(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
本発明を記述する前に、記述される特定の方法および実験条件は変化しうることから、本発明は、そのような方法および条件に限定されないと理解すべきである。同様に、本明細書において用いられる用語は、特定の態様のみを記述する目的のためであり、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲のみによって限定されることから、制限的でないと意図されると理解すべきである。
【0010】
それ以外であると定義している場合を除き、本明細書において用いられる全ての科学技術用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書において用いられる「約」という用語は、特定の引用された数値を参照して用いられる場合、引用された値からその値が1%以下変化しうることを意味する。たとえば、本明細書において用いられる「約100」という表記は、99および101ならびにそのあいだの全ての値(たとえば、99.1、99.2、99.3、99.4等)を含む。
【0011】
本明細書における記述と類似または同等の任意の方法および材料を、本発明の実践または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料を以下に記述する。
【0012】
多重特異性抗原結合分子
本発明者らは、多重特異性抗原結合分子を介してインターナライジングエフェクタータンパク質に標的分子を連結させることによって、標的分子の活性を減弱させることができることを意外にも発見した。
【0013】
したがって、本発明は、第一の抗原結合ドメイン(本明細書において「D1」とも呼ばれる)および第二の抗原結合ドメイン(本明細書において「D2」とも呼ばれる)を含む多重特異性抗原結合分子を提供する。D1およびD2は、各々が異なる分子に結合する。D1は、「標的分子」に特異的に結合する。標的分子はまた、本明細書において「T」とも呼ばれる。D2は、「インターナライジングエフェクタータンパク質」に特異的に結合する。インターナライジングエフェクタータンパク質はまた、本明細書において「E」とも呼ばれる。本発明に従って、多重特異性抗原結合分子がTとEに同時に結合することにより、D1のみがTに結合する場合より大きい程度にTの活性が減弱する。多重特異性抗原結合分子の文脈において、本明細書において用いられる「同時に結合する」という表現は、多重特異性抗原結合分子が、標的分子(T)とインターナライジングエフェクタータンパク質(E)の両方に、TとEの物理的連結を促進するために生理的に適切な条件下で少なくとも何らかの期間接触することができることを意味する。多重特異性抗原結合分子のTおよびE成分への結合は、連続的でありうる;たとえば多重特異性抗原結合分子は、最初にTに結合して、次にEに結合しうる、またはまず最初にEに結合して次にTに結合しうる。いずれにせよ、TおよびEがいずれも、何らかの期間、多重特異性抗原結合分子に結合する限り(結合の順序によらず)、多重特異性抗原結合分子は、本開示の目的に関してTおよびEに「同時に結合する」と思われる。理論に拘束されたくはないが、Tの不活化の増強は、Eと物理的に連結していることによる細胞内でのTのインターナリゼーションおよび分解経路の再設定により引き起こされるように思われる。本発明の多重特異性抗原結合分子は、このように、標的分子の機能を直接遮断するまたは機能に拮抗することなく、標的分子の活性および/または細胞外濃度を不活化および/または減少させるために有用である。
【0014】
本発明に従って、多重特異性抗原結合分子は、1つの多機能ポリペプチドでありえて、または互いに共有結合によりもしくは非共有結合により会合した2つもしくはそれより多くのポリペプチドの多量体複合体でありうる。本開示によって明らかとなるように、TおよびE分子に同時に結合する能力を有するいかなる抗原結合構築物も、多重特異性抗原結合分子として見なされる。本発明の多重特異性抗原結合分子またはその変種のいずれも、当業者に公知であるように、標準的な分子生物学技術(たとえば、組み換え型DNAおよびタンパク質発現技術)を用いて構築されうる。
【0015】
抗原結合ドメイン
本発明の多重特異性抗原結合分子は、少なくとも2つの個別の抗原結合ドメイン(D1およびD2)を含む。本明細書において用いられる「抗原結合ドメイン」という表現は、関心対象の特定の抗原に特異的に結合することができる任意のペプチド、ポリペプチド、核酸分子、足場型分子、ペプチドディスプレイ分子、またはポリペプチド含有構築物を意味する。本明細書において用いられる「特異的に結合する」またはその他の用語は、抗原結合ドメインが、500 pMもしくはそれ未満の解離定数(K
D)を特徴とする特定の抗原との複合体を形成し、通常の試験条件で他の無関係な抗原には結合しないことを意味する。「無関係な抗原」は、互いに95%未満のアミノ酸同一性を有するタンパク質、ペプチド、またはポリペプチドである。
【0016】
本発明の文脈において用いることができる抗原結合ドメインの例示的なカテゴリーには、抗体、抗体の抗原結合部分、特定の抗原と特異的に相互作用するペプチド(たとえば、ペプチボディ)、特定の抗原と特異的に相互作用する受容体分子、特定の抗原に特異的に結合する受容体のリガンド結合部分を含むタンパク質、抗原結合足場(たとえば、DARPins、HEAT反復タンパク質、ARM反復タンパク質、テトラトリコペプチド反復タンパク質、および天然に存在する反復タンパク質等に基づく他の足場[たとえば、Boersma and Pluckthun, 2011, Curr. Opin. Biotechnol. 22:849-857、およびその中で引用される参考文献を参照されたい])、およびアプタマーまたはその一部が挙げられる。
【0017】
標的分子またはインターナライジングエフェクタータンパク質が受容体分子である態様において、本発明の目的に関する「抗原結合ドメイン」は、受容体に対して特異的であるリガンドまたはリガンドの一部を含みうるまたはそれからなりうる。たとえば、標的分子(T)がIL-4Rである場合、多重特異性抗原結合分子のD1成分は、IL-4Rと特異的に相互作用することができるIL-4リガンドまたはIL-4リガンドの一部を含みうる;またはインターナライジングエフェクタータンパク質(E)がトランスフェリン受容体である場合、多重特異性抗原結合分子のD2成分は、トランスフェリン受容体と特異的に相互作用することができるトランスフェリンまたはトランスフェリンの一部を含みうる。
【0018】
標的分子またはインターナライジングエフェクタータンパク質が特定の受容体によって特異的に認識されるリガンド(たとえば、可溶性標的分子)である態様において、本発明の目的に関する「抗原結合ドメイン」は、受容体または受容体のリガンド結合部分を含みうるまたはそれからなりうる。たとえば、標的分子(T)がIL-6である場合、多重特異性抗原結合分子のD1成分は、IL-6受容体のリガンド結合ドメインを含みうる、またはインターナライジングエフェクタータンパク質(E)が間接的にインターナライズされるタンパク質(この用語は本明細書において他所で定義される)である場合、多重特異性抗原結合分子のD2成分は、Eに対して特異的な受容体のリガンド結合ドメインを含みうる。
【0019】
2つの分子が互いに特異的に結合するか否かを決定する方法は、当技術分野において周知であり、たとえば平衡透析、表面プラズモン共鳴およびその他を含む。たとえば、本発明の文脈において用いられる抗原結合ドメインは、表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定した場合に、特定の抗原(たとえば、標的分子[T]またはインターナライジングエフェクタータンパク質[E])またはその一部に対して約500 pM未満、約400 pM未満、約300 pM未満、約200 pM未満、約100 pM未満、約90 pM未満、約80 pM未満、約70 pM未満、約60 pM未満、約50 pM未満、約40 pM未満、約30 pM未満、約20 pM未満、約10 pM未満、約5 pM未満、約4 pM未満、約2 pM未満、約1 pM未満、約0.5 pM未満、約0.2 pM未満、約0.1 pM、または約0.05 pM未満のK
Dで結合するポリペプチドを含む。
【0020】
本明細書において用いられる「表面プラズモン共鳴」という用語は、たとえばBIAcore(商標)システム(Biacore Life Sciences division of GE Healthcare, Piscataway, NJ)を用いてバイオセンサーマトリクス内でのタンパク質濃度の変化を検出することによってリアルタイムで相互作用分析を行うことができる光学現象を意味する。
【0021】
本明細書において用いられる「K
D」という用語は、特定のタンパク質-タンパク質相互作用(たとえば、抗体-抗原相互作用)の平衡解離定数を意味する。それ以外であると示している場合を除き、本明細書において開示されるK
D値は、25℃で表面プラズモン共鳴アッセイによって決定したK
D値を意味する。
【0022】
抗体および抗体の抗原結合断片
先に示したように、「抗原結合ドメイン」(D1および/またはD2)は、抗体または抗体の抗原結合断片を含みうるまたはそれからなりうる。本明細書において用いられる「抗体」という用語は、特定の抗原(たとえば、TまたはE)に特異的に結合するまたは相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む任意の抗原結合分子または分子複合体を意味する。「抗体」という用語は、4つのポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって相互に連結された2つの重鎖(H)および2つの軽鎖(L)を含む免疫グロブリン分子、ならびにその多量体(たとえば、IgM)を含む。各々の重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてHCVRまたはV
Hと省略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、C
H1、C
H2、およびC
H3を含む。各々の軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてLCVRまたはV
Lと省略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は1つのドメイン(C
L1)を含む。V
HおよびV
L領域はさらに、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に細別することができ、これらはより保存されたフレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域のあいだに介在する。各々のV
HおよびV
Lは、アミノ末端からカルボキシ末端へと以下の順序で配置した3つのCDRおよび4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明の異なる態様において、本発明の抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一でありうるか、または自然にもしくは人工的に修飾されうる。アミノ酸コンセンサス配列は、2つまたはそれより多くのCDRの同時分析に基づいて定義されうる。
【0023】
本発明の多重特異性抗原結合分子のD1および/またはD2成分は、完全な抗体分子の抗原結合断片を含みうるまたはそれからなりうる。本明細書において用いられる抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」、およびその他の用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に得ることができる、合成、または遺伝子改変ポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、たとえばタンパク質分解消化、または抗体可変ドメインおよび任意で定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴う組み換え遺伝子操作技術などの任意の適した標準的な技術を用いて、完全な抗体分子から誘導されうる。そのようなDNAは公知であり、および/またはたとえば販売元、DNAライブラリ(たとえば、ファージ-抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、または合成することができる。DNAを、化学的にまたは分子生物学技術を用いることによってシークエンシングおよび操作して、たとえば1つもしくは複数の可変および/または定常ドメインを適した構造に配置させてもよく、またはコドンを導入、システイン残基を作製、アミノ酸を修飾、付加、もしくは欠失等させてもよい。
【0024】
抗原結合断片の非制限的な例には:(i)Fab断片:(ii)F(ab')2断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)一本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAb断片;および(vii)抗体の超可変領域(たとえば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))を模倣するアミノ酸残基または拘束されたFR3-CDR3-FR4ペプチドからなる最小認識単位が挙げられる。ドメイン特異的抗体、シングルドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(たとえば、一価のナノボディ、二価のナノボディ等)、小モジュラー免疫薬(small modular immunopharmaceuticals)(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインなどの他の工学操作される分子も同様に、本明細書において用いられる「抗原結合断片」という表現に包含される。
【0025】
抗体の抗原結合断片は典型的に、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意の大きさまたはアミノ酸組成のドメインでありえて、一般的に、1つまたは複数のフレームワーク配列に隣接するかまたはインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。V
Lドメインに会合したV
Hドメインを有する抗原結合断片において、V
HおよびV
Lドメインは、任意の適した配置で互いに対して置かれれうる。たとえば、可変領域は二量体でありえて、V
H-V
H、V
H-V
L、またはV
L-V
L二量体を含みうる。または、抗体の抗原結合断片は、単量体のV
HまたはV
Lドメインを含みうる。
【0026】
ある態様において、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合した少なくとも1つの可変ドメインを含みうる。本発明の抗体の抗原結合断片内で見いだされうる可変および定常ドメインの非制限的な例示的な構造には:(i)V
H-C
H1;(ii)V
H-C
H2;(iii)V
H-C
H3;(iv)V
H-C
H1-C
H2;(v)V
H-C
H1-C
H2-C
H3;(vi)V
H-C
H2-C
H3;(vii)V
H-C
L;(viii)V
L-C
H1;(ix)V
L-C
H2;(x)V
L-C
H3;(xi)V
L-C
H1-C
H2;(xii)V
L-C
H1-C
H2-C
H3;(xiii)V
L-C
H2-C
H3;および(xiv)V
L-C
Lが挙げられる。先に列挙した例示的な構造のいずれかを含む可変および定常ドメインの任意の構造において、可変および定常ドメインは、互いに直接連結されうるか、または完全もしくは部分的なヒンジもしくはリンカー領域によって連結されうる。ヒンジ領域は、それによって1つのポリペプチド分子において隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメインのあいだに可撓性のまたは半可撓性の連結が得られる少なくとも2個(たとえば、5、10、15、20、40、60個またはそれより多く)のアミノ酸からなりうる。その上、抗原結合断片は、互いにおよび/または1つまたは複数の単量体V
HまたはV
Lドメインと非共有結合した(たとえばジスルフィド結合によって)前述の任意の可変ドメインおよび定常ドメイン構造のホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含みうる。
【0027】
本発明の多重特異性抗原結合分子は、ヒト抗体および/または組み換え型ヒト抗体またはその断片を含みうるまたはそれからなりうる。本明細書において用いられる「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する抗体を含む。ヒト抗体は、それにもかかわらず、たとえばCDRおよび詳しくはCDR3において、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(たとえば、インビトロでランダムもしくは部位特異的変異誘発によって、またはインビボで体細胞変異によって導入された変異)を含みうる。しかし、本明細書において用いられる「ヒト抗体」という用語は、マウスなどのもう1つの哺乳動物種の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植されている抗体を含まないと意図される。
【0028】
本発明の多重特異性抗原結合分子は、組み換え型ヒト抗体またはその抗原結合断片を含みうるまたはそれからなりうる。本明細書において用いられる「組み換え型ヒト抗体」という用語は、宿主細胞にトランスフェクトした組み換え型発現ベクターを用いて発現させた抗体(以下に詳しく記述する)、組み換え型コンビナトリアルヒト抗体ライブラリから単離した抗体(以下に詳しく記述する)、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックである動物(たとえば、マウス)から単離した抗体(たとえば、Taylor et al. (1992) Nucl. Acids Res. 20:6287-6295を参照されたい)、またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを伴う任意の他の手段によって調製、発現、作製、もしくは単離された抗体などの、組み換え手段によって調製、発現、作製、または単離された全てのヒト抗体を含むことを意図する。そのような組み換え型ヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域と定常領域を有する。しかし、ある態様において、そのような組み換え型ヒト抗体は、インビトロ変異誘発(または、ヒトIg配列に関してトランスジェニックである動物を用いる場合には、インビボ体細胞変異誘発)に供され、このため、組み換え型抗体のV
HおよびV
L領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列V
HおよびV
L配列に由来および関連するものの、インビボのヒト抗体生殖系列レパートリー内に本来存在しない可能性がある配列である。
【0029】
二重特異性抗体
ある態様に従って、本発明の多重特異性抗原結合分子は、二重特異性抗体、たとえば標的分子(T)に特異的に結合する抗原結合アームと、インターナライジングエフェクタータンパク質(E)に特異的に結合する抗原結合アームとを含む二重特異性抗体である。二重特異性抗体を作製する方法は当技術分野において公知であり、本発明の多重特異性抗原結合分子を構築するために用いられうる。本発明の文脈において用いることができる例示的な二重特異性フォーマットには、たとえばscFvに基づくまたはディアボディ二重特異性フォーマット、IgG-scFv融合体、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、クアドローマ、knobs-into-holes、共通軽鎖(たとえば、knobs-into-holesによる共通軽鎖等)、CrossMab、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、デュオボディ、IgG1/IgG2、二重作用Fab(DAF)-IgG、およびMab
2二重特異性フォーマット(たとえば、前述のフォーマットの論評に関しては、Klein et al. 2012, mAbs 4:6, 1-11、ならびにその中で引用されている参考文献を参照されたい)が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0030】
多量体化成分
本発明の多重特異性抗原結合分子はまた、ある態様において、1つまたは複数の多量体化成分を含みうる。多量体化成分は、抗原結合ドメイン(D1とD2)間の会合を維持するように機能することができる。本明細書において用いられる「多量体化成分」は、同じまたは類似の構造または構成の第二の多量体化成分との会合能を有する任意の高分子、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、またはアミノ酸である。たとえば、多量体化成分は、免疫グロブリンC
H3ドメインを含むポリペプチドでありうる。多量体化成分の非制限的な例は、免疫グロブリンのFc部分、たとえばアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4から選択されるIgG、ならびに各々のアイソタイプ群内の任意のアロタイプのFcドメインである。ある態様において、多量体化成分は、Fc断片、または少なくとも1つのシステイン残基を含む長さがアミノ酸1個から約200個のアミノ酸配列である。他の態様において、多量体化成分は、システイン残基または短いシステイン含有ペプチドである。他の多量体化ドメインは、ロイシンジッパー、ヘリックスループモチーフ、またはコイルドコイルモチーフを含むまたはそれからなるペプチドまたはポリペプチドを含む。
【0031】
ある態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子は、2つの多量体化ドメイン、M1およびM2を含み、D1がM1に結合して、D2がM2に結合し、M1とM2の会合により、1つの多重特異性抗原結合分子中のD1とD2の互いの物理的連結が促進される。ある態様において、M1およびM2は、互いに同一である。たとえば、M1は、特定のアミノ酸配列を有するFcドメインでありえて、M2はM1と同じアミノ酸配列を有するFcドメインである。または、M1とM2は、1つまたは複数のアミノ酸位置が互いに異なりうる。たとえば、M1は、第一の免疫グロブリン(Ig)C
H3ドメインを含み、M2は、第二のIg C
H3ドメインを含みえて、第一および第二のIg C
H3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸が互いに異なり、少なくとも1つのアミノ酸の差により、同一のM1およびM2配列を有する参照構築物と比較してプロテインAに対する標的化構築物の結合が減少する。1つの態様において、M1のIg C
H3ドメインはプロテインAに結合して、M2のIg C
H3ドメインは、H95R(IMGTエキソンナンバリングによる;EUナンバリングではH435R)修飾などのプロテインA結合を減少させるまたは消失させる変異を含む。M2のC
H3はさらに、Y96F修飾(IMGTによる;EUではY436F)を含みうる。M2のC
H3内で見いだされうるさらなる修飾は:IgG1 Fcドメインの場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによる;EUでは、D356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I);IgG2 Fcドメインの場合、N44S、K52N、およびV82I(IMGTによる;EUでは、N384S、K392N、およびV422I);ならびにIgG4 Fcドメインの場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによる;EUでは、Q355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)を含む。
【0032】
インターナライジングエフェクタータンパク質(E)
本発明の文脈において、多重特異性抗原結合分子のD2成分は、インターナライジングエフェクタータンパク質(「E」)に特異的に結合する。インターナライジングエフェクタータンパク質は、細胞にインターナライズされることができる、またはそうでなければ逆行性の膜輸送に関与もしくは寄与するタンパク質である。いくつかの場合において、インターナライジングエフェクタータンパク質は、トランスサイトーシスを受けるタンパク質であり、すなわちタンパク質は、細胞の片側でインターナライズされて、細胞の反対側(たとえば、先端から基底部)に輸送される。多くの態様において、インターナライジングエフェクタータンパク質は、細胞表面発現タンパク質または可溶性細胞外タンパク質である。しかし、本発明はまた、インターナライジングエフェクタータンパク質がエンドソーム、小胞体、ゴルジ体、リソソーム等などの細胞内区画内で発現される態様も企図する。たとえば、逆行性の膜輸送(たとえば、初期/リサイクリングエンドソームからトランス-ゴルジネットワークへの経路)に関係するタンパク質は、本発明の様々な態様においてインターナライジングエフェクタータンパク質として役立ちうる。いずれにせよ、インターナライジングエフェクタータンパク質にD2が結合すると、多重特異性抗原結合分子全体およびそれに会合する任意の分子(たとえば、D1が結合する標的分子)も同様に細胞にインターナライズされるようになる。以下に説明するように、インターナライジングエフェクタータンパク質は、細胞に直接インターナライズされるタンパク質、ならびに細胞に間接的にインターナライズされるタンパク質を含む。
【0033】
細胞に直接インターナライズされるインターナライジングエフェクタータンパク質は、少なくとも1つの細胞外ドメインを有する膜会合分子(たとえば、膜貫通タンパク質、GPI-接着タンパク質等)を含み、この分子は細胞インターナリゼーションを受けて、好ましくは細胞内分解および/またはリサイクル経路を介して処理される。細胞に直接インターナライズされるインターナライジングエフェクタータンパク質の特異的な非制限的な例には、たとえばCD63、MHC-I(たとえば、HLA-B27)、Kremen-1、Kremen-2、LRP5、LRP6、LRP8、トランスフェリン受容体、LDL-受容体、LDL-関連タンパク質1受容体、ASGR1、ASGR2、アミロイド前駆体タンパク質様タンパク質-2(APLP2)、アペリン受容体(APLNR)、MAL(ミエリン-リンパ球タンパク質、通称VIP17)、IGF2R、液胞型H
+ ATPアーゼ、ジフテリア毒素受容体、葉酸受容体、グルタメート受容体、グルタチオン受容体、レプチン受容体、スキャベンジャー受容体(たとえば、SCARA1-5、SCARB1-3、CD36)等が挙げられる。
【0034】
Eが直接インターナライズされるエフェクタータンパク質である態様において、多重特異性抗原結合分子のD2成分は、たとえばEに特異的に結合する抗体もしくは抗体の抗原結合断片、またはエフェクタータンパク質と特異的に相互作用するリガンドもしくはリガンドの一部でありうる。たとえば、EがKremen-1またはKremen-2である場合、D2成分は、Kremenリガンド(たとえば、DKK1)またはそのKremen結合部分を含みうるまたはそれからなりうる。もう1つの例として、EがASGR1などの受容体分子である場合、D2成分は、受容体またはその受容体結合部分に対して特異的なリガンド(たとえば、アシアロオロソムコイド[ASOR]またはβ-GalNAc)を含みうるまたはそれからなりうる。
【0035】
細胞に間接的にインターナライズされるインターナライジングエフェクタータンパク質は、単独でインターナライズしないが、細胞に直接インターナライズされる第二のタンパク質またはポリペプチドに結合した後、またはそうでなければ会合した後に、細胞にインターナライズされるようになるタンパク質およびポリペプチドを含む。細胞に間接的にインターナライズされるタンパク質は、たとえば、インターナライジング細胞表面発現受容体分子に結合することができる可溶性リガンドを含む。インターナライジング細胞表面発現受容体分子とのその相互作用を介して細胞に(間接的に)インターナライズされる可溶性リガンドの非制限的な例は、トランスフェリンである。Eがトランスフェリン(またはもう1つの間接的にインターナライズされるタンパク質)である態様において、D2がEに結合して、およびEがトランスフェリン受容体(またはもう1つのインターナライジング細胞表面発現受容体分子)と相互作用すると、多重特異性抗原結合分子全体およびそれに会合する任意の分子(たとえば、D1が結合する標的分子)が、Eおよびその結合パートナーのインターナリゼーションと同時に細胞にインターナライズされるようになる。
【0036】
Eが可溶性リガンドなどの間接的にインターナライズされるエフェクタータンパク質である態様において、多重特異性抗原結合分子のD2成分は、たとえばEに特異的に結合する抗体もしくは抗体の抗原結合断片、または可溶性エフェクタータンパク質と特異的に相互作用する受容体もしくは受容体の一部でありうる。たとえば、Eがサイトカインである場合、D2成分は、対応するサイトカイン受容体またはそのリガンド結合部分を含みうるまたはそれからなりうる。
【0037】
標的分子(T)
本発明の文脈において、多重特異性抗原結合分子のD1成分は、標的分子(「T」)に特異的に結合する。標的分子は、その活性または細胞外濃度を減弱、減少、または消失させることが望ましい任意のタンパク質、ポリペプチド、または他の高分子である。多くの例において、D1が結合する標的分子は、タンパク質またはポリペプチド[すなわち、「標的タンパク質」]である;しかし、本発明はまた、D1が結合する標的分子(「T」)が、炭水化物、糖タンパク質、脂質、リポタンパク質、リポ多糖類、または他の非タンパク質ポリマーもしくは分子である態様を含む。本発明に従って、Tは、細胞表面発現標的タンパク質または可溶性標的タンパク質でありうる。多重特異性抗原結合分子による標的の結合は、細胞外または細胞表面の状況で起こりうる。しかし、ある態様において、多重特異性抗原結合分子は細胞内部の、たとえば小胞体、ゴルジ体、エンドソーム、リソソーム等などの細胞内成分内の標的分子に結合する。
【0038】
細胞表面発現標的分子の例には、細胞表面発現受容体、膜結合リガンド、イオンチャンネル、および細胞膜に結合または会合する細胞外部分を有する他の任意の単量体または多量体ポリペプチド成分が挙げられる。本発明の多重特異性抗原結合分子の標的となりうる非制限的な例示的な細胞表面発現標的分子には、たとえばサイトカイン受容体(たとえば、IL-1、IL-4、IL-6、IL-13、IL-22、IL-25、IL-33等の受容体)、ならびにPRLRなどの他のタイプ1膜貫通受容体、GCGRなどのGタンパク質共役受容体、Nav1.7、ASIC1またはASIC2などのイオンチャンネル、MHC-1(たとえば、HLA-B
*27)などの非受容体表面タンパク質等を含む細胞表面標的が挙げられる。
【0039】
Tが細胞表面発現標的タンパク質である態様において、多重特異性抗原結合分子のD1成分は、たとえば、Tに特異的に結合する抗体もしくは抗体の抗原結合断片、または細胞表面発現標的タンパク質と特異的に相互作用するリガンドもしくはリガンドの一部でありうる。たとえば、TがIL-4Rである場合、D1成分は、IL-4またはその受容体結合部分を含みうるまたはそれからなりうる。
【0040】
可溶性標的分子の例には、サイトカイン、増殖因子、ならびに他のリガンドおよびシグナル伝達タンパク質が挙げられる。本発明の多重特異性抗原結合分子の標的となりうる非制限的な例示的な可溶性標的タンパク質には、たとえばIL-1、IL-4、IL-6、IL-13、IL-22、IL-25、IL-33、SOST、DKK1等が挙げられる。可溶性標的分子にはまた、たとえばアレルゲン(たとえば、Fel D1、Betv1、CryJ1)、病原体(たとえば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)等)、および病原性分子(たとえば、リポ多糖類[LPS]、リポテイコ酸[LTA]、プロテインA、毒素等)などの非ヒト標的分子が挙げられる。Tが可溶性標的分子である態様において、多重特異性抗原結合分子のD1成分は、たとえば、Tに特異的に結合する抗体もしくは抗体の抗原結合断片、または可溶性標的分子と特異的に相互作用する受容体もしくは受容体の一部でありうる。たとえば、TがIL-4である場合、D1成分は、IL-4Rまたはそのリガンド結合部分を含みうるまたはそれからなりうる。
【0041】
標的分子はまた、本明細書において他所で記述される腫瘍関連抗原を含む。
【0042】
pH依存性結合
本発明は、抗原結合ドメイン(D1および/またはD2)の1つまたは両方がpH依存性にその抗原(TまたはE)に結合する、第一の抗原結合ドメイン(D1)および第二の抗原結合ドメイン(D2)を含む多重特異性抗原結合分子を提供する。たとえば、抗原結合ドメイン(D1および/またはD2)は、中性pHと比較して、酸性pHでその抗原に対して結合の減少を示しうる。または、抗原結合ドメイン(D1および/またはD2)は、中性pHと比較して酸性pHでその抗原に対して結合の増強を示しうる。pH依存性結合特徴を有する抗原結合ドメインは、たとえば中性pHと比較して酸性pHで特定の抗原に対する結合が減少するか(または増強されるか)に関して抗体集団をスクリーニングすることによって得られうる。加えて、アミノ酸レベルでの抗原結合ドメインの修飾により、pH依存性特徴を有する抗原結合ドメインを生じうる。たとえば、抗原結合ドメイン(たとえば、CDR内)の1つまたは複数のアミノ酸をヒスチジン残基に置換することによって、中性pHと比較して酸性pHでの抗原結合が減少する抗原結合ドメインが得られうる。
【0043】
ある態様において、本発明は、中性pHでそのそれぞれの抗原に対する結合に関するD1および/またはD2成分のK
Dより少なくとも約3、5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100倍またはそれより高いK
Dで、酸性pHでそのそれぞれの抗原(TまたはE)に結合するD1および/またはD2成分を含む多重特異性抗原結合分子を含む。pH依存性結合はまた、中性pHと比較して酸性pHでのその抗原に関する抗原結合ドメインのt
1/2に関しても表記されうる。たとえば、本発明は、中性pHでそのそれぞれの抗原に対する結合に関するD1および/またはD2成分のt
1/2より少なくとも約5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60倍またはそれより短いt
1/2で、酸性pHでそのそれぞれの抗原(TまたはE)に結合するD1および/またはD2成分を含む多重特異性抗原結合分子を含む。
【0044】
中性pHと比較して酸性pHでの抗原結合が減少するD1および/またはD2成分を含む本発明の多重特異性抗原結合分子は、動物対象に投与した場合に、ある態様において、pH依存性結合特徴を示さない同等の分子と比較して血液中からより遅いクリアランスを示しうる。本発明のこの局面に従って、中性pHと比較して酸性pHでの抗原結合が減少しない同等の抗原結合分子と比較して少なくとも2倍遅い血中からのクリアランスを示す、中性pHと比較して酸性pHでTおよび/またはEのいずれかに対する抗原結合が減少した多重特異性抗原結合分子が提供される。クリアランス速度は、抗体の半減期に関して表記されうるが、より遅いクリアランスはより長い半減期と相関する。
【0045】
本明細書において用いられる、「酸性pH」という表現は、pH 6.0またはそれ未満を意味する。「酸性pH」という表現は、約6.0、5.95、5.8、5.75、5.7、5.65、5.6、5.55、5.5、5.45、5.4、5.35、5.3、5.25、5.2、5.15、5.1、5.05、5.0、またはそれ未満のpH値を含む。本明細書において用いられる、「中性pH」という表現は、約7.0から約7.4のpHを意味する。「中性pH」という表現は、7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35、および7.4のpH値を含む。
【0046】
標的分子活性の減弱
本明細書において他所で注目したように、および本明細書において以下の実施例によって証明されるように、本発明者らは、多重特異性抗原結合分子が標的分子(T)およびインターナライジングエフェクタータンパク質(E)に同時結合することにより、多重特異性抗原結合分子の第一の抗原結合ドメイン(D1)成分のみがTに結合する場合より大きい程度にTの活性が減弱することを発見した。本明細書において用いられる、「D1のみがTに結合する場合より大きい程度にTの活性を減弱させる」という表現は、Eを発現する細胞を用いてTの活性を測定することができるアッセイにおいて、多重特異性抗原結合分子の存在下で測定されたTの活性レベルが、D1のみを含む(すなわち、第二の抗原結合ドメイン(D2)に物理的に連結していない)対照構築物の存在下で測定されるTの活性レベルより少なくとも10%低いことを意味する。例として、多重特異性抗原結合分子の存在下で測定されるTの活性レベルは、D1のみを含む対照構築物の存在下で測定されるTの活性レベルより約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%低くなりうる。
【0047】
多重特異性抗原結合分子が、D1ドメインのみが標的分子に結合する場合より大きい程度に標的分子の活性を減弱させるか否かを決定するための非制限的な例示的アッセイフォーマットを、本明細書において以下の実施例1および2に示す。実施例1において、例として、「T」は、インターロイキン-4受容体(IL-4R)であり、「E」はCD63である。実施例1の多重特異性抗原結合分子は、ストレプトアビジン/ビオチンリンカーを介して抗CD63 mAbに連結された抗IL-4R mAbを含む2-抗体コンジュゲートである。このように、この例示的な構築物における「D1」は、抗IL-4R抗体の抗原結合ドメイン(HCVR/LCVR対)であり、「D2」は抗CD63抗体の抗原結合ドメイン(HCVR/LCVR対)である。実施例1および2の実験に関して、外からIL-4リガンドを添加することによってIL-4R活性が刺激されるとレポーターシグナルを生じる細胞に基づくアッセイフォーマットを用いた。多重特異性抗原結合分子の存在下で検出されるIL-4誘導レポーター活性の量を、無関係な対照免疫グロブリンに連結した(対照1)、または抗CD63抗体と混合したが物理的に連結していない(対照2)抗IL-4R抗体を含む対照構築物の存在下で検出されたIL-4誘導レポーター活性の量と比較した。対照構築物はこのように、D1のみがTに結合する状況を生じる(すなわち、D1はそれ自体、多重特異性抗原結合分子の一部ではない)。多重特異性抗原結合分子の存在下で観察された標的分子活性(レポーターシグナルによって表される)の程度が、D1成分を含むがD2成分に物理的に連結していない対照構築物(たとえば、対照1または対照2)の存在下で観察される標的分子の活性量より少なくとも10%低ければ、本開示の目的に関して、「多重特異性抗原結合分子がTおよびEに同時に結合することにより、D1のみがTに結合する場合より大きい程度にTの活性が減弱する」と結論される。
【0048】
D1のみがTに結合することにより、いくつかの態様において、Tの活性の部分的減弱が起こりうる(抗IL-4R抗体単独[すなわち、対照1および2]によってレポーター細胞を処置すると、無処置対照と比較してIL-4シグナル伝達の低レベルの減弱を引き起こした実施例1の場合のように)。他の態様において、D1のみがTに結合する場合には、Tの活性の検出可能な減弱が起こらず、すなわちD1のみがTに結合しても、Tの生物活性は影響を受けない可能性がある。しかし、いずれにせよ、本発明の多重特異性抗原結合分子がTおよびEに同時に結合することにより、D1のみがTに結合する場合より大きい程度にTの活性が減弱される。
【0049】
本明細書において例証される代替アッセイフォーマットおよびアッセイフォーマットの変更は、任意の所定の多重特異性抗原結合分子が向けられうる特異的標的分子およびエフェクタータンパク質の性質を考慮すれば、当業者には明らかであろう。多重特異性抗原結合分子がTおよびEに同時に結合することにより、D1のみがTに結合する場合より大きい程度にTの活性が減弱するか否かを決定するために、そのような任意のフォーマットを本発明の文脈において用いることができる。
【0050】
腫瘍の標的化
本発明のもう1つの局面において、多重特異性抗原結合分子は、腫瘍細胞を標的とするために有用である。本発明のこの局面に従って、D1が結合する標的分子「T」は、腫瘍関連抗原である。ある態様において、腫瘍関連抗原は、通常インターナライズされない抗原である。D2が結合するインターナライジングエフェクタータンパク質「E」は、腫瘍特異的でありうるか、または個体の腫瘍細胞および非腫瘍細胞の両方において発現されうる。本明細書において他所で言及したインターナライジングエフェクタータンパク質のいずれも、本発明の抗腫瘍応用のために標的化されうる。
【0051】
本明細書において用いられる「腫瘍関連抗原」という用語は、腫瘍細胞の表面上に選択的に発現されるタンパク質またはポリペプチドを含む。この文脈において用いられる「選択的に発現される」という表現は、抗原が、非腫瘍細胞における抗原の発現レベルより、腫瘍細胞において少なくとも10%(たとえば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、150%、200%、400%、またはそれ以上の)高いレベルで発現されることを意味する。ある態様において、標的分子は、腎腫瘍細胞、結腸腫瘍細胞、乳腺腫瘍細胞、卵巣腫瘍細胞、皮膚腫瘍細胞、肺腫瘍細胞、前立腺腫瘍細胞、膵臓腫瘍細胞、膠芽細胞腫細胞、頭頚部腫瘍細胞、および黒色腫細胞からなる群より選択される腫瘍細胞の表面上に選択的に発現される抗原である。特異的腫瘍関連抗原の非制限的な例には、たとえば、AFP、ALK、BAGEタンパク質、β-カテニン、brc-abl、BRCA1、BORIS、CA9、炭酸脱水素酵素IX、カスパーゼ-8、CD40、CDK4、CEA、CTLA4、サイクリン-B1、CYP1B1、EGFR、EGFRvIII、ErbB2/Her2、ErbB3、ErbB4、ETV6-AML、EphA2、Fra-1、FOLR1、GAGEタンパク質(たとえば、GAGE-1、-2)、GD2、GD3、グロボH、グリピカン-3、GM3、gp100、Her2、HLA/B-raf、HLA/k-ras、HLA/MAGE-A3、hTERT、LMP2、MAGEタンパク質(たとえば、MAGE-1、-2、-3、-4、-6、および-12)、MART-1、メソテリン、ML-IAP、Muc1、Muc16(CA-125)、MUM1、NA17、NY-BR1、NY-BR62、NY-BR85、NY-ESO1、OX40、p15、p53、PAP、PAX3、PAX5、PCTA-1、PLAC1、PRLR、PRAME、PSMA(FOLH1)、RAGEタンパク質、Ras、RGS5、Rho、SART-1、SART-3、Steap-1、Steap-2、サバイビン、TAG-72、TGF-β、TMPRSS2、Tn、TRP-1、TRP-2、チロシナーゼ、およびウロプラキン-3が挙げられる。
【0052】
本発明のこの局面に従う多重特異性抗原結合分子を、細胞の生存にとって有害な薬物、毒素、放射性同位元素、または他の物質にコンジュゲートさせてもよい。または薬物もしくは毒素は、細胞を直接死滅させないが、他の外因性の物質による殺細胞に対して細胞をより感受性にする物質でありうる。腫瘍の標的化を伴うなお他の態様において、本発明の多重特異性抗原結合分子は、それ自身、薬物、毒素、または放射性同位元素にコンジュゲートされないが、その代わりに、薬物、毒素、または放射性同位元素にコンジュゲートされた、標的(T)に対して特異的な第二の抗原結合分子(本明細書において「随伴分子」と呼ばれる)と共に投与される。そのような態様において、多重特異性抗原結合分子は好ましくは、随伴分子によって認識されるエピトープとは異なるおよび/または重なり合わない標的分子(T)上のエピトープに結合する(すなわち、標的に多重特異性抗原結合分子および随伴分子が同時に結合することが可能となる)。
【0053】
関連する態様において、本発明はまた、(a)腫瘍関連抗原に特異的に結合する毒素または薬物コンジュゲート抗原結合分子;ならびに(b)(i)インターナライジングエフェクタータンパク質に特異的に(たとえば、低い親和性で)結合する第一の結合ドメイン、および(ii)毒素-または薬物コンジュゲート抗原結合分子に特異的に結合する第二の結合ドメインを含む多重特異性抗原結合分子を含む、抗腫瘍併用および治療法も含む。この態様において、多重特異性抗原結合分子は、毒素または薬物コンジュゲート抗原結合分子をインターナライジングエフェクタータンパク質に連結させるように機能して、それによって腫瘍関連抗原をインターナライジングエフェクタータンパク質に物理的に連結させるように機能する。インターナライジングエフェクタータンパク質とのその結合を介して毒素標識抗腫瘍関連抗原抗体がインターナライズされることにより、結果として、標的化腫瘍細胞死滅が起こるであろう。
【0054】
本発明の腫瘍標的化局面のある態様に従って、多重特異性抗原結合分子(または随伴抗体)は、カリケアミシン、エスペラマイシン、メトトレキサート、ドキソルビシン、メルファラン、クロラムブシル、ARA-C、ビンデシン、マイトマイシンC、シスプラチン、エトポシド、ブレオマイシン、5-フルオロウラシル、エストラムスチン、ビンクリスチン、エトポシド、ドキソルビシン、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル、オラタキセル、ドセタキセル、ドラスタチン10、アウリスタチンE、アウリスタチンPHE、およびメイタンシン骨格の化合物(たとえば、DM1、DM4等)からなる群より選択される1つまたは複数の細胞障害剤にコンジュゲートされうる。多重特異性抗原結合分子(または随伴抗体)は、同様にまたは代わりに、ジフテリア毒素、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)外毒素A、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、α-サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質等などの毒素にコンジュゲートされうる。多重特異性抗原結合分子(または随伴抗体)は、同様にまたは代わりに、
225Ac、
211At、
212Bi、
213Bi、
186Rh、
188Rh、
177Lu、
90Y、
131I、
67Cu、
125I、
123I、
77Br、
153Sm、
166Ho、
64Cu、
121Pb、
224Ra、および
223Raからなる群より選択される1つまたは複数の放射性同位元素にコンジュゲートされうる。このように、本発明のこの局面は、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)または抗体-放射性同位元素コンジュゲート(ARC)である多重特異性抗原結合分子を含む。
【0055】
腫瘍細胞死滅応用の文脈において、D2成分は、ある状況において、インターナライジングエフェクタータンパク質「E」に対して低い親和性で結合しうる。このように、多重特異性抗原結合分子は、腫瘍関連抗原を発現する腫瘍細胞を選択的に標的とする。本明細書において用いられる「低親和性」結合とは、インターナライジングエフェクタータンパク質(E)に対するD2成分の結合親和性が、標的分子(T)に対するD1成分の結合親和性より少なくとも10%弱い(たとえば、15%弱い、25%弱い、50%弱い、75%弱い、90%弱い等)ことを意味する。ある態様において、「低親和性」結合は、表面プラズモン共鳴アッセイにおいて約25℃で測定した場合に、D2成分が約10 nMより大きいK
Dから約1μMのK
Dでインターナライジングエフェクタータンパク質(E)と相互作用することを意味する。
【0056】
インターナライジングエフェクタータンパク質および腫瘍関連抗原に多重特異性抗原結合分子が同時結合することによって、腫瘍細胞への多重特異性抗原結合分子の選択的インターナリゼーションが起こる。たとえば、多重特異性抗原結合分子を、薬物、毒素、または放射性同位元素にコンジュゲートすると(または、多重特異性抗原結合分子を、薬物、毒素、または放射性同位元素にコンジュゲートした随伴抗体と共に投与すると)、腫瘍関連抗原が腫瘍細胞に標的化インターナライズされると、多重特異性抗原結合分子とのその連結を介して極めて特異的な腫瘍細胞死滅が起こる。
【0057】
薬学的組成物および投与法
本発明は、多重特異性抗原結合分子を含む薬学的組成物を含む。本発明の薬学的組成物は、適した担体、賦形剤、ならびに移入の改善、送達の改善、認容性の改善、およびその他を提供する他の物質と共に処方されうる。
【0058】
本発明はまた、標的分子(T)の活性を不活化または減弱させる方法も含む。本発明の方法は、本明細書において記述される多重特異性抗原結合分子を標的分子に接触させる段階を含む。ある態様において、本発明のこの局面に従う方法は、標的分子を不活化する、減弱させる、またはそうでなければ標的分子の細胞外濃度を減少させることが望ましいおよび/または有益である患者に、多重特異性抗原結合分子を含む薬学的組成物を投与する段階を含む。
【0059】
様々な送達系が当技術分野において公知であり、本発明の薬学的組成物を患者に投与するために用いることができる。本発明の文脈において用いることができる投与法は、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻内、硬膜外、および経口経路を含むがこれらに限定されるわけではない。本発明の薬学的組成物は、任意の簡便な経路によって投与されてもよく、たとえば注入またはボーラス注射によって、上皮または粘膜皮膚管壁細胞(たとえば、口腔粘膜、直腸および腸管粘膜等)を通しての吸収によって投与されてもよく、および他の生物活性物質と共に投与されてもよい。投与は全身または局所でありうる。たとえば、標準的な針およびシリンジによって、本発明の薬学的組成物を皮下または静脈内に送達することができる。加えて、皮下送達に関して、ペン送達装置を用いて本発明の薬学的組成物を患者に投与することができる。
【実施例】
【0060】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物を作製および用いる方法の完全な開示および説明を当業者に提供するために示されており、本発明者らが本発明であると見なす範囲を制限しないと意図される。用いた数字(たとえば、量、温度等)に関しては正確を期するように努力したが、何らかの実験誤差および逸脱は考慮されるべきである。それ以外であることを示している場合を除き、割合は重量での割合であり、分子量は平均分子量であり、温度はセ氏であり、および圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0061】
実施例1.インターナライジングエフェクタータンパク質との連結を介して細胞表面受容体の分解を誘導するための多重特異性抗原結合分子の利用
最初の概念実証実験として、(a)インターナライズエフェクター分子および(b)細胞表面受容体標的分子、に結合することができる多重特異性抗原結合分子を作製した。本実施例において、インターナライジングエフェクタータンパク質は、Kremen-2(Krm2)であり、細胞表面受容体標的分子はFc受容体(FcγR1[Fcγ-R1])である。
【0062】
Kremen分子(Krm1およびKrm2)は、WNT経路のシグナル伝達分子であるLRP5およびLRP6のインターナリゼーションおよび分解を指示することによってWNTシグナル伝達を媒介することが知られている細胞表面タンパク質である。LRP5/6のインターナリゼーションは、可溶性の相互作用タンパク質DKK1を介して行われる。詳しくは、DKK1は、細胞表面上でKremenをLRP5/6に連結させ、この連結のために、Kremenがインターナライズされると、LRP5およびLRP6のインターナリゼーションおよび分解が促進される(Li et al., PLoS One 5(6):e11014を参照されたい)。
【0063】
本発明者らは、FcγR1のインターナリゼーションを誘導するために、DKK1のKremen結合特性およびKremenのインターナリゼーション特性を利用しようと試みた。FcγR1のKremen媒介インターナリゼーション/分解を促進するために、マウスFcに融合したDKK1(DKK1-mFc、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する)からなる多重特異性抗原結合分子を構築した。本明細書において他所で説明したように、多重特異性抗原結合分子は、標的分子に特異的に結合する第一の抗原結合ドメイン(D1)と、インターナライジングエフェクタータンパク質に特異的に結合する第二の抗原結合ドメイン(D2)とを含む分子として定義される。この概念実証実施例において、「第一の抗原結合ドメイン」は、標的分子FcγR1に特異的に結合するmFc成分であり、「第二の抗原結合ドメイン」は、インターナライジングエフェクタータンパク質Kremenに特異的に結合するDKK1成分である。
【0064】
DKK1-mFcがKremen依存的に細胞にエンドサイトーシスされうるか否かを決定するための実験を最初に行った。この実験に関して、2つの細胞株、すなわち細胞-1、FcγR1を発現するがKremen-2を発現しないように工学操作されたHEK293細胞株、および細胞-2、FcγR1とKremen-2の両方を発現するように工学操作されたHEK293細胞を用いた。DKK1-mFc条件培地の1:10希釈液を、それぞれの細胞株に添加して、37℃で90分間インキュベートした。90分間インキュベートした後、細胞をAlexa-488標識抗マウスIgG抗体によって染色して、DKK1-mFc分子を検出した。蛍光顕微鏡を用いて、細胞-1(Kremenを欠如する)内部には、実質的にDKK1-mFcが存在しなかったことが確認されたが、Kremen-2を発現する細胞-2内部には、DKK1-mFcの実質的な量が検出された。このように、これらの結果は、多重特異性抗原結合分子DKK1-mFcが、Kremen依存的に細胞にインターナライズされうることを示している。
【0065】
次に、DKK1-mFcがFcγR1分解をKremen依存的に誘導することができるか否かを決定するための経時変化実験を行った。実験プロトコールの簡単な説明を以下に記述する:細胞-1(FcγR1のみを発現する)、および細胞-2(Kremen-2およびFcγR1を発現する)を2 mg/ml NHS-スルホビオチンによって氷中で15分間処置して、全ての細胞表面発現タンパク質を標識した。次に細胞を洗浄して、培地400μlに浮遊させて、4つの100μlアリコートに分けて、これをDKK1-mFcによって様々な期間(0分、15分、30分、および60分間)、37℃で処置した。DKK1-mFcインキュベーション後、細胞を沈降させて、プロテアーゼ阻害剤によって処置した。異なるインキュベーション時点からの細胞の溶解物をFcγR1免疫沈降に供した。FcγR1免疫沈降に関して、マウス抗FcγR1抗体を細胞溶解物に加えて、4℃で1時間インキュベートした。プロテイン-Gビーズを加えて、混合物を4℃で1時間インキュベートした。次にビーズを洗浄して、タンパク質を溶出させて、SDS-PAGEに供した。タンパク質をメンブレンに転写して、HRP-標識ストレプトアビジンによってプロービングして、各試料中の残っている表面露出FcγR1タンパク質の相対量を明らかにした。結果を
図2に示す。
【0066】
図2に示されるように、細胞-1(FcγR1を発現するがKremen-2を発現しない)試料中の表面露出FcγR1タンパク質の量は、細胞をDKK1-mFcに曝露した期間によらず、比較的一定のままであった。これに対し、細胞-2(Kremen-2 とFcγR1の両方を発現する)試料中の表面露出FcγR1タンパク質の量は、DKK1-mFcとのインキュベーション時間が増加すると実質的に減少した。このように、この実験は、DKK1-mFcが細胞表面に発現されたFcγR1の分解をKremen-2依存的に誘導することを証明する。
【0067】
総合すれば、前述の結果は、細胞表面標的分子(FcγR1)とインターナライジングエフェクタータンパク質(Kremen-2)に同時に結合する多重特異性抗原結合分子が、標的分子の分解をエフェクタータンパク質依存的に誘導できることを示している。
【0068】
実施例2.IL-4R活性は、IL-4RおよびCD63に対して特異性を有する多重特異性抗原結合分子を用いて減弱される
さらなる組の概念実証実験において、細胞表面発現標的分子(すなわち、IL-4R)および細胞表面発現インターナライジングエフェクタータンパク質(すなわち、CD63)に同時に結合することができる多重特異性抗原結合分子を構築した。これらの実験の目的は、インターナライズされてリソソーム内での分解の標的となるエフェクター分子(この場合、CD63)にIL-4Rを物理的に連結させることによって、細胞のIL-4R活性をより大きい程度に減弱させることができるか否かを決定することであった。言い換えれば、本実施例は、CD63の通常のインターナリゼーションおよび分解を用いて、細胞内のIL-4Rのインターナリゼーションおよび分解経路の再設定を強化することができるか否かを調べるために設計された。
【0069】
第一に、IL-4RとCD63の両方に結合することができる多重特異性抗原結合分子を構築した。具体的に、ストレプトアビジンコンジュゲート抗IL-4R抗体およびビオチニル化抗CD63抗体を1:1の比率で混合して、抗IL-4R:抗CD63コンジュゲート(すなわち、IL-4RとCD63の両方に特異的に結合する多重特異性抗原結合分子)を作製した。本実施例において用いた抗IL-4R抗体は、IL-4R細胞外ドメインに対して作製した完全なヒトmAbである。(抗IL-4R抗体は、SEQ ID NO:3を有する重鎖可変領域およびSEQ ID NO:4を有する軽鎖可変領域を含んだ)。本実施例において用いた抗CD63抗体は、Biolegend(San Diego, CA)、カタログ番号312002から得たマウス抗ヒトCD63 mAbクローンMEM-259である。
【0070】
2つの対照構築物も同様に作製した:対照-1=ビオチニル化対照マウスIgG1カッパ抗体と1:1の比率で混合したストレプトアビジンコンジュゲート抗IL-4R抗体;および対照-2=非ビオチニル化抗CD63抗体と1:1の比率で混合したストレプトアビジンコンジュゲート抗IL-4R抗体。本実施例に関して実験構築物および対照構築物において用いられる抗IL-4R抗体は、IL-4Rに特異的に結合するが、IL-4媒介シグナル伝達の遮断はごく部分的であることが知られている抗体である。
【0071】
本実施例において用いられる実験細胞株は、STAT6-ルシフェラーゼレポーター構築物および追加のSTAT6を含むHEK293細胞株(「HEK293/STAT6-luc細胞」)である。本実験において用いられる細胞は、その表面にIL-4RおよびCD63の両方を発現する。任意の阻害剤の非存在下でIL-4によって処置すると、この細胞株は、用量依存的で検出可能な化学発光シグナルを生じ、これはIL-4媒介シグナル伝達の程度を反映する。
【0072】
初回の実験において、実験的抗IL-4R/抗CD63多重特異性分子または対照構築物を、培地中の抗IL-4R抗体の最終濃度が12.5 nMとなるようにHEK293/STAT6-luc細胞に添加した。実験的および対照構築物の存在下および非存在下でIL-4の濃度を増加させて、レポーターシグナルを測定した(
図3)。
図3に認められるように、抗IL-4R/抗CD63多重特異性分子(「抗体コンジュゲート」)は、IL-4媒介シグナル伝達を、対照構築物より有意に大きい程度に阻害した。
【0073】
図3において観察された効果がCD63に依存的であったことを確認するために、CD63に対するsiRNAを用いてCD63発現をレポーター細胞株において有意に減少させたことを除き、上記と同じ実験を行った。CD63発現が有意に減少すると、抗IL-4R/抗-CD63多重特異性分子の阻害活性の増強はもはや観察されなかった(
図4)。この結果は、抗IL-4R/抗-CD63多重特異性分子がIL-4媒介シグナル伝達を減弱させる能力が、IL-4RとCD63に対する多重特異性分子の同時結合、ならびに抗体-IL-4R-CD63複合体全体のその後のインターナリゼーションおよび分解によることを示唆している。
【0074】
次に、IL-4を添加する前に、抗IL-4R/抗CD63多重特異性分子または対照構築物をHEK293/STAT6-lucレポーター細胞株と共に様々な期間インキュベートする類似の実験を行った。そのような実験の最初の組において、50 pM IL-4を添加する前に、分子をレポーター細胞株と共に、0時間(すなわち、IL-4と同時に添加)、2時間、または終夜インキュベートした。ルシフェラーゼ活性を、IL-4の添加後6時間で測定した。結果を
図5の上のパネル(「非トランスフェクト」)に示す。さらなる実験の組において、50 pM IL-4を添加する前に、実験または対照分子をレポーター細胞株と共に15分、30分、1時間、または2時間インキュベートする類似のプロトコールを行った。結果を
図6に示す。
【0075】
図5および6に要約した結果は、抗IL-4R/抗CD63多重特異性分子が、IL-4媒介シグナル伝達を阻害することができること、およびインキュベーション時間が長くなればこの阻害効果が増強されることを示している。初回の実験の組に関して、抗IL-4R/抗CD63多重特異性分子の阻害効果がCD63発現に依存することが、CD63 siRNAを用いて確認された(
図5、下のパネル[「CD63 siRNA」])。
【0076】
要約すると、本実施例は、標的分子(この場合IL-4R)およびインターナライジングエフェクタータンパク質(この場合、CD63)の両方に同時に結合することができ、それによって細胞内で標的分子のインターナリゼーションおよび分解経路の再設定を引き起こす多重特異性抗原結合分子を用いることを通して、標的分子活性の阻害に関するさらなる概念実証を提供する。別の言い方をすれば、例示的な多重特異性抗原結合分子がIL-4RとCD63に同時結合することにより、IL-4Rの活性を、対照構築物のみがIL-4Rに結合する場合より実質的に大きい程度(すなわち、>10%)に減弱させた。
【0077】
実施例3.抗IL-4R×抗CD63二重特異性抗体はIL-4R活性をCD63依存的に減弱させる
本明細書における実施例2の実験は、抗IL-4R/抗CD63多重特異性分子が、IL-4媒介シグナル伝達をCD63依存的に阻害することを示す。それらの実験において、多重特異性抗原結合分子は、ビオチン-ストレプトアビジン結合を介して連結されたつの異なるモノクローナル抗体(抗IL-4Rおよび抗CD63)からなった。その概念実証多重特異性抗原結合分子について観察された結果が、他の多重特異性抗原結合分子フォーマットに一般化することができることを確認するために、真の二重特異性抗体を構築した。
【0078】
標準的な二重特異性抗体技術を用いて、IL-4Rに対して特異的な第一のアームおよびCD63に対して特異的な第二のアームからなる二重特異性抗体を構築した。IL-4R特異的アームは、CD63特異的軽鎖と対を形成した抗IL-4R重鎖を含んだ。CD63特異的軽鎖は、単に構築の簡便さの目的のためにIL-4R特異的重鎖と対を形成した;それにもかかわらず、抗IL-4R重鎖と抗CD63軽鎖を対にしても、IL-4Rに対する完全な特異性を保持して、CD63に対する結合を示さなかった。CD63特異的アームは抗CD63軽鎖(IL-4Rアームにおいて用いたものと同じ軽鎖)と対を形成した抗CD63重鎖を含んだ。抗IL-4R重鎖(SEQ ID NO:3を含む)は、実施例2で用いた完全な抗IL-4R抗体に由来した。しかし、抗CD63重鎖および軽鎖は、Developmental Studies Hybridoma Bank(University of Iowa Department of Biology, Iowa City, IA)から得られたH5C6と呼ばれる抗CD63抗体に由来した。実施例2で用いた完全な抗IL-4R抗体と同様に、本実施例において用いた二重特異性抗体の抗IL-4R成分は、単独でごく控えめなIL-4R遮断活性を示した。
【0079】
抗IL-4R×抗CD63二重特異性抗体の遮断活性を評価するために、IL-4ルシフェラーゼアッセイを行った。簡単に説明すると、抗IL-4R×抗CD63二重特異性抗体の連続希釈液または対照分子をHEK293/STAT6-lucレポーター細胞に添加した(実施例2を参照されたい)。通常の条件で、これらの細胞は、IL-4によって処置した場合に検出可能なルシフェラーゼシグナルを生じる。この実験に関して、10 pM IL-4を細胞に添加して、ルシフェラーゼ活性を、用いた抗体の各希釈に関して定量した。このアッセイに用いた対照は、(a)1つのアームでIL-4Rに結合し、非機能的抗CD63アームを有する(すなわち、いずれも抗IL-4R軽鎖と対を形成する、1つの抗IL-4R重鎖と1つの抗CD63重鎖とを含む)偽二重特異性抗体;(b)抗IL-4R単特異性抗体;および(c)緩衝液(PBS)のみ(抗体を含まない)であった。結果を
図7に示す。
図7に示されるように、用いた対照試料に関して、ルシフェラーゼ活性は最高の抗体濃度でも比較的高いままであったが、二重特異性抗体の場合、ルシフェラーゼ活性は、抗体濃度が増加すると有意に低下した。これらの結果は、二重特異性抗体によるIL-4RとCD63の同時結合がIL-4R活性の実質的な阻害を引き起こすことを確認する。
【0080】
実施例4.SOSTおよびCD63に同時に結合する多重特異性抗原結合分子を用いるSOSTのインターナリゼーション
本実施例において、多重特異性抗原結合分子が可溶性標的分子SOST(スケロスチン)のインターナリゼーションを促進するか否かを評価した。これらの実験に関して、標的分子は、pHrodo(商標)部分(Life Technologies, Carlsbad, CA)およびmycタグによってタグ付けされたヒトSOSTタンパク質からなる融合タンパク質であった。pHrodo(商標)部分は、中性pHで実質的に蛍光を発しないが、エンドソームなどの酸性環境では明るい蛍光を発するpH感受性の色素である。それゆえ、蛍光シグナルを、SOST融合タンパク質の細胞内インターナリゼーションの指標として用いることができる。これらの実験に関する多重特異性抗原結合分子は、以下により詳細に記述するように、CD63(インターナライジングエフェクタータンパク質)とSOST融合タンパク質(可溶性標的分子)の両方に対して結合特異性を有する二重特異性抗体であった。
【0081】
実験は以下のように行われた。簡単に説明すると、HEK293細胞を10,000個/ウェルでポリ-D-リジンコーティング96ウェルプレート(Greiner Bio-One, Monroe, NC)において平板培養した。細胞を終夜沈降させた後、培地を、抗体(5μg/mL、以下に記述する)、pHrodo(商標)-myc-タグSOST(5μg/mL)、ヘパリン(10μg/mL)、およびHoechst 33342を含む培地と交換した。次に、細胞を氷中で3時間、または37℃で3時間インキュベートした。イメージングの前に全ての細胞をPBS中で2回洗浄して、細胞あたりの蛍光スポット数ならびに対応する蛍光強度を計数して、様々な抗体構築物の存在下でのpHrodo-mycタグSOST細胞インターナリゼーションの程度を確立した。
【0082】
本実施例において用いた抗体は以下の通りであった:(1)抗CD63単特異性抗体(クローンH5C6、Developmental Studies Hybridoma Bank, University of Iowa Department of Biology, Iowa City, IA);(2)抗myc抗体(クローン9E10、Schiweck et al., 1997, FEBS Lett. 414(1):33-38);(3)抗SOST抗体(米国特許第7,592,429号において「Ab-B」と呼ばれる抗体の重鎖および軽鎖可変領域を有する抗体);(4)抗CD63×抗myc二重特異性抗体(すなわち、抗体H5C6に由来する抗CD63アームと、9E10に由来する抗mycアームとを含む多重特異性抗原結合分子);(5)抗CD63×抗SOST二重特異性抗体#1(すなわち、抗体H5C6に由来する抗CD63アームと、「Ab-B」に由来する抗SOSTアームとを含む多重特異性抗原結合分子);および(6)抗CD63×抗SOST二重特異性抗体#2(すなわち、抗体H5C6に由来する抗CD63アームと、米国特許第7,592,429号において「Ab-20」と呼ばれる抗体に由来する抗SOSTアームとを含む多重特異性抗原結合分子)。これらの実験において用いられる二重特異性抗体は、いわゆる「knobs-into-holes」方法論を用いてアセンブルされた(たとえば、Ridgway et al., 1996, Protein Eng. 9(7):617-621を参照されたい)。
【0083】
インターナリゼーション実験の結果を
図8に示す。
図8は、試験した様々な処置条件下での細胞あたりのスポット(標識小胞)数を示す。総合すれば、これらの実験の結果は、CD63とSOSTに同時に(直接またはmycタグを介して)結合する二重特異性構築物が、37℃で経時的な細胞あたりの蛍光強度および蛍光スポット数によって反映されるように、最大量のSOSTインターナリゼーションを引き起こしたことを証明する。このように、本実施例において用いた多重特異性抗原結合分子は、可溶性標的分子のインターナリゼーションを有効に指示することができる。
【0084】
実施例5.CD63およびSOSTに結合する多重特異性抗原結合分子によって処置したマウスにおける骨塩量の変化
実施例4に記述された抗CD63×抗SOST多重特異性抗原結合分子を、次に、マウスにおける骨塩量を増加させることができるか否かに関して調べた。これらの実験においてマウス5群(1群あたりマウス約6匹)を用いる。処置群は以下のとおりである:(I)無処置陰性対照マウス;(II)単独で骨塩量を増加させることが知られているブロッキング抗SOST単特異性抗体によって処置したマウス(陽性対照);(III)CD63およびSOSTに特異的に結合するが、単独でSOST活性を阻害しないか、または単独でSOST活性をごくわずかに阻害する二重特異性抗体によって処置したマウス;(IV)抗CD63親抗体(すなわち、二重特異性抗体と同じ抗CD63抗原結合ドメインを含む単特異性抗体)によって処置したマウス;および(V)抗SOST親抗体(すなわち、二重特異性抗体と同じ抗SOST抗原結合ドメインを含む単特異性抗体)によって処置したマウス。各群のマウスに投与した抗体の量は、約10から25 mg/kgである。
【0085】
III群のマウス(抗SOST×抗CD63二重特異性抗体によって処置)は、たとえ二重特異性抗体の抗SOST成分が単独でSOST活性を阻害しなくとも(骨塩量の増加を示さないと予想されるV群のマウスによって確認)、II群のマウス(公知のブロッキング抗SOST抗体によって処置)において観察された骨塩量と少なくとも同等である骨塩量の増加を示すと予想される。III群のマウスにおいて予想される骨塩量の増加は、先の実施例4の細胞実験において観察されたようにSOSTのCD63媒介インターナリゼーションによって促進されると考えられる。
【0086】
実施例6.LPSとCD63に同時に結合する多重特異性抗原結合分子によって媒介されるリポ多糖類(LPS)の細胞インターナリゼーション
本実施例は、非タンパク質標的分子、すなわちリポ多糖類(LPS)のインターナリゼーションを指示するために本発明の多重特異性抗原結合分子を用いることを説明する。LPSは、グラム陰性細菌の外膜の成分であり、敗血症ショックに寄与することが知られている。抗LPS抗体は、敗血症に関して可能性がある処置物質として研究されている。本実施例の実験は、多重特異性抗原結合分子がLPSのインターナリゼーションを促進することができるか否かを評価するために設計された。
【0087】
本実施例において用いた多重特異性抗原結合分子は、LPS(標的)に対する1つのアームと、CD63(インターナライジングエフェクタータンパク質)に対するもう1つのアームとを有する二重特異性抗体であった。抗LPSアームは、WN1 222-5として知られる抗体に由来した(DiPadova et al., 1993, Infection and Immunity 61(9):3863-3872; Muller-Loennies et al., 2003, J. Biol. Chem. 278(28):25618-25627; Gomery et al., 2012, Proc. Natl. Acad. Sci USA 109(51):20877-20882; US 5,858,728)。抗CD63アームはH5C6抗体に由来した(実施例4を参照されたい)。抗LPS×抗CD63二重特異性抗体(すなわち、多重特異性抗原結合分子)を、いわゆる「knobs-into-holes」方法論を用いてアセンブルした(たとえば、Ridgway et al., 1996, Protein Eng. 9(7):617-621を参照されたい)。
【0088】
2つのLPS種をこれらの実験に用いた:大腸菌LPSとサルモネラ・ミネソタ(Salmonella minnesota)LPS。いずれの型も蛍光標識分子(ALEXA-FLUOR(登録商標)-488標識LPS、 Life Technologies, Carlsbad, CA)として得た。
【0089】
実験を以下のように行った。HEK293細胞を96ウェルPDLコーティングイメージングプレートにおいて平板培養した。終夜休ませた後、培地を新しい培地に交換した。蛍光標識LPS(大腸菌またはS.ミネソタ由来)を通常の培地に添加した。次に、抗LPS×抗CD63二重特異性抗体またはダミーFcと対を形成した対照の半抗体を試料に添加した。37℃(1時間および3時間)または氷中(3時間)で様々なインキュベーション時間の後、LPS処置試料の細胞を以下のように処理した:洗浄−抗ALEXA-FLUOR(登録商標)-488抗体による消光−洗浄&固定。抗ALEXA-FLUOR(登録商標)-488抗体は、非インターナライズ(すなわち表面結合)蛍光体からの蛍光を消光させる。このように、消光抗体処置試料中で観察されるいかなる蛍光もインターナライズされたLPSによるものである。様々な時点で各試料の蛍光レベルを測定した。
【0090】
図9は、これらの実験の結果を細胞あたりの標識小胞数に関して表記する。
図9に示されるように、抗CD63×抗LPS二重特異性抗体によって処置した細胞のみが、時間と共に増加する有意な数の標識小胞を示した。標識LPSおよび対照抗体によって処置した細胞は、認識可能な数の蛍光小胞を示さず、LPSがそれらの処置条件下でインターナライズされなかったことを示している。
【0091】
それゆえ、本実施例は、抗LPS×抗CD63二重特異性抗体が、LPSとCD63の同時結合を必要とする手法で細胞へのLPSのインターナリゼーションを引き起こすことを証明する。したがって、これらの結果は、敗血症などの疾患および障害を処置するために、LPSなどの標的分子の細胞インターナリゼーションを促進するために本発明の多重特異性抗原結合分子を用いることを支持する。
【0092】
本発明は、本明細書に記述される特異的態様によって範囲を制限されない。実際に、前述の説明および添付の図面から、本明細書において記載された内容に加えて本発明の様々な改変が当業者に明らかとなるであろう。そのような改変は添付の特許請求の範囲内に入ると意図される。