特許第6884078号(P6884078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6884078
(24)【登録日】2021年5月13日
(45)【発行日】2021年6月9日
(54)【発明の名称】プラント異常監視システム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20210531BHJP
【FI】
   G05B23/02 302Z
   G05B23/02 R
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-181598(P2017-181598)
(22)【出願日】2017年9月21日
(65)【公開番号】特開2019-57164(P2019-57164A)
(43)【公開日】2019年4月11日
【審査請求日】2020年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岩下 信治
(72)【発明者】
【氏名】青田 浩美
(72)【発明者】
【氏名】宮本 学
(72)【発明者】
【氏名】橘田 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】松田 政禎
【審査官】 牧 初
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−62730(JP,A)
【文献】 特開2016−125947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00−23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの運転状態を示す複数の運転データに基づいて異常を監視するプラント異常監視システムであって、
前記複数の運転データを含む監視運転データに基づいて算出される異常度である監視異常度に基づいて前記プラントにおける異常兆候の有無を判定する異常兆候判定部と、
前記異常兆候判定部によって前記異常兆候が有ると判定された場合に、前記監視運転データと、過去に取得された前記異常兆候を示す前記複数の運転データを含む少なくとも1つの参照運転データとの比較に基づいて前記プラントの異常診断を行う異常診断部と、を備え、
前記異常診断部は、
前記監視運転データを構成する前記複数の運転データの各々について前記監視異常度に対する寄与度を算出すると共に、前記監視運転データのうち、算出した前記寄与度である監視寄与度の大きい上位N個(Nは2以上の整数を示す。)の前記運転データにより構成される診断対象データ群を抽出する診断対象データ群抽出部と、
前記診断対象データ群と、前記参照運転データを構成する前記複数の運転データの各々について前記参照運転データに基づいて算出される前記異常度に対する前記寄与度である参照寄与度の大きい上位M個(Mは2以上の整数を示す。)の前記運転データにより構成される診断参照データ群との合致指標を算出する合致指標算出部と、
前記合致指標が合致判定閾値以上となる前記参照運転データに基づいて前記プラントの前記異常を予測する異常予測部と、を有することを特徴とするプラント異常監視システム。
【請求項2】
前記合致指標は、前記診断対象データ群または前記診断参照データ群を構成する前記運転データの前記監視寄与度の合計に対する、前記診断対象データ群および前記診断参照データ群の双方に属するi個の運転データ(但し、i≦N、M)についての前記監視寄与度の合計の割合を含むことを特徴とする請求項1に記載のプラント異常監視システム。
【請求項3】
前記合致指標は、前記診断対象データ群および前記診断参照データ群の双方に属するi個の運転データ(但し、i≦NまたはM)の数の、前記N個または前記M個の数に対する割合を含むことを特徴とする請求項1に記載のプラント異常監視システム。
【請求項4】
前記合致指標は、前記診断参照データ群または前記診断対象データ群を構成する前記運転データに対して前記参照寄与度または前記監視寄与度が大きいほど大きい値となるポイント値を付与した際に、前記診断対象データ群および前記診断参照データ群の双方に属するi個の前記運転データ(但し、i≦NまたはM)についての前記ポイント値の合計を含むことを特徴とする請求項1に記載のプラント異常監視システム。
【請求項5】
前記異常度は、マハラノビス距離であり、
前記寄与度は、前記運転データのSN比であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラント異常監視システム。
【請求項6】
前記参照運転データを記憶する運転データ記憶部を、さらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラント異常監視システム。
【請求項7】
前記参照運転データは、前記監視運転データが取得された前記プラントとは異なる他のプラントの前記運転状態を示すデータであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のプラント異常監視システム。
【請求項8】
プラントの運転状態を示す複数の運転データに基づいて異常を監視するプラント異常監視方法であって、
前記複数の運転データを含む監視運転データに基づいて算出される異常度である監視異常度に基づいて前記プラントにおける異常兆候の有無を判定する異常兆候判定工程と、
前記異常兆候判定工程によって前記異常兆候が有ると判定された場合に、前記監視運転データと、過去に取得された前記異常兆候を示す前記複数の運転データを含む少なくとも1つの参照運転データとの比較に基づいて前記プラントの異常診断を行う異常診断工程と、を備え、
前記異常診断工程は、
前記監視運転データを構成する前記複数の運転データの各々について前記監視異常度に対する寄与度を算出すると共に、前記監視運転データのうち、算出した前記寄与度である監視寄与度の大きい上位N個(Nは2以上の整数を示す。)の前記運転データにより構成される診断対象データ群を抽出する診断対象データ群抽出工程と、
前記診断対象データ群と、前記参照運転データを構成する前記複数の運転データの各々について前記参照運転データに基づいて算出される前記異常度に対する前記寄与度である参照寄与度の大きい上位M個(Mは2以上の整数を示す。)の前記運転データにより構成される診断参照データ群との合致指標を算出する合致指標算出工程と、
前記合致指標が合致判定閾値以上となる前記参照運転データに基づいて前記プラントの前記異常を予測する異常予測工程と、を有することを特徴とするプラント異常監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラントの異常を監視するプラント異常監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラントでは、故障の発生を未然に防止するための異常監視が行われており、例えば、プラントを構成する各種機器(設備)に対して設置された複数のセンサの測定値(センサ値)を監視し、センサ値がある閾値を超えると運転者、管理者に対してアラームを発報するといった監視手法が知られている。このように通知される異常の中には、例えば、ボイラの炉壁管などの伝熱管に高温腐食や摩耗により生じた損傷からの給水のリーク(漏れ)に伴ってアラームが発報されるなど、故障の発生を伴うものもあり、故障が発生した場合には、その拡大を防止するために機器(プラント)を停止させるといった対応の必要性が生じる。
【0003】
そこで、異常が検知される前にその兆候を検知する手法が提案されている(特許文献1〜2)。例えば、特許文献1には、監視されるプラントの運転履歴に基づいて、プラントの異常の予兆(兆候)を監視する異常予兆監視システムと、異常予兆監視システムにより検知される異常予兆の結果に基づいてプラントの異常診断を行う異常診断システムを備えるプラント運転システムが開示されている。この異常診断による異常原因の特定はベイジアンネットワーク(統計モデル)を用いて行うことが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、プラントの監視診断方法において、プラントの運転状態、機器の作動状態、環境状態を検出して、検出データを蓄積し、プラントの検査データを蓄積し、上記蓄積された検出データ及び検査データからなるプラントの履歴情報に基づいて、現在のプラントの状態を診断することが開示されている。これによって、現在の状態が健全であっても、例えば、履歴情報から、過去に異常徴候等が検出されている場合には監視診断を行い、異常が検出されたときには異常箇所及び異常内容を同定し、異常の波及事象を予測するとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/051576号公報
【特許文献2】特開平6−331507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜2のようにプラントの運転履歴を用いて異常の兆候を検知し、異常の発生前に異常事象を予測することは、プラントの故障の未然防止を図る手法として有効である。そして、本発明の発明者らは、異常の兆候がどのような異常事象に発展するかを予測(特定)するための新たな手法を発明した。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、プラントに生じる異常事象を発生前に予測することが可能なプラント異常監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るプラント異常監視システムは、
プラントの運転状態を示す複数の運転データに基づいて異常を監視するプラント異常監視システムであって、
前記複数の運転データを含む監視運転データに基づいて算出される異常度である監視異常度に基づいて前記プラントにおける異常兆候の有無を判定する異常兆候判定部と、
前記異常兆候判定部によって前記異常兆候が有ると判定された場合に、前記監視運転データと、過去に取得された前記異常兆候を示す前記複数の運転データを含む少なくとも1つの参照運転データとの比較に基づいて前記プラントの異常診断を行う異常診断部と、を備え、
前記異常診断部は、
前記監視運転データを構成する前記複数の運転データの各々について前記監視異常度に対する寄与度を算出すると共に、前記監視運転データのうち、算出した前記寄与度である監視寄与度の大きい上位N個(Nは2以上の整数を示す。)の前記運転データにより構成される診断対象データ群を抽出する診断対象データ群抽出部と、
前記診断対象データ群と、前記参照運転データを構成する前記複数の運転データの各々について前記参照運転データに基づいて算出される前記異常度に対する前記寄与度である参照寄与度の大きい上位M個(Mは2以上の整数を示す。)の前記運転データにより構成される診断参照データ群との合致指標を算出する合致指標算出部と、
前記合致指標が合致判定閾値以上となる前記参照運転データに基づいて前記プラントの前記異常を予測する異常予測部と、を有する。
【0009】
上記(1)の構成によれば、プラント異常監視システムは、プラントに設置された複数のセンサによる測定などを通して得られる運転データ(監視運転データ)を監視し、監視運転データに基づいて算出される異常度(監視異常度。例えばマハラノビス距離(MD)など)に基づいて異常兆候を検知すると、この異常兆候が示す異常を診断する。具体的には、監視異常度の算出に用いた複数の運転データ(監視運転データ)の監視異常度に対する寄与度(監視寄与度。例えば異常度がMDの場合はSN比。)を算出する。次に、監視異常度の大きい上位N個(診断対象データ群)と、過去に生じた異常の異常兆候を示すものとして蓄積されている少なくとも1つの参照運転データについて同様な手法によって算出された寄与度(参照寄与度。過去の監視運転データ)の上位M個(診断参照データ群)との合致指標を算出する。そして、監視運転データと合致指標が合致判定閾値以上となる参照運転データを探し、得られた参照運転データが示す異常兆候に対応する異常の発生を予測する。
【0010】
つまり、現在監視している監視運転データ(診断対象データ群)と、過去に経験した異常(トラブル)の異常兆候を示す参照運転データ(診断参照データ群)とのマッチングを各々の異常度に対する寄与度の観点で行い、マッチングのとれた参照運転データが示す異常兆候が発生している可能性が高いとして、異常を予測する。これによって、過去に生じた異常が発生する前に異常の事象(内容)を予測することができ、予測された異常への対処を通してプラントの故障の未然防止を図ることができる。
【0011】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記合致指標は、前記診断対象データ群または前記診断参照データ群を構成する前記運転データの前記監視寄与度の合計に対する、前記診断対象データ群および前記診断参照データ群の双方に属するi個の運転データ(但し、i≦N、M)についての前記監視寄与度の合計の割合を含む。
上記(2)の構成によれば、合致指標の算出に寄与度を用いることで、監視運転データから抽出される診断対象データ群と、参照運転データから抽出される診断参照データ群との合致指標を適切に評価することができる。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記合致指標は、前記診断対象データ群および前記診断参照データ群の双方に属するi個の運転データ(但し、i≦NまたはM)の数の、前記N個または前記M個の数に対する割合を含む。
上記(3)の構成によれば、合致指標を、監視運転データから抽出される診断対象データ群および参照運転データから抽出される診断参照データ群に共通する運転データの種類の割合として算出することで、合致指標を適切に評価することができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記合致指標は、前記診断参照データ群または前記診断対象データ群を構成する前記運転データに対して前記参照寄与度または前記監視寄与度が大きいほど大きい値となるポイント値を付与した際に、前記診断対象データ群および前記診断参照データ群の双方に属するi個の前記運転データ(但し、i≦NまたはM)についての前記ポイント値の合計を含む。
上記(4)の構成によれば、合致指標の算出にポイント値を用いることで、監視運転データから抽出される診断対象データ群と、参照運転データから抽出される診断参照データ群との合致指標を適切に評価することができる。このポイント値は、診断参照データ群を構成する運転データの寄与度が大きいほど大きいため、診断対象データ群と診断参照データ群とに共通する運転データの種類により合致指標を算出するよりも、寄与度の大きさの順位を反映した合致指標を算出することができる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(4)の構成において、
前記異常度は、マハラノビス距離であり、
前記寄与度は、前記運転データのSN比である。
上記(5)の構成によれば、異常兆候の検知をマハラノビス距離に基づいて適切に行うことができると共に、診断対象データ群と診断参照データ群とのマッチングをSN比に基づいて適切に行うことができる。
【0015】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(5)の構成において、
前記参照運転データを記憶する運転データ記憶部を、さらに備える。
上記(6)の構成によれば、参照運転データを、過去に生じた異常の異常兆候を示す情報として確実に保管することができる。
【0016】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(6)の構成において、
前記参照運転データは、前記監視運転データが取得された前記プラントとは異なる他のプラントの前記運転状態を示すデータである。
上記(7)の構成によれば、他のプラントで生じた異常の異常兆候を示す参照運転データを用いて診断を実行する。つまり、参照運転データをプラント間で共有しており、他プラントで発生済の異常であって自プラントで未発生である異常についても、異常が発生する前に異常を予測することができる。
【0017】
(8)本発明の少なくとも一実施形態に係るプラント異常監視方法は、
プラントの運転状態を示す複数の運転データに基づいて異常を監視するプラント異常監視方法であって、
前記複数の運転データを含む監視運転データに基づいて算出される異常度である監視異常度に基づいて前記プラントにおける異常兆候の有無を判定する異常兆候判定工程と、
前記異常兆候判定工程によって前記異常兆候が有ると判定された場合に、前記監視運転データと、過去に取得された前記異常兆候を示す前記複数の運転データを含む少なくとも1つの参照運転データとの比較に基づいて前記プラントの異常診断を行う異常診断工程と、を備え、
前記異常診断工程は、
前記監視運転データを構成する前記複数の運転データの各々について前記監視異常度に対する寄与度を算出すると共に、前記監視運転データのうち、算出した前記寄与度である監視寄与度の大きい上位N個(Nは2以上の整数を示す。)の前記運転データにより構成される診断対象データ群を抽出する診断対象データ群抽出工程と、
前記診断対象データ群と、前記参照運転データを構成する前記複数の運転データの各々について前記参照運転データに基づいて算出される前記異常度に対する前記寄与度である参照寄与度の大きい上位M個(Mは2以上の整数を示す。)の前記運転データにより構成される診断参照データ群との合致指標を算出する合致指標算出工程と、
前記合致指標が合致判定閾値以上となる前記参照運転データに基づいて前記プラントの前記異常を予測する異常予測工程と、を有する。
【0018】
上記(8)の構成によれば、上記(1)と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、プラントに生じる異常事象を発生前に予測することが可能なプラント異常監視システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るプラント異常監視システムの構成を概略的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る参照運転データを説明するための図である。
図3】本発明の一実施形態に係る合致指標の算出方法を説明するための図である。
図4】本発明の一実施形態に係るプラント異常監視方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るプラント異常監視システム1の構成を概略的に示す図である。図2は、本発明の一実施形態に係る参照運転データDrを説明するための図である。また、図3は、本発明の一実施形態に係る合致指標Rmの算出方法を説明するための図である。
【0023】
図1に示すように、プラント異常監視システム1は、プラント9の運転状態を示す複数の運転データDに基づいて異常を監視するシステムである。例えば事業用ボイラを有する火力発電所や原子力発電所などの発電プラントや、ごみ焼却所、化学プラントなどといったプラント9では、運転制御や異常監視のために、プラント9を構成する複数の機器(設備)の状態を複数のセンサを設置するなどして測定すると共に、バルブを含む各種機器のオン/オフなどの状態が監視される。そして、プラント異常監視システム1は、これらの複数のセンサの測定値(以下、適宜、センサ値)や上記のオン/オフなどの状態に加えて、各種機器の作動を制御する分散制御システム(DCS)の制御内容や操作盤の操作内容などの制御情報をそれぞれ運転データDとして周期的に取得し、これら複数の運転データDに基づく異常監視を行う。
【0024】
例えば、火力発電プラントを構成する複数の機器はとしては、ボイラや、蒸気タービン(高圧タービン、低圧タービンなど)、過熱器、再熱器、節炭器などの熱交換器、蒸気タービンに送る蒸気の流量および圧力を調整するバルブやダンパ、ボイラから排出される排ガスを処理するため各種機器(脱硝装置や電気集塵機等)などがある。そして、この場合の運転データDは、ボイラによって生成される蒸気の温度、圧力、流量や、蒸気タービンの振動、回転数、バルブ、ダンパの開度、過熱器や再熱器の温度などとなる。
【0025】
図1図3に示す実施形態では、図1に示すように、プラント9は、コンピュータによって実現される運転履歴作成機能を備えており、周期的な各タイミングで取得される上述したような各種の運転データDのセット毎に運転履歴Hを作成するようになっている。また、こうして作成された運転履歴Hは、例えば1セットなどの所定数の運転履歴Hが生成された後や所定時間毎などにプラント異常監視システム1に送られるようになっている。プラント異常監視システム1が定期的などにプラント9に対して運転履歴Hの送信をプラント9側に要求するのを通して、運転履歴Hを受信しても良い。また、プラント異常監視システム1とプラント9とは広域通信網(WAN)を介して接続されても良く、MPLS−VPNなどIP−VPN技術を用いた仮想専用線を介して運転履歴Hの上記の送受信を行っても良い。
【0026】
次に、プラント異常監視システム1について詳細に説明する。
図1に示すように、プラント異常監視システム1は、異常兆候判定部3と、異常診断部4と、を備える。プラント異常監視システム1はコンピュータで構成されており、図示しないCPU(プロセッサ)や、ROMやRAMといったメモリや記憶装置14(外部記憶装置)を備えている。そして、メモリ(主記憶装置)にロードされたプログラムの命令に従ってCPUが動作(データの演算など)することで、プラント異常監視システム1が備える上記の各機能部を実現する。上記の機能部について、それぞれ説明する。
【0027】
なお、以下の説明では、後述する異常度Tおよび寄与度Cは、それぞれ、MT法(マハラノビス・タグチ法)と呼ばれるパターン認識技術で用いられるマハラノビス距離(MD)およびSN比として説明する。このMT法では、正常な多変量データ(ここでは、複数の運転データD)をもとに正常な集団を単位空間と定義し、対象データ(ここでは、監視運転データDt)の単位空間からの距離(マハラノビス距離)を求めて異常を判定する。これにより、マハラノビス距離という一つの指標のみによってプラント9を総合的に診断することが可能である。また、MT法は、各種運転パラメータが管理値以内(異常判定閾値La以内)であるか否かによって診断する手法に比べて、機器の損傷が進行する前に早期に異常を検知することが可能となり、機器の損傷を未然に防ぐ、あるいは最小限に抑えることが可能な方法として知られている。ただし、本実施形態に本発明は限定されない。異常度Tは、異常兆候Sや異常を検知可能であれば、例えばK近傍法など、多変量データに基づいて他の手法で算出されても良い。
【0028】
異常兆候判定部3は、複数の運転データDを含む監視運転データDtに基づいて算出される異常度T(本実施形態ではマハラノビス距離。以下同じ。)である監視異常度Ttに基づいてプラント9における異常兆候Sの有無を判定する。図1図3に示す実施形態では、図1に示すように、プラント異常監視システム1は、上述したようにプラント9側から送られてくる複数の運転データD(運転履歴H)を含む監視運転データDtを取得する運転データ収集部12と、運転データ収集部12が取得した監視運転データDtに基づいて監視異常度Ttを算出する異常度算出部21と、を備える。本実施形態では、プラント9が生成した運転履歴Hは作成される度にプラント異常監視システム1に送信されるようになっており、運転データ収集部12はプラント9から受信すると、受信した最新の運転履歴Hを相互に接続された異常度算出部21に送信する。異常度算出部21は、運転データ収集部12から入力された最新の運転履歴Hに含まれる複数の運転データDを監視対象(監視運転データDt)として、その監視異常度Ttを算出する。そして、異常兆候判定部3は、上記の異常度算出部21に接続されており、異常度算出部21が算出した監視異常度Ttを取得する。
【0029】
また、図1図3に示す本実施形態では、プラント異常監視システム1は異常検知部22を備えており、上述した異常度算出部21、異常検知部22および異常兆候判定部3で異常監視部2を構成している。異常兆候判定部3および異常検知部22は、それぞれ異常度算出部21に接続されており、異常度算出部21が算出した監視異常度Ttを取得する。両者の違いは、異常兆候判定部3は、監視異常度Ttと異常兆候Sを検知するための閾値(異常兆候判定閾値Ls)との比較など、監視異常度Ttに基づいて異常兆候Sの有無を判定するのに対し、異常検知部22は、異常兆候Sに対応する事象が進行することによって至る異常の発生の有無を、監視異常度Ttと異常を検知するための閾値(異常判定閾値La)との比較など、監視異常度Ttに基づいて判定する点である。異常度Tは、異常が発生すると正常値(正常範囲)から大きく逸脱するが(図2(a)、図3(a)の時刻t2参照)、異常判定閾値Laは異常度Tが正常値から逸脱する事象を検知可能な値に設定され、異常兆候判定閾値Lsは、過去の異常事例(トラブル事例)での異常度Tの推移を解析して異常兆候Sといえる事象(変化)を判別した上で、その事象を検知可能な値に設定される。よって、異常兆候判定閾値Lsの絶対値は、異常判定閾の絶対値よりも小さいものとなる(|Ls|<|La|)。
【0030】
そして、図1に示すように、異常検知部22(異常監視部2)は、異常を判定した場合にはアラームを発報するなど、運転者や管理者などに異常が発生した旨を通知する。他方、異常兆候判定部3(異常監視部2)は、異常兆候Sが有ると判定すると、次に説明する異常診断部4に通知する。異常兆候Sの検知に用いる異常兆候判定閾値Lsは、複数種類の異常兆候Sに共通した値となったり、複数種類の異常兆候Sをまとめて検知するように設定されたりするなど、異常兆候判定部3によって検知された異常兆候Sがどのような異常に基づくものであるかは明らかではない場合が多く、異常兆候Sが示す異常を予測(特定)するためである。
【0031】
異常診断部4は、上述した異常兆候判定部3によって異常兆候Sが有ると判定された場合に、監視運転データDtと、過去に取得された異常兆候Sを示す複数の運転データDを含む少なくとも1つの参照運転データDrとの比較に基づいてプラント9の異常診断を行う。上記の参照運転データDrは、過去に発生した異常の解析を通して得られた異常兆候Sに対応する。異常が発生した場合には、例えば図2(a)に示すように異常度T(MD値)は異常判定閾値Laを超えるほど大きくなるが(図2(a)、図3(b)の時刻t2)、異常の解析を通して、時間の経過に従って変化する異常度Tのどこの段階(時間帯)に異常兆候Sがあったのかを判別し、その異常兆候Sを示す異常度Tの算出に用いた複数の運転データDが参照運転データDrとして保存される。図2に示す実施形態では、異常判定がなされた時刻t2よりも前の時刻t1においてMD値が変化する事象が発生している。そして、この時刻t1から時刻t2の間の異常度Tが異常兆候Sを示すものであったと判別された結果、その際の異常度Tが合計でMa個の運転データDに基づいて算出されていたが、そのうちから、その異常兆候Sをより感度良く判定することが可能なMb個(Ma≧Mb≧2)の運転データDが抽出され、参照運転データDrとして保存されている。
【0032】
そして、異常診断部4は、上述した参照運転データDrに基づいた異常診断を通して、検知した異常兆候Sがどのような異常事象の兆候であるかを予測する。具体的には、異常診断部4は、上記の異常診断(異常の予測)を、異常度Tの算出に用いた複数の運転データDの各々の異常度Tに対する寄与度Cに基づいて行う。この寄与度Cは、複数の運転データDのどれがどの程度、異常兆候判定閾値Lsを超えるまでに異常度Tを変化させるのに寄与しているのかを示す指標であり、異常度Tに対する寄与度Cが高い運転データDほど、検知した異常兆候Sの主な要因に該当することを示す。よって、監視運転データDtに関する寄与度C(監視寄与度Ct)と、参照運転データDrに関する寄与度C(参照寄与度Cr)とが合致すれば、異常兆候Sの主な要因が合致することになる。本発明は、このような知見に基づいて、検知された異常兆候Sが示す異常を予測する。図1図3に示す実施形態では、図2図3に示すように、異常度TであるMD値に対して、直交表を用いて求められるSN比を寄与度Cとして算出している(図2図3参照)。
【0033】
より具体的には、上述した異常診断を行うための構成として、異常診断部4は、診断対象データ群抽出部5と、合致指標算出部6と、異常予測部7と、を備える。
なお、図1図3に示す実施形態では、図1に示すように、上記の参照運転データDrは、異常兆候事例として、プラント異常監視システム1が備える記憶装置14に記憶されている。また、参照運転データDrを構成する過去の複数の運転データ(参照運転データDr)の各々の寄与度C(参照寄与度Cr)は、参照運転データDrを記憶装置14に記憶する際に予め算出することにより、参照運転データDrと共に記憶装置14に記憶されている。他の幾つかの実施形態では、参照運転データDrのみが記憶装置14に記憶されていても良い。
【0034】
診断対象データ群抽出部5は、図3に示すように、監視運転データDtを構成する複数の運転データDの各々について監視異常度Ttに対する寄与度Cを算出すると共に、監視運転データDtのうち、算出した寄与度Cである監視寄与度Ctの大きい上位N個の運転データDにより構成される診断対象データ群Gtを抽出する。上記のNは、監視運転データDtを構成する運転データDの数をNaとするとNa≧N>2を満たす整数であり、異常兆候Sの特徴を適切に含むような値に設定するのが望ましい。
【0035】
合致指標算出部6は、診断対象データ群抽出部5によって抽出された診断対象データ群Gtと診断参照データ群Grとの合致指標Rmを算出する。診断参照データ群Grは、参照運転データDrを構成する複数の運転データDの各々について、参照運転データDrに基づいて算出される異常度Tに対する寄与度Cである参照寄与度Crの大きい上位M個の運転データDにより構成される。合致指標Rmは、診断対象データ群Gtと診断参照データ群Grとがどの程度合致するかを定量的に示す指標であり、例えば、その値が大きいほど、診断対象データ群Gtと診断参照データ群Grとが合致すること(共通項目が多いこと)を示す指標である。具体的な算出方法は後述する。
【0036】
図1図3に示す実施形態では、図1に示すように、合致指標算出部6は、診断対象データ群抽出部5および記憶装置14にそれぞれ接続されており、診断対象データ群抽出部5から入力される診断対象データ群Gtと、記憶装置14から入力される診断対象データ群Gtとの合致指標Rmを算出するように構成されている。また、上記のMは、参照運転データDrの総数であるMbとなっており、さらに、診断対象データ群Gtを構成する運転データの数であるNと同じとなっている(N=M=Mb)。
【0037】
異常予測部7は、合致指標Rmが合致判定閾値V以上となる参照運転データDrに基づいてプラント9の異常を予測する。例えば、参照運転データDrと、炉壁管からの給水リークなどの異常事象(トラブル事例)とが対応づけられて記憶装置14に記憶されており、合致指標Rmが合致判定閾値V以上となる参照運転データDrの異常事象の発生が予測結果として出力されても良い。図1図3に示す実施形態では、合致指標Rmが合致判定閾値V以上となる1以上の参照運転データDrの異常事象の情報が合致指標Rmの情報と共に異常予測部7から出力されることによって、ディスプレイなどの表示装置16に表示されるようになっている。
【0038】
次に、上述したプラント異常監視システム1による処理に対応するプラント異常監視方法について、図1を用いて説明する。図4は、本発明の一実施形態に係るプラント異常監視方法を示す図である。プラント異常監視方法は、プラント9の運転状態を示す複数の運転データDに基づいて異常を監視する方法であり、図4に示すように、異常兆候判定工程(S1〜S3)と、診断対象データ群抽出工程(S5)、合致指標算出工程(S6)および異常予測工程(S7)を有する異常診断工程(S4〜S7)と、を備える。
図4に示すフローに従ってプラント異常監視方法を説明する。なお、図4のフローは、プラント9から運転履歴Hを取得する度に行うものとする。
【0039】
図4のステップS1〜S3において異常兆候判定工程を行う。異常兆候判定工程は、複数の運転データDを含む監視運転データDtに基づいて算出される異常度T(本実施形態ではマハラノビス距離)である監視異常度Ttに基づいてプラント9における異常兆候Sの有無を判定する工程である。図4に示す実施形態では、ステップS1において監視運転データDt(運転履歴H)を収集し、ステップS2において監視異常度Ttを算出し、ステップS3において異常兆候Sの有無を判定する。そして、ステップS4において異常兆候Sが有ると判定された場合には次に説明する異常診断工程(S4〜S7)を実行し、異常兆候Sが無いと判定された場合には、図4のフローを終了する。なお、正常との旨を上記の表示装置16に表示した後に図4のフローを終了しても良い。異常兆候判定工程は、上述した異常兆候判定部3が行う処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0040】
図4のステップS5〜S8において異常診断工程を行う。異常診断工程は、上述した異常兆候判定部3によって異常兆候Sが有ると判定された場合に、監視運転データDtと、過去に取得された異常兆候Sを示す複数の運転データDを含む少なくとも1つの参照運転データDrとの比較に基づいてプラント9の異常診断を行う工程である。より詳細には、ステップS5において診断対象データ群抽出工程を実行し、ステップS6で合致指標算出工程を実行し、ステップS7で異常予測工程を実行する。診断対象データ群抽出工程(S5)は、上述した診断対象データ群抽出部5が行う処理と同様であり、合致指標算出工程(S6)は、上述した合致指標算出部6が行う処理と同様であり、異常予測工程(S7)は、上述した異常予測部7が行う処理と同様である。よって、これらの工程の詳細は省略する。
【0041】
そして、ステップS8において、異常診断工程(S4〜S7)によって行われた異常診断の診断結果を出力し、ディスプレイなどの表示装置16に表示する(図1参照)。これによって、異常兆候Sが示す異常が、プラント9の運転者や管理者に通知される。
【0042】
上記の構成によれば、プラント異常監視システム1は、プラント9に設置された複数のセンサによる測定などを通して得られる運転データD(監視運転データDt)を監視し、監視運転データDtに基づいて算出される異常度T(監視異常度Tt。例えばマハラノビス距離(MD)など)に基づいて異常兆候Sを検知すると、この異常兆候Sが示す異常を診断する。具体的には、監視異常度Ttの算出に用いた複数の運転データD(監視運転データDt)の監視異常度Ttに対する寄与度(監視寄与度Ct。例えば異常度TがMDの場合はSN比。)を算出する。次に、監視異常度Ttの大きい上位N個(診断対象データ群)と、過去に生じた異常の異常兆候Sを示すものとして蓄積されている少なくとも1つの参照運転データDrについて同様な手法によって算出された寄与度C(参照寄与度Cr。過去の監視運転データDt)の上位M個(診断参照データ群Gr)との合致指標Rmを算出する。そして、監視運転データDtと合致指標Rmが合致判定閾値V以上となる参照運転データDrを探し、得られた参照運転データDrが示す異常兆候Sに対応する異常の発生を予測する。
【0043】
つまり、現在監視している監視運転データDt(診断対象データ群Gt)と、過去に経験した異常(トラブル)の異常兆候Sを示す参照運転データDr(診断参照データ群Gr)とのマッチングを各々の異常度Tに対する寄与度Cの観点で行い、マッチングのとれた参照運転データDrが示す異常兆候Sが発生している可能性が高いとして、異常を予測する。これによって、過去に生じた異常が発生する前に異常の事象(内容)を予測することができ、予測された異常への対処を通してプラント9の故障の未然防止を図ることができる。
【0044】
次に、上述した合致指標Rmの算出方法に関する幾つかの実施形態について説明する。
幾つかの実施形態では、図3(b)に示すように、合致指標Rmは、診断対象データ群Gtまたは診断参照データ群Grを構成する運転データDの監視寄与度Ctの合計(図3(b)ではSa)に対する、診断対象データ群Gtおよび診断参照データ群Grの双方に属するi個の運転データD(但し、i≦N、M)についての監視寄与度Ctの合計(図3(b)ではS)の割合を含む。図3に示す実施形態では、図3(b)に示すように、診断対象データ群Gtを構成する運転データDの監視寄与度Ctの合計をSaとして、合致指標Rmを、Rm=S÷Saで算出している。他の幾つかの実施形態では、診断参照データ群Grを構成する運転データDの参照寄与度Crの合計をSaとして、同様の演算式により合致指標Rmを算出しても良い。その他の幾つかの実施形態では、上記の演算式を含む他の演算式で合致指標Rmを算出しても良い。
【0045】
上記の構成によれば、合致指標Rmの算出に寄与度Cを用いることで、監視運転データDtから抽出される診断対象データ群Gtと、参照運転データDrから抽出される診断参照データ群Grとの合致指標Rmを適切に評価することができる。
【0046】
他の幾つかの実施形態では、合致指標Rmは、診断対象データ群Gtおよび診断参照データ群Grの双方に属するi個の運転データDの数の、N個またはM個の数に対する割合を含む。つまり、合致指標Rmは、Rm=i÷N、または、Rm=i÷Mを含む演算式で算出される。複数の運転データDの各々は異常兆候Sの要因であり、本実施形態では、異常兆候Sの要因が診断対象データ群Gtおよび診断参照データ群Grで共通する割合を求める。
【0047】
上記の構成によれば、合致指標Rmを、監視運転データDtから抽出される診断対象データ群Gtおよび参照運転データDrから抽出される診断参照データ群Grに共通する運転データDの種類の割合として算出することで、合致指標Rmを適切に評価することができる。
【0048】
その他の幾つかの実施形態では、合致指標Rmは、診断参照データ群Grまたは診断対象データ群Gtを構成する運転データDに対して参照寄与度Crまたは監視寄与度Ctが大きいほど大きい値となるポイント値を付与した際に、診断対象データ群Gtおよび診断参照データ群Grの双方に属するi個の運転データD(但し、i≦NまたはM)についてのポイント値の合計を含む。上記のポイント値は、例えば、図2(b)または図3(b)の表に示すような、寄与度Cを昇順に並べると共にその並びに対して1から番号を付与したSN比のランキング値の逆数であっても良い。
【0049】
図3に示す実施形態では、図3(b)に示すように、合致指標Rmは、診断対象データ群Gtを構成する監視運転データDtのSN比ランキングのリストにおいて、参照運転データDrの上位M個までの有無の欄が有りとなっている各監視運転データDtについて、SN比ランキングの逆数(ポイント値)を全て合計したものとして算出している。より具体的には、図3(b)において、少なくともランキング1位、2位、5位、7位が診断対象データ群Gtおよび診断参照データ群Grの双方に属しているので、合致指標Rmは、Rm=1/1+1/2+1/5+1/7+・・・というように算出される。
【0050】
上記の構成によれば、合致指標Rmの算出にポイント値を用いることで、監視運転データから抽出される診断対象データ群と、参照運転データから抽出される診断参照データ群との合致指標Rmを適切に評価することができる。このポイント値は、診断参照データ群を構成する運転データの寄与度が大きいほど大きいため、診断対象データ群と診断参照データ群とに共通する運転データの種類により合致指標Rmを算出するよりも、寄与度の大きさの順位を反映した合致指標Rmを算出することができる。
【0051】
次に、プラント異常監視システム1に関するその他の構成に関する実施形態について説明する。
幾つかの実施形態では、図1に示すように、プラント異常監視システム1は、参照運転データDrを記憶する運転データ記憶部15を、さらに備える。図1に示す実施形態では、運転データ記憶部15は、記憶装置14に形成されている。これによって、参照運転データDrを、過去に生じた異常の異常兆候Sを示す情報として確実に保管することができる。
【0052】
ただし、本実施形態に本発明は限定されない。他の幾つかの実施形態では、外部の他のシステムなどが参照運転データDrを管理しており、プラント異常監視システム1(合致指標算出部6など)は、外部の他のシステムなどから参照運転データDrや診断参照データ群Grを取得しても良い。
【0053】
また、幾つかの実施形態では、参照運転データDrは、監視運転データDtが取得されたプラント9(例えば、図1のプラントA)とは異なる他のプラント(例えば、図1のプラントB)の運転状態を示すデータであっても良い。図1に示す実施形態では、プラント異常監視システム1は、プラントAから収集した監視運転データDtの異常兆候Sの異常診断を、プラントAおよびプラントBで過去に生じた異常の解析を通して得られた参照運転データDrを記憶装置14(運転データ記憶部15)に登録して、異常診断に用いるようにしている。つまり、複数のプラント9で参照運転データDr(トラブル事例)を共有している。
【0054】
上記の構成によれば、他のプラント9で生じた異常の異常兆候Sを示す参照運転データDrを用いて診断を実行する。つまり、参照運転データDr(トラブル事例)をプラント9間で共有しており、他プラントで発生済の異常であって自プラントで未発生である異常についても、異常が発生する前に異常を予測することができる。
【0055】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、図1に示す実施形態では、プラント異常監視システム1が複数のプラント9に対して共通して設けられているが、他の幾つかの実施形態では、プラント9毎にプラント異常監視システム1がそれぞれ設けられていて良い。
【符号の説明】
【0056】
1 プラント異常監視システム
12 運転データ収集部
14 記憶装置
15 運転データ記憶部
16 表示装置
2 異常監視部
21 異常度算出部
22 異常検知部
3 異常兆候判定部
4 異常診断部
5 診断対象データ群抽出部
6 合致指標算出部
7 異常予測部
9 プラント

H 運転履歴
D 運転データ
Dr 参照運転データ
Dt 監視運転データ
S 異常兆候
T 異常度
Tt 監視異常度
La 異常判定閾値
Ls 異常兆候判定閾値
C 寄与度
Cr 参照寄与度
Ct 監視寄与度
Gr 診断参照データ群
Gt 診断対象データ群
Rm 合致指標
V 合致判定閾値
図1
図2
図3
図4