特許第6883807号(P6883807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6883807可撓性吸音材、吸音体、音響拡散体、および音処理体の吸音特性設計方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883807
(24)【登録日】2021年5月13日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】可撓性吸音材、吸音体、音響拡散体、および音処理体の吸音特性設計方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20210531BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20210531BHJP
   E04B 1/86 20060101ALI20210531BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   G10K11/16 120
   E04B1/82 M
   E04B1/86 U
   E04B1/86 K
   G10K11/172
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-42174(P2019-42174)
(22)【出願日】2019年3月8日
(65)【公開番号】特開2020-144295(P2020-144295A)
(43)【公開日】2020年9月10日
【審査請求日】2020年8月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年 7月20日東北大学において開催された一般社団法人日本建築学会第2018年度大会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月 7日名城大学において開催された日本音響学会東海支部主催の建築音響・騒音・振動関連若手研究発表会で発表
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517305702
【氏名又は名称】けせんプレカット事業協同組合
(73)【特許権者】
【識別番号】519082201
【氏名又は名称】新日本工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390036515
【氏名又は名称】株式会社鴻池組
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】泉田 十太郎
(72)【発明者】
【氏名】杉山 浩之
(72)【発明者】
【氏名】桂 充宏
(72)【発明者】
【氏名】植村 友昭
【審査官】 冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 実開平02−085709(JP,U)
【文献】 特開2013−250501(JP,A)
【文献】 中国実用新案第207568059(CN,U)
【文献】 特開平11−015476(JP,A)
【文献】 特開2018−053708(JP,A)
【文献】 特開2016−018211(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第108885863(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16−11/172
E04B 1/82
E04B 1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材の表裏面に表裏交互にかつ平行に溝が複数設けられており、表裏面の少なくとも一方に共鳴型の吸音特性を有する共鳴型吸音構造が設けられており、
該共鳴型吸音構造が、一方面側において該溝と交差する方向に設けられた複数の切り込み部であることを特徴とする、可撓性吸音材。
【請求項2】
前記切り込み部の深さ寸法が、下記<A>に示す板底厚さ寸法よりも大きく、それにより該切り込み部の箇所には表裏面を連通する開口部が形成されていることを特徴とする、請求項に記載の可撓性吸音材。
<A> 板底厚さ = 板の厚さ ― 切り込み部と反対面の溝の深さ
【請求項3】
前記切り込み部が前記溝に直交して設けられていることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載の可撓性吸音材。
【請求項4】
前記板材が木質系であることを特徴とする、請求項1、2、3のいずれかに記載の可撓性吸音材。
【請求項5】
前記溝の構造および共鳴型吸音構造により、木の備える調湿作用および香り発散作用が高められていることを特徴とする、請求項に記載の可撓性吸音材。
【請求項6】
前記板材の材料が下記<C>のいずれかであることを特徴とする、請求項4または5に記載の可撓性吸音材。
<C> スギ、アオモリヒバ、ヒノキ、カラマツ、アカマツ、針葉樹(スギ、アオモリヒバ、ヒノキ、カラマツまたはアカマツを除く。)
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5、6のいずれかに記載の可撓性吸音材を用いて形成されていることを特徴とする、吸音体。
【請求項8】
曲面をもって形成されていることを特徴とする、請求項に記載の吸音体。
【請求項9】
前記可撓性吸音材の共鳴型吸音構造が設けられた面側に多孔質吸音材が設けられていることを特徴とする、請求項7または8に記載の吸音体。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6のいずれかに記載の可撓性吸音材を用いて形成されていることを特徴とする、音響拡散体。
【請求項11】
前記可撓性吸音材の共鳴型吸音構造が設けられた面側に多孔質吸音材が設けられていることを特徴とする、請求項10に記載の音響拡散体。
【請求項12】
請求項7、8、9のいずれかに記載の吸音体、または請求項10、11のいずれかに記載の音響拡散体(以下、合わせて「音処理体」ともいう)における吸音特性を設計する方法であって、下記<P>記載の少なくともいずれかを変化させることを特徴とする、音処理体の吸音特性設計方法。
<P> 前記可撓性吸音材の板厚、開口率(前記開口部が該可撓性吸音材の表面面積に占める割合)、空気層厚さ(前記多孔質吸音材の厚さを含む)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可撓性吸音材、吸音体、音響拡散体、および音処理体の吸音特性設計方法に係り、特に木材を利用した吸音材等に関する。
【背景技術】
【0002】
平成22年に施行された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」により、公共建築物を中心に木質内装化が進められている。木材を利用する動きは活発であり、自治体の助成を得て保育園の音響改修を行った事例もみられる(後記非特許文献1)。公共施設では、用途に応じた音響性能が要求されることもあり、これまでにも木材を利用した吸音材料の開発例(後記非特許文献2)がみられる。
【0003】
また、木材を用いた吸音材については特許出願等による技術的提案もなされている。たとえば後記特許文献1には共鳴を利用した簡易な構造の吸音パネルとして、平板と波板を重ね合わせた吸音パネルとし、これにより形成される管共鳴を生じる複数の空洞には、平板側から開口部を設ける構成が開示されている。そして、波板側を天井や壁といった固定対象に固定して用いることで、簡素化した構成の吸音パネルを提供可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−30431号公報「吸音パネルおよび音響室並びに室内音響特性調整方法」
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】川井ら,“保育室内の吸音による喧噪感の緩和−地元産木材を利用した吸音材による音響改修事例−”,日本建築学会大会学術講演梗概集pp.117−118(2012.9)
【非特許文献2】末吉ら,“木質スリットパネルの吸音特性”,木材学会誌59,(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように従来、木材を利用した吸音材料の開発例は複数認められる。しかし、それらはいずれも変形させることのできない固定した形状のものであり、たとえば湾曲した壁面に対応して設置可能なように、変形して曲面を形成できる程度の可撓性を有する吸音材は、従来存在しない。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の状況を踏まえ、変形により曲面を形成できる程度の可撓性を有する吸音材を提供することである。また、特に、かかる吸音材として、木製の吸音材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題について検討した結果、板材の両面に溝を交互に設けることで可撓性をもたせた化粧材を用いることを、まず想到した。しかし、この種の板材は板振動型の吸音特性を有するが、中高音域における吸音効果はさほど期待できない。そこで、この板材の一方面に、溝と直交する第二の溝(切り込み)を等間隔で設けることにより、ヘルムホルツ共鳴器型の吸音特性をもつ木質系吸音材を試作した。その結果、かかる構成によって課題を解決できることを見出し、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0009】
〔1〕 板材の表裏面に表裏交互にかつ平行に溝が複数設けられており、表裏面の少なくとも一方に共鳴型の吸音特性を有する共鳴型吸音構造が設けられており、該共鳴型吸音構造が、一方面側において該溝と交差する方向に設けられた複数の切り込み部であることを特徴とする、可撓性吸音材。
〕 前記切り込み部の深さ寸法が、下記<A>に示す板底厚さ寸法よりも大きく、それにより該切り込み部の箇所には表裏面を連通する開口部が形成されていることを特徴とする、〔〕に記載の可撓性吸音材。
<A> 板底厚さ = 板の厚さ ― 切り込み部と反対面の溝の深さ
〕 前記切り込み部が前記溝に直交して設けられていることを特徴とする、〔〕、〔〕のいずれかに記載の可撓性吸音材。
〕 前記板材が木質系であることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載の可撓性吸音材。
【0010】
〕 前記溝の構造および共鳴型吸音構造により、木の備える調湿作用および香り発散作用が高められていることを特徴とする、〔〕に記載の可撓性吸音材。
〕 前記板材の材料が下記<C>のいずれかであることを特徴とする、〔〕または〔〕に記載の可撓性吸音材。
<C> スギ、アオモリヒバ、ヒノキ、カラマツ、アカマツ、針葉樹(スギ、アオモリヒバ、ヒノキ、カラマツまたはアカマツを除く。)
〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕のいずれかに記載の可撓性吸音材を用いて形成されていることを特徴とする、吸音体。
〕 曲面をもって形成されていることを特徴とする、〔〕に記載の吸音体。
〕 前記可撓性吸音材の共鳴型吸音構造が設けられた面側に多孔質吸音材が設けられていることを特徴とする、〔〕または〔〕に記載の吸音体。
【0011】
10〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕のいずれかに記載の可撓性吸音材を用いて形成されていることを特徴とする、音響拡散体。
11〕 前記可撓性吸音材の共鳴型吸音構造が設けられた面側に多孔質吸音材が設けられていることを特徴とする、〔10〕に記載の音響拡散体。
12〔7〕、〔8〕、〔9〕のいずれかに記載の吸音体、または〔10〕、〔11〕のいずれかに記載の音響拡散体(以下、合わせて「音処理体」ともいう)における吸音特性を設計する方法であって、下記<P>記載の少なくともいずれかを変化させることを特徴とする、音処理体の吸音特性設計方法。
<P> 前記可撓性吸音材の板厚、開口率(前記開口部が該可撓性吸音材の表面面積に占める割合)、空気層厚さ(前記多孔質吸音材の厚さを含む)
【発明の効果】
【0012】
本発明の可撓性吸音材、吸音体、音響拡散体、および音処理体の吸音特性設計方法は上述のように構成されるため、これらによれば、変形により曲面を形成できる程度の可撓性を有する吸音材を提供することができる。特に、かかる吸音材として木製の吸音材を提供することができる。本発明の可撓性吸音材は、曲面状態では250Hzから1000Hzの幅広い帯域で吸音性を有し、人の話し声の周波数を効率的に吸音することができる。
【0013】
また、本発明の可撓性吸音材は、その可撓性によって曲面を任意の曲率で作ることができるため、吸音体のみならず音響拡散体としても利用でき、拡散と吸音の両方の効果を得られる。さらに、本発明の音処理体の吸音特性設計方法によれば、板材の断面条件等を調節することによって様々な吸音特性の音処理体(吸音体や音響拡散体)を設計することができ、用途・環境などにより良く対応した音処理体を提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1-1】本発明可撓性吸音材の基本材の構成例を示す説明図である。
図1-2】図1−1に示す構成例の写真図である。
図1-3】本発明可撓性吸音材の構成例の要部斜視図である。
図1-4】本発明可撓性吸音材の構成例の斜視写真図である。
図1-5】本発明可撓性吸音材の構成例の正面視写真図である。(以下は、実施例に係る図面である。なお実施例においては、「可撓性吸音材」を「木質系吸音材」としている。)
図2-1】本発明木質系吸音材の試験体(平面状態)の試験条件を示す説明図である。
図2-2】図2−1に係る吸音率測定試験に用いた試験体の構成を示す断面図である。
図2-3】図2−2に示す試験体の吸音率測定結果を示すグラフである。
図3-1】本発明木質系吸音材の試験体(曲面状態)の試験条件を示す説明図である。
図3-2】図3−1に係る吸音率測定試験に用いた試験体の構成を示す断面図である。
図3-3】図3−2に示す試験体の吸音率測定結果を示すグラフである。
図4】本発明木質系吸音材の試験体(断面条件検討全般)の試験条件を示す説明図である。
図5-1】吸音率測定試験(空気層条件)に用いた試験体の構成を示す断面図である。
図5-2】図5−1に示す試験体の吸音率測定結果を示すグラフである。
図6-1】吸音率測定試験(開口率条件)に用いた試験体の構成を示す断面図である。
図6-2】図6−1に示す試験体の吸音率測定結果を示すグラフである。
図7-1】吸音率測定試験(板厚条件)に用いた試験体の構成を示す断面図である。
図7-2】図7−1に示す試験体の吸音率測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1−1は本発明可撓性吸音材の基本材の構成例を示す説明図、図1−2は図1−1に示す構成例の写真図である。また、
図1−3は本発明可撓性吸音材の構成例の要部斜視図、図1−4は同じく斜視写真図、図1−5は正面視写真図である。なお図1−1は、基本材の平面図(a)、側面図(b)、正面図(c)により構成されている。また図1−2は斜視写真(a)、可撓性示す写真(b)から構成されている。これらに示すように本可撓性吸音材5は、板材1の表裏面に、表裏交互に、かつ平行に溝2が複数設けられており、表裏面の少なくとも一方に共鳴型の吸音特性を有する共鳴型吸音構造3が設けられていることを、主たる構成とする。
【0016】
すなわち本発明可撓性吸音材5は、板材1の表裏面に所定の形態による複数の溝2が設けられてなる基本材0(図1−1等)の一方面に、共鳴型吸音構造3が設けられて構成されている。基本材0は、図1−2に示すように手で簡単に、かつ任意の曲率で撓ませることができる(図1−2中、(b))。基本材0のままでは中高音域における高い吸音効果が期待できないが、本発明可撓性吸音材5の構成では共鳴型吸音構造3を備えるために、ヘルムホルツ共鳴器型の吸音特性が得られる。
【0017】
空洞に孔が開いた形態であるヘルムホルツ共鳴器型では、共鳴型吸音構造に音が当たることによって共鳴周波数の近くで孔の部分の空気が激しく振動し、音は周辺との摩擦熱として消費される。そのため、その共鳴周波数において非常に大きな吸音率になるという吸音特性を有する。本可撓性吸音材5では、中高音域における高い吸音効果を得ることができる。特に曲面状態では、250Hzから1000Hzの幅広い帯域で吸音性を有するため、人の話し声の周波数を効率的に吸音することができる。
【0018】
図1−2等に示す通り本可撓性吸音材5の基本材0は、表裏面に設けられた複数の溝3による矩形波的な形態により、可撓性を備える。しかも、曲面を任意の曲率で形成できるため、吸音体としても音響拡散体としても利用できる。さらに本可撓性吸音材5は、曲面にて形成される壁面等にも自在に適用することができるため、良好な吸音特性を有する吸音材の適用範囲・対象を広げることができる。
【0019】
なお、溝2の形態は図示するように、その断面(側面)が一定形状かつ一定サイズの長方形であるようにすることが望ましい。同一形態の溝が表裏面F、Rそれぞれに平行して、かつ互い違いに設けられる構成とすることにより、人の手で容易にかつ任意の曲率で折り曲げて曲面化可能な可撓性を備えることができる。
【0020】
基本材0を示す図1−2等、可撓性吸音材5を示す図1−4の通り、板材1としては木質系の材料、殊に木材を好適に用いることができる。これについてはさらに後述する。なお、木材以外の木質系材料としてはたとえば、木粉の成型材等を挙げることができる。
【0021】
本可撓性吸音材5の共鳴型吸音構造3は具体的には、一方面側において溝2と交差する方向に設けられた複数の切り込み部3にて形成することができる。この切り込み部3は、溝2に対して直交して設けるものとすることができる。切り込み部3の形状は、図1−4に示すように断面が任意の矩形の溝状とすることができる。本発明がそれに限定されるものではないが、かかる形状により十分な作用効果を得られる上、製造も容易であるため、好適である。なお、共鳴型吸音構造を構成するための孔の機能を、切り込み部3が奏する。
【0022】
切り込み部3の深さ寸法は、下記<A>に示す板底厚さ寸法よりも大きくし、 <A> 板底厚さ = 板の厚さ ― 切り込み部3と反対面の溝2の深さ
それにより本可撓性吸音材5は、図1−5に示すように、切り込み部3の箇所に表裏面を連通する開口部4が形成された構成とすることができる。かかる構成によって、ヘルムホルツ共鳴器型の吸音特性をより十全に得ることができる。
【0023】
本可撓性吸音材5は木質製とすることができるのは上述の通りだが、溝2の有するジグザグ形態、および共鳴型吸音構造(切り込み部)3の有する凹状形態やそれによる開口部4の開口形態は、表面積を増大させる形態でもある。これによって、木質系材料の備える調湿作用や香り発散作用を高めることができる。調質作用や香り発散作用は、建物の内装材として有利な特質であり、望ましい。かかる効果は、板材1として木材を用いることによって、より良好に得ることができる。
【0024】
板材1の材料としては木材が好適であり、樹種としては広葉樹も用いることができるが、下記<C>に挙げた針葉樹種は特に好適に用いることができる。
<C> スギ、アオモリヒバ、ヒノキ、カラマツ、アカマツ、その他の針葉樹
このうちスギには、下記の特長がある。
1)素材が非常に柔らかい。
2)他樹種よりも調湿効果に優れる。
3)空気浄化作用に優れる。
4)断熱効果に優れる。
5)素材の柔らかさによる優美さがあり、また、目にも優しい。
【0025】
また、アオモリヒバには下記の特長がある。
1)表面積が大きいため、発散される香りが多く、精神安定作用が大きい。
2)抗菌作用がある(菌を寄せ付けない)。
3)防虫作用があり、シロアリ、ダニ、ノミ、ゴキブリ、蚊等に対する忌避(除虫)効果がある。
4)消臭作用があり、環境中の嫌なにおいを消す。
【0026】
なお、スギ、アオモリヒバの特長として挙げた点は、これらを含む針葉樹全般においてもある程度は該当するが、スギ、アオモリヒバにおける特に優れた効果を挙げたものである。
【0027】
以上説明したいずれかの本発明可撓性吸音材5を用いて形成される吸音体や音響拡散体もまた本発明の範囲内であり、いずれも曲面をもって形成されているものとすることができる。また、吸音体、音響拡散体のいずれにおいても、その共鳴型吸音構造(切り込み部)が設けられた面側に、多孔質吸音材が設けられている構成とすることができる。多孔質吸音材としては、たとえばグラスウール等の従来公知のものを適宜用いることができる。
【0028】
なお、以上説明したいずれかの吸音体、または音響拡散体(合わせて「音処理体」)における吸音特性を設計する方法であって、
<P> 前記可撓性吸音材の板厚、開口率(前記開口部が該可撓性吸音材の表面面積に占める割合)、空気層厚さ(前記多孔質吸音材の厚さを含む)
の少なくともいずれかを変化させることによって音処理体の吸音特性を設計する方法もまた、本発明の範囲内である。これによれば、板材の断面条件等を適宜に調節することによって、様々な吸音特性の音処理体を設計することができる。すなわち、用途・環境などにより良く対応した音処理体を提供することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が、数値や仕様を初めとする実施例に限定されるものではない。なお、本発明完成に至る実験経過の概要をもって実施例とする。
<実施例1 可撓性木質系吸音材の吸音特性に関する実験>
1.−1 目的
可撓性を有する化粧材に通気性をもたせた木質系吸音材を試作し、多孔質吸音材との組み合わせ、空気層厚さ、および断面形状(平面か曲面か)による吸音特性の違いを解明することを目的として、実験を行った。
【0030】
1.−2 試験体の概要
前掲図1−1、1−2に示した基本材を用いた。これは木質板材料に加工を施したものであり、具体的には、幅3mmの溝を板材の表裏面交互に設けることで可撓性を持たせた化粧材である。この種の板材は板振動型の吸音特性のため、中高音域における高い吸音効果は期待できない。そこで、前掲図1−3に示すように、溝の直交方向に幅20mm、高さ5mmの切込みを、40mm 間隔で入れることにより、ヘルムホルツ共鳴器型の吸音特性をもつ試験体(以下「木質系吸音材」とする)を製作した。
【0031】
スリットの場合におけるヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数は、空気層が波長λに比して小さい場合、L<λ/16 を仮定し、下記式(1)のように表される。ただし、cは空気中の音速、tはネック長、Lは背後空気層の厚さ、Pは開口率である。また、開口端補正値δはスリット幅bとの間で、δ=Kb の関係にあり、Kは下記式(2)のように与えられる。aはスリットの高さである。
【0032】
【数1】
【0033】
【数2】
【0034】
1.−3 木質系吸音材の吸音特性
1.−3−(1) 測定方法
吸音率は、残響室(室容積100m、室表面積133m)において、残響室法吸音率測定方法により求めた。また、試料面積は5.28m(2m×2.64m)とした。
【0035】
1.−3−(2) 平面状態での測定結果
木質系吸音材の基本的な吸音特性を把握するため、まず、平面状態での切込みの有無、および空気層厚さによる吸音特性を比較検討した。
図2−1は、本発明木質系吸音材の試験体(平面状態)の試験条件を示す説明図であり、試験体の断面条件をまとめた表と切り込み部の断面図とからなる。また、図2−2は、吸音率測定試験に用いた各試験体(No.1〜4)の構成を示す断面図である。これらに示すように本試験では、切り込み部の有無、空気層の厚さ(木質系吸音材から設置面までの距離(25mm、50mm)、および空気層における多孔質吸音材(グラスウール)の有無の各条件より、No.1〜4の計4点につき試験した。なお、用いたグラスウールの質量は24kg/mである。
【0036】
図2−3は、各試験体(平面状態)の吸音率測定結果を示すグラフである。図中に示したfは、前掲式(1)において、開口率P=12.5%、ネック長t=20mmの場合の共鳴周波数計算値である(以下の各図でも同様)。図示するように、背後空気層(背後吸音層)としてグラスウール(GW)を挿入し、その厚さを50mmとした試験体No.4の測定結果は、400Hzに吸音率のピークが現れた。また、GW厚を25mmとした試験体No.3では、800Hzにピークがみられた。一方、背後空気層にGWを設けなかった試験体No.1、2の吸音率は低く、0.5以下であった。
【0037】
吸音率は、0.5以上であれば吸音材としての利用価値があるとされている。図示するように、GWを挿入した2つの木質系吸音材(試験体No.3、4)は吸音率0.5以上の周波数帯域がある。したがってこれらについては吸音材たる条件を満たしており、吸音材としての利用が可能と考えられた。なお、これら本発明木質系吸音材を用いたNo.3、4の吸音率が、低中音域におけるGW単独使用の場合の吸音率を上回っていることは確認済みである。なお、切り込み部無しの試験体No.1では250Hzに吸音のピークが見られるが、これは、板振動型の吸音特性が現れたものと考えられる。
【0038】
1.−3−(3) 曲面状態での測定結果
平面状態での試験結果を踏まえ、次に、木質系吸音材と多孔質吸音材(GW)とを組み合わせた試験体により、曲面状態での吸音特性の測定を行った。
図3−1は、本発明木質系吸音材の試験体(曲面状態)の試験条件を示す説明図であり、試験体の曲率・断面条件をまとめた表と吸音材設置状況を示す斜視図とからなる。また、図3−2は、吸音率測定試験に用いた各試験体(No.5〜10)の構成を示す断面図である。これらに示すように本試験では、曲面の曲率の大きさ(大・中・小の3段階)、および背後吸音層として設けるGWの厚さ(25mm、50mm)の各条件より、No.5〜10の計6点につき試験した。また、GWは木質系吸音材の背後に接した状態に設けた。試料面積は、平面状態での試験と同様の5.28mとした。なお、試験体の両側面は塞いだ状態とした。
【0039】
図3−3は、各試験体(曲面状態)の吸音率測定結果を示すグラフである。図2−3に示した平面状態の試験体No.4と比較すると、本試験の試験体No.5〜10はいずれも、250〜1000Hzの周波数帯域すなわち中高音域の範囲で、ほぼ同レベルの吸音率が幅広い周波数帯域に亘って示され、幅広い吸音特性を有していることが確認された。これは、木質系吸音材が曲面を構成していることによって、背後空気層の厚さが平面の場合よりも増したことによるものと考えられる。
【0040】
GW厚の比較では、曲率の大小に関わらず、より厚さのある50mmの方が25mmよりも吸音率が大きかった。GWは、背後空気層において抵抗として作用するが、かかる抵抗の大きい方が、つまり挿入されるGWは、厚くする方が吸音率を高められることが確認できた。一方、曲率半径1400mm(曲率大)、1800mm(曲率中)、2200mm(曲率大)の範囲での曲率による吸音率の差は、800Hz以下で多少見られるものの、顕著な違いは認められなかった。
【0041】
GWのような多孔質吸音材単体では一般に、高音域で吸音率が高く、低中音域では低い。そのため、多孔質吸音材のみでは、人の話し声を効率的に吸音することが難しい。しかし、本発明の木質系吸音材を併せ用いることとし、その断面条件を調節することによって、低中音域にあたる250〜1000Hz帯域における有効な吸音対策となり得ることが示唆された。
【0042】
1.−3−(4) まとめ
可撓性を有する化粧材に切り込み部を設け、それによって通気性を持たせることにより、ヘルムホルツ共鳴器型の吸音特性を備えた木質系吸音材とすることができた。本発明の木質系吸音材は、その背後空気層にグラスウールを挿入することで吸音体を形成できるため、吸音材として利用できることが確認された。
【0043】
また曲面状態では、250〜1000Hzの幅広い帯域で吸音性を有し、人の話し声の周波数を効率的に吸音できることが明らかとなった。さらに本吸音材は、その曲面を任意の曲率で形成できるため、音響拡散体としても利用することができる。すなわち本吸音材によれば、拡散と吸音の両方の効果を得ることができる。
【0044】
<実施例2 可撓性木質系吸音材の吸音特性_曲率および断面条件の試験>
2.−1 目的
実施例1の木質系吸音材について、さらに詳細な検討を行った。具体的には、断面条件(切り込み部寸法、空気層)の違いによる吸音特性の差異を確かめることを目的として、実験を行った。
2.−2 試験体の概要
試験体は、実施例1と同様に製作した。用いたGWも同様であり、25mmを背後吸音層として木質系吸音材の背後に挿入した。なお本試験は、木質系吸音材を平面状態にして行った。
【0045】
2.−3 木質系吸音材の吸音特性
2.−3−(1) 測定方法
吸音率測定方法等も、実施例1と同様とした。
【0046】
2.−3−(2) 吸音率測定試験(空気層条件)の測定結果
図4は、本発明木質系吸音材の試験体(断面条件検討全般)の試験条件を示す説明図であり、試験体の断面条件をまとめた表と切り込み部の斜視図とからなる。ここに示すように本試験では、空気層(GW表面から設置面までの距離)、木質系吸音材の板厚(基本材とする木質板材料の厚さ)、および開口率(切り込み部により形成される開口部の面積割合)の各条件により、試験を行った。以下、順に説明する。
【0047】
図5−1は、吸音率測定試験(空気層条件)に用いた各試験体の構成を示す断面図である。ここに示すように本試験では、板厚20mm、開口率12.5%を共通とし、空気層を25、50、100mmに変えて試験した。
【0048】
図5−2は、図5−1に示す各試験体の吸音率測定結果を示すグラフである。図示するように、いずれの試験体も、300〜1000Hzの帯域において吸音率0.5以上を示し、吸音材として利用可能であることが確認された。また、吸音率のピークは、空気層25mmでは800Hz、50mmでは500Hz、100mmでは400Hzであった。ピーク形状がほぼ類似することもあり、さほどの差ではないと考えられるものの、空気層厚さによる吸音特性の違いは、吸音体や音響拡散体の設計検討において十分考慮に値することが示された。
【0049】
図6−1は、吸音率測定試験(開口率条件)に用いた試験体の構成を示す断面図である。ここに示すように本試験では、板厚20mm、空気層50mmを共通とし、開口率を18.8%、12.5%、4.7%に変えて試験した。
【0050】
図6−2は、図6−1に示す試験体の吸音率測定結果を示すグラフである。なお、図中に示した共鳴周波数の計算値fは、ここでは各試験体の開口率を用いて算出されている。図示するように、いずれの試験体も、300〜800Hzの帯域において吸音率0.5以上を示し、吸音材として利用可能であることが確認された。
【0051】
より詳細に見ると、開口率18.8%および12.5%の試験体では吸音率のピークが500〜600Hz、吸音率0.5以上の帯域が300〜1000Hzであり、一方、開口率4.7%の試験体では吸音率のピークが400Hz、吸音率0.5以上の帯域が250〜800Hzであった。つまり、開口率4.7%の試験体は他の試験体と比較して、吸音ピークがより低音側にずれていることがわかった。したがって、開口率による吸音特性の違いは、吸音体や音響拡散体の設計検討において十分考慮に値することが示された。
【0052】
図7−1は、吸音率測定試験(板厚条件)に用いた試験体の構成を示す断面図である。ここに示すように本試験では、開口率12.5%、空気層50mmを共通とし、板厚を20mm、30mmに変えて試験した。
【0053】
図7−2は、図7−1に示す試験体の吸音率測定結果を示すグラフである。図示するように、いずれの試験体も、300〜1000Hzの帯域において吸音率0.5以上を示し、吸音材として利用可能であることが確認された。板厚20mmの試験体では吸音ピークが600Hz、一方30mmの試験体では400Hzであり、後者がやや低音側にずれる吸音特性である傾向、あるいは前者がより広帯域の吸音特性を有する傾向がうかがえた。いずれにせよ板厚による吸音特性の違いも、吸音体や音響拡散体の設計検討において考慮し得ることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の可撓性吸音材、吸音体、音響拡散体、および音処理体の吸音特性設計方法によれば、変形により曲面を形成できる程度の可撓性を有する木製の吸音材を提供することができる。また、曲面を任意の曲率で作れるため、吸音体のみならず音響拡散体としても利用できる。さらに、様々な吸音特性の音処理体(吸音体や音響拡散体)を設計できる。したがって、木工分野、内装建材製造・利用分野、および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0055】
0…基本材
1…板材
2…溝
3…共鳴型吸音構造(切り込み部)
4…開口部
5…可撓性吸音材
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】