(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記反射鏡は、上記表示器からの出射光を反射させる平面鏡と、当該平面鏡での反射光を更に反射させる凹面鏡とを含み、上記平面鏡および上記凹面鏡の少なくとも一方を上記電子デバイスにより構成したことを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
上記電子デバイスを複数重ねて配置し、何れか一の電子デバイスに対して選択的に電圧を印加することを特徴とする請求項1または2に記載のヘッドアップディスプレイ。
上記第1の電極面および上記第2の電極面をそれぞれn個に分割してn組の分割電極面を構成するとともに、上記電子デバイスを複数重ねて配置し、何れか一の電子デバイスが持つn組の分割電極面のうち何れか1組に対して選択的に電圧を印加するとともに、上記一の電子デバイスとは異なる他の電子デバイスが持つn組の分割電極面のうち何れか1組に対して選択的に電圧を印加することを特徴とする請求項1または2に記載のヘッドアップディスプレイ。
【背景技術】
【0002】
近年、運転者の視線移動を最少とし、運転中に必要な情報を見やすく表示するためのヘッドアップディスプレイ(HUD)の普及が進んでいる。このヘッドアップディスプレイに各種情報(例えば、車速、進行方向、制限速度等)を示す画像を表示することにより、運転者は、視線を前方から逸らさずに各種情報を視認することができる。
【0003】
ヘッドアップディスプレイは主に、フロントウインドウを表示面として用いるウインドシールド方式と、コンバイナと呼ばれる半透明のスクリーンを表示面として用いるコンバイナ方式とに分けられる。
【0004】
ウインドシールド方式のヘッドアップディスプレイは、ダッシュボード内の表示器から出射された表示画像を、凹面鏡で反射させた後、ダッシュボードの上面に形成された開口部から出射させて、運転席の前方のフロントウインドウに照射するようになっている。一方、コンバイナ方式のヘッドアップディスプレイは、運転席の前方に設置された凹面構造のコンバイナに対し、当該コンバイナと対面する位置に設置された表示器から表示画像を照射するようになっている。
【0005】
運転者は、フロントウインドウまたはコンバイナの表示面にて反射された画像があたかも表示面よりも前方に拡大して表示されているかの如く、その画像の虚像を視認できるようになっている。最近では、従来の近視点表示(虚像距離:約2〜3m)に加え、遠視点表示(虚像距離:8m以上)の要求が高まっている。例えば、近視点表示と遠視点表示との遠近切替表示や、2層表示(例えば、表示面の上半分を遠視点表示とし、下半分を近視点表示とする)の要求がある。
【0006】
従来、遠視点表示を行うことを可能にしたヘッドアップディスプレイが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1に記載のヘッドアップディスプレイは、光学系の光路を長くすることにより、虚像をより遠方に表示できるようにしている(段落[0011]参照)。また、特許文献2に記載のヘッドアップディスプレイは、表示器や凹面鏡を物理的に移動させることにより、光路長を調整できるようにしている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態によるヘッドアップディスプレイの全体構成例を示す図である。本実施形態のヘッドアップディスプレイは、車両に搭載されるものであり、各種情報を運転席の前方のフロントウインドウ200の表示面21に表示するウインドシールド方式のヘッドアップディスプレイである。
【0015】
図1に示すように、車両のダッシュボードに配置される光学ユニット100は、表示器11、平面鏡12、凹面鏡13および出射窓14を備えて構成されている。表示器11からの出射光は、平面鏡12と拡大光学系である凹面鏡13とで反射され、出射窓14を通って、フロントウインドウ200上の表示面21で運転者に向けて反射される。運転者にとっては、フロントウインドウ200の前方に表示の虚像300が視認される。
【0016】
表示器11は、表示対象の画像を投影する。表示器11としては、例えば、レーザプロジェクタ、液晶ディスプレイ等が用いられる。平面鏡12および凹面鏡13は、特許請求の範囲の反射鏡に相当するものであり、表示器11からの出射光を反射させてフロントウインドウ200の表示面21へと導く。平面鏡12は、表示器11からの出射光を反射させる。凹面鏡13は、平面鏡12での反射光を更に反射させる。
【0017】
表示面21は、表示器11から投影された表示画像の光が平面鏡12および凹面鏡13での反射を介して照射されることにより、当該表示器11によって投影された画像を表示させる。運転者は、表示面21に表示された画像があたかもフロントウインドウ200よりも前方に拡大して表示されているかの如く、その表示画像の虚像300を視認することができる。
【0018】
本実施形態では、平面鏡12および凹面鏡13の少なくとも一方を、以下に述べるエレクトロデポジションデバイス(特許請求の範囲の電子デバイスの一例)により構成している。エレクトロデポジションデバイスは、第1の電極面と、当該第1の電極面から離間した位置にある第2の電極面とを有し、第1の電極面および第2の電極面に印加する電圧の制御により、第1の電極面または第2の電極面の何れか一方を選択的に鏡面状態にすることが可能な電子デバイスである。
【0019】
図2は、エレクトロデポジションデバイス30の構造を示す概略的な断面図である。
図2に示すように、エレクトロデポジションデバイス30は、上側透明基板32aおよび上側透明電極33a(第1の電極面)から成る上側基板31aと、下側透明基板32bおよび下側透明電極33b(第2の電極面)から成る下側基板31bと、両電極33a,33bの間にある電解質層34とにより構成される。上側基板31aと下側基板31bは、略平行に離間して対向配置され、その間に電解質層34が配置される。上側透明電極33aおよび下側透明電極33bは、表面が平滑な面から成る電極である。なお、このエレクトロデポジションデバイス30の具体的な製造方法については、例えば特開2015−55805号に記載されている。
【0020】
このように構成したエレクトロデポジションデバイス30は、上側透明電極33aと下側透明電極33bとの間に直流電圧を印加して駆動する。
図3は、電極33a,33bに電圧を印加した場合に起こる作用を説明するための図である。一例として、
図3に示すように、上側透明電極33aをアースして陰極とし、下側透明電極33bに直流電圧を印加して陽極とすると、エレクトロデポジション材料に含まれるAgが、陰極となる上側透明電極33a上に析出し、銀の薄膜を形成する。銀薄膜は鏡面として作用し、エレクトロデポジションデバイス30に入射する光を正反射する。上側透明電極33aに析出した銀薄膜は、印加電圧の解除により時間の経過とともに、上側透明電極33a上から消失する。
【0021】
これとは逆に、下側透明電極33bをアースして陰極とし、上側透明電極33aに直流電圧を印加して陽極とすると、エレクトロデポジション材料に含まれるAgが下側透明電極33b上に析出し、銀の薄膜を形成する。なお、電極33a,33bに電圧が印加されていないときは、両電極33a,33b上にAgが析出していない。このため、エレクトロデポジションデバイス30に入射する光は、両電極33a,33bを透過する。このように、エレクトロデポジションデバイス30は、直流電圧の印加/無印加により、ミラー状態(反射状態)と透明状態とを可換的に実現するミラーデバイスである。
【0022】
図4は、上記のエレクトロデポジションデバイス30により平面鏡12を構成した場合の動作例を示す図である。
図4に示すように、エレクトロデポジションデバイス30により構成される平面鏡12は、表示器11からの出射光を反射して凹面鏡13へと導く角度に設置されている。
【0023】
図4(a)は、下側透明電極33bが陰極となるように電圧を印加した場合の光路を示している。この場合、表示器11からの出射光は、下側透明電極33bで反射して、凹面鏡13へと導かれる。一方、
図4(b)は、上側透明電極33aが陰極となるように電圧を印加した場合の光路を示している。この場合、表示器11からの出射光は、下側透明電極33bよりも表示器11から遠い上側透明電極33aで反射して、凹面鏡13へと導かれる。
【0024】
このように、下側透明電極33bを陰極とする
図4(a)の場合と、上側透明電極33aを陰極とする
図4(b)の場合とで光路長が変わる。虚像300までの距離が短い近視点表示を行う場合は、
図4(a)のように下側透明電極33bを陰極として光路長が短くなるようにする。一方、虚像300までの距離が長い遠視点表示を行う場合は、
図4(b)のように上側透明電極33aを陰極として光路長が長くなるようにする。
【0025】
平面鏡12にエレクトロデポジションデバイス30を用いた場合、光路長を2cm変えると、虚像距離は約3〜4m変わる(凹面鏡13の仕様によって多少の差がある)。なお、近視点と遠視点の虚像距離の変化量は上側透明電極33aと下側透明電極33bとの間隔によって定まるが、電圧印加時のショート防止の目的も含めて最低1cm程度は空ける必要がある。これにより、上側透明電極33aと下側透明電極33bとのどちらを陰極とするかによって、近視点表示と遠視点表示との遠近切替表示を実現することができる。
【0026】
図5は、複数(一例として3つ)のエレクトロデポジションデバイス30
-1〜30
-3を用いて平面鏡12を構成した場合の例を示す図である。
図5に示すように、3つのエレクトロデポジションデバイス30
-1〜30
-3を重ねて配置し、何れか一のエレクトロデポジションデバイスに対して選択的に電圧を印加するようにしてもよい。
【0027】
図5の例では、真中のエレクトロデポジションデバイス30
-2に対して、下側透明電極33bが陰極となるように電圧を印加した状態を示している。この状態では、一番下のエレクトロデポジションデバイス30
-3に対しては電圧が印加されていないので、その両電極33a,33bは透明状態となる。よって、表示器11からの出射光は、一番下のエレクトロデポジションデバイス30
-3を透過する。そして、透過した光は、ミラー状態とされた真中のエレクトロデポジションデバイス30
-2の下側透明電極33bで反射し、凹面鏡13へと導かれる。
【0028】
図5のように構成した場合、一番下のエレクトロデポジションデバイス30
-3に対して、下側透明電極33bが陰極となるように電圧を印加すると、光路長が最も短くなる。一方、一番上のエレクトロデポジションデバイス30
-1に対して、上側透明電極33aが陰極となるように電圧を印加すると、光路長が最も長くなる。このようすれば、最大の光路長差を大きくすることができ、虚像距離をかなり長くした遠視点表示を実現することができる。また、3つのエレクトロデポジションデバイス30
-1〜30
-3を用いた場合には6種類の光路長を設定することができるので、近視点表示と遠視点表示との2つのみの切り替えではなく、6段階の遠近切替表示を行うことができる。
【0029】
図6は、エレクトロデポジションデバイス30の電極を分割して独立制御する場合の構成例を示す図である。
図6に示すように、複数のエレクトロデポジションデバイス30
-1〜30
-3を重ねて配置し、1つ1つのエレクトロデポジションデバイスについて、上側透明電極33aおよび下側透明電極33bをそれぞれn個(
図6の例では2個)に分割してn組の分割電極面を構成する。そして、何れか一のエレクトロデポジションデバイスが持つn組の分割電極面のうち何れか1組に対して選択的に電圧を印加するとともに、それとは異なる他のエレクトロデポジションデバイスが持つn組の分割電極面のうち何れか1組に対して選択的に電圧を印加するようにしてもよい。
【0030】
すなわち、上側透明電極33aを2個の分割電極面33a
-L,33a
-Rに分割するとともに、下側透明電極33bも2個の分割電極面33b
-L,33b
-Rに分割する。このように構成した場合、一方の組の分割電極面33a
-L,33b
-Lに対して、上側分割電極面33a
-Lまたは下側分割電極面33b
-Lの何れかが陰極となるように電圧を印加することが可能である。または、他方の組の分割電極面33a
-R,33b
-Rに対して、上側分割電極面33a
-Rまたは下側分割電極面33b
-Rの何れかが陰極となるように電圧を印加することが可能である。
【0031】
図6の例では、一番上のエレクトロデポジションデバイス30
-1における一方の組の分割電極面33a
-L,33b
-Lに対して、上側分割電極面33a
-Lが陰極となるように電圧を印加するとともに、一番下のエレクトロデポジションデバイス30
-3における他方の組の分割電極面33a
-R,33b
-Rに対して、下側透明電極33b
-Rが陰極となるように電圧を印加した状態を示している。この場合、一番上のエレクトロデポジションデバイス30
-1を経由する光路によって遠視点表示が実現されると同時に、一番下のエレクトロデポジションデバイス30
-3を経由する光路によって近視点表示が実現される。つまり、表示面21の上半分を遠視点表示とし、下半分を近視点表示とする2層表示を実現することができる。
【0032】
なお、
図6の電圧印加状態は、遠視点表示の光路長と近視点表示の光路長との差が最も大きくなる場合を示したものである。他の組み合わせで電圧を印加することにより、遠視点表示と近視点表示の虚像距離の組み合わせを様々に変えることが可能である。ここで、一方の組の分割電極面33a
-L,33b
-Lと、他方の組の分割電極面33a
-R,33b
-Rとを組み合わせて電圧印加することは必須ではない。例えば、
図6の例において、一番下のエレクトロデポジションデバイス30
-3についても、一方の組の分割電極面33a
-L,33b
-Lに対して電圧を印加することが可能である。
【0033】
以上詳しく説明したように、本実施形態では、表示器11と、当該表示器11によって投影された画像を表示させる表示面21と、表示器11からの出射光を反射させて表示面21へと導く平面鏡12および凹面鏡13とを備えたヘッドアップディスプレイにおいて、平面鏡12および凹面鏡13の少なくとも一方をエレクトロデポジションデバイス30により構成している。
【0034】
このように構成した本実施形態によれば、エレクトロデポジションデバイス30への印加電圧を制御することにより、反射位置を電気的に変えて、光路長を可変とすることができる。これにより、光路長が長くなるように制御することにより、虚像距離を長くして遠視点表示を行うことができる。また、光路長が短くなるように制御すれば、虚像距離を短くして近視点表示を行うことができる。
【0035】
以上により、本実施形態によれば、例えば表示器11と平面鏡12との間、平面鏡12と凹面鏡13との間などの光路長を物理的に長くする必要がないので、光学ユニット100の小型化を図ることができる。また、物理的な移動機構がないので、近視点表示と遠視点表示とを切り替える際にノイズ音や表示のガタつきを生じることもなく、短時間で近視点表示と遠視点表示との切り替えを行うことができる。
【0036】
また、本実施形態によれば、エレクトロデポジションデバイス30は電圧を印加しないときに透明状態になるので、次のような副次的な効果を得ることもできる。すなわち、駐車中の逆光路で表示器11へのダメージを回避することができる。そのため、表示器11へのダメージを回避するための出射窓14の開閉機構が不要となる。また、表示器11へのダメージを回避するための平面鏡12や凹面鏡13の可動機構が不要となる。また、凹面鏡13の可動範囲を小さくすることができ、位置の分解能を上げることができるため、表示の上下位置を細かく調整することができる。
【0037】
なお、上記実施形態では、ウインドシールド方式のヘッドアップディスプレイを例にとって説明したが、コンバイナ方式のヘッドアップディスプレイにも同様の本発明を適用することが可能である。
【0038】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。