特許第6884037号(P6884037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884037
(24)【登録日】2021年5月13日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】パルス電圧治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/32 20060101AFI20210531BHJP
   A61N 1/04 20060101ALI20210531BHJP
【FI】
   A61N1/32
   A61N1/04
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-105829(P2017-105829)
(22)【出願日】2017年5月29日
(65)【公開番号】特開2018-198865(P2018-198865A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】501079831
【氏名又は名称】株式会社ジェイメック
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 有紀
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩之
【審査官】 北川 大地
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−503292(JP,A)
【文献】 特表2003−505114(JP,A)
【文献】 特開2014−138843(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0164584(US,A1)
【文献】 特表2009−525829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/32
A61N 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔を空けて配置されている複数の電極針と、
前記複数の電極針に電圧を印加する電圧印加部と、
前記複数の電極針に薬剤を供給する薬剤供給部と、
前記複数の電極針の間隔を変える電極針可動機構と、を有し、
前記複数の電極針の先端近傍には、前記薬剤供給部から供給された薬剤を吐出する孔が設けられ、
前記電圧印加部は、前記複数の電極針の間隔に基づいて、前記電極針に印加する電圧値を変える、パルス電圧治療装置。
【請求項2】
前記電極針可動機構は、複数の歯車を有する歯車列と、
前記歯車列の回転に応じて前記電極針を移動可能に支持する支持部材と、を有する請求項に記載のパルス電圧治療装置。
【請求項3】
前記薬剤供給部は、前記複数の電極針の間隔に基づいて、前記複数の電極針に供給する薬剤の量及び前記複数の電極針に薬剤を供給する速度の少なくとも一方を変える請求項1または2に記載のパルス電圧治療装置。
【請求項4】
複数の電極針と、
前記複数の電極針に電圧を印加する電圧印加部と、
前記複数の電極針に薬剤を供給する薬剤供給部と、を有し、
前記複数の電極針は、互いに間隔を空けて配置されていると共に、当該電極針の先端近傍には、前記薬剤供給部から供給された薬剤を吐出する孔が設けられ、
前記電圧印加部は、前記複数の電極針の間隔に基づいて、前記電極針に印加する電圧値を変え、
前記薬剤供給部は、前記複数の電極針の間隔に基づいて、前記複数の電極針に供給する
薬剤の量及び前記複数の電極針に薬剤を供給する速度の少なくとも一方を変える、パルス電圧治療装置。
【請求項5】
前記電極針は先端が閉塞しており、当該電極針の前記孔は、薬剤を治療部位に向かって吐出できる位置に設けられている請求項1からのいずれか一項に記載のパルス電圧治療装置。
【請求項6】
前記複数の電極針の治療部位に対する刺入深さを規定するストッパを有する請求項1からのいずれか一項に記載のパルス電圧治療装置。
【請求項7】
治療部位を冷却する冷却器を有する請求項1からのいずれか一項に記載のパルス電圧治療装置。
【請求項8】
治療部位を吸引する吸引器を有する請求項1からのいずれか一項に記載のパルス電圧治療装置。
【請求項9】
前記電極針と前記薬剤供給部との間を絶縁する絶縁部材を有する請求項1からのいずれか一項に記載のパルス電圧治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電圧治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、癌細胞に薬剤を浸透させる装置として、エレクトロポーションを用いた治療装置が用いられている。
このエレクトロポーションを用いた治療装置では、事前に、癌細胞の増殖を抑制又は壊死させる薬剤を、注射器などで癌病変部の周囲に注入し、癌病変部全体に薬剤を浸潤させる作業を行う。そして、この治療装置を用いて、癌細胞に所定の電圧を印加することで、癌細胞の細胞膜の一部に一時的な穿孔を形成し、この穿孔を介して、癌細胞の周囲にある薬剤を細胞質内に浸透させる。
【0003】
これにより、薬剤を、癌細胞に効率よく浸透させることができ、癌細胞の増殖の抑制や壊死させる効果を高めることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の治療装置では、癌病変部(治療部位)全体を浸潤させるように薬剤を注入する必要があるため、治療部位の周囲の複数個所に注射針を刺入して薬剤を注入していた。特に、治療部位の癌病変部が大きい場合には、多くの箇所に注射針を刺入して薬剤を注入しなければならず、薬剤の注入に多くの時間が必要だった。
【0005】
ここで、治療部位の周囲に注入した薬剤は、時間の経過と共に、治療部位の周囲にも拡散、希釈、血管やリンパ管を介して排出されてしまい、所定の電圧を治療部位に印加する前に治療部位全体に浸潤していた薬剤の濃度が下がる。その結果、治療部位の癌細胞周囲への薬剤の浸潤が不十分となり、癌細胞の壊死/増殖を抑制する効果は損なわれてしまう。また、癌細胞に十分に効果を及ぼす量の薬剤を浸透させる場合には、全身へ拡散する薬剤の量も増加するために副作用のリスクも増加する。
このため、治療装置の操作者は、治療部位の癌細胞の状態を適切に把握し、注射針を用いて癌病変部に薬剤を注入した後、癌病変部の状態に応じた最適な所定時間以内(例えば、2分以内)に、治療装置を用いて癌細胞に電圧を印加して、癌細胞への薬剤の浸透を効率よく行う必要がある。
【0006】
そのため、この種の治療装置では、治療装置の操作者の経験や技量が不十分である場合、癌病変部への薬剤の浸潤を効率よく行えず、治療の効果が損なわれることや人体に必要以上の負荷を与えるという問題がある。
【0007】
したがって本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、エレクトロポーションを用いた治療装置において、癌細胞等への薬剤の浸透を効率よく行い、治療の効果を損なわないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、複数の電極針と、当該複数の電極針に電圧を印加する電圧印加部と、複数の電極針に薬剤を供給する薬剤供給部と、を有し、複数の電極針は、互いに間隔を空けて配置されていると共に、当該電極針の先端近傍には、薬剤供給部から供給された薬剤を吐出する孔が設けられている、パルス電圧治療装置とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エレクトロポーションを用いた治療装置において、癌細胞等への薬剤の浸透を効率よく行い、治療の効果を損なわないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態にかかる治療装置を説明するブロック図である。
図2図1におけるA−A断面である。
図3】電極針の要部を説明する断面図である。
図4】電極針ユニットの底面図である。
図5】電極針における薬剤の流れを説明する図である。
図6】治療装置の動作のフローチャートである。
図7】治療装置の動作を説明する模式図である。
図8】治療装置の動作を説明する模式図である。
図9】治療装置の動作を説明する模式図である。
図10】治療装置の動作を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[治療装置]
以下、本発明の実施の形態にかかるパルス電圧治療装置(以下、治療装置1という)を説明する。
図1は、実施の形態にかかる治療装置1を説明するブロック図である。
図2は、図1におけるA−A断面である。
図3は、電極針15の要部を説明する断面図である。
図4は、電極針ユニット10の底面図である。
図5は、電極針15における薬剤100の流れを説明する図である。
実施の形態では、治療装置1を、皮膚Sに生じた癌細胞TC1(以下、治療部位TCと表記することもある)を治療する場合を例示して説明する。
なお、図2において、皮膚Sの皮下組織(人体側)側を下側、皮膚から離れる側を上側として説明する。
【0012】
[治療装置]
図1に示すように、治療装置1は、電極針ユニット10と、薬剤供給装置20と、電圧印加装置30と、冷却装置40と、吸引装置50と、制御装置60と、を有している。
冷却装置40による冷風の風量や温度、冷却時間、吸引装置50による吸引圧力や吸引時間などは、治療部位TCの大きさや発生個所などに基づいて、制御装置60により制御される。
【0013】
[電極針ユニット]
図2に示すように、電極針ユニット10は、複数の基部11と、各々の基部11の下側に設けられた電極針15と、各々の電極針15の周囲に設けられた固定部17と、を有している。
【0014】
図4に示すように、基部11は、電極針ユニット10の中心軸X1回りに約60°間隔で、合計6個設けられており、各々の基部11は共通の筐体(図示せず)に固定されている。各々の基部11の下側には、電極針15が設けられている。
【0015】
実施の形態では、電極針ユニット10では、中心軸X1の時計回りに電極針15A、15B、15C、15D、15E、15Fが設けられている。電極針15A〜15Fを結ぶ仮想線K1は、所定の直径D1を有する円形形状を成している。
以下の説明では、電極針15A〜15Fを特に区別しない場合には、単に電極針15と表記する。
【0016】
電極針15は、導電性を有する金属材料で形成された針形状の部材である。電極針15の材料として、一般的に針として用いられている導電性を有する種々の金属材料を用いることができるが、例えば、ステンレス鋼などが用いられる。
【0017】
図3に示すように、この電極針15には、後端15b(基部11)側から先端15a(皮膚)側に沿って伸びる孔151が設けられている。
【0018】
電極針15の先端15aは閉塞しており、電極針15の先端15aよりも後端15b側の位置には、孔151に連通する複数の開口が設けられている。実施の形態では、電極針15には、当該電極針15の側壁15cの長手方向に沿った2か所に開口151a、151bが設けられている。これらの開口151a、151bは、何れも中心軸X1に直行する方向(治療部位TC方向)に向けて形成されている。
【0019】
電極針15では、後端15b側から孔151に供給された薬剤100は、先端15aの閉塞部で溜まると共に、これにより圧力が高められた状態で、先端15a近傍に設けられた開口151a、151bから吐出される(図5参照)。
よって、電極針15では、開口151a、151bから、薬剤100を適切な量及び距離だけ吐出させることができ、この薬剤100によって治療部位TC全体を確実に浸潤させることができる。
【0020】
図3に示すように、電極針15の後端15bは閉塞しており、この電極針15の後端15bよりも先端15a側の所定の位置には、孔151に連通する開口151cが設けられている。
この開口151cは、薬剤供給管21内に開口しており、電極針15の孔151と薬剤供給管21とは、開口151cを介して連通している。
【0021】
図3に示すように、電極針15の後端15b側は、固定部材12内に位置した状態で、この固定部材12に固定されている。
【0022】
固定部材12は、角筒形状の基本形状を成しており、この固定部材12の内部に、薬剤供給装置20と電極針15(孔151)とを接続する薬剤供給管21と、電圧印加装置30と電極針15とを接続する導電部材32とが配設されている。
【0023】
薬剤供給管21は、一端側が薬剤供給装置20(図1参照)に接続されており、他端側が電極針15の開口151cに接続されている。これにより、薬剤供給装置20の薬剤100が、この薬剤供給管21を介して電極針15(孔151)に供給される。
【0024】
導電部材32は、一端側が電圧印加装置30のケーブル31に接続されており、他端側が電極針15の外周に接続されている。これにより、電圧印加装置30の電圧Vが、導電部材32を介して電極針15に印加される。
【0025】
固定部材12は、図3における左右方向に延びるガイド121で移動可能に支持されている。よって、固定部材12は、ガイド121に沿って、図3における左右方向に移動できるようになっており、この固定部材12の移動に伴って、固定部材12に固定された電極針15が、左右方向に移動する(図3の白抜き矢印参照)。
【0026】
なお、図示は省略するが、ガイド121は、コの字の断面形状を成しており、対称の位置に設けられた2つの壁部で固定部材12を挟持している。このガイド121(2つの壁部)によって固定部材12の回転が防止される結果、この固定部材12に固定された電極針15の回転が防止される。よって、電極針15の開口151a、151bは、常に同一方向(中心軸X1方向)に向けられるようになっている。
【0027】
図2に示すように、この固定部材12の上側の面には、ネジ部122が設けられている。このネジ部122は、第1歯車部材125の下面に設けられたネジ部125aと螺合しており、第1歯車部材125が回転軸X2回りに回転することで、固定部材12(電極針15)が左右方向に移動するようになっている。
【0028】
これにより、電極針ユニット10では、固定部材12に固定された電極針15が、図2における左方向に移動すると、電極針15A〜15Fの間隔が拡大する。このため、固定部材12が移動した後の電極針15A〜15Fを結ぶ仮想線K2の直径は、固定部材12が移動する前の電極針15A〜15Fを結ぶ仮想線K1の直径D1よりも大きな直径D2となる(図4参照)。
【0029】
また、図2に示すように、第1歯車部材125の外周には、回転軸X2周りの周方向の全周に亘ってネジ部125bが設けられており、このネジ部125bは、第2歯車部材126のネジ部126aと螺合している。第2歯車部材126が回転軸X3回りに回転することで、第1歯車部材125が回転軸X2回りに回転する。なお、この第2歯車部材126は、モータ(図示せず)などにより回転するように構成されている。
【0030】
前述した、第1歯車部材125と第2歯車部材126とを有し、この第1歯車部材125と第2歯車部材126とが互いに螺合する機構は、本発明の歯車列を構成する。
また、第1歯車部材125と第2歯車部材126とが互いに螺合し、第2歯車部材126の回転に伴って第1歯車部材125が回転すると共に、この第1歯車部材125の回転により、固定部材12(電極針15)が左右方向に移動する機構は、本発明の電極針可動機構13を構成する。
【0031】
ここで、第1歯車部材125は、高さ位置調整ネジ127により、固定部材12との噛み合いの量(遊び)が調整されるようになっている。
高さ位置調整ネジ127は、
高さ位置調整ネジ127のネジ部127aは、基部11に設けられたネジ部111と螺合しており、この高さ位置調整ネジ127を回転させることで、高さ位置調整ネジ127の先端に設けられた押圧部127bが上下方向に移動する。
【0032】
よって、第1歯車部材125のネジ部125aと固定部材12のネジ部122との遊びが大きい場合、高さ位置調整ネジ127を回転軸X4回り(例えば、右回り)に回して、高さ位置調整ネジ127の押圧部127bを固定部材12に押圧することで、第1歯車部材125と固定部材12との遊びを適切に調整できる。
【0033】
一方、第1歯車部材125のネジ部125aと固定部材12のネジ部122との遊びが小さい場合、高さ位置調整ネジ127を回転軸X4回り(例えば、左回り)に回して、高さ位置調整ネジ127の押圧部127bを固定部材12から離すことで、第1歯車部材125と固定部材12との遊びを適切に調整できる。
【0034】
また、固定部材12は、上下方向に沿って設けられた直動機構128の直動部材128aに固定されている。
【0035】
直動機構128は、直動部材128aと、この直動部材128aを支持するガイド128bとを有している。直動部材128aは、モータMなどにより回転するガイド128bの回転に伴って、ガイド128bに沿って上下方向に移動する。
【0036】
よって、直動部材128aがガイド128bに沿って上下方向に移動すると、この直動部材128に固定された固定部材12が上下方向に移動することとなる。これにより、固定部材12に固定された電極針15は、固定部材12の上下方向の移動に伴って、上下方向に移動する。
【0037】
図2に示すように、この固定部材12の下側であって、電極針15の先端15a側を囲む位置に固定部17が設けられている。
【0038】
固定部17は、筒状部材171と、カバー部材172と、ストッパ部材173とを有している。
【0039】
筒状部材171は、円筒形状の基本形状を成しており、筒状部材171のカバー部材172側の端部には、この筒状部材171の径方向外側に突出した鍔部171aを有している。
【0040】
鍔部171aの上側には、カバー部材172が取り付けられている。
カバー部材172は、一方の端部に開口172aを有する有底円筒部材である。カバー部材172は、開口172aを筒状部材171側に向けた状態で、カバー部材172の周壁172bの端部が、筒状部材171の鍔部171aの一方の面171bに当接して取り付けられている。
【0041】
カバー部材172の周壁172bには、周壁172bを厚み方向に貫通する貫通孔172cが設けられており、この貫通孔172cには配管41が接続されている。配管41は、冷却装置40に接続されており、冷却装置40からの冷風(図2の黒矢印参照)が、配管41を介してカバー部材172内に供給される。カバー部材172内に供給された冷風は筒状部材171内を通流し、この冷風により、治療部位TC及び治療部位TCの周囲が冷却されるようになっている。
【0042】
鍔部171aの下側には、ストッパ部材173が取り付けられている。
ストッパ部材173は、両端が開口した円筒形状を成している。ストッパ部材173は、透明度の高い樹脂材料で形成されており、例えば、ストッパ部材173の樹脂材料として、アクリル樹脂などが用いられる。
よって、治療装置1の操作者は、透明なストッパ部材173の外側から、治療部位TCの位置を目視により容易に確認することができ、電極針15を治療部位TCの適切な位置に刺し込むことができる。
【0043】
ストッパ部材173の後端173aは、筒状部材171の鍔部171aの他方の面171cに当接して取り付けられている。
【0044】
ストッパ部材173の側面には、このストッパ部材173を厚み方向に貫通する貫通孔173bが複数設けられており、この貫通孔173bには配管51が接続されている。配管51は、吸引装置50に接続されており、吸引装置50により、ストッパ部材173と筒状部材171との間の空間の空気が吸引される(図2の白抜き矢印参照)。
【0045】
ここで、ストッパ部材173の後端173aから先端173cまでの中心軸X1に沿う長さL1は、筒状部材171の鍔部171aの他方の面171cから先端171dまでの中心軸X1に沿う長さL2よりも長くなるように設定されている(L1>L2)。
【0046】
このため、治療装置1を使用する際、電極針ユニット10の固定部17を皮膚Sに押し当てると、筒状部材171の先端171dよりも、ストッパ部材173の先端173cの方が先に、皮膚Sに接触することとなる。
そして、ストッパ部材173の先端173cを皮膚Sに押し当てながら押さえると共に、吸引装置50を動作させると、ストッパ部材173の内側の皮膚Sが上側に吸引される。そうすると、吸引された皮膚Sは、筒状部材171の先端171dに当接する。
その結果、治療部位TCによって皮膚Sに凹凸がある場合でも、電極針15に対する皮膚Sの位置が筒状部材171で規定されるので、電極針15の皮膚Sへの刺入深さを所定の深さにすることができる。
【0047】
なお、固定部17は、基部11と共通の筐体(図示せず)に固定されている。この状態で、基部11に設けられた電極針15は、固定部17の筒状部材171内に位置している。
【0048】
[薬剤供給装置]
次に、薬剤供給装置20を説明する。
【0049】
薬剤供給装置20は、6個のシリンジポンプ(図示せず)を有しており、各々のシリンジポンプは、個別の薬剤供給管21を介して電極針15A〜15Fに接続されている。よって、各々のシリンジポンプと電極針15A〜15Fとは、一対一で対応して接続されている。
【0050】
薬剤供給装置20の各々のシリンジポンプ(図示せず)には、癌細胞TC1の増殖を抑制又は壊死させる薬剤100が貯留されており、薬剤供給装置20では、各々のシリンジポンプに貯留された薬剤100を、後述する制御装置60(薬剤設定部63)からの指令信号に基づいて対応する電極針15A〜15Fに供給する。また、薬剤供給装置20は、後述する制御装置60(薬剤設定部63)からの指令信号に基づいて、電極針15に供給する薬剤100の供給量、供給速度(供給圧力)、供給するタイミングなどを調整する。
【0051】
その結果、薬剤供給装置20(シリンジポンプ)から供給された薬剤100は、薬剤供給管21を介して電極針15に供給され、電極針15の先端近傍の孔151の開口151a、151bから中心軸X方向に向けて、制御装置60で設定された所定の供給量、供給速度(供給圧力)、供給するタイミングで吐出される。
なお、癌細胞TC1の増殖を抑制又は壊死させる薬剤100の一例として、ブレオマイシンやシスプラチンを適用できる。
【0052】
[電圧印加装置]
次に、電圧印加装置30を説明する。
【0053】
図1に示すように、電圧印加装置30は、高電圧のパルス電圧Vを発生させる高電圧パルス発生部33と、高電圧のパルス電圧Vの電気極性を変える電気極性変更部34と、を有している。
【0054】
電圧印加装置30の高電圧パルス発生部33は、後述する制御装置60(電圧設定部64)からの指令信号に基づいて、高電圧のパルス電圧Vを発生させる。
【0055】
電圧印加装置30の電気極性変更部34は、後述する制御装置60(電圧設定部64)からの指令信号に基づいて、複数の電極針15A〜15Fのうち、所定の電極針15A〜15Fに、所定の極性(プラス、マイナス)のパルス電圧Vを印加する。
実施の形態では、電圧印加装置30は、1000V/cm、100μsecのパルス電圧Vを、所定の電極針15(例えば、図10に示す電極針15A、15D)に印加する。
【0056】
これら薬剤供給装置20と電圧印加装置30とは、制御装置60に接続されており、制御装置60の指令信号に基づいて制御される。
【0057】
[制御装置]
次に、制御装置60を説明する。
図1に示すように、制御装置60は、CPU61と、メモリ62と、薬剤設定部63と、電圧設定部64とを有している。
【0058】
CPU(Central Processing Unit)61は、メモリ62に記憶された制御プログラム621を読み出して実行することで、制御装置60の全体制御を行う中央処理装置である。
【0059】
メモリ62は、制御装置60全体を制御するための制御プログラム621が記憶されている。このメモリ62に記憶されている制御プログラム621がCPU61により読み出されて実行されることで、制御装置60では、制御プログラム621で規定される所定の処理が実行される。
【0060】
薬剤設定部63は、電極針15に供給する薬剤100の供給量、供給速度(供給圧力)、供給するタイミングなどを設定する。薬剤設定部63は、設定した薬剤100の供給量、供給速度(供給圧力)、供給のタイミング等を指令する指令信号を薬剤供給装置20に対して出力する。
【0061】
また、薬剤設定部63は、複数の電極針15A〜15Fの間隔に応じて、電極針15A〜15Fに供給する薬剤100の供給量等を変えるようになっている。
【0062】
例えば、電極針15A〜15Fの間隔が狭い場合(図4の仮想線K1の場合)、治療部位TCが小さいので、治療部位TC全体を浸潤させるための薬剤100の量は少なくてよい。そのため、薬剤設定部63は、電極針15A〜15Fに供給する薬剤100の量を少量、薬剤100の供給速度を低速度(低圧力)に設定し、薬剤供給装置20に、この少量、低速度(低圧力)設定の指令信号を出力する。
【0063】
一方、電極針15A〜15Fの間隔が広い場合(図4の仮想線K2の場合)、治療部位TCが大きいので、治療部位TC全体を浸潤させるための薬剤100の量を多くする必要がある。そのため、薬剤設定部63は、電極針15A〜15Fに供給する薬剤100の量を多量、薬剤100の供給速度を高速度(高圧力)に設定し、この多量、高速度(高圧力)設定の指令信号を、薬剤供給装置20に対して出力する。
【0064】
薬剤設定部63は、電極針15A〜15Fの間隔を、電極針ユニット10における各々の基部11の移動量(位置)から取得することができる。
【0065】
電圧設定部64は、電極針15に印加する電圧値や出力時間(印加時間)等を設定する。電圧設定部64は、設定した電圧値や出力時間等を指令する指令信号を電圧印加装置30に対して出力する。
【0066】
なお、電圧設定部64において、電極針15に印加する電圧値や出力時間(印加時間)は、癌細胞TC1の大きさや発生個所などに基づいて予め決められている。実施の形態では、治療装置1は、患者(人体)のインピーダンスを計測するインピーダンス計測部(図示せず)をさらに有しており、電圧設定部64は、インピーダンス計測部(図示せず)で計測された患者(人体)のインピーダンスに基づいて、上記した予め決められた電圧値や出力時間(印加時間)を補正して、最終的な設定値を決定する。
【0067】
実施の形態では、電圧設定部64は、電圧印加装置30から1000V/cm、100μsecの高圧パルス電圧Vを発生させるように、電圧印加装置30に対して指令信号を出力する。
【0068】
電圧設定部64は、複数の電極針15A〜15Fの間隔に応じて、電極針15A〜15Fに印加するパルス電圧Vの電圧値を変えるようになっている。
【0069】
例えば、電極針15A〜15Fの間隔が狭い場合(図4の仮想線K1の場合)、治療部位TCが小さいので、治療部位TC全体に印加する電圧値は低くてよい。そのため、電圧設定部64は、電極針15A〜15Fに印加する電圧値を低電圧に設定し、電圧印加装置30に、この低電圧設定の指令信号を出力する。
【0070】
一方、電極針15A〜15Fの間隔が広い場合(図4の仮想線K2の場合)、治療部位TCが大きいので、治療部位TC全体に印加する電圧値を高くする必要がある。そのため、電圧設定部64は、電極針15A〜15Fに印加する電圧値を高電圧に設定し、この高電圧設定の指令信号を、電圧印加装置30に対して出力する。
【0071】
ここで、電圧設定部64は、電極針15A〜15Fの間隔を、電極針ユニット10における各々の基部11の移動量(位置)から取得することができる。
【0072】
実施の形態では、電圧設定部64は、電極針15A、15Dの間隔が1cmである場合は、1000V/cm、100μsecのパルス電圧Vを電極針15A、15Dに印加するように、電圧印加装置30に対して指令信号を出力する。
また、電圧設定部64は、電極針15A,15Dの間隔が2cmである場合は、2000V/cm、100μsecのパルス電圧Vを電極針15A、15Dに印加するように、電圧印加装置30に対して指令信号を出力する。
そして、電圧設定部64は、電極針15A,15Dの間隔が3cmである場合は、3000V/cm、100μsecのパルス電圧Vを電極針15A、15Dに印加するように、電圧印加装置30に対して指令信号を出力する。
【0073】
[治療装置の動作]
次に、治療装置1の動作を説明する。
図6は、治療装置1の動作のフローチャートである。
図7図9は、治療装置1の動作を説明する模式図である。
図10は、治療装置1の動作を説明する図であり、(a)は、治療対象TCへの電圧の印加状態を説明する図であり、(b)が、(a)におけるB部の拡大図である。
【0074】
初めに、図6に示すように、ステップS101において、電極針ユニット10を患者の治療部位TCの周囲に取り付ける。
【0075】
具体的には、ステップS101では、電極針ユニット10を治療部位TC(癌細胞TC1)に対応する上側にセットすると共に、電極針ユニット10の各電極針15A〜15Fを、治療部位TCを囲む位置に合わせる(図7参照)。その状態で、電極針ユニット10を下側(皮膚S側)に移動させて、各電極針15A〜15Fの先端を皮膚Sの所定の深さまで刺入させ、各電極針15A〜15Fで治療部位TCを囲むように電極針ユニット10を取り付ける(図8参照)。
【0076】
ステップS101において、電極針ユニット10では、各電極針15A〜15Fを治療部位TCに刺入させる際に、吸引装置50により、治療部位TCを吸引する。これにより、治療部位TCが固定部17の筒状部材171とストッパ部材173との間の空間に吸引され、電極針15A〜15Fの治療部位TCへの刺入深さが適切な深さに規定される。
【0077】
次に、ステップS102において、電極針ユニット10の各電極針15A〜15Fは、薬剤供給装置20から供給された所定の薬剤100(例えば、ブレオマイシン、シスプラチン)を、先端15A近傍に設けられた開口151a、151bから治療部位TC(中心軸X1)に向かって吐出する(図9参照)。
【0078】
具体的には、ステップS102では、制御装置60の薬剤設定部63から出力された指令信号に基づいて、薬剤供給装置20は、所定量の薬剤100を電極針ユニット10(電極針15A〜15F)に供給する。そして、電極針ユニット10(電極針15A〜15F)では、薬剤供給装置20から供給された薬剤100を、各電極針15A〜15Fの先端15a近傍の開口151a、151bから吐出する。
【0079】
ステップS103において、CPU61は、ステップS102で各電極針15A〜15Fから薬剤100を吐出した後、所定時間t1(例えば、1分)を経過したか否かを判定する。CPU61は、所定時間t1を経過したと判定した場合、ステップS104に進む。
【0080】
次に、ステップS104において、電圧印加装置30は、電極針ユニット10の各電極針15A〜15Fに高電圧のパルス電圧Vを印加して、治療部位TCに高電圧のパルス電圧Vを印加する。
【0081】
具体的には、制御装置60の電圧設定部64から出力された指令信号に基づいて、電圧印加装置30は、高電圧のパルス電圧Vを電極針ユニット10の各電極針15A〜15Fに印加する。
ここで、図10の(a)示すように、電圧印加装置30では、各電極針15A〜15Fのうち、治療部位TCを挟んだ対称の位置にある一対の電極針15Aと15Dに高電圧のパルス電圧Vを印加する。これにより、電極針15Aと電極針15Dとの間に高電圧のパルス電圧Vが発生し、電極針15Aと15Dとの間に位置する治療部位TCに高電圧のパルス電圧Vが印加される。
【0082】
なお、電圧印加装置30では、少なくとも対称の位置にある一対の電極針15(例えば、電極針15Aと電極針15D)に高電圧のパルス電圧Vを印加すればよい。例えば、対称位置にある他の一対の電極針15Bと15Eや、電極針15Cと15Fに高電圧のパルス電圧Vを印加しても良く、全ての電極針15A〜15Fに同時に高電圧のパルス電圧Vを印加しても良い。
【0083】
また、電圧印加装置30では、一対の電極針15Aと15Dに高電圧のパルス電圧Vを供給したのち、他の一対の電極対15Bと15E、電極針15Cと15Fに順次供給先を切り替えて、高電圧のパルス電圧Vを周方向に沿って周るように印加しても良い。
【0084】
ステップS105において、図10の(b)に示すように、ステップS104で一対の電極針15Aと15Dに印加した高電圧のパルス電圧Vにより、治療部位TCの癌細胞TC1の細胞膜TC1aに穿孔TC1bが生じ、この穿孔TC1bを介してステップS102で注入した薬剤100が癌細胞TC1(治療部位TC)内に効率よく浸透する。
【0085】
なお、細胞膜TC1aに生じる穿孔TC1bは、一時的に開口する孔であり、パルス電圧Vの印加を停止すると、当該穿孔TC1bは閉じる。
【0086】
治療装置1では、治療部位TCの癌細胞TC1内に薬剤100を浸透させたのち、処理を終了する。
【0087】
なお、ステップS103で、CPU61は、第1の所定時間t1を経過していないと判定した場合(ステップS103:NO)、ステップS106に進み、第2の所定時間t2(例えば、2分)を経過したか否かを判定する。
【0088】
CPU61は、ステップS106で第2の所定時間t2(例えば、2分)を経過したと判定した場合(ステップS106:YES)、ステップS107に進み、薬剤供給装置20による薬剤100の供給を停止する。患者への薬剤100の投与が過剰になり、副作用のリスク増大を避けるためである。そして、CPU61は、薬液100の供給を停止した後、ステップS104に戻り、その状態で電極針15に電圧Vを印加する。これにより、治療装置1では、患者に対する薬液100の投与量が過剰になる前に、電極針15(治療部位TC)に対する電圧の印加を適切に行うことができる。
【0089】
CPU61は、ステップS106で第2の所定時間t2(例えば、2分)を経過していないと判定した場合(ステップS106:NO)、ステップS102に戻り、再び、電極針15から薬剤100を吐出する。
【0090】
このようにして、CPU61は、患者に対する薬剤100の投与量が過剰にならないようにしながら、治療部位TC全体を浸潤させるのに十分な薬剤100を確実に供給することができる。
【0091】
以上の通り、実施の形態では、
(1)複数の電極針15(電極針15A〜15F)と、
複数の電極針15A〜15Fに電圧を印加する電圧印加装置30(電圧印加部)と、
複数の電極針15A〜15Fに薬剤100を供給する薬剤供給装置20(薬剤供給部)と、を有し、
複数の電極針15A〜15Fは、互いに間隔を空けて配置されていると共に、当該電極針15A〜15Fの先端15a近傍には、薬剤供給装置20から供給された薬剤100を吐出する孔151が設けられている構成とした。
【0092】
このように構成すると、共通の電極針15を用いて、薬剤100の吐出と電圧Vの印加を適切なタイミングで行うことができる。よって、癌細胞TC1に確実に穿孔TC1bを発生させることができると共に、治療部位TC全体を浸した薬剤100を、この穿孔TC1bを介して治療部位TCに効率よく浸透させることができる。よって、治療装置1によれば、治療の効果を損なわず、且つ人体に必要以上の負荷を与えることを防止できる。
【0093】
(2)複数の電極針15A〜15Fの間隔を変える電極針可動機構13を有する構成とした。
【0094】
このように構成すると、治療部位TCの大きさに合わせて、各電極針15A〜15Fの間隔を変えることができ、治療部位TCの大きさに合わせて、電極針15A〜15Fによる治療を適切に行うことができる。
【0095】
(3)電極針可動機構13は、複数の歯車(第1歯車部材125、第2歯車部材126)を有する歯車列と、
歯車列の回転に応じて電極針15を移動可能に支持する固定部材12(支持部材)と、を有する構成とした。
【0096】
このように構成すると、2つの歯車部材(第1歯車部材125、第2歯車部材126)を有する歯車列を用いた非常に簡単な機構で、各電極針15A〜15Fの間隔を変えることができる。
【0097】
(4)電圧印加装置30は、複数の電極針15A〜15Fの間隔に基づいて、電極針15A〜15Fに印加する電圧値を変える構成とした。
【0098】
このように構成すると、電圧印加装置30は、治療部位TCに薬剤100を浸透させるために必要な電圧を、電極針15A〜15Fの間隔に応じて適切に印加することができ、治療部位TCへの薬剤100の浸透を効率よく行うことができる。
【0099】
(5)電圧印加装置30は、電極針15の孔151から薬剤100が吐出された後、第1の所定時間t1経過した場合(ステップS103:YES)に複数の電圧針15に電圧を印加する構成とした。
【0100】
このように構成すると、電圧印加装置30は、電極針15から治療部位TCに薬剤100が吐出された後、治療部位TC全体を浸潤させる薬剤100が、第1の所定時間t1を大幅に徒過して、周囲に拡散、希釈、血管やリンパ管を介して排泄されてしてしまう前に、電極針15に電圧Vを印加するので、十分な量の薬剤100を癌細胞TC1に確実に浸透させることができる。
【0101】
(6)薬剤供給装置20は、電極針15の孔151から薬剤100を吐出した後、第2の所定時間t2を経過した場合(ステップS106:YES)に、電極針15への薬剤100の供給を停止する構成とした。
【0102】
このように構成すると、患者に対する薬剤100の過剰投与を阻止し、副作用のリスク増大を防止することができる。
【0103】
(7)薬剤供給装置20は、複数の電極針15A〜15Fの間隔に基づいて、複数の電極針15A〜15Fに供給する薬剤100の量を変える構成とした。
【0104】
このように構成すると、薬剤供給装置20は、治療部位TCの大きさに合わせた適切な量の薬液100を供給することができ、治療部位TCに適切な量の薬剤100を確実に浸潤させることができる。
【0105】
(8)電極針15は先端15aが閉塞しており、当該電極針15の孔151(開口151a、151b)は、薬剤100を治療部位TCに向かって吐出できる位置に設けられている構成とした。
【0106】
このように構成すると、電極針15の先端15aが閉塞している分だけ、電極針15の孔151に供給された薬剤100は、開口151a、151bから高い圧力で吐出される。よって、電極針15は、治療部位TCに確実に届くように薬剤100を吐出することができる。
【0107】
(9)複数の電極針15の治療部位TCに対する刺入深さを規定するストッパ部材173を有する構成とした。
【0108】
このように構成すると、電極針ユニット10では、ストッパ部材173を皮膚Sに押し当てながら押さえることで、皮膚Sと電極針15との距離を所定の距離に規定することができる。よって、電極針15を、皮膚Sの所定深さまで適切に刺入することができる。この結果、電極針15による、治療部位TCへの薬剤100の浸透を効率よく行うことができる。
【0109】
(10)治療部位TCを冷却する冷却装置40(冷却器)を有する構成とした。
【0110】
このように構成すると、冷却装置40は、高電圧のパルス電圧が印加されることで発熱した治療部位TCを、冷風で冷やすことができ、治療装置1で治療を受けている患者の不快感を軽減することができる。また、電極針15を皮膚Sに刺入する前に、冷却装置40で冷風を皮膚Sにかけることにより、治療を受けている患者の痛みを和らげることができる(ゲートコントロール)。
【0111】
(11)治療部位TCを吸引する吸引装置50(吸引器)を有する構成とした。
【0112】
このように構成すると、吸引装置50で皮膚Sを吸引することで、皮膚Sが筒状部材171に当接し、電極針15に対する皮膚Sの高さ位置(距離)が規定される。よって、電極針15に対する皮膚Sの高さ位置を一定にすることができ、皮膚Sに対する電極針15の刺入を所定の深さまで適切に行うことができる。
【0113】
なお、前述した実施の形態では、電極針ユニット10は、各々の基部11に対して電極針15A〜15Fを個別に移動させて、各々の電極針15A〜15Fの間隔を変える場合を例示して説明したが、各々の電極針15A〜15Fを移動させる機構は、これに限定されるものではない。
【0114】
例えば、各々の電極針15A〜15Fを共通のリンク機構(図示せず)に接続し、このリンク機構により、各々の電極針15A〜15Fを相対的に移動させて、互いの間隔を変えるようにしても良い。
【0115】
このように構成すると、簡単なリンク機構で各々の電極針15A〜15Fを同時に移動させることができるので、各々の電極針15A〜15Fを迅速に移動させることができる。
【0116】
また、前述した実施の形態では、薬剤供給装置20では、電極針15A〜15Fに対応するシリンジポンプ(図示せず)を各々個別の薬剤供給管21で接続し、各シリンジポンプから対応する電極針15A〜15Fに薬剤100を供給する場合を例示して説明したが、電極針15A〜15Fに薬剤100を供給する構成はこれに限定されるものではない。
【0117】
例えば、薬剤供給装置20では、共通のシリンジポンプ(図示せず)と、各々の薬剤供給管21の途中位置に設けられた電磁弁(図示せず)とを有し、共通のシリンジポンプと各々の電極針15A〜15Fとを接続する構成としても良い。
【0118】
このように構成すると、薬剤供給装置20では、共通のシリンジポンプ(図示せず)から供給された薬剤100を、どの電極針15A〜15Fに供給するのか、薬剤供給管21に設けられた電磁弁(図示せず)で選択することができる。これにより、各電極針15A〜15Fに対応するシリンジポンプ(図示せず)を個別に有する場合に比べ、シリンジポンプの数が少ない分だけ装置コストを抑えることができる。
【0119】
また、前述した実施の形態では、固定部17のストッパ部材173を透明な樹脂材料で形成し、治療装置1の操作者が、この透明なストッパ部材173を通して治療部位TCを視認しながら、電極針15の位置決めを行う場合を例示して説明したが、電極針15の位置決め方法は、これに限定されるものではない。
【0120】
例えば、電極針ユニット10を、ロボットアーム(図示せず)などに取り付けると共に、このロボットアームに接続された画像処理装置(図示せず)により治療部位TCの位置を検出する。そして、画像処理装置による治療部位TCの位置の検出結果に基づいて、ロボットアームを制御して、電極針ユニット10(電極針15)を、治療部位TCに移動させるようにしても良い。
【0121】
このように構成すると、治療装置では、画像処理装置により、治療部位TCの位置を正確に認識することができるので、電極針15を治療部位TCに直接刺入してしまうリスクを減らすことができる。これにより、治療部位TCを刺入した電極針15が、他の部位に刺入することによる、癌細胞の転移などを防ぐことができる。
【0122】
なお、前述した実施の形態では、電極針ユニット10では、6本の電極針15A〜15Fを、中心軸X1回りの周方向に沿って配置した場合を例示して説明したが、電極針15の数や配置はこれに限定されるものではない。
【0123】
例えば、電極針15は、治療部位TC(癌細胞TC1)を挟んで互いに向き合う位置に、少なくとも一対設けられていればよい。また、中心軸X1回りの周方向に沿って、2個以上設けられていればよく、例えば、電極針15を、中心軸X1回りの周方向に沿って、8個又は10個設けられていても良い。
【0124】
また、電極針ユニット10では、治療部位TCを囲むように複数の電極針15が設けられていればよく、例えば、複数の電極針15を結ぶ仮想線の形状が、直線、楕円、四角形、三角形状となるように複数の電極針15を設けても良い。
このように電極針15を設けても、治療部位TCに対して、電極針15による薬剤100の吐出と電圧の印加を適切に行うことができる。
【0125】
また、前述した実施の形態では、電極針15の先端15a近傍に、2つの開口151a、151bを同一方向(中心軸X1方向)に設ける場合を例示して説明したが、開口の数や位置はこれに限定されない。
【0126】
例えば、電極針15に設ける開口の数は単数(1個)でもよく、また開口を同一方向(中心軸X1方向)に3個以上設けても良い。さらに、電極針15の先端15Aに開口を設けてもよい。
また、電極針15において、各々の開口の方向を、周方向又は上下方向にずらして配置しても良い。このように構成すると、開口から吐出される薬剤100の方向を異なる複数方向にすることができ、治療部位TC全体に満遍なく薬剤100を浸潤させることができる。特に、治療部位TCに対する電極針15の刺入位置がずれていた場合でも、電極針15の開口が、異なる複数方向に設けられているので、電極針15では、何れかの開口から、治療部位TCに向けて薬剤100を吐出することができる。
【0127】
(12)なお、薬剤供給装置20と電極針15との間に、電極針15に供給された薬剤100に印加された電圧Vを絶縁する絶縁装置(絶縁部材)を設けてもよい。例えば、絶縁装置として、電磁弁(図示せず)を採用することができる。
電磁弁の弁、弁座などの薬剤100と接触する部材を絶縁性の樹脂材料で形成する。このように構成すると、電磁弁を閉じることで、電磁弁の前後で絶縁することができる。
【0128】
よって、治療装置1では、電極針15に薬剤100を供給した後、電磁弁を閉じて絶縁し、電極針15に電圧Vを印加することで、電極針15に印加された電圧Vが薬剤供給管21及び薬剤100を通って薬剤供給装置20などの周辺機器へ印加される危険性を防止することができる。
【0129】
なお、電極針15の孔151の内周に樹脂コーティングを行い、導電部材32と薬剤100とを絶縁するようにすることが好ましい。
このようにすると、導電部材32の電圧Vが薬剤100に印加される電圧値を低下させることができる。よって、電圧Vが薬剤100を介して薬剤供給装置20に印加して、薬剤供給装置20などの周辺機器へ印加される危険性を防止することができる。
【0130】
また、前述した実施の形態では、固定部17のストッパ部材173は、後端173aから先端173cまでの長さがL1で固定されている場合を例示して説明したが、ストッパ部材173の構成は、これに限定されるものではない。
【0131】
例えば、ストッパ173の長さL1は、筒状部材171の長さL2よりも長ければよく、固定部17に、ストッパ部材173の長さを調整する長さ調整機構(図示せず)を設けても良い。
このように構成すると、固定部17では、ストッパ部材173の長さを、治療部位TCの大きさや、位置に応じて調整することができる結果、ストッパ部材173で規定される電極針15の刺入深さを適切に設定することができる。
【0132】
また、前述した実施の形態では、ストッパ部材173を透明な樹脂材料で形成する場合を例示して説明したが、ストッパ部材173の構成はこれに限定されるものではない。
【0133】
例えば、ストッパ部材173のフレームを剛性の高い材料(例えば、ステンレスやアルミニウムなど)で形成し、このフレームの一部分を透明な樹脂材料で形成し、又は中抜き窓としても良い。このように構成しても、治療装置1の操作者は、ストッパ部材173の一部分に形成された透明部又は中抜き窓から、治療部位TCを視認することができる。
なお、筒状部材171を透明な樹脂材料で形成することによって、筒状部材171とストッパ部材173の両方が視認可能となるので、操作者による治療部位TCの視認性がさらに向上する。
【0134】
また、前述した、冷却装置40による治療部位TCの冷却は、少なくとも治療部位TCに電圧を印加する工程(ステップS104)の前、又は同時に行えばよい。これにより、治療部位TCに電圧を印加することによる、治療部位TCの発熱を適切に抑えることができる。
【0135】
また、前述した吸引装置50による治療部位TC周辺の吸引は、電極針15を治療部位TCに刺入する前に行えばよい。これにより、電極針15の治療部位TCへの刺入量を適切に制御することができる。よって、電極針15は、治療部位TCへの薬剤100の吐出と電圧の印加を確実に行うことができる。
【符号の説明】
【0136】
1:治療装置、10:電極針ユニット、11:基部、12:固定部材、121:ガイド、125:第1歯車部材、126:第2歯車部材、127:高さ位置調整ネジ、128:直動機構、13:電極針可動機構、15、15A〜15F:電極針、151:孔、151a、151b、151c:開口、17:固定部、171:筒状部材、172:カバー部材、173:ストッパ部材、20:薬剤供給装置、30:電圧印加装置、32:導電部材、33:高電圧パルス発生部、34:電気極性変更部、40:冷却装置、50:吸引装置、60:制御装置、61:CPU、62:メモリ、63:薬剤設定部、64:電圧設定部、100:薬剤、TC:治療部位、TC1:癌細胞、TC1a:細胞膜、TC1b:穿孔、S:皮膚
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10