【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が、数値や仕様を初めとする実施例に限定されるものではない。なお、本発明完成に至る実験経過の概要をもって実施例とする。
<実施例1 可撓性木質系吸音材の吸音特性に関する実験>
1.−1 目的
可撓性を有する化粧材に通気性をもたせた木質系吸音材を試作し、多孔質吸音材との組み合わせ、空気層厚さ、および断面形状(平面か曲面か)による吸音特性の違いを解明することを目的として、実験を行った。
【0030】
1.−2 試験体の概要
前掲
図1−1、1−2に示した基本材を用いた。これは木質板材料に加工を施したものであり、具体的には、幅3mmの溝を板材の表裏面交互に設けることで可撓性を持たせた化粧材である。この種の板材は板振動型の吸音特性のため、中高音域における高い吸音効果は期待できない。そこで、前掲
図1−3に示すように、溝の直交方向に幅20mm、高さ5mmの切込みを、40mm 間隔で入れることにより、ヘルムホルツ共鳴器型の吸音特性をもつ試験体(以下「木質系吸音材」とする)を製作した。
【0031】
スリットの場合におけるヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数は、空気層が波長λに比して小さい場合、L<λ/16 を仮定し、下記式(1)のように表される。ただし、cは空気中の音速、tはネック長、Lは背後空気層の厚さ、Pは開口率である。また、開口端補正値δはスリット幅bとの間で、δ=Kb の関係にあり、Kは下記式(2)のように与えられる。aはスリットの高さである。
【0032】
【数1】
【0033】
【数2】
【0034】
1.−3 木質系吸音材の吸音特性
1.−3−(1) 測定方法
吸音率は、残響室(室容積100m
3、室表面積133m
2)において、残響室法吸音率測定方法により求めた。また、試料面積は5.28m
2(2m×2.64m)とした。
【0035】
1.−3−(2) 平面状態での測定結果
木質系吸音材の基本的な吸音特性を把握するため、まず、平面状態での切込みの有無、および空気層厚さによる吸音特性を比較検討した。
図2−1は、本発明木質系吸音材の試験体(平面状態)の試験条件を示す説明図であり、試験体の断面条件をまとめた表と切り込み部の断面図とからなる。また、
図2−2は、吸音率測定試験に用いた各試験体(No.1〜4)の構成を示す断面図である。これらに示すように本試験では、切り込み部の有無、空気層の厚さ(木質系吸音材から設置面までの距離(25mm、50mm)、および空気層における多孔質吸音材(グラスウール)の有無の各条件より、No.1〜4の計4点につき試験した。なお、用いたグラスウールの質量は24kg/m
3である。
【0036】
図2−3は、各試験体(平面状態)の吸音率測定結果を示すグラフである。図中に示したf
0は、前掲式(1)において、開口率P=12.5%、ネック長t=20mmの場合の共鳴周波数計算値である(以下の各図でも同様)。図示するように、背後空気層(背後吸音層)としてグラスウール(GW)を挿入し、その厚さを50mmとした試験体No.4の測定結果は、400Hzに吸音率のピークが現れた。また、GW厚を25mmとした試験体No.3では、800Hzにピークがみられた。一方、背後空気層にGWを設けなかった試験体No.1、2の吸音率は低く、0.5以下であった。
【0037】
吸音率は、0.5以上であれば吸音材としての利用価値があるとされている。図示するように、GWを挿入した2つの木質系吸音材(試験体No.3、4)は吸音率0.5以上の周波数帯域がある。したがってこれらについては吸音材たる条件を満たしており、吸音材としての利用が可能と考えられた。なお、これら本発明木質系吸音材を用いたNo.3、4の吸音率が、低中音域におけるGW単独使用の場合の吸音率を上回っていることは確認済みである。なお、切り込み部無しの試験体No.1では250Hzに吸音のピークが見られるが、これは、板振動型の吸音特性が現れたものと考えられる。
【0038】
1.−3−(3) 曲面状態での測定結果
平面状態での試験結果を踏まえ、次に、木質系吸音材と多孔質吸音材(GW)とを組み合わせた試験体により、曲面状態での吸音特性の測定を行った。
図3−1は、本発明木質系吸音材の試験体(曲面状態)の試験条件を示す説明図であり、試験体の曲率・断面条件をまとめた表と吸音材設置状況を示す斜視図とからなる。また、
図3−2は、吸音率測定試験に用いた各試験体(No.5〜10)の構成を示す断面図である。これらに示すように本試験では、曲面の曲率の大きさ(大・中・小の3段階)、および背後吸音層として設けるGWの厚さ(25mm、50mm)の各条件より、No.5〜10の計6点につき試験した。また、GWは木質系吸音材の背後に接した状態に設けた。試料面積は、平面状態での試験と同様の5.28m
2とした。なお、試験体の両側面は塞いだ状態とした。
【0039】
図3−3は、各試験体(曲面状態)の吸音率測定結果を示すグラフである。
図2−3に示した平面状態の試験体No.4と比較すると、本試験の試験体No.5〜10はいずれも、250〜1000Hzの周波数帯域すなわち中高音域の範囲で、ほぼ同レベルの吸音率が幅広い周波数帯域に亘って示され、幅広い吸音特性を有していることが確認された。これは、木質系吸音材が曲面を構成していることによって、背後空気層の厚さが平面の場合よりも増したことによるものと考えられる。
【0040】
GW厚の比較では、曲率の大小に関わらず、より厚さのある50mmの方が25mmよりも吸音率が大きかった。GWは、背後空気層において抵抗として作用するが、かかる抵抗の大きい方が、つまり挿入されるGWは、厚くする方が吸音率を高められることが確認できた。一方、曲率半径1400mm(曲率大)、1800mm(曲率中)、2200mm(曲率大)の範囲での曲率による吸音率の差は、800Hz以下で多少見られるものの、顕著な違いは認められなかった。
【0041】
GWのような多孔質吸音材単体では一般に、高音域で吸音率が高く、低中音域では低い。そのため、多孔質吸音材のみでは、人の話し声を効率的に吸音することが難しい。しかし、本発明の木質系吸音材を併せ用いることとし、その断面条件を調節することによって、低中音域にあたる250〜1000Hz帯域における有効な吸音対策となり得ることが示唆された。
【0042】
1.−3−(4) まとめ
可撓性を有する化粧材に切り込み部を設け、それによって通気性を持たせることにより、ヘルムホルツ共鳴器型の吸音特性を備えた木質系吸音材とすることができた。本発明の木質系吸音材は、その背後空気層にグラスウールを挿入することで吸音体を形成できるため、吸音材として利用できることが確認された。
【0043】
また曲面状態では、250〜1000Hzの幅広い帯域で吸音性を有し、人の話し声の周波数を効率的に吸音できることが明らかとなった。さらに本吸音材は、その曲面を任意の曲率で形成できるため、音響拡散体としても利用することができる。すなわち本吸音材によれば、拡散と吸音の両方の効果を得ることができる。
【0044】
<実施例2 可撓性木質系吸音材の吸音特性_曲率および断面条件の試験>
2.−1 目的
実施例1の木質系吸音材について、さらに詳細な検討を行った。具体的には、断面条件(切り込み部寸法、空気層)の違いによる吸音特性の差異を確かめることを目的として、実験を行った。
2.−2 試験体の概要
試験体は、実施例1と同様に製作した。用いたGWも同様であり、25mmを背後吸音層として木質系吸音材の背後に挿入した。なお本試験は、木質系吸音材を平面状態にして行った。
【0045】
2.−3 木質系吸音材の吸音特性
2.−3−(1) 測定方法
吸音率測定方法等も、実施例1と同様とした。
【0046】
2.−3−(2) 吸音率測定試験(空気層条件)の測定結果
図4は、本発明木質系吸音材の試験体(断面条件検討全般)の試験条件を示す説明図であり、試験体の断面条件をまとめた表と切り込み部の斜視図とからなる。ここに示すように本試験では、空気層(GW表面から設置面までの距離)、木質系吸音材の板厚(基本材とする木質板材料の厚さ)、および開口率(切り込み部により形成される開口部の面積割合)の各条件により、試験を行った。以下、順に説明する。
【0047】
図5−1は、吸音率測定試験(空気層条件)に用いた各試験体の構成を示す断面図である。ここに示すように本試験では、板厚20mm、開口率12.5%を共通とし、空気層を25、50、100mmに変えて試験した。
【0048】
図5−2は、
図5−1に示す各試験体の吸音率測定結果を示すグラフである。図示するように、いずれの試験体も、300〜1000Hzの帯域において吸音率0.5以上を示し、吸音材として利用可能であることが確認された。また、吸音率のピークは、空気層25mmでは800Hz、50mmでは500Hz、100mmでは400Hzであった。ピーク形状がほぼ類似することもあり、さほどの差ではないと考えられるものの、空気層厚さによる吸音特性の違いは、吸音体や音響拡散体の設計検討において十分考慮に値することが示された。
【0049】
図6−1は、吸音率測定試験(開口率条件)に用いた試験体の構成を示す断面図である。ここに示すように本試験では、板厚20mm、空気層50mmを共通とし、開口率を18.8%、12.5%、4.7%に変えて試験した。
【0050】
図6−2は、
図6−1に示す試験体の吸音率測定結果を示すグラフである。なお、図中に示した共鳴周波数の計算値f
0は、ここでは各試験体の開口率を用いて算出されている。図示するように、いずれの試験体も、300〜800Hzの帯域において吸音率0.5以上を示し、吸音材として利用可能であることが確認された。
【0051】
より詳細に見ると、開口率18.8%および12.5%の試験体では吸音率のピークが500〜600Hz、吸音率0.5以上の帯域が300〜1000Hzであり、一方、開口率4.7%の試験体では吸音率のピークが400Hz、吸音率0.5以上の帯域が250〜800Hzであった。つまり、開口率4.7%の試験体は他の試験体と比較して、吸音ピークがより低音側にずれていることがわかった。したがって、開口率による吸音特性の違いは、吸音体や音響拡散体の設計検討において十分考慮に値することが示された。
【0052】
図7−1は、吸音率測定試験(板厚条件)に用いた試験体の構成を示す断面図である。ここに示すように本試験では、開口率12.5%、空気層50mmを共通とし、板厚を20mm、30mmに変えて試験した。
【0053】
図7−2は、
図7−1に示す試験体の吸音率測定結果を示すグラフである。図示するように、いずれの試験体も、300〜1000Hzの帯域において吸音率0.5以上を示し、吸音材として利用可能であることが確認された。板厚20mmの試験体では吸音ピークが600Hz、一方30mmの試験体では400Hzであり、後者がやや低音側にずれる吸音特性である傾向、あるいは前者がより広帯域の吸音特性を有する傾向がうかがえた。いずれにせよ板厚による吸音特性の違いも、吸音体や音響拡散体の設計検討において考慮し得ることが示された。