【文献】
SHELTON, Michael et al.,Derivation and Expansion of PAX7-Positive Muscle Progenitors from Human and Mouse Embryonic Stem Cells,Stem Cell Reports,2014年,Vol. 3, No. 3,p. 516-529,全体, summary, Figure 1
【文献】
TOWNLEY-TILSON, W. H. Davin et al.,MicroRNAs 1, 133, and 206: Critical factors of skeletal and cardiac muscle development, function, and disease,The International Journal of Biochemistry & Cell Biology,2010年,Vol. 42,p. 1252-1255,全体、table 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(1)から(5)のTGF-β阻害剤がSB431542であり、前記工程(1)のGSK3β阻害剤がCHIR99021であり、前記工程(2)および(3)のGSK3β阻害剤がLiClである、請求項6に記載の方法。
前記工程(1-1)から(1-5)のTGF-β阻害剤がSB431542であり、前記工程(1-1)のGSK3β阻害剤がCHIR99021であり、前記工程(1-2)および(1-3)のGSK3β阻害剤がLiClである、請求項10に記載の方法。
前記骨格筋前駆細胞で特異的に発現しているmiRNAが、miR-1、miR-133およびmiR-206からなる群から選択される1またはそれ以上のmiRNAである、請求項9から12のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を、実施態様を示して詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。
【0011】
本発明は、miRNA応答性mRNAを細胞群に導入する工程を含む、骨格筋前駆細胞を選別する方法を提供する。本実施態様による方法の、導入する工程において、miRNA応答性mRNAが導入され、選別の対象となる細胞群は、骨格筋前駆細胞を含有しうる任意の細胞群であって良い。例えば、多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞へ分化誘導させた細胞群であってもよく、生体内から取り出した細胞の集団であってもよいが、これらには限定されない。したがって、骨格筋前駆細胞を含有するか否かが不明な細胞群にmiRNA応答性mRNAを導入することもあり得る。好ましい実施態様において、細胞群は、多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞へ分化誘導された細胞群であり得る。多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞へ分化誘導された細胞群とは、後に詳述する方法により、多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞へと分化誘導させる工程を経た細胞群であって、所望の誘導により骨格筋前駆細胞となった細胞と、骨格筋前駆細胞以外の細胞種へと分化された細胞とを含有しうる。
【0012】
本発明において、「骨格筋」とは、成熟筋を意味し、筋繊維すなわち多核細胞である筋細胞を含む。また、本発明において「骨格筋前駆細胞」とは、成熟した筋細胞へは至っていないもののその前段階にある細胞であって、筋細胞へ選択的に分化し得る能力を有する細胞を意味する。ここで、骨格筋前駆細胞は、骨芽細胞や脂肪細胞などの他の中胚葉細胞への分化能を全く有しないことを意味するものではなく、場合によっては、筋細胞以外の細胞への分化能を有している細胞も本発明の骨格筋前駆細胞に包含され得る。骨格筋前駆細胞は、特定の遺伝子の発現によって特徴づけられ、例えば、MyoD、Myf5、Pax7、Myogenin、ミオシン重鎖、NCAM、Desmin、SkMAct、MF20、M-Cadherin、Fgfr4およびVCAME1から選択される少なくとも一つのマーカー遺伝子の発現を検出することによって同定可能である。本発明における骨格筋前駆細胞は、好ましくは、Myf5陽性の細胞であり得、より好ましくは、Myf5およびPax7陽性の細胞である。本発明における骨格筋前駆細胞は、特に断りがない限り、骨格筋幹細胞またはサテライト細胞を含むものとする。
【0013】
<miRNA応答性mRNA>
本発明において、miRNA応答性mRNAとは、(i) 骨格筋前駆細胞で特異的に発現しているmiRNAによって特異的に認識される配列(以下、miRNA標的配列という)を含む核酸、および(ii) マーカータンパク質をコードする配列を含む核酸を含み、当該(ii)のマーカータンパク質の翻訳が、当該(i)の核酸配列により制御されるよう機能的に連結されているmRNAである。
【0014】
本発明において、当該(i)の核酸配列により制御されるとは、骨格筋前駆細胞で特異的に発現しているmiRNAの存在量に応じて、miRNA応答性mRNAが翻訳の阻害または分解等を受けて、マーカータンパク質の翻訳量が抑制されることを意味する。
【0015】
本発明における「miRNA」とは、mRNAからタンパク質への翻訳の阻害やmRNAの分解を通して、遺伝子の発現調節に関与する、細胞内に存在する短鎖(20-25塩基)のノンコーディングRNAである。このmiRNAは、DNAからmiRNAとその相補鎖を含むヘアピンループ構造を取ることが可能な一本鎖のpri-miRNAとして転写され、核内にあるDroshaと呼ばれる酵素により一部が切断されpre-miRNAとなって核外に輸送された後、さらにDicerによって切断されて機能する。
【0016】
本発明において使用される前記(i)の「骨格筋前駆細胞で特異的に発現しているmiRNA」とは、骨格筋前駆細胞以外の細胞と比較して骨格筋前駆細胞でより高く発現しているmiRNAであれば特に限定されない。例えば、骨格筋前駆細胞以外の細胞と比較して骨格筋前駆細胞において、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上あるいはそれ以上の割合で高く発現しているmiRNAであってよいが、これらには限定されない。このようなmiRNAは、データベースの情報(例えば、http://www.mirbase.org/又はhttp://www.microrna.org/)に登録されたmiRNA、及び/または当該データベースに記載されている文献情報に記載されたmiRNAより適宜選択することができる。本発明において、前記(i)の「骨格筋前駆細胞で特異的に発現しているmiRNA」は、好ましくは、hsa-miR-1、hsa-miR-133およびhsa-miR-206から生成する短鎖ノンコーディングRNA(それぞれ、miR-1、miR-133およびmiR-206ともいう)であり、より好ましいmiR-1は、hsa-miR-1-3p(配列番号1)であり、より好ましいmiR-133は、hsa-miR-133a-3p(配列番号2)である。本発明において、好ましい骨格筋前駆細胞で特異的に発現しているmiRNAは、hsa-miR-206(配列番号3)である。
【0017】
本発明において、前記(i)の「骨格筋前駆細胞で特異的に発現しているmiRNAによって特異的に認識される」とは、当該miRNAが、所定の複数のタンパク質と相互作用して、RNA-induced silencing complex(RISC)を形成した状態にあるmiRNAが存在していることをいうものとする。
【0018】
本発明において、miRNAの標的配列は、例えば、当該miRNAに完全に相補的な配列であることが好ましい。あるいは、当該miRNA標的配列は、miRNAにおいて認識され得る限り、完全に相補的な配列との不一致(ミスマッチ)を有していても良い。当該miRNAに完全に相補的な配列からの不一致は、所望の細胞において、通常にmiRNAが認識し得る不一致であれば良く、生体内における細胞内の本来の機能では、40〜50% 程度の不一致があっても良い。このような不一致は、特に限定されないが、1塩基、2塩基、3塩基、4塩基、5塩基、6塩基、7塩基、8塩基、9塩基、若しくは10塩基又は全認識配列の1%、5%、10%、20%、30%、若しくは40%の不一致が例示される。また、特には、細胞が備えている mRNA 上のmiRNA 標的配列のように、特に、シード領域以外の部分に、すなわちmiRNA の 3’ 側 16 塩基程度に対応する、標的配列内の 5’ 側の領域に、多数の不一致を含んでもよく、シード領域の部分は、不一致を含まないか、1塩基、2塩基、若しくは3塩基の不一致を含んでもよい。このような配列は、当該RISCが特異的に結合する塩基数を含む塩基長であればよく、長さは別段限定されないが、好ましくは、18塩基以上、24塩基未満の配列、より好ましくは、20塩基以上、22塩基未満の配列である。本発明において、miRNAの標的配列は、骨格筋前駆細胞および骨格筋前駆細胞以外の細胞へ当該配列を有するmiRNA応答性mRNAを導入し、骨格筋前駆細胞においてのみ対応するマーカータンパク質の翻訳が抑制されることを確認することによって、適宜決定して用いることができる。本発明において、「骨格筋前駆細胞で特異的に発現しているmiRNA」に対応する、好ましいmiRNAの標的配列を表1に例示する。
【0020】
本発明において使用される「マーカータンパク質」とは、細胞内で翻訳されて、マーカーとして機能し、細胞の選別を可能にする任意のタンパク質である。細胞内で翻訳されてマーカーとして機能しうるタンパク質としては、一例としては、蛍光タンパク質、発光タンパク質、蛍光、発光又は呈色を補助するタンパク質、膜タンパク質、アポトーシス誘導タンパク質、または自殺タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明において、蛍光タンパク質としては、Sirius、TagBFP、EBFPなどの青色蛍光タンパク質;mTurquoise、TagCFP、AmCyan、mTFP1、MidoriishiCyan、CFPなどのシアン蛍光タンパク質;TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami-Green (例えば、hmAG1)、ZsGreen、EmGFP、EGFP、GFP2、HyPerなどの緑色蛍光タンパク質;TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP-m、TurboYFP、ZsYellow、mBananaなどの黄色蛍光タンパク質;KusabiraOrange (例えば、hmKO2)、mOrangeなどの橙色蛍光タンパク質;TurboRFP、DsRed-Express、DsRed2、TagRFP、DsRed-Monomer、AsRed2、mStrawberryなどの赤色蛍光タンパク質;TurboFP602、mRFP1、JRed、KillerRed、mCherry、HcRed、KeimaRed(例えば、hdKeimaRed)、mRasberry、mPlumなどの近赤外蛍光タンパク質が挙げられるが、これらには限定されない。
【0022】
本発明において、発光タンパク質としては、イクオリンを例示することができるが、これに限定されない。また、蛍光、発光又は呈色を補助するタンパク質として、ルシフェラーゼ、ホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、βラクタマーゼなどの蛍光、発光又は呈色前駆物質を分解する酵素を例示することができるが、これらには限定されない。ここで本発明において、蛍光、発光又は呈色を補助するタンパク質をマーカーとして使用する場合、骨格筋前駆細胞の選別において、対応する前駆物質と細胞群を接触させること、又は細胞群内に対応する前駆物質を導入することによって行われ得る。
【0023】
本発明において、アポトーシス誘導タンパク質とは、細胞に対してアポトーシス誘導活性を有するタンパク質を意味する。例えば、IκB、Smac/DIABLO、ICE、HtrA2/OMI、AIF、endonuclease G、Bax、Bak、Noxa、Hrk (harakiri)、Mtd、Bim、Bad、Bid、PUMA、activated caspase-3、Fas、Tk等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本発明において自殺タンパク質とは、細胞におけるその発現がその細胞にとって致死的であるタンパク質を意味する。本発明において、自殺タンパク質は、それ自体で細胞死をもたらすもの(例えば、ジフテリアA毒素)であってもよく、またはこのタンパク質が、特定の薬物に対して細胞を感受性にするもの(例えば、単純ヘルペスチミジンキナーゼにより、抗ウイルス化合物に対して細胞を感受性にする)であってもよい。自殺タンパク質として、例えば、ジフテリアA毒素、単純ヘルペスチミジンキナーゼ(HSV-TK)、カルボキシペプチダーゼG2(CPG2)、カルボキシルエステラーゼ(CA)、シトシンデアミナーゼ(CD)、チトクロームP450(cyt-450)、デオキシシチジンキナーゼ(dCK)、ニトロレダクターゼ(NR)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)、チミジンホスホリラーゼ(TP)、水痘帯状疱疹ウイルスチミジンキナーゼ(VZV-TK)、キサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(XGPRT)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明において、上記マーカータンパク質は、局在化シグナルを備えていてもよい。局在化シグナルとしては、核局在化シグナル、細胞膜局在化シグナル、ミトコンドリア局在化シグナル、タンパク質分泌シグナル等を挙げることができ、具体的には、古典的核移行配列(NLS)、M9配列、ミトコンドリア標的配列 (MTS)、小胞体移行配列を挙げることができるが、これらには限定されない。このような局在化シグナルは、後述するイメージングサイトメトリー等により画像上で細胞の選別を行うときに特に有利である。
【0026】
本発明において、(ii)のマーカータンパク質の翻訳が、当該(i)の核酸配列により制御されるよう機能的に連結されているとは、マーカータンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ただし、開始コドンを含む。)の5’UTR内、3’UTR内、及び/または当該オープンリーディングフレーム内に、少なくとも1つのmiRNAの標的配列を備えることを意味する。miRNA応答性mRNAは、好ましくは、5’末端から、5’から3’の向きに、Cap構造(7メチルグアノシン5’リン酸)、マーカータンパク質をコードするオープンリーディングフレーム並びに、ポリAテイルを備え、5’UTR内、3’UTR内、及び/またはオープンリーディングフレーム内に少なくとも1つのmiRNAの標的配列を備える。mRNAにおけるmiRNAの標的配列の位置は、5’UTRであっても、3’UTRであってもよく、オープンリーディングフレーム内(開始コドンの3’側)であってもよく、これらのすべてにmiRNAの標的配列を備えていてもよい。したがって、miRNA標的配列の数は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つあるいはそれ以上であっても良い。
【0027】
好ましくは、miRNA応答性mRNAは、(i)および(ii)の核酸が、5'から3'の方向にこの順序で連結されている。したがって、miRNAの標的配列は、5’UTRに1つ存在すればよい。効率的な翻訳抑制を達成することができるためである。このとき、cap構造とmiRNAの標的配列との間の塩基数及び塩基の種類は、ステム構造や立体構造を構成しない限り、任意であってよい。例えば、cap構造とmiRNA標的配列との間の塩基数は、0〜50塩基、好ましくは、10〜30塩基となるように設計することができる。また、miRNA標的配列と開始コドンとの間の塩基数及び塩基の種類は、ステム構造や立体構造を構成しない限り、任意であってよく、miRNA標的配列と開始コドンと間の塩基数は、0〜50塩基、好ましくは、10〜30塩基となるような配置にて設計することができる。
【0028】
本発明において、miRNA応答性mRNA 中のmiRNA標的配列内には、開始コドンとなるAUGが存在しないことが好ましい。例えば、miRNAの標的配列が5’UTRに存在し、かつ、当該標的配列内にAUGを含む場合には、3'側に連結されるマーカータンパク質をコードする配列との関係上でインフレームとなるように設計されることが好ましい。あるいは、標的配列内にAUGを含む場合、標的配列内のAUGをGUGに変換して使用することも可能である。また、標的配列内のAUGの影響を最小限に留めるために、5’UTR内における標的配列の配置場所を適宜変更することができる。例えば、cap構造と標的配列内のAUG配列との間の塩基数が、0〜60塩基、例えば、0〜15塩基、10〜20塩基、20〜30塩基、30〜40塩基、40〜50塩基、50〜60塩基となるような配置にて設計され得る。
【0029】
本発明における、mRNAは、細胞毒性を低減させることを目的として、通常のウリジン、シチジンに替えて、シュードウリジン、5−メチルシチジンなどの修飾塩基を含んでいることが好ましい。修飾塩基の位置は、ウリジン、シチジンいずれの場合も、独立に、全てあるいは一部とすることができ、一部である場合には、任意の割合でランダムな位置とすることができる。
【0030】
本発明において、miRNAの標的配列が5’UTRに存在する場合、例えば、下記の表2に記載の配列が採用され得るが、miRNAの標的配列以外は、特に限定されない。
【0032】
本発明において、miRNA応答性mRNAは、マーカータンパク質を翻訳するために必要となる。それに続くマーカータンパク質をコードする配列の下流(すなわち、3’UTR)は、ポリA配列を有していれば特に限定されないが、miRNAの標的配列が5’UTRに存在する場合、例えば、下記表3に記載の配列が採用され得る。
【0034】
miRNA応答性mRNAは、上記に従って配列が決定されれば、遺伝子工学的に既知の任意の方法により当業者が合成することができる。特には、プロモーター配列を含むテンプレートDNAを鋳型として用いたin vitro合成法により、得ることができる。
【0035】
なお、本実施態様による選別方法を実施する前に、その選別における有効性を検討するスクリーニング工程を実施してもよい。具体的には、上記に例示したような5’UTRを有する、候補となる複数種のmiRNA応答性mRNAを作製して、それぞれを純度が既知の骨格筋前駆細胞群に導入し、選別の有効性が高いmiRNAの標的配列並びにmiRNA応答性mRNAを決定することができる。このような工程は、実施例においても詳述している。
【0036】
<骨格筋前駆細胞の選別方法>
本発明の骨格筋前駆細胞の選別において、miRNA応答性mRNAを細胞群に導入する工程、および前記miRNA応答性mRNAに含まれるマーカータンパク質の翻訳量が少ないまたは検出できない細胞を選別する工程を含む。
【0037】
導入されるmiRNA応答性mRNAは、1種のみ用いる場合もあり、2種以上、例えば、3種、4種、5種、6種、7種、または8種以上用いる場合もある。例えば、2種以上のmiRNA応答性mRNAを用いる場合、それぞれのmiRNA応答性mRNAは、miRNA標的配列、マーカータンパク質ともに、異なることが望ましい。また、2種以上のmiRNA応答性mRNAを用いる場合、miRNA応答性mRNAに含まれるmiRNA標的配列の数、miRNA標的配列の5’末端からの距離、並びにmiRNA応答性mRNAにおけるその他の構造的特徴は、各miRNA応答性mRNAにおいて同一であっても良く、異なっていても良い。あるいは、miRNA標的配列は同一であるが、マーカータンパク質は異なるmiRNA応答性mRNAを用いることも可能である。例えば、異なる経路でシグナル伝達するアポトーシス誘導タンパク質をコードする配列を含む核酸、例えば、FasとBimなどを同一のmiRNA標的配列と組み合わせたmiRNA応答性mRNAを用いることも可能であり、この場合には、骨格筋前駆細胞以外の細胞の除去を効率よく行うことが期待できる。
【0038】
本発明において、miRNA応答性mRNAを細胞群に導入する工程は、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて、1種以上のmiRNA応答性mRNAを直接、細胞群に含まれる細胞に導入する。異なる2種以上のmiRNA応答性mRNAを導入する場合、あるいはmiRNA応答性mRNAと、後述するコントロールとなるmRNA(以下、コントロールmRNAまたはトランスフェクションコントロールとも指称する)とを用いる場合には、複数のmRNAを細胞群に共導入することが好ましい。共導入した2種以上のmRNAの細胞内での割合は個々の細胞で維持されるため、これらのmRNAから発現するタンパク質の活性比は、細胞集団内において一定となるためである。この時の導入量は、導入される細胞群、導入するmRNA、導入方法および導入試薬の種類により異なり、所望の翻訳量を得るために当業者は適宜これらを選択することができる。
【0039】
本発明において、コントロールmRNAとは、miRNA応答性mRNAに含有されるマーカータンパク質以外のマーカータンパク質をコードする配列または薬剤耐性タンパク質をコードする配列を含むmRNAであって、miRNAの標的部位を有さないmRNAが例示される。コントロールmRNAから翻訳されるマーカータンパク質は、当該マーカータンパク質の翻訳により細胞死を起こさないタンパク質が好ましく、従って、蛍光タンパク質、発光タンパク質、蛍光、発光又は呈色を補助するタンパク質、膜タンパク質が好適に用いられる。
【0040】
本発明において使用される「薬剤耐性タンパク質」は、対応する薬剤に対して抵抗性を有するタンパク質であれば何でもよい。例えば、抗生物質耐性遺伝子にコードされるタンパク質を含むが、これらに限定されない。抗生物質耐性遺伝子としては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ゲンタマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子等が挙げられる。本発明において、好ましくは、ピューロマイシン耐性遺伝子またはブラストサイジン耐性遺伝子が抗生物質耐性遺伝子として用いられる。
【0041】
本発明の一実施態様による選別方法において、より好ましくは、miRNA応答性mRNAとコントロールmRNAを同時に、対象となる細胞群へ導入する工程を含む。かかる工程は、好ましくは、miRNA応答性mRNAとコントロールmRNAとの共導入により実施することができる。コントロールmRNAを用いることで、miRNA応答性mRNAの細胞への導入効率が低い場合においても、miRNA応答性mRNAから翻訳されるマーカータンパク質が低いまたは翻訳されない細胞を骨格筋前駆細胞として選別することが可能となる。本発明において、コントロールmRNAを用いる場合、コントロールmRNAの導入量もまた、所望の翻訳量を得るために当業者は適宜これらを選択することができる。
【0042】
本発明において、コントロールmRNAを用いる場合、当該コントロールmRNAから翻訳されるマーカータンパク質は、miRNA応答性mRNAに含まれるマーカータンパク質と異なることが好ましい。例えば、miRNA応答性mRNAに含まれるマーカータンパク質がアポトーシス誘導タンパク質である場合、コントロールmRNAに含まれるマーカータンパク質は、蛍光タンパク質であり得る。この場合、アポトーシス誘導タンパク質の発現が抑制され生存し、さらに蛍光タンパク質で標識された細胞を骨格筋前駆細胞として選別することができる。
【0043】
また、薬剤耐性タンパク質をコードする配列を含むコントロールmRNAは、任意のマーカータンパク質を翻訳するmiRNA応答性mRNAとともに用いることができる。この場合、対応する薬剤に対して耐性である細胞のうち、マーカータンパク質の発現しない、または低減した細胞を骨格筋前駆細胞として選別することができる。
【0044】
一方、miRNA応答性mRNAに含まれるマーカータンパク質およびコントロールmRNAに含まれるマーカータンパク質が蛍光タンパク質である場合には、両蛍光タンパク質の蛍光波長が異なることが望ましい。
【0045】
本発明におけるコントロールmRNAは、別段限定されることはないが、例えば、実施例に示すEGFP mRNA、tagBFP mRNA、tagRFP mRNAなどが挙げられる。
【0046】
本発明において、miRNA応答性mRNAに含まれるマーカータンパク質の翻訳量が少ないまたは検出できない細胞を選別する工程は、所定の検出装置を用いて、マーカータンパク質からの信号を検出することにより実施することができる。検出装置としては、フローサイトメーター、イメージングサイトメーター、蛍光顕微鏡、発光顕微鏡、CCDカメラ等が挙げられるが、これらには限定されない。このような検出装置は、マーカータンパク質により、当業者が適したものを用いることができる。例えば、マーカーが、蛍光タンパク質又は発光タンパク質の場合には、フローサイトメーターを用いて選別が可能であり、マーカーが、蛍光、発光又は呈色を補助するタンパク質の場合には、顕微鏡を用いて、光応答性細胞培養器材をコーティングした培養皿を用いて、呈色等された細胞へ光照射し、照射されなかった細胞が培養皿から剥離されることを利用して選別することができ、マーカータンパク質が、膜局在タンパク質の場合には、抗体などの細胞表面タンパク質特異的な検出試薬と、上記の検出装置を用いたマーカータンパク質の定量方法が可能である他、磁気細胞分離装置(MACS)といった、マーカータンパク質の定量過程を経ない細胞の単離方法が可能であり、マーカータンパク質が薬剤耐性遺伝子の場合、薬剤投与によりマーカータンパク質の発現を検出して、生細胞を単離する方法が可能である。
【0047】
本発明において、細胞を選別するとは、miRNA応答性mRNAを用いて選別する工程を経ていない細胞群より高い純度で骨格筋前駆細胞を単離することを意味する。本発明において、選別された細胞の純度は、miRNA応答性mRNAを用いて選別する工程を経ていない場合と比較して高純度であれば別段限定されないが、60%以上であることが好ましく、60%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%および100%が例示される。
【0048】
<多能性幹細胞>
本発明で使用可能な多能性幹細胞は、生体に存在するすべての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、以下のものに限定されないが、例えば、胚性幹(ES)細胞、精子幹(GS)細胞、胚性生殖(EG)細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、Muse細胞などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、ES細胞、iPS細胞およびntES細胞であり、筋原性疾患治療に用いるという観点から、より好ましくは、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞であり、さらに好ましくは、ヒトiPS細胞である。
【0049】
(A) 胚性幹細胞
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。
【0050】
ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚後の胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚由来の幹細胞であり、成体を構成するあらゆる細胞に分化する能力、いわゆる分化多能性と、自己複製による増殖能とを有している。ES細胞は、マウスで1981年に発見され(M.J. Evans and M.H. Kaufman (1981), Nature 292:154-156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された (J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848;J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)。
【0051】
ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養による細胞の維持は、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor (LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor (bFGF))などの物質を添加した培養液を用いて行うことができる。ヒトおよびサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えばUSP5,843,780; Thomson JA, et al. (1995), Proc Natl. Acad. Sci. U S A. 92:7844-7848; Thomson JA, et al. (1998), Science. 282:1145-1147; H. Suemori et al. (2006),Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932; M. Ueno et al. (2006), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:9554-9559; H. Suemori et al. (2001), Dev. Dyn., 222:273-279;H. Kawasaki et al. (2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585;Klimanskaya I, et al. (2006), Nature. 444:481-485などに記載されている。
【0052】
ES細胞作製のための培養液として、例えば0.1mM 2-メルカプトエタノール、0.1mM 非必須アミノ酸、2mM L-グルタミン酸、20% KSRおよび4ng/ml bFGFを補充したDMEM/F-12培養液を使用し、37℃、2% CO
2/98% 空気の湿潤雰囲気下でヒトES細胞を維持することができる(O. Fumitaka et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:215-224)。また、ES細胞は、3〜4日おきに継代する必要があり、このとき、継代は、例えば1mM CaCl
2および20% KSRを含有するPBS中の0.25% トリプシンおよび0.1mg/mlコラゲナーゼIVを用いて行うことができる。
【0053】
ES細胞の選択は、一般に、アルカリホスファターゼ、Oct-3/4、Nanogなどの遺伝子マーカーの発現を指標にしてReal-Time PCR法で行うことができる。特に、ヒトES細胞の選択では、OCT-3/4、NANOG、ECADなどの遺伝子マーカーの発現を指標とすることができる(E. Kroon et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:443-452)。
【0054】
ヒトES細胞株は、例えばWA01(H1)およびWA09(H9)は、WiCell Reserch Instituteから、KhES-1、KhES-2およびKhES-3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。
【0055】
(B) 精子幹細胞
精子幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、精子幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41〜46頁,羊土社(東京、日本))。
【0056】
(C) 胚性生殖細胞
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)。
【0057】
(D) 人工多能性幹細胞
人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の初期化因子を、DNAまたはタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);国際公開WO 2007/069666)。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNAまたはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO 2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotech., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720に記載の組み合わせが例示される。
【0058】
上記初期化因子には、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば、PD184352、PD98059、U0126、SL327およびPD0325901)、Glycogen synthase kinase-3阻害剤(例えば、BioおよびCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、5-azacytidine)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX-01294 等の低分子阻害剤、Suv39hl、Suv39h2、SetDBlおよびG9aに対するsiRNAおよびshRNA等の核酸性発現阻害剤など)、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644)、酪酸、TGF-β阻害剤またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA-83-01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAおよびshRNA)、miR-291-3p、miR-294、miR-295およびmir-302などのmiRNA、Wnt Signaling(例えばsoluble Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LT、UTF1、IRX6、GLISl、PITX2、DMRTBl等の樹立効率を高めることを目的として用いられる因子も含まれており、本明細書においては、これらの樹立効率の改善目的にて用いられた因子についても初期化因子と別段の区別をしないものとする。
【0059】
初期化因子は、タンパク質の形態の場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。
一方、DNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(WO 2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。
【0060】
また、RNAの形態の場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入しても良く、分解を抑制するため、5-メチルシチジンおよびpseudouridine (TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを用いても良い(Warren L, (2010) Cell Stem Cell. 7:618-630)。
【0061】
iPS細胞誘導のための培養液としては、例えば、10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12またはDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)または市販の培養液[例えば、マウスES細胞培養用培養液(TX-WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞培養用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、無血清培地(mTeSR、Stemcell Technology社)]などが含まれる。
【0062】
培養法の例としては、例えば、37℃、5% CO
2存在下にて、10%FBS含有DMEMまたはDMEM/F12培養液上で体細胞と初期化因子とを接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と初期化因子の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培養液で培養し、該接触から約30〜約45日またはそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。
【0063】
あるいは、37℃、5% CO
2存在下にて、フィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培養液(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日またはそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。望ましくは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いる(Takahashi K, et al. (2009), PLoS One. 4:e8067またはWO2010/137746)、もしくは細胞外基質(例えば、Laminin-5(WO2009/123349)およびマトリゲル(BD社))を用いる方法が例示される。
この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:15720-15725)。さらに、樹立効率を上げるため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:237-241またはWO2010/013845)。
【0064】
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培養液と培養液交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm
2あたり約5×10
3〜約5×10
6細胞の範囲である。
【0065】
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。
【0066】
本明細書中で使用する「体細胞」なる用語は、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞または分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)をいう。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
【0067】
本発明において、体細胞を採取する由来となる哺乳動物個体は特に制限されないが、好ましくはヒトである。得られるiPS細胞がヒトの再生医療用途に使用される場合には、拒絶反応が起こらないという観点から、患者本人またはHLAの型が同一もしくは実質的に同一である他人から体細胞を採取することが特に好ましい。ここでHLAの型が「実質的に同一」とは、免疫抑制剤などの使用により、該体細胞由来のiPS細胞から分化誘導することにより得られた細胞を患者に移植した場合に移植細胞が生着可能な程度にHLAの型が一致していることをいう。例えば、主たるHLA(例えば、HLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座、あるいはHLA-Cを加えた4遺伝子座)が同一である場合などが挙げられる(以下同じ)。
【0068】
(E) 核移植により得られたクローン胚由来のES細胞
ntES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がntES(nuclear transfer ES)細胞である。ntES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B. Cibelli et
al. (1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47〜52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
【0069】
(F) Multilineage-differentiating Stress Enduring cells(Muse細胞)
Muse細胞は、WO2011/007900に記載された方法にて製造された多能性幹細胞であり、詳細には、線維芽細胞または骨髄間質細胞を長時間トリプシン処理、好ましくは8時間または16時間トリプシン処理した後、浮遊培養することで得られる多能性を有した細胞であり、SSEA-3およびCD105が陽性である。
【0070】
<多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞を製造する方法>
本発明によれば、多能性細胞から骨格筋前駆細胞を製造するにあたって、以下の工程を含む方法を用いることができる;
(1)多能性幹細胞をTGF-β阻害剤とGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程、
(2)(1)の工程で得られた細胞を、TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤、IGF1、HGFおよびbFGFを含む培養液中で培養する工程、
(3)(2)の工程で得られた細胞を、TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤およびIGF1を含む培養液中で培養する工程、
(4)(3)の工程で得られた細胞を、TGF-β阻害剤、IGF1およびHGFを含む培養液中で培養する工程、および
(5)(4)の工程で得られた細胞を、TGF-β阻害剤、IGF1および血清を含む培養液中で培養する工程。
【0071】
本発明における骨格筋前駆細胞の分化誘導方法について、下記に詳述する。
【0072】
分化誘導前準備
本工程では、多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞への分化誘導に先立って、多能性幹細胞を培養する工程を含み得る。ここでは、多能性幹細胞を任意の方法で分離し、浮遊培養により培養してもよく、あるいはコーティング処理された培養皿を用いて接着培養により培養してもよい。本工程では、好ましくは、接着培養が用いられる。ここで、多能性幹細胞の分離方法としては、例えば、力学的に分離する方法、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液(例えば、Accutase(TM)およびAccumax(TM)など)またはコラゲナーゼ活性のみを有する分離溶液を用いた分離方法、Trypsin/ EDTAを用いた解離方法などが挙げられる。好ましくは、Trypsin/ EDTAを用いて細胞を解離する方法が用いられる。
【0073】
本発明において、浮遊培養とは、細胞を培養皿へ非接着の状態で培養することで胚様体を形成させることであり、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックスなどによるコーティング処理)されていない培養皿、若しくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)によるコーティング処理)した培養皿を使用して行うことができる。
【0074】
本発明において、接着培養とは、フィーダー細胞上で、または細胞外基質によりコーティング処理された培養容器を用いて培養することによって行い得る。コーティング処理は、細胞外基質を含有する溶液を培養容器に入れた後、当該溶液を適宜除くことによって行い得る。
【0075】
本発明において、フィーダー細胞とは、目的の細胞の培養条件を整えるために用いる補助的役割を果たす他の細胞を意味する。本発明において、細胞外基質とは、細胞の外に存在する超分子構造体であり、天然由来であっても、人工物(組換え体)であってもよい。例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリリン、ラミニンといった物質またはこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、BD Matrigel(TM)などの細胞からの調製物であってもよい。人工物としては、ラミニンの断片が例示される。本発明において、ラミニンとは、α鎖、β鎖、γ鎖をそれぞれ1本ずつ持つヘテロ三量体構造を有するタンパク質であり、特に限定されないが、例えば、α鎖は、α1、α2、α3、α4またはα5であり、β鎖は、β1、β2またはβ3であり、ならびにγ鎖は、γ1、γ2またはγ3が例示される。本発明において、ラミニンの断片とは、インテグリン結合活性を有しているラミニンの断片であれば、特に限定されないが、例えば、エラスターゼにて消化して得られる断片であるE8フラグメントが例示される。
【0076】
多能性幹細胞から骨格筋前駆細胞への分化誘導に先立って、多能性幹細胞を培養する工程は、好ましくは、接着培養であり、当該接着培養は、Matrigel(TM)でコーティングされた培養容器を用いた接着培養であり得る。多能性幹細胞を培養する工程において、使用する培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base medium、mTeSR1およびこれらの混合培地などが包含される。本工程において、好ましくは、mTeSR1が用いられる。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール(2ME)、チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましい培地は、mTeSR1である。
【0077】
多能性幹細胞を培養する工程の培養期間は、1日以上10日以下が例示され、例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日などであり得て、好ましくは、4日である。
【0078】
多能性幹細胞を培養する工程において、多能性幹細胞を分離する場合、培地中に、ROCK阻害剤が含まれていることが好ましい。ROCK阻害剤は、Rhoキナーゼ(ROCK)の機能を抑制できるものであれば特に限定されないが、例えば、Y-27632が本発明において好適に使用され得る。
【0079】
培地中におけるY-27632の濃度は、特に限定されないが、1μM〜50μMが好ましく、例えば、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、17μM、18μM、19μM、20μM、25μM、30μM、35μM、40μM 、45μM、50μMであるがこれらに限定されない。より好ましくは、10μMである。
【0080】
培地中に、ROCK阻害剤を添加する期間は、多能性幹細胞を培養する工程の培養期間であってもよく、単一分散時の細胞死を抑制する期間であればよく、例えば、少なくとも1日である。
【0081】
多能性幹細胞を培養する工程において、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO
2濃度は、約2〜5%、好ましくは5%である。
【0082】
多能性幹細胞を培養する工程において、培養期間の途中で培地交換を行うことができる。培地交換に用いられる培地は、培地交換前の培地と同じ成分を有する培地であっても、異なる成分を有する培地であってもよい。好ましくは、同じ成分を有する培地が用いられる。培地交換の時期は、特に限定されないが、新鮮な培地での培養を開始してから、例えば、1日毎、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎に行われる。本工程において、培地交換は、好ましくは、2日毎に行われる。
【0083】
工程(1):多能性幹細胞をTGF-β阻害剤とGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程
本工程(1)は、多能性幹細胞をTGF-β阻害剤とGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程である。本工程(1)において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base medium、およびこれらの混合培地などが包含される。本工程(1)において、好ましくは、IMDM培地およびHam's F12培地の混合培地である。
【0084】
基礎培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、セレン(亜セレン酸ナトリウム)、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール(2ME)、チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。本工程(1)において、好ましい基礎培地は、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、セレンおよびチオールグリセロールを添加したIMDM培地およびHam's F12培地の混合培地である。
【0085】
本発明において、TGF-β阻害剤は、TGF-βの受容体への結合からSMADへと続くシグナル伝達を阻害する物質である限り特に限定されないが、例えば、TGF-βの受容体であるALKファミリーへの結合を阻害する物質、ALKファミリーによるSMADのリン酸化を阻害する物質などが挙げられる。本発明において、TGF-β阻害剤は、例えば、Lefty-1(NCBI Accession No.として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al., Mol. Cancer, 2003, 2:20)、SB505124 (GlaxoSmithKline)、 NPC30345 、SD093、SD908、SD208 (Scios)、LY2109761、LY364947、 LY580276 (Lilly Research Laboratories)、A-83-01(WO 2009146408) およびこれらの誘導体などが例示される。
【0086】
本工程(1)で使用されるTGF-β阻害剤は、好ましくは、SB431542であり得る。
【0087】
培地中におけるSB431542の濃度は、特に限定されないが、1μM〜50μMが好ましく、例えば、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、17μM、18μM、19μM、20μM、25μM、30μM、35μM、40μM、45μM、50μMであるがこれらに限定されない。より好ましくは、10μMである。
【0088】
本発明において、GSK3β阻害剤は、GSK3βタンパク質のキナーゼ活性(例えば、βカテニンに対するリン酸化能)を阻害する物質として定義され、既に多数のものが知られているが、例えば、GSK3β阻害剤として最初に見出されたLithium chloride (LiCl)、インジルビン誘導体であるBIO(別名、GSK3β阻害剤IX;6-ブロモインジルビン3'-オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物であるGSK3β阻害剤VII(4-ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803-mts(別名、GSK3βペプチド阻害剤;Myr-N-GKEAPPAPPQSpP-NH2)および高い選択性を有するCHIR99021(6-[2-[4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(4-methyl-1H-imidazol-2-yl)pyrimidin-2-ylamino]ethylamino]pyridine-3-carbonitrile)が挙げられる。これらの化合物は、例えばCalbiochem社やBiomol社等から市販されており容易に利用することが可能であるが、他の入手先から入手してもよく、あるいはまた自ら作製してもよい。
【0089】
本工程(1)で使用されるGSK3β阻害剤は、好ましくは、CHIR99021であり得る。
【0090】
培地中におけるCHIR99021の濃度は、特に限定されないが、例えば1μM〜50μMの範囲内、好ましくは5μM〜50μMの範囲内にあり、例えば、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、35μM、40μM 、45μM、50μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、GSK3β阻害において使用される濃度である1μMよりも高い濃度が使用され、より好ましくは、5μM以上である。
【0091】
本工程(1)において、培養期間は、10日以上30日以下が例示され、例えば、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、28日、29日、30日などであり得て、好ましくは、21日である。
【0092】
本工程(1)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO
2濃度は、約2〜5%、好ましくは5%である。
【0093】
本工程(1)において、所望の細胞の含有率を上昇させる観点から、好ましくは、工程内において継代を含む。本発明において、継代とは、培養中の細胞を容器から解離させ、再播種する操作である。細胞を解離させる工程においては、互いに接着して集団を形成している細胞を個々の細胞に解離(分離)させる。細胞を解離させる方法としては、例えば、力学的に解離する方法、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する解離溶液(例えば、Accutase(TM)およびAccumax(TM)など)、コラゲナーゼ活性のみを有する解離溶液を用いた解離方法、Trypsin/ EDTAを用いた解離方法などが挙げられる。好ましくは、Trypsin/ EDTAを用いて細胞を解離する方法が用いられる。
【0094】
本工程(1)において、継代は、特に限定されないが、本工程の開始から4〜10日毎、例えば、4日毎、5日毎、6日毎、7日毎、8日毎、9日毎、10日毎、好ましくは、7日毎に行われる。
【0095】
継代直後の培養液は、再播種された細胞の細胞死を防ぐ目的で、ROCK阻害剤を含んでいてもよい。ROCK阻害剤は、前記と同様の条件で用いることができる。
【0096】
本工程(1)において、適宜培地交換を行うことが望ましい。培地交換の時期は、特に限定されないが、新鮮な培地での培養を開始してから、例えば、1日毎、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎に行われる。本工程において、培地交換は、好ましくは、2日毎に行われる。
【0097】
工程(2):TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤、IGF1、HGFおよびbFGFを含む培養液中で培養する工程
本工程(2)は、前記工程(1)で得られた細胞を、TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤、IGF1、HGFおよびbFGFを含む培養液中で培養する工程である。本工程(2)において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base medium、SF-O3培地(エーディア株式会社)およびこれらの混合培地などが包含される。本工程(2)において、好ましくは、SF-O3培地が用いられる。
【0098】
基礎培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、セレン(亜セレン酸ナトリウム)、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール(2ME)、チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。本工程(2)において、好ましい基礎培地は、アルブミンおよび2-メルカプトエタノールを添加したSF-O3培地である。
【0099】
本工程(2)で使用するTGF-β阻害剤は、前記と同様のものを用いることができるが、好ましくは、SB431542であり得る。本工程(2)で使用する培地中におけるSB431542の濃度は、特に限定されないが、1μM〜50μMが好ましく、例えば、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、17μM、18μM、19μM、20μM、25μM、30μM、35μM、40μM 、45μM、50μMであるがこれらに限定されない。より好ましくは、10μMである。
【0100】
本工程(2)で使用されるGSK3β阻害剤は、前記と同様のものを用いることができるが、好ましくは、LiClであり得る。本工程(2)で使用する培地中におけるLiClの濃度は、特に限定されないが、1mM〜50mMが好ましく、例えば、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、40mM、50mMであるがこれらに限定されない。より好ましくは、5mMである。
【0101】
本工程(2)で使用する培地中におけるIGF1の濃度は、特に限定されないが、例えば1ng/ml〜100ng/mlの範囲内、好ましくは1ng/ml〜50ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、25ng/ml、30ng/ml、35g/ml、40ng/ml、45ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/mlであるがこれらに限定されない。より好ましくは、10ng/mlである。
【0102】
本工程(2)で使用する培地中におけるHGFの濃度は、特に限定されないが、例えば1ng/ml〜100ng/mlの範囲内、好ましくは1ng/ml〜50ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、25ng/ml、30ng/ml、35g/ml、40ng/ml、45ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/mlであるがこれらに限定されない。より好ましくは、10ng/mlである。
【0103】
本工程(2)で使用する培地中におけるbFGFの濃度は、特に限定されないが、例えば1ng/ml〜100ng/mlの範囲内、好ましくは1ng/ml〜50ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、25ng/ml、30ng/ml、35g/ml、40ng/ml、45ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/mlであるがこれらに限定されない。より好ましくは、10ng/mlである。
【0104】
本工程(2)において、培養期間は、1日以上10日以下が例示され、例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日などであり得て、好ましくは、4日である。
【0105】
本工程(2)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO
2濃度は、約2〜5%、好ましくは5%である。
【0106】
工程(3):TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤およびIGF1を含む培養液中で培養する工程
本工程(3)は、前記工程(2)で得られた細胞を、TGF-β阻害剤、GSK3β阻害剤およびIGF1を含む培養液中で培養する工程である。本工程(3)において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base medium、SF-O3培地およびこれらの混合培地などが包含される。本工程(3)において、好ましくは、SF-O3培地が用いられる。
【0107】
基礎培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、セレン(亜セレン酸ナトリウム)、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール(2ME)、チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。本工程(3)において、好ましい基礎培地は、アルブミンおよび2-メルカプトエタノールを添加したSF-O3培地である。
【0108】
本工程(3)で使用するTGF-β阻害剤は、前記と同様のものを用いることができるが、好ましくは、SB431542であり得る。本工程(3)で使用する培地中におけるSB431542の濃度は、特に限定されないが、1μM〜50μMが好ましく、例えば、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、17μM、18μM、19μM、20μM、25μM、30μM、35μM、40μM 、45μM、50μMであるがこれらに限定されない。より好ましくは、10μMである。
【0109】
本工程(3)で使用されるGSK3β阻害剤は、前記と同様のものを用いることができるが、好ましくは、LiClであり得る。本工程(3)で使用する培地中におけるLiClの濃度は、特に限定されないが、1mM〜50mMが好ましく、例えば、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、40mM、50mMであるがこれらに限定されない。より好ましくは、5mMである。
【0110】
本工程(3)で使用される培地中におけるIGF1の濃度は、特に限定されないが、例えば1ng/ml〜100ng/mlの範囲内、好ましくは1ng/ml〜50ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、25ng/ml、30ng/ml、35g/ml、40ng/ml、45ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/mlであるがこれらに限定されない。より好ましくは、10ng/mlである。
【0111】
本工程(3)において、培養期間は、1日以上10日以下が例示され、例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日などであり得て、好ましくは、3日である。
【0112】
本工程(3)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO
2濃度は、約2〜5%、好ましくは5%である。
【0113】
工程(4):TGF-β阻害剤、IGF1およびHGFを含む培養液中で培養する工程
本工程(4)は、前記工程(3)で得られた細胞を、TGF-β阻害剤、IGF1およびHGFを含む培養液中で培養する工程である。本工程(4)において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base medium、SF-O3培地およびこれらの混合培地などが包含される。本工程(4)において、好ましくは、SF-O3培地が用いられる。
【0114】
基礎培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、セレン(亜セレン酸ナトリウム)、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール(2ME)、チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。本工程(4)において、好ましい基礎培地は、アルブミンおよび2-メルカプトエタノールを添加したSF-O3培地である。
【0115】
本工程(4)で使用するTGF-β阻害剤は、前記と同様のものを用いることができるが、好ましくは、SB431542であり得る。本工程(4)で使用する培地中におけるSB431542の濃度は、特に限定されないが、1μM〜50μMが好ましく、例えば、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、17μM、18μM、19μM、20μM、25μM、30μM、35μM、40μM 、45μM、50μMであるがこれらに限定されない。より好ましくは、10μMである。
【0116】
本工程(4)で使用される培地中におけるIGF1の濃度は、特に限定されないが、例えば1ng/ml〜100ng/mlの範囲内、好ましくは1ng/ml〜50ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、25ng/ml、30ng/ml、35g/ml、40ng/ml、45ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/mlであるがこれらに限定されない。より好ましくは、10ng/mlである。
【0117】
本工程(4)で使用される培地中におけるHGFの濃度は、特に限定されないが、例えば、1ng/ml〜100ng/mlの範囲内、好ましくは、1ng/ml〜50ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、25ng/ml、30ng/ml、35g/ml、40ng/ml、45ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/mlであるがこれらに限定されない。より好ましくは、10ng/mlである。
【0118】
本工程(4)において、培養期間は、7日以上20日以下が例示され、例えば、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日などであり得て、好ましくは、14日である。
【0119】
本工程(4)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO
2濃度は、約2〜5%、好ましくは5%である。
【0120】
本工程(4)において、適宜培地交換を行うことが望ましい。培地交換の時期は、特に限定されないが、新鮮な培地での培養を開始してから、例えば、1日毎、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎に行われる。好ましくは、2日毎に行われる。あるいは、別の観点から培地交換は、新鮮な培地での培養を開始してから、例えば、週1回、週2回、週3回、週4回行われ得る。好ましくは、週2回行われる。
【0121】
工程(5):TGF-β阻害剤、IGF1および血清を含む培養液中で培養する工程
本工程(5)は、前記工程(4)で得られた細胞を、TGF-β阻害剤、IGF1および血清を含む培養液中で培養する工程である。本工程(5)において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、RPMI-base mediumおよびこれらの混合培地などが包含される。本工程(5)において、好ましくは、DMEM培地が用いられる。
【0122】
基礎培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、セレン(亜セレン酸ナトリウム)、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール(2ME)、チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。本工程(5)において、好ましい基礎培地は、血清、L-グルタミンおよび2-メルカプトエタノールを添加したDMEM培地である。本工程(5)において用いる血清は、好ましくは、ウマ血清であり、基礎培地中の濃度は、1から10%、より好ましくは、2%である。
【0123】
本工程(5)で使用するTGF-β阻害剤は、前記と同様のものを用いることができるが、好ましくは、SB431542であり得る。本工程(5)で使用される培地中におけるSB431542の濃度は、特に限定されないが、500nM〜50μMが好ましく、例えば、500nM、600nM、700nM、800nM、900nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、35μM、40μM 、45μM、50μMであるがこれらに限定されない。より好ましくは、5μMである。
【0124】
本工程(5)で使用される培地中におけるIGF1の濃度は、特に限定されないが、例えば1ng/ml〜100ng/mlの範囲内、好ましくは1ng/ml〜50ng/mlの範囲内にあり、例えば、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、25ng/ml、30ng/ml、35g/ml、40ng/ml、45ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/mlであるがこれらに限定されない。より好ましくは、10ng/mlである。
【0125】
本工程(5)において、培養期間は、長期にわたることで骨格筋前駆細胞の誘導において特段の影響はでないことから特に上限はないが、9日以上100日以下が例示され、好ましくは、9日以上75日以下、9日以上60日以下である。例えば、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、28日、29日、30日、31日、32日、33日、34日、35日、36日、37日、38日、39日、40日、41日、42日、43日、44日、45日、46日、47日、48日、49日、50日、51日、52日、および53日などが挙げられる。
【0126】
本工程(5)において、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO
2濃度は、約2〜5%、好ましくは5%である。
【0127】
本工程(5)において、適宜培地交換を行うことが望ましい。培地交換の時期は、特に限定されないが、新鮮な培地での培養を開始してから、例えば、1日毎、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎に行われる。好ましくは、2日毎に行われる。あるいは、別の観点から培地交換は、新鮮な培地での培養を開始してから、例えば、週1回、週2回、週3回、週4回行われ得る。好ましくは、週2回行われる。
【0128】
<多能性幹細胞からの骨格筋前駆細胞製造用キット>
本発明の一つの態様において、多能性幹細胞からの骨格筋前駆細胞の製造用キットを提供する。本キットには、上記したmiRNA応答性mRNAに加えて、骨格筋前駆細胞の誘導のための特定の因子を含む骨格筋前駆細胞誘導剤(例えば、凍結乾燥物、適当な緩衝液に溶解した凍結液剤など)、細胞、試薬および培養液を含み得る。本キットには、さらに分化誘導の手順を記載した書面や説明書を含んでもよい。
【0129】
<筋原性疾患治療剤>
本発明は、前記方法により選別された骨格筋前駆細胞を含む筋原性疾患治療剤を提供する。
【0130】
本発明における筋原性疾患は、例えば、筋ジストロフィー(例、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋緊張性筋ジストロフィー等)、先天性ミオパチー、遠位型ミオパチー、ミトコンドリアミオパチーなどの遺伝性ミオパチー、多発性筋炎、皮膚筋炎、重症筋無力症などの非遺伝性ミオパチー筋ジストロフィー、糖原病、周期性四肢麻痺、が例示される。より好ましい対象は、筋ジストロフィーである。
【0131】
本発明において、筋原性疾患治療剤として、選別された骨格筋前駆細胞を用いる場合、選別された骨格筋前駆細胞を培養液中で再培養した後用いることが好ましい。再培用において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができ、例えば、前記工程(5)と同様の培地が用いられるが、これに限定されない。
【0132】
再培養の期間は、骨格筋前駆細胞を移植した際に、移植先における生着率が高まる期間であればいくらでもよいが、6時間以上60時間以下が例示され、例えば、6時間、12時間、18時間、24時間、30時間、36時間、42時間、48時間、54時間、60時間などであり得て、好ましくは、24時間である。
【0133】
筋ジストロフィーをはじめとする遺伝性筋疾患の治療用の骨格筋前駆細胞としては、患者とHLAの型が同一もしくは実質的に同一である他人から誘導された多能性幹細胞から分化誘導した骨格筋前駆細胞が好ましく使用される。ヒトの再生医療においては、HLAの型が同一もしくは実質的に同一なヒトES細胞を入手することは容易でないため、骨格筋前駆細胞を誘導するための多能性幹細胞としては、ヒトiPS細胞を用いることが好ましい。
【0134】
別の一実施態様においては、遺伝性筋疾患治療用の骨格筋前駆細胞として、患者本人の体細胞由来のiPS細胞から分化させた骨格筋前駆細胞を用いることも可能である。例えば、DMD患者の体細胞から誘導したiPS細胞は、ジストロフィン遺伝子が欠損しているので、iPS細胞に正常なジストロフィン遺伝子を導入する。ジストロフィンcDNAは全長14kbで、筋細胞への遺伝子導入に最適なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは約4.5kbの収容力しかないので、現在の遺伝子治療戦略としては、短縮化した機能的なジストロフィン遺伝子(マイクロジストロフィン遺伝子(3.7kb))をAAVベクターで導入するか、あるいはより大きなDNAを挿入できるレトロウイルス/レンチウイルスベクターを用いて6.4kbのミニジストロフィン遺伝子を導入する、または全長ジストロフィン遺伝子を裸でもしくはGuttedアデノウイルスベクターを用いて導入する方法が試みられている。iPS細胞の場合、レトロウイルス/レンチウイルスで最も高い導入効率が得られる他、人工染色体による全長cDNAの導入も可能であるため、遺伝子治療の選択肢が拡がるという利点がある。また肢帯型筋ジストロフィーの場合、サルコグリカン遺伝子異常が原因のため、該遺伝子をiPS細胞に導入すればよい。あるいは、iPS細胞の内因性DNA修復機構や相同組換えを利用して、原因遺伝子の変異部位を修復することもできる。即ち、変異部位を正常にした配列を有するキメラRNA/DNAオリゴヌクレオチド(chimeraplast)を導入し、標的配列に結合させてミスマッチを形成させ、内因性DNA修復機構を活性化して遺伝子修復を誘導する。あるいは、変異部位に相同な400-800塩基の一本鎖DNAを導入して相同組換えを起こさせることにより遺伝子修復を行なうこともできる。このようにして得られる、疾患原因遺伝子が修復されたiPS細胞を、上記工程を経て骨格筋前駆細胞に分化誘導することにより、患者本人由来の正常な骨格筋前駆細胞を製造することができる。
【0135】
遺伝性筋疾患患者は、生来、正常な遺伝子産物を有していないことから、患者本人の骨格筋前駆細胞であっても、正常遺伝子産物(例えば、ジストロフィン)に対する免疫応答が起きる可能性があるので、いずれにせよ、骨格筋前駆細胞の移植に際しては、免疫抑制剤を併用することが好ましい。あるいは、この免疫応答を回避する目的で、DMDの場合、患者骨格筋でも発現しているジストロフィンホモログであるユートロフィン遺伝子を導入してジストロフィン機能を代替させても良い。
【0136】
本発明の方法により選別された骨格筋前駆細胞は、細胞の形態で製剤化することもできる。
【0137】
本発明において製剤は、常套手段にしたがって医薬上許容される担体と混合するなどして注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造され得る。当該非経口製剤に含まれ得る医薬上許容される担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などの注射用の水性液を挙げることができる。本発明の剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸リドカイン、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、安息香酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、など)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、エデト酸ナトリウムなど)などと配合しても良い。
【0138】
本発明の剤を水性懸濁液剤として製剤化する場合、上記水性液に約1.0×10
6-約1.0×10
7細胞/mLとなるように、骨格筋前駆細胞を懸濁させればよい。このようにして得られる製剤は、安定で低毒性であるので、ヒトなどの哺乳動物に対して安全に投与することができる。投与方法は特に限定されないが、好ましくは注射もしくは点滴投与であり、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与(患部局所投与)などが挙げられる。本発明の剤の投与量は、投与対象、治療標的部位、症状、投与方法などにより差異はあるが、通常、DMD患者(体重60kgとして)においては、例えば、静脈内注射の場合、1回につき骨格筋前駆細胞量として約1.0×10
5-約1×10
7細胞を、約1-約2週間隔で、約4-約8回投与するのが好都合である。
【0139】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0140】
<Dox-MYOD1強制発現によるiPS細胞から骨格筋細胞への分化誘導法>
Dox依存的にMYOD1の強制発現が可能なヒトiPS細胞(以下、MYOD1-hiPSCsと言う。)はiPS細胞研究所櫻井英俊博士から分与を受けて用いた(PLoS One. 2013 Apr 23;8(4):e61540)。当該MYOD1-hiPSCsから骨格筋細胞へ分化誘導した。詳細には、マトリゲル(BD bioscience)でコートされた24 wellプレートにおいてbFGFを除いたiPS培地(霊長類ES細胞培地:Reprocell #RCHEMD001)で培養した。24時間後、1μg/mLのドキシサイクリン(LKT Laboratries)を培地に加えた。さらに24時間後、分化誘導培地-1(表4)に変えて分化9日目まで培養した。
【0141】
【表4】
【0142】
<PAX3-GFP、MYF5-tdTomatoレポーターiPS細胞>
ヒトiPS細胞(201B7)は、京都大学の山中教授より供与されたものを、従来の方法で培養した(Takahashi K, et al. Cell. 131:861-72, 2007)。当該201B7を常法に従ってBACコンストラクトを用いた相同組換えによりPax3遺伝子座の開始コドンの3’側へEGFP配列を連結させ、PAX3の発現と連携してEGFPを発現するiPS細胞株(PAX3-GFP iPSCs)を作製した。同様に、201B7を常法に従ってCRISPR/CAS9システムを用いた相同組換えにより、MYF5遺伝子座の開始コドンの5’側へtdTomato配列を連結させ、MYF5の発現と連携してtdTomatoを発現するiPS細胞株(MYF5-tdTomato C3 iPSCs)を作製した。どちらの細胞株も、片アレルのみに遺伝子組み換えが行われたことを確認している。
<疾患iPS細胞株>
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー患者より同意を得て採取した皮膚を培養することによって得られた線維芽細胞へ、Epi5 Episomal iPSC Reprogramming Kit(Life Technologies)を用いて、Okita K et al., Nat Methods. 8:409-412, 2011に記載の方法に従って作製した(以下、疾患iPS細胞株という)。
【0143】
<骨格筋前駆細胞への分化誘導法>
iPS細胞(PAX3-GFP iPSCs、MYF5-tdTomato C3 iPSCs、201B7、または疾患iPS細胞株)から骨格筋細胞へ分化誘導した。詳細には、マトリゲル(BD bioscience)でコートされた6 wellプレート上で培養されたiPS細胞に対して10μM SB431542および5μM CHIR99021を添加したCDMi基本培地(1% Albumin from bovine serum (SIGMA)、1% Penicillin-Streptomycin Mixed Solution (26253-84 ナカライテスク)、1% CD Lipid Concentrate (Invitrogen)、1% Insulin-Trandferin-Selenium (Invitrogen)および0.5mM 1-Thioglycerol (SIGMA)を添加した1:1IMDM(Invitrogen)およびF12(Invitrogen)混合培地)(以下、分化培地Aと言う)を加えて培養した。以後、2日おきに培地交換を行った。7日後に継代し、マトリゲル(BD bioscience)でコートされた6 wellプレート上で培養された各iPS細胞に対して分化培地Aを加えて培養した。以後、2日おきに培地交換を行った。7日後に継代し、マトリゲル(BD bioscience)でコートされた6 wellプレートに分化培地Aを加えて培養した。24時間後に分化培地Aにて培地交換を行った。以後、2日おきに培地交換を行った。さらに6日後(誘導初日から14日後)、継代を行い、マトリゲル(BD bioscience)でコートされた6 wellプレートに分化培地Aを加えて培養した。24時間後に分化培地Aにて培地交換を行った。以後、2日おきに培地交換を行った。さらに6日後(分化誘導初日から21日後)、200μM 2-ME、5mM LiCl、10μM SB431542、10ng/ml IGF-1、10ng/ml HGFおよび10ng/ml bFGFを添加したSF-O3基本培地(0.2% BSA (Sigma)を添加したSF-O3 (三光純薬 SS1303))(以下、筋分化培地Aと言う)にて培地交換を行った。4日後(分化誘導初日から25日後)、200μM 2-ME、5mM LiCl、10μM SB431542および10ng/ml IGF-1を添加したSF-O3基本培地(以下、筋分化培地Bと言う)にて培地交換を行った。3日後(分化誘導初日から28日後)、200μM 2-ME、5mM LiCl、10μM SB431542、10ng/ml IGF-1および10ng/ml HGFを添加したSF-O3基本培地(以下、筋分化培地Cと言う)にて培地交換を行った。以後、週2回筋分化培地Cにて培地交換を行った。筋分化培地Cに変えてから14日後(分化誘導初日から42日後)、2% Horse Serum(HS)、5μM SB431542および10ng/ml IGF-1を添加したDMEM基本培地(1% Penicillin-Streptomycin Mixed Solution、1% L-gluthamine (ナカライテスク #16948-04)および200μM 2-MEを添加したDMEM (Invitrogen #11960069))(以下、筋分化培地Dと言う)にて培地交換を行った。以後、週2回筋分化培地Dにて培地交換を行った。筋分化培地D中での培養は、最長、分化誘導開始から95日まで行った。
【0144】
<in vitro transcriptionのためのDNA templateの作製>
蛍光タンパク質 (EGFP、tagBFPおよびtagRFP)をコードする遺伝子は、pEGFP-N1 (Clontech)、pTagBFP-Tubulin (evrogen)、またはpTAP-tagRFPを鋳型として、対応するプライマー(それぞれ、TAPEGFP_IVTfwd(配列番号11)およびTAP_IVTrev(配列番号14)、tagBFP fwd(配列番号12)およびTAP_IVTrev、またはtagRFP fwd(配列番号13)およびTAP_IVTrev)およびKOD-Plus-Neo(KOD-401,TOYOBO)を用いて、PCR(サイクル:94℃ 2分10秒、68℃ 30秒を20サイクル行い、15℃で保存)により得られた。PCR産物をMiniElute PCR purification Kit (QIAGEN)を用いて精製した。PCR産物をそれぞれ、蛍光タンパク質カセット(EGFPカセット(配列番号15)、tagBFPカセット(配列番号16)またはtagRFPカセット(配列番号17))と称す。
【0145】
5’-UTRは、IVT_5prime_UTR(IVT_5prime_UTR(配列番号18))を鋳型として、対応するプライマー(TAP_T7_G3C fwd primer(配列番号19)およびRev5UTR primer(配列番号20))とKOD-Plus-Neo(KOD-401,TOYOBO)を用いて、PCR(サイクル:94℃ 2分後、98℃ 10秒、68℃ 10秒を13サイクル行い、15℃で保存)により増幅を行った。増幅されたPCR産物を、MiniElute PCR purification Kit (QIAGEN)を用いて精製した。得られたPCR産物をControl 5’-UTRカセットと言う(配列番号21)。
【0146】
miRNA応答配列を有する5’-UTRカセットを、5UTR-miR-1カセット(配列番号22)、5UTR-miR-133カセット(配列番号23)、5UTR-miR-206カセット(配列番号24)、5UTR-miR-489カセット(配列番号25)または5UTR-miR-708カセット(配列番号26))と称し、DNA合成により得た。
【0147】
3’-UTRは、IVT_3prime_UTR(IVT_3prime_UTR(配列番号27))を鋳型として、対応するプライマー(Fwd3UTR primer(配列番号28)およびRev3UTR2T20(配列番号29))とKOD-Plus-Neo(KOD-401,TOYOBO)を用いて、PCR(サイクル:94℃ 2分後、98℃ 10 秒、68℃ 10秒を13サイクル行い、15℃で保存)により増幅を行った。増幅されたPCR産物を、MiniElute PCR purification Kit (QIAGEN)を用いて精製した。得られたPCR産物を3’-UTRカセット(配列番号30)と称す。
【0148】
in vitro transcriptionにてControl 5’-UTR を含むmRNAを製造するためのDNA templateは、上記で作製された各蛍光タンパク質カセット、Control 5’-UTR、3’-UTRカセット、対応するプライマー(TAP_T7_G3C fwd primerおよび3UTR120A rev primer(配列番号31))およびKOD-Plus-Neo(KOD-401,TOYOBO)を適宜選択して用いて、PCR(サイクル:94℃ 2分後、98℃ 10秒、68℃ 45秒を20サイクル行い、15℃で保存)により増幅を行った。in vitro transcriptionにて各5’-UTRカセットを含むmRNAを製造するためのDNA templateは、上記で作製された各蛍光タンパク質カセット、各5’-UTRカセット、3’-UTRカセット、対応するプライマー(GCT7pro_5UTR2(配列番号32)および3UTR120A rev primer)およびKOD-Plus-Neo(KOD-401,TOYOBO)をPCR(サイクル:94℃ 2分後、98℃ 10 秒、60℃ 30秒、68℃ 45秒を20サイクル行い、15℃で保存)増幅されたPCR産物を、MiniElute PCR purification Kit (QIAGEN)を用いて精製を行った。得られたPCR産物をそれぞれ、EGFP DNA template(配列番号33)、tagBFP DNA template(配列番号34),tagRFP DNA template(配列番号35)miR-206-EGFP DNA template(配列番号36)、miR-1-tagBFP DNA template(配列番号37)、miR-133-tagBFP DNA template(配列番号38)、miR-206-tagBFP DNA template(配列番号39)、miR-489-tagBFP DNA template(配列番号40)、miR-708-tagBFP DNA template(配列番号41)と称す。
【0149】
<in vitro transcription>
MEGAscript T7 kit (Ambion)と上記で作製されたDNA templateを用いてmRNA合成を行った。この反応において、ウリジン三リン酸及びシチジン三リン酸に替えて、シュードウリジン−5’ −三リン酸及びメチルシチジン-5’-三リン酸(TriLink BioTechnologies)をそれぞれ用いた。IVT(mRNA合成)反応の前に、グアニジン-5’-三リン酸は、Anti Reverse cap Analog (New England Biolabs)で5倍希釈した。反応混合液を37℃で5時間インキュベートして、TURBO DNase (Amibion)を加えた後、37℃でさらに30分インキュベートした。得られたmRNAは、FavorPrep Blood / Cultured Cells total RNA extraction column (Favorgen Biotech)で精製し、Antarctic phosphatase (New England Biolabs)を用いて37℃で30分インキュベートした。その後、RNeasy Mini Elute Cleanup Kit (QIAGEN)により、さらに精製した。得られたmRNAをそれぞれ、EGFP mRNA(配列番号42)、tagBFP mRNA(配列番号43)、tagRFP mRNA(配列番号44)、miR-206-EGFPスイッチ(配列番号45)、miR-1-tagBFPスイッチ(配列番号46)、miR-133-tagBFPスイッチ(配列番号47)、miR-206-tagBFPスイッチ(配列番号48)、miR-489-tagBFPスイッチ(配列番号49)、およびmiR-708-tagBFPスイッチ(配列番号50)と称す。
【0150】
<miRNAスイッチを用いた解析>
miRNAの発現に応答して蛍光タンパク質の翻訳を抑制するmRNA(以下、miRNAスイッチという)と共にmiRNA応答性のmRNAとは異なる蛍光タンパク質の遺伝子をコードしたmRNA(以下、トランスフェクションコントロールという)をそれぞれの細胞に導入した。細胞を播種せずmRNA導入を行う場合は、Stemfect RNA transfection kit(Stemgent)を用いて以下の方法で行った。1.5 mL tube内にStemfect Transfection Buffer と2種類のmRNAが12.5 μLになるように調製し、もう一方の1.5mL tubeに1μLのStemfect RNA Transfection ReagentとStemfect Transfection Bufferが12.5 μLになるように調製した。調製された上記の2種類の溶液を混合し、室温で15分間インキュベートした。混合液を全量、細胞が培養されているwell(24well plate)に加え37℃、5%CO
2下で4 時間インキュベートした。その後、培地を除き、500 μLの培地(DMEM 2%HS)をwellに加えた。24時間後、fluorescence activated cell sorting(BD、以下FACS)を用いて解析を行った。細胞を播種してmRNA導入を行う場合は、24well plateで培養されている細胞に200 μLのAccumax(フナコシ)を加え、37℃、5%CO
2下で10-15分インキュベートした後、500 μLの培地(DMEM 2%HS)を加え15 mL tubeに回収して4℃、2000 rpm、10分で遠心を行い、上清を取り除いた。500 μLの培地を加えピペッティングした後、cell countess(invitrogen)で細胞数を計測後、必要に応じて希釈した。24well plateにまき直す場合は 2×10
5 cell/well、6well plateにまき直す場合は1×10
6 cell/wellで細胞をまき直した。細胞をwellにまくと同時に調製された(上記の方法)mRNAを含む混合液をwellに加えた。37℃、5%CO
2下で4 時間インキュベートした。その後、培地を除き、必要量の培地(DMEM 2%HS)をwellに加えた。24時間後、FACSを用いて解析を行った。
【0151】
<FACSによる解析>
各解析対象の細胞に24 well plate、1 wellあたり200 μLのAccumax(フナコシ)を加え(6 well plateでは1mL)加え、37℃、5%CO
2下で10-15分インキュベートした。その後500 μLの培地(DMEM 2%HS)を加え細胞を15 mL tubeに回収して4℃、2000 rpm、10分で遠心を行い、上清を取り除いた。1 well あたり200 μLの培地(DMEM 2%HS)またはHBSSを加えて、ピペッティングで懸濁しフィルターで通して解析に用いた。
【0152】
<Quantitative RT-PCR(qRT-PCR)>
逆転写反応にはReverTra Ace(TOYOBO)を用いて行った。PCRはPower SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いて行った。miRNAの発現量解析には、逆転写反応はTaqMan MicroRNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)を用いて行いPCRはTaqMan Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いて行った。用いたプライマーは表5に示す。
【0153】
【表5】
【0154】
<免疫染色>
FACSでソーティングされた1×10
4個の細胞をサイトスピンを用いて、1000 rpm 2分で遠心を行いスライドガラスに接着させた。室温で30分ドライヤーで乾燥後、4%PFAを200μL滴下し室温で20分乾燥させ、固定した。ドライヤーで30分乾燥後、PBSで洗浄した。余分なPBSを取り除き、5% Blocking one(ナカライテスク)を200μLを滴下し、室温で1時間静置した。Can Get Signal Solution B(TOYOBO)にて必要量の抗体を調製し、100μL滴下し室温で1時間または4℃で一晩静置した。PBS-Tで洗浄後、Can Get Signal Solution B(TOYOBO)にて必要量の抗体とHoechstを調製し、室温で1時間静置した。PBS-Tで洗浄後、Permaflow(テルモ)を1〜2滴、滴下後カバーガラスを被せ、室温にて30分以上静置した。抗体については表6に示す。
【0155】
【表6】
【0156】
<Re-culture>
FACSでソーティングされた3×10
4個の細胞をマトリゲル(BD bioscience)コートされた48 well plate に播種し、筋分化培地Aにて培養した。播種後、翌日筋分化培地Aにて培地交換を行い、以後4日に一度筋分化培地Aにて培地交換または、5日後に筋分化培地Dにて培地交換を行った。7日後、必要な抗体を用いて細胞の免疫染色を行った。抗体については表6に示す。
【0157】
<結果>
筋組織に特異的に発現しているという報告があるmiR-206(The Journal of Cell Biology, 174(5), 677-87, 2006)が、Dox-MYOD1強制発現による骨格筋細胞への分化過程において、どのように発現変動するかをqRT-PCRを用いて調べた(
図1A)。その結果、Dox添加により骨格筋細胞へと分化誘導されるに従い、miR-206の発現量が上昇することが示された。Doxの培地への添加は、day 1からday 7の間におこなった。day9にてmiR-206の発現が減少することから、MyoD発現の減少に伴ってmiR-206の発現が抑制されることが示唆された(PLoS One. 2013 Apr 23;8(4):e61540)。
【0158】
miR-206の発現量に応答してEGFPの翻訳が抑制されるmRNA(miR-206-EGFPスイッチ)とトランスフェクションコントロールのtagBFP mRNAを上述の方法で作製し(
図1B)、MYOD1-hiPSCsへ導入して骨格筋系譜細胞を選別できるか検証した(
図1C)。Doxを添加せず1日培養した(Dox- Day 1)細胞にmiR-206-EGFPスイッチをトランスフェクションしたところ、共導入したtagBFPの蛍光値とmiRNAスイッチがコードしているEGFPの蛍光値の比が細胞集団で均一となっていた(
図1C)。一方、Dox添加後6日培養した(Dox+ Day 6)細胞にmiR-206スイッチをトランスフェクションしたところ、tagBFPとEGFPの蛍光値の比が変動した(
図1D)。以上より、miR-206-EGFPとトランスフェクションコントロール(tagBFP mRNA)の共導入により骨格筋系譜細胞を選別できることが示唆された。
【0159】
続いて、PAX3-GFP iPSCsまたはMYF5-tdTomato C3 iPSCsを上述の骨格筋前駆細胞の分化誘導法により得られた細胞集団からmiR-206スイッチにより骨格筋系譜細胞を特異的に選別できるか検討した。まず、分化誘導過程におけるmiR-206の発現量をqRT-PCRにより調べた(
図2Aおよび
図2B)。その結果、miR-206の発現量は分化誘導される過程で上昇した。
【0160】
続いて、PAX3-GFP iPSCsから誘導された細胞から、miR-206の発現量に応答してtagBFPの翻訳が抑制されるmRNA(以下、miR-206-tagBFPスイッチと言う)により骨格筋系譜細胞を選別できるか検討した。このとき、トランスフェクションコントロールにはtagRFP mRNAを用いた。分化誘導後44日目のPAX3-GFP iPSCsにmiR-206-tagBFPスイッチをトランスフェクションしたところ、tagBFPとtagRFPの蛍光値の比が細胞集団で均一となっていた(
図2C左図)。一方、分化誘導78日目のPAX3-GFP iPSCsに対してトランスフェクションを行ったところ、tagBFPとtagRFPの蛍光値の比が変動し、細胞集団を分離できることが示された(
図2C右図)。以上より、分化誘導78日目の細胞集団において、miR206を発現する細胞が存在することが示唆された。
【0161】
同様に、MYF5-tdTomato C3 iPSCsにおいて、miR-206-tagBFPスイッチをトランスフェクションし、骨格筋系譜細胞を選別できるか検討を行った。このとき、トランスフェクションコントロールにはEGFP mRNAを用いた。分化誘導後55日目および88日目のMYF5-tdTomato C3 iPSCsにmiR-206-tagBFPスイッチをトランスフェクションしたところ、細胞集団が分かれていることが示唆された(
図2D)。
【0162】
以上の結果、PAX3-GFP iPSCsおよびMYF5-tdTomato C3 iPSCsから骨格筋前駆細胞へ分化誘導した細胞集団は、miR-206-tagBFPスイッチを用いることで細胞内のmiR-206の発現量に応じて細胞を選別できることが示唆された。
【0163】
骨格筋分化に関連するmiRNAとして報告されているmiRNA-1およびmiRNA-133(Care, A et al. 2007 Nature Medicine. PMID 17468766、Tatsuguchi, M et al. 2007 Journal of Molecular and Cellular Cardiology. PMID 17498736)、ならびに骨格筋幹細胞での発現が報告されているmiR-489(Cheung, T et al. 2012 Nature. PMID 22358842)およびmiRNA-708(Yamaguchi et al. 2012 J Mol Histol. PMID 22562803)のスイッチをそれぞれ作製し同様に細胞集団が分かれるか検証した(
図2Eおよび
図2F)。分化誘導78日目のPAX3-GFP iPSCsに対してmiRNA-1スイッチまたはmiRNA-133スイッチをトランスフェクションコントロール(tagRFP mRNA)と共にトランスフェクションしたところ、miR-206スイッチ同様に細胞集団が分かれることが示されたが(
図2E)、miR-206スイッチよりも応答性が低いことが示唆された。一方、分化誘導88日目のMYF5-tdTomato C3 iPSCsにmiR-489スイッチ、miR-708スイッチをトランスフェクションコントロール(EGFP mRNA)と共にトランスフェクションしたところ、スイッチに応答している集団は見られなかった(
図2F)。
【0164】
以上の結果から、miR-206、miRNA-1およびmiRNA-133を指標とすることで細胞集団から骨格筋系譜細胞を効率良く選別できることが示唆された。
【0165】
miR-206-tagBFPスイッチ応答性により分かれた2つの細胞集団に対してFACSを用いてソーティングにより単離し、qRT-PCRによって細胞を評価した。このとき、分化誘導84日目の PAX3-GFP iPSCsにmiR-206スイッチをトランスフェクションコントロールと共に導入し、miR-206-tagBFPスイッチへの応答性により2つの細胞集団(miR-206-tagBFPスイッチに応答した細胞集団(以下、miR-206+)およびmiR-206スイッチに応答しない細胞集団(以下、miR-206-))の選別を行った(
図3A)。
【0166】
同様に、MYF5-tdTomato C3 iPSCsの分化誘導87日目の細胞にmiR-206スイッチをトランスフェクションコントロールと共に導入し選別した(
図3B)。
【0167】
その結果、選別されたmiR-206+における骨格筋分化に関わる遺伝子、MYF5、MYOD1、MYOGENIN遺伝子の発現量がPAX3-GFP iPSCsおよびMYF5-tdTomato C3 iPSCsから骨格筋前駆細胞へ誘導された細胞集団において、miR-206-での発現量よりも増加していることが示された(
図3Cから
図3H)。
【0168】
以上の結果から、miR-206スイッチを用いることで、骨格筋系譜細胞を特異的に選別できることが示された。
【0169】
miR206+集団のなかに骨格筋前駆細胞が含まれているか検討するため、分化誘導後86日目のPAX3-GFP iPSCsにmiR-206スイッチをトランスフェクションコントロールと共に導入し、miR-206のスイッチの応答性により2つに分け、2つの細胞集団をさらにGFP陽性、陰性で分けて選別を行った(
図4Aおよび
図4B)。MYF5、MYOD1、MYOGENIN、PAX7の遺伝子の発現量が、miR-206+かつGFP陽性(P3ゲート、以下、miR-206+/PAX3+)とmiR-206+かつGFP陰性(P4ゲート、以下、miR-206+/PAX3-)においてmiR-206-かつGFP陽性(P6ゲート、以下、miR-206-/PAX3+)とmiR-206-かつGFP陰性(P7ゲート、以下、miR-206-/PAX3-)よりも増加していることが示された(
図4Cから
図4F)。
【0170】
次に、miR-206を発現している細胞を単離し(miR-206+画分)再播種後、骨格筋細胞に分化誘導されるか確認した(
図5Aおよび
図5E)。分化誘導95日目のMYF5-tdTomato細胞株をmiR-206スイッチで選別し、miR-206+画分と、miR-206スイッチにより選別された細胞以外の画分(miR-206-画分)をマトリゲルコートされた48 well plateに再播種し、8日間培養した。8日間、筋分化培地Aにて培養したwell(
図5Aおよび
図5B)と5日間筋分化培地Aにて培養した後、3日間筋分化培地Dにて培養したwell(
図5Cおよび
図5D)に分けて培養し、細胞の免疫染色を行った。miR-206+画分でMyosin Heavy Chain(以下MHC)タンパク質が発現していることが確認され(
図5Aおよび
図5C)、miR-206-画分ではMHCタンパク質の発現がわずかに見られた(
図5Bおよび
図5D)。染色された核に対するMHCの陽性率はmiR-206+集団で約60 %前後となり、一方でmiR-206-集団では約5 %前後となった(
図5E)。これらの結果から、miR-206+集団は、骨格筋細胞への分化能をもつ骨格筋系譜細胞を多く含んでいることが示唆され、またmiR-206-集団は骨格筋細胞への分化能を持たない細胞を多く含んでいることが示唆された。
【0171】
細胞移植治療を行う場合、ゲノム改変を行っていないiPS細胞を用いて分化誘導を行う必要がある。続いて、レポーターラインの細胞株だけでなく、疾患iPS細胞株、およびゲノム改変を行っていない201B7でも同様にmiR-206スイッチにより骨格筋系譜細胞を選別できるか検討した。疾患iPS細胞株 及び 201B7から誘導した細胞(それぞれ、誘導86日目および95日目)でも同様にmiR-206スイッチにより骨格筋系譜細胞を選別し(
図6AおよびB)、qRT-PCR解析を行い、骨格筋分化に関わる遺伝子の発現量を調べた(
図6Cから
図6H)。いずれのiPS細胞株においても、MYF5(
図6Cおよび
図6F)、MYOD1(
図6Dおよび
図6G)、MYOGENIN(
図6Eおよび
図6H)の発現量がmiR-206+で上昇していることが示された。以上の結果から、疾患iPS細胞株、201B7においても、miR-206スイッチにより骨格筋系譜細胞が選別でき、当該選別された骨格筋系譜細胞集団内に骨格筋前駆細胞が含まれることが示唆された。
【0172】
次に、骨格筋前駆細胞で認められるMYOD1およびPAX7の発現をタンパク質レベルでも確認するため、分化誘導した疾患iPS細胞株(誘導86日目)をmiR-206スイッチにより選別し、ソーティング後の細胞で免疫染色を行ったところ、miR-206+画分においてMYOD1およびPAX7の発現が確認された(
図7A)。さらに、miR-206+画分では、MYOD1およびPAX7の両タンパク質を発現している細胞が見られた(
図7C)。一方、miR-206-画分ではMYOD1の発現は見られず、PAX7の発現がわずかに見られた(
図7B)。以上より、miR-206スイッチで選別されたmiR-206陽性の骨格筋系譜細胞集団内に再生能力をもつ骨格筋前駆細胞が含まれる可能性が示唆された。