および患者が感じた効果のデータとを合わせて分析し、この分析結果に基づいて、より効果の得やすい音負荷の設定を精度よく決定するプログラムの開発に利用することもできる。
【0265】
このような、特定の種類の検査の結果であり、特定の情報を含む様々なフォーマットの画像から当該情報を抽出し、抽出した情報を所定のフォーマットのデータとして出力する方法は、情報処理装置上でプロセッサによって実行されるソフトウェアによって実現されてもよい。
【0266】
例えばこの情報処理装置は、例えばスマートフォン等の携帯情報端末であってもよく、このソフトウェアは、例えば耳鳴治療器10として機能させるソフトウェア(いわゆるアプリ)の一部として提供されてもよく、画像データの取得は、外部との通信によっても可能であるし、当該携帯情報端末が備えるカメラを用いてなされてもよい。
【0267】
また、この情報処理装置は、耳鳴治療器10とは切り離し可能なパーソナルコンピュータであってもよい。この場合に、このソフトウェアから出力されるデータの用途は、耳鳴治療器10での治療音の選択に限定されず、上述のように電子カルテに取り込まれたり、研究のための資料として蓄積されたりしてもよい。
【0268】
[本発明品の有効性]
ここで、発明者が本発明品を用いて実際に行った耳鳴患者に対する治療例を紹介しながら本発明品の有用性を検証する。
【0269】
その趣旨は、発明者が唱える上述の仮説的な理論の是非を論じることではなく、この理論に基づく治療を行うための本発明品の有効性をもって、本発明の技術的意義と有用性の裏付けとすることにある。また、以下の記載によって、本発明に係る耳鳴治療器等の特徴を限定する趣旨ではない。
【0270】
[概要]
耳鳴治療器10の使用により、上述のマスカー療法の効果としても見られた長時間マスカーの効果が得られる。長時間マスカーとは、耳鳴を遮蔽する治療音をある程度の時間にわたって患者に聞かせる施術を行うと、耳鳴の抑制が施術の後にも持続的に認められる効果である。このような効果は、患者全体の6〜7割に見られる。
【0271】
従来のマスカー療法は、単一で固定されたバンドノイズによるマスカーが想定されているが、本機では、長時間の治療音提示によるTL減少という観点から治療を再構成しており、バンドノイズの周波数分布や音量の変化を柔軟に行うことや、変化音によってもTLが減少することを想定している。
【0272】
本機では、さらに短時間の治療音提示によるRI効果という観点からも治療を再構成しており、知覚漂流と知覚更新を利用して耳鳴音量を制御することを想定している。
【0273】
本機では、さらに治療音において固定音による音圧刺激と、変化音による音変化刺激という要素を解析し、上記のTL減少、RI効果の両者に当てはめ、治療音の効果を類推することでさらに効果的な耳鳴音量制御を想定している。
【0274】
まず、耳鳴患者であるユーザに、耳鳴治療のための音刺激を与えるための耳鳴治療器であって、制御部と、治療プログラムを格納した記録媒体とを備え、治療プラグラムは制御部に実行されることで、ユーザに対する各耳鳴治療音のRI効果曲線およびTL減少曲線のいずれかまたは両方を類推し、類推した前記RI効果曲線およびTL減少曲線のいずれかまたは両方に基づいて耳鳴治療音を作成し、作成した耳鳴治療音を、音提示部を介して単位期間ごとにユーザに提示することで音刺激をユーザに与える耳鳴治療器を用いて行った治療例を紹介する。
【0275】
対象である耳鳴罹患が1年以上の50歳から91歳までの23名の患者(男性13名、女性10名)に、あらかじめ、純音聴力検査、ピッチマッチ検査、ラウドネス検査、マスキング検査、鬱検査、およびTHI(Tinnitus Handicap Inventory、耳鳴障害目録)検査を行った。
【0276】
その後、短時間(30分)の治療をRI効果曲線による類推によってプログラムした治療音の提示によって施行した。各患者の聴力障害域の周波数分布曲線に対して、バンドノイズの周波数分布が逆向きで一致するように提示音を準備した(例えば2000Hzに30dBの最小のピークをもつ聴力に対しては、2000Hzに最大のピークをもつバンドノイズ)。マスキングテストにおいて耳鳴が完全に遮蔽される提示音の音量を求め、それより10dB大きな音量のバンドノイズを最初の治療音とした。提示音は、10秒間隔で提示と静寂を繰り返す
図11Aの方法に準拠した。以前よりのデータより、同程度の聴力障害とピッチマッチ、ラウドネスの患者に対するRI効果曲線から、提示音の音量の減少とTVの関係を類推できた。提示音の音量は、徐々に減少させてもTVを低値に保持することが可能であることも類推できたため、最適と予想される提示音の音量の推移をプログラムし、実行した。
【0277】
現段階では統計のサンプルとしての患者数は少ないが、非常に多彩な検査が本機器を用いて実施可能であるため、各患者から多くの情報が得られ、このような一定の傾向を推察する論拠を得られた。
【0278】
患者23名のうち、80歳以上の高齢者3名と、耳鳴周辺の難聴が強くバンドノイズが殆ど聴こえない患者2名を除いた18名をグループAとすると、その中の16名(88.8%)にRIの効果が認められた。
【0279】
グループAでRIの効果が見られなかった2名には、神経症状があり、ピッチマッチ、ラウドネスの検査が困難であった。したがって、神経症状がある患者を除外すると、全体としてはさらに好成績をもたらすと予想される。
【0280】
耳鳴消失は、グループAの18名中10名(55%)で認められ、若年で軽度難聴の患者ほど顕著であった。例えば65歳以下では、8名中6名(75%)で耳鳴消失が認められた。
【0281】
また、若年者で難聴が軽い患者ほど、単一のバンドノイズで劇的な改善効果が認められた。その一方で、高齢で難聴が強い患者ほど、複数のバンドノイズおよびトーンを組み合わせて用いることでRI効果が認められた。
【0282】
上述のRI効果は、すべて最初の1分以内で達成された。効果の認められた16名全員において、その後の30分間において、RI効果が維持された。
【0283】
従来のRIの報告では、1回のマスカー提示において、RI効果の継続は数秒から数分以内であるとされている。今回の方法において、RI効果を長時間持続することが可能であることが示唆された。
【0284】
上述の短時間の治療に引き続き、グループA18名に対して、治療音を5時間提示し、TL減少の観点から長時間の耳鳴抑制効果を検査した。
【0285】
上述の短時間治療終了後(治療開始後30分後)におけるTL、TVと耳鳴の特性(耳鳴の周波数分布)をRI効果曲線を用いて予め算出し、その時刻(治療開始後30分後)に耳鳴の各周波数において約10dB上回るバンドノイズを10分間与えた。
【0286】
その時点(治療開始後40分後)で、TL減少曲線を用いて予め算出していたTLに対して、同様に各周波数において約10dB上回るバンドノイズを次ぎの10分間提示した。
【0287】
その時点(治療開始後50分後)で、同様にTL減少曲線から推測されたTLに対して、音変化刺激と音圧刺激の観点から、音変化刺激の効果が高い音源を選択し提示した。
【0288】
なおその時点で十分にTLが小さいと推測される症例においては、TLが維持できる範囲で音量が最小になるように設定した。(つまり、音変化刺激が強く、音圧刺激が弱い音源を用いた。)
【0289】
その後治療開始後5時間後まで、同じ音源を同じ音量で提示した。
【0290】
5時間の治療において、効果(耳鳴減弱、耳鳴消失)が認められたものは、16名(88.8%)であり、短時間治療に効果が認められた全員において、その後の5時間治療でも有効性が認められた。
【0291】
これは、従来の治療による長時間マスカーの効果に関する報告の60%から70%を上回るものである。
【0292】
さらに、初期にRI効果を用いて早い段階から耳鳴音量をさげ、長期的にTL減少の効果を用いて低い耳鳴音量を維持する方法を用いたため、迅速かつ継続的な耳鳴音量制御が可能であり、その間の音刺激の音量が最小限であり、多くの患者に高い満足度を与えることが可能であった。
【0293】
高齢者や、高度難聴者であることが、本機の治療の効果測定において低い成績をもたらす大きな要因であることが分かった。つまり、高齢者には、鬱、低い理解力、および高度難聴の傾向があること、また、高度難聴者は、マスキングが充分に行えないことなどがこの低成績の原因と考えられた。
【0294】
グループA(80歳未満、通常の加齢性難聴)という耳鳴治療の対象であった大部分の患者において、90%程度の確率で治療効果をもたらす意義は大変大きい。発明者は、この本発明品が今後の耳鳴治療に重大な影響を与えると考える。
【0295】
また、従来のTRTにおいて、THI検査の改善は半年以上かかることが多いところ、本機器を3箇月以上使用した患者の中には、すでにTHI検査の結果が改善しているケースもある。
【0296】
14名中、中途で本機器の使用を停止した患者は1名のみで、残る13名が本機器の継続使用を希望している。
【0297】
現在、広く認められている非特許文献1の理論において、耳鳴を意識しないことが重要とされており、治療音を意識的に操作することは、むしろ今まで推奨されていない。
【0298】
しかしながら、積極的に治療音を操作して変更する本機器での手法でTHIが改善したことは、非特許文献1の理論と反する結果であり、新たな耳鳴治療の可能性を示唆している。
【0299】
(他の実施の形態)
以上、一つまたは複数の態様に係る耳鳴治療器について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0300】
例えば、治療音として並行して出力される音の数は2つに限定されない。2つはあくまで例であって、3つ以上の音が並行して出力されてもよい。
【0301】
また、上記の実施の形態では、記憶部100に、互いに異なるバンドノイズの音、およびバンドノイズではない2つ以上の音をそれぞれ示す複数の音素材データが記憶されたが、これらの音は、必ずしも記憶部100に個別のデータとして格納されている必要はない。例えば、記憶部100には、ホワイトノイズ等の基本となるノイズの音素材データを記憶しておき、記憶部100から読み出された基本となるノイズの音素材データに対して、マルチプルにフィルターをかける(例えば、複数種のバンドパスフィルタを並行してかける演算を施す)ことで、動的に複数のバンドノイズの音が生成されて並行して出力されてもよい。
【0302】
また、治療音には、記憶部100に保存される音素材データが示す音が含まれず、制御部200がこのようなフィルタリングによって生成して取得する音素材データ、またはフーリエ係数若しくはFM音源のパラメーターを用いて生成して取得する音素材データが示す音のみが治療音として出力されてもよい。
【0303】
また、操作部300による音設定の種類は上記のものに限定されない。例えば、音素材データが示す音に適用される各種の音響処理の選択が可能であってもよい。各種の音響処理の例としては、フィルター(バンドパスフィルタ、バンドストップフィルタ、ロウカットフィルタ、若しくはハイカットフィルタ等、またはこれらの組み合わせ)、イコライザー、エコー、リバーブ、ディレイ、コーラス、フェイザー、フランジャー、コンプレッサー、リミッターと呼ばれる効果を与えるものが挙げられる。これらの音響処理は、複数を組み合わせて適用されてもよい。
【0304】
また、その上記の音設定の種類は耳鳴治療器10に全て必須というものではない。例えば、操作部300を介しての複数の音の選択および各音の音量の設定は、複数の音それぞれの選択および選択された各音の絶対音量の設定を組み合わせて実行されてもよい。または、複数の音それぞれの選択、当該複数の音量比率、および当該治療音全体の音量の各設定の選択を組み合わせて実現されてもよい。
【0305】
また、制御部200において治療音の選択に用いられるデータはここまでに挙げたものに限定されない。上記以外に、例えば患者の年齢、性別、心理検査の結果、既往歴、不眠等の睡眠の状況のいずれか1つ以上を示すデータがさらに用いられてもよい。患者のこれらの属性または状況と聴力の異常または耳鳴の症状との間には、ある程度の相関があることが知られている。このことから、このような情報と治療音または音負荷による耳鳴の改善との間にも相関の存在がうかがわれる。したがって、制御部200は、患者のこれらの属性または状況に関する情報を示すデータを入力として、この情報と治療音または音負荷の効果の相関を示すデータをさらに用いて、より効果の高い音負荷を精度よく選択することができる。
【0306】
また、耳鳴治療器10は、携帯可能な機器として実現される場合に、充電池への充電が可能であると上記では説明しているが、充電が可能でなくてもよい。携帯可能な機器として実現される耳鳴治療器10は、使い捨てされる電池のみから電力を取得し、各構成要素に当該電力を供給する電源部を備えてもよい。
【0307】
また、治療音の決定に用いられる耳鳴検査の結果は、ピッチ若しくはラウドネスに代えて、またはこれらに加えて耳鳴を表現するのに患者が用いる擬声語または比喩等の言語的表現を含んでもよい。例えば、ある程度のバリエーションの言語的表現と各種の治療音とを統計的または音響学的にあらかじめ対応付けておき、この対応付けに従って治療音が選択されてもよい。また、選択された音に、上記の言語的表現を修飾する表現(例えば、より高い、より低い、より何かに近い、2つの組み合わせ等)に応じた調整がさらになされてもよい。このようにしても、大きさ、高さに加えて、音色の点で耳鳴に近似した、または耳鳴の遮蔽に適した治療音の選択がより容易に精度よく行われる。
【0308】
また、本発明は、耳鳴治療器としての実現のみならず、
図17Aに示されるような携帯情報端末を耳鳴治療器として機能させるためのプログラムとして実現されてもよい。すなわち、制御部を備え、耳鳴患者であるユーザに、耳鳴治療のための音刺激を単位期間ごとに与えるための耳鳴治療器を制御するプログラムであって、制御部に実行されることでユーザに対する各耳鳴治療音のRI効果曲線およびTL減少曲線のいずれかまたは両方を類推し、類推したRI効果曲線およびTL減少曲線のいずれかまたは両方に基づいて耳鳴治療音を作成し、作成した耳鳴治療音を、ユーザに音刺激を与える耳鳴治療音を提示する音提示部を介して単位期間ごとにユーザに提示することで音刺激をユーザに与えるプログラムとして実現されてもよい。