特許第6883911号(P6883911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社康井精機の特許一覧

<>
  • 特許6883911-耐熱性フィルムの製造方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6883911
(24)【登録日】2021年5月13日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】耐熱性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20210531BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   B32B27/32 C
   B32B27/36
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-66559(P2015-66559)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-185670(P2016-185670A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2018年3月27日
【審判番号】不服2019-14045(P2019-14045/J1)
【審判請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】591091629
【氏名又は名称】株式会社康井精機
(74)【代理人】
【識別番号】100081282
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 俊輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085084
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高英
(74)【代理人】
【識別番号】100117190
【弁理士】
【氏名又は名称】前野 房枝
(72)【発明者】
【氏名】茶木原 雄司
(72)【発明者】
【氏名】岩永 収一
(72)【発明者】
【氏名】美濃 博
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】康井 義成
【合議体】
【審判長】 久保 克彦
【審判官】 横溝 顕範
【審判官】 藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−187872(JP,A)
【文献】 特開2012−167255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C09J1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PPフィルムをベースとする耐熱フィルムの製造方法であって、厚さが25〜100μmのPETフィルムの表面に塗布厚さがドライ状態で5〜20μmの粘着層を積層し、前記粘着層の表面にドライラミネート法またはウエットラミネート法によって厚さが10〜60μmで前記PETフィルムより薄い前記PPフィルムを積層して積層体を形成し、当該積層体を100〜130℃の炉内を4m/minの速度で1分走行通過させた時に、前記PPフィルムに縦皴または折れじわが発生しない積層体からなる耐熱性フィルムを形成することを特徴とする耐熱性フィルムの製造方法。
【請求項2】
PPフィルムをベースとする耐熱フィルムの製造方法であって、厚さが25〜100μmのPETフィルム(帝人デュポン社製、G2を含む)の表面に塗布厚さがドライ状態で5〜20μmの粘着層(トーヨーケム社製、SP−205を含む)を積層し、前記粘着層の表面にドライラミネート法によって厚さが10〜60μmで前記PETフィルムより薄い前記PPフィルム(ミルウィック社(MIRWEC FILM INC.米国)製、BOPLON(登録商標)FILMを含む)を積層して積層体を形成し、当該積層体を100〜130℃の炉内を4m/minの速度で1分走行通過させた時に、前記PPフィルムに縦皴または折れじわが発生しない積層体からなる耐熱性フィルムを形成することを特徴とする耐熱性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性フィルムの製造方法に係り、特にPPフィルム(ポリプロピレンフィルム)をベースとして用いるのに好適な耐熱性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、機械的特性、熱的特性、剥離特性等に優れているPPフィルムがその優れた特性から一般民生用、工業用、医療用、宇宙用等の全分野において利用されている。
【0003】
例えば、PPフィルムに種々の素材を積層した積層体として利用されている(特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−087421号公報
【特許文献1】特開2010−234570号公報
【特許文献1】特開2011−143586号公報
【特許文献1】特開2014−100917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PPフィルムは100℃以上に加熱されると軟化するために、例えばPPフィルムの搬送方向に張力を付与すると縦皺が発生するという不都合があった。例えば、PPフィルムに所望の素材を積層した複合体についても、当該素材およびPPフィルムが共に縦皺のある不良品となってしまうという不都合があった。
【0006】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、加熱時にPPフィルムにしわが発生しないPPフィルムを基礎材料とした耐熱性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意研究し、PPフィルムの一面側に、粘着層を介してPETフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)を積層した積層体とすることによって、加熱時にPPフィルムにしわが発生しないことを発見して本発明を完成させた。
【0008】
前述した目的を達成するため本発明の第1の態様の耐熱性フィルムの製造方法は、PPフィルムをベースとする耐熱フィルムの製造方法であって、厚さが25〜100μmのPETフィルムの表面に塗布厚さがドライ状態で5〜20μmの粘着層を積層し、前記粘着層の表面にドライラミネート法またはウエットラミネート法によって厚さが10〜60μmで前記PETフィルムより薄い前記PPフィルムを積層して積層体を形成し、当該積層体を100〜130℃の炉内を4m/minの速度で1分走行通過させた時に、前記PPフィルムに縦皴または折れじわが発生しない積層体からなる耐熱性フィルムを形成することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第2の態様の耐熱性フィルムの製造方法は、PPフィルムをベースとする耐熱フィルムの製造方法であって、厚さが25〜100μmのPETフィルム(帝人デュポン社製、G2を含む)の表面に塗布厚さがドライ状態で5〜20μmの粘着層(トーヨーケム社製、SP−205を含む)を積層し、前記粘着層の表面にドライラミネート法によって厚さが10〜60μmで前記PETフィルムより薄い前記PPフィルム(ミルウィック社(MIRWEC FILM INC.米国)製、BOPLON(登録商標)FILMを含む)を積層して積層体を形成し、当該積層体を100〜130℃の炉内を4m/minの速度で1分走行通過させた時に、前記PPフィルムに縦皴または折れじわが発生しない積層体からなる耐熱性フィルムを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の耐熱性フィルムの製造方法は、100〜130℃に加熱された時にPPフィルムにしわが発生しないPPフィルムを基礎材料とした耐熱性フィルムを得ることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る耐熱性フィルムの一実施形態を示す断面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1を用いて本発明の耐熱性フィルムの実施形態について説明する。
【0014】
図1は本発明の耐熱性フィルムの1実施形態を示す。
【0015】
本実施形態の耐熱性フィルム1は、薄膜状のPETフィルム2の表面に粘着層3を積層し、この粘着層3の表面に薄膜状のPPフィルム4を積層して形成されている。
【0016】
PETフィルム2としては、厚さが25〜100μm程度の公知の素材(市販の素材を含む)を用いると良い。
【0017】
粘着層3を形成する粘着素材としては、公知の粘着素材を用いることができる。例えば、ウレタン系粘着材、アクリル系粘着材、UV硬化樹脂系接着剤が挙げられる。また、非シリコーン系の粘着材を用いるとよい。粘着層3の塗布厚さはドライ状態で5〜20μm程度とするとよい。
【0018】
PPフィルム4としては、厚さが10〜60μm程度の公知の素材(市販の素材を含む)を用いるとよい。特に、ホモポリマーのPPをインフレーション法によって2軸延伸して形成されているものが均一厚さの平坦性を維持するために好適である。更に、PPフィルム4の粘着層3に積層される面に対して、必要に応じてコロナ処理、紫外線照射、EB照射等の公知の改質処理を施すと良い。更に、PPフィルム4の表面の粗さについては、つるつる状、マット状等をその積層体の特性に応じて選択するとよい。
【0019】
PETフィルム2に対するPPフィルム4の積層は、ドライラミネート法またはウエットラミネート法によって行うとよい。
【0020】
ドライラミネート法としては、公知の方法を用いることができる。
【0021】
具体的には、PETフィルム2に粘着材を薄く塗布し、その後乾燥させて予め粘着層3を積層したPETフィルム2の当該ドライ状の粘着層3の上にPPフィルム4をラミネートしてPETフィルム2とPPフィルム4とをドライラミネート法によって粘着層3を介して積層する。
【0022】
ウエットラミネート法としては、公知の方法を用いることができる。
【0023】
具体的には、PETフィルム2に粘着素材を薄く塗布し、その後ウエット状の粘着層3の上にPPフィルム4をラミネートし、その後粘着層3を乾燥させてPETフィルム2とPPフィルム4とをウエットラミネート法によって粘着層3を介して積層する。粘着素材の塗布の方法としては、マイクログラビアロールを用いたマイクログラビア方法、スロットダイを用いたスロットダイ方法、ナイフエッジを用いたナイフエッジ方法等によって薄膜状に塗布するとよい。また、この場合に粘着剤として、溶剤が全く含有されていないUVインクを用いると良い。UVインクを用いる場合には、乾燥工程においてUVを照射してUVインクを固化させて粘着層3とすると良い。粘着層3の乾燥工程においては、積層状態にあるPETフィルム2、粘着層3およびPPフィルム4を徐冷する処理を施すとPPフィルム4の均一厚さの平坦性を維持するために好適である。
【0024】
本実施形態においては、PETフィルム2とPPフィルム4とを粘着層3を介して積層して耐熱性フィルム1を形成しているので、この積層体を例えば、100〜130℃に加熱した場合に、PETフィルム2と粘着層3とがPPフィルム4の変形を押さえる役目を果たしてPPフィルム4が均一厚さおよび平坦性を維持することができ、加熱時にPPフィルム4にしわが発生しない積層体を得ることができる。
【実施例】
【0025】
<PETフィルム、ウレタン系粘着層およびPPフィルムの積層体>
(製造方法)
PETフィルムとして、帝人デュポン社製、G2、厚さ:38μmを用いた。
PPフィルムとして、ミルウィック社(MIRWEC FILM INC. 米国)製、 BOPLON(登録商標)FILM、厚さ:25μmを用いた。
ウレタン系粘着層として、トーヨーケム社製の2種類のSP−205(粘着性は中グレード)、SH−101M(粘着性は弱グレード)を用いた。
PETフィルムおよびPPフィルムのラミネート法としてドライラミネート法を用いた。
更に説明すると、ドライラミネート法においては、スロットダイ法によって前記2種類のウレタン系粘着剤についてそれぞれ乾燥厚みが10μm、15μmとなるようにPETフィルム2に塗工し、その後100℃で2分間乾燥してPETフィルム2にウレタン系粘着剤からなる粘着層3を形成した。その後ウレタン系粘着剤層にPPフィルム4のマット面側を対面させてニップ圧力0.2MPaでドライラミネートして、4種類のサンプルを作成した。
【0026】
(評価)
(1)剥離強度
4種類のサンプルの剥離強度を測定し、結果を表1に示した。これによりPPフィルム4と粘着層3との密着性と耐熱性の関係を検討した。
(2)耐熱評価
a:オーブンテスト
表1に示す測定温度に設定した循環式オーブンに曝露し、時間経過に伴う変化を観察し、結果を表1に示した。
b:通紙テスト
乾燥炉内の温度を120〜130℃とし、表1に示す通紙条件(速度・滞留時間)としてサンプルを走行させてしわの発生程度を確認して、結果を表1に示した。
【0027】
【表1】
【0028】
(まとめ)
表1の結果をまとめると下記の通りとなる
a:オーブンによる耐熱評価においては、サンプル1〜4において熱収縮による剥離はなかった。
b:しわの発生については、サンプル1、2については、120℃および130℃において共にしわの発生がなかった。サンプル3、4については、120℃おいて共にしわの発生がなかったが、130℃においてPPフィルム4のPETフィルム2が積層されていない部分のカールによる端部剥離が一部に見られた。PETフィルム2が積層されている部分のPPフィルム4にはしわの発生がなかった。これにより耐熱性の優れた耐熱性フィルム1が得られたことがわかる。粘着層3の厚みに基づくしわの発生における変化は認められなかった。
c:通紙テストにおいては、細かい熱収縮模様が発生したがPPフィルム単体で発生するような折れじわは発生しておらず、滞留時間を短くすると細かい熱収縮模様の発生も緩和された。
d:PETフィルム2を厚くするとPETフィルム2が積層されていない部分のカールの大きさより小さく抑えることができることがわかった。
e:オーブンテストおよび通紙テストにおいて、PETフィルム2が積層されていない部分のPPフィルム4が熱収縮することによって著しくカールして端部剥離が発生している。従って、PETフィルム2が積層されていない部分のPPフィルム4を切断除去することにより、PPフィルム4の剥離が起きない優れた耐熱性フィルム1とすることができた。
このように本実施例の耐熱性フィルム1によれば、加熱時にPPフィルム4にしわが発生しないPPフィルム4を基礎材料とした耐熱性フィルム1を得ることができるという優れた効果を奏する。
【0029】
なお、本発明は前記実施形態および実施例に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができるものである。
【符号の説明】
【0030】
1 耐熱性フィルム
2 PETフィルム
3 粘着層
4 PPフィルム
図1