【実施例】
【0046】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0047】
なお、以下の試験例における界面活性剤の濃度(%)は容量%を示す。
【0048】
試験例1
倫理委員会の承認のもと、アルツハイマー(AD)例14名、健常者17名を対象とした。滋賀医科大学医学部附属病院脳神経センターの受診者及び患者の介護者の中から、インフォームドコンセントにより、書面による承諾を得られた症例について実施した。年齢、性別ともに、AD例と老年正常者群で有意な差を認めなかった。血液一般検査では、両群に有意な差は見られなかった。
【0049】
<方法>
1)鼻腔(嗅裂、下鼻甲介)を綿棒で擦過した。
2)200 mMのNaCl、8Mの塩酸グアニジン、2 mM EDTA、及び0.05%のドデシルマルトシドを加えた50 mMのトリス塩酸バッファー(pH 8.0)(本試験例においてグアニジン溶液と略する) 100μl中に綿棒を入れて、よく洗った。
3)70℃で10分間加熱した。
4)0.2μmのPTFEフィルターで濾過した。
【0050】
当該濾液約100μlを以下のAとBの2つのステップに分けて測定を行った。
【0051】
(Aステップ)
A-1.濾液の45μlを300Kオメガフィルターで限外濾過し、更にグアニジンを除いたバッファー(以下、置換バッファーと略する)90μlを入れて300Kオメガフィルターを洗浄して、総量で135μlの濾液を得た。
A-2.置換バッファーで膨潤したG-10カラム1 mlをカラムに充填した後、膨潤溶液を遠心除去した。
A-3.濾液120μl、置換バッファー 40μlの順にカラムに添加し、遠心(800 x g, 2 min)によりゲル濾過液を回収することで、サンプル中のグアニジン塩酸塩の除去を行った。
A-4. この溶液をサンプルとし、市販のELISA kit (Aβ42、Aβ40)及び総タンパク測定キットを用いて、Aβ42、Aβ40の測定、及び総タンパク測定を行った。用いた試薬は、下記の通りである。
・Human/Rat βAmyloid(42) ELISA Kit, High Sensitive (和光純薬工業(株)、292-64501)
・Human/Rat βAmyloid(40) ELISA Kit II (和光純薬工業(株)、294-64701)
・プロテインアッセイラピッドキットワコー(和光純薬工業(株)、293-56101)
【0052】
(Bステップ)
B-1.置換バッファーで膨潤したG-10カラム0.7 mLをカラムに充填した後、膨潤溶液を遠心除去した。
B-2.濾液40μl、置換バッファー 10μlの順にカラムに添加し、遠心(800 x g, 2 min)によりゲル濾過液を回収することで、サンプル中のグアニジン塩酸塩の除去を行った。
B-3.この溶液をサンプルとし、市販のELISA kit (tTau・pTau)及び総タンパク測定キットを用いて、総タウ・リン酸化タウの測定、及び総タンパク測定を行った。用いた試薬は、下記の通りである。
・TAU (Total) Human ELISA Kit (Invitrogen,KHB0041)
・TAU [pT181] Human ELISA Kit (Invitrogen,KHO0631)
・プロテインアッセイラピッドキットワコー(和光純薬工業(株)、293-56101)
【0053】
<結果>
結果を表1及び2に示す。嗅裂においては、AD例の92.9%、健常例の94.1%で蛋白量、Aβ42、Aβ40、タウ蛋白、及びリン酸化タウ蛋白の同時測定が可能であった。下鼻甲介においては、AD例の100%、健常例の94.1%で同時測定が可能であった(表1)。従来法では、
Aβ42とタウ蛋白の同時測定も(試験例3)、タウ蛋白とリン酸化タウ蛋白の同測定もできなかったが(試験例4)、本発明により、Aβ42、Aβ40、タウ蛋白、及びリン酸化タウ蛋白の同時測定がすべて可能になった。
【0054】
このように同時測定が可能になったことで、バイオマーカー間の比較ができるようになった。例えば、リン酸化タウ蛋白量をタウ蛋白量で割ることで補正すると、嗅裂方向において、AD群で高い傾向を示した(p=0.062, 表2)。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
試験例2
インフォームドコンセントにより、書面による承諾を得られた症例について実施した。
【0058】
<方法>
1)鼻腔を綿棒で擦過した。
2)色々な界面活性化剤を入れたバッファーに綿棒を入れて、よく洗った。そこに一定量のタウ蛋白を加えて処理し、どのくらいの量を回収できるか検討した。
バッファーは、200 mMのNaCl、8Mの塩酸グアニジン、2 mM EDTAを加えた50 mMのトリス塩酸バッファー(pH 8.0)を基本とし、界面活性剤を加えないか、又は以下の(A)〜(E)のいずれかの界面活性剤を加えた(本試験例において、これらの溶液をグアニジン溶液とし、それぞれの溶液からグアニン塩酸塩を除いた溶液を置換バッファーと略する)。
(A) 0.05% Tween-20
(B) 0.5% Tween-20
(C) 0.05% ドデシルマルトシド
(D) 0.5% デオキシコール酸ナトリウム
(E) 0.1% SDS
3)それぞれの溶液100μlに一定量のタウ蛋白を入れたチューブを70℃で10分加熱した。
4)0.2μmのPTFEフィルターで濾過をした。
5)濾液の45μlを300Kオメガフィルターで限外濾過し、更にグアニジンを除いた置換バッファー90μlを入れて300Kオメガフィルターを洗浄し、総量で135μlの濾液を得た。
6)置換バッファーで膨潤したG-10カラム1 mlをカラムに充填した後、膨潤溶液を遠心除去した。
7)濾液120μl、置換バッファー40μlの順にカラムに添加し、遠心(800 x g, 2 min)によりゲル濾過液を回収することで、サンプル中のグアニジン塩酸塩の除去を行った。
8)脱塩した溶液から10μl取り総蛋白量を測定し、残り150μlで総タウ蛋白を測定した。総タウ蛋白の測定にはTAU (Total) Human ELISA Kitを、総蛋白量の測定にはプロテインアッセイラピッドキットワコーを用いた。
【0059】
<結果>
結果を
図1に示す。加えたタウ蛋白をすべて回収できたのは、0.05% ドデシルマルトシドであった。添加物なし、0.5% Tween-20の場合は約90%、0.05% Tween-20は約80%タウ蛋白を回収できたが、0.5% デオキシコール酸ナトリウムと0.1% SDSはタウ蛋白を回収できなかった。
【0060】
試験例3
従来法により、アミロイドβ蛋白とリン酸化タウ蛋白の同時測定を試みた。健常者5名に対して実施した。
【0061】
本試験例では綿棒を用いて下鼻甲介の鼻粘膜組織を擦過し、鼻粘膜組織が付着した綿球を、超純水270μlを予め添加したマイクロチューブに投入した。そして、綿球の先から3.0 cmの位置で切断し、攪拌して綿棒に付着した鼻粘膜組織検体を溶出させた。本試験例では、市販されているプラ軸綿棒(医療補助用綿棒HUBY-COTIX EM3-50S((株)山洋))を使用した。
【0062】
次に、綿棒を引き上げて綿球を超純水から浮かした状態にし、蓋をすることでマイクロチューブに固定し、14000gで遠心することで綿球を脱水した。その後、マイクロチューブから綿棒を取り出し、マイクロチューブ内の溶液を27Gニードル装着のシリンジで30回吸込及び吐出を繰り返し懸濁した。このうち、10μlを総蛋白量の測定に用い、60μlをタウ蛋白の定量に用いた。総タウ蛋白質の測定にはTAU (Total) Human ELISA Kitを、総蛋白量の測定にはプロテインアッセイラピッドキットワコーを用いた。
【0063】
残りの懸濁液200μlは以下のようにしてAβ42の測定に用いた。
【0064】
懸濁後の溶液のうち200μlを試験管に移し、抽出液として100%ギ酸を500μl添加、攪拌し、70℃に保たれた恒温層で1時間静置した。1時間後に恒温層から試験管を取り出し、溶液をフィルター(NANOSEP 100K OMEGA(PALL):100 kDa以上のタンパク質を排除し、100 kDa以下の分子量のタンパク質のみを通過させるフィルター)で分画ろ過した。ろ液を試験管に移し、溶液量が20μlになるまで遠心エバポレーターで減圧濃縮した。濃縮した溶液を攪拌した後、1 mol/l Tris(pH未調整)を480μl加え、500μl溶液に調製した。なお、各溶液のpHを測定し中和の成否を記録用紙へ記録し、pH7.0〜8.6程度の範囲であることを確認した。これら溶液をアミロイドβ蛋白の測定用試料とした。
【0065】
アミロイドβ蛋白の測定は、アミロイドβ蛋白を測定するELISAの測定キットを用いて実施した(Human/Rat βAmyloid(42) ELISA Kit、High-Sensitive)。測定に先立って、検量線を作成するための溶液を、Aβ42のスタンダード溶液を用いて、0.05、0.1、0.2、0.25、1、2、2.5、5、10、又は20 pMに調製した。調製後は、検量線を作成するための溶液と測定用試料1 mlをそれぞれ、測定キットのマイクロタイタープレートに100μl添加した。
【0066】
Aβ42と総タウ蛋白の測定結果を表3に示す。Aβ42は測定できたが、総タウ蛋白は測定できなかった。総蛋白量は測定可能であった。
【0067】
【表3】
【0068】
従来法により、総タウ蛋白とリン酸化タウ蛋白の同時測定を試みた。
【0069】
倫理委員会の承認を得て、アルツハイマー病患者6例(71-84歳、男性3例、女性3例)と健常者1例(72歳、男性)で実施した。
【0070】
鼻腔の嗅裂、中鼻道、下鼻甲介、総鼻道から、綿棒を用いて鼻粘膜組織を擦過し、鼻粘膜組織が付着した綿球を、超純水270μlを予め添加したマイクロチューブに投入した。そして綿球の先から3.0 cmの位置で切断し、攪拌して綿棒に付着した鼻粘膜組織検体を溶出させた。
【0071】
次に、綿棒を引き上げて綿球を超純水から浮かした状態にし、蓋をすることでマイクロチューブに固定し、14000gで遠心することで綿球を脱水した。その後、マイクロチューブから綿棒を取り出し、マイクロチューブ内の溶液を27Gニードル装着のシリンジで30回吸込及び吐出を繰り返し懸濁した。この懸濁後を半分に分けて、総タウ蛋白とリン酸化タウ蛋白の測定を行った。総タウ蛋白の測定はTAU (Total) Human ELISA Kitを、リン酸化タウの測定はTau [pT181] Human ELISA Kitを用いた。
【0072】
その結果、総タウ蛋白は測定できたが、リン酸化タウ蛋白は全例で検出できなかった。すなわち、従来法では、同一の鼻サンプルを用いた総タウ蛋白とリン酸化タウ蛋白の同時測定はできなかった。